説明

プロピレンオキサイドの濃縮方法および濃縮装置

【課題】エネルギーをそれほど必要とせず、少なくとも95重量%以上のプロピレンオキサイドを含有する濃縮水溶液を提供する方法および装置を提供すること。
【解決手段】不純なプロピレンオキサイド溶液中のプロピレンオキサイドを濃縮するに当たり、上記溶液と水蒸気とを蒸留塔に導入し、プロピレンオキサイドを含有するガス流を回収し、ついでこのガス流(水蒸気処理された溶液)を、直列に配置された少なくとも2個の熱交換器内において、1.5〜6バールの蒸留塔内および熱交換器内の絶対圧で、5℃と、使用された圧力下でのプロピレンオキサイドの凝縮温度より5℃低い温度との間にある最後の熱交換器中の冷却液体の温度下において、連続的に凝縮させることを特徴とする、プロピレンオキサイドの濃縮方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレンオキサイドの製造に関する。特に、本発明はプロピレンオキサイド水溶液、例えばプロピレンオキサイドを含む反応混合物からプロピレンオキサイドを分離するためにプロピレンオキサイドを水に吸収させて得られる水溶液を濃縮するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレンオキサイドは、プロピレンを気相中で金属触媒存在下、酸素を用いて酸化することによって製造される。この酸化反応で生ずるガス状混合物中のプロピレンオキサイド濃度は非常に低いため、純粋なプロピレンオキサイドを得るためには、上記ガス状混合物に引続いて種々の処理(吸収、蒸留、フラッシュ等)を行うことが必要である(FR1343492、FR2305436およびUS3904656等参照)。
【0003】
プロピレンオキサイドの合成で生ずるガス状混合物からのプロピレンオキサイドの単離は、例えば以下の工程で行うことができる。
(a)水による吸収:ガス状混合物を複数の理論段またはガス−液体接触装置を含む吸収塔内で水と接触させる。この工程においては約2.5重量%のプロピレンオキサイドと溶解ガス(二酸化炭素、メタン、エタン、窒素、アルゴン等)および他の不純物(主としてアルデヒド等)とを含有する水溶液が得られる;
(b)脱着:上記水溶液を、場合によって富化帯域を有する蒸留塔内で放散する。塔の底部ではプロピレンオキサイドを含有していない水溶液流が得られ、塔の頂部においてはプロピレンオキサイド、水蒸気、溶解ガスとプロピレンオキサイド水溶液中に当初から存在する他の不純物との混合物(ガス流)が得られる。このガス流は約30〜60重量%のプロピレンオキサイドを含有する;
(c)再吸収:前記ガス流を冷却した後、水と接触させてプロピレンオキサイドを再吸収させる。溶解ガスの大部分は水に吸収されず、ガス流の形で容易に分離される。この工程では、プロピレンオキサイド濃度が5〜15重量%のプロピレンオキサイド水溶液が得られる;および
(d)蒸留:上記水溶液を蒸留して純粋なプロピレンオキサイドを得る。
【0004】
特許文献1には、エチレンオキサイドの濃縮方法および濃縮装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−92280
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記水溶液から2種の成分を分離するのに必要なエネルギーは、プロピレンオキサイド含有量が減少するにつれて増大する。例えば、工程(b)で得られるガス混合物は約30〜50重量%のプロピレンオキサイドを含有しているが、プロピレンオキサイドを再吸収させるためには水を再び添加することが必要であり、この水をプロピレンオキサイドから分離するためには、その後に相当な量のエネルギーが必要となる。
従って、本発明の課題は、エネルギーをそれほど必要とせず、少なくとも95重量%、通常97重量%以上のプロピレンオキサイドを含有する濃縮水溶液を提供する方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため検討した結果、以下の発明を完成した。
[1] 不純なプロピレンオキサイド溶液中のプロピレンオキサイドを濃縮するに当たり、
上記溶液と水蒸気とを蒸留塔に導入し、プロピレンオキサイドを含有するガス流を回収し、ついでこのガス流(水蒸気処理された溶液)を、直列に配置された少なくとも2個の熱交換器内において、
