説明

ヘッド・ジンバル・アセンブリ

【課題】ヘッド・スライダ上のヒータ素子及び接触センサ素子により高精度なクリアランス制御を行うと共に、リード素子の感度低下、ヘッド・スライダの信頼性の低下及び位置決め制度の低下を小さくする。
【解決手段】本発明の一実施形態において、ヘッド・スライダ15上のヘッド素子部は、ライト素子151、リード素子152に加え、クリアランスを調整するためのヒータ素子153、さらに、ヘッド・スライダと磁気ディスクとの接触を検知する接触センサ素子154とを有している。ライト信号伝送線ペアWWとリード信号伝送線ペアRRとの間及びライト信号伝送線ペアWWと接触センサ信号伝送線ペアSSと間に、ヒータ信号伝送線Hが存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヘッド・ジンバル・アセンブリに関し、特に、ヘッド・スライダの信号を伝送するサスペンション上の配線レイアウトに関する。
【背景技術】
【0002】
ディスク・ドライブとして、光ディスク、光磁気ディスク、あるいはフレキシブル磁気ディスクなどの様々な態様のディスクを使用する装置が知られているが、その中で、ハードディスク・ドライブ(HDD)は、コンピュータ・システムの他、動画像記録再生装置やカーナビゲーション・システムなど、多くの電子機器において使用されている。
【0003】
HDDで使用される磁気ディスクは、同心円状に形成された複数のデータ・トラックと複数のサーボ・トラックとを有している。各サーボ・トラックはアドレス情報を有する複数のサーボ・セクタから構成される。また、各データ・トラックには、ユーザ・データを含む複数のデータ・セクタから構成されている。円周方向に離間するサーボ・セクタの間に、データ・セクタが記録されている。揺動するアクチュエータに支持されたヘッド・スライダのヘッド素子部が、サーボ・セクタ内のアドレス情報に従って所望のデータ・セクタにアクセスすることによって、データ・セクタへのデータ書き込み及びデータ・セクタからのデータ読み出しを行うことができる。
【0004】
磁気ディスクの記録密度を向上するには、磁気ディスク上を浮上するヘッド素子部と磁気ディスクとの間のクリアランス(間隔)及びその変化を小さくすることが重要である。このため、クリアランスを調整するいくつかの機構が提案されている。そのうちの一つは、ヘッド・スライダにヒータを備え、そのヒータでヘッド素子部を加熱することよってクリアランスを調整する。本明細書において、これをTFC(Thermal Fly-height Control)と呼ぶ。TFCは、ヒータに電流を供給して発熱させ、熱膨張によってヘッド素子部を突出させる。これによって、磁気ディスクとヘッド素子部との間のクリアランスを小さくする。
【0005】
TFCは、温度の低下に応じてヒータ・パワーを増加して熱膨張によってヘッド素子部を突出させ、温度低下によるクリアランスの増加を補償する。温度が上昇する場合は逆にヒータ・パワーを減少させ、クリアランスの減少を補償する。また、高度が上昇して気圧が低下すると、スライダの浮上高が低下する。このため、気圧の低下によりヘッド素子部と磁気ディスクとの間のクリアランスも減少する。従って、温度が一定であれば、TFCは気圧の低下に従ってヒータ・パワーを小さくし、気圧の上昇に従ってヒータ・パワーを大きくする。
【0006】
スライダ浮上量やヒータ効率はヘッド・スライダ毎に異なる。そのため。HDDの製造におけるテスト工程において、ヘッド・スライダ毎にTFCのための適切なパラメータを設定する。具体的には、HDDは、ヘッド・スライダと磁気ディスクとが接触するヒータ・パワー値を測定により決定し、その値に従って、温度とヒータ・パワーとの関係、気圧とヒータ・パワーとの関係を特定する。また、これらの関係は磁気ディスク上の半径位置によって変化する。そのため、HDDは、磁気ディスク上の異なる位置において上記接触測定を行い、半径位置に応じた上記の関係を特定する。
【0007】
しかし、テスト工程において行うことができる測定の温度範囲や気圧範囲は限られている。また、HDDのテスト工程において、磁気ディスク上の全ての半径位置において測定を行うことは実際的に不可能である。そのため、温度全域において温度とヒータ・パワーとの正確な関係を特定すること、気圧全域において気圧とヒータ・パワーとの正確な関係を特定すること、また、記録領域全域において上記二つの正確な関係を特定することは不可能である。
【0008】
そのため、実際のHDDの設計においては、TFCにおける推定クリアランスと実際クリアランスとの間の誤差によるヘッド・ディスク接触を避けるため、所定のクリアランス・マージンが確保されている。HDDは、このクリアランス・マージンを含むクリアランアスをターゲット・クリアランスとして、TFCを行う。
【0009】
さらなるデータ記録密度を実現するためには、クリアランス・マージンを小さくすることが必要である。それを実現する一つの方法は、ヘッド・スライダと磁気ディスクとの接触を、常時監視し、ヘッド・ディスク接触が起きた場合にヒータ・パワーを小さくしてクリアランスを大きくする。このようにヘッド・スライダ内に接触を検知するセンサ素子を実装する技術は、例えば、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−16158号公報
【特許文献2】特開2002−192742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ヘッド・スライダ上の素子へ信号(グランド電位を含む)を伝送する複数の導体線路は、サスペンション上に配置される。BPIの増加に伴う記録周波数の増加により、リード信号線上のリード信号に対するライト信号線上のライト信号からのクロストークが問題となる。ライト信号によるクロストーク電流の発生は、リード素子へ供給可能なセンス電流を小さくし、リード素子の感度を低下させる。
【0012】
このクロストークを抑制するためには、ライト信号線とリード信号線との間の距離を大きくすることが有効である。ヘッド・スライダがヒータ素子を有する場合、サスペンション上には、2本のリード信号線(リード信号線ペア)と2本のライト信号線(ライト信号線ペア)の他に、2本のヒータ信号線(一方がグランド線である場合を含む)が配置される。
【0013】
上記特許文献2は、2本のヒータ信号線を、リード信号線ペアとライト信号線ペアとの間に配置することを提案している。ヒータ信号線上の信号は、ライト信号と比較して極めて低い周波数の信号と見なすことができる。そのため、ヒータ信号のリード信号へのクロストークは存在せず、そして、ライト信号線ペアとリード信号線ペアとの距離を大きくできるので、リード線おけるクロストーク電流を低減することができる。
