説明

プラズマ噴射ノズル

【課題】柱状の対象物品の被洗浄部分に対して均一にプラズマを照射することができて耐久性の高いプラズマ噴射ノズルを提供する。
【解決手段】対象物品Wの被洗浄部分C,Cを囲うように突出する突出部3の内側面に、突出部3の先端に向かって延びるプラズマ噴射口6を設ける。プラズマ噴射口6は、その長手方向先端側6aの開口寸法が基端側6bの開口寸法よりも狭く形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物品の被洗浄部分にプラズマを照射して有機物等の除去や改質を行うプラズマ洗浄装置に用いられるプラズマ噴射ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、反応ガスと高周波電力とを用いてプラズマを発生させ、このプラズマをプラズマ噴射ノズルを介して対象物品の被洗浄部分に照射することにより当該被洗浄部分を洗浄するプラズマ洗浄装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、この種のプラズマ洗浄装置においては、対象物品の被洗浄部分に対して均一にプラズマ照射を行うために、当該被洗浄部分に適した形状のプラズマ噴射ノズルを用いる必要がある。例えば、図3に示すように、柱状の対象物品であるバッテリーセルWの一端の外周縁部、即ち、外周縁の角部Wから電極端面Wの径方向の所定位置までの間に設定された第1の洗浄範囲C及び角部Wから胴部Wの軸線方向の所定位置までの間に設定された第2の洗浄範囲Cの範囲を被洗浄部分とするときには、各範囲に対するプラズマの照射方向が異なるために、図4に示すような形状のプラズマ噴射ノズル10が採用される。
【0004】
このプラズマ噴射ノズル10は、対象物品の被洗浄部分を囲うようにように突出する突出部11を備えており、この突出部11の内側面に、被洗浄部分に向かってプラズマを照射するプラズマ噴射口12が設けられている。
【0005】
プラズマ噴射口12は、図4及び図5に示すように、プラズマ噴射ノズル10に穿設されたプラズマ流路13の終端部に開口する2つのプラズマ出口12a,12bにより構成されている。両プラズマ出口12a,12bは、仕切り部14を介して互いに隣接して形成されている。
【0006】
このように構成したプラズマ噴射ノズル10を用いることにより、プラズマ流路13の終端に近い側のプラズマ出口12aからは、バッテリーセルWの第2の洗浄範囲Cに向かってプラズマを照射することができ、同時に、プラズマ流路13の終端から遠い側のプラズマ出口12bからは、バッテリーセルWの第1の洗浄範囲Cに向かってプラズマを照射することができる。そして、プラズマ噴射ノズル10を回転させつつプラズマを噴射すれば、バッテリーセルWの第1の洗浄範囲C及び第2の洗浄範囲Cの全周に亘り均一にプラズマを照射することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−117213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記構成によるプラズマ噴射ノズル10では、互いに隣接する2つのプラズマ出口12a,12b間の仕切り部14がプラズマ流の衝突により加熱され易い。このため、比較的長期間の使用により両プラズマ出口12a,12b間の仕切り部14に劣化や焼失が生じ、均一にプラズマを照射することができなくなって効率が低下する不都合がある。
【0009】
上記の点に鑑み、本発明は、柱状の対象物品の一端の外周縁部を被洗浄部分としてプラズマを照射するとき、被洗浄部分に対して均一にプラズマを照射することができるだけでなく耐久性の高いプラズマ噴射ノズルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、プラズマにより物品の洗浄を行うプラズマ洗浄装置に設けられ、柱状の対象物品の一端の外周縁部を被洗浄部分としてプラズマを照射するプラズマ噴射ノズルであって、対象物品の被洗浄部分を囲うように突出する突出部と、該突出部の内側面に形成され、該突出部の先端に向かって延びるプラズマ噴射口とを備え、該プラズマ噴射口は、その長手方向先端側の開口寸法が基端側の開口寸法よりも狭く形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明のプラズマ噴射ノズルは、柱状の物品を対象とし、この対象物品の一端の外周縁部を被洗浄部分としている。被洗浄部分とされる対象物品の一端の外周縁部は、対象物品が柱状であることによって、対象物品の一端の外周縁の角部を基点として径方向側と長さ方向側との所定範囲に亘る。
【0012】
本発明によれば、前記突出部の先端に向かって延びるプラズマ噴射口により、プラズマの照射範囲が柱状の対象物品の長さ方向に沿って長く形成される。しかし、プラズマ噴射口をこのように形成しただけでは、柱状の対象物品の前記被洗浄部分に対してプラズマの照射量に偏りが生じる。
【0013】
