説明

プレキャスト擁壁推進工法

【課題】 仮設用の広い作業領域を必要とせず、現状の地山の状態に係わらずに擁壁と水路を一工程で施工できる省施工且つ低コストのプレキャスト擁壁推進工法を提供する。
【解決手段】 擁壁を構築しようとする斜面や道路R沿いの法面に近い地盤の一部を開削して発進立坑を構築し、断面略台形状に掘削できる掘進機の後端に水路21を内部に備えたやや縦長で道路R側が傾斜する台形状の擁壁ブロック20を発進立坑で接続し、その擁壁ブロック20を発進立坑に設置した元押装置で元押しして掘進機で地山Gを掘削しながら掘削土砂を掘進機内に取り込んで擁壁ブロック20の水路21を通じて後方へ排出し、擁壁ブロック20の後方に次の擁壁ブロック20を接続して掘進機の掘進と擁壁ブロック20の追加を所定の到達位置に達するまで繰り返し、これらの擁壁ブロック20同士を水密的に連結し、その後擁壁ブロック20上の道路R側の表土を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推進工法で擁壁を構築する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
オープンシールド工法で擁壁を構築する技術が特許文献1に開示されている。この技術は、推進ジャッキを備えたオープンシールド機の後方にL型ブロックを上下対向させて吊り込み、オープンシールド機の前方の土砂を掘削除去した後、推進ジャッキを後方へ伸張させてL型ブロックを反力壁にしてオープンシールド機を前進させ、収縮させた推進ジャッキとL型ブロックの間に次のL型ブロックを上下対向させて吊り込んでオープンシールド機の前進とL型ブロックの追加を所定の到達位置まで繰り返し、その後上側のL型ブロックを撤去することを特徴とし、型枠の構築やコンクリートの打設・養生を行っていた従来の工法と比較して工期を短縮できる、というものである。
【0003】
ところで、前記特許文献1に記載の技術では以下の問題点があった。
A)オープンシールド機の前進に合せて、掘削用のバックホーと土砂搬出用のダンプトラックとブロック吊込み用のクレーンを移動させるから、そのための重機用の仮設踊り場や土砂搬出の仮設道路を必要としている。
B)切羽が開放されるから、地下水位が高い地山や崩壊性が高い地山は事前に地盤改良工が必要となる。
C)L型の擁壁を構築するために施工後は不要となる逆L型ブロックを使用し、しかも擁壁の構築後に水路となる側溝を別に施工するから、作業工程が多くて施工コストが高くなっており、側溝を施工する分、境界が道路側に寄って道幅も狭くなっている。
D)擁壁の構築後は、L型ブロックと地山との間の隙間を充填する裏込注入工を別途行うから、作業工程が多くなっている。
E)L型ブロックに開口した貫通孔に地表面から鋼管を打設して擁壁の滑り止めとしているが、地山との密着性が悪く、効果は不十分である。
F)L型ブロック同士の緊結は前後のいんろう継ぎ手のみであり、耐震性が不足している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3766423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、従来のこれらの問題点を解消し、仮設用の広い作業領域を必要とせず、現状の地山の状態に係わらずに擁壁と水路を一工程で施工できる省施工且つ低コストのプレキャスト擁壁推進工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決した本発明の構成は、
1) 擁壁を構築しようとする斜面や道路沿いの法面に近い地盤の一部を開削して発進立坑を構築し、断面略台形状に掘削できる掘進機の後端に水路を内部に備えたやや縦長で道路側が傾斜する台形状の擁壁ブロックを発進立坑で接続し、その擁壁ブロックを発進立坑に設置した元押装置で元押しして掘進機で地山を掘削しながら掘削土砂を掘進機内に取り込んで擁壁ブロックの水路を通じて後方へ排出し、擁壁ブロックの後方に次の擁壁ブロックを接続して掘進機の掘進と擁壁ブロックの追加を所定の到達位置に達するまで繰り返し、これらの擁壁ブロック同士をステンレス製又は鋼製のカラーで水密的に連結して擁壁及び水路を形成し、その後擁壁ブロック上の道路側の表土を除去することを特徴とする、プレキャスト擁壁推進工法
