説明

プレテンションPC部材の製造方法

【課題】プレテンションPC部材の製造に際し、多数のPC部材を同時に製造するロングライン方式による製造の場合においても、PC部材の端部にまでのプレストレス導入が容易で低コストなものとする。
【解決手段】PC緊張材には、各型枠毎に必要な長さに切断したPC鋼棒20を使用し、その各PC鋼棒20の両端部に、各型枠内に位置させて支圧用のナット22を螺嵌させておき、その各型枠12毎のPC鋼棒20間を、切り離し可能な連結具26を介して連結し、然る後互いに連結されたPC鋼棒20からなるPC緊張材をジャッキにより緊張した後、コンクリートを打設し、そのコンクリートの固化後、緊張を解いて連結具26を取り外す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数のPC部材(プレストレストコンクリート部材)を同一の製作台上に並べて同時に成形するロングライン方式によるプレテンションPC部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、プレキャストコンクリート板等のPC部材のロングライン方式による製造方法としては、作業台の上に多数の型枠を縁切り型枠を介して連続配置に設置し、その各型枠に連続させた状態にPC緊張材を挿通し、その両端を製作台の両端に突設したアバット(反力受)に支持せて緊張し、しかる後各型枠内にコンクリートを打設し、そのコンクリートの固化を待って緊張を解除し、各型枠間に跨って繋がっているPC緊張材を縁切り型枠位置で切断することによってPC緊張材長さ方向に並んでいる各型枠内のコンクリートにプレストレスを導入する方法が知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
また、上述したようにPC部材を、縁切り型枠を介して連続配置に製造するものの他、製作台上に各PC部材毎に分かれた個別の型枠を並べて設置し、その型枠に跨って連続させた配置にPC緊張材を挿通し、PC緊張材の緊張、コンクリートの打設、コンクリート固化後の緊張解除、PC緊張材の型枠間における切断の手順を経る方法が知られている(例えば特許文献2)。
【0004】
また、プレテンション方式によるPC部材の製造においては、緊張解除後のPC緊張材の戻り力によってプレストレスが導入されるものであるが、PC緊張材とコンクリートとの付着力に依存してプレストレスを導入させる場合は、PC部材の端部にはプレストレスが導入されないという問題がある。これを防止するものとして、コンクリート構造体の端部位置においてPC緊張材に支圧具を固定しておき、PC緊張材の緊張解除後に、この支圧具を通じてPC部材の端部にもプレストレスを導入させる方法が知られている(例えば特許文献3)。
【特許文献1】特開平10−58427号号公報
【特許文献2】特開20008−6641号公報
【特許文献3】特開2004−237593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近時、図8、図9に示す如きPC橋1のウエブ部材2として平板状のPC部材を使用することによって箱桁の軽量化を図ると共にプレキャスト部材を使用することによる工期の短縮化を企図した方法が開発されている。このウエブ部材2は、上下方向に向けたPC緊張材3が150mm〜200mm程度のピッチで設置され、且つウエブ部材2の上下の端部におけるプレストレス非導入部分が短いことが好ましい。
【0006】
このようなPC部材を、前述した特許文献1及び2に示されているように、多数のPC部材に共通のPC緊張材を使用し、同時に多数のPC部材を製造するロングライン方式による方法では、PC緊張材とコンクリートとの付着によってプレストレスが導入されるようにしているため、緊張解除後におけるPC緊張材のコンクリート内への戻りが防止できず、短尺のPC部材の場合は、全体の長さに対するプレストレス非導入部分の長さの比率が大きくなり、好ましくないという問題がある。
【0007】
また、コンクリートに対するPC緊張材の付着力を大きいものとするためにはPCストランドを使用することが好ましく、この場合、緊張解除後の戻りをなくする方法として、PC緊張材を支圧金物によってコンクリート端部に定着させる方法が考えられるが、PCストランドを定着させるには、テーパー筒を半割り状にした楔によってPC緊張材を挟持させる所謂楔定着によらざるを得ず、コスト高となるという問題がある。
