説明

プラズマ滅菌装置

【課題】プラズマ生成効率が高いプラズマ滅菌装置を提供する。
【解決手段】高周波電極2と、アース電極3と、誘電体1とを備え、高周波電極2とアース電極3との間でプラズマを生成するプラズマ発生モジュールを備えたプラズマ滅菌装置において、アース電極3と誘電体1との間に、誘電体1の誘電率よりも低い誘電率を有する絶縁スペーサ6を配置する。これにより、誘電体1内部の電界に比して外部の電界を増やすことができ無効電力が低減され、プラズマの生成効率が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中に存在する浮遊菌(以下、空中浮遊菌)を不活性化させるプラズマ滅菌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人工的に培養した細胞や組織を使用して、損傷した皮膚、角膜、臓器などを再生し、患者の機能回復を図る再生医療の実現に期待が高まっている。対象疾患の患者数は角膜再生だけを取り上げても年間2万人と予想されており、技術の実用化が待ち望まれている。今後製薬企業の参画も顕在化し、再生医療は新たな医療産業に成長することが予想される。
【0003】
再生医療の臨床研究には、無菌操作が行えるバイオクリーンルーム(以下、BCR)が必須であり、BCR内の室内環境を維持するための滅菌技術の確立が重要課題となっている。従来のBCR内の滅菌法としては、ホルマリンを室内に薫蒸させて室内全体を滅菌する方法が一般的であったが、ホルマリン自体に発がん性が指摘されるなど人体に有害であることから、使用が禁止される方向にある。このため、ホルマリンに代わる滅菌技術としてオゾンを用いることが提案されている。オゾン発生技術に関しては、例えば、特許文献1や2に、オゾンを用いた殺菌法については、例えば、特許文献3〜5に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−242404号公報
【特許文献2】特開2003−323964号公報
【特許文献3】特開2007−159821号公報
【特許文献4】特開2005−211095号公報
【特許文献5】特開2008−289801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
BCR内の滅菌においては、空中浮遊菌を滅菌することで、室内のクリーン度を向上することが重要となる。BCR内の空中浮遊菌の新しい滅菌法を検討するために、医療現場または医療関連メーカにおいて一般的に用いられている滅菌方法を調査すると、下記に大別される。
1)HEPAフィルタなどによる濾過法
2)放射線(γ線など)、紫外線(波長254nm)、電子線などによる照射滅菌法
3)エチレンオキサイドガス、過酸化水素などによるガス滅菌法
上記の通り、様々な滅菌方法が存在するが、上記滅菌方法をBCR内の空中浮遊菌滅菌に適用することは困難と考えられる。例えば、濾過法は通過する浮遊菌を完全に捕獲することは難しく、また捕獲した菌をフィルタ内で完全に滅菌することが困難であることから、時間の経過によりフィルタ内の菌が再度空気中に飛散する恐れがある。照射滅菌法に関しては、滅菌力が弱く、滅菌対象菌に数十分〜数時間の照射が必要であり、処理時間が問題となる。ガス滅菌に関しては、ホルマリンと同様に人体に有害であることや、ガス脱気に数時間〜1日が必要となることから、使用を避ける傾向にある。このような背景のもと、有害な物質を用いず、低温かつ高速に処理が可能な新しい滅菌法としてプラズマを用いた滅菌法が提案されている。
【0006】
そこで先ず、滅菌目的に限らず、オゾン等を生成するプラズマ発生モジュールについて調べた結果、高周波電極とアース電極の双方を誘電体で覆った誘電体バリア方式のプラズマ発生モジュールが一般的に知られていることが分かった。本技術はPDP(プラズマディスプレイパネル)などにも使用され、大気圧中において低温のプラズマを比較的容易に得ることができる構造として様々な用途に用いられている。しかしながら、本構成では、プラズマ生成に寄与しない無効な電力(以下、無効電力)が多く、省エネ化が困難であると考えられる。
【0007】
