説明

プレス成形解析方法

【課題】温間プレス成形における冷却後の形状を予測できるプレス成形解析方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るプレス成形解析方法は、被プレス成形材料に対して初期温度分布を設定して温度解析と構造解析を連成させてプレス成形解析を行いプレス成形後の形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布を取得するプレス成形解析工程と、該プレス成形解析工程で得られたデータに基づくと共に金型と被プレス成形材料間の接触熱伝達を考慮することなく/考慮して温度解析と構造解析を連成させてスプリングバック解析を行いスプリングバック後の形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布を取得するスプリングバック解析工程と、該スプリングバック解析工程で取得されたデータに基づいて前記被プレス成形材料の温度分布が±5℃以内になるまでの冷却中及び冷却後の形状変化を温度解析と構造解析を連成させて解析する冷却形状解析工程とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形解析方法に関し、特に加熱した被プレス成形材料をプレス成形する場合における冷却後の形状を予測するプレス成形解析方法に関する。
なお、本願明細書において、プレス成形解析方法というときには、被プレス成形材料を成形して離型前の状態までを解析するプレス成形解析、離型後のスプリングバックを解析するスプリングバック解析、及びスプリングバック後の温度変化による形状変化を解析する冷却形状解析を含む。
【背景技術】
【0002】
プレス成形とは、その対象物である被プレス成形材料(金属材料)に金型を押し付けることにより、金型の形状を被プレス成形材料に転写して加工を行う方法のことである。このプレス成形においては、プレス成形品を金型から取り出した後(離型後)に、そのプレス成形品がスプリングバック(弾性変形)し、所望の形状とは異なってしまう問題がしばしば発生する。
こうしたスプリングバックは、離型前の成形対象物の残留応力が原因であることが知られており、従来、有限要素法などの数値解析方法を用いて解析することによりスプリングバック後の形状の予測や、その原因の解析などがなされてきた。
【0003】
スプリングバックの要因分析に関する従来例としては、特許文献1に開示された「プレス成形解析方法」がある。特許文献1に開示された「プレス成形解析方法」は、離型前の成形品の形状などのデータを算出する処理、離型前のデータに基づいて、離型後の成形品の形状などのデータを算出し、スプリングバックに関するある定義された量を算出する処理、離型前の成形品におけるある領域についての残留応力分布を変更し、この変更したデータに基づいて、離型後の成形品の形状などのデータを算出し、ある領域について残留応力分布変更後のスプリングバックに関するある定義された量を算出する処理と、ある領域についての残留応力分布を変更する前後において、ある定義された量がどのように変化するかを算出する処理からなり、プレス成形後(離型前)の成形品におけるどの領域の残留応力がスプリングバックにどのように影響しているかを短時間でかつ正確に予測して、スプリングバック対策の検討を行うものである。
【0004】
従来のスプリングバック解析方法は、上記の特許文献1に代表されるように、対象としているプレス成形が、被プレス成形材料を加熱することなくプレス成形する冷間プレス成形である。
【0005】
ところで、最近では、燃費向上と衝突安全性能の両立を図るため、自動車部品に使用される鋼板として、高張力鋼板の比率が高まっている。
高張力鋼板は変形抵抗が大きいため、高張力鋼板の冷間プレス成形には、金型寿命が低下するという問題や、成形が深絞り成形や高伸びフランジ成形のような強加工を受けない加工に制限されるという問題がある。
そこで、このような問題を回避するため、被プレス成形材料を所定温度に加熱した後にプレス成形する、いわゆる温間プレス成形が高張力鋼板に適用されている。温間プレス成形は冷間プレス成形よりも高い温度で成形することによって、高張力鋼板の変形抵抗を低下させて変形能を向上させることにより、プレス割れなどの不具合を防止する技術である。このような温間プレス成形技術は、たとえば特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−229724号公報
【特許文献2】特開2001−314923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者らは、高張力鋼の温間プレス成形後の形状不良について検討するため、有限要素法により離型後のスプリングバック解析を実施した。スプリングバック解析で得られた形状を、実際に温間プレス成形して得られた成形品の形状と比較したところ、大きな乖離が見られた。
このことから温間プレス成形では離型直後の成形品温度が高くかつ温度分布を有しており、冷却中の熱収縮を考慮しなければ最終形状がどのような形状になるのか、あるいは解析形状と実形状の乖離の原因がどこにあるのかを解析することができないことが分かった。
