説明

ベニバナ細片入り模様紙及びその製造方法

【課題】 ベニバナ花弁由来の鮮やかな赤色細片が模様形成体として抄き込まれていて、かつ、抄き込み模様紙の地色も同色系の色調である装飾的に優れた模様紙を提供する。
【解決手段】 ベニバナ細片を模様形成体として紙中に分散担持せしめた模様紙であって、CIE色度a*値が4〜30の範囲にあり、b*≧0で、且つ(b*−10)/a*≦0.5であることを特徴とする模様紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベニバナの花弁を断裁、粉砕、分散、叩解等により細片化してパルプスラリー中に添加し抄紙して製造されている、該ベニバナ細片を模様形成体とした模様紙に関する。この模様紙は包装用紙、包装用袋、段ボールシート材、ノートや書籍の表紙、裏表紙、カタログ、封筒、印刷用紙などに使用される。
【背景技術】
【0002】
従来、模様紙の製造方法としては、染色による方法、種々の型付けによる方法、特殊形状物又は着色物質を抄き込む方法、特殊な抄紙技術を応用した方法など多くの方法が知られている。特にパルプスラリー中に特殊形状物又は着色物質を添加して模様を形成する、抄き込みは紙に特殊な外観を付与する方法として有効であるため、多数の方法が提案されている。
【0003】
このような抄き込み紙としては、パルプ蒸解工程で発生するノット粕を粉砕して模様としたもの(特許文献1)、綿実殻を粉砕して紙に抄き込んだもの(特許文献2)、木材や籾殻の粉砕物を利用したもの(特許文献3)、コーヒー粕添加で模様となすもの(特許文献4)、各種植物の茎、葉、種実、殻、皮、繊維など添加で模様となすもの(特許文献5)等が知られている。
【0004】
紙に装飾的な外観を付与するため、パルプスラリー中に花弁を断裁もしくは粉砕したものを添加し、これを模様形成体として抄き込んだ模様紙としては、和紙原料中に植物の花、茎、葉を荒挽きにした付加材料を加えてすき合わせた和紙(特許文献6)も提案されている。
【0005】
模様形成体として植物の花を使用した抄き込み紙は、花弁が有する鮮やかな色彩の模様が付与されるため、外観に優れた模様紙を得ることができる。また、模様紙の地色の部分は花弁に含有される色素によって着色されて、模様紙が地色を帯びることにより、さらに外観の優れた模様紙を得ることができる。
しかしながら、模様形成体に使用する花の種類によっては、花弁に含有される色素による着色の効果は必ずしも好ましいものではなく、目的とする好ましい色調の地色の模様紙とする事ができないものがあった。
【0006】
特に、ベニバナの花弁を断裁もしくは粉砕した小片を用いて抄き込みの模様紙を製造すると、ベニバナの花弁は鮮やかな赤色の模様形成体として抄き込まれるが、抄き込み模様紙の地色は黄色味を帯びた色調となり、模様形成体の色と模様紙の地色がちぐはぐなものとなるため、装飾的に優れた模様紙を得ることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭53−45412号公報
【特許文献2】特開昭62−125099号公報
【特許文献3】特開昭64−61597号公報
【特許文献4】特開平4−82999号公報
【特許文献5】特開平6−235198公報
【特許文献6】特開平11−323784公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、鮮やかな赤色のベニバナの花弁由来のベニバナ細片が模様形成体として抄き込まれていて、かつ、抄き込み模様紙の地色も同色系の赤色調となっている装飾的に優れた模様紙を提供することを目的とするものである。また、ベニバナ花弁由来のベニバナ細片を添加したパルプスラリーから、一般的な抄紙工程を利用して上記のような装飾的に優れた模様紙を抄紙することができる方法を提供することを目的とするものである。
さらに、製紙産業に未利用の植物資源であり、産業廃棄物として処理されているベニバナ粕を紙構成物の一部として利用することを可能ならしめることにより環境保全及び省資源対策に寄与することをも目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ベニバナ花弁、紅花(コウカ)、ベニバナ花弁から黄色色素を抽出した抽出残渣(ベニバナ粕)等を解した小片から黄色色素が除去されている状態の細片(本発明では「ベニバナ細片」とも称する)を含有するパルプスラリーを抄紙することにより、鮮やかな赤色を呈するベニバナ細片が模様形成体として散在しているとともに、該ベニバナ細片の赤色色素による同色系の地色を有する装飾的に極めて優れた模様紙を得ることができることを見出し、以下の発明を完成するに至った。
