プラズマ処理装置
【課題】処理対象物を損傷することなく処理対象物に付着した毒素を不活化する。
【解決手段】プラズマ処理装置1では、処理対象物71の表面に付着した毒素を不活化するため、パルス電界、窒素ラジカル(N*)および波長が100nm以上280nm以下の短波長紫外線(「遠紫外線」又は「UV−C」とも呼ばれる)を含む紫外線を毒素に複合的に作用させることにより、毒素を窒化または酸化し、処理対象物71の表面から毒素を散逸させる。
【解決手段】プラズマ処理装置1では、処理対象物71の表面に付着した毒素を不活化するため、パルス電界、窒素ラジカル(N*)および波長が100nm以上280nm以下の短波長紫外線(「遠紫外線」又は「UV−C」とも呼ばれる)を含む紫外線を毒素に複合的に作用させることにより、毒素を窒化または酸化し、処理対象物71の表面から毒素を散逸させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドトキシンや異常プリオンなどの毒素を不活化するプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドトキシンとは、グラム陰性菌の細胞壁外膜を構成するリポ多糖である。エンドトキシンは、ごく微量でも発熱性を発揮することが知られており、医療事故を防止するためには、医療器具に付着したエンドトキシンを不活化する必要がある。エンドトキシンを不活化する方法としては、ガンマ線法・電子線法・エチレンオキサイドガス法・過酸化水素ガスプラズマ法・オートクレーブ法・乾熱法などが検討されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
【非特許文献1】細渕和成、他1名、「各滅菌法による乾燥エンドトキシンの不活化」、東京都立産業技術研究所研究報告、東京都立産業技術研究所、1999年、第2号、p.126−129
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、乾熱法を除く従来の方法では、エンドトキシンの活性を十分に低下させることができない。例えば、典型的な処理条件を採用した場合、ガンマ線法・電子線法・エチレンオキサイドガス法では約1/4、過酸化水素ガスプラズマ法では約1/20、オートクレーブ法では約1/9までエンドトキシンの活性を低下させることができるだけである。一方、乾熱法では約1/105までエンドトキシンの活性を低下させることができるが、処理対象物を約250℃まで加熱する必要があり、処理対象物を損傷してしまうという問題がある。
【0005】
なお、このような不活化に関する問題は、エンドトキシン以外の毒素、例えば、牛海綿状脳症の原因となる毒素と推定されている異常プリオンにも当てはまる。
【0006】
本発明は、この問題を解決するためになされたもので、処理対象物を損傷することなく処理対象物に付着した毒素を不活化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、処理対象物の表面に付着した毒素を不活化するプラズマ処理装置であって、不活化が行われる空間の雰囲気を調整して窒素雰囲気とする雰囲気調整手段と、前記空間に設置された電極対と、アーク放電を引き起こさずにファインストリーマ放電を引き起こす電気パルスを前記電極対に繰り返し印加するパルス電源と、前記空間の内部から外部へ向かう短波長紫外線を前記空間の内部へ戻す反射部材とを備え、前記電極対への電気パルスの印加によって発生したパルス電界と、ファインストリーマ放電に起因して窒素雰囲気中に発生したプラズマに含まれる窒素ラジカルと、ファインストリーマ放電に起因して窒素雰囲気が発する短波長紫外線とを毒素に作用させることにより、毒素を窒化および酸化し、処理対象物の表面から毒素を散逸させる。
【0008】
請求項2の発明は、毒素がエンドトキシンまたは異常プリオンである請求項1に記載のプラズマ処理装置である。
【0009】
請求項3の発明は、電気パルスのパルス幅が半値幅で50〜300nsである請求項1または請求項2に記載のプラズマ処理装置である。
【0010】
請求項4の発明は、前記雰囲気調整手段は、前記電極対を構成する陽極の側から窒素ガスを給気し、前記電極対を構成する陰極の側から窒素ガスを排気する、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のプラズマ処理装置である。
【0011】
請求項5の発明は、前記雰囲気調整手段は、前記空間を減圧する減圧手段を備える、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のプラズマ処理装置である。
【0012】
請求項6の発明は、窒素雰囲気の温度を調整する温度調整手段をさらに備える、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のプラズマ処理装置である。
【0013】
請求項7の発明は、前記反射部材は、短波長紫外線をアルミニウム膜で反射する、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のプラズマ処理装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、処理対象物を損傷することなく処理対象物に付着した毒素を不活化することができる。
【0015】
請求項4の発明によれば、毒素を均一に不活化することができる。
【0016】
請求項5の発明によれば、電極対の間隔を拡げることができるので、立体的な処理対象物に付着した毒素を不活化することができる。また、請求項5の発明によれば、窒素ラジカルの寿命が長くなるので、毒素を効率的に不活化することができる。
【0017】
請求項6の発明によれば、窒素雰囲気の温度を不活化に適した温度とすることができるので、毒素を効率的に不活化することができる。
【0018】
請求項7の発明によれば、短波長紫外線の反射率が高くなるので、毒素を効率的に不活化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<1 毒素の不活化>
本発明のプラズマ処理装置では、処理対象物の表面に付着した毒素を不活化するため、パルス電界、窒素ラジカル(N*)および波長が100nm以上280nm以下の短波長紫外線(「遠紫外線」又は「UV−C」とも呼ばれる)を含む紫外線を毒素に複合的に作用させることにより、毒素を窒化および酸化し、処理対象物の表面から毒素を散逸させる。
【0020】
ここで、「毒素」とは、生物に有害な生理活性を有する物質であり、典型的には、エンドトキシンや異常プリオンである。なお、毒素が付着している処理対象物によっては、パルス電界、窒素ラジカルおよび短波長紫外線が、毒素および処理対象物の表面の両方に作用し、その相乗的な効果によって毒素の不活化が進行する場合もある。
【0021】
本発明のプラズマ処理装置では、毒素が付着した処理対象物を電極対の間に置き、立ち上がりの早い電気パルスを当該電極対に印加することにより、立ち上がりの早いパルス電界を毒素に作用させる。毒素が電界に曝されると、毒素の陽極側および陰極側に分極電荷が誘起され、外部電界より強い内部電界が毒素の内部に生じるので、立ち上がりの早いパルス電界に毒素を曝せば、毒素の陽極側および陰極側の電位差を急激に上昇させることができ、電気的な衝撃を毒素に与えることができることを利用したものである。
【0022】
また、本発明のプラズマ処理装置では、毒素が付着した処理対象物を窒素雰囲気中に設置された電極対の間に置き、立ち上がりの早い電気パルスを当該電極対に印加してファインストリーマ放電を引き起こすことにより、窒素雰囲気中に発生したプラズマに含まれる窒素ラジカルを毒素に作用させる。ここで、活性種として窒素ラジカルを選択した理由、すなわち、窒素雰囲気中でプラズマを発生させた理由は、窒素ラジカルの活性が他の活性種、例えば、酸素ラジカルよりも著しく高いことによる。この点は、各種気体分子の解離エネルギーを表にまとめた図1に示すように、窒素分子(N2)の解離エネルギーが9.91eVであるのに対して、酸素分子(O2)の解離エネルギーが5.21eVであることからも明らかである。加えて、窒素ラジカルの寿命が長いこと、例えば、3重項窒素(3Σu)のビラジカルの寿命が10ミリ秒に達することも、活性種として窒素ラジカルを選択した理由のひとつとなっている。加えて、窒素ガスは、低価格で容易に入手でき取り扱いも容易であることも、活性種として窒素ラジカルを選択した理由のひとつとなっている。
【0023】
さらに、本発明のプラズマ処理装置では、ファインストリーマ放電に起因して窒素雰囲気が発する波長が250nmの短波長紫外線を含む紫外線を毒素が付着した処理対象物に照射することにより、短波長紫外線を毒素に作用させる。ここで、短波長紫外線を利用するのは、短波長紫外線に対する感受性を毒素が有しているからである。
【0024】
<2 ファインストリーマ放電>
図2は、電極対81,82への電気パルスの印加によって引き起こされる放電の状態と電気パルスの電圧概略波形(無負荷時)とを模式的に示す図である。図2において、電気パルスの電圧概略波形は、電圧V(縦軸)の時間t(横軸)に対する変化を示すグラフによってあらわされている。
【0025】
図2に示すように、電気パルスのパルス幅Δtが概ね100nsに達すると、正イオンが陰極82に衝突する際に放出された2次電子が窒素分子を電離させて新たな正イオンを発生させるグロー放電が引き起こされる。
【0026】
一方、電気パルスの立ち上がり時の電圧Vの時間上昇率dV/dtが概ね30〜50kV/μsである場合、パルス幅Δtが概ね100nsに達すると、陽極81から陰極82へ向かうストリーマ83の成長が始まる。そして、パルス幅Δtが概ね100〜500nsである場合、ストリーマ83の成長は、陽極81と陰極82との間に短いストリーマ83が散点する初期段階で終了する。一方、パルス幅Δtが概ね500〜1000nsである場合、ストリーマ83が本格的に成長し、陽極81と陰極82との間に枝分かれした長いストリーマ83が存在する状態となる。本発明のプラズマ処理装置では、ストリーマ83の成長が進んで陽極81と陰極82とが導通してしまわないように、ストリーマ83の成長の初期段階で放電を停止するファインストリーマ放電を用いる。放電の均一性に優れるファインストリーマ放電を用いれば、毒素を均一に不活化することができるからである。
