説明

ヘテロポリ酸化合物触媒の調製方法

本発明は、モリブデン、バナジウム、リン、セシウム、銅、ビスマス、アンチモン、およびホウ素を含有する複数の化合物から、ヘテロポリ酸化合物触媒を調製する方法に関する。それらの化合物において、モリブデン、バナジウム、リン、セシウム、銅、ビスマス、およびホウ素はそれぞれの最高の酸化状態にあり、アンチモンは3+の酸化状態にある。触媒は、モリブデン、バナジウム、リン、セシウム、銅、ビスマス、アンチモン、およびホウ素の酸化物を含み、オプションで他の金属の酸化物も含む。触媒の化学式は、Mo12CsCuBiSbであり、ここでMoはモリブデンであり、Vはバナジウムであり、Pはリンであり、Csはセシウムであり、Cuは銅であり、Biはビスマスであり、Sbはアンチモンであり、Bはホウ素であり、Oは酸素であり、aは0.01から5.0であり、bは0.5から3.5であり、cは0.01から2.0であり、dは0.0〜1.5であり、eは0.0〜2.0であり、fは0.01〜3.0であり、gは0.0〜4.0であり、xは価数を満たす値である。モリブデンは、アンチモンによって還元され、触媒合成の間に再酸化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モリブデン、バナジウム、リン、ビスマス、銅、アンチモン、ホウ素、およびセシウムの酸化物を含み、オプションで他の金属の酸化物も含む、ヘテロポリ酸化合物触媒(heteropoly acid compound catalyst)の調製方法に関する。その触媒は、気相反応において、メタクロレインなどの不飽和アルデヒドを、メタクリル酸などの不飽和カルボン酸に酸化させるプロセスに使用できる。
【背景技術】
【0002】
ヘテロポリ酸化合物は、酸の形態のヘテロポリオキソアニオンを生成する金属酸化物クラスタであり、モリブデン、リン、ヒ素、セシウム、ルビジウム、コバルト、ニッケル、鉄、クロム、アンチモン、テルル、およびケイ素の酸化物を含むことができる。ヘテロポリ酸化合物は、中心の金属原子を有し、その中心の金属原子は、互いと、酸素原子を介して中心の金属原子とに結合した他の金属原子のフレーム構造によって囲まれている。中心の金属原子は、フレーム構造の金属原子とは異なる(「ヘテロ」である)。ヘテロポリ酸化合物は、触媒として知られている。特定の成分の酸化状態が触媒としての性能に影響することが、明らかにされている。
【0003】
米国特許第6,914,029号には、選択的炭化水素の部分酸化触媒が開示されている。当該触媒は、CおよびCの炭化水素を選択的に、アクリル酸およびマレイン酸に部分酸化させる。当該触媒は、たとえばニオブポリオキソモリブデートなどの部分還元ポリオキソメタレートであり、それは、ポリオキソアニオンにカチオンを結合した(exchanged with a cation)ものを、ピリジニウムなどの還元剤の存在下での加熱によって活性化して調製される。カチオンは、活性化の際に部分還元可能であるべきなので、それ自体の最低の酸化状態であるべきではない。活性化の際および反応条件下にて、モリブデンの酸化状態の変化が観察された。
【0004】
米国特許第5,714,429号には、押出物またはペレットの形態のシリカに担持され、オレフィン類を対応のアルコールに水和するプロセスに有用なヘテロポリ酸触媒が開示されている。ヘテロポリ酸の多価の酸化状態は、ヘテロポリ酸を担体物質に含浸させる間、および/または、プロセス条件下において、変更しうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,914,029号明細書
【特許文献2】米国特許第5,714,429号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先行技術において、モリブデン、バナジウム、リン、セシウム、銅、ビスマス、アンチモン、ホウ素、および他の金属を含み、メタクロレインの生成に使用される触媒が開示されている。本発明では、特定の成分(詳細には、モリブデンおよびアンチモン)の酸化状態と、触媒の調製工程中における特定の成分の酸化状態の変化とが、メタクロレインのメタクリル酸への酸化の目的におけるこれらの触媒の活性度および安定性に影響することを明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ヘテロポリ酸化合物触媒組成物の調製方法に関する。その触媒は、気相反応において、メタクロレインなどの不飽和アルデヒドを、メタクリル酸などの不飽和カルボン酸に酸化させるプロセスに使用できる。この触媒組成物は、一般化学式Mo12CsCuBiSbで表される。ここで、Moはモリブデンであり、Vはバナジウムであり、Pはリンであり、Csはセシウムであり、Cuは銅であり、Biはビスマスであり、Sbはアンチモンであり、Bはホウ素であり、Oは酸素であり、aは0.01から5.0であり、bは0.5から3.5であり、cは0.01から2.0であり、dは0.0〜1.5であり、eは0.0〜2.0であり、fは0.01〜3.01であり、gは0.0〜4.0であり、xは価数を満たす値である。たとえば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ルビジウム、ジルコニウム、チタン、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、硫黄、セレニウム、および/またはテルルなどの他の元素を含有することも、可能である。
【0008】
一般に、当該触媒の調製方法は、ヘテロポリ酸化合物の触媒成分の化合物を酸性化水溶液に溶解し、触媒前駆体の粒子を沈殿させ、その固体粒子を乾燥し、か焼することを含む。成分化合物は、溶かした溶液、固体、または水性スラリの状態で添加することができる。アンチモン(酸化状態5+ではなくて3+)を除く全ての成分化合物は、それぞれの最高の酸化状態にある。触媒合成中に、アンチモンは、モリブデンをより低い酸化状態に還元する。本発明の一実施形態は、モリブデンのより低い酸化状態への還元を抑制することである。本発明の他の実施形態は、モリブデンを、還元後に、より高い酸化状態へ再酸化することである。
【0009】
一般に、気相反応での不飽和アルデヒドの不飽和カルボン酸への酸化の目的において当該触媒組成物を使用するプロセスは、当該ヘテロポリ酸化合物触媒の存在下で、かつ、メタクリル酸などの不飽和カルボン酸が生成される条件にて、メタクロレインなどの不飽和アルデヒドに空気などの酸素含有ガスを接触させることを含む。
【0010】