【0010】
(1)ベニバナ細片を模様形成体として紙中に分散担持せしめた模様紙であって、CIE色度a*値が4〜30の範囲にあり、b*≧0且つ(b*−10)/a*≦0.5であることを特徴とする模様紙。
【0011】
(2)前記ベニバナ細片の担持量が、乾燥質量として0.5〜50質量%であることを特徴とする(1)項に記載の模様紙。
【0012】
(3)前記ベニバナ細片が、ベニバナ花弁、紅花及びベニバナから黄色色素を抽出した抽出残渣から選ばれる少なくとも1種を細分化したベニバナ小片を叩解して調製したベニバナ細片であることを特徴とする(1)項又は(2)項に記載の模様紙。
【0013】
(4)模様紙に含まれる色素がベニバナ由来の色素のみであることを特徴とする(1)項〜(3)項のいずれか1項に記載の模様紙。
【0014】
(5)ベニバナ細片をパルプスラリー中に混合して調製した混合パルプスラリーを脱水濃縮して濃縮スラリーとし、該濃縮スラリーを使用して抄紙用パルプスラリーを調成し、抄紙した紙よりなることを特徴とする(1)項〜(4)項のいずれか1項に記載の模様紙。
【0015】
(6)前記脱水濃縮前の混合パルプスラリーが、ベニバナ小片を添加したパルプスラリーをリファイナーで叩解処理した混合パルプスラリーであることを特徴とする(5)項に記載の模様紙。
【0016】
(7)前記脱水濃縮される前の混合パルプスラリー濃度に対する、脱水濃縮後の濃縮スラリーの濃度の比が5〜20倍であることを特徴とする(5)項又は(6)項に記載の模様紙。
【0017】
(8)前記(1)項〜(7)項のいずれか1項に記載された模様紙を製造する方法であって、
(A)ベニバナ花弁、紅花及びベニバナから黄色色素を抽出した抽出残渣から選ばれる少なくとも1種を解したベニバナ小片をパルプスラリーに添加して混合パルプスラリーを調成する工程、
(B)混合パルプスラリーをリファイナーで叩解する工程、
(C)リファイナーで叩解された混合パルプスラリーを脱水濃縮する工程、
(D)脱水濃縮された混合スラリーに水を加えて希釈し、抄紙用混合パルプスラリーを調成する工程
(E)上記抄紙用混合パルプスラリーを抄紙する工程
を上記の順序で有することを特徴とする模様紙の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、鮮やかな赤色のベニバナ細片が模様形成体として抄き込まれていて、かつ、抄き込み模様紙の地色も同色系の色調となっている、
CIE色度a*値が4〜30の範囲にあり、
b*≧0であり、且つ、
(b*−10)/a*≦0.5である、
という条件を満たしている装飾的効果に優れた模様紙が提供される。
【0019】
また、一般的な抄紙工程を利用して上記のような装飾的効果に優れた模様紙を抄紙することができる方法が提供される。
さらに、製紙産業に未利用の植物資源であり、産業廃棄物として処理されているベニバナ粕を利用することができるので、環境保全及び省資源に寄与する模様紙である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の模様紙は、ベニバナ花弁、紅花(コウカ)、ベニバナ花弁から黄色色素を採取した残渣(ベニバナ粕)等から調製されているベニバナ由来の赤色細片を模様形成体として紙中に多数分散担持していることにより、赤色系の地色の紙中に鮮やかな赤い色彩の模様が形成されている模様紙である。
【0021】
ベニバナ(Carthamus tinctorius L.)はキク科の2年草木で、7月中旬にアザミ状の鮮黄色の花をつける。この花弁を摘み取り、乾燥、或いはすり潰して発酵させたものは鮮やかな紅色を呈し、紅花(コウカ)として古くから漢方薬や高級染料として珍重されてきている。花弁中に含まれている色素としては水溶性の黄色色素(サフラワーイエローA、サフラワーイエローB、サフラワーイエローCの各成分から成る)が約99%で難溶性の赤色色素(カルタミン)は約1%の含有量に過ぎない。
【0022】
ベニバナの黄色色素は、すでに食品用色素、化粧品関連色素、医薬品などの広い分野で利用されている。黄色色素は、ベニバナの乾燥花弁から水、エタノールあるいはそれらの混合物によって色素を抽出し、不溶成分を除去した後、濃縮あるいは乾燥助剤を添加して粉末化するという工程で抽出、使用される。黄色色素を抽出した残渣(ベニバナ粕)には難溶性の赤色色素(カルタミン)が含まれている。
【0023】
