説明

プロピレン系重合体及び発泡成形体

【課題】高発泡倍率で、微細セルを持った発泡成形体を成形できるプロピレン系重合体を提供する。
【解決手段】メルトフローレート(230℃、荷重2.16kg)が0.1g/10分よりも大きく、下記式(1)を満たすプロピレン系重合体。



[式中、ηはプロピレン系重合体の伸張粘度、εは歪速度である。ηはεが10sec−1及び100sec−1での測定値である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン系重合体及び発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン系重合体の発泡製品は、その耐熱性、耐油性、環境適性等の特徴を生かし、各分野で使用量が増加している。押出発泡シート等の発泡倍率が3倍程度の低発泡分野では、プロピレン系重合体の一軸伸長粘度の歪硬化性を大きくすることで発泡性能の向上が行われている。一方、数十倍程度の高発泡分野においては、通常の発泡シート用のプロピレン系重合体では発泡性能が不充分であり、優れた発泡性能を有する重合体が要望されている。
【0003】
このような材料については、例えば、非共役ジエンとプロピレンの共重合が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、長鎖分岐PP製造技術が開示されている(例えば、特許文献2−6参照。)。さらに、予備重合により高分子量成分を付与する方法が開示されている(例えば、特許文献7−10参照。)。
しかしながら、これらの技術により製造したポリプロピレン(PP)は一軸伸長粘度の歪硬化性が大きく、発泡倍率が3倍程度の低発泡製品は成形可能であるが、二酸化炭素等による30倍程度の高発泡は破泡が起こり製品を得ることができなかった。
【0004】
また、分子量の大きく異なる成分をブレンドする手法(特許文献11参照)も検討されているが、ゲルが多発し発泡製品としての商品性に劣っていた。
また、多段重合により高分子量成分を付与する方法が開示されている(例えば、特許文献12−19参照。)。
この技術では、MgCl担持触媒により2槽以上の重合槽を用い高分子量成分を付与する方法が行われている。
しかしながら、高分子量成分の高分子量化が不十分であり、一軸伸長粘度の歪硬化性が大きく改善されず、結果的に発泡性能も一般のPPに比べ大きく改善されなかった。
【特許文献1】特開平06−080729号公報
【特許文献2】特表2002−542360号公報
【特許文献3】特開2000−309670号公報
【特許文献4】特開2000−336198号公報
【特許文献5】特開2002−012717号公報
【特許文献6】特開2002−363355号公報
【特許文献7】特表2002−509575号公報
【特許文献8】特開平10−279632号公報
【特許文献9】特開平11−315178号公報
【特許文献10】特開2000−143866号公報
【特許文献11】特開2002−309049号公報
【特許文献12】特開2001−247616号公報
【特許文献13】特開2001−048916号公報
【特許文献14】特開2001−055413号公報
【特許文献15】特開昭59−172507号公報
【特許文献16】特開平05−239149号公報
【特許文献17】特開平07−138323号公報
【特許文献18】特開平11−228629号公報
【特許文献19】特開2000−226478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述の問題に鑑みなされたものであり、高発泡、かつ、微細セル(例えば、発泡倍率が30倍で粒径100μm以下)を持った発泡成形体を得ることができるプロピレン系重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、高発泡分野用のプロピレン系重合体では、一般のものとは異なる性質が重要であることを見出した。
即ち、一般にプロピレン系重合体の発泡成形では、Meissner型装置等により得られた一軸伸長粘度の歪硬化性が大きいほど発泡成形性良好と言われている。Meissner型装置等で測定可能な歪速度は最大3sec‐1程度の低速領域である。しかしながら、超臨界ガス発泡等ガスが多量に溶解した発泡成形ではセル成長時の歪速度は数百sec‐1以上であり、Meissner型装置等により得られた一軸伸長粘度と該発泡成形の間には関係が無い。