本発明のより十分な評価およびそれに付随する利点の多くは、以下の詳細な説明を参照しつつ添付の図面を考慮すれば、容易に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ヘテロポリ酸化合物(ケギンユニット(Keggin Unit))の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
触媒は、化学式Mo12CsCuBiSbで表されるヘテロポリ酸化合物触媒である。ここでMoはモリブデンであり、Vはバナジウムであり、Pはリンであり、Csはセシウムであり、Cuは銅であり、Biはビスマスであり、Sbはアンチモンであり、Bはホウ素であり、Oは酸素であり、aは0.01から5.0であり、bは0.5から3.5であり、cは0.01から2.0であり、dは0.0〜1.5であり、eは0.0〜2.0であり、fは0.01〜3.01であり、gは0.0〜4.0であり、xは価数を満たす値である。
【0013】
本発明の他の実施形態では、触媒は、化学式Mo12CsCuBiSbで表される。ここでMは、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ルビジウム、ジルコニウム、チタン、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、硫黄、セレニウム、またはテルルであり、hは0から9の範囲内である。
【0014】
触媒を調製する方法は、一般に、金属化合物群を水または酸の中に溶解し、固体の触媒前駆体を沈殿させてスラリを生成し、固体を残すようにスラリから液体を除去することで固体を分離し、その固体を乾燥し、成形し、か焼して触媒を生成することを含む。金属化合物は、塩類(たとえば、硝酸塩、ハロゲン化物、アンモニウム、有機酸、および無機酸)、酸化物、水酸化物、炭酸塩、オキシハロゲン化物、硫酸塩、および、高温下で酸素と結合して(exchange with)金属酸化物を生成できる他の基であることが可能である。
【0015】
適切なモリブデン化合物としては、アンモニウムモリブデート、アンモニウムパラモリブデート、三酸化モリブデン、塩化モリブデン、もしくは、それらの混合物または組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。
【0016】
適切なリン化合物としては、リン酸、リン酸アンモニウム、もしくは、それらの混合物または組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。
【0017】
適切な銅化合物としては、硝酸銅、塩化銅、もしくは、それらの混合物または組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。
【0018】
適切なビスマス化合物としては、硝酸ビスマス、酸化ビスマス、塩化ビスマス、もしくは、それらの混合物または組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。
【0019】
適切なバナジウム化合物としては、アンモニウムバナデート、アンモニウムメタバナデート、五酸化バナジウム、塩化バナジウム、もしくは、それらの混合物または組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。
【0020】
適切なホウ素化合物としては、ホウ酸、水酸化ホウ素、および、酸化ホウ素が挙げられるが、それらに限定されない。
【0021】
適切なアンチモン化合物としては、酸化アンチモン、または、三酸化アンチモンが挙げられるが、それらに限定されない。
【0022】
適切なセシウム化合物としては、硝酸セシウム、酸化セシウム、水酸化セシウム、または、セシウム塩が挙げられるが、それらに限定されない。
【0023】
本発明の一実施形態では、金属化合物は、水または酸に可溶である。本発明の他の実施形態では、モリブデン化合物は、アンモニウムパラモリブデートまたはアンモニウムモリブデートなどのアンモニウム塩であり、バナジウム化合物は、アンモニウムメタバナデートまたはアンモニウムバナデートなどのアンモニウム塩であり、リン化合物はリン酸である。また、ビスマス、コバルト、ニッケル、セシウム、マグネシウム、亜鉛、カリウム、ルビジウム、タリウム、マンガン、バリウム、クロム、ホウ素、硫黄、ケイ素、アルミニウム、チタン、テルル、スズ、バナジウム、ジルコニウム、鉛、カドミウム、銅、ガリウム、インジウム、およびゲルマニウムの化合物は、硝酸塩、酸化物、水酸化物、または酸である。アンチモン化合物は、酸化アンチモンまたは三酸化アンチモンなどの酸化物である。さらに、カルシウム、ストロンチウム、リチウム、およびナトリウムの化合物は、硝酸塩または炭酸塩であり、セレニウム化合物は酸化物である。本発明の一実施形態では、ビスマス、セシウム、コバルト、ニッケル、マグネシウム、および亜鉛の化合物は、硝酸塩である。
【0024】
本発明は、各成分の添加の順序に依存するものではない。様々な金属化合物成分を特定の順序で添加すると触媒の性能に影響する可能性はあるが、本発明は、触媒の調製方法において手順が実施される順序には関わりなく、ある成分の特定の酸化状態に関係するものである。
【0025】
本発明による触媒の調製の一例では、アンモニウムパラモリブデートまたはアンモニウムモリブデートなどであるモリブデンのアンモニウム塩と、アンモニウムメタバナデートと、リン酸とを、水に溶解する。水に溶解した硝酸セシウムをその混合物に加えて、沈殿物およびスラリを生成する。酸に溶解した状態かまたは固体状の硝酸ビスマスを、溶液混合物に加える。硝酸銅を水に溶解し、20〜40℃の範囲内である室温にてスラリに添加する。溶液混合物の温度を約80〜100℃まで上昇させ、固体状の酸化アンチモンおよびホウ酸を加える。約10分から20時間、そのスラリを熟成または温浸させることができる。そして、スラリの液体から固体を分離する。スラリの液体を除去し、固体沈殿物を乾燥、成形、およびか焼して触媒を得る。液体を除去すると同時に固体沈殿物をスプレードライ法によって乾燥させることが可能であり、または、液体を蒸発させることも可能である。蒸発は50〜175℃の温度で実施でき、それに続いて、沈殿物の乾燥、成形、およびか焼を実施する。
【0026】
触媒前駆体の乾燥は、空気中、または空気と不活性ガスとの混合物中にて、オーブンまたはスプレードライヤ内で実施できる。本発明の一実施形態では、乾燥は、オーブン内で空気中にて、100〜150℃の温度で2〜5時間実施する。
【0027】