ベニバナ花弁の赤色色素はアルカリ条件下、水で抽出し、溶出してきた赤色色素をセルロースに吸着するなどの工程を経て製造される。しかしながら、黄色色素を抽出した抽出残渣の殆どの部分は、さらにそこから赤色色素を抽出することをせずに産業廃棄物として焼却処理されているか、あるいは埋め立て処理されているのが実情である。
【0024】
上記のように、ベニバナ花弁に多量に含まれている水溶性黄色色素は、ベニバナ花弁の加工物である紅花(コウカ)のみならず、黄色色素を採取した残渣であるベニバナ粕中にも含まれており、それらを赤色模様形成体としてそのままパルプと混合して抄紙した模様紙は地色が黄色味を帯びたものとなる。本発明の模様紙は、ベニバナ花弁、紅花及びベニバナ粕のそれぞれに含まれる黄色色素を除去した鮮やかな紅色の細片を模様形成体としてのみならず、模様紙の地色形成体としても利用することにより、模様形成体であるベニバナ細片の鮮やかな紅色に調和した赤味のある地色を有している、優れた装飾的効果を奏する模様紙である。
【0025】
本発明の模様紙においては、CIE色度値のa*値及びb*値が特定の数値範囲であることが重要な要件である。b*/a*は、CIEのa*b*色度座標上における傾きであり、赤味に対する黄色味の強さを比率で表す色調を意味する。本発明者らは、鮮やかな紅色のベニバナ細片よりなる模様形成体の色調に調和した赤味のある地色の模様紙のCIE色度値のa*値及びb*値について検討し、〔(b*−10)/a*〕の値が0.5以下であると模様紙の地色は好ましい赤味の色調となり、鮮やかな紅色のベニバナ細片の色調と調和して、優れた美的、装飾的効果を奏する模様紙となることを見出し、本発明をなしたものである。
【0026】
上記CIE色度値の場合、a*が正で値が大きいほど濃い赤味であることを示す。本発明で使用する鮮やかな紅色のベニバナ細片を模様形成体として含有する模様紙の場合、前記a*が4未満では模様紙としての地色が薄すぎて装飾的効果が劣るし、a*が30を越えると赤味が濃くなりすぎて模様形成体であるベニバナ細片の色彩との差が小さくなって装飾的効果が劣る。
b*は正で値が大きいほど濃い黄色味であり、負で値が大きいほど濃い青味であることを示す。本発明のベニバナ細片を模様形成体として含有する模様紙の場合、b*が負であるとベニバナ細片の色調と模様紙の地色が不調和であるため美的、装飾的に好ましいものとはならない。また、〔(b*−10)/a*〕の値が0.5よりも大きいと黄色味の比率が大きくなるため、鮮やかな紅色のベニバナ細片の色調との調和が悪く、美的、装飾的効果が劣る。
【0027】
以上のことから、鮮やかな紅色のベニバナ細片を模様形成体とし、その色彩に調和した赤味のある地色を有している、美的、装飾的に優れている模様紙とするためには、模様紙のCIE色度値のa*値及びb*値が下記<式1>、<式2>及び<式1>の全ての条件を満たす数値であることが重要である。
【0028】
<式1>
4≦a*≦30

<式2>
b*≧0

<式3>
〔(b*−10)/a*〕≦0.5

【0029】
模様紙のCIE色度値a*及びb*は、JIS P8150:2004によるC光源2°視野で測定されるCIE LAB色空間における模様紙のLAB座標のa*値及びb*値であり、たとえば分光白色度測色計 型式SC−10WN(スガ試験機株式会社製)により測定することができる。
【0030】
本発明の模様紙は、鮮やかな赤色の不定形ベニバナ細片が同色系の赤味を帯びた地色中にちりばめられている装飾的効果に優れた紙面を有する模様紙であり、包装用や工作用、カード用など、美的で装飾的に優れている紙面であることが求められる種々の用途に使用することができる。抄紙用紙料中のパルプに対するベニバナ細片の添加率やベニバナ細片の大きさに変化をもたせることにより、ベニバナ細片によって形成される模様紙表面状態を希望する美的、装飾的に優れた模様面とすることができる。
なお、ベニバナ細片のような模様形成体はパルプ繊維との絡み合いや水素結合などの紙力発現機能が乏しく、添加率の増加に伴い紙力は低下する傾向があり、用途によっては、模様紙をさらに加工する際に、断紙やベニバナ細片の脱落などを生ずる場合があるので、その添加率は用途に応じて調節される。
【0031】
本発明の模様紙においては、パルプ及びベニバナ細片を混合した混合パルプ中におけるベニバナ細片の含有率が乾燥質量として0.5質量%未満の場合は模様紙としての訴求効果が乏しいし、50質量%を超えると模様部分が多すぎて紙面の美的、装飾的な効果が低下するだけでなく、紙力が低下する傾向があることから、0.5質量%〜50質量%の範囲であることが好ましい。
