説明

プロピオン酸エステル誘導体の製造方法

【課題】 オレフィン性不飽和化合物からプロピオン酸誘導体を、容易にかつ効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】 一般式(1)で表されるオレフィン性不飽和化合物と、一般式(2)で示されるアルコール類及び一酸化炭素とを、10族金属化合物、一般式(3)で示される中性助触媒の少なくとも一種の存在下に反応させることを特徴とする、一般式(4)及び/又は一般式(5)で示されるプロピオン酸エステル誘導体の製造方法。
【化13】


〔式中、R〜Rは水素原子、アルキル基、アリール基、アシロキシ基等を表し、Rはアルキル基、シクロアルキル基等を表し、Rはアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基を表し、Xは陰性置換基を表す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬・農薬の製造中間体、高分子の製造原料等として有用なプロピオン酸エステル誘導体を、オレフィン性不飽和化合物から簡便かつ収率よく製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オレフィン性不飽和化合物をプロピオン酸エステル誘導体に変換する方法としては、オレフィン性不飽和化合物をヒドロホルミル化反応によってプロピオンアルデヒド類に変換した後、このものを酸化する方法が知られている。しかし、この方法は酸化反応を行うものであるため、工業的規模で製造する場合には危険を伴う。また、反応に用いた酸化剤の後処理操作が煩雑である。従って、オレフィン性不飽和化合物からより簡便かつ収率よく目的とするプロピオン酸エステル誘導体を製造する方法の開発が望まれていた。
【0003】
オレフィン性不飽和化合物をプロピオン酸エステル誘導体に変換する方法としては、アルコール及び一酸化炭素と反応させるヒドロエステル化反応も知られている。この方法は、例えば非特許文献1,2に記述されているように、一般に酸性物質を助触媒として用いるため、反応器の腐食が著しく、また、酸性条件で安定ではない出発物質や生成物の反応に適用した場合には、出発物質や生成物の加アルコール分解等の分解を伴うため、所望のカルボニル化生成物の収率が低下する問題点を有している。例えば、酢酸ビニルのヒドロエステル化反応を酸性助触媒を用いて実施すると、所望のアセトキシプロピオン酸エステル以外に、ヒドロキシプロピオン酸エステル、用いたアルコールと酢酸ビニルの反応により生成すると考えられる酢酸エステル、更にアセトアルデヒドの対応アセタール等が副生することが知られている。これを回避する方法として、特許文献1には用いる酸の濃度を制限する手法が開示されている。また、特許文献2では、高分子に結合したスルホン酸を用いる方法が提案されている。一方、ヒドロエステル化反応の助触媒としては、非特許文献3に示されるように、塩基性化合物を添加する方法も知られている。酢酸アルケニルのヒドロエステル化に関しても、非特許文献4によれば、ピリジン誘導体のような塩基性助触媒の存在下、パラジウム錯体触媒を用いて実施する方法が記述されているが、反応条件が厳しく、塩基の性質により、ジオキソラン骨格を有する副生成物、酢酸メチル、αヒドロキシエステル等が多量に生成し、目的とするアセトキシプロピオン酸エステル誘導体の収率は満足すべきものではない。
【特許文献1】国際公開第2004/050599号パンフレット
【特許文献2】特願2004−056489公報
【非特許文献1】Jounal of Molecular Catalysis A:Chemical、1997年、115、pp.289−295
【非特許文献2】Jounal of Molecular Catalysis A:Chemical、1997年、118、pp.247−253
【非特許文献3】Chemical Reviews、2001年、101巻、3435ページ
【非特許文献4】Bulletin of the Chemical Society of Japan、1996年、69巻、1337ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、オレフィン性不飽和化合物からプロピオン酸エステル誘導体を、穏和な条件下、簡便かつ収率よく製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、オレフィン性不飽和化合物を出発原料として、プロピオン酸エステル誘導体を簡便かつ効率よく製造する方法について鋭意研究した。その結果、従来一般的に用いられてきた酸性助触媒に変えて、陰性置換基を結合したRXを助触媒に用いてもヒドロエステル化反応が効率的に進行し、収率よく目的とするプロピオン酸エステル誘導体を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明によれば、一般式(1)
【0006】
【化7】

(式中、R〜Rは、独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアシロキシ基、置換基を有していてもよいカルボアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニロキシ基、置換基を有していてもよいアルカンスルホニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアリーロキシ基、置換基を有していてもよいアロイル基、置換基を有していてもよいアロイロキシ基、置換基を有していてもよいカルボアリーロキシ基、置換基を有していてもよいアリーロキシカルボニロキシ基、置換基を有していてもよいアレーンスルホニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアラルキロキシ基、置換基を有していてもよいアラルカンカルボニル基、置換基を有していてもよいアラルカンカルボニロキシ基、置換基を有していてもよいカルボアラルキロキシ基、置換基を有していてもよいアラルキロキシカルボニロキシ基、置換基を有していてもよいアラルカンスルホニル基、カルバモイル基、ホスホリル基、ホスホリロキシ基、アミド基、置換基を有していてもよいシリル基又はシアノ基を表す。また、これらのR〜Rのいずれか二つの基から水素原子を1原子ずつ除いた残基が分子内で互いに結合して環構造を形成するものであっても良い。更に、R〜Rが芳香環を含む場合の芳香環は複素芳香環であっても良い。)で表されるオレフィン性不飽和化合物と、一般式(2)
