説明

ヘルメツトシールド用およびゴーグルレンズ用分解性保護フイルム

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ヘルメツトのシールド部分やスポーツ用ゴーグルのレンズ部分に装着または貼り付けて用いる保護フイルムに関する。
【0002】
【従来の技術】オートバイや自動車レースあるいはスキー競技などのスポーツやその他の産業分野にも用いられるヘルメツトのシールド部分あるいはゴーグルレンズ部分に装着または貼り付けて用いる保護フイルムは、水、泥、油などが付着して視界を遮る場合、これを剥ぎ取り視界を確保する目的で使用される。この保護フイルムは通常、複数枚を剥離可能に粘着積層して、1枚ずつ剥がして使用される。この保護フイルムに要求される特性は、透明性に優れ、使用時には耐水性、耐油性があり、また剥がす際にも破断しないことである。
【0003】そのため、これまでに用いられている保護フイルムは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどからなる。特にポリエチレンテレフタレート製のものは透明性に優れ、強度も高いので保護フイルムとして一般に多く使用されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしこれらのプラスチツクフイルムは、自然環境中に散乱した場合、分解せず、公害を引き起こしたり、あるいは回収されて埋め立て処理しても分解されずにそのまま残るため、埋立地の地盤が安定せず、また埋立地の寿命を短くするなどの問題がある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は上記問題点を解決し、使用・棄却後、土壌中または水中において自然に加水分解が進行し、土中に原形が残らず、次いで微生物により無害な分解物となり、かつ透明性に優れ、通常の使用時に支障の無い強度、耐水性、耐油性を持つ保護フイルムを提供するものである。
【0006】すなわち本発明の要旨は、ポリ乳酸系重合体からなるヘイズ3%以下のフィルムを、ポリ乳酸オリゴマよりなる粘着性物質を介して当該フィルムを複数枚剥離可能に積層したことを特徴とするヘルメットシールド用およびゴーグルレンズ用分解性保護フィルム。このようなフィルムは、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどと違い、自然環境中で分解して無害な分解物となる。
【0007】また本発明においては、ポリ乳酸系重合体からなるフィルムであって、面配向度△Pが3.0×10−3以上であり、かつフィルムを昇温したときの結晶融解熱量△Hmと昇温中の結晶化により発生する結晶化熱量△Hcとの差(△Hm−△Hc)が20J/g以上であるフィルムを、ポリ乳酸オリゴマよりなる粘着性物質を介して当該フィルムを複数枚剥離可能に積層したことを特徴とするヘルメットシールド用およびゴーグルレンズ用分解性保護フィルムを提供する。このフィルムは、薄肉化が容易で、強度などの点でも一層好適に使用することができる。
【0008】以下、本発明を詳しく説明する。本発明に用いられるポリ乳酸系重合体とは、ポリ乳酸または乳酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体、もしくはこれらの混合物であり、本発明の効果を阻害しない範囲で他の高分子材料が混入されても構わない。また、成形加工性、フイルム物性を調整する目的で、可塑剤、滑剤、無機フィラー、紫外線吸収剤などの添加剤、改質剤を添加することも可能である。
【0009】乳酸としては、L−乳酸、D−乳酸が挙げられ、他のヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などが代表的に挙げられる。
【0010】これらの重合法としては、縮合重合法、開環重合法など公知のいずれの方法を採用することも可能であり、さらには、分子量増大を目的として少量の鎖延長剤、例えばジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物などを使用しても構わない。重合体の重量平均分子量としては、5万から100万が好ましく、かかる範囲を下まわると実用物性がほとんど発現されず、上まわる場合には、溶融粘度が高くなりすぎ成形加工性に劣る。
