説明

プラズマ光源

【課題】EUV放射のためのプラズマ光を長時間(μsecオーダーで)安定して発生させることができ、構成機器の熱負荷によるダメージが小さく、発生したプラズマ光の有効な放射立体角が大きくでき、プラズマ媒体を連続して供給することができ、かつ同軸電極間の液体金属による短絡を確実に防止することができるプラズマ光源を提供する。
【解決手段】対向配置された1対の同軸状電極10と放電環境保持装置20と電圧印加装置30とを備える。各同軸状電極10は、中心電極12と、中心電極の対向する先端部を囲むガイド電極14と、中心電極とガイド電極の間を絶縁する絶縁部材16とからなる。絶縁部材16は、絶縁性緻密部分16aと多孔質部分16bとを一体成型した部分多孔体セラミックである。また絶縁性緻密部分16aは、プラズマ媒体を内部に保有するリザーバー18を有し、多孔質部分16bは、絶縁性緻密部分16aの内部を通してリザーバー18の内面と中心電極12とガイド電極14の間とを連通する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EUV放射のためのプラズマ光源に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代半導体の微細加工のために極端紫外光源を用いるリソグラフィが期待されている。リソグラフィとは回路パターンの描かれたマスクを通して光やビームをシリコン基板上に縮小投影し、レジスト材料を感光させることで電子回路を形成する技術である。光リソグラフィで形成される回路の最小加工寸法は基本的には光源の波長に依存している。従って、次世代の半導体開発には光源の短波長化が必須であり、この光源開発に向けた研究が進められている。
【0003】
次世代リソグラフィ光源として最も有力視されているのが、極端紫外光源(EUV:Extreme Ultra Violet)であり、およそ1〜100nmの波長領域の光を意味する。この領域の光はあらゆる物質に対し吸収率が高く、レンズ等の透過型光学系を利用することができないので、反射型光学系を用いることになる。また極端紫外光領域の光学系は非常に開発が困難で、限られた波長にしか反射特性を示さない。
【0004】
現在、13.5nmに感度を有するMo/Si多層膜反射鏡が開発されており、この波長の光と反射鏡を組み合わせたリソグラフィ技術が開発されれば30nm以下の加工寸法を実現できると予測されている。さらなる微細加工技術の実現のために、波長13.5nmのリソグラフィ光源の開発が急務であり、高エネルギー密度プラズマからの輻射光が注目されている。
【0005】
光源プラズマ生成はレーザー照射方式(LPP:Laser Produced Plasma)とパルスパワー技術によって駆動されるガス放電方式(DPP:Discharge Produced Plasma)に大別できる。DPPは、投入した電力が直接プラズマエネルギーに変換されるので、LPPに比べて変換効率で優位であるうえに、装置が小型で低コストという利点がある。
【0006】
ガス放電方式による高温高密度プラズマからの放射スペクトルは、基本的にはターゲット物質の温度と密度によって決まり、プラズマの原子過程を計算した結果によると、EUV放射領域のプラズマにするにはXe,Snの場合で電子温度、電子密度がそれぞれ数10eV、1018cm-3程度,Liの場合で20eV、1018cm-3程度が最適とされている。
【0007】
なお、上述したプラズマ光源は、非特許文献1,2および特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】佐藤弘人、他、「リソグラフィ用放電プラズマEUV光源」、OQD−08−28
【非特許文献2】Jeroen Jonkers,“High power extreme ultra−violet(EUV) light sources for future lithography”,Plasma Sources Science and Technology, 15(2006) S8−S16
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−226244号公報、「極端紫外光源および半導体露光装置」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
