説明

ベシクル製造方法

【課題】製造工程が簡単であって、且つ、封入率の高いベシクル製造方法を提供する。
【解決手段】外管2aとこの外管2a内に同軸状に配置された内管2bとを有する二重管2を使用する。大気圧における沸点が110℃以上であって、極性を有し、水に溶解可能な有機化合物溶媒にリン脂質を溶解させたリン脂質溶液10を外管2aから押し出すと同時に、水を含む第1液11を内管2bから押し出す。また、二重管2に対向して電極を配置すると共に、外管2aに電圧を印加して、二重管2と電極との間に電界を形成することにより、外管2aから押し出されるリン脂質溶液10を分極させて微小液滴を噴出させる。そして、噴出された微小液滴を、水を含む第2液に接触させて、微小液滴の有機化合物溶媒を第2液に溶解させることにより、リン脂質を第2液に接触させてリン脂質二重膜を形成する。これにより、第1液を内包するマイクロスケールのベシクルが製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロスケールのベシクルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベシクル(リポソームともいう)は、リン脂質二重膜により形成される内部が水相の閉鎖小胞体であり、従来から、研究用の生体膜モデルとして用いられている。また、ベシクルは、生体適合性が高いため、内水相に薬物等を封入して生体に投与することが可能であり、医療や化粧など様々な分野での利用が検討されている。
【0003】
従来のベシクル製造方法としては、水和法がよく知られている(非特許文献1参照)。この方法は、クロロホルム/メタノールにリン脂質を溶かした溶液を用いて、ガラス表面上にリン脂質薄膜を形成し、これに水溶液を加えて攪拌することで、この水溶液を内包するベシクルを作製するというものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「リポソーム応用の新展開−人工細胞の開発に向けて」 秋吉 一成、辻井 薫、奥 直人、久保井 亮一(エヌ・ティー・エス、2005/6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来のベシクル製造方法は、複雑な操作が必要であった。また、製造時に、余分な水溶液を必要とするため、物質封入率が低いという問題もあった。
【0006】
そこで、本発明は、製造工程が簡単であって、且つ、封入率の高いベシクル製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
第1の発明のベシクル製造方法は、外管とこの外管内に同軸状に配置された内管とを有する二重管を使用し、大気圧における沸点が110℃以上であって、極性を有し、水に溶解可能な有機化合物溶媒に、リン脂質を溶解させたリン脂質溶液を、前記外管から押し出すと同時に、水を含む第1液を前記内管から押し出す工程と、前記二重管に対向して電極を配置すると共に、前記外管に電圧を印加して、前記二重管と前記電極との間に電界を形成することにより、前記外管から押し出される前記リン脂質溶液を分極させて、前記第1液と前記リン脂質溶液とからなる微小液滴を噴出させる工程と、噴出された前記微小液滴を、水を含む第2液に接触させて、前記微小液滴の前記有機化合物溶媒を前記第2液に溶解させることにより、前記リン脂質を前記第2液に接触させてリン脂質二重膜を形成し、前記第1液を内包するマイクロスケールのベシクルを製造する工程とを有することを特徴とする。
【0008】
リン脂質溶液の有機化合物溶媒は極性を有するため、二重管と電極との間に形成された電界の影響により、外管から押し出されたリン脂質溶液中の有機化合物溶媒は分極する。これにより、二重管の先端には、表面が電気を帯びた円錐状のメニスカスが形成される。メニスカスの先端は、静電反発力が表面張力を上回ることにより、リン脂質溶液によって第1液が覆われた二重構造の微小液滴に分離する。この微小液滴は、液滴間の静電反発力によりスプレー状に噴出する。そして、噴出された微小液滴が第2液に接触して、有機化合物溶媒が水に溶解すると、リン脂質と水とが接触することにより、リン脂質二重膜が形成される。これにより、第1液を内包するマイクロスケールのベシクルが製造される。
【0009】
このベシクル製造方法によると、外管に電圧を印加しつつ、外管および内管からそれぞれリン脂質溶液と第1液を押し出すという簡単な操作のみで、ベシクルを製造することができる。さらに、外管および内管からそれぞれ一定流量で連続的に押し出すことにより、連続的にベシクルを製造することができるため、生産性に優れている。
