説明

ヘモグロビン含有リポソームの懸濁液及びその製法

【課題】工業生産及び生体投与時の安全性の為に、適切なカプセル化効率及びカプセル化率を保持した状態で、人工赤血球として、適切な平均粒子径及び粒子径分布を持ったヘモグロビン含有リポソーム懸濁液を提供する。
【解決手段】水和膨潤均一混合リポソーム膜構成脂質の調整工程及び濃厚ヘモグロビンと前記水和膨潤均一混合リポソーム膜構成脂質を減圧下において前乳化した後、加圧下において本乳化する工程を含む製造方法で前記リポソームの平均粒子径範囲及び粒子径分布を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人工赤血球として、生体投与時の安全性及び経済的工業生産を考慮し、適切な平均粒子径範囲と粒子径分布を有するヘモグロビン含有リポソームの懸濁液及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームの内水相に酸素運搬体であるヘモグロビンを含有させ、リポソームを人工赤血球として利用する試みは広く行なわれて来た。人工赤血球としてのリポソームの粒子の形状は生体投与時の安全性、体内動態及び経済的工業的生産において非常に重要である。しかし、適切なカプセル化効率及びカプセル化率(後述)を維持した状態で、リポソームの粒子形状の測定法を定めた上で、平均粒子径範囲及び粒子径分布を適切に設定し、その為の製造工程を制御する検討は十分には行なわれていなかった。
【特許文献1】特公平6-61459
【特許文献2】特開平4-300838
【非特許文献1】人工血液.1995 ; 3(2) : 54-59
【非特許文献2】人工血液.1996 ; 4(1) : 9-13
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
リポソームを人工赤血球として生体に投与する時、リポソーム粒子の大きさは生体投与時の安全性、体内動態及び経済的工業生産の観点より非常に重要なファクターである。リポソーム粒子径が大き過ぎると次の問題がある。(1)毛細血管を閉塞させる懸念がある。(2)細網内皮系細胞への取り込みが増大し血中半減期が短くなる。(3)粒子径制御又は無菌の為の濾過工程において収率が低下する。また、リポソーム粒子径が小さ過ぎると次の問題がある。(1)血管内皮細胞間隙からの漏出の懸念がある。(2)リポソームのカプセル化効率(内水相ヘモグロビン重量をリポソーム膜構成脂質重量で除した値)が小さくなり、生体投与時に脂質負荷量が多くなり安全性に懸念がある。また、脂質原料の経済的負荷が大きくなる。(3)リポソーム粒子がエネルギー的に不安定になりリポソーム粒子同士が融合粗大化し保存安定性が悪くなる。以上により人工赤血球としてのリポソーム粒子径の大きさは適切に設定する必要がある。しかし、平均粒子径の数値範囲だけが明記されていたとしても、それがどの様な大きさの粒子を示すのかは不明である。粒子の大きさを正しく表すには以下の3つが重要である。(1)1個の粒子の大きさをどの様に表すか(代表径の取り方)(2)粒子の大きさに分布がある粒子群をどの様に表すか(粒度分布)(3)粒子群を代表する平均的な大きさをどの様に選ぶか(平均粒子径の選び方)。従来のリポソーム分野の検討においては、粒子径の大きさは平均粒子径の範囲のみを示すものが殆どで、リポソーム粒子の形状を正しく設定し、その為の製造工程を制御した十分な検討は行なわれていなかった。同じ平均粒子径範囲であっても、粒子径分布がシャープな場合に比較して、粒子径分布がブロードな場合は、平均粒子径範囲に収まらない、大き過ぎる粒子や、小さ過ぎる粒子の存在可能性が高くなり、大き過ぎる粒子や小さすぎる粒子は人工赤血球として前述の様な問題がある。以上の課題を解決する為、本発明の目的は、平均粒子径範囲及び粒子径分布を測定方法を定めた上で、適切に設定し、それらを制御する製造工程の条件設定を適切に検討する事により、人工赤血球に適した平均粒子径範囲及び粒子径分布を持つヘモグロビン含有リポソームの懸濁液及びその製法を提供する事にある。