説明

ベニコウジ色素可溶化製剤

【課題】油脂食品を鮮明な赤色に着色することのできるベニコウジ色素製剤を提供する。
【解決手段】(A)色価が1000〜3000のベニコウジ色素粉末、(B)可溶化剤および(C)食用油脂からなることを特徴とするベニコウジ色素可溶化製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベニコウジ色素粉末を食用油脂に可溶化せしめたベニコウジ色素可溶化製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ベニコウジ色素は、Monascus属の糸状菌の培養生成物から抽出して得られる赤色色素であり、ハム、ソーセージ、蒲鉾、製菓などの食品の着色に用いられている。しかしながら、ベニコウジ色素は基本的に水溶性のため、例えばチョコレート、バター、マーガリンなどの油脂食品の着色には適していないという問題があった。
【0003】
この問題を解決する手段として、例えば紅麹色素抽出液35部、プロピレングリコール5部、グリセリン脂肪酸エステル60部、食用油脂30部を混合することにより得られるW/O型の紅麹色素の油溶性色素(特許文献1参照)などが提案されている。
【0004】
しかしながら、このようにして調製されたベニコウジ色素製剤により着色した油脂食品は、色調にくすみが見られるなどの問題があり、鮮明な赤色に着色されているとは言い難いものであった。このため、油脂食品を鮮明な赤色に着色し得るベニコウジ色素製剤が求められている。
【0005】
【特許文献1】特開昭60−75256号公報(実施例1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、油脂食品を鮮明な赤色に着色することのできるベニコウジ色素製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、高色価のベニコウジ色素粉末を食用油脂に可溶化して得られる色素製剤が、油脂食品を鮮明な赤色に着色可能であることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は、(A)色価が1000〜3000のベニコウジ色素粉末、(B)可溶化剤および(C)食用油脂からなることを特徴とするベニコウジ色素可溶化製剤、からなっている。
【発明の効果】
【0008】
本発明のベニコウジ色素可溶化製剤を利用することにより、ホワイトチョコレートを鮮明な赤色に着色することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係るベニコウジ色素は、ベニコウジ菌(例えば、Monascus pilosusまたはMonascus purpureusなどの糸状菌)の培養生成物から抽出して得られる水溶性の赤色色素であり、その主成分はモナスコルブリン類、アンカフラビン類などである。
【0010】
本発明に用いられるベニコウジ色素粉末としては、上記主成分を含む粉末であって、色価が約1000〜3000のものが好ましく、色価約1000〜2000のものがより好ましい。色価が3000以上であると、一般に入手困難であるため好ましくなく、色価が1000未満であると、本発明の製剤の製造においてベニコウジ色素の可溶化が困難になる傾向にあり好ましくない。なお、可溶化が困難になる原因としては、ベニコウジ色素粉末に含有される賦形剤(例えば、デキストリン)の影響などが考えられる。
【0011】
このようなベニコウジ色素粉末の製造方法に特に制限はなく、自体公知の方法により製造することができる。その好ましい製造方法としては、例えば、アルコール/水混合液を抽出溶媒として培養生成物からベニコウジ色素を抽出し、得られた水性のベニコウジ色素溶液を濃縮し、さらに濃縮液を真空凍結乾燥し、得られた乾燥物を微粉砕してベニコウジ色素粉末を得る方法などが挙げられる。本発明に用いられるベニコウジ色素粉末としては例えばリケカラーR−2000(P)(商品名;色価2000;理研ビタミン社製)などが商業的に製造・販売されており、本発明ではこれを用いることができる。
【0012】
尚、本発明で言うところの色価は、『第8版 食品添加物公定書』に記載の「17.色価測定法」に準じて測定される。この測定では、溶媒として水/エタノール混液(容積比1:1)が用いられ、また測定波長は480〜520nmの極大吸収部である。
【0013】
本発明に用いられる可溶化剤としては、上記ベニコウジ色素粉末を食用油脂に可溶化し得るものであればよく、例えばジグリセリン不飽和脂肪酸エステルなどが挙げられる。なお、ジグリセリン不飽和脂肪酸エステルは単独で用いても、またポリグリセリン縮合リシノール酸エステルと併用して用いてもよい。
【0014】
