説明

ヘッド支持機構、ヘッド装置及びディスクドライブ装置

【課題】 製造が容易であり、かつ、ディスクの内外周全域において均一な浮上特性を得ることができるヘッド支持機構、ヘッド装置及びディスクドライブ装置を提供する。
【解決手段】 ヘッド支持機構は、ヘッド素子を有するヘッドスライダを支持するためのサスペンションと、サスペンション上に設けられており、ヘッドスライダが浮上動作しておりかつヘッド素子が動作している状態における必要時に発熱しサスペンションの一部を加熱可能な少なくとも1つの発熱手段とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜磁気ヘッドや光ヘッドなどの記録及び/又は再生ヘッド素子を備えた浮上型ヘッドスライダを支持するヘッド支持機構、このヘッド支持機構を備えたヘッド装置及びディスクドライブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスクドライブ装置(ハードディスクドライブ(HDD)装置)では、ヘッド支持機構の先端部に取り付けられた磁気ヘッドスライダを、回転する磁気ディスクの表面から浮上させ、その状態で、この磁気ヘッドスライダに搭載された薄膜磁気ヘッド素子により磁気ディスクへの記録及び/又は磁気ディスクからの再生が行われる。
【0003】
近年、この種のHDD装置は、ノートパソコンのみならず、ポータブルオーディオプレーヤやデジタルカメラ、携帯電話等のモバイル性の高い機器に搭載され始め、これに伴ってさらなる小型化及び大容量化が要求されている。小型化及び大容量化のためには高記録密度化が必要となり、そのため、磁気ヘッド素子の小型化及び磁気ヘッドスライダの低浮上量化がますます進んでいる。
【0004】
このような小型のHDD装置は、低消費電力化も要求されるので、データ転送の能力は多少犠牲になるものの、磁気ディスクを比較的低速で回転させることが行われている。
【0005】
小型HDD装置では、ディスク面積が小さく記録領域も少なくなることから、記憶領域を少しでも増大させるために、ディスクの最内周部の取付け限界付近までが記録領域として使われる。つまり、最内周部におけるディスク半径が小さいために、低速で回転した場合に、線速度が非常に遅くなる。
【0006】
この非常に低速な線速度でも安定した浮上状態を保つように設計された磁気ヘッドスライダは、外周側のより速い線速度において、内周側と同じ浮上状態を保つことが極めて難しくなってきている。
【0007】
トラックの接線とのなす角(スキュー角)を所定範囲とするために、このスライダを支持するサスペンションの先端部にピエゾ素子によるスライダ角度調整手段を設けた磁気ディスク装置は公知である(例えば、特許文献1)。
【0008】
【特許文献1】特開平10−27446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の磁気ディスク装置は、ディスク面と平行な平面内の角度(ヨー角)であるスキュー角を制御するものであり、最近の磁気ヘッドスライダでは、このようなスキュー角制御を行なっても浮上特性を制御することが難しい。これは、最近の磁気ヘッドスライダは、浮上面(ABS)の段差深さを浅く設計することによって、スキュー角が変化しても浮上姿勢の変化がしづらくなされているためである。
【0010】
また、特許文献1の磁気ディスク装置では、スキュー角を調整するためにサスペンション上にピエゾ素子を設けているが、ピエゾ素子はそれ自体が動きを伴うものであるため塵芥が発生する、さらに、ピエゾ素子をサスペンション上に直接的に形成できないので後付けとなり製造工程が煩雑となる等の問題点を有している。
【0011】
従って本発明の目的は、従来技術の上述の問題点を解消するものであり、製造が容易であり、かつ、ディスクの内外周全域において均一な浮上特性を得ることができるヘッド支持機構、ヘッド装置及びディスクドライブ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、ヘッド素子を有するヘッドスライダを支持するためのサスペンションと、サスペンション上に設けられており、ヘッドスライダが浮上動作しておりかつヘッド素子が動作している状態における必要時に発熱しサスペンションの一部を加熱可能な少なくとも1つの発熱手段とを備えたヘッド支持機構が提供される。
【0013】
