説明

プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)を調整する分子および方法

プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)のエピトープ、PCSK9およびPCSK9エピトープに結合する組成物、ならびにその組成物を使用する方法を本明細書に記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗原結合分子、これらの分子により結合されるエピトープおよびその分子を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)(神経アポトーシス調節転換酵素1またはNARC−1としても公知)はセリンプロテアーゼのプロテイナーゼK分泌型サブチリシン様サブファミリーである(Naureckiene et al., Arc. Biochem. Biophys. 420:55−67(2003))である。ヒトPCSK9は腎臓、肝臓および腸で主に発現される分泌タンパク質である。それは3つのドメイン:阻害性プロドメイン(アミノ酸1−152;アミノ酸1−30にシグナル配列を含む)、セリンプロテアーゼドメイン(アミノ酸153−448)およびシステイン残基に富むC末端ドメイン210残基長(アミノ酸449−692)を有する。PCSK9は小胞体においてプロドメインと触媒性ドメインとの間で自己触媒性切断を行うチモーゲンとして合成される。プロドメインは切断後成熟タンパク質に結合したままであり、そして複合体が分泌される。システインリッチドメインは活性化プロテアーゼのフォールディングおよび調節に必須であると考えられるその他のフューリン/ケキシン/サブチリシン様セリンプロテアーゼのP−(プロセシング)ドメインに類似する役割を果たし得る。PCSK9における変異は血漿中の低密度リポタンパク質コレステロール(LDL−c)のレベル異常に関連する(Horton et al., Trends. Biochem. Sci. 32(2):71−77(2006))。
【発明の概要】
【0003】
本発明はPCSK9のエピトープ、PCSK9結合分子、およびその分子を使用する方法に関する。PCSK9結合分子はPCSK9と相互作用し、そしてPCSK9機能を調整する。PCSK9結合分子を用いてLDL−受容体(LDL−R)レベルを増大させ、そしてコレステロールレベルを低減させることができる。
【0004】
種々の態様では、本発明はPCSK9の1つまたはそれより多い生物学的機能を調整(例えば阻止)するPCSK9結合分子を提供する。例えばPCSK9結合分子はPCSK9のタンパク質分解活性(例えばPCSK9プロドメインのタンパク質分解)および/またはPCSK9とPCSK9受容体との間の相互作用(例えばLDL−Rに対するPCSK9結合)を阻止することができる。PCSK9は転写後の様式でLDL−Rを下方調節する。故にPCSK9の阻止の結果、LDL−Rレベルの増大に至る。インビボでのLDL−Rのレベル増大によりLDL−R媒介のLDL−cの取り込みを増大させることが可能になる。故にLDL−RのPCSK9調節と干渉する結合分子は最終的に循環LDL−cのレベルを低減させる。
【0005】
PCSK9結合分子には、例えばPCSK9に結合する抗体(例えばPCSK9の、触媒ドメインまたはシステインリッチドメインのような特定のドメインまたはエピトープ内)およびかかる抗体の結合部分を含むポリペプチドが含まれる。PCSK9結合分子にはまた結合部分が抗体、例えば免疫グロブリン様フォールドを有するポリペプチドから誘導されるPCSK9結合分子から誘導されない分子も含まれ、そしてここで抗原結合部分は無作為化、選択および親和性成熟を介してPCSK9に結合するように操作される。
【0006】
したがって、1つの態様では、本発明はPCSK9に結合する(例えば特異的に結合する)抗体の抗原結合部分を含むPCSK9結合分子を特色とし、ここで抗原結合部分は以下:(a)配列番号1のアミノ酸166−177(すなわち以下:YRADEYQPPDGG(配列番号4)の配列内かまたはそれと重複するエピトープ);(b)配列番号1のアミノ酸187−202(すなわち以下:TSIQSDHREIEGRVMV(配列番号5)の配列内かまたはそれと重複するエピトープ);(c)配列番号1のアミノ酸206−219(すなわち以下:ENVPEEDGTRFHRQ(配列番号6)の配列内かまたはそれと重複するエピトープ);(d)配列番号1のアミノ酸231−246(すなわち以下:AGVVSGRDAGVAKGAS(配列番号7)の配列内かまたはそれと重複するエピトープ);(e)配列番号1のアミノ酸277−283(すなわち以下:VQPVGPL(配列番号8)の配列内かまたはそれと重複するエピトープ);(f)配列番号1のアミノ酸336−349(すなわち以下:VGATNAQDQPVTLG(配列番号9)の配列内かまたはそれと重複するエピトープ);(g)配列番号1のアミノ酸368−383(すなわち以下:IIGASSDCSTCFVSQS(配列番号10)の配列内かまたはそれと重複するエピトープ);または(h)配列番号1のアミノ酸426−439(すなわち以下:EAWFPEDQRVLTPN(配列番号11)の配列内かまたはそれと重複するエピトープ);のうちの1つ内かまたはそれと重複する(例えば全てまたは一部を含むかまたはそれからなる)ヒトPCSK9(配列番号1)の触媒ドメイン内のエピトープに結合する。
【0007】
例えば抗原結合部分は配列番号1のアミノ酸166−171、169−174または172−177内のエピトープに結合する;抗原結合部分は配列番号1のアミノ酸187−193、191−196、194−199または197−202内のエピトープに結合する;抗原結合部分は配列番号1のアミノ酸206−211、209−214、212−217、215−219内のエピトープに結合する;抗原結合部分は配列番号1のアミノ酸231−237、235−240、238−243、241−246内のエピトープに結合する;抗原結合部分は配列番号1のアミノ酸277−282または279−283内のエピトープに結合する;抗原結合部分は配列番号1のアミノ酸336−341、339−343、341−346または344−349内のエピトープに結合する;抗原結合部分は配列番号1のアミノ酸368−374、372−377、375−380または378−383内のエピトープに結合する;抗原結合部分は配列番号1のアミノ酸426−431、429−434、432−437または435−439内のエピトープに結合する。
【0008】
別の態様では、本発明はPCSK9に結合する(例えば特異的に結合する)抗体の抗原結合部分を含む単離されたPCSK9結合分子を特色とし、ここで抗原結合部分は以下:(a)配列番号1のアミノ酸443−500;(b)アミノ酸557−590;または(c)アミノ酸636−678;のうちの1つの配列内かまたはそれと重複するヒトPCSK9のシステインリッチドメイン内のエピトープに結合する。
【0009】
種々の実施態様では、抗原結合部分は以下:(a)配列番号1のアミノ酸443−458(すなわち以下:ALPPSTHGAGWQLFCR(配列番号12)の配列内かまたはそれと重複するエピトープ);(b)配列番号1のアミノ酸459−476(すなわち以下:TVWSAHSGPTRMATAIAR(配列番号13)の配列内かまたはそれと重複するエピトープ);(c)配列番号1のアミノ酸486−500(すなわち以下:CSSFSRSGKRRGERM(配列番号14)の配列内かまたはそれと重複するエピトープ);(d)配列番号1のアミノ酸557−573(すなわち以下:HVLTGCSSHWEVEDLGT(配列番号15)の配列内かまたはそれと重複するエピトープ);(e)配列番号1のアミノ酸577−590(すなわち以下:PVLRPRGQPNQCVG(配列番号16)の配列内かまたはそれと重複するエピトープ);(f)配列番号1のアミノ酸636−645(すなわち以下:SALPGTSHVL(配列番号17)の配列内かまたはそれと重複するエピトープ);(g)配列番号1のアミノ酸659−677(すなわち以下:RDVSTTGSTSEEAVTAVAI(配列番号18)の配列内かまたはそれと重複するエピトープ);のうちの1つの配列内かまたはそれと重複するヒトPCSK9のエピトープに特異的に結合する。
【0010】
例えば抗原結合部分は配列番号1のアミノ酸443−449、447−452、450−455、453−458内のエピトープに結合する;抗原結合部分は配列番号1のアミノ酸459−465、463−468、466−471、469−474または472−476内のエピトープに結合する;抗原結合部分は配列番号1のアミノ酸486−491、489−494、492−497または495−500内のエピトープに結合する;抗原結合部分は配列番号1のアミノ酸557−563、561−566、564−569、567−572または569−573内のエピトープに結合する;抗原結合部分は配列番号1のアミノ酸577−582、580−585、583−588または586−590内のエピトープに結合する;抗原結合部分は配列番号1のアミノ酸636−643または640−645内のエピトープに結合する;抗原結合部分は配列番号1のアミノ酸659−665、663−668、665−670、668−673または671−677内のエピトープに結合する。
【0011】
別の態様では、本発明はPCSK9に結合する(例えば特異的に結合する)抗体の抗原結合部分を含む単離されたPCSK9結合分子を特色とし、ここで抗原結合部分は配列番号1のアミノ酸89−134内かまたはそれと重複するヒトPCSK9のプロドメイン内のエピトープに結合する。
【0012】
種々の実施態様では、抗原結合部分は以下:(a)配列番号1のアミノ酸89−101(すなわち以下:SQSERTARRLQAQ(配列番号2)の配列内かまたはそれと重複するエピトープ);または(b)配列番号1のアミノ酸106−134(すなわち以下:GYLTKILHVFHGLLPGFLVKMSGDLLELA(配列番号3)の配列内かまたはそれと重複するエピトープ);のうちの1つの配列内かまたはそれと重複するヒトPCSK9のエピトープに特異的に結合する。例えば抗原結合部分は配列番号1のアミノ酸123−131内のエピトープに特異的に結合する。
【0013】
例えば抗原結合部分は配列番号1のアミノ酸89−94、92−97または95−101内のエピトープに結合する;抗原結合部分は配列番号1のアミノ酸106−111、109−114、112−117、115−120、118−123、121−126、124−129または127−134内のエピトープに結合する。
【0014】
特定の実施態様では、抗原結合部分は配列番号1のアミノ酸101−107内かまたはそれと重複するヒトPCSK9のプロドメイン内のエピトープに特異的に結合する(アミノ酸QAARRGY)。
【0015】
別の実施態様では、抗原結合部分は配列番号1のアミノ酸123−132(アミノ酸LVKMSGDLLE)内かまたはそれと重複するヒトPCSK9のプロドメイン内のエピトープに特異的に結合する。これらのアミノ酸はPCSK9のプロドメインのアミノ酸106−134(配列番号3;GYLTKILHVFHGLLPGFLVKMSGDLLELA)に入る。
【0016】
別の実施態様では、抗原結合部分は配列番号1のアミノ酸101−132を有するPCSK9に特異的に結合する(すなわち配列番号2内のエピトープ、配列番号3内のエピトープまたは配列番号2および3に重複する、すなわち配列番号2および配列番号3からの少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープに結合する)。
【0017】
別の実施態様では、抗原結合部分は配列番号1のアミノ酸101−132内のPCSK9に特異的に結合し、そして配列番号2からの少なくとも1つのアミノ酸(例えばグルタミン)および配列番号3からの少なくとも1つのアミノ酸(例えばグリシンおよび/またはチロシン)を含む。
【0018】
別の実施態様では、抗原結合部分は配列番号1のアミノ酸101−132内のPCSK9に特異的に結合し、そして配列番号2からの少なくとも1つのアミノ酸(例えばグルタミン)および配列番号3からの少なくとも1つのアミノ酸(例えばグリシンおよび/またはチロシン)を含む。
【0019】
別の実施態様では、抗原結合部分は配列番号2からの少なくとも1つのアミノ酸(例えばグルタミン)および配列番号3からの少なくとも1つのアミノ酸(例えばグリシンおよび/またはチロシン)と重複するエピトープでPCSK9に特異的に結合する。
【0020】
別の態様では、本発明は前記で言及されたPCSK9結合分子のいずれかとの結合に関して交差競合する単離されたPCSK9結合分子を特色とする。したがってかかる交差競合結合分子は、例えば空間的に近接するエピトープに対する結合により配列番号1のアミノ酸101−107または123−132に対する(例えば抗体または結合する抗体の抗原結合部分を含むその他のPCSK9結合分子の)結合と干渉することができる。
【0021】
種々の実施態様では、PCSK9結合分子(例えば触媒ドメイン内、システインリッチドメイン内またはプロドメイン内のエピトープに結合するPCSK9結合分子)は非ヒト霊長類(例えばカニクイザルまたはアカゲザル)のPCSK9と交差反応性である。種々の実施態様では、抗原結合部分はげっ歯類のPCSK9と交差反性である(例えばマウスPCSK9、ラットPCSK9)。
種々の実施態様では、抗原結合部分は直線エピトープに結合する。
【0022】
種々の実施態様では、抗原結合部分は非直線エピトープに結合する。一例では、抗原結合部分は以下の直線エピトープ:(a)配列番号1のアミノ酸89−101;および(b)アミノ酸106−134;の各々の少なくとも一部を含むかまたはそれからなる非直線エピトープに結合する。別の実例では、抗原結合部分は以下の直線エピトープ:(a)配列番号1のアミノ酸166−177;および(b)配列番号1のアミノ酸443−458;の各々の少なくとも一部を含むかまたはそれからなる非直線エピトープに結合する。なお別の実例では抗原結合部分は以下の直線エピトープ:(a)配列番号1のアミノ酸187−202;(b)配列番号1のアミノ酸231−246;および(c)配列番号1のアミノ酸368−383;のうちの2つまたは3つのうちの少なくとも一部を含むかまたはそれからなる非直線エピトープに結合する。別の実例では、抗原結合部分は以下の直線エピトープ:(a)配列番号1のアミノ酸206−219;および(b)配列番号1のアミノ酸277−283;の各々の少なくとも一部を含むかまたはそれからなる非直線エピトープに結合する。別の実例では、抗原結合部分は以下の直線エピトープ:(a)配列番号1のアミノ酸336−349;および(b)配列番号1のアミノ酸426−439;の各々の少なくとも一部を含むかまたはそれからなる非直線エピトープに結合する。別の実例では、抗原結合部分は以下の直線エピトープ:(a)配列番号1のアミノ酸459−476;(b)配列番号1のアミノ酸486−500;および(c)配列番号1のアミノ酸557−573;のうちの2つまたは3つのうちの少なくとも一部を含むかまたはそれからなる非直線エピトープに結合する。別の実例では、抗原結合部分は以下の直線エピトープ:(a)配列番号1のアミノ酸577−590;(b)配列番号1のアミノ酸636−645;および(c)配列番号1のアミノ酸659−677;のうちの2つまたは3つの少なくとも一部を含むかまたはそれからなる非直線エピトープに結合する。
【0023】
特定の実施態様では、抗原結合部分は(a)配列番号1のアミノ酸101−107;および(b)配列番号1のアミノ酸123−132の全てまたは一部を含む非直線エピトープ(例えば立体構造的エピトープ)に結合する。
種々の実施態様では、PCSK9結合分子の結合の効率はPCSK9の特定のドメインまたはエピトープ内の結合の位置に相関する。
【0024】
種々の実施態様では、PCSK9結合分子の抗原結合部分は10nM、1nM、0.5nM、0.25nMまたは0.1nM以下の解離定数(K)でPCSK9に結合する。
種々の実施態様では、PCSK9結合分子の抗原結合部分は0.3nM以下のKで非ヒト霊長類(例えばカニクイザルまたはチンパンジー)のPCSK9に結合する。
種々の実施態様では、抗原結合部分は0.5nM以下のKでマウスPCSK9に結合する。
【0025】
抗体はキメラ(例えばヒト化)抗体もしくはヒト抗体、またはhumaneered抗体でよい。
1つの実施態様では、抗原結合部分はヒト抗体の抗原結合部分である。
抗原結合部分はモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体の抗原結合部分でよい。
PCSK9結合分子には、例えば抗体のFabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)またはFvフラグメントが含まれる。
【0026】
1つの実施態様では、PCSK9結合分子はヒト抗体である。
1つの実施態様では、PCSK9結合分子には一本鎖Fvが含まれる。
1つの実施態様では、PCSK9結合分子にはダイアボディー(例えば一本鎖ダイアボディーまたは2本のペプチド鎖を有するダイアボディー)が含まれる。
【0027】
いくつかの実施態様では、抗体の抗原結合部分は以下のアイソタイプ:IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4のうちの1つの抗体から誘導される。いくつかの実施態様では、抗体の抗原結合部分は抗体のIgAまたはIgEアイソタイプから誘導される。
【0028】
PCSK9結合分子(例えば触媒ドメイン内、システインリッチドメイン内、またはプロドメイン内のエピトープに結合するPCSK9結合分子)は数多くの生物学的活性のうちの1つまたはそれより多くを呈することができる。種々の実施態様では、PCSK9結合分子はPCSK9リガンドに対するPCSK9結合を阻止する。いくつかの実施態様では、PCSK9結合分子はpH7−8でPCSK9リガンドに対する結合を阻止する。いくつかの実施態様では、PCSK9結合分子はpH7を下まわるpHで(例えばpH5−7で)結合を阻止する。例えばPCSK9結合分子はPCSK9リガンドに対するPCSK9結合を、対照と相対して(例えばPCSK9結合分子の不在下での結合に相対して)少なくとも5%、10%、15%、25%または50%まで阻止する。
【0029】
例えばPCSK9結合分子は低密度リポタンパク質受容体(LDL−R)に対するPCSK9結合を阻止することができる(例えばPCSK9結合分子はpH7およびより低いpH、例えばpH5−7でLDL−Rに対するPCSK9結合を阻止する)。
【0030】
PCSK9プロドメインは成熟PCSK9ポリペプチドから切断され、そしてそれと非共有結合したままである。1つの実施態様では、PCSK9結合分子は触媒またはシステインリッチドメインに対する結合に関してPCSK9プロドメインと競合し(またはその逆)、そしてPCSK9の生物学的活性を阻止する。
【0031】
いくつかの実施態様では、PCSK9結合分子はPCSK9のタンパク質分解活性(例えばPCSK9プロドメインの、または別のPCSK9基質のタンパク質分解)を阻止する。例えばPCSK9結合分子はPCSK9タンパク質分解活性を、対照と相対して(例えばPCSK9結合分子の不在下での活性に相対して)少なくとも5%、10%、15%、25%または50%まで阻止する。
【0032】
いくつかの実施態様では、PCSK9結合分子は細胞、例えば肝細胞においてLDL−RのPCSK9依存性の低下(例えばLDL−RのPCSK9依存性の分解)を阻止する。例えばPCSK9結合分子はLDL−RのPCSK9依存性の低下を、対照と相対して(例えばPCSK9結合分子の不在下でのLDL−Rの低下に相対して)少なくとも5%、10%、15%、25%または50%まで阻止する。これらの実施態様では、LDL−Rレベルにおける増大により、PCSK9結合分子はLDL−RのPCSK9依存性の低下を阻止することが示される。
【0033】
特定の実施態様では、PCSK9結合分子はPCSK9が存在する条件下で細胞、例えば肝細胞と接触した場合に、PCSK9結合分子の不在下での肝細胞によるLDL−c取り込みと相対して、肝細胞によるLDL−c取り込みを増大させる。例えばPCSK9結合分子は対照と相対して(例えばPCSK9結合分子の不在下での結合に相対して)LDL−c取り込みを、少なくとも5%、10%、15%、25%または50%まで増大させる。
【0034】
PCSK9結合分子はLDL−cの存在下でPCSK9に結合することができ、そして/またはそれは血清の存在下で(例えば少なくとも1%、5%、10%、25%、50%血清の存在下で)PCSK9に結合することができる。
【0035】
本発明はまた非抗体PCSK9結合分子も特色とする。非抗体PCSK9結合分子には、以下:テネイシン、N−カドヘリン、E−カドヘリン、ICAM、タイチン、GCSF受容体、サイトカイン受容体、グリコシダーゼ阻害剤、抗菌性色素タンパク質、ミエリン膜接着分子P0、CD8、CD4、CD2、クラスI MHC、T細胞抗原受容体、CD1、VCAM−1のC2およびIセットドメイン、ミオシン結合タンパク質CのIセット免疫グロブリンドメイン、ミオシン結合タンパク質HのIセット免疫グロブリンドメイン、テロキンのIセット免疫グロブリンドメイン、NCAM、トゥイッチン、ニューログリアン、成長ホルモン受容体、エリトロポイエチン受容体、プロラクチン受容体、インターフェロンガンマ受容体、β−ガラクトシダーゼ/グルクロニダーゼ、β−グルクロニダーゼ、トランスグルタミナーゼ、T細胞抗原受容体、スーパーオキシドジスムターゼ、組織因子ドメイン、チトクロムF、緑色蛍光タンパク質、GroELまたはタウマチン;のうちの1つのような非抗体ポリペプチドの免疫グロブリン様(Ig様)フォールドから誘導されるアミノ酸配列を有するPCSK9結合ドメインが含まれる。一般的には、PCSK9結合ドメインがPCSK9に特異的に結合するように(すなわちここで免疫グロブリン様フォールドはPCSK9に特異的に結合しない)免疫グロブリン様フォールドのアミノ酸配列に相対してPCSK9結合ドメインのアミノ酸配列を改変する。
【0036】
種々の実施態様では、PCSK9結合ドメインのアミノ酸配列はフィブロネクチン、サイトカイン受容体またはカドヘリンの免疫グロブリン様フォールドのアミノ酸配列と少なくとも60%同一(例えば少なくとも65%、75%、80%、85%または90%同一)である。
【0037】
種々の実施態様では、PCSK9結合ドメインのアミノ酸配列は以下:テネイシン、N−カドヘリン、E−カドヘリン、ICAM、タイチン、GCSF受容体、サイトカイン受容体、グリコシダーゼ阻害剤、抗菌性色素タンパク質、ミエリン膜接着分子P0、CD8、CD4、CD2、クラスI MHC、T細胞抗原受容体、CD1、VCAM−1のC2およびIセットドメイン、ミオシン結合タンパク質CのIセット免疫グロブリンドメイン、ミオシン結合タンパク質HのIセット免疫グロブリンドメイン、テロキンのIセット免疫グロブリンドメイン、NCAM、トゥイッチン、ニューログリアン、成長ホルモン受容体、エリトロポイエチン受容体、プロラクチン受容体、インターフェロンガンマ受容体、β−ガラクトシダーゼ/グルクロニダーゼ、β−グルクロニダーゼ、トランスグルタミナーゼ、T細胞抗原受容体、スーパーオキシドジスムターゼ、組織因子ドメイン、チトクロムF、緑色蛍光タンパク質、GroELまたはタウマチン;のうちの1つの免疫グロブリン様フォールドのアミノ酸配列と少なくとも60%、65%、75%、80%、85%または90%同一である。
【0038】
種々の実施態様では、PCSK9結合ドメインは10nM以下(例えば1nM、0.5nM、0.1nM)のKでPCSK9に結合する。
いくつかの実施態様では、Ig様フォールドはフィブロネクチンのIg様フォールド、例えばフィブロネクチンIII型のIg様フォールド(例えばフィブロネクチンIIIのモジュール10のIg様フォールド)である。
【0039】
本発明はまたPCSK9の抗原性エピトープに相当するペプチドも提供する。1つの態様では、本発明は以下のアミノ酸配列:YRADEYQPPDGG(配列番号4);TSIQSDHREIEGRVMV(配列番号5);ENVPEEDGTRFHRQ(配列番号6);AGVVSGRDAGVAKGAS(配列番号7);VQPVGPL(配列番号8);VGATNAQDQPVTLG(配列番号9);IIGASSDCSTCFVSQS(配列番号10);EAWFPEDQRVLTPN(配列番号11);ALPPSTHGAGWQLFCR(配列番号12);TVWSAHSGPTRMATAIAR(配列番号13);CSSFSRSGKRRGERM(配列番号14);HVLTGCSSHWEVEDLGT(配列番号15);PVLRPRGQPNQCVG(配列番号16);SALPGTSHVL(配列番号17);RDVSTTGSTSEEAVTAVAI(配列番号18);SQSERTARRLQAQ(配列番号2);またはGYLTKILHVFHGLLPGFLVKMSGDLLELA(配列番号3);のうちの1つに少なくとも90%同一であるアミノ酸配列からなるペプチドを特色とする。
【0040】
別の態様では、本発明は組成物が動物に投与される場合、PCSK9に特異的に結合する抗体を誘発するための組成物を提供する。組成物には例えば以下のペプチド:YRADEYQPPDGG(配列番号4);TSIQSDHREIEGRVMV(配列番号5);ENVPEEDGTRFHRQ(配列番号6);AGVVSGRDAGVAKGAS(配列番号7);VQPVGPL(配列番号8);VGATNAQDQPVTLG(配列番号9);IIGASSDCSTCFVSQS(配列番号10);EAWFPEDQRVLTPN(配列番号11);ALPPSTHGAGWQLFCR(配列番号12);TVWSAHSGPTRMATAIAR(配列番号13);CSSFSRSGKRRGERM(配列番号14);HVLTGCSSHWEVEDLGT(配列番号15);PVLRPRGQPNQCVG(配列番号16);SALPGTSHVL(配列番号17)RDVSTTGSTSEEAVTAVAI(配列番号18);SQSERTARRLQAQ(配列番号2);GYLTKILHVFHGLLPGFLVKMSGDLLELA(配列番号3);5つ未満のアミノ酸変化を伴うそのペプチド;またはそのフラグメント(例えば5、6、7、8、9、10、11または12個のアミノ酸を含有するフラグメント);のうちの1つが含まれる。ペプチドを例えばキャリアタンパク質に結合することにより修飾して抗原性を増大させることができる。
【0041】