【0014】
しかし、上述のように、ヘッド・スライダが接触センサ素子を有している場合には、サスペンション上の配線レイアウトについて、新たな検討が必要とされる。ヒータ素子に加え接触センサ素子をヘッド・スライダに実装する場合、典型的には、サスペンション上には、8本の導体線路(グランド線も含む)が配置される。リード素子、ライト素子、ヒータ素子、そしてセンサ素子のそれぞれに2本の導体線路が割り当てられる。
【0015】
サスペンション上の配線レイアウトにおいては、リード信号へのクロストーク低減の他、接触センサ素子への過大入力の防止、さらに、信号伝送配線のヒート・バランスを考慮することが重要である。構造のシンプリシティと接触検知精度との観点から、抵抗値の熱感度が大きい金属薄膜で接触センサ素子を形成することが好ましい。このような接触センサ素子は、過大電流により容易に破損する。また、信号伝送配線からの熱がアンバランスであると、ジンバルの熱変形によりサスペンションの空力特性が変化し、ヘッド・スライダの位置決め精度への悪影響を及ぼす。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一態様のヘッド・ジンバル・アセンブリは、サスペンションと、前記サスペンション上に固定されているヘッド・スライダと、前記ヘッド・スライダに形成されている、ライト素子、リード素子、ヒータ素子そして接触センサ素子と、前記ヘッド・スライダの信号を伝送する、並んで配列された複数の信号伝送線からなる信号伝送線束とを有する。前記信号伝送線束は、隣接するリード信号伝送線からなるリード信号伝送線ペアと、隣接するライト信号伝送線からなるライト信号伝送線ペアと、ヒータ信号伝送線ペアと、接触センサ信号伝送線ペアとを有する。前記ライト信伝送号線ペアと前記リード信号伝送線ペアとの間に、前記ヒータ信号伝送線ペアの少なくとも1本のヒータ信号伝送線が配線されており。前記ライト信号伝送線ペアと前記接触センサ信号伝送線ペアのとの間に、前記ヒータ信号線ペアの少なくとも1本のヒータ信号伝送線が配線されている。この配線レイアウトにより、ヘッド・スライダ上のヒータ素子及び接触センサ素子により高精度なクリアランス制御を行うと共に、リード素子の感度低下、ヘッド・スライダの信頼性の低下及び位置決め制度の低下を小さくすることができる。
【0017】
本発明の他の態様のヘッド・ジンバル・アセンブリは、サスペンションと、前記サスペンション上に固定されているヘッド・スライダと、前記ヘッド・スライダに形成されている、ライト素子、リード素子、ヒータ素子、接触センサ素子、そして熱アシスト記録の光を生成する光学素子と、前記ヘッド・スライダの信号を伝送する、配列された複数の信号伝送線からなる信号伝送線束とを有する。前記信号伝送線束は、隣接するリード信号伝送線からなるリード信号伝送線ペアと、隣接するライト信号伝送線からなるライト信号伝送線ペアと、ヒータ信号伝送線ペアと、光学素子信号伝送線ペアと、接触センサ信号伝送線ペアとを有する。前記ライト信号線ペアと前記リード信号線ペアとの間に、前記ヒータ信号線ペア及び前記光学素子信号伝送線ペアの内の少なくとも1本の信号伝送線が配線されている。前記ライト信号線ペアと前記接触センサ信号線ペアとの間に、前記ヒータ信号線ペア及び前記光学素子信号伝送線ペアの内の少なくとも1本の信号伝送線が配線されている。この配線レイアウトにより、ヘッド・スライダ上のヒータ素子及び接触センサ素子により高精度なクリアランス制御を行うと共に、リード素子の感度低下、ヘッド・スライダの信頼性の低下及び位置決め制度の低下を小さくすることができる。
【0018】
好ましい構成において、前記接触センサ信号伝送線ペアは、隣接する接触センサ信号伝送で構成されている。これにより、接触センサ信号をより正確に伝送することができる。
【0019】
好ましい構成において、前記信号伝送配線束は、前記ヘッド・スライダの近傍において第1の分岐信号伝送配線束と第2の分岐信号伝送配線束とに分岐し、前記第1の分岐信号伝送配線束と前記第2の分岐信号伝送配線束のそれぞれは、前記リード信号線及び前記接触センサ信号線の内の少なくとも1本を含む。これにより、分岐信号伝送配線束が伝送電流量の大きい信号伝送線のみで構成されることがなく、熱バランスの点で好ましい。
【0020】
さらに好ましくは、前記第1の分岐信号伝送配線束と前記第2の分岐信号伝送配線束のそれぞれは、前記信号伝送配線束の半数の信号伝送線から構成されている。この構成が、レイアウト・バランス及び熱バランスの点から好ましい。なお、信号伝送配線束が奇数の信号伝送配線で構成されているとき、半数の信号伝送線で構成されている一方の分岐信号伝送配線束は、半数の信号伝送線で構成されている他方の分岐信号伝送配線束よりも1本多い信号伝送線を有する。これは、以下の記載において同様である。
【0021】
好ましい構成において、前記信号伝送線束は、ピエゾ素子の信号を伝送するピエゾ信号伝送線のペアを含み、前記ピエゾ信号伝送線ペアと前記リード信号線ペアとの間に、前記ヒータ信号線ペアの少なくとも1本のヒータ信号伝送線が配線されている。これにより、ピエゾ信号伝送線からのリード信号線へのクロストークを低減できる。
【0022】
好ましい構成において、前記信号伝送配線束は、前記ヘッド・スライダの近傍において第1の分岐信号伝送配線束と第2の分岐信号伝送配線束とに分岐し、前記第1の分岐信号伝送配線束と前記第2の分岐信号伝送配線束のそれぞれは、前記リード信号線、前記接触センサ信号線、前記ピエゾ信号伝送線の内の少なくとも1本を含む。これにより、分岐信号伝送配線束が伝送電流量の大きい信号伝送線のみで構成されることがなく、熱バランスの点で好ましい。
【0023】
好ましい構成において、前記ヘッド・スライダの端面に前記複数の信号伝送線の接続パッドが配列されており、前記接触センサ素子の二つの接続パッドが両端に配置されている。これにより、ヘッド・スライダにおける接触センサ素子の配線抵抗を小さくすることができる。
【0024】
好ましい構成において、前記ヒータ信号線ペアの一方のヒータ信号伝送線はグランド線であり、前記グランド線は前記リード信号伝送線ペアに隣接している。
好ましい構成において、前記ヒータ信号線ペアの一方の信号伝送線及び/もしくは前記光学素子信号伝送線ペアの一方の信号伝送線はグランド線であり、前記グランド線は前記リード信号伝送線ペアに隣接している。これらにより、リード信号伝送線へのクロストークをさらに低減することができる。
【0025】
