説明

プロスタグランジンE2産生促進剤

【課題】クローン病治療剤、NSAIDの副作用低減剤等として有用なPGE2産生促進剤を提供する。
【解決手段】黄連、黄柏、黄ごん及びこれらの抽出物から選ばれる少なくとも1種を含有するプロスタグランジンE産生促進剤、ベルベリン、コプチシン及びこれらの少なくともいずれかを含有する植物及びその抽出物から選ばれる少なくとも1種を含有するプロスタグランジンE産生促進剤、並びに前記プロスタグランジンE産生促進剤を含有するクローン病治療剤及び非ステロイド系抗炎症剤の副作用低減剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプロスタグランジンE産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腸でのプロスタグランジンE(以下「PGE2」という。)及びPGE2産生酵素であるシクロオキシゲナーゼ(以下「COX」という。)の役割については近年考え方が変化してきている。
【0003】
元来、PGE2は単なる炎症性メディエーターとしての捉え方であり、炎症部位においてはPGE2を抑制することで治癒すると考えられてきた。その考え方で進められてきたのがCOX阻害剤の開発である。しかし、COX阻害剤には副作用として胃や小腸粘膜の潰瘍が認められることがわかってきた。そこで更にCOXの2つのアイソザイムそれぞれに特異的な阻害剤が開発された。その結果、COX−2阻害剤であれば、胃粘膜傷害を抑制できることがわかってきた。しかし、COX−2阻害剤であっても、依然として小腸粘膜潰瘍はほとんど抑制できなかった。そこで近年、これまでとは異なるPGE2の役割が知られるようになってきた。すなわち、小腸粘膜においてPGE2は炎症性メディエーターではなく、逆に、粘膜保護作用を持つIL−10などのサイトカイン産生等の免疫反応を含めた、腸粘膜の恒常性維持を制御するキー物質であるということである(非特許文献1)。
【0004】
COX−2阻害剤又は非ステロイド系抗炎症剤(以下「NSAID」という。)によるクローン病様の腸病変がリウマチなどでNSAIDを連用している患者の60〜70%に認められているという報告(非特許文献2)もあり、またNSAIDの使用は他の原因による炎症性腸疾患の増悪因子としてもよく知られている。NSAIDの副作用のうち胃潰瘍(症状が見えやすくわかりやすい)がほぼ解決した現在、NSAIDによる腸障害が今後注目されてくると考えられ、その場合の市場は非常に大きなものとなってくる可能性がある。
【0005】
このように、新たにわかってきたPGE2の腸粘膜保護作用に着目して開発された物質はほとんど知られていない。
【0006】
一方、黄連、黄柏、黄ごん及び山梔子からなる漢方処方である黄連解毒湯は、COX−2活性を抑制して大腸の前癌病変の発生を抑制することが報告されているが(非特許文献3;特許文献1)、小腸粘膜におけるPGE2産生に対する効果については知られていない。
【0007】
【特許文献1】特開平8−337535号公報
【非特許文献1】Digestive Diseases and Sciences, 47, 84-89 (2002)
【非特許文献2】Gastroenterology, 104, 1832-1847 (1993)
【非特許文献3】Cancer Letters, 157, 9-14 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、クローン病治療剤、NSAIDの副作用低減剤等として有用なPGE2産生促進剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)黄連、黄柏、黄ごん及びこれらの抽出物から選ばれる少なくとも1種を含有するPGE2産生促進剤。
(2)黄連解毒湯を含有する前記(1)に記載のPGE2産生促進剤。
(3)ベルベリン、コプチシン及びこれらの少なくともいずれかを含有する植物及びその抽出物から選ばれる少なくとも1種を含有するPGE2産生促進剤。
(4)更に、パルマチン及びパルマチンを含有する植物及びその抽出物から選ばれる少なくとも1種を含有する前記(1)〜(3)のいずれかに記載のPGE2産生促進剤。