また、安全性及び経済的工業生産の面より、適切なカプセル化効率(既述)及び、経済的工業生産の面よりカプセル化率(使用したヘモグロビン量に対する、実際にリポソーム内に取り込まれたヘモグロビン量の割合)を高く維持した状態で、人工赤血球に適した平均粒子径範囲及び粒子径分布を持つヘモグロビン含有リポソームの懸濁液及びその製法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記問題を解決する為、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、測定方法を定めた上で、リポソーム平均粒子径範囲及び粒子径分布を適切に設定し、それらのファクターを制御する製造工程条件を検討し、下記の、適切なカプセル化効率を維持した状態で、人工赤血球に適したリポソーム平均粒子径範囲及び粒子径分布を持つヘモグロビン含有リポソームの懸濁液及び製法が提供される。
【0005】
1) ヘモグロビン含有リポソームの懸濁液であって、前記リポソームの平均粒子径が180〜280nmであり、粒子径分布としては70〜430nmの範囲内に90%以上の粒子が含まれ、ポリエチレングリコール結合リン脂質が、前記リポソームの表面に固定化されて存在し、且つ、前記リポソームの懸濁液の外水相に分散し、内水相ヘモグロビンの重量をリポソーム膜構成脂質の重量で除した値が1.39〜1.51である事を特徴とするヘモグロビン含有リポソームの懸濁液
【0006】
2) 均一に混合したリポソーム膜構成脂質を相転移温度以上の温度で水和膨潤させる工程及び前記ヘモグロビンと前記水和膨潤均一混合リポソーム膜構成脂質を減圧下において前乳化した後、加圧下において本乳化する工程を含む事を特徴とする請求項1に記載のヘモグロビン含有リポソームの懸濁液の製法。
【発明の効果】
【0007】
以上、詳述した様に、測定方法を定めた上で、リポソーム平均粒子径範囲及び粒子径分布を適切に設定し、前記ヘモグロビンと前記水和膨潤均一混合リポソーム構成脂質を減圧下において前乳化した後、加圧下において本乳化する工程を含む事を特徴とする製法により、適切なカプセル化効率を維持した状態で、人工赤血球に適したリポソーム平均粒子径範囲及び粒子径分布を持ったヘモグロビン含有リポソームの懸濁液及びその製法を提供出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を具体的に説明する。
<リポソーム膜構成脂質>
本発明におけるリポソーム膜構成脂質は天然又は合成の脂質が使用可能である。特にリン脂質が好適に使用され、これらを常法に従って水素添加したものがあげられる。更にリポソーム膜形成脂質には所望によりステロール等の膜強化剤や荷電物質として高級飽和脂肪酸を添加しても良い。リン脂質として水素添加大豆リン脂質、膜強化剤としてコレステロール、荷電物質としてステアリン酸等が好適に使用される。そして、公知の方法により(特公平5-64926)、均一に混合したリポソーム膜構成脂質を相転移温度以上の温度で水和膨潤させた後、ヘモグロビンを添加し、攪拌乳化する事により、ヘモグロビン含有リポソームを効率良く製造することが出来る。
【0009】
<リポソーム内水相に含有されるヘモグロビン>
本発明のリポソーム内水相に含有されるヘモグロビンは公知の方法によりヒト期限切れ濃厚赤血球製剤より白血球、血小板、血漿及び赤血球膜を除去した後、濃縮したヒト由来濃厚ヘモグロビンが用いられる。人工赤血球の最大の機能である酸素運搬能を制御する為、アロステリック因子としてフィチン酸、より好ましくはフイチン酸12ナトリウムが添加される。
【0010】
<リポソーム凝集抑制剤>
リポソーム表面への蛋白吸着抑制剤又はリポソーム凝集抑制剤として、公知の方法(特公平7-20857)により、一端に疎水性を有し、且つ、他端に親水性高分子を有する化合物が用いられる。ポリエチレングリコールとリン脂質が共有結合したポリエチレングリコール結合リン脂質(以下、PEG結合リン脂質と言う)が好適に用いられる。本発明においては、PEG結合リン脂質は、前記リポソームの表面に固定化され存在し、且つ、前記リポソーム懸濁液の外水相に分散して存在する。