また、二重管の内管から押し出した第1液を微小液滴に内包させているため、第1液をほとんど無駄にすることが無く、高い封入率でベシクルに封入することができる。
また、仮に、リン脂質を溶かす溶媒として、常温で揮発する有機化合物溶媒を用いた場合、連続してベシクルを製造すると、二重管の先端にこの溶媒が揮発して固体化したものが付着し、二重構造の微小液滴を噴出させることが困難になる。一方、本発明では、常温で不揮発性の有機化合物溶媒を用いているため、二重管の先端に付着物が付着することがなく、ベシクルを連続して安定的に製造することができる。
【0010】
第2の発明のベシクル製造方法は、第1の発明において、前記有機化合物溶媒が、ポリエチレングリコールであることを特徴とする。
【0011】
この構成によると、ポリエチレングリコールはほぼ無害な有機化合物であるため、生体に対する安全性の高いベシクルを製造することができる。
【0012】
第3の発明のベシクル製造方法は、第2の発明において、前記有機化合物溶媒を構成するポリエチレングリコールの分子量が、100〜600であることを特徴とする。
【0013】
この構成によると、分子量が100〜600のポリエチレングリコールは、リン脂質が溶けやすいため、ベシクルをより確実に製造することができる。
【0014】
第4の発明のベシクル製造方法は、第1〜第3のいずれかの発明において、前記第1液が、電解質水溶液、または、極性を有する溶質の水溶液であることを特徴とする。
【0015】
この構成によると、電界の影響によって、内管から押し出された第1液には電荷が集まるため、外管から押し出されたリン脂質溶液の有機化合物溶媒の分極がより大きくなる。したがって、メニスカスの表面の静電気力がより大きくなるため、ベシクルをより確実に製造することができると共に、より小さい径のベシクルを製造することが可能となる。
【0016】
第5の発明のベシクル製造方法は、第4の発明において、前記第1液を構成する電解質水溶液が、高分子電解質水溶液であることを特徴とする。
【0017】
この構成によると、高分子電解質は正または負の電荷をもつポリイオンと、このポリイオンと逆符号の電荷を持つ多数の低分子イオンとに解離し、電場の影響を与えやすくなるため、スプレーをより安定的に行うことが可能となる。
【0018】
第6の発明のベシクル製造方法は、第1〜第5のいずれかの発明において、前記内管から押し出される前記第1液中に、予め所定の物質を添加することにより、前記第1液と前記所定の物質とを内包するベシクルを製造することを特徴とする。
【0019】
この構成によると、所定の物質を内包するベシクルを容易に製造することができる。
【0020】
第7の発明のベシクル製造方法は、第6の発明において、前記所定の物質が、細胞、薬物、酵素、機能性食品、芳香剤、殺虫剤、誘引剤、生体触媒、タンパク質、核酸のうち、少なくとも1つを含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係るベシクル製造方法を行うためのベシクル製造装置の概略図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】実施例1のベシクルの顕微鏡写真であって、(a)はリン脂質二重膜を示す写真であって、(b)は内水相を示す写真である。
【図4】実施例2のベシクルの顕微鏡写真であって、(a)はリン脂質二重膜を示す写真であって、(b)は内水相を示す写真である。
【図5】実施例3のベシクルの顕微鏡写真であって、(a)はリン脂質二重膜を示す写真であって、(b)は内水相を示す写真である。
【図6】実施例4のベシクルの顕微鏡写真であって、(a)はリン脂質二重膜を示す写真であって、(b)は内水相を示す写真である。
【図7】実施例5のベシクルの顕微鏡写真であって、(a)はリン脂質二重膜を示す写真であって、(b)は内水相を示す写真である。
【図8】実施例6のベシクルの顕微鏡写真であって、(a)はリン脂質二重膜を示す写真であって、(b)は内水相を示す写真である。
【図9】実施例7のベシクルの顕微鏡写真であって、(a)はリン脂質二重膜を示す写真であって、(b)は内水相を示す写真である。
【図10】実施例8のベシクルの顕微鏡写真であって、(a)はリン脂質二重膜を示す写真であって、(b)は内水相を示す写真である。
【図11】実施例9のベシクルの顕微鏡写真であって、(a)はリン脂質二重膜を示す写真であって、(b)は内水相を示す写真である。