EUVリソグラフィ光源には、高い平均出力、微小な光源サイズ、飛散粒子(デブリ)が少ないこと等が要求される。現状では、EUV発光量が要求出力に対して極めて低く、高出力化が大きな課題の一つであるが、一方で高出力化のために入力エネルギーを大きくすると熱負荷によるダメージがプラズマ生成装置や光学系の寿命の低下を招いてしまう。従って、高EUV出力と低い熱負荷の双方を満たすためには、高いエネルギー変換効率が必要不可欠である。
【0011】
プラズマ形成初期には加熱や電離に多くのエネルギーを消費するうえに、EUVを放射するような高温高密度状態のプラズマは一般的に急速に膨張してしまうため、放射持続時間τが極端に短い。従って、変換効率を改善するためには、プラズマをEUV放射のために適した高温高密度状態で長時間(μsecオーダーで)維持することが重要になる。
【0012】
SnやLi等の常温固体の媒体はスペクトル変換効率が高い反面、プラズマ生成に溶融、蒸発等の相変化を伴うため、中性粒子等のデブリ(放電に伴う派生物)による装置内汚染の影響が大きくなる。そのため、ターゲット供給、回収システム強化も同様に要求される。
【0013】
現在の一般的なEUVプラズマ光源の放射時間は100nsec程度であり出力が極端に足りない。産業応用のため高変換効率と高平均出力を両立させる為には1ショットで数μsecのEUV放射時間を達成する必要がある。つまり、高い変換効率を持つプラズマ光源を開発するためには、それぞれのターゲットに適した温度密度状態のプラズマを数μsec(少なくとも1μsec以上)拘束し、安定したEUV放射を達成する必要がある。
【0014】
さらに、従来のキャピラリー放電では、プラズマがキャピラリー内に閉じ込められてしまうため、有効な放射立体角が小さいという欠点もあった。
【0015】
そこで、本願の発明者らは、EUV放射のためのプラズマ光を長時間(μsecオーダーで)安定して発生させることができ、構成機器の熱負荷によるダメージが小さく、発生したプラズマ光の有効な放射立体角を大きくでき、プラズマ媒体を連続して供給することができることを目的として、「プラズマ光源とプラズマ光発生方法」(特願2008−322526号、未公開)を創案し、出願した。
【0016】
図1は、上記未公開のプラズマ光源の実施形態図であり、対称軸51に対して対向配置された1対の同軸状電極50を備え、1対の同軸状電極50にそれぞれ面状の放電電流(面状放電)を発生させ、この面状放電により各同軸状電極50の対向する中間位置に単一のプラズマを形成し、次いで面状放電を1対の同軸状電極間の管状放電に繋ぎ換えてプラズマを封じ込める磁場(磁気ビン)を形成することにより、EUV放射のためのプラズマ光を長時間(μsecオーダーで)安定して発生させるようになっている。
【0017】
この図において、各同軸状電極50は、棒状の中心電極52、管状のガイド電極54及びリング状の絶縁部材56からなる。
リング状の絶縁部材56は、中心電極52とガイド電極54の間に位置する中空円筒形状の電気的絶縁体であり、中心電極52とガイド電極54の間を電気的に絶縁する。この例において、リング状の絶縁部材56は、多孔質セラミックである。
【0018】
また、図1のプラズマ光源は、さらにプラズマ媒体供給装置58を備える。
プラズマ媒体供給装置58は、多孔質セラミック56の外面に密着して設けられ、多孔質セラミック56を通して同軸状電極50内(中心電極52とガイド電極54の間)にプラズマ媒体を供給する。
プラズマ媒体供給装置58は、この例ではプラズマ媒体59を内部に保有するリザーバー58a(例えばルツボ)と、プラズマ媒体を液化する加熱装置58bとからなる。プラズマ媒体は、この例ではSn,Li等の常温で固体のプラズマ媒体である。
【0019】
図1のプラズマ光源を用い多孔質セラミック56をプラズマ媒体59(Sn,Li等)の蒸気圧がプラズマ発生に適した圧力(Torrオーダー)となる温度に加熱維持し、同軸状電極50内(中心電極52とガイド電極54の間)をTorrオーダーのプラズマ媒体59の蒸気雰囲気にする。
また、電極導体(中心電極52とガイド電極54)をプラズマ媒体59の蒸気が凝集しない高温に維持する。
【0020】
上述した構成により、プラズマ媒体59を連続して同軸状電極50内に供給することができ、EUV放射のためのプラズマ光をより長時間(μsecオーダーで)安定して発生させることができる。
【0021】
しかし、図1に示したように、リング絶縁部材56の全体を多孔質セラミックで構成した場合、これを通過するプラズマ媒質59(Sn,Li等)が多孔質体全体に広がり、同軸電極間を液体金属で短絡させてしまう可能性があった。
