説明

ベクターによる遺伝子改変型樹状細胞を用いた抗体作製方法

【課題】 好適なベクターによって遺伝子改変された樹状細胞を動物に免疫して、抗体を産生させる新規抗体作製技術を提供する。
【解決手段】 ベクターを介して所定の遺伝子を導入した遺伝子改変型樹状細胞を、マウスなどの動物に免疫することにより、モノクローナル抗体などの抗体を産生するように工夫した抗体作製方法を提供する。前記樹状細胞は、例えば、前記ベクターを介して、造血幹細胞などの幹細胞に遺伝子導入して分化誘導させた樹状細胞を利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫療法などの分野で活用できる抗体作製技術に関する。より詳しくは、ベクターによって遺伝子改変された樹状細胞を動物に免疫して抗体を産生させる新規抗体作製技術に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の免疫系は、微生物の感染防御、異物の無害化と除去、他の個体の細胞の拒絶、変異細胞や老廃組織の除去などに関与している。この免疫系を利用する治療方法(免疫療法)が、近年、検討あるいは提案されている。例えば、非特異的免疫賦活剤を用いた治療、サイトカイン療法、養子免疫療法、モノクローナル抗体療法、ワクチン療法、遺伝子治療などを挙げることができる。
【0003】
また、免疫療法において、近年、モノクローナル抗体(monoclonal antibody)を活用する医療技術が提案されている。例えば、癌治療の開発過程で考案された「ミサイル療法」と称される治療法が知られている。癌に特異的な結合活性を有するモノクローナル抗体を作製して、このモノクローナル抗体に癌細胞を殺す抗癌剤やリシンなどの毒素を結合させて、全身的あるいは局所的に投与すると、当該抗体がミサイルのように癌細胞を集中的に攻撃する。このようなモノクローナル抗体の作用機序を利用するミサイル療法は、癌に特異的かつ効果的な治療方法の一つとして研究開発が進んでいる。その他、モノクローナル抗体は、腫瘍細胞等の分離・分析、臨床診断に係わる技術などにも利用されている。
【0004】
このモノクローナル抗体の作製に係わる基本技術は、1975年、MilsteinとKoehlerが、マウスのB細胞とB細胞由来の腫瘍細胞株を融合させ、抗体産生をしつつ増殖できる融合細胞株(ハイブリドーマ)を作製することに成功したことに始まる。この増殖した融合細胞株は、単一のクローンであるから、均一な蛋白質(免疫グロブリン)である抗体(即ち、モノクローナル抗体)を産生する。現在のモノクローナル抗体作製技術は、(1)細胞を免疫原として用いる方法と、(2)精製した蛋白やペプチドを免疫原とする方法と、に大別することができる。
【0005】
次に、免疫応答において重要な役割を果たすリンパ球は、抗体を産生するB細胞(B cell)とこのB細胞を補助するT細胞(T cell)に大別できる。前記B細胞は、細胞表面に免疫グロブリンのレセプターを持つのに対して、T細胞は、それを持たず、抗原提示細胞(antigen presenting cell)が提示する抗原を、T細胞受容体(T cell receptor)により認識し、この抗原刺激により活性化される。
【0006】
この抗原提示細胞として、マクロファージやB細胞などの他に、「樹状細胞(dendritic cell、略称DC)」が知られている。この樹状細胞は、樹皮状の細胞突起を有することからその名前の由来があり、リンパ組織・表皮内・粘膜内などに存在する。この樹状細胞は、未熟な段階で外来抗原をエンドサイトーシスによって取り込んで成熟樹状細胞に分化すると考えられている。成熟樹状細胞は、食作用(貪食機能)が殆どなく、付着性も乏しいが、MHCクラスIとII分子とともに抗原を細胞表面に表出して、抗原提示細胞としての役割を果す。T細胞の抗原レセプターは、樹状細胞上の主要組織適合抗原(MHC分子)とその抗原(分解された抗原ペプチド)との複合体に反応することで抗原を認識し、これによってT細胞は活性化される。
【0007】
哺乳動物などの細胞に対して目的の遺伝子を導入するときに、種々のウイルスベクターが用いられる。しかし、前記樹状細胞に対して効率よく目的の遺伝子を導入し、かつその発現量を安定的に維持できる好適なベクターが、未だ提供されていない。このため、目的の抗原ペプチドを樹状細胞に提示させるために、該抗原ペプチドそれ自体を樹状細胞に添加する方法を採用することが考えられるが、この方法では、抗原提示に適した抗原ペプチドが、MHCの違いにより各人で異なり、最適なものを選択することが難しい。
【0008】