しかしながら、プレス成形解析及びスプリングバック解析により形状不良対策を検討する従来技術においては、冷間プレス成形を前提としているため、被プレス成形材料に発生する温度分布を考慮しておらず、温間プレス成形における形状不良対策を検討することができない。
【0008】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、温間プレス成形における冷却後の形状を予測できるプレス成形解析方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は、温間プレス成形では離型直後の成形品温度が高く、温間プレス成形で発生する形状不良には、下死点における残留応力だけでなく、プレス成形による温度分布も影響しており、さらにはこの温度分布に基づく冷却中の熱収縮を考慮する必要があるとの知見を得た。この知見を基にさらに考察したところ、加熱された被プレス成形材料をプレス成形し、さらにスプリングバックした際の温度分布を取得し、この温度分布を基にして冷却中の熱収縮による変形を解析することで、上記課題を解決できると考えた。
本発明はこのような考えに基づくものであり、具体的には以下の構成からなるものである。
【0010】
(1)本発明に係るプレス成形解析方法は、加熱した被プレス成形材料に対して初期温度分布を設定して温度解析と構造解析を連成させてプレス成形解析を行いプレス成形後(離型前)の形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布を取得するプレス成形解析工程と、該プレス成形解析工程で得られた形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布に基づくと共に金型と被プレス成形材料間の接触熱伝達を考慮することなく温度解析と構造解析を連成させてスプリングバック解析を行いスプリングバック後の形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布を取得するスプリングバック解析工程と、該スプリングバック解析工程で取得された形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布に基づいて前記被プレス成形材料の温度分布が±5℃以内になるまでの冷却中及び冷却後の形状変化を温度解析と構造解析を連成させて解析する冷却形状解析工程とを備えたことを特徴とするものである。
【0011】
(2)また、本発明に係るプレス成形解析方法は、加熱した被プレス成形材料に対して初期温度分布を設定して温度解析と構造解析を連成させてプレス成形解析を行いプレス成形後(離型前)の形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布を取得するプレス成形解析工程と、該プレス成形解析工程で得られた形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布に基づくと共に金型と被プレス成形材料間の接触熱伝達を考慮して温度解析と構造解析を連成させてスプリングバック解析を行いスプリングバック後の形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布を取得するスプリングバック解析工程と、該スプリングバック解析工程で取得された形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布に基づいて前記被プレス成形材料の温度分布が±5℃以内になるまでの冷却中及び冷却後の形状変化を温度解析と構造解析を連成させて解析する冷却形状解析工程とを備えたことを特徴とするものである。
【0012】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記冷却形状解析工程における構造解析は、その解析の少なくとも最終工程を静的陰解法により行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、温間プレス成形における冷却後の形状を予測できるので、温間プレス成形における形状不良対策が可能となり、プレス成形品の設計段階でのテスト工数や費用の削減などの効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態の処理の流れを説明するフロー図である。
【図2】本発明の実施形態の装置構成を説明するブロック図である。
【図3】本発明の実施例の実プレス品を示す概略図である。
【図4】本発明の実施例で用いた金型の断面形状を示す図である。
【図5】本発明の実施例における金型、実プレス品、解析結果の形状を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施の形態1]
本発明に係るプレス成形解析方法は、プログラム処理を実行するPC(パーソナルコンピュータ)等の装置によって行うものであるので、まず、装置(以下、「プレス成形解析装置1」という)の構成について図2に示すブロック図に基づいて概説する。