【図12】実施例10のベシクルの顕微鏡写真であって、(a)はリン脂質二重膜を示す写真であって、(b)は内水相を示す写真である。
【図13】実施例11のベシクルの顕微鏡写真であって、リン脂質二重膜を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態のベシクル製造方法に用いられるベシクル製造装置1の概要を示す図である。図1に示すように、ベシクル製造装置1は、外管2aとこの外管2a内に同軸状に配置された内管2bとから構成される二重管2と、外管2aに接続されたシリンジ3aと、内管2bに接続されたシリンジ3bと、二重管2に対向して配置された電極板4と、この電極板4と二重管2との間に電圧を印加する電源部5と、電極板4上に配置されたスターラー6と、スターラー6の上に配置された容器7とを備えている。
【0023】
外管2aに接続されるシリンジ3aには、リン脂質溶液10が充填されている。リン脂質溶液10は、リン脂質を有機化合物溶媒に溶かした溶液である。有機化合物溶媒としては、大気圧における沸点が110℃以上であって、極性を有し、水に溶解可能な有機化合物が用いられる。具体的には、ポリエチレングリコール(PEG)、特に、分子量が100〜600、より好ましくは200〜400の低分子量のPEGを用いることが好ましい。分子量が大きすぎると、リン脂質を溶解させることが困難となるからである。また、リン脂質としては、具体的には、例えばレシチンやリン酸ジセチル(DCP)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。リン脂質は、電荷を持つものであっても持たないものであってもよい。
【0024】
内管2bに接続されるシリンジ3bには、水溶液または水からなる第1液11が充填されている。第1液11に用いる水溶液としては、電解質水溶液、または、極性を有する溶質の水溶液が好ましいが、これらの水溶液に限定されるものではない。また、電解質としては、特に、高分子電解質が好ましい。高分子電解質とは、正又は負の電荷をもつポリイオン(ポリカチオン又はポリアニオン)と、このポリイオンと逆符号の電荷を持つ多数の低分子イオンとに解離可能な高分子のことである。第1液11に用いる高分子電解質としては、例えばポリアリルアミン塩酸塩(PAH)やキトサン等のポリカチオン性高分子(ポリカチオンを有する高分子電解質)であっても、ポリアニオン性高分子(ポリアニオンを有する高分子電解質)であってもよい。また、第1液11に用いる電解質は、1種類であっても、複数種であってもよい。但し、複数種の高分子電解質を組み合わせて使用する場合には、同符号の電荷のポリイオン性高分子を用いることが好ましい。
【0025】
また、第1液11には、ベシクルに内包させる所定の物質(以下、芯物質という)が添加されている。芯物質としては、例えば、細胞、薬物、酵素、機能性食品、芳香剤、殺虫剤、誘引剤、生体触媒、タンパク質、核酸等が挙げられる。なお、芯物質は、必ずしも添加しなくてもよい。
【0026】
容器には、水溶液または水からなる第2液12が保持されている。第2液12は、例えば第1液11としてポリアリルアミン塩酸塩を用いた場合には、クエン酸水溶液やリン酸水溶液等を用いることが好ましい。クエン酸水溶液やリン酸水溶液は、ベシクルを含む第2液12のpHを一定に保ち、外的及び内的因子による影響を受けにくくするための緩衝液として働く。
【0027】
内管2bおよび外管2aは、金属などの導電性材料であっても、ガラス等の不導体であってもよい。内管2bの内径は、10〜1000μmである。外管2aの内径は、例えば内管2bの内径の1.5〜10倍である。内管2bの先端は、外管2aの先端と揃った位置に配置されている。
【0028】
シリンジ3b、3bの押し子は、図示しない2つの駆動部によって押圧されるようになっている。2つの駆動部による押し子の押し出し速度は、それぞれ制御可能となっている。したがって、内管2bから押し出される第1液11の流量と、外管2aから押し出される(詳細には、外管2aと内管2bとの間から押し出される)リン脂質溶液10の流量は、それぞれ制御可能となっている。
【0029】
また、外管2aは電源部5に接続されており、高電圧が印加されるようになっている。第1液11が、ポリカチオン性高分子電解質水溶液の場合には、電源部5の正極が外管2aに接続され、第1液11が、ポリアニオン性高分子電解質水溶液の場合には、電源部5の負極が外管2aに接続される。なお、図1は、電源部5の正極を外管2aに接続した場合を表示している。
【0030】
