説明

プロナーゼからのトリプシンの単離および精製の方法ならびにそれらの使用

【課題】一回のアフィニティークロマトグラフィー工程におけるプロナーゼからのStreptomyces griseusトリプシン(SGT)の単離および精製の方法ならびに精製したSGTの使用を提供する。
【解決手段】Streptomyces griseusプロナーゼよりStreptomyces griseusトリプシン(SGT)を単離する方法は、このプロナーゼを、アミジン、グアナジン(guanadine)、またはアミン含有種からなる群より選択される固定化されたアフィニティー部分と接触させる工程、および該固定化されたアフィニティー部分から、アミジン、グアナジン、またはアミン含有種からなる群より選択される溶離剤を含む溶離液を用いて該SGTを選択的に溶出する工程を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、一回のアフィニティークロマトグラフィー工程におけるプロナーゼからのStreptomyces griseusトリプシン(SGT)の単離および精製の方法ならびに精製したSGTの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
トリプシンは、広範囲の哺乳動物の消化管中に存在するセリンプロテアーゼである。トリプシンの機能は、ペプチド結合の加水分解性切断であり、従って大きなタンパク質のサイズを減少させ、そしてそのタンパク質を他のプロテアーゼによってさらに分解されることを可能にする。トリプシンは、生物工学的適用、特に哺乳動物細胞の培養において使用される。哺乳動物細胞の培養においては、トリプシンは、大きい細胞凝集物を崩壊させるため、またはマイクロキャリアもしくは培養プレートのような表面から細胞を除去するためのツールとして役立つ。トリプシンはまた、非トリプシン感受性バイオポリマーのプロセシングにおいて、酵素を分解するタンパク質として使用される。その周知の特異性のため、トリプシンはまた、分析プロセスおよび調製用プロセスの両方において選択的なタンパク質切断ツールとして使用される。トリプシンは、多数の特異的または非特異的プロテアーゼインヒビターによって不活化または阻害され得、それらの多くは、セルピンファミリーに属する。生物工学的適用において最も幅広く使用されるトリプシンインヒビターは、ダイズ由来のトリプシンインヒビターである。これらのトリプシンインヒビターの大部分は非常に特異的であるので、それらは他の夾雑プロテアーゼに対して不活性である。
【0003】
トリプシンは、様々な動物種の十二指腸腺より代表的に調製され、そして異なる程度の純度まで精製される。トリプシンの精製は、多数の異なる生化学的プロセス(沈殿、イオン交換クロマトグラフィーおよびアフィニティークロマトグラフィーが挙げられる)により行われ得る。予め精製したウシトリプシン(I型)は、不溶性キャリア上に固定されたベンズアミジンに結合し、そして高濃度のグアニジンもしくはアルギニンにより、または溶離剤のpHを下げることにより溶出され得ることが示されている(Elloualiら 1991.Chromsymp.2215:255−265)。トリプシンを得る哺乳動物の膵臓はまた、セリンプロテアーゼキモトリプシンを含んでおり、このキモトリプシンは、その生理化学的特性(アミジン誘導体との相互作用およびアミジン誘導体に対する親和性を含む)が、トリプシンと非常に類似する。結果として、これら2つのタンパク質は、分離することが困難である。従って、精製法に応じて、精製したトリプシン調製物は、様々な量の夾雑酵素、特にキモトリプシンを含み得る。さらに、哺乳動物由来のトリプシンは、外来因子(例えば、ウイルスおよびプリオン)を含み得る。TSE因子の作用が発見されており、そしてそれらはヒトに伝染する可能性があるので、ヒトが使用するために医薬品を提供する生物工学プロセスにおけるヒトまたは動物由来の材料の使用に関して継続した議論がなされている。
【0004】
プロナーゼ(微生物Streptomyces griseus(S.g.)由来のプロテアーゼ)は、動物組織より調製されたトリプシンの市販代用物である。プロナーゼは、組織からの初代細胞培養物の調製のために、そして表面、マイクロキャリア細胞培養物からの細胞の剥離のために、そして無血清培地における懸濁状態でのVERO細胞の増殖のために使用されている(Weinstein 1966.Exper.Cell Res.43:234−236;Manousosら 1980.In vitro 16:507−515,Litwin 1992.Cytotechn.10:169−174)。その作用の正確な機構は、分からない。プロナーゼは、異なる酵素の混合物であることが知られており、この酵素としては、様々な型のエンドペプチダーゼ(セリンおよびメタロプロテアーゼ)、エクソペプチダーゼ(カルボキシペプチダーゼおよびアミノペプチダーゼ)、中性プロテアーゼ、キモトリプシン、トリプシン、カルボキシペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、ならびに中性ホスファターゼおよびアルカリホスファターゼが挙げられる。
【0005】
酵素処理後、トリプシンの活性は、ウシ胎仔血清の添加によって通常中和される。このウシ胎仔血清は、多数の特異的プロテアーゼインヒビターおよび非特異的プロテアーゼインヒビターを含む。しかしながら、ワクチンおよび治療タンパク質の生成に使用される細胞培養培地においては、血清およびタンパク質(特に哺乳動物源由来の)を含まない培地が好ましい。従って、無血清培地(あらゆるトリプシンインヒビター活性を欠く)の使用は、新しいインヒビター活性源を同定することを必要とする。プロナーゼが様々なプロテアーゼの混合物であるため、プロテアーゼ活性の阻害は、異なるインヒビターの混合物を必要とし、非常に複雑かつ高価なプロセスをもたらす。従って、プロナーゼの使用に起因するタンパク質負荷および無血清培養物におけるインヒビターの組成は、哺乳動物由来のトリプシンおよび特異的なトリプシンインヒビターを使用する培養物と比較して非常に高くなる。さらに、培養培地へのプロナーゼの添加はまた、培地中により多いタンパク質が存在するため、精製プロセスに悪影響を与える。
【0006】
プロナーゼのトリプシン様活性は、一般的にStreptomyces griseusトリプシン(SGT)として知られ、ウシトリプシンに対して約33%の配列同一性を示す(Olafsonら 1975.Biochem 14:1168−1177)。Streptomyces griseusトリプシンは、異なる型のイオン交換樹脂を使用するクロマトグラフ技術によって精製されている。これらの方法は、代表的に、安定したマトリックスを使用し、溶出の間、リガンドが生成物中に流出するという問題を最小限に押さえる。しかしながら、これらの方法は、比較的低い選択性を有し、<10の範囲の精製係数をもたらす。結果として、高い度合いの純度を達成するために、いくつかの工程が組み合わされなければならず、それらの工程は、次に、トリプシンの自己消化およびそれによる活性の損失を引き起こし得る。CM−Sephadex上でのイオン交換クロマトグラフィーによる精製は、イオン交換カラム上での再クロマトグラフィーにより行われるさらなる精製と共に、Jurasekら(1971.Can.J.Biochem.49:1195−1201)およびOlafsonら(1975a.Biochem.14:1168−1177;1975b,Biochem.14:1161−1167)により記載される。Miyataら(1991.Cell Structure and Function 16:39−43)は、SGTを精製するための3工程陽イオン交換クロマトグラフィープロセスを記載する。SGTは、PAGE中で単一バンドとして移動することが見出されており、約30,000の分子量を有し、そしてBAEEアッセイにより測定された場合、ウシトリプシンよりも高いエステラーゼ活性を有する。しかしながら、3工程クロマトグラフィー精製法により精製されたSGTでさえ、カルボキシペプチダーゼB様活性が、わずかに混入していることが見出された。
【0007】
