説明

プレス打抜き性に優れた電子部品用素材

【課題】 銅合金組成の調整を行なってプレス加工性を改善すると、最終用途特性が損われる。析出硬化型銅合金の硬化元素を低減すると金型へのダメージは少なくなるが、強度は低下する。結晶方位を調整して塑性変形能を低下させるとプレス加工性は向上するが、曲げ加工性が劣化する。このように素材の性質を損なわずに、金型磨耗を抑制し、プレス打抜き性に優れる素材を提供する。
【解決手段】 酸化物の標準生成自由エネルギーが、25℃で−42kJ/mol以下である元素を0.1〜5.0mass%含有する銅基合金基材に、S以外の成分合計≦500ppm, 0.5≦S≦50ppm、純度Cu≧99.90%、厚さ:0.05〜2.0μmのCu層を被着した電子部品用素材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高強度銅合金を被加工材とした精密プレス加工等に使用されるプレス打抜き性に優れた素材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
小型化多機能化が目覚しい携帯端末などの精密機器に使用される電子部品は、高密度実装のためのコネクタの小型化により、コネクタのピン幅及びピン間隔は、年々益々狭くなってきている。それに使用される素材に求められる特性は、狭いピン幅で安定した接圧を得るための高い強度、過酷な曲げ加工に耐える曲げ加工性である。また、素材の導電率が低いと狭いピン幅、薄肉化により素材の発熱による温度上昇が無視できなくなるため、高い導電率も合わせて求められる。コネクタ用素材には前述のニーズに対処すべく強度と曲げ加工性及び導電率を兼ね備えた銅基合金が開発されつつある。具体的には、コルソン合金に代表される時効硬化型の銅基合金がファインピッチのコネクタに使用されつつある。