触媒前駆体は、200〜400℃の温度で1〜12時間、か焼することができる。か焼は、2段階で実施できる。か焼の各段階は、連続して実施可能であり、あるいは、1つ以上の工程手順によって隔てられることも可能である。たとえば、第1段階を成形前に実施し、成形後に第2段階を実施することができる。第1段階を150〜300℃の温度で1〜5時間実施し、第2段階を300〜400℃の温度で4〜8時間実施することができる。温度は、1〜20℃/分または5〜10℃/分の温度勾配で上昇させることが可能である。2段階か焼を実施する本発明の一実施形態では、第1段階を210〜310℃の温度で5時間実施し、第2段階を300〜400℃の温度で2時間実施することができる。第1ステップで、脱窒を生じさせることができる。代替実施形態では、最初のステップまたは脱窒を実施する代わりに、2時間かけて温度を周囲温度から約400℃まで上昇させることによって、か焼を1段階で実施することができる。か焼は、高温オーブンまたは高温炉で実施できる。か焼は、空気中またはエンリッチドエア(体積基準で分子酸素が21%より多い)中で実施できる。
【0028】
一説によると(それによって本願の請求の範囲は限定されない)、最終的なか焼後の触媒の活性度および性能は、湿式合成、乾燥、成形、か焼、および保管を含む製造の各段階において、ケギン触媒中のモリブデンがどれだけ効果的に完全に酸化されたかに依存する。1つの段階において酸化が完全でない場合に、後の段階でそれを補償することは不可能であるから、触媒の最終的な活性度は、合成、乾燥、およびか焼の各段階における酸化の有効性に依存する。各段階において、良好な酸化を確実にするために特定の手順上の技術が必要である。さらに、モリブデンをどの程度再酸化する必要があるかは、モリブデンの還元度合によって決定され、モリブデンの還元度合は、どれだけのアンチモン(3+)がモリブデンと反応してモリブデンを6+未満(たとえば4+、5+)の酸化状態にまで還元したかによる。触媒の酸化を最大にするには、アンチモンによるモリブデンの還元と、酸素による酸化との相互関係をバランスさせる必要があり、その相互関係は、特定の製造技術によって定められる。
【0029】
アンチモンは、3+の酸化状態を有するべきである。触媒の合成中に、Sb(3+)がMo(6+)をより低い酸化状態(5+または4+)に還元する。この還元状態のMoを含む触媒は、最高の酸化状態(6+)のMoを含む触媒に比べて活性度が低いであろう。メタクロレインなどの不飽和アルデヒドをメタクリル酸などの不飽和カルボン酸に酸化させる触媒反応は、酸化還元メカニズムであって、酸素原子を抽出することでメタクロレインを酸化し、その際にヘテロポリ酸化合物触媒のケギン構造中のMoが還元されると考えられている。Moが最高の酸化状態でない場合は、触媒の活性度が減少してしまうであろう。アンチモンの接触時間または反応時間を短縮することで、Sb(3+)によるMo(6+)の還元が抑制されるが、多量のSb(3+)が触媒中に残存してしまうであろう。接触時間または反応時間を増大すると、Sb(3+)によるMo(6+)の還元が増進してしまうが、触媒中に残存するSb(3+)の量が減る。Sb(3+)の残存量が少なければ、後続の工程手順においてMo(6+)の還元が抑制されるので、より安定した触媒が得られる。最高の酸化状態でないMoは、最高の状態まで再酸化することが可能である。再酸化は、成分化合物の溶液/スラリでの触媒合成の際、液体除去および固体沈殿物の乾燥の際、ならびに、か焼の際に、空気酸化、気液接触、および/または気固接触によって達成できる。触媒合成の際に、たとえばエアスパージングなどで空気を溶液/スラリに導入可能である。たとえば過酸化水素、亜酸化窒素、酸化窒素、一酸化窒素、もしくは、それらの混合物または組み合わせなどの酸化剤を、触媒合成の溶液/スラリに導入することができる。固体沈殿物は、酸素環境下(たとえば、空気中や、酸素と不活性ガスの混合物中など)で乾燥させる。か焼は、酸素環境下(たとえば、空気中や、酸素と不活性ガスの混合物中など)で実施する。酸素が体積基準で21%より多い濃縮酸素、または純粋酸素を使用できる。オゾン、あるいは、一酸化窒素または亜酸化窒素などの原子酸素を含む他のいずれの酸化ガスも使用可能である。
【0030】
本発明の一実施形態では、触媒合成の際にスラリ中の還元型モリブデンを酸化させる。たとえば過酸化水素などの酸化体化合物を、スラリに添加することができる。
【0031】
本発明の別の実施形態では、スラリの生成時点から、スラリの液体からの固体の分離時点までの時間を長くし、すなわち、熟成または温浸時間を増大する。スラリは、0.5時間より長く熟成または温浸させることができる。十分な酸化が実施されない状態でスラリを3時間以上熟成または温浸させた場合、モリブデンが6+より低い酸化状態に還元されてしまうため、モリブデンを最高の酸化状態にするように固体の触媒前駆体を再酸化しなければならない。固体は、乾燥時に再酸化できる。
【0032】
本発明の別の実施形態では、触媒前駆体(すなわちモリブデン)を、か焼時に再酸化させる。粒子同士の固相間接触を減少させ十分な気固接触を実現することによって、触媒前駆体を再酸化できる。気体は、酸素、もしくは、空気または酸素富化空気などの酸素含有ガスであることが可能である。
【0033】
本発明の別の実施形態では、か焼時に触媒前駆体が再酸化されるのに十分な気固接触を実現可能にする固体多孔度が得られるよう、未か焼の粒子密度を調節する。未か焼固体の粒子密度は、3.0g/cc未満であるべきである。3.0g/cc未満の粒子密度を有する粒子が得られるように、固体を特定の形状およびサイズに成形する際に使用する圧力の量を調節することが可能である。
【0034】
成形済み触媒は、か焼後に、たとえば空気またはエンリッチドエアなどの酸化環境下で保管すべきである。触媒の周囲の空気の水分含有率は、できるだけ低くすべきであり、たとえば5%未満の周囲湿度にすべきである。保管温度は、妥当な範囲でできるだけ低くすべきであり、少なくとも35℃未満にすべきである。触媒は、周囲気圧で保管できるが、気圧を大気圧より高く上昇させると有益であろう。
【0035】
触媒を、ふるい分け、成形、および当分野で知られている他の手段で処理することで、特定のサイズの触媒粒子を得られる。望ましい粒度および粒度分布は、反応器の設計(サイズ、形状、構成など)と、プロセスで予定している圧力降下と、プロセスのフローとに関係する。2段階か焼の場合は、第1段階のか焼の後であって且つ第2段階のか焼の前に、触媒をふるい分けまたは成形することができる。商業用の工程では、スプレードライ後で且つか焼前に、触媒前駆体をふるい分けおよび成形することが可能である。
【0036】