(5)小腸粘膜におけるPGE2の産生を促進させる前記(1)〜(4)のいずれかに記載のPGE2産生促進剤。
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載のPGE2産生促進剤を含有するクローン病治療剤。
(7)前記(1)〜(5)のいずれかに記載のPGE2産生促進剤を含有するNSAIDの副作用低減剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、クローン病治療剤、NSAIDの副作用低減剤等として有用なPGE2産生促進剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のPGE2産生促進剤の有効成分としては、黄連、黄柏、黄ごんもしくはこれらの抽出物、又はベルベリン、コプチシン又はベルベリン及びコプチシンの少なくともいずれかを含有する植物もしくはその抽出物を含むものであれば特に制限はなく、これらは単独で又は混合して用いることができる。
【0012】
また、黄連、黄柏、黄ごん又はこれらの抽出物を構成生薬に含む混合生薬又はその抽出物、例えば黄連解毒湯、三黄瀉心湯、乙字湯、大柴胡湯、小柴胡湯、柴胡桂枝湯、柴胡桂枝乾姜湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、半夏瀉心湯、半夏白朮天麻湯、七物降下湯、荊芥連翹湯、潤腸湯、五淋散、温清飲、清上防風湯、防風通聖散、女神散、柴陥湯、竜胆瀉肝湯、柴胡清肝湯、二朮湯、清肺湯、竹・温胆湯、滋陰降火湯、柴朴湯、辛夷清肺湯、小柴胡湯加桔梗石膏、清心・子飲、黄連湯、三物黄・湯、清暑益気湯等を用いてもよく、好ましくは黄連解毒湯、半夏瀉心湯、温清飲が好ましく、特に黄連解毒湯が好ましい。
【0013】
ベルベリン及びコプチシンの少なくともいずれかを含有する植物としては、前記のオウレン、キハダの他、アキカラマツ、イヌザンショウ、エンゴサク、ナツメ、サネブトナツメ、ヒイラギナンテン、ヒドラスチスコン、ヒナゲシ、メギ、ヤマブキソウなどが挙げられる。
【0014】
前記の抽出物としては、例えば水、エタノール、アセトン、エーテル又はこれらの混合物のような各種溶剤による抽出物が挙げられるが、水抽出物を用いることが好ましい。具体的な抽出物の調製例としては、前記生薬を8〜20倍量の熱水で抽出し、得られた抽出液を濾過する方法が挙げられる。この抽出物は必要に応じて乾燥させ、乾燥粉末として用いることができる。
【0015】
ベルベリン及びコプチシンは公知化合物であり、前記のオウレン、キハダ等を適宜抽出操作に付すことにより得ることができる。
【0016】
本発明のPGE2産生促進剤は、PGE2産生促進効果の点で、パルマチン及びパルマチンを含有する植物及びその抽出物から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0017】
パルマチンも公知化合物であり、オウレン、キハダ等を適宜抽出操作に付すことにより得ることができる。パルマチンを含有する植物としては、前記のオウレン、キハダの他、コロンボ、チョウセンゴヨウ、ヒイラギナンテン、メギなどが挙げられる。
【0018】
本発明のPGE2産生促進剤は、小腸粘膜におけるPGE2の産生を促進させる効果を有し、クローン病治療剤(特に、小腸粘膜障害の改善)及びNSAIDの副作用低減剤等として有用である。前記NSAIDとしては特に制限はなく、例えばアスピリン(アセチルサリチル酸)、インドメタシン、イブプロフェン、フェニルブタゾン、サラゾスルファピリジン、メサラジンが挙げられ、これらの副作用としては、例えば小腸粘膜障害、気管支喘息等が挙げられる。
【0019】
以下、本発明のPGE2産生促進剤の投与量及び製剤化について説明する。
前記の有効成分はそのまま、あるいは慣用の製剤担体と共に動物及び人に投与することができる。投与形態としては、特に限定がなく、必要に応じ適宜選択して使用され、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の経口剤、注射剤、坐剤等の非経口剤が挙げられる。
【0020】
経口剤として所期の効果を発揮するためには、患者の年令、体重、疾患の程度により異なるが、通常成人で有効成分の重量として500mg〜3gを1日数回に分けての服用が適当である。
