説明

プレコート鋼板

【課題】 害虫の定住防止効果が長期にわたり維持できるプレコート鋼板を提供する。
【解決手段】 25℃条件下における蒸気圧が1×10−3Pa以下であるピレスロイド系の害虫定住防止成分を含有する金属塗装用塗料で塗装されたプレコート鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫定住防止性を有し、家電製品や自動車部品、建築部材等に好適に使用されるプレコート鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
家電製品、自動車部品、建築部材等では、生産性向上のために、予め塗装を施したプレコート鋼板が使用されるようになってきている。このプレコート鋼板は、塗装による意匠性を目的とするものが一般的であるが、防錆性や耐食性、耐熱性等を付加したものも知られている。
【0003】
また、家電製品では、ゴキブリをはじめとする不快害虫や衛生害虫が侵入し、更には内部に定住することもあるため、これら害虫の忌避成分を含む塗料を塗工して害虫忌避機能を付与したプレコート鋼板が使用されることがある(例えば、特許文献1参照)。また、自動車や建築物も屋外に置かれるため、屋外に生息する害虫が侵入したり、定住したりするのを防ぐために、同様の害虫忌避機能を付与したプレコート鋼板が使用されることがある。
【0004】
【特許文献1】特開平11−300884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プレコート鋼板では、加工時に塗膜が剥離しないように塗膜の硬度が高められており、一般に塗料を200〜300℃で焼付けている。特許文献1に記載のプレコート鋼板でも、ピレスロイド系の害虫忌避成分を含有する塗料を塗布し、高周波誘導炉を用いて215℃で焼付けている。そのため、焼付け時に塗料中の害虫忌避成分が揮散して塗膜には本来の量の害虫忌避成分が含まれず、所期の効果が得られないことがある。また、塗膜から害虫忌避成分が揮散し難く、効果の妨げを助長している。
【0006】
本発明は上記従来の状況に鑑みてなされたものであり、害虫の定住防止効果が長期にわたり維持できるプレコート鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、25℃条件下における蒸気圧が1×10−3Pa以下であるピレスロイド系の害虫定住防止成分を含有する金属塗装用塗料で塗装されていることを特徴とするプレコート鋼板を提供する。好ましくは、害虫定住防止成分の溶出助剤として多価アルコールの脂肪酸エステルを併用する。
【発明の効果】
【0008】
本発明で用いるピレスロイド系の害虫定住防止成分は、害虫の定住防止効果が高いことに加え、蒸気圧も低いことから、塗膜の焼付け時の揮発が少なく、塗膜にはより多くの量が含まれる。また、溶出助剤として多価アルコールの脂肪酸エステルを併用することにより、強固な塗膜からも害虫定住防止成分による効果を発揮しやすくなる。このように、本発明のプレコート鋼板によれば、害虫の定住防止効果が良好に維持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0010】
金属塗装用塗料に含まれる、25℃における蒸気圧が1×10−3Pa以下であるピレスロイド系の害虫定住防止成分(以下、「低揮発性害虫定住防止成分」という)としては、α−シアノ−3−フェノキシベンジル(+)シス/トランス−2,2−ジメチル−3−(2−メチル−1−プロペニル)シクロプロパンカルボキシラート(以下、化合物Aという)、α−シアノ−3−フェノキシベンジル(1R,3S)−2,2−ジメチル−3−(1,2,2,2−テトラブロモエチル)シクロプロパンカルボキラート(以下、化合物Bという)、(S)−α−シアノ−3−フェノキベンジル=(Z)−(1R,3S)−2,2−ジメチル−3−〔2−(2,2,2−トリフルオロ−1−トルフルオロメチルエトキシカルボニル)ビニル〕シクロプロパンカルボキシラート(以下、化合物Cという)、(RS)−α−シアノ−3−フェノキシベンジル=(Z)−(1RS,3RS)−3−(2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート(以下、化合物Dという)等が挙げられる。これらはそれぞれ単独でも、適宜組み合わせて使用してもよい。
【0011】
低揮発性害虫定住防止成分は、樹脂とともに有機溶剤に分散され、金属塗装用塗料とされる。樹脂としては、得られる塗膜の密着性や膜強度等の塗膜物性を考慮すると、エポキシ樹脂、アクリル樹脂とメラミン樹脂との混合物、アクリル樹脂、メラミン樹脂及びエポキシ樹脂の混合物が好ましい。アクリル樹脂、メラミン樹脂は、それぞれ単独では、低揮発性害虫定住防止成分の効果と塗膜物性との両方を満足できない。アクリル樹脂とメラミン樹脂との混合物を用いる場合、その混合割合は、アクリル樹脂:メラミン樹脂=3:1〜1:1が好ましい。また、アクリル樹脂、メラミン樹脂及びエポキシ樹脂の混合物を用いる場合はアクリル樹脂とメラミン樹脂との混合物全量に対し、エポキシ樹脂を5〜30重量%混合することが好ましい。