特許文献1には、高周波電極のみを誘電体で覆い、その直上にアース電極を設置した構造が示されている。これにより、プラズマ生成空間(以下、空間)に強い電気力線が通り、空間上の電界強度が向上してプラズマを効率良く生成できると思われる。更に、特許文献2や5には、誘電体を挟んで高周波電極とアース電極を設置し、かつ高周波電極とアース電極の間に放電ギャップを設けており、特許文献1よりも誘電体内を通過する無効電力が低減され、空間上の電界強度が高まるため、プラズマの生成効率が高いと思われる。しかし、上記特許文献1、又は2や5においても、空間上の電界強度を高めるために、使用する誘電体は誘電率の高いものを選択する必要があり、原理的に誘電体内には無効電流が流れ、無効電力が発生する。このため、プラズマ生成効率向上に向けて、更なる検討の余地があると考えられる。
【0008】
また、特許文献3、4には、オゾンを用いて滅菌を行う際には、滅菌中の菌の温度を高めることで滅菌効果が向上することが示されている。上記特許文献では、プラズマ等によりオゾンを生成し、オゾンを供給したチャンバ内を温調することで菌を加熱し、高速に滅菌する方法が示されている。しかしながら、オゾンを用いたチャンバ内加熱では不十分であり、更なる検討の余地があると考えられる。
【0009】
本発明の目的は、プラズマ生成効率が高いプラズマ滅菌装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための一実施形態として、第1及び第2の電極と、前記第1及び第2の電極の間に配置された第1の誘電体層と前記第1の電極と前記第1の誘電体層との間に配置され、前記第1の誘電体よりも誘電率の低い誘電率を有する絶縁スペーサとを有することを特徴とするプラズマ滅菌装置とする。
【0011】
また、第1及び第2の電極と、前記第1及び第2の電極の間に配置された第1の誘電体層と、前記第1の電極と前記第1の誘電体層との間に配置され、前記第1の誘電体よりも誘電率の低い誘電率を有する絶縁スペーサとを有するプラズマ発生部と、処理対象菌を含む流体を前記プラズマ発生部で発生するプラズマ領域に導く流路とを有し、前記流路は、前記プラズマ領域の上流側において、前記流体が前記プラズマ発生部を冷却するように配置されることを特徴とするプラズマ滅菌装置とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、プラズマ発生モジュールのアース電極と誘電体の間に前記誘電体の誘電率よりも低誘電率の絶縁スペーサを設けることで、無効電力を低減し、プラズマの生成効率が高いプラズマ滅菌装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来のプラズマ生成モジュールの構成を示す模式図である。
【図2】プラズマ生成モジュールの放電特性を示す説明図である。
【図3】第1の実施例に係るプラズマ滅菌装置のプラズマ生成モジュールの構成を示す模式図である。
【図4】第1の実施例に係るプラズマ滅菌装置のプラズマ生成モジュールのその他の構成を示す模式図である。
【図5】酸素ラジカルの滅菌メカニズムを示す説明図である。
【図6】酸素ラジカルの滅菌効果を示す説明図である。
【図7】第2の実施例に係るプラズマ滅菌装置の構成を示す模式図である。
【図8】第2の実施例に係るプラズマ滅菌装置の滅菌粒子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
従来のプラズマ滅菌装置について検討した結果、プラズマ生成用に印加された電圧は、高周波印加用電極とアース電極との間に設けられている誘電体内部で電界強度が高く、プラズマ生成に寄与する誘電体外部の電界が弱いこと、プラズマ生成効率を高めるためには誘電体外部の電界強度を高める必要のあることが分かった。これを実現する方法について検討した結果、アース電極と誘電体との間に、先の誘電体よりも誘電率の低い第二の誘電体(絶縁体スペーサ)を設置すればよいことに思い至った。本発明は上記知見に基づいて生まれたものである。
以下、実施例により詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
本発明の第一の実施例について、従来のプラズマ発生モジュールの検討結果を含めて下記に示す。
【0016】