このような短絡状況は、多孔体の孔の繋がり方に依存するが、多孔体の成型過程でこれを制御するのは困難であった。
【0022】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、EUV放射のためのプラズマ光を長時間(μsecオーダーで)安定して発生させることができ、構成機器の熱負荷によるダメージが小さく、発生したプラズマ光の有効な放射立体角を大きくでき、プラズマ媒体を連続して供給することができ、かつ同軸電極間の液体金属による短絡を確実に防止することができるプラズマ光源を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明によれば、対向配置された1対の同軸状電極と、該同軸状電極内のプラズマ媒体をプラズマ発生に適した温度及び圧力に保持する放電環境保持装置と、各同軸状電極に極性を反転させた放電電圧を印加する電圧印加装置と、を備え、1対の同軸状電極間に管状放電を形成してプラズマを軸方向に封じ込めるプラズマ光源であって、
前記各同軸状電極は、単一の軸線上に延びる棒状の中心電極と、該中心電極の対向する先端部を一定の間隔を隔てて囲むガイド電極と、前記中心電極とガイド電極の間を絶縁する絶縁部材とからなり、
該絶縁部材は、液化したプラズマ媒体が連続して浸透できない絶縁性緻密部分と、液化したプラズマ媒体が連続して浸透する多孔質部分とを一体成型した部分多孔体セラミックであり、
前記絶縁性緻密部分は、プラズマ媒体を内部に保有するリザーバーを有し、前記多孔質部分は、絶縁性緻密部分の内部を通して前記リザーバーの内面と中心電極とガイド電極の間とを連通する、ことを特徴とするプラズマ光源が提供される。
【0024】
本発明の好ましい実施形態によれば、さらに、前記絶縁部材を加熱しその内部のプラズマ媒体を液化する温度調整可能な加熱装置を備える。
【0025】
前記電圧印加装置は、一方の同軸状電極の中心電極にそのガイド電極より高い正の放電電圧を印加する正電圧源と、他方の同軸状電極の中心電極にそのガイド電極より低い負の放電電圧を印加する負電圧源と、前記正電圧源と負電圧源をそれぞれの同軸状電極に同時に印加するトリガスイッチとを有する。
【発明の効果】
【0026】
上記本発明の装置によれば、対向配置された1対の同軸状電極を備え、1対の同軸状電極にそれぞれ面状の放電電流(面状放電)を発生させ、該面状放電により各同軸状電極の対向する中間位置に単一のプラズマを形成し、次いで前記面状放電を1対の同軸状電極間の管状放電に繋ぎ換えて前記プラズマを封じ込める磁場(磁気ビン)を形成するので、EUV放射のためのプラズマ光を長時間(μsecオーダーで)安定して発生させることができる。
【0027】
また、従来のキャピラリー放電や真空放電金属プラズマと比較すると、1対の同軸状電極の対向する中間位置に単一のプラズマが形成され、かつエネルギー変換効率を大幅に改善できるので、プラズマ形成中における各電極の熱負荷が小さくなり、構成機器の熱負荷によるダメージを大幅に低減できる。
【0028】
また、1対の同軸状電極の対向する中間位置にプラズマ光の発光源であるプラズマが形成されるので、発生したプラズマ光の有効な放射立体角を大きくできる。
【0029】
さらに、絶縁部材が絶縁性緻密部分と多孔質部分とを一体成型した部分多孔体セラミックであり、絶縁性緻密部分に、プラズマ媒体を内部に保有するリザーバーを有し、多孔質部分は、絶縁性緻密部分の内部を通してリザーバーの内面と中心電極とガイド電極の間とを連通するので、絶縁性緻密部分の存在により、多孔質部分を通してプラズマ媒質である液体金属を流しても、同軸電極間の絶縁が維持でき、プラズマ媒体を連続して中心電極とガイド電極の間に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】未公開のプラズマ光源の実施形態図である。
【図2】本発明によるプラズマ光源の実施形態図である。
【図3】図2の同軸状電極の拡大図である。
【図4】本発明によるプラズマ光源の作動説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0032】
図2は、本発明によるプラズマ光源の実施形態図である。
この図において、本発明のプラズマ光源は、1対の同軸状電極10、放電環境保持装置20、電圧印加装置30、及び加熱装置40を備える。
