説明

プロテオグリカンの新規な医薬用途

【課題】コアタンパクとそれに結合するグリコサミノグリカン(酸性ムコ多糖)からなり、細胞外マトリックスの主な構成要素として、皮膚、軟骨、骨、血管壁などに存在するプロテオグリカンの新規な医薬用途を提供。
【解決手段】Th17細胞が病態形成に関与する多発性硬化症や炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)などに対して有効に作用する、サケ、サメ、ウシ、クジラなどの軟骨を原材料にして精製されたプロテオグリカンを有効成分とするTh17細胞の分化誘導抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテオグリカンの新規な医薬用途に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテオグリカンは複合糖質のひとつで、コアタンパクとそれに結合するグリコサミノグリカン(酸性ムコ多糖)からなり、細胞外マトリックスの主な構成要素として、皮膚、軟骨、骨、血管壁などに存在する。近年、プロテオグリカンの研究開発が精力的に行われていることは周知の通りであり、本発明者らも、プロテオグリカンがTNF−α産生抑制作用、IFN−γ産生抑制作用、IL−10産生促進作用などのヘルパーT細胞のサブセットの1つである細胞性免疫を司るTh1細胞に関連する分子に対する各種作用を有することをこれまでに報告している(特許文献1)。しかしながら、プロテオグリカンが有する薬理作用の全容はいまだ明らかでない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−131548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、プロテオグリカンの新規な医薬用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記の点に鑑みて鋭意研究を進めた結果、プロテオグリカンがTh1細胞とは異なるヘルパーT細胞のサブセットの1つであるTh17細胞の分化誘導を抑制する作用を有することを見出した。
【0006】
上記の知見に基づいてなされた本発明は、請求項1記載の通り、プロテオグリカンを有効成分とするTh17細胞の分化誘導抑制剤である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、プロテオグリカンの新規な医薬用途として、Th17細胞の分化誘導抑制剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1における多発性硬化症モデルマウスでのプロテオグリカンのIL−17産生抑制作用を示すグラフである。
【図2】同、RORγt、IL−21、IL−23Rのそれぞれに対するプロテオグリカンの遺伝子発現抑制作用を示すグラフである。
【図3】同、実験的自己免疫性脳脊髄炎の臨床症状に対するプロテオグリカンの有効性を示すグラフである。
【図4】実施例2における炎症性腸疾患モデルマウスでのIL−17AとIL−23p19のそれぞれに対するプロテオグリカンの遺伝子発現抑制作用を示すグラフである。
【図5】同、Foxp3に対するプロテオグリカンの遺伝子発現促進作用を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において有効成分とするプロテオグリカンは、例えば、サケ、サメ、ウシ、クジラなどの軟骨を原材料にして精製されたものが挙げられる。プロテオグリカンの精製方法としては、特開2002−69097号公報に記載の酢酸を用いた方法を好適に採用することができる。この方法は、例えばミンチにしたサケの鼻軟骨から溶出溶媒として酢酸を用いて粗プロテオグリカンを溶出した後、得られる溶出液を濾過してから遠心分離し、その上澄液に食塩飽和エタノールを加えて遠心分離することにより得られる粗プロテオグリカンを含む半固形沈殿物を酢酸に溶解し、次いで透析することにより行うものであり、この方法によれば、例えばサケの鼻軟骨から約100〜400kDaの分子量を有するプロテオグリカンを得ることができる。なお、本発明において有効成分とするプロテオグリカンは高度に精製されたものである必要は必ずしもなく、異なる分子量を有する複数のプロテオグリカンの混合組成物やプロテオグリカンの作用に悪影響を及ぼさない他の成分を含むものであってもよい。
【0010】