SGTはまた、SGTの非常に特異的なリガンドとしてサルミンのトリプシン消化より生じたオリゴペプチドを用いるアフィニティークロマトグラフィーにより、プロナーゼから精製されている。HClによるプロナーゼ中のプロテアーゼ混合物からのトリプシン様活性の溶出は、精製されたSGTを示したが、しかしながらそのSGTは、カルボキシペプチダーゼB様活性が混入していることが見出された(Kaseiら 1975.J.Biochem.78.:653−662;Yokosawaら 1976.J.Biochem.79:757−763)。分析のみを目的として、SGTはまた、リガンドとしてベンズアミジンを使用したアフィノフォレーシス(affinophoresis)によって、プロナーゼから分離された(Shimuraら 1982.J.Biochem.92:1615−1622)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
プロナーゼの活性トリプシン様機能の単離および分離のための単純な大規模法の必要性が存在する。これは、制御されたシステムを細胞培養法で使用することを可能にし、そしてヒトの病原体の夾雑物の危険性を持たない、微生物源からの規定された活性のフラクションを提供する。
【0009】
細胞の繁殖/増殖、バイオマス生成および生成物生成プロセスの間、細胞培養培地の添加物由来の夾雑を避ける必要性もまた存在する。細胞培養培地中のタンパク質負荷の減少は、高純度のタンパク質生成物を従来の精製法を用いて生成することを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要旨)
従って、プロナーゼから精製されたStreptomyces griseusトリプシン(SGT)の単離のための方法を提供することが、本発明の目的である。
【0011】
高い比活性を有する精製されたSGTの調製物を提供することもまた、本発明の目的である。
【0012】
生物工学プロセスにおいて、精製されたSGTの使用を提供することが、本発明の別の目的である。
【0013】
精製されたSGTを真核細胞のバイオマスの生成に使用するための使用を提供することが、本発明の別の目的である。
【0014】
ウイルスまたはウイルス抗原の生成のために、精製されたSGTの使用を提供することが、本発明の別の目的である。
【0015】
精製されたSGTのみを用いて継代および継代培養された細胞を用いた生物学的生成物の生成のために、精製されたSGTの使用を提供することもまた、本発明の目的である。
例えば、本発明は以下を提供する。
(項目1)
Streptomyces griseusプロナーゼよりStreptomyces griseusトリプシン(SGT)を単離する方法であって、該方法は、前記プロナーゼを、アミジン、グアナジン(guanadine)、またはアミン含有種からなる群より選択される固定化されたアフィニティー部分と接触させる工程、および該固定化されたアフィニティー部分から、アミジン、グアナジン、またはアミン含有種からなる群より選択される溶離剤を含む溶離液を用いて該SGTを選択的に溶出する工程、を包含する、方法。
(項目2)
前記溶離剤が、グアナジンである、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記溶離剤が、アルギニンである、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記アルギニンが、0.5〜1.2Mの間の濃度にある、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記溶離液が、約pH4.0と約pH9.0との間の範囲のpHを有する、項目1〜4のいずれかに記載の方法。
(項目6)
前記アフィニティー部分が、ベンズアミジンである、項目1〜5のいずれかに記載の方法。
(項目7)
前記溶離液が、約0.1Mと約1Mとの間の濃度の無機塩を含む、項目1〜6のいずれかに記載の方法。
(項目8)
前記SGTが、0.5M〜1.2Mのアルギニンを含有する溶液中に得られ、そして該SGTが、少なくとも95%の純度を有する、項目1に記載の方法。
(項目9)
精製された前記SGTから溶離剤を除去する工程をさらに含む、項目1〜8のいずれかに記載の方法。
(項目10)
調製物が、タンパク質1mgあたり少なくとも約25×10Uの比活性を有する、SGT精製調製物。
(項目11)
少なくとも約0.5Mの濃度のアルギニンを含み、そして、少なくとも95%の純度を有する、項目10に記載のSGT精製調製物。
(項目12)
前記プロナーゼを、アミジン、グアナジン、またはアミン含有種からなる群より選択される固定化されたアフィニティー部分と接触させる工程、およびを該固定化されたアフィニティー部分から、アミジン、グアナジン、またはアミン含有種からなる群より選択される溶離剤を含む溶離液を用いて該SGTを選択的に溶出させる工程、を包含する方法を用いて得られた、項目10に記載の調製物。
(項目13)
生物プロセスにおける、項目10に記載の調製物の使用。
(項目14)
細胞のバイオマスを生成するための方法であって、該方法は、細胞の培養物を提供する工程、項目10に記載の調製物を使用して該細胞を継代および継代培養する工程、および該細胞増殖させてバイオマスにする工程、を包含する、方法。
(項目15)
前記細胞が、無血清培地中で増殖される、項目14に記載の方法。
(項目16)
ウイルスまたはウイルス抗原を生成するのための方法であって、該方法は、細胞の細胞培養物を提供する工程であって、該細胞が、項目10に記載の調製物を使用して継代および継代培養される、工程、該細胞を増殖させてバイオマスにする工程、該バイオマスの細胞にウイルスを感染させる工程、および該細胞をインキュベートして該ウイルスを増殖する工程、を包含する、方法。
(項目17)
ウイルスまたはウイルス抗原を生成するための方法であって、該方法は、細胞の細胞培養物を提供する工程であって、該細胞は、項目10に記載の調製物を使用して継代および継代培養される、工程、該細胞に、パラミクソウイルス科、オルトミクソウイルス科、ロタウイルス科の群より選択されるウイルスを感染させる工程、タンパク質1mgあたり少なくとも約25×10Uの比活性を有するSGT精製調製物を添加して該ウイルスを活性化する工程、および生成した前記ウイルスを収集する工程、を包含する、方法。
(項目18)
前記生成されたウイルスを精製する工程をさらに包含する、項目17に記載の方法。
(項目19)
項目17に記載の方法によって得られた、ウイルスまたはウイルス抗原調製物。
(項目20)
組換え細胞から組換え産物を生成するための方法であって、該方法は、組換え細胞の細胞培養物バイオマスを提供する工程であって、該細胞が、項目10に記載の調製物を使用して継代および継代培養された工程、組換え産物が生成される条件下で前記細胞を培養する工程、および生成された組換え産物を収集する工程、を包含する、方法。
(項目21)
項目20に記載の方法によって得られた、組換え産物。
(項目22)
血清もタンパク質も含まない培地中で増殖させたバイオマスであって、該バイオマスは、項目10に記載の精製SGTを用いて継代および継代培養され、そして哺乳動物由来のトリプシンの使用により同一の条件下で培養した細胞培養物と比較して、総プロテアーゼタンパク質負荷が、少なくとも75%低減される、バイオマス。
(項目23)
ウイルスまたはウイルス抗原の精製プロセスにおける、項目10に記載の調製物の使用。
(項目24)
ワクチン生成のためにウイルスを生成するための、項目10に記載の調製物の使用。
(項目25)
プロタンパク質からのタンパク質の活性化のための、項目10に記載の調製物の使用。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、イオン交換クロマトグラフィーのSDS−PAGEを示す。レーン1:実施例1Aに記載のイオン交換クロマトグラフィーからの溶出物およびレーン2:実施例1Bに記載のアフィニティークロマトグラフィーより1Mアルギニンで溶出後の精製されたSGT。
【図2】図2は、精製されていないStreptomyces griseusプロナーゼおよび精製されたSGTのSDS−PAGEを示す。レーン1:精製されていないプロナーゼ、レーン2:アフィニティークロマトグラフィーの素通り画分、およびレーン3:アフィニティークロマトグラフィーおよび1Mアルギニンでの溶出後の精製されたStreptomyces griseusトリプシンを示す。
