説明

プラズマ滅菌装置

【課題】
滅菌対象物の配置の有無に関わらずプラズマ発生を継続することができ、滅菌対象物の毒性を不活化する高度な滅菌能力を有するプラズマ滅菌装置の提供を目的とする。
【解決手段】
プラズマ滅菌装置は、滅菌対象物100を収納する収納手段としてのガラス管1と、このガラス管1の内部に蛇行状に屈曲形成される線状体を配置して形成される電極2と、この電極2に商用周波数以上の高周波電流を供給し、この高周波電流により滅菌対象物100に高電界を発生させる高周波供給部3と、このガラス管1の中空部に酸素ガスを供給する原料ガス供給手段としての酸素ガス供給装置4と、このガラス管1の内部を減圧する減圧装置5と、前記収納手段の内部に配設され、滅菌対象物100を戴置する導電性材で形成され、接地して形成される戴置手段としての戴置棚6とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電プラズマを利用して、被処理物を滅菌するプラズマ滅菌装置に関し、特に有毒かつ難分解性の多糖類の被処理物をプラズマ中の活性酸素種により滅菌して不活化するプラズマ滅菌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、医療用滅菌方法としてEOG、ホルマリン及びグルタールアルデヒドを用いた滅菌が実用化されている。グラム陰性菌、例えば、大腸菌を殺菌する場合には、細胞壁が完全に分解されず、細胞壁を構成するエンドトキシンが遊離することがある。エンドトキシンは、内毒素とも呼ばれ、動物に対して過剰な免疫活性を引き起こすため、ショック症状(エンドトキシンショック)を引き起こす虞も有る。このため、エンドトキシン及び異常プリオンをはじめとする毒素に対する確実で効率的な滅菌法の確立が強く求められている。
【0003】
当該滅菌に高エネルギーのプラズマを利用することも検討されている。しかし、プラズマを用いた滅菌法は、検討段階であり、未だ実用化に至っていないというのが現状である。
【0004】
従来のプラズマ滅菌装置は、電極対への電気パルスの印加によって発生したパルス電界と、当該印加によって発生したファインストリーマ放電に起因して窒素雰囲気中に発生したプラズマに含まれる窒素ラジカルと、ファインストリーマ放電に起因して窒素雰囲気が発する短波長紫外線とを毒素に作用させることにより、毒素を窒化および酸化し、処理対象物の表面から毒素を散逸させる技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−178679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来のプラズマ滅菌装置は、放電ギャップ(電極間距離)の制約から、当該制約に収まる滅菌対象物のみしか電極間に挿入できないという課題を有する。また、従来のプラズマ滅菌装置は、仮に放電領域に滅菌対象物を挿入できた場合にも、滅菌対象物により放電経路が遮断され、放電が停止してプラズマ発生を維持できず、滅菌処理が行えないという課題を有する。
【0007】
本発明は前記課題を解消するためになされたもので、滅菌対象物の配置の有無に関わらずプラズマ発生を継続することができ、滅菌対象物の毒性を不活化する高度な滅菌能力を備え、微生物(細菌等)が死滅するだけではなく、微生物を構成するタンパク質、多糖類、糖タンパク質までも分解可能なプラズマ滅菌装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願に開示するプラズマ滅菌装置は、滅菌対象物を収納手段に収納し、当該収納手段にプラズマにより生成される活性酸素種を供給して当該滅菌対象物を滅菌するプラズマ滅菌装置において、前記収納手段の近傍もしくは内部に蛇行状に屈曲形成される線状体を配置して形成される電極と、前記電極に商用周波数以上の高周波電流を供給し、当該高周波電流により前記滅菌対象物に高電界を発生させる高周波供給部と、少なくとも前記収納手段の中空部に酸素もしくは空気を含む気体からなる原料ガスを供給する原料ガス供給手段と、前記収納手段の内部を減圧する減圧手段とを備え、前記減圧手段により減圧された前記収納手段の前記電極近傍の中空部において放電によりプラズマを生成させ、前記屈曲形成された線状体に対向配設された滅菌対象物に対して前記電極近傍で発生させた活性酸素種を照射するものである。
【0009】