ここで、樹状細胞を用いた免疫療法に係わる技術的思想が開示された先行技術文献として、例えば、特許文献1がある。この特許文献1には、正常細胞では精巣特異的に発現し、癌細胞株では広範にその発現が観察された新規癌精巣抗原KU−EM−1遺伝子cDNAを得て、これを、癌の免疫療法に用いるために、KU−EM−1遺伝子のcDNA発現ベクターを大腸菌に導入した組み換え細胞において発現させたKU−EM−1ペプチドを精製し、in vitroで、癌患者から得られる単球由来の未熟樹状細胞と精製したKU−EM−1ペプチドとを混合した後、未熟樹状細胞を成熟させる。そして、治療剤としての成熟樹状細胞を大腿部に皮下注射し、患者血清中のKU−EM−1抗体の存在を検出することにより、癌の診断を行うという技術が開示されている。即ち、この先行技術は、目的の抗ペプチドを樹状細胞に導入する方法を採用している。
【0009】
また、特許文献2には、免疫応答誘導樹状細胞の調整方法に係わる技術が開示されている。この先行技術は、特定の抗原と該抗原に対する抗体との免疫複合体を用いて樹状細胞を処理し、樹状細胞上のイムノグロブリンFcレセプターを介して該免疫複合体を細胞内に取り込ませ、抗原特異的に免疫応答を誘導することができる樹状細胞を調製する。この調製された樹状細胞を免疫賦活化剤として利用し、また、免疫複合体を感作させた樹状細胞を用いてその抗体価を測定することにより、免疫不全症の診断をする。
【0010】
特許文献3には、樹状細胞を利用して得られた抗腫瘍抗体が開示されている。より具体的には、哺乳動物の体液性免疫に傾く腫瘍細胞と樹状細胞とを細胞融合して得た融合細胞を哺乳動物に接種して、該哺乳動物の体液性免疫応答によって抗腫瘍抗体を産生する技術が開示されている。
【特許文献1】 特開2004−121051号公報。
【特許文献2】 特開2001−061469号公報。
【特許文献3】 特開2003−226700号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来のモノクローナル抗体の作成技術は、(1)細胞を免疫原として用いる方法と、(2)精製した蛋白やペプチドを免疫原とする方法と、に大別することができる。
【0012】
(1)の方法は、目的の抗原を高次構造(native form)で認識できるモノクローナル抗体の作製が可能であるという利点を有する一方、目的外の抗原分子に対する抗体を多数誘導してしまうという欠点がある。
【0013】
(2)の方法では、目的の抗原を高次構造で認識できるモノクローナル抗体が取得することが難しく、可溶化困難な抗体分子が誘導される場合があり、また、免疫原となる蛋白やペプチドの準備にも手間がかかるなどの欠点を抱えている。このため、モノクローナル抗体作製に係わる新規技術が、基礎医学、臨床研究及び治療技術の方面などから特に強く要望されている。
【0014】
そこで、本発明は、免疫療法などの分野で活用できる作業容易な新規抗体作製技術、より詳しくは、好適なベクターによって遺伝子改変された樹状細胞を動物に免疫して、抗体を産生させる新規抗体作製技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、まず、ベクターを介して所定の遺伝子を導入した樹状細胞を動物に免疫することにより抗体を産生する抗体作製方法を提供する。この樹状細胞は、例えば、ベクターを介して、幹細胞、とりわけ造血幹細胞又は胚性幹細胞に遺伝子導入して分化誘導させて得られた樹状細胞を利用できる。ベクターは、本発明の解釈において狭く限定されないが、好適には、例えば、レトロウイルスベクターを用いることができる。
【0016】
作製目的となる抗体は、ポリクローナル抗体、あるいはこのポリクローナル抗体から選択された特定のモノクローナル抗体であって、前記モノクローナル抗体は、例えば、腫瘍を縮小させるような遮断抗体(阻止抗体)を挙げることができる。
【0017】
樹状細胞を免疫する動物は、哺乳動物、一例を挙げれば、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、羊、鶏などであり、特に、モノクローナル抗体を作製する場合では、マウス、特に、BALB/cマウスを、好適に利用できる。BALB/cマウスは、抗体産生に重要なT細胞(Th2)が、他のマウスより有意に多く、また、このため、融合するミエローマもそのほとんどがBALB/cマウス由来である。
【0018】
本発明に関連する主要な技術用語を、以下説明する。
【0019】
「ベクター(vector)」は、目的の遺伝子を運搬して、該遺伝子を細胞に導入する運び屋として機能するDNAであり、一般に、プラスミドやバクテリオファージが用いられる。
【0020】
「レトロウイルス(retrovirus)」は、RNA型ウイルスの一つで、細胞膜と同様の脂質二重層の外膜を持つ球型ウイルスである。このレトロウイルスは、種々の動物細胞に感染性が高く、高効率で宿主染色体に挿入されるため、ベクターとして有用である。
【0021】