【0011】
<リポソーム粒子径の測定及び表示方法>
従来のリポソーム分野の出願では、リポソームの粒子径に関しては平均粒子径範囲のみを記載したものが殆どで、しかも測定方法が明確に記載されていないものもある。既述の様に粒子径を正しく特定する為には、平均粒子径範囲と粒子径分布の記載が必要である。また、測定原理が異なれば平均粒子径範囲及び粒子径分布は測定の基準となるスケールそのものが異なってしまう。従って測定原理及び測定装置を選択したうえで、平均粒子径範囲及び粒子径分布を明確に記載する必要がある。本発明では動的光散乱法により、溶液中に分散している粒子にレーザー光を照射し、その散乱光を光子検出器で観測する。観測された散乱光の時間的な揺らぎ変動は、粒子径によって変動する様子が異なり、この揺らぎを解析する事により粒子径や粒子径分布が求められる。この方法は動的光散乱法による粒子径測定装置として市販され広く用いられている。粒子径分布とは、測定対象となるサンプル粒子群の中に「どの様な大きさ(粒子径)の粒子が、どの様な割合(全体を100%とする相対粒子量)で含まれているか」を示す指標である。粒子量の基準(次元)としては、体積、面積、長さ、個数があるが、一般的には体積基準を用いる事が多い(粒子径の具体的測定条件は実施例参照)。
【0012】
<リポソーム粒子径に影響を及ぼす製造条件>
濃厚ヘモグロビンをリポソーム化する為には、濃厚ヘモグロビンとリポソーム膜構成脂質を混合させ、強力な機械的エネルギーにより、濃厚ヘモグロビンとリポソーム膜構成脂質を分子レベルで均一に分散させる必要がある。本発明者等は、この機械的エネルギーを発生させる手段として、攪拌乳化による方法を工業的生産に適した方法として、鋭意検討してきた(特開2005-2055)。
攪拌乳化によるヘモグロビン含有リポソームの工業生産において、「測定方法を選択したうえでの、平均粒子径及び粒子径分布の測定値」に影響を与える主要な製造工程因子は、鋭意検討の結果、次の因子である事が判明している。1.リポソーム膜構成脂質の組成 2.攪拌乳化の条件 3.リポソーム凝集抑制剤処理条件 4.粒子径制御及び無菌の為の濾過条件。これらの因子の中で、経済的工業生産及び安全性を考慮した上で、適切なカプセル化効率及びカプセル化率を維持した状態で、目的とする平均粒子径及び粒子径分布を得る為に、最も影響を与える因子は上記の2.攪拌乳化の条件である。ここでカプセル化率とは、使用したヘモグロビン量に対する、実際にリポソーム内に取り込まれたヘモグロビン量の割合(%)を示す。カプセル化効率とは内水相ヘモグロビンの重量をリポソーム膜構成脂質の重量で除した値を示し、本発明ではリポソーム膜構成脂質に既述のリポソーム凝集抑制剤であるPEG結合リン脂質も含めて計算する。多少、条件的に不十分な攪拌乳化を行ったとしても、その後に濾過による粒子径制御を行うので、ある程度、平均粒子径及び粒子径分布が調整される。しかし、不十分な攪拌乳化条件であるとカプセル化効率及びカプセル化率の面で不適切な低値となり、工業的生産又は安全性の面で不利となってしまう。カプセル化効率が低いと、ヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水による懸濁液中のヘモグロビン濃度が同一でも、多くのリポソーム膜構成脂質量を必要とする事になり、工業生産上、不利となるばかりでなく、生体投与の際に安全性の面でも不利となる。また、カプセル化率が悪いと、原料の「期限切れ濃厚赤血球製剤」を多く必要とする事になり、工業生産上、不利となる。
【0013】
<攪拌乳化の条件>