【0027】
さらに、パルス幅Δtが概ね1000nsに達すると、局部的な電流集中がおき、最終的にアーク放電が引き起こされる。
【0028】
上述の説明で、パルス幅Δtや立ち上がり時の電圧Vの時間上昇率dV/dtの範囲について「概ね」としているのは、これらは、電極対81,82の間隔、陽極81および陰極82の構造ならびに窒素雰囲気の圧力等のプラズマ処理装置の具体的構成に依存して変化するためである。したがって、ファインストリーマ放電となっているか否かは、パルス幅Δtや立ち上がり時の電圧Vの時間上昇率dV/dtだけでなく、実際の放電を観察して判断すべきである。
【0029】
また、電気パルスの電圧概略波形について「無負荷時」としているのは、同じ条件でパルス電源を動作させても、電極対81,82の間隔ならびに陽極81および陰極82の構造等のプラズマ処理装置の具体的構成が変化すれば、電極対81,82に実際に印加される電気パルスの電圧概略波形が異なってくるからである。
【0030】
<3 エンドトキシンの一般構造>
図3は、毒素の一例である、グラム陰性菌の細胞壁外膜を構成するエンドトキシンの一般構造を模式的に示す図である。図3に示すように、エンドトキシンは、多糖部と脂質部とから構成され、多糖部はO−特異鎖とコア(内部コアおよび外部コア)とから構成され、脂質部は活性部位となるリピドAから構成されている。本発明のプラズマ処理装置では、パルス電界と窒素ラジカルと短波長紫外線とをエンドトキシンに作用させ、エンドトキシンを窒化および酸化して、処理対象物の表面からエンドトキシンをガスとして散逸させることにより、エンドトキシンを不活化している。
【0031】
なお、同様の原理により、異常プリオンその他の毒素も不活化することができる。
【0032】
<4 プラズマ処理装置の構成例>
<4.1 リアクタ>
図4および図5は、本発明の望ましい実施形態に係るプラズマ処理装置1のリアクタ11を示す模式図であり、図4は、リアクタ11の外部構造を示す斜視図となっており、図5は、リアクタ11の内部構造を示す断面図となっている。図5には、プラズマ処理装置1を構成するリアクタ11の付属物も併せて示されている。
【0033】
図4に示すように、リアクタ11は、バッチ式の反応容器となっており、上面の給気口から窒素ガスを給気し、下面の排気口から窒素ガスを排気することができるようになっている。リアクタ11は、前面に設けられたドアが開かれた状態においては、内部への処理対象物71の収容および内部からの処理対象物71の取り出しが可能な状態となり、ドアが閉じられた状態においては、内部が密閉された状態となる。
【0034】
リアクタ11では、内部の電極対112,113に電気パルスを印加して電極対112,113の間のプラズマ放電ギャップ119にプラズマを発生させ、発生したプラズマに処理対象物71を曝すことにより、処理対象物71に付着した毒素を不活化している。プラズマ放電ギャップ119の大きさは処理対象物71に応じて変更すべきであるが、本実施形態では、前後方向に300mm、左右方向に300mmの拡がりを有する40mmのギャップとした。
【0035】
図5に示すように、リアクタ11の内部には、貫通孔1115,1125が形成された石英ミラー111,112が上下に離隔して水平に設置され、その間には、前後方向に伸びる電極棒113が水平に設置されている。陰極となる石英ミラー112と陽極となる電極棒113とから構成される電極対112,113には、パルス電源13が接続される。リアクタ11では、窒素ガスタンク14から貫通孔1115を経由してリアクタ11の内部へ窒素ガスが給気され、排気ポンプ15によってリアクタ11の内部から貫通孔1125および排気口1166を経由して窒素ガスが排気される。リアクタ11の内部の圧力は圧力ゲージ16によって測定することができる。また、リアクタ11の内部には、ハロゲンランプヒータ114および光ファイバ温度計115が設置されている。ハロゲンランプヒータ114および光ファイバ温度計115は、コントローラ17に接続されている。
【0036】
<4.2 石英ミラー>
石英ミラー111,112は、石英ガラス板1111,1121の一方の主面にアルミニウム膜1112,1122を蒸着したものである。典型的には、石英ガラス板1111,1121の板厚は0.5〜5.0mmであり、アルミニウム膜1112,1122の膜厚は0.5〜5.0μmであるが、これらの範囲外となることも妨げられない。石英ガラス板1111,1121のアルミニウム膜1112,1122が蒸着されていない他方の主面は、プラズマ放電ギャップ119に向けられている。石英ミラー111は、リアクタ11の内部から上方へ逃げる短波長紫外線1191を反射して、リアクタ11の内部へ戻す。石英ミラー112は、リアクタ11の内部から下方へ逃げる短波長紫外線1191を反射して、リアクタ11の内部へ戻す。このように、リアクタ11の内部から外部へ向かう短波長紫外線1191をリアクタ11の内部へ戻す反射部材を設けると、窒素雰囲気が発する短波長紫外線1191の利用効率を向上することができ、処理対象物71への短波長紫外線1191の照射量を増加させることができるので、毒素の不活化の効率を向上することができる。短波長紫外線1191を反射する鏡面をアルミニウム膜により形成したのは、各種金属膜の反射率の波長依存性を示すグラフである図6に示すように、アルミニウム膜の短波長紫外線の反射率が極めて高く(約90%)、毒素の効率的な不活化に寄与しうるからである。
【0037】
<4.3 電極>
電極棒113の材質は、プラズマ耐久性に優れるINCONEL(登録商標)である。ただし、このことは、電極棒113の材質としてINCONEL(登録商標)以外のもの、例えば、タングステン・モリブデン・マンガン・チタン・クロム・ジルコニウム・ニッケル・銀・鉄・銅・白金・パラジウム等の金属を主成分とするものを用いることを妨げない。ここで、「金属」とは、ニッケル合金やステンレス鋼に代表される鉄合金のような、2種類以上の金属を含む合金をも包含する意味で用いている。典型的には、電極棒113の直径は0.5mmであるが、これ以外とすることも妨げられない。なお、図5には、1本の電極棒113のみが示されているが、2本以上の電極棒113を間隔を置いて左右方向に配列してもよい。また、陽極を電極板で構成することも妨げられないが、この場合、陽極が短波長紫外線1191を遮蔽して処理対象物71への短波長紫外線1191の照射を妨げてしまうことを防止するため、反対側が透けて見えるような櫛歯状又は網目状の電極板を採用することが望ましい。
【0038】
なお、リアクタ11では、石英ミラー112が陰極としての機能と短波長紫外線1191を反射する反射部材としての機能を兼ねているが、このことは、陰極と反射部材とを独立した部材として設置することを妨げるものではない。
【0039】
<4.4 パルス電源>
パルス電源13は、アーク放電を引き起こさずにファインストリーマ放電を引き起こす電気パルスを電極対112,113に繰り返し印加する。具体的には、パルス電源13は、パルス幅が半値幅で50〜300nsの電気パルスを電極対112,113に繰り返し印加する。パルス電源13が電極対112,113に印加する電気パルスの電圧波形および電流波形の一例を図7に示す。図7には、電気パルスの電圧V2および電流I2(縦軸)の時間(横軸)に対する変化が示されており、パルス幅は、半値幅で約100nsとなっている。
【0040】
パルス電源13には、静電誘導型サイリスタ(以下、「SIThy」という)を用いた誘導エネルギー蓄積型電源回路(以下、「IES回路」という)を採用することが望ましい。IES回路は、SIThyのクロージングスイッチ機能の他、オープニングスイッチング機能を用いてターンオフを行い、当該ターンオフによりSIThyのゲート・アノード間に高圧を発生させている。なお、IES回路の詳細は、飯田克二、佐久間健:「誘導エネルギー蓄積型パルス電源」,第15回SIデバイスシンポジウム(2002)に記載されている。
【0041】
まず、図8を参照して、IES回路(パルス電源)13の構成について説明する。IES回路13は、低電圧直流電源131を備える。低電圧直流電源131の電圧Eは、IES回路13が発生させる電気パルスの電圧のピーク値より著しく低いことが許容される。例えば、後述するインダクタ133の両端に発生させる電圧VLのピーク値VLPが数kVに達しても、低電圧直流電源131の電圧Eは数10Vであることが許容される。電圧Eの下限は後述するSIThy134のラッチング電圧以上で決定される。IES回路13は、低電圧直流電源131を電気エネルギー源として利用可能であるので、小型・低コストに構築可能である。
【0042】
IES回路13は、低電圧直流電源131に並列接続されるコンデンサ132を備える。コンデンサ132は、低電圧直流電源131のインピーダンスを見かけ上低下させることにより低電圧直流電源131の放電能力を強化する。
【0043】
さらに、IES回路13は、インダクタ133、SIThy134、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)(以下、「FET」)135、ゲート駆動回路136およびダイオード137を備える。IES回路13では、低電圧直流電源131の正極とインダクタ133の一端とが接続され、インダクタ133の他端とSIThy134のアノードとが接続され、SIThy134のカソードとFET135のドレインとが接続され、FET135のソースと低電圧直流電源131の負極とが接続されている。また、IES回路13では、SIThy134のゲートとダイオード137のアノードとが接続され、ダイオード137のカソードとインダクタ133の一端(低電圧直流電源131の正極)とが接続される。FET135のゲートおよびソースには、ゲート駆動回路136が接続される。