ヘッドスライダが浮上動作しておりかつヘッド素子が動作している状態における必要時にサスペンションの一部が加熱可能となっているため、加熱によりサスペンションのローリング方向の剛性(ローリング剛性)及び/又はピッチング方向の剛性(ピッチング剛性)が変化するか、加熱による材料の熱膨張量の差によってこのサスペンションに搭載されるヘッドスライダのローリング角度(スライダの浮上面と磁気ディスク表面との左右方向の角度)及び/又はピッチング角度(スライダの浮上面と磁気ディスク表面との前後方向の角度)が変化するから、ヘッドスライダの浮上特性をディスクの内外周全域において均一に制御することが可能となる。その結果、ヘッドスライダのABS設計における自由度が大幅に高まる。しかも、そのために発熱手段を設けるのみで良く、このような発熱手段は配線部材と同じ薄膜工程で作成することが可能であることから、製造工程が複雑化することがない。
【0014】
少なくとも1つの発熱手段が、サスペンションの一部を加熱することによってサスペンションのローリング方向の剛性を変化させるためのものであることが好ましい。
【0015】
サスペンションがヘッドスライダ搭載部を有するフレクシャとフレクシャを支持するロードビームとを備えており、少なくとも1つの発熱手段がヘッドスライダ搭載部よりサスペンションの先端側のフレクシャ上に設けられていることも好ましい。この場合、ヘッドスライダ搭載部が可撓性を有する舌部であり、少なくとも1つの発熱手段がこの舌部の基部に固着されていることがより好ましい。さらに、この少なくとも1つの発熱手段が、サスペンションの横方向に並んだ複数の発熱手段であることが好ましい。
【0016】
なお、本明細書において、サスペンションの先端側とは、サスペンション全体を見てヘッドスライダが搭載される側の自由端を意味しており、後端側とはその反対側の端を意味している。
【0017】
少なくとも1つの発熱手段が、サスペンションの一部を加熱することによってサスペンションに搭載されるヘッドスライダのローリング角度を変化させるためのものであることも好ましい。この場合、少なくとも1つの発熱手段が、熱膨張率の異なる複数の材料を加熱することにより応力を発生させてローリング角度を変化させるものであることがより好ましい。
【0018】
少なくとも1つの発熱手段が、サスペンションの一部を加熱することによってサスペンションに搭載されるヘッドスライダのピッチング角度を変化させるためのものであることも好ましい。この場合、少なくとも1つの発熱手段が、熱膨張率の異なる複数の材料を加熱することにより応力を発生させてピッチング角度を変化させるものであることがより好ましい。
【0019】
サスペンションがヘッドスライダ搭載部及びヘッドスライダ搭載部に沿って両側にそれぞれ配置されておりヘッドスライダ搭載部を支える2つの腕部(アウトリガー部)を有するフレクシャとこのフレクシャを支持するロードビームとを備えており、少なくとも1つの発熱手段が2つの腕部にそれぞれ設けられた2つの発熱手段からなることが好ましい。この場合、2つの発熱手段が2つの腕部のヘッドスライダ搭載側の面又はその反対側の面に固着されていることがより好ましい。なお、アウトリガー部とは、フレクシャの一部であり、ヘッドスライダ搭載部を支えるようにフレクシャ本体から伸長する腕部である。
【0020】
サスペンションがヘッドスライダ搭載部を有するフレクシャとフレクシャを支持するロードビームとを備えており、少なくとも1つの発熱手段がヘッドスライダ搭載部よりサスペンションの後端側のフレクシャ上又はロードビーム上に設けられていることも好ましい。この少なくとも1つの発熱手段が、サスペンションの横方向に並んだ複数の発熱手段であることが好ましい。
【0021】
少なくとも1つの発熱手段が、流れる電流により発熱する電熱手段であることが好ましい。
【0022】
本発明によれば、さらに、上述したヘッド支持機構と、このヘッド支持機構上に装着されたヘッドスライダとを備えたヘッド装置が提供される。ここで、ヘッド装置とは、ヘッド素子を備えたヘッドスライダとその支持機構とを機械的、電気的に組み立てたアセンブリである。具体例を挙げる、磁気ヘッドスライダとサスペンションとのアセンブリの場合にはヘッドジンバルアセンブリ(HGA)と称され、磁気ヘッドスライダとこれを支持するサスペンション及び支持アームのアセンブリの場合にはヘッドアームアセンブリ(HAA)と称され、HAAが複数積み重ねられる場合にはヘッドスタックアセンブリ(HSA)と称されることが多い。