【0033】
1対の同軸状電極10は、対称面1を中心として対向配置されている。
各同軸状電極10は、棒状の中心電極12、ガイド電極14及び絶縁部材16からなる。
【0034】
棒状の中心電極12は、単一の軸線Z−Z上に延びる導電性の電極である。
この例において、中心電極12の対称面1に対向する端面は円弧状になっている。なお、この構成は必須ではなく、端面に凹穴を設け、後述する面状放電電流2と管状放電4を安定化させるようにしてもよく、或いは平面でもよい。
【0035】
ガイド電極14は、中心電極12の対向する先端部を一定の間隔を隔てて囲み、その間にプラズマ媒体を保有するようになっている。ガイド電極14は、この例では、対称面1側に位置する小径中空円筒部分14aと、その反対側に位置し小径中空円筒部分14aより大径の大径中空部分14bとからなる。また、ガイド電極14の対称面1に対向する小径中空円筒部分14aの端面は、この例では円弧状であるが平面でもよい。
プラズマ媒体は、この例ではSn,Li等の常温で固体のプラズマ媒体であるのがよい。
【0036】
絶縁部材16は、中心電極12とガイド電極14の間に位置する中空円筒形状の電気的絶縁体であり、中心電極12とガイド電極14の間を電気的に絶縁する。
絶縁部材16は、この例では、小径中空円筒部分14aの内側に嵌合する小径部分と、大径中空部分14bの内側に嵌合する大径部分とからなる。大径部分は、ボルト17(図3参照)により、ガイド電極14に一体的に連結されている。
【0037】
上述した1対の同軸状電極10は、各中心電極12が同一の軸線Z−Z上に位置し、かつ互いに一定の間隔を隔てて対称に位置する。
【0038】
放電環境保持装置20は、同軸状電極10内のプラズマ媒体をプラズマ発生に適した温度及び圧力に同軸状電極10を保持する。
放電環境保持装置20は、例えば、真空チャンバー、温度調節器、真空装置、及びプラズマ媒体供給装置により構成することができる。なおこの構成は必須ではなく、その他の構成であってもよい。
【0039】
電圧印加装置30は、各同軸状電極10に極性を反転させた放電電圧を印加する。
電圧印加装置30は、この例では、正電圧源32、負電圧源34及びトリガスイッチ36からなる。
正電圧源32は、一方(この例では左側)の同軸状電極10の中心電極12にそのガイド電極14より高い正の放電電圧を印加する。
負電圧源34は、他方(この例では右側)の同軸状電極10の中心電極12にそのガイド電極14より低い負の放電電圧を印加する。
トリガスイッチ36は、正電圧源32と負電圧源34を同時に作動させて、それぞれの同軸状電極10に同時に正負の放電電圧を印加する。
この構成により、本発明のプラズマ光源は、1対の同軸状電極10間に管状放電(後述する)を形成してプラズマを軸方向に封じ込めるようになっている。
【0040】
加熱装置40は、絶縁部材16を加熱する電気ヒータ42と、電気ヒータ42に加熱用の電力を供給する加熱電源装置44とからなり、絶縁部材16を加熱しその内部のプラズマ媒体を液化するようになっている。
この例において、電気ヒータ42は、絶縁部材16の大径部分の外周に設けられた溝内に配置され、ガイド電極14の大径中空部分14bを貫通する電源ラインを介して加熱電源装置44から電力が供給される。また、図示しない温度センサを備え、絶縁部材16を所定の温度に加熱し温度保持するようになっている。
【0041】
図3は、図2の同軸状電極の拡大図である。
この図において、絶縁部材16は、液化したプラズマ媒体が連続して浸透できない絶縁性緻密部分16aと、液化したプラズマ媒体が連続して浸透する多孔質部分16bとを一体成型した部分多孔体セラミックである。
【0042】
絶縁性緻密部分16aと多孔質部分16bを構成するセラミックは、アルミナ(Al23)、窒化アルミ(AlN)、ジルコニア(ZrO)、シリコンカーバイド(SiC)、等の絶縁性セラミックであるのが好ましい。
また絶縁性緻密部分16aの粒径及び焼成温度は、液化したプラズマ媒体が連続して浸透できないように設定する。さらに多孔質部分16bの粒径及び焼成温度は、液化したプラズマ媒体が連続して浸透するように設定する。
【0043】
また、絶縁性緻密部分16aは、プラズマ媒体を内部に保有するリザーバー18を有する。この例において、リザーバー18は、絶縁性緻密部分16aの内部に設けられ、軸線Z−Zを中心とする中空円筒形の空洞である。