図1は従来のプラズマ発生モジュールの構成を示す模式図である。オゾン等の滅菌粒子を生成するプラズマ発生モジュールにおいて、図1(a)に示すような、高周波電極2とアース電極3の双方を誘電体1で覆った誘電体バリア方式の構造(タイプ1)が一般的に知られている。タイプ1はPDP(プラズマディスプレイパネル)などにも使用され、大気圧中において低温のプラズマを比較的容易に得るための構造として様々な用途に用いられている。
【0017】
図1(a)に示すタイプ1では、高周波電極2とアース電極3の距離が最も近い部分、すなわち強い電気力線10が通り、電界強度が高くなる領域が誘電体1内に存在する。このため、誘電体1内を通過する無効電力が高くなる。一方、プラズマは誘電体1を介して空間上に漏れ出た電界によって生成される。このため、タイプ1は構造的にプラズマの生成効率が低い。ここで、符号4は基板、符号5は高周波電源、符号50はプラズマ発生部、符号60は放電ギャップを示す。なお、同一符号は同一の構成を示す。
【0018】
図1(b)は高周波電極2のみを誘電体1で覆い、その直上にアース電極3を設置した構造(タイプ2)を示している。タイプ2は、空間上に強い電気力線10が通り、空間上の電界強度が向上するため、タイプ1に比べて無効電力を減らして効率良くプラズマを生成できる。ただし、タイプ1と同様に電界強度が最も高くなる領域が誘電体1内に存在することから、プラズマの生成効率は十分とは言えない。
【0019】
図1(c)は誘電体1を挟んで高周波電極2とアース電極3を備え、かつ高周波電極2とアース電極3の間に放電ギャップを設けた構造(タイプ3)を示している。本構造により、電界強度が最も高くなる領域が空間上に存在することとなり、タイプ2よりも更に無効電力を減らし、空間上の電界強度を高めることができ、プラズマを効率良く生成できる。
【0020】
図2はプラズマ発生モジュールの放電特性を示す説明図である。図2(a)は放電特性を測定するための装置構成を示している。直流(以下、DC)電源からトランス付インバータにDC電力を給電し、トランス付インバータで昇圧した高周波電圧Vppをプラズマ発生モジュールの高周波電極2側に供給する。この時のDC電源のDC電流と電圧、および高周波電圧Vppを測定する。
【0021】
図2(b)はタイプ1構造の放電特性を示す。タイプ1の詳細構造は、放電ギャップが100[μm]、誘電体1の膜厚が20[μm]、誘電体1はソーダガラスであり、比誘電率はε=8である。DC電圧の増加と共に高周波電圧Vppが上昇し、Vppが3000[V]を超えたところで放電が開始する。放電開始以前に流れたDC電流はB領域(0.13[A])であり。この分が無効電力となる。なお、A領域はプラズマ自体に投入された電力を示す。
【0022】
図2(c)はタイプ3構造の放電特性を示す。タイプ3の詳細構造は、放電ギャップが100[μm]、誘電体1の膜厚が100[μm]、誘電体1の比誘電率が8である。誘電体膜の耐電圧を高めるため、タイプ1よりも誘電体膜を厚くしているが、Vppが2100[V]程度で放電が開始する。タイプ1に比べて空間上の電界強度が高くなる構造のため、低い高周波電圧Vppでもプラズマが生成される。また、放電開始前の無効電力は0.05[A]であり、タイプ1より少ないことがわかる。
【0023】
図3は本実施例に係るプラズマ滅菌装置のプラズマ生成モジュールの構成を示す模式図である。図3(a)は本実施例の第一の構造を示す。誘電体1とアース電極3の間に、低誘電率を有する絶縁スペーサ6を設けている。高周波電源5の周波数としては10kHz〜100kHzを用いることができる。これにより、誘電体1内を流れる無効電力をタイプ3よりも更に低減させることが可能となり、また、電気力線10が空間上を通りやすくなるため、放電開始電圧も低減できる。絶縁スペーサ6は、アース電極3を誘電体1上に形成する際の接着層としての機能を持たせれば、無効電力の抑制ならびに製作の簡易化の両方につながる。一例としては、有機系材料から成る両面テープなどを用いればよい。なお、絶縁スペーサ6の具体的な材料や厚さはプラズマエッチング条件(エッチング用ガスや温度、圧力等)やエッチング耐性を考慮して決める。大気中プラズマではスパッタがないため有機材料を用いることができる。また、両面テープではなく、低誘電率誘電体層と電極材料層との積層膜を形成後、パターニングしてもよい。
【0024】