【0032】
また、前記したように、模様紙の用途によっては、上記ベニバナ細片の添加率の範囲であっても、加工中に断紙やベニバナ細片の脱落などのトラブルが発生する場合があるので、その防止のために必要な範囲で、各種の紙力増強剤、澱粉、ポリビニルアルコールなどを内添したり、サイズプレスなどの方法による樹脂コート等の処理を行うこともできる。
【0033】
本発明の模様紙は、特に合成の色素などを添加しなくても模様形成体に使用するベニバナ細片に含まれている天然色素のみで紙の地色を赤味のある色調となすことができるので、人体に対する安全性の点からも優れた模様紙である。
【0034】
本発明の模様紙に模様形成体として使用するベニバナ花弁、紅花(コウカ)及びベニバナ花弁から黄色色素を抽出した抽出残渣であるベニバナ粕は、それらを解ぐして断裁するか粉砕する等により細分化したものを使用する。ベニバナを模様紙の材料として利用することは製紙産業おいて未利用の植物資源の新規用途の開発であり、特に、殆どが産業廃棄物として処理されているベニバナ粕を利用できることは環境保全及び省資源の目的に適う点からも好ましい。なお、ベニバナ粕には水分が多く含まれていて黴の発生や腐敗の虞があるため、必要に応じて防黴剤、防腐剤等を添加して使用することもできる。
【0035】
ベニバナに含有される黄色色素は水溶性であるため、この黄色色素を多量に含有するベニバナ花弁や紅花(コウカ)などを使用する場合は、それらを断裁もしくは粉砕して小片とした後、大量の水で洗浄するなどの処理を施して黄色色素を溶出させて取り除くことが必要である。また、抽出残渣であるベニバナ粕中にも、僅かながら黄色色素が含まれていて、形成された模様紙の地色が許容範囲を超えて黄色味を帯びる原因となる場合があるので、ベニバナ粕を使用する場合も不要の黄色色素を取り除くことが有効である。
【0036】
ベニバナ花弁、紅花、ベニバナ粕等は、前記したように小片とされ、黄色色素を除去する処理が施された状態で使用されるが、本発明の模様紙の場合は、上記のような小片とした状態では模様形成体として大きすぎるものを多く含むので、さらに叩解処理することによって細分化した「ベニバナ細片」とすることが必要となる場合が多い。
【0037】
叩解処理等によって調節される模様形成体としてのベニバナ細片のサイズは、そのベニバナ細片を使用して、CIE色度値のa*値及びb*値が前記式<式1>、<式2>及び<式1>の全ての条件を満たす模様紙を形成できる限り特に制限はなく、希望する模様が形成されるような種々のサイズの細片が含まれるように調製して使用することができる。しかし、前記したように、ベニバナ細片のような模様形成体はパルプ繊維との絡み合いや水素結合などの紙力発現機能が乏しく、用途によっては、模様紙をさらに加工する際に、断紙やベニバナ細片の脱落などを生ずる場合があるので、そのような支障が生じる原因となり得るような大きさの細片が多量に含まれることのないように調整することが好ましい。
【0038】
ベニバナ花弁、紅花、ベニバナ粕等を断裁したり、粉砕して調製される小片をさらに細分化するためには、例えばリファイナーなどのパルプの前処理装置を用いてベニバナの花弁、紅花、ベニバナ粕等の小片を叩解する方法を適用することができる。叩解は、ベニバナの花弁、紅花、ベニバナ粕等を断裁もしくは粉砕した小片に水を加えてスラリー化した状態で行うこともできるが、小片をパルプスラリーに添加して混合スラリーとした状態で叩解を行うこともできる。抄紙用の紙料とするために、ベニバナ細片とパルプとの混合スラリーを調成する場合、紙料に用いるパルプ全量を含有するスラリーにベニバナ細片を添加混合して叩解することもできるし、紙料に用いるパルプの一部にベニバナ細片を添加混合して叩解し、紙料調成時に、別途叩解した残りのパルプを混合することもできる。
【0039】
前記したように、ベニバナ花弁、紅花、ベニバナ粕等の小片には、本発明の模様紙における地色を赤色系とすることを妨げる黄色色素が無視できない量で含まれている。含まれている黄色色素は、これらの小片を大量の水で洗浄して水溶性である黄色色素を溶出除去することができる。
本発明によれば、これらの黄色色素の除去を、上記したようなベニバナの花弁、紅花、ベニバナ粕等の小片に水を加えてスラリー化した状態で行う叩解処理時に同時に行うこともできる。また、後記するように、原料パルプスラリーを叩解して抄紙用の紙料を調成する段階で、該小片を原料パルプスラリー中に添加、混合した状態で叩解し、叩解したスラリーを脱水濃縮し、濃縮スラリーを希釈して紙料を調成し、抄紙するという、一連の抄紙工程における前記叩解したスラリーを脱水濃縮する段階で白水中に溶解した状態でスラリーから除くこともできる。
