説明

プリンタ装置

【課題】布メディアおよび昇華転写紙等のコックリングが発生しやすい印刷媒体に対して印刷可能なプリンタ装置を提供する。
【解決手段】プリンタ装置10は、下方に向けてインクを吐出するプリンタヘッド22と、プリンタヘッド22の下方に位置して設けられたインク受容部材30、凸型プラテン50と、昇華転写紙Sを載置させて支持するとともに、プリンタヘッド22と凸型プラテン50との間に位置させる送りローラ12a、ピンチローラ15c、支持ローラ16とを有し、凸型プラテン50には、上方に突出し且つプリンタヘッド22の下面と対向した支持部51が形成されており、昇華転写紙Sにおける支持部51により支持された部分に対してプリンタヘッド22からインクを吐出して印刷を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンタヘッドからインクを吐出して印刷を施すプリンタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記プリンタ装置(インクジェットプリンタ)は一般的に、プリンタヘッドを印刷媒体に対して相対移動させながら、プリンタヘッドの下面に形成された吐出ノズルからインクを吐出させ、所定のパターンでプラテンに支持された印刷媒体に付着させて、印刷を施すように構成されている。長尺シート状の印刷媒体に対して印刷を行うプリンタ装置として、プリンタヘッドを左右に移動させる作動と、印刷媒体を前後に送る作動とを組み合わせて行いながら、吐出ノズルからインクを吐出させて印刷を施すものがある。近年、紙、布および塩化ビニール等の種々の材質からなる印刷媒体に対して印刷を施したいという要望がある。この要望に応えるべく、印刷媒体の材質に応じたプリンタ装置が開発されている。
【0003】
ところで、プリンタ装置においては、プリンタヘッドの下面と印刷媒体とを平行に対向させるために、プラテンの構成が特に重要である。例えば特許文献1の図3には、記録ヘッド15近傍の搬送方向下流側および搬送方向上流側のそれぞれに、第1位置規制部材20および第2位置規制部材21を設けた構成が開示されている。この構成により、インクが付着した部分が局部的に波打つ現象(以下において、コックリングと称する)の影響を抑えることができるようになっている。
【0004】
図5に、布地からなる印刷媒体(以下において、布メディアと称す)に対して印刷を施すプリンタ装置500(一部省略)を示している。このプリンタ装置500は、送りローラ540により布メディアNを前方へ送り、プリンタヘッド510の下方に位置させる作動と、プリンタヘッド510を紙面奥行き方向に往復移動させる作動とを組み合わせて行いながら、布メディアNに向けてインクを吐出して印刷を施すように構成されている。布メディアNに対して印刷を行う場合、プリンタヘッド510から吐出されて付着したインクの一部が、下方に抜けて滴下することがある。そのため、プリンタ装置500は、印刷媒体を吸着固定するための平板状のプラテン(図示せず)に代えて、この滴下したインクを受容可能に上方に向けて開口した受容部材520が備えられている。この受容部材520の底部には、受容したインクを吸収する例えばスポンジからなる多孔質部材530が設けられている。
【0005】
布メディアNに対して所望の印刷を施す方法として、上述した直接インクを吐出して付着させる方法とは別に、一旦昇華転写紙Sに所望の印刷を施す印刷工程と、この昇華転写紙Sと布メディアNとを重ねた状態で加熱して布メディアNを染色する転写工程とからなる昇華転写方法がある。この昇華転写方法は、上記インクを直接付着させる方法と比較して、布自体の風合いを残しながら明るい鮮やかな印刷物が得られるという利点がある。そのため、昇華転写方法は、のぼり旗、Tシャツ、ユニホーム等の印刷に利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−193374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記プリンタ装置500を用いて、昇華転写紙Sに対して印刷を施したいという場合がある。