プロリン残基の突然変異誘発により低減したアレルゲン性を有するイネ科のグループ5アレルゲンの変異体
本発明は、Poaceae(イネ科)のグループ6アレルゲンの組み換え変異体であって、既知の野生型アレルゲンと比較して低減したIgE反応性と同時に、実質的に保持されたTリンパ球との反応性を特徴とする前記変異体の、調製および使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Poaceae(イネ科)のグループ5アレルゲンの組み換え変異体の調製および使用に関し、これは、既知の野生型アレルゲンと比較して低減したIgE反応性と同時に、実質的に保持されたTリンパ球との反応性を特徴とする。
これらの低アレルギー性アレルゲン変異体を、草花粉アレルギーの患者に対する特定の免疫療法(減感作)または、草花粉アレルギーの発症を予防するための予防的処置に用いることができる。
本発明の好ましい態様は、オオアワガエリ(Timothy grass)(Phleum pratense)のアレルゲンPhl p 6の変異体であって、29、30、57、79位のプロリンが単独または組み合わせで突然変異した前記変異体に関する。
【背景技術】
【0002】
1型アレルギーは世界的に重要である。先進工業国の人口の最大20%が、アレルギー性鼻炎、結膜炎または気管支喘息などの病状を患っている。
これらのアレルギーは、種々の源、例えば樹木や草(花粉)、真菌(胞子)、ダニ(排泄物)、ネコまたはイヌなどにより引き起こされる。アレルゲン源は空気中に直接放出されるか(花粉、胞子)、またはディーゼルすす粒子(花粉)もしくはハウスダスト(ダニ排泄物、皮膚粒子、毛髪)に結合して空気中に到達する。アレルギー誘発物質は空中に存在するため、空気アレルゲンなる用語も用いられる。
【0003】
1型アレルギー誘発物質は、タンパク質、糖タンパク質またはポリペプチドである。粘膜を介して取り込まれると、これらのアレルゲンは、感作された人の肥満細胞の表面に結合しているIgE分子と反応する。これらのIgE分子がアレルゲンによって互いに架橋されると、エフェクター細胞によるメディエーター(例えばヒスタミン、プロスタグランジン)およびサイトカインの分泌が起こり、それに対応したアレルギー症状が生じる。
1型アレルギー患者の最大40%は、イネ科の花粉抽出物に特定のIgE反応性を示す(Burney et al., 1997, J. Allergy Clin. Immunol. 99:314-322;D’Amato et al., 1998, Allergy 53: 567-578;Freidhoff et al., 1986, J. Allergy Clin Immunology, 78, 1190-2002)。イネ科(Poaceae)は10000種以上を含んでおり、これまでにその20種を超える種がアレルギー症状を誘発することが知られている(Andersson & Lidholm, 2003, Int. Arch. Allergy Immunol. 130:87-107;Esch, 2008, Allergens and Allergen Immunotherapy, Clinical Allergy and Immunology Series, 107-126)。
【0004】
アレルギー誘発性のイネ科の多くは、イチゴツナギ(Pooideae)亜科に属する。野生型として存在する草種、例えばHolcus lanatus(シラゲカヤ(velvet grass))、Phalaris aquatica(カナリーグラス(canary grass))、Anthoxanthum odoratum(ハルガヤ(sweet vernal grass))、Dactylis glomerata(カモガヤ(orchard grass))、Festuca pratensis (メドウフェスク(meadow fescue))、Poa pratensis(ケンタッキーブルーグラス(Kentucky blue grass))またはLolium perenne(ライグラス(rye grass))などに加えて、栽培用穀類、例えばTriticum aestivum(コムギ)、Secale cereale(ライ麦)およびHordeum vulgare(オオムギ)なども、この亜科に属することが知られている。
イチゴツナギ種の中でアレルゲンに関して最も調査されてきたのは、オオアワガエリ(Phelum pratense)であり、これは野草として世界中に広がっており、牧草および耐寒性の飼料として商業的な役割も果たしている。
【0005】
アレルギー患者のIgE抗体と反応する個々のアレルゲン分子の、人口における相対的な頻度に依存して、主要アレルゲンと副次的アレルゲンが分類される。
オオアワガエリの6種のアレルゲンは、主要アレルゲンとみなされる:Phl p 1(Petersen et al., 1993, J. Allergy Clin. Immunol. 92: 789-796)、Phl p 5(Matthiesen and Loewenstein, 1991, Clin. Exp. Allergy 21: 297-307;Petersen et al., 1992, Int. Arch. Allergy Immunol. 98: 105-109)、Phl p 6(Petersen et al., 1995, Int. Arch. Allergy Immunol. 108, 49-54)、Phl p 2/3(Dolecek et al., 1993, FEBS 335 (3): 299-304)、Phl p 4(Haavik et al., 1985, Int. Arch. Allergy Appl. Immunol. 78: 260-268;Valenta et al., 1992, Int. Arch. Allergy Immunol. 97: 287-294;Nandy et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 2005, 337(2): 563-70)およびPhl p 13(Suck et al., 2000, Clin. Exp. Allergy 30: 1395-1402)。
【0006】
Phl p 6については早くも1978年に最初の記述がなされた。オオアワガエリ花粉から精製された「Ag19」と呼ばれるタンパク質画分は、約15kDaの大きさのアレルゲンを含有し、これはのちに、公式のアレルゲンの学名で分類され、Phl p 6として存続した(Loewenstein, 1978, Allergy 33: 30-41;WHO/ IUIS Allergen Nomenclature Subcommittee, www.allergen.org)。Phl p 6反応性IgE抗体は草花粉アレルギー患者の約70%に検出されるため、Phl p 6は主要アレルゲンとして分類されている(Rossi et al., 2001, Allergy, 56: 1180-85;Vrtala et al., 1999, J. Immunol. 15; 163:5489-9)。
【0007】
草花粉抽出物からのアレルゲンの物理化学的調査により、一次配列の異なる2種のタンパク質変異体が検出された(Blume et al., 2004, Proteomics 4: 1366-71)。これらのアイソフォームは、オオアワガエリ花粉の発現ライブラリに同定されている2腫のcDNA配列に起因し、WHO/IUIS名称Phl p 6.0101(GenBank:Z27082.1;UniProt:P43215;図15および図16または配列番号3および配列番号4を参照、プロペプチドは図19または配列番号9を参照;Petersen et al., 1995, Int. Arch. Allergy Immunol. 108: 55-59)およびPhl p 6.0102(GenBank:Y16955;UniProt:O65868;図3および図4または配列番号1および配列番号2を参照、プロペプチドは図20または配列番号10を参照;Vrtala et al., 1999, J. Immunol. 15; 163:5489-9)を有する。シグナルペプチドは別として、これらタンパク質はそれぞれ110個のアミノ酸からなり、2つの位置のみで異なり(成熟Phl p 6.0101から開始してVal 14→IleおよびArg 95→His)、これは5Daの分子量の差をもたらしている(Phl p 6.0102の11785Daと比較して、Phl p 6.0101は11790Da、図1)。
【0008】
Poaceae科の他のイネ科種、特にイチゴツナギ亜科の花粉は、オオアワガエリのアレルゲンと相同な主要アレルゲンを含み得る。複数種にわたって生じるかかるアレルゲンを、アレルゲン群としてまとめる。かかる関連アレルゲンの高い構造的相同性は、究極的には類似のアミノ酸配列に基づいており、分子とIgE抗体との相応する高い交差反応性を引き起こす(Lorenz et al., 2009, Int. Arch. Immunol. 148:1-17)。オオアワガエリの主要アレルゲンとアレルギー的に反応するアトピー性の人は、イネ科の別の関連種の1つによって最初に感作することができると知られている。最終的に、この交差反応性は、1つのイネ科の種による感作は、他の関連するイネ科によるアレルギー反応を誘発するのに十分であることを意味し得る。
Phl p 6と交差反応性であるグループ6アレルゲンは既に、ケンタッキーブルーグラス(Poa pratensis)の花粉に、タンパク質レベルで検出されている(Vrtala et al., 1999, J. Immunol. 15; 163:5489-9;Niederberger et al., 1998, J. Allergy Clin. Immunol. 101 (2): 258-264)。
【0009】
グループ6アレルゲン間の相互の交差反応性に加えて、グループ5の主要アレルゲンとの交差反応性も知られている。Phl p 6のポリペプチド鎖は、約26〜28kDaのサイズを有するPhl p 5のN末端領域と大きな類似性を示す(図1、図2)。アレルゲンは、共通のオリジナル遺伝子に起因すると考えられる(Petersen et al., 1995, Int. Arch. Allergy Immunol. 108: 55-59)。両方のタンパク質はαヘリックスの二次構造を形成するが、しかしβ畳み込みシート構造は形成しない。X線構造解析により、Phl p 6の4つのαヘリックスが畳まれて特徴的ヘリックス束を形成することが示され(RCSB Protein Data Bank entry: 1NLX; Fedorov et al., 2003;図1)、これはPhl p 5の断片にも検出される構造である(Rajashankar et al., 2002, Acta Cryst. D58:1175-1181;Maglio et al., 2002, Protein Engineering 15: 635-642;Wald et al., 2007, Clin. Exp. Allergy 37:441-450)。アレルゲン間の類似性は、いくつかのPhl p 5反応性IgE抗体もまた、Phl p 6に結合するという効果を有する(Petersen et al., 1995, Int. Arch. Allergy Immunol. 108: 49-54;Andersson & Lidholm, 2003, Int. Arch. Allergy Immunol. 130:87-107)。
【0010】
特定の免疫療法(SIT)または減感作は、アレルギーの治療的処置への有効なアプローチとされている((Fiebig 1995 Allergo J. 4 (6):336-339;Bousquet et al., 1998, J. Allergy Clin. Immunol. 102 (4): 558-562);Cox et al., 2007, J. Allergy Clin. Immunol. 120:S25-85;James & Durham, 2008, Clin. Exp. Allergy 38: 1074-1088)。
【0011】
天然のアレルゲン抽出物を漸増用量で患者に皮下注射するという古典的な治療形態である注射療法(SCIT)は、およそ100年間成功して用いられてきた。この療法において、アレルギー患者の免疫系は繰り返しアレルゲンと直面し、免疫系の再プログラミングと同時に、アレルゲンへの耐性がもたらされる。抗原提示細胞がアレルゲン調製物から抗原を取り込んだ後、ペプチドが細胞表面上で抗原に提示される。いわゆるT細胞エピトープを含有するいくつかの特定ペプチドが、抗原特異的T細胞により認識される。この結合は、特に、調節機能を有する種々のタイプのT細胞の発達をもたらす。SITの間、調節T細胞応答は以下をもたらす:アレルゲンの耐性、TH2サイトカインの下方制御、TH1/TH2平衡の回復、アレルゲン特異的IgEの抑制、IgG4、IgG1およびIgA抗体の誘導、エフェクター細胞(肥満細胞、好塩基球および好酸球)の抑制、および炎症組織の再生(Akdis et al., 2007, J. Allergy Clin. Immunol. 119 (4):780-789;Larche et al., 2008, Nature Reviews 6:761-771)。T細胞エピトープはこのように、減感作の場合にアレルゲン調製物の治療作用に対して決定的に重要である。
【0012】
IgEレベルおよびT細胞レベルでも存在するイネ科の主要アレルゲンの交差反応性のため、1つの代表的なイネ科の種のアレルゲン抽出物による治療の成功で、通常は十分である(Malling et al., 1993, EAACI Position Paper: Immunotherapy, Allergy 48: 9-35;Cox et al., 2007, J Allergy Clin Immunol 120: 25-85)。
皮下的免疫療法のほかに、アレルゲンまたはアレルゲン誘導体を経口粘膜を介して取り込む舌下治療形態が、注射療法の代替として臨床試験にかけられ使用されている(James & Durham, 2008, Clin. Exp. Allergy 38: 1074-1088)。
さらなる可能性は、関連するアレルゲンをコードする、発現可能なDNAによる処置である(免疫療法的ワクチン接種)。免疫反応のアレルゲン特異的影響の実験的証拠が、げっ歯類において、アレルゲンをコードするDNAの注射により提供された(Hsu et al. 1996, Nature Medicine 2 (5):540-544;Weiss et al., 2006, Int. Arch. Allergy Immunol. 139: 332-345)。
【0013】
これら治療形態の全てにおいて、アレルギー反応またはアナフィラキシーショックまでもの根本的リスクが存在する(Kleine-Tebbe, 2006, Allergologie, 4:135-156)。これらのリスクを最小化するために、アレルゴイドの形態の画期的な調製物が用いられている。これは、未処置の抽出物と比べてIgE反応性は顕著に低減されているが、同じT細胞反応性を有する、化学的に修飾されたアレルゲン抽出物である(Fiebig 1995 Allergo J. 4 (6):336-339;Kahlert et al., 1999, Int. Arch. Allergy Immunol, 120: 146-157)。
治療の最適化は、組み換え法により調製したアレルゲンにより可能である。患者の個別の感作パターンに任意に適合された、組み換え法により調製された高度に純粋なアレルゲンの規定されたカクテルは、天然のアレルゲン源からの抽出物の代わりに用いることができ、これは後者が、種々のアレルゲン以外に、比較的多数の免疫原性の、しかし非アレルゲン性の付随タンパク質を含有するためである。組み換えアレルゲンを用いた初期の臨床研究が既に実施され、成功している(Jutel et al., 2005, J. Allergy Clin. Immunol., 116: 608-613;Valenta & Niederberger, 2007, J. Allergy Clin. Immunol. 119: 826-830)。
【0014】
組み換え発現産物による安全な減感作をもたらし得る、現実的な可能性は、治療に必須のT細胞エピトープを損なうことなくIgEエピトープを修飾した、突然変異した組み換えアレルゲンによって、具体的に提供されている(Schramm et al. 1999, J. Immunol. 162:2406-2414)。これらの低アレルギー性タンパク質は、SITの間にIgEに促進された望ましくない副作用の確率を増加させることなく、比較的高用量で用いることができる。
過去に、このような低減したIgE結合を有する「低アレルギー性」変異体が、多くの空気アレルゲン(特に花粉およびハウスダストダニアレルゲン)および食物アレルゲンについて公開されている。非修飾アレルゲンのDNAに基づく組み換えDNAの調製および発現を、特に、断片化、オリゴマー化、欠失、点突然変異、またはアレルゲンの個別の部分(section)の組み換え(DNAシャフリング)によって行うことが可能である(Ferreira et al., 2006, Inflamm. & Allergy - Drug Targets 5: 5-14;Bhalla & Singh, 2008, Trends in Biotechnology 26:153-161)。
【0015】
イネ科のグループ6アレルゲンについては、今日まで単一突然変異の戦略についてのみ刊行されており、ここでは、成熟Phl p 6のアミノ酸1〜30をコードする最初の90個のヌクレオチドが欠失している。分子はヒスチジン融合分子として発現され、その免疫学的特性について精製および調査された。N末端の欠失は、IgE結合の低減をもたらし、好塩基性顆粒球によって刺激される能力の低減をもたらした(Vrtala et al., 2007, J. Immunol. 179: 1730-1739)。後の論文において、同じ分子をPhl p 2の組み換え変異体に結合して、ハイブリッド分子を得た(Linhart et al., 2008, Biol. Chem. 389: 925-933)。他のアレルゲンについて記載されたような点突然変異に基づく突然変異戦略は、グループ6草花粉アレルゲンについては未だ発表されていない。
【発明の概要】
【0016】
本発明が基づく目的は、タンパク質およびDNAレベルでの、Poaceaeのグループ6アレルゲンの新規な変異体であって、低減したIgE反応性と同時にT細胞反応性の実質的な保持を特徴とし、したがって治療的および予防的な特定の免疫療法および免疫療法的DNAワクチン接種に好適な、前記変異体を提供することである。
【0017】
発明の説明
驚くべきことには、アラインメントにおいて(in an alignment)野生型Phl p 6のアミノ酸配列における29、30、57、79位のプロリンに対応するプロリンが単独または組み合わせで突然変異した、イネ科(Poaceae)のグループ6アレルゲンの変異体は、野生型アレルゲンと比べて低減したIgE反応性と同時に、Tリンパ球との実質的に保持された反応性を有しており、したがって低アレルギー性であることが見出された。
したがって本発明は、アラインメントにおいて野生型Phl p 6のアミノ酸配列における29、30、57、79位のプロリンに対応するプロリンが単独または組み合わせで突然変異した、イネ科(Poaceae)のグループ6アレルゲンの低アレルギー性変異体に関する。
特に好適なのは、プロリンが欠失または置換されていることを特徴とする、本発明のアレルゲン変異体である。
【0018】
好ましいのは、イチゴツナギ亜科からのグループ6アレルゲンの本発明の低アレルギー性変異体、好ましくはPoodaeおよびTriticodaeの群から、好ましくはPhleum pratense、Holcus lanatus、Phalaris aquatica、Anthoxanthum odoratum、Dactylis glomerata、Lolium perenne、Poa pratensis、Festuca pratensis、Hordeum vulgare、Secale cerealeおよびTriticum aestivumにより表されるものからの、前記変異体である。これらは好ましくは、Triticum aestivum、Secale cerealeおよびHordeum vulgareからのTri a 6、Sec c 6およびHor v 6の本発明の低アレルギー性変異体である。特に好ましいのは、Poodaeのグループ6アレルゲンの本発明の低アレルギー性変異体である。これらグループ6アレルゲンは好ましくは、Phleum pratense、Lolium perenne、Poa pratensis、Holcus lanatusおよびPhalaris aquaticaからのPhl p 6、Poa p 6、 Hol p 6、Lol p 6およびPha a 6であり、極めて特に好ましくはPoa p 6およびPhl p 6、特にPhl p 6である。上記アレルゲンの全ての天然のアイソマー、多形体、および変異体ならびにこれらの前駆体タンパク質もまた、本発明による。
【0019】
本発明の低アレルギー性変異体において、突然変異したプロリンは、好ましくはアラインメントにおいて成熟Phl p 6.0101もしくはその変異体(配列番号4、配列番号7、配列番号8)の、または成熟Phl p 6.0102(配列番号2)の、特に好ましくは成熟Phl p 6.0102のアミノ酸配列における、29、30、57、79位のプロリンに対応するものである。