本発明はまた本明細書に記載されるPCSK9結合分子を含む医薬組成物を特色とする。その組成物には例えばPCSK9結合分子および薬学的に許容される担体が含まれる。
本発明はまた本明細書に記載されるPCSK9結合分子を使用する方法を特色とする。
【0042】
例えば1つの態様では、本発明は細胞、例えば肝細胞におけるLDL−Rレベルを増大させる方法を特色とする。その方法には、肝細胞をPCSK9結合分子(例えばPCSK9に特異的に結合する抗体の抗原結合部分を含むPCSK9結合分子)と接触させ、それによりPCSK9によるLDL−Rの下方調節を低減させ、そして肝細胞におけるLDL−Rレベルを増大させることが含まれる。
【0043】
別の態様では、本発明は細胞、例えば肝細胞によるLDL−c取り込みを増大させる方法を特色とする。その方法には、肝細胞をPCSK9結合分子(例えばPCSK9に特異的に結合する抗体の抗原結合部分を含むPCSK9結合分子)と接触させ、それによりPCSK9によるLDL−Rの下方調節を低減させ、そして肝細胞におけるLDL−c取り込みを増大させることが含まれる。
【0044】
別の態様では、本発明は対象におけるPCSK9活性を調整する方法を特色とする。その方法には、PCSK9の生物学的活性を調整するPCSK9結合分子(例えばPCSK9に特異的に結合する抗体の抗原結合部分を含むPCSK9結合分子)を対象に投与することが含まれる。PCSK9結合分子は以下の活性:(a)LDL−Rに対するPCSK9結合の阻止;(b)PCSK9のタンパク質分解活性の阻止;(c)肝細胞におけるLDL−RのPCSK9依存性の低下の阻止;および(d)肝細胞におけるLDL−RのPCSK9依存性の分解の阻止;のうちの1つまたはそれより多くを呈する。
【0045】
別の態様では、本発明は対象における血漿コレステロールを低減させる方法を特色とする。その方法には、対象における血漿コレステロールを低減させるのに有効な量で本明細書に記載されるPCSK9結合分子を含む医薬組成物を対象に投与することが含まれる。その量はLDL−cを低減させるのに有効な量でよい。対象の血漿LDL−cの濃度を、組成物を投与する前の血漿LDL−cに相対して、少なくとも5%まで低減させることができる(例えば血漿LDL−cの濃度を少なくとも10%、15%または20%まで低減させる)。いくつかの実施態様では、対象はまたスタチンのような第2のコレステロール低下薬も投与される。
【0046】
種々の実施態様では、対象は脂質障害(例えば高脂質血症、I型、II型、III型、IV型またはV型高脂質血症、続発性高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、黄色腫症、コレステロールアセチルトランスフェラーゼ欠損症)を有するか、またはその危険性がある。例えば対象は高コレステロール血症であるかまたは高コレステロール血症の危険性がある;対象はアテローム性動脈硬化症を有するか、またはその危険性がある;対象は心血管障害を有するか、またはその危険性がある。
【0047】
いくつかの実施態様では、対象はスタチン不耐性である(例えば対象はスタチン薬物を摂取した場合、副作用を被る)、および/または対象はスタチン治療に抵抗する(例えばスタチン治療は対象におけるコレステロール低減を引き起こさなかった)。
いくつかの実施態様では、組成物の投与の前に対象の全血漿コレステロールレベルは200mg/dl以上である。
【0048】
いくつかの実施態様では、組成物の投与の前に対象の血漿LDL−cレベルは160mg/dl以上である。
いくつかの実施態様では、組成物を静脈内に投与する。
いくつかの実施態様では、PSCK9結合分子を用いて高コレステロールレベルに関連する疾患の処置のための医薬品を調製することができる。
【0049】
本発明の1つまたはそれより多い実施態様の詳細を添付の図面および以下の記載で示す。本発明のその他の特色、目的および利点は記載および図面から、および請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は直線配列におけるシグナルペプチド、プロドメイン、触媒ドメインおよびC末端(システインリッチ)ドメインの位置を示すヒトPCSK9の模式図である。
【図2】図2はヒトPCSK9の三次元構造モデルの描写である。数字は表2に列挙されるエピトープの位置を示す。
【図3】図3はhPCSK9に結合するH1−Fab結合のBiacore結合親和性研究の結果を描く。センサーグラム(黒色のぎざぎざの線)は0.78、1.56、3.12、6.25および12.5nMの濃度でのH1−Fabの結合曲線である。1:1全体的適合(黒色の滑らかな線)により以下の結合パラメーター:κ=3.41×10−3(1/秒)、κ=3.23×10(1/M秒)およびK=1.05および10−8(M)。
【図4】図4A−Cは、H1−Fabが(4A)hPCSK9/LDL−R相互作用を破壊し、そして(4B)表面LDL−Rレベルの増大および(4C)HepG2細胞によるLDL取り込みの増大に至り得ることを説明する。
【図5】図5A−Cは自動重水素交換質量分析(DXMS)システムの流体接続スキームを描く。実験のローディング/インラインタンパク質分解相、脱塩段階および分離段階のためのバルブ位置を図5A、5Bおよび5Cの各々で説明する。
【図6】図6は補完的な水素/重水素(H/D)交換実験(すなわち保護、対照およびDO中(In−DO)実験)および予期される結果を描く概略図である。
【図7】図7A−Bは(A)保護実験および(B)hPCSK9およびhPCSK9:H1−Fab複合体において実施されたDO中実験に関するhPCSK9の残基数の関数として重水素において観察された変化を描く。
【図8】図8は非直線エピトープを形成するために予想された2つのアミノ酸ストレッチ(すなわちアミノ酸残基101−107(QAARRGY)および123−132(LVKMSGDLLE))を有するhPCSK9のカートゥーン結晶構造を描く。
【発明を実施するための形態】
【0051】
詳細な説明
本発明はPCSK9に結合する分子(「PCSK9結合分子」)、特にヒトPCSK9に結合し、そしてその機能を調整するヒト抗体およびその部分を提供する。PCSK9のエピトープおよびこれらのエピトープに結合する薬剤もまた本明細書にて提供される。
ヒトPCSK9(hPCSK9)の全長配列はGenbank(登録商標)受け入れ番号GI:119627065、gb|EAX06660.1の下で見出され、そして表1にて配列番号1として示される。hPCSK9をコードするmRNA配列が受け入れ番号GI:31317306、NM 174936の下で見出される。
【0052】
【表1】

【0053】
配列番号1の直線配列におけるシグナルペプチド、プロドメイン、触媒ドメインおよびC末端システインリッチドメインの位置を図1に示す。ヒトPCSK9はN533でN−グリコシル化される。それはY53および触媒(プロテアーゼ)ドメインで硫酸化される。ヒト血漿中のhPCSK9の濃度は50−600ng/mlの範囲である(Lagace et al., J. Clin. Inv. 116(11):2995-3005(2006))。hPCSK9における特定の変異はLDL−cの血漿レベルの上昇および低減に関連する(Horton et al., Trends. Biochem. Sci. 32(2):71-77(2006))。以下の変異:S127R、F216L、D374Y、N425SおよびR496W;はLDL−cの上昇に関連する。以下の変異:R46L、ΔR97、G106R、Y142X、L253F、A443TおよびC679X;はLDL−cの低減に関連する。
【0054】
予想されるチンパンジーPCSK9アミノ酸配列はGenbank(登録商標)にて受け入れ番号GI:114556790、XP 001154126;および受け入れ番号GI:114556788、XP 513430の下で見出される。マウスPCSK9のアミノ酸配列は受け入れ番号GI:23956352、NP 705793の下で見出される。ラットPCSK9アミノ酸配列は受け入れ番号GI:77020250、NP 954862の下で見出される。hPCSK9のアミノ酸配列はチンパンジーPCSK9と98.7%同一であり、ラットPCSK9と79.5%同一であり、そしてマウスPCSK9と78.9%同一である。
【0055】
hPCSK9の抗原性エピトープのアミノ酸配列および配列番号1のhPCSK9配列内のその位置を表2に列挙する。
【表2】

pro=プロドメイン、cat=触媒ドメイン、crd=システインリッチドメイン
【0056】
図2はhPCSK9の三次元構造モデルの描写である。直線エピトープの以下のセット
:プロドメインにおける領域1(配列番号2および配列番号3);触媒ドメインおよび触媒/システインリッチドメインにおける領域2(配列番号4および配列番号12);触媒ドメインにおける領域3(配列番号5、配列番号7および配列番号10);触媒ドメインにおける領域4(配列番号6および配列番号8);触媒ドメインにおける領域5(配列番号9および配列番号11);システインリッチドメインにおける領域6(配列番号13、配列番号14および配列番号15);およびシステインリッチドメインにおける領域7(配列番号16、配列番号17および配列番号18)は三次元モデルにおいて近位である。
エピトープのこれらのセットにおけるアミノ酸残基は非直線エピトープを形成する。
【0057】
「抗体」なる用語は本明細書にて使用される際にはインタクトな抗体またはその抗原結合フラグメント(すなわち「抗原結合部分」)もしくは一本鎖(すなわち軽または重鎖)を指す。インタクトな抗体はジスルフィド結合により相互接続された少なくとも2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含む糖タンパク質である。各重鎖は重鎖可変領域(本明細書ではVと略する)および重鎖定常領域からなる。重鎖定常領域は3つのドメインCH1、CH2およびCH3からなる。各軽鎖は軽鎖可変領域(本明細書ではVと略する)および軽鎖定常領域からなる。軽鎖定常領域は1つのドメインCからなる。VおよびV領域はさらに相補性決定領域(CDR)と称される超可変の領域に細分され、フレームワーク領域(FR)と称されるさらに保存された領域が散在する。各VおよびVは以下の順:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4;でアミノ末端からカルボキシ末端へ配列された3つのCDRおよび4つのFRから構成される。重および軽鎖の可変領域は抗原と相互作用する結合ドメインを含有する。抗体の定常領域は免疫系の種々の細胞(例えばエフェクター細胞)および古典的な補体系の第1成分(Clq)を含む宿主組織または因子に対する免疫グロブリンの結合を媒介できる。
【0058】
抗体の「抗原結合部分」なる用語は本明細書にて使用される際には、所定の抗原(例えばhPCSK9)に特異的に結合する能力を保持するインタクトな抗体の1つまたはそれより多いフラグメントを指す。インタクトな抗体のフラグメントにより抗体の抗原結合機能を実施することができる。抗体の「抗原結合部分」なる用語に包含される結合フラグメントの実例にはFabフラグメント、V、V、CおよびCH1ドメインからなる一価フラグメント;F(ab)フラグメント、ヒンジ領域でジスルフィド橋により連結された2つのFabフラグメント(一般的に重鎖から1つおよび軽鎖から1つ)を含む二価フラグメント;VおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント;抗体の1本のアームのVおよびVドメインからなるFvフラグメント;Vドメインからなる単一ドメイン抗体(dAb)フラグメント(Ward et al., Nature 341:544-546(1989));ならびに単離された相補性決定領域(CDR)が含まれる。
【0059】
さらに、Fフラグメントの2つのドメインVおよびVは別個の遺伝子によりコードされるが、組換え法を用いて1本のタンパク質鎖としてそれらを作製することを可能にする人工ペプチドリンカーによりそれらを結合させることができ、ここでVおよびV領域は対になって一価分子(一本鎖Fv(scFv)としても公知;例えばBird et al., Science 242:423-426(1988);およびHuston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 85:5879-5883(1988)参照))を形成する。かかる一本鎖抗体には抗体の1つまたはそれより多い「抗原結合部分」が含まれる。これらの抗体フラグメントは当業者に公知の従来技術を用いて得られ、そしてそのフラグメントをインタクトな抗体と同一の様式で有用性に関してスクリーニングする。
【0060】
抗原結合部分を単一ドメイン抗体、マキシボディー(maxibody)、ミニボディー、イントラボディー、ダイアボディー、トリアボディー、テトラボディー、v−NARおよびビス−scFvに組み込むこともできる(例えばHollinger and Hudson, Nature Biotechnology, 23(9):1126-1136(2005)参照)。抗体の抗原結合部分をフィブロネクチンIII型(Fn3)のようなポリペプチドに基づく足場にグラフト化することができる(フィブロネクチンポリペプチドモノボディーについて記載する米国特許第6703199号を参照のこと)。
【0061】
相補的軽鎖ポリペプチドと一緒に抗原結合領域の対を形成するタンデムFvセグメントの対(V−CH1−V−CH1)を含む一本鎖分子に抗原結合部分を組み込むことができる(Zapata et al., Protein Eng. 8(10):1057-1062(1995);および米国特許第5641870号)。
【0062】
「単離されたPCSK9結合分子」は本明細書で使用される際には、PCSK9以外の抗原に関する抗原特異性を有する分子を実質的に含まない結合分子を指す(例えばhPCSK9に特異的に結合する単離された抗体はhPCSK9以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。しかしながらhPCSK9に特異的に結合する単離された結合分子はその他の種からのPCSK9分子のようなその他の抗原に交差反応性を有し得る。結合分子が実質的に細胞材料を含まない場合、それは「精製されている」。
【0063】
「モノクローナル抗体組成物」なる用語は本明細書で使用される際には単一の分子組成物の抗体分子の調製物を指す。モノクローナル抗体組成物は特定のエピトープに関して単一の結合特異性および親和性を表示する。
【0064】
「ヒト抗体」なる用語は本明細書で使用される際には、フレームワークおよびCDR領域の双方がヒト起源の配列から誘導される可変領域を有する抗体を含むと意図される。さらに抗体が定常領域を含有する場合、定常領域もまたかかるヒト配列、例えばヒト生殖系列配列またはヒト生殖系列配列の変異体から誘導される。本発明のヒト抗体はヒト配列によりコードされないアミノ酸残基(例えばインビトロ無作為または部位特異的変異誘発により、またはインビボ体細胞変異により導入された変異)を含み得る。しかしながら「ヒト抗体」なる用語は本明細書で使用される際には、マウスのような別の哺乳動物種の生殖系列から誘導されたCDR配列がヒトフレームワーク配列にグラフト化されている抗体を含むことを意図するものではない。
【0065】
「ヒトモノクローナル抗体」なる用語は、フレームワークおよびCDR領域の双方がヒト配列から誘導される可変領域を有する単一の結合特異性を表示する抗体を指す。1つの実施態様では、不死化細胞に融合された非ヒト遺伝子導入動物(例えばヒト重鎖導入遺伝子および軽鎖導入遺伝子を含むゲノムを有する遺伝子導入マウス)から得られたB細胞を含むハイブリドーマによりヒトモノクローナル抗体を生成する。
【0066】
「組換えヒト抗体」なる用語は本明細書で使用される際には、ヒト免疫グロブリン遺伝子に関して遺伝子導入もしくは染色体導入された動物(例えばマウス)から単離された抗体、またはそこから調製されたハイブリドーマのような組換え手段により調製、発現、創成または単離された任意のヒト抗体;ヒト抗体を発現するために形質転換された宿主細胞から、例えばトランスフェクトーマ(transfectoma)から単離された抗体;組換えコンビナトリアルヒト抗体から単離された抗体;およびヒト免疫グロブリン遺伝子配列の全てまたは一部の別のDNA配列へのスプライシングを伴う任意のその他の手段により調製、発現、創成または単離された抗体を含む。かかる組換えヒト抗体はフレームワークおよびCDR領域がヒト生殖系列免疫グロブリン配列から誘導された可変領域を有する。しかしながら特定の実施態様では、かかる組換えヒト抗体をインビトロ変異誘発(またはヒトIg配列に関して遺伝子導入された動物を使用する場合、インビボ体細胞変異誘発)に供することができ、そして故に組換え抗体のVおよびV領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列VおよびV配列から誘導され、そしてそれに関係するが、ヒトにおけるヒト抗体生殖系列レパートリー内に天然には存在しないかもしれない配列である。
【0067】
「アイソタイプ」は本明細書で使用される際には、重鎖定常領域遺伝子によりコードされる抗体クラス(例えばIgM、IgE、IgG1またはIgG4のようなIgG)を指す。
「抗原を認識する抗体」および「抗原に特異的な抗体」なる語句は本明細書では「抗原に特異的に結合する抗体」なる用語と互換的に用いられる。
【0068】
本明細書で使用される際には、「PCSK9に特異的に結合する」PCSK9結合分子(例えば抗体またはその抗原結合部分)は、1×10−7M以下のKでPCSK9に結合するPCSK9結合分子を指すと意図される。「抗原と交差反応する」PCSK9結合分子(例えば抗体)は1×10−6M以下のKでその抗原と結合するPCSK9結合分子を指すと意図される。所定の抗原と「交差反応しない」PCSK9結合分子(例えば抗体)は、所定の抗原と検出可能な結合をしないか、または1×10−5M以上のKで結合するPCSK9結合分子を指すと意図される。特定の実施態様では、抗原と交差反応しないかかる結合分子は標準的な結合アッセイにおいてこれらのタンパク質に対して本質的に検出不能な結合を呈する。
【0069】
本明細書で使用される際には「高親和性」なる用語は、IgG抗体に言及する場合、抗体が標的抗原に関して10−9M以下のKを有することを示す。
本明細書で使用される際には、特定のアミノ酸残基「内またはそれと重複するエピトープ」なる用語は、かかる残基の全てまたは一部を含む、それからなるまたはそれと重複するエピトープを指す。
【0070】
「エピトープ」または「抗原性決定基」なる用語は、本発明のPCSK9結合分子が特異的に結合する抗原上の部位を指す。エピトープを隣接アミノ酸またはタンパク質の三次フォールディングにより並置される非隣接アミノ酸の双方から形成することができる。近接アミノ酸から形成されるエピトープは典型的には変性溶媒への暴露時に保持されるが、三次フォールディングにより形成されるエピトープは典型的には変性溶媒での処理時に喪失される。エピトープは典型的には独特な空間的立体構造で少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15個のアミノ酸を含む。エピトープの空間的立体構造を決定する方法には当分野における技術および本明細書に記載されるもの、例えばX線結晶学および二次元核磁気共鳴が含まれる(例えばEpitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology, Vol. 66, G. E. Morris, Ed.(1996)参照)。
【0071】
本明細書に記載されるPCSK9結合分子と同一のエピトープに結合する(すなわち認識する)PCSK9結合分子もまた本発明に包含される。統計的に有意な様式で標的抗原に対して参照PCSK9結合分子と交差競合する(すなわちその結合を競合的に阻止する)その能力により、同一のエピトープに結合するPCSK9結合分子を同定することができる。例えばPCSK9結合分子が同一のもしくは構造的に類似のエピトープ(例えば重複エピトープ)、または結合したときに抗体間で立体障害を引き起こす、空間的に近位のエピトープに結合する場合、競合的阻止を生じることができる。
【0072】
被験PCSK9結合分子が共通の抗原に対する参照PCSK9結合分子の特異的結合を阻止する日常的なアッセイを用いて競合阻止を決定することができる。非常に多くの型の競合結合アッセイ、例えば:固相直接または間接ラジオイムノアッセイ(RIA)、固相直接または間接酵素イムノアッセイ(EIA)、サンドイッチ競合アッセイ(Stahli et al., Methods in Enzymology 9:242(1983)参照);固相直接ビオチン−アビジンEIA(Kirkland et al., J. Immunol. 137:3614(1986)参照);固相直接標識アッセイ、固相直接標識サンドイッチアッセイ(Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press(1988)参照);I−125標識を用いる固相直接標識RIA(Morel et al., Mol. Immunol. 25(1):7(1988)参照);固相直接ビオチン−アビジンEIA(Cheung et al., Virology 176:546(1990));および直接標識RIA(Moldenhauer et al., Scand. J. Immunol. 32:77(1990));が公知である。典型的にはかかるアッセイはこれらの未標識被験PCSK9結合分子および標識された参照PCSK9結合分子のいずれかを担持する固体表面または細胞に結合した精製された抗原の使用を伴う。被験PCSK9結合分子の存在下で固体表面または細胞に結合した標識の量を決定することにより競合阻止を測定する。通常被験PCSK9結合分子は過剰に存在する。通常競合PCSK9結合分子が過剰に存在する場合、それは参照PCSK9結合分子の共通の抗原に対する特異的結合を少なくとも50−55%、55−60%、60−65%、65−70%、70−75%またはそれより多くまで阻止する。
【0073】
その他の技術には、例えばエピトープの原子分解を提供する、抗原:PCSK9結合分子複合体の結晶のX線分析のようなエピトープマッピング法が含まれる。その他の方法は抗原フラグメントまたは抗原の変異体に対するPCSK9結合分子の結合をモニタリングし、ここで抗原配列内のアミノ酸残基の修飾による結合の喪失がエピトープ構成成分の指標であるとしばしば考えられる。加えて、エピトープマッピングのためのコンピューターによるコンビナトリアル法を用いることもできる。これらの方法は、目的のPCSK9結合分子がコンビナトリアルファージディスプレイペプチドライブラリーから特異的な短いペプチドを親和性単離する能力に依存する。次いでペプチドは、ペプチドライブラリーをスクリーニングするために用いられるPCSK9結合分子に相当するエピトープを定義するためのリードと見なされる。エピトープマッピングのために、立体構造的に不連続なエピトープをマッピングすることが示されているコンピューターアルゴリズムもまた開発されている。
【0074】
本明細書で使用される際には、「対象」なる用語には任意のヒトまたは非ヒト動物が含まれる。
「非ヒト動物」なる用語には全ての非ヒト脊椎動、例えば非ヒト霊長類、げっ歯類、ウサギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、鳥類、両生類、爬虫類等のような哺乳動物および非哺乳動物が含まれる。
【0075】
ヌクレオチド配列は生成細胞または生物、一般的には真核細胞、例えばピキアのような酵母の細胞、昆虫細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)またはヒト細胞のような哺乳動物細胞において好ましいコドンを用いてアミノ酸配列をコードするように改変されている場合、それは「最適化」されると称される。最適化されたヌクレオチド配列を、「親」配列としても公知である元来の出発ヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列に同一かまたはほぼ同一なアミノ酸配列をコードするように操作する。
【0076】
本明細書で使用される際には「humaneered抗体」なる用語は、同一のエピトープに結合するが、配列が異なる抗体を意味する。テクノロジーの実例には、Kalobiosのhumaneerd化テクノロジーにより生成されたhumaneered抗体が含まれ、ここで抗原結合領域の配列は、保存アミノ酸置換によるよりもむしろ、例えば変異により誘導される(例えば第WO2004/072266号、第WO2005/069970号参照)。
本発明の種々の態様を以下のサブセクションにおいてさらに詳細に記載する。
【0077】
種々の種のPCSK9およびPCSK9の特定のエピトープに結合する分子の能力を評価するための標準的なアッセイは当分野において公知であり、例えばELISAおよびウェスタンブロットを含む。PCSK9結合分子がPCSK9の特異的エピトープに結合するかどうかの決定にはペプチドエピトープ競合アッセイを用いることができる。例えばPCSK9結合分子を目的のPCSK9エピトープに相当するペプチドと共にペプチドの飽和濃度でインキュベートする。プレインキュベートされたPCSK9結合分子を、固定されたPCSK9に対する結合に関して、例えばBiacore(登録商標)分析により試験する。ペプチドとのプレインキュベーションによるPCSK9結合の阻止により、PCSK9結合分子がペプチドエピトープに結合することが示される(例えば米国特許公開第20070072797号参照)。結合動態もまたBiacore(登録商標)分析のような当分野において公知の標準的なアッセイにより検定することができる。PCSK9の機能的特性に及ぼすPCSK9結合分子の影響を評価するためのアッセイを以下でさらに詳細に記載する。
【0078】
したがって1つまたはそれより多いこれらのPCSK9機能的特性(例えば生化学的、細胞性、生理学的またはその他の生物学的活性等)を「阻止する」PCSK9結合分子は、当分野において公知の、および本明細書に記載される方法論にしたがって決定されように、結合分子の不在下で認められるもの(例えば不適切な特異性の制御分子が存在する場合)に相対して特定の機能的特性において統計的に有意な低下を生じることが理解されよう。PCSK9活性を阻止するPCSK9結合分子は、測定されるパラメーターの少なくとも5%までかかる統計的に有意な低下を生じさせる。特定の実施態様では、抗体またはその他のPCSK9結合分子は対照と比較して少なくとも10%、20%、30%または50%の選択された機能的特性における低下を生じることができる。いくつかの実施態様では、LDL−Rレベルを測定することによりPCSK9阻止を決定する。PCSK9結合分子の存在下でのLDL−Rレベルにおける増大により、PCSK9結合分子がPCSK9を阻止することが示される。
