説明

ヘモグロビン消化用試薬

本発明は、バッファ、ペプシンおよび1,3-ジアルキル-イミダゾリウム塩を含むヘモグロビン消化用試薬に関する。また、本発明は、ヘモグロビンを消化する方法、HbAIcを検出する方法における本試薬の使用、および全血試料の回収のためのヘモグロビンを消化するための該試薬を含むサンプリングチューブを開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(導入)
本発明は、バッファ、ペプシンおよび1,3-ジアルキル-イミダゾリウム塩を含むヘモグロビン消化用試薬に関する。また、本発明は、ヘモグロビンを消化する方法、HbA1cを検出する方法における本試薬の使用および全血試料の回収のためのヘモグロビンを消化するための該試薬を含むサンプリングチューブを開示する

【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
循環血糖レベルの損なわれた調節は糖尿病の特徴である。非酵素統計プロセスにおける血糖は、ポリペプチドのリジン残基に結合して、それによって糖化ポリペプチドがもたらされ得る。糖化は長い半減期を有するタンパク質で頻度高く観察される。循環血糖レベルの長期調節を評価するために最も頻度高く使用されるタンパク質はヘモグロビンである。
【0003】
糖化ヘモグロビンを測定するための多くの方法がある。これらは、糖化および非糖化タンパク質成分を分離および定量する方法に依存して、3つのグループに基本的に分けることができる(Goldstein, D.E. et al., Clin. Chem. 32 Suppl. 10 (1986) B64-B70)。
【0004】
第一グループは、電荷の違いの利用に基づいた物理化学法からなる。これらとしては、Diamat、MonoSおよびPolyCatA(Bisse 法)などのカチオン交換カラムを用いたHPLC測定が挙げられ、臨床化学で最も頻度高く使用される方法である。糖化へモグロビンの場合に、定量的評価は、通常、Hb全量に関するHbA1cシグナルの相対測定(%HbA1c)によって行われる。
【0005】
第二グループの方法は、糖化および非糖化タンパク質の異なる化学反応性を利用するものである。これらとしては、例えば、ヘモグロビンに結合したグルコースを黄色色素に変換し、光定量的に測定するチオバルビツール酸法、および支持体に共有結合される、糖残基の隣接するジオール基とホウ酸基との間の複合体形成を使用して糖化および非糖化ヘモグロビンを分離するアフィニティークロマトグラフィー法が挙げられる。分離された物質の種類が光定量的に定量され、糖化ヘモグロビンの相対量が計算されるか、またはチオバルビツール酸法の場合に、適切な標準物質を用いた較正による絶対測定として定量される。
【0006】
第三に、免疫学的方法が挙げられ得る。特異的抗体が免疫学的方法に使用される。例えば、これらは、HbA1cで典型的である糖化へモグロビン分子のβ鎖のN末端の構造単位を認識する(例えば、Tina quant(登録商標)HbA1c, Roche Diagnostics GmbH, Germany)。免疫学的方法において、それぞれHbA1cとHbA0の両方の絶対含有量が測定される。これには、独立した方法によって標的濃度を特定した較正の使用を必要とする。例えば、HbA1cの相対含有量は、直接測定によって得ることができない。
【0007】
HbA1cはヒト血液の主要な糖ヘモグロビン種である。これは、ほぼ20年の間、糖尿病患者における血糖調節の長期評価のために使用されている。包括的糖尿病調節および合併症試行(Diabetes Control and Complications Trial)(DCCT)によって、網膜症、腎症および神経障害などの毛細血管合併症がインシュリン依存性糖尿病(IDDM)を有する患者において高血糖の程度に直接関わるという十分な証拠が提供され、血液中のHbA1cの測定が糖尿病患者の血糖状態の長期モニタリングのための優れたツールであることが証明された(The Diabetes Control and Complications Trial Research Group: The effect of intensive treatment of diabetes on the development and progression of long-term complications in insulin-dependent diabetes mellitus, Nathan et al., N. Engl. J. Med 329 (1993) 977-986; Santiago, J.V., Diabetes 42 (1993) 1549-1554; Benjamin, J.and Sacks, D.B., Clin. Chem. 40 (1994)683-687;およびGoldstein, D. et al., Clin. Chem. 40 (1994)1637-1640)。