説明

プレス成形金属板の変形箇所修正方法

【課題】プレス成形金属板の変形箇所を熟練度を要することなく簡単に修正可能な修正方法を提供する。
【解決手段】プレス成形された金属板Wの凹状の変形箇所2を修正する方法であって、変形箇所2およびその周囲をオイルストーンにより擦る工程Aと、先端に半球状部1Bを有する棒状の修正治具1を用い、半球状部1Bにより変形箇所2を擦って変形箇所2に摩擦熱を生じさせる工程Bと、半球状部1Bにより擦られた変形箇所2をオイルストーンにより擦る工程Cと、をその順序で行う。工程Bでは半球状部1Bを略筆圧の押圧力で変形箇所2に当接させて擦ることが好ましい。また、工程Bで半球状部1Bにより線条痕が出るように変形箇所2を擦り、工程Cで線条痕が消えるまでオイルストーンにより擦る方法とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形金属板の変形箇所を修正する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車体等に使用される鋼板は防錆の目的で表面に通常数ミクロン程度の亜鉛メッキ等の金属メッキ処理が施されている。この鋼板の表裏面またはプレス金型の成形面に微小な塵等が付着していると、プレス成形した際に鋼板の表面に凹状または凸状の微細な変形、いわゆるゴミカミ不良を生じることがある。自動車の車体を対象としたプレス成形の場合、ゴミカミ不良とは通常15μm以上の凹凸を指すことが多い。このようなゴミカミ不良はプレス成形されただけの鋼板の状態ではさほど目立つものではないが、塗装を施すと凹凸箇所が目立って外観を損ねるため補修を必要とする場合がある。
【0003】
前記ゴミカミ不良の有無を検査する方法としては、プレス加工が施された製品を例えばプレス加工された順で10枚毎に1枚の割合でオイルストーンによりその表面(製品面)を全面にわたって軽く擦って目視にてチェックすることにより行われる。そして、ある1枚についてゴミカミ不良が確認された場合は、その前にプレス加工されていることとなる非検査の9枚の製品についても同様にオイルストーンで擦り、目視にてゴミカミ不良の有無をチェックする。
【0004】
ゴミカミ不良の凹凸が出た場合、これを修正する方法としては、作業者がサンドペーパによりいわゆるバフがけ処理を行って凹凸箇所を平滑化する方法が知られている。
また、特許文献1には、加熱した金属棒体を用いて鋼板を平滑にする技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−224019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
バフがけ処理により凹凸箇所を平滑化する修正方法は、前記した防錆用のメッキ層も同時に研磨されることから、このメッキ層を残しつつ凹凸箇所を修正することには作業者に高度の熟練が要求される。そのためこの修正方法の習得には長期間を要することになり、熟練者であっても場合によってメッキ層を除去してしまうおそれがある。
また、特許文献1に記載の技術では、金属棒体をメッキおよび鋼板の溶融温度程度に加熱する加熱源が必要となる。
【0007】
本発明は、プレス成形金属板の変形箇所を熟練度を要することなく簡単に修正可能な修正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、プレス成形された金属板の凹状の変形箇所を修正する方法であって、前記変形箇所およびその周囲をオイルストーンにより擦る工程Aと、先端に半球状部を有する棒状の修正治具を用い、前記半球状部により変形箇所を擦って変形箇所に摩擦熱を生じさせる工程Bと、前記半球状部により擦られた変形箇所をオイルストーンにより擦る工程Cと、をその順序で行うことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、先ず工程Aにおいてオイルストーンの擦り作業により変形箇所とその周囲の正常箇所とが明確に区別される。次いで、工程Bにおいて半球状部の摺動により変形箇所に摩擦熱が生じ、この摩擦熱により変形箇所の歪応力が解消されて変形箇所が平面状に矯正される。次いで工程Cにおけるオイルストーンの擦り作業により変形箇所の修正具合の確認がなされる。以上の各工程における作業はいずれも簡単なものであり、何ら熟練度を要することがない。