【0023】
本発明によれば、またさらに、上述のヘッド装置と、少なくとも1つの発熱手段を、ヘッドスライダが浮上動作しておりヘッド素子が動作している状態における必要時に発熱させる駆動手段とを備えたディスクドライブ装置が提供される。
【0024】
このディスクドライブ装置が、ヘッド素子のディスクに対する位置を取得する位置情報取得手段をさらに備えており、上述の駆動手段は取得した位置に応じて所定の電流を少なくとも1つの発熱手段に流すように構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ヘッドスライダの浮上特性をディスクの内外周全域において均一に制御することが可能となる。その結果、ヘッドスライダのABS設計における自由度が大幅に高まる。しかも、そのために発熱手段を設けるのみで良く、このような発熱手段は配線部材と同じ薄膜工程で作成することが可能であることから、製造工程が複雑化することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1は本発明の一実施形態として、ランプロード式のHDD装置の全体構成を概略的に示す平面図である。
【0027】
同図において、10はハウジング、11はスピンドルモータにより軸12を中心にして回転駆動される磁気ディスク、13は先端部にサスペンション13aを介して磁気ヘッドスライダ14が装着されていると共に後端部にVCMのコイル部が装着されており、水平回動軸15を中心にして磁気ディスク11の表面と平行に回動可能なHAA、16は磁気ディスク11のデータ領域の外側の上方又は磁気ディスク11の外に設けられており、その傾斜した表面にHAA13の先端部、従ってサスペンション13aの先端部、が乗り上げてアンロード状態となるランプ、17はVCMのマグネット部をそれぞれ示している。
【0028】
磁気ヘッドスライダ14は、インダクティブ書込みヘッド素子と、巨大磁気抵抗効果(GMR)読出しヘッド素子又はトンネル磁気抵抗効果(TMR)読出しヘッド素子等の磁気抵抗効果(MR)読出しヘッド素子とをその後端(トレーリングエッジ)面に備えている。
【0029】
動作状態(磁気ヘッドスライダが浮上動作しておりかつ書込み又は読出しヘッド素子が動作している状態)においては、磁気ヘッドスライダ14は磁気ディスク11の表面に対向して低浮上量で浮上している。
【0030】
図2は本実施形態におけるHDD装置の電気的構成を概略的に示すブロック図である。
【0031】
同図において、20は磁気ディスク11を回転駆動するスピンドルモータ、21はこのスピンドルモータ20のドライバ、22はVCM23のドライバ、24は磁気ヘッド14のヘッドアンプ、25はコンピュータ26の制御に従ってモータドライバ21を、VCMドライバ22を、リードライトチャネル27を介してヘッドアンプ24を、さらにヒータ部材駆動回路28を制御するハードディスクコントローラ(HDC)をそれぞれ示している。ヒータ部材駆動回路28は、後述するヒータ部材を発熱させるための電流を供給する回路である。なお、ヒータ部材駆動回路は、ヘッドアンプやリードライトチャネルと一体にしても良い。
【0032】
図3は本実施形態におけるHAAの先端部を概略的に示す斜視図である。
【0033】
同図に示すように、HAA13の先端部に設けられたサスペンション13aは、ある程度の弾性を有するロードビーム30と、その上に取り付けられたかなりの弾性を有するフレクシャ31と、フレクシャ31上に形成又は接着された例えばフレクシブルプリント基板(FPC)部材等の配線部材32とから主として構成されている。
【0034】
フレクシャ31は、ヘッド搭載部を構成する柔軟な舌部31aと、この舌部31aの両側に離隔して形成されておりこの舌部の基部につながるアウトリガー部31b及び31cとを備えている。
【0035】
フレクシャ31の舌部31a上には磁気ヘッドスライダ14が固着されており、その電極端子は配線部材32のトレース導体32a〜32dに接続されている各接続パッドに電気的にボンディングされている。
【0036】
フレクシャ31の舌部31aの先端側に位置する基部には、電熱式の3つのヒータ部材33a、33b及び33cがサスペンション13aの横方向に並んだ形で固着されており、これらヒータ部材33a、33b及び33cの図示されていない電極は配線部材32のトレース導体32e及び32fに電気的に接続されている。なお、ヒータ部材33a、33b及び33cを配線部材32とは別個に設けた配線部材に接続しても良いことは明らかである。