【0007】
【化8】

(式中、Rは置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいシクロアルキル基を表す。)で示されるアルコール類及び一酸化炭素とを、10族金属化合物、一般式(3)
【0008】
【化9】

(式中Rは置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアリール基を表し、Xは陰性置換基を表す。また、Rが芳香環を含む場合の芳香環は複素芳香環であっても良い。)で示される中性助触媒の少なくとも一種の存在下に反応させることを特徴とする、一般式(4)及び/又は一般式(5)
【0009】
【化10】

【化11】

(式中、R〜Rは前記と同じ意味を表す。)で示されるプロピオン酸エステル誘導体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、医薬・農薬の製造中間体、高分子の製造原料等として有用なプロピオン酸誘導体を、オレフィン性不飽和化合物から容易にかつ効率的に製造することができ、その単離精製も容易である。従って、本発明は工業的に多大の効果をもたらす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の製造方法を詳細に説明する。
本発明によれば、10族金属化合物、一般式(3)で示される中性助触媒の存在下に、一般式(1)で示されるオレフィン性不飽和化合物と、一般式(2)で示されるアルコール類及び一酸化炭素とを反応させることにより、一般式(4)及び/又は式(5)で示されるプロピオン酸エステル誘導体が製造される。
【0012】
本発明に用いる一般式(1)で示されるオレフィン性不飽和化合物において、式(1)中のR〜Rは、独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアシロキシ基、置換基を有していてもよいカルボアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルカンスルホニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアリーロキシ基、置換基を有していてもよいアロイル基、置換基を有していてもよいアロイロキシ基、置換基を有していてもよいカルボアリーロキシ基、置換基を有していてもよいアレーンスルホニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアラルキロキシ基、置換基を有していてもよいアラルカンカルボニル基、置換基を有していてもよいアラルカンカルボニロキシ基、置換基を有していてもよいカルボアラルキロキシ基、置換基を有していてもよいアラルカンスルホニル基、ホスホリル基、ホスホリロキシ基、アミド基、置換基を有していてもよいシリル基又はシアノ基を表す。また、これらのR〜Rのいずれか二つの基から水素原子を1原子ずつ除いた残基が分子内で互いに結合して環構造を形成するものであっても良い。更に、R〜Rが芳香環を含む場合の芳香環は複素芳香環であっても良い。
【0013】
〜Rがアルキル基の場合のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、t−ペンチル基、n−へキシル基、イソへキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基を例示することができる。
【0014】
〜Rがシクロアルキル基の場合のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数3〜8のシクロアルキル基を例示することができる。
【0015】
〜Rがアルコキシ基の場合のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−へキシルオキシ基等の炭素数1〜6の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基;シクロプロピルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等の炭素数3〜8のシクロアルコキシ基を例示することができる。
【0016】
〜Rがアシル基の場合のアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、n−ブチリル基、イソブチリル基、n−ペンタノイル基等の炭素数2〜7の直鎖若しくは分岐のアシル基;シクロペンタンカルボニル基、シクロヘキサンカルボニル基等の炭素数4〜9のシクロアルカンカルボニル基を例示することができる。
【0017】
〜Rがアシロキシ基の場合のアシロキシ基としては、アセトキシ基、プロピオニロキシ基、n−ブチリロキシ基、イソブチリロキシ基、n−ペンタノイロキシ基等の炭素数2〜7の直鎖若しくは分岐のアシロキシ基;シクロペンタンカルボニロキシ基、シクロヘキサンカルボニロキシ基等の炭素数4〜9のシクロアルカンカルボニロキシ基を例示することができる。
【0018】
〜Rがカルボアルコキシ基の場合のカルボアルコキシ基としては、カルボメトキシ基、カルボブトキシ基、カルボイソプロポキシ基、カルボヘキシロキシ基等の炭素数2〜7の直鎖若しくは分岐のカルボアルコキシ基;カルボシクロペンチロキシ基、カルボシクロオクチロキシ基等の炭素数2〜9のカルボシクロアルコキシ基を例示することができる。
【0019】
