説明

プリオンアッセイ

本発明は、試料中のタンパク質を実質的に完全に消化するための少なくとも1種の配列特異的プロテアーゼを用いて、PrPScの存在を検出するアッセイ法であって、PrPSc、PrP双方におけるオクタリピート領域を無傷で残し、PrPScのプロテアーゼ耐性コアを無傷で、オクタリピート領域に結合したままに残す一方、PrPSc中のプロテアーゼ耐性コアに対応するPrP中のアミノ酸配列の少なくとも一部を消化・除去するアッセイ法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、2007年4月4日に出願された米国仮特許出願第60/921,951号、および2008年2月21日に出願された米国仮特許出願第61/066,704号の利益を主張し、これらの米国仮特許出願の全体の内容は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、試料中の病原性プリオンの存在を検出するアッセイ法に関する。本発明は、該アッセイ法で使用される試薬を含むキットにも関する。
【背景技術】
【0003】
(背景)
アミロイド病は、可溶性タンパク質の不溶性凝集形態への変化で起こる。この変換は、二次および三次構造に対する立体構造的変化とも関連している証拠が存在する。タンパク質沈着物の蓄積は、細胞及び組織を損傷する結果、疾患を招くという証拠が増加している。幾つかの疾患は、特定のタンパク質の沈着と関連している。
【0004】
1群の立体構造性疾患は、「プリオン病」または「感染性海綿状脳症(TSE)」と呼称される。こうした疾患は、人間および動物に現れる。人間においては、プリオン病には、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、変異CJD(vCJD)、Gerstmann−Straussler−Scheinker症候群(GSS)、致死性家族性不眠症およびクールーが含まれる(例えば、Isselbacherら編(1994年)、Harrison’s Principles of Internal Medicine、New York: McGraw−Hill, Inc.;Medoriら(1992年) N. Engl. J. Med.、326巻、444〜9頁を参照されたい)。動物においては、プリオン病には、ヒツジスクレイピー、ウシ海綿状脳症(BSE)、感染性ミンク脳症、ならびに捕らえられたミュールジカおよびエルクの慢性疲労病が含まれる(例えば、Gajdusek、(1990年)、Subacute Spongiform Encephalopathies: Transmissible Cerebral Amyloidoses Caused by Unconventional Viruses、Virology内、Fields編、New York: Raven Press, Ltd.、(2289〜2324頁)を参照されたい)。
【0005】
最近、BSEの急速な広がり、および人間におけるTSE発生率の上昇とのその相関性が、人間外哺乳類におけるTSE検出に対する関心を高めてきた。こうした疾患の偶発的感染の悲劇的結果(例えば、Gajdusek、Infectious Amyloids, and Prusiner Prions、Fields Virology内、Fieldsら編、Philadelphia: Lippincott−Ravin, Pub.(1996年);Brownら、Lancet、340巻、24〜27頁(1992年)を参照されたい)、除染の難しさ(Asherら(1986年)、Laboratory Safety: Principles and Practices内、Miller編(59〜71頁)Am. Soc. Micro.)、及びBSEに関する懸念(British Med. J. (1995年)311巻、1415〜1421頁)が、TSEの人間および動物を特定すると思われる診断試験、ならびに感染対象に対する治療の両方を得る緊急性の根底にある。
【0006】
プリオンは、細菌、ウィルスおよびウィロイドとはかなり異なる。支配的な仮説は、他のすべての感染性病原体とは異なり、疾患が、鋳型として作用し、正常なプリオン立体構造を異常で異型の立体構造へ変換する、プリオンタンパク質の異常な立体構造により起こされるというものである。プリオンタンパク質即ちPrPは、1980年代前半にその特性が決定された。(例えば、Boltonら(1982年)、Science 218巻、1309〜1311頁; Prusinerら(1982年)、Biochemistry 21巻、6942〜6950頁;McKinleyら(1983年)、Cell 35巻、57〜62頁を参照されたい)。それ以来、完全なプリオンタンパク質コード遺伝子が、クローン化され、配列決定され、トランスジェニック動物中で発現されてきた。(例えば、Baslerら、(1986年)Cell46巻、417〜428頁を参照されたい)。PrPとも呼称される、プリオンタンパク質の正常な細胞形態は、機能不確定な33〜35kDaのタンパク質であり、人間においては、20番染色体の短腕上にある遺伝子で転写される。異常な形状のプリオンタンパク質は、スクレイピータンパク質または病原性プリオンタンパク質(PrPSc)とも呼称される。中枢神経系(CNS)におけるPrPScの沈着は、神経変性と関連しており、常に致命的である。PrPScは感染性であり、感染力を含んだ組織に曝されると、発病する恐れがある。霊長類、ヒツジ、げっ歯類およびトランスジェニックマウスを含む実験動物にPrPScを実験的に接種した結果、プリオン病の感染が起こった。(例えば、Zhang ら(1997年)Biochem. 36巻(12号)、3543〜3553頁;Cohen & Prusiner (1998年)Ann. Rev. Biochem. 67巻、793〜819頁;Pan ら(1993年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90巻、10962〜10966頁;Safarら(1993年)J Biol. Chem. 268巻、20276〜20284頁を参照されたい)。
【0007】
PrPの主にαヘリックス折畳み非疾患形態と比較して、PrPScの実質的なβシート構造が、光学分光法および結晶解析研究から明らかとなった。(例えば、Wille ら(2001年)Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 99巻、3563〜3568頁;Peretzら(1997年)J. Mol. Biol. 273巻、614〜622頁;Cohen & Prusiner、(1999年)5巻、Structural Studies of Prion Proteins、Prion Biology And Diseases内、S. Prusiner編、Cold Spring Harbor, NY: Cold Spring Harbor Laboratory Press.(191〜228頁)を参照されたい)。PrPからPrPScへの構造変化は、以下のような生化学的性質の変化を伴うようである。即ち、PrPは非変性誘発性洗浄剤中で可溶であり、PrPScは不溶で、1000分子もの多数からなるオリゴマーを形成すること、PrPがプロテアーゼで容易に消化される一方、PrPScは、部分的に耐性を示し、「PrP27−30」(27〜30kDa)、「PrPres」または「PK耐性」(プロテイナーゼK耐性)の形態またはコアとして知られているアミノ末端側切断断片を形成するが、この断片は、シグナルペプチドを含む、ヒトまたはシリアンハムスターのPrP全長配列に従って付番した場合、約90位から約231位のアミノ酸残基のPrP断片に対応する。(例えば、Baldwinら(1995年)J. Biol. Chem. 270巻、19197〜19200頁;Prusiner ら(1982年)Biochemistry 21巻、6942〜6950頁;Prusinerら(1983年)Cell 35巻、349〜358頁;Collinge, J. and Palmer, M.S.(1997年)Prion Diseases、 Oxford University Press, New Yorkを参照されたい)。それに加え、PrPScはPrPを病原性の立体構造へ変換することができる。(例えば、Kanekoら(1995年)Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 92巻、11160〜11164頁;Caughey(2003年)Br Med Bull. 66巻、109〜20頁;Tellingら(1995年)Cell 83巻、79〜90頁;Kanekoら(1997年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94巻、10069〜10074頁;DebBurmanら(1997年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94巻、13938〜13943頁;Horiuchiら(1999年)EMBOJ. 18巻、3193〜3203頁;Horiuchiら(2000年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97巻、5836〜5841頁;Kociskoら(1994年)Nature 370巻、471〜474頁を参照されたい)。
【0008】
生存対象、および生存対象から得た試料における、立体構造的疾患タンパク質の病原イソフォームの検出は、困難であることが判明した。アミロイド一般の検出はコンゴレッド染色で実現できるが、この種の染色は不正確で感度が高くない。細胞、組織またはホモジェネートなどにおける、他のタンパク質存在下での所与のタンパク質の特異的で高親和性の検出は、標的タンパク質に特異的な抗体を用いて普通行なわれる。しかし、同じ配列を共有しながら立体構造が異なるタンパク質では、抗体による識別的検出が複雑になる。実際、PrPに対して生じた抗体の大多数は、PrPに、またはPrPおよびPrPScの両方に結合する。(例えば、Matsunagaら(2001年)Proteins: Structure, Function and Genetics 44巻、110〜118頁を参照されたい)。それに加え、PrPScの凝集により、抗体にとって有効なエピトープ濃度が減少し、そのため特異抗体のPrPに対する有効な結合が阻害される。したがって、PrPScの有効な免疫検出には、PrPScを解離・変性してPrP様配座異性体に変えると同時に、元のPrPと識別することが必要になる。
【0009】
公表された数種の免疫アッセイ法は、PrPScの存在を判定するために、自然なPrPだけに結合するが、自然なPrPScには結合しない抗体の結合量と、自然なPrPSc、PrPの両方に結合する抗体の結合量とを比較することに基づいていた。(例えば、特許文献1および特許文献2を参照されたい)。別の免疫アッセイ法も、抗体結合量の比較に基づいていたが、PrPScおよびPrPを変性させる変性工程を含んでおり、その後で自然なPrPに結合させるために使用した抗体と同じ抗体にそれらを結合させた。(特許文献3を参照されたい)。しかし、こうした方法を用いると、PrPの量が非常に少ないときにしかPrPScの有効な抗体検出を得ることができないので、こうしたアッセイ法には限界がある。PrPが過剰な場合、例えば、プリオン病の初期段階の対象から試料を採取した場合、PrPScの存在による免疫検出の増加を認めることは、困難であり、または不可能でさえある。例えば、PrPが1000倍多い血漿試料中の変性PrPScの検出は、PrP検出による圧倒的なシグナルのために不可能となろう。したがって、PrPScを含むまたは含まない試料間の単純な識別は、あまり妥当ではない。
【0010】
この困難を克服するために、PrPScの変性および検出の前に、プロテイナーゼK(PK)またはディスパーゼなどの非特異的プロテアーゼで試料を処理することがしばしばある。(例えば、特許文献4および特許文献5を参照されたい)。PrPScイソフォームの構造のために、PrPScはプロテアーゼ消化に非常に耐性を示す。他方、PrPイソフォームは、このようなプロテアーゼによる処理で完全に分解する。したがって、幾つかの条件下(例えば、50μg/mLを37℃、30分間)、PKなどの非特異的プロテアーゼで試料を処理することにより、存在するPrPをすべて除去し、PrPScのプロテアーゼ耐性コア(約90位から約231位までのアミノ酸残基)をほぼ無傷で残すことができる。
【0011】
PK処理の主要な1つの制約は、PrPScのアミノ末端またはアミノ近接残基(約23位から約89位まで)の分解である。PrPのこの領域は、オクタリピート領域中のエピトープを含め幾つものエピトープを含有するので、免疫検出にとって有用になり得る。オクタリピート領域は、オクタリピート配列のGQPHGG(G/S)(−/G)W(配列番号11)を数コピー含有する。このオクタリピート配列は、様々な種由来のプリオンタンパク質中に高度に保存されており、5回反復を有するウシPrPおよび3回反復を有するサルPrPを除く大部分の種において、ヒトまたはシリアンハムスターのPrP全長配列に従って付番した場合、約58〜89位残基の間に4回反復される。(幾つかの種のPrP配列の整列については図1を参照されたい)。この配列はPrPに独特なものであり、数種のPrP特異抗体、例えばPOM2、POM11、POM12、POM14、3B5、4F2、13F10、SAF−15、SAF−31、SAF−32、SAF−33、SAF−34、SAF−35およびSAF−37が、この配列に結合することが示されてきた。(例えば、Polymenidouら(2005年)、Lancet Neurol、4巻、805〜814頁;Krasemannら(1996年)、Mol. Medicine 2巻、725〜734頁;Feraudetら(2005年)、J. Biol. Chem. 280巻、11247〜11258頁;特許文献6を参照されたい)。
【0012】
一般に、大部分の抗体は、本来2個の結合部位(即ち、2本の結合アーム)を含有していても、タンパク質上に1度だけ提示されるエピトープに結合する。この種の結合は一価結合と称する。一価結合は、両方の抗体結合部位が、同じタンパク質上の2個のエピトープと同時に相互作用する事象(即ち、多価結合)より弱い。アビディティと呼ばれる多価結合の総括強度は、単一部位の結合強度である親和性より大きいが、その理由は、抗体が抗原を放出するために、両結合部位が同時に解離しなければならないからである。例えば、この性質は、普通その表面上に複数の同一エピトープを有する細菌またはウィルスに対して、抗体が結合する際に非常に重要である。したがって、PrPのオクタリピート領域は、複数のオクタリピートエピトープの独自性と、多価結合との双方を介して、シグナルの増強を可能にする。PKは、全長成熟PrPSc(23〜231位アミノ酸)の23〜89位残基を消化するので、完全なPK消化後の有用な抗体のレパートリーは、プロテアーゼ耐性コア(約90〜231位アミノ酸)内にある配列に結合する抗体に限られ、オクタリピート領域に対する抗体は、使用することができない。そのため、PK消化を用いる免疫アッセイは、あまり感度が高くない。
【0013】
PKのような非特異的プロテアーゼを使用する付加的な欠点は、PrPScが部分的にしか耐性を示さないため、高い濃度および十分な時間を用いれば、90〜231位残基の大部分またはすべてさえも消化されると見込まれることである。PrPScの一部の配座異性体は、他のものより消化に敏感であり、このような処理が検出感度を低下させることが示されている。(例えば、Safarら(1998年)Nat. Med. 4巻、1157〜65頁を参照されたい)。このことと符合して、PKは、PrPScおよびプリオンの感染力レベルを数ログ低下させるという知見がある(McKinleyら(1983年)Cell 35巻、57〜62頁を参照されたい)。
【0014】
最近記載された免疫アッセイ法は、PrPは完全に消化されるが、PrPScは部分的にしか消化されず、オクタリピート領域のすべてまたは幾らかが保持されるようにPK消化条件を制御することにより、上記に考察した制約に対処した。(特許文献6を参照されたい)。しかし、この解決法は、適当な条件が、異なる試料に対して変動し、そのため実現に手が掛かり、標準化が困難になる恐れがあるので、理想的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第6214565号明細書
【特許文献2】米国特許第6406864号明細書
【特許文献3】米国特許第5891641号明細書
【特許文献4】米国特許第7163798号明細書
【特許文献5】欧州特許第1119773号明細書
【特許文献6】米国特許第7097997号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、様々な試料、例えば、生存対象から得た試料、供血、家畜、ならびに他の人間用および動物用供給食品における試料において、病原性プリオンタンパク質の存在を検出するために、特異的で感度が良く、相対的に単純または迅速な方法、およびそのような方法を用いたキットに対する必要性が、依然として存在する。本発明は、この目的ならびに他の重要な目的を対象とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
(発明の要旨)
本発明は、病原性プリオンタンパク質の存在を検出するために、アッセイの方法およびキットの形で、新規で単純で特異的であって感度良好な方策を提供し、該方策は、とりわけ、プリオン関連疾患(例えば、人間または人間外動物対象における)の診断、実質的にPrPScを含まない供血、供給血液製剤または供給食品の確保、移植用の臓器および組織試料の分析、手術用道具および装置の除染ならびに病原性プリオンの有無に関する知識が重要な他の任意の状況のモニタリングをするための各方法に関して使用し得る。
【0018】
本開示におけるアッセイ法は、実質的に完全な消化後に、既知PrP配列のオクタリピート領域中、またはPrPScのプロテアーゼ耐性コア中で切断しないが、PrPScのプロテアーゼ耐性コアに対応する、PrP中のアミノ酸の少なくとも一部を切断・除去する、部位特異的プロテアーゼによる処理を利用し、この処理により、PrPScの特異的で感度良好な検出のために、オクタリピート領域中のエピトープまたは更に上流のエピトープさえも、プロテアーゼ耐性コア領域中のエピトープと組み合わせて利用することが、可能となり、好都合となる。
【0019】
本発明の一部は、プリオンタンパク質のタンパク分解消化が実質的に完全な条件下で、試料を部位特異的プロテアーゼと接触させ、試料の更なるプロテアーゼ消化を防止し、それだけに限らないが抗体およびアプタマーを含め、少なくとも2種の結合パートナーと結合させることにより、任意のPrPScの存在を検出することによって、試料中のPrPScの存在を検出する方法であって、一方の結合パートナーは、PrPのアミノ近接領域、好ましくはオクタリピート領域中のエピトープと特異的に結合し、他方の結合パートナーは、プロテアーゼ耐性コア領域内のエピトープと特異的に結合する方法に関する。
