説明

プレート式物質交換塔

【課題】 経済的に製作でき、しかもプロセス技術上有利に機能するプレート式物質交換塔を提供する。
【解決手段】 上部交換プレート(3a)とその下方に間隔をあけて配置された下部交換プレート(3b)とからなる少なくとも一つの交換プレート対、上部交換プレート側から下部交換プレート側へ液体を流下させるドレン管(4)、及びドレン管(4)の下方に配置された枡状の流下液集合ピット(9)を備えたプレート式物質交換塔。集合ピット(9)の底部(14)は下部交換プレート(3b)の表面(5b)よりも下位にある。集合ピット(9)は、その上部開口が塔の垂直軸心方向に見てドレン管(4)の下端開口面積(16)の一部の面積部分(15)にのみ重なるように配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体と気体との間の物質交換を行うプレート式物質交換塔に関し、特に上部交換プレートとその下方に間隔をあけて配置された下部交換プレートとからなる少なくとも一つの交換プレート対と、上部交換プレート側から下部交換プレート側へ液体を流下させるためのドレン管と、ドレン管の下端よりも下方に配置された流下液集合ピットとを備え、流下液集合ピットの底部が下部交換プレートの表面よりも下位に位置する形式の物質交換塔に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冒頭に記載した形式のプレート式物質交換塔は、物質交換プロセス、特に洗浄塔又は気体分離用精留塔として頻繁に利用されている。その基本構造は、例えば非特許文献1に述べられている。
【非特許文献1】ヴィンナッケル‐キュヒラー(Winnacker-Kuechler)共著「化学技術(Chemische Technologie)」第7巻、第3版(1975年)、第3.35章、196〜200頁
【0003】
交換プレートとしては、例えば多孔プレート、バブルキャッププレート又はバルブプレート等、種々の形式のものが知られている。本発明はいずれのプレート形式にも適用可能である。
【0004】
いわゆる交差流形のプレート式物質交換塔では、液体が上昇気体と交差しながら上部交換プレート上を流れ、次いで一つ又は複数のドレン管を介して下方に位置する下部交換プレートへと流下する。これらの交換プレートの表面上では、気体を通過させている液体が沸騰状の発泡層を形成し、この発泡層の中で気体と液体が強度の直接的物質交換状態になる。
【0005】
ここで、プレートの「表面」とは、プレート上を横方向に流れながら上昇気体と物質交換する液体が直接下方に流れ落ちるのを阻止する平面のことであり、従って上記発泡層の下部境界面を確定する平面を意味する。多孔プレートの場合、この平面は例えば一般的な多孔プレートの構成部材である多孔シートメタルの表面によって形成される。
【0006】
また、空間的な用語における「上」「下」「垂直」等は、ここでは操業状態の物質交換塔における幾何学的方向を指すものとする。
【0007】
プレート式物質交換塔内の圧力は上部から下部へ向かうに従って上昇するので、下部交換プレート上の蒸発空間内のほうが上部交換プレート上の蒸発空間内よりも高圧である。従って、上部交換プレートから流下してくる液体はドレン管内で堰き止められ、堰き止められた液体柱の重量が下部交換プレートの蒸発空間内へ液体を移送するに充分な大きさに達するまで、ドレン管内に流下液の貯留部が生じる。一般に、この堰止め高さが所要のプレート間隔、従って塔の高さを決定する。
【0008】
ドレン管内の液体堰止め高さは、以下に述べるように複数の要因によって決まる。
【0009】
一般に、堰止め高さの最大部分を占めるのはプレートの圧力損失である。上昇気体がこの圧力損失を受けるのは、下部交換プレート側から上部交換プレートの交換要素内を通過するときと、上部交換プレート上の発泡層の静圧水頭を超えるときである。
【0010】
また、一般に摩擦条件はドレン管内の堰止め高さの比較的僅かな部分を占めるだけであるが、ドレン管の出口ギャップ又は複数の出口開口から下部交換プレートへ向けて液体を付勢するためには必要な条件である。下部プレート上に流入堰を有する交換プレートにおいては、いずれの操業したでも流入堰がドレン管の静圧液体シールを確保するが、これが堰止め高さ全体の無視できない付加的部分となることがある。
【0011】