プロテオグリカンは、経口投与によってTh17細胞の分化誘導抑制作用を発揮し、多発性硬化症や炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)などのTh17細胞が病態形成に関与する疾患に対して有効に作用するが、プロテオグリカンの投与方法は経口投与に限定されるものでなく、静脈注射、筋肉注射、皮下投与、直腸投与などの非経口投与であってもよい。投与に際してはそれぞれの投与方法に適した剤型に製剤化すればよい。製剤形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、細粒剤、丸剤、トローチ剤、舌下錠、坐剤、軟膏、注射剤、乳剤、懸濁剤、シロップなどが挙げられ、これら製剤の調製は、無毒性の賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、防腐剤、等張化剤、安定化剤、分散剤、酸化防止剤、着色剤、矯味剤、緩衝剤などの添加剤を使用して自体公知の方法にて行うことができる。無毒性の添加剤としては、例えば、でんぷん、ゼラチン、ブドウ糖、乳糖、果糖、マルトース、炭酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ペトロラタム、グリセリン、エタノール、シロップ、塩化ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸、ポリビニルピロリドン、水などが挙げられる。なお、製剤中には、本発明の有用性を補強したり増強したりするために、他の薬剤を含有させてもよい。
【0011】
製剤中における有効成分であるプロテオグリカンの含有量は、その剤型に応じて異なるが、一般に0.1〜100重量%の濃度であることが望ましい。製剤の投与量は、投与対象者の性別や年齢や体重の他、症状の軽重、医師の診断などにより広範に調整することができるが、一般に1日当り0.01〜300mg/Kgとすることができる。上記の投与量は、1日1回または数回に分けて投与すればよい。
【0012】
また、プロテオグリカンは、種々の形態の食品(サプリメントを含む)に、所望する薬理作用を発揮するに足る有効量を添加することで、機能性食品として食してもよい。
【実施例】
【0013】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0014】
実施例1:プロテオグリカンのTh17細胞の分化誘導抑制作用(その1:多発性硬化症モデルマウスを用いた検討)
(実験方法)
Batten,M.et al.Nat.Immunol.929−936(2006)の記述に従い、フロイント完全アジュバント(CFA)とミエリンオリゴ糖タンパク(MOE)を用いてC57BL/6マウス(雌雄、8〜10週齢)に多発性硬化症モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を誘導した。同時に、分子量が約100〜200kDaのサケの鼻軟骨由来のプロテオグリカン(PG:特開2002−69097号公報に記載の方法により精製)および異なる分子量を有する複数のプロテオグリカンの混合組成物(Crude)を10mg/mLの濃度でリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解し、EAE誘導マウスに対して4週間、毎日ゾンデで午前9時〜12時の時間帯に胃内に投与した(PGの投与量は0.08,0.4,2mg/mouse、Crudeの投与量は2mg/mouse)。4週間の間、毎日EAEの臨床スコアをCua,DJ et al.Nature 421,744−748(2003)の記述に従って計測した。また、4週間後に脾臓(Spleen)と鼠径リンパ節(Draining LN)を採取し、常法に従って単細胞浮遊液を作製し、MOGによる再刺激を行った後か行うことなしに(unstimulated)、IL−17の産生量をELISAにて測定した。また、採取した脾臓と鼠径リンパ節からmRNAを精製し、IL−21、IL−23R、RORγtの遺伝子発現量を定量的リアルタイムRT−PCRにて測定した(内部標準遺伝子であるGAPDHの遺伝子発現量との相対値として算出)。なお、異なる分子量を有する複数のプロテオグリカンの混合組成物は、凍結させたサケの鼻軟骨を破砕し、水を加えて十分に混ぜ合わせてから遠心分離を行い、最上部の脂質層と中間部の水層を除去して最下部に残留する沈殿物を回収し、回収した沈殿物を凍結乾燥してから粉砕した後、有機溶媒(エタノール)を加えて残存する脂質を抽出除去し、最後に有機溶媒を除去することで調製したものを用いた。
【0015】
(実験結果)