【0008】
一方、特許文献3に示すように、PC緊張材にPC鋼棒を使用し、支圧金物としてナットを使用することによってPC緊張材の戻りを少なくする方法が考えられるが、これを前述したロングライン方式とする場合には、連続した鋼棒の各型枠の端部に位置する部分にナットを螺嵌しておく必要があり、例えば100m以上もの長い製作台上で、数m単位のPC部材を製造するような場合のように長スパンの製作台上で、多数のPC部材を共通のプレテンションによって同時に製造するような場合には、予め多数のナットを所定の位置まで緊張材端部から螺嵌させておかなければならず、PC鋼棒の全長にネジ切を施したものを使用する必要があるなど、材料コスト及び作業工数上から現実的ではないという問題があった。
【0009】
本発明はこのような従来の問題に鑑み、多数のPC部材を共通のプレテンションによって同時に製造するロングライン方式による製造の場合においても、PC部材の端部にまでプレストレスを導入させることができ、しかもプレストレス導入時のPC緊張材の戻り防止のための定着具の装着を容易かつ低コストで行うことができるプレテンションPC部材の製造方法の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の如き従来の問題を解決し、所期の目的を達成するための請求項1に記載の発明の特徴は、製作台の上面に複数のPC部材成形用型枠を並べ、その各型枠に貫通させて連続配置のPC緊張材を挿通し、該PC緊張材の両端を前記製作台上に設置したアバットに支持させ、ジャッキにより緊張した後、前記各型枠内にコンクリートを打設し、該コンクリートの固化後に前記緊張を解くことにより前記各型枠内のコンクリートにプレストレスを導入させるプレテンションPC部材の製造方法において、
前記PC緊張材には、各型枠毎に必要な長さに切断したPC鋼棒を使用し、その各PC鋼棒の両端部に、前記各型枠内に位置させて支圧用のナットを螺嵌させておき、その各型枠毎のPC鋼棒間を、切り離し可能な連結具を介して連結し、然る後互いに連結された前記PC鋼棒からなるPC緊張材を前記ジャッキにより緊張した後、前記コンクリートの打設を行い、該コンクリートの固化後、緊張を解いた後、前記連結具を取り外すことにある。
【0011】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記型枠には、底板の周囲に立上り型板を立設した箱型形状のものを使用し、該型枠の底板下に転がり部材を設置し、該型枠が前記PC緊張材の緊張作業時に該PC緊張材の長さ方向の移動に応じて移動できるようにしていることにある。
【0012】
請求項3に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記連結具は、前記PC鋼棒の端部に螺嵌できる袋ナットを一端側に有する一対のPC鋼棒嵌合部材と、その両PC鋼棒嵌合部材間に着脱自在な枢軸によって連結される中間部材をもって構成されるものを使用することにある。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、PC緊張材には、各型枠毎に必要な長さに切断したPC鋼棒を使用し、その各PC鋼棒の両端部に、前記各型枠内に位置させて支圧用のナットを螺嵌させておき、その各型枠毎のPC鋼棒間を、切り離し可能な連結具を介して連結し、然る後互いに連結された前記PC鋼棒からなるPC緊張材を前記ジャッキにより緊張した後、前記コンクリートの打設を行い、該コンクリートの固化後、緊張を解いた後、前記連結具を取り外すようにしているため、ロングライン方式により多数のPC部材を同時に製造する場合においても、プレストレス導入時に支圧用のナツトの存在によってPC鋼棒の戻りがなくなり、PC部材の端部にまでプレストレスを導入させることができるとともに、型枠毎に対応させたPC鋼棒を連結してこれらを同時に緊張するものであるため、支圧用のナットの取り付け作業が容易となり、また両端部にのみ雄ネジを有するPC鋼棒が使用でき、且つ使用した連結具は、次のPC部材製造に繰り返し使用できるため、コストが低減される。
【0014】