なおこの例では、リザーバー18の背面(図で左側)は、閉鎖板15で閉じられ、この閉鎖板15は、中心電極12の背面側に設けられたネジ軸12aと螺合するナット13により、着脱可能に固定されている。閉鎖板15は液化したプラズマ媒体の温度に耐える耐熱金属板又は耐熱セラミックであるのがよい。
この構成により、閉鎖板15の着脱により、リザーバー18にプラズマ媒体を適宜補給することができる。
【0044】
上述したプラズマ光源を用い、絶縁部材16をプラズマ媒体6(Sn,Li等)の蒸気圧がプラズマ発生に適した圧力(Torrオーダー)となる温度に加熱維持し、同軸状電極10内(中心電極12とガイド電極14の間)をTorrオーダーのプラズマ媒体6の蒸気雰囲気にする。
また、電極導体(中心電極12とガイド電極14)をプラズマ媒体6の蒸気が凝集しない高温に維持する。
【0045】
なお、絶縁性緻密部分16aと多孔質部分16bの形状はこの例に限定されず、中心電極12とガイド電極14の間を電気的に絶縁する限りで、その他の形状であってもよい。
【0046】
図4は、図2のプラズマ光源の作動説明図である。この図において、(A)は面状放電の発生時、(B)は面状放電の移動中、(C)はプラズマの形成時、(D)はプラズマ閉込め磁場の形成時を示している。
以下、この図を参照して、本発明の装置によるプラズマ光発生方法を説明する。
【0047】
本発明のプラズマ光源は、上述した1対の同軸状電極10を対向配置し、放電環境保持装置20により同軸状電極10内にプラズマ媒体を供給しかつプラズマ発生に適した温度及び圧力に保持し、電圧印加装置30により各同軸状電極10に極性を反転させた放電電圧を印加する。
【0048】
図4(A)に示すように、この電圧印加により、1対の同軸状電極10に絶縁部材16の表面でそれぞれ面状の放電電流(以下、面状放電2と呼ぶ)が発生する。面状放電2は、2次元的に広がる面状の放電電流であり、以下「電流シート」とも呼ぶ。
なおこの際、左側の同軸状電極10の中心電極12は正電圧(+)、ガイド電極14は負電圧(−)に印加され、右側の同軸状電極10の中心電極12は負電圧(−)、そのガイド電極14は正電圧(+)に印加されている。
なお、両方のガイド電極14を接地させて0Vに保持し、一方の中心電極12を正電圧(+)に印加し、他方の中心電極12を負電圧(−)に印加してもよい。
【0049】
図4(B)に示すように、面状放電2は、自己磁場によって電極から排出される方向(図で中心に向かう方向)に移動する。
【0050】
図4(C)に示すように、面状放電2が1対の同軸状電極10の先端に達すると、1対の面状放電2の間に挟まれたプラズマ媒体6が高密度、高温となり、各同軸状電極10の対向する中間位置(中心電極12の対称面1)に単一のプラズマ3が形成される。
【0051】
さらに、この状態において、対向する1対の中心電極12は、正電圧(+)と負電圧(−)であり、同様に対向する1対のガイド電極14も、正電圧(+)と負電圧(−)であるので、図4(D)に示すように、面状放電2は対向する1対の中心電極12同士、及び対向する1対のガイド電極14の間で放電する管状放電4に繋ぎ換えられる。ここで、管状放電4とは、軸線Z−Zを囲む中空円筒状の放電電流を意味する。
この管状放電4が形成されると、図に符号5で示すプラズマ閉込め磁場(磁気ビン)が形成され、プラズマ3を半径方向及び軸方向に封じ込むことができる。
すなわち、磁気ビン5はプラズマ3の圧力により中央部は大きくその両側が小さくなり、プラズマ3に向かう軸方向の磁気圧勾配が形成され、この磁気圧勾配によりプラズマ3は中間位置に拘束される。さらにプラズマ電流の自己磁場によって中心方向にプラズマ3は圧縮(Zピンチ)され、半径方向にも自己磁場による拘束が働く。
この状態において、プラズマ3の発光エネルギーに相当するエネルギーを電圧印加装置30から供給し続ければ、高いエネルギー変換効率で、プラズマ光8(EUV)を長時間安定して発生させることができる。
【0052】
上述した本発明の装置によれば、対向配置された1対の同軸状電極10を備え、1対の同軸状電極10にそれぞれ面状の放電電流(面状放電2)を発生させ、面状放電2により各同軸状電極10の対向する中間位置に単一のプラズマ3を形成し、次いで面状放電2を1対の同軸状電極間の管状放電4に繋ぎ換えてプラズマ3を封じ込めるプラズマ閉込め磁場5(磁気ビン5)を形成するので、EUV放射のためのプラズマ光を長時間(μsecオーダーで)安定して発生させることができる。
【0053】