【0079】
抗体
本明細書に記載される抗PCSK9抗体にはヒトモノクローナル抗体が含まれる。いくつかの実施態様では、PCSK9に結合する抗体の抗原結合部分(例えばVおよびV鎖)を「混合およびマッチング(mixed and matched)」して、その他の抗PCSK9結合分子を創成する。前記で言及された結合アッセイ(例えばELISA)を用いてかかる「混合およびマッチング」された抗体の結合を試験することができる。特定のV配列と混合およびマッチングするためにVを選択する場合、典型的にはそのVとの対形成において置き換えるVと構造的に類似するVを選択する。同様に特定の全長重鎖/全長軽鎖対形成から全長重鎖配列を一般的に構造的に類似する全長重鎖配列で置き換える。同様に特定のV/V対形成からのV配列を構造的に類似するV配列で置き換えるべきである。同様に特定の全長重鎖/全長軽鎖対形成から全長軽鎖配列を構造的に類似する全長軽鎖配列で置き換えるべきである。この局面で構造的類似性を同定することは当分野において周知の過程である。
【0080】
その他の態様では、本発明は1つまたはそれより多いPCSK9結合抗体の重鎖ならびに軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3を種々の組み合わせで含む抗体を提供する。これらの抗体の各々がPCSK9に結合でき、そして抗原結合特異性がCDR1、2および3領域により一次的に提供される場合、VCDR1、2および3配列ならびにVCDR1、2および3配列を「混合およびマッチング」することができる(すなわち異なる抗体からのCDRを混合およびマッチングすることができる)。かかる「混合およびマッチング」された抗体のPCSK9結合を本明細書に記載される結合アッセイ(例えばELISA)を用いて試験することができる。VCDR配列を混合およびマッチングする場合、特定のV配列からのCDR1、CDR2および/またはCDR3配列を構造的に類似する(複数の)CDR配列で置き換えるべきである。同様にVCDR配列を混合およびマッチングする場合、特定のV配列からのCDR1、CDR2および/またはCDR3配列を構造的に類似する(複数の)CDR配列で置き換えるべきである。この局面で構造的類似性を同定することは当分野において周知の過程である。
【0081】
本明細書で使用される際には、抗体の可変領域または全長鎖が配列の供給源としてヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子を用いる系から得られる場合、ヒト抗体は特定の生殖系列配列「の生成物」であるか、またはそれ「から誘導される」重もしくは軽鎖可変領域または全長重もしくは軽鎖を含む。1つのかかる系では、ヒト免疫グロブリン遺伝子を担持する遺伝子導入マウスにおいてヒト抗体を上昇させる。遺伝子導入されたものを目的の遺伝子(例えば本明細書に記載されるhPCSK9のエピトープ)で免役する。あるいは、ファージ上に表示されたヒト免疫グロブリン遺伝子ライブラリーを提供し、そして目的の抗原(例えば本明細書に記載されるhPCSK9またはhPCSK9エピトープ)でライブラリーをスクリーニングすることによりヒト抗体を同定する。
【0082】
ヒト抗体のアミノ酸配列をヒト生殖系列免疫グロブリンのアミノ酸配列と比較し、そして配列がヒト抗体の配列に最も近い(すなわち同一性%が最大)ヒト生殖系列免疫グロブリン配列を選択することにより、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列「の生成物」であるか、またはそれ「から誘導される」ヒト抗体をそのように同定することができる。特定のヒト生殖系列免疫グロブリン配列「の生成物」であるか、またはそれ「から誘導される」ヒト抗体は、例えば自然発生体細胞変異または人工的な部位特異的変異により、生殖系列コード化配列と比較してアミノ酸相違を含有し得る。しかしながら選択されたヒト抗体は典型的には、ヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも90%同一なアミノ酸配列を有し、そしてその他の種(例えばマウス生殖系列配列)の生殖系列免疫グロブリンアミノ酸配列と比較した場合、ヒト抗体をヒトのものであるとして同定するアミノ酸残基を含有する。特定の事例では、ヒト抗体はアミノ酸配列において生殖系列免疫グロブリン遺伝子によりコードされるアミノ酸配列に対して少なくとも60%、70%、80%、90%もしくは少なくとも95%、またはさらに少なくとも96%、97%、98%もしくは99%同一でよい。
【0083】
2つの配列間の同一性パーセントは配列により共有される同一の位置の数の関数(すなわち%同一性=同一の位置の数/位置の全数×100)であり、2つの配列の最適なアラインメントのための導入される必要のあるギャップの数、および各ギャップの長さを考慮に入れる。配列の比較および2つの配列間の同一性パーセントの決定をALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれているE. MeyersおよびW. Miller(Comput. Appl. Biosci., 4:11-17(1988))のアルゴリズムを用い、PAM120重み残基表(weight residue table)、ギャップ長ペナルティー12およびギャップペナルティー4を用いて決定する。
【0084】
典型的には特定のヒト生殖系列配列から誘導されたヒト抗体のVまたはVは、ヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子によりコードされるアミノ酸配列とは10個しかアミノ酸相違を表示しない。特定の事例ではヒト抗体のVまたはVは生殖系列免疫グロブリン遺伝子によりコードされるアミノ酸配列とは4、3、2または1個しかアミノ酸相違を表示できない。
【0085】
ラクダ抗体
ラマ種(アルパカ(Lama paccos)、ラマ(Lama glama)およびビクーニャ(Lama vicugna))のような新世界メンバーを含むラクダおよびヒトコブラクダ(フタコブラクダ(Camelus bactrianus)およびヒトコブラクダ(Calelus dromaderius))ファミリーのメンバーから得られた抗体タンパク質は大きさ、構造複雑性およびヒト対象に関する抗原性について特徴付けされている。哺乳動物のこのファミリーにおいて天然に見出される特定のIgG抗体は軽鎖を欠如し、そして故にその他の動物からの抗体に典型的な2つの重および2つの軽鎖を有する四本鎖の4要素からなる構造とは構造的に区別される。第WO94/04678号参照。
【0086】
標的に関して高親和性を有する小型タンパク質を生じるように遺伝子操作し、結果的に低分子量の抗体由来の「ラクダ抗体」として公知のタンパク質に至ることにより、VHHとして同定される小型の単一の可変ドメインであるラクダ抗体の領域を得ることができる。米国特許第5759808号参照;Stijlemans et al., J. Biol. Chem. 279:1256-1261(2004);Dumoulin et al., Nature 424:783-788(2003);Pleschberger et al., Bioconjugate Chem. 14:440-448(2003);Cortez-Retamozo et al., Int. J. Cancer 89:456-62(2002);およびLauwereys. et al., EMBO J. 17:3512-3520(1998)もまた参照のこと。ラクダ抗体および抗体フラグメントの操作されたライブラリーは例えばAblynx、Ghent、Belgiumから市販により入手可能である。非ヒト起源のその他の抗体と同様に、ラクダ抗体のアミノ酸配列を組換えにより改変してヒト配列にさらに極めて類似している配列を得ることができ、すなわちナノボディを「ヒト化」することができる。故にラクダ抗体の天然の低抗原性をさらに低減させることができる。
【0087】
ラクダナノボディはヒトIgG分子のおよそ10分の1の分子量を有し、そしてそのタンパク質の物理的直径は数ナノメートルしかない。小型サイズの1つの結果は、ラクダナノボディが大きな抗体タンパク質には機能的に無視される抗原性部位に結合する能力であり、すなわちラクダナノボディは古典的な免疫学的技術を用いて、さもなければ隠蔽される抗原を検出する試薬として、および可能性のある治療薬として有用である。故に小型サイズのなお別の結果は、ラクダナノボディは標的タンパク質の溝または狭い間隙における特異的部位に対する結合の結果として阻止することができ、そしてしたがって古典的な抗体のものよりも、古典的な低分子量薬物の機能にさらに極めて類似する能力で機能できるということである。
【0088】
さらに低分子量およびコンパクトサイズの結果、ラクダナノボディは極度に熱安定性で、極端なpHおよびタンパク質分解性消化に安定であり、抗原性が低い。別の結果は、ラクダナノボディを循環系から組織に迅速に移動し、そしてさらに血液脳関門を通過し、そして神経組織に影響を及ぼす障害を処置できることである。ナノボディはさらに血液脳関門をわたる薬物輸送を促進することができる。2004年8月19日公開の米国特許公開第20040161738号を参照のこと。ヒトにおける低抗原性と組み合わされたこれらの特性は大きな治療上の潜在力を示す。さらにこれらの分子を大腸菌のような原核細胞において十分に発現させることができる。
【0089】
したがって、本発明の特性はPCSK9に関して高親和性を有するラクダ抗体またはラクダナノボディである。本明細書における特定の実施態様では、ラクダ抗体またはナノボディはラクダ動物において天然に生成される、すなわちその他の抗体に関して本明細書に記載される技術を用いてPCSK9またはそのペプチドフラグメントでの免疫に続いてラクダにより生成される。あるいは抗PCSK9ラクダナノボディを操作する、すなわち例えば標的として本明細書に記載されるPCSK9またはPCSK9エピトープを用いるパニング手順を用いて、適切に変異誘発されたラクダナノボディタンパク質を表示するファージのライブラリーからの選択により生成する。操作されたナノボディを遺伝子操作によりさらにカスタマイズしてレシピエント対象における半減期を45分から2週間まで増大させることができる。
【0090】
ダイアボディー
ダイアボディーは、短かすぎて同一鎖上の2つのドメイン間で対形成できないリンカーにより接続された一本鎖ポリペプチド上でVおよびVが発現される二価の二特異性分子である。VおよびVドメインは別の鎖の相補的ドメインと対形成し、それにより2つの抗原結合部位を創成する(例えばHolliger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448(1993);Poljak et al., Structure 2:1121-1123(1994)参照)。同一細胞内でVHA−VLBおよびVHB−VLA(V−V立体配置)またはVLA−VHBおよびVLB−VHA(V−V立体配置)のいずれかの構造を伴う2つのポリペプチド鎖を発現することによりダイアボディーを生成することができる。これらの大部分は細菌内で可溶性形態で発現され得る。
【0091】
2つのダイアボディー形成ポリペプチド鎖をおよそ15個のアミノ酸残基のリンカーで接続することにより一本鎖ダイアボディー(scDb)を生成する(Holliger and Winter, Cancer Immunol. Immunother., 45(3-4):128-30(1997);Wu et al., Immunotechnology, 2(1):21-36(1996)参照)。scDbは細菌内で可溶性の活性な単量体形態で発現され得る(Holliger and Winter, Cancer Immunol. Immunother., 45(34):128-30(1997);Wu et al., Immunotechnology, 2(1):21-36(1996);Pluckthun and Pack, Immunotechnology, 3(2):83-105(1997);Ridgway et al., Protein Eng., 9(7):617-21(1996)参照)。
ダイアボディーをFcに融合させて「ジダイアボディー(di-diabody)」を作製することができる(Lu et al., J. Biol. Chem., 279(4):2856-65(2004)参照)。
【0092】
操作および修飾された抗体
出発材料として1つまたはそれより多いVおよび/またはV配列を有する抗体を用いて出発抗体から改変された特性を有し得る修飾された抗体を操作して本発明の抗体を調製することができる。1つもしくは双方の可変領域(すなわちVおよび/またはV)内の、例えば1つもしくはそれより多いCDR領域内の、および/または1つもしくはそれより多いフレームワーク領域内の1つまたはそれより多い残基を修飾することにより抗体を操作することができる。加えて、あるいは、例えば抗体の(複数の)エフェクター機能を改変するために、(複数の)定常領域内の残基を修飾することにより抗体を操作することができる。
【0093】
実施できる可変領域操作の1つの型はCDRグラフティングである。抗体は優勢には6つの重および軽鎖CDRに位置するアミノ酸残基を介して標的抗原と相互作用する。この理由のために、CDR内のアミノ酸配列はCDRの外側の配列よりも個々の個体間でさらに多様化する。CDR配列が大部分の抗体−抗原相互作用に寄与するので、異なる特性を有する異なる抗体からのフレームワーク配列にグラフト化された特異的な自然発生抗体からのCDR配列を含む発現ベクターを構築することにより、特異的な自然発生抗体の特性を擬似する組換え抗体を発現することが可能である(例えばRiechmann et al., Nature 332:323-327(1998);Jones et al., Nature 321:522-525(1986);Queen et al., Proc. Natl. Acad. See. U.S.A. 86:10029-10033(1989);米国特許第5225539号および米国特許第5530101号;第5585089号;第5693762号および第6180370号参照)。
【0094】
生殖系列抗体遺伝子配列を含む公のDNAデータベースまたは公開された参照文献からフレームワークを得ることができる。例えばヒト重および軽鎖可変領域遺伝子に関する生殖系列DNA配列を「VBase」ヒト生殖系列配列データベース(インターネットwww.mrc-cpe.cam.ac.uk/vbaseで利用可能)、ならびにKabat et al., 1991 Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, U.S. Department of Health and Human Services, NIH Publication No. 91-3242;Tomlinson et al., J. Mol. Biol. 227:776-798(1992);およびCox et al., Eur. J. Immunol. 24:827-836(1994);において見出すことができ、その各々の内容を出典明示により本明細書の一部とする。
【0095】
CDR1、2および3配列ならびにVCDR1、2および3配列を、そのフレームワーク配列が誘導される生殖系列免疫グロブリン遺伝子において見出されるものと同一の配列を有するフレームワーク領域にグラフト化することができるか、またはCDR配列を生殖系列配列と比較して1つもしくはそれより多い変異を含有するフレームワーク領域にグラフト化することができる。例えば特定の場合では、抗体の抗原結合能力を維持または強化するためにフレームワーク領域内の残基を変異するのが有益であることが見出されている(例えば米国特許第5530101号;第5585089号;第5693762号および第6180370号参照)。
【0096】
免疫グロブリンドメイン以外のポリペプチドのフレームワーク領域にCDRをグラフト化することもできる。適切な足場は、グラフト化された残基が局在された表面を形成し、そして目的の標的(例えばPCSK9)に結合するようにグラフト化された残基を表示する立体構造的に安定なフレームワークを形成する。例えばフレームワーク領域がフィブロネクチン、アンキリン、リポカリン、ネオカルジノスタイン(neocarzinostain)、チトクロムb、CP1ジンクフィンガー、PST1、コイルドコイル、LACI−D1、Zドメインまたはテンドラミサット(tendramisat)に基づく足場上にCDRをグラフト化することができる(例えばNygren and Uhlen, Current Opinion in Structural Biology, 7:463-469(1997)参照)。
【0097】
別の型の可変領域修飾は、それにより目的の抗体の1つまたはそれより多い結合特性(例えば親和性)を改善するためのVならびに/またはVCDR1、CDR2および/もしくはCDR3領域内のアミノ酸残基の変異であり、「親和性成熟」として公知である。部位特異的変異誘発またはPCR媒介変異誘発を実施して(複数の)変異を導入し、そして抗体結合またはその他の目的の機能特性に及ぼす影響を、本明細書に記載されるようなインビトロまたはインビボアッセイにおいて評価することができる。保存修飾を導入することができる。変異はアミノ酸置換、付加または欠失でよい。さらに典型的にはCDR領域内の1、2、3、4または5個だけの残基を改変する。
【0098】
本発明の操作された抗体には、抗体の特性を改善するためにVおよび/またはV内のフレームワーク残基に修飾が為されているものが含まれる。典型的には抗体の免疫原性を低下させるためにかかるフレームワーク修飾が為される。例えば1つの研究法は1つまたはそれより多いフレームワーク残基を対応する生殖系列配列に「復帰変異する」ことである。さらに具体的には体細胞変異を被っている抗体は、抗体が誘導される生殖系列とは異なるフレームワーク残基を含有し得る。抗体フレームワーク配列を、抗体が誘導される生殖系列と比較することにより、かかる残基を同定することができる。フレームワーク領域配列をその生殖系列立体配置に戻すために、例えば部位特異的変異誘発またはPCR媒介変異誘発により体細胞変異を生殖系列配列に「復帰変異」することができる。かかる「復帰変異」された抗体もまた本発明に包含されると意図される。
【0099】
別の型のフレームワーク修飾はフレームワーク領域内の、またはさらには1つまたはそれより多いCDR領域内の1つまたはそれより多い残基を変異して、T細胞エピトープを除去し、それにより抗体の潜在的免疫原性を低減させることを伴う。この研究法は「脱免疫化」とも称され、そしてCarrらによる米国特許公開第20030153043号にてさらに詳細に記載される。
【0100】
フレームワークまたはCDR領域内で為された修飾に加えて、あるいは、本発明の抗体を操作してFc領域内に修飾を含み、典型的には血清半減期、補体結合、Fc受容体結合および/または抗原依存性細胞毒性のような抗体の1つまたはそれより多い機能的特性を改変することができる。さらに本発明の抗体を化学的に修飾する(例えば1つまたはそれより多い化学的部分を抗体に結合させることができる)か、またはそのグリコシル化を改変し、再度抗体の1つまたはそれより多い機能的特性を改変するように修飾することができる。
【0101】
1つの実施態様ではCH1のヒンジ領域を、ヒンジ領域におけるシステイン残基の数が改変される、例えば増大または低下するように修飾する。この研究法はBodmerらにより米国特許第5677425号にてさらに記載される。CH1のヒンジ領域におけるシステイン残基の数を改変して、例えば軽および重鎖の会合を促進するか、または抗体の安定性を増大もしくは低下させる。
【0102】
別の実施態様では、抗体のFcヒンジ領域を変異させて抗体の生物学的半減期を低下させる。さらに具体的には、抗体が未変性のFcヒンジドメインSpA結合と相対してブドウ球菌タンパク質A(SpA)結合を損なっているように、1つまたはそれより多いアミノ酸変異をFcヒンジフラグメントのCH2−CH3ドメイン界面領域に導入する。この研究法はWardらにより米国特許第6165745号にてさらに詳細に記載される。
【0103】
別の実施態様では、抗体をその生物学的半減期を増大させるように修飾する。種々の研究法が可能である。例えば米国特許第6277375号ではインビボでその半減期を増大させるIgGにおける以下の変異:T252L、T254S、T256Fが記載される。あるいは、Prestaらにより米国特許第5869046号および第6121022号にて記載されるように、生物学的半減期を増大させるために、抗体をCH1またはCL領域内で改変してIgGのFc領域のCH2ドメインの2つのループから取られたサルベージ受容体結合エピトープを含有させることができる。
【0104】
なおその他の実施態様では、抗体のエフェクター機能を改変するために、少なくとも1つのアミノ酸残基を異なるアミノ酸残基で置き換えることによりFc領域を改変する。例えば抗体がエフェクターリガンドに関して改変された親和性を有するが、親抗体の抗原結合能力を保持するように、1つまたはそれより多いアミノ酸を異なるアミノ酸残基で置き換えることができる。親和性が改変されるエフェクターリガンドは、例えばFc受容体または補体のC1構成要素でよい。この研究法は双方共にWinterらによる米国特許第5624821号および第5648260号にてさらに詳細に記載される。
【0105】
別の実施態様では、抗体のC1q結合が改変され、そして/または補体依存性細胞毒性(CDC)が低減されるか、もしくは無効になるように、アミノ酸残基から選択される1つまたはそれより多いアミノ酸を異なるアミノ酸残基で置き換えることができる。この研究法はIdusogieらにより米国特許第6194551号にてさらに詳細に記載される。
【0106】
別の実施態様では、1つまたはそれより多いアミノ酸残基が改変され、それにより抗体が補体を固定する能力を改変する。この研究法はBodmerらにより第WO94/29351号にてさらに詳細に記載される。
【0107】
なお別の実施態様では、抗体依存性細胞毒性(ADCC)を媒介する抗体の能力を増大させる、および/またはFcγ受容体に関する抗体の親和性を増大させるために、1つまたはそれより多いアミノ酸を修飾することによりFc領域を修飾する。この研究法はPrestaにより第WO00/42072号にてさらに記載される。さらにヒトIgG1におけるFcγRl、FcγRII、FcγRIIIおよびFcRnに関する結合部位がマッピングされており、そして結合が改善されたバリアントが記載されている(Shields, R.L. et al., J. Biol. Chem. 276:6591-6604(2001)参照)。
【0108】
さらに別の実施態様では、抗体のグリコシル化が修飾される。例えばグリコシル化抗体を作製することができる(すなわち抗体はグリコシル化を欠如する)。グリコシル化を改変して、例えば抗体の抗原に関する親和性を増大させることができる。例えば抗体配列内の1つまたはそれより多いグリコシル化の部位を改変することにより、かかる炭水化物修飾を達成することができる。例えば結果的に1つまたはそれより多い可変領域フレームワークグリコシル化部位が排除され、それによりその部位でのグリコシル化が排除される、1つまたはそれより多いアミノ酸置換を行うことができる。かかるグリコシル化は抗体の抗原に関する親和性を増大させることができる。かかる研究法はCoらにより米国特許第5714350号および第6350861号にてさらに詳細に記載される。
【0109】
これに加えてまたは代えて、フコシル残基の量が低減されている低フコシル化抗体またはバイセクティングGlcNac構造が増大した抗体のような、グリコシル化の型が改変された抗体を作製することができる。かかる改変されたグリコシル化パターンは抗体のADCC能力を増大させることが実証されている。例えばグリコシル化機構が改変された宿主細胞において抗体を発現することにより、かかる炭水化物修飾を達成することができる。グリコシル化機構が改変された細胞は当分野において記載されており、そして宿主細胞として用いることができ、そこで本発明の組換え抗体を発現し、それによりグリコシル化が改変された抗体を生成する。例えばHangらによる欧州特許第1176195号には機能的に破壊された、フコシルトランスフェラーゼをコードするFUT8遺伝子を伴う細胞系が記載され、かかる細胞系において発現された抗体は低フコシル化を呈するようになる。PrestaによるPCT公開第WO03/035835号にはフコースがAsn(297)連結炭水化物に結合する能力が低減され、これもまた結果的に宿主細胞において発現される抗体の低フコシル化に至るバリアントCHO細胞系、Lecl3細胞が記載される(Shields, R.L. et al., J. Biol. Chem. 277:26733-26740(2002)もまた参照)。Umanaらによる第WO99/54342号には、糖タンパク質修飾グリコシルトランスフェラーゼ(例えばベータ(1,4)−NアセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnTIII))を発現するように操作され、操作された細胞系において発現される抗体が、抗体のADCC活性の増大に至るバイセクティングGlcNac構造の増大を呈するようになる細胞系が記載される(Umana et al., Nat. Biotech. 17:176-180(1999)もまた参照)。
【0110】