【0037】
これらヒータ部材33a、33b及び33cは、配線部材32のトレース導体32e及び32fを介して図2に示すヒータ部材駆動回路28に接続されており、磁気ヘッドスライダ14が磁気ディスク11の所定領域、例えば外周領域又は内周領域に位置した際に電流が流されて発熱する。これにより、フレクシャ31の舌部31aの基部が暖められるので、フレクシャのローリング剛性及び/又はピッチング剛性が低下し、磁気ヘッドスライダ14のローリング方向及び/又はピッチング方向の姿勢制御が行なわれる。その結果、磁気ヘッドスライダの浮上特性を磁気ディスクの内外周全域において均一に制御することができる。なお、この位置にヒータ部材を設けることにより、サスペンションの機械的な特性への影響も非常に小さい。
【0038】
本実施形態において、ヒータ部材33a、33b及び33cがフレクシャ31の磁気ヘッドスライダ14と同じ側の面(表面)に固着されているが、ヒータ部材をフレクシャ31の磁気ヘッドスライダ14とは反対側の面(裏面)に固着しても良いことは明らかである。また、ヒータ部材33a、33b及び33cをそれぞれ別々の配線部材を介して独立して駆動することにより、ローリング方向の姿勢をより容易に制御することが可能となる。もちろん、ヒータ部材33a、33b及び33cを同時に同じ電流値で制御しても良いことは明らかである。さらに、このような3つのヒータ部材の代わりに単一のヒータ部材を設けても良い。
【0039】
図4は本実施形態における姿勢制御のためのヘッド位置−電流値特性データベースを作成する流れを概略的に示すフローチャートであり、図5は本実施形態における姿勢制御の動作を概略的に示すフローチャートである。
【0040】
ヘッド位置が磁気ディスク上のどの領域にある時にどの程度の電流を流すべきかは、HDD装置の種類によって異なるため、HDD装置を設計した際にヘッド位置−電流値特性データベースを作成し、HDC25又はコンピュータ26内にあらかじめ格納しておく。
【0041】
このデータベースの作成は、図4に示すように、まず、設計したHDD装置に対して、姿勢制御を行なわない状態で磁気ヘッドスライダ14の実際の浮上特性を評価する(ステップS1)。この浮上特性の評価とは、シミュレーション及び実際の計測により、トラック情報やセクタ情報に基づいたヘッド位置に対する磁気ヘッドスライダ14の実際の姿勢を把握することである。
【0042】
次いで、磁気ディスク11の各領域毎、例えば内周部、中間部、外周部毎、に磁気ヘッドスライダ14の浮上姿勢をどの程度調整するかを決定する(ステップS2)。浮上姿勢調整量は、本実施形態では、フレクシャ31の舌部31aの角度変化量(ローリング角度変化量及び/又はピッチング角度変化量)に対応する。
【0043】
次いで、フレクシャ31の舌部31aの角度変化量とヒータ部材33a、33b及び33cへ流す電流値との関係を具体的に把握する(ステップS3)。
【0044】
その後、磁気ディスク11上のヘッド位置とその位置においてヒータ部材33a、33b及び33cへ流す電流値との関係をデータベースとして求め、メモリ等に格納しておく(ステップS4)。
【0045】
動作状態(磁気ヘッドスライダ14が浮上動作しておりかつ書込み又は読出しヘッド素子が動作している状態)において、図5に示す処理が常時行なわれ、磁気ヘッドスライダ14の浮上姿勢が制御される。この制御は、ヘッド位置と上述のデータベースとを用いて行なわれる。
【0046】
即ち、図5に示すように、まず、磁気ヘッドスライダ14が動作状態であるかどうかをチェックする(ステップS11)。動作状態ではない場合は以降の浮上姿勢制御処理を行なわず、動作状態である場合のみ次のステップS12へ進む。
【0047】
ステップS12では、トラック情報、セクタ情報等のサーボ制御情報からヘッド位置、即ち磁気ディスク11上における磁気ヘッドスライダ14の位置を取得する。
【0048】
次いで、前述のデータベースにアクセスし、取得したヘッド位置に対応するヒータ部材33a、33b及び33cの電流値を求める(ステップS13)。
【0049】