上記ジグリセリン不飽和脂肪酸エステルは、ジグリセリンと不飽和脂肪酸とのエステル化生成物であり、エステル化反応など自体公知の方法で製造される。該ジグリセリンとしては、グリセリンの平均重合度が約1.5〜2.4、好ましくは平均重合度が約2.0のものが挙げられる。該不飽和脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、リノール酸およびα−リノレン酸の群から選ばれる一種または二種以上の脂肪酸の混合物が挙げられ、とりわけオレイン酸を約50質量%以上、より好ましくは約70質量%以上含有する脂肪酸混合物が好ましい。また、該ジグリセリン不飽和脂肪酸エステルは、例えば流下薄膜式分子蒸留装置または遠心式分子蒸留装置などを用いて分子蒸留するか、またはカラムクロマトグラフィーもしくは液液抽出など自体公知の方法を用いて精製することにより、モノエステル体の含量を50%以上に高めたものが好ましい。
【0015】
ジグリセリン不飽和脂肪酸エステルとしては、例えばポエムDO−100V(商品名;理研ビタミン社製)などが商業的に製造・販売されており、本発明ではこれを用いることができる。
【0016】
上記ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルは、ポリグリセリンと縮合リシノール酸とのエステル化生成物であり、自体公知のエステル化反応等により製造される。該ポリグリセリンとしては、平均重合度が約2〜15程度のものが挙げられる。好ましくは平均重合度が約3〜10程度のものである。具体的には、例えば、トリグリセリン、テトラグリセリン又はヘキサグリセリン等が好ましく挙げられる。該縮合リシノール酸はリシノール酸を加熱し、重縮合反応させて得られる混合物である。該縮合リシノール酸としては、平均重合度が約2〜10程度のものが挙げられる。好ましくは平均重合度が約3〜6程度のものである。
【0017】
ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルとしては、例えばサンソフト818H(商品名;太陽化学社製)、SYグリスターCRS−75(商品名;阪本薬品工業社製)、SYグリスターCR−ED(商品名;阪本薬品工業社製)、SYグリスターCR−310(商品名;阪本薬品工業社製)、SYグリスターCR−500(商品名;阪本薬品工業社製)、Palsgaard 4110(商品名;パルスガード社製)、Palsgaard 4150(商品名;パルスガード社製)、ポエムPR−100(商品名;理研ビタミン社製)、ポエムPR−300(商品名;理研ビタミン社製)などが商業的に製造・販売されており、本発明ではこれを用いることができる。
【0018】
本発明で用いられる食用油脂としては、食用可能な油脂であれば特に制限はないが、例えばオリーブ油、ごま油、こめ油、サフラワー油、大豆油、とうもろこし油、菜種油、パーム油、パームオレイン、パーム核油、ひまわり油、ぶどう油、綿実油、やし油、落花生油などの植物油脂が好ましく、これら食用油脂の中でも菜種油が特に好ましい。本発明においては、これらの食用油脂を一種類で用いても良いし、二種類以上を任意に組み合わせて用いても良い。
【0019】
本発明のベニコウジ色素可溶化製剤の製造方法は特に限定されず、自体公知の方法を用いることができる。以下に、好ましいベニコウジ色素可溶化製剤の製造方法を例示する。
【0020】
例えば、食用油脂および可溶化剤を約60〜90℃に加熱して攪拌・混合して混合物を得、該混合物にベニコウジ色素粉末を加えて攪拌機を用いて約60〜90℃で攪拌し、ベニコウジ色素製剤を得る。攪拌機の操作条件としては、例えば実験室用の小型機では、回転数約200〜5000rpm、攪拌時間約15〜120分間を例示できる。
【0021】
上記ベニコウジ色素製剤が可溶化製剤であることは、該製剤を菜種油で希釈し試験管に入れて目視で観察した場合に、試験管内の希釈液が澄明なものであることにより確認できる。
【0022】
本発明のベニコウジ色素可溶化製剤100質量%中のベニコウジ色素粉末、可溶化剤および食用油脂の含有量に特に制限はないが、例えばベニコウジ色素粉末が通常約0.01〜10質量%、好ましくは約0.1〜5質量%、可溶化剤が通常約5〜60質量%、好ましくは好ましくは約10〜50質量%、残余が食用油脂となるように調整するのが好ましい。
【0023】
本発明のベニコウジ色素可溶化製剤中には、本発明の目的・効果を阻害しない範囲で、例えば、酸化防止剤(例えば、抽出トコフェロール、アスコルビン酸パルミチン酸エステルなど)などを添加してもよい。
【0024】
本発明のベニコウジ色素可溶化製剤は、例えばマーガリン、ショートニング、チョコレート、トーストスプレッド、ピーナツバター等の油脂食品の着色に用いることができ、とりわけチョコレートの着色に好適に用いることができる。
【0025】
本発明のベニコウジ色素可溶化製剤を用いて油脂食品を着色する方法に特に制限はなく、自体公知の方法により実施することができる。本発明のベニコウジ色素可溶化製剤の油脂食品に対する添加量は、その色価や油脂食品の種類などにより異なるが、油脂食品100質量%中の含有量が、通常約0.01〜3.0質量%、好ましくは約0.02〜1.0質量%となるように添加することが好ましい。
【実施例】
【0026】
以下に本発明を実施例に基づいて、より具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