【0016】
〔プレス成形解析装置〕
本実施の形態に係るプレス成形解析装置1は、PC(パーソナルコンピュータ)等によって構成され、図2に示されるように、表示装置3と入力装置5と主記憶装置7と補助記憶装置9および演算処理部11とを有している。
また、演算処理部11には、表示装置3と入力装置5と主記憶装置7および補助記憶装置9が接続され、演算処理部11の指令によって各機能を行う。表示装置3は計算結果の表示等に用いられ、液晶モニター等で構成される。
入力装置5はオペレータからの入力等に用いられ、キーボードやマウス等で構成される。
主記憶装置7は演算処理部11で使用するデータの一時保存や演算等に用いられ、RAM等で構成される。補助記憶装置9は、データの記憶等に用いられ、ハードディスク等で構成される。
演算処理部11はPC等のCPU等によって構成され、演算処理部11内には、プレス成形解析手段13と、スプリングバック解析手段15と、冷却形状解析手段17と、を有する。これらの手段はCPU等が所定のプログラムを実行することによって実現される。以下にこれら手段について説明する。
【0017】
<プレス成形解析手段>
プレス成形解析手段13は、加熱した被プレス成形材料に対して初期温度分布を設定して温度解析と構造解析を連成させてプレス成形解析を行いプレス成形後(離型前)の形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布を取得するものである。
【0018】
<スプリングバック解析手段>
スプリングバック解析手段15は、プレス成形解析手段13で得られた情報に基づき、温度解析と構造解析を連成させてスプリングバック解析を行いスプリングバック後の形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布を取得するものである。
【0019】
<冷却形状解析手段>
冷却形状解析手段17は、スプリングバック解析手段15で取得された形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布に基づいて被プレス成形材料の温度分布が±5℃以内になるまでの冷却中及び冷却後の形状変化を温度解析と構造解析を連成させて解析するものである。
【0020】
〔プレス成形解析方法〕
本実施の形態におけるプレス成形解析方法は、上記「プレス成形解析手段」、「スプリングバック解析手段」、「冷却形状解析手段」の各手段がそれぞれの処理を実行することによって成されるものであり、以下に示す工程からなるものである。
すなわち、本実施の形態におけるプレス成形解析方法は、加熱した被プレス成形材料に対して初期温度分布を設定して温度解析と構造解析を連成させてプレス成形解析を行いプレス成形後(離型前)の形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布を取得するプレス成形解析工程と、該プレス成形解析工程で得られた形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布に基づくと共に金型と被プレス成形材料間の接触熱伝達を考慮する、あるいは考慮することなく温度解析と構造解析を連成させてスプリングバック解析を行いスプリングバック後の形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布を取得するスプリングバック解析工程と、該スプリングバック解析工程で取得された形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布に基づいて前記被プレス成形材料の温度分布が±5℃以内になるまでの冷却中及び冷却後の形状変化を温度解析と構造解析を連成させて解析する冷却形状解析工程とを備えたことを特徴とするものである。
【0021】
なお、本実施の形態におけるプレス成形解析方法は、上記のように各工程において、温度解析と構造解析を連成させて解析を行うものである。温度解析と構造解析を連成させた解析とは、通常空冷や金型と被プレス成形材料間の接触熱伝達等を考慮して被プレス成形材料の温度分布を解析し(温度解析)、これによって得られた温度分布に基づいて、当該温度に対応する温度依存データ(ヤング率、ポアソン比、熱膨張係数、降伏応力、応力-歪線図、比熱、熱伝導率など)を用いて応力状態等の解析(構造解析)を行う解析をいう。
【0022】
以下、本実施の形態のプレス成形解析方法における前記各工程について、図1のフローチャートに基づいて詳細に説明する。
【0023】
<プレス成形解析工程>
プレス成形解析工程は、加熱した被プレス成形材料に対して初期温度分布を設定して温度解析と構造解析を連成させてプレス成形解析を行いプレス成形後(離型前)の形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布を取得するものである(ステップS1)。
【0024】