【0021】
経口剤は、例えばデンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を用いて常法に従って製造される。
【0022】
この種の製剤には、適宜前記賦形剤の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を使用することができる。それぞれの具体例は以下に示すごとくである。
【0023】
[結合剤]
デンプン、デキストリン、アラビアゴム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール。
【0024】
[崩壊剤]
デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース。
【0025】
[界面活性剤]
ラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート80。
【0026】
[滑沢剤]
タルク、ロウ類、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコール。
【0027】
[流動性促進剤]
軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム。
【0028】
また、本発明のPGE2産生促進剤は、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤としても投与することができ、これらの各種剤形には、矯味矯臭剤、着色剤を含有してもよい。
【0029】
非経口剤として所期の効果を発揮するためには、患者の年令、体重、疾患の程度により異なるが、通常成人で有効成分の重量として1日50〜300mgまでの静注、点滴静注、皮下注射、筋肉注射が適当である。
【0030】
この非経口剤は常法に従って製造され、希釈剤として一般に注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、注射用植物油、ゴマ油、ラッカセイ油、ダイズ油、トウモロコシ油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等を用いることができる。更に必要に応じて、殺菌剤、防腐剤、安定剤を加えてもよい。また、この非経口剤は安定性の点から、バイアル等に充填後冷凍し、通常の凍結乾燥技術により水分を除去し、使用直前に凍結乾燥物から液剤を再調製することもできる。更に、必要に応じて適宜、等張化剤、安定剤、防腐剤、無痛化剤等を加えてもよい。
【0031】
その他の非経口剤としては、外用液剤、軟膏等の塗布剤、直腸内投与のための坐剤等が挙げられ、常法に従って製造される。
【実施例】
【0032】
以下、製造例、実施例及び製剤例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0033】
[製造例1]黄連解毒湯の抽出物の製造
生薬を切裁し、黄連解毒湯の原料生薬17kg(黄連4kg、黄柏3kg、黄ごん6kg及び山梔子4kg)を秤量・調合し、約12倍量の精製水に加え、撹拌しながら95〜100℃に昇温させ、昇温後、約60分間抽出した。抽出終了後、抽出液を固液分離し、分離液を減圧濃縮した後、噴霧乾燥により1.5kgの黄連解毒湯乾燥エキス粉末とした。
【0034】
[製造例2]黄連の抽出物の製造
黄連25gに2.5リットルの精製水を加え、ほぼ半量になるまで煎出を行い、濾過により生薬残渣を除去し、濾液を得た。濾液を室温まで冷却した後、噴霧乾燥して乾燥エキス粉末を得た。
【0035】
[製造例3]黄柏の抽出物の製造
黄柏10kgに精製水100リットルを加え、100℃で1時間加熱抽出した。得られた抽出液を濾過後、噴霧乾燥して1500gの乾燥エキス粉末を得た。
【0036】
[製造例4]黄ごんの抽出物の製造
黄ごん100gに2リットルの精製水を添加し、約半量になるまで煮沸した後濾過し、得られた濾液を濃縮した後、噴霧乾燥を行い乾燥エキス粉末を得た。
【0037】
[製造例5]山梔子の抽出物の製造