最新の多くのプレートでは、静圧液体シールを省略して流入堰を使用しないか、或いはドレン管の出口開口を発泡層の上方に配置することによって係る堰止め高さの付加的部分の発生を防止している。この場合、ドレン管のシールは出口開口に生じる圧損によって動的に形成されることになる。
【0012】
更に、ドレン管の下方に枡状のドレン液集合ピットを配置し、以て流入堰を設けることなく静圧液体シールを形成することが非特許文献2により知られているが、これは塔の製作に比較的高いコストが生じる原因となっている。
【非特許文献2】メイフィールド他(Mayfield et al.)共著、ジャーナル・オブ・インダストリアル・アンド・エンジニアリング・ケミストリー(Journal of Industrial Engineering Chemistry)、(1952年)第44巻、第2238〜2249頁(図13)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、経済的に製作でき、しかもプロセス技術上有利に機能することが可能な枡状流下液集合ピットを有するプレート式物質交換塔を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、冒頭に記載した形式のプレート式物質交換塔において、枡状の流下液集合ピットをその上部開口が塔の垂直軸心方向に見てドレン管の下端開口面積の一部の面積部分にのみ重なるように配設したことによって上述の課題を解決したものである。
【0015】
本発明の構想の枠内で、ドレン管から下部交換プレート上に液体を流出させるには比較的小さな流路断面積で足りることが判明した。従って、従来から行われているやり方に反して、枡状の集合ピットにドレン管の下端開口部全体を浸漬する必要はなく、むしろこのドレン管下端の開口流路面積の一部の面積部分にのみ開口する枡状のピットで流下液の流れ込みを受ければ充分である。このピットは、シートメタルを枡状に成形することにより容易且つ低コストに製作することができる。成形された枡状ピットは単純な結合要素、例えばリベットによって交換プレートと結合することができる。従って、塔壁に対して流下液集合ピットを密封するための特別なコストは不要となる。勿論、ドレン管内の液体の堰止め高さ、従って塔全体の構造高さに対しても枡状の流下液集合ピットの好ましい効果を活用することができる。
【0016】
流下液集合ピットの上部開口は、ドレン管の下端開口面積の例えば20%〜60%、好ましくは25%〜40%の面積部分に対してのみ対面開口していることが望ましい。
【0017】
ドレン管の下端は下部交換プレートの表面よりも上方で開口していることが好ましく、これにより流下液集合ピットがそれ自体で静圧液体シールを形成しなくなる。これを補償する措置としては、ドレン管の出口開口を相応に成形して動的液体シールを生じる従前の措置を採用してもよい。
【0018】
但し、動的液体シールを生じるための措置に代えて、流下液集合ピットの下部交換プレート側の上縁部に静圧液体シールを形成するための流入堰を設けることほうが更に好ましい。
【0019】
この場合、本発明による物質交換塔では上記流入堰は極めて低い高さの堰として構成することができる。流入堰の高さは、同じ下部交換プレートの液体流出側に設けられるドレン堰の高さ以下とするか、或いはドレン堰よりもさほど高くない堰とすると特に有利である。ここで「さほど高くない」と言う表現は、ドレン堰の高さの50%以下、好ましくは20%以下、更に好ましくは10%以下、或いは5%以下だけ流下堰の高さがドレン堰の高さを上まわることを意味する。即ち、流入堰の高さは、通常の操業状態で下部交換プレート上に生じる発泡層の高さよりも低くなるように選ばれる。これにより枡状の流下液集合ピットと高さの低い流入堰との連携作用によってドレン管内における堰止め高さの有意の上昇を助長することなく静圧液体シールを形成させることができる。このような構成の物質交換塔は、動的液体シールを採用した場合と異なって広い負荷範囲に適応することが可能である。流入堰の高さ寸法は、ドレン管の下端縁と0〜20mm、好ましくは0〜10mmの範囲でオーバーラップさせてもよい。
【0020】
ここで「通常の操業状態」とは、物質交換塔が設計負荷範囲内の気体と液体負荷で操業されている状態を意味する。
【0021】
