説明

プロピレン−エチレンブロック共重合体の製造方法

【課題】成型体に発生するフィッシュアイの数を低減できるプロピレン−エチレンブロック共重合体を連続重合で製造する方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係るプロピレン−エチレンブロック共重合体の製造方法は、直列多段に接続された重合反応槽の第1段に対し、固体触媒と、プロピレンとを連続的に供給してポリプロピレン粒子を生成すると共に、第2段以降の重合反応槽で更にポリプロピレン粒子をそれぞれ成長させる第1重合工程と、第1重合工程の最終段の重合反応槽から連続的に抜き出したポリプロピレン粒子の存在下、プロピレンとエチレンとの共重合を行う第2重合工程とを備え、第1重合工程の各重合反応槽におけるポリプロピレン粒子の平均滞留時間をいずれも0.1〜1.5時間とし且つ第1重合工程の全重合反応槽におけるポリプロピレン粒子の平均滞留時間の合計を1.5〜3.0時間とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン−エチレンブロック共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品、家電部品などに用いられているポリプロピレン系樹脂には、高剛性および高耐衝撃性が求められるため、一般には、結晶性プロピレン系重合体部と非晶性プロピレン系重合体部とを有するプロピレン系ブロック共重合体が用いられている。該プロピレン系ブロック共重合体の製造方法としては、プロピレンを単独重合する第1重合工程を行った後、プロピレンとエチレンとを共重合する第2重合工程を行う方法が多く行われている。具体的には、第1重合工程と第2重合工程とをそれぞれバッチ重合で行う方法(例えば、特許文献1参照。)、第1重合工程を連続重合で行い、第2重合工程をバッチ重合で行う方法(例えば、特許文献2参照。)、第1重合工程と第2重合工程とを連続重合で行う方法(例えば、特許文献3参照。)などが知られている。
【特許文献1】特開平6−136018号公報
【特許文献2】特開昭61−101511号公報
【特許文献3】特開平10−168142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のようなプロピレン系ブロック共重合体(多段重合ポリプロピレン系共重合体)は、経済性の観点からバッチ重合によって製造するよりも連続重合によって製造する方が好ましい。しかしながら、従来の連続重合法にあっては、十分に成長していないポリマー粒子が反応槽から排出されるショートパスや成長しすぎたポリマー粒子が反応槽内に蓄積されることが起こりやすい。そうすると、得られるポリマー粒子の構造上の不均一性に起因して成型体に円形の欠陥(魚の目の形状に似ていることから、「フィッシュアイ」と称される。)が生じやすく、製品外観や機械的強度の点で改善の余地があった。
【0004】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、成型体に発生するフィッシュアイの数が低減されたプロピレン−エチレンブロック共重合体を連続重合で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るプロピレン−エチレンブロック共重合体の製造方法は、直列に接続された2段以上の重合反応槽を備えた重合装置を用いて行われ、第1段の重合反応槽に対し、固体触媒又はこれを含有する予備重合触媒と、プロピレンとを連続的に供給して固体触媒を含有するポリプロピレン粒子を生成すると共に、第2段以降の重合反応槽に対し、プロピレンと、前段の重合反応槽から連続的に抜き出したポリプロピレン粒子とを連続的に供給してポリプロピレン粒子をそれぞれ成長させる第1重合工程と、プロピレンと、エチレンと、第1重合工程の最終段の重合反応槽から連続的に抜き出したポリプロピレン粒子とを重合反応槽に供給してポリプロピレン粒子内にプロピレンとエチレンとの共重合体を生成する第2重合工程と、を備え、第1重合工程の各重合反応槽におけるポリプロピレン粒子の平均滞留時間をいずれも0.1〜1.5時間とし且つ第1重合工程の全重合反応槽におけるポリプロピレン粒子の平均滞留時間の合計を1.5〜3.0時間とすることを特徴とする。
【0006】
本発明に係る方法によれば、第1重合工程におけるプロピレン単独重合によってポリプロピレン粒子を製造する際、各重合反応槽におけるポリプロピレン粒子の平均滞留時間を所定の範囲(0.1〜1.5時間)とすると共に、全重合反応槽におけるポリプロピレン粒子の平均滞留時間の合計を所定の範囲(1.5〜3.0時間)とすることによって、第1重合工程の各重合反応槽におけるポリプロピレン粒子の滞留時間分布を十分に小さくすることができ、粒径が十分に均一なポリプロピレン粒子が得られる。
【0007】
粒径が十分に均一なポリプロピレン粒子が第2重合工程に供されるため、第1重合工程で成長するプロピレン重合体成分(以下、「ホモプロピレン成分」という。)と第2重合工程で成長した共重合体成分(以下、「プロピレン−エチレン成分」という。)との比率が十分に均一なプロピレン−エチレンブロック共重合体を得ることができる。よって、これを用いた成型体におけるフィッシュアイの数を十分に低減できる。
【0008】
また、本発明においては、第1段の重合反応槽に対する固体触媒の単位時間当たりの供給量を1質量部とすると、第1及び第2重合工程を経て得られるプロピレン−エチレンブロック共重合体の質量が20000〜40000質量部であることが好ましい。上述の通り、本発明によれば、第1重合工程において粒径が十分に均一なポリプロピレン粒子が得られる。その結果、第1重合工程後におけるポリプロピレン粒子中の固体触媒は、十分に均一な触媒活性を有している。この触媒活性を利用し、その後の第2重合工程において上記範囲内の生成量となるまでプロピレン−エチレンブロック共重合体を成長させることで、ホモプロピレン成分とプロピレン−エチレン成分との比率がより一層均一なプロピレン−エチレンブロック共重合体を得ることができ、フィッシュアイの数の更なる低減化が図られる。
【0009】
また、本発明においては、フィッシュアイの発生をより一層低減する観点から、第1重合工程の各重合反応槽におけるポリプロピレン粒子の平均滞留時間をいずれも1.2時間以下とすることが好ましい。
【0010】
また、本発明においては、フィッシュアイの発生をより一層低減する観点から、第2重合工程の重合反応槽に下記一般式[1]で表されるケイ素化合物を供給することが好ましい。
Si(OL) [1]
(式中、Lは、炭素原子数1〜20の一価の炭化水素基を表す。4つのLは、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。)
【0011】
ここで、本発明でいう重合反応槽における粒子の平均滞留時間とは、重合反応槽内に収容される粒子の質量(単位:kg)を、当該重合反応槽から抜き出される粒子の質量流量(単位:kg/時間)で除した値を意味する。また、重合反応槽が液相重合反応槽の場合、重合反応槽内に収容される液体量(単位:m3)を、当該重合反応槽から抜き出される粒子含有液の体積流量(単位:m3/時間)で除した値を意味する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、成型体に発生するフィッシュアイの数が低減されたプロピレン−エチレンブロック共重合体を連続重合によって製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において、第1重合工程の重合反応槽は2段以上の重合反応槽を有する。プロピレン−エチレンブロック共重合体1粒子毎のホモプロピレン成分とプロピレン−エチレン成分の比率がより一層均一なプロピレン−エチレンブロック共重合体を得、それにより、成型体に発生するフィッシュアイの数を十分に低減する為には、第1重合工程の重合反応槽は、好ましくは、2段から9段であり、より好ましくは、3段から7段である。第2重合工程の重合反応槽は1段以上の重合反応槽を有する。成型体におけるフィッシュアイの発生を抑制するために、第2重合工程の重合反応槽は、好ましくは、1段から5段であり、より好ましくは、1段から3段である。また、プロピレン−エチレン成分の構造を替えることによる機械物性、モルフォロジーの最適化を行うのであれば、1段の重合反応槽よりも多段の重合反応槽を用いて実施するのが好ましい。以下、図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態として、プロピレン単独重合を3段のプロピレン重合反応槽を用いて行った後、プロピレンとエチレンとの共重合を2段の共重合反応槽を用いて行って、プロピレン−エチレンブロック共重合体を製造する場合について詳細に説明するが、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