【0020】
本発明は、PrPScを含有する疑いのある試料中のタンパク質を実質的に完全に消化するために、少なくとも1種の部位特異的プロテアーゼ、好ましくはトリプシンまたは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)V8プロテアーゼ(S−V8)を用いて、病原型プリオンタンパク質、即ちPrPScの存在を検出する方法であって、試料が、正常型プリオンタンパク質(PrP)を含んでも含まなくてもよい方法を提供する。該PrPScは、オクタリピート領域内、またはオクタリピート領域とプロテアーゼ耐性コアとの間に、部位特異的プロテアーゼに対する切断部位を有していない。したがって、実質的に完全なタンパク分解消化の後、オクタリピート領域を含むアミノ近接領域の断片は、PrPScのプロテアーゼ耐性コアとの結合を維持し、そのプロテアーゼ耐性コアは無傷のままである。PrPが存在する場合、それは、PrPScのプロテアーゼ耐性コアに対応するアミノ酸領域内に、部位特異的プロテアーゼに対する利用可能な切断部位を少なくとも1つ有しており、少なくとも1つの利用可能なその切断部位は、実質的に完全なタンパク分解消化により切断される。本発明の方法に適切な部位特異的プロテアーゼについては、本明細書で更に説明する。
【0021】
該方法は、実質的に完全なタンパク分解消化の後で、更なる任意のタンパク分解消化を防止する工程を更に含み、該工程は、プロテアーゼ阻害剤の添加、または部位特異的プロテアーゼの除去により実現することができる。
【0022】
該方法は、更なるタンパク分解消化を防止する工程の後で、部位特異的プロテアーゼで処理したPrPScを変性させ、それにより変性PrPScを得る工程を更に含む。
【0023】
該方法は、それだけに限らないが抗体およびアプタマーを含め、少なくとも2種の結合パートナーとして、第1の結合パートナーおよび第2の結合パートナーを用いてPrPScの存在を検出する工程を更に含み、第1の結合パートナーは、実質的に完全なタンパク分解消化の後で、プロテアーゼ耐性コアとの結合を維持する、PrPScのアミノ近接領域の断片内、好ましくはオクタリピート領域中にある第1のエピトープと特異的に結合し、第2の結合パートナーは、PrPScのプロテアーゼ耐性コア領域内にある第2のエピトープと特異的に結合しており、第2の該エピトープは、実質的に完全なタンパク分解消化の後で、第1のエピトープから分離された、PrPの領域中にある。
【0024】
ある種の実施形態では、PrPScは、配列番号1〜10より選択される配列を含む。
【0025】
好ましい実施形態では、第1の結合パートナーは、オクタリピート領域内にあるエピトープと結合する。こうした実施形態における例示的な第1の結合パートナーには、POM2、POM11、POM12、POM14、3B5、4F2、13F10、SAF−15、SAF−31、SAF−32、SAF−33、SAF−34、SAF−35およびSAF−37などのモノクローナル抗体が挙げられる。
【0026】
他のある種の実施形態では、第1の結合パートナーは、オクタリピート領域の外部にあるエピトープと結合する。こうした実施形態における例示的な第1の結合パートナーには、BAR210、BAR231および14D3などのモノクローナル抗体が挙げられる。
【0027】
ある種の実施形態では、該方法に使用される部位特異的プロテアーゼは、トリプシンであり、トリプシンは、リシン(K)およびアルギニン(R)残基のカルボキシル側にあるアミノ酸が、プロリン(P)でない限り、KおよびRのカルボキシル側でペプチド結合を特異的に加水分解する。こうした実施形態に対して、第2の結合パートナーは、PrPScのプロテアーゼ耐性コア領域内にあり、PrPでは、トリプシン消化により切断・除去されてしまい、したがって第1のエピトープから分離されている、任意のエピトープに対して特異的になり得る。こうした実施形態における例示的な第2の結合パートナーには、3F4、POM1、POM4、POM5、POM6、POM7、POM8、POM9、POM10、POM13、POM15、POM16、POM17、POM19、SAF−2、SAF−4、SAF−8、SAF−9、SAF−10、SAF−12、SAF−13、SAF−14、SAF−22、SAF24、SAF−53、SAF−54、SAF−60、SAF−61、SAF−66、SAF−68、SAF−69、SAF−70、SAF−75、SAF−76、SAF−82、SAF−83、SAF−84、SAF−95、Pri308、Pri917、BAR215、BAR221、BAR224、BAR233、BAR234、Sha31、11B9、12F10、D18、6H4およびBDI115などのモノクローナル抗体が挙げられる。
【0028】
トリプシンが使用される方法の好ましい実施形態では、第2の結合パートナーは、PrPの球状ドメイン(即ち、PrPの約122位アミノ酸から約231位アミノ酸まで)内に位置しているエピトープに特異的に結合する。こうした実施形態における例示的な第2の結合パートナーには、POM1、POM4、POM5、POM6、POM7、POM8、POM9、POM10、POM13、POM15、POM16、POM17、POM19、SAF−2、SAF−4、SAF−8、SAF−9、SAF−10、SAF−12、SAF−13、SAF−14、SAF−22、SAF−24、SAF−53、SAF−54、SAF−60、SAF−61、SAF−66、SAF−68、SAF−69、SAF−70、SAF−75、SAF−76、SAF−82、SAF−83、SAF−84、SAF−95、Pri917、BAR215、BAR221、BAR224、BAR233、BAR234、Sha31、11B9、12F10、D18、6H4およびBDI115などのモノクローナル抗体が挙げられる。
【0029】
他のある種の実施形態では、該方法に使用される部位特異的プロテアーゼは、グルタミン酸(E)およびアスパラギン酸(D)残基のカルボキシル側で特異的に切断する、S−V8である。こうした実施形態に対して、第2の結合パートナーは、PrPScのプロテアーゼ耐性コア領域内にあり、PrPではS−V8により切断・除去されてしまった、任意のエピトープに対して特異的になり得る。こうした実施形態における例示的な第2の結合パートナーには、SAF−53、SAF−54、SAF−60、SAF−61、SAF−66、SAF−69、SAF−70、SAF−75、SAF−76、Pri917、BAR234、Sha31、11B9、12F10、6H4およびPOM5などのモノクローナル抗体が挙げられる。
【0030】
該方法のある種の実施形態では、検出工程は、ELISA、好ましくはサンドイッチELISAを用いて実施される。このような一実施形態は、捕捉結合パートナーとして、PrPのアミノ近接領域内、特にオクタリピート領域内のエピトープに結合する第1の結合パートナー、および検出結合パートナーとして、プロテアーゼ耐性コア内のエピトープに結合する第2の結合パートナーを利用する。このような別の実施形態では、プロテアーゼ耐性コア内のエピトープに結合する第2の結合パートナーが、捕捉結合パートナーとして利用され、アミノ近接領域内のエピトープに結合する第1の結合パートナーが、検出結合パートナーとして利用される。
【0031】
ある種の好ましい実施形態では、上記に考察した検出結合パートナーは標識される。こうした実施形態中のある種のものでは、検出結合パートナーは、アルカリホスファターゼ(AP)コンジュゲートで標識される。
【0032】
ある種の実施形態では、該方法に使用される結合パートナーは、第1のエピトープおよび第2のエピトープに特異的な抗体、好ましくはモノクローナル抗体であり、該抗体は、それだけに限らないが、本明細書に開示した例示的なモノクローナル抗体から選択することができる。
【0033】
他のある種の実施形態では、該方法に使用される結合パートナーは、第1のエピトープおよび第2のエピトープに特異的なアプタマーである。
【0034】
該方法の一実施形態では、前記の部位特異的プロテアーゼは、固体支持体上に固定化される。
【0035】
別の実施形態では、実質的に完全なタンパク分解消化の後で、部位特異的プロテアーゼによる試料の更なるタンパク分解消化を防止するために、該方法に使用されるプロテアーゼ阻害剤は、フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)である。
【0036】
ある種の実施形態では、該方法における変性工程は、グアニジニウム化合物、例えば、塩酸グアニジン(GdnHCl)またはグアニジンチオシアネート(GdnSCN)で消化済み試料を処理する工程を含む。
【0037】
変性剤としてグアニジニウム化合物を使用した実施形態中のある種のものでは、試料を希釈する更なる工程が、変性後に含まれる。
【0038】
他のある種の実施形態では、該方法における変性工程は、高pHまたは低pHで消化済み試料を処理し、場合により、前記変性後の前記高pHまたは前記低pHを中和することを含む。
【0039】
該方法のある種の実施形態では、試料は、生存中または死後の生物体から得られる。こうした実施形態における例示的な生物体には、ヒト、サル、ハムスター、ウシ、ヒツジ、マウス、エルクおよびシカが挙げられる。
【0040】
ある種の実施形態では、該方法に使用される試料は、供給食品、全血、血液製剤、血液分画、血液成分、血漿、血小板、血清、脳髄液、臓器、細胞、脳組織、神経系組織、筋肉組織、脂肪組織、骨髄、尿、涙、非神経系組織、生検、剖検および汚染機器からなる群に由来する。
【0041】
ある種の実施形態では、該方法に使用される試料は、全血、血液製剤、血液分画、血液成分、血漿、血小板、赤血球および血清からなる群に由来する。
【0042】
ある種の実施形態では、試料は、生検、検視または剖検から得られる。
【0043】
本発明の一部は、PrPScを含有する疑いのある試料において、病原型プリオンタンパク質、即ちPrPScの存在を検出するキットであって、試料が、正常型プリオンタンパク質(PrP)を含有することも含有しないこともあり、本明細書で考察する方法において有用な試薬を含むキットにも関する。
【0044】
具体的には、該キットは、少なくとも1種の部位特異的プロテアーゼを含み、PrPScは、オクタリピート領域内、またはオクタリピート領域とプロテアーゼ耐性コアとの間に、部位特異的プロテアーゼに対する切断部位を有しておらず、したがって、PrPScの該プロテアーゼによる実質的に完全なタンパク分解消化の後、オクタリピート領域を含む、PrPScのアミノ近接領域の断片は、プロテアーゼ耐性コアとの結合を維持している。PrPが存在する場合、それは、PrPScのプロテアーゼ耐性コアに対応するアミノ酸領域内に、部位特異的プロテアーゼに対する利用可能な切断部位を少なくとも1つ有する。
【0045】
該キットは、それだけに限らないが抗体およびアプタマーを含め、少なくとも2種の結合パートナーとして、第1の結合パートナーおよび第2の結合パートナーを含む。第1の結合パートナーは、キット中の部位特異的プロテアーゼによる、PrPScの実質的に完全なタンパク分解消化の後で、プロテアーゼ耐性コアとの結合を維持するアミノ近接領域の断片内に位置する、第1のエピトープと特異的に結合する。第2の結合パートナーは、プロテアーゼ耐性コア内に位置する第2のエピトープと特異的に結合しており、第2の該エピトープは、キット中の部位特異的プロテアーゼによる、PrPの実質的に完全なタンパク分解消化の後で、第1のエピトープから分離された、PrPの領域中にある。
【0046】
該キットは、病原型プリオンタンパク質の存在を検出するために、キットを使用するための説明書を更に含む。
【0047】
場合により、該キットは、キット中の部位特異的プロテアーゼの活性を阻害できる、プロテアーゼ阻害剤を更に含む。
【0048】
やはり場合により、該キットは、PrPScを変性させることができる変性剤を更に含む。
【0049】
キットに関するある種の実施形態では、PrPScは、配列番号1〜10より選択される配列を含む。
【0050】
キットに関するある種の好ましい実施形態では、第1の結合パートナーは、オクタリピート領域内のエピトープと特異的に結合する。こうした実施形態における例示的な第1の結合パートナーには、POM2、POM11、POM12、POM14、3B5、4F2、13F10、SAF−15、SAF−31、SAF−32、SAF−33、SAF−34、SAF−35およびSAF−37などのモノクローナル抗体が挙げられる。
【0051】
キットに関する他のある種の実施形態では、第1の結合パートナーは、オクタリピート領域の外部にあるエピトープと特異的に結合する。こうした実施形態における例示的な第1の結合パートナーには、BAR210、BAR231および14D3などのモノクローナル抗体が挙げられる。
【0052】
キットに関するある種の実施形態では、キット中の部位特異的プロテアーゼは、トリプシンである。こうした実施形態に対して、こうした実施形態における例示的な第2の結合パートナーには、3F4、POM1、POM4、POM5、POM6、POM7、POM8、POM9、POM10、POM13、POM15、POM16、POM17、POM19、SAF−2、SAF−4、SAF−8、SAF−9、SAF−10、SAF−12、SAF−13、SAF−14、SAF−22、SAF−24、SAF−53、SAF−54、SAF−60、SAF−61、SAF−66、SAF−68、SAF−69、SAF−70、SAF−75、SAF−76、SAF−82、SAF−83、SAF−84、SAF−95、Pri308、Pri917、BAR215、BAR221、BAR224、BAR233、BAR234、Sha31、11B9、12F10、D18、6H4およびBDI115などのモノクローナル抗体が挙げられる。
【0053】
トリプシンが部位特異的プロテアーゼである、キットに関する好ましい実施形態では、第2の結合パートナーは、PrPの球状ドメイン(即ち、PrPの約122位アミノ酸から約231位アミノ酸まで)内に位置しているエピトープに特異的に結合する。こうした実施形態における例示的な第2の結合パートナーには、POM1、POM4、POM5、POM6、POM7、POM8、POM9、POM10、POM13、POM15、POM16、POM17、POM19、SAF−2、SAF−4、SAF−8、SAF−9、SAF−10、SAF−12、SAF−13、SAF−14、SAF−22、SAF−24、SAF−53、SAF−54、SAF−60、SAF−61、SAF−66、SAF−68、SAF−69、SAF−70、SAF−75、SAF−76、SAF−82、SAF−83、SAF−84、SAF−95、Pri917、BAR215、BAR221、BAR224、BAR233、BAR234、Sha31、11B9、12F10、D18、6H4およびBDI115などのモノクローナル抗体が挙げられる。
【0054】
他のある種の実施形態では、キット中の部位特異的プロテアーゼは、S−V8である。こうした実施形態に対して、こうした実施形態における例示的な第2の結合パートナーには、SAF−53、SAF−54、SAF−60、SAF−61、SAF−66、SAF−69、SAF−70、SAF−75、SAF−76、Pri917、BAR234、Sha31、11B9、12F10、6H4およびPOM5などのモノクローナル抗体が挙げられる。
【0055】
キットに関するある種の実施形態では、キットは、ELISAキット、好ましくはサンドイッチELISAキットを含む。このような実施形態の中で、ある種の実施形態は、捕捉結合パートナーとして第1の結合パートナー、および検出結合パートナーとして第2の結合パートナーを有する。更に他のある種の実施形態は、捕捉結合パートナーとして第2の結合パートナー、および検出結合パートナーとして第1の結合パートナーを有する。
【0056】
キットに関するある種の実施形態では、上記に考察した検出結合パートナーは標識される。こうした実施形態中のある種のものでは、検出結合パートナーは、アルカリホスファターゼ(AP)コンジュゲートで標識される。
【0057】
ある種の実施形態では、キット中の結合パートナーは、第1のエピトープおよび第2のエピトープに特異的な抗体、好ましくはモノクローナル抗体であり、該抗体は、それだけに限らないが、上記に示した例示的なモノクローナル抗体から選択することができる。
【0058】
他のある種の実施形態では、キット中の結合パートナーは、第1のエピトープおよび第2のエピトープに特異的なアプタマーである。
【0059】
キットに関する一実施形態では、部位特異的プロテアーゼは固定化される。
【0060】
キットに関する別の実施形態では、任意選択のプロテアーゼ阻害剤は、フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)である。
【0061】
キットに関するある種の実施形態では、任意選択の変性剤は、グアニジニウム化合物である。
【0062】
キットに関する他のある種の実施形態では、任意選択の変性剤は、塩基性試薬または酸性試薬である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1A】(1Aおよび1B) ヒト(配列番号1)、サル(配列番号2)、シリアンハムスター(ハムスター)(配列番号3)、ウシ(配列番号4)、ヒツジ(配列番号5)、マウス(配列番号6)、エルク(配列番号7)、ファロージカ(ファロー)(配列番号8)、ミュールジカ(ミュール)(配列番号9)およびオジロジカ(白)(配列番号10)由来のプリオンタンパク質の、アミノ酸配列の整列およびトリプシン切断部位を示す図である。オクタリピート領域には、二重下線を引いてある。プロテアーゼ耐性コア領域は、配列整列の上下にある括弧で示される。(プロテアーゼ耐性コア領域の正確な開始および終止アミノ酸位置は、異なる種間および異なる系統間で、ならびに異なるプロテアーゼ消化条件により若干変化することに留意されたい)。トリプシン切断部位である、カルボキシル側にプロリン(P)を有していないアミノ酸のリシン(K)およびアルギニン(R)には、一本下線を引いてある。
【図1B】(1Aおよび1B) ヒト(配列番号1)、サル(配列番号2)、シリアンハムスター(ハムスター)(配列番号3)、ウシ(配列番号4)、ヒツジ(配列番号5)、マウス(配列番号6)、エルク(配列番号7)、ファロージカ(ファロー)(配列番号8)、ミュールジカ(ミュール)(配列番号9)およびオジロジカ(白)(配列番号10)由来のプリオンタンパク質の、アミノ酸配列の整列およびトリプシン切断部位を示す図である。オクタリピート領域には、二重下線を引いてある。プロテアーゼ耐性コア領域は、配列整列の上下にある括弧で示される。(プロテアーゼ耐性コア領域の正確な開始および終止アミノ酸位置は、異なる種間および異なる系統間で、ならびに異なるプロテアーゼ消化条件により若干変化することに留意されたい)。トリプシン切断部位である、カルボキシル側にプロリン(P)を有していないアミノ酸のリシン(K)およびアルギニン(R)には、一本下線を引いてある。
