説明

ベッド位置決め装置、ベッド位置決めシステムおよび放射線治療装置

【課題】簡単な操作で自由度を変更してベッド移動量を演算することできるベッド位置決め装置、ベッド位置決めシステムおよび放射線治療装置を提供する。
【解決手段】モニタ109の参照画像表示領域304にDRR画像が表示され、フロート画像表示領域305にDR画像が表示される。ベッド位置決めのための移動量の自由度の選択は自由度指定領域306を用いて行う。自由度指定領域306に3DOFのチェックボックスと5DOFのチェックボックスを表示し、入力手段110を通してそのいずれかにチェックを入れることで、ベッド移動量の自由度を指定する。ベッド位置決め演算処理装置112は自由度が指定されると、その自由度に対応する座標変換式を用いてベッドの位置決めのためのベッド移動量を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線又は陽子線をはじめとする粒子線等の各種放射線を患者の患部(照射標的)に照射して治療する放射線治療用のベッド位置決め装置、ベッド位置決めシステムおよび放射線治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療においてベッド位置決めは照射標的と照射中心とを一致させる技術であり、放射線の照射標的への照射精度を維持するために重要である。そのため、最近はX線透視画像やCT画像のデータを用いて照射標的内部の情報に基づいてベッド位置決め演算を実施することが盛んに実施されている。
【0003】
従来、X線透視画像やCT画像のデータを用いる場合には、その画像を表示し操作者の判断を支援する支援装置が用いられる。支援装置のことをベッド位置決め装置と呼ぶ。ベッド位置決め装置は、放射線治療計画に使用したCT画像から生成されるDRR(Digital Reconstructed Radiography)画像と、照射位置で照射標的を撮影したX線透視画像(Digital Radiograhy(DR)画像と呼ぶ)とを演算装置のモニタに重ねてまたは並べて表示し、照射標的と照射中心とを一致させる位置決め演算機能を提供するものである(特許文献1)。
【0004】
ベッド位置決め装置の操作者は、モニタに表示した画像をマウス等の入力手段を用い平行移動させたり回転させたりすることによりDRR画像とDR画像とが一致した時点での平行移動量および回転量を確認し、ベッドの移動量とする。また、画像上に複数個の点を入力するか、または支援装置の演算器に用意されている点抽出機能により画像から特徴のある点を選択し、二つの対応する画像間の対応する入力点の座標値の誤差の総和が最小になるように演算器の移動量演算機能に演算させ、ベッドの移動量を算出させる(特許文献1)。この場合、ベッド位置決め装置の移動量演算機能は平行移動成分と回転量をベッドの移動量として算出することが一般的である。回転量としては、三次元空間の各直行する軸周りの回転を全て算出する場合や、それらのうち二つを算出する場合がある。これらの成分の総数は自由度とよばれ、それぞれ5自由度、6自由度と呼ぶ。また、点の対応により移動量を算出するのではなく、DRR画像やX線透視画像の画素値である画像情報を用いて移動量を演算する機能を提供するベッド位置決め装置もある(特許文献3)。
【0005】
【特許文献1】特開2000−140137号公報
【特許文献2】特表2000−510023号公報
【特許文献3】特開2004−267250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術には次のような問題があった。
【0007】
いずれの自由度を備えるベッド位置決め装置の場合も自由度の数は固定であり、操作者がベッド位置決め毎やベッド位置決めの途中で自由度を変更することがこれまでできなかった。そのため、例えば画像上に計算点を入力し移動量を算出する場合に、例えば粗位置決めの目的で平行移動成分のみを求めたいことがあっても、5自由度や6自由度のベッド位置決め装置では、回転量も同時に算出されてしまう。結局操作者がマウス等の入力手段を用いて直接画像を移動させて平行移動量を算出する必要があり、操作者の熟練度に応じてベッド位置決めに要する時間や移動量が異なるという課題があった。
【0008】
また、照射室が複数存在する場合、照射室毎にベッド(駆動機構を含む)の自由度が異なることもある。そのような場合、予めベッド位置決め装置をベッドの自由度に対応させて準備しておく必要があり、ベッド位置決め演算を実施するプログラムも予めベッドの自由度毎に合わせておく必要があり、位置決め装置を保守管理することが必要以上に複雑になるという課題があった。さらに、ベッドを途中で交換した場合にもプログラムを変更する必要が生じるという課題があった。
【0009】