プロリンがタンパク質構造に影響を及ぼし得ることは知られていたが、アレルゲンの低アレルギー性突然変異体産生のための開始点としてのプロリン残基の特定の点突然変異は、ハウスダストダニDermatophaogides farinaeのグループ2主要アレルゲン(Der f 2、プロリン残基のアラニンによる置き換え)について調査されたのみであった(Takai et al., 2000, Eur. J. Biochem. 267: 6650-6656)。しかし、IgE結合能および好塩基性細胞を刺激する能力は、3種の点突然変異体の場合はわずかにのみ低減され、一方、別の3種は非修飾アレルゲンと同様の挙動であった。Der f 2の場合のプロリン突然変異はしたがって、アレルゲン性の非常に弱い低減、または低減なしを示した。プロリン交換突然変異による低アレルギー性突然変異体調製のためのさらなる戦略は、公開されていない。したがって当業者は、プロリン突然変異体がアレルゲンの低アレルギー性突然変異体産生のための開始点として成功することを期待していなかった。
【0020】
さらに、これまで任意のアレルゲンで、プロリン残基の特定の欠失が発現産物の全IgE結合能にどのように影響するか、およびアレルギー関連エフェクター細胞の活性化にどのような効果が生じるかについては、検討されていなかった。
Phl p 6またはその2つのアイソフォーム(Phl p 6.0101、GenBank:Z27082.1、UniProt: P43215;Phl p 6.0102, GenBank:Y16955、UniProt:O65868)のアミノ酸配列は、7個のプロリン残基を含む(図1)。アミノ酸位置29、30、57、79および101のプロリンは、αヘリックスの開始または終了部に直に存在するか、またはタンパク質表面の形成に関与する(図2)。61位のプロリン残基は、第3ヘリックスの一部であり、プロリン108は、C末端近くに局在する。
【0021】
Phl p 6アイソフォームPhl p 6.0101(配列番号4)およびPhl p 6.0102(配列番号2)のアミノ酸配列から開始して、組み合え非修飾野生型アレルゲン(rPhl p 6 wt;図4)および遺伝子工学により修飾された本発明の変異体を調製する。下記の調製方法と同様にして、本発明のイネ科の他のグループ6アレルゲン、例えばPoa p 6の、野生型タンパク質および低アレルギー性変異体も調製することができる。そのために、アラインメントにおいて野生型Phl p 6のアミノ酸配列における29、30、57、79位のプロリンに対応するプロリンを、好ましくは置換または欠失により、単独または組み合わせで突然変異させた。
【0022】
本発明のアレルゲン変異体は、クローニングされたDNA配列から、遺伝子工学法の支援により調製すべきである。本発明の調製方法は、関連する実験室手順および刊行物、例えばE.F. Fritsch, J. Sambrook, T. Maniatis, Molecular Cloning, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989などから、当業者には知られている。
グループ6アレルゲンについて記載した変異に加えて、例えば低アレルゲン性を増強するために、他の位置でのさらなる修飾も当然可能である。これらの修飾は、例えば、アミノ酸挿入、欠失、置き換え、およびタンパク質を断片に切断すること、およびタンパク質またはそれらの断片の、他のタンパク質またはペプチドとの融合、および同一タンパク質または断片の融合を介した多量体などであることができる。
【0023】
本発明の断片は、好ましくは20〜109個のアミノ酸を、好ましくは30〜100個のアミノ酸を、特に好ましくは40〜90個のアミノ酸を含有する。本発明の変異体はさらに、例えば図18、19および20(配列番号8、配列番号9、配列番号10)に示すように、前駆体タンパク質、例えばProPhl p6を、前の天然または人工シグナル配列と共に含む。本発明に含まれるのはさらに、N末端またはC末端融合タグ(例えば、図5および6に示すHisタグ、MBPタグ、発現制御配列等)を有する融合タンパク質、ハイブリッド分子、例えば他のアレルゲンもしくはその低アレルギー性変異体との融合、または任意の所望の順序での断片の融合である。さらに、本発明の変異体はまた、関連するグループ6野生型アレルゲンと少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有する、好ましくは関連するグループ6野生型アレルゲンと少なくとも90%の、特に好ましくは関連するグループ6野生型アレルゲンと少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有する、相同配列も含む(多形体(SNP)、アイソフォーム)。これらの変異体において、1または数個のアミノ酸は好ましくは保存的に置き換えられ、例えば極性アミノ酸が別の極性アミノ酸に置換され、または中性アミノ酸が別の中性アミノ酸に置換されており、しかし、非保存的置き換えによる変異体もまた本発明による。多量体は好ましくは、リンカー配列によって結合されたか、または直接融合による、本発明の低アレルギー性変異体の二量体または三量体を含む。
【0024】
かかる変異体の例は、図17および図18に示すように、Phl p 6.0101の変異体(配列番号7、配列番号8)であり、ここで本発明の作用に関連しない個々のアミノ酸は置き換えられているか、またはN末端の3個のアミノ酸もしくはN末端にシグナルペプチドを有するそれらの前駆体配列等を欠いている。本発明の変異体のさらなる例は、多形変異体であり、例えば2つのアイソマーPhl p 6.0101およびPhl p 6.0102それ自体、さらに、1または2以上のアミノ酸が置き換えられた変異体、Nおよび/またはC末端での1または2以上のアミノ酸の除外、またはアミノ酸配列内の対応する欠失ギャップを有する変異体である。同様に本発明に含まれるのは、単一または複数アミノ酸の、種々の位置における個別の挿入、あるいはアミノ酸配列内の1つの位置におけるか、またはNおよび/またはC末端における、1つの群としての挿入を有する変異体である。
【0025】
本発明はしたがって、イネ科(Poaceae)のグループ6アレルゲンの低アレルギー性変異体であって、これが本発明の低アレルギー性変異体の断片もしくは変異体、または本発明の1または2以上の低アレルギー性変異体の多量体であることを特徴とするもの、または本発明の1または2以上の低アレルギー性変異体またはそれらの断片、変異体もしくは多量体が、組み換え融合タンパク質の構成要素であることを特徴とするものにも関する。
さらに、本発明は、本発明の低アレルギー性変異体をコードするDNA分子に関する。
【0026】
本発明はさらに、発現制御配列に機能的に結合しているタイプの本発明のDNA分子を含有する、組み換え発現ベクターに関する。発現制御配列とは、例えば、プロモーターまたは配列部分であって、これの支援により標的タンパク質の発現が影響され、標的遺伝子に機能的に結合しているが、必ずしも標的遺伝子の直近傍に局在している必要はない、前記プロモーターまたは配列部分を意味するものとする。
本発明はまた、本発明のDNA分子または本発明の発現ベクターによって形質転換された、非ヒト宿主生物に関する。
【0027】
本発明は、本発明の低アレルギー性変異体を、本発明の非ヒト宿主生物の培養および該培養物からの対応するアレルゲン変異体の単離によって、調製するための方法に関する。
好適な非ヒト宿主生物は、原核または真核の単細胞または多細胞生物、例えば細菌または酵母であることができる。本発明による好ましい宿主生物は、大腸菌である。
1つまたは隣接する2つのプロリンの欠失の、Phl p 6のIgE結合能への影響は、プロリン29+30、プロリン57、プロリン79、およびプロリン101を欠失することよって調査することができる。Phl p 6野生型タンパク質において、これらのプロリンはαヘリックスの初めまたは終わりのループ領域に局在する(図1;図2)。プロリン61およびプロリン108は修飾されないのが好ましく、なぜならば、対応する変異体が重要な効果を示さないからである。本発明のイネ科の別のグループ6アレルゲン、例えばPoa p 6の、対応する相同的位置でのプロリン突然変異のIgE結合能への影響を、同様にして調査することができる。
【0028】
より迅速な高収率精製のために、これらの調査用のコーディングDNAを、N末端ヘキサヒスチジン融合成分をコードする配列によって提供する(+6His)(図5、配列番号5;図6、配列番号6)。本発明のタグなし変異体および、医薬目的のために用いることができる野生型タンパク質も、標準方法により同様に精製して、Hisタグタンパク質による結果を確認する。
例えば、タンパク質rPhl p 6 d[P29, 30] + 6His、rPhl p 6 d[P57] + 6His、rPhl p 6 d[P79] + 6HisおよびrPhl p 6 d[P101] + 6Hisをコードする配列を、対応して調製する。配列は、全ての既知の真核および原核発現系において、好ましくは大腸菌において、発現することができる。タンパク質は続いて、溶解性のモノマーとして、標準法により精製される。最後に、純度を変性ポリアクリルアミドゲル中での分析によりチェックする(SDS−PAGE)(図7)。
【0029】
屈折計(RI検出器)および多角度光散乱検出器(MALS検出器)が連結された分析ゲルろ過(SEC)により、溶出されたタンパク質の分子量のオンライン決定が可能である(SEC/MALS/RI法)。
このように、SEC/MALS/RIによるrPhl p 6 d[P29, 30] + 6His、rPhl p 6 d[P57] + 6His、rPhl p 6 d[P79] + 6HisおよびrPhl p 6 d[P101] + 6Hisの分析は、これらの本発明の変異体が、溶液中で純粋モノマー形態であることを示す(図8、表1)。
本発明の組み換え変異体のIgE結合能は、タンパク質をニトロセルロース膜上に固定化し、臨床的に定義された草花粉アレルギー患者の個々の血清のIgE抗体と直面させる方法(ストリップ試験)により決定することができる。アレルゲン変異体/抗体複合体を続いて酵素反応により着色する(図9)。
【0030】
この方法において、変異体rPhl p 6 d[P101] + 6Hisは、試験した全ての血清と、非修飾のアレルゲンと同様の良好なIgE結合を示す(図9)。これから、プロリン101の欠失はPhl p 6のIgE結合能に重要な影響を有さないことがわかる。変異体rPhl p 6 d[P29, 30] + 6His、rPhl p 6 d[P57] + 6HisおよびrPhl p 6 d[P79] + 6HisのIgE結合能は、異なる草花粉アレルギー患者の血清で異なっている。これは、IgE抗体の親和性およびエピトープ特異性に関する、個々のアレルギー患者のIgE集団の組成(composition of the IgE population)における変化のためである。変異体rPhl p 6 d[P57] + 6HisおよびrPhl p 6 d[P79] + 6Hisは、ほとんどの血清に対して、非修飾のrPhl p 6 wt + 6Hisと比べて大幅に低減したIgE反応性を示す。しかし、全体での最小のIgE結合は、変異体rPhl p 6 d[P29, 30] + 6Hisの場合に観察される(図9)。
【0031】
本発明の組み換え変異体は、さらに、それらのヒトIgE抗体への結合能について、IgE阻害試験(EAST)により調査することができる。この方法において、アレルゲン/IgE相互作用は溶液中で調査でき、これにより、例えば膜上で固定化することによる試験物質のエピトープのマスキングの妨害を、除外することが可能となる。
この例において、変異体rPhl p 6 d[P29, 30] + 6HisへのIgE結合を通したストリップ試験法で大きく異なっていた草花粉アレルギー患者の2種の血清を選択した。血清P32は、ストリップ試験においてrPhl p 6 d[P29, 30] + 6Hisへのいまだに検出可能なIgE結合を示す血清の群(「A」群)を表し、一方血清P82は、検出可能な反応性を有さない血清の群の代表として選択される(「B」群)(図9、図14)。
【0032】
この試験法を用いて、非修飾rPhl p 6 wt + 6Hisと比較して、変異体rPhl p 6 d[P29, 30] + 6His、rPhl p 6 d[P57] + 6HisおよびrPhl p 6 d[P79] + 6Hisの低減されたIgE結合能を、ストリップ試験の結果と整合して確認することができる(図10)。
ストリップ試験法の結果はしたがって、IgEエピトープの部分的マスキングに起因するのではなく、代わりに、溶解タンパク質の低減したIgE結合能を正確に反映する。
変異体rPhl p 6 d[P101] + 6Hisは全濃度範囲において、血清P32を用いた野生型アレルゲンのそれに対応するIgE結合能を示す(図10)。血清P82を使用すると、低いIgE結合が低いタンパク質濃度においてのみ観察され、一方高い濃度においては、IgE結合は再度野生型のそれに対応する(図10)。
【0033】
Phl p 6のIgE結合能の低減はしたがって、原理的には、プロリン残基101の欠失によっても可能であるが、しかしこの効果は明らかに非常に小さく、ストリップ試験では全く検出できず、IgE阻害試験では低い濃度においてのみ検出可能である(図9、図10)。
変異体rPhl p 6 d[P29, 30] + 6His、rPhl p 6 d[P57] + 6HisおよびrPhl p 6 d[P79] + 6Hisの低減したIgE結合能は、対照的に、ストリップ試験法においてはほとんどのアレルギー患者血清で容易に検出でき、IgE阻害試験においては調査した濃度範囲全体で与えられる(図9、図10)。
これは基本的に、グループ6アレルゲンのプロリン残基の欠失は、IgE結合能を低減させられることを証明する。一方、一定のプロリンの欠失のみが、関連するIgE結合低減をもたらす。
【0034】
臨床的に定義された草花粉アレルギー患者の好塩基性顆粒球を用いた試験により、本発明の変異体の低減したIgE結合能の、ヒトエフェクター細胞の活性化への効果をin vitroで調査することができる。
試験に用いる顆粒球は、アレルギー患者、本例ではアレルギー患者P21の全血から単離する。このアレルギー患者は、ストリップ試験法において、IgE抗体がrPhl p 6 d[P29, 30] + 6Hisへの検出可能な結合を示すアレルギー患者を表す(「A」群、図9、14)。
【0035】
同じ濃度での、組み換え野生型アレルゲンおよび本発明の変異体rPhl p 6 d[P29, 30] + 6His、rPhl p 6 d[P57] + 6His、およびPhl p 6 d[P79] + 6His rPhl p 6 d[P29, 30]+ 6Hisにおいて、本発明の変異体は、膜結合性IgE抗体へのより低い結合を示し、結果として、好塩基性顆粒球の顕著に低下した活性化を示す(図11)。
したがって結果は、変異体rPhl p 6 d[P29, 30] + 6His、rPhl p 6 d[P57] + 6HisおよびrPhl p 6 d[P79] + 6Hisの機能的に低減したアレルゲン性を確認する。こうしてこの試験により、Phl p 6のこれら2つの領域のプロリン突然変異が、少なくとも幾人かのアレルギー患者において、IgE結合能も低減させることを確認できる。
したがって本発明はさらに、イネ科(Poaceae)のグループ6アレルゲンの低アレルギー性変異体であって、アラインメントにおいて野生型Phl p 6のアミノ酸配列における29、30、57、79位のプロリンに対応するプロリンが単独で突然変異した、前記変異体に関する。
【0036】
本発明は好ましくは、アラインメントにおいて野生型Phl p 6のアミノ酸配列における29、30、57、79位のプロリンに対応するプロリンが単独で変異した、Phl p 6またはPoa p 6の低アレルギー性変異体に関する。
本発明は特に好ましくは、アラインメントにおいて野生型Phl p 6のアミノ酸配列における29、30、57、79位のプロリンに対応するプロリンが単独で突然変異した、Phl p 6の低アレルギー性変異体に関する。
したがって特に好ましいのは、アラインメントにおいて成熟Phl p 6.0102(配列番号2)のアミノ酸配列における29、30、57、79位のプロリンに対応するプロリンが単独で除去された、イネ科(Poaceae)のグループ6アレルゲンの低アレルギー性変異体である。
【0037】
本発明はさらに好ましくは、アラインメントにおいて野生型Phl p 6のアミノ酸配列における29、30、57、79位のプロリンに対応するプロリンが単独で除去された、イネ科(Poaceae)のグループ6アレルゲンの本発明の低アレルギー性変異体に関する。
また、本発明はさらに、アラインメントにおいて野生型Phl p 6のアミノ酸配列における29、30、57、79位のプロリンに対応するプロリンが個別に置換された、イネ科(Poaceae)のグループ6アレルゲンの本発明の低アレルギー性変異体に関する。ここで、プロリンは例としてはロイシン(L)により置き換えられる。しかし本発明により、本発明のプロリンは任意のアミノ酸で置き換えることができる。
【0038】
特に、低アレルギー性変異体rPhl p 6 d[P29]、rPhl p 6 d[P30]、rPhl p 6 d[P29, 30]、rPhl p 6 d[P57]、rPhl p 6 d[P79]、rPhl p 6 P29L、rPhl p 6 P30L、rPhl p 6 P29L、P30L、rPhl p 6 P57LおよびrPhl p 6 P79L等、および以下に記載の全ての本発明の低アレルギー性変異体を含むものは、本発明によるものであり、ここで番号付けはPhl p 6の配列、特に成熟Phl p 6.0102に従う。
さらに、これらの例はPhl p 6の変異体に限定されず、特にPoa p 6および全ての他のイネ科のグループ6アレルゲンにも関する。
【0039】
さらに、グループ6アレルゲンの本発明の低アレルギー性変異体のいまだに検出可能なIgE結合能は、プロリン突然変異の組み合わせによってさらに低減可能である。したがって、変異体rPhl p 6 d[P29, 30] + 6Hisの大幅に低減されたIgE結合と、IgE結合能もプロリン57および79の欠失により部分的に低減可能であるという事実によって、組み合わせの突然変異を含む核酸が産生される。変異体rPhl p 6 d[P29, 30] + 6HisのDNAに基づき、57および79位のプロリンを欠失するか、またはアミノ酸ロイシンに変換する。
したがって、タンパク質rPhl p 6 d[P29, 30, 57] + 6HisおよびrPhl p 6 d[P29, 30, 79] + 6HisならびにrPhl p 6 d[P29, 30] P57L + 6HisおよびrPhl p 6 d[P29, 30] P79L + 6Hisをコードする配列を調製する。これらの変異体は、Phl p 6のαヘリックスを結合する2つのループにプロリン突然変異を有するタンパク質をコードする(図2)。
【0040】
さらに、3つのループ領域にプロリン突然変異を有するアレルゲン変異体を産生するために、rPhl p 6 d[P29, 30] P57L P79L + 6Hisをコードする核酸を調製する(図2)。既に上述したように、配列は好ましくは大腸菌に発現され、タンパク質は標準法により精製される。
純度は同様に、SDS−PAGEおよびSEC/MALS/RIにより調査する(図12、図13)。本発明の全てのタンパク質は、したがって、高い純度および溶解性で調製することができる。
【0041】
SEC/MALS/RI法は、二量体を形成する特性について、上記突然変異体の顕著な差を明らかにする(図13、表2)。タンパク質rPhl p 6 d[P29, 30, 57] + 6His、rPhl p 6 d[P29, 30] P57L + 6HisおよびrPhl p 6 d[P29, 30] P57L P79L + 6Hisについて決定された分子量は、二量体形成への明らかな傾向を示す。タンパク質rPhl p 6 d[P29, 30, 79] + 6HisおよびrPhl p 6 d[P29, 30] P79L + 6Hisは、モノマー形態のみで検出される(表2)。この結果から、プロリン79でなく、プロリン57の位置の修飾が、二量体化傾向が誘発されるような様式でrPhl p 6 d[P29, 30]を修飾すると結論付けることができる。
IgE結合能のストリップ試験による決定は驚くべきことに、rPhl p 6 d[P29, 30]へのIgEの検出可能な結合を有する「A」群のアレルギー患者の血清は、最適化変異体への顕著に低減されたIgE結合を実際に有することが示される(図14)。プロリン57および79が欠失されたか、別のアミノ酸により置き換えられたかは明らかに、二量体形成能力と同様に、IgE結合能の低減に対してほとんど影響を有さない。したがって、プロリンのグループ29、30、57および79からの複数アミノ酸残基の修飾が同時に存在することは、IgE結合をさらに大きく低減させることが示される。
【0042】
本発明はしたがってさらに、アラインメントにおいて野生型Phl p 6のアミノ酸配列における29、30、57、79位のプロリンに対応するプロリンが組み合わせで突然変異した、イネ科(Poaceae)のグループ6アレルゲンの低アレルギー性変異体に関する。好ましいのは、欠失を通した、および他のアミノ酸による置換を通した、突然変異である。任意のアミノ酸を、ここでプロリンによる置き換え用に選択することができる。