また、本発明では、前記型枠には、底板の周囲に立上り型板を立設した箱型形状のものを使用し、該型枠の底板下に転がり部材を設置し、該型枠が前記PC緊張材の緊張作業時に該PC緊張材の長さ方向の移動に応じて移動できるようにすることによって、緊張作業時におけるPC鋼棒連結部の遊びやPC鋼棒の伸びに起因する連結具及び支圧用のナット位置の変動に対し、型枠全体がこれに追随して移動するため、各型枠毎のPC鋼棒に均一な緊張力を付与することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記連結具は、前記PC鋼棒の端部に螺嵌できる袋ナットを一端側に有する一対のPC鋼棒嵌合部材と、その両PC鋼棒嵌合部材間に着脱自在な枢軸によって連結される中間部材をもって構成されるものを使用することにより、PC鋼棒連結、切り離しの作業が容易に行われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に本発明の実施の形態を、図1〜図7に示した実施例に基づいて説明する。図において符号10は、プレテンションPC部材をロングライン方式により製造するための製作台であり、11は製作台10の両端部に設置したアバット、12はPC部材形成用の型枠である。
【0017】
先ず、図1に示すように、製作台10のアバット11,11間に所定数の型枠12を並べる。この型枠12は図2に示すように、方形状をした底板13の周縁に側板14,14及び端板15,15からなる立ち上がり型板を取り外し可能に立ち上げた平箱状をしており、端板15を互いにアバット11,11間方向に対向させて多数の型枠12を並べる。この型枠12の底板13下には、鋼棒からなる複数の転がり部材16をアバット11,11間方向に直交する向きにして敷設しておく。
【0018】
各型枠12には、所定のピッチに所望数のPC鋼棒20を平行に並べて設置する。このPC鋼棒20は、両端が型枠12の端板15,15より突出し、後述する連結具25が型枠12外において嵌合できる長さのものを使用する。また、このPC鋼棒20には、図6、図7に示すように両端部から型枠12内に至る長さの雄ネジ21が刻設されている。この両雄ネジ21部分に定着金物を構成する支圧用のナット22,22を螺嵌させる。このナット22は、型枠12の端板15の内側に位置させる。
【0019】
次いで、各型枠12,12間において、互いに対向する端板15,15より突出している各PC鋼棒20,20……間を連結する。この連結には図6、図7に示す連結具25を使用する。この連結具25は、一対のPC鋼棒嵌合部材26,26とそれらを連結する中間部材27とから構成されている。
【0020】
PC鋼棒嵌合部材26は、棒状材26aの一端にこれと一体の袋ナット26bを有し、他端に二股状をした一対の枢着片26c,26cを有しており、両枢着片26c,26cには連通配置の枢軸嵌合孔が形成されている。中間部材27は略矩形状をしたリンクからなり、その両端に枢軸嵌合孔が形成されている。この中間部材27の両端を両PC鋼棒嵌合部材26,26の各枢着片26c,26c間に挿入し、枢軸28をこれらに貫通させて装着することによって両PC鋼棒嵌合部材26,26が連結されるようになっている。
【0021】
尚、枢軸28は、一端に前記枢軸嵌合孔より太径の頭部28aが形成され、他端には割りピン貫通孔が形成され、これに割りピン29を挿通させることによって枢軸嵌合孔から抜け止めさせている。この抜け止めは、割りピンの他、Cリング等各種の抜け止め具が使用できる。
【0022】
このようにしてアバット11,11間に並べられた型枠12,12……毎に設置したPC鋼棒20,20……間を連結具25によって連結した後、両端部の型枠のPC鋼棒の先端をアバット11,11に貫通させ、その一方をナットからなる定着具30により一方のアバット11に対して定着させ、他方をアバット11に支持させた緊張用ジャッキ31に定着させる。この状態で緊張用ジャッキ31により多数連結したPC鋼棒20,20……を緊張する。この時の連結具25の遊び部分、及びPC鋼棒20の伸びによって連結具25の位置が変動するが、この変動は型枠12が転がり部材16上をこれに追随して移動することによって吸収され、型枠12に対するPC鋼棒20及びナット22の相対位置関係に変動は生じない。
【0023】