本発明の目的は、簡単な操作で自由度を変更してベッド移動量を演算することができるベッド位置決め装置、ベッド位置決めシステムおよび放射線治療装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では上記の課題を解決するために、演算装置で演算されるベッド移動量の自由度を指定する自由度指定装置を備えたベッド位置決め装置を提供する。これにより、位置決めの途中において簡単な操作で自由度を変更して位置決め演算することが可能となり、操作者の熟練度に依存しないベッド位置決め演算を実現できる。また、自由度指定装置を用いることで照射室毎にベッドの自由度が異なった場合やベッドの交換により自由度も変わった場合にも、プログラムを変更することなく対応ができるようになり、保守管理の労力を大幅に減少させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ベッド位置決め装置を操作する操作者は、照射標的を撮像した画像と照射中心との位置関係に応じて簡単な操作で位置決め演算の自由度を選択することが可能となる。また、再度位置決め演算を実施する場合にも自由度を増減させて簡便に再演算が可能となり、大幅な効率向上となり、位置決め時間を短縮できる。さらに、自由度を選択することで自動でベッド移動量が計算されるので、入力手段を用いて操作者が直接画像を移動させての移動量演算の必要性がなくなり、再現性のある演算とすることができる。さらに、照射室毎にベッドの自由度が異なった場合やベッドの交換により自由度も変わった場合にも、プログラムを変更することなく対応ができるようになり、保守管理の労力を大幅に減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
<第1の実施の形態>
〜システム構成〜
図1は、本発明の第1の実施の形態のシステム構成を示す図である。
【0013】
図1において、本実施の形態に係わるベッド位置決めシステムは、画像データサーバ100、ベッド位置決め装置107、ベッド制御装置115、X線画像撮像システム116を備えている。
【0014】
画像データサーバ100は、ネットワーク105に接続し他の装置とデータの交換をするための通信装置101と、データを保存するための記憶装置102と、画像データサーバ100の各内部装置を制御し、データに対し例えばデータ容量の圧縮等の演算を実施するデータ演算処理装置103と、データ演算処理装置103が使用する処理プログラムや処理対象データを一時的に格納するための主記憶装置104から構成される。
【0015】
ベッド位置決め装置107は、ベッド位置決め演算を実施するためのベッド位置決め演算装置108と、演算結果の表示およびユーザインタフェースを表示するためのモニタ109と、モニタ109上に表示されるユーザインタフェースを通じベッド位置決め演算装置108およびベッド制御装置115への指示を入力するための入力手段110から構成される。入力手段110としては、キーボードやマウス等が用いられる。ベッド位置決め演算装置108は、入力データおよび演算結果を送信するための通信装置111、データおよびベッド位置決め演算プログラムを保存するための記憶装置113、ベッド位置決め演算を実行するためのベッド位置決め演算処理装置112、および演算プログラムや入力データ等をベッド位置決め演算処理装置112にて使用するために一時的に格納するための主記憶装置114より構成される。
【0016】
ベッド制御装置115は、簡略化して示しているが、放射線を照射する照射標的を載せるベッド124を制御するための制御装置であり、ベッド位置決め装置107が演算により算出したベッドの移動量を受信し、ベッド124に含まれる駆動機構に対し移動指令を送出する機能を持つ。
【0017】
ベッド124およびベッド制御装置115は、本明細書では詳細には記述しないが、放射線照射システム121の一部を構成するものである。放射線照射システム121はその他に放射線を出射する照射ヘッド(ノズル)122や照射ヘッドを備え保持するガントリ123、照射ヘッド122やガントリ123を制御するための治療装置制御部126、治療装置制御部126に指示を与えるための治療装置操作卓125からなる。ガントリ123は一般に回転機構を備える。
【0018】
X線画像撮像システム116は、X線画像撮像装置116A、X線撮像装置制御部119およびX線画像撮像装置操作卓120から構成される。X線画像撮像装置116Aは、X線源117およびX線源117に対向な位置に配置されたX線受像装置118から構成される。ベッド124はX線源117とX線受像装置118の間に位置し、ベッド上に患者が存在する。X線画像撮像装置116Aはベッド上の照射標的を撮像するために使用する。また、X線受像装置118はフラットパネルディテクタやイメージインテンシファイア等を使用する。X線画像撮影装置操作卓120は、X線画像撮像装置116Aに対し撮像のための例えばX線源の電圧や撮影時間等の撮影に必要な撮影条件を設定する機能と、それらをX線撮像装置制御部119に送信する機能を持つ。X線撮像装置制御部119は受信した操作卓120からの指示をX線源117および受像装置118に送信する。さらに、X線撮像装置制御部119はX線画像撮像装置116Aにて撮影されたX線画像のデータ(X線データ)をX線画像撮像装置116Aより受信し、そのX線データをDR画像データに変換して画像データサーバ100に送信する機能を持つ。