即ち、対象物品の一端の外周縁の角部から径方向側の洗浄範囲に対するプラズマの照射量が、対象物品の一端の外周縁の角部から長さ方向側の洗浄範囲に対するプラズマの照射量よりも少なくなる。これは、プラズマ噴射口から噴射されるプラズマの放射領域に入る前記被洗浄部分の面積が、対象物品の一端の外周縁の角部を基点として長さ方向側に比べて径方向側が小となるからであると考えられる。
【0014】
そこで、本発明においては、プラズマ噴射口を、基端側の開口寸法よりも先端側の開口寸法が狭くなるように形成した。これによれば、対象物品の長さ方向に向かって噴射されるプラズマの量を抑制することができると共に、対象物品の径方向に向かって噴射されるプラズマの量を増加させることができ、プラズマ噴射口に沿ったプラズマの照射量の偏りを解消して前記被洗浄部分に均一にプラズマを照射することができる。
【0015】
こうすることにより、従来のようにプラズマ出口を2つ設けなくても柱状の対象物品の前記被洗浄部分にプラズマを確実に照射することができる。そして、従来のようにプラズマ出口を2つ設けたことによる仕切り部も形成されないので、劣化や焼失が生じる部分をなくして耐久性を向上させることができる。
【0016】
ところで、プラズマ噴射口を、基端側の開口寸法よりも先端側の開口寸法が狭くなるように形成すると、開口寸法が変化する境界位置に段差が形成され、この段差に接するプラズマ流により段差部分が損傷することが考えられる。そこで、本発明において、前記プラズマ噴射口は、その長手方向先端に向かって開口寸法が次第に狭くなる三角形状に開口形成されていることが好ましい。こうすることにより、開口寸法が変化する境界部分に、プラズマ流によって損傷するおそれのある段差部分が形成されないので、確実に耐久性を向上させることができる。
【0017】
また、本発明において、前記プラズマ噴射口は、プラズマの照射方向に向かって次第に拡開する傾斜面を備えることが好ましい。プラズマ噴射口を通過したプラズマ流は、放射状に広がりながら対象物品の被洗浄部分へ向かう。この際、プラズマ流の広がりにより、プラズマ噴射口の終端角部が損傷することが考えられる。そこで、前記傾斜面を設けることにより、プラズマ噴射口の終端角部が比較的鈍角になり、しかも、傾斜面により円滑にプラズマ流を案内できるので、プラズマ噴射口の終端角部の損傷が抑制でき、一層確実に耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態のプラズマ噴射ノズルを示す斜視図。
【図2】本実施形態のプラズマ噴射ノズルの断面説明図。
【図3】対象物品であるバッテリセルを示す斜視図。
【図4】従来のプラズマ噴射ノズルを示す斜視図。
【図5】従来のプラズマ噴射ノズルの断面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態のプラズマ噴射ノズル1は、図外のプラズマ洗浄装置に取り付けられる。プラズマ洗浄装置は周知のものが用いられており、図示しないが、反応ガスと高周波電力とを用いてプラズマを発生させるプラズマ生成部と、このプラズマ生成部で生成したプラズマをガス流により搬送して送り出す回転自在のノズル取付部とを備え、更に、ノズル取付部を回転駆動する回転駆動手段を備えている。
【0020】
プラズマ噴射ノズル1は、図1及び図2に示すように、円盤状の基部2と、該基部2の外周端部に沿って突出する環状の突出部3とを備えている。なお、符号4で示す孔は、プラズマ洗浄装置のノズル取付部にねじ止めするためのねじ孔である。
【0021】
該突出部3によって包囲形成される凹部5は、後述する対象物品としてのバッテリーセルW(図3参照)の一端に対向される。このため、突出部3は、バッテリーセルWの一端を空隙を存して囲うように形成される。
【0022】
ここで、図3に示されたバッテリーセルWは、円柱状に形成された胴部Wと、胴部Wの両端に設けられた電極端面Wとによって構成されている。更に、バッテリーセルWは、合成樹脂製(例えばポリオレフィン系樹脂)の被覆部材Fにより被覆され、電極端面Wの中央部分のみが露出している。
【0023】
バッテリーセルWは複数配列され、被覆部材Fから露出する電極端面Wが接続部材(図示せず)を介して電気的に接続されることにより図示しないバッテリを構成する。この際、バッテリーセルWと接続部材との間やその外面にはポッティング材(図示せず)が設けられるが、ポッティング材と被覆部材Fとを確実に接着するために、前記プラズマ洗浄装置によりプラズマを照射して有機物等の除去や改質を行う。
【0024】
バッテリーセルWには、被洗浄部分としてプラズマを照射する範囲が設定される。即ち、被洗浄部分は、バッテリーセルWの一端の外周縁の角部Wから電極端面Wの径方向の所定位置までの間に設定された第1の洗浄範囲Cと、角部Wから胴部Wの外周面の軸線方向(長さ方向)の所定位置までの間に設定された第2の洗浄範囲Cとからなり、バッテリーセルWの一端の全周に亘って設定されている。第1の洗浄範囲Cと第2の洗浄範囲Cとからなる被洗浄部分は、本発明における柱状の対象物品の一端の外周縁部に相当する。
【0025】
次に、プラズマ噴射ノズル1の各部について説明する。図1に示すように、前記突出部3の内面側には、突出部3の周方向に所定間隔を存して複数のプラズマ噴射口6が設けられている。
【0026】