〜Rがアルコキシカルボニロキシ基の場合のアルコキシカルボニロキシ基としては、メトキシカルボニロキシ基、ブトキシカルボニロキシ基、イソプロポキシカルボニロキシ基、ヘキシロキシカルボニロキシ基等の炭素数2〜7の直鎖若しくは分岐のアルコキシカルボニロキシ基;シクロペンチロキシカルボニロキシ基、シクロオクチロキシカルボニロキシ基等の炭素数4〜9のシクロアルコキシカルボニルオキシ基を例示することができる。
【0020】
〜Rがアルカンスルホニル基の場合のアルカンスルホニル基としては、メタンスルホニル基、エタンスルホニル基、n−プロパンスルホニル基、イソブタンスルホニル基、n−ヘキサンスルホニル基等の炭素数1〜6の直鎖若しくは分岐のアルカンスルホニル基;シクロペンタンスルホニル基、シクロヘキサンスルホニル基等の炭素数3〜8のシクロアルカンスルホニル基等の炭素数3〜8のアリール基を例示することができる。
【0021】
〜Rがアリール基の場合のアリール基としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アントリル基、1−フェナントリル基等の炭素数6〜14のアリール基を例示することができる。
【0022】
〜Rがアリーロキシ基の場合のアリーロキシ基としては、フェノキシ基、ナフトキシ基等の炭素数6〜14のアリーロキシ基を例示することが出来る。
【0023】
〜Rがアロイル基の場合のアロイル基としては、ベンゾイル基、1−ナフトイル基、2−ナフトイル基、1−アントラセンカルボニル基、1−フェナントレンカルボニル基等の炭素数7〜15のアロイル基を例示することができる。
【0024】
〜Rがアロイロキシ基の場合のアロイロキシ基としては、ベンゾイロキシ基、1−ナフトイロキシ基、2−ナフトイロキシ基、1−アントラセンカルボニロキシ基、1−フェナントレンカルボニロキシ基等の炭素数7〜15のアロイロキシ基を例示することができる。
【0025】
〜Rがカルボアリーロキシ基の場合のカルボアリーロキシ基としては、カルボフェノキシ基、カルボナフトキシ基等の炭素数7〜15のカルボアリーロキシ基を例示することが出来る。
【0026】
〜Rがアリーロキシカルボニロキシ基の場合のアリーロキシカルボニロキシ基としては、フェノキシカルボニロキシ基、1−ナフトキシカルボニロキシ基、2−ナフトキシカルボニロキシ基等の炭素数7〜15のアリーロキシカルボニロキシ基を例示することができる。
【0027】
〜Rがアレーンスルホニル基の場合のアレーンスルホニル基としては、ベンゼンスルホニル基、1−ナフタレンスルホニル基、2−ナフタレンスルホニル基、1−アントラセンスルホニル基、1−フェナントレンスルホニル基等の炭素数6〜14のアレーンスルホニル基を例示することができる。
【0028】
〜Rがアラルキル基の場合のアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、3−フェニルプロピル基、1−ナフチルメチル基、2−ナフチルメチル基、1−アントリルメチル基、1−フェナントリルメチル基等の炭素数7〜15のアラルキル基を例示することができる。
【0029】
〜Rがアラルキロキシ基の場合のアラルキロキシ基としては、ベンジロキシ基、ナフトキシ基等の炭素数7〜15のアラルキロキシ基を例示することができる。
【0030】
〜Rがアラルカンカルボニル基の場合のアラルカンカルボニル基としては、フェニルアセチル基、フェニルプロピオニル基、1−ナフチルアセチル基、2−ナフチルアセチル基、1−アントリルアセチル基、1−フェナントリルアセチル基等の炭素数8〜16のアラルカンカルボニル基を例示することができる。
【0031】
〜Rがアラルカンカルボニロキシ基の場合のアラルカンカルボニロキシ基としては、フェニルアセトキシ基、フェニルプロピオニロキシ基、1−ナフチルアセトキシ基、2−ナフチルアセトキシ基、1−アントリルアセトキシ基、1−フェナントリルアセトキシ基等の炭素数8〜16のアラルカンカルボニロキシ基を例示することができる。
【0032】
〜Rがカルボアラルキロキシ基の場合のカルボアラルキロキシ基としては、カルボベンジロキシ基、カルボナフチルメトキシ基等の炭素数8〜16のカルボアラルキロキシ基を例示することができる。
【0033】
〜Rがアラルキロキシカルボニロキシ基の場合のアラルキロキシカルボニロキシ基としては、ベンジロキシカルボニロキシ基、1−フェニルエトキシカルボニロキシ基、2−フェニルエトキシカルボニロキシ基等の炭素数8〜16のアラルキロキシカルボニロキシ基を例示することができる。
【0034】
またR〜Rがアラルカンスルホニル基の場合のアラルカンスルホニル基としては、アルファートルエンスルホニル基、フェニルエタンスホニル基、1−ナフチルメタンスルホニル基、2−ナフチルメタンスルホニル基、1−アントリルメタンスルホニル基、1−フェナントリルメタンスルホニル基等の炭素数7〜15のアラルカンスルホニル基を例示することができる。
【0035】
〜Rがカルバモイル基の場合のカルバモイル基としては、N−モノ置換又はN,N−ジ置換のいずれであっても反応に供することが出来、窒素原子上の置換基としては、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基からなる群から任意に二つを選択することが出来る。カルバモイル基を具体的に例示すれば、N−メチルカルバモイル基、N−エチルカルバモイル基、N−プロピルカルバモイル基、N−イソブチルカルバモイル基、N−ヘキシルカルバモイル基等の炭素数2〜7の直鎖若しくは分岐のN−アルキルカルバモイル基;N−シクロヘキシルカルバモイル基等の炭素数4〜9のN−シクロアルキルカルバモイル基;N−フェニルカルバモイル基、N−1−ナフチルカルバモイル基、N−2−ナフチルカルバモイル基、N−1−アントリルカルバモイル基、N−1−フェナントリルカルバモイル基等の炭素数7〜15のN−アリールカルバモイル基;N−ベンジルカルバモイル基、N−(1−ナフチルメチル)カルバモイル基、N−(2−ナフチルメチル)カルバモイル基、N−(1−アントリルメチル)カルバモイル基、N−(1−フェナントリルメチル)カルバモイル基等の炭素数8〜16のN−アラルキルカルバモイル基;N,N−ジメチルカルバモイル基、N−メチル−N−フェニルカルバモイル基、N−エチル−N−ベンジルカルバモイル基等の炭素数3〜17のN,N−ジ置換カルバモイル基を例示することができる。