【0040】
上記のように黄色色素が除かれたベニバナ細片には難溶性の赤色色素(カルタミン)が残り、これがパルプに吸着される。本発明は、ベニバナ花弁や紅花(コウカ)、ベニバナから黄色色素を抽出した抽出残渣(ベニバナ粕)等のベニバナ細片を模様形成体として使用して、これらに含まれる赤色色素を模様紙の地色形成に利用することにより、鮮やかな紅色の模様形成体の色彩に調和した赤味のある地色を有する美麗な模様紙を形成し得たものである。
【0041】
本発明の模様紙に使用するパルプとしては、木綿、麻、亜麻、ケナフなどの非木材を原料とする非木材パルプや木材パルプを適宜選択することができるが、特に木材パルプは工業的に製紙原料として多く用いられていて入手し易いので好ましい。木材パルプは針葉樹や広葉樹の木材を物理的な力によって破砕してパルプ化した機械パルプと、木材を化学的な反応によってリグニンを分離してパルプ化した化学パルプに分類される。化学パルプはさらにその製造工程の違いによりクラフトパルプ(KP)、サルファイドパルプ(SP)、アルカリパルプ(AP)等に分類され、現在ではクラフトパルプが最も一般的である。
【0042】
化学パルプを構成するセルロース繊維からリグニンなどの着色成分を取り除いた漂白化学パルプは、ベニバナ細片の僅かな色素により美しい赤味のある色調に着色され易いため好ましく用いられる。本発明の模様紙に使用されるパルプとしては、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)及び広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)を単独あるいは混合して使用することが好ましい。
【0043】
パルプは、水を加えてパルプスラリーとし、ビーターやリファイナーを用いてパルプを叩解し、繊維を切断、水和、交絡させて抄紙に適した目的の濾水度に調節して用いられる。
パルプの叩解の程度は、使用する叩解装置や叩解されるパルプの材種、パルプの製造方法、濾水度等の目的とするパルプ性状などにより適宜調節することができる。特に限定するものではないが、本発明の模様紙においては、叩解時のパルプ濃度は0.3〜10質量%の範囲が一般的であり、好ましくは0.5〜5.0質量%の範囲で調節される。
本発明の模様紙に用いられるパルプの濾水度としては、特に限定するものではないが、カナディアンスタンダードフリーネスとして、250〜750ml(CSF)程度である。
【0044】
上記パルプスラリーは、ベニバナ細片との混合スラリーとして使用される。ベニバナ細片との混合スラリーとする場合は、前記したように、抄紙用紙料にそのまま用いる程度に叩解されているパルプスラリーに、別に単独で調成されているベニバナ細片を添加混合して混合スラリーとすることや、紙料に用いるパルプ全量と必要量のベニバナの小片とを混合した状態で叩解して混合スラリーとすることができる。また、紙料に用いるパルプ全量の一部量と必要量のベニバナの小片とを混合して叩解した混合スラリーに、残りの量の叩解パルプを添加して調成した混合スラリーを使用することもでき、このような混合スラリーの調成方法は紙料の性状を制御し易いことから好ましい。
【0045】
ベニバナ細片とパルプとを混合して混合パルプスラリーとし、該混合パルプスラリーを叩解して紙料に使用する場合には、所定の叩解処理を行った混合パルプスラリーを脱水濃縮して溶出した黄色色素を除去するが、このようなパルプスラリーの脱水濃縮は、抄紙機に付随する白水回収装置等を使用して行うこともできる。白水回収装置を用いてパルプスラリーから取り除かれた白水には黄色色素が含まれるので、再利用する場合は、大量の白水により充分に希釈することが必要である。回収される白水は、ベニバナの断裁片や粉砕片のみの叩解処理にはそのままでも使用可能である。
【0046】
本発明の製造方法で使用することのできる白水回収装置としては、バルブレスフィルター、サクションフィルター、ディスクフィルター、エキストラフィルター、ドラムフィルター等が知られている。
【0047】