【0019】
画像データサーバ100、ベッド位置決め装置107、X線画像撮像システム116およびベッド制御装置115はネットワーク105を介して接続されており、データをネットワーク経由で相互に送受信することが可能である。画像データサーバ100、ベッド位置決め装置107、X線画像撮像システム116およびベッド制御装置115は前述したようにベッド位置決めシステムを構成し、画像データサーバ100、ベッド位置決め装置107およびX線画像撮像システム116と、ベッド制御装置115を有する放射線照射システム121は粒子線治療装置(放射線治療装置)を構成する。
〜データフロー〜
治療計画ソフトウェアが生成したDRR画像、および照射標的を寝台上で撮影したDR画像を用いる場合を例に、ベッド位置決めの本実施の形態におけるデータフローについて図2を用いて説明する。データは、治療計画装置(図示せず)およびX線画像撮像システム116にて生成され、それらが画像データサーバ100に蓄積され、ベッド位置決め装置107にて使用される。
【0020】
まず照射標的への照射やベッド位置決め以前に治療計画装置を用いてベッド位置決めに使用するDRR画像を生成する。治療計画装置は図示していないが、ネットワーク105に接続されており、他のシステムと通信可能である。治療計画装置は、治療計画立案に用いる照射標的(患者の患部)のCT画像データを画像データサーバ100から読込み、CT画像を治療計画装置の記憶装置および主記憶装置に格納する。画像データサーバ100には、治療計画立案のために事前にX線CT撮像装置により撮影したCT画像データが保存されている。その後、取得したCT画像を用いてDRR画像を生成する。生成したDRR画像は、画像データサーバ100に送信し(ステップ201)、画像データサーバ100では受信したDRR画像を記憶装置102に保存する(ステップ202とステップ203)。 DRR画像は、CT画像を読み込み治療計画装置内に生成した照射標的の3次元密度分布に対し、X線を照射した際のX線透過をコンピュータシミュレーションすることにより生成した画像であり、DR画像の模擬画像である。
【0021】
X線画像撮像システム116では、照射標的への照射前もしくは直前にベッド上に患者を置いた状態でベッド上の患者の患部(照射標的)をX線撮影(ステップ204)し、得られたX線データをX線撮像装置制御部119に送信する(ステップ205)。X線撮像装置制御部119はX線データをDR画像データに変換し(ステップ206)、変換したDR画像データを画像データサーバ100に送信する(ステップ207)。DR画像データをX線画像撮像システム116より受信した画像データサーバ100は、DR画像データを記憶装置102に保存する(ステップ208とステップ209)。ここで、DR画像データは、ベッド位置決め装置107の分野にて一般的に使用されているダイコム(DICOM)フォーマットであるとする。ただし、その他の画像フォーマットでもかまわない。また、DRR画像も同様である。さらに、X線画像撮像装置116AからX線撮像装置制御部119に送信されるX線データとは、前記画像フォーマットに変換する前のデータを指し、その値は受像装置118が検出したX線量の計測値または、最大値で規格化された値であることが多い。
【0022】
ベッド位置決め演算装置108では、ベッド位置決め演算を実施するために、DRR画像およびDR画像を画像データサーバ100から受信し、演算装置内に読込み(ステップ211)、主記憶装置114および記憶装置113に保存する(ステップ212)。読込んだDRR画像およびDR画像をモニタ109上に表示し(ステップ213)、位置決め演算を実施する(ステップ214)。位置決め演算後に、得られたベッド移動量をベッド制御装置115に送信する(ステップ215)。
【0023】
なお、ベッド位置決め演算装置108においては、主記憶装置114にプログラムがロードされる際に、プログラムは位置決め演算に使用する自由度の初期設定値を記憶装置113に保存されている設定ファイルから読み込む。
【0024】
ここで、ステップ213であるモニタ109上への画像データの表示からステップ215であるベッド制御装置115への移動量の送信までの処理内容について、詳細に説明する。
【0025】
照射標的を位置合わせするためのベッド移動量を算出するために、ステップ213にて読み込んだDRR画像およびDR画像をベッド位置決め装置107のモニタ109に表示する。ベッド位置決め演算装置108内のベッド位置決め演算処理装置112にロードされているプログラムは、グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)を備えており、モニタ109には予め位置決め演算を実施するためのGUIが表示されている。DRR画像およびDR画像はGUIの中に表示されている。図3にGUIの例を示す。