【0036】
〜Rがホスホリル基の場合のホスホリル基は、本明細書においては、P=O結合を有しかつ該リン原子に1価の基が2つ結合したリン原子を含む原子団を意味し、2つの該1価の基は、独立に、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜15のアラルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数6〜12のアリーロキシ基、炭素数7〜15のアラルキロキシ基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。また、リン原子に結合した2つの1価の基から水素原子を1原子ずつ除いた残基が互いに結合し環状構造を有するものであってもよい。このようなホスホリル基を具体的に例示すると、式(7)〜(19)に示すものが挙げられる。
【0037】
【化12】

【0038】
〜Rがホスホリロキシ基の場合のホスホリロキシ基は、前記したホスホリル基のリン原子に酸素原子が結合した原子団を示し、具体例としては式(7)〜(19)に例示したホスホリル基のリン原子に酸素原子が結合したものを例示することが出来る。
【0039】
〜Rがアミド基の場合のアミド基は、モノアシルアミノ基、ジアシルアミノ基、モノアロイルアミノ基、ジアロイルアミノ基が包含される。これらのアミド基におけるアシル基又はアロイル基は、R〜Rがアシル基の場合のアシル基として、又はR〜Rがアロイル基の場合のアロイル基として先に例示したものが包含される。
【0040】
〜Rがシリル基の場合のシリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、フェニルジメチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基等を例示することができる。
【0041】
〜Rが芳香環を含む場合の芳香環は複素芳香環であっても良く、複素芳香環としては、フラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環等を例示することが出来る。
【0042】
〜R上の置換基としては、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子の他、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アシル基、アシロキシ基、カルボアルコキシ基、アルカンスルホニル基、アリール基、アリーロキシ基、アロイル基、アロイロキシ基、カルボアリーロキシ基、アレーンスルホニル基、アラルキル基、アラルキロキシ基、アラルカンカルボニル基、アラルカンカルボニロキシ基、カルボアラルキロキシ基、アラルカンスルホニル基、カルバモイル基、ホスホリル基、ホスホリロキシ基、アミド基、シリル基又はシアノ基を挙げることが出来る。これらのアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アシル基、アシロキシ基、カルボアルコキシ基、アルカンスルホニル基、アリール基、アリーロキシ基、アロイル基、アロイロキシ基、カルボアリーロキシ基、アレーンスルホニル基、アラルキル基、アラルキロキシ基、アラルカンカルボニル基、アラルカンカルボニロキシ基、カルボアラルキロキシ基、アラルカンスルホニル基、カルバモイル基、ホスホリル基、ホスホリロキシ基、アミド基又はシリル基の具体例としては、R〜Rがアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アシル基、アシロキシ基、カルボアルコキシ基、アルカンスルホニル基、アリール基、アリーロキシ基、アロイル基、アロイロキシ基、カルボアリーロキシ基、アレーンスルホニル基、アラルキル基、アラルキロキシ基、アラルカンカルボニル基、アラルカンカルボニロキシ基、カルボアラルキロキシ基、アラルカンスルホニル基、カルバモイル基、ホスホリル基、ホスホリロキシ基、アミド基又はシリル基である場合についてそれぞれ例示したものと同一のものを挙げることが出来る。これらの置換基は、任意の位置に同一又は相異なって複数個が結合していてもよい。
【0043】
オレフィン性不飽和化合物(1)の具体例を例示すると、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−オクテン、2−ブテン、ビニルシクロヘキサン、スチレン、p−イソブチルスチレン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、6−メトキシ−2−ビニルナフタレン、α−メチルスチレン、エチルビニルエーテル、イソプロペニルメチルケトン、酢酸ビニル、酢酸イソプロペニル、酢酸1−プロペン−1−イル、プロピオン酸ビニル、吉草酸ビニル、安息香酸ビニル、フェニル酢酸ビニル、酢酸アリル、アクリル酸エチル、桂皮酸メチル、フェニルビニルスルホン、(1−プロペン−1−イル)メチルスルホン、トリフルオロプロペン、(フェニルアセチル)エチレン、3−ペンテノニトリル、N−メチルアクリルアミド、N−フェニルクロトンアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ビニルホスホン酸ジメチル、1−ヘキセン−1−イルホスホン酸ジエチエル、ビニルフェニルホスフィン酸メチル、ビニルジフェニルホスフィンオキシド、(イロプロペニロキシ)ジフェニルホスフィンオキシド、(ジメトシキ)(1−フェニルビニロキシ)ホスフィンオキシド、N−(β−スチリル)ベンズアミド、N−イソプロペニルアセトアミド、N−ビニルフタルイミド、アクリロニトリル、1−トリメチルシリル−1−プロペン等が挙げられる。
【0044】
一般式(1)のオレフィン性不飽和化合物としては、R〜Rのいずれか二つの基から水素原子を1原子ずつ除いた残基が分子内で互いに結合して環構造を形成するものであっても良く、その場合、R〜Rのいずれの二つの基から水素原子を除いて結合させるかに依って、オレフィン性不飽和結合が環内にある場合と環外にある場合がある。このようなオレフィン性不飽和化合物を例示すると、シクロヘキセン、シクロオクテン、シクロドデセン、メチレンシクロヘキサン、インデン、ジヒドロピラン等が挙げられる。