本発明の触媒は、非担持触媒としても、担持触媒としても使用できる。非担持触媒の表面積は、0.1から150m/gであり、または、1から20m/gである。担持触媒の場合、担体は、触媒のいずれの活性成分に対しても化学的に反応性が低い不活性固体であるべきであり、本発明の一実施形態では、シリカ、アルミナ、ニオビア、チタニア、ジルコニア、またはそれらの混合物である。初期湿式含浸法(incipient wetness)、スラリ化による反応(slurried reactions)、およびスプレードライ法を含む、当分野で知られている方法によって、触媒を担体に付着させることができる。非担持であっても担持であっても、触媒は、形状、サイズ、または粒度分布によって限定されず、プロセスで使用する反応器に適するように成形されうる。例としては、粉末、顆粒、球状、円筒形、鞍形などが挙げられる。
【0037】
本発明の使用のプロセスは、ヘテロポリ酸化合物触媒の存在下で、かつ、不飽和カルボン酸が生成される反応条件での気相反応において、飽和アルデヒドおよび/または不飽和アルデヒドを含む供給原料に、酸素を含有するストリームを接触させることを含む。本発明の一実施形態では、このプロセスにおける供給原料は、メタクロレインなどの不飽和アルデヒドであり、それは、イソブチレンなどのオレフィンの酸化反応の生成物であることが可能である。また、供給原料には、メタクロレインなどの不飽和アルデヒドを酸化させて得たメタクリル酸などの不飽和カルボン酸を再循環させたものを含むことができる。したがって供給原料には、不飽和アルデヒドに加えて、水、酸素、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、希ガス、アセトン、酢酸、アクロレイン、メタクリル酸、イソブチレン、他のオレフィン類、ならびに、飽和および不飽和炭化水素などの、未反応の反応物質、不活性物質、および、副生成物が含まれる。供給原料中の不飽和アルデヒドの濃度は、幅広い範囲で変動可能である。メタクロレイン濃度の例としては、約1体積%から約20体積%、または、約2体積%から約8体積%が挙げられる。
【0038】
本発明の別の実施形態では、供給原料には、プロピレンなどのオレフィンをブタナール類(たとえばブタナール、イソブタナール、またはイソブチルアルデヒド)などの飽和アルデヒドにヒドロホルミル化するプロセスからの生成物および副生成物が含まれる。本発明の他の実施形態では、供給原料は、飽和アルデヒドと不飽和アルデヒドとの組み合わせを、約5重量%から約95重量%の比率で含む。飽和アルデヒドを供給原料に含む本発明の実施形態は、米国特許出願公開第2007/0106091号および同第2007/0021296号に記載されており、これらの出願を引用によって本願に援用する。
【0039】
酸素含有ストリームは、空気または別の酸素含有ガスであることが可能である。別の酸素含有ガスとはたとえば、窒素、二酸化炭素、希ガス、および水蒸気などの不活性ガス(単数または複数)と、酸素との混合物などである。また、酸素含有ストリームは、純粋酸素であることも可能である。本発明のプロセスの一実施形態では、アルデヒドに対する酸素の量は、モル基準で化学量論より40%少ない量から化学量論より700%多い量であり、好適には、モル基準で化学量論より60%多い量から化学量論より360%多い量である。アルデヒドがメタクロレインである場合の本発明のプロセスの一実施形態では、メタクロレインに対する酸素の量は、モル比で約0.3から約4であり、好適には約0.8から約2.3である。
【0040】
プロセスの条件は、圧力が、約0気圧から約5気圧であって好適には約1気圧であり、温度が、約230℃から約450℃であって、好適には250℃から約400℃であり、より好適には約250℃から約350℃である。
【0041】
本発明のプロセスのための反応器としては、固定層反応器、流動層反応器、または移動層反応器など、気相反応用であればいずれの反応器でも使用可能である。
【0042】
以上で本発明を包括的に説明したので、以下では、本発明の具体的実施形態として実施例を示し、その実施と利点とを明らかにする。実施例は、説明の目的で示すものであって、本願の明細書および請求項をいかようにも限定することを意図しないと理解される。
【実施例】
【0043】
以下の実施例によって、触媒前駆体の湿式合成、乾燥、か焼、成形、および保管の際の酸化条件が、最終的なか焼済みのヘテロポリ酸化合物触媒の活性度にどのように影響するかを示す。すなわち、触媒前駆体がより多く酸化されるほど、最終的な触媒の活性度が高くなることを示す。
【0044】
(合成の際の温浸時および乾燥時の空気酸化による触媒活性度への影響)
ヘテロポリ酸化合物触媒を、以下に説明するように合成した。触媒性能への影響を確認するために、合成工程において温浸時間、乾燥時間、および成形条件を変化させた。
【0045】
(HPA触媒の合成)
アンモニウムモリブデート46.5gと、アンモニウムメタバナデート1.285gとを、約200mLの脱イオン水に一晩かけて溶解した。16時間後に、硝酸セシウム4.276gを25mLの水に溶解し、リン酸3.8gを6mLの水に溶解し、それらをモリブデート/バナデート溶液に室温にて添加した。約3分後に、硝酸銅0.51gを溶液に添加した。濃縮硝酸11.3gと濃縮水酸化アンモニウム7mLとを30mLの水に溶解して得られた希釈硝酸に、硝酸ビスマス5.32gを溶解し、それをモリブデート溶液に室温にて添加した。続いて、溶液を加熱して、温度をだんだんと約95℃まで、約30〜50分かけて上昇させた。その後、固体状の三酸化アンチモン2.56gと固体状のホウ酸0.68gとを、溶液に添加した。0.5時間、3時間、またはそれ以上の温浸時間の経過後に、一定分量のスラリを反応タンクから抽出し、そのスラリを、スプレードライヤ内で約120〜150℃にて乾燥させるか、あるいは、静止式オーブン内で約125℃にて16時間までの時間をかけて乾燥させた。乾燥したケーキを微細な粉末に粉砕し、10,000psi以上にて成形プレスし、−20+30メッシュにサイズ分けした。サイズ分けした触媒前駆体を、回転式または固定式のか焼炉内で、500cc/分以上の気流を用いてか焼した。標準的なか焼の詳細は、温度を室温から0.5℃/分の勾配率にて250℃に上昇させ、0.5時間維持し、さらに、0.5℃/分の勾配率にて380℃に上昇させ、5時間維持するものであった。
【0046】
(触媒試験)
実施例の各試料に関して、か焼済みの触媒6.0ccを、石英チップ9ccと共にステンレス鋼の反応器に投入し、15psi(絶対圧力)にて以下の組成の蒸気ストリームと反応させた:メタクロレイン4体積%、酸素8体積%、および、水蒸気30体積%で、残りは窒素であった。相対活性度は、活性度1.0と定義される基準触媒の活性度に対する、試料の活性度の比率として定義される。実施例の各触媒のそれぞれの活性度間の絶対パーセント差が、「相対活性度」である。ある触媒が標準触媒より30%高い活性度を示した場合、その触媒は相対活性度1.3を有する。相対選択性は、試料触媒のパーセント選択性から基準触媒のパーセント選択性を減算して得られる差のことである。