加熱した被プレス成形材料に対する初期温度分布の設定について以下に説明する。
実際の温間プレス成形は、被プレス成形材料を電気炉、バーナ加熱炉、誘導加熱装置等で均一温度になるように十分に加熱した後、搬送ロボットでプレス機に搬送してプレス成形を行う。そこで、プレス成形解析工程においては、実際の被プレス成形材料の加熱を想定して、初期温度として被プレス成形材料に対して被プレス成形材料全体に均一な温度(例えば600℃)設定を行う。なお、より正確を期するために電気炉等で加熱後の搬送途中の空冷を考慮して温度分布を計算し初期温度分布としてもよい。また、意図的に部分加熱する場合には、それに応じた不均一な初期温度分布を与えるとよい。
【0025】
プレス成形解析工程は、プレス成形解析手段13によって行われる処理であるので、プレス成形解析工程においては、プレス成形解析手段13が必要とする温度依存データ(ヤング率、ポアソン比、熱膨張係数、降伏応力、応力-歪線図、比熱、熱伝導率など)を入力し、被プレス成形材料と金型に初期温度分布を与えて行う。
【0026】
また、実際の温間プレス成形において、被プレス成形材料をプレス下死点状態にて一定時間保持したまま冷却することで、部品の形状によっては、離型後にスプリングバックの発生が抑えられ、形状が良好になることがある。そこで、本プレス成形解析工程においても、被プレス成形材料を金型に一定時間保持して冷却するようにしてもよい。ただし、実際の温間プレス成形においては、冷却時間を長くすることは生産効率の悪化につながるので、本プレス成形解析工程に冷却時間を設定する際に実操業における生産効率を考慮して設定するようにするのが好ましい。
プレス成形解析工程で計算された、離型直前の被プレス成形材料と金型の形状情報、温度分布、応力分布、歪分布などの必要なデータは次のスプリングバック解析工程に引き継がれる。
【0027】
<スプリングバック解析工程>
スプリングバック解析工程は、プレス成形解析工程で得られた形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布に基づくと共に金型と被プレス成形材料間の接触熱伝達を考慮することなく温度解析と構造解析を連成させてスプリングバック解析を行いスプリングバック後の形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布を取得するものである(ステップS3)。
【0028】
金型と被プレス成形材料間の接触熱伝達を考慮しないでスプリングバック解析を行う場合、スプリングバック工程においては、被プレス成形材料は金型への接触による温度低下はなく、空冷による温度低下のみを考慮して計算する。このようにすることで計算が簡易となり、接触熱伝達を考慮して解析を行う場合と比較して収束も得られやすい。
このような、金型と被プレス成形材料間の接触熱伝達を考慮しないでスプリングバック解析を行う具体的な解析方法は、プレス成形解析工程で得られた情報を初期条件として、被プレス成形材料の1つまたは複数の節点を拘束して被プレス成形材料が動かないようにして、下死点の状態から応力を開放させて計算する。応力を解放させる時間は一定と仮定する。
スプリングバック後の被プレス成形材料の形状情報、温度分布、応力分布、歪分布などの必要なデータは次の冷却形状解析工程に引き継がれる。
【0029】
なお、下死点の状態から応力を開放させる時間が、1秒以下などと短い場合は、無視できる程度の温度変化しか起こらず、したがって温度解析を行わなくともよい。この場合、プレス成形解析後の被プレス成形材料の温度分布がそのままスプリングバック後の温度分布として、次の冷却形状解析工程に引き継がれる。ただし、本スプリングバック解析工程で温度解析を行わないとしても、温度解析を行う場合と同様に、構造解析は、プレス成形解析後の温度分布と温度依存データに基づき解析を行う。
【0030】
<冷却形状解析工程>
冷却形状解析工程は、前記スプリングバック解析工程で取得された形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布に基づいて被プレス成形材料の温度分布が±5℃以内になるまでの冷却中及び冷却後の形状変化を温度解析と構造解析を連成させて解析するものである(ステップS5)。本冷却形状解析工程ではスプリングバック後の温度分布が必須であるが、この温度分布は前記プレス成形解析工程、スプリングバック解析工程での一連の解析がなされ、一連のデータが取得できて始めて与えることが可能になる。
冷却形状解析工程は、冷却形状解析手段17を用いて行われ、スプリングバック解析後の被プレス成形材料の形状情報、温度分布、応力分布、歪分布などのデータを初期条件として、冷却による温度分布の変化を解析し、熱収縮を考慮した構造解析を行う。
本冷却形状解析工程における具体的な解析方法としては、被プレス成形材料が冷却中に動かないように、被プレス成形材料の1つまたは複数の節点を拘束して行う。節点の拘束については、前記スプリングバック解析工程で用いた節点拘束条件を使用することも可能である。