また、DCCT研究は、正常な非糖化ヘモグロビンのそれぞれのHbA1cおよびHbA0の、信頼性が高く、かつ再現可能な測定のための必要性を明らかに示した。
【0008】
しかし、公知の方法は、多くの不利と関係がある。従って、糖化タンパク質の測定シグナルが非糖化バリアントと重複するので、いくつかの物理化学法は非常に不良な選択性を有する。クロマトグラフィーピークの形状は、しばしば非対称であり、統合することが困難である。使用されるカチオン交換カラムは、作業条件の小さな変化および夾雑に影響を受けやすい。不良な選択性のために、非常に高い値(偽陽性値)を測定する高いリスクがある。
【0009】
化学法の場合に、手順を標準化することは困難であり、糖を含む他の成分による干渉は多大な努力でやっと回避することができる。例えば、HbA1cと他の糖化ヘモグロビンバリアントとを区別することは可能ではない。
【0010】
免疫学的方法は、糖化タンパク質バリアントに対する非常に高い選択性を特徴とする。しかし、結果の質は、較正に使用される標準の質に依存する。最適な質の適切な主要標準は特にHbA1cについて現在利用可能ではない。マトリックス従属の情報は、適切な参照法がないために得ることができない。また、この場合に偽陽性値が頻度高く得られる(例えば、Tiran, A. et al., J. Clin. Lab. Anal. 8 (1994) 128-134参照)。
【0011】
Kobold U., ら(米国第5,631,140号)は、試料中に含まれるタンパク質のタンパク質分解性消化に基づいた、ヘモグロビンなどの糖化タンパク質の検出のための方法を記載している。その後、ペプチド断片の検出が高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)および質量分析(MS)によって実施される。最近、Jeppsson, J.-O. et al., Clin. Chem. Lab. Med. 40 (2002) 78-89は、国際連邦臨床化学および実験医学(IFCC)によって承認されたHbA1c測定のための参照方法について報告した。この方法は、ヘモグロビンの消化に基づいている。糖化形態および非糖化形態の両方が酵素で消化され、ヘモグロビンの両形態のN末端ペプチド断片がHPLC-MSによって定量される。ヘモグロビンの酵素切断において、Boehringer Mannheim, Mannheim, Germany(Id.番号1047817)のエンドプロテイナーゼGlu-C配列決定等級を使用した。ヘモグロビンの完全消化を達成するために、例えば18時間の一晩消化または2時間のトリプシンを用いた消化のそれぞれが提案されている。
【0012】
トリプシンはC-末端側の切断部位でリジンとアルギニンのペプチド結合を切断し、即ち、ヘモグロビンのアミノ酸の8番目と9番目との間を切断する。Jeppsson ら, 上掲は、b-鎖の位置8のリジン残基も正常レベルを有する試料ではなく上昇したHbA1cレベルを有する試料中で糖化され得ることを示すことができた。従って、定量目的でN-末端オクタペプチドを放出するためにトリプシンを用いることには、二重糖化オクタペプチドまたはLys-1もしくはLys-8位置のそれぞれで糖化される単一糖化オクタペプチドを得るリスクが含まれる。従って、これらの研究者らは、トリプシン切断は使用可能でないと結論付けた。エンドプロテイナーゼGlu-Cは、位置6と7での2つのグルタミン酸残基間でb-鎖のN-末端部分を切断する。得られた断片は、N-末端バリンでの単一の糖化部位のみを含むので、HbA1cを分離するために使用することができる。実際の切断部位はpH4.0の温和な変性条件下で酵素に容易に曝露される。消化前の完全な変性によって、更なる基質が酵素に曝露され、より複雑なペプチド混合物が生じる。オンラインHPLCおよび電子スプレー-質量分析またはオフライン系のHPLCおよびキャピラリー電気泳動の現代の多次元分析技術を用いることによって、HbA1cおよびHbA0の2つのβ-N末端ヘキサペプチドが必要な分析実行で分離され、定量され得る。全血試料のエンドプロテイナーゼGlu-C消化で生じたペプチド断片の混合物を分析して、研究者らはHbA1c測定における高い特異性および感度を得た。