山梔子200gを細切し、土瓶に入れ、蒸留水12リットルを加え、100℃で1時間)煮沸した。抽出液を濾過後、減圧濃縮し、噴霧乾燥し、褐色粉末状の抽出エキス53gを得た。
【0038】
[実施例1]黄連解毒湯による生存率の増加
SPF飼育の7週齢BALB/c雌マウス25匹を用いた。黄連解毒湯(以下「OGT」という。)は製造例1で製造したエキス粉末を用いた。
【0039】
24時間絶食した翌日、1回目のインドメタシン投与を実施し、それと同時に摂餌を再開し、この日をday0(time0)とした。インドメタシンは20mg/kgを1日1回24時間間隔で2回皮下投与した。OGT群は試験開始日よりOGTを2%の割合でAIN−93M粉末餌に混ぜ投与を行い、Control群はAIN−93M粉末餌のみを投与した。摂餌量から計算したところ2%混餌OGTのOGT投与量は2〜3g/kg/dayに相当した。結果を図1に示す。
【0040】
OGTはインドメタシン誘発小腸炎による個体死を有意に抑制し、治療効果を示した(***p<0.0005、logrank test)。Control群においては特にday2〜3という初期に死亡する動物が多かった。
【0041】
また、OGT投与量を変えて2%、1%又は0.5%混餌したとき、day9での 生存率はそれぞれ85%、70%、65%であり(このときOGT非投与Control群は20%)、投与量依存的にOGTの作用が認められた。
【0042】
[実施例2]OGTの投与時期の変更による影響
OGTの投与時期を変えて生存率に対する影響を検討した。
実施例1と同様にインドメタシンを投与し、OGT投与時期を変更した(N=10匹)。結果を図2に示す。
【0043】
day0〜3の期間投与した時で100%、絶食前に3日間(day−4〜−1)与えたときも70%の生存率であった。
【0044】
OGTは炎症誘導初期に効果を示していることから、炎症が激しい急性期における治療効果を有する。また、腸炎誘導前の投与により効果を示していることから予防効果も有し、クローン病の既往歴を有する患者にOGTを投与することにより、クローン病の再発を防止できると考えられる。
【0045】
[実施例3]OGTの腸組織への作用
OGTの腸組織への作用を観察した。
実施例1と同様にインドメタシン及びOGTを投与した。インドメタシンの最初の投与より60時間後のマウスの小腸を摘出し、15%中性ホルマリン固定後、長さ5mm程度に輪状に細切し30〜40個の腸管切片を作成し、常法に従いパラフィンブロックを作製して病理組織標本をヘマトキシリン・エオジン(HE)染色した。結果を図3に示す。
【0046】
インドメタシンの投与により小腸に筋層まで達する潰瘍が形成された。OGT投与により潰瘍面積及び潰瘍数は減少し、また潰瘍が発生していても、潰瘍部では絨毛の欠落は認められたものの固有層から筋層にかけ保存されており、軽度であった。すなわち、OGTは生存率だけでなく小腸潰瘍の悪化を防いだ。
【0047】
[実施例4]OGTによる小腸潰瘍改善の評価
OGTによる小腸潰瘍改善を様々な指標で評価した。
(A)潰瘍数
実施例1と同様にインドメタシン及びOGTを投与した(N=5)。初回のインドメタシン投与後12、24、36、48及び54時間の小腸を摘出し、腸間膜付着部に沿って切開し、腸管全体が平らになるようにろ紙に貼り付けて15%中性ホルマリンで2日以上固定した。その後、生理食塩水を入れた透明ビニール袋に小腸を移して密封し、実体顕微鏡にて巨視的に顕微鏡で観察し、小腸全体の潰瘍の数を計数し、各群の一匹当たりの平均を求めた。結果を図4(A)に示す。
【0048】
(B)潰瘍面積
(A)の標本からImage Processor for Analytical Pathology(住化テクノサービス株式会社)に潰瘍画像を取り込み、手動で面積を算定し各群の一匹当たりの平均を示した。結果を図4(B)に示す。
【0049】
(C)潰瘍グレード
(B)の算定終了後の小腸全長をロール状に巻いた後、パラフィン包埋・HE染色を行い、組織検査を実施し、以下に示す潰瘍グレードごとの潰瘍数を計測し、各群の一匹当たりの平均を示した。結果を図4(C)に示す。
グレード1:絨毛上皮あるいは絨毛から陰窩にかけて壊死・脱落した場合
グレード2:粘膜から粘膜固有層まで壊死・脱落した場合