【0045】
本発明に用いる一般式(2)で示されるアルコール類において、Rは、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいシクロアルキル基を表す。
【0046】
がアルキル基の場合のアルキル基としては、R〜Rがアルキル基の場合のアルキル基として例示したものと同じものを例示することができる。
【0047】
がシクロアルキル基の場合のシクロアルキル基としては、R〜Rがシクロアルキル基の場合のシクロアルキル基として例示したものと同じものを例示することができる。
【0048】
がアルキル基又はシクロアルキル基の場合のアルキル基又はシクロアルキル基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基等のアルコキシ基等が挙げられる。
【0049】
一般式(2)で示されるアルコール類の具体例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール等が挙げられる。これらの中でも、目的物が収率よく得られることから、メタノール、エタノール、1−プロパノール等の直鎖状アルコールが好ましい。
【0050】
アルコール類(2)の使用量は、オレフィン性不飽和化合物(1)のモル数に対して1当量以下でも反応は生起するが、通常は1当量以上であり、大過剰に用いて溶媒としての役割を兼ねることも好ましい態様である。
【0051】
本発明に用いる一般式(3)で表される中性助触媒の中のRは置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアリール基を表す。Rが芳香環を含む場合の芳香環は複素芳香環であっても良い。
【0052】
がアルキル基の場合のアルキル基又はシクロアルキル基は、炭素数12以下のアルキル基又はシクロアルキル基であり、具体的にはメチル基、エチル基、ブチル基、ドデシル基、シクロドデシル基等が例示される。
【0053】
がアルケニル基の場合のアルケニル基は、炭素数12以下の鎖状又は環状のアルケニル基であり、具体的にはビニル基、アリル基、1−ブテニル基、クロチル基、メタリル基、1−オクテニル基、2−オクテニル基、1−シクロドデセン−1−イル基が例示される。
【0054】
がアルキニル基の場合のアルキニル基は、炭素数12以下のアルキニル基であり、具体的にはRがアルケニル基の場合のアルケニル基の2重結合部分に代えて3重結合を有する化合物が例示される。
【0055】
がアラルキル基の場合のアラルキル基は、炭素数7〜15のアラルキル基であり、具体的にはベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、アントリルメチル基等が例示される。Rがアラルキル基の場合の置換基としては、メチル基、エチル基、オクチル基等のアルキル基の他、Rがアルキル基の場合の置換基として例示したものを例示することが出来る。
【0056】
がアリール基の場合のアリール基は、炭素数14以下のアリール基であり、具体的にはフェニル基、ナフチル基、アントリル基等が例示される。Rがアリール基の場合の置換基としては、Rがアラルキル基の場合の置換基として例示したものを例示することが出来る。
【0057】
が芳香環を含む場合の芳香環は複素芳香環であっても良く、複素芳香環としては、フラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環等を例示することが出来る。
【0058】
上の置換基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アシル基、アシロキシ基、カルボアルコキシ基、アルカンスルホニル基、アリール基、アリーロキシ基、アロイル基、アロイロキシ基、カルボアリーロキシ基、アレーンスルホニル基、アラルキル基、アラルキロキシ基、アラルカンカルボニル基、アラルカンカルボニロキシ基、カルボアラルキロキシ基、アラルカンスルホニル基、カルバモイル基、ホスホリル基、ホスホリロキシ基、アミド基、シリル基又はシアノ基を挙げることが出来る。これらのアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アシル基、アシロキシ基、カルボアルコキシ基、アルカンスルホニル基、アリール基、アリーロキシ基、アロイル基、アロイロキシ基、カルボアリーロキシ基、アレーンスルホニル基、アラルキル基、アラルキロキシ基、アラルカンカルボニル基、アラルカンカルボニロキシ基、カルボアラルキロキシ基、アラルカンスルホニル基、カルバモイル基、ホスホリル基、ホスホリロキシ基、アミド基又はシリル基の具体例としては、R〜Rがアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アシル基、アシロキシ基、カルボアルコキシ基、アルカンスルホニル基、アリール基、アリーロキシ基、アロイル基、アロイロキシ基、カルボアリーロキシ基、アレーンスルホニル基、アラルキル基、アラルキロキシ基、アラルカンカルボニル基、アラルカンカルボニロキシ基、カルボアラルキロキシ基、アラルカンスルホニル基、カルバモイル基、ホスホリル基、ホスホリロキシ基、アミド基又はシリル基である場合についてそれぞれ例示したものと同一のものを挙げることが出来る。これらの置換基は、任意の位置に同一又は相異なって複数個が結合していてもよい。
【0059】
一般式(3)で表される中性助触媒の中のXは陰性置換基を表し、ハロゲン原子、アシロキシ基、アリーロキシ基、有機スルホナート基、サルフェート基、有機ホスホナート基、有機ホスフィナート基からなる群から選択される。陰性置換基の具体例として、塩素、臭素等のハロゲン原子;アセトキシ基、プロピオニロキシ基、トリフルオロアセトキシ基等のアシロキシ基;ベンゾイロキシ基、ペンタフルオロベンゾイロキシ基等のアリーロキシ基;メタンスルホナート基、ベンゼンスルホナート基、ペンタフルオロベンゼンスルホナート基、トルエンスルホナート基、メタンスルホナート基、トリフルオロメタンスルホナート基等の有機スルホナート基;メチルホスホナート基、フェニルホスホナート基等の有機ホスホナート基;メチルフェニルホスフィナート基、ジフェニルホスフィナート基、ジメチルホスフィナート基等の有機ホスフィナート基が例示される。