【0013】
いくつかのタンパク質分解性酵素は、異なる比率で生じる可能性があるペプチド断片をもたらす。次に、これが、測定濃度の高い変動またはかなり長いインキュベーション時間のいずれかとなる。糖化ヘモグロビンの部分を評価するためにヘモグロビンの消化に使用される試薬は、所望のペプチド断片の迅速な形成および安定な形成の両方を可能にすべきである。
【0014】
認められるように、長い消化時間は、試料スループットを犠牲にし、コストがかかる。臨床慣例のために、ヘモグロビンの迅速な消化を確実にし、かつ同時に例えばHbA1cおよびHbA0の正確な定量を可能にする試薬が、非常に望ましい。しかし、ヘモグロビンの消化に基づくヘモグロビンの検出方法は、現在でもかなり長いインキュベーション時間を必要とし、および/または安定なペプチド断片をもたらさないかのいずれかであるように思われる。
【0015】
以下に開示され、添付の特許請求の範囲に記載されるように、タンパク質の消化に非常に有用であり、それによって例えば、糖化および非糖化ヘモグロビンの迅速な消化がもたらされるタンパク質分解性試薬を提供することができることが見出され、確立された。
【0016】
(発明の要旨)
本発明は、バッファ、ペプシン、および1,3-ジアルキル-イミダゾリウムカチオンおよび対イオンからなる1,3-ジアルキル-イミダゾリウム塩を含むヘモグロビン消化用試薬に関する。
【0017】
また、ヘモグロビンを消化する方法であって、ヘモグロビンを含む試料と、本発明による試薬とを混合する工程、1〜60分間ヘモグロビンを消化して、それによってヘモグロビンの14個のN-末端アミノ酸からなるヘモグロビン断片を得る工程を含む方法が開示される。
【0018】
さらに、HbA1cを測定する方法であって、ヘモグロビンを含む試料と、本発明によるヘモグロビン消化用試薬とを混合する工程、1〜60分間ヘモグロビンを消化して、それによってHbA1cの14個のN-末端アミノ酸を含むHbA1c断片を得る工程、該HbA1cのN-末端断片を測定する工程、ならびに得られた値とHbA1cの濃度とを関連付ける工程を含む方法が開示される。
【0019】
更なる態様において、ペプシンによるヘモグロビン消化における1,3-ジアルキル-イミダゾリウムカチオンおよび対イオンからなる1,3-ジアルキル-イミダゾリウム塩の使用が記載される。
【0020】
また、本発明は、本発明に開示されるヘモグロビン消化用試薬組成物を含むサンプリングチューブに関する。
【0021】
(発明の詳細な説明)
第一態様において、本発明は、a)バッファ、b)ペプシン、およびc)1,3-ジアルキル-イミダゾリウムカチオンおよび対イオンからなる1,3-ジアルキル-イミダゾリウム塩を含むヘモグロビン消化用試薬に関する。
【0022】
開示される試薬または試薬混合物は、ヘモグロビンを効率的に消化するために使用することができる。酵素消化は、ペプシンによってもたらされる。ペプシンは消化系の3つの主要なタンパク質分解(degrading)またはタンパク質分解(proteolytic)酵素の1つであり、他の2つはキモトリプシンとトリプシンである。3つの酵素は初めに結晶形態で単離された。消化プロセス中に、これらの酵素は、それぞれが特定の種類のアミノ酸間の重要な結合に特に有効であり、食餌タンパク質をその構成要素、即ち、腸層で容易に吸収され得るペプチドおよびアミノ酸に分解するように協同する。
【0023】