【0012】
また、低揮発性害虫定住防止成分を多価アルコールの脂肪酸エステルに溶解し、この溶液を樹脂とともに有機溶剤に分散させることが好ましい。多価アルコール脂肪酸エステルは、塗膜からの低揮発性害虫定住防止成分による溶出を促進させる効果があり、溶出助剤として機能する。多価アルコールの脂肪酸エステルとしては、トリグリセリド、多価アルコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等が好ましい。これらの特に好ましい具体例として、ヤシ油、ククイナッツ油、サフラワー油、アカデミアナッツ油、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル(以上、トリグリセリド)、トリイソステアリン酸ジグリセリル、ジカプリン酸プロピレングリコール、テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリトール、トリ2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン(以上、多価アルコール脂肪酸エステル)、モノウンデシレン酸グリセリル、モノイソステアリン酸グリセリル、ジオレイン酸グリセリル(以上、グリセリン脂肪酸エステル)、モノオレイン酸ジグリセリル、モノイソステアリン酸ジグリセリル、トリイソステアリン酸ジグリセリル、モノラウリン酸ヘキサグリセリル、モノミリスチン酸ヘキサグリセリル、ポリリシノレイン酸ヘキサグリセリル、モノイソステアリン酸デカグリセリル、ジイソステアリン酸デカグリセリル、ポリリシノレイン酸デカグリセリル(以上、ポリグリセリン脂肪酸エステル)、モノラウリン酸ソルビタン、セスキイソステアリン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン(以上、ソルビタン脂肪酸エステル)、モノステアリン酸POE(6)ソルビダン(以上、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル)、モノラウリン酸POE(6)ソルビット、テトラオレイン酸POE(30)ソルビット(以上、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル)、モノラウリン酸ポリエチレングリコール(10EO)、ジイソステアリン酸ポリエチレングリコール(以上、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル)等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で、または混合して用いることができる。
【0013】
低揮発性害虫定住防止成分と多価アルコール脂肪酸エステルとの配合比率は、重量比で、1:1〜1:10とすることが好ましく、1;1〜1:5とすることがより好ましい。低揮発性害虫定住防止成分が前記比率より少ないと、害虫定住防止成分による定住防止効果が早期に消失し、多価アルコール脂肪酸エステルが前記比率より少ないと、害虫定住防止成分を溶出させる効果が不十分になる。
【0014】
また、低揮発性害虫定住防止成分と多価アルコール脂肪酸エステルとは、合計量で金属塗装用塗料全体の2〜10重量%となるように配合される。この合計配合量が2重量%未満では、必然的に低揮発性害虫定住防止成分が過小となり、害虫定住防止成分による定住防止効果が早期に消失する。一方、合計配合量が10重量%を越えると、主成分である樹脂量が相対的に減少して塗膜物性に劣るようになる。
【0015】
尚、多価アルコール脂肪酸エステルを併用しない場合、低揮発性害虫定住防止成分は、定住防止効果を良好に維持するために、金属塗装用塗料全体の5〜20重量%となるように配合される。
【0016】
また、金属塗装用塗料には、必要に応じて、帯電防止剤、難燃剤、酸化防止剤等の一般塗料用の添加剤を適量含有させることができる。更に、金属塗装用塗料の粘度を調整するために、無機微粉体を添加することもできる。無機微粉体の例としては、酸化チタン、タルク、シリカ等が挙げられる。また、無機微粉体は、平均粒径が10μm以下が適当であり、5μm以下が好ましい。無機微粉体を添加することにより、塗膜の耐熱性が改善されるという利点も得られる。
【0017】
本発明のプレコート鋼板は、既存のプレコート鋼板を上記の如く構成される金属塗装用塗料で塗装して得られる。塗装されるプレコート鋼板には制限がなく、プレコート鋼板として一般的な亜鉛めっき鋼板、亜鉛系合金めっき鋼板、アルミめっき鋼板、クロムめっき鋼板等を使用することができる。
【0018】
塗装は、一般のプレコート鋼板と同様に焼付けを行う。焼付け条件は金属塗装用塗料の樹脂や有機溶剤の種類に応じて適宜選択されるが、上記に挙げた樹脂や有機溶剤を用いる場合、焼付け温度は100〜300℃が適当である。また、得られる塗膜の膜厚は1〜20μmが適当である。膜厚がこれより薄いと塗膜の耐久性に劣るようになり、厚いと亀裂等が発生し易くなる。