既述した様に、濃厚ヘモグロビンをリポソーム化する為には、濃厚ヘモグロビンとリポソーム膜構成脂質を混合させ、強力な機械的エネルギーにより(本発明では攪拌乳化による)、濃厚ヘモグロビンとリポソーム膜構成脂質を分子レベルで均一に分散させる必要がある。しかし、過剰な機械的エネルギーをかけると、ヘモグロビンが変性してしまう懸念があると同時に、リポソームの粒子が小さくなり過ぎてしまう。リポソームの粒子が小さくなり過ぎてしまうと、既述の様に、人工赤血球として、様々な問題がある。攪拌乳化による、小さなリポソームの製法として、公知技術として、特開平9-24269、特開平11-139961などがある。特開平9-24269では請求項1に「...高速回転型分散機の処理槽内を処理物による加圧下になした状態で、高速回転による分散を行う...」と記載されている。また、0030に「...得られた予備分散後の処理物の気泡を抜く為、真空減圧を行い...」、0031に、「...処理槽2内の圧力を1kg / cm2〜11.5kg/cm2に調整した...と記載されている。特開平11-139961も粒子径100nm以下の小さなリポソームの製法に関する特許で0026に「...予備分散液から気泡の出なくなるまで常温下にて減圧脱気を行った...その後、分散液は、クレアミックスCLM−0.8wを用い、キャビテーションが起こらない様に密封系加圧.系加圧下にて...処理を行った...」と記載されている。これらの先願特許の乳化攪拌時における減圧、加圧の操作は、それぞれ泡の混入、キャビテーションを防ぎ、攪拌乳化のエネルギーを浪費させる事なく、粒子径100nm以下の小さなリポソームを製造する事を意図している。本発明では100nm以下の小さなリポソームではなく、230nm前後の大きな平均粒子径に設定した、人工赤血球としてのヘモグロビン含有リポソームを製造する為に、前乳化における減圧操作及び本乳化における加圧操作を試み、均一に混合したリポソーム膜構成脂質を相転移温度以上の温度で水和膨潤させる工程を組合せ、リポソーム粒子径を必要以上に小さくし過ぎる事無く、カプセル化効率及びカプセル化率を向上させる事を見出した。
なお、先願特許の特開平9-24269、特開平11139961にはカプセル化効率またはカプセル化率に関する記載は全くない。これらの先願特許に記載されている「減圧、加圧の操作による泡の混入およびキャビテーションの防止」により、これらの先願特許においては、攪拌エネルギーが、浪費される事なく、100nm以下の小さなリポソームにする事に作用している。しかるに、本発明においては内水相が高粘度な濃厚ヘモグロビンである為、その物理的抵抗性により、攪拌エネルギーがヘモグロビンに作用してリポソームが小さくなる方向には作用せず(むしろ、小さくなり過ぎる事は、既述の様に人工赤血球として様々な問題がある)、水和膨潤させた均一リポソーム膜構成脂質に作用して、少ない脂質でより多くのヘモグロビンが効率よくリポソーム化される方向(カプセル化効率、カプセル化率が高くなる)に作用した為と思われる。また、「減圧下における前乳化の工程」及び「加圧下における本乳化の工程」は「均一混合リポソーム構成脂質の水和膨潤の工程」と組み合わせる事により、はじめて、リポソーム粒子径を必要以上に小さくし過ぎる事無く、カプセル化効率及びカプセル化率向上に寄与する事が判明した。以上により、本発明においては、均一リポソーム膜構成脂質を水和膨潤させる工程及び前乳化における減圧操作と本乳化における加圧操作を組み合わせる事により、適切なカプセル化効率及びカプセル化率を維持した状態で、人工赤血球として、適切な平均粒子径範囲及び粒子径分布を持ったヘモグロビン含有リポソームが得られる。
本発明では、脱泡(泡を除く)操作の為、好ましくは減圧−0.7〜−1.1kg/cm2、より好ましくは−0.8〜−1.0kg/cm2の条件で脱泡しつつ乳化を行う。この脱泡操作における乳化を前乳化とする。脱泡が終了した乳化液は、次に、いわゆるキャビテーションを防止する為、加圧条件下で更に乳化を行う。好ましくは+0.2〜+0.8kg/cm2、より好ましくは+0.3〜+0.7kg/cm2の条件で加圧しつつ乳化を行う。この加圧操作における乳化を本乳化とする。本発明における加圧乳化の操作は、泡の混入を避ける必要がある為、液封加圧を行う必要がある。液封加圧とは液が充満した状態(泡や空気を含まない状態)を維持したまま加圧する事を示す。