【図3】図3は、アフィニティークロマトグラフィーおよび1Mアルギニンでの溶出後の精製されたSGTの、異なる2つのロットのウエスタンブロット解析を示す。
【図4】図4は、精製SGTの逆相HPLCのクロマトグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(発明の詳細な説明)
本発明の目的は、Streptomyces griseusトリプシン(SGT)の大規模精製の単純な方法を提供することである。本発明の方法は、SGTの大規模精製に有用であり、そして生理学的に受容可能な溶離剤を利用するいくつかの実施形態において、様々な生物工学プロセスにすぐに使用できる安定したSGT調製物を提供する。
【0018】
一つの実施形態において、本発明は、1回のクロマトグラフィー工程によりSGTを単離する方法に関する。この方法は、プロナーゼを、固定化したアフィニティー部分(例えば、アミジン、グアニジン、またはアミン含有種)に接触させる工程およびアフィニティー部分として使用される同じ分類の化合物のメンバーを有するカラムから選択的にトリプシンを溶出する工程を用いる。溶離剤は、SGTに関して、キャリアに固定化されたアフィニティー部分に対する競合物として作用する。従って、いくつかの実施形態において、溶離剤は、SGTに対して、アフィニティー部分よりも高いアフィニティーを有するように選択される。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態に従って、プロナーゼを、アミジンを含有する固定化されたアフィニティーカラムと接触させる。本明細書中で使用される場合、用語「アミジン」としては、アミジンおよびその誘導体(例えば、ここでアミジノ窒素(=NH)に結合した水素原子は、置換アルキル基または非置換アルキル基、置換へテロアルキル基または非置換へテロアルキル基、置換アリール基または非置換アリール基、および置換へテロアリール基または非置換へテロアリール基により置換される)が挙げられる。これらの実施形態において、アミジンは以下の構造を有する:
【0020】
【化1】

ここで、はめこみ「C」を有する円は、カラムまたは他の固体支持体の成分を表す。記号R、R、およびRは、それぞれ、H、置換アルキル基または非置換アルキル基、置換へテロアルキル基または非置換へテロアルキル基、置換アリール基または非置換アリール基、および置換へテロアリール基または非置換へテロアリール基より独立して選択されたメンバーである。Rは、存在しても存在しなくてもよく、そして上に示した基(identity)(Hを除く)のいずれかを有し得る。代表的なアミジン誘導体としては、置換ベンズアミジンまたは非置換ベンズアミジン種が挙げられる。使用され得るアミジンとしては、塩酸ベンズアミジン;p−アミノベンズアミジンジヒドロクロライド;ビス(5−アミジノ−2−ベンズイミダゾリル)−メタン;a,a’−ビス(4−アミジノ−2−ヨードフェニル)−p−キシレン;1,2−ビス(5−アミジノ−2−ベンゾフラニル)−エタン;および6−アミジノ−2−(4−アミジノフェニル)−ベンゾ−[β]チオフェンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
他の例示的な実施形態において、アフィニティー部分は、グアニジンである。本明細書中で使用される場合、用語「グアニジン」としては、グアニジンおよびその誘導体(例えば、ここでアミジノ窒素(=NH)に結合した水素原子は、置換アルキル基または非置換アルキル基、置換へテロアルキル基または非置換へテロアルキル基、置換アリール基または非置換アリール基、および置換へテロアリール基または非置換へテロアリール基により置換される)が挙げられる。これらの実施形態において、グアニジン誘導体は、以下の構造を有する:
【0022】
【化2】

ここで、はめこみ「C」を有する円は、カラムまたは他の固体支持体の成分を表す。記号R、R、R、およびRは、それぞれ、H、置換アルキル基または非置換アルキル基、置換へテロアルキル基または非置換ヘテロアルキル基、置換アリール基または非置換アリール基、および置換へテロアリール基または非置換へテロアリール基より独立して選択されたメンバーを表す。Rは、存在しても存在しなくてもよく、そして上に示した基(Hを除く)のいずれかを有し得る。代表的なグアニジン含有種としては、グアニジノ酢酸およびその誘導体、置換グアニジノ安息香酸または非置換グアニジノ安息香酸、アルギニンならびにそれらのアナログ(例えば、カルボキシ基またはα−アミノ基で誘導される)が挙げられる。
【0023】
さらに他の例示的な実施形態において、アフィニティー部分は、アミン含有種である。本発明の実施において有用な例示的なアミン含有種としては、アミノ酸およびアミノ酸アナログ(例えば、カルボキシ基またはα−アミノ基で誘導体化される)が挙げられる。本発明において有用な代表的なアミノ酸は、リジン、その誘導体、ε−アミノカプロン酸などである。
【0024】
用語「アルキル」は、単独でまたは別の置換基の一部として、特に明記しない限り、直鎖もしくは分枝鎖、または環状炭化水素ラジカル、またはそれらの組み合わせを意味し、これらは、完全不飽和、一不飽和または多価不飽和であり、そして指定された数の炭素原子を有する(すなわち、C〜C10は、1〜10個の炭素原子を意味する)、2価ラジカルおよび多価ラジカルを含み得る。
【0025】
「アルキル」は、本明細書中で使用される場合、「アルキレン」基を含む。用語「アルキレン」は、単独で、または別の置換基の一部として、アルカン(−CHCHCHCH−で例示されるが、これに限定されない)由来の2価のラジカルを意味し、そして以下に「ヘテロアルキレン」として記載される基をさらに含む。代表的に、アルキル(またはアルキレン)基は1〜24個の炭素原子を有し、本発明においては、10個またはそれより少ない炭素原子を含むアルキル(またはアルキレン)基が好ましい。「低級アルキル」または「低級アルキレン」は、より短い鎖のアルキル基またはアルキレン基であり、一般的には8個またはそれより少ない炭素原子を有する。
【0026】
用語「ヘテロアルキル」は、単独で、または別の用語と組み合わせて、特に明記しない限り、安定した直鎖もしくは分枝鎖、または示した数の炭素原子およびO、N、SiおよびSからなる群より選択される少なくとも1つのヘテロ原子(ここで、窒素原子および硫黄原子は、必要に応じて酸化され得、そして窒素へテロ原子は、必要に応じて四級化され得る)からなる、環状炭化水素ラジカル、もしくはそれらの組み合わせを意味する。
【0027】
用語「アリール」は、特に明記しない限り、単一環または互いに縮合されたか、もしくは共有結合的に連結された、複数環(好ましくは1〜3環)であり得る、多価不飽和芳香族炭化水素置換基を意味する。用語「ヘテロアリール」は、N、O、およびSから選択された1〜4個のヘテロ原子を含有するアリール基(または環)であって、ここで、窒素原子および硫黄原子は、必要に応じて酸化され、そして窒素原子は、必要に応じて四級化される、アリール基をいう。ヘテロアリール基は、ヘテロ原子を通じて分子の残部に結合され得る。上記のアリール環系およびヘテロアリール環系の各々の置換基は、以下に記載される受容可能な置換基の群より選択される。
【0028】
上記のように、溶離剤は、使用されるアフィニティー部分と同じであるか、または使用されるアフィニティー部分のアナログである。代表的に、溶離剤は、SGTに対して、カラム上のアフィニティー部分より高いアフィニティーを有する。いくつかの実施形態において、溶離剤はアルギニンである。溶離液中の溶離剤(例えば、アルギニン)の濃度は、通常、少なくとも約0.5Mである。溶離液中の約0.5Mと約1.2Mとの間の濃度は、高純度を有するSGTの調製物を提供することが見出されている。最も好ましい濃度は、約0.8Mと約1.0Mとの間の濃度である。本発明の方法により得た収率は、先行技術のイオン交換クロマトグラフィー法に比べて高い。
【0029】
提供された方法において、SGTは様々なプロテアーゼの混合物より選択的に精製される。このプロテアーゼのうちいくつか(特にキモトリプシン)は、公知の方法で分離することが難しい、類似した生理化学的特性を有する。しかしながら、溶離液中に約0.5Mと約1.2Mとの間の濃度のアルギニンを使用する本発明の方法を用いて、SGTはプロナーゼ混合物中の他のプロテアーゼから選択的に分離される。