【0011】このポリ乳酸系重合体から本発明保護フイルムを得るには、ポリ乳酸系重合体をシート状に溶融成形して急冷することにより透明なフイルムとすることにより得られる。保護フイルムは、複数枚積層して使用されることもあるので、1枚のフイルムは高度の透明性、具体的にはJIS−K−7105で規定されるヘイズで3%以下、好適には2%以下とするのが望ましい。ポリ乳酸系重合体は現在知られている他の分解性樹脂よりも透明性が優れているが、保護フイルムとしての好ましい透明性を得るには、フイルムを極力薄くするとともに、溶融成形時に急冷して球晶の生成を防止することが重要である。また透明性を損なう添加剤、特に固体添加剤の添加を抑えるのも有効である。
【0012】特に好適には、ポリ乳酸系重合体をシート状に溶融成形して急冷することにより未延伸シートとし、これに延伸処理および熱処理を施すのが実用的である。未延伸シートの製膜条件について説明すると、ポリ乳酸系重合体を十分に乾燥し、水分を除去したのち押出機で溶融する。溶融温度は組成によって変化するのでそれに対応して適宜選択することが好ましい。実際には140から230℃の温度範囲が通常選ばれる。
【0013】シート状に溶融成形された重合体は、回転するキヤステイングドラム(冷却ドラム)に接触させて急冷するのが好ましい。キヤステイングドラムの温度は50℃以下が適当である。これより高いとポリマーがキヤステイングドラムに粘着し、引き取れない。また、結晶化が促進されて、球晶が発達し延伸が困難となるため、上記温度範囲に設定して急冷し実質上非晶性にすることが好ましい。
【0014】延伸方法は1軸延伸もしくは逐次2軸延伸または同時2軸延伸のいずれでもかまわないが、使用目的上、縦・横両方向の物性の改良が必要なので、2軸延伸することが望ましい。本発明におけるシートの延伸倍率は、縦方向、横方向それぞれ1.5〜5倍の範囲で、延伸温度は50℃〜90℃の範囲で適宜選定し、無配向シートでは1.0×10-3以下である面配向度ΔPを3.0×10-3以上に増大させ、それにより薄肉でも強靭なフイルムを得ることができる。
【0015】ΔPは、フイルムの厚み方向に対する面方向の配向度を表し、通常直交3軸方向の屈折率を測定し以下の式で算出される。
ΔP={(γ+β)/2}−α (α<β<γ)
ここで、γ、βがフイルム面に平行な直交2軸の屈折率、αはフイルム厚さ方向の屈折率である。
【0016】ΔPは結晶化度や結晶配向にも依存するが、大きくはフイルム面内の分子配向に依存する。つまりΔPの増大はフイルム面内、特にフイルムの流れ方向および/またはそれと直行する方向に対し分子配向を増大させることにより達成され、それによりフイルムの強度を高め、脆さを改良することができる。ΔPを増大させる方法としては、既知のあらゆるフイルム延伸法に加え、電場や磁場を利用した分子配向法を採用することもできる。
【0017】なおΔPの上限は実際上30×10-3程度であり、これよりもΔPを高めようとすると、延伸が不安定ないし不可能になるという不利が生じる。このようにΔPを3.0×10-3以上とすることにより強度面で顕著に改良されるとともに、無配向シートの場合にみられる主に球晶成長に起因する脆化や白化を防止することができる。
【0018】しかし反面、フイルムの熱寸法安定性が不良となり、夏の暑い時期にはフイルムが収縮してしまい、屋外が使用されることの多い保護フイルムとしては適さない。従って、常温よりもやや高い温度、すなわち約50℃以上の温度雰囲気下で収縮せず元の形でいられるようにすることが重要である。
【0019】ΔPが3.0×10-3以上のポリ乳酸系フイルムにおいて、実用的な熱寸法安定性を得るためには、フイルムの(ΔHm−ΔHc)を20J/g以上に制御することが重要である。すなわち、(ΔHm−ΔHc)が20J/gを下回る場合は、フイルムの熱寸法安定性が不良であり、屋外で使用される保護フイルムとしては実用に適しないが、20J/g以上であれば、熱寸法安定性が良好となり、実用上支障がない。ΔHm、ΔHcは、フイルムサンプルの示差走査熱量測定(DSC)により求められるもので、ΔHmは昇温速度10℃/分で昇温したときの全結晶を融解させるのに必要な熱量であって、重合体の結晶融点付近に現れる結晶融解による吸熱ピークの面積から求められる。またΔHcは、昇温過程で生じる結晶化の際に発生する発熱ピークの面積から求められる。