【0026】
図3において、GUIは、モニタ109内のモニタ表示領域301内に表示されている。GUIは、タイトルバー領域302、メニュー領域303、参照画像表示領域304およびフロート画像表示領域305、参照画像およびフロート画像のサムネイルを表示するサムネイル表示領域309、自由度指定領域306、編集操作指定領域307、そして計算および承認実行領域308にて構成される。
【0027】
メニュー領域303には、プログラムへの指示に必要な様々な命令を表現したメニューが備えられている。参照画像表示領域304には、本例ではDRR画像が表示され、フロート画像表示領域305には、DR画像が表示される。サムネイル領域309には、異なる角度から撮像されたDRR画像およびDR画像が表示されており、サムネイル領域309の画像をマウス等の入力手段110により指定すると参照画像304およびフロート画像表示領域305に表示されている画像が切り替わる。計算および承認実行領域308には、例えば”Calculation”ボタンや”Approve”ボタンが備えられている。”Calculation”ボタンを押下することで、位置決め移動量の計算開始をベッド位置決め演算処理装置112に指示する。また、”Approve”ボタンを押下することでベッド位置決め演算処理装置112は、ベッド制御装置115へと移動量を送信する。ベッド位置決めに使用するDR画像はガントリ123の回転する面内の異なる2方向から撮影した2枚の画像を用いるのが一般的である。DR画像を2枚使用するため、DR画像のシミュレーション画像であるDRR画像も2枚使用する。
【0028】
さらにGUIには、参照画像表示領域304やフロート画像表示領域内305に計算点と呼ぶ点を入力する機能と、その入力した計算点を移動および消去する機能がある。入力された計算点は、DRR画像およびDR画像の上に重ねて表示され、ベッド移動量演算に使用される。ベッド移動量演算では、主記憶装置114に保持された計算点のDRR画像およびDR画像上での2次元の座標値を用いる。座標系は例えば、図4に示すように画像の中心を原点とし、紙面右方向をX軸、紙面上方向をY軸というようなものを用いる。
【0029】
本発明では、ベッド124に含まれる駆動機構の自由度やベッド124の位置決めの必要精度に応じて、ベッド位置決め演算装置108が演算し算出する移動量の自由度を位置決め演算前に選択できる手段を提供する。自由度とは、3次元空間における平行移動3成分および、各軸周りの回転量のことを言う。例えば6自由度という場合は、3つの平行移動成分と3つの回転成分のすべてを指す。また、ベッド124に含まれる駆動機構は、6自由度の場合もあるし、平行移動成分3つと照射標的を置く天板に垂直な軸周りの回転1つを持つ4自由度の場合もある。自由度はDOF(Degree Of Freedom)と略すこともあり、本実施の形態においても使用する。
【0030】
ベッド位置決めのための移動量の自由度の選択は、自由度指定領域306を用い行うことができる。本実施の形態では、自由度指定領域306に3DOFのチェックボックスと5DOFのチェックボックスを表示し、入力手段110を通してそのいずれかにチェックを入れることで、ベッド移動量の自由度を指定する。自由度指定領域306と入力手段110は、ベッド位置決め演算装置108が算出する移動量の自由度を指定する自由度指定装置を構成する。
【0031】
今、自由度指定領域306内の3DOFのチェックボックスが入力手段110を通してチェックされたとする。すると、ベッド位置決め演算装置108内のベッド位置決め演算処理装置112に入力手段からの指令が伝達され、指定された自由度に応じて移動量を計算する。本実施の形態では3DOFの場合は、平行移動成分のみを計算するものとする。
【0032】
図5および図6を用いて2方向から撮影した画像と3次元空間の関係および、画像への計算点の入力から座標値への変換について説明する。図5に示すように、ベッド124上に置かれた照射標的内に原点を持つ3次元の座標系を考える。X,Y,Z軸の各軸まわりの回転量をΔΨ,ΔΦ,Δθとする。また、X,Y,Z軸それぞれの平行移動量をΔX,ΔY,ΔZとする。
【0033】
画像1上の座標系および画像2上の座標系も図5に示す。またベッド移動量算出にはDR画像とDRR画像を用いるが、両方の画像に座標系を定義する。便宜上、DRR画像上の座標系には記号にダッシュ(’)をつけるものとする。
【0034】
画像1であるDRR画像とDR画像上に入力された座標値をDRRの方を(X’r1, Y’r1)、DR画像の方を(Xr1, Yr1)とする。座標変換行列M1によりDRR画像とDR画像上の座標値を対応付けることを考えると、対応関係は以下の式(座標変換式)であらわされる。