【0044】
SIThy134は、ゲート信号に応答して、ターンオンおよびターンオフが可能である。
【0045】
FET135は、ゲート駆動回路136から与えられるゲート信号Vcに応答してドレイン・ソース間の導通状態が変化するスイッチング素子である。FET135のオン電圧又はオン抵抗は低いことが望ましい。また、FET135の耐圧は低電圧直流電源131の電圧Eより高いことを要する。
【0046】
ダイオード137は、SIThy134のゲートに正バイアスを与えた場合に流れる電流を阻止するため、すなわち、SIThy134のゲートに正バイアスを与えた場合にSIThy134が電流駆動とならないようにするために設けられる。
【0047】
インダクタ133は、自己インダクタンスを有する誘導性素子として機能しており、その両端には、負荷139(ここでは、電極対112,113)が並列接続される。なお、昇圧トランスの1次側をインダクタ133として用いて、昇圧トランスの2次側の両端に負荷139を接続すれば、電圧のピーク値がより高い電気パルスを得ることができる。
【0048】
続いて、図9を参照して、IES回路13の動作について説明する。図9は、上から順に、FET135に与えられるゲート信号Vc、SIThy134の導通状態、インダクタ133に流れる電流IL、インダクタ133の両端に発生する電圧VL、SIThy134のアノード・ゲート間の電圧VAG(縦軸)の時間(横軸)に対する変化を示している。
【0049】
まず、時刻t0にゲート信号VcがOFFからONに切り替わると、FET135のドレイン・ソース間は導通状態となる。これにより、SIThy134のゲートがアノードに対して正バイアスされるので、SIThy134のアノード・カソード間は導通状態となり(図中の「A−K導通」)、電流ILが増加し始める。
【0050】
電流ILがピーク値ILPに達するあたりの時刻t1にゲート信号VcがONからOFFに切り替わると、FET135のドレイン・ソース間が非導通状態となり、SIThy134のアノード・ゲート間が導通状態となる(図中の「A−G導通」)。これにより、時刻t2から時刻t3にかけて、SIThy134における空乏層の拡大に同期して(図中の「空乏層拡大」)、電流ILが減少するとともに、電圧VLおよび電圧VAGが急激に上昇する。
【0051】
そして、時刻t3において電圧VLおよび電圧VAGがそれぞれピーク値VLpおよびピーク値VAGpに達して電流ILの向きが反転した後は、時刻t3から時刻t4にかけて、SIThy134における空乏層の縮小の縮小に同期して(図中の「空乏層縮小」)、電流ILが増加するとともに、電圧VLおよび電圧VAGが急激に低下する。
【0052】
そして、時刻t4においてSIThy134が非導通状態となると(図中の「非導通」)、時刻t5に向かって電流ILが減少するとともに、電圧VLおよび電圧VAGは0になる。
【0053】
<4.5 温度調整>
コントローラ17は、光ファイバ温度計115を用いて窒素雰囲気の温度を監視しつつ、ハロゲンランプヒータ114に供給する電力を制御することにより、窒素雰囲気の温度を調整する。これにより、窒素雰囲気の温度を不活化に適した温度とすることができるので、処理対象物71に付着した毒素を効率的に不活化することができるようになる。もちろん、ハロゲンランプヒータ114に代えて、セラミックスヒータ等を用いることもできる。なお、誘電体バリアとして機能する石英ガラス板1121でアルミニウム膜1122を被覆した石英ミラー112を陰極として用いると、電極対112,113に電気パルスを印加した際に電流が途切れてしまうまでの時間が、石英ガラス板1121で被覆されていない金属板を陰極として用いた場合よりも長くなる。したがって、石英ガラス板1121でアルミニウム膜1122を被覆した石英ミラー112を陰極として用いると、電極対112,113に電気パルスを印加した際の入力電力が、石英ガラス板1121で被覆されていない金属板を陰極として用いた場合よりも大きくなるので、電極対112,113への電気パルスの印加によって窒素雰囲気の温度を上昇させることもできるようになる。
【0054】
<4.6 雰囲気調整>
リアクタ11では、陽極となる電極棒113の側から窒素ガスを給気し、陰極となる石英ミラーの側から窒素ガスを排気することにより、リアクタ11の内部の雰囲気を調整して窒素雰囲気としている。このような窒素ガスの給気および排気を行うのは、パルス電界と平行に陽極から陰極へ向かって流れる窒素ガス流を作り出すことができるので、プラズマを均一に発生させることができるようになり、処理対象物71に付着した毒素を均一に不活化することができるからである。また、係る窒素ガス流を作り出すことには、酸素ガスが混入しにくくなり、オゾンの発生を実用上問題とならない程度まで抑制することができるという利点や、電極対112,113の間隔を拡げ、立体的な処理対象物71に付着した毒素も不活化することができるようになるという利点もある。なお、複数の貫通孔1115を経由して窒素ガスの給気を行う場合、石英ミラー111の上面に載置された圧損部材、例えば、積層された金網やアルミナ・SiC等のセラミックスの多孔体を通過した窒素ガスを貫通穴1115から噴出させるようにすることが望ましい。窒素ガスの噴出が、給気口の近傍の貫通孔1115に集中して毒素の不活化の均一性を妨げてしまうことを防止するためである。
【0055】
さらに、リアクタ11では、排気ポンプ15によって内部を10000〜50000Pa(大気圧の1/10〜1/2)、より望ましくは、20000〜40000Paまで減圧することによって、電極対112,113の間隔を拡げ(典型的には、大気圧の場合の5倍以上)、立体的な処理対象物71に付着した毒素も不活化することができるようにしている。このように減圧下でファインストリーマ放電を引き起こすことは、窒素ラジカル1192の寿命を延ばし(典型的には、大気圧下の場合の10倍以上)、処理対象物71に付着した毒素を効率的に不活化することにも寄与している。ここで、窒素雰囲気の圧力を適切に保ち、窒素ラジカル1192の反応によって生じた化学種の滞留を防ぎ、当該化学種をプラズマ放電ギャップ119から適切に排出するためには、貫通孔1115の総孔面積S1よりも貫通孔1125の総孔面積S2を大きくし、貫通孔1125の総孔面積S2よりも排気口1166の総孔面積S3を大きくすることが望ましい。
【0056】
<5 プラズマ処理装置の動作>
図10は、プラズマ処理装置1の動作を説明する図である。図10では、余熱工程S101、プラズマ処理工程S102および冷却工程S103の各々について、ハロゲンランプヒータ114による加熱の有無、排気ポンプ15による排気の有無、電極対112,113への電気パルスの印加の有無および窒素ガスの給気の有無を示した図となっている。
【0057】
ドアを開けて処理対象物71を石英ミラー112の上に載置し再びドアを閉じると、プラズマ処理装置1は、余熱工程S101を開始する。余熱工程S101では、ハロゲンランプヒータ114による加熱と排気ポンプ15による排気とが行われ、リアクタ11の内部が加熱される。
【0058】
続くプラズマ処理工程S102では、ハロゲンランプヒータ114による加熱が停止され、排気ポンプ15による排気が継続されるとともに、電極対112,113への電気パルスの印加および窒素ガスの給気が開始される。プラズマ処理工程S102において、ハロゲンランプヒータ114による加熱が停止されるのは、電気パルスの印加による電力の入力により、加熱を停止しても窒素雰囲気の温度を維持することができるからである。また、排気ポンプ15による排気を継続するのは、リアクタ11の内部が減圧された状態を維持するとともに、パルス電界に平行な窒素ガス流を作り出すためである。不活化工程では、比較的少量(例えば、15リットル/分)の窒素ガスがリアクタ11の内部に給気され、リアクタ11の内部の雰囲気が窒素雰囲気に調整される。そして、プラズマ放電ギャップ119に発生したプラズマによって処理対象物71をプラズマ処理し、電極対112,113への電気パルスの印加によって発生したパルス電界と、ファインストリーマ放電に起因して窒素雰囲気中のプラズマ放電ギャップに発生したプラズマに含まれる窒素ラジカル1192と、ファインストリーマ放電に起因して窒素雰囲気が発する短波長紫外線1191とが、処理対象物71に付着した毒素に作用することにより、毒素を窒化および酸化し、処理対象物71の表面から毒素を散逸させる。これにより、プラズマ処理装置1では、処理対象物71を損傷することなく、処理対象物71に付着した毒素を不活化することができる。
【0059】
続く冷却工程S103では、電極対112,113への電気パルスの印加および排気ポンプ15による排気が停止され、窒素ガスの給気が継続される。冷却工程S103では、比較的多量(例えば、20リットル/分)の窒素ガスがリアクタ11の内部へ給気され、リアクタ11の内部が冷却される。この冷却工程S103により、リアクタ11の内部から処理対象物71を安全に取り出すことが可能になる。
【実施例】
【0060】
以下では、発明の詳細な説明の欄で説明したプラズマ処理装置1によるプラズマ処理に関する実施例を説明する。
【0061】
<実施例1>
実施例1では、プラズマ処理装置1において、電圧のピーク値が19.5kV、電流のピーク値が15.6A、周波数が2.5kHzの電気パルスを電極対112,113に印加して、プラズマ放電ギャップ119から発せられる紫外線の発光スペクトルを紫外線分光装置で測定した。その結果を図11に示す。ここで、窒素ガスの流速は15リットル/分、窒素雰囲気の温度は60〜65℃とした。また、1パルス当りの入力電力は16.0mJであった。
【0062】
図11に示すように、プラズマ放電ギャップ119から発せられる紫外線、すなわち、ファインストリーマ放電に起因して窒素雰囲気中が発する紫外線は、毒素の不活化に有効な短波長紫外線を含んでいる。
【0063】
<実施例2>