【0030】
溶離液は、溶離剤としてアルギニンを代表的に含有し、そして約pH4.0と約pH9.0との間(好ましくは、約pH5.0と約pH7.0との間)のpHを有し得る。使用され得る別のアミジン誘導体アナログとしては、アルギニンのアナログ(例えば、分子のカルボキシル末端に修飾を有するアルギニンのアナログ)(例えば、Kasai,K.(1992)Journal of Chromatography 597,3−18を参照のこと);C末端アミノ酸としてアルギニンを含有するペプチド(例えば、ロイペプチン、ペプスタチン)(例えば、Kasai、前出を参照のこと);リジンまたはリジンのアナログおよびC末端アミノ酸としてリジンを含有するペプチド;スルファメトキサゾラムおよびその誘導体(例えば、Wu,X.およびLiu,G.(1996)Biomedical Chromatography 10,228−232を参照のこと);ベンズアミジンおよびm位ならびに/またはp位に修飾を有するそのアナログ;ならびにグアニジンおよびその誘導体(例えば、Ellouali,ら(1991)Journal
of Chromatography 548,25−265を参照のこと)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
溶離液は、無機塩をさらに含有し得る。無機塩は、ナトリウム、リン酸または硫酸由来の塩であり得る。一般的に、ナトリウム塩(例えば、NaCl)が好ましい。無機塩は、約0.1Mと約1Mとの間の濃度であり得る。溶離剤において、約0.5Mと約1.0Mとの間の濃度が好ましい。
【0032】
本発明の方法は、アフィニティークロマトグラフィーカラムで都合よく行われる。アフィニティー部分が結合され得る任意のマトリックスは、アフィニティーキャリアとして使用され得る。このようなマトリックスまたはキャリアは、アガロース(例えば、Sepharose(登録商標)(Pharmacia))、多孔性粒子または多孔性ビーズ(例えば、Poros(登録商標)(Applied Biosystems)、あるいはToyopearl(登録商標)(Tosohaas))またはセルロース、デキストラン、アクリルレートもしくはシリケートに基づく他のキャリアより選択され得る。
【0033】
本発明の方法において、プロナーゼは好ましくは可溶化される。可溶化剤は、緩衝液であり得、ここで、緩衝溶液は、Tris−HCl緩衝液、リン酸緩衝液、または硫酸緩衝液であり得る。必要に応じて、緩衝液は、塩(例えば、ナトリウム塩)を含有し得る。緩衝液は、好ましくは約6.0と約8.0との間のpHを有する。プロナーゼは、キャリアマトリックスと接触させられ、そしてSGTは競合的溶離(代表的には、アルギニンを用いる)によって選択的に溶出される。
【0034】
溶離剤としてアルギニンを利用する場合、本方法で得られた精製SGTは、約0.5M〜約1.2Mのアルギニンを含有する溶液中に存在する。本実施形態の長所は、溶液中の溶離剤(例えば、アルギニン)の安定化特性のため、安定剤が添加されなくてもよいことである。従って、精製SGTは、液体中のさらなる安定剤なしで保存され得る。本方法で得られたSGTは、少なくとも約95%の純度、好ましくは少なくとも約98%の純度を有し、そして他のどの酵素(例えば、キモトリプシン)も本質的に含まない。
【0035】
溶離剤が生理学的に受容可能ではない、いくつかの実施形態において、溶離剤は精製SGTから除去される。任意の多数の標準方法が、この目的に使用される。このような方法としては、透析法、または適切な分子量カットオフを有するメンブレンを使用し、溶離剤が通り抜けることを可能にするが、一方SGTは保持物中に遅延される限外濾過法が挙げられる。このようなメンブレンは、周知であり、再生セルロース、PVDF、ポリエーテルスルホンなどから製造され得る。分子の相違(例えば、サイズ、電荷、疎水性、親和性など)を利用する、様々なクロマトグラフィー技術もまた、都合よく使用される。他の方法としては、溶離剤またはSGTのいずれかの沈殿が挙げられ、そしてSGTと比べて、異なる溶離剤の溶解特性に依存する。一般的に、高親和性溶離剤が使用される場合、溶離剤が除去され得る前に、溶離剤がSGTから最初に分離されねばならない。これは、周囲のパラメーター(例えば、pH、イオン強度、温度、誘電率など)を変えることにより、代表的に行われる。このような方法はまた、当該分野において周知である。
【0036】
本発明はさらに、少なくとも約95%の純度を有する精製SGTの調製物を提供する。しばしば、精製調製物は、少なくとも0.6Mのアルギニンの濃度のアルギニンを含有する。本発明のSGT調製物は、1mgのタンパク質あたり少なくとも約25×10Uの比活性を有する。好ましくは、この比活性は、タンパク質1mgあたり少なくとも40×10Uである。
【0037】
本発明の調製物は、約0.5M〜約1.2Mの間のアルギニンの溶液中、室温で少なくとも2週間および4℃で少なくとも4週間、代表的に安定である。より長期の保存のため、調製物は凍結されつづけ得るか、または凍結乾燥され得る。
【0038】
本明細書中で使用される場合、「安定な」は、アフィニティーキャリアからの溶出により直接得られた最初のSGT調製物の比活性の減少が、室温で24時間につき、5%未満であることを意味する。
【0039】
「SGT精製調製物」は、ウエスタンブロットアッセイおよびHPLCにより測定された場合、少なくとも約95%の純度を有する調製物を意味する。SGTの純度はまた、調製物の残存キモトリプシン活性により測定され得る。調製物中に存在し得る残存キモトリプシン活性は、キモトリプシン特異的な酵素試験により測定される。これらの分析は、例えば、実施例1に記載されるように実行され得る。この試験結果が、調製物中に検出可能なキモトリプシン活性がないことを示す場合、この調製物は、キモトリプシン活性がないと規定される。
【0040】
「比活性」は、多数の方法により測定され得る。一つの例は、特定のトリプシン活性試験(例えば、特異的基質(例えば、N−ベンゾイル−L−アルギニンエチルエステル(BAEE)またはN−ベンゾイル−L−イソロイシル−L−グルタミル−グリシル−L−アルギニン−p−ニトロアニリド塩酸塩(S222)についてのエステラーゼ活性)である。これらのアッセイは、例えば、実施例1および実施例2に記載されるように実行される。
【0041】
「特異性」は、トリプシン特異的インヒビターによる精製SGTの特異的な阻害を意味する。トリプシンインヒビターは、植物源または動物源由来(例えば、ダイズ由来のトリプシンインヒビターまたはニワトリの卵白由来のトリプシンインヒビター)であり得る。
【0042】
全ての酵素アッセイに対するコントロールとして、ブタ供給源またはウシ供給源由来の精製された市販のトリプシンが使用され得る。
【0043】
生理学的に受容可能な溶離液(例えば、アルギニン)を使用する場合、高度に精製されたSGT調製物を得るために1回クロマトグラフィー工程のみが必要とされるため、本発明の方法は、効率的かつ単純である。調製物は、溶離剤中で安定であり、そして酵素活性の有意な減少なしに溶液中で保存され得る。この方法を用いて、良好な収率で、比活性が高く、かつ純度が高い精製SGTが得られる。
【0044】
本発明は、アフィニティー部分(例えば、ベンズアミジン)に酵素を選択的に吸着させ、そしてアフィニティー部分のアナログ(例えば、アルギニン)を用いた競合的な溶出によって、インタクトなSGTを溶出させることによりSGTを精製する方法を提供する。非常に穏やかな方法である競合的な溶出を使用して、リガンド(例えば、ベンズアミジン)が、最終産物に入ることが回避される。さらに、大過剰の溶離剤(例えば、アルギニン)は、調製および保存の間の自己消化を回避することで、酵素の自己触媒活性を阻害し、そして安定した精製産物を維持する。別の長所は、アルギニンは大部分の細胞培養プロセスまたは精製プロセスと十分に適合性であるため、最終産物が生物工学プロセスにおけるその意図された目的に直接使用され得ることである。
【0045】
本発明に従って作製される最終精製産物の生理学的特徴は、例えば、細胞培養技術、タンパク質精製プロセスまたはトリプシンが使用される任意の他のプロセスにおける最終精製産物の直接使用を可能にする。非常に類似した作用の様態および特異性のため、SGTは、実質的に全ての生物工学的適用において、哺乳動物トリプシンの代替物として使用され得る。精製され、高度に均一となった場合、この酵素は周知のトリプシンインヒビターによって完全に阻害され得る。