ペプシンは腸層によって不活性形態で合成される;また、胃粘膜によって生み出される塩酸は、不活性プロ酵素または酵素原を活性酵素に変換するためにおよびペプシン機能のための最適な酸性(pH1〜3)を維持するために必要である。A、B、CおよびDに指定されるいくつかのペプシンがある。ペプシンAは、主要コンポーネントであり、35,000ダルトンの分子量および基質がネイティブタンパク質である場合にカゼインまたはヘモグロビンなどの基質のためのおよそ1.0の最適pHを有する。ペプシンは、フェニルアラニンおよびチロシンなどの芳香族アミノ酸のカルボキシル基で優先的にタンパク質を切断する。これは、バリン、アラニン、またはグリシンを含む結合を切断しない。その作用によって、長いポリペプチド鎖が短い長さのペプチドに壊される。
【0024】
本発明による試薬は、ペプシンの迅速で効率的な作用を確実にするために緩衝化される。ペプシンは強酸性pHで最も活性であるために、バッファは好ましくはpH1〜pH4のpHに調節される。また好ましくは、pHはpH1.5〜pH3である。
【0025】
当業者は、適切なpHおよび適切なバッファ系を選択することに問題はない。酸性バッファ系は、例えばグリシンまたはクエン酸をベースにすることができる。好ましくはHClが所望のpHに調節するために使用される。
【0026】
バッファの濃度が、ヘモグロビン消化における適切なpHを確実にするために調節される。好ましくは、バッファは、10mM〜1Mの濃度を有する。また好ましくは、バッファは、50〜200mMの濃度を有する。
【0027】
ペプシン(E.C.3.4.23.1)は、基質としてヘモグロビンを用いたAnson, M.L., J.Gen. Physiol.22 (1938)79-89の方法に基づいてアッセイされる。ユニット定義:1ユニットは37℃、pH2.0での280nmの吸収で0.001/分の増大を生じる。好ましくは、本発明による試薬において、ペプシンは30〜6000 U/mlの濃度で存在する。
【0028】
上述で議論されるように、通常の消化条件下でのヘモグロビンの消化に使用される場合のペプシンは、他のペプチド断片の生成の他に、7個および14個のアミノ酸のそれぞれを有する2つのN-末端断片の形成をもたらす。これらの2つのペプチドが異なる比率で形成されるために、例えば14個のアミノ酸ペプチドの測定によるHbA1cの信頼性の高い測定は可能ではない。1,3-ジアルキル-イミダゾリウム塩の存在下でのペプシンによって、ヘモグロビンのN-末端14アミノ酸ペプチド断片の迅速な形成および安定な形成の両方がもたらされることを見出し、実施例部に示す。従って、本発明による試薬は、1,3-ジアルキル-イミダゾリウム塩を含む。
【0029】
式I: 1,3-ジアルキル-イミダゾリウム塩


(式中、R1およびR2は独立して、アルキル残基を表し、A-は対イオンを表す。)
【0030】
好ましくは、本発明による試薬に含まれる1,3-ジアルキル-イミダゾリウム塩のアルキル残基は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、またはイソブチルから選択される。また好ましくは、該1,3-ジアルキル-イミダゾリウムの2つのアルキル残基は独立して、メチル、エチル、またはプロピルから選択される。
【0031】
本発明による試薬は、ペプシン活性およびタンパク質消化に対する有利な効果を達成するために適切な濃度の1,3-ジアルキル-イミダゾリウム塩を含む。好ましくは、これは1〜25%の最終濃度で含有される。また好ましくは、本発明による試薬中の1,3-ジアルキル-イミダゾリウム塩の濃度は2〜20%または4〜15%の範囲である。
【0032】
当業者が容易に認めるように、1,3-ジアルキル-イミダゾリウム塩に含まれる対イオンはマイナス電荷を含むが、重要ではない。好ましくは、対イオンが、リン酸、アルキルリン酸、スルフェートおよびアルキルスルフェートから選択される。
【0033】
本発明による試薬混合物は、ヘモグロビン消化に有利であることが明らかであり、例えばヒト血清に含まれる任意のタンパク質の消化に有利であることが予測される。ペプシンのより迅速でより一定の作用が、目的の任意の他のポリペプチドと類似して、見られることが予測される。このことは、全血清タンパク質組成またはそこに含まれる他の個々のタンパク質の分析を容易にする。
【0034】
さらなる態様において、本発明は、ヘモグロビンを消化する方法であって、a)ヘモグロビンを含む試料と、本発明による試薬とを混合する工程、およびb)1〜60分間ヘモグロビンを消化して、それによってヘモグロビンの14個のN-末端アミノ酸からなるヘモグロビン断片を得る工程を含む方法に関する。