本発明は好ましくは、アラインメントにおいて野生型Phl p 6のアミノ酸配列における29、30、57、79位のプロリンに対応するプロリンが組み合わせで突然変異した、Phl p 6またはPoa p 6の低アレルギー性変異体に関する。
【0043】
本発明は特に好ましくは、アラインメントにおいて野生型Phl p 6のアミノ酸配列における29、30、57、79位のプロリンに対応するプロリンが組み合わせで突然変異した、Phl p 6の低アレルギー性変異体に関する。
特に好ましいのは、アラインメントにおいて成熟Phl p 6.0102(配列番号2)のアミノ酸配列における29、30、57、79位のプロリンに対応するプロリンが組み合わせで突然変異した、イネ科(Poaceae)のグループ6アレルゲンの低アレルギー性変異体である。
特に好ましいのは、プロリン29、30、57、79が組み合わせで除去された、本発明の低アレルギー性変異体である。特に好ましいのはまた、プロリン29、30、57、79が組み合わせで置換された、本発明の低アレルギー性変異体である。
【0044】
さらに、特に好ましいのは、プロリン29、30、57、79が組み合わせで除去された、および/または置換された、本発明の低アレルギー性変異体である。特に、低アレルギー性変異体rPhl p 6 d[P29, 30, 57]、rPhl p 6 d[29, 30, 79], rPhl p 6 d[29, 30, 57, 79]、rPhl p 6 d[P29, 57]、rPhl p 6 d[P30, 57]、rPhl p 6 d[29, 79]、rPhl p 6 d[30, 79]、rPhl p 6 d[29, 57, 79]、rPhl p 6 d[30, 57, 79]、rPhl p 6 d[P29, 30] P57L、rPhl p 6 d[29, 30] P79L、rPhl p 6 d[29, 30] P57L P79L、rPhl p 6 d[P29] P30L、rPhl p 6 d[P30] P29L、rPhl p 6 d[P57] P29L P30L、rPhl p 6 d[P79] P29L P30L、rPhl p 6 d[P57, 79] P29L P30L、rPhl p 6 P29L P30L P57L、rPhl p 6 P29L P30L P79L、rPhl p 6 P29L P30L P57L P79L等、および下に記載の本発明の全ての低アレルギー性変異体はしたがって本発明によるものであり、ここで番号付けは、Phl p 6、特に成熟Phl p 6.0102の配列に従う。
【0045】
ここで、プロリンは例としては、ロイシン(L)によって置き換えられる。しかし本発明により、本発明のプロリンは、任意のアミノ酸で置き換えることができる。したがって、本発明の1または2以上のプロリンが別のアミノ酸により置換された上記の全ての低アレルギー性変異体は、本発明によるものである。さらに、これらの例はPhl p 6の変異体に限定されず、特にPoa p 6および全ての他のイネ科のグループ6アレルゲンにも関する。しかし特に好ましいのは、Phleum pratenseのPhl p 6、特にPhl p 6.0102に基づく、本発明の全ての上記の低アレルギー性変異体である。
【0046】
Tヘルパーリンパ球は、抗原提示細胞(APC)の分解プロセスを通して形成され、APCの表面でMHCクラスII分子に結合して提示されるアレルゲンのペプチド断片と反応する。ペプチドは一般に13〜18アミノ酸の長さを有するが、しかしまた、側方が開いているMHCクラス2結合部位のためこれより長くてもよい。ペプチドとMHCクラス分子との主要な接触点は、約7〜10個のアミノ酸のコア配列中に見出される。Tヘルパーリンパ球のアレルゲン特異的活性化は、その増殖および機能的分化の必要条件である(例えばTreg、TH1およびTH2)。アレルゲンまたはアレルゲン変異体の、アレルゲン特異的Tリンパ球を刺激する能力は、その治療的有効性の鍵とみなされている。
Phl p 6またはPhl p 6.0102に基づき産生され、本明細書に記載される全てのアレルゲン変異体は、実験において、重要なT細胞エピトープの実質的な保持を示す。
【0047】
したがって、プロリン残基の修飾を通して新規なタンパク質特性を有する、イネ科のグループ6アレルゲンの変異体が、初めて記載される。関与するプロリン残基はループ領域に局在する。一定のプロリン残基の修飾のみが新規な変異体をもたらし、これは、低減されたIgE反応性およびT細胞反応性の実質的な保持により識別され、したがって、治療的および予防的な特定の免疫療法に好適である。対応するDNA分子は、免疫療法的ワクチン接種に好適である。
本発明はしたがって、薬剤(medicament)としての、本発明の記載のアレルゲン変異体、DNA分子および組み換え発現ベクターに関する。
【0048】
本発明の低アレルギー性変異体、DNA分子および組み換え発現ベクター、または本発明の薬剤は、特に、疾患および病気の予防および/または処置のために用いることができる。本発明の薬剤は、1型アレルギーの処置および/または予防に、すなわち、Poaceae種のグループ6アレルゲンがその誘発に関与する草花粉アレルギーを有する患者の特定の免疫療法(低感作)に、または草花粉アレルギーの予防的免疫療法に、特に好適である。本発明のDNA分子および組み換え発現ベクターは、対応する免疫療法的および免疫予防的DNAワクチン接種に用いることができる。
本発明はまた、少なくとも1種の本発明の低アレルギー性変異体の、その誘発にイネ科のグループ6アレルゲンが原因的に関与する1型アレルギーの予防および/または治療的処置のための、薬剤の調製のための使用に関する。
【0049】
また本発明によるのは、少なくとも1種の本発明のDNA分子、および/または本発明の組み換え発現ベクター、ならびに全ての比率でのその混合物の、免疫療法的DNAワクチン接種のための薬剤の調製のための使用である。
本発明はさらに、少なくとも1種の本発明の低アレルギー性変異体、少なくとも1種の本発明のDNA分子、および/または少なくとも1種の本発明の組み換え発現ベクター、ならびに全ての比率でのその混合物、および任意にさらに賦形剤および/または助剤を含む、1型アレルギーの予防および/または治療的処置のための医薬製剤に関する。
【0050】
特に、本発明の医薬製剤は、イネ科のグループ6アレルゲンがその誘発に原因的に関与する、1型アレルギーの予防および/または治療的処置に好適である。
本発明の意義における医薬製剤は、ヒトの医学または獣医学における治療剤として用いることができ、したがってヒトおよび動物、とくに哺乳類に、例えばサル、イヌ、ネコ、ラットまたはマウスなどに投与することができ、ヒトまたは動物の身体の治療的処置において、上述の疾患と闘うことにおいて、用いることができる。これらはさらに、診断剤または試薬としても用いることができる。
【0051】
本発明による製剤または薬剤を使用する場合、本発明の低アレルギー性変異体、DNA分子または組み換え発現ベクターは、一般に、既知の市販の製剤と同様に用い、好ましくは、0.001〜500mgの用量で、低アレルギー性変異体の場合は維持相において用量あたり約1〜500μg、好ましくは5〜200μgで用いる。製剤は、1日当たり1回または複数回投与可能であり、例えば1日2回、3回、または4回である。用量は典型的には、用量増加相においては維持用量まで増加させる。種々の用量増加および維持スキームがこの目的のために可能である。皮下の免疫療法(SCIT)の場合、例えば、これらには以下を含むことができる:短期間療法(季節的病訴の開始前に限定数の注射、典型的には4〜7回の注射)、シーズン前療法(花粉の季節の前に治療を開始、典型的には、増加相の間は毎週注射、および花粉の季節の始まりまで維持用量にて毎月の注射)、または通年療法(典型的には、16週間までの毎週注射による用量増加相に続いて、維持用量での毎月の注射、必要に応じて花粉の季節の間は低減した用量)。水性または固体の製剤(錠剤、ウェファー等)による舌下の免疫療法の場合、療法は、用量増加相有りまたは無しで導入することができる。治療は、年間を通して毎日用量で実施するのが好ましいが、しかし、シーズン前に実施したり、または他の適用スキームで実施することもできる(例えば、2日目毎、毎週、毎月)。
【0052】
表現「有効量」とは、薬剤または医薬活性化合物の量であって、生物学的または医学的応答を、例えば研究者または医者により求められるかまたは目的とされる組織、系、動物またはヒトにおいて引き起こす、前記薬剤または医薬活性化合物の量を意味する。
さらに、表現「治療的有効量」とは、この量を受領しない対応する対象と比較して、次の結果を有する量である:疾患、症候群、病気、病訴、疾病の改善された処置、治癒、予防または除去、または副作用の予防、または疾患、病訴もしくは疾病の進行の低減。用語「治療有効量」はまた、正常な生理機能を増加させるのに有効な量も包含する。
【0053】
薬剤は、任意の所望の好適な経路を介した投与に適応可能であり、例えば、経口(舌下錠または舌下を含む)、直腸内、肺、鼻腔、局所的(舌下錠、舌下または経皮を含む)、膣内、非経口(皮下、筋肉内、経静脈または皮内を含む)経路である。かかる薬剤は、薬学分野で知られた全てのプロセスを用いて、例えば活性化合物を賦形剤(単数または複数)または助剤(単数または複数)と組み合わせることにより、調製可能である。
【0054】
非経口使用に好適なのは、特に、液剤、好ましくは油性液剤または水溶液、さらに懸濁剤、乳濁剤またはインプラントである。本発明のアレルゲン変異体はまた、凍結乾燥することができ、得られた凍結乾燥物は、例えば注射製剤の調製に用いられる。示した製剤は滅菌することができ、および/またはアジュバントを、例えば潤滑剤、保存剤、安定剤および/または湿潤剤、乳化剤、浸透圧を調節するための塩、緩衝物質および/または複数のさらなる活性化合物などを含んでよい。さらに、デポー製剤も、本発明のアレルゲン変異体の対応する処方により、例えば水酸化アルミニウム、リン酸カルシウムまたはチロシンなどへの吸着により、得ることができる。
【0055】
好適な賦形剤は、非経口投与に好適であり、本発明のグループ6アレルゲン変異体と反応しない、有機または無機物質である。その例としては、次のような賦形剤である:水、植物油、ベンジルアルコール、ポリエチレングリコール、グリセロールトリアセテート、ゼラチン、炭水化物、例えばラクトースまたはデンプン、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ラノリン、またはワセリン。
非経口投与は、本発明の薬剤の投与に好適であるのが好ましい。非経口投与の場合、静脈内、皮下、皮内、リンパ管内投与が特に好ましい。静脈内投与の場合、注射は、直接または輸液への添加により行うことができる。
【0056】
非経口投与に適合された薬剤としては水性および非水性無菌注射溶液を含み、これは抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、および溶解剤を含有し、それにより製剤は処置されるレシピエントの血液に対して等張性となり、また、水性もしくは非水性の無菌懸濁液を含み、これは懸濁剤および増粘剤を含有してよい。製剤は、例えば密封アンプルおよびバイアルなどの単一用量または複数用量の容器で投与することができ、フリーズドライ(freeze-dried)(凍結乾燥(lipophilised))状態で保存され、これは、例えば注射目的の場合、水などの無菌の担体溶液を使用の直前に添加することのみが必要であることを意味する。処方に従って調製される注射溶液および懸濁液は、無菌の粉末、顆粒および錠剤から調製することができる。
必要に応じて、本発明の製剤または薬剤は、1または2以上のさらなる活性化合物および/または1または2以上の作用エンハンサー(アジュバント)を含んでよい。
【0057】
したがって本発明はさらに、さらなる活性化合物および/または助剤を含む、医薬製剤に関する。本発明は好ましくは、さらなる活性化合物がアレルゲンまたはそれらの変異体であることを特徴とする、本発明の医薬製剤に関する。好適なさらなる活性化合物の例は他のアレルゲンであり、特に、イネ科のアレルゲン、特に好ましくは、イチゴツナギ亜科からのアレルゲン、好ましくはPoodaeおよびTriticodaeの群からの、好ましくはPhleum pratense、Holcus lanatus、Phalaris aquatica、Dactylis glomerata、Lolium perenne、Poa pratensis、Hordeum vulgare、Secale cerealeおよびTriticum aestivumによって表され、例えば、グループ1、2、3、4、5、6、7、10、12または13のアレルゲンおよびそれらの変異体であり、例えば、低アレルギー性変異体、断片、多量体、ハイブリッド分子または組み換え融合タンパク質である。本発明はさらに、少なくとも1種のさらなる助剤を、特に好ましくはいわゆるアジュバントを含む、医薬製剤に関する。アジュバントの例としては、水酸化アルミニウム、モノホスホリル脂質A、Toll様受容体のアクチベーター、例えばリポ多糖体およびCpGオリゴヌクレオチド、ビタミンD3、マイコバクテリア抗原および寄生虫(例えば住血吸虫またはフィラリア)からの分子、例えばシスタチンまたはES−62である。
【0058】
本発明はまた、次の個別パックからなる(キット)にも関する:
a)本発明の低アレルギー性変異体、DNA分子または組み換え発現ベクターの有効量を含有する、本発明の医薬製剤、
b)さらなる医薬活性化合物および/またはアジュバントの有効量を含有する、医薬製剤。
セットは、好適な容器、例えば箱または紙箱、個別のボトル、バッグ、またはアンプルなどを含む。セットは例えば、各々が、有効量の本発明の低アレルギー性変異体、DNA分子または組み換え発現ベクター、および溶解形態または凍結乾燥形態のさらなる医薬活性化合物を含有する本発明の製剤を含む、個別のアンプルを含んでよい。
【0059】
さらなる態様なしでも、当業者は上述の記載を最も広い範囲で用いることができると考えられる。したがって好ましい態様は、説明的開示としてのみ見なされるべきであって、決して限定的ではない。
以下の例はしたがって、本発明を限定することなく説明することを意図する。別の指示がない限り、パーセントのデータは重量パーセントを意味する。全ての温度は摂氏で表される。「慣用の操作」:最終産物の構成に応じ、必要に応じて水を加え、pHは必要に応じて2〜10の間に調製する。
【0060】
以下の本発明の低アレルギー性変異体は、生物工学的方法により調製され、特徴付けられた。しかし、物質の調製および特徴付けはまた、当業者により別の方法によっても実施することができる。例えば、本発明の低アレルギー性変異体はまた、化学的に合成可能である。さらに本発明は、以下に記載の本発明の低アレルギー性変異体にも関する。
【0061】
例1:1つのループ領域にプロリン欠失を有するPhl p 6の変異体
変異体rPhl p 6 d[P29, 30] + 6His、rPhl p 6 d[P57] + 6Hisおよび rPhl p 6 d[P79] + 6Hisの調製およびその免疫学的特徴付けを、以下に記載する。組み換え非修飾アレルゲン(rPhl p 6 wt + 6His)を同様に調製して調査し、および本発明のイネ科の他のグループ6アレルゲンの低アレルギー性変異体およびそれらの野生型タンパク質、特にPoa p 6もまた、同様に調製して調査することができる。
【0062】
遺伝子工学による作成:
変異体をコードするDNAを、長いオーバーラップDNAオリゴヌクレオチドの結合およびPCR標準法によるDNA増幅により、合成する。コドンを、粒子の濃度をRI検出器により決定し、粒子による光散乱をMALS検出器により記録するように選択する(Wen et al., 1996, Anal. Biochem. 240:155-166)。溶出粒子の平均質量を、これらのデータから約5%の精度で計算することができる。モノマー、二量体その他多量体および凝集物を、SEC/MALS/RIで検出可能である。
SEC/MALS/RI分析において、それぞれが単一のピークで溶出するタンパク質は、天然の条件下で純粋なモノマー形態であることが明らかとなる(図8;表1)。
【0063】
【表1】
タンパク質濃度のオンライン決定は、OptilabrEX屈折率検出器(RI)(Wyatt, Santa Barbara, USA)を用いて行った。粒子による光散乱は、MiniDAWN Treos多角度検出器(Wyatt)を用いて決定した。粒子質量は、屈折率増分を0.180ml/gとして、デバイ形式(Debeye formalism)によるASTRA 5.3.2.17ソフトウェア(Wyatt)を用いて計算した。SECカラム:Superdex 200 GL 10/ 300(GE Healthcare, Uppsala, Sweden)。溶出液:20mMのリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.2および150mMのNaCl。
【0064】
推定アミノ酸配列は、成熟Phl p 6.0102のそれに基づく(図3、図4)。プロリン欠失についての突然変異を、PCR反応でプロリンについて対応するコドンが欠如している特定のオリゴヌクレオチドを用いて導入する。これらのオリゴヌクレオチドは、推定タンパク質が、5’末端においてヘキサヒスチジン融合成分を有するように選択する(図5、図6)。これらのDNAを、発現ベクターpTrcHis2 Topo(Invitrogen, Carlsbad, USA)にトポイソメラーゼ反応によりライゲートする。DNAの正確さを配列決定により確認する。
【0065】
発現および精製:
組み換えヒスチジン融合タンパク質の発現を、大腸菌(Top 10株;Invitrogen)において行う。rPhl p 6 wt + 6 Hisおよび変異体を、N末端ヒスチジン残基のNi2+キレートマトリックス(固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー、IMAC;材料:HiTrap, GE Healthcare, Uppsala, Sweden)への特異的結合により最初に精製する。IMAC溶出物からの組み換えタンパク質を続いて濃縮し、ゲルろ過を行う(材料:Superdex 75; GE Healthcare)。
生化学的分析:
調製したタンパク質の純度を、SDS−PAGEおよび続くクーマシー染色により最初にチェックする。分析により、全てのタンパク質の非常に高い純度が示される(図7)。
【0066】
分析ゲルろ過(SEC)により、タンパク種の固有の流体力学半径に基づく分離が可能である。分子量のオンライン決定は、屈折計(RI検出器)と多角度光散乱検出器(MALS検出器)とをクロマトグラフィーシステムに連結することにより、実現可能である(SEC/MALS/RI法)。この方法において、測定時に与えられた。
不溶性タンパク質凝集物の不在は、UV−Vis分光法(光度計:Ultrospec 5300pro UV/VIS; GE Healthcare)によってもチェックする。
UV−Vis分光法においては、タンパク質溶液の吸収スペクトルを240〜800nmの波長範囲で記録する。タンパク質溶液中の不溶性凝集物は、>300nmの波長範囲で吸収し、一方、高度に溶解性のタンパク質はこの範囲では吸収しない。波長スペクトルは、高い溶解性を有するタンパク質に典型的である。本発明のタンパク質はしたがって、天然条件下で溶解性かつ高度に純粋であり、モノマーである。
【0067】
低減したIgE結合の証拠:
アレルギー患者の血清からの特定のIgEの反応性を決定する簡単な試験方法は、ストリップ試験である。この方法を用いて、比較的多数のアレルギー患者の血清を同時に調査することができる。
この目的のために、同じ濃度で同じ量の試験物質を、一緒に非変性条件下で1片のニトロセルロース膜に結合させる。一連のかかる膜片を、異なるアレルギー患者の血清を用いて同時にインキュベートすることができる。洗浄ステップの後、特異的に結合したIgE抗体を、抗ヒトIgE/アルカリホスファターゼ複合体によって促進される呈色反応により、膜上で可視化する。
【0068】
18の個々の草花粉アレルギー患者の血清を用いたPhl p 6変異体の結果を、図9に示す。重要な対照として、最初に、ヒスチジン融合成分有りまたは無しの組み換えアレルゲンのIgE結合を調査する。両方のタンパク質は、同じIgE結合能を示す。したがって試験に用いたN末端ヒスチジン融合成分もまた、IgEのPhl p 6への結合を妨害しない。
変異体rPhl p 6 d[P101] + 6Hisは、試験した全ての血清に対して、非修飾アレルゲンと同様の良好なIgE結合を示す(図9)。これから、プロリン101の欠失は、Phl p 6のIgE結合能に重要な影響を及ぼさないことがわかる。変異体rPhl p 6 d[P29, 30] + 6His、rPhl p 6 d[P57] + 6Hisおよび rPhl p 6 d[P79] + 6HisのIgE結合は、異なる草花粉アレルギー患者の血清において、異なっている。これは、IgE抗体の親和性およびエピトープ特異性に関する、個々のアレルギー患者のIgE集団の組成における変化のためである。変異体rPhl p 6 d[P57] + 6HisおよびrPhl p 6 d[P79] + 6Hisは、非修飾rPhl p 6 wt + 6Hisと比べて、ほとんどの血清に対して顕著に低減したIgE反応性を示す。しかし、全体での最小のIgE結合は、変異体rPhl p 6 d[P29, 30] + 6Hisの場合に観察される(図9)。