各プラズマ噴射口6は、図2に示すように、突出部3に穿設されたプラズマ流路7の終端に連通して形成されている。プラズマ噴射口6は、突出部3の基端から先端に向かって延びるスリット状に形成されている。更に、プラズマ噴射口6は、その長手方向先端側6aの開口寸法が基端側6bの開口寸法よりも狭く形成されている。具体的には、プラズマ噴射口6は、その長手方向先端に向かって次第に狭くなる三角形状に開口形成されている。また、プラズマ噴射口6には、プラズマの照射方向に向かって次第に拡開する傾斜面8が形成されている。
【0027】
以上の構成によるプラズマ噴射ノズル1を、プラズマ洗浄装置の回転するノズル取付部に取り付けて用いることにより、プラズマ噴射口6から噴出されたプラズマが、バッテリーセルWの被洗浄部分の全周に照射される。プラズマ噴射口6は、突出部3の基端から先端に向かって延びるスリット状に形成されている。これにより、プラズマ噴射口6の基端側6bから噴出するプラズマ流が第1の洗浄範囲Cに当たり、プラズマ噴射口6の先端側6aから噴出するプラズマ流が第2の洗浄範囲Cに当たるので、両範囲に亘ってプラズマ流を当てることができる。
【0028】
更に、プラズマ噴射口6の先端側6aは基端側6bの開口寸法よりも狭いので、第2の洗浄範囲Cに当たる過剰なプラズマの量を抑制することができると共に、第1の洗浄範囲Cに当たるプラズマの量を十分に得ることができる。
【0029】
これにより、従来のようにプラズマ噴射口6に第1の洗浄範囲C用と第2の洗浄範囲C用との2つのプラズマ出口を設けることなく、第1の洗浄範囲Cから第2の洗浄範囲Cに亘る被洗浄部分に偏りなく均一にプラズマを照射することができる。
【0030】
そして、プラズマ噴射ノズル1は、従来のように2つのプラズマ出口を仕切るための仕切り部が形成されないので、プラズマの衝突による劣化や焼失が生じる部分をなくして耐久性を向上させることができる。
【0031】
また、プラズマ噴射口6を、前述したように先端に向かって次第に狭くなる三角形状に形成したことにより、プラズマ噴射口6の基端側6bから先端側6aにかけて、開口寸法の変化に伴う段差部分が形成されず、プラズマ流に接触して損傷する部分がないので、高い耐久性が維持できる。
【0032】
更に、プラズマ噴射口6に傾斜面8が形成されていることにより、プラズマ噴射口6の終端角部6cが比較的鈍角になり、傾斜面8がプラズマ流を円滑に案内できるので、プラズマ噴射口6の終端角部6cの損傷が抑制でき、一層高い耐久性を得ることができる。
【0033】
なお、本実施形態におけるプラズマ噴射ノズル1は、突出部3の周方向に所定間隔を存して複数のプラズマ噴射口6を備えているが、プラズマ洗浄装置の回転するノズル取付部に取り付けて用いられることにより、プラズマ噴射口6は単一でもよい。
【0034】
また、本実施形態におけるプラズマ噴射口6は、その長手方向先端に向かって次第に狭くなる三角形状に形成されているが、プラズマ流が比較的弱い場合には、基端側6bから先端側6aにかけて開口寸法を段階的に狭くなる形状に形成してもよい。これによるとプラズマ噴射口6に開口寸法の変化に伴う段差が形成されるが、プラズマ流が比較的弱ければ、段差部分の損傷も少ない。また、開口寸法を複数段に変化させることにより、段差部分も小さくなり、プラズマ流による損傷を可及的に防止することができる。
【0035】
また、本実施形態においては、プラズマ噴射口6に前記傾斜面8が形成されているものを示したが、プラズマ流が比較的弱くプラズマ噴射口6の終端角部6cの損傷が少ない場合には前記傾斜面8を設けなくてもよい。
【符号の説明】
【0036】
W…バッテリーセル(対象物品)、C…第1の洗浄範囲(被洗浄部分)、C…第2の洗浄範囲(被洗浄部分)、1…プラズマ噴射ノズル、3…突出部、6…プラズマ噴射口、8…傾斜面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマにより物品の洗浄を行うプラズマ洗浄装置に設けられ、柱状の対象物品の一端の外周縁部を被洗浄部分としてプラズマを照射するプラズマ噴射ノズルであって、
対象物品の被洗浄部分を囲うように突出する突出部と、該突出部の内側面に形成され、該突出部の先端に向かって延びるプラズマ噴射口とを備え、
該プラズマ噴射口は、その長手方向先端側の開口寸法が基端側の開口寸法よりも狭く形成されていることを特徴とするプラズマ噴射ノズル。
【請求項2】
前記プラズマ噴射口は、その長手方向先端に向かって開口寸法が次第に狭くなる三角形状に形成されていることを特徴とする請求項1記載のプラズマ噴射ノズル。
【請求項3】
前記プラズマ噴射口は、プラズマの照射方向に向かって次第に拡開する傾斜面を備えることを特徴とする請求項1又は2記載のプラズマ噴射ノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−227908(P2010−227908A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81392(P2009−81392)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】