図1に示すプロピレン−エチレンブロック共重合体製造システム10は、プロピレン−エチレンブロック共重合体を連続重合によって製造するシステムである。このプロピレン−エチレンブロック共重合体製造システム10は、上流側に配置される3段のプロピレン重合反応槽P1,P2,P3と、下流側に配置される2段の共重合反応槽PE1,PE2とを備える。プロピレン重合反応槽P1,P2,P3および共重合反応槽PE1,PE2は直列に連結されており、上流側の重合反応槽から下流側の重合反応槽へと生成物が順次移送されるようになっている。また、プロピレン重合反応槽P1,P2,P3にはプロピレンを槽内に供給するためのラインが接続され、共重合反応槽PE1,PE2にはプロピレン及びエチレンを槽内に供給するためのラインが接続されている。
【0015】
プロピレン−エチレンブロック共重合体製造システム10において、プロピレン重合反応槽P1に対して、固体触媒とプロピレンとを連続的に供給して固体触媒を含有するポリプロピレン粒子を生成する。そして、プロピレン重合反応槽P2に対して、プロピレンと、プロピレン重合反応槽P1から連続的に抜き出したポリプロピレン粒子とを連続的に供給してポリプロピレン粒子を成長させ、更に、プロピレン重合反応槽P3に対して、プロピレンと、プロピレン重合反応槽P2にから連続的に抜き出したポリプロピレン粒子とを連続的に供給してポリプロピレン粒子を成長させる(第1重合工程)。
【0016】
なお、プロピレン重合反応槽P1に対しては、原料のプロピレンを外部から連続的に供給する必要があるが、上流側のプロピレン重合反応槽から下流側のプロピレン重合反応槽にポリプロピレン粒子とともに未反応のプロピレンが連続的に供給される場合は、必ずしも外部から新たにプロピレンを供給しなくてもよい。
【0017】
そして、共重合反応槽PE1に対し、プロピレン重合反応槽P3から連続的に抜き出したポリプロピレン粒子と、プロピレンと、エチレンとを連続的に供給してポリプロピレン粒子内にプロピレンとエチレンとの共重合体を生成する。更に、共重合反応槽PE2に対し、共重合反応槽PE1から連続的に抜き出した粒子と、プロピレンと、エチレンとを連続的に供給してプロピレン−エチレンブロック共重合体の粒子を製造する(第2重合工程)。
【0018】
3段のプロピレン重合反応槽P1,P2,P3で行う第1重合工程にあっては、各プロピレン重合反応槽におけるポリプロピレン粒子の平均滞留時間は0.1〜1.5時間であり且つこれらのプロピレン重合反応槽P1,P2,P3の平均滞留時間の合計は1.5〜3.0時間である。プロピレン重合反応槽P1,P2,P3の平均滞留時間を上記範囲内とすると共に、平均滞留時間の合計を上記範囲内とすることによって、プロピレン重合反応槽P1,P2,P3におけるポリプロピレン粒子の滞留時間分布を十分に小さくすることができる。このことにより、プロピレン重合反応槽P3から排出され、共重合反応槽PE1に導入されるポリプロピレン粒子を粒径が十分に均一なものとすることができる。
【0019】
なお、各プロピレン重合反応槽におけるポリプロピレン粒子の各平均滞留時間が0.1時間未満であるとプロピレンの重合反応の進行が不十分となり、他方、1.5時間を越えるとポリプロピレン粒子の滞留時間分布が広くなり、そのため、得られるポリプロピレン粒子の粒径が不均一となる。また、プロピレン重合反応槽P1,P2,P3におけるポリプロピレン粒子の平均滞留時間の合計が1.5時間未満であるとプロピレンの重合反応の進行が不十分となり、他方、3.0時間を越えるとプロピレンの重合反応が過度に進行し、ホモプロピレン成分が過剰となる。
【0020】
プロピレン−エチレンブロック共重合体におけるフィッシュアイの数の一層の低減および作業効率などの観点から、各プロピレン重合反応槽におけるポリプロピレン粒子の平均滞留時間はいずれも0.2〜1.2時間であることが好ましく、0.3〜1.0時間であることがより好ましい。また、同様の観点から、プロピレン重合反応槽P1,P2,P3におけるポリプロピレン粒子の平均滞留時間の合計は1.5〜2.5時間が好ましい。
【0021】
他方、共重合反応槽PE1,PE2における粒子の平均滞留時間の合計は、可能な限り長い方が好ましいが、製造するプロピレン−エチレンブロック共重合体の用途等に応じて適宜設定すればよい。十分な構造上の均一性の高いプロピレンーエチレンブロック共重合体が得られる観点から、第2重合工程での平均滞留時間の合計は、1.0時間以上であることが好ましく、1.5時間以上であることがより好ましく、2.0時間以上であることが更に好ましく、3.0時間以上であることが特に好ましい。また、グレードチェンジなどの移行に時間を要する観点から、平均滞留時間の合計は5.0時間以内であることが好ましい。
【0022】
なお、共重合反応槽PE1,PE2における粒子の平均滞留時間の合計が、可能な限り長い方が好ましい理由は、固体触媒の重合能力の経時低下による影響があるためである。共重合反応槽の平均滞留時間の合計が短い場合、1)第1重合工程での滞留時間が短いプロピレン粒子が第2重合工程で共重合が行われると、得られるプロピレン−エチレンブロック共重合体は、プロピレン−エチレン成分の含量が多くなり、2)第1重合工程での滞留時間が長いプロピレン粒子が第2重合工程で共重合が行われると、得られるプロピレン−エチレンブロック共重合体は、プロピレン−エチレン成分の含量が少なくなる。このような条件で得られるプロピレン−エチレンブロック共重合体粒子毎のプロピレン−エチレン成分の含量分布が広くなり、成形体にフィッシュアイが生じやすくなる。これを改善するためには、第2重合工程での平均滞留時間の合計を可能な限り長くし、プロピレン−エチレンブロック共重合を行うことである。第1重合工程での滞留時間が短いポリプロピレン粒子は共重合反応槽でプロピレン−エチレン成分を重合するが、長時間重合でも固体触媒の重合能力の経時低下により時間の割にはプロピレン−エチレン成分が増加しない結果となる。逆に、第1重合工程での滞留時間が長いポリプロピレン粒子は重合能力が低下し第2重合工程に移送されたポリプロピレン粒子は、第2重合工程での平均滞留時間の合計を可能な限り長くすることでプロピレン−エチレン成分をより多く確保することができる。したがって、共重合反応槽での平均滞留時間の合計は長い方が好ましい。
【0023】
また、本実施形態においては、使用される固体触媒の質量に対して所定量のプロピレン−エチレンブロック共重合体を製造することが好ましい。すなわち、プロピレン単独重合およびプロピレンとエチレンとの共重合に供される固体触媒の質量を1質量部とすると、第2重合工程後のプロピレン−エチレンブロック共重合体の質量が20000〜40000質量部(より好ましくは、20000〜30000質量部)となるように、プロピレン単独重合及びプロピレンとエチレンとの共重合を行うことが好ましい。
【0024】
固体触媒1質量部に対するプロピレン−エチレンブロック共重合体の質量20000質量部以上であると、触媒コストが減少しやすく、他方、40000質量部以下であると、プロピレン−エチレンブロック共重合体の構造上の均一性が増す傾向があり、フィッシュアイの数が減少する傾向となる。また、本実施形態においては、第2重合工程の重合反応槽に下記一般式[1]で表されるケイ素化合物を供給することが好ましい。
Si(OL) [1]
(式中、Lは、炭素原子数1〜20の一価の炭化水素基を表す。4つのLは、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。)かかるケイ素化合物として、好ましくは、テトラメトキシシランまたはテトラエトキシシランである。
【0025】
以上のように、本実施形態によって製造されるプロピレン−エチレンブロック共重合体は、構造上の高い均一性を有しているため、これを用いると、製造される成型体におけるフィッシュアイの数を十分に低減できる。
【0026】
以下、本実施形態において用いられる固体触媒、並びに、プロピレン重合反応槽P1,P2,P3及び共重合反応槽PE1,PE2の具体例について説明する。
【0027】
(固体触媒)
本実施形態において用いる付加重合用触媒としては、オレフィン重合に用いられる公知の固体触媒を使用することができ、例えば、チタンとマグネシウムとハロゲン及び電子供与体を含有する固体触媒成分(以下、触媒成分(A)と称する。)、有機アルミニウム化合物成分及び電子供与体成分を接触させてなる固体触媒をあげることができる。
【0028】
該触媒成分(A)としては、一般にチタン・マグネシウム複合型触媒と呼ばれているものを使用することができ、下記のようなチタン化合物及びマグネシウム化合物、電子供与体を接触させることにより得ることができる。
【0029】