【0020】ΔHmは、主に重合体そのものの結晶性に依存し、結晶性が大きい重合体では大きな値を取る。ちなみに共重合体のないホモのL−乳酸重合体では、約50J/gとなる。またΔHcは、重合体の結晶性に対するその時のフイルムの結晶化度に関係する指標であり、ΔHcが大きいときには、昇温過程でフイルムの結晶化が進行する、すなわち重合体が有する結晶性を基準にフイルムの結晶化度が相対的に低かったことを表す。逆にΔHcが小さいときは、重合体が有する結晶性を基準にフイルムの結晶化度が相対的に高かったことを表す。
【0021】すなわち、(ΔHm−ΔHc)を増大させるための1つの方向は、結晶性が高い重合体を原料に、結晶化度の比較的高いフイルムをつくることである。フイルムの結晶化度は、重合体の組成に少なからず依存するが、フイルムの成形加工条件によっても、大きく影響される。成形加工工程、特にテンタ法2軸延伸においてフイルムの結晶化度を上げるためには、延伸倍率を上げ配向結晶化を促進する、延伸後に結晶化温度以上の雰囲気で熱処理するなどが有用である。
【0022】なお熱処理温度は、フイルムの結晶化温度以上で行うのが効果的であるが、フイルムの結晶化温度はΔPが大きいほど低下する傾向があり、本発明の場合には90℃〜160℃の範囲で5秒以上熱処理することで熱寸法安定性が付与できる。
【0023】この様にして得られたフイルムは通常、例えばポリ乳酸オリゴマなどの粘着性物質を用いて複数枚を剥離可能に積層して使用される。その際、フイルムの周辺部は粘着させずに剥がしやすいようにするのが普通である。そしてこの積層フイルムは、ヘルメツトシールドやゴーグルレンズに直接貼り付けたり、シールドなどの周囲に設けた枠体に装着して使用することができる。1枚のフイルムの厚さは、一般には20〜150μm程度とすることができ、その点からも薄肉化が容易な延伸フイルムが好ましい。
【0024】以下に実施例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。なお、実施例中に示す測定値は次に示すような条件で測定を行い、算出した。
(1)水中浸漬分解性テスト生分解性プラスチック研究会のフイールドテストにおける水中浸漬方法に準じてテストを行った。すなわち、フイルムを120mm×30mmに切り出し、それをステンレス製サンプルホルダー3枚の中央部にはさみこんだ。サンプルホルダ−の中央部にはフイルムサンプルと同形状の窓を開けておき、ステンレス製金網(40メツシユ)2枚をかませて、フイルムがそのまま流れ出さず、かつ水との接触が良好な状態にした。
【0025】淡水中に冬期3ヵ月間浸漬後、フイルムの重量平均分子量保持率、外観および触感を調べた。重量平均分子量は島津製作所製クロマトパックC−R4A型GPCで、フイルムサンプルをクロロホルムに溶解させて濃度約0.5(w/v)%に調製し、流速1.0m/分、カラム温度40℃で測定し、ポリスチレン換算した。重量平均分子量保持率は、(浸漬前のサンプル重量平均分子量)−(浸漬後のサンプル重量平均分子量)を、浸漬前のサンプル重量平均分子量で割って%で表示した。
【0026】(2)ΔPアツベ屈折計によって直交3軸方向の屈折率(α,β,γ)を測定し、次式で算出した。
ΔP={(γ+β)/2}−α (α<β<γ)
γ:フイルム面内の最大屈折率β:それに直交するフイルム面内方向の屈折率α:フイルム厚さ方向の屈折率(3)ΔHm−ΔHcパーキンエルマー製DSC−7を用い、フイルムサンプル10mgをJIS−K7122に基づいて、昇温速度10℃/分で昇温したときのサーモグラムから結晶融解熱量ΔHmと結晶化熱量ΔHcを求め、算出した。
【0027】(4)破断強度東洋精機社製テンシロンII型機を用い、JIS−K7127に基づいて測定した。測定温度は23℃、引張り速度は100mm/分である。MDはフィルムの流れ方向、TDはフィルムの流れに対し直交する方向を示す。
(5)ハイドロシヨツト衝撃強度島津製作所製高速衝撃試験機HTM−1型(ハイドロシヨツト)を用い、耐衝撃性を測定した。フイルムを100mm×100mmに切り出し、クランプで固定し、フイルム中央に落垂で衝撃を与え、そのエネルギーを読み取った。測定温度は23℃、落垂の落下速度は3m/秒とした。
【0028】(6)熱寸法安定性フイルムサンプルを100mm×100mmに切り出し、80℃の温水バスに10秒浸漬した後、縦横の寸法を計り、その値を(縦×横)で表記し、熱寸法安定性の指標とした。
(7)耐熱性フイルムサンプルを100mm×100mmに切り出し、60℃の恒温槽中に7日間放置しておいた後の外観(透明性)および収縮性を調べた。