【実施例】
【0014】
次に本発明の実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液の製造工程は無菌環境下での操作とした。
【0015】
水素添加大豆ホスフアチジルコリン182g、コレステロール89g、ステアリン酸65gから成る均一混合脂質に水336gを加えて、85℃で30分間加温して水和膨潤均一混合脂質を調整した。期限切れ濃厚赤血球製剤からヘモグロビンを精製、濃縮し、イノシトールヘキサリン酸をヘモグロビンに対して等モル添加したヘモグロビン濃度42.6w/w%の濃厚高純度ヘモグロビン溶液を調整した。前記水和膨潤均一混合脂質672gに前記濃厚高純度ヘモグロビン溶液2,400gを添加し、45℃以下の温度で、高速攪拌法により乳化し、ヘモグロビン含有リポソーム混合乳化液を得た。高速攪拌は以下の方法による。M.TECHNIQUE(エム・テクニック)株式会社のアンカーミキサーAM-0.75装着タンクを使用して、−0.9kg/cm2の減圧下、アンカーキミサー回転数120rpm、攪拌時間40分で前乳化を行った。乳化温度は10〜45℃に制御した。次に、M.TECHNIQUE(エム・テクニック)株式会社の乳化機CLM-5.5/11wクリアミックスWモーションを使用して、+0.5kg/cm2の液封加圧下、ローター回転数6000rpm、スクリーン回転数6000rpm、計7分の本乳化を行った。乳化温度を10〜45℃に制御する為、冷却しつつ、断続的攪拌乳化を行った。前記乳化液を生理食塩水により希釈して、孔径0.45μmの膜による循環濾過により粒子径の制御を行なった。更に、分画分子量30万の限外濾過による循環濾過システムを用いて、生理食塩水による加水濃縮操作で、リポソームに含有されなかったヘモグロビン及びイノシトールヘキサリン酸を除去、濃縮し、ヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水による懸濁液を得た。
【0016】
このヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水による懸濁液に、PEG結合リン脂質としてDSPE-PE5000(日本油脂製)を生理食塩水に溶解させたPEG結合リン脂質水溶液を添加して、ヘモグロビン含有リポソーム及びPEG結合リン脂質を含有し、生理食塩水による懸濁液中のリポソーム膜構成脂質濃度が4.10w/v%であり、PEG結合リン脂質濃度が0.14w/v%である様に調整した。前記のPEG結合リン脂質を添加したヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水による懸濁液を、表面固定化処理温度37℃、表面固定化処理時間24時間で処理し、PEG結合リン脂質がリポソーム表面に固定化されて存在し、且つ、外水相に分散して存在するヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水懸濁液9,143mlを得た。前記リポソーム懸濁液中のヘモグロビン濃度は6.15w/v%であった。
前記リポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質量の95%がリポソーム表面に存在し、5%が外水相に存在していた。前記リポソーム懸濁液におけるカプセル化率は55%であった。内部ヘモグロビンの重量をリポソーム膜形成脂質(リポソーム凝集抑制剤を含める)の重量で除した値(カプセル化効率)は1.45であった。平均粒子径は230nmであり、粒子径分布としては100〜400nmの範囲に95%以上の粒子が含まれていた。粒子径測定はMalvern社製、動的光散乱法粒子径測定装置「Zetasizer3000HS」にて、測定した。
測定条件(装置固有条件)は(1)Sample RI:1.47 (2)Absorbance:0.00 (3)Dispersance RI:1.33 (4)Disp.Viscocity(cp):0.890(5)Temperature(℃):25.0 (6)Wavelengh(nm):633.0として、測定した。