そこで鋭意検討した結果、Cogswell法等により得られる高速伸長時の伸長粘度と超臨界ガス発泡等ガスが多量に溶解した発泡成形の成形性に関係のあることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
本発明によれば、以下のプロピレン系重合体等が提供される。
1.メルトフローレート(230℃、荷重2.16kg)が0.1g/10分よりも大きく、下記式(1)を満たすプロピレン系重合体。
【数2】

[式中、ηはプロピレン系重合体の伸張粘度、εは歪速度である。ηはεが10sec−1及び100sec−1での測定値である。]
2.前記プロピレン系重合体がプロピレン系多段重合体である1記載のプロピレン系重合体。
3.前記プロピレン系多段重合体が下記(A)及び(B)を含む2記載のプロピレン系重合体。
(A)135℃、テトラリン中での極限粘度[η]が10dL/g超のプロピレン単独重合体成分又はプロピレンと炭素数2〜8のα−オレフィンとの共重合体成分:20〜30重量%
(B)135℃、テトラリン中での極限粘度[η]が0.5〜3.0dL/gのプロピレン単独重合体成分又はプロピレンと炭素数2〜8のα−オレフィンとの共重合体成分:70〜80重量%
4.前記プロピレン系多段重合体が、1段階目の重合工程にて水素不存在下でプロピレンを重合又はプロピレンと炭素数2〜8のα−オレフィンを共重合させたものである3記載のプロピレン系重合体。
5.上記1〜4のいずれかに記載のプロピレン系重合体からなる、発泡倍率が30倍以上の発泡成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、高発泡で、かつ、微細なセルを持った発泡成形体が得られるプロピレン系重合体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のプロピレン系重合体を具体的に説明する。
本発明のプロピレン系重合体は、メルトフローレート(MFR:230℃、荷重2.16kg)が0.1g/10分よりも大きく、下記式(1)を満たす。
【数3】

[式中、ηはプロピレン系重合体の伸張粘度、εは歪速度である。ηはεが10sec−1及び100sec−1での測定値である。]
【0010】
MFR<0.1g/10分の場合、押出成形が困難となる場合がある。好ましくは、0.5g/10分≦MFR≦5g/10分、より好ましくは、1.0g/10分≦MFR≦2.0g/10分である。
【0011】
上記式(1)の関係を満たさない場合、微細セルを有する高発泡倍率の発泡成形品が得られない。
式(1)中の定数項である5.6は、好ましくは5.8、より好ましくは6.0以上である。5.6未満の場合、30倍以上の高発泡、かつ100μm以下の微細セルを持った発泡成形品が得られない。
式(1)中の乗数である0.8は、好ましくは0.7である。0.8より大きい場合、30倍以上の高発泡、かつ100μm以下の微細セルを持った発泡成形品が得られない。
【0012】
式(1)において、プロピレン重合体の伸張粘度(η)及び歪速度(ε)は、Cogswell法により求めた値である。詳細については後述する実施例にて説明する。尚、伸張粘度(η)は、歪速度(ε)が10sec−1以上であるときの測定値を対象とするが、実際の測定においては、10sec−1と100sec−1の2点について測定すればよい。
【0013】
以下、本発明のプロピレン系重合体を製造する方法の一例として、多段重合法による方法を説明する。
上述したMFR及び式(1)の要件を満たすプロピレン重合体として、下記(A)及び(B)を含むプロピレン系多段重合体がある。
(A)135℃、テトラリン中での極限粘度[η]が10dL/g超のプロピレン単独重合体成分又はプロピレンと炭素数2〜8のα−オレフィンとの共重合体成分:20〜30重量%
(B)135℃、テトラリン中での極限粘度[η]が0.5〜3.0dL/gのプロピレン単独重合体成分又はプロピレンと炭素数2〜8のα−オレフィンとの共重合体成分:70〜80重量%
この多段重合体は、下記成分(a)及び(b)、又は下記成分(a)、(b)及び(c)からなるオレフィン重合用触媒を用い、2段階以上の重合工程で、プロピレンを重合又はプロピレンと炭素数2〜8のα−オレフィンとを共重合させて製造することができる。
(a)四塩化チタンを有機アルミニウム化合物で還元して得られる三塩化チタンをエーテル化合物及び電子受容体で処理して得られる固体触媒成分
(b)有機アルミニウム化合物
(c)環状エステル化合物
【0014】