【0019】
また、必要により、適当な下地層を成膜した後に、金属塗装用塗料を焼付けてもよい。
【実施例】
【0020】
以下、試験例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0021】
(試験−1)
低揮発性害虫定住防止成分として化合物Aまたは化合物B、多価アルコール脂肪酸エステルとして、炭素数がC12〜C18の脂肪酸からなるトリグリセリド(以下、助剤Aという)または炭素数がC12〜C18の脂肪酸からなるペンタエリスリトールエステル(以下、助剤Bという)を用い、それぞれ表1に示す量をクロム系防錆剤入り水性塗料に配合して金属塗装用塗料を調製した。
【0022】
各金属塗装用塗料を溶融亜鉛めっき鋼板に塗布し、100〜300℃で焼付けて膜厚1〜20μmの塗膜を形成し、10cm×10cmの試験片を切り出して本発明品とした。また、同形の無塗装の溶融亜鉛めっき鋼板を対照品として用意した。そして、本発明品及び対照品を用いて下記に示す定住防止効力試験を行った。
【0023】
・定住防止効力試験
図1に示すように、バット内の略中央にシェルターと水とを設置し、その周りに、本発明品2枚と対照品2枚とを対角に設置し、その上に重量既知の餌を置いた。そして、バット内にチャバネゴキブリ雌雄各50頭を放ち、室温で48時間放飼した後に餌の重量変化を計量し、下式により定住防止率を求めた。結果を表1に示す。
定住防止率(%)=〔(対照品上の餌の減少量−本発明品上の餌の減少量)/対照品 上の餌の減少量〕×100
【0024】
また、本発明品及び対照品を80℃の恒温槽に3日放置した後に、同様の試験を行った。結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1に示すように、低揮発性害虫定住防止成分を含有する塗膜を形成した本発明品は、何れも開始48時間で50%を上回る高い定住防止率を示している。また、低揮発性害虫定住防止成分として蒸気圧がより低い化合物Bを用いた時に特に高い定住防止率が得られている。更に、80℃で3日放置後も定住防止率の低下が少なく、防虫定住防止効果が維持されることがわかる。
【0027】
(試験−2)
低揮発性害虫定住防止成分として化合物C、多価アルコール脂肪酸エステルとして、炭素数がC12〜C18の脂肪酸からなるジグリセリンエステル(以下、助剤Cという)または炭素数がC12〜C18の脂肪酸からなるトリメチロールプロパンエステル(以下、助剤Dという)を用い、それぞれ表2に示す量をクロム系防錆剤入り水性塗料に配合して金属塗装用塗料を調製した。そして、各金属塗装用塗料を溶融亜鉛めっき鋼板に焼付け、試験−1と同様の定住防止効力試験を行った。尚、定住防止効力試験は、50℃、75%RHで2ヶ月または5ヶ月放置した後についても行った。試験は各2回行い、その平均値を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
(試験−3)
低揮発性害虫定住防止成分として化合物D、多価アルコール脂肪酸エステルとして助剤Aまたは助剤Bを用い、それぞれ表2に示す量をクロム系防錆剤入り水性塗料に配合して金属塗装用塗料を調製した。そして、供試虫をクロゴキブリ雌雄各20頭に変え、試験−2と同様の定住防止効力試験を行った。尚、試験片の大きさは15cm×15cmとした。試験は各2回行い、その平均値を表3に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
試験−2及び試験−3からも、低揮発性害虫定住防止成分を含有する塗膜を形成することで、良好な定住防止効果を長期にわたり維持できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】定住防止効力試験の試験方法を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃条件下における蒸気圧が1×10−3Pa以下であるピレスロイド系の害虫定住防止成分を含有する金属塗装用塗料で塗装されていることを特徴とするプレコート鋼板。
【請求項2】
前記金属塗装用塗料が、前記害虫定住防止成分の溶出助剤として多価アルコールの脂肪酸エステルを含有することを特徴とする請求項1記載の害虫定住防止性プレコート鋼板。

【図1】
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【公開番号】特開2006−212865(P2006−212865A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−26438(P2005−26438)
【出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(000200323)JFE鋼板株式会社 (77)
【出願人】(000197975)石原薬品株式会社 (83)
【出願人】(000100539)アース製薬株式会社 (191)
【Fターム(参考)】