【0029】(8)剥離時フイルム強さフイルムサンプルを100mm×100mmに切り出し、粘着剤としてポリ乳酸オリゴマをフイルムサンプルの中央、80mm×80mm程度に極く薄く塗布し、同種のフイルムサンプルをMD、TDを揃えて貼り合わせ室温下に放置した。5時間後、一隅から手で剥離させてフイルムの切れなどがないか調べた。
(9)ヘイズJIS−K7105に準じて測定した。
【0030】(実施例1〜6)重量平均分子量10万のポリ−L−乳酸を、30mmφ単軸押出機にて180℃でTダイより押し出し、キヤステイングドラムで急冷して未延伸シートを得た。次いで、表1に示す条件で長さ方向ロール延伸および幅方向テンタ延伸を行い、引き続きテンタ内で熱処理して、表1に示す厚さのフイルムを得た。フイルムの流れ速度は3m/分、延伸・熱処理各ゾーンの通過時間は各々約20秒であった。 各フイルムについての評価結果を表1、2、3に示す。
【0031】(比較例1)市販の2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフイルム(厚さ50μm)について、水中浸漬分解性テストを行った。その結果を表2に示す。
【0032】
【表1】


【表2】


【表3】


【0033】表2に結果を示すように、比較例のポリエチレンテレフタレートフイルムは水中でほとんど分解性を示さないのに対し、実施例のポリ乳酸フイルムは分解性を示した。また、実施例のポリ乳酸フイルムについて強度などを評価した結果、表3に示すように、ΔPが3.0×10-3以上で(ΔHm−ΔHc)が20J/g以上である実施例4〜6のフイルムが、強度、耐熱性などの点で特に好適であった。
【0034】
【発明の効果】本発明によれば、自然環境中で分解し、透明性に優れたポリ乳酸系重合体からなるヘルメツトシールド用およびゴーグルレンズ用分解性保護フイルムを得ることができる。特に面配向度ΔPが3.0×10-3以上であり、かつフイルムを昇温したときの結晶融解熱量ΔHmと昇温中の結晶化により発生する結晶化熱量ΔHcとの差(ΔHm−ΔHc)が20J/g以上であるフイルムは、強度、耐熱性など実用上必要な諸特性において優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリ乳酸系重合体からなるヘイズ3%以下のフィルムを、ポリ乳酸オリゴマよりなる粘着性物質を介して当該フィルムを複数枚剥離可能に積層したことを特徴とするヘルメットシールド用およびゴーグルレンズ用分解性保護フィルム。
【請求項2】 ポリ乳酸系重合体からなるフィルムであって、面配向度△Pが3.0×10−3以上であり、かつフィルムを昇温したときの結晶融解熱量△Hmと昇温中の結晶化により発生する結晶化熱量△Hcとの差(△Hm−△Hc)が20J/g以上であるフィルムを、リ乳酸オリゴマよりなる粘着性物質を介して当該フィルムを複数枚剥離可能に積層したことを特徴とするヘルメットシールド用およびゴーグルレンズ用分解性保護フィルム。

【特許番号】特許第3522344号(P3522344)
【登録日】平成16年2月20日(2004.2.20)
【発行日】平成16年4月26日(2004.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−189574
【出願日】平成6年8月11日(1994.8.11)
【公開番号】特開平8−52171
【公開日】平成8年2月27日(1996.2.27)
【審査請求日】平成13年5月10日(2001.5.10)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100077078
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 久美
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000179926)山本光学株式会社 (49)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100077078
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 久美
【参考文献】
【文献】特開 昭64−68259(JP,A)
【文献】特開 平6−23836(JP,A)
【文献】特表 平5−508819(JP,A)