本発明により企図される本明細書における抗体の別の修飾はペグ化である。抗体をペグ化して、例えば抗体の生物学的(例えば血清)半減期を増大させることができる。抗体をペグ化するために、1つまたはそれより多いポリエチレングリコール(PEG)部分が抗体または抗体フラグメントに結合するようになる条件下で、抗体またはそのフラグメントを典型的にはPEGの反応性エステルまたはアルデヒド誘導体のようなPEGと反応させる。反応性PEG分子(または類似の反応性水溶性重合体)でのアシル化反応またはアルキル化反応によりペグ化を実施することができる。本明細書で使用される際には「ポリエチレングリコール」なる用語は、モノ(C1−C10)アルコキシ−もしくはアリールオキシポリエチレングリコールまたはポリエチレングリコールマレイミドのようなその他のタンパク質を誘導体化するために用いられているPEGのいずれかの形態を包含すると意図される。特定の実施態様では、ペグ化されるべき抗体はアグリコシル化(aglycosylated)抗体である。タンパク質をペグ化するための方法は当分野において公知であり、そして本発明の抗体に適用することができる。例えばNishimuraらによる欧州特許第0154316号およびIshikawaらによる欧州特許第0401384号を参照のこと。
【0111】
加えて本発明のPCSK9結合ポリペプチドの任意の部分における非天然アミノ酸の導入によりペグ化を達成することができる。Deiters et al., J Am Chem Soc 125:11782-11783(2003);Wang and Schultz, Science 301:964-967(2003);Wang et al., Science 292:498-500(2001);Zhang et al., Science 303:371-373(2004)または米国特許第7083970号において記載されるテクノロジーにより、特定の非天然アミノ酸を導入することができる。簡単には、これらの発現系のいくつかは、アンバーTAGのようなナンセンスコドンを本発明のポリペプチドをコードするオープンリーディグフレームに導入するための部位特異的変異誘発を伴う。次いで導入されたナンセンスコドンに特異的なtRNAを利用できる宿主にかかる発現ベクターを導入し、そして最適な非天然アミノ酸を負荷する。本発明のポリペプチドに部分を抱合する目的のために有益である特定の非天然アミノ酸には、アセチレンおよびアジド側鎖を有するものが含まれる。次いでこれらの新規アミノ酸を含有するポリペプチドをタンパク質のこれらの選択された部位でペグ化することができる。
【0112】
抗体を操作する方法
上記の通り、抗PCSK9抗体を用いて全長重鎖および/もしくは軽鎖配列、Vおよび/もしくはV配列、またはそれに結合した(複数の)定常領域を修飾することにより、新しい抗PCSK9抗体を創成することができる。例えば抗体の1つまたはそれより多いCDR領域を組換えにより公知のフレームワーク領域および/またはその他のCDRと組み合わせて、新しい組換えにより操作された抗PCSK9抗体を創成することができる。その他の型の修飾には、先行のセクションで記載されたものが含まれる。操作する方法のための出発材料は1つもしくはそれより多いVおよび/もしくはV配列、または1つもしくはそれより多いそのCDR領域である。操作された抗体を創成するために、1つもしくはそれより多いVおよび/もしくはV配列、または1つもしくはそれより多いそのCDR領域を有する抗体を実際に調製する(すなわちタンパク質として発現する)ことは必要ではない。むしろ(複数の)配列に含有される情報を出発材料として用いて(複数の)元来の配列から誘導される(複数の)「第2世代」配列を創成し、そして次に(複数の)「第2世代」配列を調製し、そしてタンパク質として発現させる。
【0113】
標準的な分子生物学的技術を用いて改変された抗体配列を調製および発現させることができる。(複数の)改変された抗体配列によりコードされる抗体は、それが誘導される抗PCSK9抗体の1つ、いくつかの、または全ての機能的特性を保持するものであり、その機能的特性には限定するものではないが、PCSK9に対する特異的結合、自己触媒性切断の阻止、LDL−R結合の阻止、LDL−R分解の阻止が含まれる。当分野において利用可能な、および/または本明細書に記載される標準的なアッセイ(例えばELISA)を用いて改変された抗体の機能的特性を評価することができる。
【0114】
本発明の抗体を操作する方法の特定の実施態様では、抗PCSK9抗体コード化配列の全てまたは部分に沿って無作為に、または選択的に変異を導入することができ、そして得られた修飾された抗PCSK9抗体を結合活性および/または本明細書に記載されるようなその他の機能的特性(例えば自己触媒性切断の阻止、LDL−R結合の阻止、LDL−R分解の阻止)に関してスクリーニングすることができる。変異の方法は当分野において記載されている。例えばShortによるPCT公開第WO02/092780号には飽和変異誘発、合成ライゲーションアセンブリ(synthetic ligation assembly)またはその組み合わせを用いて抗体を創成およびスクリーニングする方法が記載される。あるいはLazarらによる第WO03/074679号には抗体の生理化学的特性を最適化するためのコンピューターによるスクリーニング方法を用いる方法が記載される。
【0115】
非抗体PCSK9結合分子
本発明はさらに抗体の機能的特性を呈するが、その他のポリペプチド(例えば抗体遺伝子によりコードされるかまたはインビボで抗体遺伝子の組換えにより作製されるもの以外のポリペプチド)からそのフレームワークおよび抗原結合部分を誘導するPCSK9結合分子を提供する。これらの結合分子の抗原結合ドメイン(例えばPCSK9結合ドメイン)を定向進化法により作製する。米国特許第7115396号を参照のこと。抗体の可変ドメインのものに類似した全体的なフォールドを有する分子(「免疫グロブリン様」フォールド)は適切な足場タンパク質である。抗原結合分子を誘導するのに適当な足場タンパク質には、フィブロネクチンまたはフィブロネクチン二量体、テネイシン、N−カドヘリン、E−カドヘリン、ICAM、タイチン、GCSF受容体、サイトカイン受容体、グリコシダーゼ阻害剤、抗菌性色素タンパク質、ミエリン膜接着分子P0、CD8、CD4、CD2、クラスI MHC、T細胞抗原受容体、CD1、C2およびVCAM−1のIセットドメイン、ミオシン結合タンパク質CのIセット免疫グロブリンドメイン、ミオシン結合タンパク質HのIセット免疫グロブリンドメイン、テロキンのIセット免疫グロブリンドメイン、NCAM、トゥイッチン、ニューログリアン、成長ホルモン受容体、エリトロポイエチン受容体、プロラクチン受容体、インターフェロンガンマ受容体、β−ガラクトシダーゼ/グルクロニダーゼ、β−グルクロニダーゼ、トランスグルタミナーゼ、T細胞抗原受容体、スーパーオキシドジスムターゼ、組織因子ドメイン、チトクロムF、緑色蛍光タンパク質、GroELおよびタウマチンが含まれる。
【0116】
非抗体性結合分子の抗原結合ドメイン(例えば免疫グロブリン様フォールド)は10kD未満または7.5kDより大きい分子量(例えば7.5−10kDの間の分子量)を有し得る。抗原結合ドメインを誘導するために用いられるタンパク質は自然発生哺乳動物タンパク質(例えばヒトタンパク質)であり、そして抗原結合ドメインは、それが誘導されるタンパク質の免疫グロブリン様フォールドと比較して、50%まで(例えば34%、25%、20%または15%まで)の変異アミノ酸を含む。免疫グロブリン様フォールドを有するドメインは一般的に50−150個のアミノ酸(例えば40−60個のアミノ酸)からなる。
【0117】
非抗体性結合分子を作製するために、抗原結合表面を形成する足場タンパク質の領域(例えば位置および構造において抗体可変ドメイン免疫グロブリンフォールドのCDRに類似した領域)における配列が無作為化されたクローンのライブラリーを創成する。ライブラリークローンを目的の抗原(例えばhPCSK9)に対する特異的結合に関して、およびその他の機能(例えばPCSK9の生物学的活性の阻止)に関して試験する。選択されたクローンをさらなる無作為化および選択のための基礎として用いて、抗原に関して高親和性の誘導体を生成することができる。
【0118】
例えば足場としてフィブロネクチンIII(10Fn3)の第10モジュールを用いて高親和性結合分子を作製する。残基23−29、52−55および78−87で10Fn3の3つのCDR様ループの各々に関してライブラリーを構築する。各ライブラリーを構築するために、各CDR様領域と重複する配列をコードするDNAをオリゴヌクレオチド合成により無作為化する。選択可能な10Fn3ライブラリーを生成するための技術は米国特許第6818418号および第7115396号;Roberts and Szostak, Proc. Natl. Acad. Sci USA 94:12297(1997);米国特許第6261804号;米国特許第6258558号;およびSzostak et al. 第WO98/31700号に記載される。
【0119】
標的抗原に関する結合力を増大させるために、非抗体性結合分子を二量体または多量体として生成することができる。例えばFc−Fc二量体を形成する抗体の定常領域(Fc)との融合体として抗原結合ドメインを発現する。例えば米国特許第7115396号を参照のこと。
【0120】
本発明の抗体をコードする核酸分子
本発明の別の態様は本発明のPCSK9結合分子をコードする核酸分子に関係する。核酸は全細胞で、細胞ライゼートで存在できるか、または部分的に精製された、もしくは実質的に純粋な形態の核酸でよい。アルカリ性/SDS処理、CsClバンディング、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動および当分野において周知のその他のものを含む標準的な技術により、核酸はその他の細胞構成要素またはその他の夾雑物、例えばその他の細胞性核酸またはタンパク質から精製された場合、「単離される」または「実質的に純粋にされる」。F. Ausubel, et al., ed. 1987 Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing and Wiley Interscience, New Yorkを参照のこと。本発明の核酸は、例えばDNAまたはRNAでよく、そしてイントロン配列を含有してもしなくてもよい。実施態様では、核酸はcDNA分子である。核酸はファージディスプレイベクターのようなベクター中に、または組換えプラスミドベクター中に存在し得る。
【0121】
標準的な分子生物学的技術により本発明の核酸を得ることができる。ハイブリドーマ(例えば以下にさらに記載されるようなヒト免疫グロブリン遺伝子を担持する遺伝子導入マウスから調製されたハイブリドーマ)により発現される抗体に関して、標準的なPCR増幅またはcDNAクローニング技術により、ハイブリドーマにより作製される抗体の軽および重鎖をコードするcDNAを得ることができる。免疫グロブリン遺伝子ライブラリーから(例えばファージディスプレイ技術を用いて)得られる抗体に関して、ライブラリーのメンバーである種々のファージクローンから抗体をコードする核酸を回収することができる。
【0122】
一度VおよびVセグメントをコードするDNAフラグメントが得られると、例えば種々の領域遺伝子を全長抗体鎖遺伝子に、Fabフラグメント遺伝子に、またはscFv遺伝子に変換するために標準的な組換えDNA技術により、これらのDNAフラグメントをさらにマニピュレートすることができる。これらのマニピュレーションでは、VまたはVコード化DNAフラグメントを抗体定常領域または可動性リンカーのような別のDNA分子に、または別のタンパク質をコードするフラグメントに作動可能なように連結する。「作動可能なように連結された」なる用語はこの局面で使用される際には、2つのDNAフラグメントを機能的な様式で、例えば2つのDNAフラグメントによりコードされるアミノ酸配列がインフレームのまま残るように、またはタンパク質が望ましいプロモーターの制御下で発現されるように結合することを意味すると意図される。
【0123】
コード化DNAを、重鎖定常領域(CH1、CH2およびCH3)をコードする別のDNA分子に作動可能なように連結することにより、V領域をコードする単離されたDNAを全長重鎖遺伝子に変換することができる。ヒト重鎖定常領域遺伝子の配列は当分野において公知であり(例えばKabat et al., 1991 Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, U.S. Department of Health and Human Services, NIH Publication No. 91-3242参照)、そしてこれらの領域を包含するDNAフラグメントを標準的なPCR増幅により得ることができる。重鎖定常領域はIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgE、IgMまたはIgD定常領域でよい。Fabフラグメント重鎖遺伝子に関して、重鎖CH1定常領域のみをコードする別のDNA分子にVコード化DNAを作動可能なように連結することができる。
【0124】
コード化DNAを、軽鎖定常領域CLをコードする別のDNA分子に作動可能なように連結することにより、V領域をコードする単離されたDNAを全長軽鎖遺伝子に(およびFab軽鎖遺伝子に)変換することができる。ヒト軽鎖定常領域遺伝子の配列は当分野において公知であり(例えばKabat et al., 1991 Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, U.S. Department of Health and Human Services, NIH Publication No. 91-3242参照)、そしてこれらの領域を包含するDNAフラグメントを標準的なPCR増幅により得ることができる。軽鎖定常領域はカッパまたはラムダ定常領域でよい。
【0125】
scFv遺伝子を創成するために、VおよびV配列を隣接する一本鎖タンパク質として発現でき、VおよびV領域は可動性リンカーにより結合されるように、VおよびVコード化DNAフラグメントを、可動性リンカーをコードする、例えばアミノ酸配列(Gly4−Ser)をコードする別のフラグメントに作動可能なように連結する(例えばBird et al., Science 242:423-426(1988);Huston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883(1988);McCafferty et al., Nature 348:552-554(1990)参照)。
【0126】
モノクローナル抗体作製
従来のモノクローナル抗体方法論、例えばKohler and Milstein(Nature, 256:495(1975))の標準的な体細胞ハイブリダイゼーション技術を含む種々の技術により、またはファージディスプレイのようなライブラリーディスプレイ法を用いてモノクローナル抗体(mAb)を生成することができる。
【0127】
ハイブリドーマを調製するための動物の系はマウス系である。マウスにおけるハイブリドーマ生成は十分に確立された手順である。免疫プロトコールおよび融合のための免疫脾細胞の単離のための技術は当分野において公知である。融合パートナー(例えばマウス骨髄腫細胞)および融合手順もまた公知である。
【0128】
前記されたように調製されたマウスモノクローナル抗体の配列に基づいて本発明のキメラまたはヒト化抗体を調製することができる。重および軽鎖免疫グロブリンをコードするDNAを目的のマウスハイブリドーマから得て、そして標準的な分子生物学的技術を用いて非マウス(例えばヒト)免疫グロブリン配列を含有するように操作することができる。例えばキメラ抗体を創成するために、当分野において公知の方法を用いてマウス可変領域をヒト定常領域に連結することができる(例えばCabillyらに対する米国特許第4816567号参照)。ヒト化抗体を創成するために、当分野において公知の方法を用いてマウスCDR領域をヒトフレームワークに挿入することができる。例えば米国特許第5225539号および米国特許第5530101号;第5585089号;第5693762号および第6180370号参照。
【0129】
特定の実施態様では、本発明の抗体はヒトモノクローナル抗体である。マウス系よりもむしろヒト免疫系の部分を担持する遺伝子導入または染色体導入マウスを用いて、PCSK9に対して指向するかかるヒトモノクローナル抗体を作製することができる。これらの遺伝子導入および染色体導入マウスには本明細書で各々HuMAbマウスおよびKMマウスと称されるマウスが含まれ、そして本明細書では「ヒトIgマウス」と総称される。
【0130】
HuMAbマウス(登録商標)(Medarex, Inc.)は再構成されていないヒト重(μおよびγ)およびκ軽鎖免疫グロブリン配列をコードするヒト免疫グロブリン遺伝子ミニ遺伝子座(miniloci)を、内因性μおよびκ鎖遺伝子座を不活化する標的とされた変異と一緒に含有する(例えばLonberg et al., Nature 368(6474):856−859(1994)参照)。したがって、マウスはマウスIgMまたはκの発現の低減を呈し、そして免疫に応答して導入されたヒト重および軽鎖導入遺伝子はクラススイッチおよび体細胞変異を行い、高親和性ヒトIgGκモノクローナルを作製する(Lonberg, N. et al.,(1994) supra; Lonberg, N., Handbook of Experimental Pharmacology 113:49-101(1994)にて概説;Lonberg, N. and Huszar, D., Intern. Rev. Immunol.13:65-93(1995)およびHarding, F. and Lonberg, N., Ann. N. Y. Acad. Sci. 764:536-546(1995))。HuMAbマウスの調製および使用、ならびにかかるマウスにより担持されるゲノム修飾はTaylor, L. et al., Nucleic Acids Research 20:6287-6295(1992);Chen, J. et at., International Immunology 5:647-656(1993);Tuaillon et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:3720-3724(1993);Choi et al., Nature Genetics 4:117-123(1993);Chen, J. et al., EMBO J. 12:821-830(1993);Tuaillon et al., J. Immunol. 152:2912-2920(1994);Taylor, L. et al., International Immunology 579-591(1994);およびFishwild, D. et al., Nature Biotechnology 14:845-851(1996)にてさらに記載され、その全ての内容はその全体において出典明示によりそのまま本明細書の一部とする。さらに米国特許第5545806号;第5569825号;第5625126号;第5633425号;第5789650号;第5877397号;第5661016号;第5814318号;第5874299号;および第5770429号(全てLonbergおよびKayに対する);Suraniらに対する米国特許第5545807号;PCT公開第WO92103918号、第WO93/12227号、第WO94/25585号、第WO97113852号、第WO98/24884号および第WO99/45962号(全てLonbergおよびKayに対する);ならびにKormanらに対するPCT公開第WO01/14424号を参照のこと。
【0131】
別の実施態様では、ヒト重鎖導入遺伝子およびヒト軽鎖導入染色体を担持するマウスのような導入遺伝子および導入染色体にヒト免疫グロブリン配列を担持するマウスを用いて、本発明のヒト抗体を上昇させることができる。かかるマウスは本明細書では「KMマウス」と称され、第WO02/43478号にて詳細に記載される。
【0132】
なおさらに、ヒト免疫グロブリン遺伝子を発現する代替えの遺伝子導入動物系が当分野において利用可能であり、そして本発明の抗PCSK9抗体を上昇させるために使用され得る。例えばXenomouse(登録商標)(Abgenix, Inc.)と称される代替えの遺伝子導入系を使用することができる。かかるマウスは例えばKucherlapatiらに対する米国特許第5939598号;第6075181号;第6114598号;第6150584号;および第6162963号にて記載される。
【0133】
さらにヒト免疫グロブリン遺伝子を発現する代替えの染色体導入動物系が当分野において利用可能であり、そして本発明の抗PCSK9抗体を上昇させるために使用することができる。例えば「TCマウス」と称されるヒト重鎖導入染色体およびヒト軽鎖導入染色体の双方を担持するマウスを使用することができ;かかるマウスはTomizuka et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:722-727(2000)に記載される。さらにヒト重および軽鎖導入染色体を担持するウシが当分野において記載されており(Kuroiwa et al., Nature Biotechnology 20:889-894(2002))、そして本発明の抗PCSK9抗体を上昇させるために使用され得る。
【0134】
ヒト免疫グロブリン遺伝子のライブラリーをスクリーニングするためのファージディスプレイ法を用いて本発明のヒトモノクローナル抗体を調製することもできる。ヒト抗体を単離するためのかかるファージディスプレイ法が当分野において確立されている。例えば:Ladnerらに対する米国特許第5223409号;第5403484号;および第5571698号;Dowerらに対する米国特許第5427908号および第5580717号;McCaffertyらに対する米国特許第号5969108号および第6172197号;ならびにGriffithsらに対する米国特許第5885793号;第6521404号;第6544731号;第6555313号;第6582915号および第6593081号を参照のこと。全長PCSK9に対する、またはPCSK9の特定のエピトープに対する結合に関してライブラリーをスクリーニングすることができる。
【0135】
免疫時にヒト抗体応答を生じることができるようにヒト免疫細胞が再構築されているSCIDマウスを用いて、本発明のヒトモノクローナル抗体を調製することもできる。かかるマウスは例えばWilsonらに対する米国特許第5476996号および第5698767号に記載される。
【0136】
ヒトIgマウスにおけるヒトモノクローナル抗体の作製
原核細胞(例えば大腸菌)または真核細胞(例えば哺乳動物細胞、例えばHEK293細胞)において発現された精製された組換えヒトPCSK9を抗原として使用することができる。タンパク質をキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)のようなキャリアに抱合させることができる。
【0137】
HuMab遺伝子導入マウスのHCo7、HCo12およびHCo17株ならびに遺伝子導入染色体導入マウスのKM株を用いてPCSK9に対する完全なヒトモノクローナル抗体を調製し、その各々はヒト抗体遺伝子を発現する。こららのマウス株の各々では、Chen et al., EMBO J.12:811-820(1993)に記載されるように内因性マウスカッパ軽鎖遺伝子をホモ接合的に破壊することができ、そして第WO01109187号の実施例1に記載されるように内因性マウス重鎖遺伝子をホモ接合的に破壊することができる。これらのマウス株の各々はFishwild et al., Nature Biotechnology 14:845-851(1996)に記載されるようにヒトカッパ軽鎖導入遺伝子KCo5を担持する。米国特許第5545806号;第5625825号;および第5545807号に記載されるようにHCo7株はHCo7ヒト重鎖導入遺伝子を担持する。第WO01/09187号の実施例2に記載されるようにHCo12株はHCo12ヒト重鎖導入遺伝子を担持する。HCo17株はHCo17ヒト重鎖導入遺伝子を担持する。第WO02/43478号に記載されるようにKNM株はSC20導入染色体を含有する。
【0138】
PCSK9に対する完全なヒトモノクローナル抗体を作製するために、抗原として精製された組換えPCSK9、PCSK9フラグメントまたはその抱合体(例えばPCSK9−KLH)を用いてHuMabマウスおよびKMマウスを免役する。HuMabマウスのための一般的な免疫スキームはLonberg, N. et al., Nature 368(6474):856-859(1994);Fishwild, D. et al., Nature Biotechnology 14:845-851(1996)および第WO98/24884号に記載される。最初の抗原の注入時にマウスは6−16週齢である。抗原の精製された組換え調製物(5−50μg)を用いてHuMabマウスおよびKMマウスを腹腔内、皮下(Sc)で、または足蹠注射により免疫する。
【0139】
フロイント完全アジュバントまたはリビアジュバント中の抗原で遺伝子導入マウスを腹腔内(IP)、皮下(Sc)で、または足蹠(FP)によるかのいずれかで2回、続いてフロイント不完全またはリビアジュバント中の抗原で3−21日のIP、ScまたはFP免疫する(免疫は全部で11回まで)。後眼窩出血により免疫応答をモニタリングする。ELISAにより血漿をスクリーニングし、そして抗PCSK9ヒト免疫グロブリンの力価が十分であるマウスを融合に用いる。剖検前3および2日にマウスを抗原で静脈内にブーストし、そして脾臓を除去する。典型的には各抗原に関して10−35の融合を実施する。数十匹のマウスを各抗原に関して免疫する。HCo7、HCo12、HCo17およびKMマウス株の全部で82匹のマウスをPCSK9で免疫する。
【0140】
PCSK9に結合する抗体を生成するHuMabまたはKMマウスを選択するために、免疫マウスからの血清をFishwild, D. et al.,(1996)に記載されるようにELISAにより試験することができる。簡単には、マイクロタイタープレートを精製された組換えPCSK9でPBS中1−2μg/ml、50μl/ウェルでコーティングし、4℃で一晩インキュベートし、次いでPBS/Tween(0.05%)中5%ニワトリ血清200μl/ウェルで遮断する。PCSK9免疫マウスからの血漿の希釈剤を各ウェルに加え、そして周囲温度で1−2時間インキュベートする。プレートをPBS/Tweenで洗浄し、そして次に西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)で抱合されたヤギ抗ヒトIgG Fcポリクローナル抗体と共に室温で1時間インキュベートする。洗浄後、プレートをABTS基質(Sigma、A−1888、0.22mg/ml)で展開し、そして分光光度計によりOD415−495で分析する。最高力価の抗PCSK9抗体を発達させたマウスの脾細胞を融合に使用する。融合を実施し、そしてELISAによりハイブリドーマ上澄を抗PCSK9活性に関して試験する。