触媒成分(A)の調製に用いられるチタン化合物としては、例えば、一般式Ti(OR1a4-a(R1は炭素数が1〜20の一価の炭化水素基を、Xはハロゲン原子を、aは0≦a≦4の数を表す。)で表されるチタン化合物があげられる。具体的には、四塩化チタン等のテトラハロゲン化チタン化合物;エトキシチタントリクロライド、ブトキシチタントリクロライド等のトリハロゲン化アルコキシチタン化合物;ジエトキシチタンジクロライド、ジブトキシチタンジクロライド等のジハロゲン化ジアルコキシチタン化合物;トリエトキシチタンクロライド、トリブトキシチタンクロライド等のモノハロゲン化トリアルコキシチタン化合物;テトラエトキシチタン、テトラブトキシチタン等のテトラアルコキシチタン化合物をあげることができる。これらチタン化合物は、単独で用いてもよいし、二種類以上を組合せて用いてもよい。
【0030】
触媒成分(A)の調製に用いられるマグネシウム化合物としては、例えば、マグネシウム−炭素結合やマグネシウム−水素結合を持ち、還元能を有するマグネシウム化合物、あるいは、還元能を有さないマグネシウム化合物等があげられる。還元能を有するマグネシウム化合物の具体例としては、ジメチルマグネシウム、ジエチルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、ブチルエチルマグネシウム等のジアルキルマグネシウム化合物;ブチルマグネシウムクロライド等のアルキルマグネシウムハライド化合物;ブチルエトキシマグネシム等のアルキルアルコキシマグネシウム化合物;ブチルマグネシウムハイドライド等のアルキルマグネシウムハイドライド等があげられる。これらの還元能を有するマグネシウム化合物は、有機アルミニウム化合物との錯化合物の形態で用いてもよい。一方、還元能を有さないマグネシウム化合物の具体例としては、マグネシウムジクロライド等のジハロゲン化マグネシウム化合物;メトキシマグネシウムクロライド、エトキシマグネシウムクロライド、ブトキシマグネシウムクロライド等のアルコキシマグネシウムハライド化合物;ジエトキシマグネシウム、ジブトキシマグネシウム等のジアルコキシマグネシウム化合物;ラウリル酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム等のマグネシウムのカルボン酸塩等があげられる。これらの還元能を有さないマグネシウム化合物は、予め或いは触媒成分(A)の調製時に、還元能を有するマグネシウム化合物から公知の方法で合成したものであってもよい。
【0031】
触媒成分(A)の調製に用いられる電子供与体としては、アルコール類、フェノール類、ケトン類、アルデヒド類、カルボン酸類、有機酸又は無機酸のエステル類、エーテル類、酸アミド類、酸無水物類等の含酸素電子供与体;アンモニア類、アミン類、ニトリル類、イソシアネート類等の含窒素電子供与体;有機酸ハライド類をあげることが出来る。これらの電子供与体のうち、好ましくは、無機酸のエステル類、有機酸のエステル類及びエーテル類が用いられる。
【0032】
無機酸のエステル類としては好ましくは、一般式RSi(OR4−n(Rは炭素数1〜20の一価の炭化水素基又は水素原子を表し、R3は炭素数1〜20の一価の炭化水素基を表す。また、nは0≦n<4の数を表す。)で表されるケイ素化合物があげられる。具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン;メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、t−ブチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、t−ブチルトリエトキシシラン等のアルキルトリアルコキシシラン;ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、ジ−t−ブチルジメトキシシラン、ブチルメチルジメトキシシラン、ブチルエチルジメトキシシラン、t−ブチルメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジブチルジエトキシシラン、ジイソブチルジエトキシシラン、ジ−t−ブチルジエトキシシラン、ブチルメチルジエトキシシラン、ブチルエチルジエトキシシラン、t−ブチルメチルジエトキシシラン等のジアルキルジアルコキシシラン等があげられる。
【0033】
有機酸のエステル類として好ましくは、モノ及び多価のカルボン酸エステルが用いられ、それらの例として脂肪族カルボン酸エステル、脂環式カルボン酸エステル、芳香族カルボン酸エステルがあげられる。具体例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、吉草酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸ブチル、トルイル酸メチル、トルイル酸エチル、アニス酸エチル、コハク酸ジエチル、コハク酸ジブチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジブチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジ−n−ブチル、フタル酸ジイソブチル等があげられる。好ましくはメタクリル酸エステル等の不飽和脂肪族カルボン酸エステル及びフタル酸エステル等の芳香族カルボン酸エステルであり、さらに好ましくはフタル酸ジエステルである。
【0034】
エーテル類としては、例えば、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、ジアミルエーテル、ジイソアミルエーテル、メチルブチルエーテル、メチルイソアミルエーテル、エチルイソブチルエーテル等のジアルキルエーテルがあげられる。好ましくはジブチルエーテルと、ジイソアミルエーテルである。
【0035】
有機酸ハライド類としては、モノ及び多価のカルボン酸ハライド等があげられ、例えば、脂肪族カルボン酸ハライド、脂環式カルボン酸ハライド、芳香族カルボン酸ハライド等があげられる。具体例としては、アセチルクロライド、プロピオン酸クロライド、酪酸クロライド、吉草酸クロライド、アクリル酸クロライド、メタクリル酸クロライド、塩化ベンゾイル、トルイル酸クロライド、アニス酸クロライド、コハク酸クロライド、マロン酸クロライド、マレイン酸クロライド、イタコン酸クロライド、フタル酸クロライド等をあげることができる。好ましくは塩化ベンゾイル、トルイル酸クロライド、フタル酸クロライド等の芳香族カルボン酸クロライドであり、さらに好ましくはフタル酸クロライドである。
【0036】
触媒成分(A)の調製方法としては、例えば、下記の方法があげられる。
(1)液状のマグネシウム化合物、あるいはマグネシウム化合物及び電子供与体からなる錯化合物を析出化剤と反応させたのち、チタン化合物、あるいはチタン化合物及び電子供与体で処理する方法。
(2)固体のマグネシウム化合物、あるいは固体のマグネシウム化合物及び電子供与体からなる錯化合物をチタン化合物、あるいはチタン化合物及び電子供与体で処理する方法。
(3)液状のマグネシウム化合物と、液状チタン化合物とを、電子供与体の存在下で反応させて固体状のチタン複合体を析出させる方法。
(4)(1)、(2)あるいは(3)で得られた反応生成物をチタン化合物、あるいは電子供与体及びチタン化合物でさらに処理する方法。
(5)Si−O結合を有するケイ素化合物の共存下アルコキシチタン化合物をグリニャール試薬等の有機マグネシウム化合物で還元して得られる固体生成物を、エステル化合物、エーテル化合物及び四塩化チタンで処理する方法。
(6)ケイ素化合物又はケイ素化合物及びエステル化合物の存在下、チタン化合物を有機マグネシウム化合物で還元して得られる固体生成物を、エーテル化合物と四塩化チタンの混合物、次いで有機酸ハライド化合物の順で加えて処理したのち、該処理固体をエーテル化合物と四塩化チタンの混合物もしくはエーテル化合物と四塩化チタンとエステル化合物の混合物で処理する方法。
(7)金属酸化物、ジヒドロカルビルマグネシウム及びハロゲン含有アルコ−ルとの反応物をハロゲン化剤で処理した後あるいは処理せずに電子供与体及びチタン化合物と接触する方法。
(8)有機酸のマグネシウム塩、アルコキシマグネシウムなどのマグネシウム化合物をハロゲン化剤で処理した後あるいは処理せずに電子供与体及びチタン化合物と接触する方法。
(9)(1)〜(8)で得られる化合物を、ハロゲン、ハロゲン化合物又は芳香族炭化水素のいずれかで処理する方法。
これらの触媒成分(A)の調製方法のうち、好ましくは、(1)〜(6)の方法である。これらの調整は通常、全て窒素、アルゴン等の不活性気体雰囲気下で行われる。
【0037】