2) 掘進中に掘進機から固結型滑材を擁壁ブロックと地山との間の隙間に同時充填し、推進終了後にその隙間に裏込注入を実施するようにした、前記1)記載のプレキャスト擁壁推進工法
3) 擁壁ブロックを地中に埋設後、擁壁ブロックの内部の水路の底部から地盤を削孔し、その削孔に鉄筋を挿入し、コンクリートを充填して場所打基礎杭を形成した、前記1)又は2)記載のプレキャスト擁壁推進工法
4) 棒鋼を挿入できる穴を水路に沿って形成した擁壁ブロックを使用し、推進終了後に発進から到達までの擁壁ブロックに長尺の棒鋼を連通して一体化のために緊締した、前記1)〜3)いずれか記載のプレキャスト擁壁推進工法
5) 前記1)〜4)いずれか記載のプレキャスト擁壁推進工法に使用される掘進機が、やや縦長で道路側が傾斜する台形状の外殻の前端に排土口が開口された隔壁を取り付け、その隔壁の内面に減速機付きのモーターを縦列に複数取り付けて出力軸を隔壁の前方に突出させ、上側の複数のモーターの出力軸には笠歯車を介して車輪状に回転する回転カッターを取り付け、最下のモーターには十字状のスポークカッターを取り付け、排土口に排土装置を接続して外殻内に取り付けた構造である、プレキャスト擁壁推進工法
にある。
【発明の効果】
【0007】
本発明の前記1)記載の構成によれば、必要な作業領域は発進立坑とその周辺及び掘進機を回収する到達立坑のみで、掘削土砂は吸泥排土やベルトコンベヤ及びトロバケットで掘進機の内部と擁壁ブロックの水路を通じて排土するから、バックホーやダンプトラック及びそれらのための仮設踊り場や仮設道路を必要としない。また、切羽は密閉型で掘進するから、地下水位が高い地山や崩壊性が高い地山でも地盤改良工を必要としない。さらに、擁壁ブロックには水路を備えているから、擁壁工と水路工が一工程で完了し、側溝を施工しない分、道幅も広く取ることができる。
【0008】
本発明の前記2)記載の構成によれば、固結型滑材を掘進と並行して注入しながら地山充填とフリクションカットを同時に行い、到達後に裏込注入を実施するから、従来技術と比較して作業工程を削減できる。
【0009】
本発明の前記3)記載の構成によれば、コンクリート製の基礎杭は場所打杭となるため地山との密着性が良好で、従来技術の鋼管等、PC杭、RC杭を使用する方法と比較して地山との一体化(密着)の効果と地山滑り防止効果が高い。
【0010】
本発明の前記4)記載の構成によれば、推進完了後、発進から到達までの擁壁ブロックが長尺の棒鋼で一体化されるから、従来技術のいんろう継ぎ手と比較して耐震性に優れるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例の掘進機の正面図である。
【図2】実施例の掘進機の断面図である。
【図3】実施例の擁壁ブロックの断面図である。
【図4】実施例の掘進を示す説明図である。
【図5】実施例の構築された擁壁の断面図である。
【図6】実施例の構築された擁壁の道路側から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を実施例と図面に基づいて具体的に説明する。
【実施例】
【0013】
図1は実施例の掘進機の正面図、図2は実施例の掘進機の断面図、図3は実施例の擁壁ブロックの断面図、図4は実施例の掘進を示す説明図、図5は実施例の構築された擁壁の断面図、図6は実施例の構築された擁壁の道路側から見た側面図である。
【0014】
図中、10は掘進機、11は外殻、12は隔壁、12aは排土口、13はモーター、13aは出力軸、14は回転カッター、14aは笠歯車、14bは伝達軸、14cは保護カバー、15はスポークカッター、16は排土装置、17は排泥コンベヤ、20は擁壁ブロック、21は水路、22は挿通管、23は排水管、24は水抜き管、25は箱抜部、26は詰め物、30は発進立坑、31は元押装置、32は発進架台、40はPC棒鋼、41は緊締ナット、50は鉄筋、51はコンクリート、Cは場所打基礎杭、Gは地山、Rは道路である。
【0015】