好ましい構成において、前記信号伝送配線束は、前記ヘッド・スライダの近傍において第1の分岐信号伝送配線束と第2の分岐信号伝送配線束とに分岐し、前記第1の分岐信号伝送配線束と前記第2の分岐信号伝送配線束のそれぞれは、前記信号伝送配線束の半数の信号伝送線から構成され、前記第1の分岐信号伝送配線束と前記第2の分岐信号伝送配線束のそれぞれは、前記リード信号伝送線及び前記接触センサ信号伝送線の内の少なくとも1本を含み、前記ヘッド・スライダの端面に前記複数の信号伝送線の接続パッドが配列されており、前記接触センサ素子の二つの接続パッドが両端に配置されている。これにより、これにより、好ましい熱バランスを実現すると共に、ヘッド・スライダにおける接触センサ素子の配線抵抗を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ヘッド・スライダ上のヒータ素子及び接触センサ素子により高精度なクリアランス制御を行うと共に、リード素子の感度低下、ヘッド・スライダの信頼性の低下及び位置決め制度の低下を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態において、ハードディスク・ドライブの全体構成を模式的に示すブロック図である。
【図2】本実施形態において、ヘッド・ジンバル・アセンブリの構成を模式的に示す平面図である。
【図3】本実施形態において、信号伝送配線の好ましいレイアウトの一つを模式的に示す図である。
【図4】本実施形態において、ヘッド・スライダの接続パッドの好ましい配列を模式的に示す図である。
【図5】本実施形態において、信号伝送配線の好ましいレイアウトの一つを模式的に示す図である。
【図6】本実施形態において、信号伝送配線の好ましいレイアウトの一つを模式的に示す図である。
【図7】本実施形態において、信号伝送配線の好ましいレイアウトの一つを模式的に示す図である。
【図8】本実施形態において、光学素子の信号伝送線ペアを有する信号伝送配線の好ましいレイアウトを模式的に示す図である。
【図9】本実施形態において、ピエゾ素子の信号伝送線ペアを有する信号伝送配線の好ましいレイアウトを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明を適用した実施の形態を説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略及び簡略化がなされている。又、各図面において、同一要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため、必要に応じて重複説明は省略されている。以下においては、ディスク・ドライブの一例であるハードディスク・ドライブ(HDD)に本発明を適用した実施形態を説明する。
【0029】
本形態のヘッド・スライダ上のヘッド素子部は、リード素子及びライト素子に加え、磁気ディスクとヘッド素子部との間のクリアランスを調整するためのヒータ素子、さらに、ヘッド・スライダと磁気ディスクとの接触を検知する接触センサ素子とを有している。HDDは、ヒータ素子からの発熱を制御することで、ヘッド素子部と磁気ディスクとの間のクリアランスを制御することができる。このようなスライダ上のヒータ素子を使用するクリアランス制御をTFC(Thermal Fly height Control)と呼ぶ。
【0030】
HDDは、さらに、接触センサ素子によってヘッド・スライダと磁気ディスクとの接触を監視する。接触センサ素子が接触を検知すると、HDDはヒータ素子へのヒータ・パワーを小さくして、クリアランアスを増加させる。これにより、HDDは、小さいクリアランス・マージンにおいて、クリアランアス制御を行うことができる。
【0031】
接触センサ素子は、温度抵抗係数の大きな金属薄膜で構成する。HDDは、金属薄膜の抵抗値を測定することで、磁気ディスクとヘッド・スライダの接触を検知することができる。このように、金属抵抗薄膜により接触センサ素子を構成することで、高い精度で磁気ディスクとヘッド・スライダ(ヘッド素子部)との接触を検知することができる。また、接触センサ素子を有するヘッド素子部をシンプルな構造で構成することができる。
【0032】
本形態は、ヘッド素子部への信号を伝送する導体線路の配置及びヘッド・スライダ上の接続パッド配置にその特徴を有している。ヒータ素子に接続されている導体線路は、ヒータへのパワーを伝送する。本明細書においては、この導体線路も含み、上記4つの素子に接続される導体線路を信号伝送線と呼ぶ。ヒータ素子の導体線路の一つは、グランド線であることがある。このような構成において、グランド線も信号伝送線と呼ぶ。また、これら信号伝送線のグループを信号伝送配線と呼ぶ。
【0033】
本形態における信号伝送配線レイアウト及びヘッド・スライダ上の接続パッド配置について具体的な説明を行う前に、本発明を適用可能なHDDの全体構造について説明する。図1は、本実施形態におけるHDDの基本構成を模式的に示す上面図である。磁気ディスク11はデータを記憶するディスクの一例であり、磁性層が磁化されることによってデータを記録する。ベース12は、ガスケット(不図示)を介してベース12の上部開口を塞ぐカバー(不図示)と固定することによってエンクロージャを構成し、HDD1の各構成要素を収容する。
【0034】
ベース12の底面に固定されたスピンドル・モータ13は、そこに固定されている磁気ディスク11を所定の角速度で回転する。磁気ディスク11にアクセスするヘッド・スライダ15は、磁気ディスク11へのデータ書き込み及びデータ読み出しのためのヘッド素子部と、そのヘッド素子部がその上に形成されているスライダとを有している。
【0035】
アクチュエータ16は、ヘッド・スライダ15を支持し、それを移動する。アクチュエータ16は回動軸17に回動自在に保持されており、ボイス・コイル・モータ(VCM)19により駆動される。アクチュエータ16は、ヘッド・スライダ15が配置されたその先端部から、サスペンション161、アーム162及びボイス・コイル163の順で結合された各構成部材を備えている。ボイス・コイル163は、VCM19の一部品である。
【0036】
アクチュエータ16が軸17上で回動することによって、ヘッド・スライダ15が回転する磁気ディスク11上においてその半径方向に移動する。磁気ディスク11に対向するスライダの浮上面で発生する浮力とサスペンション161による押し付け力とがバランスすることによって、ヘッド・スライダ15は磁気ディスク11上を所定のクリアランスにおいて浮上する。
【0037】
ヘッド・スライダ15の信号は、アクチュエータ16上に配設されている信号伝送配線164が伝送する。典型的には、信号伝送配線164は、サスペンション161の金属層(裏打ち金属層)の上に、ポリイミド絶縁層を介して形成されている。さらに、信号伝送配線164の上にはポリイミドのオーバーコート層が積層されている。信号伝送配線164の各信号伝送線(導体線路)は、ポリイミドにより分離されている。
【0038】