この場合、昇華転写紙Sは、インクが下方に抜けて滴下することはないが、インクが付着した部分にコックリングが発生することがある(図5参照)。特にプリンタ装置500においては、プリンタヘッド510の下方に位置した昇華転写紙Sは空中に浮いた状態となっているので、平板状のプラテンに吸着固定されている状態と比較して、コックリングが顕著に現れやすい。コックリングが顕著に現れると、昇華転写紙Sとプリンタヘッド510とが干渉して、印刷品質に影響を及ぼしてしまうことがある。そこで例えば、昇華転写紙Sに対して印刷を施す際に、受容部材520を取り外して昇華転写紙Sを吸着固定可能に構成されたプラテン(図示せず)に交換する方法が考えられる。この方法によれば、プラテンに昇華転写紙Sを吸着固定させてコックリングの影響を低減できる反面、多くの部品からなる高価な吸着機構を備えたプラテンを用意する必要があるとともに、この交換作業には多大な作業時間を要し、現実的ではない。そのため、布メディアNに対して印刷可能に構成されたプリンタ装置を用いて、昇華転写紙S等のコックリングが発生しやすい印刷媒体に印刷を施すことは困難であるという課題があった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、布メディアおよび昇華転写紙等のコックリングが発生しやすい印刷媒体に対して印刷可能なプリンタ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係るプリンタ装置は、走査方向に延びたガイドレールに沿って移動自在に設けられ、下方に向けてインクを吐出するプリンタヘッドと、前記プリンタヘッドの下方に位置して設けられたプラテン(例えば、実施形態におけるインク受容部材30、凸型プラテン50)と、長尺状の印刷媒体(例えば、実施形態における昇華転写紙S)を載置させて支持するとともに、前記走査方向に対して直交する搬送方向に送り、前記プリンタヘッドと前記プラテンとの間に位置させる媒体搬送機構(例えば、実施形態における送りローラ12a、ピンチローラ15c、支持ローラ16)とを有し、前記プラテンには、前記媒体搬送機構に対して上方に突出し且つ前記プリンタヘッドの下面と対向した対向支持面(例えば、実施形態における支持部51)が形成されており、前記媒体搬送機構により送られた印刷媒体が前記プラテンにより支持され、前記印刷媒体における前記対向支持面により支持された部分に対して前記プリンタヘッドからインクを吐出して印刷を施す。
【0010】
なお、前記プラテンは、前記対向支持面が形成された上側プラテン(例えば、実施形態における凸型プラテン50)と、前記上側プラテンの下側に位置して設けられて前記プリンタヘッドから吐出されたインクを受容可能な下側プラテン(例えば、実施形態におけるインク受容部材30)とからなり、前記上側プラテンが、前記下側プラテンに対して着脱可能に構成されており、付着したインクが透過する印刷媒体(例えば、実施形態における布メディアN)を用いて印刷を行う場合には、前記下側プラテンに対して前記上側プラテンを取り外した状態で印刷を行い、付着したインクを受容可能な印刷媒体(例えば、実施形態における昇華転写紙S)を用いて印刷を行う場合には、前記下側プラテンに対して前記上側プラテンを装着した状態で印刷を行うことが好ましい。
【0011】
また、上述のプリンタ装置において、前記ガイドレールに対する前記プリンタヘッドの高さ位置を調節するヘッド位置調整機構を備えた構成が好ましい。
【0012】
さらに、前記媒体搬送機構が、前記プラテンに対して前記搬送方向上流側に配設されて前記走査方向に延びた上流側支持ローラと、前記プラテンに対して前記搬送方向下流側に配設されて前記走査方向に延びた下流側支持ローラとを備え、前記上流側支持ローラおよび前記下流側支持ローラは、印刷媒体を支持する媒体支持面同士が略水平になるように配設されたことが好ましい。
【0013】