【図2A】(2Aおよび2B) ヒト(配列番号1)、サル(配列番号2)、シリアンハムスター(ハムスター)(配列番号3)、ウシ(配列番号4)、ヒツジ(配列番号5)、マウス(配列番号6)、エルク(配列番号7)、ファロージカ(ファロー)(配列番号8)、ミュールジカ(ミュール)(配列番号9)およびオジロジカ(白)(配列番号10)由来のプリオンタンパク質の、アミノ酸配列の整列およびS−V8切断部位を示す図である。オクタリピート領域には、二重下線を引いてある。プロテアーゼ耐性コア領域は、配列整列の上下にある括弧で示される。S−V8切断部位である、アミノ酸のアスパラギン酸(D)およびグルタミン酸(E)には、一本下線を引いてある。
【図2B】(2Aおよび2B) ヒト(配列番号1)、サル(配列番号2)、シリアンハムスター(ハムスター)(配列番号3)、ウシ(配列番号4)、ヒツジ(配列番号5)、マウス(配列番号6)、エルク(配列番号7)、ファロージカ(ファロー)(配列番号8)、ミュールジカ(ミュール)(配列番号9)およびオジロジカ(白)(配列番号10)由来のプリオンタンパク質の、アミノ酸配列の整列およびS−V8切断部位を示す図である。オクタリピート領域には、二重下線を引いてある。プロテアーゼ耐性コア領域は、配列整列の上下にある括弧で示される。S−V8切断部位である、アミノ酸のアスパラギン酸(D)およびグルタミン酸(E)には、一本下線を引いてある。
【図3】本発明の一実施形態の概要を示す図である。一本線は、プリオンタンパク質を表し、コイル部は、PrPScのプロテアーゼ耐性コアを表し、波線部は、PrPおよびPrPScイソフォームのα−ヘリックス性の高い部分を表す。PrPScまたはPrPタンパク質の様々な位置番号は、異なる領域のアミノ酸境界を表す。箱形は、抗プリオン抗体が認識するエピトープ領域を示し、塗潰し棒は、オクタリピート領域を表し、三角形は、部位特異的プロテアーゼの切断部位を表す。白抜きの箱形は、アミノ近接領域内、好ましくはオクタリピート領域内のエピトープ領域を表し、一方、斜線付き箱形は、PrPScのプロテアーゼ耐性コア内のエピトープ領域、またはプロテアーゼ耐性コアに対応する、PrPのアミノ酸配列内にある同じエピトープ領域を表す。白抜き三角形は、PrPScまたはPrPの天然型において、部位特異的プロテアーゼに対して利用可能な切断部位を表す。斜線付き三角形は、PrPScの天然型において、部位特異的プロテアーゼに対して利用不可能な切断部位を表す。Yは抗体を表す。
【図4】捕捉抗体としてSAF−32および検出抗体としてアルカリホスファターゼコンジュゲート3F4(3F4AP)を用いて、トリプシンまたはPKで消化した正常またはvCJDのヒト脳ホモジェネート(BH)試料における、PrPのサンドイッチELISAによる検出を示す図である。実験の詳細は、実施例6に開示されている。プロテアーゼ消化後、試料は、変性させないままとし、または4M GdnHClで変性させ、その後PrPScを検出した。検出シグナルの相対量は、相対発光量(RLU)で示されている。
【図5】捕捉抗体として3F4および検出抗体としてアルカリホスファターゼコンジュゲートPOM2(POM2AP)を用いて、様々な条件下でトリプシンまたはPKで消化した、スクレイピー感染シリアンハムスター(SHa)のBH試料における、PrPScのサンドイッチELISAによる検出を示す図である。実験の詳細は、実施例7に開示されている。正常BHシグナルに対するスクレイピー感染シグナルの比が、示されている(S/N値)。
【図6】捕捉抗体として3F4および検出抗体としてアルカリホスファターゼコンジュゲートPOM17(POM17AP)を用いて、様々な条件下でトリプシンまたはPKで消化した、スクレイピー感染SHaのBH試料における、PrPScのサンドイッチELISAによる検出を示す図である。実験の詳細は、実施例7に開示されている。正常BHシグナルに対するスクレイピー感染シグナルの比が、示されている(S/N値)。
【図7】(図7A)全長成熟PrP配列、PrPScのPK耐性コア、およびトリプシン切断部位の概略マップである。トリプシン切断部位は三角形で示され、PK耐性コア内にある該部位は、PrPScにおけるトリプシン切断には一般に利用不可能なことを示すために、灰色三角形として示されている。(図7B)ウェスタンブロット分析の結果を示す図である。実験の詳細は、実施例8に開示されている。トリプシンまたはPKの50μg/ml消化を、正常、vCJD MM(129位コドンの多形、白色vCJD系統)、sCJD MMおよびsCJD MVのBH試料について比較した。試料は、SDS−PAGEで分離し、POM2、3F4またはPOM17抗体で免疫ブロットをした。ローディング対照として、アクチン免疫ブロットを行なった。
【図8】別のウェスタンブロット分析の結果を示す図である。実験の詳細は、実施例8に開示されている。正常またはvCJDのBH試料を0、25、50、75または100μg/mlのトリプシンで消化した後、POM2、3F4またはPOM1抗体による免疫ブロットで分析した。
【図9】(図9A)トリプシン切断部位および数個の抗体用エピトープの位置を印した全長成熟PrP配列の概要を示す図である。3F4またはPOM17用エピトープ領域のトリプシン切断部位は、灰色三角形で示され、PrPScにおけるトリプシン切断には一般に利用不可能なことを示す。(図9BおよびC)「受動被覆」直接ELISA実験の結果を示す図である。実験の詳細は、実施例9に開示されている。正常またはCJDのBHを、トリプシン(塗潰し記号)またはPK(白抜き記号)の増加する濃度で消化した。消化物を遠心し、PrPScペレットを変性させ、POM2(上段パネル)、3F4(中段パネル)またはPOM17(下段パネル)抗体による直接ELISAで検出した。検出シグナルの相対量は、相対発光量(RLU)で示されている。図9Bは、正常なBH(三角形)およびvCJD MMのBH(円形)の生データを示す。図9Cは、vCJD MM、sCJD MMおよびsCJD MVのBH試料の規格化データを示す。結果は、「感染−正常(RLU)」で表現されている。
【図10】捕捉抗体として3F4および検出抗体としてPOM2APまたはPOM17APを用いて、トリプシン(各パネルの左半部)またはPK(各パネルの右半部)の増加する濃度で消化した正常または各種CJDのヒトBH試料における、PrPのサンドイッチELISAによる検出を棒グラフで示した図である。実験の詳細は、実施例10に開示されている。生データとして得られた検出シグナルの相対量は、相対発光量(RLU)で示されている。黒塗り棒は正常BHのデータを表し、灰色棒は各種CJD BHのデータを表す。
【図11】捕捉抗体として3F4および検出抗体としてPOM2APまたはPOM17APを用いて、トリプシン(塗潰し円)またはPK(白抜き円)の増加する濃度で消化した正常またはvCJDのヒトBH試料における、PrPのサンドイッチELISAによる検出を折れ線グラフで示した図である。図10の実験の一部である、この実験の詳細は、実施例10に開示されている。生データとして得られた検出シグナルの相対量は、左側パネルおよび中央パネルに相対発光量(RLU)で示されている。PrPScが占めるシグナル量は、vCJD BH由来のシグナルから正常BH由来のシグナルを差し引くことにより、推定しており、右側パネルに「vCJD−正常(RLU)」として示してある。
【発明を実施するための形態】
【0064】
(詳細な説明)
本開示の実施には、別途指示しない限り、当分野の技術内にある化学、生化学、分子生物学、免疫学および薬理学の従来法が使用されよう。このような技法は、文献中で十分に説明されている。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第18版(Easton, Pennsylvania: Mack Publishing Company、1990年);Methods In Enzymology(S. Colowick and N. Kaplan編、Academic Press, Inc.);およびHandbook of Experimental Immunology、I〜IV巻(D.M. Weir and C.C. Blackwell編、1986年、Blackwell Scientific Publications);Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual(第2版、1989年);Short Protocols in Molecular Biology、第4版(Ausubelら編、1999年、John Wiley & Sons);Molecular Biology Techniques: An Intensive Laboratory Course(Reamら編、1998年、Academic Press);Peters and Dalrymple、Fields Virology (第2版)、Fieldsら(編)、B.N. Raven Press, New York, NY.を参照されたい。
【0065】
本明細書に引用するすべての刊行物、特許および特許出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0066】
定義
以下の精選した用語は、本明細書で使用する文脈で考察することになる。用語の複数形および単数形は共に、考察する形に関係なく包含される。
【0067】
「プリオン」、「プリオンタンパク質」、「PrPタンパク質」および「PrP」は、病原性プリオンタンパク質形態(スクレイピータンパク質、病原性タンパク質形態、病原性イソフォーム、病原性プリオンおよびPrPScとも称する)および非病原性プリオン形態(正常形態、細胞性タンパク質形態、細胞性イソフォーム、非病原性イソフォーム、非病原性プリオンタンパク質およびPrPとも称する)の双方、ならびに変性形態、および病原性立体構造、正常細胞性立体構造のいずれをも有していないこともある、プリオンタンパク質の各種組換え形態を指示するために、互換的に使用される。
【0068】
用語「プリオン」、「プリオンタンパク質」、「PrPタンパク質」、「PrP」または「コンホメーション病タンパク質」の使用は、本明細書に記載の配列に正確に合った配列を有するポリペプチドに限定されることを意図していない。該用語が、特定済みまたは未特定の種(例えば、ヒト、ウシ)または疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病など)のいずれかに由来するコンホメーション病タンパク質を包含することは、容易に明らかである。その全体が参照により本明細書に組み込まれる、共同所有する米国特許公開第20050118645号および第20060035242号、ならびにPCT公開第WO06/076687号も参照されたい。本開示および当該技術の教示に鑑みて、当業者は、例えば、配列比較プログラム(例えば、Basic Local Alignment Search Tool(BLAST))、または構造的特徴もしくはモチーフの同定および整列を用いて、他の任意のプリオンタンパク質において、本明細書に開示する配列に対応する領域を決定することができる。
【0069】
「病原性の」とは、タンパク質が、実際に疾患を起こす、またはタンパク質が、疾患に関連しており、したがって疾患が存在する場合には、存在していることを意味する。したがって、病原性タンパク質は、本明細書で使用する場合、疾患の特定の原因物質であるタンパク質とは限らない。「病原型」タンパク質とは、疾患が存在する場合に存在しているタンパク質の立体構造を意味するが、それは、感染性であることもないこともある。病原性のコンホメーション病タンパク質、または病原型タンパク質の例は、PrPScである。したがって、用語「非病原性の」または「正常型」は、疾患を通常起こさない、または発病と通常関連していないタンパク質を表す。コンホメーション病タンパク質の非病原型または正常型の例は、PrPである。
【0070】
「プリオン関連疾患」とは、病原性プリオンタンパク質または病原型プリオンタンパク質(例えば、PrPSc)が、全般的または部分的に起こす疾患を指す。プリオン関連疾患の例には、限定することなく、スクレイピー、ウシ海綿状脳症(BSE)、狂牛病、ネコ海綿状脳症、クールー、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、新変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(nvCJD)、慢性疲労病(CWD)、Gerstmann−Strassler−Scheinker病(GSS)および致死性家族性不眠症(FFI)が挙げられる。
【0071】
用語「変性する」または「変性した」とは、タンパク質構造に適用した場合に従来の意味を有し、そのタンパク質が、本来の二次および三次構造を喪失したことを意味する。病原性プリオンタンパク質に関しては、「変性した」病原性プリオンタンパク質は、本来の病原性立体構造をもはや保持しておらず、したがってそのタンパク質は、もはや「病原性」ではない。変性した病原性プリオンタンパク質は、変性した非病原性プリオンタンパク質と類似または同一の立体構造を有する。
【0072】
用語「標識」、「標識された」、「検出可能な標識」または「検出可能に標識された」とは、それだけに限らないが、放射性同位体、蛍光物質、発光物質、化学発光物質、酵素、酵素基質、酵素補因子、酵素阻害剤、発色団、色素、金属イオン、金属ゾル、リガンド(例えば、ビオチンまたはハプテン)、蛍光ナノ粒子、金ナノ粒子などを含む、検出可能な分子を指す。使用できる標識の特定の例には、それだけに限らないが、フルオレッセイン、ローダミン、ダンシル、ウンベリフェロン、テキサスレッド、ルミノール、アクリジニウムエステル、NADPH、β−ガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、アルカリホスファターゼおよび尿素が挙げられる。該標識は、エピトープタグ(例えば、His−Hisタグ)、抗体、または増幅可能な、そうでなければ検出可能なオリゴヌクレオチドでもよい。
【0073】
「タンパク分解消化」または「プロテアーゼ消化」とは、タンパク質中のペプチド結合の加水分解または切断を介した、プロテアーゼによるタンパク質の指定された消化または分解を指す。
【0074】
「部位特異的プロテアーゼ」とは、タンパク質基質において、1つの形式で、または異なる少数のアミノ酸残基において、ペプチド結合を切断する酵素(プロテアーゼ)を指す。部位特異的プロテアーゼに対する「切断部位」とは、隣接するペプチド結合が、通常のタンパク分解消化条件下で、部位特異的プロテアーゼにより加水分解または「切断」される、タンパク質基質中の特定のアミノ酸残基(複数)を指す。部位特異的プロテアーゼは、プロテイナーゼK(脂肪族、芳香族および疎水性残基で切断する)、およびカルボキシペプチダーゼY(カルボキシ末端に始まって全残基を逐次切断する)のような非特異的プロテアーゼとは区別される。例えば、トリプシンは、特に、LysおよびArgのカルボキシ側のアミノ酸がProでない場合、LysおよびArg残基においてだけ切断する部位特異的プロテアーゼである。(例えば、Neurath and Schwert(1950年)Chem. Rev.46巻、70頁;Walsh and Neurath(1964年)Proc.Natl. Acad Sci. USA 52巻、884〜889頁;Walsh(1970年)Meth. Enzymol. 19巻、41頁を参照されたい)。そのため、トリプシンに対する切断部位は、LysおよびArgのカルボキシ側のアミノ酸がProでない場合、LysおよびArg残基を意味する。トリプシンに対する切断部位は、「トリプシン部位」とも称する。もう1つの例は、GluおよびAsp残基で特異的に切断するプロテアーゼS−V8である。(例えば、Drapeauら(1972年)J. Biol. Chem.247巻、6720〜6726頁、およびHoumard and Drapeau(1972年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA69巻、3506〜3509頁を参照されたい)。トリプシンおよびS−V8は、Thermo Fisher Scientific Inc.の一部門のPierce、またはSigma−Aldrich, Inc.などの企業から市販されている。
【0075】
「実質的に完全な」消化、または「実質的に消化された」とは、タンパク質が、利用可能なすべてのプロテアーゼ切断部位のうち、少なくとも90%、好ましくは99%でプロテアーゼにより切断された消化を意味する。「利用可能な切断部位」とは、プロテアーゼにより切断部位と認識され、しかもタンパク質の立体構造においてプロテアーゼとの接触のために利用できる、アミノ酸配列を有する部位を意図している。例えば、プリオンタンパク質のプロテアーゼ耐性コア内に現れるプロテアーゼ切断部位は、プリオンタンパク質がPrPScの立体構造を採るとき、プロテアーゼ消化には一般に利用できず、したがってPrPScにおいては「利用可能な切断部位」ではない。
【0076】
「オクタリピート領域」とは、これまでに確認されたすべての種に由来する、プリオンタンパク質のN末端に近接して見出される反復配列領域を指す。オクタリピートは、普通GQPHGG(G/S)(−/G)W(配列番号11)と書かれる8(または9)アミノ酸配列のコピーを、一般に3〜5個、普通4個含有する。この配列は、高度に保存されており(この配列は、該リピートの幾つかでは若干変化することもある)、ヒトおよびハムスターのPrP種に従って付番した場合、約58〜89位残基内に一般に現れる。オクタリピート領域は、普通、プロテアーゼ耐性領域に隣接しており、N末端に近接性している。
【0077】
プリオンタンパク質の「プロテアーゼ耐性コア」(時々「プロテイナーゼK耐性コア」と呼ばれる)は、PrP形態のプリオンタンパク質を実質的に消化するのに十分な条件下に、PrPScをプロテイナーゼKに曝した後、PrPSc立体構造を採るプリオンタンパク質の存続している領域によって定義される。一般に、大部分のプリオンタンパク質種については、プロテアーゼ耐性コア領域は、ヒトおよびハムスターのPrP種に従って付番した場合、約90位アミノ酸から約231位アミノ酸までの領域を含む。図1A、1B、2Aおよび2Bは、様々な種からの多くのプリオンタンパク質の整列を示し、括弧付き領域はプロテアーゼ耐性コア領域を示す。
【0078】