【0017】
リポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質の測定法を次に示す。PEG結合リン脂質がリポソーム表面及び外水相中に存在するヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水懸濁液(懸濁液Aとする)を10℃で超遠心分離(50,000G, 120分)した後、上清を取り除き、取り除いた上清と同量の生理食塩水を加えて懸濁し、外水相にPEG結合リン脂質が存在せず、リポソーム表面にのみPEG結合リン脂質が存在するヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水懸濁液を得た(懸濁液Bとする)。懸濁液A, 懸濁液Bそれぞれを内部標準液を含有したクロロホルムでPEG結合リン脂質及びリポソーム膜形成脂質を抽出した。これを液体クロマトグラフ法によって、PEG結合リン脂質の標準物質のピーク面積に対して算出し、懸濁液A中のPEG結合リン脂質量及び懸濁液B中のPEG結合リン脂質量(後者はリポソーム表面に固定化されたPEG結合リン脂質量に相当する)を測定した。懸濁液Aで得たPEG結合リン脂質量(リポソーム表面に存在するPEG結合リン脂質量+外水相中に存在するPEG結合リン脂質量)から懸濁液Bで得たPEG結合リン脂質量(リポソーム表面にのみ存在するPEG結合リン脂質量)を差し引いて、外水相中に存在するPEG結合リン脂質量を算出した。
(比較例1)
【0018】
実施例1において、「減圧操作を伴う前乳化」を採用しない事以外は実施例1と同じ条件でヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水による懸濁液を得た。平均粒子径及び粒子径分布は実施例1とほぼ同程度であったが、カプセル化率は25%、カプセル化効率は1.2であった。
(比較例2)
【0019】
実施例1において、「本乳化における加圧操作」を採用しない事以外は実施例1と同じ条件でヘモグロビン含有リポソームによる生理食塩水による兼濁液を得た。平均粒子径及び粒子径分布は実施例1とほぼ同程度であったが、カプセル化率は26%、カプセル化効率は1.3であった。
(比較例3)
【0020】
実施例1において、「85℃で30分間加温して水和膨潤」の操作を採用しない事以外は実施例と同じ条件でヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水による懸濁液を得た。平均粒子径及び粒子径分布は実施例とほぼ同程度であったが、カプセル化率は18%、カプセル化効率は1.25であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘモグロビン含有リポソームの懸濁液であって、前記リポソームの平均粒子径が180〜280nmであり、粒子径分布としては70〜430nmの範囲内に90%以上の粒子が含まれ、ポリエチレングリコール結合リン脂質が、前記リポソームの表面に固定化されて存在し、且つ、前記リポソームの懸濁液の外水相に分散し、内水相ヘモグロビンの重量をリポソーム膜構成脂質の重量で除した値が1.39〜1.51である事を特徴とするヘモグロビン含有リポソームの懸濁液
【請求項2】
均一に混合したリポソーム膜構成脂質を相転移温度以上の温度で水和膨潤させる工程及び前記ヘモグロビンと前記水和膨潤均一混合リポソーム膜構成脂質を減圧下において前乳化した後、加圧下において本乳化する工程を含む事を特徴とする請求項1に記載のヘモグロビン含有リポソームの懸濁液の製法。

【公開番号】特開2009−35517(P2009−35517A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202641(P2007−202641)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】