【0069】
溶解した試験物質のIgE結合能の調査を、EAST阻害試験(酵素アレルゲン吸着試験)により実施する。この方法において、アレルゲン/IgE相互作用は溶液中で調査でき、例えば膜上で固定化することによる試験物質のエピトープのマスキングの妨害を、除外することが可能となる。
EAST阻害試験を以下のように実施する。マイクロタイタープレートをアレルゲンで、ここではrPhl p 6 wt + 6Hisで被覆する。非結合のアレルゲン分子を洗浄して除去した後、プレートをウシ血清アルブミンでブロックして、後の非特異的結合を防ぐ。個別の血清としてのアレルギー患者のIgE抗体を好適な希釈中で、アレルゲンで被覆したマイクロタイタープレートと共にインキュベートした。アレルゲンに結合したIgE抗体の量を、抗hIgG/アルカリホスファターゼ複合体を用いた基質の反応によって着色された最終産物を得ることにより、光度分析的に定量する。
【0070】
IgE抗体の結合は、溶解性アレルゲンまたは試験される物質(組み換え修飾アレルゲン)により、物質特異的に、濃度の関数として阻害される。
Phl p 6の組み換えアレルゲン変異体による、図10に示すIgE阻害試験結果は、プロリン残基P[29, 30]、P57およびP79の欠失が、Phl p 6の低減したIgE結合能をもたらすことを示す。変異体d[P29, 30]のIgE結合能は、d[P57]または d[P79]のそれよりも顕著に低い。低い阻害作用は、IgEエピトープの欠如を示す。突然変異体d[P101]は、草花粉アレルギー患者P32の血清に対して改変されたIgE結合を示さず、血清P82とわずかにのみ低減した結合を示し、これは、再度、高い阻害剤濃度での野生型のそれとほぼ同様である。
【0071】
機能的アレルゲン性の低減の証拠:
エフェクター細胞の膜結合性IgEの架橋における突然変異体の機能的作用と、その活性化を、続いてin vitroで調査する。
好塩基球活性化試験のために、草花粉アレルギー患者のヘパリン化全血を、種々の濃度の試験物質を用いてインキュベートする。アレルギー性物質は、好塩基性顆粒球の高親和性IgE受容体に関連する、特定のIgE抗体に結合することができる。アレルゲン分子により引き起こされるIgE/受容体複合体の架橋はシグナル伝達をもたらし、これは、エフェクター細胞の脱顆粒化をもたらし、したがってin vivoでアレルギー反応を引き起こす。
【0072】
好塩基性免疫細胞のアレルゲンに誘発された活性化は、表面タンパク質(CD203c)の発現の定量化とIgE−受容体の架橋のシグナル伝達により、in vitroで決定することができる(Kahlert et al., Clinical Immunology and Allergy in Medicine Proceedings of the EAACI 2002 (2003) Naples, Italy 739-744)。細胞上で発現される表面タンパク質の数および細胞プールの活性化細胞のパーセンテージの値は、蛍光標識したモノクローナル抗体の表面タンパク質への結合および続く蛍光活性化フローサイトメトリによる解析により、高感度で測定される。
本例の試験に用いる顆粒球は、アレルギー患者P21の全血から単離する。このアレルギー患者は、ストリップ試験法において、そのIgE抗体がrPhl p 6 d[P29, 30] + 6Hisへの検出可能な結合を示すアレルギー患者を表す(グループ「A」)。
【0073】
非修飾の組み換えアレルゲンおよびrPhl p 6 d[P29, 30]+ 6Hisの同一濃度において、後者は両方のドナーの場合に、膜結合性IgE抗体への低い結合を示し、その結果、好塩基性顆粒球の大幅に低減された活性化を示す(図11)。
したがって、結果は、変異体rPhl p 6 d[P29, 30]+ 6Hisの機能的に低減されたアレルゲン性を確認する。変異体rPhl p 6 d[P57] + 6HisおよびrPhl p 6 d[P79] + 6Hisは、ドナーP21の場合に、好塩基性細胞の明らかに低減された活性化を示す。したがって、この試験により、Phl p 6のこれら2つの領域におけるプロリン突然変異もまた、少なくとも幾人かのアレルギー患者においてIgE結合能を低減させることが確認できる。
【0074】
変異体のT細胞反応性:
T細胞反応性を調査するために、草花粉アレルギー患者のオリゴクローナルT細胞系を、非修飾アレルゲンによる刺激を用いて従来法により確立する。増殖試験において、異なるT細胞系を基準のアレルゲンrPhl p 6 wtおよび修飾組み換えアレルゲン変異体で刺激する。増殖率を、[3H]チミジンの組み込みにより従来法によって決定する。
変異体rPhl p 6 d[P29, 30] + 6His、rPhl p 6 d[57] + 6HisおよびrPhl p 6 d[79] + 6Hisで、非修飾アレルゲンによる増殖と同程度に、調査するT細胞系に刺激を与える。重要なT細胞エピトープの保持を、これから結論付けることができる。
【0075】
例2:複数のループ領域におけるプロリン欠失の組み合わせを有するPhl p 6の変異体
変異体rPhl p 6 d[P29, 30, 57] + 6HisおよびrPhl p 6 d[29, 30, 79] + 6Hisの調製および免疫学的特徴付けを、Phl p 6野生型(IUISエントリーPhl p 6.0102)の29、30;57および79のアミノ酸位置に対応するプロリン欠失の組み合わせを持つ、Poaceaeのグループ6アレルゲンの低アレルギー性変異体についての例を用いて、以下に記載する。欠失プロリン残基はここで、Phl p 6と相同な2または3のループ領域に位置することができる。Phl p 6野生型アイソマーPhl p 6.0101(GenBank:Z27082.1、UniProt: P43215)の対応する低アレルギー性変異体を同様に調製して調査し、および本発明のイネ科の他のグループ6アレルゲンの低アレルギー性変異体およびそれらの野生型タンパク質、特にPoa p 6もまた、同様に調製して調査することができる。
【0076】
推定アミノ酸配列が、成熟Phl p 6.0102のそれに基づくようにコドンを選択する(図3、図4)。プロリン欠失についての突然変異を、PCR反応でプロリンについて対応するコドンが欠如している特定のオリゴヌクレオチドを用いて導入する。オリゴヌクレオチドは好ましくは、推定タンパク質が、5’末端においてヘキサヒスチジン融合成分を有するように選択する(図5、図6)。DNAを、発現ベクターpTrcHis2 Topo(Invitrogen, Carlsbad, USA)にトポイソメラーゼ反応によりライゲートする。DNAの正確さを配列決定により確認する。しかし、その他の標準発現ベクターも使用することができる。
組み換えヒスチジン融合タンパク質の発現は、全ての標準の真核および原核発現系で行うことができ、発現は好ましくは大腸菌にて行う(Top10株;Invitrogen)。変異体を、N末端ヒスチジン残基のNi2+キレートマトリックス(固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー、IMAC;材料:HiTrap, GE Healthcare, Uppsala, Sweden)への特異的結合により最初に精製する。組み換えタンパク質を続いてIMAC溶出物から濃縮し、ゲルろ過を行う(材料:Superdex 75; GE Healthcare)。
【0077】
生化学的分析:
調製したタンパク質の純度を、SDS−PAGEと続くクーマシー染色により最初にチェックする。分析により、全てのタンパク質の非常に高い純度が示された(図12)。
タンパク質を天然条件下で調査する分析SECは、タンパク質が1つのピークで溶出することを示す。高分子量凝集物は検出されない(図13)。MALS/RIによる分子量のオンライン決定で、rPhl p 6 d[29, 30, 79] + 6Hisは純粋にモノマー形態であり、一方溶出されたrPhl p 6 d[P29, 30, 57] + 6Hisはモノマーと二量体の混合物を表すとの結果が導かれる(図13;表2)。しかし、UV−Vis分光法により記録された両タンパク質の波長スペクトルは、高い溶解性を有するタンパク質に典型的なものである。
したがって、両方のタンパク質は天然条件下で溶解性で、純粋であり、沈殿とならず、したがってその特異的IgE結合能の正確な分析のための重要な前提条件を満たしている。
【0078】
【表2】
タンパク質濃度のオンライン決定は、OptilabrEX屈折率検出器(RI)(Wyatt, Santa Barbara, USA)を用いて行った。粒子による光散乱は、MiniDAWN Treos多角度検出器(Wyatt)を用いて決定した。粒子質量は、屈折率増分を0.180ml/gとして、デバイ形式によるASTRA 5.3.2.17ソフトウェア(Wyatt)を用いて計算した。SECカラム:Superdex 200 GL 10/ 300(GE Healthcare, Uppsala, Sweden)。溶出液:20mMのリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.2および150mMのNaCl。
【0079】
低減したIgE結合の証拠:
18の個別の草花粉アレルギー患者の血清を用いたrPhl p 6 d[P29, 30, 57] + 6HisおよびrPhl p 6 d[29, 30, P79] + 6Hisのストリップ試験の結果を図14に示す。驚くべきことには、ストリップ試験においてrPhl p 6 d[P29, 30]への検出可能なIgE結合をいまだに有しているアレルギー患者の血清は、変異体rPhl p 6 d[P29, 30, 57] + 6HisおよびrPhl p 6 d[29, 30, 79] + 6Hisに対して、大幅に低減されたIgE反応性を有することが明らかである(グループ「A」:血清21、32、83、137等)。
したがって、Phl p 6のIgE結合能は、ただ1つのループ領域のプロリン残基の欠失を介するよりも、種々のループ領域からのプロリンの複数の組み合わされた欠失によって、さらに低減可能であることが明らかに示される。
変異体のT細胞反応性:
変異体は、調査したT細胞系の増殖を、非修飾アレルゲンと同程度に刺激する。重要なT細胞エピトープの保持がこれから結論付けられる。
【0080】
例3:複数のループ領域におけるプロリン点突然変異の組み合わせを有するPhl p 6sの変異体
変異体rPhl p 6 d[P29, 30] P57L + 6His、rPhl p 6 d[29, 30] P79L + 6HisおよびrPhl p 6 d[29, 30] P57L P79L + 6Hisの調製および免疫学的特徴付けを、Phl p 6野生型(IUISエントリーPhl p 6.0102)の29、30、57および79のアミノ酸位置に対応するプロリン点突然変異の組み合わせを持つ、Poaceaeのグループ6アレルゲンの低アレルギー性変異体についての例を用いて、以下に記載する。プロリン残基は任意のアミノ酸に変換することができる。Phl p 6野生型アイソマーPhl p 6.0101(GenBank:Z27082.1、UniProt: P43215)の対応する低アレルギー性変異体を同様に調製して調査し、および本発明のイネ科の他のグループ6アレルゲンの低アレルギー性変異体およびそれらの野生型タンパク質、特にPoa p 6もまた、同様に調製して調査することができる。
【0081】
推定アミノ酸配列が、成熟Phl p 6.0102のそれに基づくようにコドンを選択する(図3、図4)。プロリン欠失についての突然変異を、PCR反応でプロリンについて対応するコドンが欠如している特定のオリゴヌクレオチドを用いて導入する。オリゴヌクレオチドは好ましくは、推定タンパク質が、5’末端においてヘキサヒスチジン融合成分を有するように選択する(図5、図6)。
DNAを、発現ベクターpTrcHis2 Topo(Invitrogen, Carlsbad, USA)にトポイソメラーゼ反応によりライゲートする。DNAの正確さを配列決定により確認する。しかし、その他の標準発現ベクターも使用することができる。
【0082】
組み換えヒスチジン融合タンパク質の発現は、全ての標準の真核および原核発現系で行うことができ、発現は好ましくは大腸菌にて行う(Top10株;Invitrogen)。変異体を、N末端ヒスチジン残基のNi2+キレートマトリックス(固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー、IMAC;材料:HiTrap, GE Healthcare, Uppsala, Sweden)への特異的結合により最初に精製する。組み換えタンパク質を続いてIMAC溶出物から濃縮し、ゲルろ過を行う(材料:Superdex 75; GE Healthcare)。
生化学的分析:
調製したタンパク質の純度を、SDS−PAGEと続くクーマシー染色により最初にチェックする。分析により、全てのタンパク質の非常に高い純度が示される(図12)。
【0083】
タンパク質を天然条件下で調査する分析SECにより、タンパク質は1つのピークで溶出することを示す。高分子量凝集物は検出されない(図13)。MALS/RIによる分子量のオンライン決定で、rPhl p 6 d[29, 30] P79L + 6Hisは純粋にモノマー形態であり、一方溶出されたrPhl p 6 d[P29, 30] P57L + 6Hisはモノマーと二量体の混合物を表すとの結果が導かれる。rPhl p 6 d[29, 30] P57L P79L + 6Hisは主として二量体形態である(図13;表2)。
UV−Vis分光法により記録された全てのタンパク質の波長スペクトルは、高い溶解性を有するタンパク質に典型的なものである。したがって、3種類のタンパク質は天然条件下で溶解性で、純粋であり、沈殿とならず、したがってその特異的IgE結合能の正確な分析のための重要な前提条件を満たしている。
【0084】
低減されたIgE結合の証拠:
18の個別の草花粉アレルギー患者の血清を用いたrPhl p 6 d[P29, 30] P57L + 6His、rPhl p 6 d[29, 30] P79L + 6HisおよびrPhl p 6 d[29, 30] P57L P79L + 6Hisのストリップ試験の結果を図12に示す。
驚くべきことには、ストリップ試験においてrPhl p 6 d[P29, 30]への検出可能なIgE結合をいまだに有しているアレルギー患者の血清は、変異体rPhl p 6 d[P29, 30] P57L + 6His、rPhl p 6 d[29, 30] P79L + 6HisおよびrPhl p 6 d[29, 30] P57L P79L + 6Hisに対して、大幅に低減されたIgE反応性を有することが明らかである(グループ「A」:血清21、32、83、137等)。
したがって、Phl p 6のIgE結合能は、ただ1つのループ領域のプロリン残基の点突然変異を介するよりも、種々のループ領域からのプロリンの複数の組み合わされた点突然変異によって、さらに低減可能であることが明らかに示される。
【0085】
変異体のT細胞反応性:
変異体は、調査したT細胞系の増殖を、非修飾アレルゲンと同程度に刺激する。重要なT細胞エピトープの保持がこれから結論付けられる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、オオアワガエリのグループ6およびグループ5アレルゲンの推定アミノ酸配列のアラインメントを示す。
【図2】図2は、Phl p 6の3D構造のワーキングモデルを示す。
【図3】図3は、Phl p 6 wt(IUISエントリーPhl p 6.0102);cDNA配列(GenBankエントリー:Y16955;330pb);配列番号1を示す。
【図4】図4は、Phl p 6 wt(IUISエントリーPhl p 6.0102);推定アミノ酸配列(UniProtKBエントリー:O65868;110aa);配列番号2を示す。
【図5】図5は、N末端ヒスチジン融合成分;DNA配列(33bp);配列番号5を示す。
【0087】
【図6】図6は、N末端ヒスチジン融合成分;アミノ酸配列(11aa);配列番号6を示す。
【図7】図7は、組み換えPhl p 6野生型およびループにプロリン欠失を有するPhl p 6変異体の純度制御を示す。
【図8】図8は、ループにプロリン突然変異を有するPhl p 6変異体の分子量決定を示す。
【図9】図9は、ループにプロリン欠失を有する固定化されたPhl p 6変異体のIgE結合を示す。
【図10】図10は、ループにプロリン欠失を有するPhl p 6変異体のIgE阻害試験を示す。
【0088】
【図11】図11は、個々のループにおける突然変異を有するプロリン突然変異体の機能的アレルゲン性についての試験を示す。
【図12】図12は、2または3のループにプロリン突然変異を有するPhl p 6変異体の純度を示す。
【図13】図13は、2または3のループにプロリン突然変異を有するPhl p 6変異体の分子量決定を示す。
【図14】図14は、組み換えPhl p 6野生型および1、2または3のループにプロリン欠失を有するPhl p 6変異体のIgE結合を示す。
【図15】図15は、Phl p 6 wt(IUISエントリーPhl p 6.0101);cDNA配列(GenBankエントリー:Z27082.1;330bp);配列番号3を示す。
【0089】
【図16】図16は、Phl p 6 wt(IUISエントリーPhl p 6.0101);推定アミノ酸配列(UniProtKBエントリー:P43215;110aa);配列番号4を示す。
【図17】図17は、Phl p 6.0101の変異体(UniProtKBエントリーO65869;107aa);配列番号7を示す。
【図18】図18は、我々独自の配列決定による、Phl p 6.0101の変異体(プロペプチド含む)。(プロペプチド成分およびY〜H変異体は太字イタリック体);配列番号8を示す。
【図19】図19は、ro Phl p 6.0101(P43215)(プロペプチド成分は太字イタリック体);配列番号9を示す。
【図20】図20は、Pro Phl p 6.0102(O65868)(プロペプチド成分は太字イタリック体);配列番号10を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、Poaceae(イネ科)のグループ5アレルゲンの組み換え変異体の調製および使用に関し、これは、既知の野生型アレルゲンと比較して低減したIgE反応性と同時に、実質的に保持されたTリンパ球との反応性を特徴とする。
これらの低アレルギー性アレルゲン変異体を、草花粉アレルギーの患者に対する特定の免疫療法(減感作)または、草花粉アレルギーの発症を予防するための予防的処置に用いることができる。
本発明の好ましい態様は、オオアワガエリ(Timothy grass)(Phleum pratense)のアレルゲンPhl p 6の変異体であって、29、30、57、79位のプロリンが単独または組み合わせで突然変異した前記変異体に関する。
【背景技術】
【0002】
1型アレルギーは世界的に重要である。先進工業国の人口の最大20%が、アレルギー性鼻炎、結膜炎または気管支喘息などの病状を患っている。
これらのアレルギーは、種々の源、例えば樹木や草(花粉)、真菌(胞子)、ダニ(排泄物)、ネコまたはイヌなどにより引き起こされる。アレルゲン源は空気中に直接放出されるか(花粉、胞子)、またはディーゼルすす粒子(花粉)もしくはハウスダスト(ダニ排泄物、皮膚粒子、毛髪)に結合して空気中に到達する。アレルギー誘発物質は空中に存在するため、空気アレルゲンなる用語も用いられる。
【0003】
1型アレルギー誘発物質は、タンパク質、糖タンパク質またはポリペプチドである。粘膜を介して取り込まれると、これらのアレルゲンは、感作された人の肥満細胞の表面に結合しているIgE分子と反応する。これらのIgE分子がアレルゲンによって互いに架橋されると、エフェクター細胞によるメディエーター(例えばヒスタミン、プロスタグランジン)およびサイトカインの分泌が起こり、それに対応したアレルギー症状が生じる。
1型アレルギー患者の最大40%は、イネ科の花粉抽出物に特定のIgE反応性を示す(Burney et al., 1997, J. Allergy Clin. Immunol. 99:314-322;D’Amato et al., 1998, Allergy 53: 567-578;Freidhoff et al., 1986, J. Allergy Clin Immunology, 78, 1190-2002)。イネ科(Poaceae)は10000種以上を含んでおり、これまでにその20種を超える種がアレルギー症状を誘発することが知られている(Andersson & Lidholm, 2003, Int. Arch. Allergy Immunol. 130:87-107;Esch, 2008, Allergens and Allergen Immunotherapy, Clinical Allergy and Immunology Series, 107-126)。
【0004】