【0003】
コネクタは素材をプレス加工することによって製造され、プレス金型にはダイス鋼やハイス鋼などの鉄鋼材料が使用されている。コルソン合金等の時効硬化型銅基合金のほとんどが活性元素を含有しており、それらの合金は一般的なコネクタ用素材であるりん青銅に比べてプレス金型を著しく磨耗する。プレス金型が磨耗してくると、被加工材の切断面にバリやだれが生じピン自体もねじれて加工形状が悪化してコネクタとして使用できなくなる。よって、プレス加工品の形状が許容限度を超えた場合は、プレス金型を研摩して加工品の寸法精度を維持しなければならない。また、コネクタが小さくなればなるほど、ピン幅が狭くなればなるほど高い寸法精度が要求されるので、即ち小さなバリやピンのねじれも見逃せなくなり、ピン数の増加と相まって、金型を研摩する頻度が一層増えてしまう。加えてプレス加工が精密であればあるほど金型自体のコストが高くつくので、このような分野の合金素材で、プレス打抜き性を改善することは大変重要な課題であった。
【0004】
銅合金の合金成分の調整によりプレス金型工具を長寿命化する技術としては特許文献1〜7があり、銅合金の結晶方位の調整によりプレス金型工具を長寿命化する技術としては特許文献9〜11がある。
【特許文献1】特開平11-256256号公報
【特許文献2】特開平11-293366号公報
【特許文献3】特開平11-1735号公報
【特許文献4】特開2001-181757号公報
【特許文献5】特開平7-97645号公報
【特許文献6】特開2000-119776号公報
【特許文献7】特開2001-303159号公報
【特許文献8】特開2000-73130号公報
【特許文献9】特開2000-328158号公報
【特許文献10】特開2001-152303号公報
【特許文献11】特開2002-180165号公報
【特許文献12】特開平2-117701号公報
【特許文献13】特開昭61-201762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来発明でのプレス加工用銅基合金では、材料の成分組成を中間工程であるプレス加工において求められる特性(プレス加工性)が改善されるように調整しているので、プレス加工品の最終的な用途特性に合った最適な成分組成から多少なりともずれている場合がある。例えばSのように機械的性質に悪影響を及ぼす元素をあえて加えて剪断加工時に亀裂が伝播し易くしたものは、素材の延性(特に曲げ加工性)が低下するし、析出硬化型合金などの場合は金型へのダメージを与える硬化元素を低減すると金型は長寿命化するが当然素材強度は低下する。また、結晶方位を調整して塑性変形能を低下させたものは、プレス打抜き性は向上するが、曲げ加工性が劣化する。
したがって、本発明の目的は、本来の銅基合金の持つ性質を損なうことなく、金型磨耗を抑制し、プレス打抜き性に優れる素材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記した問題点を解決するため、特に強度を向上させるために添加された元素と酸素との親和性の関係から金型磨耗の機構を解明し、被加工材をCu層で覆う際、優れたプレス性を有するそのCu層の条件を見出した。また、素材表面と工具表面との摩擦抵抗についても究明し、薄膜金属潤滑と摩擦係数低下効果を有するCu層表面を見出した。
【0007】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明においてプレス加工とは、複数個の対をなす工具を用い、それらの工具間に加工材を置いて、工具に相対運動を行わせ、工具により加工材に強い力を加えることにより、打抜き(剪断)、曲げ、絞り等の成形を行うことである。
以下は、打抜き(剪断)加工における本発明の金型磨耗抑制効果を説明する。
一般に銅基合金においては、強度の向上をもたらす効果が大きい添加元素ほど、プレス加工した際、金型を磨耗させる効果も大きい傾向にあるといえ、その典型的な例がコルソン合金である。コルソン合金は、主成分であるSi,Ni,Co,Cr等を増量させると強度は向上するが、金型も磨耗し易くなる。コルソン合金に特定の微量元素(請求項4)を添加して適切な工程を施し、更に強度を向上させることができる。
Si,Mg,Zr等の酸化物を形成し易い活性元素は、以下図1を参照として説明するようにプレス打抜き性を悪化させる。すなわちこのような活性金属を含有する銅合金の剪断加工したとき、著しく磨耗する金型の部位は、側面の先端である(図1.b参照)。パンチ1がダイ2に噛みこむ時に材料3がパンチ1とダイ2の間隙に流れ込む状態が生じ、そのとき材料表面は酸化熱を発しながら硬い酸化物粒子が生成し、これとともにパンチ側面に高圧で接触するので、パンチが磨耗し易く、この結果プレス加工品の形状が不良になるのである。
【0008】
本発明は、被加工材の表面を柔らかく安定な層で覆えば、被加工材中の活性な元素が酸化しながら工具と接触する現象を防ぐことが出来るという着想の下に、銅基合金の表面をCuで被覆することを特徴とするものである。