上述のプリンタ装置において、前記上流側支持ローラに対して前記搬送方向上流側に配設され、前記媒体搬送機構により支持された印刷媒体に対して前記搬送方向とは反対方向への張力を作用させる上流側張力付与部材(例えば、実施形態におけるテンションアーム24、ローラ25)と、前記下流側支持ローラに対して前記搬送方向下流側に配設され、前記媒体搬送機構により支持された前記印刷媒体に対して前記搬送方向への張力を作用させる下流側張力付与部材(例えば、実施形態におけるテンションアーム26、ローラ27)とを備えたことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るプリンタ装置は、媒体搬送機構に対して上方に突出し且つプリンタヘッドの下面と対向した対向支持面が形成されたプラテンを有し、印刷媒体における対向支持面により支持された部分に対してプリンタヘッドからインクを吐出して印刷を施すように構成される。この構成から、例えばコックリングが発生しやすい昇華転写紙に対して印刷を行う場合、上方に突出した対向支持面に昇華転写紙を支持させた状態で印刷を行うので、コックリングの発生を抑えてプリンタヘッドと昇華転写紙とを干渉させることなく高品質な印刷が可能となる。
【0015】
また、上記プラテンが、対向支持面が形成された上側プラテンと、インクを受容可能な下側プラテンとからなり、上側プラテンが下側プラテンに対して着脱可能となった構成が好ましい。このように構成した場合、付着したインクが透過する例えば布メディアに印刷を行うときには、上側プラテンを取り外した状態で印刷を行うことで、透過したインクを下側プラテンで受容させることにより、インクを周囲に飛散させることなく印刷可能となる。一方、付着したインクを受容可能な例えば昇華転写紙に印刷を行うときには、上側プラテンを装着した状態で印刷を行うことで、対向支持面に昇華転写紙を支持させてコックリングの発生を抑えて、プリンタヘッドと昇華転写紙とを干渉させることなく印刷可能である。このように、印刷媒体に応じて上側プラテンを着脱するという簡易な方法によって、布メディア等のインクが透過する印刷媒体、および昇華転写紙等のコックリングが発生しやすい印刷媒体の両方に対して高品質な印刷が可能となる。
【0016】
なお、上記プリンタ装置は、ガイドレールに対するプリンタヘッドの高さ位置を調節するヘッド位置調整機構を備えたことが好ましい。このように構成すると、上側プラテンが装着されているか否かに関らず、印刷媒体とプリンタヘッドとを互いに干渉しない範囲でなるべく接近させることが可能である。印刷媒体とプリンタヘッドとを接近させることにより、プリンタヘッドから吐出されたインクを空中に浮遊させることなく、確実に印刷媒体に付着させることができる。よって、印刷品質の向上が図られるとともに、空中に浮遊したインクが付着することにより引き起こされる汚染を低減可能である。
【0017】
上記媒体搬送機構が、上流側支持ローラと下流側支持ローラとを備え、これらの印刷媒体を支持する媒体支持面同士が略水平になるように配設されたことが好ましい。この構成の場合、上流側および下流側支持ローラを略水平に位置させて配設するという簡易な方法でありながら、プリンタヘッドの下方において印刷媒体を略水平に位置させることができ、位置精度が確保された高品質な印刷が可能となる。
【0018】
また、印刷媒体に対して搬送方向とは反対方向への張力を作用させる上流側張力付与部材と、印刷媒体に対して搬送方向への張力を作用させる下流側張力付与部材とを備えた構成が好ましい。このように構成すると、媒体搬送機構に支持された印刷媒体に対して、相反する方向に張力を作用させて、プリンタヘッドの下方において印刷媒体を確実に略水平に位置させることができ、位置精度が確保された高品質な印刷が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明を適用したプリンタ装置の正面図である。
【図2】ヘッドユニット周辺を示した斜視図である。
【図3】図2中のIII−III部分を示した断面図である。
【図4】凸型プラテンを装着した状態の断面図である。