このように、本願に開示するプラズマ滅菌装置によれば、電極が滅菌対象物を収納された収納手段の近傍もしくは内部に蛇行状に屈曲形成される線状体を配置して形成され、高周波電流を供給され、高周波供給部が当該高周波電流により滅菌対象物に高電界を発生させ、減圧手段により減圧された収納手段の中空部に原料ガス供給手段が酸素もしくは空気を含む気体からなる原料ガスを供給することから、高周波電流を供給された電極から前記収納手段の対向配設された滅菌対象物の方向へ加重的な誘導磁場が生じることとなり、前記加重的磁場で加速された電子もしくはイオンと酸素分子との衝突により生じた活性酸素種により前記収納手段の内部に戴置された滅菌対象物を効率的に滅菌することができる。 また、従来技術のように滅菌対象物が前記収納手段に存在することでプラズマ発生が妨害されることなく、滅菌対象物を確実に滅菌することができる。
【0010】
また、本願に開示するプラズマ滅菌装置は、前記収納手段が、中空筒状体で形成され、 前記電極が、屈曲形成される線状体を中空筒状体の長手方向に平行に且つ当該中空筒状体の内側全周に亘り配設して形成されるものである。このように、本願に開示するプラズマ滅菌装置によれば、前記収納手段が、中空筒状体で形成され、前記電極が、屈曲形成される線状体を中空筒状の長手方向に平行に配設して形成されることから、高周波電流を供給された電極から全周に亘って前記収納手段の中心方向に加重的な誘導磁場が生じることとなり、前記加重的磁場で加速された電子もしくはイオンと酸素分子との衝突により生じた活性酸素種が前記収納手段の内部に戴置された滅菌対象物へ到達し、三次元的な全面に対して効率的に滅菌することができる。
【0011】
また、本願に開示するプラズマ滅菌装置は、前記収納手段の内部に配設され、前記滅菌対象物を戴置する導電性材で形成され、接地して形成される戴置手段を備えるものである。このように、本願に開示するプラズマ滅菌装置によれば、前記収納手段の内部に配設され、前記滅菌対象物を戴置する導電性材で形成され、接地して形成される戴置手段を備えることから、プラズマにより生成された電子またはイオンにより戴置手段が帯電することを防止できることとなり、当該帯電による電子またはイオンの減速を防止して活性酸素の生成量が維持されることにより高い滅菌能力を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るプラズマ滅菌装置の構成図
【図2】本発明の第1の実施形態に係るプラズマ滅菌装置の電極の配置図
【図3】本発明の第1の実施形態に係るプラズマ滅菌装置のガラス管の断面図
【図4】本発明の第1の実施形態に係るプラズマ滅菌装置の実験結果
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(第1の実施形態)
以下、第1の実施形態に係るプラズマ滅菌装置を、図1から図4に基づいて説明する。
この図1は本発明の第1の実施形態に係るプラズマ滅菌装置の構成図、図2は図1に記載されたプラズマ滅菌装置の電極の配置図、図3は図1に記載されたプラズマ滅菌装置のガラス管の断面図、図4は図1に記載されたプラズマ滅菌装置の実験結果を示す。
図1において、本実施形態に係るプラズマ滅菌装置は、滅菌対象物100を収納する収納手段としてのガラス管1と、このガラス管1の内部に蛇行状に屈曲形成される線状体を配置して形成される電極2と、この電極2に商用周波数以上の高周波電流を供給し、この高周波電流により滅菌対象物100に高電界を発生させる高周波供給部3と、このガラス管1の中空部に酸素ガスを供給する原料ガス供給手段としての酸素ガス供給装置4と、酸素ガスのバルブ41と、このガラス管1の内部を減圧する減圧装置5と、この減圧装置5の減圧量を操作するバルブ51と、このガラス管1の内部に配設され、滅菌対象物100を戴置する導電性材で形成され、接地して形成される戴置手段としての戴置棚6とを備える構成である。
【0014】
このガラス管1は、中空筒状体として円柱状に形成され、例えば、直径200mm、全長450mmとすることができる。また、この電極2は、図2(a)に示すように、屈曲形成される線状体を中空筒状の長手方向に平行に等間隔Lで往復させて配設して形成される。ここで、電極2a及び電極2bは、電流方向の異なる電極を示す。また、この高周波供給部3は、交流電源により数十MHzから1GHzの範囲で設定することができる。
【0015】