信号伝送配線164は、一端がヘッド・スライダ15に電気的かつ物理的に接続され、他端はプリアンプIC182が実装されたFPC(Flexible Printed Circuit)18に電気的かつ物理的に接続される。典型的には、FPC18は金属あるいは樹脂でできた板上に形成されている。信号伝送配線164は、ヘッド・スライダ15とプリアンプIC182との間の信号、あるいは、FPC18を介して接続された他の回路とヘッド・スライダ15との間の信号を伝送する。
【0039】
典型的に、リード信号及びライト信号はプリアンプIC182を介して伝送される。ヒータ素子の信号は、プリアンプIC182を介さず、他の回路から与えられる構成も知られている。FPC18はコネクタ181を介して、ベース12の外側裏面に実装される制御回路基板(不図示)と電気的に接続されている。FPC18は、制御回路とプリアンプIC182との間の信号を伝送する。HDD1の動作制御及びその信号処理は、制御回路基板上の制御回路が行う。
【0040】
図2は、ヘッド・スライダ15とサスペンション161のアセンブリであるヘッド・ジンバル・アセンブリ(HGA)160の構成を模式的に示す平面図であり、磁気ディスク11の記録面に対向する面を示している。サスペンション161は、ジンバル611、ロード・ビーム612及びマウント・プレート613を備えている。ロード・ビーム612はヒンジ部621を有しており、ヘッド・スライダ15をディスク側に押圧するバネ機能を示す。ロード・ビーム612は、アクチュエータ16が回動する際に、ジンバル611を安定した姿勢で支持するための剛性機能を有する。ベース・プレート613は、ロード・ビーム612をアーム162に固定するための強度を有する。
【0041】
ジンバル611は例えばステンレス鋼で形成することができ、所望の弾性を有する。ジンバル611の前部において、舌片状のジンバル・タングが形成されており、その上にヘッド・スライダ15が低弾性エポキシ樹脂などによって固着されている。ジンバル・タングは、ロード・ビーム612のディンプルを中心として、ヘッド・スライダ15を、ピッチ方向あるいはロール方向に回動させる。本明細書においては、ヘッド・スライダ15が固定されている側を前側、ベース・プレート613が固定されている側を後側と呼ぶ。
【0042】
信号伝送配線164はジンバル611上に形成されている。ジンバル611は、本体部からプリアンプIC182(後方)に向かって延びるテイル部614を有している。テイル部614の先端はマルチコネクタ・タブ169であり、プリアンプIC18が実装されているFPC18に電気的かつ物理的に接続される。本例において、マルチコネクタ・タブ169は8つの接続パッドを有しており、それぞれに信号伝送配線164の信号伝送路がつながっている。このように、信号伝送配線164は、ヘッド・スライダ15の接続パッドとマルチコネクタ・タブ169の接続パッドとの間において、ジンバル611上を引き回されている。
【0043】
HDD1は、1枚もしくは複数枚の磁気ディスクを有することができる。アクチュエータ16は、実装されている磁気ディスクの記録面と同数のHGA160を有している。それらは、同様の構造を有しており、全く同一あるいは左右対称な構造を有する。本発明の信号伝送配線レイアウトは、上記サスペンション構造に限定されず、他の構造を有するサスペンションにも適用することができる。
【0044】
以下において、本実施形態における信号伝送配線164のレイアウトについて具体的に説明を行う。図3は、信号伝送配線164の好ましいレイアウトの一つを模式的に示している。図3は、磁気ディスク11から見た配線レイアウトあるいはその裏面から(ジンバル611から)見た配線レイアウトを示している。以下に示すいずれの伝送配線レイアウトの鏡像も、その伝送配線レイアウトと同様の効果を奏する。従って、以下に説明する伝送配線レイアウトの鏡像も、本発明の好ましい構成である。
【0045】
ヘッド・スライダ15は、ライト素子151、リード素子152、ヒータ素子153そして接触センサ素子154を有している。図3において、ヘッド・スライダ15の上端がトレーリング端であり、下端はリーディング端である。ヘッド・スライダ15のトレーリング端には、複数の接続パッドが配列されている。本構成においては、ヘッド・スライダ15は8つの接続パッドを有している。
【0046】
接続パッドは、ヘッド・スライダ上の内部配線によって、ライト素子151、リード素子152、ヒータ素子153そして接触センサ素子154に接続される。図3においては、ライト素子151の接続パッド(ライト・パッド)にW、リード素子152の接続パッド(リード・パッド)にR、ヒータ素子153の接続パッド(ヒータ・パッド)にH、そして接触センサ素子154の接続パッド(センサ・パッド)にSを付している。それぞれの素子には、2つの接続パッドが接続されている。
【0047】
一般に、ライト素子151は一つもしくは複数の磁極とコイルとで構成され、リード素子152は磁気抵抗効果素子で構成される。ヒータ素子153は、例えば、パーマロイの蛇行する薄膜抵抗体で形成することができる。接触センサ素子154は、温度抵抗係数の大きな金属で形成された薄膜抵抗体である。ニッケル、鉄あるいはコバルトなど、ヘッド素子部において一般に使用される金属を利用することができる。接触センサ素子154に、薄膜抵抗体の一つである磁気抵抗効果素子を使用してもよい。
【0048】
HDD1は、ヒータ素子153への電力を制御することでその発熱量を制御する。ヒータ素子153の発熱量に応じてヘッド素子部の熱膨張量が変化し、クリアランスを変化させることができる。HDD1の制御回路は、ヒータ素子153への電力を制御することで、クリアランアスを制御する。
【0049】
また、制御回路は、接触センサ素子154によりヘッド・スライダ15と磁気ディスク11との接触を監視する。ヘッド・スライダ15と磁気ディスク11とが接触すると、接触センサ素子154の温度が上昇し、それに伴いその抵抗値が増加する。制御回路は、接触センサ素子154の抵抗値を監視することで、ヘッド・スライダ15と磁気ディスク11との間の接触を検知することができる。好ましい例において、制御回路は接触センサ素子154の抵抗値を、記録再生中を含めて常時監視し、接触センサ素子154の抵抗値が閾値を越えて規定時間を経過すると、制御回路は接触が起きていると判定する。
【0050】
接触センサ素子154により接触を検知すると、制御回路はヒータ素子153へのヒータ・パワーを小さくすることで、クリアランアスを大きくする。このように、ヘッド・スライダ15と磁気ディスク11との接触を監視することで、より小さいクリアランスを実現することができる。なお、本発明は、接触センサ素子154による接触検知を他の方法で利用するHDDにも適用することができる。例えば、制御回路は、接触センサ素子154の抵抗値を、フォローイング処理中のみ監視してもよい。