また、電源部5の外管2aに接続されている電極と反対側の電極は、接地されると共に、金属等の導電性材料からなる電極板4に接続されている。電源部5としては、直流電源が使用され、外管2aに印加される電圧(二重管2と電極板4との電位差)は、例えば5〜30kVである。
【0031】
スターラー6は、容器7内の第2液12を攪拌するためのものである。スターラー6は、例えば磁力式のものであって、容器7内に配置した攪拌子を、磁力により回転させて第2液12を攪拌するようになっている。容器7の材質は、導電性であっても絶縁性材料であってもよい。
【0032】
次に、ベシクル製造装置1を用いたベシクルの製造方法について、第1液11として、ポリカチオン性高分子電解質水溶液を用いた場合を例に挙げて説明する。
【0033】
シリンジ3a、3bの押し子を押圧して、外管2aからリン脂質溶液10を一定の速度で押し出すと同時に、内管2bから第1液11を一定の速度で押し出す。このとき、外管2aと電極板4との間に電圧をかけて、二重管2と電極板4との間に電界を形成しておく。この電界の影響により、図2に示すように、外管2aから押し出されたリン脂質溶液10中の有機化合物溶媒が分極するため、二重管2の先端には、表面がプラスの電気を帯びた円錐状のメニスカスが形成される。
【0034】
このとき、電界の影響によって、図2に示すように、内管2bから押し出された第1液11には、ポリカチオンが集まる。これにより、外管2aから押し出されたリン脂質溶液10の有機化合物溶媒の分極がより大きくなる。したがって、メニスカスの表面の静電気力がより大きくなる。なお、第1液11として、極性を有する溶質の水溶液を用いた場合、内管2bから押し出された部分では、イオンが集まる代わりに分極が生じる。
【0035】
メニスカスの先端は、静電反発力が表面張力を上回ることにより、リン脂質溶液10によって第1液11(芯物質を含む)が覆われた二重構造の微小液滴に分離する。微小液滴は、静電反発力と表面張力の作用により大きさが揃ったものとなる。分離した微小液滴の表面は、有機化合物用溶媒の分極により帯電しているため、液滴間で静電反発力が生じる。そのため、微小液滴はスプレー状に噴出され、移動中に合体することもない。
【0036】
噴出された微小液滴は、静電気力により電極板4に引き寄せられて、第2液12に滴下される。微小液滴を第2液12に接触させると、微小液滴の表面側に存在する有機化合物溶媒が、第2液12に溶解する。これにより、リン脂質が水と接触するため、リン脂質二重膜が形成されて、第1液11(芯物質を含む)を内包するベシクルが製造される。
【0037】
第2液12として、リン酸等の緩衝液を用いた場合には、ベシクルを含む第2液12のpHが一定に保たれ、外的及び内的因子による影響を受けにくくなる。
【0038】
以上の工程により製造されるベシクルの平均粒径は、例えば1〜1000μm程度であり、リン脂質二重膜の膜厚は、例えば5〜1000nmである。
ベシクルの粒径および膜厚は、管2a、2bの内径、管2a、2bから押出される液の流量、電圧、リン脂質の種類および濃度、第1液11の種類および濃度などを調整することによって、調整可能である。
【0039】
以上説明したベシクル製造方法によると、外管2aに電圧を印加しつつ、外管2aおよび内管2bからそれぞれリン脂質溶液10と第1液11を押し出すという簡単な操作のみで、ベシクルを製造することができる。さらに、外管2aおよび内管2bからそれぞれ一定流量で連続的に押し出すことにより、連続的にベシクルを製造することができるため、生産性に優れている。
また、二重管2の内管2bから押し出した第1液11を微小液滴に内包させているため、第1液11をほとんど無駄にすることが無く、高い封入率でベシクルに封入することができる。
また、仮に、リン脂質を溶かす溶媒として、常温で揮発する有機化合物溶媒を用いた場合、連続してベシクルを製造すると、二重管2の先端にこの溶媒が揮発して固体化したものが付着し、二重構造の微小液滴を噴出させることが困難になる。一方、本実施形態では、常温で不揮発性の有機化合物溶媒を用いているため、二重管2の先端に付着物が付着することがなく、ベシクルを連続して安定的に製造することができる。
【0040】
また、リン脂質溶液10の溶媒として、PEGを用いた場合、PEGはほぼ無害であるため、生体に対する安全性の高いベシクルを製造することができる。また、分子量が100〜600の低分子量のPEGを用いることにより、リン脂質をより確実に溶解させることができる。
【0041】