「プロテアーゼ耐性コアに対応する、PrPのアミノ酸領域」とは、前記PrPと一次アミノ酸配列が同じ病原型プリオンタンパク質において、プロテアーゼ耐性コアを形成する領域と同じである、PrPの領域を指す。一般に、大部分のプリオンタンパク質種については、この領域も、ヒトおよびハムスターのPrP種に従って付番した場合、約90位アミノ酸から約231位アミノ酸までの領域を指す。
【0079】
PrPの「球状ドメイン」は、ヒトのPrP種に従って付番した場合、およそ122位アミノ酸から約231位アミノ酸までである。
【0080】
本明細書における「エピトープ」とは、限定することなく、抗体およびアプタマーを含めた結合パートナーに認識される(例えば、特異的に結合する)、標的タンパク質の領域を意味する。エピトープは、エピトープに特有の空間的立体構造中に3個以上のアミノ酸を含む。一般には、エピトープは、少なくとも5個のそのようなアミノ酸からなり、より普通には、少なくとも8〜10個のそのようなアミノ酸からなる。アミノ酸の空間的立体構造を決定する方法は、当技術分野で公知であり、例えば、X線結晶解析および二次元核磁気共鳴を含む。更に、所与のタンパク質におけるエピトープの特定は、疎水性試験の使用および部位選択的血清法などの、当技術分野で周知の技法を用いて容易に実現される。Geysenら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1984年)81巻、3998〜4002頁(所与の抗原において免疫原性エピトープの位置を決定するために、ペプチドを迅速に合成する一般法);米国特許第4708871号(抗原のエピトープを同定し、化学合成するための手順)およびGeysenら、Molecular Immunology(1986年)23巻、709〜715頁(所与の抗体に親和性の高いペプチドを同定する技法)も参照されたい。
【0081】
「アミノ近接領域」とは、ヒトまたはハムスターのPrP配列に従って付番した場合、23位から約89位までのアミノ酸を包含する、成熟PrPタンパク質のN末端領域を指す。
【0082】
「結合パートナー」とは、エピトープなどのリガンドを特異的に認識し、非共有結合でそれに結合する分子を指す。本開示で考察するような結合パートナーには、限定することなく、抗体およびアプタマーが含まれる。
【0083】
「捕捉結合パートナー」とは、PrPタンパク質などのリガンドと特異的に結合し、それを捕捉するために、固体支持体上に被覆された結合パートナーを指す。
【0084】
「検出結合パートナー」とは、捕捉結合パートナーが結合し、捕捉した任意のリガンドを特異的に検出するために、固体支持体上の試料に対して、溶液中に添加される結合パートナーを指す。
【0085】
アッセイ法のある種の実施形態では、結合パートナーはアプタマーである。アプタマーは、抗体の分子認識性を有する核酸である。しかし、アプタマーは、抗体より小さく、抗体ほどに複雑ではないため、製造および修飾が、より容易になり得る。(例えば、Osborneら(1997年)Curr. Opin. Chem. Biol. 1巻、5〜9頁;Bunkaら(2006年)Nat. Rev. Microbiol. 4巻、588〜596頁を参照されたい)。タンパク質エピトープに特異的なアプタマーを生成する方法は、容易に入手できる(例えば、Tuerk and Gold(1990年)Science 249巻、505〜510頁;Coxら(1998年)Biotechnol Prog. 14巻、845〜850頁;Coxら(2002年)Nucleic Acids Res. 30巻、e108頁を参照されたい)。アプタマーは、検出容易な活性を有する酵素に結合することができる(例えば、Droletら(1996年)Nat. Biotechnol、14巻、1021頁を参照されたい)。
【0086】
プロテアーゼで試料を「処理する」またはその「処理」は、反応、特にペプチド結合の加水分解または切断が起こるのに十分な時間長の間、試料およびプロテアーゼを接触させ、一緒に維持することを意味する。
【0087】
一般的概観
本開示の前に、公表されたある特許に、PKを用いてPrPScを消化し、結合パートナー(リガンド)と結合するためにオクタリピート領域を保持する方法であって、PrPScを部分的に消化するが、PrPを完全に消化するために、制御された消化条件を必要とする方法が開示された。(米国特許第7097997B1号を参照されたい)。既に開示されたこの方法の1つの問題は、適当な条件が試料の違いで変化し、そのため実現に手がかかり、標準化が困難になり得ることである。既に開示されたこの方法は、PrPScをPrPと識別するために、PrPScのプロテアーゼ耐性コアに結合する第2の結合パートナーを全く使用しなかった。
【0088】
PKのような非特異的プロテアーゼの使用に伴う制約を回避するために、本発明者らは、PrPのオクタリピート領域内に切断部位を有していない他のプロテアーゼ、特に部位特異的プロテアーゼの使用を研究した。そのため、実質的に完全な消化をしても、オクタリピート領域は、消化されず、結合パートナーによる特異的で強力な結合のために、一貫して利用できる。PKによる部分的消化と比較して、部位特異的プロテアーゼによる実質的に完全な消化は、実施および標準化が容易である。それに加え、本開示は、プロテアーゼによるPrPからの対応エピトープの除去により、PrPScには結合するが、PrPには結合しない第2の結合パートナーの使用を含むため、本開示法は、PrPの2型間の高い選択性という利点を得ている。
【0089】
したがって、本明細書に記載の方法は、多量のPrPを有し得る試料におけるPrPScの検出に関して、特異性、感度、使用し易さおよび再現性を高めることのできる改良に関する。
【0090】
本開示のある種の実施形態では、使用する部位特異的プロテアーゼは、トリプシンまたはS−V8であり、その特異的切断部位は、図1A、1B、2Aおよび2Bに示すように、既知のPrP配列のオクタリピート領域中に存在しない。それに加え、PKの場合と異なり、トリプシンまたはS−V8による消化は、プリオン感染性に影響せず、PrPScが、PKよりこれらのプロテアーゼに対して耐性が高いことが示唆される(McKinleyら(1983年)Cell、35巻、57〜62頁、およびLangeveldら(2003年)J. Infec. Dis. 188巻、1782〜1789頁を参照されたい)。トリプシンまたはS−V8によりPrPScを処理すると、PrPScのプロテアーゼ耐性コア内の潜在的切断部位が保護されるため、(ヒトまたはシリアンハムスターの種に従って付番した場合)、各々49〜231位または23〜231位の残基を有するプロテアーゼ耐性断片が生成されよう。他方、PKによりPrPScを処理すると、80〜100位あたりの残基で始まるPK耐性断片のN末端を有する複数のプロテアーゼ耐性断片が生成されよう。PKによるPrPScの正確な切断部位は、PrPScが異なる立体構造を採ることができるので、変化を受けよう(Tellingら(1996年)Science 274巻、2079〜2082頁を参照されたい)。したがって、トリプシンまたはS−V8によるPrPScの処理は、PKによる処理より一貫性が高く、長く、有用な断片を産生することになろう。
【0091】
本開示の前に、1つの刊行物により、PrPScに対してエピトープをアンマスクし、PrPの対応エピトープの利用可能性を除くために、トリプシンの使用が提案された。(国際公開第WO99/19360A1号を参照されたい)。国際公開第99/19360A1号で提案された免疫アッセイ法は、本開示法でトリプシンを使用した目的または結果が、PrPScに対してエピトープをアンマスクすることではないので、本開示法とは異なる。それに加え、国際公開第99/19360A1号で提案された方法は、オクタリピート領域に特異的な抗体とPrPScを結合させることを開示していなかった。したがって、本開示法は、結合パートナーをオクタリピート領域に結合させる高いアビディティによる高感度の利点を提供する。
【0092】
本開示前の別の刊行物として国際公開第WO03/001211A1号は、PKなどのプロテアーゼによる限定的タンパク分解を伴う、プリオンタンパク質の存在を検出する方法を開示した。国際公開第03/001211A1号に記載の方法の一実施形態では、トリプシンなどのプロテアーゼが、細胞または組織を溶解する工程および溶解物をPKで処理する工程の前に、組織解離を促進するために、細胞膜を破壊しないと見込まれる条件下で短時間使用された。
【0093】
それに加え、本開示前の別の刊行物として国際公開第WO2006/088281A1号は、多量体形成性ポリペプチド(プリオンなど)の単量体から多量体を検出するための方法であって、トリプシンによる処理を伴う方法を開示した。国際公開第2006/088281A1号に開示された方法は、本開示法とは異なる。国際公開第2006/088281A1号は、この刊行物に開示された方法を用いると、オクタリピート配列に対する抗体がバックグランドを増加させたので、オクタリピート配列などの反復配列より、プリオンタンパク質中の非反復配列に対する抗体の使用を特異的に推進した。
【0094】
最近の刊行物では、プロテアーゼのサーモリシンが、プリオン病の診断に用いられた(Owenら(2007年)Mol. Biotechnol. 35巻、161〜170頁を参照されたい)。サーモリシンは、プロテアーゼが接触可能なPrPScのアミノ末端領域にはない残基である、幾つかの疎水性残基で特異的に切断する。
【0095】
したがって、本発明は、
(a)プロテアーゼ耐性コアおよびオクタリピート領域を有する病原型プリオンタンパク質(PrPSc)を含有する疑いのある試料であって、正常型プリオンタンパク質(PrP)を含んでも含まなくてもよい試料を得る工程、
(b)前記PrPSc、および存在する場合には前記PrPのタンパク分解消化が、実質的に完全である条件下で、少なくとも1種の部位特異的プロテアーゼで前記試料を処理する工程であって、
i)前記PrPScが、前記オクタリピート領域内または前記オクタリピート領域と前記プロテアーゼ耐性コアとの間に、前記プロテアーゼに対する切断部位を有しておらず、そのため、前記オクタリピート領域を含むアミノ近接領域の断片は、前記の実質的に完全なタンパク分解消化の後、前記プロテアーゼ耐性コアとの結合を維持しており、
ii)前記PrPが、前記プロテアーゼ耐性コアに対応するアミノ酸領域内に、前記プロテアーゼに対する少なくとも1つの利用可能な切断部位を有しており、前記少なくとも1つの利用可能な切断部位が、前記の実質的に完全なタンパク分解消化の後、切断される
工程、
(c)プロテアーゼ阻害剤の添加または前記プロテアーゼの除去により、(b)における前記の実質的に完全なタンパク分解消化に続く、更なる任意のタンパク分解消化を防止する工程、
(d)前記の部位特異的プロテアーゼで処理したPrPScを変性させることにより、変性PrPScを得る工程、ならびに
(e)少なくとも2種の結合パートナーとして、第1の結合パートナーおよび第2の結合パートナーを用いて前記変性PrPScの存在を検出する工程であって、
i)前記第1の結合パートナーが、前記の実質的に完全なタンパク分解消化の後、前記プロテアーゼ耐性コアとの結合を維持している、アミノ近接領域の前記断片内に位置する、第1のエピトープに特異的に結合しており、
ii)前記第2の結合パートナーが、前記プロテアーゼ耐性コア内に位置する、第2のエピトープに特異的に結合しており、前記第2のエピトープが、前記の実質的に完全なタンパク分解消化の後、前記第1のエピトープから分離されている、前記PrPの領域中にある
工程
を含む、アッセイ法を提供する。
【0096】
本発明は、病原型プリオンタンパク質(PrPSc)を含有する疑いのある試料であり、正常型プリオンタンパク質(PrP)を含んでも含まなくてもよい試料において、プロテアーゼ耐性コアおよびオクタリピート領域を有する前記PrPScの存在を検出するキットであって、
(a)少なくとも1種の部位特異的プロテアーゼであり、
i)前記PrPScが、前記オクタリピート領域内または前記オクタリピート領域と前記プロテアーゼ耐性コアとの間に、前記プロテアーゼに対する切断部位を有しておらず、そのため、前記オクタリピート領域を含むアミノ近接領域の断片は、前記プロテアーゼによるPrPScの実質的に完全なタンパク分解消化の後、前記プロテアーゼ耐性コアとの結合を維持しており、
ii)前記PrPが、前記プロテアーゼ耐性コアに対応するアミノ酸領域内に、前記プロテアーゼに対する少なくとも1つの利用可能な切断部位を有している
プロテアーゼ、
(b)場合により、前記プロテアーゼの活性を阻害できるプロテアーゼ阻害剤、
(c)場合により、前記PrPScを変性させることができる変性剤、
(d)少なくとも2種の結合パートナーとして、第1の結合パートナーおよび第2の結合パートナーであり、
i)前記第1の結合パートナーが、前記プロテアーゼによる前記PrPScの実質的に完全なタンパク分解消化の後、前記プロテアーゼ耐性コアとの結合を維持している、アミノ近接領域の前記断片内に位置する、第1のエピトープに特異的に結合しており、
ii)前記第2の結合パートナーが、前記プロテアーゼ耐性コア内に位置する、第2のエピトープに特異的に結合しており、前記第2のエピトープが、前記プロテアーゼによる前記PrPの実質的に完全なタンパク分解消化の後、前記第1のエピトープから分離されている、前記PrPの領域中にある
結合パートナー、ならびに
(e)任意の病原型プリオンタンパク質の存在を検出するために、前記キットを使用するための説明書
を含むキットも提供する。
【0097】
部位特異的プロテアーゼ
本発明において有用な部位特異的プロテアーゼは、特定の個別のアミノ酸残基のペプチド結合を切断するプロテアーゼである。一般に、部位特異的プロテアーゼは、1つの形式で、または少数の特定のアミノ酸残基において、タンパク質を切断するため、プリオンタンパク質の切断において予測性が可能となる。このような部位特異的プロテアーゼの例は、Lys(K)およびArg(R)のカルボキシ側のアミノ酸がProでない場合、KまたはR残基のカルボキシ側において切断する部位特異的プロテアーゼであるトリプシン、ならびにAsp(D)またはGlu(E)残基のカルボキシ側において切断する、S. aureus V8株由来の部位特異的プロテアーゼであるS−V8である。トリプシン切断の特異性については、例えば、Neurathら(1950年)Chem. Rev.46巻、70頁;Walsh and Neurath(1964年)Proc.Natl. Acad Sci. USA 52巻、884〜889頁;Walsh(1970年)Meth. Enzymol. 19巻、41頁を参照されたい。S−V8切断の特異性については、例えば、Drapeauら(1972年)J. Biol. Chem.247巻、6720〜6726頁、およびHoumard ら(1972年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA69巻、3506〜3509頁を参照されたい。トリプシンおよびS−V8は、Thermo Fisher Scientific Inc., Rockford ILの一部門のPierce、およびSigma−Aldrich, Inc., St. Louis, MOなどの様々な企業から市販されている。
【0098】
他のこのような部位特異的プロテアーゼは、当業者により容易に選択することができる。
【0099】
それに加え、該方法で有用となるには、プリオンタンパク質において、アッセイ法で使用される2種の結合パートナーが認識するエピトープ間の領域に、部位特異的プロテアーゼに対する切断部位があらねばならない。少なくとも1つのプロテアーゼ切断部位は、プロテアーゼ耐性コア領域(プリオンタンパク質のおよそ90〜231位アミノ酸)内にあり、この部位は、プリオンタンパク質がPrP形態を採る場合にだけ、部位特異的プロテアーゼにより切断され、プリオンタンパク質がPrPSc形態を採る場合には、切断されることはなかろう。該エピトープの少なくとも1つは、プリオンタンパク質のプロテアーゼ耐性コア領域にあるのが好ましかろう。少なくとも1つの他のエピトープは、プリオンタンパク質のアミノ近接領域内に位置するのが好ましく、プリオンタンパク質のオクタリピート領域内に位置するのが、より好ましかろう。好ましくは、部位特異的プロテアーゼは、プリオンタンパク質のオクタリピート領域内の部位で切断しない。オクタリピート領域の反復コア配列は、GQPHGG(G/S)(−/G)W(配列番号11)であるが、これは、様々な種からのプリオンでは若干変化し得る(オクタリピート配列を示す異なる10種のプリオンタンパク質の配列については、図1Aおよび1Bまたは2Aおよび2Bを参照されたい)。一部の文献では、オクタリピート領域の反復コア配列は、P(H/Q)GGG(−/T)WGQ(例えば、米国特許第7097997B1号を参照されたい)(配列番号12)と開示されたが、これは、本明細書に開示したオクタリピート配列を若干、移動・変化させたものであるとはいえ、両オクタリピート配列は、明らかに同じ領域に関係している。図3は、オクタリピート領域、例示的なエピトープ部位、および例示的な部位特異的プロテアーゼ切断部位を示す、PrPおよびPrPSc形態の概略表示を示す。部位特異的プロテアーゼは、ELISAで使用される2種の結合パートナー、好ましくは抗プリオン抗体が認識するエピトープ間の少なくとも1つの部位で、PrP形態を切断することになろう。したがって、PrP形態は、ELISAで検出されることはなかろう。しかし、PrPSc形態は、このイソフォームの立体構造が当該部位をプロテアーゼ切断に対して利用不能にするので、2個のエピトープ間の領域で部位特異的プロテアーゼにより切断されることはなかろう。したがつて、PrPScはELISAで検出されよう。
【0100】
プロテアーゼ処理
上記のように、分析しようとする試料は、当然ながら多量のPrPを含有し得る。PKは、PrP形態を消化して、耐性のより高いPrPSc形態を残すために、他の状況で使用されてきた。しかし、PrPScは、PK処理がこの病原型の感染性を低下させるという事実で示されるように、高濃度のPKおよび/または長い曝露時間を使用すれば、タンパク分解に対して完全には耐性でない。McKinleyら(1983年)Cell 35巻、57〜62頁を参照されたい。そのため、PK処理は、PrP形態を完全に切断するが、PrPSc形態の耐性コアを無傷で残すために、注意深く制御しなければならない。PK消化が過少であれば、残存PrP形態をを残して、検出段階で擬陽性を生じ、PK消化が過多であれば、PrPSc耐性コアを切断して、検出段階で検知不能となろう。それに加え、該病原型が複数の立体構造を採ることができるため、PrPScの特定のPK消化部位(複数も)は変化するが、PrPScのPK消化は、90〜231位残基あたりに複数のプロテアーゼ耐性断片を通常生成し、このため、この領域中のエピトープに対して向けられる抗プリオン抗体の結合が、低下または消失することもある。Tellingら(1996年)Science 274巻、2079〜2082頁を参照されたい。