アレルギー誘発性のイネ科の多くは、イチゴツナギ(Pooideae)亜科に属する。野生型として存在する草種、例えばHolcus lanatus(シラゲカヤ(velvet grass))、Phalaris aquatica(カナリーグラス(canary grass))、Anthoxanthum odoratum(ハルガヤ(sweet vernal grass))、Dactylis glomerata(カモガヤ(orchard grass))、Festuca pratensis (メドウフェスク(meadow fescue))、Poa pratensis(ケンタッキーブルーグラス(Kentucky blue grass))またはLolium perenne(ライグラス(rye grass))などに加えて、栽培用穀類、例えばTriticum aestivum(コムギ)、Secale cereale(ライ麦)およびHordeum vulgare(オオムギ)なども、この亜科に属することが知られている。
イチゴツナギ種の中でアレルゲンに関して最も調査されてきたのは、オオアワガエリ(Phelum pratense)であり、これは野草として世界中に広がっており、牧草および耐寒性の飼料として商業的な役割も果たしている。
【0005】
アレルギー患者のIgE抗体と反応する個々のアレルゲン分子の、人口における相対的な頻度に依存して、主要アレルゲンと副次的アレルゲンが分類される。
オオアワガエリの6種のアレルゲンは、主要アレルゲンとみなされる:Phl p 1(Petersen et al., 1993, J. Allergy Clin. Immunol. 92: 789-796)、Phl p 5(Matthiesen and Loewenstein, 1991, Clin. Exp. Allergy 21: 297-307;Petersen et al., 1992, Int. Arch. Allergy Immunol. 98: 105-109)、Phl p 6(Petersen et al., 1995, Int. Arch. Allergy Immunol. 108, 49-54)、Phl p 2/3(Dolecek et al., 1993, FEBS 335 (3): 299-304)、Phl p 4(Haavik et al., 1985, Int. Arch. Allergy Appl. Immunol. 78: 260-268;Valenta et al., 1992, Int. Arch. Allergy Immunol. 97: 287-294;Nandy et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 2005, 337(2): 563-70)およびPhl p 13(Suck et al., 2000, Clin. Exp. Allergy 30: 1395-1402)。
【0006】
Phl p 6については早くも1978年に最初の記述がなされた。オオアワガエリ花粉から精製された「Ag19」と呼ばれるタンパク質画分は、約15kDaの大きさのアレルゲンを含有し、これはのちに、公式のアレルゲンの学名で分類され、Phl p 6として存続した(Loewenstein, 1978, Allergy 33: 30-41;WHO/ IUIS Allergen Nomenclature Subcommittee, www.allergen.org)。Phl p 6反応性IgE抗体は草花粉アレルギー患者の約70%に検出されるため、Phl p 6は主要アレルゲンとして分類されている(Rossi et al., 2001, Allergy, 56: 1180-85;Vrtala et al., 1999, J. Immunol. 15; 163:5489-9)。
【0007】
草花粉抽出物からのアレルゲンの物理化学的調査により、一次配列の異なる2種のタンパク質変異体が検出された(Blume et al., 2004, Proteomics 4: 1366-71)。これらのアイソフォームは、オオアワガエリ花粉の発現ライブラリに同定されている2腫のcDNA配列に起因し、WHO/IUIS名称Phl p 6.0101(GenBank:Z27082.1;UniProt:P43215;図15および図16または配列番号3および配列番号4を参照、プロペプチドは図19または配列番号9を参照;Petersen et al., 1995, Int. Arch. Allergy Immunol. 108: 55-59)およびPhl p 6.0102(GenBank:Y16955;UniProt:O65868;図3および図4または配列番号1および配列番号2を参照、プロペプチドは図20または配列番号10を参照;Vrtala et al., 1999, J. Immunol. 15; 163:5489-9)を有する。シグナルペプチドは別として、これらタンパク質はそれぞれ110個のアミノ酸からなり、2つの位置のみで異なり(成熟Phl p 6.0101から開始してVal 14→IleおよびArg 95→His)、これは5Daの分子量の差をもたらしている(Phl p 6.0102の11785Daと比較して、Phl p 6.0101は11790Da、図1)。
【0008】
Poaceae科の他のイネ科種、特にイチゴツナギ亜科の花粉は、オオアワガエリのアレルゲンと相同な主要アレルゲンを含み得る。複数種にわたって生じるかかるアレルゲンを、アレルゲン群としてまとめる。かかる関連アレルゲンの高い構造的相同性は、究極的には類似のアミノ酸配列に基づいており、分子とIgE抗体との相応する高い交差反応性を引き起こす(Lorenz et al., 2009, Int. Arch. Immunol. 148:1-17)。オオアワガエリの主要アレルゲンとアレルギー的に反応するアトピー性の人は、イネ科の別の関連種の1つによって最初に感作することができると知られている。最終的に、この交差反応性は、1つのイネ科の種による感作は、他の関連するイネ科によるアレルギー反応を誘発するのに十分であることを意味し得る。
Phl p 6と交差反応性であるグループ6アレルゲンは既に、ケンタッキーブルーグラス(Poa pratensis)の花粉に、タンパク質レベルで検出されている(Vrtala et al., 1999, J. Immunol. 15; 163:5489-9;Niederberger et al., 1998, J. Allergy Clin. Immunol. 101 (2): 258-264)。
【0009】
グループ6アレルゲン間の相互の交差反応性に加えて、グループ5の主要アレルゲンとの交差反応性も知られている。Phl p 6のポリペプチド鎖は、約26〜28kDaのサイズを有するPhl p 5のN末端領域と大きな類似性を示す(図1、図2)。アレルゲンは、共通のオリジナル遺伝子に起因すると考えられる(Petersen et al., 1995, Int. Arch. Allergy Immunol. 108: 55-59)。両方のタンパク質はαヘリックスの二次構造を形成するが、しかしβ畳み込みシート構造は形成しない。X線構造解析により、Phl p 6の4つのαヘリックスが畳まれて特徴的ヘリックス束を形成することが示され(RCSB Protein Data Bank entry: 1NLX; Fedorov et al., 2003;図1)、これはPhl p 5の断片にも検出される構造である(Rajashankar et al., 2002, Acta Cryst. D58:1175-1181;Maglio et al., 2002, Protein Engineering 15: 635-642;Wald et al., 2007, Clin. Exp. Allergy 37:441-450)。アレルゲン間の類似性は、いくつかのPhl p 5反応性IgE抗体もまた、Phl p 6に結合するという効果を有する(Petersen et al., 1995, Int. Arch. Allergy Immunol. 108: 49-54;Andersson & Lidholm, 2003, Int. Arch. Allergy Immunol. 130:87-107)。
【0010】
特定の免疫療法(SIT)または減感作は、アレルギーの治療的処置への有効なアプローチとされている((Fiebig 1995 Allergo J. 4 (6):336-339;Bousquet et al., 1998, J. Allergy Clin. Immunol. 102 (4): 558-562);Cox et al., 2007, J. Allergy Clin. Immunol. 120:S25-85;James & Durham, 2008, Clin. Exp. Allergy 38: 1074-1088)。
【0011】
天然のアレルゲン抽出物を漸増用量で患者に皮下注射するという古典的な治療形態である注射療法(SCIT)は、およそ100年間成功して用いられてきた。この療法において、アレルギー患者の免疫系は繰り返しアレルゲンと直面し、免疫系の再プログラミングと同時に、アレルゲンへの耐性がもたらされる。抗原提示細胞がアレルゲン調製物から抗原を取り込んだ後、ペプチドが細胞表面上で抗原に提示される。いわゆるT細胞エピトープを含有するいくつかの特定ペプチドが、抗原特異的T細胞により認識される。この結合は、特に、調節機能を有する種々のタイプのT細胞の発達をもたらす。SITの間、調節T細胞応答は以下をもたらす:アレルゲンの耐性、TH2サイトカインの下方制御、TH1/TH2平衡の回復、アレルゲン特異的IgEの抑制、IgG4、IgG1およびIgA抗体の誘導、エフェクター細胞(肥満細胞、好塩基球および好酸球)の抑制、および炎症組織の再生(Akdis et al., 2007, J. Allergy Clin. Immunol. 119 (4):780-789;Larche et al., 2008, Nature Reviews 6:761-771)。T細胞エピトープはこのように、減感作の場合にアレルゲン調製物の治療作用に対して決定的に重要である。
【0012】
IgEレベルおよびT細胞レベルでも存在するイネ科の主要アレルゲンの交差反応性のため、1つの代表的なイネ科の種のアレルゲン抽出物による治療の成功で、通常は十分である(Malling et al., 1993, EAACI Position Paper: Immunotherapy, Allergy 48: 9-35;Cox et al., 2007, J Allergy Clin Immunol 120: 25-85)。
皮下的免疫療法のほかに、アレルゲンまたはアレルゲン誘導体を経口粘膜を介して取り込む舌下治療形態が、注射療法の代替として臨床試験にかけられ使用されている(James & Durham, 2008, Clin. Exp. Allergy 38: 1074-1088)。
さらなる可能性は、関連するアレルゲンをコードする、発現可能なDNAによる処置である(免疫療法的ワクチン接種)。免疫反応のアレルゲン特異的影響の実験的証拠が、げっ歯類において、アレルゲンをコードするDNAの注射により提供された(Hsu et al. 1996, Nature Medicine 2 (5):540-544;Weiss et al., 2006, Int. Arch. Allergy Immunol. 139: 332-345)。
【0013】
これら治療形態の全てにおいて、アレルギー反応またはアナフィラキシーショックまでもの根本的リスクが存在する(Kleine-Tebbe, 2006, Allergologie, 4:135-156)。これらのリスクを最小化するために、アレルゴイドの形態の画期的な調製物が用いられている。これは、未処置の抽出物と比べてIgE反応性は顕著に低減されているが、同じT細胞反応性を有する、化学的に修飾されたアレルゲン抽出物である(Fiebig 1995 Allergo J. 4 (6):336-339;Kahlert et al., 1999, Int. Arch. Allergy Immunol, 120: 146-157)。
治療の最適化は、組み換え法により調製したアレルゲンにより可能である。患者の個別の感作パターンに任意に適合された、組み換え法により調製された高度に純粋なアレルゲンの規定されたカクテルは、天然のアレルゲン源からの抽出物の代わりに用いることができ、これは後者が、種々のアレルゲン以外に、比較的多数の免疫原性の、しかし非アレルゲン性の付随タンパク質を含有するためである。組み換えアレルゲンを用いた初期の臨床研究が既に実施され、成功している(Jutel et al., 2005, J. Allergy Clin. Immunol., 116: 608-613;Valenta & Niederberger, 2007, J. Allergy Clin. Immunol. 119: 826-830)。
【0014】
組み換え発現産物による安全な減感作をもたらし得る、現実的な可能性は、治療に必須のT細胞エピトープを損なうことなくIgEエピトープを修飾した、突然変異した組み換えアレルゲンによって、具体的に提供されている(Schramm et al. 1999, J. Immunol. 162:2406-2414)。これらの低アレルギー性タンパク質は、SITの間にIgEに促進された望ましくない副作用の確率を増加させることなく、比較的高用量で用いることができる。
過去に、このような低減したIgE結合を有する「低アレルギー性」変異体が、多くの空気アレルゲン(特に花粉およびハウスダストダニアレルゲン)および食物アレルゲンについて公開されている。非修飾アレルゲンのDNAに基づく組み換えDNAの調製および発現を、特に、断片化、オリゴマー化、欠失、点突然変異、またはアレルゲンの個別の部分(section)の組み換え(DNAシャフリング)によって行うことが可能である(Ferreira et al., 2006, Inflamm. & Allergy - Drug Targets 5: 5-14;Bhalla & Singh, 2008, Trends in Biotechnology 26:153-161)。
【0015】
イネ科のグループ6アレルゲンについては、今日まで単一突然変異の戦略についてのみ刊行されており、ここでは、成熟Phl p 6のアミノ酸1〜30をコードする最初の90個のヌクレオチドが欠失している。分子はヒスチジン融合分子として発現され、その免疫学的特性について精製および調査された。N末端の欠失は、IgE結合の低減をもたらし、好塩基性顆粒球によって刺激される能力の低減をもたらした(Vrtala et al., 2007, J. Immunol. 179: 1730-1739)。後の論文において、同じ分子をPhl p 2の組み換え変異体に結合して、ハイブリッド分子を得た(Linhart et al., 2008, Biol. Chem. 389: 925-933)。他のアレルゲンについて記載されたような点突然変異に基づく突然変異戦略は、グループ6草花粉アレルゲンについては未だ発表されていない。
【発明の概要】
【0016】
本発明が基づく目的は、タンパク質およびDNAレベルでの、Poaceaeのグループ6アレルゲンの新規な変異体であって、低減したIgE反応性と同時にT細胞反応性の実質的な保持を特徴とし、したがって治療的および予防的な特定の免疫療法および免疫療法的DNAワクチン接種に好適な、前記変異体を提供することである。
【0017】
発明の説明
驚くべきことには、アラインメントにおいて(in an alignment)野生型Phl p 6のアミノ酸配列における29、30、57、79位のプロリンに対応するプロリンが単独または組み合わせで突然変異した、イネ科(Poaceae)のグループ6アレルゲンの変異体は、野生型アレルゲンと比べて低減したIgE反応性と同時に、Tリンパ球との実質的に保持された反応性を有しており、したがって低アレルギー性であることが見出された。
したがって本発明は、アラインメントにおいて野生型Phl p 6のアミノ酸配列における29、30、57、79位のプロリンに対応するプロリンが単独または組み合わせで突然変異した、イネ科(Poaceae)のグループ6アレルゲンの低アレルギー性変異体に関する。
特に好適なのは、プロリンが欠失または置換されていることを特徴とする、本発明のアレルゲン変異体である。
【0018】
好ましいのは、イチゴツナギ亜科からのグループ6アレルゲンの本発明の低アレルギー性変異体、好ましくはPoodaeおよびTriticodaeの群から、好ましくはPhleum pratense、Holcus lanatus、Phalaris aquatica、Anthoxanthum odoratum、Dactylis glomerata、Lolium perenne、Poa pratensis、Festuca pratensis、Hordeum vulgare、Secale cerealeおよびTriticum aestivumにより表されるものからの、前記変異体である。これらは好ましくは、Triticum aestivum、Secale cerealeおよびHordeum vulgareからのTri a 6、Sec c 6およびHor v 6の本発明の低アレルギー性変異体である。特に好ましいのは、Poodaeのグループ6アレルゲンの本発明の低アレルギー性変異体である。これらグループ6アレルゲンは好ましくは、Phleum pratense、Lolium perenne、Poa pratensis、Holcus lanatusおよびPhalaris aquaticaからのPhl p 6、Poa p 6、 Hol p 6、Lol p 6およびPha a 6であり、極めて特に好ましくはPoa p 6およびPhl p 6、特にPhl p 6である。上記アレルゲンの全ての天然のアイソマー、多形体、および変異体ならびにこれらの前駆体タンパク質もまた、本発明による。
【0019】
本発明の低アレルギー性変異体において、突然変異したプロリンは、好ましくはアラインメントにおいて成熟Phl p 6.0101もしくはその変異体(配列番号4、配列番号7、配列番号8)の、または成熟Phl p 6.0102(配列番号2)の、特に好ましくは成熟Phl p 6.0102のアミノ酸配列における、29、30、57、79位のプロリンに対応するものである。
プロリンがタンパク質構造に影響を及ぼし得ることは知られていたが、アレルゲンの低アレルギー性突然変異体産生のための開始点としてのプロリン残基の特定の点突然変異は、ハウスダストダニDermatophaogides farinaeのグループ2主要アレルゲン(Der f 2、プロリン残基のアラニンによる置き換え)について調査されたのみであった(Takai et al., 2000, Eur. J. Biochem. 267: 6650-6656)。しかし、IgE結合能および好塩基性細胞を刺激する能力は、3種の点突然変異体の場合はわずかにのみ低減され、一方、別の3種は非修飾アレルゲンと同様の挙動であった。Der f 2の場合のプロリン突然変異はしたがって、アレルゲン性の非常に弱い低減、または低減なしを示した。プロリン交換突然変異による低アレルギー性突然変異体調製のためのさらなる戦略は、公開されていない。したがって当業者は、プロリン突然変異体がアレルゲンの低アレルギー性突然変異体産生のための開始点として成功することを期待していなかった。
【0020】
さらに、これまで任意のアレルゲンで、プロリン残基の特定の欠失が発現産物の全IgE結合能にどのように影響するか、およびアレルギー関連エフェクター細胞の活性化にどのような効果が生じるかについては、検討されていなかった。
Phl p 6またはその2つのアイソフォーム(Phl p 6.0101、GenBank:Z27082.1、UniProt: P43215;Phl p 6.0102, GenBank:Y16955、UniProt:O65868)のアミノ酸配列は、7個のプロリン残基を含む(図1)。アミノ酸位置29、30、57、79および101のプロリンは、αヘリックスの開始または終了部に直に存在するか、またはタンパク質表面の形成に関与する(図2)。61位のプロリン残基は、第3ヘリックスの一部であり、プロリン108は、C末端近くに局在する。
【0021】
Phl p 6アイソフォームPhl p 6.0101(配列番号4)およびPhl p 6.0102(配列番号2)のアミノ酸配列から開始して、組み合え非修飾野生型アレルゲン(rPhl p 6 wt;図4)および遺伝子工学により修飾された本発明の変異体を調製する。下記の調製方法と同様にして、本発明のイネ科の他のグループ6アレルゲン、例えばPoa p 6の、野生型タンパク質および低アレルギー性変異体も調製することができる。そのために、アラインメントにおいて野生型Phl p 6のアミノ酸配列における29、30、57、79位のプロリンに対応するプロリンを、好ましくは置換または欠失により、単独または組み合わせで突然変異させた。
【0022】
本発明のアレルゲン変異体は、クローニングされたDNA配列から、遺伝子工学法の支援により調製すべきである。本発明の調製方法は、関連する実験室手順および刊行物、例えばE.F. Fritsch, J. Sambrook, T. Maniatis, Molecular Cloning, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989などから、当業者には知られている。
グループ6アレルゲンについて記載した変異に加えて、例えば低アレルゲン性を増強するために、他の位置でのさらなる修飾も当然可能である。これらの修飾は、例えば、アミノ酸挿入、欠失、置き換え、およびタンパク質を断片に切断すること、およびタンパク質またはそれらの断片の、他のタンパク質またはペプチドとの融合、および同一タンパク質または断片の融合を介した多量体などであることができる。