固体触媒成分(a)において、四塩化チタンを還元する有機アルミニウム化合物としては、例えば、(イ)アルキルアルミニウムジハライド、具体的には、メチルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムジクロライド、及びn−プロピルアルミニウムジクロライド、(ロ)アルキルアルミニウムセスキハライド、具体的には、エチルアルミニウムセスキクロライド、(ハ)ジアルキルアルミニウムハライド、具体的には、ジメチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムクロライド、ジ−n−プロピルアルミニウムクロライド、及びジエチルアルミニウムブロマイド、(ニ)トリアルキルアルミニウム、具体的には、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、及びトリイソブチルアルミニウム、(ホ)ジアルキルアルミニウムハイドライド、具体的には、ジエチルアルミニウムハイドライド等を挙げることができる。ここで、「アルキル」は、メチル、エチル、プロピル、ブチル等の低級アルキルである。また、「ハライド」は、クロライド又はブロマイドであり、特に前者が普通である。
【0015】
三塩化チタンを得るための、有機アルミニウム化合物による還元反応は、−60〜60℃、好ましくは−30〜30℃の温度範囲で行うことが普通である。上記温度範囲未満の場合には、還元反応に長時間が必要であり、また、上記温度超過の場合には、部分的に過還元が生じるので好ましくない。還元反応は、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン及びデカン等の不活性炭化水素溶媒中で行うのが好ましい。
【0016】
さらに、四塩化チタンの有機アルミニウム化合物による還元反応によって得られた三塩化チタンに対し、さらにエーテル処理及び電子受容体処理を施すことが好ましい。
前記三塩化チタンのエーテル処理で好ましく用いられるエーテル化合物としては、ジエチルエーテル、ジ−n−プロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、ジイソアミルエーテル、ジネオペンチルエーテル、ジ−n−ヘキシルエーテル、ジ−n−オクチルエーテル、ジ−2−エチルヘキシルエーテル、メチル−n−ブチルエーテル及びエチル−イソブチルエーテル等の各炭化水素残基が炭素数2〜8の鎖状炭化水素であるエーテル化合物が挙げられ、これらの中でも特にジ−n−ブチルエーテルを用いることが好適である。
【0017】
三塩化チタンの処理で用いられる電子受容体としては、周期律表第III族〜第IV族及び第VIII族の元素のハロゲン化合物が好ましく、具体的には、四塩化チタン、四塩化ケイ素、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、五塩化アンチモン、三塩化ガリウム、三塩化鉄、二塩化テルル、四塩化スズ、三塩化リン、五塩化リン、四塩化バナジウム及び四塩化ジルコニウム等を挙げることができる。固体触媒成分(a)を調製する際に、三塩化チタンのエーテル化合物及び電子受容体による処理は、両処理剤の混合物を用いて行ってもよく、また、一方による処理後に、他方による処理を行ってもよい。これらのうちでは、後者が好ましく、エーテル処理後に電子受容体処理を行うことがさらに好ましい。
【0018】
エーテル化合物及び電子受容体による処理の前に、三塩化チタンを炭化水素で洗浄することが一般に望ましい。前記三塩化チタンのエーテル処理は、該三塩化チタンと前記エーテル化合物を接触させることによって行われる。また、エーテル化合物による三塩化チタンの処理は、希釈剤の存在下で両者を接触させることによって行うのが有利である。このような希釈剤には、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ベンゼン及びトルエン等の不活性炭化水素化合物を使用することが好適である。エーテル処理における処理温度は、0〜100℃であることが好ましい。処理時間については特に制限されないが、通常20分〜5時間の範囲で行われる。
【0019】
エーテル化合物の使用量は、三塩化チタン1モル当たり、一般に0.05〜3.0モル、好ましくは0.5〜1.5モルの範囲である。エーテル化合物の使用量が上記範囲未満の場合は、生成重合体の立体規則性を十分に向上させることができなくなるので好ましくない。また、上記範囲超過の場合は、生成重合体の立体規則性を十分向上させることができるが、収率が低下してしまうので好ましくない。尚、有機アルミニウム化合物やエーテル化合物で処理した三塩化チタンは、厳密に言えば、三塩化チタンを主成分とする組成物である。