【0141】
標準的なプロトコールに基づいて、PEGを用いてHuMabマウスおよびKMマウスから単離されたマウス脾細胞をマウス骨髄腫細胞系と融合させる。次いで得られたハイブリドーマを抗原特異的抗体の生成に関してスクリーニングする。50%PEG(Sigma)を用いて免疫マウスからの脾臓リンパ球の単一細胞懸濁液を4分の1の数のSP2/0非分泌性マウス骨髄腫細胞(ATCC、CRL1581)と融合させる。細胞をおよそ1×10/ウェルで平底マイクロタイタープレートに蒔き、続いて10%ウシ胎仔血清、10%P388D 1(ATCC、CRL TIB−63)条件培地、DMEM(Mediatech、CRL10013、高グルコース、L−グルタミンおよびピルビン酸ナトリウム含有)+5mM HEPES中3−5%Origen(登録商標)(IGEN)、0.055mM 2−メルカプトエタノール、50μg/mlゲンタマイシンおよび1倍HAT(Sigma、CRL P−7185)を含有する選択培地中で約2週間インキュベートする。1−2週間後、HATがHTで置き換えられた培地中で細胞を培養する。次いで個々のウェルをELISAによりヒト抗PCSK9モノクローナルIgG抗体に関してスクリーニングする。一度大規模なハイブリドーマ成長を生じると、通常10−14日後に培地をモニタリングする。抗体分泌ハイブリドーマを再度蒔き、再度スクリーニングし、そして依然ヒトIgGに関して陽性である場合、抗PCSK9モノクローナル抗体を限界希釈により少なくとも2回サブクローニングする。次いで安定したサブクローンをインビトロで培養して、組織培養培地中でさらなる特徴付けのために少量の抗体を作製する。
【0142】
ヒトモノクローナル抗体を生成するハイブリドーマの作製
本発明のヒトモノクローナル抗体を生成するハイブリドーマを作製するために、免疫マウスからの脾細胞および/またはリンパ節細胞を単離し、そしてマウス骨髄腫細胞系のような適切な不死化細胞に融合させる。得られたハイブリドーマを抗原特異的抗体の生成に関してスクリーニングすることができる。例えば50%PEGを用いて免疫マウスからの脾臓リンパ球の単一細胞懸濁液を6分の1の数のP3X63−Ag8.653非分泌性マウス骨髄腫細胞(ATCC、CRL1580)と融合させることができる。細胞をおよそ2×145で平底マイクロタイタープレートに蒔き、続いて20%胎性クローン血清、18%「653」条件培地、5%Origen(登録商標)(IGEN)、4mM L−グルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム、5mM HEPES、0.055mM 2−メルカプトエタノール、50単位/mlペニシリン、50μg/mlストレプトマイシン、50μg/mlゲンタマイシンおよび1倍HAT(Sigma;HATは融合後24時間に添加する)を含有する選択培地中で約2週間インキュベートする。およそ2週間後、HATをHTで置き換えた培地中で細胞を培養することができる。次いで個々のウェルをELISAによりヒトモノクローナルIgMおよびIgG抗体に関してスクリーニングすることができる。一度大規模なハイブリドーマ成長を生じると、通常10−14日後に培地を観察することができる。抗体分泌ハイブリドーマを再度蒔き、再度スクリーニングすることができ、そして依然ヒトIgGに関して陽性である場合、モノクローナル抗体を限界希釈により少なくとも2回サブクローニングすることができる。次いで安定したサブクローンをインビトロで培養して、組織培養培地中でさらなる特徴付けのために少量の抗体を作製することができる。
【0143】
ヒトモノクローナル抗体を精製するために、モノクローナル抗体精製用の2リットルスピナーフラスコ中で選択されたハイブリドーマを成長させることができる。上澄を濾過し、そしてプロテインAセファロースを伴うアフィニティークロマトグラフィー(Pharmacia、Piscataway, N.J.)の前に濃縮することができる。溶出されたIgGをゲル電気泳動および高速液体クロマトグラフィーにより検査して純度を確認することができる。バッファー溶液をPBSに交換し、そして濃度をOD280により吸光係数1.43を用いて決定することができる。モノクローナル抗体を等分し、そして−80℃で保存することができる。
【0144】
モノクローナル抗体を生成するトランスフェクトーマの作製
例えば当分野において周知であるような組換えDNA技術および遺伝子トランスフェクション法の組み合わせを用いて宿主細胞トランスフェクトーマにおいて本発明の抗体を生成することもできる(例えばMorrison, Science 229:1202(1985))。
【0145】
例えば抗体またはその抗体フラグメントを発現するために、標準的な分子生物学的技術(例えばPCR増幅または目的の抗体を発現するハイブリドーマを使用するcDNAクローニング)により部分的または全長軽および重鎖をコードするDNAを得ることができ、そして遺伝子が転写および翻訳制御配列に作動可能なように連結されるようにDNAを発現ベクターに挿入することができる。この局面で「作動可能なように連結された」なる用語は、ベクター内の転写および翻訳制御配列が抗体遺伝子の転写および翻訳を制御するその意図される機能を提供するように、抗体遺伝子をベクターにライゲートすることを意味すると意図される。発現ベクターおよび発現制御配列は用いられる発現宿主細胞に適合するように選択される。抗体軽鎖遺伝子および抗体重鎖遺伝子を別個のベクターに挿入することができるか、またはさらに典型的には双方の遺伝子を同一の発現ベクターに挿入する。標準的な方法(例えば抗体遺伝子フラグメントおよびベクター上の相補的制限部位のライゲーション、または制限部位が存在しない場合、平滑末端ライゲーション)により抗体遺伝子を発現ベクターに挿入する。本明細書に記載される抗体の軽および重鎖可変領域を用いて、Vセグメントがベクター内の(複数の)CHセグメントに作動可能なように連結され、そしてVセグメントがベクター内のCLセグメントに作動可能なように連結されるように、望ましいアイソタイプの重鎖定常および軽鎖定常領域を既にコードする発現ベクターにそれらを挿入することにより任意の抗体アイソタイプの全長抗体遺伝子を創成することができる。それに加えてまたは代わりに組換え発現ベクターは、宿主細胞から抗体鎖の分泌を促進するシグナルペプチドをコードすることができる。シグナルペプチドを抗体鎖遺伝子のアミノ末端にインフレーム連結するように、抗体鎖遺伝子をベクターにクローン化することができる。シグナルペプチドは免疫グロブリンシグナルペプチドまたは異種性シグナルペプチド(すなわち非免疫グロブリンタンパク質からのシグナルペプチド)でよい。
【0146】
抗体鎖遺伝子に加えて、本発明の組換え発現ベクターは宿主細胞における抗体鎖遺伝子の発現を制限する調節配列を担持する。「調節配列」なる用語は抗体鎖遺伝子の転写または翻訳を制限するプロモーター、エンハンサーおよびその他の発現制限エレメント(例えばポリアデニル化シグナル)を含むと意図される。かかる調節配列は例えばGoeddel(Gene Expression Technology. 1990 Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA)にて記載される。調節配列の選択を含む発現ベクターの設計は、形質転換されるべき宿主細胞の選択、望ましいタンパク質の発現のレベル等のような因子に依存し得ることは当業者には理解されよう。哺乳動物宿主細胞発現のための調節配列には、サイトメガロウイルス(CMV)、サルウイルス40(SV40)、アデノウイルス(例えばアデノウイルス主要後期プロモーター(AdMLP))およびポリオーマから誘導されるプロモーターおよび/またはエンハンサーのような、哺乳動物細胞における高レベルのタンパク質発現を志向するウイルスエレメントが含まれる。あるいは、ユビキチンプロモーターまたはP−グロビンプロモーターのような非ウイルス調節配列を使用することができる。なおさらに調節エレメントは、SV40初期プロモーターおよび1型ヒトT細胞白血病ウイルスの末端反復配列からの配列を含有するSRaプロモーター系のような異なる供給源からの配列から構成される(Takebe et al., Mol. Cell. Biol. 8:466-472(1988))。
【0147】
抗体鎖遺伝子および調節配列に加えて、本発明の組換え発現ベクターは、宿主細胞におけるベクターの複製を調節する配列(例えば複製起点)および選択マーカー遺伝子のようなさらなる配列を担持できる。選択マーカー遺伝子は、ベクターが導入されている宿主細胞の選択を促進する(例えば全てAxelらによる米国特許第4399216号;第4634665号;および第5179017号参照)。例えば典型的には選択マーカー遺伝子は、ベクターが導入されている宿主細胞においてG418、ハイグロマイシンまたはメソトレキセートのような薬物に対する抵抗性を付与する。選択マーカー遺伝子には、ジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHFR)遺伝子(メソトレキセート選択/増幅を伴うdhfr宿主細胞において使用するため)およびネオ遺伝子(G418選択のため)が含まれる。
【0148】
軽および重鎖の発現のために、重および軽鎖をコードする(複数の)発現ベクターを標準的な技術により宿主細胞にトランスフェクトする。「トランスフェクション」なる用語の種々の形態は、外因性DNAの原核生物または真核生物宿主細胞への導入のために一般的に用いられる広範な技術、例えばエレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈降、DEAEデキストラントランスフェクション等を包含すると意図される。原核生物または真核生物宿主細胞において本発明の抗体を発現することは理論的に可能である。かかる真核細胞、とりわけ哺乳動物細胞は原核細胞よりも会合し、そして適切にフォールドされた、および免疫学的に活性な抗体を分泌する可能性がさらに高いので、真核細胞、とりわけ哺乳動物宿主細胞における抗体の発現が論じられる。抗体遺伝子の原核生物発現は高収率の活性抗体の生成に関して無効であると報告されている(Boss and Wood, Immunology Today 6:12-13(1985))。
【0149】
本発明の組換え抗体を発現するための哺乳動物宿主細胞には、DHFR選択マーカー(例えばKaufman and Sharp, Mol. Biol. 159:601-621(1982)に記載される)と共に用いられるチャイニーズハムスター卵巣(CHO細胞)(Urlaub and Chasin, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216-4220(1980)に記載されるdhfr−CHO細胞を含む)、NSO骨髄腫細胞、COS細胞およびSP2細胞が含まれる。とりわけNSO骨髄腫細胞と共に使用するための別の発現系は第WO87/04462号、第WO89/01036号および欧州特許第338841号に示されるGS遺伝子発現系である。抗体遺伝子をコードする組換え発現ベクターを哺乳動物宿主細胞に導入する場合、宿主細胞における抗体の発現または、宿主細胞が成長する培養培地への抗体の分泌を可能にするのに十分な時間、宿主細胞を培養することにより抗体を生成する。標準的なタンパク質精製法を用いて抗体を培養培地から回収することができる。
【0150】
二特異性分子
別の態様では、本発明は本発明のPCSK9結合分子(例えば抗PCSK9抗体またはそのフラグメント)を含む二特異性分子を特徴とする。本発明のPCSK9結合分子を誘導体化するか、または別の機能的分子、例えば別のペプチドもしくはタンパク質(例えば別の抗体または受容体に関するリガンド)に連結させて、少なくとも2つの異なる結合部位または標的分子に結合する二特異性分子を作製することができる。本発明のPCSK9結合分子を実際に誘導体化するか、または1を超えるその他の機能的分子に連結させて、2を超える異なる結合部位および/または標的分子に結合する多特異性分子を作製できる;かかる多特異性分子はまた本明細書で使用される際には「二特異性分子」なる用語に包含されると意図される。本発明の二特異性分子を創成するために、本発明の抗体を別の抗体、抗体フラグメント、ペプチドまたは結合擬似物質のような1つまたはそれより多いその他の結合分子に機能的に(例えば化学的結合、遺伝子融合、非共有結合またはその他により)に連結させることができ、結果的に二特異性分子に至るようにする。
【0151】
したがって本発明はPCSK9に関する少なくとも1つの第1の結合特異性および第2の標的エピトープに関する第2の結合特異性を含む二特異性分子を含む。
【0152】
1つの実施態様では、本発明の二特異性分子は結合特異性として、例えばFab、Fab’、F(ab’)、Fvまたは一本鎖Fvを含む少なくとも1つの抗体、またはその抗体フラグメントを含む。抗体はまた軽鎖もしくは重鎖二量体、またはLadnerら、米国特許第4946778号(その内容を出典明示により本明細書の一部とする)に記載されるようなFvもしくは一本鎖構築物のようなその任意の最小フラグメントでもよい。
【0153】
当分野において公知の方法を用いて構成成分結合特異性を抱合することにより本発明の二特異性分子を調製することができる。例えば二特異性分子の各結合特異性を別個に作製し、そして次に互いに抱合することができる。結合特異性がタンパク質またはペプチドである場合、種々の結合剤または架橋剤を共有結合性抱合に使用することができる。架橋剤の実例には、プロテインA、カルボジイミド、N−スクシンイミジル−S−アセチル−チオアセタート(SATA)、5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)、o−フェニレンジマレイミド(oPDM)、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)およびスルホスクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン(cyclohaxane)−1−カルボキシラート(スルホ−SMCC)(例えばKarpovsky et al., J. Exp. Med. 160:1686(1984);Liu et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:8648(1985))が含まれる。その他の方法にはPaulus, Behring Ins. Mitt. No. 78:118-132(1985);Brennan et al., Science 229:81-83(1985)およびGlennie et al., J. Immunol. 139:2367-2375(1987)に記載されるものが含まれる。抱合剤はSATAおよびスルホ−SMCCであり、双方共にPierce Chemical Co.(Rockford, IL)から入手可能である。
【0154】
結合特異性が抗体である場合、それらを2つの重鎖のC末端ヒンジ領域のスルフヒドリル結合により抱合することができる。特定の実施態様では、抱合の前に奇数の、例えば1個のスルフヒドリル残基を含有するようにヒンジ領域を修飾する。
【0155】
あるいは双方の結合特異性を同一ベクター内でコードし、そして同一宿主細胞内で発現および組み立てることができる。この方法は特に二特異性分子がmAb×mAb、mAb×Fab、Fab×F(ab’)またはリガンド×Fab融合タンパク質である場合に有用である。本発明の二特異性分子は一本鎖抗体および結合決定基を含む一本鎖分子、または2つの結合決定基を含む一本鎖二特異性分子でよい。二特異性分子は少なくとも2つの一本鎖分子を含むことができる。二特異性分子を調製するための方法は例えば米国特許第5260203号;第5455030号;第4881175号;第5132405号;第5091513号;第5476786号;第5013653号;第5258498号;および第5482858号に記載される。
【0156】
二特異性分子のその特異的標的に対する結合を例えば酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(REA)、FACS分析、バイオアッセイ(例えば成長阻止)またはウェスタンブロットアッセイにより確認することができる。これらのアッセイの各々は一般的に、目的の複合体に特異的な標識試薬(例えば抗体)を用いることにより特定の目的のタンパク質−抗体複合体の存在を検出する。
【0157】
機能的アッセイ
PCSK9結合分子の機能的特徴をインビトロおよびインビボで試験することができる。例えばPCSK9のLDL−Rとの相互作用を阻止する能力、LDL−Rに及ぼすPCSK9依存性の効果(例えばLDL−cのLDL−R媒介の取り込み)の阻止、PCSK9タンパク質分解活性の阻止およびインビボでのLDL−cの低下に関して結合分子を試験することができる。
【0158】
Biacore(登録商標)を用いてLDL−Rを固体支持体に固定し、そしてLDL−Rに対する可溶性PCSK9結合を検出することにより、LDL−Rに対するPCSK9結合を検出することができる。あるいはPCSK9を固定し、そしてLDL−R結合を検出することができる。PCSK−9/LDL−R結合をELISAにより(例えば固定LDL−Rに対するPCSK9結合を検出することにより)、または蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)により分析することもできる。FRETを実施するために、LDL−Rに対するフルオロフォア標識PCSK9結合を溶液中で検出することができる(例えば米国特許第5631169号参照)。
【0159】
LDL−Rに対するPCSK9結合は免疫共沈降(Lagace et al., J. Clin. Inv. 116(11):2995-3005(2006))により検出されている。この様式でPCSK9−LDL−R結合を試験するために、HepG2細胞をステロール枯渇培地中で18時間培養する。精製されたPCSK9を0.1mMクロロキンの存在下で培地に添加し、そして細胞を1時間インキュベートする。穏やかなデタージェント(1(重量/容量)%ジギトニン)中で細胞を溶解する。PCSK9またはLDL−Rを細胞ライゼートから免疫沈降し、SDS−PAGEにより分離し、そして免疫ブロットして免疫共沈降したLDL−RまたはPCSK9の各々の存在を検出する(Lagace et al., J. Clin. Inv. 116(11):2995-3005(2006))。高い結合力でLDL−Rに結合するPCSK9の変異体形態でこれらのアッセイを行うことができる(例えばhPCSK9 D374Y)(Lagace et al.,(2006), supra)。
【0160】
肝細胞は細胞表面でLDL−Rを発現する。培養肝細胞(例えばHepG2細胞、ATCC、HB−8065)への精製されたPCSK9の添加により、用量および時間依存的な様式でLDL−R発現の低下を生じる(Lagace et al., J. Clin. Inv. 116(11):2995-3005(2006))。肝細胞によるLDL−Rレベルを増大させる能力に関してPCSK9結合分子を試験することができる。例えばHepG2細胞をステロール枯渇培地(100単位/mlペニシリン、100μg/ml硫酸ストレプトマイシンおよび1g/lグルコース、5(容量/容量)%新生仔ウシリポタンパク質欠乏血清(NCLPDS)、10μMコンパクチンナトリウムおよび50μMメバロン酸ナトリウムを補充したDMEM)中で18時間培養してLDL−R発現を誘起する。精製されたPCSK9(5μg/ml)を培地に添加する。PCSK9の添加後0、0.5、1、2および4時間に収集された細胞におけるLDL−Rレベルを決定する(Lagace et al., J. Clin. Inv. 116(11):2995-3005(2006))。フローサイトメトリー、FRET、免疫ブロットまたはその他の手段によりLDL−Rレベルを決定することができる。
【0161】
Stephan and Yurachek(J. Lipid Res. 34:325-330(1993))により記載されるように蛍光標識LDL−c、DiI−LDL(3,3’−ジオクタデシルインドカルボシアニン低密度リポタンパク質)を用いて細胞(例えばHepG2細胞)によるLDL−c取り込みを測定することができる。簡単には、細胞を培養中でDiI−LDL(20−100μgタンパク質/ml)と共に37℃で2時間インキュベートする。細胞を洗浄し、溶解し、そして内部移行したDiI−LDLの濃度を、分光蛍光光度計を用いて定量する。PCSK9結合剤と接触させた細胞においてLDL−c取り込みを測定することができる(DiI−LDLが細胞培養中に存在する期間の前、および/またはその間)。
【0162】
合成ペプチド基質を用いてPCSK9タンパク質分解活性をインビトロで測定することができる。例えばSeidah et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100(3):928-933(2003)を参照のこと。1つの実例的な方法では、精製されたPCSK9を25mM Tris/Mes、pH7.4+2.5mM CaClおよび0.5%SDS中50μM Suc−RPFHLLVY−MCA(4−メチルクマリン−7−アミド)と共に37℃で3−18時間インキュベートする。生成物の蛍光およびマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間分析を用いて切断生成物を検出する(Seidah et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100(3):928-933(2003);Basak et al., FEBS Lett. 514:333-339(2002))。このアッセイを用いてPCSK9結合分子の存在下での切断効率における差異を検出できる。
【0163】
肝臓においてヒトPCSK9を過剰発現する遺伝子導入マウスは非遺伝子導入マウスに相対して血漿LDL−cのレベルが増大している(Lagace et al., J. Clin. Inv. 116(11):2995-3005(2006))。マウスにおいてアデノウイルスベクターを用いるPCSK9の過剰発現を記載するMaxwell and Breslow, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 101:7100(2004)もまた参照のこと。PCSK9−/−マウスが生成されている(Rashid et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 102(5):5374-5379(2005))。これらのマウスを遺伝子修飾してhPCSK9導入遺伝子を発現させることができる。これらのモデルのいずれかで、または遺伝子修飾されていない動物において、PCSK9結合分子を全コレステロールおよび/またはLDL−cを取り除く、または低減させる能力に関して試験することができる。
【0164】
動物に[125I]標識LDLを注射し、注射後0、5、10、15および30分に血液試料を入手し、そして試料中の[125I]−LDLを定量することにより、血漿からのLDLクリアランスの動態を決定することができる(Rashid et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 102(5):5374-5379(2005))。LDLクリアランスの速度は野生型マウスに相対してPCSK9−/−マウスにおいて増大する(Rashid et al.,(2005) supra)。PCSK9結合分子を投与された動物におけるLDLクリアランスの増大は、薬剤がインビボでPCSK9活性を阻止することを示す。
【0165】
PCSK9結合分子での処置に応答した全血漿コレステロール、血漿トリグリセリドまたはLDL−cにおける低下は、PCKS9結合分子の治療効率の指標である。比色分析、ガス−液体クロマトグラフィーまたは市販により入手可能なキットを用いる酵素的手段によりコレステロールおよび脂質プロフィールを決定することができる。
【0166】
医薬組成物
別の態様では本発明は、薬学的に許容される担体と一緒に処方された本発明のPCSK9結合分子(例えばモノクローナル抗体またはその(複数の)抗原結合部分)の1つまたは組み合わせを含有する組成物、例えば医薬組成物を提供する。かかる組成物は結合分子の1つまたは(例えば2つまたはそれより多い異なる結合分子の)組み合わせを含み得る。例えば本発明の医薬組成物は標的抗原上の異なるエピトープに結合する、または祖補的活性を有する抗体または薬剤の組み合わせを含むことができる。
【0167】
本発明の医薬組成物を組み合わせ治療で、すなわちその他の薬剤と組み合わせて投与することもできる。例えば組み合わせ治療は少なくとも1つのその他のコレステロール低下薬と組み合わされた抗PCSK9抗体を含むことができる。組み合わせ治療で用いることができる治療薬の実例を以下の本発明の薬剤の使用に関するセクションでさらに詳細に記載する。
【0168】
本明細書で使用される際には「薬学的に許容される担体」には生理学的に適合する任意の、および全ての溶媒、分散培地、コーティング、抗菌および抗真菌剤、等張および吸収遅延剤等が含まれる。担体は静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊椎または表皮投与(例えば注射または注入による)に適当であるべきである。投与経路に依存して、化合物を不活化し得る酸およびその他の自然条件の作用から化合物を保護するための材料で活性化合物をコーティングできる。
【0169】