「樹状細胞(dendritic cell、略称DC)」は、皮膚、気道粘膜、消化管粘膜などの常に抗原の曝露を受ける臓器に存在する細胞で、樹皮状あるいは星型の形状を呈する細胞である。この樹状細胞は、生体内で最も強い抗原提示細胞(APC:antigen presenting cell)であり、樹状細胞が未熟な段階で抗原を取り込んで抗原ペプチドに消化し、MHC分子にそれを結合させてT細胞に抗原提示し、このT細胞を介した細胞性免疫を誘導する。
【0022】
「幹細胞(stem cell)」は、分化した機能を営む細胞のもとになる細胞であり、自己複製能と分化能を持つ細胞として定義される。「造血幹細胞(hematopoietic stem cell)」は、赤血球、白血球、血小板、単球、マクロファージ、マスト細胞などの起源となる幹細胞であり、大部分は骨髄中に存在し、抹消血中にもある程度存在する。「胚性幹細胞(embryonic stem cell)」は、ES細胞とも称され、発生的全能性を持つ幹細胞であり、受精卵が分化して胎児に発展するまでの胚の初期段階から得られ、多能性幹細胞とも呼ばれる。
【0023】
「モノクローナル抗体(monoclonal antibody)」は、単クローン性抗体とも称され、単一クローンの抗体産生細胞(例えば、抗体産生細胞と骨髄腫細胞のハイブリドーマ)から産生される抗体であって、一次構造が均一である。
【0024】
「ポリクローナル抗体(polyclonal antibody)は、多クローン性抗体とも称され、種々の異なったクローンの抗体産生細胞が産生する抗体分子の集合体であり、構造が不均一である。単一な抗原を動物に免疫しても、抗原分子の抗原決定基に対する特異性や親和性の異なる抗体が産生される。
【0025】
「遮断抗体(阻止抗体、blocking antibody)」は、リンパ球と抗原との特異的結合を遮断(阻止)する働きを示す抗体である。リンパ球の機能を遮断(阻止)することにより、同種移植組織片や移植腫瘍の生着を促進する。
【0026】
「BALB/cマウス」は、元来は、Baggが維持していたアルビノマウスで、1932年にSnellに渡った後、BALB/cと命名された。このBALB/cマウスの自然発症腫瘍は比較的低発で、免疫・モノクローナル抗体研究やスクリーニング等の分野で高頻度に使用されている。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、免疫原となる蛋白やペプチドを調整し、作製する必要がないので、モノクローナル抗体などの抗体を簡易な方法で、効率よく大量に作製することができる。
【実施例1】
【0028】
<レトロウイルスベクターpDΔNsapの作製>。
【0029】
レトロウイルスベクターpDΔNsap(以下、単に「pDΔNsap」という。)を作製するため、pGCsap(Murine Stem Cell Virus,MSCV)の3’LTR(long terminal repeat)に存在するnegative control region(以下「NCR」)を含むClaI−SacIフラグメント(314bp)を、pBSのClaI−SacIにクローニングした。前記NCRは、抑制性転写因子であるYY1が結合する部位であり、このYY1の結合によってクロマチンの構造が変化し、下流遺伝子の発現が低下する。なお、pGCsap(MSCV)の詳細については、Hum Gene Ther(12:35−44,2001)で示されている。
【0030】
ここで、前記NCRは、抑制性転写因子であるYY1の結合配列(A or CCATNTTT;Nは任意の塩基)を有し、そのベクター上の配列はCCATTTTである。
【0031】
次に、抑制性転写因子YY1結合部位へ変異を入れるために、添付した図1に示すように、結合部位(CCATTTT)に制限酵素のHindIII認識部位を持つsenseprimer(AAGCTTattttgcaaggcatggaaa)を作製し、antisenseをその上流に作製した(acttaagctagcttgccaaacctac)。この図1に示されたプライマーセットを用いて、PCRを行い、そのPCR産物をligationすることにより、前記NCRに変異を有するClaI−SacIフラグメントを作製した。
【0032】
前記手順により得られたClaI−SacIフラグメントを、pGCDNsapのClaI−SacIフラグメントと入れ換えることにより、目的のレトロウイルスベクターであるpDΔNsapを作製した。前記pGCDNsapは、PCC4 cell−passaged myeloproliferative sarcoma virus由来のLTRと、primer binding site(primer binding site)にdl587rev由来のPBSと、また、NCRを含む71bpが欠如した3’LTRを有する(J Neurochem 82:953−960,2002)。
