説明

ベルト式ロール研磨装置

【課題】 ベルト搬送中にベルトがホイール軸方向に蛇行して位置ずれを起こし、このことによって派生する研削能力の低下、あるいは被研削、研磨面に生じる送りマークと呼ばれる研削状況の異なった条痕状領域の発生、さらには、平滑性などの研削面品質あるいは円筒度などの形状精度の低下を防ぐことのできる装置を提供すること。
【手段】 研削用ベルトがロール軸方向に位置ずれするのを防止するためのセンターリング用アライメントホイールを1個以上、被研磨ロールに面して平行に配設されるタッチホイールと、このタッチホイールから離間して平行に配設される駆動ホイールとの間のベルト移送経路上に配設したベルト式研磨装置。

【考案の詳細な説明】
【0001】
【考案の属する技術分野】
この考案は、ベルト式ロール研磨機に関し、特に金属ロールの表面やその表面に被覆した溶射皮膜などを研削, 研磨する装置についての提案である。とりわけ、本考案は、製紙工程で用いられるヤンキードライヤーの如き各種のロール表面を、現地に据えつけられた状態、あるいは旋盤などの工作機械上に搭載された状態のままで研削や研磨などの機械的加工を施すのに用いられるものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、各種の取付けロールの表面を加工、例えば研削あるいは研磨によって寸法, 形状あるいは粗さを調整するには、そのロールを装置から取り外し、研削盤などの工作機械を使って加工するのが普通である。
【0003】
最近、こうしたロールの表面加工を、装置から取り外すことなく据えつけたままで加工するための工作機械が開発されている。その代表的なものは、駆動および従動機能を有する2個のホイール間にエンドレスな研削用ベルトを所定の張力を付与して掛け渡し、その研削用ベルトの研削面側を、タッチホイール (コンタクトホイール) を介して被研削ロールの表面に押しつけて研削, 研磨する方法がある。こうした工作機械の代表的なものとしては、実開平2−74155 号公報に開示のものがある。
【0004】
上記従来装置は、比較的簡便な構成を有する工作機械ではあるが、次のような課題が残されていた。
■ この研磨装置は、エンドレスな研削用ベルトが被研磨ロール表面に対するせん断力に起因して位置ずれを起こすのを防止するため、該研削用ベルトに対して所要の大きさの張力を付与している。しかし、実作業時、張力過大などによるベルトの破断が生じることがある。
【0005】
■ 上記装置において、タッチホイールなどのホイールは、研削用ベルトを搬送すると同時にベルト自体を被研磨ロール表面に押しつける機能を具えていることから、ベルトとの接触面が必然的に平坦に形成してある。そのために、被研磨ロールと該ベルトの間に発生するせん断力 (ロールクラウン) によって、該ベルトが初期の装着位置からホイールの軸方向 (即ち、ロール軸方向) にずれることがある。これを軽減するためベルトとの接触面は一般に硬質ゴムなどの弾性体材料でライニングしており、さらにロール表面に対しアヤメ形の溝加工などを施すこととしているが、位置ずれ防止効果は必ずしも良いとは言えなかった。
もし、研削作業中に位置ずれが発生すると、被研磨ロールに対する研削接触面積が変化して研削効率の低下を招くこととなる。しかも、適当な時間が経過したときにロール研磨装置を停止させて研削用ベルトの装着状態の調整を行う必要があった。
【0006】
■ さらに、従来装置は、被研磨ロール面に送りマークと呼ばれる研削状況の異なった条痕状領域が発生することが多く、平滑性などの研削面品質あるいは円筒度などの形状精度が悪いという問題もあった。もし、こうした現象が発生すると、被研磨ロールと接触している他のロールの表面形状などを劣化させることがある。その上、条痕状領域の発生や平滑性などの表面形状の低下は、該ロール表面と直接接触する紙製品の地合いなどの表面品質にしばしば悪影響を及ぼすという問題点もあった。
【0007】