【0035】
【数1】

【0036】
ここで、選ばれている自由度は平行移動のみであるので、変換行列M1は以下のようになる。
【0037】
【数2】

【0038】
ΔX、ΔYは三次元空間上での移動量である。同様に、画像2の方向では、ΔYおよびΔZを用いて(X’r2, Y’r2)および(Xr2, Yr2)を対応づけることができる。画像2の場合に対応する変換行列をM2と表記する。実際の計算においては、複数個の計算点をDRR画像およびDR画像に対し設定し、複数個の計算点の座標値から平行移動量を算出する。
【0039】
変換行列M1,M2を、DRR画像およびDR画像に入力し設定した計算点から算出する手順について図6に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0040】
図6において、DRR画像およびDR画像に対し計算点が設定され、Calculationボタンが押下されると、ベッド位置決め演算処理装置112に移動量演算指令が送信され、演算を開始する。まず、画像1および画像2に対する変換行列M1,M2を適切な初期値で初期化する。例えば、ΔX,ΔY,ΔZに対し、1を設定する(ステップ601)。次に、画像1に対応する数式1および画像2に対応する数式2の座標変換式を用いてそれぞれのDR画像上に設定された計算点を座標変換する(ステップ602)。画像1および画像2のそれぞれについて、ステップ602で得られた座標値とDRR画像上に入力された計算点の座標値の差(誤差)を計算し、誤差の絶対値の総和を求める(ステップ603)。求めた総和があらかじめ設定していた閾値よりも小さければ、移動量が求まったとし処理を終了する(ステップ604)。誤差の総和が閾値以上であれば、変換行列M1,M2を非線形最適化アルゴリズムを用いて更新し(ステップ605)、ステップ602からの手順を繰り返す。非線形最適化アルゴリズムとしては、例えばPowell法を用いる(「Numerical recipes in C」 技術評論社、1993年、参照)。これにより画像1から移動量ΔX、ΔYを求めることができ、画像2から移動量ΔY、ΔZを求めることができる。重複するΔYについては画像1または画像2のどちらかの値を優先することとし、3自由度の各成分を算出する。ベッドの移動量等の計算値また座標値は主記憶装置114および記憶装置113に演算途中および演算後にも保管されている。
【0041】
ベッド移動量の算出が終了すると、ベッド位置決め装置107はモニタ109上に算出した移動量を操作者に対し表示し、またDR画像を移動量に基づき座標変換し座標変換後のDR画像をモニタ109上に表示する。DR画像に対する座標変換の演算は演算処理装置112が実施する。同時に求まっているDR画像上の計算点をDR画像上に重ねて表示する。
【0042】
ここで、操作者が“Calculation”ボタンを再び押下した場合は、再計算を実施する。またその際に自由度指定領域306のチェックを変更していた場合は、再指定された自由度で計算を実施する。これらの演算は演算処理装置112にて実施する。ベッド位置決め演算処理装置112は、自由度指定領域306(自由度指定装置)により自由度が指定されると、その自由度に対応する座標変換式を用いてベッドの位置決めのためのベッド移動量を演算する演算装置を構成する。
【0043】
図7にベッド位置決め演算処理装置112が実行する自由度判定の処理(演算)手順を示す。図7に示すように自由度の判定手順であるステップ701において、ベッド位置決め演算処理装置112が自由度指定領域306によって指定されている自由度を判定し、自由度に応じてその後のベッド移動量算出機能を選択し、移動量演算を実施する。
【0044】
例えば、自由度指定領域306において3DOFが選択されていた場合は、ステップ702の処理が演算処理装置112にて実施される。ステップ702の処理は、ここまで説明した通りである。自由度指定領域306において5DOFが選択されていた場合は、ステップ703の処理が演算処理装置112にて実施される。
【0045】
ステップ703の5DOFの移動量演算は、数式2が3DOFの場合と異なる。その他の処理は3DOFの場合と同じであり、ステップ602を除いて図6に示す移動量算出手順をそのまま実施する。しかしながら、処理が同一であっても座標変換式(数式2に相当)が異なるため、演算処理装置112はステップ701で自由度が5DOFであると判別された時点で主記憶装置114にロードされているプログラムに5DOFの場合の処理モジュールをロードしなくてはならない。5DOFの場合の数式2に相当する座標変換式を次に示す。
【0046】
【数3】

【0047】
ここで、数式3のΔX等の記号は、図5と同一の記号である。5DOFの場合は、数式3を数式2の代わりに用い、図6に記載の処理を実施する。
【0048】