【0023】
本発明の断片は、好ましくは20〜109個のアミノ酸を、好ましくは30〜100個のアミノ酸を、特に好ましくは40〜90個のアミノ酸を含有する。本発明の変異体はさらに、例えば図18、19および20(配列番号8、配列番号9、配列番号10)に示すように、前駆体タンパク質、例えばProPhl p6を、前の天然または人工シグナル配列と共に含む。本発明に含まれるのはさらに、N末端またはC末端融合タグ(例えば、図5および6に示すHisタグ、MBPタグ、発現制御配列等)を有する融合タンパク質、ハイブリッド分子、例えば他のアレルゲンもしくはその低アレルギー性変異体との融合、または任意の所望の順序での断片の融合である。さらに、本発明の変異体はまた、関連するグループ6野生型アレルゲンと少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有する、好ましくは関連するグループ6野生型アレルゲンと少なくとも90%の、特に好ましくは関連するグループ6野生型アレルゲンと少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有する、相同配列も含む(多形体(SNP)、アイソフォーム)。これらの変異体において、1または数個のアミノ酸は好ましくは保存的に置き換えられ、例えば極性アミノ酸が別の極性アミノ酸に置換され、または中性アミノ酸が別の中性アミノ酸に置換されており、しかし、非保存的置き換えによる変異体もまた本発明による。多量体は好ましくは、リンカー配列によって結合されたか、または直接融合による、本発明の低アレルギー性変異体の二量体または三量体を含む。
【0024】
かかる変異体の例は、図17および図18に示すように、Phl p 6.0101の変異体(配列番号7、配列番号8)であり、ここで本発明の作用に関連しない個々のアミノ酸は置き換えられているか、またはN末端の3個のアミノ酸もしくはN末端にシグナルペプチドを有するそれらの前駆体配列等を欠いている。本発明の変異体のさらなる例は、多形変異体であり、例えば2つのアイソマーPhl p 6.0101およびPhl p 6.0102それ自体、さらに、1または2以上のアミノ酸が置き換えられた変異体、Nおよび/またはC末端での1または2以上のアミノ酸の除外、またはアミノ酸配列内の対応する欠失ギャップを有する変異体である。同様に本発明に含まれるのは、単一または複数アミノ酸の、種々の位置における個別の挿入、あるいはアミノ酸配列内の1つの位置におけるか、またはNおよび/またはC末端における、1つの群としての挿入を有する変異体である。
【0025】
本発明はしたがって、イネ科(Poaceae)のグループ6アレルゲンの低アレルギー性変異体であって、これが本発明の低アレルギー性変異体の断片もしくは変異体、または本発明の1または2以上の低アレルギー性変異体の多量体であることを特徴とするもの、または本発明の1または2以上の低アレルギー性変異体またはそれらの断片、変異体もしくは多量体が、組み換え融合タンパク質の構成要素であることを特徴とするものにも関する。
さらに、本発明は、本発明の低アレルギー性変異体をコードするDNA分子に関する。
【0026】
本発明はさらに、発現制御配列に機能的に結合しているタイプの本発明のDNA分子を含有する、組み換え発現ベクターに関する。発現制御配列とは、例えば、プロモーターまたは配列部分であって、これの支援により標的タンパク質の発現が影響され、標的遺伝子に機能的に結合しているが、必ずしも標的遺伝子の直近傍に局在している必要はない、前記プロモーターまたは配列部分を意味するものとする。
本発明はまた、本発明のDNA分子または本発明の発現ベクターによって形質転換された、非ヒト宿主生物に関する。
【0027】
本発明は、本発明の低アレルギー性変異体を、本発明の非ヒト宿主生物の培養および該培養物からの対応するアレルゲン変異体の単離によって、調製するための方法に関する。
好適な非ヒト宿主生物は、原核または真核の単細胞または多細胞生物、例えば細菌または酵母であることができる。本発明による好ましい宿主生物は、大腸菌である。
1つまたは隣接する2つのプロリンの欠失の、Phl p 6のIgE結合能への影響は、プロリン29+30、プロリン57、プロリン79、およびプロリン101を欠失することよって調査することができる。Phl p 6野生型タンパク質において、これらのプロリンはαヘリックスの初めまたは終わりのループ領域に局在する(図1;図2)。プロリン61およびプロリン108は修飾されないのが好ましく、なぜならば、対応する変異体が重要な効果を示さないからである。本発明のイネ科の別のグループ6アレルゲン、例えばPoa p 6の、対応する相同的位置でのプロリン突然変異のIgE結合能への影響を、同様にして調査することができる。
【0028】
より迅速な高収率精製のために、これらの調査用のコーディングDNAを、N末端ヘキサヒスチジン融合成分をコードする配列によって提供する(+6His)(図5、配列番号5;図6、配列番号6)。本発明のタグなし変異体および、医薬目的のために用いることができる野生型タンパク質も、標準方法により同様に精製して、Hisタグタンパク質による結果を確認する。
例えば、タンパク質rPhl p 6 d[P29, 30] + 6His、rPhl p 6 d[P57] + 6His、rPhl p 6 d[P79] + 6HisおよびrPhl p 6 d[P101] + 6Hisをコードする配列を、対応して調製する。配列は、全ての既知の真核および原核発現系において、好ましくは大腸菌において、発現することができる。タンパク質は続いて、溶解性のモノマーとして、標準法により精製される。最後に、純度を変性ポリアクリルアミドゲル中での分析によりチェックする(SDS−PAGE)(図7)。
【0029】
屈折計(RI検出器)および多角度光散乱検出器(MALS検出器)が連結された分析ゲルろ過(SEC)により、溶出されたタンパク質の分子量のオンライン決定が可能である(SEC/MALS/RI法)。
このように、SEC/MALS/RIによるrPhl p 6 d[P29, 30] + 6His、rPhl p 6 d[P57] + 6His、rPhl p 6 d[P79] + 6HisおよびrPhl p 6 d[P101] + 6Hisの分析は、これらの本発明の変異体が、溶液中で純粋モノマー形態であることを示す(図8、表1)。
本発明の組み換え変異体のIgE結合能は、タンパク質をニトロセルロース膜上に固定化し、臨床的に定義された草花粉アレルギー患者の個々の血清のIgE抗体と直面させる方法(ストリップ試験)により決定することができる。アレルゲン変異体/抗体複合体を続いて酵素反応により着色する(図9)。
【0030】
この方法において、変異体rPhl p 6 d[P101] + 6Hisは、試験した全ての血清と、非修飾のアレルゲンと同様の良好なIgE結合を示す(図9)。これから、プロリン101の欠失はPhl p 6のIgE結合能に重要な影響を有さないことがわかる。変異体rPhl p 6 d[P29, 30] + 6His、rPhl p 6 d[P57] + 6HisおよびrPhl p 6 d[P79] + 6HisのIgE結合能は、異なる草花粉アレルギー患者の血清で異なっている。これは、IgE抗体の親和性およびエピトープ特異性に関する、個々のアレルギー患者のIgE集団の組成(composition of the IgE population)における変化のためである。変異体rPhl p 6 d[P57] + 6HisおよびrPhl p 6 d[P79] + 6Hisは、ほとんどの血清に対して、非修飾のrPhl p 6 wt + 6Hisと比べて大幅に低減したIgE反応性を示す。しかし、全体での最小のIgE結合は、変異体rPhl p 6 d[P29, 30] + 6Hisの場合に観察される(図9)。
【0031】
本発明の組み換え変異体は、さらに、それらのヒトIgE抗体への結合能について、IgE阻害試験(EAST)により調査することができる。この方法において、アレルゲン/IgE相互作用は溶液中で調査でき、これにより、例えば膜上で固定化することによる試験物質のエピトープのマスキングの妨害を、除外することが可能となる。
この例において、変異体rPhl p 6 d[P29, 30] + 6HisへのIgE結合を通したストリップ試験法で大きく異なっていた草花粉アレルギー患者の2種の血清を選択した。血清P32は、ストリップ試験においてrPhl p 6 d[P29, 30] + 6Hisへのいまだに検出可能なIgE結合を示す血清の群(「A」群)を表し、一方血清P82は、検出可能な反応性を有さない血清の群の代表として選択される(「B」群)(図9、図14)。
【0032】
この試験法を用いて、非修飾rPhl p 6 wt + 6Hisと比較して、変異体rPhl p 6 d[P29, 30] + 6His、rPhl p 6 d[P57] + 6HisおよびrPhl p 6 d[P79] + 6Hisの低減されたIgE結合能を、ストリップ試験の結果と整合して確認することができる(図10)。
ストリップ試験法の結果はしたがって、IgEエピトープの部分的マスキングに起因するのではなく、代わりに、溶解タンパク質の低減したIgE結合能を正確に反映する。
変異体rPhl p 6 d[P101] + 6Hisは全濃度範囲において、血清P32を用いた野生型アレルゲンのそれに対応するIgE結合能を示す(図10)。血清P82を使用すると、低いIgE結合が低いタンパク質濃度においてのみ観察され、一方高い濃度においては、IgE結合は再度野生型のそれに対応する(図10)。
【0033】
Phl p 6のIgE結合能の低減はしたがって、原理的には、プロリン残基101の欠失によっても可能であるが、しかしこの効果は明らかに非常に小さく、ストリップ試験では全く検出できず、IgE阻害試験では低い濃度においてのみ検出可能である(図9、図10)。
変異体rPhl p 6 d[P29, 30] + 6His、rPhl p 6 d[P57] + 6HisおよびrPhl p 6 d[P79] + 6Hisの低減したIgE結合能は、対照的に、ストリップ試験法においてはほとんどのアレルギー患者血清で容易に検出でき、IgE阻害試験においては調査した濃度範囲全体で与えられる(図9、図10)。
これは基本的に、グループ6アレルゲンのプロリン残基の欠失は、IgE結合能を低減させられることを証明する。一方、一定のプロリンの欠失のみが、関連するIgE結合低減をもたらす。
【0034】
臨床的に定義された草花粉アレルギー患者の好塩基性顆粒球を用いた試験により、本発明の変異体の低減したIgE結合能の、ヒトエフェクター細胞の活性化への効果をin vitroで調査することができる。
試験に用いる顆粒球は、アレルギー患者、本例ではアレルギー患者P21の全血から単離する。このアレルギー患者は、ストリップ試験法において、IgE抗体がrPhl p 6 d[P29, 30] + 6Hisへの検出可能な結合を示すアレルギー患者を表す(「A」群、図9、14)。
【0035】
同じ濃度での、組み換え野生型アレルゲンおよび本発明の変異体rPhl p 6 d[P29, 30] + 6His、rPhl p 6 d[P57] + 6His、およびPhl p 6 d[P79] + 6His rPhl p 6 d[P29, 30]+ 6Hisにおいて、本発明の変異体は、膜結合性IgE抗体へのより低い結合を示し、結果として、好塩基性顆粒球の顕著に低下した活性化を示す(図11)。
したがって結果は、変異体rPhl p 6 d[P29, 30] + 6His、rPhl p 6 d[P57] + 6HisおよびrPhl p 6 d[P79] + 6Hisの機能的に低減したアレルゲン性を確認する。こうしてこの試験により、Phl p 6のこれら2つの領域のプロリン突然変異が、少なくとも幾人かのアレルギー患者において、IgE結合能も低減させることを確認できる。
したがって本発明はさらに、イネ科(Poaceae)のグループ6アレルゲンの低アレルギー性変異体であって、アラインメントにおいて野生型Phl p 6のアミノ酸配列における29、30、57、79位のプロリンに対応するプロリンが単独で突然変異した、前記変異体に関する。
【0036】
本発明は好ましくは、アラインメントにおいて野生型Phl p 6のアミノ酸配列における29、30、57、79位のプロリンに対応するプロリンが単独で変異した、Phl p 6またはPoa p 6の低アレルギー性変異体に関する。
本発明は特に好ましくは、アラインメントにおいて野生型Phl p 6のアミノ酸配列における29、30、57、79位のプロリンに対応するプロリンが単独で突然変異した、Phl p 6の低アレルギー性変異体に関する。
したがって特に好ましいのは、アラインメントにおいて成熟Phl p 6.0102(配列番号2)のアミノ酸配列における29、30、57、79位のプロリンに対応するプロリンが単独で除去された、イネ科(Poaceae)のグループ6アレルゲンの低アレルギー性変異体である。
【0037】
本発明はさらに好ましくは、アラインメントにおいて野生型Phl p 6のアミノ酸配列における29、30、57、79位のプロリンに対応するプロリンが単独で除去された、イネ科(Poaceae)のグループ6アレルゲンの本発明の低アレルギー性変異体に関する。
また、本発明はさらに、アラインメントにおいて野生型Phl p 6のアミノ酸配列における29、30、57、79位のプロリンに対応するプロリンが個別に置換された、イネ科(Poaceae)のグループ6アレルゲンの本発明の低アレルギー性変異体に関する。ここで、プロリンは例としてはロイシン(L)により置き換えられる。しかし本発明により、本発明のプロリンは任意のアミノ酸で置き換えることができる。
【0038】
特に、低アレルギー性変異体rPhl p 6 d[P29]、rPhl p 6 d[P30]、rPhl p 6 d[P29, 30]、rPhl p 6 d[P57]、rPhl p 6 d[P79]、rPhl p 6 P29L、rPhl p 6 P30L、rPhl p 6 P29L、P30L、rPhl p 6 P57LおよびrPhl p 6 P79L等、および以下に記載の全ての本発明の低アレルギー性変異体を含むものは、本発明によるものであり、ここで番号付けはPhl p 6の配列、特に成熟Phl p 6.0102に従う。
さらに、これらの例はPhl p 6の変異体に限定されず、特にPoa p 6および全ての他のイネ科のグループ6アレルゲンにも関する。
【0039】
さらに、グループ6アレルゲンの本発明の低アレルギー性変異体のいまだに検出可能なIgE結合能は、プロリン突然変異の組み合わせによってさらに低減可能である。したがって、変異体rPhl p 6 d[P29, 30] + 6Hisの大幅に低減されたIgE結合と、IgE結合能もプロリン57および79の欠失により部分的に低減可能であるという事実によって、組み合わせの突然変異を含む核酸が産生される。変異体rPhl p 6 d[P29, 30] + 6HisのDNAに基づき、57および79位のプロリンを欠失するか、またはアミノ酸ロイシンに変換する。
したがって、タンパク質rPhl p 6 d[P29, 30, 57] + 6HisおよびrPhl p 6 d[P29, 30, 79] + 6HisならびにrPhl p 6 d[P29, 30] P57L + 6HisおよびrPhl p 6 d[P29, 30] P79L + 6Hisをコードする配列を調製する。これらの変異体は、Phl p 6のαヘリックスを結合する2つのループにプロリン突然変異を有するタンパク質をコードする(図2)。
【0040】
さらに、3つのループ領域にプロリン突然変異を有するアレルゲン変異体を産生するために、rPhl p 6 d[P29, 30] P57L P79L + 6Hisをコードする核酸を調製する(図2)。既に上述したように、配列は好ましくは大腸菌に発現され、タンパク質は標準法により精製される。
純度は同様に、SDS−PAGEおよびSEC/MALS/RIにより調査する(図12、図13)。本発明の全てのタンパク質は、したがって、高い純度および溶解性で調製することができる。
【0041】
SEC/MALS/RI法は、二量体を形成する特性について、上記突然変異体の顕著な差を明らかにする(図13、表2)。タンパク質rPhl p 6 d[P29, 30, 57] + 6His、rPhl p 6 d[P29, 30] P57L + 6HisおよびrPhl p 6 d[P29, 30] P57L P79L + 6Hisについて決定された分子量は、二量体形成への明らかな傾向を示す。タンパク質rPhl p 6 d[P29, 30, 79] + 6HisおよびrPhl p 6 d[P29, 30] P79L + 6Hisは、モノマー形態のみで検出される(表2)。この結果から、プロリン79でなく、プロリン57の位置の修飾が、二量体化傾向が誘発されるような様式でrPhl p 6 d[P29, 30]を修飾すると結論付けることができる。
IgE結合能のストリップ試験による決定は驚くべきことに、rPhl p 6 d[P29, 30]へのIgEの検出可能な結合を有する「A」群のアレルギー患者の血清は、最適化変異体への顕著に低減されたIgE結合を実際に有することが示される(図14)。プロリン57および79が欠失されたか、別のアミノ酸により置き換えられたかは明らかに、二量体形成能力と同様に、IgE結合能の低減に対してほとんど影響を有さない。したがって、プロリンのグループ29、30、57および79からの複数アミノ酸残基の修飾が同時に存在することは、IgE結合をさらに大きく低減させることが示される。
【0042】
本発明はしたがってさらに、アラインメントにおいて野生型Phl p 6のアミノ酸配列における29、30、57、79位のプロリンに対応するプロリンが組み合わせで突然変異した、イネ科(Poaceae)のグループ6アレルゲンの低アレルギー性変異体に関する。好ましいのは、欠失を通した、および他のアミノ酸による置換を通した、突然変異である。任意のアミノ酸を、ここでプロリンによる置き換え用に選択することができる。
本発明は好ましくは、アラインメントにおいて野生型Phl p 6のアミノ酸配列における29、30、57、79位のプロリンに対応するプロリンが組み合わせで突然変異した、Phl p 6またはPoa p 6の低アレルギー性変異体に関する。
【0043】
本発明は特に好ましくは、アラインメントにおいて野生型Phl p 6のアミノ酸配列における29、30、57、79位のプロリンに対応するプロリンが組み合わせで突然変異した、Phl p 6の低アレルギー性変異体に関する。
特に好ましいのは、アラインメントにおいて成熟Phl p 6.0102(配列番号2)のアミノ酸配列における29、30、57、79位のプロリンに対応するプロリンが組み合わせで突然変異した、イネ科(Poaceae)のグループ6アレルゲンの低アレルギー性変異体である。
特に好ましいのは、プロリン29、30、57、79が組み合わせで除去された、本発明の低アレルギー性変異体である。特に好ましいのはまた、プロリン29、30、57、79が組み合わせで置換された、本発明の低アレルギー性変異体である。
【0044】
さらに、特に好ましいのは、プロリン29、30、57、79が組み合わせで除去された、および/または置換された、本発明の低アレルギー性変異体である。特に、低アレルギー性変異体rPhl p 6 d[P29, 30, 57]、rPhl p 6 d[29, 30, 79], rPhl p 6 d[29, 30, 57, 79]、rPhl p 6 d[P29, 57]、rPhl p 6 d[P30, 57]、rPhl p 6 d[29, 79]、rPhl p 6 d[30, 79]、rPhl p 6 d[29, 57, 79]、rPhl p 6 d[30, 57, 79]、rPhl p 6 d[P29, 30] P57L、rPhl p 6 d[29, 30] P79L、rPhl p 6 d[29, 30] P57L P79L、rPhl p 6 d[P29] P30L、rPhl p 6 d[P30] P29L、rPhl p 6 d[P57] P29L P30L、rPhl p 6 d[P79] P29L P30L、rPhl p 6 d[P57, 79] P29L P30L、rPhl p 6 P29L P30L P57L、rPhl p 6 P29L P30L P79L、rPhl p 6 P29L P30L P57L P79L等、および下に記載の本発明の全ての低アレルギー性変異体はしたがって本発明によるものであり、ここで番号付けは、Phl p 6、特に成熟Phl p 6.0102の配列に従う。
【0045】
ここで、プロリンは例としては、ロイシン(L)によって置き換えられる。しかし本発明により、本発明のプロリンは、任意のアミノ酸で置き換えることができる。したがって、本発明の1または2以上のプロリンが別のアミノ酸により置換された上記の全ての低アレルギー性変異体は、本発明によるものである。さらに、これらの例はPhl p 6の変異体に限定されず、特にPoa p 6および全ての他のイネ科のグループ6アレルゲンにも関する。しかし特に好ましいのは、Phleum pratenseのPhl p 6、特にPhl p 6.0102に基づく、本発明の全ての上記の低アレルギー性変異体である。
【0046】