また、第1液11として、電解質水溶液、または、極性を有する溶質の水溶液を用いた場合、電界の影響によって、内管2bから押し出された第1液11には電荷が集まるため、外管2aから押し出されたリン脂質溶液10の有機化合物溶媒の分極がより大きくなる。したがって、メニスカスの表面の静電気力がより大きくなるため、ベシクルをより確実に製造することができると共に、より小さい径のベシクルを製造することが可能となる。
【0042】
また、第1液11として、高分子電解質水溶液を用いた場合には、正または負の電荷をもつポリイオンと、このポリイオンと逆符号の電荷を持つ多数の低分子イオンとに解離し、電場の影響を与えやすくなるため、スプレーをより安定的に行うことが可能となる。
【0043】
また、薬物等の芯物質が添加された第1液11を用いることにより、芯物質を内包するベシクルを容易に製造することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0045】
図1および下記に示す構成のマイクロカプセル製造装置を用意した。内管は、外径630μm、内径330μm(23G)のルアーロック注射針(針先90°、丸基タイプ)を使用した。外管は、内径1mm、針先90°の株式会社メック製のノズルを使用した。シリンジは、オールプラスチックディスポシリンジ(ロックタイプ、5ml、型式H4050−LL)を使用した。二重管ホルダーは株式会社メック製のものを使用し、電極板と電源部は、株式会社メックの「LAB用ナノファイバー サンプル作製装置」のNF−104を使用した。スターラーは、ミニDCスターラー SW−M01を使用した。容器は、ステンレスシャーレを使用した。
【0046】
<実施例1>
リン脂質溶液として、分子量200のポリエチレングリコール(PEG)に、大豆由来L−α−レシチンを1wt%溶解させた溶液を用いた。また、このリン脂質溶液には、蛍光標識物質であるL−α−Phosphatidylethanolamine−N−(lissamine rhodamine Bsulfonyl) (Ammonium Salt)を1μg/ml溶解させた。
第1液として、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH)を10wt%、蛍光標識物質であるカルセインを10μg/mlを含む水溶液を用いた。
第2液として、濃度5mMのクエン酸水溶液(pH=5.5)を用いた。
【0047】
外管への印加電圧を15kVとし、外管から押し出されるリン脂質溶液の流量を0.5ml/hとし、内管から押し出される第1液(高分子電解質水溶液)の流量を1.0ml/hとし、二重管の先端から容器内の液面までの距離を5.0cmとして、室温下で、上記実施形態で述べた手順によりベシクルを作製した。以上説明した実施例1のベシクル作製条件の一部を表1に示す。
なお、リン脂質溶液のリン脂質と有機化合物溶媒の種類、二重管の先端から容器内の液面までの距離、温度条件は、後述する実施例2〜11も全て同じにした。
【0048】
【表1】

【0049】
<実施例2>
表1に示すように、第2液のクエン酸の濃度を100mMとし、その他の条件は実施例1と同条件でベシクルを作製した。なお、第2液(クエン酸水溶液)のpHは、実施例1と同じく5.5である。
【0050】
<実施例3〜5>
表1に示すように、第1液のPAHの濃度を1wt%とし、第2液のクエン酸の濃度を変化させて、その他の条件は実施例1と同条件でベシクルを作製した。なお、実施例3〜5とも、第2液(クエン酸水溶液)のpHは、実施例1と同じく5.5である。
【0051】
<実施例6、7>
表1に示すように、第2液としてリン酸水溶液を使用し、リン酸の濃度を変化させて、その他の条件は実施例1と同条件でベシクルを作製した。なお、実施例6、7とも、第2液(リン酸水溶液)のpHは7.4である。
【0052】
<実施例8>
表1に示すように、印加電圧を20kVとし、その他の条件は実施例7と同条件でベシクルを作製した。
【0053】
<実施例9、10>
表1に示すように、二重管から押し出される液の流量を実施例7と異ならせて、その他の条件は実施例7と同条件でベシクルを作製した。
【0054】
<実施例11>
表1に示すように、リン脂質溶液のリン脂質(大豆由来L−α−レシチン)の濃度を10wt%とし、第1液として、200mMの酢酸を含む5wt%のキトサンの水溶液を使用した。また、外管から押し出されるリン酸溶液の流量を2.0ml/h、内管から押し出される第1液の流量を0.2ml/hとして、その他の条件は実施例7と同条件でベシクルを作製した。
【0055】