【0046】
本発明の別の局面に従って、本発明の精製SGTは、生物プロセス(例えば、細胞培養、ウイルス活性化または精製)において使用される。例えば、精製されたSGTは、マトリックスからの真核細胞の剥離に使用され、そして必要に応じてさらに、その細胞の継代および継代培養、または発酵槽中での接種に使用される。本発明のSGTは、細胞の増殖および/または脊椎動物細胞の細胞培養バイオマスの生成に使用され得る。
【0047】
本発明のSGTはまた、細胞バイオマスの生成、または培養プレート、Rouxフラスコ、ローラーボトルもしくはマイクロキャリア培養での表面依存性真核細胞の継代に使用され得る。培養物は、層からの細胞の懸濁、組織からの細胞の単離および分離、または初代細胞培養物の調製のための単層培養物、マイクロキャリア培養物であり得る。脊椎動物細胞は、動物組織(例えば、器官)由来の任意の細胞、初代細胞由来の任意の細胞または連続細胞株由来の細胞であり得る。初代細胞は、サル腎臓、ハムスター腎臓、イヌ腎臓、卵巣または初代細胞培養物の生成に有用であると知られている他の器官であり得る。連続細胞株由来の細胞の例は、VERO;CV−1、CHO;BHK;MDCK;MRC−5、MDBK、WI−38であり、形質転換細胞、トランスフェクト細胞および組換え細胞を含む。
【0048】
細胞は、好ましくは無血清培地中で培養されそして増殖される。その培地は、最少培地(例えば、DMEMまたはDMEM HAM‘s F12、およびKistnerら(1998.Vaccine 16:960−968)に記載されるような当該分野で公知の他の最少培地)であり得る。最も好ましくは、細胞は、WO 96/15213、WO 00/0300またはWO 01/23527に記載されるような無血清かつ無タンパク質の培地中で増殖され得、そのためにこの最少培地には酵母抽出物またはダイズペプトンが補充され得る。
【0049】
本発明の別の局面に従って、精製SGTは、ウイルスまたはウイルス抗原の生成に使用される。この方法は、本発明の精製されたSGTを使用して細胞を継代および継代培養することにより、細胞培養物を提供する工程、細胞を増殖させてバイオマスにする工程および細胞にウイルスを感染する工程を包含する。細胞は、好ましくは無血清培地または無血清かつ無タンパク質の培地中で培養されそして増殖される。
【0050】
本発明により提供される方法は、細胞のバイオマスおよびウイルス生成プロセスを組み合わせており、ここで全ての工程は培地中のあらゆる哺乳動物由来源(例えば、血清またはタンパク質)を回避する条件下で実行される。さらに、継代および継代培養の間、細胞培養物中のSGTの高い比活性に起因して、タンパク質負荷は減らされ得る。従って本方法は、混入タンパク質の全体的タンパク質負荷を有意に減少させる。
【0051】
本発明に使用され得るウイルスの例は、オルソミクソウイルス科、パラミクソウイルス科、レオウイルス科、ピコルナウイルス科、フラビウイルス科、アレナウイルス科、ヘルペスウイルス科、ポックスウイルス科、ライノウイルス科およびレオウイルス科ならびにアデノウイルス科というウイルス科の群のウイルスであり、好ましくは、ポリオウイルス、インフルエンザウイルス、ロス川ウイルス、A型肝炎ウイルス、風疹ウイルス、ロタ(Rota)ウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、麻疹ウイルス、RS(Respiratory Syncytical)ウイルス、ワクシニアウイルスおよび組換えワクシニアウイルス、単純疱疹ウイルス、TBEV、日本脳炎ウイルス、西ナイルウイルス、黄熱病ウイルスならびにこれらのキメラの群より選択されるウイルスである。所望のウイルスの増殖のため、適切な宿主細胞およびこの宿主に感受性のウイルスの選択の方法は、周知である。細胞は、上記のような細胞から選択され得る。
【0052】
特定の実施形態に従って、精製SGTは、ウイルスまたはウイルス抗原の生成に使用される。ここでウイルスはプロテアーゼにより活性化される。このようなウイルスは、パラミクソウイルス科、オルソミクソウイルス科、ロタウイルス科の群から選択されたウイルスである。この方法は、細胞培養物を提供する工程であって、ここで細胞は本発明の精製されたSGTを使用して継代および継代培養される、工程、この細胞にパラミクソウイルス科、オルソミクソウイルス科、ロタウイルス科の群より選択されたウイルスを感染させる工程、ウイルスを精製SGTと接触させてウイルスを活性化する工程、ウイルスを増殖させる工程および生成させたウイルスを回収する工程を包含する。
【0053】
細胞の継代および継代培養のため、本発明の精製SGTは、細胞培養型、培養体積または培地体積、および培養プロセスで使用される精製SGTの比活性に依存して、約4μgと約1000μgとの間の量で、添加される。静置培養のために添加されるタンパク質の量は、約4μg/150cm〜約50μg/150cmの範囲であり得、ローラーボトルのために添加されるタンパク質の量は、約50μg/850cm〜約100μg/850cmの範囲であり得、そしてマイクロキャリア培養のために添加されるタンパク質の量は、1mgのタンパク質あたり約26×10Uの比活性を有するSGT調製物を含む培地1リットルあたり約1000μg〜約2000μgの範囲であり得る。最適な継代および継代培養の条件に必要とされるプロナーゼ/タンパク質の最少量を決定することは、当業者の知識内である。本発明の精製SGTの使用の長所は、(i)動物源由来のタンパク質を回避すること、および(ii)従来の細胞培養物(ここで、動物源由来のトリプシンが使用される)と比較して少なくとも5倍〜少なくとも25倍の間のSGTの高い比活性に起因して、タンパク質負荷を減少させること、である。
【0054】
本発明の一つの局面に従って、本発明の精製SGTは、無血清かつ無タンパク質の培地中で増殖される細胞バイオマスの生成に使用され、ここでこのバイオマスは、精製SGTを使用て継代および継代培養され、そして総プロテアーゼタンパク質負荷は、哺乳動物由来のトリプシンを使用して同一の条件下で培養された細胞培養物と比較して、少なくとも75%まで減少される。
【0055】
ウイルスの活性化に関し、本発明の精製SGTは、使用される精製SGTの比活性に依存して、培養容量(cmまたはcm)について約10μg〜500μgの総タンパク質量で使用され得る。記載された実施例に従うこと、および少なくとも2×10U/mgの特定の比活性を有する精製SGTの必要とされる総タンパク質量を、最適なウイルス比活性およびさらなるウイルス増殖に適応させることは、当業者の知識内である。
【0056】
精製SGT調製物を継代および継代培養および必要に応じてウイルス活性化に使用することにより、バイオマス生成およびウイルス増殖プロセスに由来するタンパク質負荷は、従来法で得られた細胞培養物と比較して、少なくとも75%までに、好ましくは少なくとも90%減らされ得る。
【0057】
記載した方法により、ウイルスまたはウイルス抗原調製物が得られる。ここで、細胞および細胞培養培地に由来する混入タンパク質の総タンパク質負荷は、類似の条件下で、哺乳動物由来のトリプシンを使用して培養された従来の細胞培養物を使用して得られた調製物と比較して、少なくとも75%まで減らされる。
【0058】
本発明の精製SGTを使用して細胞を培養し、そして必要に応じてウイルスを活性化する上記のような方法は、生成したウイルスを精製する工程をさらに包含し得る。低負荷の混入タンパク質(産物/ウイルス特異的ではないタンパク質)に起因して、残存夾雑タンパク質は、さらなる精製により除去され得る。得られる精製ウイルス調製物は、免疫原性組成物(例えば、予防ワクチンまたは治療ワクチン)中でさらに処方され得る。
【0059】
本発明の別の局面に従って、精製SGTは、精製プロセスにおいて使用される。広い範囲の精製法に関して、特異的なプロテアーゼ(例えば、トリプシン)を使用して、混入タンパク質を分解し、次いでこのプロテアーゼは、さらなる精製工程(例えば、濾過、クロマトグラフィーまたは遠心分離)を使用して除去される。本発明の精製SGTは、精製ウイルス(例えば、HAV)の調製の精製法において効率的に使用され得る。最適条件に必要とされる最小限の本発明の精製SGTを決定することは、当業者の知識内である。