本発明では、このような固体触媒成分(a)として、Solvay型三塩化チタンを好適に用いることができる。
【0020】
有機アルミニウム化合物(b)としては、上記と同様の化合物が挙げられる。
【0021】
環状エステル化合物(c)としては、例えば、γ−ラクトン、δ−ラクトン、ε−ラクトン等が挙げられる。このうち、好ましくは、ε−ラクトンである。
【0022】
プロピレン重合体の製造で用いるオレフィン重合用触媒は、上記(a)〜(c)成分を混合することにより調製できる。
【0023】
この製造方法では、2段階以上の重合工程のうち、1段階目に、水素不存在下で、プロピレンを重合又はプロピレンと炭素数2〜8のα−オレフィンとを共重合させることが好ましい。
このような水素不存在下でプロピレンの重合又はプロピレンとα−オレフィンとの共重合を行うことにより、超高分子量プロピレン系重合体、即ち、本発明の多段重合体における(A)成分を製造することができる。また、本発明の製造方法では、多段重合体の(B)成分を、2段階目以降に製造することが好ましい。この理由を以下に説明する。
【0024】
プロピレン系多段重合体では、高分子量成分と低分子量成分との分子量差が大きく、フィッシュアイの発生量に課題がある。さらに、連続重合方法によって製造する場合、滞留時間分布によって重合粒子間の組成ムラが生じ、フィッシュアイ発生量はより増加する。一方、高分子量成分と低分子量成分、言い換えれば、水素不存在下と水素存在下での重合反応速度を比較すると、後者の方が数倍速い。そのため、この低分子量成分の重合反応を1段目の重合工程で行った場合、重合履歴による失活がなく重合反応速度は著しく速くなることから、反応量比を調整するために滞留時間を短縮する必要が生じる。その結果、1段階目の重合反応をショートパスする触媒粒子の存在確立が増加し、1段階目に高分子量成分を重合する場合に比較して重合粒子間の組成ムラが激しくなる。この組成ムラは高分子量成分の分散性を顕著に悪化させ、溶融張力の向上効果を阻害し、得られたプロピレン系多段重合体の発泡特性を低下させるおそれがあるからである。
【0025】
尚、「水素不存在下」とは、実質的に水素不存在下という意味であり、水素が全く存在しない場合だけではなく、水素が極微量存在する場合(例えば、10molppm程度)も含まれる。要は、135℃テトラリン中で測定した、1段階目のプロピレン系重合体又はプロピレン系共重合体の極限粘度が10dL/g以下にならない程度に、水素を含む場合でも「水素不存在下」の意味に含まれる。
【0026】
本発明の製造方法において、(A)成分の製造条件としては、水素不存在下で、原料モノマーを重合温度として、好ましくは20〜80℃、より好ましくは40〜70℃、重合圧力として、一般に常圧〜1.47MPa、好ましくは0.39〜1.18MPaの条件下でスラリー重合して製造することが好ましい。
また、(B)成分の製造条件としては、上記オレフィン重合用触媒を使用すること以外は特に制限されないが、原料モノマーを、重合温度として、好ましくは20〜80℃、より好ましくは60〜70℃、重合圧力として、一般に常圧〜1.47MPa、好ましくは0.19〜1.18MPa、分子量調節剤としての水素が存在する条件下で重合して製造することが好ましい。
【0027】
上記の条件下、反応時間等を適宜調整することにより、1段目の重合工程で、135℃、テトラリン中での極限粘度[η]が10dL/g超のプロピレン単独重合体成分、又はプロピレンと炭素数2〜8のα−オレフィンとの共重合体成分を、全重合体中に20〜30重量%生成させ、2段目の重合工程で、135℃、テトラリン中での極限粘度[η]が0.5〜3.0dL/gのプロピレン単独重合体成分、又はプロピレンと炭素数2〜8のα−オレフィンとの共重合体成分を、全重合体中に70〜80重量%生成させる。
尚、(A)成分は、全重合体中に22〜28重量%あることが好ましく、極限粘度[η]は、12〜18dL/gであることが好ましい。
また、(B)成分は、全重合体中に73〜77重量%あることが好ましく、極限粘度[η]は、1.0〜2.0dL/gであることが好ましい。
【0028】
この製造方法では、本重合を行う前に、予備重合を行ってもよい。予備重合を行うと、パウダーモルフォロジーを良好に維持できる。予備重合は、一般的に、重合温度として、好ましくは0〜80℃、より好ましくは10〜60℃、重合量として、固体触媒成分1g当たり、好ましくは0.001〜100g、より好ましくは0.1〜10gのプロピレンを重合又はプロピレンと炭素数2〜8のα−オレフィンを共重合させることが好ましい。