【図5】従来のプリンタ装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照ながら、本発明の実施形態について説明する。説明の便宜上、各図面に示す矢印方向を前後、左右および上下と定義して説明を行う。まず、図1〜3を参照しながら、本発明を適用したプリンタ装置10の基本構成について説明する。なお、以下に説明するプリンタ装置10は、基本的にはシート状の布メディアNに対して印刷可能な構成となっており、後述する凸型プラテン50を装着することにより、シート状の昇華転写紙Sに対して高品質な印刷ができる構成となっている。
【0021】
プリンタ装置10は、図1に示すように、左右の支持脚11a,11bを有した支持脚11と、支持脚11により支持された中央ボディ部12と、中央ボディ部12の左側に設けられた左ボディ部13と、中央ボディ部12の右側に設けられた右ボディ部14と、左右ボディ部13,14を繋ぐとともに中央ボディ部12の上側に離間して平行に延びた上ボディ部15とを備えて構成される。
【0022】
左ボディ部13の前面側には、操作スイッチ類や表示装置類等から構成された操作部13aが設けられている。また、左ボディ部13の内部には、操作部13aからの操作信号が入力されるとともに、プリンタ装置10の各構成部に作動信号を出力して作動制御を行うコントローラ13bが搭載されている。上ボディ部15の内部には、左右に延びたガイドレール15aが設けられている。このガイドレール15aに対して後述するヘッドユニット20が取り付けられており、ヘッドユニット20はガイドレール15aに沿って左右へ移動自在となっている(図2参照)。
【0023】
ヘッドユニット20は、図2に示すように、キャリッジ21およびプリンタヘッド22を主体に構成される。キャリッジ21は、その後面がガイドレール15aと嵌合して、ガイドレール15aに沿って左右に移動自在となっている。また、キャリッジ21は、プリンタヘッド22の取り付けベースとなっている。プリンタヘッド22は、例えばマゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)およびブラック(K)の色毎の複数のプリンタヘッド22M,22Y,22C,22Kから構成される。これらプリンタヘッド22の下面には、下方に向けてインクを吐出する複数の吐出ノズル(図示せず)が形成されている。
【0024】
また、ヘッドユニット20には、ガイドレール15aに対してヘッドユニット20を上下移動させる上下移動機構(図示せず)が搭載されている。この上下移動機構により、印刷媒体の厚みに応じて、印刷媒体とプリンタヘッド22とが所定の距離を隔てて対向するように調整することができる。
【0025】
上ボディ部15の下部には、複数のクランプ装置15bが左右に並んで取り付けられている。このクランプ装置15bの前方先端部には、ピンチローラ15cが回転自在に取り付けられている。ピンチローラ15cの下方には、中央ボディ部12の上面に露出して左右に延びる円筒状の送りローラ12aが設けられている。この送りローラ12aは、図示しない前後駆動モータにより回転駆動される。クランプ装置15bは、ピンチローラ15cが送りローラ12aに押し付けられた状態のクランプ位置と、送りローラ12aに対して離間した状態のアンクランプ位置とに設定可能となっている。この構成より、印刷対象物であるシート状の布メディアNを、ピンチローラ15cと送りローラ12aとの間に挟み、クランプ装置15bをクランプ位置に設定した上で、送りローラ12aを回転させることにより、布メディアNを所定距離だけ前方または後方に送ることができるようになっている(図3参照)。
【0026】
ところで、プリンタヘッド22から吐出したインクを布メディアNに付着させて印刷を行う場合、布メディアNの材質および付着したインクの量(密度)によっては、付着したインクの一部が布メディアNを透過することがある。この透過したインクが周囲に飛散すると、例えば布メディアNに再び付着して印刷品質に影響を及ぼすことがある。そのため、プリンタヘッド22の下方に、布メディアNから滴下するインクを受容して回収するためのインク受容部材30を設けている。