【0047】
また、触媒の相対活性度を測定するための分光測光試験も策定した。試験手順は、ヘテロポリ酸化合物触媒の水溶性成分を抽出し、波長217nmにて抽出物の吸収スペクトルを測定することを含む。217nmの吸収帯をもたらす化学種は、完全に酸化された無色のMo(6+)に関連するものである。表1に記載した試料の吸収値を相対活性度に対してプロットしたところ、強い相関係数r=0.94が示された。触媒の相対活性度値は、反応器試験によって検出したものであった。このことは、触媒の活性度が、酸化されたモリブデン化学種に強く関係していることを示している。触媒がより酸化されているほど、活性度は高い。
【0048】
【表1】

【0049】
ヘテロポリ酸化合物触媒の酸化または還元の度合を測定して、それを相対活性度に関連づけるために、電位差滴定試験を策定した。触媒の抽出物を、過マンガン酸カリウムの標準溶液で滴定した。酸化型の触媒の実施例12と、還元型の触媒の実施例13とで得られた、2つの滴定の結果を表2に示す。実施例12と同じ終点に至るには、実施例13ではより多くの滴定液が必要であり、そのことは、実施例13の触媒がより還元されていることを示す。実施例12はより酸化されているので、より還元されている実施例13の触媒の数値1.2に比べて高い2.0の相対触媒活性度を示す。
【0050】
【表2】

【0051】
(触媒活性度に対する温浸時間および乾燥時間の影響)
触媒試料の合成において、最後の反応物である三酸化アンチモンを添加した後に、スラリをある期間温浸させてから乾燥させた。実施例14は、12時間温浸させてから乾燥させたものである。12時間の温浸時間の途中、0.5時間の温浸を経た時点で、一定分量のスラリを回収してスプレードライして、実施例15(表3)とした。さらに別の試料を、3時間の温浸を経た時点で回収し、その一部分をスプレードライして実施例16(表3)とし、その残りのスラリをトレーに入れて乾燥させ(7時間かかった)、実施例17(表3)とした。
【0052】
各温浸および乾燥時間後の乾燥粉末の色も、表に記載した。その色は、触媒中間体の還元度合を示す。緑色は、灰色粉末に比べて、触媒中間体が比較的より酸化されていることを示し、灰色粉末は、青色粉末に比べてより酸化されている。相対活性度および相対選択性の値が示すように、湿式合成時および乾燥時の触媒の酸化度合が、か焼後の最終的な触媒性能に反映されることが見出された。より高い値が、より良好な触媒性能を表す。
【0053】
温浸期間が長くなるほど、より多くのアンチモン(3+)が反応することが見出された。触媒スラリをより長い期間(すなわち12時間)温浸させ続けて(実施例14)アンチモン(3+)を反応させると、還元型アンチモンが消費され、酸化型アンチモン(5+)が還元型に比べてかなり多くなるに至る。したがって、温浸期間の終了時点では、後続の乾燥、成形、か焼、および保管時にさらに触媒を還元する還元型アンチモン(3+)は、少量しかなくなっているか、ゼロになっている。
【0054】
乾燥、成形、およびか焼ステップ中に触媒を還元するアンチモン(3+)が少量またはゼロであるから、結果として、最終的な触媒の相対活性度および安定性を増大させることが可能である。温浸期間を長くする場合は、アンチモン(3+)によって還元されてしまった触媒中間体を再酸化して酸化型触媒の形態に戻すために、十分な空気酸化の実施を伴う必要がある。
【0055】
トレー乾燥では水が蒸発するのに約7時間かかるため、トレー乾燥を実施することで、三酸化アンチモンが長く反応し続けること可能になることがわかった。トレー乾燥中に、アンチモンが触媒を還元し続け、還元されたモリブデンが(6+)状態に再酸化される。ケーキの厚さは通常少なくとも数ミリメートルであって、それにより触媒スラリに対する空気の接触が抑制されるため、気固接触はそんなに良好ではないが、十分に長い乾燥期間を設けることで、触媒前駆体は効果的に酸化される。また、トレー乾燥中において、アンチモン(3+)の量が完全またはほぼ完全に減少される間に、十分な酸素が存在していれば、より多くまたは全ての還元型モリブデンが(6+)の酸化状態に再酸化されることが可能である。
【0056】
それに対して、短い温浸期間(すなわち0.5時間)(実施例15)では、同様の分量の三酸化アンチモンがモリブデンを還元することはできず、三酸化アンチモンによる触媒の還元は抑制され、少量の触媒のみ還元される。この場合、少量の還元された触媒は、乾燥期間中に完全またはほぼ完全に再酸化されることが可能であるので、完成した触媒の初期の活性度は高くなるが、依然としてモリブデンを還元するSb(3+)が触媒に含まれているため、その活性度は不安定である。
【0057】
還元型Sb(3+)の大部分が、温浸および乾燥工程の後の時点で未反応であるため、成形、か焼、および保管時に反応し続けてモリブデンを還元するので、触媒の安定性が低くなる。
【0058】
中くらいの温浸期間(すなわち3.0時間)(実施例16および17)では、より短い温浸期間の場合に比べれば、より多くの三酸化アンチモンが反応でき触媒中のモリブデンをより多く還元できるが、12時間の温浸期間の場合に比べれば少ない。より長い温浸期間(すなわち3.0時間)にわたってより多くの三酸化アンチモンを反応させる場合は、より多量に生成される還元型モリブデンが確実に再酸化されるよう、触媒前駆体をより長い期間にわたって酸化させるか、より厳密な条件下で酸化させなければならない。しかし、中くらいの温浸期間では、より短い温浸期間の場合と同様に、アンチモン(3+)が不完全にしか反応済みでないことに起因して、不安定な触媒がもたらされる。
【0059】
実施例16および17は、温浸期間が同じ場合に、異なる乾燥方法が最終的な触媒活性度にどのように影響しうるかを示す。温浸後にスラリをスプレードライすると、触媒前駆体の酸化のためにより良好な気固接触を実現でき、より高い相対活性度が得られるという利点が得られる。しかし、触媒中に存在するSb(3+)量を減少させるという、より長い温浸期間によって達成される利点を超えるには、スプレードライ法は十分ではない。
【0060】
【表3】

【0061】
アンチモンおよびモリブデンを完全に酸化させるための十分な温浸時間および乾燥時間を設けないと、触媒は安定的にならず、すなわち、成形、か焼、および保管などの後続の触媒処理工程にわたって高活性度を維持できない。
【0062】
乾燥方法が最終的な触媒活性度に対してもたらす結果を、以下の表4に実施例18〜20を用いてさらに示す。ここで、3つの全ての試料は、同じ作業工程から得られたもので温浸時間は同じ3時間であり、それらの試料に、合成時に様々なタイプの乾燥をエアレーション有りの状態と無しの状態で施した。