1.5〜6バールの蒸留塔内および熱交換器内の絶対圧で、5℃と、使用された圧力下でのプロピレンオキサイドの凝縮温度より5℃低い温度との間にある最後の熱交換器中の冷却液体の温度下において、連続的に凝縮させることを特徴とする、プロピレンオキサイドの濃縮方法。
[2] 3個の熱交換器を使用し、そして第1と第2の熱交換器の冷却液体の温度を、
第1の熱交換器から流出する液相が上記熱交換器に流入するガス流中に含有されているプロピレンオキサイドの12%以上を含有しないように、また、第2の熱交換器から流出するガス流中に含有されている水の割合が、プロピレンオキサイドの重量に基づいて5%以下であるように調節する、[1]記載の方法。
【0008】
[3] 最後の熱交換器からのガス流を水またはグリコール水溶液中に再吸収させる、[1]又は[2]記載の方法。
[4] 1個またはそれ以上の中間の熱交換器からの液相、または最後の熱交換器から流出したガス流の吸収工程からの液相を、蒸留塔に流入するプロピレンオキサイド溶液に再循環させる、[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 最後の熱交換器から流出するガス流の再吸収工程から得られるガス流を、プロピレンオキサイド合成反応器に再循環させる、[3]又は[4]記載の方法。
[6] 蒸留塔および一連の熱交換器内の絶対圧が1.6〜4バール、好ましくは1.9〜3バールである、[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 蒸留塔と、直列に配置された少なくとも2個の熱交換器と、場合により吸収塔と、これらの装置と共に作動して、蒸留塔から流出するガス流を熱交換器の各々および場合により吸収塔に循環させるための装置とからなることを特徴とする、不純なプロピレンオキサイド溶液中のプロピレンオキサイドの濃縮装置。
[8] 直列に配置された3個の熱交換器を有する、[7]記載の装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法および装置によって、エネルギーをそれほど必要とせず、少なくとも95重量%、通常97重量%以上のプロピレンオキサイドを含有する濃縮水溶液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の方法を実施するための装置系を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明によれば、背景技術で説明した工程(b)から生ずるガス流を直列に配置された2個の、好ましくは3個の熱交換器中で連続的に凝縮させる方法と装置が提供される。
【0012】
本発明が適用できるプロピレンオキサイドの接触気相酸化方法としては、例えば、金属酸化物等を含有するような金属触媒存在下でプロピレン及び酸素を反応させる製法等が挙げられる。このような金属触媒存在下でプロピレン及び酸素を反応させる製法については、例えば、WO2011/075458、WO2011/075459、WO2012/005822、WO2012/005823、WO2012/005824、WO2012/005825、WO2012/005831、WO2012/005832、WO2012/005835、WO2012/005837、WO2012/009054、WO2012/009059、WO2012/009058、WO2012/009053、WO2012/009057、WO2012/009055、WO2012/009052、WO2012/009055等に記載されている。その製法において用いる触媒としては、下記(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)、(j)、(k)、(l)、(m)、(n)、(o)、(p)及び(q)からなる群から選ばれる少なくとも2種を含む触媒が挙げられる。
(a)銅酸化物
(b)ルテニウム酸化物
(c)マンガン酸化物
(d)ニッケル酸化物
(e)オスミウム酸化物
(f)ゲルマニウム酸化物
(g)クロミウム酸化物
(h)タリウム酸化物
(i)スズ酸化物
(j)ビスマス酸化物
(k)アンチモン酸化物
(l)レニウム酸化物
(m)コバルト酸化物
(n)オスミウム酸化物
(o)ランタノイド酸化物
(p)タングステン酸化物
(q)アルカリ金属成分又はアルカリ土類金属成分
好ましくは(a)銅酸化物及び(b)ルテニウム酸化物を含有する触媒であり、より好ましくは(a)銅酸化物、(b)ルテニウム酸化物及び(q)アルカリ金属成分又はアルカリ土類金属成分を含有する触媒である。
【実施例】
【0013】