【0029】
上述した多段重合体の他に、本発明のプロピレン重合体としては、例えば以下のものがある。
1.超高分子量ポリエチレンを含有した分子量の高いプロピレン系重合体
2.架橋用過酸化物を用いた分子量の高い変性プロピレン系重合体
3.分子量の高い、電子線照射等による片側自由末端長鎖分岐プロピレン系重合体及び架橋プロピレン系重合体
4.非共役ジエン等を共重合させた分子量の高い長鎖分岐プロピレン系重合体
これらのプロピレン系重合体では、添加物の配合量や処理時間等を適宜調整することによって、MFR及び上記式(1)を満たすことができる。
【0030】
本発明のプロピレン系重合体は、押出成形、射出成形、発泡成形、中空成形その他の各種成形法により成形することができる。好ましくは、押出発泡成形等の発泡成形により成形する。
本発明のプロピレン系重合体を発泡成形する場合には、二酸化炭素、ブタン、窒素、重曹等の各種発泡剤を使用することができる。
本発明の多段重合体又は組成物を射出発泡成形する場合は、発泡剤として超臨界二酸化炭素又は超臨界窒素を用いることが好ましい。
本発明のプロピレン系重合体は、高発泡成形用の樹脂として特に優れているため、得られる射出発泡成形品、押出発泡成形品の発泡倍率は、30倍以上にすることができる。尚、30倍以下の発泡成形品も製造可能である。
【0031】
プロピレン系重合体の成形にあたり、必要に応じて、酸化防止剤、中和剤、難燃剤、等の添加剤を使用することができる。添加剤の割合は特に制限されず、適宜調節することが可能である。
また、粉末又は繊維状多孔質フィラーとして、シリカ、活性炭、ゼオライト、シリカゲル又は繊維状活性炭を配合してもよい。
また、分解型発泡剤として、重炭酸ナトリウム等の重炭酸塩、クエン酸等の有機酸又はその塩との組合せ、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン等の有機系発泡剤を配合してもよい。これらの発泡剤は単独で、又は2種以上組み合わせて使用することができる。また、気泡調整剤として、タルク、重炭酸ナトリウム、クエン酸等を添加することもできる。
また、結晶化核剤として、タルク、有機カルボン酸塩、有機リン酸塩、ソルビトール系核剤を配合してもよい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明する。
尚、各例においては試料を以下の方法で評価又は調製した。
(1)一段階目のプロピレン重合体成分(成分A)及び二段階目のプロピレン重合体成分(成分B)の重量分率
重合時に連続的に供給するプロピレンの流量計積算値を用いた物質収支から求めた。
【0033】
(2)極限粘度[η]
135℃、テトラリン中で行った。
尚、成分Bの極限粘度[η]は、下記式よりより計算した値である。
[η]=([η]total×100−[η]×W)/W
[η]total:プロピレン重合体全体の極限粘度
[η]:成分Aの極限粘度
:成分Aの重量分率(重量%)
:成分Bの重量分率(重量%)
【0034】
(3)メルトフローレート(MFR)
JIS K7201に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgfで測定した。
(4)発泡倍率
発泡成形品の発泡倍率は、成形品の重量を水没法により求めた体積で除することにより密度を求め算出した。
(5)発泡成形体の平均セル径
ASDM D3576−3577に準拠して測定した。
【0035】
(6)プロピレン重合体ペレットの作製
得られたプロピレン重合体100重量部に対して、イルガノックス1010(商品名、チバ・スペシャルティー・ケミカルズ(株)製)を0.15重量部、イルガフォス168(商品名、チバ・スペシャルティー・ケミカルズ(株)製)を0.15重量部、ステアリン酸カルシウムを0.06重量部、DHT−4A(商品名、協和化学工業(株))を0.06重量部加えて混合し、東洋精機(株)製のラボプラストミル単軸押出機(20mmφ)で230℃で溶融混練し、造粒した。
【0036】
(7)発泡成形品の成形
発泡成形品は、上記(5)で作製したペレットを使用して、以下の射出成形機から単純に押し出すことにより得た。
成形機:日本製鋼製、J180EL−MuCell
射出時間:5秒
シリンダー設定温度:180℃
ガス量:7wt%(二酸化炭素)
尚、上記ペレット100重量部に対し、発泡剤(永和化成(株)製、EE205)を0.5部配合したものを使用した。
【0037】
(8)式(1)の算出方法
8−1 Cogswell法伸長粘度