実施例2では、プラズマ処理装置1において、電圧のピーク値が19.0kV、周波数が2.5kHzの電気パルスを電極対112,113に印加し、窒素雰囲気の温度とプラズマ処理の処理時間を変化させながら、減圧下のプラズマ処理によるエンドトキシンの活性の低下を評価した。エンドトキシンの活性は、エンドトキシンとしてシグマアルドリッチジャパン株式会社製の「Lipopolysaccharides from Escherichia coli 0111」、リムルス試薬として和光純薬工業株式会社製の「リムルスES-IIテストワコー」を選択し、和光純薬工業株式会社製の「トキシノメータET-2000/J」を用いて測定した。図12にその結果を示す。図12には、検体中のエンドトキシンの濃度(縦軸)のプラズマ処理の処理時間(横軸)に対する変化が、窒素雰囲気の温度(28〜45℃、60〜65℃、73〜83℃)ごとに示されている。ここで、窒素ガスの流量は6リットル/分とした。また、入力電力は84Wであった。
【0064】
図12に示すように、窒素雰囲気の温度が高くなり、プラズマ処理の処理時間が長くなるほど、エンドトキシンの濃度を低くすることができ、プラズマ処理の処理時間を概ね7分とすれば、エンドトキシンの濃度を人間の致死量である10-1〜100ng/mlより低くすることができ、窒素雰囲気の温度を73〜83℃、プラズマ処理の処理時間を30分とすれば、エンドトキシンの濃度を検出限界である10-3ng/mlより低くすることができる。すなわち、本発明のプラズマ処理装置1では、乾熱法よりも著しく低い温度で短時間にエンドトキシンを完全に不活化することができるので、処理対象物71を損傷することなく処理対象物71に付着したエンドトキシンを完全に不活化することができる。
【0065】
<実施例3>
実施例3では、1.25μgのリピドAをコートしたガラス板を準備し、減圧下のプラズマ処理の前後の光電子スペクトルの変化をX線光電子分光装置(XPS)で測定した。その結果を、図13〜図16に示す。図13は、プラズマ処理の前の光電子スペクトルであり、図14は、プラズマ処理の後の光電子スペクトルである。図15および図16は、それぞれ、図13および図14の390〜410eVの範囲を拡大して縦軸を規格化しものである。
【0066】
図13および図14に示すように、プラズマ処理の後の光電子スペクトルでは、炭素(C)の存在を示すピークの強度がプラズマ処理の前より弱くなっており、窒素(N)、酸素(O)、ナトリウム(Na)の存在を示すピークの強度がプラズマ処理の前より強くなっている。
【0067】
窒素(N)、酸素(O)の存在を示すピークの強度が強くなっていることは、プラズマ処理によりリピドAが窒化および酸化されたことを示していると考えられる。また、ナトリウム(Na)の存在を示すピークの強度が強くなっていることは、ガラス板の表面のリピドAがエッチングされてガスとして散逸し、露出したガラス板の構成元素であるナトリウムが検出されるようになったものと考えられる。
【0068】
さらに、図15および図16に示すように、プラズマ処理後の後の光電子スペクトルでは、窒素(N)の存在を示すピークの線幅がプラズマ処理の前より広くくなってなり、ピークが高エネルギー側に広がっている。このことは、プラズマ処理によりアミン等窒化物が生成したこと、すなわち、プラズマ処理によりリピドAが窒化されたことを示していると考えられる。
【0069】
<実施例4>
実施例4では、1.25μgのリピドAをコートしたガラス板を準備し、減圧下のプラズマ処理の前後の表面状態を原子間力顕微鏡(AFM)で観察した。ここで、窒素雰囲気の温度は60℃、処理時間は15分とした。その結果、表面のモホロジーが変化し、コートされたリピドAに由来する凸部が消滅していることがわかった。このことは、リピドAがエッチングされてガスとして散逸したことを示していると考えられる。
【0070】
<実施例5>
実施例5では、ポリスチレンシートを準備し、プラズマ処理の前後の光電子スペクトルの変化をX線光電子分光装置で測定した。その結果を、図17〜図19に示す。図17は、プラズマ処理の前の光電子スペクトル、図18および図19は、プラズマ処理の後の光電子スペクトルである。ただし、図18は、処理時間を7分として減圧下でプラズマ処理を行った場合の光電子スペクトルであり、図19は、処理時間を4分として大気圧下でプラズマ処理を行った場合の光電子スペクトルである。
【0071】
図17〜図19に示すように、プラズマ処理の後の光電子スペクトルでは、炭素(C)の存在を示すピークの強度が、プラズマ処理の前より弱くなっており、窒素(N)、酸素(O)の存在を示すピークの強度がプラズマ処理の前より強くなっている。このことは、プラズマ処理を行えば、処理対象物の表面に付着した毒素(エンドトキシンに限定されない)を窒化および酸化することができることを示唆していると考えられる。
【0072】
<実施例6>
実施例6では、ポリスチレンシートを準備し、減圧下のプラズマ処理の前後の表面状態を原子間力顕微鏡(AFM)で観察した。ここで、処理時間は7分とした。その結果、表面のモホロジーが変化し、凸部が消滅し、表面が荒らされていることがわかった。このことは、プラズマ処理を行えば、処理対象物の表面に付着した毒素(エンドトキシンに限定されない)をガスとして散逸させることができることを示唆していると考えられる。
【0073】
<実施例7>
実施例7では、ポリスチレンシートを準備し、減圧下のプラズマ処理の開始前後の排気ガスに含まれる成分を定量分析を行った。その結果を図20に示す。ここで、窒素ガスの流量は11リットル/分とし、プラズマ放電ギャップは前後方向に200mm、左右方向に200mmの拡がりを有するギャップとした。また、一酸化炭素(CO)は赤外線吸収法、窒素酸化物(NOx)は化学発光法、シアン化水素(HCN)は吸光光度法、ベンゼン(C6H6)・トルエン(C7H8)・スチレン(C8H8)・亜酸化窒素(N2O)はガスクロマトグラフグラフ質量分析法、オゾン(O3)はオゾン検出管法で定量分析を行っている。
【0074】
図20に示すように、プラズマ処理の開始後の排気ガスには、一酸化炭素・窒素酸化物・スチレン・亜酸化窒素が検出された。このことは、プラズマ処理を行えば、処理対象物の表面に付着した毒素(エンドトキシンに限定されない)を窒化および酸化することができることを示唆していると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】各種気体分子の解離エネルギーを示す図である。
【図2】放電の状態と電気パルスの電圧概略波形とを模式的に示す図である。
【図3】エンドトキシンの一般構造を模式的に示す図である。
【図4】実施形態に係るプラズマ処理装置のリアクタの斜視図である。
【図5】実施形態に係るプラズマ処理装置のリアクタの断面図である。
【図6】各種金属膜の反射率の波長依存性を示す図である。
【図7】電気パルスの電圧波形および電流波形の一例を示す図である。
【図8】IES回路の構成を示す図である。
【図9】IES回路の動作を示す図である。
【図10】プラズマ処理装置の動作を説明する図である。
【図11】プラズマ放電ギャップから発せられる紫外線の発光スペクトルである。
【図12】エンドトキシンの活性の低下を示す図である。
【図13】リピドAをコートしたガラス板のプラズマ処理の前の光電子スペクトルである。
【図14】リピドAをコートしたガラス板のプラズマ処理の後の光電子スペクトルである。
【図15】リピドAをコートしたガラス板のプラズマ処理の前の光電子スペクトルである。
【図16】リピドAをコートしたガラス板のプラズマ処理の後の光電子スペクトルである。
【図17】プラズマ処理の前のポリスチレンシートの光電子スペクトルである。
【図18】プラズマ処理の後のポリスチレンシートの光電子スペクトルである。
【図19】プラズマ処理の後のポリスチレンシートの光電子スペクトルである。
【図20】プラズマ処理の前後の排気ガスに含まれる成分の定量分析の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0076】
1 プラズマ処理装置
11 リアクタ
111 石英ミラー
112 石英ミラー(陰極)
113 電極棒(陽極)
114 ハロゲンランプヒータ
13 パルス電源
14 窒素ガスタンク
15 排気ポンプ
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドトキシンや異常プリオンなどの毒素を不活化するプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドトキシンとは、グラム陰性菌の細胞壁外膜を構成するリポ多糖である。エンドトキシンは、ごく微量でも発熱性を発揮することが知られており、医療事故を防止するためには、医療器具に付着したエンドトキシンを不活化する必要がある。エンドトキシンを不活化する方法としては、ガンマ線法・電子線法・エチレンオキサイドガス法・過酸化水素ガスプラズマ法・オートクレーブ法・乾熱法などが検討されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
【非特許文献1】細渕和成、他1名、「各滅菌法による乾燥エンドトキシンの不活化」、東京都立産業技術研究所研究報告、東京都立産業技術研究所、1999年、第2号、p.126−129
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、乾熱法を除く従来の方法では、エンドトキシンの活性を十分に低下させることができない。例えば、典型的な処理条件を採用した場合、ガンマ線法・電子線法・エチレンオキサイドガス法では約1/4、過酸化水素ガスプラズマ法では約1/20、オートクレーブ法では約1/9までエンドトキシンの活性を低下させることができるだけである。一方、乾熱法では約1/105までエンドトキシンの活性を低下させることができるが、処理対象物を約250℃まで加熱する必要があり、処理対象物を損傷してしまうという問題がある。
【0005】
なお、このような不活化に関する問題は、エンドトキシン以外の毒素、例えば、牛海綿状脳症の原因となる毒素と推定されている異常プリオンにも当てはまる。