Tヘルパーリンパ球は、抗原提示細胞(APC)の分解プロセスを通して形成され、APCの表面でMHCクラスII分子に結合して提示されるアレルゲンのペプチド断片と反応する。ペプチドは一般に13〜18アミノ酸の長さを有するが、しかしまた、側方が開いているMHCクラス2結合部位のためこれより長くてもよい。ペプチドとMHCクラス分子との主要な接触点は、約7〜10個のアミノ酸のコア配列中に見出される。Tヘルパーリンパ球のアレルゲン特異的活性化は、その増殖および機能的分化の必要条件である(例えばTreg、TH1およびTH2)。アレルゲンまたはアレルゲン変異体の、アレルゲン特異的Tリンパ球を刺激する能力は、その治療的有効性の鍵とみなされている。
Phl p 6またはPhl p 6.0102に基づき産生され、本明細書に記載される全てのアレルゲン変異体は、実験において、重要なT細胞エピトープの実質的な保持を示す。
【0047】
したがって、プロリン残基の修飾を通して新規なタンパク質特性を有する、イネ科のグループ6アレルゲンの変異体が、初めて記載される。関与するプロリン残基はループ領域に局在する。一定のプロリン残基の修飾のみが新規な変異体をもたらし、これは、低減されたIgE反応性およびT細胞反応性の実質的な保持により識別され、したがって、治療的および予防的な特定の免疫療法に好適である。対応するDNA分子は、免疫療法的ワクチン接種に好適である。
本発明はしたがって、薬剤(medicament)としての、本発明の記載のアレルゲン変異体、DNA分子および組み換え発現ベクターに関する。
【0048】
本発明の低アレルギー性変異体、DNA分子および組み換え発現ベクター、または本発明の薬剤は、特に、疾患および病気の予防および/または処置のために用いることができる。本発明の薬剤は、1型アレルギーの処置および/または予防に、すなわち、Poaceae種のグループ6アレルゲンがその誘発に関与する草花粉アレルギーを有する患者の特定の免疫療法(低感作)に、または草花粉アレルギーの予防的免疫療法に、特に好適である。本発明のDNA分子および組み換え発現ベクターは、対応する免疫療法的および免疫予防的DNAワクチン接種に用いることができる。
本発明はまた、少なくとも1種の本発明の低アレルギー性変異体の、その誘発にイネ科のグループ6アレルゲンが原因的に関与する1型アレルギーの予防および/または治療的処置のための、薬剤の調製のための使用に関する。
【0049】
また本発明によるのは、少なくとも1種の本発明のDNA分子、および/または本発明の組み換え発現ベクター、ならびに全ての比率でのその混合物の、免疫療法的DNAワクチン接種のための薬剤の調製のための使用である。
本発明はさらに、少なくとも1種の本発明の低アレルギー性変異体、少なくとも1種の本発明のDNA分子、および/または少なくとも1種の本発明の組み換え発現ベクター、ならびに全ての比率でのその混合物、および任意にさらに賦形剤および/または助剤を含む、1型アレルギーの予防および/または治療的処置のための医薬製剤に関する。
【0050】
特に、本発明の医薬製剤は、イネ科のグループ6アレルゲンがその誘発に原因的に関与する、1型アレルギーの予防および/または治療的処置に好適である。
本発明の意義における医薬製剤は、ヒトの医学または獣医学における治療剤として用いることができ、したがってヒトおよび動物、とくに哺乳類に、例えばサル、イヌ、ネコ、ラットまたはマウスなどに投与することができ、ヒトまたは動物の身体の治療的処置において、上述の疾患と闘うことにおいて、用いることができる。これらはさらに、診断剤または試薬としても用いることができる。
【0051】
本発明による製剤または薬剤を使用する場合、本発明の低アレルギー性変異体、DNA分子または組み換え発現ベクターは、一般に、既知の市販の製剤と同様に用い、好ましくは、0.001〜500mgの用量で、低アレルギー性変異体の場合は維持相において用量あたり約1〜500μg、好ましくは5〜200μgで用いる。製剤は、1日当たり1回または複数回投与可能であり、例えば1日2回、3回、または4回である。用量は典型的には、用量増加相においては維持用量まで増加させる。種々の用量増加および維持スキームがこの目的のために可能である。皮下の免疫療法(SCIT)の場合、例えば、これらには以下を含むことができる:短期間療法(季節的病訴の開始前に限定数の注射、典型的には4〜7回の注射)、シーズン前療法(花粉の季節の前に治療を開始、典型的には、増加相の間は毎週注射、および花粉の季節の始まりまで維持用量にて毎月の注射)、または通年療法(典型的には、16週間までの毎週注射による用量増加相に続いて、維持用量での毎月の注射、必要に応じて花粉の季節の間は低減した用量)。水性または固体の製剤(錠剤、ウェファー等)による舌下の免疫療法の場合、療法は、用量増加相有りまたは無しで導入することができる。治療は、年間を通して毎日用量で実施するのが好ましいが、しかし、シーズン前に実施したり、または他の適用スキームで実施することもできる(例えば、2日目毎、毎週、毎月)。
【0052】
表現「有効量」とは、薬剤または医薬活性化合物の量であって、生物学的または医学的応答を、例えば研究者または医者により求められるかまたは目的とされる組織、系、動物またはヒトにおいて引き起こす、前記薬剤または医薬活性化合物の量を意味する。
さらに、表現「治療的有効量」とは、この量を受領しない対応する対象と比較して、次の結果を有する量である:疾患、症候群、病気、病訴、疾病の改善された処置、治癒、予防または除去、または副作用の予防、または疾患、病訴もしくは疾病の進行の低減。用語「治療有効量」はまた、正常な生理機能を増加させるのに有効な量も包含する。
【0053】
薬剤は、任意の所望の好適な経路を介した投与に適応可能であり、例えば、経口(舌下錠または舌下を含む)、直腸内、肺、鼻腔、局所的(舌下錠、舌下または経皮を含む)、膣内、非経口(皮下、筋肉内、経静脈または皮内を含む)経路である。かかる薬剤は、薬学分野で知られた全てのプロセスを用いて、例えば活性化合物を賦形剤(単数または複数)または助剤(単数または複数)と組み合わせることにより、調製可能である。
【0054】
非経口使用に好適なのは、特に、液剤、好ましくは油性液剤または水溶液、さらに懸濁剤、乳濁剤またはインプラントである。本発明のアレルゲン変異体はまた、凍結乾燥することができ、得られた凍結乾燥物は、例えば注射製剤の調製に用いられる。示した製剤は滅菌することができ、および/またはアジュバントを、例えば潤滑剤、保存剤、安定剤および/または湿潤剤、乳化剤、浸透圧を調節するための塩、緩衝物質および/または複数のさらなる活性化合物などを含んでよい。さらに、デポー製剤も、本発明のアレルゲン変異体の対応する処方により、例えば水酸化アルミニウム、リン酸カルシウムまたはチロシンなどへの吸着により、得ることができる。
【0055】
好適な賦形剤は、非経口投与に好適であり、本発明のグループ6アレルゲン変異体と反応しない、有機または無機物質である。その例としては、次のような賦形剤である:水、植物油、ベンジルアルコール、ポリエチレングリコール、グリセロールトリアセテート、ゼラチン、炭水化物、例えばラクトースまたはデンプン、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ラノリン、またはワセリン。
非経口投与は、本発明の薬剤の投与に好適であるのが好ましい。非経口投与の場合、静脈内、皮下、皮内、リンパ管内投与が特に好ましい。静脈内投与の場合、注射は、直接または輸液への添加により行うことができる。
【0056】
非経口投与に適合された薬剤としては水性および非水性無菌注射溶液を含み、これは抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、および溶解剤を含有し、それにより製剤は処置されるレシピエントの血液に対して等張性となり、また、水性もしくは非水性の無菌懸濁液を含み、これは懸濁剤および増粘剤を含有してよい。製剤は、例えば密封アンプルおよびバイアルなどの単一用量または複数用量の容器で投与することができ、フリーズドライ(freeze-dried)(凍結乾燥(lipophilised))状態で保存され、これは、例えば注射目的の場合、水などの無菌の担体溶液を使用の直前に添加することのみが必要であることを意味する。処方に従って調製される注射溶液および懸濁液は、無菌の粉末、顆粒および錠剤から調製することができる。
必要に応じて、本発明の製剤または薬剤は、1または2以上のさらなる活性化合物および/または1または2以上の作用エンハンサー(アジュバント)を含んでよい。
【0057】
したがって本発明はさらに、さらなる活性化合物および/または助剤を含む、医薬製剤に関する。本発明は好ましくは、さらなる活性化合物がアレルゲンまたはそれらの変異体であることを特徴とする、本発明の医薬製剤に関する。好適なさらなる活性化合物の例は他のアレルゲンであり、特に、イネ科のアレルゲン、特に好ましくは、イチゴツナギ亜科からのアレルゲン、好ましくはPoodaeおよびTriticodaeの群からの、好ましくはPhleum pratense、Holcus lanatus、Phalaris aquatica、Dactylis glomerata、Lolium perenne、Poa pratensis、Hordeum vulgare、Secale cerealeおよびTriticum aestivumによって表され、例えば、グループ1、2、3、4、5、6、7、10、12または13のアレルゲンおよびそれらの変異体であり、例えば、低アレルギー性変異体、断片、多量体、ハイブリッド分子または組み換え融合タンパク質である。本発明はさらに、少なくとも1種のさらなる助剤を、特に好ましくはいわゆるアジュバントを含む、医薬製剤に関する。アジュバントの例としては、水酸化アルミニウム、モノホスホリル脂質A、Toll様受容体のアクチベーター、例えばリポ多糖体およびCpGオリゴヌクレオチド、ビタミンD3、マイコバクテリア抗原および寄生虫(例えば住血吸虫またはフィラリア)からの分子、例えばシスタチンまたはES−62である。
【0058】
本発明はまた、次の個別パックからなる(キット)にも関する:
a)本発明の低アレルギー性変異体、DNA分子または組み換え発現ベクターの有効量を含有する、本発明の医薬製剤、
b)さらなる医薬活性化合物および/またはアジュバントの有効量を含有する、医薬製剤。
セットは、好適な容器、例えば箱または紙箱、個別のボトル、バッグ、またはアンプルなどを含む。セットは例えば、各々が、有効量の本発明の低アレルギー性変異体、DNA分子または組み換え発現ベクター、および溶解形態または凍結乾燥形態のさらなる医薬活性化合物を含有する本発明の製剤を含む、個別のアンプルを含んでよい。
【0059】
さらなる態様なしでも、当業者は上述の記載を最も広い範囲で用いることができると考えられる。したがって好ましい態様は、説明的開示としてのみ見なされるべきであって、決して限定的ではない。
以下の例はしたがって、本発明を限定することなく説明することを意図する。別の指示がない限り、パーセントのデータは重量パーセントを意味する。全ての温度は摂氏で表される。「慣用の操作」:最終産物の構成に応じ、必要に応じて水を加え、pHは必要に応じて2〜10の間に調製する。
【0060】
以下の本発明の低アレルギー性変異体は、生物工学的方法により調製され、特徴付けられた。しかし、物質の調製および特徴付けはまた、当業者により別の方法によっても実施することができる。例えば、本発明の低アレルギー性変異体はまた、化学的に合成可能である。さらに本発明は、以下に記載の本発明の低アレルギー性変異体にも関する。
【0061】
例1:1つのループ領域にプロリン欠失を有するPhl p 6の変異体
変異体rPhl p 6 d[P29, 30] + 6His、rPhl p 6 d[P57] + 6Hisおよび rPhl p 6 d[P79] + 6Hisの調製およびその免疫学的特徴付けを、以下に記載する。組み換え非修飾アレルゲン(rPhl p 6 wt + 6His)を同様に調製して調査し、および本発明のイネ科の他のグループ6アレルゲンの低アレルギー性変異体およびそれらの野生型タンパク質、特にPoa p 6もまた、同様に調製して調査することができる。
【0062】
遺伝子工学による作成:
変異体をコードするDNAを、長いオーバーラップDNAオリゴヌクレオチドの結合およびPCR標準法によるDNA増幅により、合成する。コドンを、粒子の濃度をRI検出器により決定し、粒子による光散乱をMALS検出器により記録するように選択する(Wen et al., 1996, Anal. Biochem. 240:155-166)。溶出粒子の平均質量を、これらのデータから約5%の精度で計算することができる。モノマー、二量体その他多量体および凝集物を、SEC/MALS/RIで検出可能である。
SEC/MALS/RI分析において、それぞれが単一のピークで溶出するタンパク質は、天然の条件下で純粋なモノマー形態であることが明らかとなる(図8;表1)。
【0063】
【表1】
タンパク質濃度のオンライン決定は、OptilabrEX屈折率検出器(RI)(Wyatt, Santa Barbara, USA)を用いて行った。粒子による光散乱は、MiniDAWN Treos多角度検出器(Wyatt)を用いて決定した。粒子質量は、屈折率増分を0.180ml/gとして、デバイ形式(Debeye formalism)によるASTRA 5.3.2.17ソフトウェア(Wyatt)を用いて計算した。SECカラム:Superdex 200 GL 10/ 300(GE Healthcare, Uppsala, Sweden)。溶出液:20mMのリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.2および150mMのNaCl。
【0064】
推定アミノ酸配列は、成熟Phl p 6.0102のそれに基づく(図3、図4)。プロリン欠失についての突然変異を、PCR反応でプロリンについて対応するコドンが欠如している特定のオリゴヌクレオチドを用いて導入する。これらのオリゴヌクレオチドは、推定タンパク質が、5’末端においてヘキサヒスチジン融合成分を有するように選択する(図5、図6)。これらのDNAを、発現ベクターpTrcHis2 Topo(Invitrogen, Carlsbad, USA)にトポイソメラーゼ反応によりライゲートする。DNAの正確さを配列決定により確認する。
【0065】
発現および精製:
組み換えヒスチジン融合タンパク質の発現を、大腸菌(Top 10株;Invitrogen)において行う。rPhl p 6 wt + 6 Hisおよび変異体を、N末端ヒスチジン残基のNi2+キレートマトリックス(固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー、IMAC;材料:HiTrap, GE Healthcare, Uppsala, Sweden)への特異的結合により最初に精製する。IMAC溶出物からの組み換えタンパク質を続いて濃縮し、ゲルろ過を行う(材料:Superdex 75; GE Healthcare)。
生化学的分析:
調製したタンパク質の純度を、SDS−PAGEおよび続くクーマシー染色により最初にチェックする。分析により、全てのタンパク質の非常に高い純度が示される(図7)。
【0066】
分析ゲルろ過(SEC)により、タンパク種の固有の流体力学半径に基づく分離が可能である。分子量のオンライン決定は、屈折計(RI検出器)と多角度光散乱検出器(MALS検出器)とをクロマトグラフィーシステムに連結することにより、実現可能である(SEC/MALS/RI法)。この方法において、測定時に与えられた。
不溶性タンパク質凝集物の不在は、UV−Vis分光法(光度計:Ultrospec 5300pro UV/VIS; GE Healthcare)によってもチェックする。
UV−Vis分光法においては、タンパク質溶液の吸収スペクトルを240〜800nmの波長範囲で記録する。タンパク質溶液中の不溶性凝集物は、>300nmの波長範囲で吸収し、一方、高度に溶解性のタンパク質はこの範囲では吸収しない。波長スペクトルは、高い溶解性を有するタンパク質に典型的である。本発明のタンパク質はしたがって、天然条件下で溶解性かつ高度に純粋であり、モノマーである。
【0067】
低減したIgE結合の証拠:
アレルギー患者の血清からの特定のIgEの反応性を決定する簡単な試験方法は、ストリップ試験である。この方法を用いて、比較的多数のアレルギー患者の血清を同時に調査することができる。
この目的のために、同じ濃度で同じ量の試験物質を、一緒に非変性条件下で1片のニトロセルロース膜に結合させる。一連のかかる膜片を、異なるアレルギー患者の血清を用いて同時にインキュベートすることができる。洗浄ステップの後、特異的に結合したIgE抗体を、抗ヒトIgE/アルカリホスファターゼ複合体によって促進される呈色反応により、膜上で可視化する。
【0068】
18の個々の草花粉アレルギー患者の血清を用いたPhl p 6変異体の結果を、図9に示す。重要な対照として、最初に、ヒスチジン融合成分有りまたは無しの組み換えアレルゲンのIgE結合を調査する。両方のタンパク質は、同じIgE結合能を示す。したがって試験に用いたN末端ヒスチジン融合成分もまた、IgEのPhl p 6への結合を妨害しない。
変異体rPhl p 6 d[P101] + 6Hisは、試験した全ての血清に対して、非修飾アレルゲンと同様の良好なIgE結合を示す(図9)。これから、プロリン101の欠失は、Phl p 6のIgE結合能に重要な影響を及ぼさないことがわかる。変異体rPhl p 6 d[P29, 30] + 6His、rPhl p 6 d[P57] + 6Hisおよび rPhl p 6 d[P79] + 6HisのIgE結合は、異なる草花粉アレルギー患者の血清において、異なっている。これは、IgE抗体の親和性およびエピトープ特異性に関する、個々のアレルギー患者のIgE集団の組成における変化のためである。変異体rPhl p 6 d[P57] + 6HisおよびrPhl p 6 d[P79] + 6Hisは、非修飾rPhl p 6 wt + 6Hisと比べて、ほとんどの血清に対して顕著に低減したIgE反応性を示す。しかし、全体での最小のIgE結合は、変異体rPhl p 6 d[P29, 30] + 6Hisの場合に観察される(図9)。
【0069】
溶解した試験物質のIgE結合能の調査を、EAST阻害試験(酵素アレルゲン吸着試験)により実施する。この方法において、アレルゲン/IgE相互作用は溶液中で調査でき、例えば膜上で固定化することによる試験物質のエピトープのマスキングの妨害を、除外することが可能となる。
EAST阻害試験を以下のように実施する。マイクロタイタープレートをアレルゲンで、ここではrPhl p 6 wt + 6Hisで被覆する。非結合のアレルゲン分子を洗浄して除去した後、プレートをウシ血清アルブミンでブロックして、後の非特異的結合を防ぐ。個別の血清としてのアレルギー患者のIgE抗体を好適な希釈中で、アレルゲンで被覆したマイクロタイタープレートと共にインキュベートした。アレルゲンに結合したIgE抗体の量を、抗hIgG/アルカリホスファターゼ複合体を用いた基質の反応によって着色された最終産物を得ることにより、光度分析的に定量する。
【0070】
IgE抗体の結合は、溶解性アレルゲンまたは試験される物質(組み換え修飾アレルゲン)により、物質特異的に、濃度の関数として阻害される。
Phl p 6の組み換えアレルゲン変異体による、図10に示すIgE阻害試験結果は、プロリン残基P[29, 30]、P57およびP79の欠失が、Phl p 6の低減したIgE結合能をもたらすことを示す。変異体d[P29, 30]のIgE結合能は、d[P57]または d[P79]のそれよりも顕著に低い。低い阻害作用は、IgEエピトープの欠如を示す。突然変異体d[P101]は、草花粉アレルギー患者P32の血清に対して改変されたIgE結合を示さず、血清P82とわずかにのみ低減した結合を示し、これは、再度、高い阻害剤濃度での野生型のそれとほぼ同様である。
【0071】
機能的アレルゲン性の低減の証拠:
エフェクター細胞の膜結合性IgEの架橋における突然変異体の機能的作用と、その活性化を、続いてin vitroで調査する。
好塩基球活性化試験のために、草花粉アレルギー患者のヘパリン化全血を、種々の濃度の試験物質を用いてインキュベートする。アレルギー性物質は、好塩基性顆粒球の高親和性IgE受容体に関連する、特定のIgE抗体に結合することができる。アレルゲン分子により引き起こされるIgE/受容体複合体の架橋はシグナル伝達をもたらし、これは、エフェクター細胞の脱顆粒化をもたらし、したがってin vivoでアレルギー反応を引き起こす。
【0072】
好塩基性免疫細胞のアレルゲンに誘発された活性化は、表面タンパク質(CD203c)の発現の定量化とIgE−受容体の架橋のシグナル伝達により、in vitroで決定することができる(Kahlert et al., Clinical Immunology and Allergy in Medicine Proceedings of the EAACI 2002 (2003) Naples, Italy 739-744)。細胞上で発現される表面タンパク質の数および細胞プールの活性化細胞のパーセンテージの値は、蛍光標識したモノクローナル抗体の表面タンパク質への結合および続く蛍光活性化フローサイトメトリによる解析により、高感度で測定される。
本例の試験に用いる顆粒球は、アレルギー患者P21の全血から単離する。このアレルギー患者は、ストリップ試験法において、そのIgE抗体がrPhl p 6 d[P29, 30] + 6Hisへの検出可能な結合を示すアレルギー患者を表す(グループ「A」)。
【0073】