銅基合金の表面を被覆する成分としてCuを選定したのは、素地との整合性が高いからである。整合性が悪いと、プレス加工中、素地の変形に表面被覆層が追随できず、界面から剥離してしまう。界面の整合性が悪い限り、たとえ熱処理をしても拡散層が脆弱となり、剥離し易い状態を改善することは出来ない。一方、Cuを99.00%以上含有している銅基合金とCu層との界面は、極めて整合性が高く、過酷な変形を伴うプレス加工を施しても、決して界面から剥離することはない。
Cu層はプレス加工中に工具表面と素地との隔絶を安全に維持するだけの厚さがあればよく、その厚さは一般に0.05〜2.00μmの範囲であり、厚さが0.05μm未満ではプレス打抜き性向上に効果がなく、2.00μmを超えると材料全体の強度の低下が無視できなくなる。そして、より好ましくは、0.3〜1.0μmとするのがよい。Cu被覆は電解めっき、無電解めっきが一般的であるが、スパッタリングなどによっても形成することができる。
【0009】
前述したように材料表面のCu層は、素材中の酸化物形成元素がプレス加工中に酸化しながら工具表面に圧接するのを防ぐ働きをするが、Cu層中に含有する微量不純物として、酸化物を形成しやすい元素が含まれると、やはりプレス加工中に酸化反応してしまい、工具の摩耗を速めてしまう。よって、Cu層の純度は高いほどよい。
更に、Cu層は素地に比べて柔らかいので、プレス加工において薄膜金属潤滑の効果を発揮する。ここで、薄膜金属潤滑とは、表面に柔らかい層が形成されている場合に、潤滑性が良くなる現象である。すなわち接触摩擦は、接触面をミクロで見た場合に、実際にパンチ又はダイに接触している微小な凸部が塑性変形することによって生じる。そのときの変形抵抗が摩擦抵抗となるので、柔らかい表面層の凸部に変形が集中して、摩擦抵抗が小さくなり、潤滑性が向上するのである。よって、表面のCu層は柔らかいほど、潤滑性がよいので、Cu層の硬度を上げる不純物元素は極力無い方がよい。このことからもCu層の純度は高い方が良いといえる。
【0010】
以上2つの観点からCu層中の不純物について、適正量を研究したところ、S以外の微量元素の合計で500ppm以下であり、Cu層の純度が、99.9%以上であれば、酸化の影響が無視できるほど小さくなり、良好な薄膜金属潤滑が得られることが判明した。
ここで、Cu層中のS以外の微量元素とは、
Pb,Zn,Mn,Fe,Co,Ni,Si,Al,P,As,Se,Te,Sb,Bi,Au,Ag,Ti,Nb,V,Ta,W,Mo,Cr,Pb,Zn,Mnが挙げられる。
【0011】
一方、Sは、硫化銅を形成して潤滑性を向上させる元素であり、また潤滑油の主要成分でもあるので、摩擦係数を低下させる。よって、表面のCu層に含有されていれば、更にプレス加工時の潤滑性が向上するが、含有量が多すぎるとCu層が脆化してしまうので、プレス加工時にCu層が断絶して、素地が露出し、酸化物形成元素が工具表面に接触してしまう。SがCu層中に0. 5ppm以上含有すると、S特有の潤滑効果が得られるようになり、50ppmを超えると、Cu層の脆化が著しくなるので、Sの適正範囲は、0. 5≦S≦50ppmとした。
【0012】
また、電気めっきによって形成される銅の電着粒は、プレス加工において使用される潤滑油の濡れ性を高める効果があるが、その凹凸の大きさによって濡れ性が異なってくる。そして潤滑油を使用したプレス加工において、潤滑油の濡れ性が高い表面を有する素材ほど、工具の摩耗は低減される。ミクロ的には、電着粒の隙間に潤滑油のマイクロプールが形成され、工具との接触圧が高くなると、マイクロプールの圧力が高まり、そこから潤滑油が染み出して、接触面全体に行き渡り、望ましい流体潤滑が工具と被加工材との間で得られるのである。このような観点から、電着粒の形態について研究した。
その表面粗さが、Ra:0.0030〜0.0100μm,Rz:0.0100〜0.0500μm:Sm:0.30〜1.00μmの範囲であれば、潤滑油を使用した際に理想的な流体潤滑が得られる。
【0013】
なお、銅基合金にCuめっきを施すことが従来も行われてきた。その目的は、例えば、強度は高いが導電率の低い鉄系合金にCuめっきをして導電率を向上させること(特許文献12)であり、薄膜金属潤滑を利用してプレス打抜き性を改善するものではない。
特許文献15によると、Cuめっき又はPVD処理後の銅基合金条材を圧延して表面のCuを0.5μm以上の厚さとするリードフレーム用銅基合金が示されているが、ボンディング性、めっき性、はんだ付け性、及びレジンモールドとの密着性の改善がその目的であり、薄膜金属潤滑を利用してプレス打抜き性を改善するものではない。
【0014】
プレス打抜き性を改善する目的で流体潤滑を良好にすべく表面粗さを規定した例は多い。それらはいずれもバフ研磨などの機械研磨やワークロールの粗度を調整した圧延により、表面粗さを作りこんだもので、触針式の粗さ計で測定した値を規定している。このような方法で粗さを作りこむと、流体潤滑の効果は多少期待できるものの、表層が硬くなっているので、薄膜金属潤滑は期待できない。また、粗さに異方性が生じるので、プレス成形性も悪化する。一方、本発明においては非加工硬化・無方向性Cu層、具体的には電気めっきによる電着粒から構成されるCu層は、触針式の粗さ計では測定できず、SEMで得られた像を解析することによって表面粗さを測定する。そして、粗さに異方性は全く無く、Cu層中の不純物元素を規定量以下に制御すれば、素地に比べて格段に柔らかい表層が得られる。更に、電着粒の大きさを本発明で規定したように制御すれば、適度なマイクロプールが全面に形成されるので、材料表面が塑性加工しながら工具に接触しても、潤滑油膜が充分に保持される。すなわち、プレス加工の潤滑性をミクロレベルで解析し、素材の最適な表面形態を見出したことに本発明の大きな特徴がある。