温度解析は空冷を仮定して行ってもよいが、実操業で冷却台の上に置いて冷却することを想定して、冷却台と被プレス成形材料の接触熱伝達を考慮した解析を行えば、より実操業に近い温度解析結果が得られる。
【0031】
冷却形状解析工程では、被プレス成形材料の温度分布が±5℃以内になるまでの冷却中及び冷却後の形状変化を解析することにしているが、この理由は以下の通りである。
実際の温間プレス成形では、被プレス成形材料の温度が室温などの環境温度に向かって下がる過程において、被プレス成形材料全体の温度分布が±5℃以内(より好ましくは±1℃以内)に収まると、温度による形状の変化がほとんど起きなくなる。したがって本冷却形状解析工程においても、前記温度分布の条件を満たすように、冷却時間を十分に確保して行うべきである。
【0032】
なお、冷却形状解析工程の構造解析は、原理上は動的にも静的にも行うことができる。動的解析を行うと、タイムスケーリングで時間を圧縮して扱うことができるので、計算時間が早くなるというメリットがある。しかし、動的解析で解析を終えた場合、慣性力が残る影響で計算精度が低下してしまう。そのため、より正確な計算結果を得たい場合、冷却形状解析工程の構造解析のすべてを静的に行うとよい。もしくは、動的解析のメリットを享受するために、冷却形状解析工程を2段階に分けて、最初の段階を動的に、少なくとも最後の段階は静的に行うとよい。例えば、1001秒間の冷却時間を想定する場合、最初の1000秒間を動的解析で時間を圧縮して行い、最後の1秒を静的解析するようにすると、計算時間の短縮しつつ解析精度の向上を図ることができる。なお、より好ましくは、冷却形状解析工程の構造解析の最後の段階には静的陰解法を用いるとよい。
【0033】
以上のように、本実施の形態のプレス成形解析方法においては、プレス成形解析工程、スプリングバック解析工程の各工程について温度解析と構造解析を連成させて行うと共に、スプリングバック解析工程で得られた形状と温度分布に基づいて、かつ温度解析と構造解析を連成させて温度変化による形状変化を解析する冷却形状解析工程を行うようにしたので、温間プレス成形における冷却後の形状を予測でき、温間プレス成形における形状不良対策が可能となり、プレス成形品の設計段階でのテスト工数や費用の削減などの効果が期待できる。
【0034】
[実施の形態2]
本実施の形態におけるプレス成形解析方法は、加熱した被プレス成形材料に対して初期温度分布を設定して温度解析と構造解析を連成させてプレス成形解析を行いプレス成形後の形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布を取得するプレス成形解析工程と、該プレス成形解析工程で得られた形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布に基づくと共に金型と被プレス成形材料間の接触熱伝達を考慮して温度解析と構造解析を連成させてスプリングバック解析を行いスプリングバック後の形状と温度分布を取得するスプリングバック解析工程と、該スプリングバック解析工程で取得された形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布に基づいて前記被プレス成形材料の温度分布が±5℃以内になるまでの冷却中及び冷却後の形状変化を温度解析と構造解析を連成させて解析する冷却形状解析工程とを備えたことを特徴とするものである。
【0035】
本実施の形態におけるプレス成形解析方法は、実施の形態1におけるプレス成形解析方法のスプリングバック解析工程において金型と被プレス成形材料間の接触熱伝達を考慮していなかったのを、これを考慮して行うものであり、その他の点は実施の形態1のプレス成形解析方法と同一である。
そこで、以下においては、本実施の形態のスプリングバック解析工程における金型と被プレス成形材料間の接触熱伝達を考慮することについて説明する。
【0036】
スプリングバック解析工程において、金型と被プレス成形材料間の接触熱伝達を考慮することによる効果は次の通りである。
離型による温度変化をより正確に考慮でき、スプリングバック後の被成形材料の温度分布をより正確に求めることができ、その結果、冷却形状解析工程によって求まる冷却後の成形品の形状をより正確に求めることができる。
もっとも、実施の形態1のようにスプリングバック解析工程において金型と被プレス成形材料間の接触熱伝達を考慮しない方が収束を得やすいというメリットもあるので、両者はケースバイケースで使い分けるようにすればよい。
【0037】
スプリングバック解析工程において、金型と被プレス成形材料間の接触熱伝達を考慮する解析の具体的な方法としては、被プレス成形材料の1つまたは複数の節点を拘束して被プレス成形材料が動かないようにして、金型を動かして離型をシミュレートする。この場合は、金型との接触による抜熱や、金型と接触していない部分の空冷などを正確に考慮して温度解析を行うようにする。
なお、スプリングバック解析工程における初期条件や、スプリングバック後のデータの引き継ぎは実施の形態1と同様である。
【0038】