グレード3:粘膜から粘膜筋板まで壊死・脱落した場合
グレード4:粘膜から粘膜下組織まで壊死・脱落した場合
グレード5:粘膜から筋層まで壊死・脱落した場合(穿孔性を含む)
【0050】
1匹当たりの潰瘍数、潰瘍面積ともOGT投与により有意に改善された。潰瘍グレードは投与36時間後のグレード分布を有意に改善した(p<0.01,Mann-Whitney’s U test)。その他の時間についても改善傾向が認められた。
【0051】
[実施例5]インドメタシン誘発小腸障害における小腸PGE2産生能低下に対するOGTの作用
インドメタシン投与後の小腸粘膜におけるPGE2産生能の変化を検討した。
【0052】
実施例1と同様にインドメタシン及びOGTを投与し、12、24、36、48及び54時間後のマウスを麻酔下で脱血死させ、小腸を摘出し、生理食塩水で洗浄後、脂肪を除去し、腸間膜の接着部に沿って縦に切り開いた(N=5、但し、Controlの54時間後のみN=4)。
【0053】
組織中のPGE2産生能はArch. Int. Pharmacodyn, 316, 114-123 (1992)及びGastroenterology, 115, 874-882 (1998)に従い、単位組織量(100mg)当たりに産生されるPGE2量として測定した。すなわち、小腸粘膜を筋層からヘラで剥離後、粘膜はそのまま丁寧に混合、筋層ははさみで細切し混合した後、タイロード溶液中で37℃で5分インキュベートした後、氷上で30秒ポリトロンにてホモジナイズし、10000rpmで15分遠心し、上清を採取した。その上清中のPGE2量をEIA kit(Cayman Chemical Company)にて測定した。
【0054】
インドメタシン投与により粘膜及び筋層のPGE2産生能は減少したが、OGTの投与により粘膜のPGE2産生能の減少を有意に抑制した。筋層は有意差は認められなかったが産生能の減少を抑制する傾向が認められた。結果を図5に示す。
【0055】
[実施例6]正常マウスの小腸PGE2産生能に対するOGTの作用
SPF飼育の7週齢BALB/c雌マウス5匹を24時間絶食させた後、OGTを2%の割合でAIN−93M粉末餌に混ぜ投与を行った。OGT投与48時間後のマウスより小腸を摘出し、実施例5と同様にPGE2産生能を検討した。結果を図6に示す。
【0056】
OGTは正常動物においても腸組織の粘膜に特異的にPGE2産生能を増加させた。インドメタシンによる産生能の減少を抑制するというよりも、予め粘膜でPGE2産生能を増やすことにより予防的効果を示すことが示唆された。
【0057】
これら正常動物におけるPGE2産生能は実施例5でわかるようにインドメタシン投与により著しく減少してしまい、実施例5で示したOGTによるPGE2産生能の増加は正常動物に比べると僅かの量である。しかし、PGE2による消化管粘膜改善作用には閾値があることが知られており(British Journal of Pharmacology, 124, 1385-1394 (1998))、たとえ僅かの量でも適切な部位で適切な量の発現があることが重要であるといわれている。
【0058】
[実施例7]粘膜固有層単核球からのPGE2及びサイトカイン産生の検討
(A)実施例6と同様にOGTを投与したマウスより粘膜固有層単核球をNature Medicine 5, 900-906 (1999)及びThe Journal of Immunology, 145, 68-77 (1990)に従い調製した。
【0059】
すなわち、常法に従い腸間膜・脂肪・パイエル板と上皮細胞・粘膜上皮間リンパ球を除去した残りの小腸断片をコラゲナーゼ120u/ml入りの2%FBS RPMI1640培地25ml中で37℃、75分インキュベートし、その上清と、腸残渣を丁寧にすりつぶして100μmのメッシュを通した溶液をあわせ、それを2000rpmで遠心して得られた沈殿を粗精製粘膜固有層単核球とした。更に、その分画を75%/40% Percollにて密度勾配遠心して中間層に得られた画分を精製粘膜固有層単核球とした。精製粘膜固有層単核球を10%FBS RPMI1640培地2.5×10cells/mlでLPS1μg/mlで刺激し37℃で24時間培養した。結果を図7(A)に示す。