【0015】
本発明の素材がもっている薄膜金属潤滑効果及び非加工硬化・無方向性Cu層による効果は、金型のコーナー部において特に有効に作用する。すなわち金型のコーナー部は、プレス加工中、被加工材が強く擦れるので、摩耗が起こりやすい部位である。しかし本発明の素材を使用すると、曲率の小さなコーナー部においても摩耗が少なく、より精密なプレス加工が可能である。
【0016】
これまで、本発明の素材がもっている薄膜金属潤滑効果及び非加工硬化・無方向性Cu層による効果が有効に作用する例としてコルソン合金を紹介してきたが、コルソン合金に第3元素を添加して更に高強度化を実現した合金においても本発明は、有効に作用する。例えば、コルソン合金において、Mg,Mn,Sn,Zn及びPは、素地の強度を向上させる元素である。これらのうち1種または2種以上を0.001〜1.0mass%添加し、適切な工程で製造すると、強度の高い素地が容易に得られる。しかし添加しすぎると脆化して曲げ加工性が劣化する。これらの元素が0.001mass%未満では強度向上の効果が得られず、逆に1.0mass%を超えて添加すると、曲げ加工性が低下する。よって、これらの元素を適量加えることにより、強度と曲げ加工性に優れたコルソン合金を得ることが出来る。一般的に、プレス打抜き性が良好な素材は、硬くて脆いものが多く、逆に強度と曲げ加工性がよいものは、プレス金型に負担がかかり、金型が摩耗しやすくなる傾向にある。しかし、このように強度と曲げ性を高めた素材であっても、本発明で規定した表面を作りこめば、更にプレス打抜き性まで優れるようになり、正に理想的な電子部品用素材が得られることになる。
【0017】
本発明における被加工材の対象として、代表的なものは、コルソン合金である。
具体的には、合金の必須添加成元素としてSi:0.1〜1.0mass%と、Ni、並びにCo、Ti及びCrの少なくとも1種とを合計含有量で0.5〜4.0mass%を含有する銅基合金である。これらの合金に強度等の特性改善を目的としてMg,Mn,Sn,Zn,及びPからなる群から選択された1種又は2種以上を0.001〜1.0mass%添加しても同様な効果が得られる。
【0018】
酸化物の標準生成自由エネルギーの値がマイナス側に大きい元素ほど、酸化物を形成しやすい元素であると言える。銅基合金において、その値が25℃で−50Kcal/mol以下(絶対値50Kcal/mol以上)である添加元素が合金化されている場合には、プレス加工中形成される酸化物の工具摩耗への影響が無視できなくなる。25℃で−50Kcal/mol以下(絶対値50Kcal/mol以上)である元素としては、Al、Si、Mg、Zr、Beなどがあり、これらの元素を使った銅基合金として、ベリリウム銅、コルソン合金(Cu-Ni-Si、Cu-Co-Si、Cu-Cr-Si)、Cu-Al系合金、Cu-Mg系合金などが挙げられる。このような合金の表面にCu層を形成させた場合に本発明は有効に作用する。なお、酸化物の標準生成自由エネルギーは、鉄鋼便覧(丸善出版,日本鉄鋼協会編)等に記載されている値でよい。
これらの構成元素の含有量は、0.1〜5.0mass%とした。0.1 mass%未満では構成元素として含有する目的の効果が得られないからである。また、5.0mass%を超える場合には、曲げ加工性や導電率を悪くするなどの悪影響をもたらすからである。
【0019】
本発明における被加工材の製造方法は従来の圧延で条材を製造する方法でよい。例えば、コルソン合金を例にすると、
Cuめっき前のコルソン合金条の製造方法は、例えば、溶解・鋳造→熱延・水冷→面削→冷延→溶体化→時効→酸洗→冷延→低温焼鈍→酸洗である。その後、Cuめっきを施せばよい。
表面のCu層の状態は、めっき条件によって調整できる。例えばCu層の厚さは、電流値や通板速度で調整でき、Cu層の純度はアノードの純度やめっき液の純度によって調整できる。Cu層中のSの濃度は、めっき液である硫酸銅の濃度によって調整でき、電着粒の大きさは、電流密度によって調整できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
実施例
大気溶解炉で表1の成分のインゴットを溶製し、950℃に加熱して熱間圧延し板厚10mmの熱延板を得、更に950℃で十分な均質化焼鈍を行なった後水冷し、機械面削加工により酸化スケールを取り除いた後、冷延して板厚0.2mmの冷延板を得た。その後大気中800〜900℃×30〜120sで溶体化処理を行い、そのまま400〜500℃×3〜48hの時効処理を行ってから酸洗し、板厚0.15mmに冷延した後低温焼き鈍し焼鈍を行い、最後に表2に示すCuめっきを圧延板の両面に施した。電着粒を図3の写真に示す。めっき条件は次のとおりであった。
【0021】
銅めっき浴
めっき液 : CuSO4・5H2O=200g/リットル+H2SO4=100g/リットル, 電流密度:5A/dm2, 温度:50℃