また、このガラス管1の内部に導入する気体としては、プラズマにより活性酸素種を発生させるものであれば、酸素ガスに限定されるものではなく、例えば空気を使用することもでき、この場合には、身近に存在する気体であるため費用面において有利となる。また、酸素分子を含む気体、例えば、酸素ガス及び空気から生成される活性酸素種による滅菌は、他の活性酸素種、例えば、水酸化ラジカルとは異なり、滅菌残渣物が無害なために取扱いが容易であるという利点も有する。また、この活性酸素種による滅菌は、他の活性酸素種、例えば、窒素ラジカルとは異なり、物理的のみならず化学的に滅菌対象物100を分解することとなり、滅菌対象物を損傷することなく高い滅菌能力を発揮するという利点も有する。また、前記コイル電極2の素材にはステンレスまたは銅で構成されることが望ましい。
【0016】
以下、前記構成に基づく本実施形態の具体的な滅菌動作について説明する。
本実施形態は、まず前記滅菌対象物100を前記ガラス管1の内部の前記戴置棚6に戴置し、前記ガラス管1を密閉する。次に、前記バルブ51の操作により前記減圧装置5を用いて前記ガラス管1の内部を減圧し、前記バルブ41を開放して前記酸素ガス供給装置4から適当な流量で前記供給孔4bを経由して酸素ガス62を前記ガラス管1に導入する。
【0017】
次に、前記電極2に、工業的に通常使用される帯域の高周波(13.56MHz)又はマイクロ波(2.45GHz)を印加する。前記電極2は、この印加により当該前記電極2の近傍にプラズマを生成し、前記ガラス管1内に電子と酸素分子との衝突により活性酸素種及びイオンを生成する。この活性酸素種は、菌を構成する蛋白質、糖質、脂質に対する強い酸化作用を有しており、この酸化作用により菌を分解して死滅させることができる。
【0018】
次に、加速されたイオンと酸素分子との二次的な電荷交換衝突により生じた活性酸素種が前記ガラス管1の内部に戴置された滅菌対象物100に衝突する。このように、活性酸素種は、滅菌対象物100に対して複数の方向から加速されて衝突することから、この加速により活性酸素種が化学的滅菌作用に加えて物理的エネルギーを具備することとなり、滅菌対象物100に対する滅菌能力が向上し、活性酸素種のみでは困難とされるエンドトキシンのような有毒かつ難分解性の滅菌対象物100の毒性を不活化することができる。
【0019】
また、この電極2は、図2(b)及び図3に示すように、中空筒状の長手方向に平行に等間隔Lで往復されることから、前記電極2の近傍に効率的に加重された強い磁場Mを発生し、イオンの加速度を高めて電荷交換衝突により生じる活性酸素種の運動エネルギーを増大させることとなり、活性酸素種の滅菌能力を向上させることができる。また、滅菌対象物100は、放電を発生させる両極間には戴置されないことから、滅菌対象物100による放電の弱体化を防止し、プラズマ発生能力を維持することができる。
【0020】
また、滅菌対象物100を戴置する前記ガラス管1が直径200mm、全長450mmの大きさを有することから、滅菌対象物100を戴置する十分な空間が得られることとなり、実務的な滅菌対象物100の大きさに依存することなく滅菌を行うことができる。なお、前記ガラス管1は、直径400mm、全長600mmのガラス管を使用することもでき、この場合には、さらに大きな滅菌対象物100を戴置することができることとなり、産業的な実用化に対して有益である。また、前記戴置棚6が、導電性材で形成され、接地して形成されることから、プラズマにより生成されたイオンが戴置手段に帯電することを防止できることとなり、この帯電によるイオンの減速を防止して活性酸素の生成量が維持されることにより高い滅菌能力を維持することができる。このように、本発明は、従来では実施が困難であった低気圧条件下での大体積のプラズマ処理を可能とすることとなり、滅菌量の向上によりプラズマ滅菌処理の実用化を図ることができる。
【0021】
なお、本実施形態では、滅菌対象物100を収納する収納手段として、前記ガラス管1を用いたが、この代用としてステンレス製の金属管を接地して使用することも可能である。このように、ステンレス製の金属管を接地して使用することにより、放電領域を当該金属管と前記電極2との間に限定することが可能となり、滅菌対象物100による放電の弱体化を完全に防止できる。また、滅菌対象物100としては、上記のエンドトキシンに限定されず、タンパク質、ムコ多糖、糖タンパク質を滅菌対象とすることができる。
【0022】
(実施例)