図3(b)は本実施例の第二の構造を示す。絶縁スペーサ6の幅を狭くして設置した構造により、誘電体膜内を介して高周波電極2とアース電極3の間を流れる無効電力を更に低減させることができる。また、アース電極3の下面空間領域もプラズマ発生空間として使用することができ、プラズマの生成容積を増加させる効果も期待できる。ただし、絶縁スペーサ6の幅を狭くし過ぎると、アース電極3の設置が安定しないため、絶縁スペーサ6の幅はアース電極3幅の1/2以上あることが望ましい。
【0025】
また、図3(c)に絶縁スペーサ6をタイプ2構造に適用した例を示す。電界強度が最も高くなる領域に絶縁スペーサ6を設置することで、タイプ2よりも無効電力を低減し、プラズマの生成効率を向上することができる。ただし、本実施例の第一、または第二の構造に比べると無効電力は大きくなる。
【0026】
図3(a)〜図3(c)に示す構造のプラズマ生成モジュールを備えたプラズマ滅菌装置を用いてBCR内の空気の殺菌を行なったところ、各構造において従来よりもそれぞれ電力が低減され、プラズマ生成効率をアップすることができた。
【0027】
図4は本実施例のプラズマ生成モジュールのその他の構成を示す模式図である。図4(a)に示す本実施例の第一の構造のA部の詳細について図4(b)、図4(c)を用いて説明する。図4(b)はアース電極3の側面に突起を設置することで突起の先端(電界集中発生部70)で電界集中を発生させ、放電開始電圧を低減させる構造である。また、図4(c)はアース電極3の側面に凸部(電界集中発生部70)を設置することで、図4(b)と同様に電界集中を発生させ、放電開始電圧を低減させる構造である。図4(b)、図4(c)構造の選択は、アース電極3の材質や製作方法を考慮して決定すればよい。なお、両構造とも公知のドライエッチングで形成することができる。
【0028】
図4(b)、図4(c)に示す構造のプラズマ生成モジュールを備えたプラズマ滅菌装置を用いてBCR内の空気の殺菌を行なったところ、図3(a)〜図3(c)の構造よりもそれぞれ更に電力が低減され、プラズマ生成効率をアップすることができた。
【0029】
以上、本実施例によれば、電極と誘電体との間に該誘電体よりも誘電率の低い第2の誘電体を設けることにより、プラズマ生成効率が高いプラズマ滅菌装置を提供することができる。また、電極側面に電界収集発生部を設けることにより、よりプラズマ生成効率を高めることができる。
【実施例2】
【0030】
本発明の第二の実施例を下記に示す。なお、実施例1に記載され本実施例に未記載の事項は特段の事情がない限り本実施例にも適用することができる。本実施例では、図3(a)に示す構成のモジュールを用いた。
【0031】
図5は酸素ラジカルの滅菌メカニズムを示す説明図である。酸素ラジカル22はオゾンよりも酸化作用が強く、滅菌効果が高いことが知られている。プラズマ滅菌に対して最も耐性を持ち、プラズマ滅菌の指標菌である枯草菌(処理対象菌21)(Geobacillus stearothermophilus、ATCC7953)に酸素プラズマより発生した酸素ラジカル22を照射する実験を行った。
【0032】
枯草菌(処理対象菌21)の菌数は10個であり、図5(a)のようにコロニー(塊)80を形成している。故に、枯草菌(処理対象菌21)は酸素ラジカル22により表面層90から徐々に酸化滅菌されていく。
【0033】
図5(b)はプラズマ照射前と酸素プラズマを10分間照射した後の枯草菌(処理対象菌21)をSEM(走査型電子顕微鏡、scanning electron microscope)により観察した結果である。酸素プラズマの照射により、枯草菌(処理対象菌21)の構成要素であるC(炭素)、O(酸素)などの元素が酸素プラズマに含まれる酸素ラジカル22により脱離し、菌径がシュリンクする。上記脱離により枯草菌(処理対象菌21)の細胞壁が破壊され、枯草菌(処理対象菌21)は死滅する。
【0034】