触媒成分(A)の調製において、チタン化合物、ケイ素化合物及びエステル化合物は、適当な溶媒に溶解もしくは希釈して使用するのが好ましい。かかる溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;シクロへキサン、メチルシクロヘキサン、デカリン等の脂環式炭化水素;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソアミルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル化合物等があげられる。
【0038】
触媒成分(A)の調製において、有機マグネシウム化合物を用いる還元反応の温度は、通常、−50〜70℃であり、触媒活性を高め、コストを抑える観点から、好ましくは−30〜50℃、特に好ましくは−25〜35℃である。有機マグネシウム化合物の滴下時間は、特に制限はないが、通常30分〜12時間程度である。また、還元反応終了後、さらに20〜120℃の温度で後反応を行ってもよい。
【0039】
触媒成分(A)の調製において、還元反応の際に、無機酸化物、有機ポリマー等の多孔質物質を共存させ、固体生成物を多孔質物質に含浸させてもよい。かかる多孔質物質としては、細孔半径20〜200nmにおける細孔容積が0.3ml/g以上であり、平均粒径が5〜300μmであるものが好ましい。該多孔質無機酸化物としては、SiO2、Al23、MgO、TiO2、ZrO2又はこれらの複合酸化物等があげられる。また、多孔質ポリマーとしては、ポリスチレン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体等のポリスチレン系多孔質ポリマー;ポリアクリル酸エチル、アクリル酸メチル−ジビニルベンゼン共重合体、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−ジビニルベンゼン共重合体等のポリアクリル酸エステル系多孔質ポリマー;ポリエチレン、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、ポリプロピレン等のポリオレフィン系多孔質ポリマーがあげられる。これらの多孔質物質のうち、好ましくはSiO2、Al23、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体である。
【0040】
触媒成分(A)は、重合に供する前に、少量のオレフィンを重合(以下、「予備重合」と記載することがある。)し、固体触媒を含有する予備重合触媒(以下、「予備重合触媒成分」と記載することがある。)としてもよい。予備重合されるオレフィンの量は、触媒成分(A)1g当たり、通常、0.1〜200gであり、該予備重合の方法としては、公知の方法があげられ、例えば、触媒成分(A)及び有機アルミニウム化合物の存在下、少量のプロピレンを供給して溶媒を用いてスラリー状態で実施する方法があげられる。予備重合に用いられる溶媒としては、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサンなどの不活性飽和炭化水素、ベンゼン、トルエンなどの不活性芳香族炭化水素及び液状のプロピレンがあげられ、これらは2種類以上混合して用いてもよい。また、予備重合におけるスラリー濃度は、溶媒1L当たりに含まれる触媒成分(A)の重量として、通常1〜500gであり、好ましくは3〜150gである。
【0041】
予備重合における有機アルミニウム化合物の使用量は、触媒成分(A)に含まれるチタン原子1モル当たり0.1〜700モルであり、好ましくは0.2〜200モルであり、より好ましくは0.2〜100モルである。予備重合において、必要に応じて電子供与体を共存させてもよく、電子供与体の使用量は、触媒成分(A)に含まれるチタン原子1モル当たり、好ましくは0.01〜400モルであり、より好ましくは0.02〜200モルであり、さらに好ましくは0.03〜100モルである。また、予備重合では、水素などの連鎖移動剤を用いてもよい。
【0042】
予備重合温度は、通常−20〜100℃であり、好ましくは0〜80℃である。また、予備重合時間は、通常2分〜15時間である。
【0043】
固体触媒の調製に用いられる有機アルミニウム化合物成分は、少なくとも分子内に一個のAl−炭素結合を有するものであり、代表的なものを一般式で下記に示す。
AlY3−m
Al−O−AlR
(R〜Rは炭素数が1〜8個の一価の炭化水素基を、Yはハロゲン原子、水素又はアルコキシ基を表す。R〜Rはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。また、mは2≦m≦3を満足する整数である。)
【0044】
有機アルミニウム化合物成分の具体例としては、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム;ジエチルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライド等のジアルキルアルミニウムハイドライド;ジエチルアルミニウムクロライド、ジイソブチルアルミニウムクロライド等のジアルキルアルミニウムハライド;トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロライドの混合物のようなトリアルキルアルミニウムとジアルキルアルミニウムハライドの混合物;テトラエチルジアルモキサン、テトラブチルジアルモキサン等のアルキルアルモキサン等があげられる。これらの有機アルミニウム化合物のうち、好ましくはトリアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウムとジアルキルアルミニウムハライドの混合物、アルキルアルモキサンであり、さらに好ましくはトリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロライドの混合物、又はテトラエチルジアルモキサンが好ましい。
【0045】
固体触媒の調製に用いられる電子供与体成分としては、アルコール類、フェノール類、ケトン類、アルデヒド類、カルボン酸類、有機酸又は無機酸のエステル類、エーテル類、酸アミド類、酸無水物類等の含酸素電子供与体;アンモニア類、アミン類、ニトリル類、イソシアネート類等の含窒素電子供与体等の固体触媒の調製に一般的に使用されるものをあげることができる。これらの電子供与体成分のうち好ましくは無機酸のエステル類及びエ−テル類である。
【0046】
該無機酸のエステル類として好ましくは、一般式RSi(OR104−n(式中、Rは炭素数1〜20の一価の炭化水素基又は水素原子、R10は炭素数1〜20の一価の炭化水素基であり、nは0≦n<4である)で表されるケイ素化合物である。具体例としては、テトラブトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、tert−ブチル−n−プロピルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン等をあげることができる。
【0047】
該エ−テル類として好ましくは、ジアルキルエーテル、一般式


(式中、R11〜R14は炭素数1〜20の線状又は分岐状のアルキル基、脂環式炭化水素基、アリール基、又はアラルキル基であり、R11又はR12は水素原子であってもよい。)で表されるジエーテル化合物があげられる。具体例としては、ジブチルエーテル、ジアミルエーテル、2,2−ジイソブチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジシクロペンチル−1,3−ジメトキシプロパン等をあげることができる。
【0048】
これらの電子供与体成分のうち一般式R1516Si(OR17で表される有機ケイ素化合物が特に好ましく用いられる。ここで式中、R15はSiに隣接する炭素原子が2級もしくは3級である炭素数3〜20の一価の炭化水素基であり、具体的には、イソプロピル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、tert−アミル基等の分岐鎖状アルキル基;シクロペンンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;シクロペンテニル基等のシクロアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基等があげられる。また式中、R16は炭素数1〜20の一価の炭化水素基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等の直鎖状アルキル基;イソプロピル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、tert−アミル基、等の分岐鎖状アルキル基;シクロペンンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;シクロペンテニル基等のシクロアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基等があげられる。さらに式中、R17は炭素数1〜20の一価の炭化水素基であり、好ましくは炭素数1〜5の炭化水素基である。このような電子供与体成分として用いられる有機ケイ素化合物の具体例としては、tert−ブチル−n−プロピルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン等をあげることができる。