このようにしてPC鋼棒20を緊張した状態で、各型枠12内にコンクリート32を打設し(図3に示す)、その固化後緊張用ジャッキ31による緊張を解除する。これによって各型枠12内のコンクリートにプレストレスが導入される。このプレストレスは各型枠12毎にそのPC鋼棒20の両端にナット22が設置されているため、これがプレストレス導入用の支圧金物となり、製造されるPC部材の端部にまでプレストレスが導入される。
【0024】
次いで、各型枠12間の連結具25を取り外す(図4に示す)。この取り外しは、先ず割りピン29を抜き取り、枢軸28の先端を、適宜の押し出し冶具を介してハンマーにて叩くことにより枢軸28を除去し、中間部材27を両PC鋼棒嵌合部材26,26から取り外す。しかる後袋ナット26bをPC鋼棒20から取り外す。
【0025】
また、袋ナット26bのPC鋼棒20からの取り外し前又は後に、PC鋼棒20のPC部材Aから突出している部分を必要に応じて除去し、脱型する(図5に示す)。尚、PC鋼棒20の突出部分の除去は脱型後に行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るプレテンションPC部材の製造方法に使用する装置の概略構成を示す側面図である。
【図2】同上の型枠及びPC鋼棒の配置を示す平面図である。
【図3】同上の型枠内にコンクリートを打設した状態を示す平面図である。
【図4】同上の連結具によるPC鋼棒間の連結を解いた状態を示す平面図である。
【図5】同上の脱型後の状態を示す平面図である。
【図6】同上の連結具によるPC鋼棒間連結状態を示す部分拡大断面図である。
【図7】同平面図である。
【図8】本発明方法により製造されるPC部材の一例のウエブを使用した橋体の部分断面図である。
【図9】同上のウエブの平面図である。
【符号の説明】
【0027】
10 製作台
11 アバット
12 PC部材形成用の型枠
13 底板
14 側板
15 端板
16 転がり部材
20 PC鋼棒
21 雄ネジ
22 ナット
25 連結具
26 PC鋼棒嵌合部材
26a 棒状材
26b 袋ナット
26c 枢着片
27 中間部材
28 枢軸
28a 頭部
29 割りピン
30 定着具
31 緊張用ジャッキ
A PC部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製作台の上面に複数のPC部材成形用型枠を並べ、その各型枠に貫通させて連続配置のPC緊張材を挿通し、該PC緊張材の両端を前記製作台上に設置したアバットに支持させ、ジャッキにより緊張した後、前記各型枠内にコンクリートを打設し、該コンクリートの固化後に前記緊張を解くことにより前記各型枠内のコンクリートにプレストレスを導入させるプレテンションPC部材の製造方法において、
前記PC緊張材には、各型枠毎に必要な長さに切断したPC鋼棒を使用し、その各PC鋼棒の両端部に、前記各型枠内に位置させて支圧用のナットを螺嵌させておき、その各型枠毎のPC鋼棒間を、切り離し可能な連結具を介して連結し、然る後互いに連結された前記PC鋼棒からなるPC緊張材を前記ジャッキにより緊張した後、前記コンクリートの打設を行い、該コンクリートの固化後、緊張を解いた後、前記連結具を取り外すことを特徴としてなるプレテンションPC部材の製造方法。
【請求項2】
前記型枠には、底板の周囲に立上り型板を立設した箱型形状のものを使用し、該型枠の底板下に転がり部材を設置し、該型枠が前記PC緊張材の緊張作業時に該PC緊張材の長さ方向の移動に応じて移動できるようにしている請求項1に記載のプレテンションPC部材の製造方法。
【請求項3】
前記連結具は、前記PC鋼棒の端部に螺嵌できる袋ナットを一端側に有する一対のPC鋼棒嵌合部材と、その両PC鋼棒嵌合部材間に着脱自在な枢軸によって連結される中間部材をもって構成されるものを使用する請求項1に記載のプレテンションPC部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−279758(P2009−279758A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130897(P2008−130897)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【出願人】(000112196)株式会社ピーエス三菱 (181)
【Fターム(参考)】