本発明をさらに詳しく述べるために、以下に図1を参照して本発明を説明する。しかし、これらは何ら本発明の範囲を限定するものではない。
図1は本発明の一つの好ましい方法を実施するための装置系を示す。この装置系は基本的には蒸留塔21、3個の熱交換器31、41、51および吸収塔61からなる。
【0014】
蒸留塔21は、複数の理論段またはガス−液体接触装置を含み、富化帯域を有し得る慣用の蒸留塔である。蒸留塔21の上方部に非常に稀薄なプロピレンオキサイド水溶液が液流10として導入される。この水溶液は溶解ガス(通常、0.25重量%以下)と他の不純物とを含有し得る。液流24として、溶解ガスと不純物を含有せず、プロピレンオキサイドを含有していない水溶液流が排出される。ガス流22には、プロピレンオキサイド(約30〜60重量%)、水蒸気、液流10中に場合により存在する溶解ガスの大部分および不純物の混合物が得られる。分離に必要なエネルギーは、蒸留塔21の底部での水蒸気23の吹き込みによって、又は任意の熱源を用いる再加熱によって提供される。蒸留塔21は標準的な慣用の方法で作動する。
【0015】
ついで、ガス流22を、直列に配置された3個の熱交換器中で凝縮させる。最初の2個の熱交換器31及び41によって、プロピレンオキサイドの部分的凝縮を行い、第3の熱交換器51でプロピレンオキサイドの全体的凝縮を行う。95重量%以上のプロピレンオキサイド、少量の水、液流10に溶解していた二酸化炭素の一部及び若干の不純物(主としてアルデヒド等)を含有する液相を52で捕集する。液流10中に含有されていた溶解ガスの大部分と少割合の不純物とから形成されるガス相を53で捕集し、オキサイドド蒸気および水蒸気と混合する。このガス流53を複数の理論段またはガス−液体接触接置を有する吸収塔61内で水流64により洗浄して、プロピレンオキサイド水溶液を62で、また、液流10中に溶解していたガスの一部を63で回収する。
【0016】
蒸留塔21、そのガス−液体接触装置、および熱交換器31、41、51は、標準的寸法のものである。蒸留塔21内の圧力および熱交換器31、41、51内の圧力は、流体がこれらの装置21、31、41、51内及びそのパイプ系内を循環することにより生ずる圧力損失を除外すれば、同一である。装置系全体の圧力は、1.5〜6バールであるが、1.6〜4バールであることが有利であり、1.9〜3バールであることが特に好ましい。熱交換器51の寒冷源(冷却媒体)の温度は、約5℃と、凝縮の際の圧力下での純粋なプロピレンオキサイドの凝縮温度より5℃低い最高温度との間で調節きれる。寒冷源は熱交換操作を行う場所の気候条件によって空気であるととができるが、多くの場合、冷却水である。
【0017】
通常、90〜150℃の温度を有するガス流22は、熱変換器31内で、液相32がガス流22に含有されていたプロピレンオキサイドの12%以上を含有していないような条件下で部分的に凝縮させる。このような条件は熱交換器31の寒冷源を作用させることにより容易に得られる。寒冷源は例えば10〜40℃の冷却水であり得る。
熱交換器41は、ガス流33により導入されるプロピレンオキサイドの大部分を出口43のガス相中に回収し、一方、このガス相43中における水の量をプロピレンオキサイドの重量に基づいて5%以下に保持するための部分凝縮器として使用される。これらの割合は熱交換器41の冷却流体を作用させることにより調節される。温度調節を行うために、凝縮はガス流33の温度より僅かに低い温度で開始する。ついで、相42および43中の水とプロピレンオキサイドの量を測定しながら、この温度をガス相43中のプロピレンオキサイドの濃度が所望の値になるまで徐々に低下させる。熱交換器41の寒冷源は例えば10〜40℃の冷却水であり得る。
【0018】
ガス流43は、熱交換器51で凝縮させる。液流10中に溶解している可能性のあるガスの大部分と液流10中の少量の不純物とをオキサイド蒸気と水蒸気を混合した状態で53で捕集する。ガス流43中のプロピレンオキサイドの殆んど全て(ガス流53中に移行した少量のプロピレンオキサイドを除く)、水、若干の不純物と液流10中に当初溶解していた二酸化炭素の少量とを、52で回収する。
95重量%以上、通常97重量%以上のプロピレンオキサイドを含有する液流52はそのまま使用することができ、あるいは、その最終的用途に応じて更に精製し得る。
【0019】