【0006】
本発明は、この問題を解決するためになされたもので、処理対象物を損傷することなく処理対象物に付着した毒素を不活化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、処理対象物の表面に付着した毒素を不活化するプラズマ処理装置であって、不活化が行われる空間の雰囲気を調整して窒素雰囲気とする雰囲気調整手段と、前記空間に設置された電極対と、アーク放電を引き起こさずにファインストリーマ放電を引き起こす電気パルスを前記電極対に繰り返し印加するパルス電源と、前記空間の内部から外部へ向かう短波長紫外線を前記空間の内部へ戻す反射部材とを備え、前記電極対への電気パルスの印加によって発生したパルス電界と、ファインストリーマ放電に起因して窒素雰囲気中に発生したプラズマに含まれる窒素ラジカルと、ファインストリーマ放電に起因して窒素雰囲気が発する短波長紫外線とを毒素に作用させることにより、毒素を窒化および酸化し、処理対象物の表面から毒素を散逸させる。
【0008】
請求項2の発明は、毒素がエンドトキシンまたは異常プリオンである請求項1に記載のプラズマ処理装置である。
【0009】
請求項3の発明は、電気パルスのパルス幅が半値幅で50〜300nsである請求項1または請求項2に記載のプラズマ処理装置である。
【0010】
請求項4の発明は、前記雰囲気調整手段は、前記電極対を構成する陽極の側から窒素ガスを給気し、前記電極対を構成する陰極の側から窒素ガスを排気する、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のプラズマ処理装置である。
【0011】
請求項5の発明は、前記雰囲気調整手段は、前記空間を減圧する減圧手段を備える、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のプラズマ処理装置である。
【0012】
請求項6の発明は、窒素雰囲気の温度を調整する温度調整手段をさらに備える、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のプラズマ処理装置である。
【0013】
請求項7の発明は、前記反射部材は、短波長紫外線をアルミニウム膜で反射する、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のプラズマ処理装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、処理対象物を損傷することなく処理対象物に付着した毒素を不活化することができる。
【0015】
請求項4の発明によれば、毒素を均一に不活化することができる。
【0016】
請求項5の発明によれば、電極対の間隔を拡げることができるので、立体的な処理対象物に付着した毒素を不活化することができる。また、請求項5の発明によれば、窒素ラジカルの寿命が長くなるので、毒素を効率的に不活化することができる。
【0017】
請求項6の発明によれば、窒素雰囲気の温度を不活化に適した温度とすることができるので、毒素を効率的に不活化することができる。
【0018】
請求項7の発明によれば、短波長紫外線の反射率が高くなるので、毒素を効率的に不活化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<1 毒素の不活化>
本発明のプラズマ処理装置では、処理対象物の表面に付着した毒素を不活化するため、パルス電界、窒素ラジカル(N*)および波長が100nm以上280nm以下の短波長紫外線(「遠紫外線」又は「UV−C」とも呼ばれる)を含む紫外線を毒素に複合的に作用させることにより、毒素を窒化および酸化し、処理対象物の表面から毒素を散逸させる。
【0020】
ここで、「毒素」とは、生物に有害な生理活性を有する物質であり、典型的には、エンドトキシンや異常プリオンである。なお、毒素が付着している処理対象物によっては、パルス電界、窒素ラジカルおよび短波長紫外線が、毒素および処理対象物の表面の両方に作用し、その相乗的な効果によって毒素の不活化が進行する場合もある。
【0021】
本発明のプラズマ処理装置では、毒素が付着した処理対象物を電極対の間に置き、立ち上がりの早い電気パルスを当該電極対に印加することにより、立ち上がりの早いパルス電界を毒素に作用させる。毒素が電界に曝されると、毒素の陽極側および陰極側に分極電荷が誘起され、外部電界より強い内部電界が毒素の内部に生じるので、立ち上がりの早いパルス電界に毒素を曝せば、毒素の陽極側および陰極側の電位差を急激に上昇させることができ、電気的な衝撃を毒素に与えることができることを利用したものである。
【0022】
また、本発明のプラズマ処理装置では、毒素が付着した処理対象物を窒素雰囲気中に設置された電極対の間に置き、立ち上がりの早い電気パルスを当該電極対に印加してファインストリーマ放電を引き起こすことにより、窒素雰囲気中に発生したプラズマに含まれる窒素ラジカルを毒素に作用させる。ここで、活性種として窒素ラジカルを選択した理由、すなわち、窒素雰囲気中でプラズマを発生させた理由は、窒素ラジカルの活性が他の活性種、例えば、酸素ラジカルよりも著しく高いことによる。この点は、各種気体分子の解離エネルギーを表にまとめた図1に示すように、窒素分子(N2)の解離エネルギーが9.91eVであるのに対して、酸素分子(O2)の解離エネルギーが5.21eVであることからも明らかである。加えて、窒素ラジカルの寿命が長いこと、例えば、3重項窒素(3Σu)のビラジカルの寿命が10ミリ秒に達することも、活性種として窒素ラジカルを選択した理由のひとつとなっている。加えて、窒素ガスは、低価格で容易に入手でき取り扱いも容易であることも、活性種として窒素ラジカルを選択した理由のひとつとなっている。
【0023】
さらに、本発明のプラズマ処理装置では、ファインストリーマ放電に起因して窒素雰囲気が発する波長が250nmの短波長紫外線を含む紫外線を毒素が付着した処理対象物に照射することにより、短波長紫外線を毒素に作用させる。ここで、短波長紫外線を利用するのは、短波長紫外線に対する感受性を毒素が有しているからである。
【0024】
<2 ファインストリーマ放電>
図2は、電極対81,82への電気パルスの印加によって引き起こされる放電の状態と電気パルスの電圧概略波形(無負荷時)とを模式的に示す図である。図2において、電気パルスの電圧概略波形は、電圧V(縦軸)の時間t(横軸)に対する変化を示すグラフによってあらわされている。
【0025】
図2に示すように、電気パルスのパルス幅Δtが概ね100nsに達すると、正イオンが陰極82に衝突する際に放出された2次電子が窒素分子を電離させて新たな正イオンを発生させるグロー放電が引き起こされる。
【0026】
一方、電気パルスの立ち上がり時の電圧Vの時間上昇率dV/dtが概ね30〜50kV/μsである場合、パルス幅Δtが概ね100nsに達すると、陽極81から陰極82へ向かうストリーマ83の成長が始まる。そして、パルス幅Δtが概ね100〜500nsである場合、ストリーマ83の成長は、陽極81と陰極82との間に短いストリーマ83が散点する初期段階で終了する。一方、パルス幅Δtが概ね500〜1000nsである場合、ストリーマ83が本格的に成長し、陽極81と陰極82との間に枝分かれした長いストリーマ83が存在する状態となる。本発明のプラズマ処理装置では、ストリーマ83の成長が進んで陽極81と陰極82とが導通してしまわないように、ストリーマ83の成長の初期段階で放電を停止するファインストリーマ放電を用いる。放電の均一性に優れるファインストリーマ放電を用いれば、毒素を均一に不活化することができるからである。
【0027】
さらに、パルス幅Δtが概ね1000nsに達すると、局部的な電流集中がおき、最終的にアーク放電が引き起こされる。
【0028】
上述の説明で、パルス幅Δtや立ち上がり時の電圧Vの時間上昇率dV/dtの範囲について「概ね」としているのは、これらは、電極対81,82の間隔、陽極81および陰極82の構造ならびに窒素雰囲気の圧力等のプラズマ処理装置の具体的構成に依存して変化するためである。したがって、ファインストリーマ放電となっているか否かは、パルス幅Δtや立ち上がり時の電圧Vの時間上昇率dV/dtだけでなく、実際の放電を観察して判断すべきである。
【0029】
また、電気パルスの電圧概略波形について「無負荷時」としているのは、同じ条件でパルス電源を動作させても、電極対81,82の間隔ならびに陽極81および陰極82の構造等のプラズマ処理装置の具体的構成が変化すれば、電極対81,82に実際に印加される電気パルスの電圧概略波形が異なってくるからである。
【0030】
<3 エンドトキシンの一般構造>
図3は、毒素の一例である、グラム陰性菌の細胞壁外膜を構成するエンドトキシンの一般構造を模式的に示す図である。図3に示すように、エンドトキシンは、多糖部と脂質部とから構成され、多糖部はO−特異鎖とコア(内部コアおよび外部コア)とから構成され、脂質部は活性部位となるリピドAから構成されている。本発明のプラズマ処理装置では、パルス電界と窒素ラジカルと短波長紫外線とをエンドトキシンに作用させ、エンドトキシンを窒化および酸化して、処理対象物の表面からエンドトキシンをガスとして散逸させることにより、エンドトキシンを不活化している。
【0031】
なお、同様の原理により、異常プリオンその他の毒素も不活化することができる。
【0032】
<4 プラズマ処理装置の構成例>
<4.1 リアクタ>
図4および図5は、本発明の望ましい実施形態に係るプラズマ処理装置1のリアクタ11を示す模式図であり、図4は、リアクタ11の外部構造を示す斜視図となっており、図5は、リアクタ11の内部構造を示す断面図となっている。図5には、プラズマ処理装置1を構成するリアクタ11の付属物も併せて示されている。
【0033】
図4に示すように、リアクタ11は、バッチ式の反応容器となっており、上面の給気口から窒素ガスを給気し、下面の排気口から窒素ガスを排気することができるようになっている。リアクタ11は、前面に設けられたドアが開かれた状態においては、内部への処理対象物71の収容および内部からの処理対象物71の取り出しが可能な状態となり、ドアが閉じられた状態においては、内部が密閉された状態となる。