上述のような構成で枡状の流下液集合ピットを配置することにより、比較的狭いプレート間隔を実現することが可能となる。気体を高負荷で供給すると発泡層が大きく膨張するが、そのように気体負荷が高い場合、上部交換プレートに同様に設けられている枡状集合ピットの底部が下部交換プレート側の蒸発空間側に垂下しているので、下部交換プレートの蒸発空間から更に下方へ向かう層状の2相流の流出を妨げることがある。この欠点は、例えばドレン管の下部交換プレート側の壁を塔の垂直軸心に対して斜めに配置するなど、ドレン管を下方へ向うに従って先細形状とすることによって解消又は少なくとも緩和することができる。下向きに先細形状としたドレン管の下端の開口面積は、該ドレン管の上端の開口面積の例えば10%〜80%、好ましくは30%〜50%とするとよい。
【0022】
本発明は、隣りあう交換プレート対の間に複数のドレン管を配置した多流路形プレートに対しても同様に適用可能であることは述べるまでもない。
【0023】
本発明の上述及びその他の特徴と利点を図示の実施例に基づいて詳述すれば以下の通りである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は、本発明の第1の実施形態による物質交換塔の要部を示す縦断面図である。塔壁1の内面には、各段の蒸発空間ごとに上下の交換プレート対の固定用の環状袋板2a、2bと上部クランプ環状L型材20a、20bが取り付けられている。塔頂及び塔底の蒸発空間をのぞく各段の蒸発空間におけるこれらの構造は、基本的にはプレート上の液体の流れ方向が交互に入れ替わるだけでその他はほぼ同様の構造であり、図には或る一つの中間段における蒸発空間についてのみ示してある。環状袋板と上部クランプ環状L型材はそれぞれ上部交換プレート3a又は下部交換プレート3bを保持しており、これら交換プレートには、それぞれドレン管4(図には上部プレートについてのみ示す)と流下液集合ピット9(図には下部プレートについてのみ示す)が設けられている。この実施形態における交換プレート3a、3bは多孔シートメタルで形成されており、各プレートの表面は一点鎖線5a、5bで示される平面上にある。
【0025】
塔の操業中には上部交換プレート3a上に発泡層6aが形成される。下方から上昇する気体が該交換プレートの孔内に流入し、発泡層6aの内部に上昇気泡を形成する一方、液体はこれと交差して(図面で左方向に)上部交換プレート3a上を塔壁へ向かって層状に流れる。この液体はプレートの周端近傍でドレン堰7を越えてドレン管4内に流出する。前述のようにドレン管内では下方からの圧力の作用による堰止め効果で液体の貯留部が形成され、その静水圧が勝るとドレン管内の液体が下端8から流下液集合ピット9へ流れ込み、更に該ピットから流入堰10を越えて下部交換プレート3b上に移送され、この下部交換プレート上に前述と同様の発泡層6bが生成される。
【0026】
ドレンか管内における堰止めによる液体貯留部の高さレベルは、
符号11で示すプレート3b上の発泡層の静圧水頭分、
符号12で示す摩擦及び流路抵抗分、
符号13で示す圧損分(上部プレート3aにおける気体流の圧力損失分)
からなる。
【0027】
この場合、定常の塔の操業状態においては流入堰10の上縁は発泡層6bの表面下に位置することになるので、上記高さレベルにおける流入堰10に関する条件は除外される。これは、交換プレート3bの表面5bから立ち上がっている流入堰10の高さが同じプレートのドレン堰の高さに対して低いか、同等か、或いはさほど高くない場合である。
【0028】
枡状の流下液集合ピット9の底部14は下部交換プレート3bの表面5bよりも下位に位置している。流下液集合ピット9の上部開口は、ドレン管4の下端の開口面積16の一部、本実施形態では約1/4の面積部分15にのみ対面して開口している。これにより、流下液集合ピット9は容易に交換プレート3bと結合でき、該交換プレートと一緒に環状袋板2bで塔壁1に固定することができる。従って流下液集合ピット9のための個別の懸架及び密封手段は不要である。
【0029】
気体負荷が高く、交換プレートの間隔が狭いと、発泡層6bが上下交換プレート3a、3b間の空間全体をほぼ満たすことになるが、そのような状態においては上部交換プレートの流下液集合ピット(図1には示していない)が場合により下部交換プレート3bから更に下方へ向かう液体の流出を妨げることがある。特にこのような場合に対して図2に示す本発明の第2の実施形態は以下に述べるようにもう一つの利点をもたらすものである。