以上のように、本実施の形態によれば、前述したように離型による温度変化をより正確に考慮でき、スプリングバック後の被成形材料の温度分布をより正確に求めることができ、その結果、冷却形状解析工程によって求まる冷却後の成形品の形状をより正確に求めることができるという効果が得られる。
【0039】
なお、上記実施の形態1および2では、温間プレス成形を想定して、被プレス成形材料を600℃に加熱したものを解析する方法について説明した。しかし、冷間プレス成形について解析する場合であっても、加工発熱や摩擦発熱などの熱の影響について考慮する場合、本発明を適用して解析することも可能である。
【0040】
また、本発明を特許文献1のような応力分布の影響を検討する方法と組み合わせて使用することにより、形状不良対策を検討するための、実用的価値の高いプレス成形の解析手段となる。
【実施例】
【0041】
本発明の効果を確認するための実験を行ったので、以下に説明する。
実験は、図3に示す自動車のBピラー(前部座席と後部座席の間にある柱)上部部品21について、実際の温間プレス成形と、本発明を適用したプレス成形解析方法を用いたシミュレーション解析を行い、これらの結果を比較するというものである。
【0042】
まず、実際の温間プレス成形の概要について説明する。被プレス成形材料は980MPaの高張力鋼、初期形状は、底辺650mm、高さ300mmの平行四辺形で、板厚は1.4mmを用いた。被プレス成形材料を電気炉にて680℃に加熱した後、搬送ロボットでプレス機の金型間に装着して、プレス成形を行った。プレス成形開始温度は600℃である(あらかじめ、被プレス成形材料の中央に熱電対を装着して、同じ条件での温度変化を測定したところ、プレス機に装着を完了したときの材料温度は600℃であった。)。プレス成形方法は、シワ押さえ力45tonfでドロー成形を行った。平均のプレス成形速度は100mm/sであった。下死点に達した直後に離型し、室温まで空冷してプレス成形品(以下、「実プレス品」という)とした。最後に、非接触三次元形状測定装置で実プレス品表面の形状を測定した。
【0043】
次に、本発明のプレス成形解析方法を適用して実施したシミュレーション解析について説明する。
本シミュレーション解析は、本発明のプレス成形解析方法と同様にプレス成形解析工程、スプリングバック解析工程、冷却形状解析工程をこの順に行った。
以下において、各解析工程ごとに、入力条件、解析条件等を説明する。
【0044】
<プレス成形解析工程>
まず、プレス成形解析手段13に必要なデータや条件を入力し、プレス成形解析手段13を用いてプレス成形解析を行った。以下、前記入力したデータや条件についての概要を示す。
各材料特性は、上記の実際の温間プレス成形を行った被プレス成形材料と同じ鋼種について、本実験に先立ってあらかじめ測定したデータを用いた。具体的には、比熱、熱伝導率、熱膨張係数、ヤング率、ポアソン比の温度依存データを測定し、400℃、500℃、600℃で引張試験を実施して、応力-歪線図モデルを作成したものを用いた。
また、被プレス成形材料は、上記の実際の温間プレス成形で用いた初期形状の板厚中心をシェル要素でモデル化した。金型は、上記の実際の温間プレス成形で用いた金型の表面をシェル要素でモデル化したものを用いた。また、被プレス成形材料は変形体、金型は剛体と仮定した。
プレス成形解析においては、被プレス成形材料表面と金型表面の距離が0.01mm未満になったときは、被プレス成形材料と金型が接触したとみなし、接触熱伝達により熱流束を計算した。また、距離が0.01mm以上のときは、被プレス成形材料が空冷されるとして、放射と対流を考慮した。被プレス成形材料の放射率は0.75とした。
また、被プレス成形材料の初期温度は600℃一定とした。
【0045】
<スプリングバック解析工程>
次に、スプリングバック解析手段15を用いてスプリングバック解析を行った。スプリングバック解析は、パンチ底の2節点とフランジの1節点の動きを拘束し、下死点の状態から応力を開放させた。応力の開放時間は0.5秒とし、この間に被プレス成形材料が空冷されたとして温度解析も行った。
【0046】
<冷却形状解析工程>
次に、冷却形状解析手段17を用いて、冷却による形状の変化について形状解析を行った。形状解析は、まず、1000秒間空冷されたとして、この間の構造解析は慣性力を考慮した動的陽解法にて行い、続く1秒間の冷却形状解析について、構造解析を静的陰解法により実施し、慣性力による精度低下の影響を排除した。冷却形状解析終了時の材料の温度分布は±1℃の範囲内であった。
【0047】
以下、実プレス品形状とシミュレーション解析結果の形状との比較方法について説明する。
実プレス品表面の計測形状と前記シミュレーション解析で得られた形状は、前述のとおり被プレス成形材料の異なる位置の形状である。そこで、比較に際して、相互に比較できるように、金型表面と接する面となるように形状を加工したものを用いた。加工は次のように行った。実プレス品表面の測定形状は、上から見える形状を測定したものであるから、下側に板厚分の1.4mmだけオフセットして、実プレス品形状を作成した。