本発明の医薬用化合物は1つまたはそれより多い薬学的に許容される塩を含むことができる。「薬学的に許容される塩」とは親化合物の望ましい生物学的活性を保持し、そして任意の望ましくない毒性学的影響を付与しない塩を指す(例えばBerge, S.M., et al., J. Pharm. Sci. 66:1-19(1977)参照)。かかる塩の実例には酸付加塩および塩基付加塩が含まれる。酸付加塩には塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜リン酸等のような無毒性の無機酸から、ならびに脂肪族モノおよびジカルボン酸、フェニル置換アルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、芳香族酸、脂肪族および芳香族スルホン酸等のような無毒性の有機酸から誘導されたものが含まれる。塩基付加塩にはナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等のようなアルカリ土類金属から、ならびにN,N’−ジベンジルエチレンジアミン、N−メチルグルカミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、プロカイン等のような無毒性の有機アミンから誘導されたものが含まれる。
【0170】
本発明の医薬組成物はまた薬学的に許容される抗酸化剤を含むことができる。薬学的に許容される抗酸化剤の実例には:アスコルビン酸、塩酸システイン、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等のような水溶性抗酸化剤;パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、アルファトコフェロール等のような油溶性抗酸化剤;およびクエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸等のような金属キレート剤;が含まれる。
【0171】
本発明の医薬組成物において用いることができる適当な水性および非水性担体の実例には、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)および適当なその混合物、オリーブ油のような植物油、ならびにオレイン酸エチルのような注射用有機エステルが含まれる。例えばレシチンのようなコーティング材料の使用により、分散物の場合、必要とされる粒子径の維持により、および界面活性剤の使用により適切な流動性を維持することができる。
【0172】
これらの組成物は保存剤、湿潤剤、乳化剤および分散剤のような佐剤を含有することもできる。前出の滅菌手順ならびに種々の抗菌および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸等を含めることの双方により微生物の存在の防御を確実にすることができる。組成物中に糖、塩化ナトリウム等のような等張剤を含むことも望ましいかもしれない。加えて、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンのような吸収を遅延させる薬剤を含むことにより注射用医薬形態の吸収の延長をもたらすことができる。
【0173】
薬学的に許容される担体には、滅菌水溶液または分散物および滅菌注射用溶液または分散物の即時調製のための滅菌粉末が含まれる。医薬的に活性な物質のためのかかる培地および薬剤の使用は当分野において公知である。任意の従来の培地または薬剤が活性化合物と不適合である場合を除いて、本発明の医薬組成物におけるその使用が企図される。補足的な活性化合物を組成物に組み込むこともできる。
【0174】
治療用組成物は典型的には無菌であり、そして製造および保存の条件下で安定でなければならない。組成物を薬物高濃度に適当な溶液、マイクロエマルジョン、リポソームまたはその他の秩序構造として処方することができる。担体は例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコール等)を含有する溶媒または分散培地、および適当なその混合物でよい。例えばレシチンのようなコーティング材料の使用により、分散物の場合、必要とされる粒子径の維持により、および界面活性剤の使用により、適切な流動性を維持することができる。多くの場合、組成物中に等張剤、例えば糖、マンニトールのようなポリアルコール、ソルビトールまたは塩化ナトリウムを含むことができる。吸収を遅延させる薬剤、例えばモノステアリン酸塩およびゼラチンを組成物中に含むことにより注射用組成物の吸収の延長をもたらすことができる。
【0175】
必要とされる量の活性化合物を適切な溶媒中、前記で列挙された成分の1つまたは組み合わせと共に組み込み、必要により続いて滅菌精密濾過することにより滅菌注射用溶液を調製することができる。一般的には、基本的な分散培地および前記で列挙されたものからの必要とされるその他の成分を含有する滅菌ベヒクルに活性化合物を組み込むことにより分散物を調製する。滅菌注射用溶液の調製のための滅菌粉末の場合、調製の方法は、先に滅菌濾過されたその溶液から任意のさらなる望ましい成分に加えて活性成分の粉末を生じる真空乾燥および凍結−乾燥(凍結乾燥)である。
【0176】
単一の投薬形態を生成するために担体材料と組み合わせることができる活性成分の量は処置されている対象および投与の特定の様式に依存して異なる。単一の投薬形態を生成するために担体材料と組み合わせることができる活性成分の量は、一般的には治療効果を生じる組成物の量である。一般的には、100%のうちこの量は薬学的に許容される担体と組み合わされた活性成分の約0.01%から約99%、約0.1%から約70%、または活性成分の約1%から約30%の範囲である。
【0177】
最適な望ましい応答(例えば治療応答)を提供するために投薬計画を調整する。例えば単一のボーラスを投与できるか、いくつかに分割された用量を時間をかけて投与できるか、または治療状況の緊急事態により示される通り用量を比例的に低減または増大させることができる。投与の容易さおよび投薬の均一性のために非経口組成物を投薬単位で処方するのが特に有利である。本明細書で使用される際には投薬単位形態とは処置されるべき対象に単位投薬として適合した物理的に別個の単位を指す;各単位は望ましい治療効果を生じるように計算された予め決定された量の活性化合物を必要とされる医薬用担体に随伴されて含有する。本発明の投薬単位形態の明細は活性化合物の独特な特徴および達成されるべき特定の治療効果、ならびに個体における感受性の処置のためにかかる活性化合物を配合する分野における固有の制限により決定づけられ、そしてそれに直接依存する。
【0178】
抗体の投与のために、投薬量範囲は約0.0001から100mg/kg、およびさらに通常的には0.01から5mg/kg宿主体重の範囲である。例えば投薬量は0.3mg/kg体重、1mg/kg体重、3mg/kg体重、5mg/kg体重もしくは10mg/kg体重、または1−10mg/kgの範囲内でよい。処置計画の実例は週1回、隔週1回、3週毎に1回、4週毎に1回、1月1回、3か月毎に1回または3から6か月毎に1回の投与を課す。本発明のPCSK9結合分子のための投薬計画には静脈内投与による1mg/kg体重または3mg/kg体重が含まれ、抗体は以下の投与スケジュールの1つを用いて与えられる:4週毎に6回投薬、次いで3か月毎;3週毎;3mg/kg体重を1回、続いて3週毎に1mg/kg体重。
【0179】
いくつかの方法では、異なる結合特異性を有する2つまたはそれより多い結合分子(例えばモノクローナル抗体)を同時に投与し、この場合、投与される各抗体の投薬量は示された範囲内に入る。通常PCSK9結合分子を複数回投与する。1回の投薬の間の間隔は例えば毎週、毎月、3か月毎または毎年でよい。患者におけるPCSK9に対する結合分子の血液レベルを測定することにより示される通り、間隔を不規則にすることもできる。いくつかの方法では、約1−1000μg/mlおよびいくつかの方法では約25−300μg/mlのPCSK9結合分子の血漿濃度を達成するように投薬量を調整する。
【0180】
あるいは、PCSK9結合分子を徐放製剤として投与することができ、この場合、必要とされる投与頻度は少ない。投薬量および頻度は患者におけるPCSK9結合分子の半減期に依存して異なる。一般に、ヒト抗体は最長の半減期を示し、ヒト化抗体、humaneered抗体、キメラ抗体および非ヒト抗体が続く。処置が予防的かまたは治療的かに依存して、投薬量および投与の頻度は異なり得る。予防的適用では、相対的に低い投薬量が相対的に低頻度の間隔で長期間にわたって投与される。死ぬまでずっと処置を受け続ける患者もいる。治療適用では、疾患の進行が低減されるかもしくは終止するまで、または患者が疾患の病徴の部分的もしくは完全な寛解を示すまで、ときに相対的に高い用量が相対的に短い間隔で必要とされる。その後、患者に予防的計画で投与することができる。
【0181】
本発明の医薬組成物中の活性成分の実際の投薬量レベルは、患者に毒性でなく、特定の患者、組成物および投与の様式に関して望ましい治療応答を達成するために有効である活性成分の量を得るために異なり得る。選択された投薬量レベルは、用いられる本発明の特定の組成物またはそのエステル、塩もしくはアミドの活性、投与の経路、投与の時間、用いられている特定の化合物の排泄速度、処置の持続時間、用いられる特定の組成物との組み合わせで使用されるその他の薬物、化合物および/または材料、年齢、性別、体重、症状、一般健康状態および処置されている患者の以前の病歴を含む種々の薬物動態因子、ならびに医学の分野で周知の同様の因子に依存する。
【0182】
本発明のPCSK9結合分子の「治療上有効な投薬量」は結果的に疾患病徴の重篤度の低下(例えば血漿コレステロールにおける低下、コレステロール関連障害の病徴における低下)、疾患病徴のない期間の頻度および持続時間の増大、または疾患の苦痛のための機能障害もしくは能力障害の予防に至り得る。
【0183】
当分野において公知の種々の方法のうちの1つまたはそれより多くを用いて本発明の組成物を1つまたはそれより多い投与経路により投与することができる。当業者には理解されるように、投与の経路および/または様式は望まれる結果に依存して異なるであろう。本発明のPCSK9結合分子のための投薬経路には、例えば注射または注入による静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、皮下、脊椎またはその他の非経口投与経路が含まれる。「非経口投与」なる語句は本明細書で使用される際には、通常注射による経腸および局所投与以外の投与の様式を意味し、そして限定するものではないが、静脈内、筋肉内、動脈内、鞘内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊椎内、硬膜外およびイントラステマル(intrastemal)注射および注入を含む。
【0184】
あるいは本発明のPCSK9結合分子を局所、表皮または粘膜投与経路のような、例えば鼻腔内、経口、経膣、直腸、舌下または局所的に非経口でない経路により投与することができる。
【0185】
埋込錠、経皮パッチおよびマイクロカプセル化分配系を含む放出制御処方のような迅速な放出に対して化合物を保護する担体と共に活性化合物を調製することができる。酢酸エチレンビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸のような生分解性、生体適合性重合体を使用することができる。かかる処方の調製のための多くの方法が特許取得されているか、または一般的に当業者に公知である。例えばSustained and Controlled Release Drug Delivery Systems, J.R. Robinson, ed., Marcel Dekker, Inc., New York(1978)を参照のこと。
【0186】
当分野において公知の医学的装置を用いて治療用組成物を投与することができる。例えば1つの実施態様では、米国特許第5399163号;第5383851号;第5312335号;第5064413号;第4941880号;第4790824号または第4596556号にて示される装置のような無針皮下注射装置を用いて本発明の治療用組成物を投与することができる。本発明において有用な周知の埋込錠およびモジュールの実例には:制御された速度で医薬品を配するための埋め込み可能なマイクロ注入ポンプを示す米国特許第4487603号;皮膚を通して医薬品を投与するための治療用装置を示す米国特許第4486194号;正確な注入速度で医薬品を分配するための医薬品注入ポンプを示す米国特許第4447233号;連続的な薬物分配のための埋め込み可能な変流量注入器具を示す米国特許第4447224号;多室コンパートメントを有する浸透圧薬物分配系を示す米国特許第4439196号;および浸透圧薬物分配系を示す米国特許第4475196号;が含まれる。これらの特許を出典明示により本明細書の一部とする。多くのその他のかかる埋込錠、分配系およびモジュールが当業者に公知である。
【0187】
特定の実施態様では、本発明のPCSK9結合分子をインビボで適切な分布を確実にするように処方することができる。例えば血液脳関門(BBB)は多くの高親水性化合物を排除する。本発明の治療用化合物がBBBを越えるのを確実にするために(所望により)、それらを例えばリポソーム中に処方することができる。リポソームを製造する方法に関しては、例えば米国特許第4522811号;第5374548号;および第5399331号を参照のこと。リポソームは、特異的な細胞または器官に選択的に輸送され、故に薬物分配のターゲティングを強化する1つまたはそれより多い部分を含むことができる(例えばV.V. Ranade, J. Cline Pharmacol. 29:685(1989)参照)。ターゲティング部分の実例には、葉酸またはビオチン(例えばLowらに対する米国特許第5416016号参照);マンノシド(Umezawa et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 153:1038(1988));抗体(P.G. Bloeman et al., FEBS Lett. 357:140(1995);M. Owais et al., Antimicrob. Agents Chernother. 39:180(1995));サーファクタントプロテインA受容体(Briscoe et al., Am. J. Physiol.1233:134(1995));p120(Schreier et al., J. Biol. Chem. 269:9090(1994))が含まれ;K. Keinanen;M.L. Laukkanen, FEBSLett. 346:123(1994);J.J. Killion;I.J. Fidler, Immunomethods 4:273(1994)もまた参照のこと。
【0188】
本発明の使用および方法
本明細書に記載されるPCSK9結合分子はインビトロおよびインビボ診断および治療用途を有する。例えばこれらの分子を例えばインビトロもしくはインビボで培養中の、または例えばインビボで対象における細胞に投与して、種々の障害を処置、防御または診断することができる。PCSK9結合分子はコレステロール上昇またはコレステロール上昇に関連した症状、例えば脂質障害(例えば高脂質血症、I型、II型、III型、IV型またはV型高脂質血症、続発性高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、黄色腫症、コレステロールアセチルトランスフェラーゼ欠乏)を有するかまたはその危険性のあるヒト患者を処置するのに特に適当である。PCSK9結合分子はまた動脈硬化症の症状(例えばアテローム性動脈硬化症)、冠動脈疾患、心血管疾患を有するヒト患者、および例えば1つまたはそれより多い危険性因子(例えば高血圧、喫煙、糖尿病、肥満または高ホモシステイン血症)の存在のためにこれらの障害の危険性のある患者を処置するのにも適当である。
【0189】
別の薬剤と一緒にPCSK9結合分子を投与するとき、2つをいずれかの順序で逐次的に、または同時に投与することができる。いくつかの実施態様では、第2の薬剤(例えば第2のコレステロール低下薬)での処置も受けている対象にPCSK9結合分子を投与する。コレステロール低下薬にはスタチン系、胆汁酸捕捉剤、ナイアシン、フィブリン酸誘導体および長鎖アルファ、オメガ−ジカルボン酸が含まれる。スタチン系はコレステロール生合成における重要な酵素であるHMGCoAを遮断することによりコレステロール合成を阻止する。スタチン系の実例はロバスタチン、プラバスタチン、アトルバスタチン、セリバスタチン、フルバスタチンおよびシンバスタチンである。胆汁酸捕捉剤は腸から肝臓への胆汁酸の再循環を妨害する。これらの薬剤の実例はコレスチラミンおよび塩酸コレスチポールである。フィブリン酸誘導体の実例はクロフィブラートおよびゲムフィブロジルである。長鎖アルファ、オメガ−ジカルボン酸は例えばBisgaier et al., J. Lipid Res. 39:17−30(1998);第WO98/30530号;米国特許第4689344号;第WO99/00116号;米国特許第5756344号;米国特許第3773946号;米国特許第4689344号;米国特許第4689344号;米国特許第4689344号;および米国特許第3930024号);エーテル(例えば米国特許第4711896号;米国特許第5756544号;米国特許第6506799号参照)により記載される。ドリコールのリン酸塩(米国特許第4613593号)およびアゾリジンジオン誘導体(米国特許第4287200号)を用いてコレステロールレベルを低減させることもできる。
【0190】
組み合わせ治療計画は相加的であってよく、またはそれは相乗的な結果(例えば2つの薬剤の組み合わせ使用に関して予期されるよりも大きなコレステロールの低減)を生じ得る。いくつかの実施態様では、PCSK9結合分子およびスタチンとの組み合わせ治療は相乗的な結果(例えばコレステロールにおける相乗的な低減)を生じる。これによりスタチン投薬量を低減させて望ましいコレステロールレベルを達成することが可能な対象もある。
【0191】
PCSK9結合分子は、別のコレステロール低下薬での治療に不耐性であるか、または別のコレステロール低下薬での治療が不十分な結果を生じている対象(例えばスタチン治療で不十分なLDL−c低減を経験する対象)に有用である。
【0192】
コレステロールが上昇した対象(例えば全血漿コレステロールレベルが200mg/dl以上のヒト対象、LDL−cレベルが160mg/dl以上のヒト対象)に本明細書に記載されるPCSK9結合分子を投与することができる。
【0193】
1つの実施態様では、本発明の結合分子を用いてPCSK9のレベルを検出することができる。例えば結合分子とPCSK9との間で複合体の形成を可能にする条件下で試料(例えばインビトロ試料)および対照試料をPCSK9結合分子と接触させることによりこれを達成することができる。その分子とPCSK9との間で形成される任意の複合体を検出し、そして試料および対照においてで比較する。例えば本発明の組成物を用いてELISAおよびフローサイトメトリーアッセイのような当分野において周知の標準的な検出方法を実施することができる。
【0194】
したがって1つの態様では本発明はさらに、抗体またはその部分とPCSK9との間で複合体の形成を可能にする条件下で、試料および対照試料を本発明のPCSK9結合分子(例えば抗体)と接触させることを含む、試料中のPCSK9(例えばhPCSK9)の存在を検出するか、またはPCSK9の量を測定するための方法を提供する。次いで複合体の形成を検出し、ここで対照試料と比較して試料間の複合体形成における差異は試料中のPCSK9の存在の指標である。
【0195】
本発明の組成物および使用のための説明書からなるキットもまた本発明の範囲内である。キットはさらに少なくとも1つのさらなる試薬、または1つもしくはそれより多いさらなる本発明の抗体(例えば第1の抗体とは区別される標的抗原上のエピトープに結合する相補的活性を有する抗体)を含有できる。キットは典型的にはキットの内容物の意図される使用を示すラベルを含む。ラベルなる用語には任意の記述またはキット上で、もしくはキットと共に提供される、またはそうでなければキットに添付される記録材料が含まれる。
【0196】
本発明を十分に記載してきたが、それを以下の実施例および請求の範囲によりそれをさらに説明し、それらは説明のためであり、そしてさらなる限定を意味するものではない。当業者は日常的な実験のみを用いて、本明細書に記載される具体的な手順に対する非常に多くの均等物を認識するか、または究明することが可能である。かかる均等物は本発明および請求の範囲の範囲内である。本出願全体にわたって引用された、発行された特許および公開された特許出願を含む全ての参照文献の内容を出典明示により本明細書の一部とする。
【実施例】
【0197】
実施例1:ファージディスプレイによるヒト抗体の作製
hPCSK9に対する抗体を作製するために、MorphoSys HuCAL GOLD(登録商標)ファージディスプレイライブラリーを用いる選択を実施する。HuCAL GOLD(登録商標)は、6つのCDR全てが多様化され、そしてFabフラグメントをファージ表面に連結するためにCysDisplay(商標)テクノロジーを用いるHuCAL(登録商標)概念に基づくFabライブラリーである(Knappik et al., J.Mol. Biol. 296:57-86(2000);Krebs et al., J Immunol. Methods 254:67-84(2001);Rauchenberger et al., J Biol Chem. 278(40):38194-38205(2003);第WO01/05950号、Loehning,(2001))。
【0198】
ファージミドレスキュー、ファージ増幅および精製
34μg/mlクロラムフェニコールおよび1%グルコース(2xYT−CG)を含有する2xYT培地中でHuCAL GOLD(登録商標)ライブラリーを増幅する。ハイパーファージ(hyperphage)ヘルパーファージでOD600nm0.5の感染の後(振盪せずに37℃で30分間;250rpmで振盪して37℃で30分間)、細胞を遠沈して(4120g;5分間;4℃)、2xYT/34μg/mlクロラムフェニコール/50μg/mlカナマイシン/0.25mM IPTG中に再懸濁し、そして22℃で一晩成長させる。上澄からファージを2回PEG沈降して、PBS/20%グリセロール中に再懸濁し、そして−80℃で保存する。
【0199】
2ラウンドのパニングの間にファージ増幅を以下のとおり行う:対数期中間部の大腸菌TG1細胞を溶出ファージで感染し、そして1%グルコースおよび34μg/mlクロラムフェニコールを補充したLB寒天(LB−CGプレート)に蒔く。30℃で一晩インキュベートした後、TG1コロニーを寒天プレートから掻き取り、そしてそれを用いてOD600nm0.5に到達するまで2xYT−CGを接種し、そして前記で記載されたような感染のためにハイパーファージヘルパーファージを添加する。
【0200】
HuCAL GOLD(登録商標)を用いるパニング
hPCSK9を認識する抗体を選択するために、2つの異なるパニング計画を適用した。要約すれば、HuCAL GOLD(登録商標)ファージ−抗体を、VHマスター遺伝子の異なる組み合わせを含む4つのプール(プール1:VH1/5λκ、プール2:VH3λκ、プール3:VH2/4/6λκ、プール4:VH1−6λκ)に分ける。これらのプールを別個に、Maxisorpプレートに直接コーティングしたヒトhPCSK9上で3ラウンドの固相パニング、および加えてビオチン化hPCSK9上の3回の溶液パニングに供する。
【0201】
第1のパニングバリアントはhPCSK9に対する固相パニングであり:Maxisorpプレート(F96 Nunc−Immunoplate)上の2つのウェルを5μg/ml hPCSK9 300μlで各々4℃で一晩コーティングする。コーティングしたウェルをPBS 350μlで2回洗浄し、そしてマイクロプレートシェーカー上、5% MPBS 350μlで室温で2時間遮断する。各パニングに関して、約1013 HuCAL GOLD(登録商標)ファージ−抗体を均等容量のPBST/5%MPで、室温で2時間遮断する。コーティングしたウェルを遮断後PBS 350μlで2回洗浄する。予め遮断されたHuCAL GOLD(登録商標)ファージ−抗体300μlを各コーティングウェルに添加し、そしてシェーカー上、室温で2時間インキュベートする。PBS /0.05%Tween350μlを5回添加することにより洗浄を実施し、続いてPBSでさらに4回洗浄する。ウェルあたり10mM Tris/HCl(pH8)中、20mM DTT 300μlで10分間、プレートからのファージの溶出を実施する。DTTファージ溶出液を大腸菌TG1 14mlに添加し、それを2YT培地中37℃でOD6000.6−0.8まで成長させ、そしてファージ感染のために50mlプラスチック管中37℃で45分間振盪せずにインキュベートする。5000rpmで10分間遠心した後、細菌ペレットを各々2xYT培地500μlに再懸濁し、2xYT−CG寒天プレート上に蒔き、そして30℃で一晩インキュベートする。次いでコロニーをプレートから掻き取り、そして前記で記載されたようにファージをレスキューし、そして増幅した。直接コーティングされたhPCSK9上の固相パニングの第2および第3ラウンドを第1ラウンドのプロトコールにしたがって実施するが、洗浄手順におけるストリンジェンシーは増大させる。
【0202】
第2パニングバリアントはビオチン化ヒトhPCSK9に対する溶液パニングである:溶液パニングのために、Dynabeads M−280(Dynal)に結合したビオチン化hPCSK9を使用し、以下のプロトコールを適用する:1.5mlエッペンドルフ管をPBS中1%ウシ血清アルブミン1.5mlで、4℃で一晩遮断する。200μlストレプトアビジンコーティングした磁気Dynabeads M−280(Dynal)をPBS200μlで1回洗浄し、そして1倍Chemiblocker(1倍PBSで希釈)200μlに再懸濁する。予め遮断されたチューブ中でビーズの遮断を4℃で一晩実施する。各パニング条件に関してPBS500μlで希釈されたファージを2倍Chemiblocker/0.1%Tween500μlと室温で1時間混合する(ローテータ)。ファージの予備吸着を2回実施する:遮断されたストレプトアビジン磁気ビーズ50μlを遮断されたファージに添加し、そしてローテータ上で室温で30分間インキュベートする。磁気装置(Dynal MPC−E)によるビーズの分離の後、ファージ上澄(〜1ml)を新しい遮断されたチューブに移し、そして遮断されたビーズ50μl上で予備吸着を30分間繰り返した。次いで新しい遮断された1.5mlチューブ中で200nMビオチン化hPCSK9を遮断されたファージに添加し、そしてローテータ上で室温で1時間インキュベートする。遮断されたストレプトアビジン磁気ビーズ100μlを各パニングファージプールに添加し、そしてローテータ上、室温で10分間インキュベートする。ビオチン化hPCSK9に結合したファージを磁気ビーズに固定し、そして磁気粒子セパレーター(Dynal MPC−E)を用いて収集する。次いでローテータを用いてビーズをPBS/0.05%Tween中で7回洗浄し、続いてPBSでさらに3回洗浄する。10mM Tris/HCl(pH8)中20mM DTT 300μlを各チューブに10分間添加して、Dynabeadsからのファージの溶出を実施する。磁気粒子セパレーターによりDynabeadsを除去し、そしてOD600nm0.6−0.8まで成長させた大腸菌TG−1培養14mlに上澄を添加する。次いでビーズをPBS 200μlで1回洗浄し、そしてさらに除去されたファージと一緒に、PBSを大腸菌TG−1培養14mlに添加した。ファージ感染のために、培養を50mlプラスチック管中、振盪せずに37℃で45分間インキュベートする。5000rpmで10分間遠心した後、細菌ペレットを各々2xYT培地500μlに再懸濁し、2xYT−CG寒天プレート上に蒔き、そして30℃で一晩インキュベートする。次いでコロニーをプレートから掻き取り、そしてファージをレスキューし、そして前記されたように増幅する。