前記したように、ベニバナの小片とパルプとを混合スラリーとして叩解した後、脱水濃縮することにより不要な水溶性の黄色色素を白水と共に取り除くという方法は、紙料調成においてパルプ濃度の調節を容易にすることができるので好ましい方法である。この場合、ベニバナ細片を含有する混合パルプスラリーの脱水濃縮される前の濃度に対する、脱水濃縮後の濃度の比率が5倍未満となるように脱水濃縮の比率を低くすると、混合パルプスラリー中に溶出した黄色色素が濃縮パルプスラリー中に多く残留することとなり、抄紙された模様紙の地色が黄色味を帯び易くなるし、一方、脱水後の濃縮パルプスラリー濃度を高く設定すると黄色色素の除去率は高くなるが脱水効率が落ちて経済的に不利となるので、上記脱水濃縮の好ましい比率としては5〜20倍程度である。
【0048】
本発明の模様紙は、包装用途や工作用、カード用など、美的な外観を要求される種々の用途に合わせた坪量とされる。特に限定するものではないが、模様紙の坪量としての数値は50〜300g/m程度の範囲に設定される。このような坪量の模様紙は、長網型抄紙機や丸網型抄紙機などを用いた公知の方式により一層或いは多層構造の紙に抄造される。
【0049】
本発明の模様紙は、単独のシートとしてそのまま使用したり、該シートに用途に応じた加工を施して使用することができるほか、たとえば、フルート処理を行って片面又は両面の段ボール紙とし、これに用途に応じた加工を施して使用することもできる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。各例中の「部」及び「%」は、「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0051】
実施例1
広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)72部、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)25部を水中に分散したパルプスラリーを、リファイナーを用いてカナディアンスタンダードフリーネス550ml(CSF)の叩解パルプスラリーを得た。
得られた叩解パルプスラリーに、ベニバナの花弁を小片に解して黄色色素を抽出した抽出残渣(ベニバナ粕)を、絶乾後の部数としてパルプ97部に対してベニバナ粕3部の比率になるように添加、混合して1.1%のスラリーとした後、バルブレスフィルターで13%のスラリーとなるように脱水濃縮した。
このパルプとベニバナ粕の細片の混合物を含有する脱水濃縮したスラリーに水を加えて0.5%のスラリーとしたものに、乾燥パルプ及びベニバナ粕の細片を合わせた100部に対して、カチオン化澱粉0.5部、エマルジョンサイズ剤0.5部、硫酸バンド2部、ポリアクリルアミド0.2部を添加して調成した紙料を用い、長網抄紙機により坪量115g/mとなるように抄紙して、地色が僅かに黄色味のある赤味の色調で、表裏全面に赤色のベニバナ粕の細片による斑点が散在する模様紙を得た。
【0052】
比較例1
実施例1と同様の叩解パルプスラリーに、実施例1と同様のベニバナ粕を、絶乾後の部数としてパルプ97部に対してベニバナ粕3部の比率になるように添加、混合して実施例1と同様の1.1%のパルプスラリーを得た。
この1.1%のスラリーを脱水濃縮することなくそのまま使用し、水を加えて0.5%としたものに、乾燥パルプ及びベニバナ粕の細片を合わせた100部に対して、カチオン化澱粉0.5部、エマルジョンサイズ剤0.5部、硫酸バンド2部、ポリアクリルアミド0.2部を添加して調成した紙料を用い、長網抄紙機により坪量115g/mとなるように抄紙して、地色が黄色味の色調で、表裏全面に赤色のベニバナ粕の細片による斑点が散在する模様紙を得た。
【0053】
比較例2
広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)72部、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)25部を水中に分散したパルプスラリーに、ベニバナの花弁から黄色色素を抽出したベニバナ粕を、絶乾後の部数としてパルプ97部に対してベニバナ粕3部の比率になるように添加、混合し、リファイナーを用いてカナディアンスタンダードフリーネス550ml(CSF)、スラリー濃度1.1%のベニバナ粕の細片混合叩解パルプスラリーを得た。
得られたベニバナ粕細片混合叩解パルプスラリーに水を加えて0.5%に希釈し、乾燥パルプ及びベニバナ粕の細片を合わせた100部に対して、カチオン化澱粉0.5部、エマルジョンサイズ剤0.5部、硫酸バンド2部、ポリアクリルアミド0.2部を添加して調成した紙料を用い、長網抄紙機により坪量115g/mとなるように抄紙して、地色は黄色味のある橙色で、表裏全面に赤色のベニバナ粕の細片による斑点が散在する模様紙を得た。
【0054】
実施例2