【0101】
本開示では、病原型プリオンタンパク質を含有する疑いのある試料は、任意の非病原性プリオンタンパク質が実質的に完全に消化されると思われる条件下で、選定した部位特異的プロテアーゼで処理される。当業者には、適当な条件を決定するだけの能力がある。実質的に完全な消化条件は、組換えPrPを用いた試験により、容易に決定することができる。部位特異的プロテアーゼとしてトリプシンについては、通常、好ましくは1% Triton X−100および0.2M CaCl入りのTBST(50mM Tris−HCl、pH7.5、150mM NaCl、0.05% Tween 20)中で1時間、37℃に対して、トリプシン濃度50μg/ml、およびTBSS(50mM Tris−HCl、pH7.5、150mM NaCl、2%サルコシル)中で1時間、37℃に対して、トリプシン濃度10μg/mlが、共に十分である。
【0102】
非病原性プリオンタンパク質の実質的に完全な消化の後、例えば、検出に使用されることになる抗プリオン抗体の更なる何らかのプロテアーゼ消化を防止するために、部位特異的プロテアーゼを除去、不活性化または阻害しなければならない。該プロテアーゼは、1種または複数のプロテアーゼ阻害剤の添加により阻害し得る。プロテアーゼ阻害剤は、当技術分野で周知であり、それには、とりわけ、フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)、アプロチニン、ジイソプロピルフルオロリン酸(DFP)および1−クロロ−3−トシルアミド−4−フェニル−2−ブタノン(TLCK)が挙げられる。あるいは、一部のプロテアーゼは、従来手段(例えば、遠心分離、ろ過など)により反応物から容易に除去できる固定化型(例えば、アガロースマトリックス中)で入手できる。
【0103】
変性
部位特異的プロテアーゼによる試料の消化および該プロテアーゼの阻害/除去をした後、PrPScを含有する疑いのある消化済み試料は、エピトープを感度良く検出するために、変性される。
【0104】
変性は、幾つもの方法で実現することができる。一実施形態では、カオトロピック剤、好ましくはグアニジニウム化合物、例えばグアニジンチオシアネートまたは塩酸グアニジンが、3M〜6Mの間の濃度まで添加される。こうした濃度のカオトロピック剤の添加は、病原性プリオンタンパク質を変性させる。この実施形態については、カオトロピック剤は、結合パートナー、例えばELISAで使用する抗プリオン抗体のプリオンエピトープへの結合を妨害すると見込まれるので、検出を行う前に除去または希釈しなければならない。
【0105】
別の実施形態では、変性は、pHを12以上(「高pH」)へ上げること、またはpHを2以下(「低pH」)へ下げることのいずれかで、実現される。pH解離/変性技法の詳細は、その開示内容の全体が本明細書に組み込まれる、PCT/US第2006/001437号および米国特許出願第11/518091号に記載されている。未変性PrPScの高pHまたは低pHいずれかへの曝露によって、病原性プリオンタンパク質の変性が起こる。この実施形態では、PrPScの高pHへの曝露が好ましい。12.0〜13.0の間のpHが、一般に十分であり、好ましくは12.5〜13.0の間のpHが使用され、より好ましくは12.7〜12.9のpH、最も好ましくは12.9のpHが使用される。あるいは、PrPScの低pHへの曝露を、病原性プリオンタンパク質を変性させるために、使用することができる。この代替法については、1.0〜2.0の間のpHが十分である。プロテアーゼ消化試料の高pHまたは低pHいずれかへの曝露は、ほんの短時間、例えば60分間、好ましくは15分間以下、より好ましくは10分間以下、実施される。これより長く曝露すると、検出工程で使用する結合パートナーにより認識されるエピトープが破壊されるほど、病原性プリオンタンパク質の構造が相当に劣化する恐れがある。
【0106】
PrPScの変性に十分な時間曝露した後、酸性試薬(高pHの変性条件を使用した場合)または塩基性試薬(低pHの変性条件を使用した場合)いずれかの添加によって、pHを中性(即ち、約7.0〜7.5の間のpH)に容易に再調整することができる。当業者は、適当な手順を容易に決定することができ、実施例が、本明細書に記載されている。変性工程で使用する高pHまたは低pHは、小容量の適切な酸または塩基の添加により、中性に容易に再調整できるので、この実施形態によって、追加の洗浄をせず、試料容量をさほど増加させずに、検出工程、例えばELISAにおける直接使用が可能になる。
【0107】
一般に、高pHの変性条件を生み出すには、約0.05N〜約0.2Nの濃度へのNaOHの添加で十分である。好ましくは、NaOHが0.05N〜0.15Nの間の濃度へ添加され、より好ましくは0.1N NaOHが使用される。PrPScの変性が実現した後、酸性溶液、例えばリン酸、一塩基性リン酸ナトリウムを適量添加することにより、中性(即ち、約7.0〜7.5の間)にpHを再調整することができる。
【0108】
一般に、低pHの変性条件を生み出すには、約0.2M〜約0.7Mの濃度へのHPOの添加で十分である。好ましくは、HPOが0.3M〜0.6Mの間の濃度へ添加され、より好ましくは0.5M HPOが使用される。PrPScの変性が実現した後、塩基性溶液、例えばNaOHまたはKOHを適量添加することにより、中性(即ち、約7.0〜7.5の間)にpHを再調整することができる。
【0109】
変性試料は、PrPScを更に検出するために使用することができる。
【0110】
検出
変性したPrPScは、プリオン配列に特異的な少なくとも2種の結合パートナーで検出でき、一方の結合パートナーが、変性PrPScのアミノ近接領域、好ましくはオクタリピート領域にあるエピトープに特異的に結合し、他方の結合パートナーが、プロテアーゼ切断によりPrP中ではもはや利用できない、変性PrPScのプロテアーゼ耐性コアにあるエピトープに特異的に結合する。
【0111】
該方法のある種の実施形態では、結合パートナーは抗体であり、こうした中の好ましい実施形態は、ELISAを用いて実施される検出工程を有する。
【0112】
他のある種の実施形態では、該方法で使用される結合パートナーは、第1のエピトープおよび第2のエピトープに特異的なアプタマーである。
【0113】
プリオン、特にPrPまたは変性PrPに結合する抗体、修飾抗体および他の試薬は、これまでに記載されており、こうしたものの一部は市販されている(例えば、Peretzら(1997年)J. Mol. Biol. 273巻、614頁;Peretzら(2001年)Nature 412巻、739頁;Williamsonら(1998年)J. Virol. 72巻、9413頁;Polymenidouら(2005年)上記参照;米国特許第6765088号に記載の抗プリオン抗体を参照されたい)。こうしたものの一部および他のものは、とりわけ、In Pro Biotechnology, South San Francisco, CA、Cayman Chemicals, Ann Arbor MI、Prionics AG, Zurichから市販されている。修飾抗体の記載については国際公開第03/085086号も参照されたい。
【0114】
好ましい抗プリオン抗体は、病原性プリオンの変性型に結合する抗体となろう。
【0115】
特に好ましい第1の抗体は、プリオンタンパク質のオクタリピート領域内に位置する第1のエピトープに対する抗体となろう。このような抗体の例は、POM2、POM11、POM12、POM14、3B5、4F2、13F10、SAF−15、SAF−31、SAF−32、SAF−33、SAF−34、SAF−35およびSAF−37である。(例えば、Polymenidouら(2005年)Lancet Neurol. 4巻、805〜814頁;Krasemann ら(1996年)Mol. Medicine 2巻、725〜734頁;Feraudetら(2005年)J. Biol. Chem. 280巻、11247〜11258頁、米国特許第7097997B1号を参照されたい)。
【0116】
ある種の実施形態では、第1の抗体は、オクタリピート領域の外部にあるエピトープと結合しよう。こうした実施形態における例示的な第1の結合パートナーには、BAR210、BAR231および14D3などのモノクローナル抗体が挙げられる(例えば、Krasemann ら(1996年)Mol. Medicine 2巻、725〜734頁;Feraudetら(2005年)J. Biol. Chem. 280巻、11247〜11258頁を参照されたい)。
【0117】
好ましい第2の抗体は、PrPScのプロテアーゼ耐性コア領域内にあり、プロテアーゼ切断によりPrP中ではもはや利用できない、第2のエピトープを認識する抗体となろう。PrPのプロテアーゼ耐性コア領域中のトリプシンに対する第1の切断部位は、S−V8に対する相当部位と異なるので(ヒトPrPに従って付番した場合、トリプシンに対してK−106およびS−V8に対してD−144)、トリプシン消化PrPScには、S−V8に対するより、有用なエピトープが存在することになろう。
【0118】
トリプシンで消化される実施形態における例示的な第2の結合パートナーには、3F4(米国特許第4806627号)、POM1、POM4、POM5、POM6、POM7、POM8、POM9、POM10、POM13、POM15、POM16、POM17、POM19(POM抗体については、Polymenidouら(2005年)Lancet Neurol. 4巻、805〜814頁を参照されたい)、SAF−2、SAF−4、SAF−8、SAF−9、SAF−10、SAF−12、SAF−13、SAF−14、SAF−22、SAF−24、SAF−53、SAF−54、SAF−60、SAF−61、SAF−66、SAF−68、SAF−69、SAF−70、SAF−75、SAF−76、SAF−82、SAF−83、SAF−84、SAF−95、Pri308、Pri917、BAR215、BAR221、BAR224、BAR233、BAR234、Sha31、11B9、12F10(Krasemann ら(1996年)Mol. Medicine 2巻、725〜734頁;Feraudetら(2005年)J. Biol. Chem. 280巻、11247〜11258頁、米国特許第7097997B1号)、D18(Peretzら(1997年)J. Mol. Biol. 273巻、614頁)、6H4(Liuら(2003年)J. Histochem. Cytochem. 51巻、1065頁)およびBDI115(Biodesign International)などのモノクローナル抗体が挙げられる。3F4抗体は、ヒトPrPの109〜112位アミノ酸にあるエピトープMKHMを認識する。他の抗体は、ヒトPrP種に従って付番した場合、約107位アミノ酸から約231位アミノ酸までの領域内にある各種エピトープを認識する。
【0119】
トリプシンを使用する方法のある種の実施形態では、第2の結合パートナーは、PrPの球状ドメイン(即ち、PrPの約122位アミノ酸から約231位アミノ酸まで)内に位置するエピトープに特異的に結合する。こうした実施形態における例示的な第2の結合パートナーには、POM1、POM4、POM5、POM6、POM7、POM8、POM9、POM10、POM13、POM15、POM16、POM17、POM19、SAF−2、SAF−4、SAF−8、SAF−9、SAF−10、SAF−12、SAF−13、SAF−14、SAF−22、SAF−24、SAF−53、SAF−54、SAF−60、SAF−61、SAF−66、SAF−68、SAF−69、SAF−70、SAF−75、SAF−76、SAF−82、SAF−83、SAF−84、SAF−95、Pri917、BAR215、BAR221、BAR224、BAR233、BAR234、Sha31、11B9、12F10、D18、6H4およびBDI115などのモノクローナル抗体が挙げられる。
【0120】
S−V8で消化される実施形態における例示的な第2の結合パートナーには、SAF−53、SAF−54、SAF−60、SAF−61、SAF−66、SAF−69、SAF−70、SAF−75、SAF−76、Pri917、BAR234、Sha31、11B9、12F10、6H4およびPOM5などのモノクローナル抗体が挙げられる。
【0121】
他の抗プリオン抗体は、当技術分野で周知の方法により容易に生成することができる。
【0122】
本明細書における開示から、当業者であれば、第1および第2の抗体は、第1の抗体が、アミノ近接領域、好ましくはオクタリピート領域にある第1のエピトープに特異的に結合し、第2の抗体が、PrP中では切断・除去されてしまった、PrPScのプロテアーゼ耐性コアの領域内にある第2のエピトープに特異的に結合するように、選択されることが理解されよう。このようにして、部位特異的プロテアーゼによる消化の後、第1および第2の抗体により認識されるエピトープは、PrPの異なる断片上に存在する(そのため、サンドイッチELISAにおいて検出できない)が、これらのエピトープは、PrPScの単一断片上に存在する(そのため、サンドイッチELISAにおいて検出できる)ことになろう。
【0123】
一部の抗プリオン抗体は、1つまたは限定数の動物種に由来するプリオンタンパク質に特異的であり、他の該抗体は、多くの動物種に由来するプリオンタンパク質に結合できる。分析しようとする試料および試験目的に基づいて適切な抗プリオン抗体を選定することは、明白であろう。
【0124】
プロテアーゼ消化し、変性した病原性プリオンタンパク質は、好ましくは、直接ELISA型または抗体サンドイッチELISA型アッセイのいずれかとしてのELISA型アッセイで検出されるが、これらのアッセイについては以下でより十分に説明する。抗プリオン抗体による検出を述べるために、用語「ELISA」を使用するが、このアッセイは、抗体が「酵素結合」されているアッセイに限らない。検出抗体は、本明細書に記載され、免疫アッセイ技術分野で周知の検出可能標識のいずれかで標識することができる。
【0125】
該方法の好ましい実施形態では、プロテアーゼ消化し、変性した病原性プリオンタンパク質は、抗体サンドイッチ型ELISAを用いて検出される。この実施形態では、変性プリオンタンパク質は、捕捉抗体を含む固体支持体上に捕捉されるが、その抗体は、異なる実施形態において第1の抗体、第2の抗体いずれの場合もある。捕捉プリオンタンパク質を有する固体支持体は、未結合物質を除くために、場合により洗浄し、次いで、検出抗体が捕捉プリオンタンパク質に結合するのを可能にする条件下で、捕捉抗体がどんなものであるか(捕捉抗体は検出抗体と異なる)に応じて、第2の抗体、第1の抗体いずれの場合もある検出抗体と接触させる。前記サンドイッチELISAを実施する方法は、良く知られており、本明細書の実施例に記載されている。
【0126】
適切な固体支持体には、不溶性マトリックスであり、病原性プリオン特異試薬を結合または結び付けできる、剛直または半剛直な表面を有する任意の材料が含まれる。例示的な固体支持体には、それだけに限らないが、ニトロセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ラテックス、ポリカーボネート、ナイロン、デキストラン、キチン、砂、シリカ、軽石、アガロース、セルロース、ガラス、金属、ポリアクリルアミド、シリコン、ゴム、多糖類、ポリフッ化ビニル;ジアゾ紙;活性化ビーズ、磁気応答ビーズ、ならびに固相合成、親和性分離、精製、ハイブリッド形成反応、免疫アッセイおよび他のそのような応用に汎用される任意の材料が挙げられる。該支持体は、粒状でもよく、または連続表面の形態を採ってもよく、それには膜、メッシュ、板、ペレット、スライド、円板、キャピラリー、中空繊維、針、ピン、チップ、中実繊維、ゲル(例えば、シリカゲル)およびビーズ(例えば、多孔ガラスビーズ、シリカゲル、場合によりジビニルベンゼンで架橋したポリスチレンビーズ、グラフト化コポリビーズ、ポリアクリルアミドビーズ、ラテックスビーズ、場合によりN−N’−ビス−アクリロイルエチレンジアミンで架橋したジメチルアクリルアミドビーズ、酸化鉄磁気ビーズ、ならびに疎水性ポリマーをコートしたガラス粒子などの基質が挙げられる。第1の抗体に対する好ましい固体支持体は、マイクロタイタープレートである。
【0127】
好ましくは、サンドイッチELISAにおける捕捉抗体または検出抗体のいずれかは、プリオンタンパク質のオクタリピート領域内にあるエピトープを認識する。幾つかの実施形態では、検出抗体は検出可能に標識される。更なる実施形態では、検出抗体は酵素で標識される。
【0128】
他のある種の実施形態では、該方法に使用される結合パートナーはアプタマーである。アプタマーは、抗体の分子認識性を有する核酸である。アプタマーは、抗体より小さく、抗体ほど複雑ではないため、製造および修飾をより容易にし得る。(例えば、Osborneら(1997年)Curr. Opin. Chem. Biol. 1巻、5〜9頁;Bunkaら(2006年)Nat. Rev. Microbiol. 4巻、588〜596頁を参照されたい)。タンパク質エピトープに特異的なアプタマーを生成する方法は、容易に入手できる(例えば、Tuerk and Gold(1990年)Science 249巻、505〜510頁;Coxら(1998年)Biotechnol Prog. 14巻、845〜850頁;Coxら(2002年)Nucleic Acids Res. 30巻、e108頁を参照されたい)。アプタマーは、検出容易な活性を有する酵素に結合することができる(例えば、Droletら(1996年)Nat. Biotechnol、14巻、1021頁を参照されたい)。
【0129】
病原性プリオンに対する上記の検出法のいずれも、任意の試料においてプリオン関連疾患を診断する方法において使用することができる。
【0130】
本明細書に記載の方法で使用するために、試料は、病原性プリオンタンパク質を含有することが知られている、または疑われる任意の試料でもよい。幾つかの実施形態では、試料は、生体試料(即ち、生存中または死後の生物体)または非生体試料である。幾つかの実施形態では、試料は生体試料である。生体試料の非限定的例は、臓器(例えば、脳、肝臓および腎臓)、細胞、全血、血液分画、血液成分、血漿、血小板、血清、脳髄液(CSF)、脳組織、神経系組織、筋肉組織、筋肉および脂肪組織(例えば、肉)、骨髄、尿、涙、非神経系組織、生検、剖検、生存中または死後の生物体から供給される食物、ならびに植物材料などの他の任意の有機物である。幾つかの実施形態では、生体試料は、全血、血液製剤、血液分画、血液成分、血漿、血小板、赤血球または血清を含む。生体試料は、血液の提供もしくはスクリーニング、生検、検視もしくは剖検などの保健関連の手順中に、または動物の選択および屠殺ならびに最終製品の品質保証試験などの食品調製の工程もしくは手順中に得ることができる。幾つかの実施形態では、試料は非生体試料である。非生体試料の非限定的例には、医薬品、化粧品およびパーソナルケア製品、汚染機器、ならびに生存中または死後の生物体以外から供給される食物などが挙げられる。