【0027】
インク受容部材30は、図2および図3に示すように、上方に向けて開口するとともに左右に延びた本体受皿31と、この本体受皿31に収容された吸収スポンジ39とを主体に構成される。本体受皿31は、例えば板状の金属材料を折り曲げて形成されており、前後端部に縁部33,33が形成されるとともに、この縁部33,33を繋ぐように底部32が形成されている。また、本体受皿31には、上記縁部33,33および底部32により、上方に向けて開口した受容空間34が形成されている。吸収スポンジ39は、例えば樹脂材料を用いて左右に延びて形成されており、インクを吸収できるようになっている。この吸収スポンジ39は、本体受皿31の底部32に取り付けられている。このように構成されたインク受容部材30は、前後に幅広く形成されているので、布メディアNから滴下するインクのみならず、周囲に飛散するインクミストも回収可能である。
【0028】
図3には、未印刷(プリンタヘッド22から吐出されたインクが付着していない状態)の布メディアNが繰り出されて印刷が施された後、巻き取られる状態を示している。繰り出し部23は、未印刷の布メディアNがロール状に巻かれたものであり、支持脚11の後方側に設けられている。テンションアーム24は、支持脚11に取り付けられており、その自重により下方へ揺動可能な構成となっている。テンションアーム24の先端には、ローラ25が回転自在に取り付けられている。巻き取り部28は、印刷済みの布メディアNがロール状に巻かれたものであり、上記繰り出し部23に対して対称な位置(支持脚11の前方側)に設けられている。テンションアーム26は、上記テンションアーム24と同一構成となっており、テンションアーム24に対して対称な位置(支持脚11の前方側)に設けられている。また、テンションアーム26の先端には、ローラ27が回転自在に取り付けられている。
【0029】
インク受容部材30の前方には、印刷が施された布メディアNを支持するための、左右に延びた支持ローラ16が回転自在に設けられている。この支持ローラ16の表面は、インクを吸収可能な例えば多孔質状の部材により形成されている。この支持ローラ16の表面に当接するように清掃ローラ17が設けられており、この清掃ローラ17は、支持ローラ16の回転に伴って回転するようになっている。この清掃ローラ17の表面は、例えば布等のインクを吸収可能な部材により覆われている。そのため、印刷が施された布メディアNの下面側に、透過したインクが付着した状態となっている場合、この下面側のインクは支持ローラ16に吸収されて除去される。さらに、支持ローラ16に吸収されたインクは、清掃ローラ17に吸収されるようになっている。よって、巻き取り部28において巻き取った際に、布メディアNの下面側に付着したインクにより他の部分を汚すことがなく、印刷品質が確保できる。
【0030】
図3から分かるように、布メディアNは、送りローラ12aおよび支持ローラ16により略水平に支持されている。この略水平に支持された布メディアNを上下から挟むように、プリンタヘッド22およびインク受容部材30が設けられている。また、テンションアーム24およびテンションアーム26は、その自重により布メディアNに対して張力を作用させる構成となっている。この構成より、プリンタヘッド22の下方において、布メディアNが略水平に張持される。
【0031】
以上、布メディアNに対して印刷可能なプリンタ装置10の基本構成について説明した。以下において、このプリンタ装置10を用いて布メディアNに対して印刷を施すときの作動について、図3を参照しながら説明する。
【0032】
印刷時においては、繰り出し部23から未印刷の布メディアNが繰り出され、送りローラ12aおよび支持ローラ16により略水平に支持される。クランプ装置15bはクランプ位置に設定されており、送りローラ12aを回転させて布メディアNを所定距離だけ前方に送る作動と、ガイドレール15aに沿ってヘッドユニット20を左右に移動させる作動とを組み合わせて行いながら、プリンタヘッド22からインクを吐出させる。そうすることにより、布メディアNの略水平に支持された部分に対して印刷が施される。上記の作動を繰り返して行うことにより、布メディアNの全体に対して印刷を施すことができる。印刷が施された布メディアNは、巻き取り部28においてロール状に巻き取られる。