【0060】
一般式(3)で表される中性助触媒の使用量は、10族金属化合物中の金属原子当たりのモル数に対して、通常0.01〜100当量、好ましくは、0.1〜50当量であり、単独で用いても良く、2種以上を同時に用いても良い。
【0061】
本発明のプロピオン酸エステル誘導体の製造方法においては、オレフィン性不飽和化合物の反応性や触媒の安定性の観点から、一般式(6)で示されるリン化合物の存在下に反応させることが出来る。R〜Rは、独立に、アルキル基、シクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリ−ル基又は置換基を有していてもよいアラルキル基を表し、互いに同一又は異なっていても良い。また、これらのR〜Rのいずれか一つの基から水素原子を1原子除いた残基が互いに結合し、リン原子を分子内に2つ有し該リン原子間に骨格Rを有する構造のものであっても良い。ただし、骨格Rは、R〜Rのいずれか一つの基から水素原子を1原子除いた残基が互いに結合することにより2つのリン原子間に形成される2価の基を示す。更にまた、R〜Rが芳香環を含む場合の芳香環は複素芳香環であっても良い。
【0062】
〜Rがアルキル基又はシクロアルキル基の場合のアルキル基又はシクロアルキル基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等の炭素数1〜8の鎖状又は分岐のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数3〜8のシクロアルキル基を例示することができる。
【0063】
〜Rがアリ−ル基の場合のアリ−ル基としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アントリル基、1−フェナントリル基等の炭素数6〜14のアリ−ル基を例示することができる。
【0064】
〜Rがアラルキル基の場合のアラルキル基としては、ベンジル基、1−ナフチルメチル基、2−ナフチルメチル基、1−アントリルメチル基、1−フェナントリルメチル基等の炭素数が7〜15であるものを例示することができる。
【0065】
〜Rがアリ−ル基又はアラルキル基の場合のアリ−ル基又はアラルキル基の置換基としては、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数3〜8のシクロアルコキシ基、炭素数6〜14のアリール基等を例示することができる。これらの置換基の具体例としては、それぞれR〜Rの置換基としてのアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリール基について例示したものと同様のものが挙げられる。
【0066】
〜Rのいずれか一つの基から水素原子を1原子除いた残基が互いに結合し、リン原子を分子内に2つ有し該リン原子間に骨格Rを有する構造のものである場合のRは、置換基を有していてもよいアルカンジイル基又は置換基を有していてもよいジアルキルアレーンジイル基を表す。
【0067】
がアルカンジイル基の場合のアルカンジイル基は炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルカンジイル基であり、その具体例としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等を例示することができる。
【0068】
がジアルキルアレーンジイル基の場合のジアルキルアレーンジイル基は、芳香環に2つのアルキレン基が置換し、これらのアルキレン基がそれぞれPと結合する基である。 ジアルキルアレーンジイル基中の芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環等の炭素数6〜16のものが挙げられる。またアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基等の炭素数1〜3の直鎖又は分岐のアルキレン基が挙げられる。ジアルキルアレーンジイル基の具体例としては、オルト−キシリレン基、オルト−フェニレンジ(エタン−2−イル)基、メタ−キシリレン基、メタ−フェニレンジ(エタン−2−イル)基、パラ−キシリレン基、パラ−フェニレンジ(エタン−2−イル)基、1,2−ナフチレンジ(エタン−2−イル)、1,4−ナフチレンジ(エタン−2−イル)基、1,6−ナフチレンジ(エタン−2−イル)等の炭素数8〜20のものが挙げられる。
【0069】
〜Rが芳香環を含む場合の芳香環は複素芳香環であっても良く、複素芳香環としては、フラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環等を例示することが出来る。
【0070】
アルカンジイル基又はジアルキルアレーンジイル基の置換基としては、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数3〜8のシクロアルコキシ基、炭素数6〜14のアリール基等を例示することができる。これらアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリール基の具体例としては、前記したR〜Rがアリ−ル基又はアラルキル基の場合のアリ−ル基又はアラルキル基の置換基として例示したものと同様のものが挙げられる。これらの置換基は、複数個が一緒になって結合して炭素環を形成していてもよい。
【0071】