【0022】
【表1】

【0023】
【表2】




【0024】
※A群として分析した元素:
Pb,Zn,Mn,Fe,Co,Ni,Si,Al,P,As,Se,Te,Sb,Bi,Au,Ag,Ti,Nb,V,Ta,W,Mo,Cr,Pb,Zn,Mn
【0025】
Cuめっき厚は蛍光 X 線膜厚計により測定し、表面粗さはSEMで測定した。電気めっき層の粗さは、株式会社エリオニクス製の電子線三次元粗さ解析装置(ERA-8000)を用い、SEM加速電圧10kV,操作長さ(測定長さ)6μmの条件で、測定した。なお、粗さが非常に小さいので、ノイズカットは不要、カットオフ値は0μmとし、その他の詳細は解析装置のマニュアルに従った。
また、引張試験を行って、0.2%耐力を測定し、W曲げ試験を行って亀裂が発生しない最小曲げ半径MBR/tを測定した。その結果を表3に示す。尚、W曲げ試験荷重は5トンとし、試験片の板幅は10mmとした。金型磨耗性については、実際に連続プレス機で材料を大量に打抜き、金型の磨耗状況によって変化する切断部のバリ高さと破断面比率を測定して評価した。ここで、バリ高さとは図1.bに示す突起部の高さであり、金型が磨耗するにしたがってバリが高くなってくる。また金型が磨耗するにしたがって、図1.bに示す剪断面の割合が多くなり、即ち破断面比率h2/(h1+h2)は小さくなる。打抜き試験は、潤滑剤が無い場合と有る場合の2種類行った。Cuめっきの効果を見るだけなら、前者のみでよいが、表面粗さの効果を見るために後者も行った。
尚、他のプレス条件は以下の通りである。金型工具材料:SKD11,クリアランス:10μm,ストローク:400rpm