【0049】
固体触媒の調製において、有機アルミニウム化合物成分の使用量は、触媒成分(A)に含まれるチタン原子1モル当たり、通常、1〜1000モルであり、好ましくは5〜800モルである。また、電子供与体成分の使用量は、触媒成分(A)に含まれるチタン原子1モル当たり、通常、0.1〜2000モル、好ましくは0.3〜1000モル、さらに好ましくは0.5〜800モルである。
【0050】
(プロピレン重合反応槽)
プロピレン重合反応槽P1,P2,P3では、固体触媒の存在下でプロピレンを単独重合させてポリプロピレン粒子を形成する。プロピレン重合反応槽P1,P2,P3としては、例えば、スラリー重合反応装置、塊状重合反応装置などの液相重合反応装置、あるいは、攪拌槽式気相重合反応装置、流動床式気相重合反応装置などの気相重合反応装置を採用することができる。
【0051】
スラリー重合反応装置としては、公知の重合反応装置、例えば、特公昭41−12916号公報、特公昭46−11670号公報、特公昭47−42379号公報に記載の攪拌槽型反応装置やループ型反応装置などを用いることができる。塊状重合反応装置としては、公知の重合反応装置、例えば、特公昭41−12916号公報、特公昭46−11670号公報、特公昭47−42379号公報に記載の攪拌槽型反応装置やループ型反応装置などを用いることができる。
【0052】
攪拌槽式気相重合反応装置としては、公知の重合反応装置、例えば、特開昭46−31969号公報、特公昭59−21321号公報に記載の反応装置を用いることができる。流動床式気相重合反応装置としては、公知の反応装置、例えば、特開昭58−201802号公報、特開昭59−126406号公報、特開平2−233708号公報に記載の反応装置を用いることができる。
【0053】
3つのプロピレン重合反応槽P1,P2,P3は、いずれも同一仕様の反応装置であってもよく、互いに異なる仕様の反応装置であってもよい。但し、反応槽内におけるホットスポットの発生などの防止と、反応温度の均一性の観点から、少なくともプロピレン重合反応槽P1,P2として液相重合反応装置を採用することが好ましい。なお、上流側に配置された液相重合反応装置とその下流側に配置された気相重合反応装置とを併用する場合にあっては、両者の間に未反応のプロピレンや重合溶媒と、ポリプロピレン粒子とを分離するフラッシング槽を設けることが好ましい。
【0054】
(共重合反応槽)
共重合反応槽PE1,PE2は、プロピレン重合反応槽P1,P2,P3において生成したポリプロピレン粒子が導入され、実質的に気相状態でプロピレンとエチレンとの共重合反応を行わせてプロピレン−エチレンブロック共重合体を形成する。共重合反応槽PE1,PE2としては、例えば、攪拌槽式気相重合反応装置、流動床式気相重合反応装置などの気相重合反応装置を採用することができる。2つの共重合反応槽PE1,PE2は、いずれも同一仕様の反応装置であってもよく、互いに異なる仕様の反応装置であってもよい。共重合反応槽としての攪拌槽式気相重合反応装置及び流動床式気相重合反応装置としては、上記プロピレン重合反応槽P1,P2,P3として採用可能なものと同様の反応装置を用いることができる。
【0055】
共重合反応槽PE1,PE2における共重合においては、所定量の触媒失活剤を添加することが好ましい。例えば、十分に成長していないポリプロピレン粒子が共重合反応槽PE1,PE2内に供給されると、このポリプロピレン粒子中の触媒の高い活性によって共重合反応が過度に進行してプロピレン−エチレン成分が過剰なプロピレン−エチレンブロック共重合体が製造されるおそれがある。触媒失活剤の作用で触媒活性を抑制することで、共重合反応の過度の進行を防止でき、得られるプロピレン−エチレンブロック共重合体の構造上の均一性が向上する。
【0056】
触媒失活剤としては、酸素、アルコール類、フェノール類、ケトン類、アルデヒド類、カルボン酸類、有機酸又は無機酸のエステル類、エーテル類、酸アミド類、酸無水物類等の含酸素電子供与体;アンモニアやアンモニウム塩などのアンモニア類、アミン類、ニトリル類、イソシアネート類等の含窒素電子供与体等の一般的に使用されるものをあげることができる。これらの電子供与体成分のうち好ましくは無機酸のエステル類及びエ−テル類である。
【0057】
該無機酸のエステル類として好ましくは、一般式R19Si(OR204−n(式中、R19は炭素数1〜20の一価の炭化水素基又は水素原子、R20は炭素数1〜20の一価の炭化水素基であり、nは0≦n<4である)で表されるケイ素化合物であり、より好ましくは、n=0であるケイ素化合物である。具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、tert−ブチル−n−プロピルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン等をあげることができる。
【0058】
該エ−テル類として好ましくは、ジアルキルエーテル、一般式

(式中、R21〜R24は炭素数1〜20の線状又は分岐状のアルキル基、脂環式炭化水素基、アリール基、又はアラルキル基であり、R21又はR22は水素原子であってもよい。)で表されるジエーテル化合物があげられる。具体例としては、ジブチルエーテル、ジアミルエーテル、2,2−ジイソブチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジシクロペンチル−1,3−ジメトキシプロパン等をあげることができる。
【0059】
触媒失活剤の添加量は固体触媒の種類や触媒の残余活性などに応じて適宜調整すればよいが、適度な共重合反応を進行させる観点から、固体触媒に含まれるチタン(Ti)1モルに対して0.005〜500モル添加することが好ましく、0.01〜300モル添加することがより好ましい。
【0060】
また、プロピレンとエチレンとの共重合は気相重合に限定されず、液相重合によって行ってもよい。但し、得られるプロピレン−エチレンブロック共重合体の構造上の均一性、プロピレン−エチレン成分の液相への溶出、リサイクル原料の精製量などの観点から液相重合よりも気相重合で行うことが好ましい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例により本発明を説明する。物性測定及び評価は、下記の方法で行った。
(1)極限粘度(単位:dl/g)
ウベローデ型粘度計を用いて、テトラリン溶媒及び温度135℃の条件で、濃度0.1、0.2、及び0.5g/dlの3点について還元粘度を測定した。次に、「高分子溶液、高分子実験学11」(1982年共立出版会社刊)第491頁に記載の計算法に従い、還元粘度を濃度に対しプロットし、濃度をゼロに外挿する外挿法によって極限粘度を求めた。
(2)融解熱量(単位:J/g)
示差走査熱量計(パーキンエルマー社製 DSC−7)を用い以下の条件で測定した。
(i)試料約10mgを50℃から200℃/分の昇温速度で220℃まで昇温し、昇温完了後、5分間保持した。
(ii)次いで、220℃から70℃/分の降温速度で180℃まで降温し、降温完了後、5分間、保持した。
(iii)次いで、180℃から200℃/分の降温速度で50℃まで降温し、降温完了後、1分間、保持した。
(iv)次いで、50℃から16℃/分の昇温速度で180℃まで昇温した。
この(iv)で得られる曲線が融解曲線であり、融解熱量は、融解曲線の95℃の点と、融解曲線が高温側のベースラインに戻る点(約175℃)とを直線で結んだ線を用いて求めた。
(3)プロピレン単位含有量(単位:重量%)
赤外吸収スペクトル法により求めた。
(4)フィッシュアイ数(単位:個/100cm2
得られた重合体を、Tダイフィルム成形機(田辺プラスチック(株)製20mmφ押出機、100mm幅Tダイ)を用いて、温度220℃で、厚み80μmのフィルムに成形した。スキャナー(セイコーエプソン(株)製)を用いて、該フィルムの画像をコンピューターに取り込み、次に、画像解析プログラム(旭エンジニアリング社製)を用いて、該画像を解析し、直径100μm以上及び直径200μm以上のフィッシュアイの数を測定した。
なお、フィッシュアイの数は、フィルム100cm2あたりの量として表した。
【0062】
(実施例1)
[固体触媒の調製]