操作者が”Approve”ボタンを押下することにより承認指示が位置決め演算装置に対して出されると、位置決め演算処理装置112はベッド移動量をベッド制御装置115に通信装置111を通して送信する。
【0049】
前述したようにベッド移動量をベッド制御装置115に伝達する前に、例えば3自由度で実施したベッド移動量演算結果が不十分な場合、操作者は自由度を変更することができる。従来は同じ自由度を用いての計算のやり直しはできても自由度を変更しての再計算はできず、再計算を繰り返してもベッド位置決めの精度を向上させることが困難であった。そのため、十分な結果を得るためには入力手段110を用いての計算点の再入力や再移動、もしくはマウス等の入力手段110を用いての操作者自身によるDR画像の移動による移動量の算出を実施する必要があり、煩雑でありベッド位置決めに時間がかかる要因となっていた。
【0050】
〜効果〜
以上のように本実施の形態によれば、操作者は、簡単な操作で位置決め演算の自由度を選択することが可能となる。また、再度位置決め演算を実施する場合にも自由度を変更させて簡便に再演算が可能となり、大幅な効率向上となり、位置決め時間を短縮できる。さらに、自由度を選択することで自動でベッド移動量が計算されるので、入力手段を用いて操作者が直接画像を移動させての移動量演算の必要性がなくなり、再現性のある演算とすることができる。さらに、照射室毎にベッドの自由度が異なった場合やベッドの交換により自由度も変わった場合にも、プログラムを変更することなく対応ができるようになり、保守管理の労力を大幅に減少させることができる。
<他の実施の形態>
上記実施の形態では、DRR画像とDR画像とを用いてのベッド位置決めについて説明したが、一般にベッド位置決めに用いる画像は色々である。例えば、治療計画時に使用したCT画像とDR画像との組み合わせを位置決め演算に用いることができる。また、DR画像の代わりに放射線照射システムが据え付けられた場所でベッド上の照射標的をX線CT撮像装置を用いて撮影してCT画像を取得し、位置決め演算に用いることもできる。さらに、治療計画用CT画像の代わりにMRI装置で撮像した画像を用いることもできる。本発明はこれらの画像を用いるベッド位置決め装置に対しても有効である。
【0051】
また、一般に照射対象への照射は数十回に分割されてなされる。そのため、1回目の照射にて撮影したDR画像を2回目の照射時には、DRR画像の代わりに用いることもできる。
【0052】
図1及び図2を用いてCT画像とDR画像とを用いる場合について説明する。治療計画時に取得したCT画像は、図1に示す画像データサーバ100の記憶装置102に保存されている。データサーバ100への保存は、図2のステップ201の処理と同時でもよいし、それ以前に例えば照射標的のCT画像を撮影した時点でも良い。ベッド位置決め時には、ステップ211の処理時にデータサーバ110からCT画像データを読み込む。CT画像とDR画像を用いて移動量を演算するためには、CT画像をDRR画像に変換する必要があり、ベッド位置決め演算装置108の演算処理装置112にて実施する。DRR画像への変換が終了するとステップ212、ステップ213と順次処理を実施し、上記実施の形態で述べた移動量演算を実施する。
【0053】
DRR画像は、DR画像をコンピュータシミュレーションにより模擬した画像であり、X線透視画像を模擬したものとなる。DRR画像は照射標的内でのX線の減弱を演算することで生成する。X線の照射標的内での減衰はその密度分布に応じて計算できることが知られている。より具体的には、X線画像撮像システム116にあるX線管から照射標的に向けて照射されるX線の照射標的内での減衰は照射標的の密度分布を表すCT画像データであるCT値を用いることで算出可能である。ベッド位置決め演算装置108の演算処理装置112により複数枚のCTスライスから構成されるボクセルデータの要素に対しX線管から仮想的なレイと呼ばれるX線を模擬した線を通過させX線管からの距離と、ボクセルデータの要素に格納されているCT値に比例してX線の減衰を計算する。そして、X線受像装置位置における減衰したレイの強度を求める。X線受像装置位置にて例えば画像サイズ512×512マトリックスの予め設定した解像度で二次元のメッシュ上の領域を構成しこれらの各要素中心でのレイの減衰を求める。このような演算を前述の二次元メッシュ内の要素全てに対し実施することでX線受像装置位置におけるDRR画像を生成できる。
【0054】
本発明が提供する手段と方法は、画像上に入力手段を用いて計算点を入力する本実施の形態の方法以外にも、ベッド位置決め演算処理装置112により画像内の特徴点を点として選択する場合や、画像同士の類似度等の指標を用いてベッド移動量を算出する場合にも適用できる。
【0055】