【0051】
図3に示すように、ヘッド・スライダ15の接続パッドは、トレーリング端において左右方向に一例に配列されている。左右方向は、ヘッド・スライダ15のスライド方向及び浮上方向に垂直な方向である。典型的なヘッド・スライダ15はこのようなパッド配置を有し、また、左右方向における一列配置が好ましい。本発明は、他のパッド配置に適用することができる。
【0052】
図3の構成において、ヘッド・スライダ15の接続パッドは、センサ・パッド、ヒータ・パッド、ライト・パッド、ライト・パッド、リード・パッド、リード・パッド、ヒータ・パッドそしてセンサ・パッドの順で配列されている。これら接続パッドには、それぞれの素子の信号(グランドを含む)の信号伝送線が接続されている。図3においては、各信号配線に対して、対応する素子の符号が付されている。
【0053】
左半分の4つの接続パッド(SHWW)から延びる信号伝送線は、ヘッド・スライダ15の左側面に沿って後方へと(マルチコネクタ・タブ169に向かって)延びている。この信号伝送線の束641において、4本の信号伝送線は互いに平行である。一方、右半分の4つの接続パッド(RRHS)から延びる信号伝送線は、ヘッド・スライダ15の右側面に沿って後方へと(マルチコネクタ169に向かって)延びている。この信号伝送線の束642において、4本の信号伝送線は互いに平行である。
【0054】
信号伝送線の二つの束は、ヘッド・スライダ15のリーディング端の後方で合流して一つの束643となり、さらに、後方へと延びてマルチコネクタ169に達する。合流した後の8本の信号伝送線からなる束643において、信号伝送線は互いに平行である。図3においては、各素子の信号伝送線には接続パッドと同様の符号を付している。
【0055】
ライト信号を伝送する信号伝送線にはW、リード信号を伝送する信号伝送線にはR、ヒータ信号(ヒータ・パワーを意味する)を伝送する信号伝送線にはH、そして、センサ信号を伝送する信号線にはSを付している。なお、束641〜643のそれぞれを構成する信号伝送線は互いに平行であることが好ましいが、必ずしもそうでなくともよい。典型的には、信号伝送配線において、全ての信号伝送線は同一面上に形成されている。従って、各信号伝送線が互いに交差することはない。
【0056】
図3の信号伝送配線レイアウトにおいて、信号伝送線は、ヘッド・スライダ15を避けるように、その近傍において二つの束641、642に分岐する。一方、リーディング端より後方において、信号伝送線は一つの束643となり、その配列順序は変化することなくマルチコネクタ・タブ169まで延びている。信号伝送配線のレイアウトにおいては、ヘッド・スライダ15近傍における信号伝送配線長は短いため、信号品質(クロストーク)の点では距離が長いリーディング端より後方の部分がより重要である。
【0057】
図3の構成において、リーディング端よりも後方(信号伝送線束643)における信号伝送配線の配列順序は、図3における左端から、WWHSSHRRである。リード素子及びライト素子の信号伝送線は、隣接する信号伝送線ペアで構成されている。隣接している信号伝送線の間には、他の信号伝送線は存在しない。ライト信号伝送線ペアWW、そしてリード信号伝送線ペアRRのそれぞれにおいて、2本の導体線路は隣接している。これにより、これら素子の信号をより正確に伝送することができる。ヒータ素子153の信号は、他の信号と比較して変化が少なく、その信号伝送配線ペアHHの二本の導体線路を離しても、実質的な問題はない。
【0058】
本構成において重要な点の一つは、ライト信号伝送線ペアWWとリード信号伝送線ペアRRとの間にヒータ信号伝送線Hが存在すると共に、ライト信号線ペアWWと接触センサ信号伝送線Sとの間にもヒータ信号伝送線Hが配線されていることである。リード信号伝送線ペアRRとライト信号伝送線ペアWWとの間にヒータ信号伝送線Hを配置することで、それらの距離が遠くなり、ライト信号伝送線からリード信号伝送線へのクロストークを低減することができる。
【0059】
ヒータ信号は、ライト信号と比較して時定数が大きく、また、変化の頻度が少ないことから、ヒータ信号によるリード信号へのクロストークは発生しない。クロストークにおいては、時定数が重要な特性となる。時定数は、信号変化に要する時間である。信号がロア・レベルから目的のハイ・レベルに変化する、あるいは、ハイ・レベルから目的のロア・レベルに達するまでに時間である。典型的な制御において、信号の立ち上がり及び立下りにおける時定数は同一であり、信号の変化レベルによらず一定である。
【0060】
上述のように、接触センサ素子154は、金属薄膜で形成されている。そのため、接触センサ素子154に過大電流が流れると破損する可能性が高い。ライト信号伝送線に隣接する接触センサ信号伝送線には、ライト信号によるクロストーク電流が発生しやすい。このクロストーク電流は、接触センサ素子154の抵抗検知のための電流に加わり、接触センサ素子154を破損する可能性がある。そこで、図3の構成のように、接触センサ信号伝送線ペアを隣接した伝送線のペアとし、ライト信号伝送線ペアWWと接触センサ信号伝送線ペアSSとの間にヒータ信号伝送線Wが配線することが望ましい。この配線により、ライト信号伝送線ペアWWと接触センサ信号伝送線ペアSSの距離が遠くなり、接触センサ信号伝送線Sにおける過大電流の発生の可能性と小さくし、信頼性を向上することができる。
【0061】
更に、ライト信号伝送線ペアWWからの影響は、リード信号伝送線ペアRRに対する影響の方が、センサ信号伝送線ペアSSへの影響よりも重要な問題である。従って、リード信号伝送線ペアRRとライト信号伝送線ペアWWとの間に、センサ信号伝送線ペアSSが存在することが好ましい。図3の構成例は、この条件を満足している。また、接触センサ信号伝送線ペアを互いに隣接させる構成がより望ましい。
【0062】
信号伝送配線のレイアウトにおいて、もう一つ重要な点がある。それは、信号伝送配線におけるヒート・バランスである。信号伝送配線において、伝送電流値が大きく熱源となりうる信号伝送線は、ライト信号伝送線とヒータ信号伝送線である。ライト信号伝送線ペアWWとヒータ信号伝送線ペアHHが、分岐後の信号伝送線束の一方に全てまとめられていることは好ましくない。つまり、これら信号伝送線の一部が信号伝送線束641内にあり、他の一部が信号伝送線束642内にあるように、信号伝送線を配線することが好ましい。
【0063】