【考案が解決しようとする課題】
本考案において解決しようとする課題は、上述したような従来のベルト式ロール研磨装置が抱えている欠点、即ち、ベルト搬送中にベルトがホイール軸方向に蛇行して位置ずれを起こし、このことによって派生する研削能力の低下、あるいは被研削、研磨面に生じる送りマークと呼ばれる研削状況の異なった条痕状領域の発生、さらには、平滑性などの研削面品質あるいは円筒度などの形状精度の低下を防ぐことのできる装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上述した課題は、ベルト研磨機を以下のように構成することによって解決することができる。
すなわち、本考案は、被研磨ロールに面して平行に配設されるタッチホイールと、このタッチホイールから離間して平行に配設されるベルト駆動用駆動ホイールとを設け、これらのホイールの間にエンドレスなロール研削用ベルトを掛け渡し、このベルトの研削面を被研磨ロールの周面に押し当てて研磨するようにしたベルト式ロール研磨機において、前記研削用ベルトがロール軸方向に位置ずれするのを防止するためのセンターリング用アライメントホイールを1個以上、前記タッチホイールと駆動ホイールとの間のベルト移送経路上に配設したことを特徴とするベルト式研磨装置である。
なお、本考案の上記装置において、アライメントホイールは、円錐台形のテーパーロールを用いることが好ましい。
また、本考案の上記装置において、上記アライメントホイールについては、これを2個一対で用いるときには互いに逆テーパとなるように配設することが好ましい。
【0009】
【考案の実施の形態】
本考案にかかるベルト式ロール研磨装置は、被研磨ロール1に対面配置してこのロール表面を研磨するために用いられるものであって、主としてタッチホイール2 (コンタクトホイールともいう) 、駆動ホイール5および1個以上好ましくは2個のアライメントホイール3, 4を設けて、それらの間にエンドレスな研削用ベルト6を掛け渡して構成されている。
【0010】
図1は、本考案装置のうち、アライメントホイール1個だけ配設した例である。このアライメントホイール3は、研削用ベルト6が走行中にロールクラウンの影響によってロール軸方向 (ベルト幅方向) にずれて蛇行するのを防止し、センターリングを行うために採用したものである。
なお、図2に示すように、アライメントホイールを2個配設する方式では、これらのホイール3, 4を互いに逆テーパとなるように配設すると共に、被研磨ロール1のロール軸方向に沿う互いに逆方向にずらすことができるように構成するので、ベルトのセンターリングを高精度に制御することができる。つまり、研削用ベルト6は、本考案に特有のアライメントホイール3, 4の作用を受けて常に正しい巻掛け移動位置に保持され、被研磨ロール1に対して正しく面接させることができるようになる。
【0011】
このようなアライメントホイール3, 4の形状としては、図3に示すようなもの、例えば円錐台形つまりテーパーロールを用いることが好ましく、このようなテーパーロールを1個または2個をベルト巻き掛け経路内に配設することで、ベルトの蛇行を効果的に防止できるようになる。
【0012】
上記のように構成したことにより、本考案装置については、研削用ベルト6が1個または2個のアライメントホイール3, 4によるセンターリング作用を受けるので、タッチホイール2の母線方向に沿ってずれることがない。その結果、被研磨ロール面の一定位置に一律に研削することになるので、研削効率, 研削精度, 製品歩留りの向上が期待できる。
【0013】
また、研削の境界部, 即ちベルトの両端部接触面の部分は研削能が著しく低下し、センター寄りの清浄接触面に比べると研削除去量および表面あらさが異なるのが普通である。これらは、被研削 (研磨) 面に生じる送りマークと呼ばれる研削状況の異なった条痕状領域の発生につながる。