図5(c)は枯草菌(処理対象菌21)に酸素プラズマを照射した際の照射時間と菌長径の関係を示す。この際、枯草菌(処理対象菌21)の温度を30℃、および87℃にてそれぞれ測定した結果、枯草菌(処理対象菌21)を加熱して87℃にした方が菌径のシュリンクが早く起こることがわかった。理由は枯草菌(処理対象菌21)のC、Oが酸素プラズマに含まれる酸素ラジカル22により脱離する反応レートが、高温ほど高くなるためと考えられる。表面層の枯草菌(処理対象菌21)はプラズマ照射時間10分程度で菌径のシュリンクが停止するが、これは酸素ラジカル22で有機質が脱離し、その後、脱離不可能な無機質が残るためと考えられる。前記内容は、本実験に用いた枯草菌(処理対象菌21)は100℃以下では活性状態を保ち、87℃の温度で死滅することはないことからも裏付けられる。図6は酸素ラジカル22の滅菌効果を示す説明図である。図5(a)に示す液体培地(TSB培地)を用いて、枯草菌(処理対象菌21)の活性または不活性を判定した。液体培地にはPH指示薬(ブロモクレゾールパープル)が含まれており、枯草菌(処理対象菌21)が活性な場合にはPHが変化し、培地の色が変化する。プラズマを照射後、24時間、58℃で培養を行った。枯草菌(処理対象菌21)に酸素プラズマを照射した際の培養結果を図6に示す。枯草菌(処理対象菌21)の温度が87℃の場合では、処理時間20分にて10個の枯草菌(処理対象菌21)を死滅できた。一方、枯草菌(処理対象菌21)の温度が30℃の場合では、死滅に処理時間30分を要した。これにより、プラズマ照射時または照射前に枯草菌(処理対象菌21)の温度を上げることで、滅菌効果が向上することが確認された。
【0035】
図7は本実施例のプラズマ滅菌装置の構成を示す模式図である。空中浮遊菌(処理対象菌21)を含む空気を予備加熱し、かつ酸素ラジカル22で滅菌可能な装置構成を示している。まず、プラズマ発生部は高温化すると焼損する恐れがあるため、冷却が必要である。このため、空中浮遊菌(処理対象菌21)を含む空気(大気圧)をファン101で吸気し、プラズマ発生部を冷却しながら、その放熱を利用して空中浮遊菌(処理対象菌21)を含む空気を加熱する。この際、プラズマ発生部から空中浮遊菌(処理対象菌21)を含む空気に熱を効率良く伝達するために、放熱フィン102を設けている。なお、符号100は筐体を、白抜きの矢印は空気の流れ方向を示す。
【0036】
その後、加熱された空気はプラズマ23に接触し、プラズマ23中の滅菌粒子により滅菌される。滅菌粒子としては、プラズマの外部で主に生成されるオゾンよりもプラズマ中に含まれる酸素ラジカル22の方が滅菌効果が高いため、空気をプラズマ23に直接触れるように誘導する構造となっている。空気を直にプラズマ23に接触させることで、プラズマ23中の酸素ラジカル22が空気中の浮遊菌(処理対象菌21)に作用することが可能となる。原理の詳細は図8にて説明する。本構造により、冷凍機やヒータを用いずにプラズマ放電部の冷却と空中浮遊菌(処理対象菌21)の予備加熱が可能となり、また滅菌粒子として酸素ラジカル22を用いることができる。これにより、高速滅菌を安価な構成で達成できる。なお、加熱される空気の温度は、プラズマ発生条件や空気の流量で変化する。空気は、プラズマ滅菌装置への投入電力を大きくし、空気の流量を小さくすることにより、より高い温度に加熱される。
【0037】
図8は本実施例のプラズマ滅菌装置内で発生する滅菌粒子を示す模式図である。プラズマ中で生成された酸素ラジカル22はプラズマ生成領域から拡散すると酸素分子と三体衝突し、オゾン24へと変化する。このため、図8(a)に示すように、流路高さhがプラズマ23の生成領域よりも大幅に高い場合には、空中浮遊菌(処理対象菌21)に作用する主な滅菌粒子はオゾン24となる。一方、図8(b)のように流路高さhをプラズマ生成領域内にした場合には、空中浮遊菌(処理対象菌21)に作用する滅菌粒子は酸素ラジカル22が主となり、強力な滅菌効果が期待できる。酸素ラジカル22による滅菌効果を得たい場合には、高周波電極2とアース電極3の両端までの長さを放電幅Lと定義した場合、流路高さhを、h=(1/2)L以下とすることが望ましい(0<h≦(1/2)L)。
【0038】
上記プラズマ滅菌装置を用いてBCR内の空気の殺菌を行なったところ、低電力で高速殺菌を達成することができた。
【0039】
なお、本実施例ではプラズマ23に接する電極をアース電極3、誘電体1で保護された電極を高周波電極2として説明したが、両電極の設置位置が入れ替わっても、本実施例の効果に影響はない。
【0040】
以上、本実施例によれば、電極と誘電体との間に該誘電体よりも誘電率の低い第2の誘電体を設けることにより、プラズマ生成効率が高いプラズマ滅菌装置を提供することができる。また、プラズマ発生領域において空気流路の高さを電極間隔の1/2以下とすることにより、高速殺菌を実現することができる。