図3の構成において、2本のライト信号伝送線Wと1本のヒータ信号伝送線Hとが、左側の分岐束641内に配線されている。もう1本のヒータ信号伝送線Hは、右側の分岐束642内に配線されている。本構成においては、ライト信号伝送線とヒータ信号伝送線の内、1本の信号伝送線が他の信号伝送線から分かれて、ヘッド・スライダ15を挟んでそれらと反対側に配線されている。これによって、信号伝送配線における熱がヘッド・スライダ15の一方の側のみに集中することを避け、熱変形によるサスペンションのダイナミクスの変化によって位置決め精度が低下することを防ぐことができる。
【0064】
接触センサ素子154は、抵抗変化を測定する素子である。従って、その信号伝送線は低抵抗であることが重要である。この点は、サスペンション上の信号伝送線に限らず、ヘッド・スライダ15内の信号伝送線についても同様である。そこで、接触センサ素子の接続パッドは、ヘッド・スライダのトレーリング端面において、パッド列における両端に形成されていることが好ましい。これにより、ヘッド・スライダ15内において接触センサ素子154の信号伝送線をより容易に太くすることができる。
【0065】
図4は、リーディング端面上の接続パッド列を模式的に示している。図4の上の図において、接触センサ・パッドSは、パッド列の両端にある。下の図においては、二つの接触センサ・パッドSが片側のみにされている。それぞれの図の斜線部は、ヘッド・スライダ15内の信号伝送線(電極)を示している。二つの図から容易に理解されるように、接触センサ・パッドSをパッド列の両端に配置することで、ヘッド・スライダ15内の配線を太くでき、接触センサ154の抵抗変化をS/N比良く測ることができる。
【0066】
図3の好ましい構成例に示すように、信号伝送線束643は、半数の信号伝送線からなる2つの信号伝送線束641、642に分岐することが好ましい。信号伝送配線が奇数本の信号伝送線で構成されている場合、半数からなる2つの信号伝送線束に分岐している構成においては、分岐後の信号伝送線束間における本数の差が1である。この構成を有する場合、両端にある接触センサ・パッドからの信号伝送線は、合流後の信号伝送線束643において、中央において延びる2本の信号伝送線である。従って、接触センサ素子154のヘッド・スライダ内配線の低抵抗化の観点からも、図3に示す本構成は好ましい構成である。
【0067】
ヒータ信号伝送のためには、バランス伝送あるいはアンバランス伝送の双方が可能である。アンバランス伝送においては、ヒータ信号伝送線ペアHHの一方の信号伝送線Hは、グランド線Gである。この構成において、図3に示すように、グランド線Gがリード信号伝送線ペアRRに隣接していることが好ましい。グランド線は、もう一方の信号伝送線と比較してノイズが小さいため、リード信号への悪影響をより低減することができるからである。
【0068】
図5は、本実施形態における他の好ましい構成を模式的に示している。図3の構成との相違の一つは、信号伝送線の配列順序が逆になっている点である。上述のように、本実施形態において、一つの配列とその鏡像配列とは同様の効果を奏するため、実質的な相違ではない。他の相違点は、図3の構成においてリード信号伝送線ペアRRと接触センサ信号伝送線ペアSSとの間に配線されているヒータ信号伝送線Hが、リード信号伝送線ペアRRを挟んで接触センサ信号伝送線ペアSSの反対側に配置されている点である。この信号伝送線の配置変化に伴い、接続パッドの配置も変化している。
【0069】
図5の構成においても、ヒータ素子153以外の素子の信号伝送線ペアの隣接、リード信号伝送線ペアRRとライト信号伝送線ペアWWとの間のヒータ信号伝送線H、接触センサ信号伝送線ペアSSとライト信号伝送線ペアWWとの間のヒータ信号伝送線Hの各条件が満足されている。
【0070】
また、ヒータ信号伝送線Hとライト信号伝送線Wの内、3本が分岐後の信号伝送線束642内にあり他の1本は他方の信号伝送線束641内にある。さらに、接触センサ・パッドは、パッド列の両端に形成されている。リード信号伝送線ペアRRとライト信号伝送線ペアWWとの距離を大きくするためには、図3の構成が図5の構成よりも好ましい。その他の点においては、図5の構成は図3の構成と同様の効果を奏する。ヒータ信号伝送線の一方がグランド線Gである場合、リード信号伝送線Rに隣接するヒータ信号伝送線がグランド線Gであることが好ましい点は、図3の構成と同様である。
【0071】
図6は、本実施形態における他の好ましい構成を模式的に示している。図3の構成との相違は、接触センサ信号伝送線ペアSSとライト信号伝送線ペアWWとが入れ替わっていることである。この信号伝送線の配置変化に伴い、接続パッドの配置も変化している。この構成においても、ヒータ素子153以外の素子の信号伝送線ペアの隣接、リード信号伝送線ペアRRとライト信号伝送線ペアWWとの間のヒータ信号伝送線H、接触センサ信号伝送線ペアSSとライト信号伝送線ペアWWとの間のヒータ信号伝送線Hの各条件が満足されている。
【0072】
本構成においては、ヒータ信号伝送線Hとライト信号伝送線Wの内、半分の2本が分岐後の一方の信号伝送線束641内にあり他の半分の2本が他方の信号伝送線束642内にある。従って、ヒート・バランスの点からは、本構成が図3の構成よりもよりも優れている。一方、接触センサ・パッドは、パッド列の片側のみに配置され、また、リード信号伝送線ペアRRとライト信号伝送線ペアWWとの距離は、図3の構成における距離よりも小さい。これらの点においては、図3の構成が図6の構成よりも好ましい。ヒータ信号伝送線の一方がグランド線である場合、リード信号伝送線Rに隣接するヒータ信号伝送線がグランド線Gであることが好ましい点は、図3の構成と同様である。
【0073】
図7は、本実施形態における他の好ましい構成を模式的に示している。図3の構成との相違は、接触センサ信号伝送線ペアSSとリード信号伝送線ペアRRとが入れ替わっていることである。この信号伝送線の配置変化に伴い、接続パッドの配置も変化している。この構成においても、ヒータ素子153以外の素子の信号伝送線ペアの隣接、リード信号伝送線ペアRRとライト信号伝送線ペアWWとの間のヒータ信号伝送線H、接触センサ信号伝送線ペアSSとライト信号伝送線ペアWWとの間のヒータ信号伝送線Hの各条件が満足されている。
【0074】
図7の構成において、図3の構成と同様に、ヒータ信号伝送線Hとライト信号伝送線Wの内、3本が分岐後の信号伝送線束641内にあり他の1本は他方の信号伝送線束642内にある。リード信号伝送線ペアRRの両隣接信号伝送線がヒータ信号伝送線Hであるため、アンバランス伝送においてはいずれのヒータ信号伝送線がグランド線であってもよい。一方、図7の構成において、接触センサ・パッドは、パッド列の片側のみに配置され、また、リード信号伝送線ペアRRとライト信号伝送線ペアWWとの距離は、図3の構成における距離よりも小さい。これらの点においては、図3の構成が図7の構成よりも好ましい。
【0075】