一般式(6)のリン化合物の具体例としては、トリフェニルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、トリ(2−フリル)ホスフィン、トリ−t−ブチルホスフィン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,3−ビス(ジ−t−ブチルホスフィノ)プロパン、1,3−ビス(ジ−ベンジルホスフィノ)プロパン、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、1,1’−ビス(ジ−t−ブチルホスフィノ)フェロセン、1,2−ビス(ジメチルホスフィノ)ベンゼン、1,2−ビス(ジ−t−ブチルホスフィノメチル)ベンゼン、1,2−ビス(ジ−t−ブチルホスフィノ)ベンゼン、1,2−ビス(ジ−フェニルホスフィノメチル)ベンゼン、1,2−ビス(ジ−フェニルホスフィノ)ベンゼン、1,2−ビス(ジ−ベンジルホスフィノメチル)ベンゼン、1,2−ビス(ジ−ベンジルホスフィノ)ベンゼン等が挙げられる。
【0072】
一般式(6)のリン化合物の使用量は、10族金属化合物中の10族金属のモル数に対して、通常0.1〜10当量、好ましくは0.5〜4当量である。また、2種以上を同時に用いても良い。
【0073】
本発明に用いる10族金属化合物としては、Ni、Pd、Ptの化合物が挙げられる。これらの中でも、目的物が収率よく得られることから、0価又は2価のパラジウム化合物の使用が好ましい。0価又は2価のパラジウム化合物の具体例としては、塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、硝酸パラジウム(II)、硫酸パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)(Pd(acac))、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pd(dba))、ジパラジウム(0)トリス(ジベンジリデンアセトン)クロロホルム(Pd(dba)・CHCl)等が挙げられる。これらの中でも、酢酸パラジウム(II)、Pd(dba)、Pd(dba)・CHClの使用が特に好ましい。10族金属化合物の使用量は、金属原子当たり、オレフィン性不飽和化合物(1)に対して、通常0.0001〜10モル%、好ましくは0.001〜1モル%である。
【0074】
本発明の反応は、使用する一般式(2)のアルコールを過剰とし溶媒としても用いることもできるが、適当な反応溶媒で希釈して行うこともできる。用いる溶媒としては、反応に不活性なものであれば特に制約されない。例えば、n−ヘプタン、n−ヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒;ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリジノン等のアミド系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は1種単独で、あるいは2種以上を混合して用いることもできる。
【0075】
本発明の反応は一酸化炭素雰囲気において実施されるが、窒素、メタン等の不活性ガスを含むガスを用いても良い。一酸化炭素の圧力はオレフィン性不飽和化合物の反応性を勘案して自由に選択できるが、通常0.01〜50MPa、好ましくは0.1〜2.0MPaである。反応温度は、通常−50℃から+200℃、好ましくは0℃から100℃の範
囲から選択される。反応時間は、出発物質であるオレフィン性不飽和化合物(1)の構造、反応温度や、溶媒使用の有無、一酸化炭素の圧力、使用する中性助触媒やリン化合物の構造その他により自ずから異なるが、通常数時間〜数十時間である。
【0076】
反応混合物からの精製物の分離は、各種クロマトグラフィー、蒸留或いは再結晶等通常行われる精製法により容易に達成される。
【実施例】
【0077】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、10族金属化合物、オレフィン性不飽和化合物(1)、アルコール類(2)、中性助触媒(3)の種類、リン化合物(6)の使用の有無、それらの使用量、及び一酸化炭素の圧力等を自由に変更することができる。
【0078】
実施例1 スチレンのヒドロエステル化反応
20mLのシュレンク管にPd(dba)・CHClを10.35mg(0.01mmol、パラジウム原子当たり0.02mmol)、1,2−ビス(ジ−t−ブチルホスフィノメチル)ベンゼン7.9mg(0.02mmol)、脱気したスチレン1.1mL(10mmol)及びメタノール1.0mLを加え、35℃で2分間攪拌した。室温に放冷後トリフルオロメタンスルホン酸フェニル27mg(0.12mmol)を加えて再び35℃で2分間攪拌した。得られた溶液を内容積が50mLのオートクレーブに移し、一酸化炭素ゲージ圧で0.5MPaとなるように圧入し、20℃で18時間攪拌した。反応混合物を室温に戻しガスクロマトグラフィー(カラム:CBP−10、0.25mmφ×25m)により分析したところ、スチレンの転化率は99%以上であり、2−フェニルプロピオン酸メチルと3−フェニルプロピオン酸メチルがそれぞれ87%、13%の収率で生成していることがわかった。
【0079】
実施例2 酢酸ビニルのヒドロエステル化反応
スチレンに代えて酢酸ビニルを用い、反応温度を25℃とした他は実施例1と同様に操作した。反応液を室温に戻しH NMRにより分析したところ、酢酸ビニルの転化率は100%であり、2−アセトキシプロピオン酸メチル、3−アセトキシプロピオン酸メチル、2−ヒドロキシプロピオン酸メチル、3−ヒドロキシプロピオン酸メチルがそれぞれ64%、20%、5.6%、5.2%の収率で生成していることがわかった。他に、1,1−ジメトキシエタン及び酢酸メチルの副生が1.4%、12%認められた。
【0080】
比較例1 酸性助触媒を用いる酢酸ビニルのヒドロエステル化反応