【0131】
適切な対照も、本明細書に記載のアッセイで使用することができる。例えば、PrPの陰性対照が、該アッセイで使用することができる。PrPSc(またはPrPres)の陽性対照も、該アッセイで使用することができる。このような対照には、場合により検出可能に標識することができる。
【0132】
キット
部位特異的プロテアーゼ、プロテアーゼ阻害剤(任意選択)、変性剤(または変質剤、任意選択)、抗体などの抗プリオン結合パートナーなどを含む上記のアッセイ試薬は、上記の検出アッセイを行うために、適切な使用説明書および他の必要試薬と共に、キットに入れて提供することができる。該キットは、上記のように、適切な陽性および陰性対照を更に含有し得る。該キットは、使用する特定の検出アッセイに応じて、適切な標識、ならびに他の包装入り試薬および材料(即ち、洗浄緩衝液など)を含有することもできる。
【実施例】
【0133】
本明細書に開示した発明をより効率的に理解できるように、実施例を以下に示す。こうした実施例は、例示だけを目的としており、本発明をいかようにも限定しようとするものではないことを理解されたい。
【0134】
(実施例1)
3F4凍結乾燥プレートのコーティング
以下に示す幾つかの実施例における捕捉抗体として、市販のモノクローナル抗体3F4(Covance Research Products, Inc.)を使用した。これは、ヒトプリオンタンパク質のプロテアーゼ耐性コア領域に位置する、109〜112位残基(アミノ酸MKHM)を特異的に認識する。それをコーティング緩衝液(0.1M NaHCO、pH8.9)中で2.5μg/mLに希釈し、撹拌しながら室温(RT)で5分間インキュベートした。希釈抗体3F4を、150μL/ウェルの容量でThermo Labsystem MicroLite 2+の各マイクロプレートに添加し、次いで湿気を含んだラップ密封トレー中でRTで終夜インキュベートした。プレートは、BioTek Elx450洗浄器上でTween 20入りTris緩衝塩水(TBST、50mM Tris−HCl、pH7.5、150mM NaCl、0.05%Tween 20)で3回洗浄した。次いで、ブロッキング緩衝液(3%スクロース入りTris緩衝塩水(TBS、50mM Tris−HCl、pH7.5、150mM NaCl)中に0.01×BlockerCasein)を、BioTek Elx450洗浄器上で300μL/ウェルの容量でプレートに分配し、RTで1時間インキュベートした。プレートは、16℃で終夜凍結乾燥し、各プレートを乾燥剤3個入りのパウチ中に入れ、二重に密封し、4℃で保存した。一般に、すべての被覆プレートは、使用前に、37℃で1時間、0.02%カゼインでブロックした。
【0135】
(実施例2)
正常ヒト血漿試料のトリプシン消化
(A)トリプシンによる血漿の消化
トリプシンが、PrPを分解し、ELISAによるその検出を不能にするか否かを試験するために、TBST中の10%正常ヒト血漿を、増加するトリプシン濃度で処理した(表1)。この実施例および以下の実施例で使用したトリプシンは、Pierce(TPCK Trypsin、カタログ番号20233)から得た。消化物は、200rpmで振とうしながら37℃で1時間、インキュベートした。消化は、プロテアーゼ阻害剤のフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF、最終濃度1mM)を添加し、RTで15分間、インキュベーションすることにより停止させた。トリプシン処理試料は、1%(正常ヒト血漿に対し)に希釈し、150μLをELISA用の各ウェル中で使用した。
【0136】
(B)PrPのELISA分析
捕捉抗体として3F4、およびアルカリホスファターゼ(AP)にコンジュゲートしたPOM2抗体(Polymenidouら、上記)による検出を用いて、光検出のために化学発光基質を用いたサンドイッチELISAにより、PrPの有無について試料を試験した。POM2は、59〜91位残基内にあるオクタリピートエピトープを特異的に認識する。
【0137】
手短に言うと、トリプシン処理血漿試料をTBST中1%(元のヒト血漿に対し)に希釈し、150μL/ウェルの容量で3F4被覆プレートへ移した。プレートを400rpmで振とうしながら37℃で1時間、インキュベートした後、TBSTで6回洗浄した。APコンジュゲートPOM2検出抗体(0.01μg/mL)を150μL/ウェルの容量でプレート中に添加し、37℃で1時間、インキュベートした。プレートを再びTBSTで6回洗浄した。最後に、0.05%SDS入りLumi−Phos Plus基質150μL/ウェルをプレートに添加し、37℃で30分間、インキュベートし、シグナルをマイクロプレートルミノメーターで読み取った。その結果を表1に示し、測定単位を相対発光量(RLU)で規定している。
【0138】
【表1】

この結果は、トリプシンがヒト血漿中のPrPを消化し、PrPの検出が、より高いトリプシン濃度で処理した試料では無効になったことを示している(表1)。検出PrPレベルとトリプシン濃度との間に用量応答が見出された。トリプシン濃度400μg/mLでは、PrPレベルが、バックグランドレベルの1/100に低下した。
【0139】
(実施例3)
シリアンハムスターの正常脳ホモジェネート試料のトリプシン消化
この実施例では、シリアンハムスター(SHa)の正常脳ホモジェネート(BH)中に存在するPrPのトリプシン消化を試験した。
【0140】
10%のSHa BH(w/v)5μLを、1% Triton X−100および0.2M CaCl入りのTBST中で、750rpmで振とうしながら37℃で1時間、増加するトリプシン濃度(表2)でトリプシン5μLと混合した。各消化試料をTBS140μLの添加により希釈し、100mM PMSF1.5μl/ウェルの添加(最終PMSF濃度1mMとする)、および750rpmの振とうを伴うRTで10分間のインキュベーションによって、消化を停止させた。
【0141】
トリプシン消化SHa BH試料は、実施例2に記載のように、捕捉抗体として3F4、およびAPコンジュゲートPOM2抗体による検出を用いたサンドイッチELISAにより、PrPの有無について試験した。消化溶液各150μLを3F4被覆マイクロプレートの各ウェル中へ移し、300rpmで振とうしながら37℃で1時間、インキュベートした。プレートをTBSTで洗浄し、0.01×カゼイン−TBST中のAPコンジュゲートPOM2 0.01μg/mLを150μL/ウェルで添加し、37℃で1時間、インキュベートした。基質を添加し、実施例2に記載のように、プレートをマイクロプレートルミノメーターで読み取った。その結果を表2に示す。
【0142】
【表2】

ヒト血漿の結果と同様、トリプシンは、SHa脳ホモジェネート中のPrPを消化し、PrPの検出は、やはり無効になった(表2)。血漿とは対照的に、脳ホモジェネート中のPrPの効率的分解が、血漿中のPrPの効率的分解に必要なトリプシン濃度より遥かに低い、トリプシン濃度25μg/mLで実現された。
【0143】
(実施例4)
シリアンハムスターの脳ホモジェネート試料のトリプシンおよびPK消化、ならびにPOMおよび3F4抗体による検出
この実施例では、異なる4対のモノクローナル抗体ならびにPKおよびトリプシンの濃度1点を用いて、シリアンハムスターの病原型プリオンPrPScのELISA検出に対する、トリプシンおよびPK消化の効果を比較した。
【0144】
(A)トリプシンまたはPKによるSHa BHの消化、および消化試料の変性
5%のSHa BH試料(正常または感染)2μLを、同一濃度の25μg/mL、各最終反応容量2μLのトリプシンまたはPKで、37℃で1時間処理した。消化は、PMSF(2mM、RTで10分間)で停止させた。
【0145】
抗体のPrPScに対する最大限の結合を確保するために、試料を塩酸グアニジン(GdnHCl)で変性させた(最終濃度3M、RTで1時間)。次いで、変性試料を0.1M GdnHClに希釈し、様々なmAbで被覆したELISAプレートに添加した。
【0146】
(B)PrPScのELISA分析
マイクロプレートを、0.1M NaHCO、pH8.9中、2.5μg/mLのmAbとして3F4、POM2またはPOM17の150μLで、4℃で終夜コーティングした。使用前に、プレートを0.02%カゼインで37℃で1時間ブロックした。POM17は、約90〜231位残基のプロテアーゼ耐性断片内にあるエピトープ、特に、約122〜231位残基の球状ドメイン内にあるエピトープを認識する。
【0147】
プロテアーゼ消化した後、変性したSHa BH試料を、3F4、POM2またはPOM17で被覆したプレートへ、最終容量150μL/ウェルで移した。プレートを300rpmで振とうしながら37℃で1時間、インキュベートした後、TBSTで洗浄した。共に最終濃度0.01μg/mLのAPコンジュゲートPOM2(POM2AP)またはAPコンジュゲートPOM17(POM17AP)を、最終容量150μL/ウェルでプレート中に添加し、37℃で1時間、インキュベートした。プレートを再びTBSTで洗浄し、Lumi−Phos Plus基質を添加し、37℃で30分間、インキュベートし、実施例2に示すように、シグナルを読み取った。このサンドイッチELISA実験の結果を表3に示す。
【0148】
【表3】

表3に示した結果から、PKは、トリプシン消化試料と比較して、全例において検出シグナルを低下させることが判明した。感染脳ホモジェネートにおける検出抗体または捕捉抗体のいずれかとしてPOM2を使用したとき(1、3および4行目)、トリプシンおよびPKの消化試料間で70%超の低下が認められた。例えば、3F4/POM2AP(捕捉/検出)で得たシグナルは、2370から527RLUへ低下した。同様な比率のシグナル低下が、POM2/POM17APよびPOM17/POM2APについても認められた。シグナル低下の原因は、POM2に認識され、23〜89位残基内にあるオクタリピートエピトープのPK消化である。
【0149】
感染脳ホモジェネート試料をPKで処理し、3F4/POM17APで検出したとき、これらの抗体に対するエピトープがプロテアーゼ耐性コア中にあっても、シグナルの20%低下も認めた。このシグナル低下は、制限されたPK消化でも、90〜231位のプロテアーゼ耐性断片に影響し得ることを示唆している。PrPのオクタリピート領域に特異的に結合するPOM2を、トリプシン消化後の検出抗体として使用したとき、最高の読取値が認められたことは、注目に値する。POM2を捕捉抗体として使用したとき、2番目に高い読取値が認められた。結論として、4個のオクタリピートの存在下で、POM2は、複数のエピトープに結合し、そのため、1個だけのエピトープを認識するPOM17、3F4などの抗体より強力な結合を有する。
【0150】
(実施例5)
様々な種のPrPに対する抗PrP抗体のスクリーニング
オクタリピート領域に対するモノクローナル抗体のSAF−32を含め、表4に示すような多数の抗PrP抗体について、様々な動物種の組換えPrP(rPrP)およびマウスPrPScに対する結合能をスクリーニングした。
【0151】
【表4】

(A)各種PrPによるプレートのコーティング
こうした工程の後で、幾つかのマイクロプレートをウシ、シカ、ヒト、ヒツジまたはマウスの組換えPrP(rPrP)でコーティングした。各rPrPを、1、0.1、0.01および0.001μg/mlに希釈し、3Mグアニジンチオシアネート(GdnSCN)中で変性させ、RTで10分間インキュベートし、変性rPrPの100μl/ウェルを96ウェルプレートに2ウェルずつ添加した。次いで、各ウェルに0.1M NaHCO、pH8.8を100μl添加し、プレートを4℃で終夜インキュベートした。
【0152】
こうした工程の後で、他のマイクロプレートはマウスBHのPrPScでコーティングした。PrPSc感染マウスBH(400μLの10%BH)を、1% Tween 20および1% Triton X−100を入れたTBS中で融解し、4℃で1時間の遠心20000rpmで沈降させた。その沈澱をpH7.5のTBS1mLで各々洗浄し、4℃で10分間の遠心20000rpmで再沈降させた。そのペレット各々を3MのGdnSCN 4mL中に再懸濁させて、最終濃度を1%BHに到達させ、RTで15分間で変性させた。変性BH試料を3MのGdnSCN中0.1%、0.01%および0.001%に希釈し、各濃度のBHを100μl/ウェル、プレートに二重に添加した。0.1M NaHCO3、pH8.8の100μl/ウェルを、BH試料の各ウェルに添加した。インキュベーションを4℃で終夜行った。
【0153】
(B)各種抗体の被覆PrPに対する結合を検出するためのELISAアッセイ
各プレートをTBSTで3回洗浄した。次いで、各ウェルを200μLのTBS中3%BSAでブロックし、37℃で1時間インキュベートした。緩衝液を吸引した後、スクリーニングしようとする一次抗体100μL/ウェルを、1%BSA入りTBS中に0.5μg/mlで添加し、プレートを37℃で2時間インキュベートした。プレートをTBSTで6回洗浄した後、スクリーニングされる一次抗体に結合し、1%BSA入りTBS中に1:5000で希釈された、APコンジュゲート二次抗体100μL/ウェルを添加した。プレートを37℃で1時間インキュベートし、TBSTで6回再び洗浄した。0.05%SDS入りLumi−Phos Plus基質100μL/ウェルを添加し、37℃で30分間、インキュベートした。シグナルをルミノメーターで読み取り、各PrPの異なる被覆量2点、即ち、各rPrPに対してアッセイ当たり0.1ngおよび1ng、ならびにマウスBHのPrPScに対してアッセイ当たり0.1mgおよび1mgに関する結果を表5に示す。
【0154】
表5における結果は、オクタリピート領域を特異的に認識するSAF−32が、試験したすべての動物種、即ちウシ、シカ、ヒト、ヒツジおよびマウスのPrPタンパク質に結合したことを示す。SAF−32の最強の結合は、ウシ、シカ、ヒトおよびヒツジのrPrPに対する結合であった。この結果は、SAF−32と脳ホモジェネート中のマウスPrPScとの間にも、相当程度の結合を示した。
【0155】
【表5】

(実施例6)
プロテアーゼ処理し、変性を伴うまたは伴わない、ヒト正常またはvCJD BH試料におけるPrPのSAF−32および3F4AP抗体を用いた検出
この実施例では、ヒト正常またはvCJD感染BH試料をトリプシンまたはPKで処理し、次いで変性させるか、または変性させないままにした後、捕捉抗体としてSAF−32および検出抗体として3F4APを用いて検出した。
【0156】
マイクロプレートを、0.1M NaH2CO3、pH8.8中で希釈した3.3μg/mLのSAF−32を150μLでコーティングした。プレートを4℃で終夜コーティングし、TBSTで洗浄し、使用前に、37℃で1時間、1%カゼインでブロックした。
【0157】
10%ヒト正常またはvCJD BH試料(w/v)1μlを、トリプシンまたはPKの最終濃度が25μg/mLとなるようにトリプシンまたはPKを有する、TBSTT(TBS、1% Tween 20および1% Triton X−00)の1μLに添加した。プロテアーゼによる消化を37℃で10分間、実施した後、2mMのPMSFで停止させた。消化試料を変性させないままか、または4MのGdHClによりRTで1時間変性させた。非変性試料は、TBSTで150μLに希釈した。変性溶液は、最終濃度が0.1MのGdHClとなるように、TBSTで150μLに希釈した。試料を、SAF−32(Cayman Chemicals)で被覆したマイクロプレートに、容量150μL/ウェルで4℃で終夜の間添加した。プレートをTBSTで洗浄し、0.1μg/mLのAPコンジュゲート3F4(Covance Research Products/Signet Labs)の150μLを各ウェルに添加した。37℃で1時間インキュベーションした後、プレートを洗浄し、Lumi−Phos Plus基質を添加し、37℃で30分間インキュベートした後、既述した実施例に示すように、シグナルのレベルをルミノメーターで測定した。測定単位は、相対発光量(RLU)で規定される。結果は、表6および図4に示されており、vCJD試料と正常試料との結果の比率を計算し、表7に示してある。
【0158】
【表6】

【0159】
【表7】

結果に示すように、トリプシンまたはPKによる処理は、正常組織中のPrPを大部分またはすべて消化し、検出は、変性後にようやく50.4RLU以下であった。非変性vCJD組織は、何ら有意の読取値を示さなかった。したがって、SAF−32および3F4の抗体併用によるPrPScの効率的検出には、PrPScの変性が必要であると結論することができる。
【0160】
それに加え、本実施例における結果は、vCJD BH試料のトリプシンによる処理と、その後の変性が、正常BH試料で検出されるシグナルより32倍高い、1653RLUの強いシグナルを生じることを示した。PKによるvCJD試料の同様な処理は、トリプシン処理と比較して、226RLUの遥かに低いシグナルを生じており、このシグナルは、PK処理正常試料で検出されるシグナルより12.5倍高い。この実施例も、PrPScN末端中のオクタリピート領域内で切断するPK消化後のPrPScの検出は、オクタリピート領域に影響しないトリプシン処理後のPrPScの検出より劣ることを示している。この効果は、共にオクタリピート領域に結合する異なる2種の抗体、POM2およびSAF−32を用いた、本実施例および実施例4において今や認められる。この知見により、トリプシン処理と組み合わせた、オクタリピート領域に対する各種抗体の使用が、単一エピトープに対する抗体の使用および/またはPK処理より、PrPSc検出の感度増加を起こすことが示唆される。
【0161】
(実施例7)
様々な消化条件下における、トリプシンおよびPKによるシリアンハムスター脳ホモジェネートの消化比較
最近の報告(米国特許第7097997B1号を参照されたい)では、PKで軽く処理すれば、PrPを効率的に除去すると同時に、PrPScのオクタリピートエピトープのすべてまたは一部を保持し、オクタリピートに結合する抗体の使用により、検出を増強できるのではないかと示唆されている。本実施例における2つの実験の目的は、シリアンハムスター(SHa)の脳ホモジェネート(BH)からPrPを除去すると同時に、SHaのPrPSc検出の感度を維持する上でのPK消化の有効性を、トリプシン消化を用いる本発明の方法と、様々な消化条件下で比較することである。
【0162】