【0060】
本発明の精製SGTはまた、組換え細胞由来の組換え産物の生成に使用され得る。この使用は、外来性のポリペプチドまたはタンパク質を発現する組換え細胞の細胞培養物を提供する工程であって、ここでこの細胞は、本発明の精製SGTを用いて継代および継代培養される工程、組換えポリペプチドまたは組換えタンパク質が生成される条件下で細胞を培養する工程、および生成したこの組換えポリペプチドまたは組換えタンパク質を回収する工程を包含する。細胞は、好ましくは無血清培地または無血清かつ無タンパク質の培地中で増殖される。細胞は、組換えタンパク質を発現可能な、組換え細胞(例えば、組換えCHO細胞)であり得る。
【0061】
記載した方法を用いて、組換え産物が得られる。ここで、細胞および細胞培養培地に由来する混入タンパク質の総タンパク質負荷は、同様の条件下で培養された、従来の細胞培養物を用いて、得られる調製物と比較して、少なくとも75%減らされる。
【0062】
別の局面に従って、本発明の精製SGTは、液体中で、または(例えば、米国特許第6,010,844号に記載されるような)不溶性キャリア上に固定化されてのいずれかにおいて、プロタンパク質の制御プロセシングのために使用されて、それらの成熟形態にされる。
【0063】
本発明の精製SGTは、SGTのタンパク質分解性により消化され得る、タンパク質により夾雑された生物工学装置(例えば、濾過器、発酵槽など)の洗浄に使用され得る。
【0064】
ここまで一般的に本発明を説明してきたが、本発明は、以下の実施例を参照して理解され得る。これらの実施例は、説明の目的のみで本明細書中に提供され、限定することを目的とするものではない。
【実施例】
【0065】
(実施例1)
(プロナーゼからのStrepomyces griseusトリプシンの精製)
(A.イオン交換クロマトグラフィー)
30gのプロナーゼ(Boehringer Ingelheim)を緩衝液A(0.02ピリジン、pH 5.0)中に溶解し、終濃度40mg/mlのプロナーゼにする。25mlの溶液を、緩衝液Aで平衡化した、CM Sepharose Cl 6B(Pharmacia)での陽イオン交換クロマトグラフィーに供する。室温で、カラム容量の5倍量の緩衝液A(0.02Mピリジン)および緩衝液B(0.75Mピリジン、pH
5.0)を用いた直線勾配を使用し、溶出を行う。
【0066】
回収した画分を、1:10の割合(例えば、100μgのタンパク質あたり1mgのダイズインヒビター)で画分のサンプルとダイズインヒビターとを有する混合し、その後にS222を用いて、クロマトグラフィー基質をアッセイすることにより、阻害特性に関して試験する。その結果を、1分間あたりのΔ吸光度単位(ΔA/分)として表す。ダイズインヒビターに対して最も高い阻害活性を有する画分を、SDS−PAGEによりさらに分析し、そしてクーマシーで染色する(図1、レーン1)。
【0067】
トリプシン活性を、基質としてN−ベンゾイル−L−アルギニンエチルエステル(BAEE、Tris緩衝液pH8.0、20mM CaCl中、25℃)を用いた色素形成アッセイにより測定し、そして1分間あたりのΔ吸光度単位を測定する。コントロール基準として、13×10U/mgの比活性を有するブタのトリプシン溶液(1mg/ml)を使用する。比活性は、1mgのタンパク質あたりのトリプシン酵素活性の単位として定義される。その結果を、表1に示す。
【0068】
キモトリプシン活性を、3−カルボキシメトキシプロピオニル−L−アルギニル−L−プロピル−L−チロシン−p−ノトロアニリン(notroaniline)塩酸塩(S−2586、Chromogenix)を用いた色素形成アッセイにより測定する。その結果を、1分間あたりのΔ吸光度単位(ΔA/分)と表す。
【0069】
【表1】

表1は、ダイズインヒビターを用いた阻害試験で測定された場合、トリプシン様活性を有するタンパク質を含む画分が、プロナーゼより約10倍高い比活性、および約70%の回収率にて、イオン交換クロマトグラフィーで精製され得ることを示す。しかしながら、このタンパク質は不安定であり、そしてSDS−PAGEにおいて単一のバンドではなく様々なバンドを示す。これは、このタンパク質の断片化および自己切断を示す(図1、レーン1)。
【0070】
(B.固定化されたベンズアミジンでのアフィニティークロマトグラフィー)
緩衝液A(50mM Tris,0.5M NaCl pH7.0)で平衡化したBenzamidine Sepharose 6B速流(Pharmacia)カラムに40mlのプロナーゼ溶液(75mg/ml、緩衝液A)を負荷する。溶出を、緩衝液B(50mM Tris、0.5M NaCl pH7.0、10mM ベンズアミジン塩酸塩pH7.0)、緩衝液C(0.5M NaCl、0.6Mアルギニン、pH5.5)または緩衝液D(0.5M NaCl、1Mアルギニン、pH5.5)を用いて行う。
【0071】
回収した画分を、阻害特性に関してはダイズインヒビターを用いて、ならびにトリプシン活性およびキモトリプシン活性については、実施例1Aに記載されるように試験する。比活性を、タンパク質1mgあたりの酵素活性の単位として測定する。
【0072】
【表2】

表2にまとめた結果は、ベンズアミジンを用いた競合溶出により、プロナーゼの精製トリプシン様活性の60%を、高い比活性で回収したことを示す。しかしながら、精製トリプシン様プロテアーゼを含む画分は、好ましくはさらに精製され、そして細胞培養増殖またはヒトにおける適用のための生物製剤の生成を含むプロセスでの使用の前に、ベンズアミジンが除去される。
【0073】
【表3】

表3の結果から見られ得るように、0.6Mのアルギニンを含有する緩衝液を使用する場合、プロナーゼの最初のトリプシン様活性の約63%が回収されるのに対し、1Mのアルギニンを含有する緩衝液を用いると、プロナーゼの最初のトリプシン様活性の約71%が回収される。アルギニンを用いてベンズアミジンアフィニティーキャリアから溶出された精製SGTもまた、イオン交換クロマトグラフィーまたはベンズアミジンキャリアからのベンズアミジンを用いた溶出により得られたSGTと比較して、より高い比活性を有する。さらに、上昇したモル濃度のアルギニンを含有する緩衝液を使用する場合、より高い純度かつより高い比活性の産物が得られる。
【0074】
未精製のS.griseusプロナーゼサンプル、アフィニティークロマトグラフィーカラムの素通り画分サンプルおよび1Mアルギニンで溶出した精製SGTサンプルを、SDS−PAGEにより分析する(図2)。
【0075】
ダイズインヒビターに対し、最も高い阻害活性を有する画分のサンプルを、モルモット由来の抗SGT血清を用いたウエスタンブロットによりさらに解析する(図3)。SGTの純度を、分析逆相HPLCを用いて測定する。ここで、精製SGTを逆相カラム(Nucleosil 300−5C18−150×2mm)に負荷し、そして直線勾配のアセトニトリルで溶出する。逆相HPLCのクロマトグラムは、図4に示される。純度は、総ピーク面積に対する主要ピークの関係として示される。逆相HPLCの精製SGTは、95%より高い純度を示した。クロマトグラムは、SGTに相当する鋭いピークを示す。オンラインHPLC−エレクトロスコーピー(electroscopy)イオン化質量分析法(ESI−MS)を使用し、精製SGTの分子量を測定する。従って、クロマトグラムの主要ピークは、23096.5Dの分子量を有し、この分子量は、理論上の質量である23099Dと非常に一致する。このデータは、さらに正確なN末端(NH−V−V−G−G−T−R−A−A−Q−G−E−F−P−F−M−V−)の評価によりさらに確認される。
【0076】
ベンズアミジンでの1工程アフィニティークロマトグラフィーにより精製され、そしてアルギニンで溶出された、精製トリプシン様プロテアーゼは、アルギニン溶液中で安定である。精製産物は、SDS−PAGEで単一バンドを示し、そして図1(レーン2)に見られ得るような低分子量ポリペプチドとなる顕著な断片化を有しはしないが、イオン交換クロマトグラフィーにより精製されたSGTは、断片化されて、図1(レーン1)に見られるような低分子量ポリペプチドとなる。
【0077】