次いで、この求めた電流値の電流を、ヒータ部材駆動回路28からヒータ部材33a、33b及び33cに供給し、発熱させる(ステップS14)。これにより、フレクシャ31の舌部31aの基部が加熱されてフレクシャのローリング剛性及び/又はピッチング剛性が低下し、磁気ヘッドスライダ14のローリング角度変化量及び/又はピッチング角度変化量が所望値となって、所望の姿勢制御が行なわれる。
【0050】
その後、ステップS11へ進んで上述の処理が繰り返される。
【0051】
なお、図1の実施形態において、ヒータ部材33a、33b及び33cの構成材料として、フレクシャ31(特にその舌部31aの基部)の構成材料(例えばステンレス鋼板)と熱膨張率が異なるもの(例えば銅部材)を用いれば、加熱によって反りが生じ、フレクシャ31の舌部31a上に搭載される磁気ヘッドスライダ14のローリング角度及び/又はピッチング角度をさらに効率良く制御することが可能となる。また、ヒータ部材を含めて多層構造とし、各層の熱膨張率を適切に選択することによっても所望の角度を効果的に得ることが可能となる。
【0052】
図6はサスペンションのローリング方向のトルクをパラメータとした場合のヘッド位置とローリング角度との関係をシミュレートした結果を表す特性図である。同図の横軸は、ヘッド位置をディスク中心からの距離(mm)で表しており、縦軸はローリング角度(rad)を表している。さらに、パラメータであるローリング方向のトルク(μNm)は、ローリング剛性値とローリング角度との積に相当している。
【0053】
同図において、ローリング方向のトルクが0.0(μNm)の特性は、フレクシャ31の舌部31aのローリング角度がゼロの場合に相当している。ローリング方向のトルクが0.5〜1.5(μNm)の特性は、近年のサスペンションではフレクシャの舌部付近のローリング剛性値が約0.5〜1.0(μNm/deg.)であるため、ローリング角度が1.0(deg.)前後の場合に相当している。
【0054】
図6の特性では、外周部でローリング角度が大きいため、ヘッド位置が外周部にあるときに約0.5(μNm)のローリング方向のトルクが発生するようにヒータ部材33a、33b及び33cを発熱させることにより、ローリング角度を0(rad)に近づけることができる。
【0055】
内周部でローリング角度が大きいHDD装置においては、ヘッド位置が内周部にあるときに発熱させてローリング角度を0(rad)に近づけるように制御する。なお、ローリング角度をゼロ以外の所望の値に制御することももちろん可能である。
【0056】
図7は本発明の他の実施形態におけるHAAの先端部を概略的に示す斜視図である。本実施形態の構成は、ヒータ部材に関連する構成を除いて図1の実施形態の構成とほぼ同様である。従って、図7において、図3のものと同様の構成要素については同じ参照番号を用いている。
【0057】
図7から分かるように、本実施形態においては、フレクシャ31のアウトリガー部31b及び31cの磁気ヘッドスライダ14と同じ側の面(表面)に電熱式の2つのヒータ部材73a及び73bがそれぞれ固着されている。これらヒータ部材73a及び73bの図示されていない電極は配線部材32のトレース導体32e及び32fにそれぞれ電気的に接続されている。なお、ヒータ部材73a及び73bを配線部材32とは別個に設けた配線部材に接続しても良いことは明らかである。
【0058】
これらヒータ部材73a及び73bは、配線部材32のトレース導体32e及び32fをそれぞれ介して図2に示すヒータ部材駆動回路28に接続されており、磁気ヘッドスライダ14が磁気ディスク11の所定領域、例えば外周領域又は内周領域に位置した際に電流が流されて発熱する。これにより、フレクシャ31のアウトリガー部31b及び31cが暖められるので、フレクシャのローリング剛性及び/又はピッチング剛性が低下し、磁気ヘッドスライダ14のローリング方向及び/又はピッチング方向の姿勢制御が行なわれる。その結果、磁気ヘッドスライダの浮上特性を磁気ディスクの内外周全域において均一に制御することができる。なお、この位置にヒータ部材を設けることにより、サスペンションの機械的な特性への影響も非常に小さい。
【0059】
なお、図7の実施形態において、ヒータ部材73a及び73bの構成材料として、フレクシャ31のアウトリガー部31b及び31cの構成材料(例えばステンレス鋼板)と熱膨張率が異なるもの(例えば銅部材)を用いれば、加熱によって反りが生じ、フレクシャ31の舌部31a上に搭載される磁気ヘッドスライダ14のローリング角度及び/又はピッチング角度をさらに効率良く制御することが可能となる。また、ヒータ部材を含めて多層構造とし、各層の熱膨張率を適切に選択することによっても所望の角度を効果的に得ることが可能となる。