式(1)において、プロピレン重合体の伸張粘度(η:単位:Pa・s)及び歪速度(ε:単位:sec−1)は、それぞれ下記式(2)及び(3)で算出される。
【数4】

[式中、τはせん断応力(単位:Pa)、γはせん断速度(単位:sec−1)、nはn値、ΔPは入り口流入圧(単位:Pa)である。]
【0038】
せん断応力及びせん断速度を、キャピラリ−レオメータ(東洋精器製キャピログラフ1B)にて、測定温度を230℃、オリフィス(長さ/直径:mm)として、30/1,40/1,50/1の3本を使用し測定した。また、n値と入り口流入圧は、下記のように算出した。
・入り口流入圧ΔPeの算出
各オリフィスで測定したせん断速度同一時の圧力損失3点のデータからキャピラリー長さと圧力損失の一次式を算出し、長さ0mmのときの値(切片)を入り口流入圧ΔPeとした。
・n値の算出
オリフィス50/1(mm)の圧力値から入り口流入圧を引くことで、真の流動に要する圧力を求めせん断応力を求めた(Baglay補正)。log(せん断速度)とlog(せん断応力)を一次近似することで傾きnを求めた。
【0039】
実施例1
(1)予備重合
内容積5リットルの攪拌機付きの三つ口フラスコを十分に乾燥し窒素ガスで置換した後、脱水処理したヘプタンを4リットル、ジエチルアルミニウムクロライド140グラムを加え市販のSolvay型三塩化チタン触媒(東ソー・ファインケム社製)20gを加えた。内温を20℃に保持し、攪拌しながらプロピレンを連続的に導入した。80分後、攪拌を停止し結果的に固体触媒1g当たり0.8gのプロピレンが重合した予備重合触媒成分を得た。
【0040】
(2)プロピレン重合
内容積10リットルの攪拌機付きステンレス製オートクレーブを十分乾燥し窒素ガスで置換した後、脱水処理したヘプタン6リットルを加え、系内の窒素をプロピレンで置換した。その後、攪拌しながらプロピレンを導入して内温50℃、全圧0.78MPaに系内が安定した後、上記予備重合触媒成分を固体触媒換算で0.75グラム含んだヘプタンスラリー200ミリリットルを加えて重合開始とした。プロピレンを1.7時間連続的に供給した時のプロピレン流量積算値から求めた重合体生成量は1150gであり、その一部をサンプリングして分析した結果、極限粘度は15.4dL/gであった。その後、内温を40℃以下にまで降温し攪拌を弱め、脱圧を行った。
再び、内温を65℃として水素を0.10MPa加えて攪拌しながらプロピレンを導入した。全圧0.78MPaでプロピレンを連続的に供給しながら65℃で4時間重合を行った。この時、重合体の一部をサンプリングして分析した結果、極限粘度は4.94dL/gであった。
重合終了後、50ミリリットルのメタノールを添加し降温、脱圧した。内容物を全量フィルター付きろ過槽へ移し、1−ブタノールを100ミリリットル加え、85℃で1時間撹拌した後に固液分離した。さらに、85℃のヘプタン6リットルで固体部を2回洗浄し、真空乾燥してプロピレン重合体3.4kgを得た。
以上の結果、第一段目と第二段目の重合成分の重量比は25.3:74.7であり、第二段目にて生成した重合体の極限粘度は1.40dL/gと求められた。
【0041】
(3)造粒、発泡成形、評価
得られたパウダー状プロピレン重合体に前述の添加剤を添加し、ペレタイズ、発泡成形を行った。また、ペレット100gで高歪速度領域(εが10sec−1及び100sec−1の場合)の伸長粘度を測定した。
実施例1及び後述する実施例2,3及び比較例1〜3の重合体の物性、樹脂特性及び発泡成形体の性状を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
実施例2
実施例1においてプロピレン重合の内、1段目の重合時間を1.4時間とした以外は同様の方法で重合を行った。その結果、プロピレン重合体3.4kgを得た。この時の第一段目と第二段目の重合重量比は22.2:77.8であり第一段目にて生成した重合体の極限粘度は15.8dL/g、第二段目にて生成した重合体の極限粘度は1.42dL/gと求められた。
【0044】
実施例3
実施例1においてプロピレン重合の内、1段目の重合時間を2.4時間とした以外は同様の方法で重合を行った。その結果、プロピレン重合体3.5kgを得た。この時の第一段目と第二段目の重合重量比は29.0:71.0であり第一段目にて生成した重合体の極限粘度は14.6dL/g、第二段目にて生成した重合体の極限粘度は1.45dL/gと求められた。
【0045】
比較例1