以下の条件で実験を行い、図4に示す結果を得た。図中において、曲線Aは、本発明のプラズマ滅菌装置による実験結果を示し、曲線B及び曲線Cは、従来のプラズマ滅菌装置による実験結果を比較例として示す。この曲線Bは、従来の過酸化水素ガスプラズマ滅菌装置による実験結果であり、この曲線Cは、従来のエチレンオキサイドガスプラズマ滅菌装置による実験結果である。なお、分解対象物はエンドトキシンの代替物質であるベータグルカンを用い、分解の確認は、赤外吸光光度計にて実施した。具体的には、赤外吸光スペクトルにて波長2925cm-1におけるCH結合のピーク高さの変化(減少)に基づいて、分解対象物であるベータグルカンの分解を確認した。これは、多糖類であるベータグルカンが分解されることに伴い、ベータグルカンを構成するCH結合の量が減少することを利用している。
【0023】
1.プラズマ:低気圧容量結合型プラズマ
2.放電方式:高周波グロー放電
3.収納手段内圧力:70Pa
4.プラズマ生成電源:高周波電源(13.56MHz)
5.プラズマ生成電力:50W
6.原料ガス:酸素(98%)と窒素(2%)の混合ガス
7.滅菌対象物:酵母由来ベータグルカン(5mg/cm2
【0024】
この実験結果から、従来のプラズマ滅菌装置が高々約75%の分解率に留まるのに対して、本発明のプラズマ滅菌装置は、分解率が90%を越えており、従来と比較して1.2倍以上の分解能を有することが確認された。なお、曲線Bは、過酸化水素ガスプラズマ滅菌装置の滅菌処理による機材(装置)の耐性限界により、処理時間は80分までが限界であった。また、同様に、曲線Cは、エチレンオキサイドガスプラズマ滅菌装置の滅菌処理による機材(装置)の耐性限界により、処理時間は180分までが限界であった。
【0025】
この実験結果から、本プラズマ滅菌装置は、処理時間が約250分を経過した時点で、この分解率が90%まで達するという高い分解能を確認することができた。プラズマ滅菌装置は、一般的に、表面処理により滅菌を行う装置であり、また、実用時の分解対象物(エンドトキシン、ベータグルカン等)の濃度は、1cm2あたりナノグラムからマイクログラムのオーダーであることから、本実験結果の5mg/cm2もの高濃度のベータグルカンに対して90%の分解率を示したことにより、実用時には、分解率が90%以上でほぼ100%に達するものと考えられる。なお、本プラズマ滅菌装置は、エンドトキシンの代替物質であるベータグルカンを分解対象物としたが、同様な代替物質であるケラチンを分解対象物とすることもできる。
【符号の説明】
【0026】
1 ガラス管
2 電極
2a、2b 電極
3 高周波供給部
4 酸素ガス供給装置
41 バルブ
5 減圧装置
51 バルブ
6 戴置棚
100 滅菌対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
滅菌対象物を収納手段に収納し、当該収納手段にプラズマにより生成される活性酸素種を供給して当該滅菌対象物を滅菌するプラズマ滅菌装置において、
前記収納手段の近傍もしくは内部に蛇行状に屈曲形成される線状体を配置して形成される電極と、
前記電極に商用周波数以上の高周波電流を供給し、当該高周波電流により前記収納手段の中空部に高電界を発生させる高周波供給部と、
少なくとも前記収納手段の中空部に酸素もしくは空気を含む気体からなる原料ガスを供給する原料ガス供給手段と、
前記収納手段の内部を減圧する減圧手段とを備え、
前記減圧手段により減圧された前記収納手段の前記電極近傍の中空部において放電によりプラズマを生成させ、前記屈曲形成された線状体に対向配設された滅菌対象物に対してプラズマにより生成される活性酸素種を照射することを特徴とする
プラズマ滅菌装置。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマ滅菌装置において、
前記収納手段が、中空筒状体で形成され、
前記電極が、屈曲形成される線状体を中空筒状体の長手方向に平行に且つ当該中空筒状体の内側全周に亘り配設して形成されることを特徴とする
プラズマ滅菌装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のプラズマ滅菌装置において、
前記収納手段の内部に配設され、前記滅菌対象物を戴置する導電性材で形成され、接地して形成される戴置手段を備えることを特徴とする
プラズマ滅菌装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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