【0033】
上記印刷時において、布メディアNは、テンションアーム24,26により張持されている(下方に引っ張られている)ので、プリンタヘッド22の下方において真っ直ぐ張られた状態となっている。また、布メディアNは一般的に、インクが付着することによる局所的なコックリングは発生しない。そのため、上記の作動により、布メディアNに対して位置精度が確保された高品質な印刷を施すことができる。
【0034】
ところで、この布メディアNに所望の印刷を施す場合、布メディアNの材質や印刷の仕上がり状態等を考慮して、上述のようにプリンタヘッド22から吐出されたインクを直接付着させる印刷方法に代えて、一旦昇華転写紙Sに所望の印刷を施し、この昇華転写紙Sと布メディアNとを重ねた状態で加熱して布メディアNを染色する昇華転写方法が採用されることがある。
【0035】
上記構成のプリンタ装置10を用いて、布メディアNと同様にして昇華転写紙Sに印刷を施そうとした場合、インク受容部材30は上方に向けて開口しているので、プリンタヘッド22の下方において昇華転写紙Sを例えばプラテンに吸着して固定させることができず、空中に浮いた状態となる。また、昇華転写紙Sは、上記布メディアNとは異なり、付着したインクを透過させない反面、インクが付着されることにより局所的にコックリング(しわ)が発生しやすい。この局所的なコックリングは、テンションアーム24,26による張力を作用させても、プリンタヘッド22の下方において完全に真っ直ぐにすることは困難である。このような理由により、プリンタ装置10をそのまま用いて、昇華転写紙Sに対して印刷を施そうとすると、例えばプリンタヘッド22とコックリングにより上下に波打った昇華転写紙Sとが干渉して、印刷品質を低下させてしまうことがある。
【0036】
そこで、プリンタ装置10を用いて昇華転写紙Sに対して印刷を施す場合、図4に示す凸型プラテン50をプリンタ装置10に装着する。凸型プラテン50は、例えば板状の金属材料を折り曲げることにより形成され、上記インク受容部材30と同程度に左右に延びている。また、凸型プラテン50は、前後端部に縁部52,52が形成され、この縁部52,52同士を繋ぐとともに、縁部52,52に対して上方へ突出するように支持部51が形成されている。このように形成される凸型プラテン50は、縁部52,52を縁部33,33に載置させるようにして、プリンタ装置10に装着される。凸型プラテン50がプリンタ装置10に装着された状態において、支持部51とプリンタヘッド22とが上下に対向している。
【0037】
以下に、凸型プラテン50が装着されたプリンタ装置10を用いて、昇華転写紙Sに印刷を施すときの作動について説明する。繰り出し部43から繰り出された昇華転写紙Sは、例えば支持部51の高さ分だけ上方に持ち上げられた状態で、プリンタヘッド22の下方において支持部51に支持される。このとき、上記の上下移動機構により、例えば支持部51の高さに応じてガイドレール15aに対するヘッドユニット20の上下位置が調整され、プリンタヘッド22と昇華転写紙Sとの上下間隔が調整される。図4には、支持部51と送りローラ12aとの間(支持部51と支持ローラ16との間)に位置した昇華転写紙Sが、水平方向に対して約15度傾斜した状態を例示しているが、この傾斜角度は約15度に限定されず、例えば約5度でも良い。プリンタヘッド22の下方において印刷が施された昇華転写紙Sは、巻き取り部48において巻き取られる。
【0038】
このように、凸型プラテン50(支持部51)で昇華転写紙Sを支持することにより、テンションアーム24,26により昇華転写紙Sに付与される張力を、支持部51に支持された部分の昇華転写紙Sに対して効果的に作用させることができる。そのため、支持部51に支持された昇華転写紙Sを、支持部51の表面に沿って真っ直ぐな状態(しわが伸ばされた状態)にすることが可能である。よって、コックリングに起因する昇華転写紙Sとプリンタヘッド22との干渉を防止し、昇華転写紙Sに対して高品質な印刷が可能となる。