実施例1においてプロピレン重合の内、1段目の重合時間を1.0時間とした以外は同様の方法で重合を行った。その結果、プロピレン重合体3.3kgを得た。この時の第一段目と第二段目の重合重量比は16.9:83.1であり第一段目にて生成した重合体の極限粘度は15.4dL/g、第二段目にて生成した重合体の極限粘度は1.38dL/gと求められた。
【0046】
比較例2
(1)予備重合
実施例1(1)と同様にして予備重合触媒成分を得た。
【0047】
(2)プロピレン重合
内容積10リットルの攪拌機付きステンレス製オートクレーブを十分乾燥し窒素ガスで置換した後、脱水処理したヘプタン6リットルを加え、系内の窒素をプロピレンで置換した。
続いて、水素を0.01MPa導入し、その後、攪拌しながらプロピレンを導入して、内温60℃、全圧0.78MPaに系内が安定した後、上記予備重合触媒成分を固体触媒換算で1.5グラム含んだヘプタンスラリー400ミリリットルを加えて重合開始とした。プロピレンを4時間連続的に供給した。
重合終了後、50ミリリットルのメタノールを添加し降温、脱圧した。内容物を全量フィルター付きろ過槽へ移し、1−ブタノールを100ミリリットル加え、85℃で1時間撹拌した後に固液分離した。さらに、85℃のヘプタン6リットルで固体部を2回洗浄し、真空乾燥してプロピレン重合体3.8kgを得た。
この重合体の極限粘度は4.1dL/gであった。
【0048】
比較例3
実施例1においてプロピレン重合の内、1段目の重合温度を40℃、重合時間を5.0時間とし、2段目の重合時間を3時間とした以外は同様の方法で重合を行った。その結果、プロピレン重合体2.4kgを得た。この時の第一段目と第二段目の重合重量比は41.3:58.7であり第一段目にて生成した重合体の極限粘度は17.9dL/g、第二段目にて生成した重合体の極限粘度は1.43dL/gと求められた。
【0049】
実施例4
(1)予備重合
実施例1(1)と同様にして予備重合触媒成分を得た。
【0050】
(2)プロピレン重合
内容積10リットルの攪拌機付きステンレス製オートクレーブを十分乾燥し窒素ガスで置換した後、脱水処理したヘプタン6リットルを加え、系内の窒素をプロピレンで置換した。その後、攪拌しながらプロピレンを導入して内温40℃、全圧0.78MPaに系内が安定した後、上記予備重合触媒成分を固体触媒換算で0.75グラム含んだヘプタンスラリー200ミリリットルを加えて重合開始とした。プロピレンを2.2時間連続的に供給した時のプロピレン流量積算値から求めた重合体生成量は1190gであり、その一部をサンプリングして分析した結果、極限粘度は19.7dL/gであった。その後、内温を40℃以下にまで降温し攪拌を弱め、脱圧を行った。
再び、内温を65℃として水素を0.10MPa加えて攪拌しながらプロピレンを導入した。全圧0.78MPaでプロピレンを連続的に供給しながら65℃で5.2時間重合を行った。この時、重合体の一部をサンプリングして分析した結果、極限粘度は5.2dL/gであった。
重合終了後、50ミリリットルのメタノールを添加し降温、脱圧した。内容物を全量フィルター付きろ過槽へ移し、1−ブタノールを100ミリリットル加え、85℃で1時間撹拌した後に固液分離した。さらに、85℃のヘプタン6リットルで固体部を2回洗浄し、真空乾燥してプロピレン重合体4.44kgを得た。
以上の結果、第一段目と第二段目の重合成分の重量比は21.1:78.9であり、第二段目にて生成した重合体の極限粘度は1.44dL/gと求められた。
【0051】
(3)造粒、発泡成形、評価
実施例1(3)と同様にして、実施した。
実施例4及び後述する実施例5,6の重合体の物性、樹脂特性及び発泡成形体の性状を表2に示す。
【0052】
実施例5
(1)予備重合
実施例1(1)と同様にして予備重合触媒成分を得た。
【0053】
(2)プロピレン重合
内容積10リットルの攪拌機付きステンレス製オートクレーブを十分乾燥し窒素ガスで置換した後、脱水処理したヘプタン6リットルを加え、系内の窒素をプロピレンで置換した。その後、攪拌しながらプロピレンを導入して内温65℃、全圧0.78MPaに系内が安定した後、上記予備重合触媒成分を固体触媒換算で0.75グラム含んだヘプタンスラリー200ミリリットルを加えて重合開始とした。プロピレンを1.7時間連続的に供給した時のプロピレン流量積算値から求めた重合体生成量は1190gであり、その一部をサンプリングして分析した結果、極限粘度は12.1dL/gであった。その後、内温を40℃以下にまで降温し攪拌を弱め、脱圧を行った。