【0063】
実施例18では、スプレードライした結果、実施例14に比べて若干還元されており触媒活性度が低い触媒を得た。実施例19では、トレー乾燥した。トレー乾燥とは、トレーに触媒前駆体スラリを入れて、オーブン(通常は、空気循環を備えたオーブン)内で乾燥させることを含む。トレーは、深さ約3cmまで充填することができる。乾燥ケーキが得られるまで、スラリを乾燥させる。オーブン内でスラリが乾燥中に、触媒前駆体がまだ湿っている間は、アンチモンが反応し続けてモリブデンを還元していたことがわかった。乾燥中に三酸化アンチモンがさらに反応するので、実質上、より還元された触媒が生成される。したがって、乾燥中のモリブデンの還元を打ち消す酸化条件を策定しなければならない。必要とされる酸化条件をさらに定義するために、触媒前駆体を循環空気ストリームの中で乾燥させて触媒の酸化を促進した。それに対して、実施例20では、触媒前駆体に気流がかからないようにトレーを覆い、触媒前駆体への気流を減少した状態を実演した。この触媒前駆体は、より還元されていたので、最終的なか焼済み触媒において最も低い活性度を示した。
【0064】
【表4】

【0065】
(か焼時の層深さおよび気流による触媒活性度への影響)
以下の表5に記載の実施例は、か焼時の気流によって触媒活性度がどう変化するかを示す。触媒の酸化状態を増進させると、触媒活性度がさらに良くなる。全ての試料は、同じ未か焼前駆体から得られたものであった。
【0066】
【表5】

【0067】
表5に記載の全ての試料は、完全なタブレット状でか焼された3mm(1/8インチ)のタブレットであって、マイクロリアクターでの試験のために、−20+30メッシュ(0.8〜0.6mm)のサイズにサイズ分けされたものである。
【0068】
実施例21は、小さなバッチ(15gまで)にて、直径20.3cmの網式か焼炉でか焼した。層深さは3mmで浅く、すなわち、タブレット1個分の厚さであった。か焼中にタブレット同士の粒子間接触は実質的に無かったため、粒子周囲の気流は制限されず、気体−粒子間の接触は良好であった。触媒の酸化状態が活性度に直接に関係しているので、この試料において最も高い活性度が得られた。触媒の酸化状態は、か焼中の空気酸化がどのくらい効率的であるかによって決まる。
【0069】
実施例22において、網式か焼炉および同じか焼条件を用い、バッチサイズを約60gに増大したところ、明らかに、粒子周囲の気流が制限されたことに起因して、活性度が約2.6から1.9に低下した。この実施例では、触媒タブレット同士の粒子間接触があり、それによって気流が制限され、気体−粒子間の接触が減少し、触媒の空気酸化が減少した。触媒層は、深さ3mmであった。
【0070】
商業用の反応器において典型的である厚い層の影響を試験するために、同じ前駆体タブレットを、実施例23では深さ50mmかつ直径約19mmの層に装入した。3mmタブレットをきつく充填したことにより、当然、粒子周囲の気流はかなり制限された。このことは、端面間および側面−端面間の粒子間接触を伴う粒子の積み重ねから、明らかであった。結果として活性度は1.4に低下したが、それは触媒の空気酸化の減少を示す。
【0071】
実施例23a)の結果は、2回目の実施例23b)で再現された(相対活性度1.4、相対選択性0)。1回目と同様に、触媒層深さ50mm、か焼温度385℃、および勾配5℃/分の条件を用いたが、それ以外に10時間の均熱時間をとった。追加の均熱時間は、明らかに、触媒の酸化状態を変化させなかった。このことは、触媒層中の気流が制限されていたことを示唆する。
【0072】
気流の必要性を明らかにするために、実施例24では、気流がゼロの50mmの層に触媒を装入した。結果は、空気酸化の減少であり、活性度は、良好な空気酸化の場合の2.6に対して、非常に低い0.2であった。
【0073】
(触媒粒子成形圧力および密度による活性度への影響)
ヘテロポリ酸化合物触媒を市販用に適切な粒子形状およびサイズに成形する唯一の方法は、前駆体粉末を成形プレスすることであると判断された。しかし、我々は、粉末を所望の形状に成形プレスする際に使用する圧力の量によって、触媒の活性度が影響されやすいことを見出した。その影響が、実施例25および26(表6)において観察される。たとえば、成形プレス圧力を10,000から12,000psiに上昇させた場合、このケースでは触媒の相対活性度が1.9から0.9に低下することがわかった。ヘテロポリ酸化合物粉末を高い成形プレス圧力で圧縮すると、その工程中に触媒内の還元型モリブデンを酸素が再酸化することが阻害されると考えられる。触媒中の還元型モリブデンが増えると、触媒活性度が低下する。
【0074】
【表6】

【0075】
表7に記載したのは、異なる粉砕強さを付与するように様々な成形プレス圧力で形成し、様々なか焼層サイズでか焼したタブレット(実施例27〜32)であり、2つのリング形状の試料を含む(実施例31および32)。
【0076】
未か焼タブレット密度2.6g/ccに成形された直径3mm(1/8インチ)のタブレットを様々なか焼層サイズでか焼した結果、気流の制限およびか焼層の深さに起因して、活性度が2.6の高さから1.4まで低下したことがわかった(実施例27〜29)。
【0077】
網式か焼炉および同じか焼条件を用い、タブレットのバッチサイズを15g(実施例27)から約60g(実施例28)に増大したところ、粒子周囲の気流の制限におそらく起因して、活性度が約2.6から1.9に低下した。この実施例では、触媒タブレット同士の粒子間接触があり、それによって気流が制限され、気体−粒子間の接触が減少し、触媒の空気酸化が減少した。
【0078】
比較のために、未か焼タブレット密度3.1(実施例30)のタブレットを、粉砕強さが増大するようにより高い成形プレス圧力で形成した。これまでの実験データに基づき、活性度が低くなると予想していたところ、そのとおりに相対活性度は0.9であった。
【0079】
上記の関係は、リング(実施例31〜32)でも認められた。直径および高さが7/32インチであり、壁厚さが2/32インチであり、粉砕強さが約5ポンドであるリング構造を形成するには、より高い成形プレス圧力が必要であった。より高い成形プレス圧力によって、未か焼粒子密度が3.3になった。粒子密度が高くなると多孔度が低くなり、触媒酸化が同程度に良好ではなくなるので、観察される活性度は低くなる。
【0080】
層サイズの影響も、25mmの層深さのリングで認められた。約5mmの層深さでは活性度が1.6であったのに比べて、25mmの層深さでは触媒活性度は1.0であった。より深い触媒層では、触媒の効果的な再酸化に必要な触媒粒子周囲の気流が制限されてしまう。
【0081】
【表7】