非修飾の組み換えアレルゲンおよびrPhl p 6 d[P29, 30]+ 6Hisの同一濃度において、後者は両方のドナーの場合に、膜結合性IgE抗体への低い結合を示し、その結果、好塩基性顆粒球の大幅に低減された活性化を示す(図11)。
したがって、結果は、変異体rPhl p 6 d[P29, 30]+ 6Hisの機能的に低減されたアレルゲン性を確認する。変異体rPhl p 6 d[P57] + 6HisおよびrPhl p 6 d[P79] + 6Hisは、ドナーP21の場合に、好塩基性細胞の明らかに低減された活性化を示す。したがって、この試験により、Phl p 6のこれら2つの領域におけるプロリン突然変異もまた、少なくとも幾人かのアレルギー患者においてIgE結合能を低減させることが確認できる。
【0074】
変異体のT細胞反応性:
T細胞反応性を調査するために、草花粉アレルギー患者のオリゴクローナルT細胞系を、非修飾アレルゲンによる刺激を用いて従来法により確立する。増殖試験において、異なるT細胞系を基準のアレルゲンrPhl p 6 wtおよび修飾組み換えアレルゲン変異体で刺激する。増殖率を、[3H]チミジンの組み込みにより従来法によって決定する。
変異体rPhl p 6 d[P29, 30] + 6His、rPhl p 6 d[57] + 6HisおよびrPhl p 6 d[79] + 6Hisで、非修飾アレルゲンによる増殖と同程度に、調査するT細胞系に刺激を与える。重要なT細胞エピトープの保持を、これから結論付けることができる。
【0075】
例2:複数のループ領域におけるプロリン欠失の組み合わせを有するPhl p 6の変異体
変異体rPhl p 6 d[P29, 30, 57] + 6HisおよびrPhl p 6 d[29, 30, 79] + 6Hisの調製および免疫学的特徴付けを、Phl p 6野生型(IUISエントリーPhl p 6.0102)の29、30;57および79のアミノ酸位置に対応するプロリン欠失の組み合わせを持つ、Poaceaeのグループ6アレルゲンの低アレルギー性変異体についての例を用いて、以下に記載する。欠失プロリン残基はここで、Phl p 6と相同な2または3のループ領域に位置することができる。Phl p 6野生型アイソマーPhl p 6.0101(GenBank:Z27082.1、UniProt: P43215)の対応する低アレルギー性変異体を同様に調製して調査し、および本発明のイネ科の他のグループ6アレルゲンの低アレルギー性変異体およびそれらの野生型タンパク質、特にPoa p 6もまた、同様に調製して調査することができる。
【0076】
推定アミノ酸配列が、成熟Phl p 6.0102のそれに基づくようにコドンを選択する(図3、図4)。プロリン欠失についての突然変異を、PCR反応でプロリンについて対応するコドンが欠如している特定のオリゴヌクレオチドを用いて導入する。オリゴヌクレオチドは好ましくは、推定タンパク質が、5’末端においてヘキサヒスチジン融合成分を有するように選択する(図5、図6)。DNAを、発現ベクターpTrcHis2 Topo(Invitrogen, Carlsbad, USA)にトポイソメラーゼ反応によりライゲートする。DNAの正確さを配列決定により確認する。しかし、その他の標準発現ベクターも使用することができる。
組み換えヒスチジン融合タンパク質の発現は、全ての標準の真核および原核発現系で行うことができ、発現は好ましくは大腸菌にて行う(Top10株;Invitrogen)。変異体を、N末端ヒスチジン残基のNi2+キレートマトリックス(固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー、IMAC;材料:HiTrap, GE Healthcare, Uppsala, Sweden)への特異的結合により最初に精製する。組み換えタンパク質を続いてIMAC溶出物から濃縮し、ゲルろ過を行う(材料:Superdex 75; GE Healthcare)。
【0077】
生化学的分析:
調製したタンパク質の純度を、SDS−PAGEと続くクーマシー染色により最初にチェックする。分析により、全てのタンパク質の非常に高い純度が示された(図12)。
タンパク質を天然条件下で調査する分析SECは、タンパク質が1つのピークで溶出することを示す。高分子量凝集物は検出されない(図13)。MALS/RIによる分子量のオンライン決定で、rPhl p 6 d[29, 30, 79] + 6Hisは純粋にモノマー形態であり、一方溶出されたrPhl p 6 d[P29, 30, 57] + 6Hisはモノマーと二量体の混合物を表すとの結果が導かれる(図13;表2)。しかし、UV−Vis分光法により記録された両タンパク質の波長スペクトルは、高い溶解性を有するタンパク質に典型的なものである。
したがって、両方のタンパク質は天然条件下で溶解性で、純粋であり、沈殿とならず、したがってその特異的IgE結合能の正確な分析のための重要な前提条件を満たしている。
【0078】
【表2】
タンパク質濃度のオンライン決定は、OptilabrEX屈折率検出器(RI)(Wyatt, Santa Barbara, USA)を用いて行った。粒子による光散乱は、MiniDAWN Treos多角度検出器(Wyatt)を用いて決定した。粒子質量は、屈折率増分を0.180ml/gとして、デバイ形式によるASTRA 5.3.2.17ソフトウェア(Wyatt)を用いて計算した。SECカラム:Superdex 200 GL 10/ 300(GE Healthcare, Uppsala, Sweden)。溶出液:20mMのリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.2および150mMのNaCl。
【0079】
低減したIgE結合の証拠:
18の個別の草花粉アレルギー患者の血清を用いたrPhl p 6 d[P29, 30, 57] + 6HisおよびrPhl p 6 d[29, 30, P79] + 6Hisのストリップ試験の結果を図14に示す。驚くべきことには、ストリップ試験においてrPhl p 6 d[P29, 30]への検出可能なIgE結合をいまだに有しているアレルギー患者の血清は、変異体rPhl p 6 d[P29, 30, 57] + 6HisおよびrPhl p 6 d[29, 30, 79] + 6Hisに対して、大幅に低減されたIgE反応性を有することが明らかである(グループ「A」:血清21、32、83、137等)。
したがって、Phl p 6のIgE結合能は、ただ1つのループ領域のプロリン残基の欠失を介するよりも、種々のループ領域からのプロリンの複数の組み合わされた欠失によって、さらに低減可能であることが明らかに示される。
変異体のT細胞反応性:
変異体は、調査したT細胞系の増殖を、非修飾アレルゲンと同程度に刺激する。重要なT細胞エピトープの保持がこれから結論付けられる。
【0080】
例3:複数のループ領域におけるプロリン点突然変異の組み合わせを有するPhl p 6sの変異体
変異体rPhl p 6 d[P29, 30] P57L + 6His、rPhl p 6 d[29, 30] P79L + 6HisおよびrPhl p 6 d[29, 30] P57L P79L + 6Hisの調製および免疫学的特徴付けを、Phl p 6野生型(IUISエントリーPhl p 6.0102)の29、30、57および79のアミノ酸位置に対応するプロリン点突然変異の組み合わせを持つ、Poaceaeのグループ6アレルゲンの低アレルギー性変異体についての例を用いて、以下に記載する。プロリン残基は任意のアミノ酸に変換することができる。Phl p 6野生型アイソマーPhl p 6.0101(GenBank:Z27082.1、UniProt: P43215)の対応する低アレルギー性変異体を同様に調製して調査し、および本発明のイネ科の他のグループ6アレルゲンの低アレルギー性変異体およびそれらの野生型タンパク質、特にPoa p 6もまた、同様に調製して調査することができる。
【0081】
推定アミノ酸配列が、成熟Phl p 6.0102のそれに基づくようにコドンを選択する(図3、図4)。プロリン欠失についての突然変異を、PCR反応でプロリンについて対応するコドンが欠如している特定のオリゴヌクレオチドを用いて導入する。オリゴヌクレオチドは好ましくは、推定タンパク質が、5’末端においてヘキサヒスチジン融合成分を有するように選択する(図5、図6)。
DNAを、発現ベクターpTrcHis2 Topo(Invitrogen, Carlsbad, USA)にトポイソメラーゼ反応によりライゲートする。DNAの正確さを配列決定により確認する。しかし、その他の標準発現ベクターも使用することができる。
【0082】
組み換えヒスチジン融合タンパク質の発現は、全ての標準の真核および原核発現系で行うことができ、発現は好ましくは大腸菌にて行う(Top10株;Invitrogen)。変異体を、N末端ヒスチジン残基のNi2+キレートマトリックス(固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー、IMAC;材料:HiTrap, GE Healthcare, Uppsala, Sweden)への特異的結合により最初に精製する。組み換えタンパク質を続いてIMAC溶出物から濃縮し、ゲルろ過を行う(材料:Superdex 75; GE Healthcare)。
生化学的分析:
調製したタンパク質の純度を、SDS−PAGEと続くクーマシー染色により最初にチェックする。分析により、全てのタンパク質の非常に高い純度が示される(図12)。
【0083】
タンパク質を天然条件下で調査する分析SECにより、タンパク質は1つのピークで溶出することを示す。高分子量凝集物は検出されない(図13)。MALS/RIによる分子量のオンライン決定で、rPhl p 6 d[29, 30] P79L + 6Hisは純粋にモノマー形態であり、一方溶出されたrPhl p 6 d[P29, 30] P57L + 6Hisはモノマーと二量体の混合物を表すとの結果が導かれる。rPhl p 6 d[29, 30] P57L P79L + 6Hisは主として二量体形態である(図13;表2)。
UV−Vis分光法により記録された全てのタンパク質の波長スペクトルは、高い溶解性を有するタンパク質に典型的なものである。したがって、3種類のタンパク質は天然条件下で溶解性で、純粋であり、沈殿とならず、したがってその特異的IgE結合能の正確な分析のための重要な前提条件を満たしている。
【0084】
低減されたIgE結合の証拠:
18の個別の草花粉アレルギー患者の血清を用いたrPhl p 6 d[P29, 30] P57L + 6His、rPhl p 6 d[29, 30] P79L + 6HisおよびrPhl p 6 d[29, 30] P57L P79L + 6Hisのストリップ試験の結果を図12に示す。
驚くべきことには、ストリップ試験においてrPhl p 6 d[P29, 30]への検出可能なIgE結合をいまだに有しているアレルギー患者の血清は、変異体rPhl p 6 d[P29, 30] P57L + 6His、rPhl p 6 d[29, 30] P79L + 6HisおよびrPhl p 6 d[29, 30] P57L P79L + 6Hisに対して、大幅に低減されたIgE反応性を有することが明らかである(グループ「A」:血清21、32、83、137等)。
したがって、Phl p 6のIgE結合能は、ただ1つのループ領域のプロリン残基の点突然変異を介するよりも、種々のループ領域からのプロリンの複数の組み合わされた点突然変異によって、さらに低減可能であることが明らかに示される。
【0085】
変異体のT細胞反応性:
変異体は、調査したT細胞系の増殖を、非修飾アレルゲンと同程度に刺激する。重要なT細胞エピトープの保持がこれから結論付けられる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、オオアワガエリのグループ6およびグループ5アレルゲンの推定アミノ酸配列のアラインメントを示す。
【図2】図2は、Phl p 6の3D構造のワーキングモデルを示す。
【図3】図3は、Phl p 6 wt(IUISエントリーPhl p 6.0102);cDNA配列(GenBankエントリー:Y16955;330pb);配列番号1を示す。
【図4】図4は、Phl p 6 wt(IUISエントリーPhl p 6.0102);推定アミノ酸配列(UniProtKBエントリー:O65868;110aa);配列番号2を示す。
【図5】図5は、N末端ヒスチジン融合成分;DNA配列(33bp);配列番号5を示す。
【0087】
【図6】図6は、N末端ヒスチジン融合成分;アミノ酸配列(11aa);配列番号6を示す。
【図7】図7は、組み換えPhl p 6野生型およびループにプロリン欠失を有するPhl p 6変異体の純度制御を示す。
【図8】図8は、ループにプロリン突然変異を有するPhl p 6変異体の分子量決定を示す。
【図9】図9は、ループにプロリン欠失を有する固定化されたPhl p 6変異体のIgE結合を示す。
【図10】図10は、ループにプロリン欠失を有するPhl p 6変異体のIgE阻害試験を示す。
【0088】
【図11】図11は、個々のループにおける突然変異を有するプロリン突然変異体の機能的アレルゲン性についての試験を示す。
【図12】図12は、2または3のループにプロリン突然変異を有するPhl p 6変異体の純度を示す。
【図13】図13は、2または3のループにプロリン突然変異を有するPhl p 6変異体の分子量決定を示す。
【図14】図14は、組み換えPhl p 6野生型および1、2または3のループにプロリン欠失を有するPhl p 6変異体のIgE結合を示す。
【図15】図15は、Phl p 6 wt(IUISエントリーPhl p 6.0101);cDNA配列(GenBankエントリー:Z27082.1;330bp);配列番号3を示す。
【0089】
【図16】図16は、Phl p 6 wt(IUISエントリーPhl p 6.0101);推定アミノ酸配列(UniProtKBエントリー:P43215;110aa);配列番号4を示す。
【図17】図17は、Phl p 6.0101の変異体(UniProtKBエントリーO65869;107aa);配列番号7を示す。
【図18】図18は、我々独自の配列決定による、Phl p 6.0101の変異体(プロペプチド含む)。(プロペプチド成分およびY〜H変異体は太字イタリック体);配列番号8を示す。
【図19】図19は、ro Phl p 6.0101(P43215)(プロペプチド成分は太字イタリック体);配列番号9を示す。
【図20】図20は、Pro Phl p 6.0102(O65868)(プロペプチド成分は太字イタリック体);配列番号10を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イネ科(Poaceae)のグループ6アレルゲンの低アレルギー性変異体であって、アラインメントにおいて野生型Phl p 6のアミノ酸配列における29、30、57、79位のプロリンに対応するプロリンが、単独または組み合わせで突然変異した、前記変異体。
【請求項2】
グループ6アレルゲンがPhl p 6であることを特徴とする、請求項1に記載の低アレルギー性変異体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の低アレルギー性変異体であって、これが、請求項1または2に記載の低アレルギー性変異体の断片もしくは変異体、または請求項1または2に記載の1または2以上の低アレルギー性変異体の多量体であることを特徴とするか、または、請求項1または2に記載の1または2以上の低アレルギー性変異体、またはそれらの断片、変異体もしくは多量体が、組み換え融合タンパク質の構成要素であることを特徴とする、前記変異体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の低アレルギー性変異体をコードする、DNA分子。
【請求項5】
発現制御配列に機能的に結合した請求項4に記載のDNA分子を含有する、組み換え発現ベクター。
【請求項6】
請求項4に記載のDNA分子または請求項5に記載の組み換え発現ベクターにより形質転換された、非ヒト宿主生物。
【請求項7】
請求項6に記載の非ヒト宿主生物の培養および培養物からの対応するアレルゲン変異体の単離による、請求項1〜3のいずれか一項に記載の低アレルギー性変異体を調製する方法。
【請求項8】
薬剤としての、請求項1〜3のいずれか一項に記載の低アレルギー性変異体。
【請求項9】
薬剤としての、請求項4に記載のDNA分子。
【請求項10】
薬剤としての、請求項5に記載の組み換え発現ベクター。
【請求項11】
少なくとも1種の請求項1〜3のいずれか一項に記載の低アレルギー性変異体の、その誘発にイネ科のグループ6アレルゲンが原因的に関与する1型アレルギーの予防および/または治療的処置のための薬剤の調製のための使用。
【請求項12】
少なくとも1種の請求項4に記載のDNA分子および/または請求項5に記載の組み換え発現ベクターの、免疫療法的DNAワクチン接種用の薬剤の調製のための使用。
【請求項13】
少なくとも1種の請求項1〜3のいずれか一項に記載の低アレルギー性変異体、少なくとも1種の請求項4に記載のDNA分子、および/または少なくとも1種の請求項5に記載の組み換え発現ベクター、および任意にさらなる活性化合物および/または助剤を含む、1型アレルギーの予防および/または治療的処置のための医薬製剤。
【請求項14】
さらなる活性化合物が、イネ科のアレルゲンまたはそれらの変異体であることを特徴とする、請求項13に記載の医薬製剤。
【請求項1】
イネ科(Poaceae)のグループ6アレルゲンの低アレルギー性変異体であって、アラインメントにおいて野生型Phl p 6のアミノ酸配列における29、30、57、79位のプロリンに対応するプロリンが、単独または組み合わせで突然変異した、前記変異体。
【請求項2】
グループ6アレルゲンがPhl p 6であることを特徴とする、請求項1に記載の低アレルギー性変異体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の低アレルギー性変異体であって、これが、請求項1または2に記載の低アレルギー性変異体の断片もしくは変異体、または請求項1または2に記載の1または2以上の低アレルギー性変異体の多量体であることを特徴とするか、または、請求項1または2に記載の1または2以上の低アレルギー性変異体、またはそれらの断片、変異体もしくは多量体が、組み換え融合タンパク質の構成要素であることを特徴とする、前記変異体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の低アレルギー性変異体をコードする、DNA分子。
【請求項5】
発現制御配列に機能的に結合した請求項4に記載のDNA分子を含有する、組み換え発現ベクター。
【請求項6】
請求項4に記載のDNA分子または請求項5に記載の組み換え発現ベクターにより形質転換された、非ヒト宿主生物。
【請求項7】
請求項6に記載の非ヒト宿主生物の培養および培養物からの対応するアレルゲン変異体の単離による、請求項1〜3のいずれか一項に記載の低アレルギー性変異体を調製する方法。
【請求項8】
薬剤としての、請求項1〜3のいずれか一項に記載の低アレルギー性変異体。
【請求項9】
薬剤としての、請求項4に記載のDNA分子。
【請求項10】
薬剤としての、請求項5に記載の組み換え発現ベクター。
【請求項11】
少なくとも1種の請求項1〜3のいずれか一項に記載の低アレルギー性変異体の、その誘発にイネ科のグループ6アレルゲンが原因的に関与する1型アレルギーの予防および/または治療的処置のための薬剤の調製のための使用。
【請求項12】
少なくとも1種の請求項4に記載のDNA分子および/または請求項5に記載の組み換え発現ベクターの、免疫療法的DNAワクチン接種用の薬剤の調製のための使用。
【請求項13】
少なくとも1種の請求項1〜3のいずれか一項に記載の低アレルギー性変異体、少なくとも1種の請求項4に記載のDNA分子、および/または少なくとも1種の請求項5に記載の組み換え発現ベクター、および任意にさらなる活性化合物および/または助剤を含む、1型アレルギーの予防および/または治療的処置のための医薬製剤。
【請求項14】
さらなる活性化合物が、イネ科のアレルゲンまたはそれらの変異体であることを特徴とする、請求項13に記載の医薬製剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公表番号】特表2013−516961(P2013−516961A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−548349(P2012−548349)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【国際出願番号】PCT/EP2010/007745
【国際公開番号】WO2011/085782
【国際公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【国際出願番号】PCT/EP2010/007745
【国際公開番号】WO2011/085782
【国際公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】
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