ガス流53は、吸収塔61内で5〜50℃の温度の水(液流64)により洗浄する。この水は合成工程で入手されるグリコール水溶液により置換し得る。吸収塔61は、塔内の理論段またはガス−液体接触装置の数に応じて選択された液流64の流率を用いて慣用の方法で作動させる。一般に、ガス流53は液流10の5重量%以下、多くの場合、1重量%以下に相当する。ガス流53のプロピレンオキサイドの大部分を回収するのに、理論段の数は3〜6で十分である。ガス流63は液流10中に溶解していたガスの大部分と少量の水蒸気とを含有している。圧縮後、かなりの量のプロピレンを含有するこのガスを反応帯域に還送し得る。プロピレンオキサイド水溶液からなる液体62を捕集し、この液体は液流32および42と混合し得る。この混合物を熱処理してグリコールを製造するか、または蒸留して純粋なプロピレンオキサイドを製造するか、または場合により液流10と再混合して、濃縮プロピレンオキサイド52を製造し得る。冷却後、液流24はプロピレンオキサイドを吸収させるのに使用し(工程a)、そして液流10として蒸留塔21に再循環させ得る。
【0020】
熱交換器31は省略し得る。その場合、熱交換器41の寒冷源の調節を行う以外は操作は同一である。この寒冷源の調節はガス流22のプロピレンオキサイドの大部分をガス相43中に捕集するが、ガス相43中の水の量をプロピレンオキサイドの重量の5重量%以下に止るように行われる。ガス相43の温度を調節するためには、ガス流33の温度の代りにガス流22の温度がそのベースとして利用される。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明によって、エネルギーをそれほど必要とせず、少なくとも95重量%、通常97重量%以上のプロピレンオキサイドを含有する濃縮水溶液を提供する方法および装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0022】
21 蒸留塔
31,41,51 熱交換器
61 吸収塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純なプロピレンオキサイド溶液中のプロピレンオキサイドを濃縮するに当たり、
上記溶液と水蒸気とを蒸留塔に導入し、プロピレンオキサイドを含有するガス流を回収し、ついでこのガス流(水蒸気処理された溶液)を、直列に配置された少なくとも2個の熱交換器内において、
1.5〜6バールの蒸留塔内および熱交換器内の絶対圧で、5℃と、使用された圧力下でのプロピレンオキサイドの凝縮温度より5℃低い温度との間にある最後の熱交換器中の冷却液体の温度下において、連続的に凝縮させることを特徴とする、プロピレンオキサイドの濃縮方法。
【請求項2】
3個の熱交換器を使用し、そして第1と第2の熱交換器の冷却液体の温度を、
第1の熱交換器から流出する液相が上記熱交換器に流入するガス流中に含有されているプロピレンオキサイドの12%以上を含有しないように、また、第2の熱交換器から流出するガス流中に含有されている水の割合が、プロピレンオキサイドの重量に基づいて5%以下であるように調節する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
最後の熱交換器からのガス流を水またはグリコール水溶液中に再吸収させる、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
1個またはそれ以上の中間の熱交換器からの液相、または最後の熱交換器から流出したガス流の吸収工程からの液相を、蒸留塔に流入するプロピレンオキサイド溶液に再循環させる、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
最後の熱交換器から流出するガス流の再吸収工程から得られるガス流を、プロピレンオキサイド合成反応器に再循環させる、請求項3又は4記載の方法。
【請求項6】
蒸留塔および一連の熱交換器内の絶対圧が1.6〜4バール、好ましくは1.9〜3バールである、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
蒸留塔と、直列に配置された少なくとも2個の熱交換器と、場合により吸収塔と、これらの装置と共に作動して、蒸留塔から流出するガス流を熱交換器の各々および場合により吸収塔に循環させるための装置とからなることを特徴とする、不純なプロピレンオキサイド溶液中のプロピレンオキサイドの濃縮装置。
【請求項8】
直列に配置された3個の熱交換器を有する、請求項7記載の装置。

【図1】
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