【0060】
OGTの投与により精製粘膜固有層単核球からのPGE2産生が増加し、またIL−10が増加、IL−1βが減少した。
(B)実施例1と同様にインドメタシン及びOGTを投与し48時間後のマウスより粘膜固有層単核球を調製した。インドメタシン投与条件では精製粘膜固有層単核球は得られた細胞数が少なかったため、Percollで精製する前の粗精製粘膜固有層単核球を用いた。培養条件は前記(A)と同様に行った。結果を図7(B)に示す。
【0061】
インドメタシン投与後の粗精製粘膜固有層単核球からのPGE2産生はOGT投与により増加した。また、粘膜保護的に作用するといわれるIL−10の産生も増加していたが、炎症性サイトカインの1つであるIL−1βの産生はOGTの投与により減少した。
【0062】
以上からOGTは粘膜固有層単核球からのPGE2産生を増加させ、サイトカイン産生を制御することにより粘膜保護的に働くことが示唆された。
【0063】
[実施例8]OGT構成生薬によるインドメタシン誘発個体死に対する作用
OGT構成生薬である黄連、黄柏、黄ごん及び山梔子によるインドメタシン誘発個体死に対する作用を検討した。黄連、黄柏、黄ごん及び山梔子としては、それぞれ製造例2〜5で製造したエキス粉末を用いた。
【0064】
実施例1と同様にインドメタシンを投与した。各構成生薬は2%で実施例1と同様に混餌投与した。結果を表1に示す。黄連、黄柏及び黄ごんにOGTと同様の個体死抑制作用が認められた。
【0065】
[実施例9]ベルベリン、コプチシン等によるインドメタシン誘発個体死に対する作用
実施例1と同様にインドメタシンを投与した。各成分はOGT2%中に含まれる成分1倍量を、それぞれ単独投与、又はベルベリン及びコプチシン、もしくはベルベリン及びパルマチンを併用して投与した。結果を表1に示す。その結果、ベルベリンまたはコプチシン単独でも有効であったが、ベルベリンをコプチシン又はパルマチンと併用した場合に特に有効であることがわかった。
【0066】
【表1】

【0067】
[実施例10]粘膜PGE2産生能に対する成分の作用の検討
(1)実施例7と同様にインドメタシン非投与・投与したマウスにベルベリンをOGT2%中に含まれると思われる2倍量(0.14% in diet)投与した投与した小腸粘膜のPGE2産生能を測定した。その結果、ベルベリン非投与群に対して、インドメタシン非投与では1.27倍に、インドメタシン投与では1.32倍にPGE2産生能が増加していることがわかった。
【0068】
(2)実施例7と同様にインドメタシン非投与・投与したマウスにコプチシンをOGT2%中に含まれると思われる2倍量(0.14%)(以下同様)、又はベルベリン2倍量(0.14%)とコプチシン2倍量(0.014%)を同時に投与した小腸粘膜のPGE2産生能を測定した。その結果、コプチシン単独ではPGE2産生能の増加が認められなかったが、ベルベリン・コプチシン併用投与群においては、ベルベリン・コプチシン非投与群に対して、インドメタシン非投与では1.372倍に、インドメタシン投与では1.172倍にPGE2産生能が増加していることがわかった。
【0069】
これらの結果より、ベルベリンなどのイソキノリチジン系アルカロイドに粘膜PGE2産生能増加作用があるが、それらは単一の成分で投与するよりも併用投与した方が効果が高いことが判明した。
以下、本発明のPGE2産生促進剤の製剤例を挙げる。
【0070】
[製剤例1]黄連解毒湯のカプセル剤の製造
製造例1により製造した黄連解毒湯の乾燥エキス粉末500mgを硬カプセルに充填し、カプセル剤を製造した。
【0071】
[製剤例2]黄連のカプセル剤の製造
製造例2により得た黄連の乾燥エキス粉末500mgを硬カプセルに充填し、カプセル剤を製造した。
【0072】
[製剤例3]黄柏の錠剤の製造
製造例3により得た黄柏の乾燥エキス粉末250gを結晶セルロース47g及びステアリン酸マグネシウム3gと混合し、この混合物を単発式打錠機にて打錠し、直径9mm、重量300mgの錠剤を製造した。本錠剤1錠中には、黄柏の乾燥エキス粉末を250mg含有する。
【0073】
[製剤例4]
(1)結晶セルロース 84.5g
(2)ステアリン酸マグネシウム 0.5g
(3)カルボキシメチルセルロースカルシウム 5g