内容積200Lの攪拌機付きSUS製反応容器内を窒素で置換した。この容器内にヘキサン80L、テトラブトキシチタン6.55モル、フタル酸ジイソブチル2.8モル、及びテトラエトキシシラン98.9モルを投入すると共に攪拌して溶液を得た。次いで、反応容器内の温度を5℃に保ちながら、この溶液に濃度2.1モル/Lのブチルマグネシウムクロリドのジイソブチルエーテル溶液51Lを5時間かけて徐々に滴下した。滴下終了後、室温で1時間攪拌し、室温で固液分離した後、トルエン70Lで3回洗浄を行った。その後、スラリー濃度が0.2kg/Lになるようにトルエンを加えた後、フタル酸ジイソブチル47.6モルを加え、95℃で30分間反応を行った。
【0063】
反応後、固液分離し、トルエンで2回洗浄を行った。次いで、フタル酸ジイソブチル3.13モル、ジブチルエーテル8.9モル及び四塩化チタン274モルを加え、105℃で3時間反応を行った。反応終了後、同温度で固液分離し、同温度でトルエン90Lで2回洗浄を行った。次いで、スラリー濃度を0.4Kg/Lに調整した後、ジブチルエーテル8.9モル及び四塩化チタン137モルを加え、105℃で1時間反応を行った。反応終了後、同温度で固液分離し、同温度でトルエン90Lで6回洗浄を行った後、さらにヘキサン70Lで3回洗浄し、減圧乾燥して固体触媒成分11.4kgを得た。
【0064】
[予備重合]
内容積3Lの撹拌機付きSUS製オートクレーブに、充分に脱水及び脱気処理したn−ヘキサン1.5L、トリエチルアルミニウム30ミリモル、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン3.0ミリモルを収容させた。その中に上記固体触媒成分16gを添加し、オートクレーブ内の温度を約3〜10℃に保ちながらプロピレン32gを約40分かけて連続的に供給して予備重合を行った。その後、予備重合スラリーを内容積200Lの攪拌機付きSUS製オートクレーブに移送し、液状ブタン133Lを加えて、予備重合触媒成分のスラリーとした。
【0065】
上記のようにして調製した予備重合触媒成分のスラリーを用いて3段階のプロピレン単独重合をそれぞれ異なるリアクターで行ってポリプロピレン粒子を製造した。その後、このポリプロピレン粒子の存在下、1段階のプロピレンとエチレンとの共重合を行ってプロピレン−エチレンブロック共重合体を製造した。以下、各重合プロセスについて説明する。
【0066】
[第1段プロピレン重合(液相重合反応)]
内容積40Lの攪拌機付きベッセルタイプのリアクターを用いて、プロピレンの単独重合を行った。すなわち、プロピレン、水素、トリエチルアルミニウム、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン及び予備重合触媒成分のスラリーをリアクターに連続的に供給した。反応条件は、重合温度:78℃、攪拌速度:150rpm、リアクターの液レベル:18L、プロピレンの供給量:22kg/時間、水素の供給量:190NL/時間、トリエチルアルミニウムの供給量:39.7ミリモル/時間、シクロヘキシルエチルジメトキシシランの供給量:5.8ミリモル/時間、予備重合触媒成分のスラリーの供給量(固体触媒成分換算):0.704g/時間、リアクター運転時間:12時間とした。当該リアクターにおいては、スラリーの平均滞留時間は0.30時間であり、排出されたポリプロピレン粒子は3.75kg/時間、その極限粘度は0.87dl/gであった。
【0067】
[第2段プロピレン重合(液相重合反応)]
上記第1段のプロピレン重合を経たスラリーを、別のリアクター(ベッセルタイプ)に連続的に移送し、このリアクターにプロピレン及び水素を連続的に供給してプロピレンの単独重合を更に行った。反応条件は、重合温度:75℃、攪拌速度:150rpm、リアクターの液レベル:44L、プロピレンの供給量:6kg/時間、水素の供給量:30NL/時間、リアクター運転時間:12時間とした。当該リアクターにおいては、スラリーの平均滞留時間は0.69時間であり、排出されたポリプロピレン粒子は9.9kg/時間、その極限粘度は0.87dl/gであった。
【0068】
[第3段プロピレン重合(液相重合反応)]
上記第2段のプロピレン重合を経たスラリーを、更に別のリアクター(ベッセルタイプ)に連続的に移送し、プロピレンの単独重合を更に行った。なお、当該リアクターに対しては、水素の供給は行わなかった。反応条件は、重合温度:68℃、攪拌、速度:150rpm、リアクターの液レベル:44L、プロピレンの供給量:3kg/時間、リアクター運転時間:12時間とした。当該リアクターにおいては、スラリーの平均滞留時間は0.71時間であり、排出されたポリプロピレン粒子は14.9kg/時間、その極限粘度は0.87dl/g、融解熱量は110.4J/gであった。
【0069】
[第1段共重合(気相重合反応)]
上記第3段のプロピレン重合を経て得られたポリプロピレン粒子を、内容積1mの攪拌機付き流動床反応器に連続的に移送し、この反応器にプロピレン、エチレン及び水素を連続的に供給してプロピレンとエチレンの共重合を行った。反応条件は、重合温度:70℃、重合圧力:1.8MPa、循環ガス風量:140m3/時間、反応器内ガスの濃度比(体積%):プロピレン/エチレン/水素=68.4/24.5/1.45、流動床の重合体粒子ホールド量:55kg、反応器運転時間:12時間とした。なお、当該反応器に供給したトリエチルアルミニウム1モルに対して0.087モルに相当する量の酸素(失活剤)を供給ガスに添加した。当該反応器においては、ポリマー粒子(プロピレン−エチレンブロック共重合体)の平均滞留時間は2.42時間であり、排出されたポリマー粒子は19.0kg/時間、その極限粘度は1.45dl/g、融解熱量は86.4J/g、プロピレン単位含有量は92.0重量%であった。また、ポリマー粒子の嵩比重は0.420g/cm3であった。
【0070】
(実施例2)
酸素(失活剤)の供給量を、第1段共重合反応器に供給したトリエチルアルミニウム1モルに対して0.083モルに相当する量に変更した以外は、実施例1と同様の方法によってプロピレン−エチレンブロック共重合体の製造を行った。ポリマー粒子(プロピレン−エチレンブロック共重合体)の平均滞留時間は2.82時間であり、排出されたポリマー粒子は19.7kg/時間、その極限粘度は1.50dl/g、融解熱量は84.2J/g、プロピレン単位含有量は91.3重量%であった。また、ポリマー粒子の嵩比重は0.423g/cmであった。
【0071】
(実施例3)
第1段共重合反応器(気相重合反応)に当該反応器に供給したトリエチルアルミニウム1モルに対して1.0モルに相当する量のテトラエトキシシランを添加し、第1段共重合反応器(気相重合反応)の反応器内ガスの濃度比(体積%):プロピレン/エチレン/水素=68.3/23.2/1.46に変更し、当該反応器に供給したトリエチルアルミニウム1モルに対して0.0045モルに相当する量の酸素(失活剤)の供給量に変更した以外は、実施例1と同様の方法によってプロピレン−エチレンブロック共重合体の製造を行った。ポリマー粒子(プロピレン−エチレンブロック共重合体)の平均滞留時間は2.93時間であり、排出されたポリマー粒子は18.8kg/時間、その極限粘度は1.54dl/g、融解熱量は83.0J/g、プロピレン単位含有量は90.5重量%であった。また、ポリマー粒子の嵩比重は0.427g/cmであった。
【0072】
(実施例4)
実施例1と同様の方法によって固体触媒成分及び予備重合触媒成分のスラリーを調製し、このスラリーを用いて3段階のプロピレン単独重合をそれぞれ異なるリアクターで行ってポリプロピレン粒子を製造した。その後、このポリプロピレン粒子の存在下、1段階のプロピレンとエチレンとの共重合を行ってプロピレン−エチレンブロック共重合体を製造した。以下、各重合プロセスについて説明する。
【0073】
[第1段プロピレン重合(液相重合反応)]
内容積40Lの攪拌機付きベッセルタイプのリアクターを用いて、プロピレンの単独重合を行った。すなわち、プロピレン、水素、トリエチルアルミニウム、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン及び予備重合触媒成分のスラリーをリアクターに連続的に供給した。反応条件は、重合温度:78℃、攪拌速度:150rpm、リアクターの液レベル:18L、プロピレンの供給量:22kg/時間、水素の供給量:190NL/時間、トリエチルアルミニウムの供給量:39.4ミリモル/時間、シクロヘキシルエチルジメトキシシランの供給量:6.0ミリモル/時間、予備重合触媒成分のスラリーの供給量(固体触媒成分換算):0.573g/時間、リアクター運転時間:12時間とした。当該リアクターにおいては、スラリーの平均滞留時間は0.30時間であり、排出されたポリプロピレン粒子は3.10kg/時間、その極限粘度は0.87dl/gであった。