画像内の輝度が大きい部分や角張った部分等の特徴点を抽出するには、『「画像処理工学」 コロナ社、2000年』に記載の細線化処理や輪郭追跡処理を使用し、DRR画像およびDR画像に写っている照射対象の輪郭を演算処理装置112を用いて取得し、その後直線化処理であるハフ変換により直線を得て、例えば胸の部分であれば背骨や肋骨を表す直線の交点を直腸恬として取得する。また、照射対象に金属のマーカーや照射対象表面に放射線透過性の小さい物質が貼ってあった場合は、DR画像やDRR画像にそれらの像が写っているので、これを閾値処理等を用いて演算処理装置112を用いて処理し特徴点を得る。その後、上記実施の形態に記載のベッド移動量算出方法を用いて移動量を算出する。
【0056】
画像同士の類似度としては、例えば上記の『「画像処理工学」 コロナ社、2000年』に記載の相互相関係数を使用したり、「Frederik Maes, 他,「Multimodality image registration by maximization of mutual information」,IEEE Trans. Med. Image., Vol.16, No.2, 1997」に記載の相互情報量を用いる。これらは、お互いの画像がどのくらい似ているかを定量的に示す指標である。類似度を用いてのベッド移動量算出では、計算点ではなく、例えば数式2や数式3の変換式を用いながら直接画像を座標変換する。
【0057】
治療計画用CT画像と位置決め時に撮像したCT画像とを用いて移動量を算出する方法について補足する。DRR画像及びDR画像を用いる場合と同様に、モニタ109上に表示されているCT画像のスライス上に入力手段を用いて計算点を入力することで移動量を計算できる。また、同様な方法を用いることで画像内の輝度が大きい部分や角ばった部分等の特徴点や画像同士の類似度を使用することによっても移動量を計算することができる。ここで、モニタ109上では、参照画像表示領域304に治療計画時のCTスライス画像が、フロート画像表示領域305には位置決め時のCTスライス画像が表示されている。また、図示していないが、表示領域の脇等に表示スライス画像を変更するためのスライダ等の表示スライス画像変更手段を備えている。
【0058】
本発明に用いる放射線照射システムの種類は、X線放射線照射システムおよび粒子線治療システムである。また、粒子線照射システムでは、陽子線、炭素線およびその他のイオン種を用いることを想定している。
上記実施の形態では、自由度指定領域306に配置する自由度として5DOFおよび3DOFを備えるGUIを例示しているが、これは他の自由度であってもかまわない。本発明では自由度を切り替える手段を提供することが目的である。また、本発明の提供する手段の目的から考えると操作者がGUIを起動した際に、あらかじめ決めておいた自由度が選択されていてもかまわない。これを自由度の初期設定値と呼ぶ。自由度の初期設定値は、設定ファイルとして記憶装置113に保存されていても、またはプログラムに固定の規定値として組み込まれていても良い。初期設定値が設定ファイルとして記憶装置113に保存されている場合は、照射室毎にベッドの自由度が異なる場合でもプログラム本体を変更する必要がなく、またプログラムの起動直後から直ぐに使用できるため効率が向上し、位置決め時間の短縮となる。
【0059】
使用する画像の枚数すなわち撮影方向について上記実施の形態では2枚としているが、1枚のDRR画像とDR画像とを用いても本発明の目的を損なわない。1枚だけすなわちある特定の方向からの画像を用いる場合としては、例えば放射線照射システム121の照射ヘッド122にX線源117が搭載されている場合がある。この場合、照射方向からのDR画像を用いてベッド位置決めの最終確認をすることを目的にベッド位置決め演算を実施する。ただし、特にその他の方向から撮影した1枚の画像であってもベッド位置決め演算は実施できるため、本発明はそのような場合にも有効である。
【0060】
1方向からのみ撮影した画像を用いる場合は、例えば上記実施の形態の図3に示すGUIの自由度指定領域306の3自由度以上の自由度は選択できなくなる。1方向の画像の場合の自由度は最大で3自由度(平行移動成分が2つ、回転が1つ)であり、図3の自由度指定領域306は1方向の画像のみの場合は、例えば3自由度および2自由度のチェックボックスになってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施の形態に係わるベッド位置決めシステムを備えた放射線治療装置の全体構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係わるベッド位置決めシステムにおける処理内容のデータの流れを示すフローである。
【図3】モニタに表示されるグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)の一例を示す図である。
【図4】画像上の計算点の座標系を示す図である。
【図5】2方向から撮影した画像と3次元空間の関係を示す図である。
【図6】移動量の算出手順を示す図である。