【0010】
また本発明は、前記工程Bにおいて、前記半球状部を略筆圧の押圧力で変形箇所に当接させて擦ることを特徴とする。
【0011】
半球状部を略筆圧で変形箇所に当接させて擦る方法とすれば、作業者にとって判りやすい作業となり、何ら熟練度を要することがなく、変形箇所の修正具合も良好となる。
【0012】
また本発明は、前記工程Bにおいて、前記半球状部により線条痕が出るように変形箇所を擦り、前記工程Cにおいて、前記線条痕が消えるまでオイルストーンにより擦ることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、線条痕を目安とした作業となるため、作業者にとって判りやすい作業となり、何ら熟練度を要することがなく、変形箇所の修正具合も良好となる。
【0014】
また本発明は、前記工程Bにおいて、前記半球状部を前記変形箇所の中央側から直線状に往復動させつつこの往復動方向と直交する方向の一側に移動させて前記変形箇所の半分の領域を擦り、次いで、前記半球状部を前記変形箇所の中央側から直線状に往復動させつつこの往復動方向と直交する方向の他側に移動させて前記変形箇所の残り半分の領域を擦ることを特徴とする。
【0015】
プレス成形時にゴミカミ不良によって生じる変形箇所はその形状が円形あるいは楕円形を呈している場合が殆どである。このような形状においては、半球状部を変形箇所の中央側から直線状に往復動させつつこの往復動方向と直交する方向の一側に移動させて変形箇所の半分の領域を擦り、次いで、半球状部を変形箇所の中央側から直線状に往復動させつつこの往復動方向と直交する方向の他側に移動させて変形箇所の残り半分の領域を擦る方法が作業効率の向上につながる。
【0016】
また本発明は、前記変形箇所が楕円形状を呈する場合において、前記半球状部の往復動を前記変形箇所の長径方向に沿って行うことを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、変形箇所が楕円形状を呈している場合には、半球状部を長径方向に往復動させて擦る方法が最も効率的で、均一な押圧力で変形箇所を擦ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、プレス成形の金属板の変形箇所を熟練度を要することなく簡単に修正できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明で用いる修正治具の側面図である。
【図2】変形箇所である凹部を修正治具で擦る状態を示す概念図である。
【図3】(a)は凹部およびその周囲をオイルストーンで擦った様子を外観写真として示したものであり、(b)は凹部周りの拡大写真である。
【図4】凹部を修正治具で擦る様子を外観写真として示したものである。
【図5】修正治具で擦り終わった後の凹部の様子を外観写真として示したものである。
【図6】修正治具で擦り終わった後の凹部をオイルストーンにより擦った様子を外観写真として示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の修正方法では、市販のオイルストーン(図示せず)および、図1に示すように、直径が5〜8mmの棒状部1Aと棒状部1Aの先端において棒状部1Aと同径の半球状面に形成された半球状部1Bとを有する棒状の修正治具1を用いる。好ましくは直径が6.5mmの修正治具1を用いる。修正治具1の材質は鋼材であり、好ましくはばね鋼である。
【0021】
本発明の修正方法は、変形箇所2およびその周囲をオイルストーンにより擦る工程Aと、先端に半球状部1Bを有する棒状の修正治具1を用い、半球状部1Bにより変形箇所2を擦って変形箇所2に摩擦熱を生じさせる工程Bと、半球状部1Bにより擦られた変形箇所2をオイルストーンにより擦る工程Cと、をその順序で行うことを主な特徴とする。
【0022】
本発明が対象とするプレス成形の金属板Wは例えば亜鉛メッキ等の金属メッキ処理が施されたメッキ鋼板である。板厚は概ね2mm以下のものが本発明の適用対象となる。また、変形箇所2の凹部の深さは概ね100μm程度以下のものが本発明の適用対象となる。プレス成形時にゴミカミ不良によって生じる凹部はその形状が円形あるいは楕円形を呈している場合が殆どであり、以下では凹部が楕円形状を呈している場合について説明する。