以上の説明から理解されるように、ライト信号伝送線からリード信号伝送線へのクロストーク、ライト信号伝送線からセンサ信号伝送線へのクロストーク、信号伝送配線のヒート・バランス、そして接続パッド配置を総合的に考慮すると、図3に示す信号伝送配線レイアウトが最も好ましい。
【0076】
図3〜図7を参照して説明した構成において、ヘッド・スライダ15は、ライト素子151、リード素子152、ヒータ素子153そして接触センサ素子154を有している。記録密度を向上する技術として、熱アシスト記録が知られている。熱アシスト記録は、磁気記録層に対してエネルギーを与えながら、ライト素子からの記録磁界により磁気データを記録する。
【0077】
熱アシスト記録のためのヘッド・スライダは、熱を磁気ディスクに与えるための素子を有している。熱アシスト記録に使用される素子は、熱を与えるヒータあるいは光を与える光学素子である。光による熱アシストのために発光素子がヘッド・スライダ15上に形成されている構成において、信号伝送配線は発光素子への信号伝送線を含みうる。このような構成においては、信号伝送配線は、10本の信号伝送線を有する。
【0078】
図8は、リード素子、ライト素子、ヒータ素子、接触センサ素子そして光学素子を有するヘッド・スライダへの信号伝送配線のレイアウトの好ましい例を示している。ヘッド・スライダ15近傍で分岐する前の信号伝送線束の配列を示している。図8のアルファベットは、それぞれ、素子への信号伝送線を示しており、Oは光学素子への信号伝送線を示している。図8は、24の好ましいレイアウト例を示している。
【0079】
クロストーク及びヒート・バランスの点おいて、光学素子への信号伝送線は、ヒータ素信号伝送線と同様の性質を持っていると見なすことができる。この10本構成の信号伝送配線において、ヒータ信号伝送線ペアHH及び光学素子信号伝送線ペアOO以外の信号伝送線ペアは、隣接する対応信号伝送線で構成する。ライト信号伝送線ペアWWとリード信号伝送線ペアRRとの間には、ヒータ信号伝送線Hもしくは光学素子信号伝送線Oの少なくとも1本が配線される。また、ライト信号伝送線ペアWWと接触センサ信号伝送線ペアSSとの間には、ヒータ信号伝送線Hもしくは光学素子信号伝送線Oの少なくとも1本が配線される。
【0080】
ヒート・バランスの点から、左右半数の信号伝送線束がライト信号伝送線W、ヒータ信号伝送線H及び光学素子信号伝送線Oのみでは構成されておらず、それら以外のリード信号伝送線Rあるいは接触センサ信号伝送線Sを含む。本例において、信号伝送配線は、左右それぞれ半数(5本)の信号伝送線束に分岐される。図8の全てのレイアウトは中央に接触センサ信号伝送線ペアSSを有する。このペアは、異なる信号伝送線束に分岐する。従って、双方の信号伝送線束に接触センサ信号伝送線Sが含まれる。また、ヘッド・スライダの接続パッド列において、接触センサ・パッドは両端に位置する。
【0081】
図8に示すレイアウトにおいて、上6つのレイアウトにおけるライト信号伝送線ペアWWとリード信号伝送線ペアRRとの間の距離が最も大きい。つまり、これらペアが信号伝送線束の両端にあり、これらの間に全ての他の信号伝送線が配線されている。この点において、これらのレイアウトは他のレイアウトよりも好ましい。また、ライト信号伝送線ペアWWとリード信号伝送線ペアRRとの間、さらに、ライト信号伝送線ペアWWと接触センサ信号伝送線ペアとの間には、ヒータ信号伝送線H及び光学素子信号伝送線Oの内の2本以上の信号伝送線が配線されていることが好ましい。上記6つのレイアウトはこの条件も満たしている。
【0082】
ヒータ信号伝送線ペアHHの1本、及び/もしくは、光学素子信号伝送線ペアOOの1本がグランド線である場合、そのグランド線はリード信号伝送線ペアRRに隣接する信号伝送線であることが好ましい。これは上記8本の信号伝送配線と同様である。もし、ヒータ信号伝送線ペアHHと光学素子信号伝送線ペアOOとが、グランド線を共有する場合、そのグランド線はヒータ信号伝送線及び光学素子信号伝送線のいずれでもあると見なすことができる。この構成においては、9本の信号伝送線で信号伝送配線が構成されるため、半分に分岐した一方の信号伝送線束は4本(半数)の信号伝送線からなり、もう一方の信号伝送線束は5本(半数)の信号伝送線からなる。
【0083】
図9は、リード素子、ライト素子、ヒータ素子、接触センサ素子そしてピエゾ素子を有するHGA上への信号伝送配線のレイアウトの好ましい例を示している。ピエゾ素子はヘッド・スライダ15上あるいはサスペンション161上においてヘッド・スライダ15の近傍に配置される。一つもしくは二つのピエゾ素子の伸縮動作により、ヘッド・スライダ15の位置を微調整することができる。図9において、ピエゾ信号伝送線はPで示されており、一方がグランド線である場合、その線はPgで示されている。
【0084】
ピエゾ信号伝送線ペアPPは高周波(小さい時定数)の信号を伝送するため、クロストークの点からはライト信号伝送線と同様の特性を有すると見なすことができる。従って、そのペアとリード信号線ペアRRとの間、さらに、接触センサ信号線ペアSSとの間にはヒータ信号伝送線が配線されていることが好ましい(上側二つのレイアウト例)。
【0085】
ピエゾ信号線ペアの一方がグランド線Pgである場合、そのグランド線Pgからのクロストークは小さい。従って、図9の下側二つのレイアウト例のように、グランド線と接触センサ信号伝送線ペアSSとは隣接することが設計上許容されうる。レイアウトにおいても、リード信号伝送線ペアRRとピエゾ信号伝送線ペアPPgとの間には、ヒータ信号伝送線Hを配線する。なお、ピエゾ信号伝送線Pからのクロストークが小さいのであれば、ピエゾ信号伝送線Pと接触センサ信号線ペアSSとを隣接配置してもよい。
【0086】
ピエゾ信号伝送線ペアPP、PPgを流れる電流は小さく、設計において発熱を考慮する必要はない。そのため、ヒート・バランスの点においては、ピエゾ信号伝送線ペアPP、PPgは、リード信号伝送線ペアRR及び接触センサ信号線ペアSSと同様の特性を有すると見なすことができる。分岐した信号伝送線束のそれぞれは、リード信号伝送線R、ヒータ信号伝送線H及びピエゾ信号伝送線P、Pgのいずれか1本を少なくとも含む。図9に示す信号配線レイアウトは、10本の信号伝送線束が2つの5本の信号伝送線束に分岐する構成を前提としている。図9の各レイアウトにおいて、右半分及び左半分の信号伝送線に、リード信号伝送線R、ヒータ信号伝送線H及びピエゾ信号伝送線P、Pgのいずれか1本が含まれている。
【0087】