【0030】
図1に示した第1の実施形態ではドレン管の周壁が全体的に直管状に垂直配置されているのに対し、図2に示す第2の実施形態では少なくとも下部交換プレート3側に向いた壁部17が塔の垂直軸心に対して傾斜配置され、これによりドレン管4が下向きに先細形状となっている。この実施形態におけるドレン管下端の開口面積18はドレン管上端の開口面積19の約50%である。勿論、この場合も流下液集合ピット9の上部開口は減少された開口面積18の一部の面積部分のみに対面して開口している。
【0031】
基本的には、ドレン管における壁部17と対向する側の壁部も塔壁と非平行な傾斜壁とすることができる。その場合、この傾斜壁の傾斜は図2において壁部17とは逆向きであり、最大でも該傾斜壁の下端縁が流下液集合ピット9の塔壁側の縁部(図2で左側)と同じ位置に達するような大きさとするとよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1実施形態による物質交換塔の要部を示す縦断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態による物質交換塔の要部を示す縦断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体と気体との間の物質交換用の塔であって、上部交換プレート(3a)とその下方に間隔をあけて配置された下部交換プレート(3b)とからなる少なくとも一つの交換プレート対と、上部交換プレート側から下部交換プレート側へ液体を流下させるためのドレン管(4)と、ドレン管(4)の下端の下方に配置された枡状の流下液集合ピット(9)とを備え、流下液集合ピットの底部(14)が下部交換プレート(3b)の表面(5b)よりも下位に位置するものにおいて、流下液集合ピット(9)が、その上部開口が塔の垂直軸心方向に見てドレン管(4)の下端開口面積(16)の一部の面積部分(15)にのみ重なるように配設されていることを特徴とする物質交換塔。
【請求項2】
ドレン管(4)の下端が下部交換プレート(3b)の表面(5b)よりも上方で開口していることを特徴とする請求項1に記載の物質交換塔。
【請求項3】
流下液集合ピット(9)の上部開口が、ドレン管(4)の下端開口面積(16)の20%〜60%の面積部分に対してのみ対面開口していることを特徴とする請求項1に記載の物質交換塔。
【請求項4】
流下液集合ピット(9)の下部交換プレート(3b)側の上縁部に流入堰(10)が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の交換塔。
【請求項5】
下部交換プレートがドレン堰(7)を備え、流入堰(10)の高さがドレン堰(7)の高さ以下であることを特徴とする請求項4に記載の物質交換塔。
【請求項6】
下部交換プレートがドレン堰(7)を備え、流入堰(10)の高さがドレン堰(7)の高さの50%以下の寸法でドレン堰(7)よりも高く形成されていることを特徴とする請求項4に記載の物質交換塔。
【請求項7】
ドレン管(4)が下向きに先細形状となっていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の物質交換塔。
【請求項8】
ドレン管(4)の先細部分の少なくとも一部が、該ドレン管(4)の下部交換プレート側の壁(17)を塔の垂直軸心に対して斜めに配置することによって形成されていることを特徴とする請求項7に記載の物質交換塔。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−263726(P2006−263726A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−78292(P2006−78292)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(391009659)リンデ アクチエンゲゼルシヤフト (106)
【氏名又は名称原語表記】LINDE AKTIENGESELLSCHAFT
【住所又は居所原語表記】Abraham−Lincoln−Strasse 21, D−65189 Wiesbaden,Germany
【Fターム(参考)】