【0035】
ヘモグロビンの消化方法は、好ましくはヘモグロビンおよび/または糖化ヘモグロビンのそれぞれの測定に使用される。
【0036】
好ましい態様において、本発明は、HbA1cを測定する方法であって、a)ヘモグロビンを含む試料と、本発明による試薬とを混合する工程、b)1〜60分間ヘモグロビンを消化して、それによってHbA1cの14個のN-末端アミノ酸からなるヘモグロビン断片を得る工程、ならびにc)該HbA1cのN-末端断片を測定する工程を含む方法に関する。
【0037】
また、本発明は、全ヘモグロビン中のHbA1c相対濃度を測定する方法であって、ヘモグロビンを含む試料と、(a)バッファ、(b)ペプシンおよび(c)1,3-ジアルキル-イミダゾリウムカチオンおよび対イオンからなる1,3-ジアルキル-イミダゾリウム塩を含むヘモグロビン消化用試薬とを混合する工程、1〜60分間ヘモグロビンを消化して、それによってそれぞれ糖化または非糖化いずれかのヘモグロビンの14個のN-末端アミノ酸からなるヘモグロビン断片を得る工程、該ヘモグロビンのN-末端糖化断片およびN-末端非糖化断片の両方をそれぞれ測定する工程、ならびに(c)で得られた値と全ヘモグロビン中のHbA1c相対濃度とを関連付ける工程を含む方法に関する。
【0038】
本発明による試薬混合物を用いた実施例に示されるように、ヘモグロビンをかなり早く消化することが可能であり、即ち、最大消化は約1分後に既に見られる。ヘモグロビンの14個のN-末端アミノ酸からなるペプチド断片が少なくとも1時間安定していることも分かった。このことは、各非糖化(HbA0)および糖化HbA1c N-末端ペプチド断片の両方に当てはまる。これらの発見は、試料の取り扱いを非常に容易にし、HbA0およびHbA1cそれぞれの測定のフレキシブルな時間を可能にする。これらの安定な測定のために、%HbA1cの算出は広範なバリエーションに供されないので、かなり正確で信頼性が高い。
【0039】
それぞれHbA0およびHbA1cのN-末端14アミノ酸断片は、任意の適切な手段によって定量することができる。好ましい態様において、定量は免疫学的手順によって達成される。さらなる好ましい態様において、これらのペプチドの測定はHPLCおよび質量分析によって実施される。
【0040】
さらなる好ましい態様は、ペプシンによるタンパク質消化における1,3-ジアルキル-イミダゾリウムカチオンおよび対イオンからなる1,3-ジアルキル-イミダゾリウム塩の使用に関する。さらに好ましくは、本発明は、ペプシンによるヘモグロビン消化における1,3-ジアルキル-イミダゾリウムカチオンおよび対イオンからなる1,3-ジアルキル-イミダゾリウム塩の使用に関する。
【0041】
本発明による試薬を含むサンプリングチューブに全血試料を直接回収することが望ましく有利であり得る。従って、好ましい態様において、本発明はまた、本発明による試薬組成物を含むサンプリングチューブに関する。
【0042】
以下の実施例は、本発明の理解を補助するために提供され、真の範囲は添付の特許請求の範囲に示される。本発明の精神を逸脱することなく示される手順で変更が行われ得ることが理解されよう。
【0043】
(実施例)
実施例1
ヘモグロビン(Hb)のタンパク質分解の一般的手順
0.2mg/mLのヘモグロビンおよび50mM酢酸アンモニウム(pH4.3)を含む24μlへモグロビン溶液アリコートを、20mMクエン酸pH2.4中のペプシン(300U/mL)および任意に1,3-ジアルキル-イミダゾリウム塩(10%重量/容積)を含む216μlの溶液と混合する。反応溶液は測定まで室温で保持される。測定は、1分、11分、21分、31分、41分、51分および61分のそれぞれの消化時間後にHPLC-MS(実施例2参照)を用いて行われる。ペプシン消化の際に放出されるHbA0およびHbA1cβ鎖に由来するN-末端ペプチド[1〜14]の量ならびにこれらのペプチドの比率(HbA0あたりのHbA1c)を報告する。
【0044】
実施例2
HPLC-MSを用いたHbA0およびHbA1c N-末端ペプチドの測定
実施例1で得られた10μLの消化物をHPLCに注入した。
【0045】