また、従来のキャピラリー放電や真空放電金属プラズマと比較すると、1対の同軸状電極10の対向する中間位置に単一のプラズマ3が形成され、かつエネルギー変換効率を大幅(10倍以上)に改善できるので、プラズマ形成中における各電極の熱負荷が小さくなり、構成機器の熱負荷によるダメージを大幅に低減できる。
【0054】
また、1対の同軸状電極10の対向する中間位置にプラズマ光の発光源であるプラズマ3が形成されるので、発生したプラズマ光の有効な放射立体角を大きくできる。
【0055】
さらに、本発明では、絶縁部材16が絶縁性緻密部分16aと多孔質部分16bとを一体成型した部分多孔体セラミックであり、絶縁性緻密部分16aに、プラズマ媒体を内部に保有するリザーバー18を有し、多孔質部分16bは、絶縁性緻密部分16aの内部を通してリザーバー18の内面と中心電極12とガイド電極14の間とを連通するので、絶縁性緻密部分16aの存在により、多孔質部分16bを通してプラズマ媒質である液体金属を流しても、同軸電極間の絶縁が維持でき、プラズマ媒体を連続して中心電極12とガイド電極14の間に供給することができる。
【0056】
なお、装置構造上、絶縁部材16は絶縁性緻密部分16aと多孔質部分16bが一体成型されたものが望ましいが、絶縁性緻密部分16aと多孔質部分16bを接合(接着、ロー付け等)したもの、あるいは絶縁性緻密部分16aと多孔質部分16bの隙間からプラズマ媒質が漏れないようにシール構造を設けたものであってもよい。
【0057】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0058】
1 対称面、2 面状放電(電流シート)、3 プラズマ、
4 管状放電、5 プラズマ閉込め磁場、6 プラズマ媒体、
7 レーザー光、8 プラズマ光(EUV)、
10 同軸状電極、12 中心電極、
12a ネジ軸、13 ナット、
14 ガイド電極、15 閉鎖板、
16 絶縁部材(部分多孔体セラミック)、
16a 絶縁性緻密部分、16b 多孔質部分、
18 リザーバー、20 放電環境保持装置、
30 電圧印加装置、32 正電圧源、
34 負電圧源、36 トリガスイッチ、
40 加熱装置、42 電気ヒータ、
44 加熱電源装置



【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置された1対の同軸状電極と、該同軸状電極内のプラズマ媒体をプラズマ発生に適した温度及び圧力に保持する放電環境保持装置と、各同軸状電極に極性を反転させた放電電圧を印加する電圧印加装置と、を備え、1対の同軸状電極間に管状放電を形成してプラズマを軸方向に封じ込めるプラズマ光源であって、
前記各同軸状電極は、単一の軸線上に延びる棒状の中心電極と、該中心電極の対向する先端部を一定の間隔を隔てて囲むガイド電極と、前記中心電極とガイド電極の間を絶縁する絶縁部材とからなり、
該絶縁部材は、液化したプラズマ媒体が連続して浸透できない絶縁性緻密部分と、液化したプラズマ媒体が連続して浸透する多孔質部分とを一体成型した部分多孔体セラミックであり、
前記絶縁性緻密部分は、プラズマ媒体を内部に保有するリザーバーを有し、前記多孔質部分は、絶縁性緻密部分の内部を通して前記リザーバーの内面と中心電極とガイド電極の間とを連通する、ことを特徴とするプラズマ光源。
【請求項2】
さらに、前記絶縁部材を加熱しその内部のプラズマ媒体を液化する温度調整可能な加熱装置を備える、ことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ光源。
【請求項3】
前記電圧印加装置は、一方の同軸状電極の中心電極にそのガイド電極より高い正の放電電圧を印加する正電圧源と、他方の同軸状電極の中心電極にそのガイド電極より低い負の放電電圧を印加する負電圧源と、前記正電圧源と負電圧源をそれぞれの同軸状電極に同時に印加するトリガスイッチとを有する、ことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ光源。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−54729(P2011−54729A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201835(P2009−201835)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】