(4)ベルベリン 10g
計 100g
【0074】
前記の処方に従って(1)、(4)及び(2)の一部を均一に混合し、圧縮成形した後、粉砕し、(3)及び(2)の残量を加えて混合し、打錠機にて圧縮成形して一錠200mgの錠剤を得た。
【0075】
この錠剤一錠には、ベルベリン20mgが含有されており、成人1日3〜10錠を数回にわけて服用する。
【0076】
[製剤例5]
(1)結晶セルロース 79.5g
(2)10%ヒドロキシプロピルセルロースエタノール溶液 50g
(3)カルボキシメチルセルロースカルシウム 5g
(4)ステアリン酸マグネシウム 0.5g
(5)コプチシン 10g
計 145g
【0077】
前記の処方に従って(1)、(2)及び(5)を均一に混合し、常法により捏和し、押し出し造粒機により造粒し、乾燥・解砕した後、(3)及び(4)を混合し、打錠機にて圧縮成形して一錠200mgの錠剤を得た。この錠剤一錠には、コプチシン20mgが含有されており、成人1日3〜10錠を数回にわけて服用する。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】インドメタシン誘発小腸炎による個体死に対する黄連解毒湯(OGT)の効果を示す図である。 ○ コントロール(OGT非投与) ● OGT
【図2】インドメタシン誘発小腸炎による個体死に対する黄連解毒湯(OGT)の効果の投与時期の変更による影響を示す図である。 ○ コントロール □ day−4〜−1 OGT × day0〜3 OGT
【図3】黄連解毒湯(OGT)の腸組織への作用を示す図である。
【図4】黄連解毒湯(OGT)による小腸潰瘍改善を様々な指標(潰瘍数(A)、潰瘍面積(B)及び潰瘍グレード(C))で評価した結果を示す図である。○ コントロール(OGT非投与) ● OGT
【図5】インドメタシンによる小腸粘膜(A)及び筋層(B)におけるPGE2産生低下に対するOGTの作用を示す図である。 ○ コントロール(OGT非投与) ● OGT
【図6】正常マウスの小腸PGE2産生能に対するOGTの作用を示す図である。
【図7】粘膜固有層単核球からのPGE2及びサイトカイン産生の検討結果を示す図である。 Normal インドメタシン非投与,Control インドメタシン投与

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄連、黄柏、黄ごん及びこれらの抽出物から選ばれる少なくとも1種を含有するプロスタグランジンE産生促進剤。
【請求項2】
黄連解毒湯を含有する請求項1記載のプロスタグランジンE産生促進剤。
【請求項3】
ベルベリン、コプチシン及びこれらの少なくともいずれかを含有する植物及びその抽出物から選ばれる少なくとも1種を含有するプロスタグランジンE産生促進剤。
【請求項4】
更に、パルマチン及びパルマチンを含有する植物及びその抽出物から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロスタグランジンE産生促進剤。
【請求項5】
小腸粘膜におけるプロスタグランジンEの産生を促進させる請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロスタグランジンE産生促進剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のプロスタグランジンE産生促進剤を含有するクローン病治療剤。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のプロスタグランジンE産生促進剤を含有する非ステロイド系抗炎症剤の副作用低減剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−223971(P2007−223971A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−48788(P2006−48788)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000003665)株式会社ツムラ (43)
【Fターム(参考)】