【0033】
pGCDNsapとpDΔNsapの違いは、YY1結合阻止のために、NCRを欠失させたか(pGCDNsap)、あるいは変異を入れたか(pDΔNsap)かの違いによる。これは、NCRを欠失した際、フラグメント内に転写因子であるNFATの結合部位もあり、これにより一部の細胞で導入遺伝子の発現低下が認められたためである。pDΔNsapでは、YY1結合部位にのみ変異を入れ、NFAT結合部位は残存している。
【0034】
このようにして得られたレトロウイルスベクターpDΔNsapの配列構造を図2に、同pDΔNsapの全塩基配列を添付の「配列表」に、それぞれ示す。なお、Primer binding siteは、ウイルスの複製開始点であり、ここに、tRNAが結合することでウイルスの複製が開始する。NCRは、抑制性転写因子(factor A)の結合部位で、この転写因子が結合することで、下流の遺伝子発現が低下する。
【0035】
次に、パッケージング細胞株として、Mulligan博士(ハーバード大学医学部)より供与された水疱性口内炎ウイルスのエンベロープ(VSV−G)を産生する293gpgを使用した(Proc Natl Acad Sci USA 93:11400−11406,1996)。
【0036】
このVSV−Gは、強い細胞毒性を有するため、その発現はテトラサイクリン薬剤誘導系(tet−off)によって制御されている。この293gpgを、10%fetal calf serum(MOREGATE)、1%L−glutamine/streptomycin/penicillin(Sigma)、0.3mg/ml G418(GIBCO BRL)、2g/ml puromycin(Sigma)、1g/ml tetracycline(Sigma)を添加したDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM)にて培養した。
【0037】
ウイルス産生には、上記pDΔNsapを導入した293gpg細胞を、PBSで洗浄し、テトラサイクリン(tetracycline)を含まない10%FSC/DMEM培地に交換することにより、VSV−Gの発現を誘導した。これらウイルス上清を用いて、リコンビナントレトロウイルス標的細胞に感染させた。
【0038】
<抗原をコードする遺伝子を導入した樹状細胞の作製>。
【0039】
「造血幹細胞」を用いた実施例(図3参照)。マウス由来の骨髄単核球にビオチン結合抗分化抗原抗体混合液(抗CD4、CD8、B220、Macl、Ter119モノクローナル抗体)を反応させ、ストレプトアビジン結合磁気ビーズに結合させた後、MPC(磁気スタンド、ベリタス)にて、分化細胞を取り除いた。
【0040】
浮遊細胞を再び、FITC結合c−KIT抗体あるいはFITC結合Sca1抗体に反応させた後、MACS用FITC磁気ビーズ、並びに磁気ビーズカラム(第一化学薬品製)にて、造血前駆細胞(c−KIT陽性あるいはSca1陽性lineage陰性細胞)を分取した。
【0041】
これら造血前駆細胞を、サイトカインであるSCF、Flt−3リガンド、トロンボポイエチン存在下で倍養し後、上記ウイルス上清(DΔNsapOVA)を用いて、オバアルブミン(以下「OVA」)遺伝子を導入した。その後、GM−SCFとIL−4(各々10ng/ml)を加え、培養を続け、浮遊細胞を取り除くことによって、成熟顆粒球を取り除いた。
【0042】
培養開始後、10〜12日目に、フラスコの底にある接着細胞塊を、樹状細胞(DC)として回収した。これら樹状細胞の膜表面のマーカーは、CD40、CD86、MHCクラスIIが強陽性であるので、成熟樹状細胞と考えられた。このように、本実施例の手法によって、多数の成熟樹状細胞を効率よく産生させ、回収することができた。以上の実験により、前記ベクターを介して幹細胞に遺伝子導入して分化誘導させることによって、樹状細胞を作製できることが検証できた。
【0043】
図3Aは、マウスより造血前駆細胞を免疫ビーズにて回収(FACSにてc−KIT陽性lineage陰性細胞が80%)したことを示す図(図面代用写真)であり、同図Bは、回収した前記造血前駆細胞に、レトロウイルスベクター(GCDNsamOVA/EGFP)を用いて、OVA遺伝子を導入する手順を模式的に示す図であり、同図Cは、それをサイトカイン(IL−4、GM−SCF)にて樹状細胞に分化誘導できたことを証明する図面代用写真群である。得られた樹状細胞は、CD11c、class II、CD86、CD40が強陽性であり、EGFPで見た遺伝子導入率は、85.4%であった。
【0044】