また、シミュレーション解析で扱った被プレス成形材料は、板厚中心をモデル化したものであるから、前記シミュレーション解析で得られた形状それぞれについて、板厚の半分の0.7mmだけ下にオフセットして作成した。
【0048】
以下の説明では、実プレス品形状をもとに作成したものを実プレス成形形状、スプリングバック解析後に得られた形状をもとに作成したものを、スプリングバック解析後形状、冷却形状解析後に得られた形状をもとに作成したものを冷却形状解析後形状とする。また、これらの形状に加えて比較用として金型表面の形状を用いたので、これを金型表面形状とする。金型表面の形状は、前記シミュレーション解析で使用した金型を用いた。
【0049】
これらの4つの形状(実プレス成形形状、スプリングバック解析後形状、冷却形状解析後形状、金型表面の形状)を、形状比較ソフトを用いて、図3のパンチ底のビード23の形状の周囲がベストフィットするように位置合わせし、図3のA−A矢視断面で形状を比較した。
A−A矢視断面の例として、図4に、金型表面形状37の断面形状を示す。4つの形状を比較した結果、図4中の丸印部分に形状不良が顕著に現れたので、各形状における当該部位に相当する部分を拡大して重ねて表示したものを図5に示す。図5において、31が実プレス成形形状、37が金型表面形状、33がスプリングバック解析後形状、35が冷却形状解析後形状を示している。
図5を見ると、スプリングバック解析後形状33と実プレス成形形状31には、大きな乖離が見られるが、冷却形状解析後形状35は実プレス成形形状31と良く一致していることが分かる。この結果から、離型後の温度低下が大きい温間プレス成形においては、プレス成形解析、スプリングバック解析に加えて、これら解析で取得した一連のデータをもとに与えられる温度分布から、冷却形状解析を行うことで精度のよい解析ができることが実証された。
【符号の説明】
【0050】
1 プレス成形解析装置
3 表示装置
5 入力装置
7 主記憶装置
9 補助記憶装置
11 演算処理部
13 プレス成形解析手段
15 スプリングバック解析手段
17 冷却形状解析手段
21 Bピラー上部部品
23 ビード
31 実プレス成形形状
33 スプリングバック解析後の形状
35 冷却形状解析後の形状
37 金型表面の形状

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱した被プレス成形材料に対して初期温度分布を設定して温度解析と構造解析を連成させてプレス成形解析を行いプレス成形後(離型前)の形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布を取得するプレス成形解析工程と、該プレス成形解析工程で得られた形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布に基づくと共に金型と被プレス成形材料間の接触熱伝達を考慮することなく温度解析と構造解析を連成させてスプリングバック解析を行いスプリングバック後の形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布を取得するスプリングバック解析工程と、該スプリングバック解析工程で取得された形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布に基づいて前記被プレス成形材料の温度分布が±5℃以内になるまでの冷却中及び冷却後の形状変化を温度解析と構造解析を連成させて解析する冷却形状解析工程とを備えたことを特徴とするプレス成形解析方法。
【請求項2】
加熱した被プレス成形材料に対して初期温度分布を設定して温度解析と構造解析を連成させてプレス成形解析を行いプレス成形後(離型前)の形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布を取得するプレス成形解析工程と、該プレス成形解析工程で得られた形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布に基づくと共に金型と被プレス成形材料間の接触熱伝達を考慮して温度解析と構造解析を連成させてスプリングバック解析を行いスプリングバック後の形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布を取得するスプリングバック解析工程と、該スプリングバック解析工程で取得された形状情報、温度分布、応力分布及び歪分布に基づいて前記被プレス成形材料の温度分布が±5℃以内になるまでの冷却中及び冷却後の形状変化を温度解析と構造解析を連成させて解析する冷却形状解析工程とを備えたことを特徴とするプレス成形解析方法。
【請求項3】
前記冷却形状解析工程における構造解析は、その解析の少なくとも最終工程を静的陰解法により行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のプレス成形解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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