広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)72部、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)25部を水中に分散したパルプスラリーに、ベニバナの花弁を小片に解して黄色色素を抽出した抽出残渣(ベニバナ粕)を、絶乾後の部数としてパルプ97部に対してベニバナ粕3部の比率になるように添加、混合し、リファイナーを用いてカナディアンスタンダードフリーネス550ml(CSF)、スラリー濃度1.1%のベニバナ粕細片混合叩解パルプスラリーを得、バルブレスフィルターで13%のスラリーとなるように脱水した。
脱水したベニバナ粕細片混合叩解パルプに水を加えて0.5%のスラリーとしたものに、乾燥パルプ及びベニバナ粕細片を合わせた100部に対して、カチオン化澱粉0.5部、エマルジョンサイズ剤 0.5部、硫酸バンド2部、ポリアクリルアミド0.2部を添加して調成した紙料を用い、長網抄紙機により坪量115g/mとなるように抄紙して、地色が赤味の色調で、表裏全面に赤色のベニバナ粕の細片による斑点が散在する模様紙を得た。
【0055】
比較例3
広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)74.7部、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)25部を水中に分散したパルプスラリーに、ベニバナの花弁を小片に解してから黄色色素を抽出した抽出残渣(ベニバナ粕)を、絶乾後の部数としてパルプ99.7部に対してベニバナ粕0.3部の比率になるように添加、混合した以外は、実施例2と同様にして調成した紙料を用い、長網抄紙機により坪量115g/mとなるように抄紙して、地色が白っぽく、模様形成体の散在の少ない模様紙を得た。
【0056】
実施例3
広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)74.5部、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)25部を水中に分散したパルプスラリーに、ベニバナの花弁を小片に解してから黄色色素を抽出した抽出残渣(ベニバナ粕)を、絶乾後の部数としてパルプ99.5部に対してベニバナ粕0.5部の比率になるように添加、混合した以外は、実施例2と同様にして調成した紙料を用い、長網抄紙機により坪量115g/mとなるように抄紙して、地色は薄桃色で、表裏全面に赤色のベニバナ粕の細片による斑点が散在する模様紙を得た。
【0057】
実施例4
広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)74部、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)25部を水中に分散したパルプスラリーに、ベニバナの花弁を小片に解してから黄色色素を抽出した抽出残渣(ベニバナ粕)を、絶乾後の部数としてパルプ99部に対してベニバナ粕1部の比率になるように添加、混合した以外は、実施例2と同様にして調成した紙料を用い、長網抄紙機により坪量115g/mとなるように抄紙して、地色は赤味のある色調で、表裏全面に赤色のベニバナ粕の細片による斑点が散在する模様紙を得た。
【0058】
実施例5
広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)25部、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)25部を水中に分散したパルプスラリーに、ベニバナの花弁を小片に解してから黄色色素を抽出した抽出残渣(ベニバナ粕)を、絶乾後の部数としてパルプ50部に対してベニバナ粕50部の比率になるように添加、混合した以外は、実施例2と同様にして調成した紙料を用い、長網抄紙機により坪量115g/mとなるように抄紙して、地色は赤味のある色調で、表裏全面に赤色のベニバナ粕の細片による斑点が散在する模様紙を得た。
【0059】
比較例4
広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)20部、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)20部を水中に分散したパルプスラリーに、ベニバナの花弁を小片に解してから黄色色素を抽出した抽出残渣(ベニバナ粕)を、絶乾後の部数としてパルプ40部に対してベニバナ粕60部の比率になるように添加、混合した以外は、実施例2と同様にして調成した紙料を用い、長網抄紙機により坪量115g/mとなるように抄紙して、地色は濃い赤味のある色調で、表裏全面に赤色のベニバナ粕の小片が散在する模様紙を得た。