【0060】
図8は、本発明のさらに他の実施形態におけるHAAの先端部を概略的に示す斜視図である。本実施形態の構成は、ヒータ部材に関連する構成を除いて図1の実施形態の構成とほぼ同様である。従って、図8において、図3のものと同様の構成要素については同じ参照番号を用いている。
【0061】
図8から分かるように、本実施形態においては、フレクシャ31のアウトリガー部31b及び31cの磁気ヘッドスライダ14とは反対側の面(裏面)に電熱式の2つのヒータ部材83a及び83bがそれぞれ固着されている。これらヒータ部材83a及び83bの図示されていない電極は、ビアホール等を介して配線部材32の2本のトレース導体にそれぞれ電気的に接続されている。なお、ヒータ部材83a及び83bをフレクシャの裏面に別個に設けた配線部材に接続しても良いことは明らかである。
【0062】
これらヒータ部材83a及び83bは、配線部材32の2本のトレース導体をそれぞれ介して図2に示すヒータ部材駆動回路28に接続されており、磁気ヘッドスライダ14が磁気ディスク11の所定領域、例えば外周領域又は内周領域に位置した際に電流が流されて発熱する。これにより、フレクシャ31のアウトリガー部31b及び31cが暖められるので、フレクシャのローリング剛性及び/又はピッチング剛性が低下し、磁気ヘッドスライダ14のローリング方向及び/又はピッチング方向の姿勢制御が行なわれる。その結果、磁気ヘッドスライダの浮上特性を磁気ディスクの内外周全域において均一に制御することができる。なお、この位置にヒータ部材を設けることにより、サスペンションの機械的な特性への影響も非常に小さい。
【0063】
なお、図8の実施形態において、ヒータ部材83a及び83bの構成材料として、フレクシャ31のアウトリガー部31b及び31cの構成材料(例えばステンレス鋼板)と熱膨張率が異なるもの(例えば銅部材)を用いれば、加熱によって反りが生じ、フレクシャ31の舌部31a上に搭載される磁気ヘッドスライダ14のローリング角度及び/又はピッチング角度をさらに効率良く制御することが可能となる。また、ヒータ部材を含めて多層構造とし、各層の熱膨張率を適切に選択することによっても所望の角度を効果的に得ることが可能となる。
【0064】
図7及び図8の実施形態のようにフレクシャのアウトリガー部にヒータ部材を固着し、温度上昇によるサスペンションのピッチング剛性の低下をシミュレートした。その結果、ヒータ部材による温度上昇が0℃(室温)の場合に1.3037(μNm/deg.)のピッチング剛性を有するサスペンションが、加熱されて温度上昇が77℃となると、約半分の0.6599(μNm/deg.)にピッチング剛性が低下した。
【0065】
図8の実施形態の構成において、フレクシャのアウトリガー部にフレクシャとは熱膨張率の異なるヒータ部材を固着し、加熱した場合の熱膨張率の差によるサスペンションのピッチング角度の変化をシミュレートした。その結果、ヒータ部材温度が300K(約27℃)の場合にピッチング角度が0.383度である磁気ヘッドスライダが、加熱されて温度が350K(約77℃)となると、0.560度とさらに大きくなった。
【0066】
図9は本発明のまたさらに他の実施形態におけるHAAの先端部を概略的に示す斜視図である。本実施形態の構成は、ヒータ部材に関連する構成を除いて図1の実施形態の構成とほぼ同様である。従って、図9において、図3のものと同様の構成要素については同じ参照番号を用いている。
【0067】
図9から分かるように、本実施形態においては、フレクシャ31のロードビーム30への固定部(溶接部)であって磁気ヘッドスライダ14と同じ側の面(表面)に電熱式のヒータ部材93が固着されている。このヒータ部材93の図示されていない電極は配線部材32のトレース導体32e及び32fにそれぞれ電気的に接続されている。なお、ヒータ部材93を配線部材32とは別個に設けた配線部材に接続しても良いことは明らかである。
【0068】