本実施例の掘進機10は、図1,2に示すように、やや縦長で道路R側が傾斜し且つ地山G側が垂直である台形状の外殻11の前端に排土口12aが開口された隔壁12を取り付け、その隔壁12の内面に減速機付きのモーター13を縦列に4基取り付けて出力軸13aを隔壁12の前方に突出させている。上側の3基のモーター13の出力軸13aには伝達軸14bを笠歯車14aで噛み合わせて直角に配置し、その伝達軸14bに車輪状に回転する回転カッター14を軸着し、最下のモーター13には十字状のスポークカッター15を取り付けている。排土口12aには排土装置16を接続して外殻11内に取り付けている。
【0016】
擁壁ブロック20は、図3に示すように、やや縦長で道路R側が傾斜し且つ地山G側が垂直である台形状で且つ長さが1〜1.5mのプレキャストコンクリート製で、下部には断面台形状の水路21を長手方向に貫通し、上部には塩化ビニル樹脂製の挿通管22を長手方向に4箇所埋設している。水路21の斜面側には塩化ビニル樹脂製の排水管23を埋設し、水路21の垂直面側には塩化ビニル樹脂製の水抜き管24を埋設している。その排水管23と水抜き管24は、工事中に土砂が水路21に流入しないようにゴム製の詰め物26で内側から塞いでいる。あるいは、排水管23及び水抜き管24に代えて、排水及び水抜き用の孔を途中まで凹設して工事中は土砂が水路21に流入しないようにし、工事後にその孔を内側から貫通させて排水路及び水抜き路としてもよい。排水管23は道路R上の雨水を水路21に導くためのもので、水抜き管24は地山G内の水を水路21に導くためのものである。水路21の底部には、場所打基礎杭Cを構築するための箱抜部25を予め凹設している。箱抜部25の底部は薄肉化されており、削孔する際に容易に貫通できるようになっている。箱抜部25は延長線上およそ1.5mピッチに設けられ、擁壁ブロック20の長さを1.5mとすると、1体当り1箇所である。擁壁ブロック20の前後いずれかの端部には、前後の擁壁ブロック20同士を水密的に連結するためのステンレス製又は鋼製のカラー(図示せず)を設けている。
【0017】
本実施例では、図4に示すように、擁壁を構築しようとする法面の一部を開削して発進立坑30と到達立坑(図示せず)を構築し、発進立坑30に元押装置31と発進架台32をクレーン等で吊り下ろして設置する。その発進架台32に掘進機10を吊り下ろして配置し、さらに擁壁ブロック20を吊り下ろして掘進機10の後端に接続する。擁壁ブロック20の水路21内には排土装置16の下部から発進立坑30まで排泥コンベヤ17を配置する。
【0018】
モーター13を作動させて回転カッター14とスポークカッター15を回転させ、元押装置31で擁壁ブロック20を元押しして掘進機10を地中に前進させると、地山Gが断面略台形状に掘削されながら掘削土砂が排土口12aから排土装置16に取り込まれて擁壁ブロック20の水路21内を排泥コンベヤ17で搬送され、バケットズリ台車で吊り上げるか又は真空式の吸泥排土装置等で坑外へ排出される。それと並行して、グラウトコック(図示せず)から固結型滑材を同時注入し、擁壁ブロック20と地山Gとの間の隙間が充填される。その後、裏込注入工が行われることで、従来技術と比較して作業工程が軽減される。
【0019】
擁壁ブロック20が地山Gに埋入されると元押装置31を収縮させ、次の擁壁ブロック20を吊り下ろして前の擁壁ブロック20の後端に水路21が連通するように接続し、前記と同様に元押装置31で元押しして掘進させ、掘進機10の掘進と擁壁ブロック20の追加を到達立坑に達するまで繰り返す。このように、掘進作業が地山G内でのみ行われることで、従来技術のようにバックホーやダンプトラック及びそれらのための仮設踊り場や仮設道路を必要とせず、道路Rで交通渋滞を招くことがない。しかも、切羽は密閉型で掘進するから、地下水位が高い場合や崩壊性が高い場合でも地盤改良工を省略できる。
【0020】
全ての擁壁ブロック20が地中に埋設されると、発進から到達までの擁壁ブロック20の挿通管22に長尺のPC棒鋼40を連通し、その両端を緊締ナット41で緊締する。このPC棒鋼40で各擁壁ブロック20が一体化され、従来技術のいんろう継ぎ手と比較して耐震性に優れるものとなる。また、各擁壁ブロック20の箱抜部25の底部を貫通して地山Gを削孔し、その削孔に鉄筋50を配筋してコンクリート51を注入し、場所打基礎杭Cを形成する。この場所打基礎杭Cは地山Gとの密着性が良好なコンクリート製であるから、従来技術の鋼管等を使用する方法と比較して滑り止め効果が高いものとなる。さらに、水路21間の隙間をモルタル等で充填して水密処理し、排水管23と水抜き管24から詰め物26を取り外して回収する。