以上、本発明を好ましい実施形態を例として説明したが、本発明が上記の実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、上記の実施形態の各要素を、本発明の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。本発明は、HDD以外のディスク・ドライブ装置に適用してもよい。信号伝送線束は、ヘッド・スライダ近傍において半分に分岐することが好ましいが、一方の束の信号伝送線数が他方の束の信号伝送線数より2本以上多い構成も可能である。ピエゾ素子と光学素子の双方が実装されたHGAにおいても本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0088】
1 ハードディスク・ドライブ、11 磁気ディスク、12 ベース
13 スピンドル・モータ、15 ヘッド・スライダ、16 アクチュエータ
17 回動軸、18 フレキシブルプリンテッド・サーキット
19 ボイス・コイル・モータ、151 ライト素子、152 リード素子
153 ヒータ素子、154 接触センサ素子、160 ヘッド・ジンバル・アセンブリ
161 サスペンション、162 アーム、163 ボイス・コイル
164 信号伝送配線、169 マルチコネクタ・タブ、181 コネクタ
IC182 プリアンプ、611 ジンバル、612 ロード・ビーム
613 マウント・プレート、614 テイル部、621 ヒンジ部
641、642 分岐した信号伝送線束、643 信号伝送線束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サスペンションと、
前記サスペンション上に固定されているヘッド・スライダと、
前記ヘッド・スライダに形成されている、ライト素子、リード素子、ヒータ素子そして接触センサ素子と、
前記ヘッド・スライダの信号を伝送する、並んで配列された複数の信号伝送線からなる信号伝送線束と、を有し、
前記信号伝送線束は、
隣接するリード信号伝送線からなるリード信号伝送線ペアと、
隣接するライト信号伝送線からなるライト信号伝送線ペアと、
ヒータ信号伝送線ペアと、
接触センサ信号伝送線ペアと、を有し、
前記ライト信伝送号線ペアと前記リード信号伝送線ペアとの間に、前記ヒータ信号伝送線ペアの少なくとも1本のヒータ信号伝送線が配線されており、
前記ライト信号伝送線ペアと前記接触センサ信号伝送線ペアのとの間に、前記ヒータ信号線ペアの少なくとも1本のヒータ信号伝送線が配線されている、
ヘッド・ジンバル・アセンブリ。
【請求項2】
サスペンションと、
前記サスペンション上に固定されているヘッド・スライダと、
前記ヘッド・スライダに形成されている、ライト素子、リード素子、ヒータ素子、接触センサ素子、そして熱アシスト記録の光を生成する光学素子と、
前記ヘッド・スライダの信号を伝送する、配列された複数の信号伝送線からなる信号伝送線束と、を有し、
前記信号伝送線束は、
隣接するリード信号伝送線からなるリード信号伝送線ペアと、
隣接するライト信号伝送線からなるライト信号伝送線ペアと、
ヒータ信号伝送線ペアと、
光学素子信号伝送線ペアと、
接触センサ信号伝送線ペアと、を有し、
前記ライト信号線ペアと前記リード信号線ペアとの間に、前記ヒータ信号線ペア及び前記光学素子信号伝送線ペアの内の少なくとも1本の信号伝送線が配線されており、
前記ライト信号線ペアと前記接触センサ信号線ペアとの間に、前記ヒータ信号線ペア及び前記光学素子信号伝送線ペアの内の少なくとも1本の信号伝送線が配線されている、
ヘッド・ジンバル・アセンブリ。
【請求項3】
前記接触センサ信号伝送線ペアは、隣接する接触センサ信号伝送で構成されている、
請求項1または2に記載のヘッド・ジンバル・アセンブリ。
【請求項4】
前記信号伝送配線束は、前記ヘッド・スライダの近傍において第1の分岐信号伝送配線束と第2の分岐信号伝送配線束とに分岐し、
前記第1の分岐信号伝送配線束と前記第2の分岐信号伝送配線束のそれぞれは、前記リード信号線及び前記接触センサ信号線の内の少なくとも1本を含む、
請求項1、2または3に記載のヘッド・ジンバル・アセンブリ。
【請求項5】
前記第1の分岐信号伝送配線束と前記第2の分岐信号伝送配線束のそれぞれは、前記信号伝送配線束の半数の信号伝送線から構成されている、
請求項4に記載のヘッド・ジンバル・アセンブリ。
【請求項6】
前記信号伝送線束は、ピエゾ素子の信号を伝送するピエゾ信号伝送線のペアを含み、
前記ピエゾ信号伝送線ペアと前記リード信号線ペアとの間に、前記ヒータ信号線ペアの少なくとも1本のヒータ信号伝送線が配線されている、
請求項1に記載のヘッド・ジンバル・アセンブリ。
【請求項7】
前記信号伝送配線束は、前記ヘッド・スライダの近傍において第1の分岐信号伝送配線束と第2の分岐信号伝送配線束とに分岐し、
前記第1の分岐信号伝送配線束と前記第2の分岐信号伝送配線束のそれぞれは、前記リード信号線、前記接触センサ信号線、前記ピエゾ信号伝送線の内の少なくとも1本を含む、
請求項6に記載のヘッド・ジンバル・アセンブリ。
【請求項8】
前記ヘッド・スライダの端面に前記複数の信号伝送線の接続パッドが配列されており、前記接触センサ素子の二つの接続パッドが両端に配置されている、
請求項1、2または3記載のヘッド・ジンバル・アセンブリ。
【請求項9】
前記ヒータ信号線ペアの一方のヒータ信号伝送線はグランド線であり、
前記グランド線は前記リード信号伝送線ペアに隣接している、
請求項1に記載のヘッド・ジンバル・アセンブリ。
【請求項10】
前記ヒータ信号線ペアの一方の信号伝送線及び/もしくは前記光学素子信号伝送線ペアの一方の信号伝送線はグランド線であり、
前記グランド線は前記リード信号伝送線ペアに隣接している、
請求項2に記載のヘッド・ジンバル・アセンブリ。
【請求項11】
前記信号伝送配線束は、前記ヘッド・スライダの近傍において第1の分岐信号伝送配線束と第2の分岐信号伝送配線束とに分岐し、
前記第1の分岐信号伝送配線束と前記第2の分岐信号伝送配線束のそれぞれは、前記信号伝送配線束の半数の信号伝送線から構成され、
前記第1の分岐信号伝送配線束と前記第2の分岐信号伝送配線束のそれぞれは、前記リード信号伝送線及び前記接触センサ信号伝送線の内の少なくとも1本を含み、
前記ヘッド・スライダの端面に前記複数の信号伝送線の接続パッドが配列されており、前記接触センサ素子の二つの接続パッドが両端に配置されている、
請求項1、2または3に記載のヘッド・ジンバル・アセンブリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−34628(P2011−34628A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179506(P2009−179506)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】