SHaの10%正常またはスクレイピー感染BH(w/v)1μLの消化を、トリプシンまたはPKの増加する量(0〜100μg/mL)で、1% Tween 20、1% Triton X−100および0.02M CaClを含むTBS50μL中、37℃で10分間行なった。各消化を、RTで15分間、2mMのPMSFで停止させ、0.1N NaOHの75μLで10分間変性させ、次いで0.3M NaHPOの30μLで、RTで5分間中和した。
【0163】
マイクロプレートを、0.1M NaHCO、pH8.9中で希釈した2.5μg/mLの3F4の150μLで、4℃で終夜コーティングし、TBSTで洗浄し、使用前に0.1%カゼインでブロックした。
【0164】
消化試料各150μL/ウェルを、ELISAアッセイのために3F4被覆プレートに添加した。プレートを4℃で終夜インキュベートし、TBSTで洗浄し、検出抗体のPOM2AP(0.01μg/mL)またはPOM17AP(0.1μg/mL、アッセイ感度がPOM2と同等になるように)150μLをウェル毎に添加した。37℃で1時間のインキュベーション後、プレートを洗浄し、基質(Lumi−Phos Plus)を添加し、37℃で30分間インキュベートし、前の実施例に示すように、シグナルのレベルをルミノメーターで測定した。測定単位は、相対発光量(RLU)で規定される。
【0165】
POM2APで行なった実験の結果を表8および図5に示し、POM17APの結果を表9および図6に示す。両実験(POM2APおよびPOM17AP)に対するシグナル/正常比の計算を行い、表10に示す。
【0166】
【表8】

【0167】
【表9】

【0168】
【表10】

表8および図5に示すように、POM2APで検出したとき、プロテアーゼで全く処理していない正常BH試料は、高いPrP含量のために2000RLUあたりのシグナルを有する。トリプシン50μg/mLで処理すると、この値が3RLUのバックグランドレベルに低下した。スクレイピー感染BH試料をトリプシン50μg/mLで同様に処理すると、検出レベル1544RLUが得られ、正常に対するスクレイピー感染シグナル(S/N)は447倍であり、トリプシン100μg/mLで処理すると、S/Nは346倍となった。PK50μg/mLで処理すると、S/Nは73倍に過ぎず、PK100μg/mLでは、スクレイピー感染シグナルが大部分消失し、S/Nは17.5倍であった。
【0169】
表9および図6に示すように、POM17APで検出したとき(POM2APより10倍高い濃度で)、スクレイピー感染試料におけるPrPScの検出は、トリプシン50μg/mLで処理後に最大で、S/N560で示されるのに対し、PKによる最良の検出は、PK10μg/mLでのS/N229であった。PK100μg/mLでは、スクレイピー感染シグナルが4.7RLUに弱まり、PrPScのプロテアーゼ耐性コアの完全な分解が示唆された。同様なトリプシン濃度100μg/mLでは、RLUが345であった。
【0170】
POM2APまたはPOM17APのいずれかを用いた、表10に要約したような結果から、PrPScの検出は、所与の任意のプロテアーゼ濃度で、PKよりトリプシンを用いた方が良好に観察され、トリプシン消化試料のより高いS/N値で示された。
【0171】
PKで消化し、POM2APで検出した場合、スクレイピー感染SHa BHにおけるPrPScの検出レベルは、低いS/N値で示されるように最低であった。同じ試料をPOM17で検出した場合、シグナルは、最適PK濃度で約4倍高かった。以上の結果は、PrPScのプロテアーゼ耐性特性に関して知られており、予想される結果と合致している。即ち、90〜231位残基は、穏和なプロテアーゼ消化に耐性があり、そのため、この領域内にエピトープを有するPOM17のような抗体で検出できるのに対し、23〜90位N末端は、敏感であり、オクタリピート領域に結合するPOM2およびSAF−32のような抗体は、その結合部位を失うことになろう。PKの濃度を上げるにつれ、N末端および90〜231位のプロテアーゼ耐性コアが、同時に消化されることも明らかである。したがって、米国特許第7097997B1号で提案されたような目標を実現するためには、PKの濃度に対して入念に力価を決定しなければならない。インキュベーションの時間および温度は、酵素活性に影響すると見込まれるので、各試験を特定の条件に合わせる必要があり、それを手の掛かる不安定なプロセスにする。別レベルの複雑さは、PKの調製、バッチおよび起源の違いに伴う酵素比活性の変動である。
【0172】
トリプシン処理には、PKと同じ制約がない。オクタリピート領域が無傷のままであったので、POM2のような高アビディティの抗体を使用することができる。PKが23〜89位の残基内で切断する一方、トリプシンは、23〜48位の残基内だけで切断し、49〜89位の残基を残すが、該残基は、90〜231位のプロテアーゼ耐性コアの他に検出に利用できる、オクタリピート領域を含有する(図1Aおよび1B)。したがって、本発明者らは、検出感度の向上のために、異なる検出抗体を一緒に混合し、同時に使用できることを提案する。例えば、POM2およびPOM17は共に、APなどの標識とコンジュゲートにすると、3F4などの別の抗体を用いてトリプシン消化PrPScを捕捉する場合、検出抗体として同時に使用することができる。
【0173】
それに加え、トリプシン100μg/mLでは、S/N値が依然として100を超えるので、PrPScは、PKよりトリプシンに対して耐性が高いように見える。このことは、PKが、PrPSc量およびプリオン感染力を数ログ低下させるのに対し、トリプシンは低下させないことを示した以前の研究と合致している(McKinleyら(1983年) Cell 35巻、57〜62頁)。POM2APで検出した試料のうち、PK50μg/mLで処理した試料ではS/Nが73であるのに対して、同濃度のトリプシンで処理した試料ではS/Nが448であり、PKの使用と比較してトリプシンの使用は6倍の改善を示す。POM17APで検出した場合、トリプシン50μg/mLで25倍超(415対17RLU)の改善が認められ、トリプシン20μg/mLで2倍超(560対203RLU)の改善が認められた。したがって両方の抗体に対して、トリプシン処理の方が良好な検出を示した。POM2APは、0.1μg/mlで使用されたPOM17APと比較して、0.01μg/mlで使用されたが、検出量は同等であったことに留意されたい。
【0174】
(実施例8)
トリプシンは、ほぼ全長のPrPScを保持しながらPrPを消化する
トリプシンがPrPおよびPrPScに対して異なった消化をすることを確認するために、以下のように免疫ブロットアッセイを実施した。
【0175】
全長成熟PrP配列、PrPScのPK耐性コア、およびPrPのトリプシン切断部位マップの概要が、図7Aに示されている。
【0176】
感染性ヒトvCJDおよびsCJDのBH試料を、英国の国立生物学的製剤研究所(NIBSC)CJD資料センターから入手したが、これらは、それぞれ白色vCJD(MM)、赤色sCJD(MM)および黄色sCJD(MV)の系統に対応する。正常な脳ホモジェネートは、患者NRPE327に対応する、チューリッヒ大学の血管性脳症患者から得られた。正常または感染ヒトBH試料25μgを、0.5% Tween 20、0.5% Triton X−100および5mM CaClを含む0.5×TBS中、トリプシンまたはプロテイナーゼK(PK)50μg/mlで、37℃で1時間消化させた。比較のために非消化試料10μgと平行に、試料を12%SDS−PAGEで分離し、抗PrP抗体(3F4、POM2またはPOM17)で免疫ブロットした。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲートヤギ抗マウス抗体を用いて、ウェスタンブロットを検出した。化学発光像は、Kodak Image Station 4000MMにより得た。結果を図7Bに示す。
【0177】
それに加え、正常またはvCJDヒトBH試料を、トリプシンの増加する濃度で消化し、POM2、3F4またはPOM1抗体について別々に上記したのと同じように、免疫ブロットすることにより分析した。POM1は、プロテアーゼ耐性コア内のエピトープ、特に、約122〜231位残基の球状ドメイン内のエピトープを認識する。その結果を図8に示す。
【0178】
消化物の免疫ブロット分析から、トリプシン耐性PrPSc断片(約49〜231位であると予想される)は、PK耐性断片(約90〜231位)より大きく、分子の実質的部分が保持されていることが示された(図7B、3F4およびPOM17のブロット)。重要なことには、ヒト組換えPrP23−231の質量分析で、トリプシンが、PrP配列で予測される全部位で切断できることが実証され、したがってトリプシン部位が、PrPScでは真に立体構造的に保護されていることが確認された(データは示していない)。更なる調査により、PKではなく、トリプシンによる消化は、POM2抗体が認識するPrPオクタペプチドリピートを保持することが明らかとなった(図7B、POM2ブロット)。
【0179】
対照的に、PrPは両プロテアーゼにより消化され、POM2(約59〜89位残基)または3F4(約109〜112位残基)によりもはや検出されなかった(図7Bおよび図8、正常試料のレーン)。しかし、POM17またはPOM1でPrP消化物を免疫ブロットした(ヘリックス1に対して、約144〜155位残基)とき、約25kDaのトリプシン耐性断片が観察された。PrPの構造が、非構造化アミノ末端に続く球状ドメイン(約122〜231位)で構成されている(Zahn, R.ら(2000年)Proc Natl Acad Sci USA 97巻、145〜150頁)ことを考慮すると、25kDaトリプシン断片は、適正な分子量であり、POM1およびPOM17で検出されたが、POM2または3F4で検出されなかった(図7B、8)ので、恐らくは球状ドメインを含んでいた。興味深いことに、このことから、球状ドメインは、緊密に折り畳まれており、POM17/POM1エピトープ内のトリプシン切断部位(R148およびR151)は、溶液構造中に出現する状態(Zahn, R.ら(2000年)Proc Natl Acad Sci USA 97巻、145〜150頁)とは異なり、切断には利用できないことが示唆されよう。このドメインの消化に対する耐性に関して理解を深めるために、正常またはvCJDの両BHをトリプシンの増加する量で消化した。試験したトリプシン濃度のいずれでも、POM2または3F4のいずれによってもPrPが検出されなかったので、PrPのアミノ末端配列は、極めて不安定であることが判明したが、PrPの球状ドメインおよびvCJDのBH由来のPrPScは、消化に耐性を示した(図8、POM1)。その上、トリプシン消化したPrPScおよびPrPの移動パターンは、大きく異なったため、PrPScおよびPrPのトリプシン耐性断片を識別することができた。したがって、トリプシン消化は、PrPとPrPScとを分別する妥当な方法であると結論される。
【0180】
(実施例9)
トリプシン消化に対するCJD系統の安定性の測定
PKは、PrPScの立体構造における系統依存的多様性を特徴付けるために汎用されてきた。こうした差は、1型および2型のsCJDについて認められるように、プロテアーゼに対する感受性およびアミノ末端切断部位の変化として明示される。しかし、トリプシンによる消化は、切断部位が既知であり、幾つかの部位は、特性の明確な抗体エピトープ内にあるという特有の利点を有する(図9A)。したがって、タンパク分解切断に対する特定のPrP配列の感受性を評価することができよう。そこで、正常(129MM)、vCJD(129MM)および散発性CJD(sCJD)(129MMおよび129MV)に対して、プロテアーゼの増加する量でトリプシンまたはPKによる消化の後、残存PrP配列の検出を試みた。
【0181】
2%サルコシル入りのTBS(TBSS)中で希釈した1%BH(約1mg/mlの総タンパク質)を、0、1、10または100μg/mlのトリプシンまたはPKで37℃で1時間消化した。消化を、2mMのPMSFおよびTBS4倍容中のComplete Miniプロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche, Indianapolis, IN)の添加で停止させた。次いで、試料を直接ELISAにより検出した。消化済み10%BHおよそ500nlを、14000rpmで4℃で30分間遠心した。PrPScペレットを6M GdnSCN中に再懸濁し、等容量の0.1M NaHCO、pH8.9で希釈し、ELISAプレートに終夜で受動的にコーティングした。プレートをTBS中の0.1×BlockerCasein(Pierce)中でブロックし、被覆PrPを、0.1μg/mlの3F4、POM2またはPOM17抗体、およびアルカリホスファターゼ(AP)コンジュゲートヤギ抗マウス抗体(Pierce)により検出した。すべての試料は、ELISAにより三重に分析し、抗体インキュベーションの間にTBS 0.05%Tween 20で6回洗浄した。最後に、0.05%SDS入りLumiphosPlus基質(Lumigen, Southfield, MI)をウェルに添加し、37℃で30分間インキュベートした後、発光をLumiskanルミノメーター(Thermo Electron Corporation, Waltham, MA)により測定した。正常およびvCJD BH試料の生データを図9Bに示すが、vCJD MM、sCJD MMおよびsCJD MVの規格化データ(感染−正常、RLU)は図9Cに示す。
【0182】
注目すべきことに、正常、感染両BHの非消化試料のペレット中には、PrP由来シグナルが殆ど存在せず、わずか1μg/mlのプロテアーゼで完全に消失した(図9B)。更に、PrPの約25kDaのトリプシン耐性断片は、ペレット中に検出されず、このドメインが、遠心中に溶液中に残っていることを示唆した(図9B、POM17)。
【0183】
vCJD BHのPrPScを調べたとき、エピトープのトリプシン対PKへの曝露に有意差が見出された。3F4エピトープは、いずれのプロテアーゼを利用しても同じ割合で保持されたが(図9B、3F4)、POM2エピトープは、劇的に異なる結果を示した。オクタリピートは、トリプシン濃度の高いときにだけ切除されたが、PK消化により急速に消失した(図9B、POM2)。各プロテアーゼが保持するPrPSc量を直接比較するために、正常BH中に検出されるPrPSc由来シグナルを感染試料の各々から差し引くことにより、規格化シグナルを得た(図9C、感染−正常)。その図に示されるように、トリプシン100μg/mlで消化した後、POM2により検出されるvCJDまたはsCJDにおける規格化シグナル量は、PKわずか1μg/mlで消化した後の同じCJDにおける検出量より高いか、またはほぼ同じである。この比較によって、トリプシン消化は、オクタリピート領域内にトリプシン切断部位がないので、PKより多くのPOM2検出PrPScを明らかに保持していた。
【0184】
興味深いことには、PrPScコア粒子のPOM17検出によって、ヘリックス1の圧倒的大部分、即ちPOM17が認識するエピトープを含有する領域は、試験したどのトリプシン濃度でも耐性を示す(図9C、POM17)ことが明らかとなり、R148およびR151が立体構造的に保護されていることが示唆された。しかし、PKは、以前の報告(Aguzzi and Polymenidou、(2004年)Cell 116巻、313〜327頁を参照されたい)と一致して、プロテアーゼ濃度の増加と共にPOM17検出PrPScを消化した。
【0185】
実施例8に示した免疫ブロットの分析結果を合わせて考えると、以上の結果は、プロテアーゼの特により高い濃度におけるPrPScのトリプシン消化によって、一方の集団が約49〜231位の残基を包含すると予想される長い断片であり、他方の集団が、約111〜231位の残基を包含し、3F4エピトープおよびオクタリピートを欠いている、2集団のトリプシン耐性断片が生成されることを示唆している。結論として、本発明者らは、3F4エピトープは、トリプシンまたはPKによる切断に等しく曝されているが、オクタリピートおよびヘリックス1領域などの他の配列は、トリプシン消化において特異に保持されており、トリプシンがPrPScの分析に理想的なツールであることを見出している。
【0186】
(実施例10)
各種ヒトCJD系統の脳ホモジェネート試料のトリプシンおよびPK消化、ならびにPOMおよび3F4抗体による検出
この実施例では、シリアンハムスターBH試料の代わりに数種のヒトBH試料に関して、実施例7に記載の実験に類似した実験を行った。vCJD(M/M)、sCJD(M/M1)およびsCJD(M/V2)を含む、正常または各種CJD感染ヒトBH試料を、トリプシンまたはPKの増加する濃度で消化し、サンドイッチELISAで検出した。トリプシン消化によるオクタリピート領域の保持が、PrP検出を増強できるか否かを確かめるために、オクタリピート領域の検出抗体であるPOM2APを、非オクタリピート領域に対する別の検出抗体であるPOM17APと同じ濃度で使用し、それと比較した。実施例7では、POM2APをPOM17AP濃度の1/10で使用した。
【0187】
2%サルコシル入りのTBS(TBSS)中で10倍に希釈した10%BHを、0、1、10または100μg/mlのトリプシンまたはPKで37℃で1時間消化した。消化を、2mMのPMSFおよびTBS4倍容中のComplete Miniプロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche, Indianapolis, IN)の添加で停止させた。次いで、試料をサンドイッチELISAにより検出した。消化済み10%BHの250nlを、0.1M NaOHで25℃で10分間変性させ、NaHPO、pH4.3で中和した後、PrPを3F4被覆プレート(375ng/ウェル)で捕捉し、0.02μg/mlのAPコンジュゲートPOM2またはPOM17で検出した。すべての試料は、ELISAにより三重に分析し、抗体インキュベーションの間にTBS 0.05%Tween 20で6回洗浄した。最後に、0.05%SDS入りLumiphosPlus基質(Lumigen, Southfield, MI)をウェルに添加し、37℃で30分間インキュベートした後、発光をLumiskanルミノメーター(Thermo Electron Corporation, Waltham, MA)により測定した。正常および各種CJD BH試料の生データを図10に示すが、vCJD(M/M)(vCJD−正常、RLU)のPrPSc推定量は図11に示す。
【0188】