アルギニンを用いた競合溶出によるアフィニティークロマトグラフィー精製法は、少なくとも95%の純度の精製SGTを生じ、この精製SGTは、SDS/ウエスタンブロットおよびHPLCにより示されるように、インタクトでかつ安定である。加えて、この精製SGTは、他のプロテアーゼ活性、特定のキモトリプシン、エンドトキシンおよびプロセスに関連した不純物(例えば、ベンズアミジン)を実質的に含まない。SGT精製調製物中の高濃度アルギニンに起因して、SGTは、室温で少なくとも2週間安定であり、そして自己触媒活性も、産物の不安定性も、SGT分解産物の増加も、比活性の損失もないことを示す。0.5M〜1.2M(pH2とpH10との間のpH)のアルギニン溶液中で安定化されたSGT調製物は、大部分の生物プロセスにおいて生理学的に受容可能であり、そしてさらなるプロセス(例えば、タンパク質、ウイルスの活性化)のため、または以下に記載するような精製法においてすぐに使用される。
【0078】
(実施例2)
(哺乳動物細胞の細胞培養に使用されるブタトリプシンおよび精製SGTの酵素活性の測)
各酵素のタンパク質含有量およびエステラーゼ活性を、ブタトリプシン(純粋グレード、IX型、結晶化、Sigma)、プロナーゼ(純粋グレード、Boehringer Ingelheim)、および実施例1Bに従い、ベンズアミジンSepharose 6Bでのアフィニティークロマトグラフィーおよび0.6Mのアルギニンを用いた溶出によって得られた精製SGTの基質として、BAEE(N−ベンゾイル−L−アルギニンエチルエステル)を使用して測定する。この実験およびさらなる実験の結果を表4にまとめる。
【0079】
【表4】

(実施例3)
(無血清かつ無タンパク質のVERO細胞の継代および継代培養のための総タンパク質負荷の測定)
継代数124で、呼称ATCC CCL 81でAmerican Type Cell Culture Collection,Rockville,Marylandより得た、VERO細胞(アフリカミドリザル、Cercopthecus aethiops、腎臓)を、無血清かつ無タンパク質の培地中で培養する。細胞を、Kistnerら(1998.Vaccine 16:960−968,WO 96/15231、または米国特許第6,100,061号)に記載されるように、無血清かつ無タンパク質の培地中で増殖するように適応させる。無血清培地中での増殖のために、無機塩類、アミノ酸、重炭酸ナトリウム(2g/l)および酵母抽出物またはダイズ抽出物(0.1〜10 g/l)を補充された基本的なDMEM HAM’s F12培地を使用する。作業細胞バンクを、動物由来の培地組成物を全く使用せずに調製する。
【0080】
Ham’s F12栄養混合物と1:1の比で混合したDMEM培地中で培養したVERO細胞の作業細胞バンク(WCB)の一つのアンプルを、ダイズ抽出物または酵母抽出物のいずれかを補充した無血清培地中に再懸濁する。
【0081】
1μgと10,000μgとの間の異なるタンパク質濃度のブタトリプシン(純粋グレード、IX型、結晶化、Sigma)、プロナーゼ(純粋グレード、Boehringer Ingelheim)および実施例2で測定されるような比活性を有する精製SGTを、Tフラスコの静置培養物、ローラーボトル中の細胞またはマイクロキャリアに結合した細胞に添加する。完全な細胞剥離そしてその後接着(継代培養)培養に必要であるトリプシン、プロナーゼおよび精製SGTの総タンパク質の量を、表5に示す。
【0082】
表5は、精製SGTを用いた場合、細胞剥離および細胞継代のためのプロテアーゼの総タンパク質負荷は、トリプシンを用いた場合に必要とされる量と比較して、静置培養において4%に減少し、ローラーボトルにおいて17%に減少し、そしてマイクロキャリア培養系においては20%に減少した。
【0083】
【表5】

(実施例4)
(細胞増殖に関する哺乳動物由来トリプシン、プロナーゼおよび精製SGTの比較)
小規模ベースで、静置培養(Tフラスコ)およびマイクロキャリア培養(Cytodex3(登録商標)、Pharmacia)において増殖させたVero細胞の細胞剥離特性および増殖特性を比較する。VERO細胞を、上記のように無血清かつ無タンパク質の培地中で培養する。
【0084】
VERO細胞を、Tフラスコ中またはマイクロキャリア上のいずれかにおいて、増殖させる(37℃、5〜10%のCO濃度)。継代培養を、実施例4において測定したように、ブタトリプシン(純粋グレード、IX型、結晶化、Sigma)およびプロナーゼ(純粋グレード、Boehringer Ingelheim)を、Tフラスコ中では100μgの最終量にて用いて、そしてマイクロキャリア培養中では5000μgにて用いて行う。2.6×10U/mgの比活性を有する精製SGTを、Tフラスコ培養物には4μgの最終量で、そしてマイクロキャリア培養物中には1000μgで添加する。細胞接着および細胞増殖を、目視検査および非接着細胞のカウントにより測定し、そして増殖活性として表す。表6は、Tフラスコ中またはマイクロキャリア上のいずれかで増殖させたVERO細胞の総量の%において表された増殖活性を示す。
【0085】
【表6】

表6に示されるように、粗製プロナーゼは無血清培地中で増殖させたVero細胞の十分な反復移入を可能にしないのに対し、精製SGTは、ブタトリプシンと同様に有効であるが、有意に減少した最終タンパク質負荷を有する。
【0086】
(実施例5)
(精製SGTを用いたVero細胞におけるウイルス抗原生成)
(5.1 ローラーボトル中のインフルエンザウイルスおよびウイルス生成のインビボ活性化)
2種類のVero培養物を、ローラーボトル中で増殖させ、1単位あたり約2×10の最終細胞密度のコンフルーエンシーにする。培養物に0.01のm.o.i.にてインフルエンザウイルスNanchang A/H3N2株を感染させる。ブタトリプシン(総タンパク質量:500μg)または精製SGT(総タンパク質量:50μg)を、インフルエンザウイルスのインビボ活性化のために添加する。この添加は、ウイルス増殖をさらに可能にする。48時間後の培養物における赤血球凝集活性を測定する。
【0087】
【表7】

表7に示されたデータは、効率的なインフルエンザウイルスのインビボ活性化およびウイルス増殖に関しては、哺乳動物由来トリプシンと比べて、精製SGTの総タンパク質量の約1/10が必要とされることを示す。従って、精製SGTの使用は、インビボ活性化工程の間の総タンパク質負荷において90%の減少を可能にし、そして哺乳動物由来のトリプシンと比較した場合、Vero細胞において同様のインフルエンザウイルス増殖を産生した。
【0088】
(5.2 無血清かつ無タンパク質の培地で増殖させた細胞におけるインフルエンザウイルス抗原の大規模生成およびウイルスの活性化のための精製SGTの使用)
Ham’s F12栄養混合物と1:1の比で混合したDMEM培地中で培養したVERO細胞の作業細胞バンク(WCB)の一つのアンプルを、ダイズ抽出物または酵母抽出物のいずれかを補充した無血清培地中に再懸濁する。規定の継代数を有するVero細胞を液体窒素より解凍し、そしてrouxおよびローラーボトル中で継代し、1.5リットルのバイオリアクターに接種するために十分な細胞を生成する。細胞を37℃で6〜8日間増殖させる。培養条件である酸素飽和度の20%±10%およびpHの7.1±pH0.2ならびに攪拌速度の30〜60rpmを制御する。最終細胞密度である1.5(1.0〜2.0)×10細胞/mlに到達後、細胞を精製SGT(1mg/l)により剥離し、そして2.5g/lのマイクロキャリア濃度(Cytodex III(登録商標),Pharmacia)を有する10リットルのバイオリアクターに移す。細胞数を細胞のトリプシン処理により測定し、そしてCASY(登録商標)細胞カウンターでカウントする。細胞をコンフルエントな培養条件下で培養し、1.0〜1.5×10細胞/mlの細胞密度を有するバイオマスに達する。
【0089】
バイオマスにインフルエンザウイルスNanchang株またはTexas−36のいずれかを感染させる。ウイルス増殖のプロセス中、さらなるインフルエンザウイルスの溶菌性感染サイクルの間、150μg/リットルの濃度の精製SGTの添加によりウイルスを活性化する。表8は、72時間後、HAU/mlにより測定された場合の、インフルエンザウイルス生成を要約する。
【0090】
【表8】