【0034】
リアクタ11では、内部の電極対112,113に電気パルスを印加して電極対112,113の間のプラズマ放電ギャップ119にプラズマを発生させ、発生したプラズマに処理対象物71を曝すことにより、処理対象物71に付着した毒素を不活化している。プラズマ放電ギャップ119の大きさは処理対象物71に応じて変更すべきであるが、本実施形態では、前後方向に300mm、左右方向に300mmの拡がりを有する40mmのギャップとした。
【0035】
図5に示すように、リアクタ11の内部には、貫通孔1115,1125が形成された石英ミラー111,112が上下に離隔して水平に設置され、その間には、前後方向に伸びる電極棒113が水平に設置されている。陰極となる石英ミラー112と陽極となる電極棒113とから構成される電極対112,113には、パルス電源13が接続される。リアクタ11では、窒素ガスタンク14から貫通孔1115を経由してリアクタ11の内部へ窒素ガスが給気され、排気ポンプ15によってリアクタ11の内部から貫通孔1125および排気口1166を経由して窒素ガスが排気される。リアクタ11の内部の圧力は圧力ゲージ16によって測定することができる。また、リアクタ11の内部には、ハロゲンランプヒータ114および光ファイバ温度計115が設置されている。ハロゲンランプヒータ114および光ファイバ温度計115は、コントローラ17に接続されている。
【0036】
<4.2 石英ミラー>
石英ミラー111,112は、石英ガラス板1111,1121の一方の主面にアルミニウム膜1112,1122を蒸着したものである。典型的には、石英ガラス板1111,1121の板厚は0.5〜5.0mmであり、アルミニウム膜1112,1122の膜厚は0.5〜5.0μmであるが、これらの範囲外となることも妨げられない。石英ガラス板1111,1121のアルミニウム膜1112,1122が蒸着されていない他方の主面は、プラズマ放電ギャップ119に向けられている。石英ミラー111は、リアクタ11の内部から上方へ逃げる短波長紫外線1191を反射して、リアクタ11の内部へ戻す。石英ミラー112は、リアクタ11の内部から下方へ逃げる短波長紫外線1191を反射して、リアクタ11の内部へ戻す。このように、リアクタ11の内部から外部へ向かう短波長紫外線1191をリアクタ11の内部へ戻す反射部材を設けると、窒素雰囲気が発する短波長紫外線1191の利用効率を向上することができ、処理対象物71への短波長紫外線1191の照射量を増加させることができるので、毒素の不活化の効率を向上することができる。短波長紫外線1191を反射する鏡面をアルミニウム膜により形成したのは、各種金属膜の反射率の波長依存性を示すグラフである図6に示すように、アルミニウム膜の短波長紫外線の反射率が極めて高く(約90%)、毒素の効率的な不活化に寄与しうるからである。
【0037】
<4.3 電極>
電極棒113の材質は、プラズマ耐久性に優れるINCONEL(登録商標)である。ただし、このことは、電極棒113の材質としてINCONEL(登録商標)以外のもの、例えば、タングステン・モリブデン・マンガン・チタン・クロム・ジルコニウム・ニッケル・銀・鉄・銅・白金・パラジウム等の金属を主成分とするものを用いることを妨げない。ここで、「金属」とは、ニッケル合金やステンレス鋼に代表される鉄合金のような、2種類以上の金属を含む合金をも包含する意味で用いている。典型的には、電極棒113の直径は0.5mmであるが、これ以外とすることも妨げられない。なお、図5には、1本の電極棒113のみが示されているが、2本以上の電極棒113を間隔を置いて左右方向に配列してもよい。また、陽極を電極板で構成することも妨げられないが、この場合、陽極が短波長紫外線1191を遮蔽して処理対象物71への短波長紫外線1191の照射を妨げてしまうことを防止するため、反対側が透けて見えるような櫛歯状又は網目状の電極板を採用することが望ましい。
【0038】
なお、リアクタ11では、石英ミラー112が陰極としての機能と短波長紫外線1191を反射する反射部材としての機能を兼ねているが、このことは、陰極と反射部材とを独立した部材として設置することを妨げるものではない。
【0039】
<4.4 パルス電源>
パルス電源13は、アーク放電を引き起こさずにファインストリーマ放電を引き起こす電気パルスを電極対112,113に繰り返し印加する。具体的には、パルス電源13は、パルス幅が半値幅で50〜300nsの電気パルスを電極対112,113に繰り返し印加する。パルス電源13が電極対112,113に印加する電気パルスの電圧波形および電流波形の一例を図7に示す。図7には、電気パルスの電圧V2および電流I2(縦軸)の時間(横軸)に対する変化が示されており、パルス幅は、半値幅で約100nsとなっている。
【0040】
パルス電源13には、静電誘導型サイリスタ(以下、「SIThy」という)を用いた誘導エネルギー蓄積型電源回路(以下、「IES回路」という)を採用することが望ましい。IES回路は、SIThyのクロージングスイッチ機能の他、オープニングスイッチング機能を用いてターンオフを行い、当該ターンオフによりSIThyのゲート・アノード間に高圧を発生させている。なお、IES回路の詳細は、飯田克二、佐久間健:「誘導エネルギー蓄積型パルス電源」,第15回SIデバイスシンポジウム(2002)に記載されている。
【0041】
まず、図8を参照して、IES回路(パルス電源)13の構成について説明する。IES回路13は、低電圧直流電源131を備える。低電圧直流電源131の電圧Eは、IES回路13が発生させる電気パルスの電圧のピーク値より著しく低いことが許容される。例えば、後述するインダクタ133の両端に発生させる電圧VLのピーク値VLPが数kVに達しても、低電圧直流電源131の電圧Eは数10Vであることが許容される。電圧Eの下限は後述するSIThy134のラッチング電圧以上で決定される。IES回路13は、低電圧直流電源131を電気エネルギー源として利用可能であるので、小型・低コストに構築可能である。
【0042】
IES回路13は、低電圧直流電源131に並列接続されるコンデンサ132を備える。コンデンサ132は、低電圧直流電源131のインピーダンスを見かけ上低下させることにより低電圧直流電源131の放電能力を強化する。
【0043】
さらに、IES回路13は、インダクタ133、SIThy134、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)(以下、「FET」)135、ゲート駆動回路136およびダイオード137を備える。IES回路13では、低電圧直流電源131の正極とインダクタ133の一端とが接続され、インダクタ133の他端とSIThy134のアノードとが接続され、SIThy134のカソードとFET135のドレインとが接続され、FET135のソースと低電圧直流電源131の負極とが接続されている。また、IES回路13では、SIThy134のゲートとダイオード137のアノードとが接続され、ダイオード137のカソードとインダクタ133の一端(低電圧直流電源131の正極)とが接続される。FET135のゲートおよびソースには、ゲート駆動回路136が接続される。
【0044】
SIThy134は、ゲート信号に応答して、ターンオンおよびターンオフが可能である。
【0045】
FET135は、ゲート駆動回路136から与えられるゲート信号Vcに応答してドレイン・ソース間の導通状態が変化するスイッチング素子である。FET135のオン電圧又はオン抵抗は低いことが望ましい。また、FET135の耐圧は低電圧直流電源131の電圧Eより高いことを要する。
【0046】
ダイオード137は、SIThy134のゲートに正バイアスを与えた場合に流れる電流を阻止するため、すなわち、SIThy134のゲートに正バイアスを与えた場合にSIThy134が電流駆動とならないようにするために設けられる。
【0047】
インダクタ133は、自己インダクタンスを有する誘導性素子として機能しており、その両端には、負荷139(ここでは、電極対112,113)が並列接続される。なお、昇圧トランスの1次側をインダクタ133として用いて、昇圧トランスの2次側の両端に負荷139を接続すれば、電圧のピーク値がより高い電気パルスを得ることができる。
【0048】
続いて、図9を参照して、IES回路13の動作について説明する。図9は、上から順に、FET135に与えられるゲート信号Vc、SIThy134の導通状態、インダクタ133に流れる電流IL、インダクタ133の両端に発生する電圧VL、SIThy134のアノード・ゲート間の電圧VAG(縦軸)の時間(横軸)に対する変化を示している。
【0049】
まず、時刻t0にゲート信号VcがOFFからONに切り替わると、FET135のドレイン・ソース間は導通状態となる。これにより、SIThy134のゲートがアノードに対して正バイアスされるので、SIThy134のアノード・カソード間は導通状態となり(図中の「A−K導通」)、電流ILが増加し始める。
【0050】
電流ILがピーク値ILPに達するあたりの時刻t1にゲート信号VcがONからOFFに切り替わると、FET135のドレイン・ソース間が非導通状態となり、SIThy134のアノード・ゲート間が導通状態となる(図中の「A−G導通」)。これにより、時刻t2から時刻t3にかけて、SIThy134における空乏層の拡大に同期して(図中の「空乏層拡大」)、電流ILが減少するとともに、電圧VLおよび電圧VAGが急激に上昇する。
【0051】
そして、時刻t3において電圧VLおよび電圧VAGがそれぞれピーク値VLpおよびピーク値VAGpに達して電流ILの向きが反転した後は、時刻t3から時刻t4にかけて、SIThy134における空乏層の縮小の縮小に同期して(図中の「空乏層縮小」)、電流ILが増加するとともに、電圧VLおよび電圧VAGが急激に低下する。
【0052】