【図7】ベッド位置決め演算装置における自由度判定の処理手順を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
100 画像データサーバ
101 通信装置
102 記憶装置
103 データ演算処理装置
104 主記憶装置
105 ネットワーク
107 ベッド位置決め装置
108 ベッド位置決め演算装置
109 モニタ
110 入力手段(自由度指定装置)
111 通信装置
112 ベッド位置決め演算処理装置
113 記憶装置
114 主記憶装置
115 ベッド制御装置
116 X線画像撮像システム
116A X線画像撮像装置
117 X線源
118 受像装置
119 X線撮像装置制御部
120 X線画像撮像装置操作卓
121 放射線照射システム
122 照射ヘッド
123 ガントリ
124 ベッド(駆動機構を含む)
125 治療装置操作卓
126 治療装置制御部
301 モニタ表示領域
302 タイトルバー
303 メニュー領域
304 参照画像表示領域
305 フロート画像表示領域
306 自由度指定領域(自由度指定装置)
307 編集操作指定領域
308 計算および承認実行領域
309 サムネイル表示領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線治療を受ける患者を支持するベッドの位置決めを行うベッド位置決め装置において、
治療用の参照画像である第1画像を提供する第1画像情報と患者の患部を撮影した現在画像である第2画像を提供する第2画像情報を用いて前記ベッドの位置決めのためのベッド移動量を演算する演算装置と、
前記演算装置で演算されるベッド移動量の自由度を指定する自由度指定装置とを備えることを特徴とするベッド位置決め装置。
【請求項2】
請求項1記載のベッド位置決め装置において、
表示装置を更に備え、
前記自由度指定装置は、前記表示装置に前記ベッド移動量の自由度を入力するための自由度指定領域を表示する手段を有し、
前記演算装置は、前記自由度指定領域に自由度が入力されると、その自由度に応じて前記ベッド移動量を演算することを特徴とするベッド位置決め装置。
【請求項3】
請求項1記載のベッド位置決め装置において、
前記演算装置は、前記自由度指定装置により前記自由度が指定されると、その自由度に対応する座標変換式を用いて前記ベッドの位置決めのためのベッド移動量を演算することを特徴とするベッド位置決め装置。
【請求項4】
請求項1記載のベッド位置決め装置において、
前記演算装置は、前記第1画像情報および第2画像情報の少なくとも一方の画像情報として、CT画像情報からシミュレーションにより作成したX線透視画像情報を用い、それらの画像情報と前記自由度指定装置が指定する自由度に基づいて前記ベッドの位置決めのためのベッド移動量を演算することを特徴とするベッド位置決め装置。
【請求項5】
請求項1記載のベッド位置決め装置において、
前記演算装置は、前記第1画像情報として、CT画像情報からシミュレーションにより作成したX線透視画像情報を用い、前記第2画像情報として、X線画像撮影装置により撮影したX線透視画像情報を用い、それらの画像情報と前記自由度指定装置が指定する自由度に基づいて前記ベッドの位置決めのためのベッド移動量を演算することを特徴とするベッド位置決め装置。
【請求項6】
請求項1記載のベッド位置決め装置において、
前記演算装置は、前記第1画像情報および第2画像情報としてCT画像情報を用い、それらの画像情報と前記自由度指定装置が指定する自由度に基づいて前記ベッドの位置決めのためのベッド移動量を演算することを特徴とするベッド位置決め装置。
【請求項7】
請求項1記載のベッド位置決め装置において、
表示装置を更に備え、
前記演算装置は、前記表示装置に前記第1画像および第2画像を表示させ、これらの第1画像および第2画像上に入力又は設定された計算点の座標値を用いて前記ベッドの位置決めのためのベッド移動量を演算することを特徴とするベッド位置決め装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載のベッド位置決め装置と、
前記ベッド位置決め装置の演算装置が演算したベッド移動量に基づき前記ベッドの移動制御を行うベッド制御装置とを備えることを特徴とするベッド位置決めシステム。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項記載のベッド位置決め装置と、
前記ベッド位置決め装置の演算装置が演算したベッド移動量に基づき前記ベッドの移動制御を行うベッド制御装置を有し、前記ベッドに支持される患者に放射線としてX線又は粒子線を照射する放射線照射装置とを備えることを特徴とする放射線治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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