Th17細胞が産生する能力を有しているIL−17の産生量に対するプロテオグリカンの作用を図1に示す(n=6)。また、Th17細胞の分化誘導の主要な転写因子であるRORγt、RORγtの産生を促進するIL−21、IL−17の産生を促進するIL−23受容体(IL−23R)のそれぞれの遺伝子発現量に対するプロテオグリカンの作用を図2に示す(n=6)。図1と図2から明らかなように、プロテオグリカンは多発性硬化症モデルマウスでのTh17細胞関連分子の産生と遺伝子発現を用量依存的に抑制したことから、Th17細胞の分化誘導を抑制する作用を有することがわかった。また、EAEの臨床症状に対するプロテオグリカンの作用を図3に示す。図3から明らかなように、プロテオグリカンはEAEの臨床症状を用量依存的に軽減したことから、多発性硬化症の予防や治療に有効であることがわかった(この効果は脳の病理組織学的評価においても組織への単核炎症細胞の浸潤が抑制されたことによって確認することができた)。
【0016】
実施例2:プロテオグリカンのTh17細胞の分化誘導抑制作用(その2:炎症性腸疾患モデルマウスを用いた検討)
(実験方法)
Ikenoue,Y.et al.Int.Immunopharmacol.5:993−1006(2005)の記述に従い、IL−10KOマウス(雌、12〜15週齢)より脾臓と腸間膜リンパ節(MLN)を採取し、常法に従って調製した両者の細胞浮遊液をSCIDマウス(雌、8〜10週齢)の腹腔内に移入し、炎症性腸炎を誘導した。同時に、実施例1と同様にして分子量が約100〜200kDaのサケの鼻軟骨由来のプロテオグリカンを10mg/mLの濃度でPBSに溶解し、炎症性腸炎誘導マウスに対して4週間、毎日ゾンデで午前9時〜12時の時間帯に胃内に2mg/mouse投与した。4週間後に脾臓と腸間膜リンパ節を採取し、mRNAを精製してIL−17A、IL−23p19、Foxp3の遺伝子発現量を定量的リアルタイムRT−PCRにて測定した(内部標準遺伝子であるGAPDHの遺伝子発現量との相対値として算出)。
【0017】
(実験結果)
IL−17AとIL−23p19のそれぞれの遺伝子発現量に対するプロテオグリカンの作用を図4に示す(n=9)。図4から明らかなように、プロテオグリカンは炎症性腸疾患モデルマウスでのTh17細胞関連分子の遺伝子発現を抑制したことから、Th17細胞の分化誘導を抑制する作用を有することがわかった。また、制御性T細胞に特異的に発現するFoxp3の遺伝子発現量に対するプロテオグリカンの作用を図5に示す(n=9)。図5から明らかなように、プロテオグリカンはFoxp3の遺伝子発現を促進したことから、Th17細胞の分化誘導を抑制する一方で、制御性T細胞の分化誘導を促進することがわかった。なお、プロテオグリカンの炎症性腸疾患に対する臨床的な有効性(予防効果と治療効果)は、体重減少の阻止と病理組織学的評価(腸管肥厚の抑制と組織への単核炎症細胞の浸潤の抑制)によって確認することができた。
【0018】
製剤例1:錠剤
1錠当たり5mgのプロテオグリカンを含む以下の成分組成からなる200mg錠剤を、各成分をよく混合してから打錠することで製造した。
プロテオグリカン 5mg
乳糖 137〃
でんぷん 45〃
カルボキシメチルセルロース 10〃
タルク 2〃
ステアリン酸マグネシウム 1〃
合計200mg/錠
【0019】
製剤例2:カプセル剤
1カプセル当たり20mgのプロテオグリカンを含む以下の成分組成からなる100mgカプセル剤を、各成分をよく混合してからカプセルに充填することで製造した。
プロテオグリカン 20mg
乳糖 53〃
でんぷん 25〃
ステアリン酸マグネシウム 2〃
合計100mg/カプセル
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、プロテオグリカンの新規な医薬用途として、Th17細胞の分化誘導抑制剤を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテオグリカンを有効成分とするTh17細胞の分化誘導抑制剤。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−254653(P2010−254653A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109756(P2009−109756)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年10月29日 文部科学省 科学技術・学術政策局が発行する「都市エリア産学官連携促進事業 平成20年度版」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】