【0074】
[第2段プロピレン重合(液相重合反応)]
上記第1段のプロピレン重合を経たスラリーを、別のリアクター(ベッセルタイプ)に連続的に移送し、このリアクターにプロピレン及び水素を連続的に供給してプロピレンの単独重合を更に行った。反応条件は、重合温度:75℃、攪拌速度:150rpm、リアクターの液レベル:44L、プロピレンの供給量:6kg/時間、水素の供給量:25NL/時間、リアクター運転時間:12時間とした。当該リアクターにおいては、スラリーの平均滞留時間は0.67時間であり、排出されたポリプロピレン粒子は8.2kg/時間、その極限粘度は0.87dl/gであった。
【0075】
[第3段プロピレン重合(液相重合反応)]
上記第2段のプロピレン重合を経たスラリーを、更に別のリアクター(ベッセルタイプ)に連続的に移送し、プロピレンの単独重合を更に行った。なお、当該リアクターに対しては、水素の供給は行わなかった。反応条件は、重合温度:68℃、攪拌、速度:150rpm、リアクターの液レベル:80L、プロピレンの供給量:3kg/時間、リアクター運転時間:12時間とした。当該リアクターにおいては、スラリーの平均滞留時間は1.31時間であり、排出されたポリプロピレン粒子は14.5kg/時間、その極限粘度は0.87dl/g、融解熱量は109.5J/gであった。
【0076】
[第1段共重合(気相重合反応)]
上記第3段のプロピレン重合を経て得られたポリプロピレン粒子を、内容積1mの攪拌機付き流動床反応器に連続的に移送し、この反応器にプロピレン、エチレン及び水素を連続的に供給してプロピレンとエチレンの共重合を行った。反応条件は、重合温度:70℃、重合圧力:1.8MPa、循環ガス風量:140m3/時間、反応器内ガスの濃度比(体積%):プロピレン/エチレン/水素=68.1/26.4/1.48、流動床の重合体粒子ホールド量:55kg、反応器運転時間:16時間とした。なお、当該反応器に供給したトリエチルアルミニウム1モルに対して0.045モルに相当する量の酸素(失活剤)を供給ガスに添加した。当該反応器においては、ポリマー粒子(プロピレン−エチレンブロック共重合体)の平均滞留時間は2.93時間であり、排出されたポリマー粒子は18.8kg/時間、その極限粘度は1.47dl/g、融解熱量は84.4J/g、プロピレン単位含有量は90.9重量%であった。また、ポリマー粒子の嵩比重は0.422g/cm3であった。
【0077】
(比較例1)
実施例1と同様の方法によって固体触媒成分及び予備重合触媒成分のスラリーを調製し、このスラリーを用いて3段階のプロピレン単独重合をそれぞれ異なるリアクターで行ってポリプロピレン粒子を製造した。その後、このポリプロピレン粒子の存在下、1段階のプロピレンとエチレンとの共重合を行ってプロピレン−エチレンブロック共重合体を製造した。以下、各重合プロセスについて説明する。
【0078】
[第1段プロピレン重合(液相重合反応)]
内容積40Lの攪拌機付きベッセルタイプのリアクターを用いて、プロピレンの単独重合を行った。すなわち、プロピレン、水素、トリエチルアルミニウム、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン及び予備重合触媒成分のスラリーをリアクターに連続的に供給した。反応条件は、重合温度:78℃、攪拌速度:150rpm、リアクターの液レベル:18L、プロピレンの供給量:21kg/時間、水素の供給量:140NL/時間、トリエチルアルミニウムの供給量:41.0ミリモル/時間、シクロヘキシルエチルジメトキシシランの供給量:6.0ミリモル/時間、予備重合触媒成分のスラリーの供給量(固体触媒成分換算):0.416g/時間、リアクター運転時間:12時間とした。当該リアクターにおいては、スラリーの平均滞留時間は0.31時間であり、排出されたポリプロピレン粒子は2.69kg/時間、その極限粘度は0.86dl/gであった。
【0079】
[第2段プロピレン重合(液相重合反応)]
上記第1段のプロピレン重合を経たスラリーを、別のリアクター(ベッセルタイプ)に連続的に移送し、このリアクターにプロピレンを連続的に供給してプロピレンの単独重合を更に行った。なお、当該リアクターに対しては、水素の供給は行わなかった。反応条件は、重合温度:75℃、攪拌速度:150rpm、リアクターの液レベル:85L、プロピレンの供給量:1.0kg/時間、リアクター運転時間:12時間とした。当該リアクターにおいては、スラリーの平均滞留時間は1.84時間であり、排出されたポリプロピレン粒子は10.7kg/時間、その極限粘度は0.86dl/gであった。
【0080】
[第3段プロピレン重合(液相重合反応)]
上記第2段のプロピレン重合を経たスラリーを、更に別のリアクター(ベッセルタイプ)に連続的に移送し、プロピレンの単独重合を更に行った。反応条件は、重合温度:68℃、攪拌、速度:150rpm、リアクターの液レベル:44L、プロピレンの供給量:10kg/時間、水素の供給量:20NL/時間、リアクター運転時間:12時間とした。当該リアクターにおいては、スラリーの平均滞留時間は0.68時間であり、排出されたポリプロピレン粒子は12.9kg/時間、その極限粘度は0.86dl/g、融解熱量は109.4J/gであった。
【0081】
[第1段共重合(気相重合反応)]
上記第3段のプロピレン重合を経て得られたポリプロピレン粒子を、内容積1mの攪拌機付き流動床反応器に連続的に移送し、この反応器にプロピレン、エチレン及び水素を連続的に供給してプロピレンとエチレンの共重合を行った。反応条件は、重合温度:70℃、重合圧力:1.8MPa、循環ガス風量:140m3/時間、反応器内ガスの濃度比(体積%):プロピレン/エチレン/水素=66.8/28.7/1.55、流動床の重合体粒子ホールド量:45kg、反応器運転時間:18時間とした。なお、当該反応器に供給したトリエチルアルミニウム1モルに対して0.039モルに相当する量の酸素(失活剤)を供給ガスに添加した。当該反応器においては、ポリマー粒子(プロピレン−エチレンブロック共重合体)の平均滞留時間は2.63時間であり、排出されたポリマー粒子は17.1kg/時間、その極限粘度は1.53dl/g、融解熱量は82.7J/g、プロピレン単位含有量は90.4重量%であった。また、ポリマー粒子の嵩比重は0.432g/cm3であった。
【0082】
(比較例2)
実施例1と同様の方法によって固体触媒成分及び予備重合触媒成分のスラリーを調製し、このスラリーを用いて3段階のプロピレン単独重合をそれぞれ異なるリアクターで行ってポリプロピレン粒子を製造した。その後、このポリプロピレン粒子の存在下、1段階のプロピレンとエチレンとの共重合を行ってプロピレン−エチレンブロック共重合体を製造した。以下、各重合プロセスについて説明する。
【0083】
[第1段プロピレン重合(液相重合反応)]
内容積40Lの攪拌機付きベッセルタイプのリアクターを用いて、プロピレンの単独重合を行った。すなわち、プロピレン、水素、トリエチルアルミニウム、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン及び予備重合触媒成分のスラリーをリアクターに連続的に供給した。反応条件は、重合温度:78℃、攪拌速度:150rpm、リアクターの液レベル:18L、プロピレンの供給量:21kg/時間、水素の供給量:145NL/時間、トリエチルアルミニウムの供給量:40.6ミリモル/時間、シクロヘキシルエチルジメトキシシランの供給量:6.0ミリモル/時間、予備重合触媒成分のスラリーの供給量(固体触媒成分換算):0.396g/時間、リアクター運転時間:12時間とした。当該リアクターにおいては、スラリーの平均滞留時間は0.32時間であり、排出されたポリプロピレン粒子は2.43kg/時間、その極限粘度は0.87dl/gであった。
【0084】
[第2段プロピレン重合(液相重合反応)]
上記第1段のプロピレン重合を経たスラリーを、別のリアクター(ベッセルタイプ)に連続的に移送し、このリアクターにプロピレンを連続的に供給してプロピレンの単独重合を更に行った。なお、当該リアクターに対しては、水素の供給は行わなかった。反応条件は、重合温度:75℃、攪拌速度:150rpm、リアクターの液レベル:85L、プロピレンの供給量:1.0kg/時間、リアクター運転時間:12時間とした。当該リアクターにおいては、スラリーの平均滞留時間は1.82時間であり、排出されたポリプロピレン粒子は10.0kg/時間、その極限粘度は0.87dl/gであった。
【0085】
[第3段プロピレン重合(液相重合反応)]