【0021】
その後、各擁壁ブロック20上の道路R側の表土を除去してブロック面を露出させ、発進立坑30と到達立坑を埋め戻して施工を完了する(図5,6参照)。このように、擁壁工と水路工が一工程で完了するから、従来技術と比較して作業工程が軽減され、側溝を施工しない分、道路Rの道幅も広く取ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の技術は、擁壁の構築に利用される。
【符号の説明】
【0023】
10 掘進機
11 外殻
12 隔壁
12a 排土口
13 モーター
13a 出力軸
14 回転カッター
14a 笠歯車
14b 伝達軸
14c 保護カバー
15 スポークカッター
16 排土装置
17 排泥コンベヤ
20 擁壁ブロック
21 水路
22 挿通管
23 排水管
24 水抜き管
25 箱抜部
26 詰め物
30 発進立坑
31 元押装置
32 発進架台
40 PC棒鋼
41 緊締ナット
50 鉄筋
51 コンクリート
C 場所打基礎杭
G 地山
R 道路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
擁壁を構築しようとする斜面や道路沿いの法面に近い地盤の一部を開削して発進立坑を構築し、断面略台形状に掘削できる掘進機の後端に水路を内部に備えたやや縦長で道路側が傾斜する台形状の擁壁ブロックを発進立坑で接続し、その擁壁ブロックを発進立坑に設置した元押装置で元押しして掘進機で地山を掘削しながら掘削土砂を掘進機内に取り込んで擁壁ブロックの水路を通じて後方へ排出し、擁壁ブロックの後方に次の擁壁ブロックを接続して掘進機の掘進と擁壁ブロックの追加を所定の到達位置に達するまで繰り返し、これらの擁壁ブロック同士をステンレス製又は鋼製のカラーで水密的に連結して擁壁及び水路を形成し、その後擁壁ブロック上の道路側の表土を除去することを特徴とする、プレキャスト擁壁推進工法。
【請求項2】
掘進中に掘進機から固結型滑材を擁壁ブロックと地山との間の隙間に同時充填し、推進終了後にその隙間に裏込注入を実施するようにした、請求項1記載のプレキャスト擁壁推進工法。
【請求項3】
擁壁ブロックを地中に埋設後、擁壁ブロックの内部の水路の底部から地盤を削孔し、その削孔に鉄筋を挿入し、コンクリートを充填して場所打基礎杭を形成した、請求項1又は2記載のプレキャスト擁壁推進工法。
【請求項4】
棒鋼を挿入できる穴を水路に沿って形成した擁壁ブロックを使用し、推進終了後に発進から到達までの擁壁ブロックに長尺の棒鋼を連通して一体化のために緊締した、請求項1〜3いずれか記載のプレキャスト擁壁推進工法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載のプレキャスト擁壁推進工法に使用される掘進機が、やや縦長で道路側が傾斜する台形状の外殻の前端に排土口が開口された隔壁を取り付け、その隔壁の内面に減速機付きのモーターを縦列に複数取り付けて出力軸を隔壁の前方に突出させ、上側の複数のモーターの出力軸には笠歯車を介して車輪状に回転する回転カッターを取り付け、最下のモーターには十字状のスポークカッターを取り付け、排土口に排土装置を接続して外殻内に取り付けた構造である、プレキャスト擁壁推進工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−53411(P2013−53411A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190461(P2011−190461)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(599111965)株式会社アルファシビルエンジニアリング (32)
【出願人】(505229391)ボーディング株式会社 (19)
【Fターム(参考)】