【0203】
ビオチン化hPCSK9に関する溶液パニングの第2および第3ラウンドを、第1ラウンドのプロトコールにしたがって実施するが、洗浄手順におけるストリンジェンシーは増大させる。
【0204】
可溶性Fabフラグメントのサブクローニングおよび発現
選択されたHuCAL GOLD(登録商標)ファージミドのFabコード化インサートを発現ベクターpMORPH(登録商標)X9 Fab FHにサブクローニングして可溶性Fabの迅速なおよび効率的な発現を促進する。この目的のために、選択されたクローンのプラスミドDNAをXbaIおよびEcoRIで消化し、それによりFabコード化インサート(ompA−VLCLおよびphoA−Fd)を切り取り、そしてXbaI/EcoRI消化された発現ベクターpMORPH(登録商標)X9 Fab FHにクローン化する。このベクターから発現されたFabは検出および精製双方のための2つのC末端タグ(各々FLAG(商標)および6xHis)を担持する。
【0205】
大腸菌におけるHuCAL GOLD(登録商標)Fab抗体のマイクロ発現(Microexpression)
pMORPH(登録商標)X9 Fab FH発現ベクターへの選択されたFabのサブクローニングの後に得られたクロラムフェニコール抵抗性のシングルコロニーを用いて、ウェルあたり2xYT−CG培地100μlを含有する滅菌96ウェルマイクロタイタープレートのウェルに接種し、そして37℃で一晩成長させる。各大腸菌TG−1培養5μlを、ウェルあたり34μg/mlクロラムフェニコールおよび0.1%グルコースを補充した2xYT培地100μlで予め満たした未使用の滅菌96ウェルマイクロタイタープレートに移す。培養物がOD600nm 〜0.5でわずかに濁るまで(〜2−4時間)、マイクロタイタープレートをマイクロプレートシェーカー上、400rpmで振盪して30℃でインキュベートする。
【0206】
これらの発現プレートにウェルあたり34μg/mlクロラムフェニコーおよび3mM IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)を補充した2xYT培地20μlを添加し(最終濃度0.5mM IPTG)、マイクロタイタープレートを気体透過性テープで密封し、そしてプレートを400rpmで振盪して30℃で一晩インキュベートする。
【0207】
全細胞ライゼート(BEL抽出物)の作製:細菌細胞ペレットをドライアイス上で凍結し、そして次に1mg/mlリゾチーム、2mM MgClおよびベンゾナーゼを含有するPBS中に再懸濁し、そしてシェーカー上で1時間インキュベートした。1%(最終濃度)BSAの添加によりライゼートを遮断し、そして除去処理を経たライゼートを適切にコーティングしたELISAプレートに添加してPCSK9に対する結合を評価した。BEL抽出物をELISAによる結合分析に使用した。
【0208】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)技術
PBS中5μg/mlヒト組換えhPCSK9を384ウェルMaxisorpプレート(Nunc−Immunoplate)に4℃で一晩コーティングする。コーティングの後、ウェルをPBS/0.05%Tween(PBS−T)で1回およびPBSで2回洗浄する。次いでウェルを2%BSAを伴うPBS−Tで室温で2時間遮断する。並行してBEL抽出物15μlおよび2%BSAを伴うPBS−T 15μlを室温で2時間インキュベートする。遮断されたMaxisorpプレートをPBS−Tで3回洗浄した後、遮断されたBEL抽出物10μlをウェルに添加し、室温で1時間インキュベートする。一次Fab抗体を検出するために、以下の二次抗体:アルカリ性ホスファターゼ(AP)抱合AffiniPure F(ab’)フラグメント、ヤギ抗ヒト、−抗マウスまたは−抗ヒツジIgG(Jackson Immuno Research);を適用する。AP抱合体を検出するためにAttoPhos(Roche)のような蛍光発生基質を製造者による説明書にしたがって使用する。全てのインキュベーション工程の間で、マイクロタイタープレートのウェルをPBS−Tで3回、および二次抗体との最終インキュベーションの後3回洗浄する。Thermo Multiskanプレートリーダーを用いて蛍光を測定することができる。
【0209】
大腸菌におけるHuCAL GOLD(登録商標)Fab抗体の発現および精製
TG−1細胞におけるpMORPH(登録商標)X9 Fab FHによりコードされるFabフラグメントの発現をシェーカーフラスコ培養中、34μg/mlクロラムフェニコールを補充した2xYT培地750mlを用いて実施する。OD600nmが0.5に到達するまで培養物を30℃で振盪する。0.75mM IPTGの添加により、30℃で20時間、発現を誘起する。リゾチームを用いて細胞を破壊し、そしてNi−NTAクロマトグラフィー(Qiagen, Hilden, Germany)によりFabフラグメントを単離する。UV分光光度法によりタンパク質濃度を決定することができる(Krebs et al. J Immunol Methods 254:67-84(2001))。
【0210】
実施例2:LCDR3およびHCDR2カセットの並行交換(parallel exchange)により選択された抗PCSK9 Fabの親和性成熟
親和性成熟のためのFabライブラリーの作製
同定された抗PCSK9抗体の親和性および阻止活性を増大させるために、Fabクローンを親和性成熟に供する。この目的のために、トリヌクレオチド指定変異誘発(trinucleotide directed mutagenesis)を用いるカセット変異誘発によりCDR領域を最適化する(Virnekas et al. Nucleic Acids Res 22:5600−5607(1994))。
【0211】
以下のパラグラフは成熟ライブラリーのクローニングおよびFab最適化のために使用することができるプロトコールを簡単に記載する。発現ベクターpMORPH(登録商標)X9 Fab FHからのFabフラグメントをファージミドベクターpMORPH(登録商標)25(米国特許第6753136号)にクローン化する。2つの異なる計画を並行して適用して親Fabの親和性および効率の双方を最適化する。
【0212】
6つの選択された成熟候補(「親」クローン)のうちのLCDR3が個々の軽鎖CDR3配列のレパートリーにより置き換えられたファージ抗体Fabライブラリーを作製する。並行して各親クローンのHCDR2領域を個々の重鎖CDR2配列のレパートリーにより置き換える。標準的なクローニング手順および多様化されたクローンのエレクトロコンピテント大腸菌TOP10F’細胞(Invitrogen)への形質転換により親和性成熟ライブラリーを作製する。Fab提示ファージを実施例1に記載されるように調製する。各ライブラリーに対応する成熟プールを構築し、そして続く選択過程の間、別個に維持する。
【0213】
成熟パニング計画
4つの抗体プールを用いるパニングを溶液中のビオチン化組換えhPCSK9に関して、各々実施例1、ビオチン化hPCSK9に対する溶液パニングにおいて記載されるように3ラウンド実施する。パニングラウンド毎のビオチン化抗原の低減により、洗浄工程の延長により、およびオフレート選択のための非ビオチン化抗原の添加により、選択ストリンジェンシーを増大させる。
【0214】
細菌ライゼート中のhPCSK9結合Fabを検出するための電気化学発光(BioVeris)基盤の結合分析
大腸菌ライゼート(BEL抽出物)中で最適化されたFab抗体のhPCSK9に対する結合をBioVeris M−SERIES(登録商標)384(AnalyzerBioVeris, Europe, Witney, Oxforfshire, UK)で分析する。BioVerisスクリーニングにおいて使用するためにBEL抽出物をアッセイバッファー(PBS/0.05%Tween20/0.5%BSA)で希釈する。ビオチン化hPCSK9をストレプトアビジンコーティングした常磁性ビーズに結合させ、BV−tag(商標)(BioVeris Europe, Witney, Oxfordshire, UK)を用いて抗ヒト(Fab)’(Dianova)をルテニウム標識した。この二次抗体をhPCSK9結合ビーズに添加した後、BioVeris M−SERIES(登録商標)384分析器で測定する。BioVerisスクリーニングからのヒットの配列分析を行い、Fabクローンを同定する。選択されたFab抗体をIgG1形式にサブクローニングする。
【0215】
溶液平衡滴定(Solution Equilibrium Titration(SET))を用いるピコモル濃度親和性の決定
決定のために、Fabの単量体分画(単量体含量少なくとも90%、分析用SECにより分析;Superdex75、Amersham Pharmacia)を使用する。溶液中の電気化学発光(ECL)基盤の親和性決定およびデータ評価を、本質的にHaenel et al.,(2005)に記載されるように実施することができる。Fabの一定量を溶液中の異なる濃度の組換えhPCSK9(連続3希釈)で平衡にする。常磁性ビーズ(M−280ストレプトアビジン、Dynal)に結合したビオチン化hPCSK9およびBV−tag(商標)(BioVeris Europe, Witney, Oxfordshire, UK)標識抗ヒト(Fab)’(Dianova)を添加し、そして混合物を30分間インキュベートする。続いてM−SERIES(登録商標)384分析器(BioVeris Europe)を用いて未結合Fabの濃度をECL検出により定量する。
【0216】
溶液中の別の種(例えばチンパンジーまたはカニクイザル)のPCSK9に対する親和性の決定を本質的に前記で記載されたように行い、ヒトPCSK9をチンパンジーまたはカニクイザルPCSK9と置き換える。遊離のFabを検出するために、常磁性ビーズに結合したビオチン化hPCSK9を使用する。Haenel et al.(Anal Biochem 339:182-184(2005))にしたがって親和性を計算する。
【0217】
実施例3:ファージディスプレイによる抗PCSK9Fabの作製
以下のファージディスプレイ技術を用いて抗PCSK9 Fabを作製した。製造者のプロトコールを用いて、モル比20:1のビオチン:PCSK9を用いて、精製されたヒトPCSK9をPEO4ビオチン(Pierce、21329)で標識した。低モル比により標識されているタンパク質の限定された修飾を確実にし、そしてPEO4リンカーの選択によりビオチン部分がタンパク質から分離され、そしてビオチン化タンパク質の全体的な親水性が強化される。ビオチン化ヒトPCSK9を用いてDynal M280ストレプトアビジンビーズをコーティングし、そして標準的なパニング技術を用いてMorphosys Hucalライブラリーを3ラウンドパニングした。3ラウンド繰り返したパニングの後、プールされたラウンド3プラスミドDNAを精製し、そして制限酵素EcoRIおよびXbaIで消化した。アガロースゲル電気泳動によりプラスミドDNAを分離し、そして2つの遺伝子セグメント(免疫グロブリン重鎖(VH/CH)および軽鎖(VL/CL))を含有する1.5kBインサートを切り取り、そして精製した。この1.5kBフラグメント(Fabインサート)をMorphosys発現ベクターpMORPHX9 FHにサブクローニングし、そしてエレクトロコンピテントTG−1細胞に形質転換した。個々のコロニーを取り、そしてマスタープレートを調製した。マスタープレートから接種された娘プレートを低グルコース培地中で再成長させ、そしてIPTGの存在下で一晩培養することによりFab発現を誘起した。細胞ペレットを凍結し、リゾチームで溶解し、そしてニュートラアビジンコーティングしたウェル上にコーティングされたPEO−ビオチン化PCSK9でコーティングしたプレート上で除去処理を経たライゼートをELISAにより評価した(陰性対照ニュートラアビジン単独)。マスタープレートを寒天プレートに画線し、そして再試験用に3つの別個のコロニーを取った後にELISA陽性を再試験した。PCSK9クローンからのプラスミドDNAをまたDNAシークエンシング用に調製した。独特なクローンからのFabタンパク質を、IPTGで誘起されたリッタースケールの培養物中で調製し、そして次にIMACおよびサイズ排除クロマトグラフィーにより逐次的に精製した。SDS−PAGEに連動したBradfordアッセイによりタンパク質濃度を決定した。
【0218】
実施例4:PCSK9競合ELISA
NHS−PEO4−ビオチン(Pierce、21329)で標識された、精製されたヒトPCSK9を用いて、ニュートラアビジンコーティングしたNunc Maxisorpプレートをコーティングした。BSAでの非特異的結合の遮断に続いて、PCSK9コーティングしたウェルを最初に飽和濃度の抗ヒトPCSK9 Fab(陽性対照Fab)またはバッファー単独と共にインキュベートした。陽性対照Fab(またはバッファー単独)の結合に続いて、代替えの抗ヒトPCSK9 Fab(被験Fab)をバッファー単独および抗ヒトPCSK9 Fab処理したウェルの双方に添加した。インキュベーションおよび洗浄工程の後、ペルオキシダーゼ抱合ヤギ抗ヒト軽鎖抗体と3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)基質とのカクテルを用いてプレート結合ヒトPCSK9に結合した抗体フラグメントを検出した。ヒトPCSK9上の類似の、または重複する結合部位に関して競合するFabは、陽性対照Fab単独と比較して、さらなる結合シグナル(すなわちヒトPCSK9上の類似の、または重複する部位に関する結合競合)を誘発する。あるいは、陽性対照Fabとは独立して結合するFabは、TMB基質変換のレベルの増大により反映されるような結合シグナルの増大を呈する(すなわちヒトPCSK9に対するFabの非競合結合)。この計画を用いて、ヒトPCSK9に対する互いの結合を遮断するメンバーの能力に基づいてFabを群分けした。陽性対照としてのH1−抗PCSK9−Fabでの最初の特徴付けにより抗体を2群に分けた:H1により阻止される(第1群)またはH1により阻止されない(第2群)。さらなる結合競合実験により、各群内のFabがその群のその他のメンバーの結合を阻止することが実証された。これらの研究から、Fabの第3の群(第3群)を第1群または第2群Fabのいずれかとの非競合により同定した。結合親和性、hPCSK9/LDL−Rを破壊する能力およびHepG2細胞に及ぼす影響に関して特徴付けするために抗PCSK9 Fabのうちのどれを決定するかのガイドとしてFab群分けを利用した。次いで実施例4にて説明されるように、DXMSのような生物物理学的技術を用いて、インビトロでH1のような望ましい特性を有するFabのヒトPCSK9上の正確な結合部位をマッピングした。
【0219】
実施例5:抗PCSK9 Fabの機能分析
この実施例では、結合親和性、hPCSK9/LDL−Rを破壊する能力およびHepG2細胞に及ぼす影響を含むH1−抗PCSK9 Fabの機能的特性を試験した。
【0220】
1.結合親和性
Biacore結合アッセイをT100装置において25℃で実施した。HBS−P+Ca(10mM HEPES、150mM NaCl、pH7.4、0.005%P−20、2mM CaCl)をランニングバッファーとして使用した。固定のために、使用の直前にhPCSK9をpH5.5酢酸塩バッファーに30μg/mlで希釈した。標準的なアミン結合プロトコールに従って、hPCSK9約200RU(レゾナンスユニット)をCM5センサーチップ(Sシリーズ)上に固定した。Fab溶液(0−20nM、ランニングバッファーで希釈)をPCSK9および参照表面(アミン結合ブランク)に流速30μl/分で注射した。PCSK9表面を1mM NaOHおよび1M NaClの60秒間の注射で再生した。
【0221】
BIAevluationソフトウェアを用いて全データ分析を行った。結合曲線は補正済み二重参照であり、最初は参照細胞からの結合曲線で、続いてランニンバッファーのブランクからの結合曲線であった。次いでデータを1:1結合モデルで包括的に分析し、結合定数K(nM)、会合(k、1/M秒)および解離速度定数(k、1/秒)を導き出した。
H1−Fabはk3.23×10(1/M秒)、k3.41×10−3(1/秒)およびK1.05×10−8Mを呈することが決定された(図3)。
【0222】
2. H1−抗PCSK9 FabがhPCSK9/LDL−Rを破壊する能力
PCSK9/LDL−R FRET破壊アッセイを以下のとおりに実施して、H1−FabがhPCSK9/LDL−R相互作用を破壊する能力を評価した。LDL−R細胞外ドメイン(Ala22−Arg788)(R&D Systems)をユーロピウムクリプテート(LDL−R−Eu)(Perkin Elmer)で標識し、そしてPCSK9精製タンパク質をAlexa Fluor647(PCSK9−Alexa)(Invitrogen)で標識した。アッセイバッファーは20mM HEPES(pH7.0)、150mM NaCl、2mM CaCl2、0.1%Tween20および1mg/ml BSAからなる。FabをPCSK9−Alexaと共に室温で30分間プレインキュベートした後、LDL−R−Euを添加した。PCSK9−ALexaおよびLDL−R−Euの最終濃度は各々8nMおよび1nMであった。2時間のインキュベーションの後、以下の設定のEnvision(Perkin Elmer)でプレートを読み取った:励起330nmおよび発光620nmおよび665nmの双方、励起および読み取りとの間で100マイクロ秒の遅延。620nmでの読み取りに対する665nmの読み取りの比率を正規化し、そして図4にて報告する。
図4Aで示される通り、H1−FabはhPCSK9/LDL−R相互作用を破壊した。
【0223】
3. HepG2細胞に及ぼす影響
フローサイトメトリーを用いてLDL取り込みを測定した。10(容量/容量)%ウシ胎仔血清(FBS)を伴うDMEM中でHepG2細胞(ATCC)を維持した。PCSK9 Ab処理の前夜に細胞を96ウェルコラーゲンコーティングした96−ウェルプレート(BD Biosciences)に播種した。200nM PCSK9タンパク質を抗PCSK9 Fabと共に指示された濃度で30分間プレインキュベートした後、細胞に添加した。
3時間のPCSK9およびFab処理の後、dil−LDL(Intracel)を最終濃度5μg/mlまで各ウェルに直接添加し、そして37℃、5%COでさらに1時間インキュベートした。細胞をトリプシン処理し、収集し、そしてdil−LDL陽性細胞をフローサイトメトリー(LSRII、BD Biosciences)により測定した。FlowJo5.7.2ソフトウェアを用いて幾何平均を分析し、バッファー対照に正規化し、そして図4にて報告した。
【0224】
フローサイトメトリーを用いて表面LDLも測定した(図4B)。HepG2細胞をトリプシン処理し、コラーゲンコーティングしたプレートに播種し、そして5%COを伴って37℃で一晩インキュベートして、LDL−R発現を回復させた。翌日にPCSK9タンパク質およびPCSK9 Fabを30分間予備混合した後、細胞と共に4時間インキュベートした。Versene(Invitrogen)で細胞を収集し、そしてロバ血清(Jackson Immunoresearch Laboratories)で遮断した後、ウサギ抗ヒトLDL−Rポリクローナル抗体(Fitzgerald)で、および続いてAPC抱合ロバ抗ウサギIgG抗体(Jackson Immunoresearch Laboratories)で染色した。洗浄後、細胞を2%パラホルムアルデヒドで固定し、そしてBD LSR−IIサイトメーターにおいてフローサイトメトリー分析に供した。FlowJo5.7.2ソフトウェアを用いて幾何平均の代表値を計算し、そして図4にて報告した。
図に示される通り、H1−Fabは表面LDL−Rレベル(図4B)の増大およびHep2細胞によるLDL取り込みの増大に至った(図4C)。
【0225】
実施例6:エピトープマッピング
この実施例では、重水素交換質量分析(DXMS)を用いて、以下のとおりにH1−Fabにより認識される(複数の)エピトープを決定した。
【0226】
A. 材料
タンパク質希釈剤(HOまたはDO)は150mM NaClを伴う20mMリン酸ナトリウム(pH7.3)であった。クエンチング溶液は0.5(容量/容量)%トリフルオロ酢酸(TFA)水溶液であった。全てのその他の化学物質をSigmaから購入し、そしてHPLC用溶媒はFisher Scientificからであった。タンパク質:Fabインキュベーションを準備し、そして4℃で少なくとも2時間のインキュベートを可能にした。
【0227】
B. 溶液水素/重水素(H/D)交換
文献(Anal. Chem., 78:1005-1014(2006))に記載されたものと類似の設定および類似の様式で、自動H/D交換質量分析実験を実施した。要するに、LEAP Technologies Pal HTS液体ハンドラー(LEAP Technologies、Carrboro, NC)を全ての液体処理操作に使用した。液体ハンドラーは製造者によりプログラムされたLEAPシェルに記載される自動化スクリプトにより制御された。2℃で維持された冷蔵機能付き容器にロボットを格納した。実験順序の開始の前に試料用のプレート、希釈剤およびクエンチ溶液を液体ハンドラートレイに充填した。6ポート注射用バルブおよび洗浄場所もまた液体ハンドラーレールに取り付け、そしてクロマトグラフィーシステムおよびシリンジ洗浄の各々への試料注射を促進にした。2つのさらなるバルブ、酵素カラム、逆相トラップカートリッジおよび分析用カラムからなるクロマトグラフィーシステムを所内で構築された別個のチャンバーに格納し、そしてペルティエスタックにより2℃で維持した。流体接続ならびに固定されたペプシン、逆相トラップカートリッジおよび分析用カラムのバルブへの取り付けを図5にて説明する。インラインタンパク質消化、ペプチド脱塩および逆相クロマトグラフィーを可能にするような方式でバルブおよびカラムを構成した後、試料をエレクトロスプレイイオン化(ESI)ソースの質量分析に導入した。操作に必要とされる液体の流れは2つの別個のAgilent HPLCシステム(Agilent 1100、Palo Alto, CA)により提供された。第1のHPLCポンプ(ローディングポンプ)は0.05(容量/容量)%トリフルオロ酢酸(TFA)水溶液を125μl/分で分配した。ローディング相の間のバルブ位置を図5Aにて説明する。この相では試料を試料ループから固定されたペプシンカートリッジ(2mm×20mm、UCSDのProf. Virgil Woodsから厚意により提供された)を経て逆相トラップカートリッジ(1mm×8mm、Michrom Bioresources Inc., Auburn, CA)へ移す。続いて第2のHPLCポンプ(グラジエントポンプ)が逆相トラップカートリッジおよび分析用カラムを経て補助バルブ3にグラジエントを分配するように補助バルブ2を切り替えた。固定された酵素カートリッジをこの位置で単離して廃棄した。補助バルブ3はトラップカートリッジに充填された試料の脱塩のために、プリセット時間の廃棄のために流れを迂回させるようにプログラムされた。脱塩期間の後、グラジエントポンプからの流れを質量分析器のイオンソースに到達させるようにバルブを切り替えた(トラップカートリッジおよび分析用カラムを通過した後、図5C)。グラジエントポンプは55分間にわたって50μl/分で0から40%可動相Bのグラジエントを分配した(可動相A=0.2%ギ酸水溶液、B=アセトニトリル中0.2%ギ酸)。
【0228】
C. 質量分析
液体クロマトグラフィーエレクトロスプレイイオン化タンデム質量分析(LC−ESI−MS)をVモードで操作されるQTof Ultima Global(Waters, Milford, MA)で実施した。2つのデータ依存的MS/MSスイッチング実験を実施して、オンラインタンパク質分解により作製されたペプチドの配列を同定する目的のために、タンデム質量スペクトルを収集した。重水素化レベル決定の目的のために実施された取得はMSのみであった(m/z400−1500にわたって5秒スキャン)。
【0229】
D. 補完的な水素/重水素(H/D)交換実験
タンパク質(hPCSK9およびそのプロドメインPD)をいくつかのオンおよびオフ交換条件に供し、予期された正味の結果は保護実験(以下に記載される)における対照に関する重水素化レベルの増大およびDO中実験(以下に記載される)における対照に関する重水素化レベルの低減による任意の潜在的エピトープのマーキングであった。
重水素での標識は標識されたタンパク質の構造または機能を変化させないので、タンパク質上のアミド水素の重水素との交換である重水素化は、タンパク質の構造および機能の精査のための特に有用な手段である。重水素は水素の2倍の質量を有する水素の同位体であり、図6で星印により示す。これは新たな部分をタンパク質上の既存の官能基に結合させるその他の標識の方法とは全く対照的である。
【0230】
1. 保護実験
保護実験では、DO中150mM NaClを伴う20mMリン酸ナトリウム(pH7.3)中でタンパク質を一晩インキュベートすることにより重水素化タンパク質溶液を調製した。対照実験では、重水素化タンパク質をHOで希釈し、様々な時間のオフ交換(例えば5分間)の後にクエンチ溶液を添加した。これに続いて前記したようなペプシンおよびLCMSでのオンライン消化を行った。重水素化タンパク質溶液を等モル量のFab溶液(非重水素化、図6の概略図の右欄を参照)で希釈し、そして15分間インキュベートしてタンパク質(重水素化):Fab複合体を形成することによりタンパク質:Fab複合体のオフ交換を実施した。複合体を形成した後、対照に関して以下に記載されるように試料を処理した。