【0026】
【表3】

【0027】
【表4】




【0028】
【表5】

【0029】
図2に評価に用いた金型セットの形状を示す。1辺約5mmの正方形で4つの角の曲率が異なっており、それぞれの曲率半径は、0.05mm,0.1mm,0.2mm,0.3mmである。曲率半径が小さい程、剪断加工時に応力集中が生じるので磨耗し易い。評価としては、曲率半径が小さい程切断面形状がばらついて観察しにくくなる。また、プレス加工後の孔部と抜き落とし部とでは、抜き落とし側の方が観察し易い。以上を考慮し、評価は抜き落とし側の曲率半径が0.1mmの角を観察した。潤滑剤無しの場合は、十万回打ちぬいたときに素材間の差異が顕著となり、潤滑剤有りの場合は百万回打ち抜いたときに素材間の差異が顕著となったので、そのときの値を評価値として採用した。バリ高さはレーザー変位計で測定し、破断面比率は光顕による断面観察で測定した。
【0030】
本発明例において、No. 1〜6は請求項1を満たしており、強度が高く曲げ性及びプレス打抜き性も良い。このうちNo.1以外は請求項2をも満たしているので、潤滑剤を使用したときのプレス打抜き性が更に良くなっている。また、No.2以外は請求項4を満たしており、強度の向上が見られる。
一方比較例において、No.7はCuめっきを施さなかったものでNo.8はCuめっき厚が請求項の規定より薄いものである。発明例に比べてバリが高く破断面比率が低いことから金型の磨耗が進行していると言える。更にNo.9は、Cuめっきをせずに内質改善でプレス打抜き性を良好にしたものであるが、Sを多量に含有しているために延性が低下し、曲げ性が劣っている。No.10はCu層中のS濃度が大きすぎて、プレス加工中にCu層が断絶して素地が工具表面に接触し、凝着摩耗をあまり抑制できなかった。No. 11は、Cu層中のA群元素の含有量が多く、No. 12はCu層のCu純度が低く、ともにCu層による凝着摩耗抑制効果が不十分であった。


【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は高い強度と良好な曲げ加工性を具備した上でのプレス打抜き性改善を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1.a】プレス打抜き加工の概念図である。
【図1.b】プレス打抜きにおいて発生するバリの説明図である。
【図2】評価に用いた金型セット形状を示す。
【図3】本発明の凹凸を形成した電着粒を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物の標準生成自由エネルギーが、25℃で−50Kcal/mol以下(絶対値50Kcal/mol以上)である元素を必須添加元素として0.1〜5.0mass%含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅基合金からなる基材に、S以外の微量成分の合計≦500 mass ppm,0.5≦S≦50 mass ppmに制御され、かつ純度が、Cu≧99.90 mass %に制御された厚さ0.05〜2.00μmのCu層を被着したことを特徴とするプレス打抜き性に優れた電子部品用素材。
【請求項2】
電気めっき電着粒によって形成された、Cu層の表面凹凸が、圧延平行方向について、Ra:0.0030〜0.0100μm,Rz:0.0100〜0.0500μm:Sm:0.30〜1.00μmに制御されていることを特徴とする請求項1記載のプレス打抜き性に優れた電子部品用素材。
【請求項3】
合金の必須添加成元素としてSi:0.1〜1.0mass%と、Ni、並びにCo、Ti及びCrの少なくとも1種とを合計含有量で0.5〜4.0mass%を含有する請求項1又は2記載のプレス打抜き性に優れた電子部品用素材。
【請求項4】
Mg,Mn,Sn,Zn,及びPからなる群から選択された1種又は2種以上を0.001〜1.0mass%さらに含有することを特徴とする請求項3記載のプレス打抜き性に優れた電子部品用素材。

【図1.a】
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【図1.b】
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【図2】
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【図3】
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