そして、時刻t4においてSIThy134が非導通状態となると(図中の「非導通」)、時刻t5に向かって電流ILが減少するとともに、電圧VLおよび電圧VAGは0になる。
【0053】
<4.5 温度調整>
コントローラ17は、光ファイバ温度計115を用いて窒素雰囲気の温度を監視しつつ、ハロゲンランプヒータ114に供給する電力を制御することにより、窒素雰囲気の温度を調整する。これにより、窒素雰囲気の温度を不活化に適した温度とすることができるので、処理対象物71に付着した毒素を効率的に不活化することができるようになる。もちろん、ハロゲンランプヒータ114に代えて、セラミックスヒータ等を用いることもできる。なお、誘電体バリアとして機能する石英ガラス板1121でアルミニウム膜1122を被覆した石英ミラー112を陰極として用いると、電極対112,113に電気パルスを印加した際に電流が途切れてしまうまでの時間が、石英ガラス板1121で被覆されていない金属板を陰極として用いた場合よりも長くなる。したがって、石英ガラス板1121でアルミニウム膜1122を被覆した石英ミラー112を陰極として用いると、電極対112,113に電気パルスを印加した際の入力電力が、石英ガラス板1121で被覆されていない金属板を陰極として用いた場合よりも大きくなるので、電極対112,113への電気パルスの印加によって窒素雰囲気の温度を上昇させることもできるようになる。
【0054】
<4.6 雰囲気調整>
リアクタ11では、陽極となる電極棒113の側から窒素ガスを給気し、陰極となる石英ミラーの側から窒素ガスを排気することにより、リアクタ11の内部の雰囲気を調整して窒素雰囲気としている。このような窒素ガスの給気および排気を行うのは、パルス電界と平行に陽極から陰極へ向かって流れる窒素ガス流を作り出すことができるので、プラズマを均一に発生させることができるようになり、処理対象物71に付着した毒素を均一に不活化することができるからである。また、係る窒素ガス流を作り出すことには、酸素ガスが混入しにくくなり、オゾンの発生を実用上問題とならない程度まで抑制することができるという利点や、電極対112,113の間隔を拡げ、立体的な処理対象物71に付着した毒素も不活化することができるようになるという利点もある。なお、複数の貫通孔1115を経由して窒素ガスの給気を行う場合、石英ミラー111の上面に載置された圧損部材、例えば、積層された金網やアルミナ・SiC等のセラミックスの多孔体を通過した窒素ガスを貫通穴1115から噴出させるようにすることが望ましい。窒素ガスの噴出が、給気口の近傍の貫通孔1115に集中して毒素の不活化の均一性を妨げてしまうことを防止するためである。
【0055】
さらに、リアクタ11では、排気ポンプ15によって内部を10000〜50000Pa(大気圧の1/10〜1/2)、より望ましくは、20000〜40000Paまで減圧することによって、電極対112,113の間隔を拡げ(典型的には、大気圧の場合の5倍以上)、立体的な処理対象物71に付着した毒素も不活化することができるようにしている。このように減圧下でファインストリーマ放電を引き起こすことは、窒素ラジカル1192の寿命を延ばし(典型的には、大気圧下の場合の10倍以上)、処理対象物71に付着した毒素を効率的に不活化することにも寄与している。ここで、窒素雰囲気の圧力を適切に保ち、窒素ラジカル1192の反応によって生じた化学種の滞留を防ぎ、当該化学種をプラズマ放電ギャップ119から適切に排出するためには、貫通孔1115の総孔面積S1よりも貫通孔1125の総孔面積S2を大きくし、貫通孔1125の総孔面積S2よりも排気口1166の総孔面積S3を大きくすることが望ましい。
【0056】
<5 プラズマ処理装置の動作>
図10は、プラズマ処理装置1の動作を説明する図である。図10では、余熱工程S101、プラズマ処理工程S102および冷却工程S103の各々について、ハロゲンランプヒータ114による加熱の有無、排気ポンプ15による排気の有無、電極対112,113への電気パルスの印加の有無および窒素ガスの給気の有無を示した図となっている。
【0057】
ドアを開けて処理対象物71を石英ミラー112の上に載置し再びドアを閉じると、プラズマ処理装置1は、余熱工程S101を開始する。余熱工程S101では、ハロゲンランプヒータ114による加熱と排気ポンプ15による排気とが行われ、リアクタ11の内部が加熱される。
【0058】
続くプラズマ処理工程S102では、ハロゲンランプヒータ114による加熱が停止され、排気ポンプ15による排気が継続されるとともに、電極対112,113への電気パルスの印加および窒素ガスの給気が開始される。プラズマ処理工程S102において、ハロゲンランプヒータ114による加熱が停止されるのは、電気パルスの印加による電力の入力により、加熱を停止しても窒素雰囲気の温度を維持することができるからである。また、排気ポンプ15による排気を継続するのは、リアクタ11の内部が減圧された状態を維持するとともに、パルス電界に平行な窒素ガス流を作り出すためである。不活化工程では、比較的少量(例えば、15リットル/分)の窒素ガスがリアクタ11の内部に給気され、リアクタ11の内部の雰囲気が窒素雰囲気に調整される。そして、プラズマ放電ギャップ119に発生したプラズマによって処理対象物71をプラズマ処理し、電極対112,113への電気パルスの印加によって発生したパルス電界と、ファインストリーマ放電に起因して窒素雰囲気中のプラズマ放電ギャップに発生したプラズマに含まれる窒素ラジカル1192と、ファインストリーマ放電に起因して窒素雰囲気が発する短波長紫外線1191とが、処理対象物71に付着した毒素に作用することにより、毒素を窒化および酸化し、処理対象物71の表面から毒素を散逸させる。これにより、プラズマ処理装置1では、処理対象物71を損傷することなく、処理対象物71に付着した毒素を不活化することができる。
【0059】
続く冷却工程S103では、電極対112,113への電気パルスの印加および排気ポンプ15による排気が停止され、窒素ガスの給気が継続される。冷却工程S103では、比較的多量(例えば、20リットル/分)の窒素ガスがリアクタ11の内部へ給気され、リアクタ11の内部が冷却される。この冷却工程S103により、リアクタ11の内部から処理対象物71を安全に取り出すことが可能になる。
【実施例】
【0060】
以下では、発明の詳細な説明の欄で説明したプラズマ処理装置1によるプラズマ処理に関する実施例を説明する。
【0061】
<実施例1>
実施例1では、プラズマ処理装置1において、電圧のピーク値が19.5kV、電流のピーク値が15.6A、周波数が2.5kHzの電気パルスを電極対112,113に印加して、プラズマ放電ギャップ119から発せられる紫外線の発光スペクトルを紫外線分光装置で測定した。その結果を図11に示す。ここで、窒素ガスの流速は15リットル/分、窒素雰囲気の温度は60〜65℃とした。また、1パルス当りの入力電力は16.0mJであった。
【0062】
図11に示すように、プラズマ放電ギャップ119から発せられる紫外線、すなわち、ファインストリーマ放電に起因して窒素雰囲気中が発する紫外線は、毒素の不活化に有効な短波長紫外線を含んでいる。
【0063】
<実施例2>
実施例2では、プラズマ処理装置1において、電圧のピーク値が19.0kV、周波数が2.5kHzの電気パルスを電極対112,113に印加し、窒素雰囲気の温度とプラズマ処理の処理時間を変化させながら、減圧下のプラズマ処理によるエンドトキシンの活性の低下を評価した。エンドトキシンの活性は、エンドトキシンとしてシグマアルドリッチジャパン株式会社製の「Lipopolysaccharides from Escherichia coli 0111」、リムルス試薬として和光純薬工業株式会社製の「リムルスES-IIテストワコー」を選択し、和光純薬工業株式会社製の「トキシノメータET-2000/J」を用いて測定した。図12にその結果を示す。図12には、検体中のエンドトキシンの濃度(縦軸)のプラズマ処理の処理時間(横軸)に対する変化が、窒素雰囲気の温度(28〜45℃、60〜65℃、73〜83℃)ごとに示されている。ここで、窒素ガスの流量は6リットル/分とした。また、入力電力は84Wであった。
【0064】
図12に示すように、窒素雰囲気の温度が高くなり、プラズマ処理の処理時間が長くなるほど、エンドトキシンの濃度を低くすることができ、プラズマ処理の処理時間を概ね7分とすれば、エンドトキシンの濃度を人間の致死量である10-1〜100ng/mlより低くすることができ、窒素雰囲気の温度を73〜83℃、プラズマ処理の処理時間を30分とすれば、エンドトキシンの濃度を検出限界である10-3ng/mlより低くすることができる。すなわち、本発明のプラズマ処理装置1では、乾熱法よりも著しく低い温度で短時間にエンドトキシンを完全に不活化することができるので、処理対象物71を損傷することなく処理対象物71に付着したエンドトキシンを完全に不活化することができる。
【0065】
<実施例3>
実施例3では、1.25μgのリピドAをコートしたガラス板を準備し、減圧下のプラズマ処理の前後の光電子スペクトルの変化をX線光電子分光装置(XPS)で測定した。その結果を、図13〜図16に示す。図13は、プラズマ処理の前の光電子スペクトルであり、図14は、プラズマ処理の後の光電子スペクトルである。図15および図16は、それぞれ、図13および図14の390〜410eVの範囲を拡大して縦軸を規格化しものである。
【0066】
図13および図14に示すように、プラズマ処理の後の光電子スペクトルでは、炭素(C)の存在を示すピークの強度がプラズマ処理の前より弱くなっており、窒素(N)、酸素(O)、ナトリウム(Na)の存在を示すピークの強度がプラズマ処理の前より強くなっている。
【0067】
窒素(N)、酸素(O)の存在を示すピークの強度が強くなっていることは、プラズマ処理によりリピドAが窒化および酸化されたことを示していると考えられる。また、ナトリウム(Na)の存在を示すピークの強度が強くなっていることは、ガラス板の表面のリピドAがエッチングされてガスとして散逸し、露出したガラス板の構成元素であるナトリウムが検出されるようになったものと考えられる。