図10および11に示すように、TBSS中トリプシン消化濃度10μg/mlで、正常BH試料中のPrPは、3F4で捕捉したとき、POM2APまたはPOM17APで検出できないが、CJD BH試料中のPrPScは、3F4で捕捉したとき、POM2APまたはPOM17APで検出できる長いトリプシン耐性断片を有意量残していた。しかし、PK消化は、PK濃度が、PrPから生成するバックグランドシグナルを消去するのに十分高いとき、POM2APによるオクタリピート領域の検出を保持していなかった。vCJDおよびsCJDの両系統について、POM17AP検出PrP量は、トリプシンまたはPK消化試料に対して同等であったが、トリプシンは、特定のプロテアーゼ濃度でより多くのエピトープを保持していた。対照的に、POM2AP検出PrPSc量は、消化におけるPK量の増加と共に急速に消失したが、トリプシン量の増加と共に遥かにより遅く減少した。更に、0.02μg/mlの同じ検出濃度で、POM2APは、様々なトリプシン濃度で消化したCJD全3系統のBH試料において、POM17APが生成したシグナルの約10倍のシグナル(RLU)を生成したが、この結果は、反復オクタペプチド配列に対するPOM2AP抗体のアビディティに起因する。結論として、オクタリピート領域の保持が、PrPSc検出を有意に高めた。
【0189】
当業者であれば理解されるであろうが、本発明の趣旨から逸脱することなく、本発明の好ましい実施形態に多くの変更および改変を加えることができる。このようなすべての変更は、本発明の範囲内に入ることを意図している。本特許文書で引用した特許、出願、および書籍を含む印刷刊行物の各々は、その全体が参照により本明細書に組み込まれることも意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)プロテアーゼ耐性コアおよびオクタリピート領域を有する病原型プリオンタンパク質(PrPSc)を含有する疑いのある試料を得る工程であって、該試料は正常型プリオンタンパク質(PrP)を含んでも含まなくてもよい工程、
(b)該PrPSc、および存在する場合には該PrPのタンパク分解消化が、実質的に完全である条件下で、少なくとも1種の部位特異的プロテアーゼで該試料を処理する工程であって、
i)該PrPScが、該オクタリピート領域内または該オクタリピート領域と該プロテアーゼ耐性コアとの間に、該プロテアーゼに対する切断部位を有しておらず、そのため、該オクタリピート領域を含むアミノ近接領域の断片は、該実質的に完全なタンパク分解消化の後、該プロテアーゼ耐性コアとの結合を維持しており、
ii)該PrPが、該プロテアーゼ耐性コアに対応するアミノ酸領域内に、該プロテアーゼに対する少なくとも1つの利用可能な切断部位を有しており、該少なくとも1つの利用可能な切断部位が、該実質的に完全なタンパク分解消化により、切断される
工程、
(c)プロテアーゼ阻害剤の添加または該プロテアーゼの除去により、(b)における該実質的に完全なタンパク分解消化、更なる任意のタンパク分解消化を防止する工程、
(d)該部位特異的プロテアーゼで処理したPrPScを変性させることにより、変性PrPScを得る工程、ならびに
(e)少なくとも2種の結合パートナーとして、第1の結合パートナーおよび第2の結合パートナーを用いて該変性PrPScの存在を検出する工程であって、
i)該第1の結合パートナーが、該実質的に完全なタンパク分解消化の後、該プロテアーゼ耐性コアとの結合を維持している、該アミノ近接領域の断片内に位置する、第1のエピトープに特異的に結合し、
ii)該第2の結合パートナーが、該プロテアーゼ耐性コア内に位置する、第2のエピトープに特異的に結合し、該第2のエピトープが、該実質的に完全なタンパク分解消化の後、該第1のエピトープから分離されている、該PrPの領域中にある
工程
を含む、アッセイ方法。
【請求項2】
前記PrPScが、配列番号1〜10から選択される配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1のエピトープが、前記オクタリピート領域内にある、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1のエピトープが、前記オクタリピート領域の外部にある、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記部位特異的プロテアーゼが、トリプシンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記部位特異的プロテアーゼが、S−V8である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記結合パートナーが、アプタマーである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記結合パートナーが、抗体である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記検出する工程が、ELISAを用いて実施される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の結合パートナーが、プリオンタンパク質を捕捉するための捕捉結合パートナーであり、前記第2の結合パートナーが、前記PrPScを検出するための検出結合パートナーである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の結合パートナーが、プリオンタンパク質を捕捉するための捕捉結合パートナーであり、前記第1の結合パートナーが、前記PrPScを検出するための検出結合パートナーである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記検出結合パートナーが、標識されている、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記検出結合パートナーが、アルカリホスファターゼコンジュゲートで標識されている、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記抗体が、モノクローナル抗体である、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の結合パートナーが、POM2、POM11、POM12、POM14、3B5、4F2、13F10、SAF−15、SAF−31、SAF−32、SAF−33、SAF−34、SAF−35およびSAF−37からなる群から選択されるモノクローナル抗体である、請求項3に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の結合パートナーが、BAR210、BAR231および14D3からなる群から選択されるモノクローナル抗体である、請求項4に記載の方法。
【請求項17】
前記第2の結合パートナーが、3F4、POM1、POM4、POM5、POM6、POM7、POM8、POM9、POM10、POM13、POM15、POM16、POM17、POM19、SAF−2、SAF−4、SAF−8、SAF−9、SAF−10、SAF−12、SAF−13、SAF−14、SAF−22、SAF−24、SAF−53、SAF−54、SAF−60、SAF−61、SAF−66、SAF−68、SAF−69、SAF−70、SAF−75、SAF−76、SAF−82、SAF−83、SAF−84、SAF−95、Pri308、Pri917、BAR215、BAR221、BAR224、BAR233、BAR234、Sha31、11B9、12F10、D18、6H4およびBDI115からなる群から選択されるモノクローナル抗体である、請求項5に記載の方法。
【請求項18】
前記PrPが、前記プロテアーゼ耐性コアに対応するアミノ酸配列内に球状ドメインを含有し、前記第2のエピトープが、該球状ドメイン内に位置する、請求項5に記載の方法。
【請求項19】
前記第2の結合パートナーが、POM1、POM4、POM5、POM6、POM7、POM8、POM9、POM10、POM13、POM15、POM16、POM17、POM19、SAF−2、SAF−4、SAF−8、SAF−9、SAF−10、SAF−12、SAF−13、SAF−14、SAF−22、SAF−24、SAF−53、SAF−54、SAF−60、SAF−61、SAF−66、SAF−68、SAF−69、SAF−70、SAF−75、SAF−76、SAF−82、SAF−83、SAF−84、SAF−95、Pri917、BAR215、BAR221、BAR224、BAR233、BAR234、Sha31、11B9、12F10、D18、6H4およびBDI115からなる群から選択されるモノクローナル抗体である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記第2の結合パートナーが、SAF−53、SAF−54、SAF−60、SAF−61、SAF−66、SAF−69、SAF−70、SAF−75、SAF−76、Pri917、BAR234、Sha31、11B9、12F10、6H4およびPOM5からなる群から選択されるモノクローナル抗体である、請求項6に記載の方法。
【請求項21】
前記部位特異的プロテアーゼが、固定化されている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項22】
前記プロテアーゼ阻害剤が、フッ化フェニルメチルスルホニルである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項23】
前記変性させる工程が、グアニジニウム化合物で前記試料を処理する工程を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項24】
前記変性させる工程に続いて、前記試料を希釈する工程を更に含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記変性させる工程が、高pHまたは低pHに前記試料を曝露することにより実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項26】
前記変性させる工程に続いて、前記高pHまたは前記低pHを中和する工程を更に含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記試料が、生存中または死後の生物体から得られる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項28】
前記生存中または死後の生物体が、ヒト、サル、ハムスター、ウシ、ヒツジ、マウス、エルクおよびシカからなる群から選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記試料が、供給食品、全血、血液製剤、血液分画、血液成分、血漿、血小板、血清、脳髄液、臓器、細胞、脳組織、神経系組織、筋肉組織、脂肪組織、骨髄、尿、涙、非神経系組織、生検体、剖検体および汚染機器からなる群に由来する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項30】
前記試料が、全血、血液製剤、血液分画、血液成分、血漿、血小板、赤血球および血清からなる群に由来する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項31】
前記試料が、生検体、検視体または剖検体から得られる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項32】
病原型プリオンタンパク質(PrPSc)を含有する疑いのある試料において、プロテアーゼ耐性コアおよびオクタリピート領域を有するPrPScの存在を検出するためのキットであって、該試料は、正常型プリオンタンパク質(PrP)を含んでも含まなくてもよく、該キットは、
(a)少なくとも1種の部位特異的プロテアーゼであり、
i)該PrPScが、該オクタリピート領域内または該オクタリピート領域と該プロテアーゼ耐性コアとの間に、該プロテアーゼに対する切断部位を有しておらず、そのため、該オクタリピート領域を含むアミノ近接領域の断片は、該プロテアーゼによるPrPScの実質的に完全なタンパク分解消化の後、該プロテアーゼ耐性コアとの結合を維持しており、
ii)該PrPが、該プロテアーゼ耐性コアに対応するアミノ酸領域内に、該プロテアーゼに対する少なくとも1つの利用可能な切断部位を有している
プロテアーゼ、
(b)場合により、該プロテアーゼの活性を阻害することができるプロテアーゼ阻害剤、
(c)場合により、該PrPScを変性させることができる変性剤、
(d)少なくとも2種の結合パートナーである、第1の結合パートナーおよび第2の結合パートナーであって、
i)該第1の結合パートナーが、該プロテアーゼによる該PrPScの実質的に完全なタンパク分解消化の後、該プロテアーゼ耐性コアとの結合を維持している、該アミノ近接領域の断片内に位置する、第1のエピトープに特異的に結合し、
ii)該第2の結合パートナーが、該プロテアーゼ耐性コア内に位置する、第2のエピトープに特異的に結合し、該第2のエピトープが、該プロテアーゼによる該PrPの実質的に完全なタンパク分解消化の後、該第1のエピトープから分離されている、該PrPの領域中にある
結合パートナー、ならびに
(e)任意の病原型プリオンタンパク質の存在を検出するために、該キットを使用するための説明書
を含むキット。
【請求項33】
前記PrPScが、配列番号1〜10から選択される配列を含む、請求項32に記載のキット。
【請求項34】
前記第1のエピトープが、前記オクタリピート領域内にある、請求項32または33に記載のキット。
【請求項35】
前記第1のエピトープが、前記オクタリピート領域の外部にある、請求項32または33に記載のキット。
【請求項36】
前記部位特異的プロテアーゼが、トリプシンである、請求項32または33に記載のキット。
【請求項37】
前記部位特異的プロテアーゼが、S−V8である、請求項32または33に記載のキット。
【請求項38】
前記結合パートナーが、アプタマーである、請求項32または33に記載のキット。
【請求項39】
前記結合パートナーが、抗体である、請求項32または33に記載のキット。
【請求項40】
ELISAキットを含む、請求項32または33に記載のキット。
【請求項41】
前記第1の結合パートナーが、プリオンタンパク質を捕捉するための捕捉結合パートナーであり、前記第2の結合パートナーが、前記PrPScを検出するための検出結合パートナーである、請求項40に記載のキット。
【請求項42】
前記第2の結合パートナーが、プリオンタンパク質を捕捉するための捕捉結合パートナーとしてであり、前記第1の結合パートナーが、前記PrPScを検出するための検出結合パートナーとしてである、請求項40に記載のキット。
【請求項43】
前記検出結合パートナーが、標識されている、請求項41または42に記載のキット。
【請求項44】
前記検出結合パートナーが、アルカリホスファターゼコンジュゲートで標識されている、請求項43に記載のキット。
【請求項45】
前記抗体が、モノクローナル抗体である、請求項39に記載のキット。
【請求項46】
前記第1の結合パートナーが、POM2、POM11、POM12、POM14、3B5、4F2、13F10、SAF−15、SAF−31、SAF−32、SAF−33、SAF−34、SAF−35およびSAF−37からなる群から選択されるモノクローナル抗体である、請求項34に記載のキット。
【請求項47】
前記第1の結合パートナーが、BAR210、BAR231および14D3からなる群から選択されるモノクローナル抗体である、請求項35に記載のキット。
【請求項48】
前記第2の結合パートナーが、3F4、POM1、POM4、POM5、POM6、POM7、POM8、POM9、POM10、POM13、POM15、POM16、POM17、POM19、SAF−2、SAF−4、SAF−8、SAF−9、SAF−10、SAF−12、SAF−13、SAF−14、SAF−22、SAF−24、SAF−53、SAF−54、SAF−60、SAF−61、SAF−66、SAF−68、SAF−69、SAF−70、SAF−75、SAF−76、SAF−82、SAF−83、SAF−84、SAF−95、Pri308、Pri917、BAR215、BAR221、BAR224、BAR233、BAR234、Sha31、11B9、12F10、D18、6H4およびBDI115からなる群から選択されるモノクローナル抗体である、請求項36に記載のキット。
【請求項49】
前記PrPが、前記プロテアーゼ耐性コアに対応するアミノ酸配列内に球状ドメインを含有し、前記第2のエピトープが、該球状ドメイン内に位置する、請求項36に記載のキット。
【請求項50】
前記第2の結合パートナーが、POM1、POM4、POM5、POM6、POM7、POM8、POM9、POM10、POM13、POM15、POM16、POM17、POM19、SAF−2、SAF−4、SAF−8、SAF−9、SAF−10、SAF−12、SAF−13、SAF−14、SAF−22、SAF−24、SAF−53、SAF−54、SAF−60、SAF−61、SAF−66、SAF−68、SAF−69、SAF−70、SAF−75、SAF−76、SAF−82、SAF−83、SAF−84、SAF−95、Pri917、BAR215、BAR221、BAR224、BAR233、BAR234、Sha31、11B9、12F10、D18、6H4およびBDI115からなる群から選択されるモノクローナル抗体である、請求項49に記載のキット。
【請求項51】
前記第2の結合パートナーが、SAF−53、SAF−54、SAF−60、SAF−61、SAF−66、SAF−69、SAF−70、SAF−75、SAF−76、Pri917、BAR234、Sha31、11B9、12F10、6H4およびPOM5からなる群から選択されるモノクローナル抗体である、請求項37に記載のキット。
【請求項52】
前記部位特異的プロテアーゼが、固定化されている、請求項32または33に記載のキット。
【請求項53】
前記任意選択のプロテアーゼ阻害剤が、フッ化フェニルメチルスルホニルである、請求項32または33に記載のキット。
【請求項54】
前記任意選択の変性剤が、グアニジニウム化合物である、請求項32または33に記載のキット。
【請求項55】
前記任意選択の変性剤が、塩基性試薬または酸性試薬である、請求項32または33に記載のキット。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−523977(P2010−523977A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−502150(P2010−502150)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際出願番号】PCT/US2008/004454
【国際公開番号】WO2008/124098
【国際公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】