ヒータ部材93は、配線部材32のトレース導体32e及び32fをそれぞれ介して図2に示すヒータ部材駆動回路28に接続されており、磁気ヘッドスライダ14が磁気ディスク11の所定領域、例えば外周領域又は内周領域に位置した際に電流が流されて発熱する。これにより、フレクシャ31のこの部分をその機械的特性を劣化させることなく加熱できる。この場合、フレクシャのローリング剛性及び/又はピッチング剛性の低下はさほど期待できないが、ロードビーム30全体が大きく反るため、回転の半径が大きくなり、より大きなローリング角度及び/又はピッチング角度変化を期待することができる。その結果、磁気ヘッドスライダの浮上特性を磁気ディスクの内外周全域において均一に制御することができる。なお、この位置にヒータ部材を設けることにより、サスペンションの機械的な特性への影響も非常に小さい。
【0069】
本実施形態において、ヒータ部材93がフレクシャ31の磁気ヘッドスライダ14と同じ側の面(表面)に固着されているが、ヒータ部材をフレクシャ31の磁気ヘッドスライダ14とは反対側の面(裏面)に固着しても良いことは明らかである。
【0070】
また、ヒータ部材93の固着位置は、フレクシャ31とロードビーム30との溶接部である必要はなく、フレクシャのヘッド搭載部(舌部31a)より後端側であればどの位置であっても良く、さらに、フレクシャ31ではなくロードビーム30に直接固着しても良い。
【0071】
さらにまた、ヒータ部材を、図1の実施形態のようにサスペンション13aの横方向に並んだ形の複数のヒータ部材で構成し、それぞれ別々の配線部材を介して独立して駆動するか、同時に同じ電流値で制御しても良い。
【0072】
以上述べた実施形態及び変更態様は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の一実施形態として、HDD装置の全体構成を概略的に示す平面図である。
【図2】図1の実施形態におけるHDD装置の電気的構成を概略的に示すブロック図である。
【図3】図1の実施形態におけるHAAの先端部を概略的に示す斜視図である。
【図4】図1の実施形態における姿勢制御のためのヘッド位置−電流値特性データベースを作成する流れを概略的に示すフローチャートである。
【図5】図1の実施形態における姿勢制御の動作を概略的に示すフローチャートである。
【図6】サスペンションのローリング方向のトルクをパラメータとした場合のヘッド位置とローリング角度との関係をシミュレートした結果を表す特性図である。
【図7】本発明の他の実施形態におけるHAAの先端部を概略的に示す斜視図である。
【図8】本発明のさらに他の実施形態におけるHAAの先端部を概略的に示す斜視図である。
【図9】本発明のまたさらに他の実施形態におけるHAAの先端部を概略的に示す斜視図である。
【符号の説明】
【0074】
10 ハウジング
11 磁気ディスク
12 軸
13 HAA
13a サスペンション
14 磁気ヘッドスライダ
15 水平回動軸
16 ランプ
17 VCMのマグネット部
20 スピンドルモータ
21 スピンドルモータのドライバ
22 VCMドライバ
23 VCM
24 磁気ヘッドのヘッドアンプ
25 HDC
26 コンピュータ
27 リードライトチャネル
28 ヒータ部材駆動回路
30 ロードビーム
31 フレクシャ
31a 舌部
31b、31c アウトリガー部
32 配線部材
33a、33b、33c、73a、73b、83a、83b、93 ヒータ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド素子を有するヘッドスライダを支持するためのサスペンションと、該サスペンション上に設けられており、前記ヘッドスライダが浮上動作しておりかつ前記ヘッド素子が動作している状態における必要時に発熱し該サスペンションの一部を加熱可能な少なくとも1つの発熱手段とを備えたことを特徴とするヘッド支持機構。
【請求項2】
前記少なくとも1つの発熱手段が、前記サスペンションの一部を加熱することによって該サスペンションのローリング方向の剛性を変化させるためのものであることを特徴とする請求項1に記載のヘッド支持機構。
【請求項3】
前記サスペンションがヘッドスライダ搭載部を有するフレクシャと該フレクシャを支持するロードビームとを備えており、前記少なくとも1つの発熱手段が前記ヘッドスライダ搭載部より該サスペンションの先端側の前記フレクシャ上に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のヘッド支持機構。
【請求項4】