【0068】
さらに、図15および図16に示すように、プラズマ処理後の後の光電子スペクトルでは、窒素(N)の存在を示すピークの線幅がプラズマ処理の前より広くくなってなり、ピークが高エネルギー側に広がっている。このことは、プラズマ処理によりアミン等窒化物が生成したこと、すなわち、プラズマ処理によりリピドAが窒化されたことを示していると考えられる。
【0069】
<実施例4>
実施例4では、1.25μgのリピドAをコートしたガラス板を準備し、減圧下のプラズマ処理の前後の表面状態を原子間力顕微鏡(AFM)で観察した。ここで、窒素雰囲気の温度は60℃、処理時間は15分とした。その結果、表面のモホロジーが変化し、コートされたリピドAに由来する凸部が消滅していることがわかった。このことは、リピドAがエッチングされてガスとして散逸したことを示していると考えられる。
【0070】
<実施例5>
実施例5では、ポリスチレンシートを準備し、プラズマ処理の前後の光電子スペクトルの変化をX線光電子分光装置で測定した。その結果を、図17〜図19に示す。図17は、プラズマ処理の前の光電子スペクトル、図18および図19は、プラズマ処理の後の光電子スペクトルである。ただし、図18は、処理時間を7分として減圧下でプラズマ処理を行った場合の光電子スペクトルであり、図19は、処理時間を4分として大気圧下でプラズマ処理を行った場合の光電子スペクトルである。
【0071】
図17〜図19に示すように、プラズマ処理の後の光電子スペクトルでは、炭素(C)の存在を示すピークの強度が、プラズマ処理の前より弱くなっており、窒素(N)、酸素(O)の存在を示すピークの強度がプラズマ処理の前より強くなっている。このことは、プラズマ処理を行えば、処理対象物の表面に付着した毒素(エンドトキシンに限定されない)を窒化および酸化することができることを示唆していると考えられる。
【0072】
<実施例6>
実施例6では、ポリスチレンシートを準備し、減圧下のプラズマ処理の前後の表面状態を原子間力顕微鏡(AFM)で観察した。ここで、処理時間は7分とした。その結果、表面のモホロジーが変化し、凸部が消滅し、表面が荒らされていることがわかった。このことは、プラズマ処理を行えば、処理対象物の表面に付着した毒素(エンドトキシンに限定されない)をガスとして散逸させることができることを示唆していると考えられる。
【0073】
<実施例7>
実施例7では、ポリスチレンシートを準備し、減圧下のプラズマ処理の開始前後の排気ガスに含まれる成分を定量分析を行った。その結果を図20に示す。ここで、窒素ガスの流量は11リットル/分とし、プラズマ放電ギャップは前後方向に200mm、左右方向に200mmの拡がりを有するギャップとした。また、一酸化炭素(CO)は赤外線吸収法、窒素酸化物(NOx)は化学発光法、シアン化水素(HCN)は吸光光度法、ベンゼン(C6H6)・トルエン(C7H8)・スチレン(C8H8)・亜酸化窒素(N2O)はガスクロマトグラフグラフ質量分析法、オゾン(O3)はオゾン検出管法で定量分析を行っている。
【0074】
図20に示すように、プラズマ処理の開始後の排気ガスには、一酸化炭素・窒素酸化物・スチレン・亜酸化窒素が検出された。このことは、プラズマ処理を行えば、処理対象物の表面に付着した毒素(エンドトキシンに限定されない)を窒化および酸化することができることを示唆していると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】各種気体分子の解離エネルギーを示す図である。
【図2】放電の状態と電気パルスの電圧概略波形とを模式的に示す図である。
【図3】エンドトキシンの一般構造を模式的に示す図である。
【図4】実施形態に係るプラズマ処理装置のリアクタの斜視図である。
【図5】実施形態に係るプラズマ処理装置のリアクタの断面図である。
【図6】各種金属膜の反射率の波長依存性を示す図である。
【図7】電気パルスの電圧波形および電流波形の一例を示す図である。
【図8】IES回路の構成を示す図である。
【図9】IES回路の動作を示す図である。
【図10】プラズマ処理装置の動作を説明する図である。
【図11】プラズマ放電ギャップから発せられる紫外線の発光スペクトルである。
【図12】エンドトキシンの活性の低下を示す図である。
【図13】リピドAをコートしたガラス板のプラズマ処理の前の光電子スペクトルである。
【図14】リピドAをコートしたガラス板のプラズマ処理の後の光電子スペクトルである。
【図15】リピドAをコートしたガラス板のプラズマ処理の前の光電子スペクトルである。
【図16】リピドAをコートしたガラス板のプラズマ処理の後の光電子スペクトルである。
【図17】プラズマ処理の前のポリスチレンシートの光電子スペクトルである。
【図18】プラズマ処理の後のポリスチレンシートの光電子スペクトルである。
【図19】プラズマ処理の後のポリスチレンシートの光電子スペクトルである。
【図20】プラズマ処理の前後の排気ガスに含まれる成分の定量分析の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0076】
1 プラズマ処理装置
11 リアクタ
111 石英ミラー
112 石英ミラー(陰極)
113 電極棒(陽極)
114 ハロゲンランプヒータ
13 パルス電源
14 窒素ガスタンク
15 排気ポンプ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象物の表面に付着した毒素を不活化するプラズマ処理装置であって、
不活化が行われる空間の雰囲気を調整して窒素雰囲気とする雰囲気調整手段と、
前記空間に設置された電極対と、
アーク放電を引き起こさずにファインストリーマ放電を引き起こす電気パルスを前記電極対に繰り返し印加するパルス電源と、
前記空間の内部から外部へ向かう短波長紫外線を前記空間の内部へ戻す反射部材と、
を備え、
前記電極対への電気パルスの印加によって発生したパルス電界と、
ファインストリーマ放電に起因して窒素雰囲気中に発生したプラズマに含まれる窒素ラジカルと、
ファインストリーマ放電に起因して窒素雰囲気が発する短波長紫外線と、
を毒素に作用させることにより、毒素を窒化および酸化し、処理対象物の表面から毒素を散逸させるプラズマ処理装置。
【請求項2】
毒素がエンドトキシンまたは異常プリオンである請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
電気パルスのパルス幅が半値幅で50〜300nsである請求項1または請求項2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記雰囲気調整手段は、前記電極対を構成する陽極の側から窒素ガスを給気し、前記電極対を構成する陰極の側から窒素ガスを排気する、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記雰囲気調整手段は、
前記空間を減圧する減圧手段、
を備える、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
窒素雰囲気の温度を調整する温度調整手段、
をさらに備える、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記反射部材は、短波長紫外線をアルミニウム膜で反射する、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項1】
処理対象物の表面に付着した毒素を不活化するプラズマ処理装置であって、
不活化が行われる空間の雰囲気を調整して窒素雰囲気とする雰囲気調整手段と、
前記空間に設置された電極対と、
アーク放電を引き起こさずにファインストリーマ放電を引き起こす電気パルスを前記電極対に繰り返し印加するパルス電源と、
前記空間の内部から外部へ向かう短波長紫外線を前記空間の内部へ戻す反射部材と、
を備え、
前記電極対への電気パルスの印加によって発生したパルス電界と、
ファインストリーマ放電に起因して窒素雰囲気中に発生したプラズマに含まれる窒素ラジカルと、
ファインストリーマ放電に起因して窒素雰囲気が発する短波長紫外線と、
を毒素に作用させることにより、毒素を窒化および酸化し、処理対象物の表面から毒素を散逸させるプラズマ処理装置。
【請求項2】
毒素がエンドトキシンまたは異常プリオンである請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
電気パルスのパルス幅が半値幅で50〜300nsである請求項1または請求項2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記雰囲気調整手段は、前記電極対を構成する陽極の側から窒素ガスを給気し、前記電極対を構成する陰極の側から窒素ガスを排気する、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記雰囲気調整手段は、
前記空間を減圧する減圧手段、
を備える、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
窒素雰囲気の温度を調整する温度調整手段、
をさらに備える、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記反射部材は、短波長紫外線をアルミニウム膜で反射する、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2008−178679(P2008−178679A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−333982(P2007−333982)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
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