表8に示されるような結果に従い、継代および継代培養されかつ精製SGTを用いてスケールアップされたVero細胞は、大規模バイオリアクター中で効率的に増殖し、そしてインフルエンザウイルスを生成した。
【0091】
(実施例6)
(無血清かつ無タンパク質の培地で増殖させた細胞において増殖により得られたインフルエンザウイルス抗原の純度およびウイルスの活性化のためのSGTまたはトリプシンの使用)
Vero細胞の2つの並行細胞培養物を増殖し、実施例5.2に記載したようなバイオマスにする。これにより、ひとつをトリプシンを用いて継代および継代培養し、そしてひとつを精製SGTを用いて、rouxおよびローラーボトル中で継代および継代培養し、1.5リットルのバイオリアクターに接種するために十分な細胞を生成する。最終細胞密度である1.5(1.0〜2.0)×10細胞/mlに到達後、細胞を精製SGTまたはトリプシンにより剥離し、そして2.5g/lのマイクロキャリア濃度を有する10リットルのバイオリアクターに移す。1.0〜1.5×10/mlの細胞密度に到達することによってコンフルエントな培養条件に到達した後、バイオマスにインフルエンザウイルスTexas−36株を感染させる(m.o.i. 0.01)。ウイルスの活性化に関して、精製SGTまたはトリプシンを各細胞培養物に添加する。ウイルス増殖プロセスの終わりに、ウイルスを含む、澄んだ上澄み収集物をスクロース勾配による超遠心分離法で精製する。スクロース勾配精製抗原の純度は、タンパク質に対する抗原の比により測定される。赤血球凝集素の濃度を、Woodら(1977.J.Biol.Stand.5:237−247)により記載されるような、一元放射免疫拡散法(SRD)で測定し、そしてその結果をA/Texas−36株に対して、72時間後に比較する。その結果を表9にまとめる。
【0092】
【表9】

精製SGTを用いて継代され、そしてスケールアップされたVero細胞より得られたインフルエンザウイルス調製物は、より低いタンパク質混入を有するウイルス抗原の生成を可能にした。これらの結果は、単純な最初の精製工程後、トリプシンの使用と比較して、より高い純度のウイルス調製物が得られることを示す。さらに、45%の容積測定のバイオリアクター生産性(リアクター容量あたりの総SRDとして表される)における増加が得られた。
【0093】
(実施例7)
(A型肝炎ウイルスの生成)
(7.1 無血清かつ無タンパク質の培地で増殖させた細胞上のHAV抗原の生成)
細菌プラスミドpHAV/7にクローン化された弱毒化株HM175/7のゲノムの完全長cDNA(Cohenら,1987,J.Virol.61:3035−3039)を使用し、インビトロ転写により完全長ゲノムRNAを調製する。無血清かつ無タンパク質の、34℃のVERO細胞に、インビトロで転写したHAV RNAをトランスフェクトして、外来因子を含まないHAV HM175/7のウイルスストックを生成する。VERO細胞バイオマスを実施例5.2に従って調製する。
【0094】
HAV HM175/7ウイルスの大規模生成のため、1×1011個の細胞のバイオマスでのVERO細胞培養物を、マイクロキャリア上に播種し、そして37℃、無血清培地条件下、100lの発酵槽中で増殖させる。温度を34℃に下げ、そして次の醗酵サイクルの間、細胞数を8〜10倍増加させる。細胞に0.01〜0.1のm.o.i.で、HAVを、最後の醗酵槽中で感染させる。34℃で、350日まで、感染した細胞の増殖を、細胞培養培地の持続性潅流を用いて行い得る。ウイルス抗原が培地中に検出される場合、ウイルスを含む上清を収集し、4℃で保存する。細胞培養上清の収集を、感染後35〜45日目に始める。
【0095】
(7.2 HAV収集物の精製および精製HAVの特徴付け)
実施例7.1の細胞培養上清のHAV収集物を、Prostak Ultrafilter 200 Kでの限外濾過により100倍濃縮し、続いて緩衝液を50mM Tris緩衝液pH 8.0、0.01% Tweenに交換して、ダイアフィルトレーション工程(Prostak 200 K,Diafilter)を行う。調製物中に存在し得る、残留した宿主細胞の核酸を、1000U/lの濃度(1mM MgCl中に溶解)のBenzonase(登録商標)(Serratia marcescens由来のエンドヌクレアーゼ、Benzonase(登録商標)として市販(Benzon PharmaA/S))とともに、3時間室温でダイアフィルトレーション残留物(Diaretenate)をインキュベーションすることにより除去する。続いて、0.5〜5U/mlの濃度での精製Streptomyces griseusトリプシン(SGT)を添加し、残留物(retentate)を室温で24時間さらにインキュベートする。宿主細胞夾雑物(すなわち、核酸および/またはタンパク質)を、緩衝液として20mM PBS pH7.4を用いる100Kメンブランでのダイアフィルトレーションにより除去する。
【0096】
少なくとも1000 ELISA単位/mlのHAV抗原を含むサンプルを各濾過工程の間に採取し、SDS−PAGEに供し、そして銀染色をして総タンパク質を可視化するかまたはウエスタンブロット分析により分析してHAV特異的抗原を定量する。HAV特異的抗原を、HAVカプシドタンパク質に特異的な抗血清を用いてウエスタンブロット分析により同定する。HAV前駆体タンパク質が精製プロセスの間に除去されることが示され得る。HAV特異的ポリペプチドは、細胞培養上清の出発物質中で検出され、そのポリペプチドは精製SGTの処理後のダイアフィルトレーション残留物中に存在しないが、HAV特異的カプシドタンパク質VP1、VP2およびVP3は、プロテアーゼ処理による影響を受けない。このポリペプチドは、銀染色およびウエスタンブロットによる異なる中間体の分析は、精製SGTを用いたプロテアーゼ処理精製手順の有効性を明らかに証明する。
【0097】
VERO細胞タンパク質に対して生じた抗血清を用いたウエスタンブロット分析は、出発物質および精製において、主に高い分子量VEROタンパク質の広範囲の中間体が検出可能であることを示した。しかし、最終残留物において、微量なVERO細胞タンパク質夾雑物のみが検出可能である。これは、HAV生成プロセスおよび精製プロセスの間、高純度SGTでの処理が、VERO細胞タンパク質混入物およびHAV前駆体ポリペプチドを効率的に分解することを示す。
【0098】
(実施例8)
(固定化された精製SGTによる、トロンビンへのプロトロンビンの活性化、およびアフィニティークロマトグラフィーによるトロンビンの回収)
精製SGT(1gの湿ったゲルあたり100mgタンパク質)をアガロースゲル(ゲル1mlあたり5000 BAEE U SGT)と結合させる。ガラスカラムに0.1mlの固定化SGT−アガロースを充填し、そして組換えプロトロンビンを米国特許第6,010,844号に記載される、同一の条件下で固定化SGTに供する。米国特許第6,010,844号に記載される方法に従い、トロンビンを単離および調製する。この方法は、本明細書中に参考として援用される。
【0099】
上記の実施例は、本発明の説明のために提供され、その範囲を限定することはない。本発明の他の改変物は、当業者に容易に理解され、そして添付の特許請求の範囲により包含される。本明細書中に引用されたすべての刊行物、特許、および特許出願は、すべての目的のために、参考として援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−268799(P2010−268799A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146898(P2010−146898)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【分割の表示】特願2003−551296(P2003−551296)の分割
【原出願日】平成14年12月10日(2002.12.10)
【出願人】(501453189)バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム (289)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER HEALTHCARE S.A.
【Fターム(参考)】