[実施例1]
1L容ガラス製ビーカーに菜種油(岡村製油社製)290gおよびジグリセリン脂肪酸エステル(製品名:ポエムDO−100V;理研ビタミン社製)200gを入れて80℃に加温する。該ビーカーの内容物をスリーワンモーター(型式:FBL−600;HEIDON社製、5cm径4枚羽根型攪拌翼2段装着)を用いて700rpmで攪拌しながら該混合物にベニコウジ色素粉末(商品名:リケカラーR−2000(P);色価2000;理研ビタミン社製)10gを加えてさらに約1時間攪拌し、ベニコウジ色素可溶化製剤(実施品1)を得た。該製剤を菜種油で約500倍に希釈して試験管(φ18×180mm)に入れ目視で観察した結果、該試験管内の希釈液は澄明であった。
【0028】
[実施例2]
1L容ガラス製ビーカーに菜種油(岡村製油社製)340g、ジグリセリン脂肪酸エステル(製品名:ポエムDO−100V;理研ビタミン社製)100gおよびポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(製品名:ポエムPR−300;理研ビタミン社製)50gを入れて80℃に加温する。該ビーカーの内容物を攪拌機(スリーワンモーターFBL−600;HEIDON社製;5cm径4枚羽根型攪拌翼2段装着)を用いて700rpmで攪拌しながら該混合物にベニコウジ色素粉末(商品名:リケカラーR−2000(P);色価2000;理研ビタミン社製)10gを加えてさらに約1時間攪拌し、ベニコウジ色素可溶化製剤(実施品2)を得た。該製剤を菜種油で約500倍に希釈して試験管(φ18×180mm)に入れ目視で観察した結果、該試験管内の希釈液は澄明であった。
【0029】
[比較例1]
1L容ガラス製ビーカーに菜種油(岡村製油社製)290gおよびジグリセリン脂肪酸エステル(製品名:ポエムDO−100V;理研ビタミン社製)200gを入れて80℃に加温する。該ビーカーの内容物を攪拌機(スリーワンモーターFBL−600:HEIDON社、5cm径4枚羽根型攪拌翼2段装着)を用いて700rpmで攪拌しながら該混合物にベニコウジ色素粉末(商品名:リケカラーR−1000(P);色価200;理研ビタミン社製)10gを加えてさらに約1時間攪拌し、ベニコウジ色素可溶化製剤(比較品1)を得た。該製剤を菜種油で約50倍に希釈して試験管(φ18×180mm)に入れ目視で観察した結果、該試験管内の希釈液は澄明ではなかった。
【0030】
[比較例2]
1)1L容ガラス製ビーカーに菜種油(岡村製油社製)200gおよびポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(製品名:ポエムPR−300;理研ビタミン社製)100gを入れて60℃に加温して油相とした。
2)1L容ガラス製ビーカーに70%Dのソルビトール液(サンエイ糖化社製)150g、水40g、ベニコウジ色素粉末(商品名:リケカラーR−2000(P);色価2000;理研ビタミン社製)を加え混合した。該混合物を攪拌して均一に分散した後約60℃に加温して水相とした。
3)TKホモミクサー(型式:MARK II;プライミクス社製)で低速で撹拌しながら、上記1)の油相に上記1)の水相を徐々に加え、その後8000rpmで30分間攪拌・乳化し、油中水型のベニコウジ色素乳化製剤(比較品2)を得た。
【0031】
[比較例3]
ベニコウジ色素粉末(商品名:リケカラーR−2000(P);色価2000;理研ビタミン社製)を粉砕機(製品名:ジェットミル;型式:KJ−25;栗本鉄工所社製)を用いて粉砕し、平均粒子径5.3μmの微粉末であるベニコウジ色素製剤(比較品3)を得た。
【0032】
[試験例]
(1)チョコレートの着色
ホワイトチョコレート(商品名:ホワイトチョコレート コポー;大東カカオ社製)100gをステンレス製の容器に入れて45℃に加温した。加温されたホワイトチョコレートに上記実施例および比較例で得た製剤(実施品1および2並びに比較品1〜3)1gを各々添加して、均一に攪拌・混合した。得られた混合物を26℃まで冷却した後、28℃まで加温して型に流し込んだ。型に流し込んだ混合物を5℃で冷却・固化して型から取り外し、着色チョコレート1〜5を得た。
【0033】
(2)着色チョコレートの評価
着色チョコレート1〜5の表面を目視により観察し、その色調を評価した。結果を1に示した。
【0034】
【表1】

【0035】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜2のベニコウジ色素可溶化製剤(実施品1および2)で着色したチョコレートは、いずれも鮮明な赤色を呈していた。これに対し、比較例1〜3の色素製剤(比較品1〜3)で着色したチョコレートは、鮮明な赤色を呈しているとは言えないものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)色価が1000〜3000のベニコウジ色素粉末、(B)可溶化剤および(C)食用油脂からなることを特徴とするベニコウジ色素可溶化製剤。