上記第2段のプロピレン重合を経たスラリーを、更に別のリアクター(ベッセルタイプ)に連続的に移送し、プロピレンの単独重合を更に行った。反応条件は、重合温度:68℃、攪拌、速度:150rpm、リアクターの液レベル:85L、プロピレンの供給量:3.0kg/時間、リアクター運転時間:12時間とした。当該リアクターにおいては、スラリーの平均滞留時間は1.79時間であり、排出されたポリプロピレン粒子は13.1kg/時間、その極限粘度は0.87dl/g、融解熱量は110.1J/gであった。
【0086】
[第1段共重合(気相重合反応)]
上記第3段のプロピレン重合を経て得られたポリプロピレン粒子を、内容積1mの攪拌機付き流動床反応器に連続的に移送し、この反応器にプロピレン、エチレン及び水素を連続的に供給してプロピレンとエチレンの共重合を行った。反応条件は、重合温度:70℃、重合圧力:1.8MPa、循環ガス風量:140m3/時間、反応器内ガスの濃度比(体積%):プロピレン/エチレン/水素=63.0/28.6/1.41、流動床の重合体粒子ホールド量:50kg、反応器運転時間:16時間とした。なお、当該反応器に供給したトリエチルアルミニウム1モルに対して0.035モルに相当する量の酸素(失活剤)を供給ガスに添加した。当該反応器においては、ポリマー粒子(プロピレン−エチレンブロック共重合体)の平均滞留時間は2.97時間であり、排出されたポリマー粒子は16.6kg/時間、その極限粘度は1.48dl/g、融解熱量は85.9J/g、プロピレン単位含有量は91.4重量%であった。また、ポリマー粒子の嵩比重は0.437g/cm3であった。
【0087】
(比較例3)
実施例1と同様の方法によって固体触媒成分及び予備重合触媒成分のスラリーを調製し、このスラリーを用いて3段階のプロピレン単独重合をそれぞれ異なるリアクターで行ってポリプロピレン粒子を製造した。その後、このポリプロピレン粒子の存在下、1段階のプロピレンとエチレンとの共重合を行ってプロピレン−エチレンブロック共重合体を製造した。以下、各重合プロセスについて説明する。
【0088】
[第1段プロピレン重合(液相重合反応)]
内容積40Lの攪拌機付きベッセルタイプのリアクターを用いて、プロピレンの単独重合を行った。すなわち、プロピレン、水素、トリエチルアルミニウム、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン及び予備重合触媒成分のスラリーをリアクターに連続的に供給した。反応条件は、重合温度:78℃、攪拌速度:150rpm、リアクターの液レベル:18L、プロピレンの供給量:11kg/時間、水素の供給量:80NL/時間、トリエチルアルミニウムの供給量:41.0ミリモル/時間、シクロヘキシルエチルジメトキシシランの供給量:6.0ミリモル/時間、予備重合触媒成分のスラリーの供給量(固体触媒成分換算):0.440g/時間、リアクター運転時間:12時間とした。当該リアクターにおいては、スラリーの平均滞留時間は0.67時間であり、排出されたポリプロピレン粒子は4.9kg/時間、その極限粘度は0.90dl/gであった。
【0089】
[第2段プロピレン重合(液相重合反応)]
上記第1段のプロピレン重合を経たスラリーを、別のリアクター(ベッセルタイプ)に連続的に移送し、このリアクターにプロピレンおよび水素を連続的に供給してプロピレンの単独重合を更に行った。反応条件は、重合温度:75℃、攪拌速度:150rpm、リアクターの液レベル:80L、プロピレンの供給量:16kg/時間、水素の供給量:75NL/時間、リアクター運転時間:12時間とした。当該リアクターにおいては、スラリーの平均滞留時間は1.36時間であり、排出されたポリプロピレン粒子は10.9kg/時間、その極限粘度は0.90dl/gであった。
【0090】
[第3段プロピレン重合(液相重合反応)]
上記第2段のプロピレン重合を経たスラリーを、更に別のリアクター(ベッセルタイプ)に連続的に移送し、プロピレンの単独重合を更に行った。なお、当該リアクターに対しては、水素の供給は行わなかった。反応条件は、重合温度:68℃、攪拌、速度:150rpm、リアクターの液レベル:80L、プロピレンの供給量:2.5kg/時間、リアクター運転時間:12時間とした。当該リアクターにおいては、スラリーの平均滞留時間は1.38時間であり、排出されたポリプロピレン粒子は13.8kg/時間、その極限粘度は0.90dl/g、融解熱量は110.0J/gであった。
【0091】
[第1段共重合(気相重合反応)]
上記第3段のプロピレン重合を経て得られたポリプロピレン粒子を、内容積1mの攪拌機付き流動床反応器に連続的に移送し、この反応器にプロピレン、エチレン及び水素を連続的に供給してプロピレンとエチレンの共重合を行った。反応条件は、重合温度:70℃、重合圧力:1.8MPa、循環ガス風量:140m3/時間、反応器内ガスの濃度比(体積%):プロピレン/エチレン/水素=63.4/29.0/1.49、流動床の重合体粒子ホールド量:50kg、反応器運転時間:16時間とした。なお、当該反応器に供給したトリエチルアルミニウム1モルに対して0.0072モルに相当する量の酸素(失活剤)を供給ガスに添加した。当該反応器においては、ポリマー粒子(プロピレン−エチレンブロック共重合体)の平均滞留時間は2.86時間であり、排出されたポリマー粒子は17.5kg/時間、その極限粘度は1.46dl/g、融解熱量は86.9J/g、プロピレン単位含有量は91.4重量%であった。また、ポリマー粒子の嵩比重は0.431g/cm3であった。
【0092】
表1に実施例1〜4及び比較例1〜3における物性測定及び評価の結果を示す。共重合部の含量に対する直径100μm以上のフィッシュアイの数を図2にプロットした。一般的に、共重合部の含量が多くなる程、フィッシュアイの数が多くなるものであるが、図2が示すように、本発明の製造方法によって得られたプロピレン−エチレン共重合体は、成型体におけるフィッシュアイの発生の抑制に効果があることがわかる。また、テトラエトキシシランを第1段共重合反応器に添加することによって、さらに成型体に発生するフィッシュアイの数が低減されたことがわかる。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】プロピレン−エチレンブロック共重合体製造システムを示す概略構成図である。
【図2】プロピレン−エチレンブロック共重合体の共重合部の含量と直径100μm以上のフィッシュアイの数の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0094】
P1,P2,P3…プロピレン重合反応槽、PE1,PE2…共重合反応槽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に接続された2段以上の重合反応槽を用いて行われ、第1段の重合反応槽に対し、固体触媒又はこれを含有する予備重合触媒と、プロピレンとを連続的に供給して前記固体触媒を含有するポリプロピレン粒子を生成すると共に、第2段以降の重合反応槽に対し、プロピレンと、前段の重合反応槽から連続的に抜き出したポリプロピレン粒子とを連続的に供給してポリプロピレン粒子をそれぞれ成長させる第1重合工程と、
プロピレンと、エチレンと、前記第1重合工程の最終段の重合反応槽から連続的に抜き出したポリプロピレン粒子とを重合反応槽に供給してポリプロピレン粒子内にプロピレンとエチレンとの共重合体を生成する第2重合工程と、
を備え、
前記第1重合工程の各重合反応槽におけるポリプロピレン粒子の平均滞留時間をいずれも0.1〜1.5時間とし且つ前記第1重合工程の全重合反応槽におけるポリプロピレン粒子の平均滞留時間の合計を1.5〜3.0時間とする、プロピレン−エチレンブロック共重合体の製造方法。
【請求項2】
第1段の重合反応槽に対する前記固体触媒の単位時間当たりの供給量を1質量部とすると、前記第1及び第2重合工程を経て得られるプロピレン−エチレンブロック共重合体の質量が20000〜40000質量部である、請求項1に記載のプロピレン−エチレンブロック共重合体の製造方法。
【請求項3】
前記第1重合工程の各重合反応槽におけるポリプロピレン粒子の平均滞留時間をいずれも1.2時間以下とする、請求項1又は2に記載のプロピレン−エチレンブロック共重合体の製造方法。
【請求項4】
前記第2重合工程の重合反応槽に下記一般式[1]で表されるケイ素化合物を供給する、請求項1〜3のいずれかに記載のプロピレン−エチレンブロック共重合体の製造方法。
Si(OL) [1]
(式中、Lは、炭素原子数1〜20の一価の炭化水素基を表す。4つのLは、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−173897(P2009−173897A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326379(P2008−326379)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】