実施例2と同様の反応を、トリフルオロメタンスルホン酸フェニルに代えてメタンスルホン酸を用いて行った。反応液を室温に戻しH NMRにより分析したところ、酢酸ビニルの転化率は99%以上であり、2−アセトキシプロピオン酸メチル、3−アセトキシプロピオン酸メチル、2−ヒドロキシプロピオン酸メチル、3−ヒドロキシプロピオン酸メチルがそれぞれ43%、11%、6.4%、6.1%の収率で生成していることがわかった。他に、1,1−ジメトキシエタン及び酢酸メチルの副生がそれぞれ27%、41%認められた。正常なヒドロエステル化生成物である2−又は3−アセトキシプロピオン酸メチル以外の、2−又は3−ヒドロキシプロピオン酸メチル、1,1−ジメトキシエタン及び酢酸メチルの生成量が、中性助触媒を用いる実施例2の場合より多いことが明らかである。
【0081】
実施例3 酢酸イソプロペニルのヒドロエステル化反応
酢酸ビニルに代えて酢酸イソプロペニルを用いた他は実施例2と同様に操作した。反応液を室温に戻しH NMRにより分析したところ、酢酸イソプロペニルの転化率は78%であり、3−アセトキシ酪酸メチルが68%で生成し、アセトンが4.3%、酢酸メチルが6.6%副生していることが分かった。
【0082】
実施例4 β−アセトキシスチレンのヒドロエステル化反応
酢酸ビニルに代えてβ−アセトキシスチレン(E/Z=52/48)を用いた他は実施例2と同様に操作した。反応液を室温に戻しH NMRにより分析したところ、β−アセトキシスチレンの転化率は49%であり、3−アセトキシ−2−フェニルプロピオン酸メチルが42%で生成し、1,1−ジメトキシ−2−フェニルエタンが4.2%、酢酸メチルが6.8%副生していることが分かった。
【0083】
実施例5 安息香酸ビニルのヒドロエステル化反応
酢酸ビニルに代えて安息香酸ビニルを用いた他は実施例2と同様に操作した。反応液を室温に戻しH NMRにより分析したところ、安息香酸ビニルの転化率は97%であり、2−ベンゾイロキシプロピオン酸メチル、3−ベンゾイロキシプロピオン酸メチル、2−ヒドロキシプロピオン酸メチル、3−ヒドロキシプロピオン酸メチルがそれぞれ73%、20%の収率で生成していることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、R〜Rは、独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアシロキシ基、置換基を有していてもよいカルボアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニロキシ基、置換基を有していてもよいアルカンスルホニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアリーロキシ基、置換基を有していてもよいアロイル基、置換基を有していてもよいアロイロキシ基、置換基を有していてもよいカルボアリーロキシ基、置換基を有していてもよいアリーロキシカルボニロキシ基、置換基を有していてもよいアレーンスルホニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアラルキロキシ基、置換基を有していてもよいアラルカンカルボニル基、置換基を有していてもよいアラルカンカルボニロキシ基、置換基を有していてもよいカルボアラルキロキシ基、置換基を有していてもよいアラルキロキシカルボニロキシ基、置換基を有していてもよいアラルカンスルホニル基、カルバモイル基、ホスホリル基、ホスホリロキシ基、アミド基、置換基を有していてもよいシリル基又はシアノ基を表す。また、これらのR〜Rのいずれか二つの基から水素原子を1原子ずつ除いた残基が分子内で互いに結合して環構造を形成するものであっても良い。更に、R〜Rが芳香環を含む場合の芳香環は複素芳香環であっても良い。)で表されるオレフィン性不飽和化合物と、一般式(2)
【化2】

(式中、Rは置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいシクロアルキル基を表す。)で示されるアルコール類及び一酸化炭素とを、10族金属化合物、一般式(3)
【化3】

(式中Rは置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアリール基を表し、Xは陰性置換基を表す。また、Rが芳香環を含む場合の芳香環は複素芳香環であっても良い。)で示される中性助触媒の少なくとも一種の存在下に反応させることを特徴とする、一般式(4)及び/又は一般式(5)
【化4】

【化5】

(式中、R〜Rは前記と同じ意味を表す。)で示されるプロピオン酸エステル誘導体の製造方法。
【請求項2】
一般式(6)
【化6】

(式中、R〜Rは、独立に、アルキル基、置換基を有していてもよいアリ−ル基又は置換基を有していてもよいアラルキル基を表し、互いに同一又は異なっていても良い。また、これらのR〜Rのいずれか一つの基から水素原子を1原子除いた残基が互いに結合し、リン原子を分子内に2つ有し該リン原子間に骨格Rを有する構造のものであっても良い。ただし、骨格Rは、R〜Rのいずれか一つの基から水素原子を1原子除いた残基が互いに結合することにより2つのリン原子間に形成される2価の基を示す。更にまた、R〜Rが芳香環を含む場合の芳香環は複素芳香環であっても良い。)で示されるリン化合物の存在下に反応させることを特徴とする請求項1に記載のプロピオン酸エステル誘導体の製造方法。
【請求項3】
陰性置換基Xがハロゲン原子、アシロキシ基、アリーロキシ基、有機スルホナート基、サルフェート基、有機ホスホナート基又は有機ホスフィナート基であるRX(式中、Rは前記と同じ意味を表す。)を助触媒として用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のプロピオン酸エステル誘導体の製造方法。
【請求項4】
10族金属化合物として、0価又は2価のパラジウム化合物を用いることを特徴とする請求項1、2又は3に記載のプロピオン酸エステル誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2006−225282(P2006−225282A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−38218(P2005−38218)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】