【0231】
図6の左欄は保護実験のための実験順序を説明し、それは重水素化PCSK9で出発した。「重水素化」とは、重水素バッファー中数時間の間タンパク質をインキュベートすることにより、タンパク質のアミド水素が重水素で置き換えられていることを意味する。図6の左欄の第2列で説明されるように、重水素化PCSK9タンパク質上でのFabのそのエピトープに対する結合は、エピトープの区域の周囲のPCSK9の表面の一部を遮断するであろう。表面の遮断はまた水素/重水素交換を生じるのに重要である溶媒接触も低減させる。図6の左欄の第3列では、非重水素化バッファー中の重水素化PCSK9/Fab複合体のインキュベーションの影響を説明する。
【0232】
図6で示される通り、H/D交換を自由に行うことができるので、PCSK9における重水素化レベルは溶媒接触区域において迅速に低減する。対照的に、表面を覆うFabの遮断作用のために、エピトープの区域への溶媒接触の低減は、H/D交換を遅延させる。これは結果的にエピトープの区域における大部分の重水素化の防御に至る。
酵素でタンパク質Fab複合体を小片に切断し、そして質量分析器でフラグメントの各々の重水素化レベルを測定することにより、タンパク質配列に沿って重水素化のレベルの増大(エピトープのマーキング)を位置決定することが可能である。重水素は水素よりも重いので、重水素化の結果である質量変化のためにこれが可能である。フラグメントから収集された情報を一緒にまとめることにより、タンパク質配列全体にわたる重水素の分布を導き出すことが可能になる。
【0233】
2. 対照
タンパク質構造および結果的に溶媒接触の可能性における変動、ならびに異なるアミノ酸間で形成されたアミド結合に関して観察されるH/D交換速度における差異のために、タンパク質配列全体にわたって重水素化レベルが大きく異なるので、エピトープの存在時の保護実験(図6の左欄により記載される)にて観察された重水素化レベル上昇から単純に結論付けることは不可能である。幸い、重水素化レベルの天然の変動は差次的実験において相殺される。差次的実験はFabの存在下および不在下(対照実験、図6の中央の欄)での重水素化レベルの測定ならびに重水素化における差異の計算からなる。重水素化レベルにおける観察された差異は純粋にFabの影響に起因し、そして大きな値はエピトープの存在および位置の指標であろう。
【0234】
3. DO中実験
図6の右欄で説明されるさらに補完的な差次的実験(すなわちDO中実験)を実施し、そして左欄の実験に関して提出されたものに類似する推論を用いて予期される結果を推定することができる。主要な差異は、右欄の実験に関して重水素化において観察された差異は左欄のものと符号が逆であるはずであるということであり、そしてそれ故に潜在的なエピトープの存在および位置に関する補完的な証拠ならびにお互いに対する結果の検証を提供する。
【0235】
典型的なDO中実験では(図6の概略図の中央および右欄を参照)、タンパク質(対照)あるいはタンパク質:Fab複合体をDOバッファーで希釈する。一定期間のオン交換の後、混合物をさらにHOバッファーで希釈してオフ交換を引き起こし、そして最後にクエンチバッファーでクエンチする。一度混合すると、クエンチされた溶液を完全に自動的にタンパク質分解し、分離し、そして前記されたようにLCMSにより分析する。種々のDOインキュベーション期間(例えば45秒間)を実験で用いて対照(タンパク質のみ)とタンパク質:Fab試料との間の重水素化における観察される差異を最適化した。試料と対照との間の重水素化における代表値変化を試料および対照の重水素取り込みレベル間の差異として計算し、ここで重水素取り込みレベルを以下のデータ処理の下で記載されるように決定した。
【0236】
E. データ処理
タンデムMS取得をMassLynx(Waters、Milford, MA)を用いてピークリストまで低減させ、そしてMascot(Matrix Sciences、London, UK)を用いてタンパク質配列に対して検索した。データベース検索により戻された推定ペプチド配列同定の一覧を手作業で検証した。MassLynxを用いて検証された前駆体イオン質量の単一イオンクロマトグラムを作製した。各前駆体の同位体分布の質量スペクトルをクロマトグラフのピーク全体にわたって合計し、重水素取り込みのレベルを決定するために平滑化し、そして中心に置いた。重水素取り込みレベルをタンパク質配列の各残基に割り当てるために、以下の手順に従った。残基を、それを覆うペプチドの正規化された重水素取り込みに割り当てた。1を超えるペプチドが同一残基を覆う場合、その残基を覆う全てのペプチドの正規化された重水素取り込みの代表値を用いた。観察された重水素化レベルをそのペプチドにおけるアミノ酸の数により除することにより、各ペプチドに関する正規化された重水素取り込みを計算した。
【0237】
F. 結果
PCSK9およびhPCSK9:H1−Fab複合体に関して実施された保護およびDO中実験に関して重水素化において観察された代表値変化を、hPCSK9(プロドメインを含む、システインリッチドメインは実験に含まれなかったので、それを除外する)の残基数の関数として図7に示す。潜在的なエピトープの予期される挙動を示す領域のアミノ酸配列もまた図7に示す。
【0238】
図7Aは保護実験に関する重水素化における変化を示す。重水素化における変化を、図6(左欄、存在するFabを伴う)およびその対照(中央欄、Fabなし)にて説明される実験の重水素化レベル間の差異として定義する。PCSK9配列(プロドメインで出発し、そしてシステインリッチドメインを除外する)のアミノ酸残基40から420に関する残基数で割って、残基あたり質量シフトの代表値として重水素化における変化をプロットする。重水素化における変化に関する高値(残基あたりの陽性質量シフトとして示される)はエピトープの指標である。残基123−132(プロットで注釈を付けられた配列)はこの点で卓越し、そしてそれ故にエピトープの全てまたは一部を覆うと考えられる。
【0239】
O中実験(図6の右欄にて説明)からの補完的なデータを図7Aにおいてプロットする。図7にて描かれる2つのプロットの比較により、アミノ酸残基123−132LVKMSGDLLEのストレッチが実験設計から予期されるようなエピトープに関する重水素化レベルの予測された変化を示すこが表される(図6)。hPCSK9結晶構造(図8参照)における領域123−132(LVKMSGDLLE)はらせんおよびループの一部を覆い、そしてそれは高度に接近可能であるので、潜在的エピトープとして物理的に意味がある。
【0240】
図7において示されるデータから即座に明らかでないのは残基101−107(QAARRGY)にわたる第2領域であり(図8参照)、それは潜在的エピトープに特徴的である図7の重水素化レベルにおける予期される補完的な挙動も示すより大きな領域の小区域である。一次配列上に観察されたペプチドの重水素化から一次配列に重水素化レベルにおける変化を戻してマッピングするために使用された方法は強い平滑化効果を有し、測定において観察される変動がかなり大きいので、それは望ましい。
【0241】
一方、重水素化レベルの非局在化により、図7においてプロットされたようなデータからのエピトープにおける残基101−107により覆われる領域の参加の可能性を検出することが困難になる。しかも大きな領域を覆うことが観察されたペプチドの詳細な検査により、大部分の観察された交換がさらに短い領域101−107に起因すると考えることが可能になる。
【0242】
さらにこのより短い領域が空間的に領域123−132の直ぐ右に位置する結晶構造では、それにより双方のストレッチがhPCSK9上のH1−Fabの非直線エピトープを形成することが示唆される。重要なことには、図7のデータにより関係する2つのアミノ酸ストレッチはH1−Fabに関する非直線エピトープを形成し、それはhPCSK9の抗原性エピトープに関する予想される配列番号2および3アミノ酸配列と相関する(表2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCSK9に特異的に結合する抗体の抗原結合部分を含み、ここで抗原結合部分が以下:
(a)配列番号1のアミノ酸166−177;
(b)配列番号1のアミノ酸187−202;
(c)配列番号1のアミノ酸206−219;
(d)配列番号1のアミノ酸231−246;
(e)配列番号1のアミノ酸277−283;
(f)配列番号1のアミノ酸336−349;
(g)配列番号1のアミノ酸368−383;または
(h)配列番号1のアミノ酸426−439;
のうちの1つの配列内かまたはそれと重複するヒトPCSK9(配列番号1)の触媒ドメイン内のエピトープに結合する単離されたプロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型ポリペプチド(PCSK9)結合分子。
【請求項2】
PCSK9に特異的に結合する抗体の抗原結合部分を含み、ここで抗原結合部分が以下:
(a)配列番号1のアミノ酸443−500;
(b)配列番号1のアミノ酸557−590;または
(c)配列番号1のアミノ酸636−678;
のうちの1つの配列内かまたはそれと重複するヒトPCSK9のシステインリッチドメイン内のエピトープに結合する単離されたPCSK9結合分子。
【請求項3】
PCSK9に特異的に結合する抗体の抗原結合部分を含み、ここで抗原結合部分が配列番号1のアミノ酸89−134内かまたはそれと重複するヒトPCSK9のプロドメイン内のエピトープに結合する単離されたPCSK9結合分子。
【請求項4】
抗原結合部分が非ヒト霊長類のPCSK9と交差反応性である請求項1から3のいずれかに記載のPCSK9結合分子。
【請求項5】
抗原結合部分がげっ歯類のPCSK9と交差反応性である請求項1から3のいずれかに記載のPCSK9結合分子。
【請求項6】
抗原結合部分が直線エピトープに結合する請求項1から3のいずれかに記載のPCSK9結合分子。
【請求項7】
抗原結合部分が非直線エピトープに結合する請求項1から3のいずれかに記載のPCSK9結合分子。
【請求項8】
抗原結合部分が以下の直線エピトープ:
(a)配列番号1のアミノ酸89−101;および
(b)配列番号1のアミノ酸106−134;
の各々の少なくとも一部からなる非直線エピトープに結合する請求項7に記載のPCSK9結合分子。
【請求項9】
抗原結合部分が以下の直線エピトープ:
(a)配列番号1のアミノ酸166−177;および
(b)配列番号1のアミノ酸443−458;
の各々の少なくとも一部からなる非直線エピトープに結合する請求項7に記載のPCSK9結合分子。
【請求項10】
抗原結合部分が以下の直線エピトープ:
(a)配列番号1のアミノ酸187−202;
(b)配列番号1のアミノ酸231−246;および
(c)配列番号1のアミノ酸368−383;
のうちの2つまたは3つの少なくとも一部からなる非直線エピトープに結合する請求項7に記載のPCSK9結合分子。
【請求項11】
抗原結合部分が以下の直線エピトープ:
(a)配列番号1のアミノ酸206−219;および
(b)配列番号1のアミノ酸277−283;
の各々の少なくとも一部からなる非直線エピトープに結合する請求項7に記載のPCSK9結合分子。
【請求項12】
抗原結合部分が以下の直線エピトープ:
(a)配列番号1のアミノ酸336−349;および
(b)配列番号1のアミノ酸426−439;
の各々の少なくとも一部からなる非直線エピトープに結合する請求項7に記載のPCSK9結合分子。
【請求項13】
抗原結合部分が以下の直線エピトープ:
(a)配列番号1のアミノ酸459−476;
(b)配列番号1のアミノ酸486−500;および
(c)配列番号1のアミノ酸557−573;
のうちの2つまたは3つの少なくとも一部からなる非直線エピトープに結合する請求項7に記載のPCSK9結合分子。
【請求項14】
抗原結合部分が以下の直線エピトープ:
(a)配列番号1のアミノ酸577−590;
(b)配列番号1のアミノ酸636−645;および
(c)配列番号1のアミノ酸659−677;
のうちの2つまたは3つの少なくとも一部からなる非直線エピトープに結合する請求項7に記載のPCSK9結合分子。
【請求項15】
抗原結合部分が以下:
(a)配列番号1のアミノ酸443−458;
(b)配列番号1のアミノ酸459−476;
(c)配列番号1のアミノ酸486−500;
(d)配列番号1のアミノ酸557−573;
(e)配列番号1のアミノ酸577−590;
(f)配列番号1のアミノ酸636−645;または
(g)配列番号1のアミノ酸659−677;
のうちの1つの配列内かまたはそれと重複するヒトPCSK9のエピトープに特異的に結合する請求項2に記載のPCSK9結合分子。
【請求項16】
抗原結合部分が以下:
(a)配列番号1のアミノ酸89−101;または
(b)配列番号1のアミノ酸106−134;
のうちの1つの配列内かまたはそれと重複するヒトPCSK9のエピトープに特異的に結合する請求項3に記載のPCSK9結合分子。
【請求項17】
抗原結合部分が10nM以下の解離定数(K)でPCSK9に結合する請求項1から16のいずれかに記載のPCSK9結合分子。
【請求項18】
抗原結合部分が1nM以下の解離定数(K)でPCSK9に結合する請求項1から17のいずれかに記載のPCSK9結合分子。
【請求項19】
抗原結合部分が0.5nM以下のKでPCSK9に結合する請求項18に記載のPCSK9結合分子。
【請求項20】
抗原結合部分が0.1nM以下のKでヒトPCSK9に結合する請求項19に記載のPCSK9結合分子。
【請求項21】
抗原結合部分が0.3nM以下のKで非ヒト霊長類のPCSK9に結合する請求項18に記載のPCSK9結合分子。
【請求項22】
その抗原結合部分が0.5nM以下のKでマウスPCSK9に結合する請求項18に記載のPCSK9結合分子。
【請求項23】
抗原結合部分がヒト抗体の抗原結合部分である請求項1から22のいずれかに記載のPCSK9結合分子。
【請求項24】
抗体がヒト化またはhumaneered抗体である請求項23に記載のPCSK9結合分子。
【請求項25】
抗原結合部分がモノクローナル抗体の抗原結合部分である請求項1から24のいずれかに記載のPCSK9結合分子。
【請求項26】
抗原結合部分がポリクローナル抗体の抗原結合部分である請求項23に記載のPCSK9結合分子。
【請求項27】
PCSK9結合分子がキメラ抗体である請求項1から26のいずれかに記載のPCSK9結合分子。
【請求項28】
PCSK9結合分子が抗体のFabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)またはFvフラグメントを含む請求項1から26のいずれかに記載のPCSK9結合分子。
【請求項29】
PCSK9結合分子が一本鎖Fvを含む請求項1から26のいずれかに記載のPCSK9結合分子。
【請求項30】
PCSK9結合分子がダイアボディーを含む請求項1から26のいずれかに記載のPCSK9結合分子。
【請求項31】
抗原結合部分が以下のアイソタイプ:IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4;のうちの1つの抗体から誘導される請求項1から30のいずれかに記載のPCSK9結合分子。
【請求項32】
PCSK9結合分子がPCSK9リガンドに対するPCSK9結合を阻止する請求項1から31のいずれかに記載のPCSK9結合分子。
【請求項33】
PCSK9結合分子が低密度リポタンパク質受容体(LDL−R)に対するPCSK9結合を阻止する請求項1から32のいずれかに記載のPCSK9結合分子。
【請求項34】
PCSK9結合分子がPCSK9のタンパク質分解活性を阻止する請求項1から33のいずれかに記載のPCSK9結合分子。
【請求項35】
PCSK9結合分子がPCSK9プロドメインのタンパク質分解を阻止する請求項34に記載のPCSK9結合分子。
【請求項36】
PCSK9結合分子が肝細胞におけるLDL−RのPCSK9依存性の低下を阻止する請求項1から35のいずれかに記載のPCSK9結合分子。
【請求項37】
PCSK9結合分子が肝細胞におけるLDL−RのPCSK9依存性の分解を阻止する請求項36に記載のPCSK9結合分子。
【請求項38】
PCSK9が存在する条件下で肝細胞と接触させる場合、PCSK9結合分子の不在下での肝細胞による低密度リポタンパク質コレステロール(LDL−c)取り込みに相対してPCSK9結合分子が肝細胞によるLDL−c取り込みを増大させる請求項1から37のいずれかに記載のPCSK9結合分子。
【請求項39】
PCSK9結合分子がLDL−Cの存在下でPCSK9に結合する請求項1から38のいずれかに記載のPCSK9結合分子。
【請求項40】
PCSK9結合分子が血清の存在下でPCSK9に結合する請求項1から39のいずれかに記載のPCSK9結合分子。
【請求項41】
PCSK9結合ドメインのアミノ酸配列がフィブロネクチン、サイトカイン受容体またはカドヘリンの免疫グロブリン様フォールドのアミノ酸配列に少なくとも75%同一であり、そしてPCSK9結合ドメインのアミノ酸配列が免疫グロブリン様フォールドのアミノ酸配列に相対してPCSK9結合ドメインがPCSK9に特異的に結合するように改変されているPCSK9結合ドメインを含むPCSK9結合分子。
【請求項42】
PCSK9結合ドメインが10nM以下のKでPCSK9に結合する請求項41に記載のPCSK9結合分子。
【請求項43】
PCSK9結合ドメインが1nM以下のKでPCSK9に結合する請求項41に記載のPCSK9結合分子。
【請求項44】
Ig様フォールドがフィブロネクチンのIg様フォールドである請求項41に記載のPCSK9結合分子。
【請求項45】
Ig様フォールドがフィブロネクチンIII型のIg様フォールドである請求項44に記載のPCSK9結合分子。
【請求項46】
請求項1から45のいずれかのPCSK9結合分子を含む医薬組成物。
【請求項47】
肝細胞をPCSK9結合分子と接触させることを含む肝細胞におけるLDL−Rレベルを増大させる方法。
【請求項48】
肝細胞をPCSK9結合分子と接触させ、それによりPCSK9によるLDL−Rの下方調節を低減させ、そして肝細胞によるLDL−c取り込みを増大させることを含む肝細胞によるLDL−c取り込みを増大させる方法。
【請求項49】
以下のアミノ酸配列:
YRADEYQPPDGG(配列番号4);
TSIQSDHREIEGRVMV(配列番号5);
ENVPEEDGTRFHRQ(配列番号6);
AGVVSGRDAGVAKGAS(配列番号7);
VQPVGPL(配列番号8);
VGATNAQDQPVTLG(配列番号9);
IIGASSDCSTCFVSQS(配列番号10);
EAWFPEDQRVLTPN(配列番号11);
ALPPSTHGAGWQLFCR(配列番号12);
TVWSAHSGPTRMATAIAR(配列番号13);
CSSFSRSGKRRGERM(配列番号14);
HVLTGCSSHWEVEDLGT(配列番号15);
PVLRPRGQPNQCVG(配列番号16);
SALPGTSHVL(配列番号17);
RDVSTTGSTSEEAVTAVAI(配列番号18);
SQSERTARRLQAQ(配列番号2);または
GYLTKILHVFHGLLPGFLVKMSGDLLELA(配列番号3);
のうちの1つに少なくとも90%同一であるアミノ酸配列からなるペプチド。
【請求項50】
PCSK9の生物学的活性を調整するPCSK9結合分子を対象に投与することを含み、ここでPCSK9結合分子が以下の活性:
(a)LDL−Rに対するPCSK9結合を阻止すること;
(b)PCSK9のタンパク質分解活性を阻止すること;
(c)肝細胞におけるLDL−RのPCSK9依存性の低下を阻止すること;および
(d)肝細胞におけるLDL−RのPCSK9依存性の分解を阻止すること;
のうちの1つまたはそれより多くを呈する対象におけるPCSK9活性を調整する方法。
【請求項51】
対象における血漿コレステロールを低減させるのに有効な量の請求項46に記載の組成物を対象に投与することを含む対象の血漿コレステロールを低減させる方法。
【請求項52】
その量がLDL−cを低減させるのに有効である請求項51に記載の方法。
【請求項53】
組成物を投与する前の血漿LDL−cに相対して対象の血漿LDL−cの濃度を少なくとも5%まで低減させる請求項52に記載の方法。
【請求項54】
対象が第2のコレステロール低下薬での治療も受けている請求項51に記載の方法。
【請求項55】
第2のコレステロール低下薬がスタチンである請求項54に記載の方法。
【請求項56】
対象が脂質障害を有するかまたはその危険性がある請求項51に記載の方法。
【請求項57】
対象が高コレステロール血症であるかまたは高コレステロール血症の危険性がある請求項56に記載の方法。
【請求項58】
対象がアテローム性動脈硬化症を有するかまたはその危険性がある請求項51に記載の方法。
【請求項59】
対象が心血管障害を有するかまたはその危険性がある請求項51に記載の方法。
【請求項60】
対象がスタチン不耐性である請求項51に記載の方法。
【請求項61】
対象がスタチン治療に抵抗する請求項51に記載の方法。
【請求項62】
組成物の投与の前に対象の全血漿コレステロールレベルが200mg/dlまたはそれより大きい請求項51に記載の方法。
【請求項63】
組成物の投与の前に対象の血漿LDL−cレベルが160mg/dlまたはそれより大きい請求項51に記載の方法。
【請求項64】
組成物を静脈内投与する請求項51に記載の方法。
【請求項65】
PCSK9に特異的に結合する抗体の抗原結合部分を含み、ここで抗原結合部分が以下:
(a)配列番号1のアミノ酸101−107;または
(b)配列番号1のアミノ酸123−132;
のうちの1つの配列内かまたはそれと重複するヒトPCSK9のプロドメイン内のエピトープに結合する単離されたPCSK9結合分子。
【請求項66】
抗原結合部分が配列番号1のアミノ酸101−107内かまたはそれと重複するヒトPCSK9のプロドメイン内のエピトープに結合する請求項65に記載の単離されたPCSK9結合分子。
【請求項67】
抗原結合部分が配列番号1のアミノ酸123−132内かまたはそれと重複するヒトPCSK9のプロドメイン内のエピトープに結合する請求項65に記載の単離されたPCSK9結合分子。
【請求項68】
以下:
(a)配列番号1のアミノ酸101−107;または
(b)配列番号1のアミノ酸123−132;
のうちの1つの配列内かまたはそれと重複するヒトPCSK9のプロドメイン内のエピトープに結合するPCSK9結合分子とPCSK9との結合に関して交差競合する単離されたPCSK9結合分子。
【請求項69】
抗原結合部分が非直線エピトープに結合する請求項65から67のいずれかに記載のPCSK9結合分子。
【請求項70】
抗原結合部分が以下の直線エピトープ:
(a)配列番号1のアミノ酸101−107;および
(b)配列番号1のアミノ酸123−132;
の各々の全てまたは少なくとも一部を含む非直線エピトープに結合する請求項69に記載のPCSK9結合分子。
【請求項71】
PCSK9に特異的に結合する抗体の抗原結合部分を含み、ここで抗原結合部分が配列番号1のアミノ酸101−132内で結合する単離されたPCSK9結合分子。
【請求項72】
抗原結合部分が配列番号1のアミノ酸101−132内で結合し、そして配列番号2からの少なくとも1つのアミノ酸および配列番号3からの少なくとも1つのアミノ酸を含む請求項71に記載の単離されたPCSK9結合分子。
【請求項73】
抗原結合部分が配列番号2からの少なくとも1つのアミノ酸および配列番号3からの少なくとも1つのアミノ酸の表面を覆うエピトープに結合するPCSK9に特異的に結合する抗体の抗原結合部分を含む単離されたPCSK9結合分子。
【請求項74】
PCSK9に特異的に結合する抗体の抗原結合部分を含み、ここで抗原結合部分が配列番号2内のエピトープ、配列番号3内のエピトープまたは配列番号2からの少なくとも1つのアミノ酸および配列番号3からの少なくとも1つのアミノ酸と重複するエピトープからなる群から選択されるエピトープに結合する単離されたPCSK9結合分子。
【請求項75】
配列番号2のアミノ酸がグルタミンである請求項73または74に記載の単離されたPCSK9結合分子。
【請求項76】
抗原結合部分が配列番号3からの少なくとも2つのアミノ酸と重複する請求項73または74に記載の単離されたPCSK9結合分子。
【請求項77】
アミノ酸がグリシンおよびチロシンである請求項76に記載の単離されたPCSK9結合分子。
【請求項78】
抗体がヒト、ヒト化、humaneeredまたはキメラ抗体である請求項65から67および69から77のいずれかに記載のPCSK9結合分子。
【請求項79】
抗原結合部分がモノクローナルまたはポリクローナル抗体の抗原結合部分である請求項65から67および69から77のいずれかに記載のPCSK9結合分子。
【請求項80】
PCSK9結合分子が抗体のFabフラグメント、一本鎖Fv、Fab’フラグメント、F(ab’)、ダイアボディーまたはFvフラグメントを含む請求項65から77のいずれかに記載のPCSK9結合分子。
【請求項81】
抗原結合部分が以下のアイソタイプ:IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4;のうちの1つの抗体から誘導される請求項65から67および69から77のいずれかに記載のPCSK9結合分子。
【請求項82】
高コレステロールレベルに関連する疾患の処置のための医薬品を調製するための請求項1から81のいずれかに記載のPCSK9結合分子の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−523135(P2010−523135A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−502522(P2010−502522)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【国際出願番号】PCT/EP2008/054417
【国際公開番号】WO2008/125623
【国際公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】