【0041】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明はBCR内の滅菌に限らず、空中浮遊菌を無害、低温、かつ高速に滅菌することが要求されるエアコンや冷蔵庫等の家電機器に応用することも可能である。また、本発明では空中浮遊菌(真菌、細菌等)を対象に滅菌効果を説明したが、空気中に浮遊するウィルス等の生物も滅菌可能であることは言うまでも無い。
【符号の説明】
【0043】
1…誘電体、2…高周波電極、3…アース電極、4…基板、5…高周波電源、6…絶縁スペーサ、10…電気力線、21…処理対象菌、22…酸素ラジカル、23…プラズマ、24…オゾン、50…プラズマ発生部、60…放電ギャップ、70…電界集中発生部、80…コロニー、90…表面層、100…筐体、101…送風ファン、102…放熱フィン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の電極と、
前記第1及び第2の電極の間に配置された第1の誘電体と、
前記第1の電極と前記第1の誘電体との間に配置され、前記第1の誘電体よりも誘電率の低い誘電率を有する絶縁スペーサとを有することを特徴とするプラズマ滅菌装置。
【請求項2】
請求項1記載のプラズマ滅菌装置において、
前記第1及び第2の電極の間に交流電圧を印加する電源を備え、前記第1及び第2の電極の間に放電空間となるギャップを有することを特徴とするプラズマ滅菌装置。
【請求項3】
請求項1記載のプラズマ滅菌装置において、
前記絶縁スペーサは、無効電力を抑制するものであることを特徴とするプラズマ滅菌装置。
【請求項4】
請求項1記載のプラズマ滅菌装置において、
前記第1の電極は、その側部表面に突起を有し、プラズマ生成時の放電開始電圧を低減可能としたことを特徴とするプラズマ滅菌装置。
【請求項5】
第1及び第2の電極と、前記第1及び第2の電極の間に配置された第1の誘電体層と、前記第1の電極と前記第1の誘電体層との間に配置され、前記第1の誘電体よりも誘電率の低い誘電率を有する絶縁スペーサとを有するプラズマ発生部と、
処理対象菌を含む流体を前記プラズマ発生部で発生するプラズマ領域に導く流路とを有し、
前記流路は、前記プラズマ領域の上流側において、前記流体が前記プラズマ発生部を冷却するように配置されることを特徴とするプラズマ滅菌装置。
【請求項6】
請求項5記載のプラズマ滅菌装置において、
前記プラズマ発生部を冷却することにより加熱された前記流体を前記プラズマ領域においてプラズマに晒すことで、前記処理対象菌を高速に滅菌可能とすることを特徴とするプラズマ滅菌装置。
【請求項7】
請求項5記載のプラズマ滅菌装置において、
前記プラズマ生成部近傍に放熱フィンが設置されており、前記プラズマ生成部から発生する熱を前記流体に効率よく伝達可能とすることを特徴とするプラズマ滅菌装置。
【請求項8】
請求項1記載のプラズマ滅菌装置において、
前記絶縁スペーサは、有機材料で形成されていることを特徴とするプラズマ滅菌装置。
【請求項9】
請求項1記載のプラズマ滅菌装置において、
前記絶縁スペーサは、両面テープであることを特徴とするプラズマ滅菌装置。
【請求項10】
請求項1記載のプラズマ滅菌装置において、
前記絶縁スペーサの幅は、前記第1電極の幅の1/2以上であることを特徴とするプラズマ滅菌装置。
【請求項11】
請求項5記載のプラズマ滅菌装置において、
前記流路の高さhは、前記プラズマ発生領域において、前記第1及び第2の電極間距離Lと、0<h≦(1/2)Lの関係にあることを特徴とするプラズマ滅菌装置。
【請求項12】
請求項5記載のプラズマ滅菌装置において、
前記流体の圧力は、大気圧であることを特徴とするプラズマ滅菌装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−217761(P2012−217761A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89366(P2011−89366)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】