【0060】
各実施例及び各比較例の模様紙について、引張強度及びCIE色度を測定し、下記の基準で模様紙としての装飾的評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
<CIE色度>
JIS P8150:2004に準じ、C光源2°視野でCIE LAB値を測定し、そのa*値及びb*値を用いた。
測定装置は、スガ試験機株式会社製、分光白色度測色計 型式SC−10WNを使用した。
【0062】
<装飾的評価>
下記基準により、模様紙の外観を目視で評価した。
○:模様形成体と紙の地色が赤味のある同系の色調で優れた装飾性がある。
△:赤味のある地色が僅かに黄味がかっていているが装飾性には優れる。
×:紙の地色が黄味がかった色調で模様形成体の色調と違和感があるか、又は紙の地色が薄すぎるか、又は模様形成体の数が少なく、模様紙としての装飾性に劣る。
【0063】
<引張り強度>
JIS P8113:2006に準じて測定した。
測定装置は、熊谷理機工業株式会社製、型式 ショッパー型引張試験機(15kg)を使用した。
【0064】
【表1】




















【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベニバナ細片を模様形成体として紙中に分散担持せしめた模様紙であって、CIE色度a*値が4〜30の範囲にあり、b*≧0且つ(b*−10)/a*≦0.5であることを特徴とする模様紙。
【請求項2】
前記ベニバナ細片の担持量が、乾燥質量として0.5〜50質量%であることを特徴とする請求項1に記載の模様紙。
【請求項3】
前記ベニバナ細片が、ベニバナ花弁、紅花及びベニバナから黄色色素を抽出した抽出残渣から選ばれる少なくとも1種を細分化したベニバナ小片を叩解して調製したベニバナ細片であることを特徴とする請求項1又は2に記載の模様紙。
【請求項4】
模様紙に含まれる色素がベニバナ由来の色素のみであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の模様紙。
【請求項5】
ベニバナ細片をパルプスラリー中に混合して調製した混合パルプスラリーを脱水濃縮して濃縮スラリーとし、該濃縮スラリーを使用して抄紙用パルプスラリーを調成し、抄紙した紙よりなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の模様紙。
【請求項6】
前記脱水濃縮前の混合パルプスラリーが、ベニバナ小片を添加したパルプスラリーをリファイナーで叩解処理した混合パルプスラリーであることを特徴とする請求項5に記載の模様紙。
【請求項7】
前記脱水濃縮される前の混合パルプスラリー濃度に対する、脱水濃縮後の濃縮スラリーの濃度の比が5〜20倍であることを特徴とする請求項5又は6に記載の模様紙。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載された模様紙を製造する方法であって、
(A)ベニバナ花弁、紅花及びベニバナから黄色色素を抽出した抽出残渣から選ばれる少なくとも1種を解したベニバナ小片をパルプスラリーに添加して混合パルプスラリーを調成する工程、
(B)混合パルプスラリーをリファイナーで叩解する工程、
(C)リファイナーで叩解された混合パルプスラリーを脱水濃縮する工程、
(D)脱水濃縮された混合スラリーに水を加えて希釈し、抄紙用混合パルプスラリーを調成する工程
(E)上記抄紙用混合パルプスラリーを抄紙する工程
を上記の順序で有することを特徴とする模様紙の製造方法。


【公開番号】特開2012−172289(P2012−172289A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38049(P2011−38049)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 博覧会名:2010東京国際包装展 主催者名:社団法人日本包装技術協会 開催日: 平成22年10月5日〜8日
【出願人】(000129493)株式会社クラウン・パッケージ (21)
【出願人】(000191320)王子特殊紙株式会社 (79)
【Fターム(参考)】