再び、内温を65℃として水素を0.10MPa加えて攪拌しながらプロピレンを導入した。全圧0.78MPaでプロピレンを連続的に供給しながら65℃で5.1時間重合を行った。この時、重合体の一部をサンプリングして分析した結果、極限粘度は3.63dL/gであった。
重合終了後、50ミリリットルのメタノールを添加し降温、脱圧した。内容物を全量フィルター付きろ過槽へ移し、1−ブタノールを100ミリリットル加え、85℃で1時間撹拌した後に固液分離した。さらに、85℃のヘプタン6リットルで固体部を2回洗浄し、真空乾燥してプロピレン重合体4.44kgを得た。
以上の結果、第一段目と第二段目の重合成分の重量比は21.1:78.9であり、第二段目にて生成した重合体の極限粘度は1.39dL/gと求められた。
【0054】
実施例6
(1)予備重合
実施例1(1)と同様にして予備重合触媒成分を得た。
【0055】
(2)プロピレン重合
内容積10リットルの攪拌機付きステンレス製オートクレーブを十分乾燥し窒素ガスで置換した後、脱水処理したヘプタン6リットルを加え、系内の窒素をプロピレンで置換した。その後、攪拌しながらプロピレンを導入して内温65℃、全圧0.78MPaに系内が安定した後、上記予備重合触媒成分を固体触媒換算で0.75グラム含んだヘプタンスラリー200ミリリットルを加えて重合開始とした。プロピレンを2.2時間連続的に供給した時のプロピレン流量積算値から求めた重合体生成量は1160gであり、その一部をサンプリングして分析した結果、極限粘度は11.9dL/gであった。その後、内温を40℃以下にまで降温し攪拌を弱め、脱圧を行った。
再び、内温を65℃として水素を0.10MPa加えて攪拌しながらプロピレンを導入した。全圧0.78MPaでプロピレンを連続的に供給しながら65℃で3.5時間重合を行った。この時、重合体の一部をサンプリングして分析した結果、極限粘度は4.32dL/gであった。
重合終了後、50ミリリットルのメタノールを添加し降温、脱圧した。内容物を全量フィルター付きろ過槽へ移し、1−ブタノールを100ミリリットル加え、85℃で1時間撹拌した後に固液分離した。さらに、85℃のヘプタン6リットルで固体部を2回洗浄し、真空乾燥してプロピレン重合体3.0kgを得た。
以上の結果、第一段目と第二段目の重合成分の重量比は28.0:72.0であり、第二段目にて生成した重合体の極限粘度は1.40dL/gと求められた。
【0056】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のプロピレン重合体は、高発泡倍率(例えば、30倍以上)で微細セルを有する成形体を得ることができるため、発泡シート、建築資材、自動車部材等の分野において好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メルトフローレート(230℃、荷重2.16kg)が0.1g/10分よりも大きく、下記式(1)を満たすプロピレン系重合体。
【数1】

[式中、ηはプロピレン系重合体の伸張粘度、εは歪速度である。ηはεが10sec−1及び100sec−1での測定値である。]
【請求項2】
前記プロピレン系重合体がプロピレン系多段重合体である請求項1記載のプロピレン系重合体。
【請求項3】
前記プロピレン系多段重合体が下記(A)及び(B)を含む請求項2記載のプロピレン系重合体。
(A)135℃、テトラリン中での極限粘度[η]が10dL/g超のプロピレン単独重合体成分又はプロピレンと炭素数2〜8のα−オレフィンとの共重合体成分:20〜30重量%
(B)135℃、テトラリン中での極限粘度[η]が0.5〜3.0dL/gのプロピレン単独重合体成分又はプロピレンと炭素数2〜8のα−オレフィンとの共重合体成分:70〜80重量%
【請求項4】
前記プロピレン系多段重合体が、1段階目の重合工程にて水素不存在下でプロピレンを重合又はプロピレンと炭素数2〜8のα−オレフィンを共重合させたものである請求項3記載のプロピレン系重合体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のプロピレン系重合体からなる、発泡倍率が30倍以上の発泡成形体。


【公開番号】特開2007−119760(P2007−119760A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−264516(P2006−264516)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(505130112)株式会社プライムポリマー (180)
【Fターム(参考)】