【0082】
(成形時の潤滑剤レベルによる活性度への影響)
予期せぬことに、ヘテロポリ酸化合物触媒は、潤滑剤レベルを含む成形条件に影響されやすいことがわかった。潤滑剤レベルによっては、成形圧力に起因する粒子密度および粉砕強さが変化しうる。表8に記載の実施例は、少なくとも5ポンドの粉砕強さと、約2.75cc/gの未か焼タブレット密度と共に、潤滑剤のレベルが少なくとも4.4重量%であることによって、不活性化しない成形済み触媒が形成されることを示す。工程中に触媒の再酸化が実現可能なようにタブレットの多孔度を十分に高く維持するように、潤滑剤が機能すると考えられる。実施例33〜36は、多様な粉砕強さを得るように様々な成形プレス圧力を用いて形成された。様々な成形プレス圧力によって、様々な触媒粒子密度が得られ、それによって異なる初期相対活性度がもたらされた。実施例33および36は、両者とも少なくとも5ポンドの粉砕強さを有していたが、成形時の潤滑剤レベルが必要最少量未満であり、未か焼タブレット密度が2.75cc/gを超えていた。これらの実施例では、相対活性度が低かった(実施例33)か、あるいは、初期活性度は良好であったが触媒はすぐに不活性化した(実施例36)。
【0083】
【表8】

【0084】
(アンチモンの酸化状態による触媒活性度への影響)
五酸化アンチモンの使用が活性度に影響するかどうかを見極めるために、表9の実施例群を同一条件下で合成した。実施例37は、還元型の三酸化アンチモン(Sb3+)を用いて生成し、実施例38は、酸化型の五酸化アンチモン(Sb5+)を用いて生成した。酸化型アンチモンの使用によって、合成時のモリブデンの還元が抑制され、より高い触媒活性度が得られた。完全に酸化された五酸化アンチモンを使用することによって、より高い相対活性度が得られたのだが、初期の反応物が三酸化アンチモン(3+)の場合に比べて、同程度に高い相対選択性は得られなかった。すなわち、最高の選択性を実現するには、三酸化アンチモン(3+)を使用しなければならない。三酸化アンチモン(3+)は触媒中のモリブデンを還元させるので、上述のとおり、触媒が活性状態になるように再酸化させる必要がある。
【0085】
【表9】

【0086】
(保管時の大気中水分との接触による影響)
HPAの製造には全部で7つの単位操作があり、大気中の水分との接触に関連して、か焼の単位操作に続いて2つの追加の単位操作がある。それらの単位操作は、か焼後の、梱包/保管と、反応器への投入である。
【0087】
HPA触媒は、か焼後に、室温程度以上にて大気中水分の存在下で還元されうる。か焼後の水分存在下での還元は、未反応の三酸化アンチモンが、酸化モリブデンを(6+)から(5+、4+)の酸化状態に還元する反応によるものであると考えられ、それは理論によって制限されない。温浸時にSb(3+)を消費してSb(5+)に酸化させ、乾燥、成形、およびか焼工程を経ることによって、保管中の還元の発生を防止できる。酸化モリブデンの還元は、触媒の活性度を低下させる。水分は、直接に反応に関わっていないようであるが、アンチモン(3+)化学種とモリブデン(6+)化学種との間の酸化還元反応を、明らかに起きやすくする。
【0088】
触媒周囲の空気の水分含有量が5%未満であり、保管温度が35℃未満であり、気圧が大気圧以上であるよう制御された条件下で、触媒の梱包および反応器への投入の試験を実施した。触媒を、ただちに乾燥空気入りのグローブバッグに入れて、サイズ分けした。試料を乾燥グローブバッグ内で保管し、反応器の準備が整った時点で、試料をただちに投入した。水分に接触した試料では、触媒が青色に変わった。その色は、比較的低い活性度を有する還元された触媒を表すものである。
【0089】
(代替酸化剤)
青色によって認識される還元型モリブデン(Mo4+、5+)を含むヘテロポリ酸化合物のスラリに、過酸化水素を投入した。過酸化水素は、モリブデンを、還元型の青色(Mo4+、5+)から無色(Mo6+)に酸化することがわかった。モリブデンを酸化することによって、より活性度の高い触媒が得られる。
【0090】
当然ながら、上述の事項を考慮に入れた本発明の様々な変更形態および変形形態が可能である。したがって、本発明は、添付の請求項の範囲内で、本明細書で具体的に説明したもの以外の形態で実施可能であると理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘテロポリ酸化合物触媒の調製方法であって、
a)モリブデン、バナジウム、リン、ビスマス、銅、ホウ素、アンチモン、およびセシウムの金属化合物を、水または酸の中に溶解するステップであって、ここで、モリブデン、バナジウム、リン、ビスマス、銅、ホウ素、およびセシウムがそれぞれの最高の酸化状態にありアンチモンが3+の酸化状態にあるステップと、
b)固体状の触媒前駆体を沈殿させてスラリを形成するステップと、
c)前記スラリの固体を液体から分離するステップと、
d)前記固体を乾燥させるステップと、
e)前記固体を成形するステップと、
f)前記固体をか焼して、ヘテロポリ酸化合物触媒を生成するステップと、
g)前記ステップa)の実施中またはその後にモリブデンを再酸化させるステップと、
を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であってさらに、ステップa)においてMの化合物を溶解することを含み、ここでMは、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ルビジウム、ジルコニウム、チタン、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、硫黄、セレニウム、およびテルルのうちから選択される一つまたはそれ以上であることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、
モリブデン化合物は、アンモニウムモリブデート、アンモニウムパラモリブデート、三酸化モリブデン、塩化モリブデン、もしくは、それらの混合物または組み合わせであり、
リン化合物は、リン酸、リン酸アンモニウム、もしくは、それらの混合物または組み合わせであり、
銅化合物は、硝酸銅、塩化銅、もしくは、それらの混合物または組み合わせであり、
ビスマス化合物は、硝酸ビスマス、酸化ビスマス、塩化ビスマス、もしくは、それらの混合物または組み合わせであり、
バナジウム化合物は、アンモニウムバナデート、アンモニウムメタバナデート、五酸化バナジウム、塩化バナジウム、もしくは、それらの混合物または組み合わせであり、
ホウ素化合物は、ホウ酸、水酸化ホウ素、および、酸化ホウ素であり、
アンチモン化合物は、三酸化アンチモンであり、