【0039】
さらに、支持部51と送りローラ12aとの間(支持部51と支持ローラ16との間)に位置した昇華転写紙Sを、水平方向に対してなるべく大きく傾斜させた方が、支持部51に支持された昇華転写紙Sに対して一層効果的に張力を作用させることができ、コックリングを確実に防止可能である。そのためには、例えば可能な範囲において支持部51をなるべく上方へ突出させ、且つ支持部51の前後幅をなるべく狭く形成すると良い。
【0040】
以上説明したように、簡易な構成の凸型プラテン50をプリンタ装置10に装着することにより、昇華転写紙Sに対して印刷可能となる。プリンタ装置10を用いて、布メディアNおよび昇華転写紙Sの両方に対して印刷可能となる。よって、簡易且つ安価な方法でありながら、種々の材質の印刷媒体に対して印刷可能となり、プリンタ装置10の汎用性を向上させることができる。また、上述のように、支持部51により昇華転写紙Sを真っ直ぐな状態にして支持することができるので、コックリングによるプリンタヘッド22と昇華転写紙Sとの干渉を考慮することなく、プリンタヘッド22と昇華転写紙Sとの間隔を一層狭く設定可能である。よって、プリンタヘッド22から吐出されたインクの付着位置精度を向上させるとともに、昇華転写紙Sに付着せず浮遊するミストの発生を低減させることができる。そのため、例えば浮遊したインクが昇華転写紙Sに付着して汚すことがなく、高品質な印刷が可能となる。
【0041】
ところで、プリンタ装置10を用いて、コックリングの影響を抑えつつ昇華転写紙Sに対して印刷を施す別の方法として、昇華転写紙Sに対して印刷を施す際に、インク受容部材30を取り外して印刷媒体(昇華転写紙S)を吸着固定可能に構成されたプラテン(図示せず)に交換する方法が考えられる。この方法によれば、プラテンに昇華転写紙Sを吸着固定させてコックリングの影響を低減できる反面、別途吸着機構を備えたプラテンを用意する必要があるとともに、この交換作業には多大な作業時間を要し、作業効率の低下を招くこととなる。この方法と比較しても明らかなように、印刷媒体の材質に応じて凸型プラテン50を着脱する構成は、製作コストおよび作業効率の面から非常にメリットが大きい。
【0042】
上述の実施形態において、凸型プラテン50を装着して昇華転写紙Sに対して印刷を施す場合を例示したが、これに限定されない。プリンタ装置10は、凸型プラテン50を装着することにより、昇華転写紙S以外のインクを透過しない材質からなる印刷媒体(例えば、紙や塩化ビニール等)に対しても印刷可能となる。
【0043】
上述の実施形態において、プリンタヘッド22から吐出された後、空気と接触して(乾燥して)硬化するタイプのインクを用いた構成を例示したが、この構成に限定されない。例えば、紫外光が照射されて硬化する紫外線硬化型インク等の、他の種類のインクを用いたプリンタ装置に対しても、本発明を適用可能である。
【0044】
なお、上述のプリンタ装置10において、印刷媒体の材質に応じて凸型プラテン50を着脱する構成を例示したが、この構成に限定されない。例えば、インクを透過せず且つコックリングが発生しにくい印刷媒体に対して印刷を施す場合には、凸型プラテン50に代えて、インク受容部材30の受容空間34を覆うように平板(図示せず)を取り付けると良い。そして、この平板に印刷媒体を支持させた状態で印刷を施すことにより、印刷媒体が平板に吸着固定されていないが、比較的位置精度が確保された印刷が可能となる。
【0045】
上述の実施形態において、キャリッジ21にマゼンタ、イエロー、シアンおよびブラックのプリンタヘッド22が搭載された構成例を示したが、この構成に限定されない。上記構成に、例えば下地用のホワイトインクを吐出するプリンタヘッド22を追加搭載して、ヘッドユニット20を構成しても良い。このような構成の場合には、例えば未印刷の布メディアNを前方に送りながらホワイトインクのみを付着させて一旦巻き取り部28で巻き取り、この巻き取った布メディアNを再び繰り出してマゼンタ、イエロー、シアンおよびブラックインクを付着させる印刷方法も可能である。