【0023】
「工程A」
この工程Aでの具体的な作業態様例としては、「プレス成形された鋼板の表面(製品面)側よりその変形を作業者が目視で検査し、変形が確認されるとその変形箇所2および周縁を方形状のオイルストーンにより軽く擦る」作業が行われる。
【0024】
この工程Aによると、オイルストーンが当接した面は面粗度が向上して光沢が増し、オイルストーンが当接しなかった箇所はそのままの光沢を維持する。変形箇所2が凹状の場合にはオイルストーンは凹部には届かずにその周囲のみを擦ることとなるから、凹部はそのままの光沢を維持し、凹部の周囲のみが光沢を増し、この結果変形箇所2である凹部とその周囲の正常箇所との差別化が明確となる。図3はその様子を示したものである。逆に変形箇所2が凸状の場合には凸部の頂部が頻繁にオイルストーンに当接して擦られるために面粗度が向上して光沢が増し、凸部の周囲にはオイルストーンは届かないためにそのままの光沢を維持し、この結果変形箇所2である凸部とその周囲の正常箇所との差別化が明確となる。
【0025】
そして、変形箇所2が凸状であった場合には、裏面側において凹状の変形箇所2として次の工程Bで修正する。つまり、金属板Wを裏返して表側の凸部の裏部となる凹部に対して工程Aを実施してから次の工程Bで修正する。これにより、裏面において変形箇所2である凹部とその周囲の正常箇所との差別化が明確となる。
【0026】
「工程B」
この工程Bでの具体的な作業態様例としては、図2において、「作業者が修正治具1の棒状部1Aを把持し、半球状部1Bを変形箇所2の略中心に筆圧程度の押圧力で当接させ、楕円形状を呈している変形箇所2の長径方向に沿って直線状に往復動させつつこの往復動方向と直交する方向(つまり短径方向)の一側に移動させて変形箇所2の半分の領域を擦り、次いで半球状部1Bを変形箇所2の略中心に筆圧(概ね150g/mm前後)程度の押圧力で当接させ、変形箇所2の長径方向に沿って直線状に往復動させつつ短径方向の他側に移動させて変形箇所2の残り半分の領域を擦る」作業が行われる。
【0027】
上記作業によると、鋼材からなる半球状部1Bを筆圧程度で擦ると、凹部にその擦り痕として線条痕(図5も参照)が形成される。したがって、作業者はこの線条痕を視認しつつ、線条痕により凹部に摩擦熱が生じていることを把握して、凹部が線条痕で埋め尽くされるように作業を行う。なお、半球状部1Bは一定の曲率半径を有しているため、作業者はほぼ一定の押圧力で擦ることさえできれば、修正治具1の棒状部1Aを鋼板に対して垂直に位置させながら擦ってもよいし、傾斜状に位置させながら擦ってもよい。
【0028】
また、場合により、往復動方向は長径方向に限定されず短径方向にしてもよい。また、半球状部1Bを凹部の中心から渦巻き状に移動させて凹部の外縁に向けて擦る態様でもよいが、凹部が楕円形状を呈している場合には、半球状部1Bを長径方向に往復動させて擦る態様が最も効率的で、均一な押圧力で凹部を擦ることができる。
【0029】
工程Bによれば、半球状部1Bの摺動により凹部に摩擦熱が生じ、この摩擦熱により凹部の歪応力が解消されて凹部が平面状に矯正される。
【0030】
「工程C」
この工程Cでの具体的な作業態様例としては、「修正治具1により擦られた変形箇所2を再度オイルストーンにより軽く擦る」作業が行われる。変形箇所2の内、工程Bにより平面に修正された箇所については、オイルストーンの表面が当接することとなるため、前記線条痕が擦られて消え、光沢が均一化する(図6参照)。一方、工程Bにより未だ平面に修正されなかった変形箇所2についてはオイルストーンの表面が当接しないため、前記線条痕が残存したままとなる。そして、線条痕が残存した部分についてはこれがオイルストーンにより擦られるまで工程Bおよび工程Cを繰り返す。このようにして全ての線条痕が無くなった場合は、変形箇所2の修正が完了したとして作業を終了する。
【0031】
ここで、修正治具1の棒状部1Aの直径が5mmより小さいと、半球状部1Bの曲率半径が小さくなって金属板Wとの当接部が小さなものとなり、線条痕が幅狭となる。凹部を線条痕で埋め尽くすように擦ることを工程Bの作業目安とした場合、線条痕が幅狭となる分、凹部を全て線条痕で埋め尽くすには時間がかかることとなり、作業時間が無駄に増えるおそれがある。また、金属板Wとの当接部が小さくなると、作業者の押圧力がその当接部に集中して線条痕が深く形成されやすくなり、この場合、工程Cにおいてオイルストーンを軽く擦るのみでは線条痕が消えず、結果として線条痕を消すまで余計にオイルストーンで擦る作業を要するという不都合が生じる。