前記ヘッドスライダ搭載部が可撓性を有する舌部であり、前記少なくとも1つの発熱手段が該舌部の基部に固着されていることを特徴とする請求項3に記載のヘッド支持機構。
【請求項5】
前記少なくとも1つの発熱手段が、前記サスペンションの一部を加熱することによって該サスペンションに搭載されるヘッドスライダのローリング角度を変化させるためのものであることを特徴とする請求項1に記載のヘッド支持機構。
【請求項6】
前記少なくとも1つの発熱手段が、熱膨張率の異なる複数の材料を加熱することにより応力を発生させて前記ローリング角度を変化させるものであることを特徴とする請求項5に記載のヘッド支持機構。
【請求項7】
前記少なくとも1つの発熱手段が、前記サスペンションの一部を加熱することによって該サスペンションに搭載されるヘッドスライダのピッチング角度を変化させるためのものであることを特徴とする請求項1に記載のヘッド支持機構。
【請求項8】
前記少なくとも1つの発熱手段が、熱膨張率の異なる複数の材料を加熱することにより応力を発生させて前記ピッチング角度を変化させるものであることを特徴とする請求項7に記載のヘッド支持機構。
【請求項9】
前記サスペンションがヘッドスライダ搭載部及び該ヘッドスライダ搭載部に沿って両側にそれぞれ配置されており該ヘッドスライダ搭載部を支える2つの腕部を有するフレクシャと該フレクシャを支持するロードビームとを備えており、前記少なくとも1つの発熱手段が該2つの腕部にそれぞれ設けられた2つの発熱手段からなることを特徴とする請求項1、2、及び5から8のいずれか1項に記載のヘッド支持機構。
【請求項10】
前記2つの発熱手段が前記2つの腕部のヘッドスライダ搭載側の面に固着されていることを特徴とする請求項9に記載のヘッド支持機構。
【請求項11】
前記2つの発熱手段が前記2つの腕部のヘッドスライダ搭載側とは反対側の面に固着されていることを特徴とする請求項9に記載のヘッド支持機構。
【請求項12】
前記サスペンションがヘッドスライダ搭載部を有するフレクシャと該フレクシャを支持するロードビームとを備えており、前記少なくとも1つの発熱手段が前記ヘッドスライダ搭載部より該サスペンションの後端側の前記フレクシャ上に設けられていることを特徴とする請求項1、2、及び5から8のいずれか1項に記載のヘッド支持機構。
【請求項13】
前記サスペンションがヘッドスライダ搭載部を有するフレクシャと該フレクシャを支持するロードビームとを備えており、前記少なくとも1つの発熱手段が前記ヘッドスライダ搭載部より該サスペンションの後端側の前記ロードビーム上に設けられていることを特徴とする請求項1、2、及び5から8のいずれか1項に記載のヘッド支持機構。
【請求項14】
前記少なくとも1つの発熱手段が、該サスペンションの横方向に並んだ複数の発熱手段であることを特徴とする請求項1から8、12及び13のいずれか1項に記載のヘッド支持機構。
【請求項15】
前記少なくとも1つの発熱手段が、流れる電流により発熱する電熱手段であることを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載のヘッド支持機構。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか1項に記載のヘッド支持機構と、該ヘッド支持機構上に装着されたヘッドスライダとを備えたことを特徴とするヘッド装置。
【請求項17】
請求項16に記載のヘッド装置と、該ヘッド装置が対向するディスクと、前記少なくとも1つの発熱手段を前記ヘッドスライダが浮上動作しており前記ヘッド素子が動作している状態における必要時に発熱させる駆動手段とを備えたことを特徴とするディスクドライブ装置。
【請求項18】
前記ヘッド素子の前記ディスクに対する位置を取得する位置情報取得手段をさらに備えており、前記駆動手段は該取得した位置に応じて所定の電流を前記少なくとも1つの発熱手段に流すように構成されていることを特徴とする請求項17に記載のディスクドライブ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−172619(P2006−172619A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−364381(P2004−364381)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】