【符号の説明】
【0046】
N 布メディア(印刷媒体)
S 昇華転写紙(印刷媒体)
10 プリンタ装置
12a 送りローラ(媒体搬送機構)
15a ガイドレール
15c ピンチローラ(媒体搬送機構)
16 支持ローラ(媒体搬送機構)
22 プリンタヘッド
24 テンションアーム(上流側張力付与部材)
25 ローラ(上流側張力付与部材)
26 テンションアーム(下流側張力付与部材)
27 ローラ(下流側張力付与部材)
30 インク受容部材(プラテン、下側プラテン)
50 凸型プラテン(プラテン、上側プラテン)
51 支持部(対向支持面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査方向に延びたガイドレールに沿って移動自在に設けられ、下方に向けてインクを吐出するプリンタヘッドと、
前記プリンタヘッドの下方に位置して設けられたプラテンと、
長尺状の印刷媒体を載置させて支持するとともに、前記走査方向に対して直交する搬送方向に送り、前記プリンタヘッドと前記プラテンとの間に位置させる媒体搬送機構とを有したプリンタ装置において、
前記プラテンには、前記媒体搬送機構に対して上方に突出し且つ前記プリンタヘッドの下面と対向した対向支持面が形成されており、
前記媒体搬送機構により送られた印刷媒体が前記プラテンにより支持され、前記印刷媒体における前記対向支持面により支持された部分に対して前記プリンタヘッドからインクを吐出して印刷を施すことを特徴とするプリンタ装置。
【請求項2】
前記プラテンは、前記対向支持面が形成された上側プラテンと、前記上側プラテンの下側に位置して設けられて前記プリンタヘッドから吐出されたインクを受容可能な下側プラテンとからなり、
前記上側プラテンが、前記下側プラテンに対して着脱可能に構成されており、
付着したインクが透過する印刷媒体を用いて印刷を行う場合には、前記下側プラテンに対して前記上側プラテンを取り外した状態で印刷を行い、
付着したインクを受容可能な印刷媒体を用いて印刷を行う場合には、前記下側プラテンに対して前記上側プラテンを装着した状態で印刷を行うことを特徴とする請求項1に記載のプリンタ装置。
【請求項3】
前記ガイドレールに対する前記プリンタヘッドの高さ位置を調節するヘッド位置調整機構を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のプリンタ装置。
【請求項4】
前記媒体搬送機構が、
前記プラテンに対して前記搬送方向上流側に配設されて前記走査方向に延びた上流側支持ローラと、
前記プラテンに対して前記搬送方向下流側に配設されて前記走査方向に延びた下流側支持ローラとを備え、
前記上流側支持ローラおよび前記下流側支持ローラは、印刷媒体を支持する媒体支持面同士が略水平になるように配設されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のプリンタ装置。
【請求項5】
前記上流側支持ローラに対して前記搬送方向上流側に配設され、前記媒体搬送機構により支持された印刷媒体に対して前記搬送方向とは反対方向への張力を作用させる上流側張力付与部材と、
前記下流側支持ローラに対して前記搬送方向下流側に配設され、前記媒体搬送機構により支持された前記印刷媒体に対して前記搬送方向への張力を作用させる下流側張力付与部材とを備えたことを特徴とする請求項4に記載のプリンタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−726(P2011−726A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143207(P2009−143207)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000137823)株式会社ミマキエンジニアリング (437)
【Fターム(参考)】