作製された実施例1〜11のベシクルの共焦点顕微鏡写真を、図3〜図13に示す。図3(a)〜図12(a)および図13は、ローダミンBを発光させた状態の写真であり、図3(b)〜図12(b)は、カルセインを発光させた状態の写真である。
【0056】
実施例9(図10)では、袋状でない粒状のものが確認されるものの、その他の実施例では、第1液を内包するベシクルが確認できた。
【0057】
実施例1のベシクルは、粒径が1〜8μmであり、リン脂質二重膜の膜厚が粒径の約1/10であった。また、実施例1のベシクルを容器から取り出して、これを孔径0.45μmのシリンジフィルター(ザルトリウス社製)でろ過して、ろ過液の蛍光強度を計測し、封入率を測定した。封入率は82%であった。
【0058】
実施例1〜4の結果(図3〜6)から、1〜10wt%の幅広いPAH濃度において、ベシクルを作製できることを確認した。
【0059】
実施例7の結果(図9)と実施例8の結果(図10)の比較から、印加電圧が高いほど、ベシクルの粒径が小さくなることを確認した。
【0060】
実施例7、9、10の結果(図9、11、12)から、内管と外管の押出流量の比率を変えることにより、ベシクルの粒径およびリン脂質二重膜の膜厚を変えることができることを確認した。
【0061】
また、実施例7と実施例11の結果(図9、13)から、1〜10wt%の幅広いリン脂質濃度の範囲において、ベシクルを作製できることを確認した。
【符号の説明】
【0062】
1 ベシクル製造装置
2 二重管
2a 外管
2b 内管
3a シリンジ
3b シリンジ
4 電極板
5 電源部
6 スターラー
7 容器
10 リン脂質溶液
11 第1液
12 第2液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外管とこの外管内に同軸状に配置された内管とを有する二重管を使用し、
大気圧における沸点が110℃以上であって、極性を有し、水に溶解可能な有機化合物溶媒に、リン脂質を溶解させたリン脂質溶液を、前記外管から押し出すと同時に、水を含む第1液を前記内管から押し出す工程と、
前記二重管に対向して電極を配置すると共に、前記外管に電圧を印加して、前記二重管と前記電極との間に電界を形成することにより、前記外管から押し出される前記リン脂質溶液を分極させて、前記第1液と前記リン脂質溶液とからなる微小液滴を噴出させる工程と、
噴出された前記微小液滴を、水を含む第2液に接触させて、前記微小液滴の前記有機化合物溶媒を前記第2液に溶解させることにより、前記リン脂質を前記第2液に接触させてリン脂質二重膜を形成し、前記第1液を内包するマイクロスケールのベシクルを製造する工程と、
を有することを特徴とするベシクル製造方法。
【請求項2】
前記有機化合物溶媒が、ポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項1に記載のベシクル製造方法。
【請求項3】
前記有機化合物溶媒を構成するポリエチレングリコールの分子量が、100〜600であることを特徴とする請求項2に記載のベシクル製造方法。
【請求項4】
前記第1液が、電解質水溶液、または、極性を有する溶質の水溶液であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のベシクル製造方法。
【請求項5】
前記第1液を構成する電解質水溶液が、高分子電解質水溶液であることを特徴とする請求項4に記載のベシクル製造方法。
【請求項6】
前記内管から押し出される前記第1液中に、予め所定の物質を添加することにより、前記第1液と前記所定の物質とを内包するベシクルを製造することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のベシクル製造方法。
【請求項7】
前記所定の物質が、細胞、薬物、酵素、機能性食品、芳香剤、殺虫剤、誘引剤、生体触媒、タンパク質、核酸のうち、少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項6に記載のベシクル製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−255319(P2011−255319A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132232(P2010−132232)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】