【0032】
また、棒状部1Aの直径が8mmより大きいと、半球状部1Bの曲率半径が大きくなって金属板Wとの当接部が大きなものとなり、作業者の押圧力が当接部で分散されて変形箇所2に伝わるため、所望の筆圧(前記したように概ね150g/mm前後)を変形箇所2に均一に与えることが困難となる。以上から、修正治具1の棒状部1Aの直径、すなわち半球状部1Bの直径は5〜8mmの範囲とすることが好ましく、最も好ましくは直径を6.5mmとする。
【0033】
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。前記したように、本発明が対象とするプレス成形の金属板Wの板厚は概ね2mm以下のものであり、変形箇所2の凹部の深さは概ね100μm程度以下のものである。金属板Wの板厚が2mmより厚い場合や、変形箇所2の凹部の深さが100μmよりも大きい場合であると、歪応力が大きいため、筆圧程度の摺動により生成される摩擦熱では歪応力を解消することは困難だからである。
【0034】
また、本発明の修正方法は、メッキ鋼板以外の鋼板、アルミニウム合金板、その他の金属板にも適用可能である。金属板Wがアルミニウム合金板の場合、修正治具1の材質としては、鋼材以外にもアルミニウム合金材、銅材を用いることができる。
【0035】
また、説明した実施形態は作業者が修正治具1を用いて手作業で修正する場合であったが、電動工具や空動工具の先端に修正治具1を取り付けて擦る形態にしてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 修正治具
1A 棒状部
1B 半球状部
2 変形箇所
W 金属板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス成形された金属板の凹状の変形箇所を修正する方法であって、
前記変形箇所およびその周囲をオイルストーンにより擦る工程Aと、
先端に半球状部を有する棒状の修正治具を用い、前記半球状部により変形箇所を擦って変形箇所に摩擦熱を生じさせる工程Bと、
前記半球状部により擦られた変形箇所をオイルストーンにより擦る工程Cと、
をその順序で行うことを特徴とするプレス成形金属板の変形箇所修正方法。
【請求項2】
前記工程Bにおいて、前記半球状部を略筆圧の押圧力で変形箇所に当接させて擦ることを特徴とする請求項1に記載のプレス成形金属板の変形箇所修正方法。
【請求項3】
前記工程Bにおいて、前記半球状部により線条痕が出るように変形箇所を擦り、前記工程Cにおいて、前記線条痕が消えるまでオイルストーンにより擦ることを特徴とする請求項2に記載のプレス成形金属板の変形箇所修正方法。
【請求項4】
前記工程Bにおいて、前記半球状部を前記変形箇所の中央側から直線状に往復動させつつこの往復動方向と直交する方向の一側に移動させて前記変形箇所の半分の領域を擦り、次いで、前記半球状部を前記変形箇所の中央側から直線状に往復動させつつこの往復動方向と直交する方向の他側に移動させて前記変形箇所の残り半分の領域を擦ることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のプレス成形金属板の変形箇所修正方法。
【請求項5】
前記変形箇所が楕円形状を呈する場合において、
前記半球状部の往復動を前記変形箇所の長径方向に沿って行うことを特徴とする請求項4に記載のプレス成形金属板の変形箇所修正方法。
【請求項6】
前記金属板は、表面に金属メッキ処理が施された鋼板であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のプレス成形金属板の変形箇所修正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−240184(P2012−240184A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115684(P2011−115684)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】