HPLC系は、DR5溶媒送達系、自動サンプラーを備えたサーモスタット、自動インジェクターおよびHPLCと質量分析器との間の交換バルブを有するHP 1090液体クロマトグラフ(Agilent)からなる。検出器は電子スプレーイオン化を用いた連続イオン捕捉質量分析器Thermo Electron LTQである。クロマトグラフィー分離について、床物質としてSymmetry C18粒子、2mmの内部カラム直径、200mmのカラム長および0.5μmの孔径のフリットを有するHPLCカラムを使用する。溶出液は、0.1%蟻酸の水(A)〜0.1%蟻酸のアセトニトリル(B)で、1分100%A、4分で15%B、その後2分で50%Bの勾配である。流速は0.2mL/分である。HbA0およびHbA1cペプチド[1〜14]は、およそ4.4〜5.2分でそれぞれ溶出する。検出はMS/MS遷移で行われ、HbA0 m/z 748.5〜683.2およびHbA1c m/z 829.1〜802.0である。
【0046】
1-エチル-3-メチルイミダゾリウムエチルスルフェート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムメチルスルフェートの添加または1,3-ジアルキル-イミダゾリウム塩の非添加のいずれかによって得られたヘモグロビンの消化結果をそれぞれ表1〜3に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
HbA1cを測定する方法であって、
a)ヘモグロビンを含む試料と、
aa)バッファ、
ab)ペプシンおよび
ac)1,3-ジアルキル-イミダゾリウムカチオンおよび対イオンからなる1,3-ジアルキル- イミダゾリウム塩を含むヘモグロビン消化用試薬とを混合する工程、
b)1〜60分間ヘモグロビンを消化して、それによってHbA1cの14個のN末端アミノ酸を含むヘモグロビン断片を得る工程、ならびに
c)該HbA1cのN末端断片を測定する工程
を含む、方法。
【請求項2】
ヘモグロビン消化用試薬のバッファがpH1〜pH4のpHを有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ヘモグロビン消化用試薬のバッファが10mM〜1Mの濃度を有する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
ヘモグロビン消化用試薬に含まれるペプシンが30〜6000U/mlの濃度で存在する、請求項1〜3いずれかに記載の試薬。
【請求項5】
ヘモグロビン消化用試薬に含まれる1,3-ジアルキル-イミダゾリウムの2つのアルキル残基が独立してメチル、エチルまたはプロピルから選択される、請求項1〜4いずれかに記載の方法。
【請求項6】
ヘモグロビン消化用試薬に含まれる対イオンが、リン酸、アルキルリン酸、スルフェートおよびアルキルスルフェートから選択される、請求項1〜5いずれかに記載の方法。
【請求項7】
ヘモグロビンを消化する方法であって、
a)ヘモグロビンを含む試料と、
aa)バッファ、
ab)ペプシンおよび
ac)1,3-ジアルキル-イミダゾリウムカチオンおよび対イオンからなる1,3-ジアルキル-イミダゾリウム塩を含むヘモグロビン消化用試薬とを混合する工程、ならびに
b)1〜60分間ヘモグロビンを消化して、それによってヘモグロビンの14個のN末端アミノ酸からなるヘモグロビン断片を得る工程
を含む、方法。
【請求項8】
ペプシンによるヘモグロビン消化における1,3-ジアルキル-イミダゾリウムカチオンおよび対イオンからなる1,3-ジアルキル-イミダゾリウム塩の使用。
【請求項9】
ヘモグロビン消化用試薬を含むサンプリングチューブであって、該試薬が
a)バッファ、
b)ペプシンおよび
c)1,3-ジアルキル-イミダゾリウムカチオンおよび対イオンからなる1,3-ジアルキル-イミダゾリウム塩
を含む、サンプリングチューブ。


【公表番号】特表2009−544933(P2009−544933A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−519871(P2009−519871)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際出願番号】PCT/EP2007/006413
【国際公開番号】WO2008/009445
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】