セシウム化合物は、硝酸セシウム、酸化セシウム、水酸化セシウム、または、セシウム塩であることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項2に記載の方法であって、
モリブデン化合物は、アンモニウムパラモリブデートまたはアンモニウムモリブデートであり、
バナジウム化合物は、アンモニウムメタバナデートまたはアンモニウムバナデートであり、
リン化合物はリン酸であり、
ビスマス、コバルト、ニッケル、セシウム、マグネシウム、亜鉛、カリウム、ルビジウム、タリウム、マンガン、バリウム、クロム、ホウ素、硫黄、ケイ素、アルミニウム、チタン、テルル、スズ、バナジウム、ジルコニウム、鉛、カドミウム、銅、ガリウム、インジウム、およびゲルマニウムの化合物は、硝酸塩、酸化物、水酸化物、または酸であり、
アンチモン化合物は、三酸化アンチモンであり、
カルシウム、ストロンチウム、リチウム、およびナトリウムの化合物は、硝酸塩または炭酸塩であり、
セレニウム化合物は酸化物であることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、ビスマス、セシウム、コバルト、ニッケル、マグネシウム、および亜鉛の化合物は、硝酸塩であることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、溶液またはスラリ中において、もしくは、前記固体の状態において前記スラリの液体からの分離時、前記固体の乾燥時、またはか焼時に、気液および/または気固接触による空気酸化によって、モリブデンを再酸化させることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、触媒合成時に前記溶液またはスラリに空気を導入することを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項6に記載の方法であって、触媒合成用の前記溶液またはスラリに酸化剤を投入することを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、前記酸化剤は、過酸化水素、亜酸化窒素、酸化窒素、一酸化窒素、もしくは、それらの混合物または組み合わせであることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項6に記載の方法であって、前記スラリを3時間以上熟成または温浸させ、乾燥時に前記固体を再酸化させることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項6に記載の方法であって、蒸発によって、前記固体を前記スラリの液体から分離することを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項6に記載の方法であって、前記固体を、前記スラリの液体から分離すると同時にスプレードライ法によって乾燥させることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項6に記載の方法であって、前記固体をオーブンまたはスプレードライヤ内で空気中にて乾燥させることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項6に記載の方法であって、前記固体を空気中で乾燥させることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項6に記載の方法であって、前記固体を、オーブン内で空気中にて100〜150℃の温度で2〜5時間にわたって乾燥させることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項6に記載の方法であって、前記固体を成形するステップにおいて、前記固体が少なくとも約4.4重量%の潤滑剤レベルを有することを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法であって、前記潤滑剤がグラファイト、水、またはそれらの混合物であることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項16に記載の方法であって、少なくとも約5ポンドの粉砕強さが得られる圧力にて前記固体を成形することを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項16に記載の方法であって、粒子が、約2.75cc/g以下の未か焼タブレット密度を有することを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項1に記載の方法であって、前記固体を10,000psi以下の圧力で成形することを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項6に記載の方法であって、モリブデンを再酸化させるために十分な気固接触を確保した状態で、200〜400℃の温度で1〜12時間にわたって前記固体をか焼することを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項19に記載の方法であって、前記固体を2段階でか焼し、第1段階を成形前に150〜300℃の温度で1〜5時間実施し、成形後に第2段階を300〜400℃の温度で4〜8時間実施することを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項19に記載の方法であって、か焼をエンリッチドエア中で実施することを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項1に記載の方法であってさらに、周囲水分含有量が5%未満の空気またはエンリッチドエア中であって、35℃未満の温度および大気圧を超える気圧下で、前記ヘテロポリ酸化合物触媒を保管するステップを含む方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−520316(P2013−520316A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555035(P2012−555035)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【国際出願番号】PCT/US2011/024752
【国際公開番号】WO2011/106191
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(502132128)サウディ ベーシック インダストリーズ コーポレイション (109)
【Fターム(参考)】