なお、胚性幹細胞(以下「ES細胞」)の継代時に、上記したレトロウイルスベクターであるpDΔNsapを、100μlと10μg/mlの硫酸プロタミン(Sigma)を添加して、遺伝子をES細胞に導入し、これら遺伝子導入ES細胞を、造血系サイトカイン(stem cell factor、IL3など)、あるいはストローマ細胞株上で培養することによって、造血系幹細胞に分化誘導することができた。このように、ES細胞から分化誘導した造血系幹細胞からも、樹状細胞を誘導することもできると考えられる。
【0045】
<動物への免疫と抗体産生>。
【0046】
前記実施例で得られた成熟樹状細胞1×10個を、2〜6週の間隔で、皮下に3〜4回、BALB/cマウスに免疫した。その結果、マウス血清中に、OVAに対する抗体(ポリクローナル抗体)を検出することができた(図4参照)。
【0047】
これらマウスの脾細胞を、マウスミエローマ株(P3x63Ag8.653)とポリチレングリコール法にて融合してハイブリドーマを作製したところ、43クローン中1クローン、あるいは96クローン中1クローンが、OVAに対する抗体を産生するハイブリドーマを、公知のELISA法によって、確認することができた。
【0048】
ここで、図4に基づいて、「動物への免疫と抗体産生」について再度説明すると、前述のOVA発現樹状細胞(OVA−DC)を、マウスの皮下に2〜6週にかけ、3〜4回免疫し(図4中の矢印参照)、その際、アジュバントは使用しなかった。それらマウス血清中のOVAに対する抗体(抗OVA抗体)を、公知のELISA法にて測定して確認した。図4に示す右側のグラフでは、免疫したマウスである3匹(BALB/c#1−3)と対照区としてB6マウスを用いたもの(B6 OVA)と免疫していないBALB/c(unimmunized)を示している。これらマウスから脾細胞を回収して、ミエローマ細胞株(P3X63Ag8.653)と融合し、ハイブリドーマ(7B4)を作製した。
【0049】
得られた抗体を、マウス、あるいはヒトHER2発現腫瘍を移植したマウスに投与し、腫瘍を縮小させるような抗体(即ち、遮断抗体)を探索することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、例えば、(1)抗体作製時の煩雑な操作の軽減、(2)種間で蛋白質の塩基配列にあまり違いがない抗原に対する抗体の作製、(3)マウスでのマウスに対する抗体作製など自己反応性抗体の作製、(4)機能抗体(遮断抗体)の作製により受動免疫療法(抗体療法)が可能となるため、ウイルス感染症(HIV、肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、重症急性呼吸器症候群(SARS)、麻疹、風疹、水痘、など)、良性・悪性腫瘍、リウマチなどの自己免疫性疾患などに臨床応用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】 本発明で利用できるプライマーセットを説明するための図である。
【図2】 レトロウイルスベクターであるpDΔNsapの配列構造を示す図である。
【図3】 抗原をコードする遺伝子を導入した樹状細胞の作製に係わる手順と結果を示す図である。
【図4】 動物への免疫と抗体産生に係わる手順と結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベクターを介して所定の遺伝子を導入した樹状細胞を動物に免疫することにより抗体を産生する抗体作製方法。
【請求項2】
前記樹状細胞は、前記ベクターを介して幹細胞に遺伝子導入して分化誘導させた樹状細胞であることを特徴とする請求項1記載の抗体作製方法。
【請求項3】
前記幹細胞は、造血幹細胞であることを特徴とする請求項2記載の抗体作製方法。
【請求項4】
前記ベクターは、レトロウイルスベクターであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の抗体作製方法。
【請求項5】
前記抗体は、モノクローナル抗体であることを特徴とする請求項1記載の抗体作製方法。
【請求項6】
前記動物は、BALB/cマウスであることを特徴とする請求項5記載の抗体作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−187215(P2006−187215A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−382922(P2004−382922)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年12月3日 日本免疫学会主催の「第34回 日本免疫学会総会・学術集会」において文書をもって発表
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】