この点、本考案については、研削用ベルト6の位置ずれが防止できるので、これらの送りマークなどの研削面の品質の低下を解消することができる。
【0014】
また、本考案によれば、研削用ベルト6に付加すべき張力は、該ベルト6のホイール母線方向への位置ずれを防止すべき機能をもつ必要がないので本質的に大きくする必要がなく、ベルト破断の危険性を解消することができる。
【0015】
【実施例】
実施例1 この実施例では、2ホイール型の従来装置 (実開平2−74155号公報) および4ホイール型 (2アライメントホイールを装着した) の本考案にかかるロール研磨装置) を用意した。そして、直径:1500mm, 面長:2000mmの湿紙乾燥用ドライヤロールに対し、ベルト式研磨装置がロールの一端から他端までを走行するのを1工数として、5工数に要する研削を実施し、その使用時間を比較した。この装置に用いたタッチホイール形状は、いずれの機種も直径:350 mm, 幅:150 mmであり、ホイール駆動モーターは仕事率15kW、研削用ベルトは幅:125mm , 長さ3300mmとした。そして、このベルト式研磨装置がロールの一端から他端までの距離を研削走行した時の、該ベルトのタッチホイール母線方向に沿った位置ずれ量を調べた。
【0016】
その結果、従来装置の位置ずれ量は基準位置に対し、該研磨装置の進行とは逆方向に平均値約30mmの値であった。そのため、この従来装置については、タッチホイール2に対してエンドレスベルトの装着位置がずれることによる有効研削長さの減少を補うために、1ないし3工数が終了するごとにエンドレスベルトの張力を緩め、ベルトの位置補正を凹必要が生じた。これには一回あたり平均5分の時間を要し、全作業工数に占める割合は20ないし30%であった。
【0017】
これに対して、本考案にかかるロール研磨装置においては、位置ずれ量は基準位置に対しほぼ±5mmの範囲内であって、誤差範囲内とみなされ、1工程ごとに研削用ベルトの位置修正をおこなう必要はなかった。これらの結果から、本考案装置を用いることによって、従来装置に比べて研削所要工数を少なくとも20%短縮することができた。
【0018】
実施例2 この実施例では、直径:3000mm, 面長:3200mmの家庭用薄葉紙製造用ヤンキードライヤロールの表面に被覆した13Cr鋼系合金溶射皮膜の表面を研削した例である。ヤンキードライヤロールの駆動側1/2 面長は実施例1と同様の従来装置、動操作側1/2 面長は実施例1と同じ本考案ベルト式ロール研磨装置を用いて実施した。その結果、従来装置については、被研削面に周期およそ60mmの送りマークと呼ばれる研削状況の異なった条痕状領域が発生した。
【0019】
一方、本考案装置では、送りマークの発生はほとんど認められなかった。とくに、送りマークの部位に対し、触診式表面あらさ計でその断面曲線を測定し凹凸形状を調べたところ、2〜3μmの段差が発生していた。そこで、湿紙乾燥をおこない、製品の地合を詳細に比較検討したところ、従来のロール研磨装置を用いた駆動側1/2 の部分で乾燥処理したものはわずかながら地合に不均一さが発生した。しかし、規格外ではなかったのでそのまま操業運転を続けた。そして、3 カ月経過後、ヤンキードライヤロールの駆動側1/2 の部で乾燥処理した製品の地合品質が規格外となったので、再びロールの該当部分を調べたところ、ロール表面に縞状の模様が発生していた。そこで、その部分の表面あらさを測定したところ、5〜10μm Rmaxの粗さであり、研削加工直後に比べ大きくなっていた。
この模様をさらに詳細に調べたところ、らせん状になっており、研削加工時に発生していた送りマークの位置に一致していた。また、これらの部位表面の外添剤残渣濃度を定量したところ、送りマークのない部分の場合に比べて約3倍大きく、表面あらさの増大に外添剤による腐食が関係していることが示唆された。
これらの調査結果から、ベルト研削時に発生, 残存する送りマークと呼ばれる研削状況の異なった条痕状領域は、腐食を誘発させる可能性があって、操業時間の経過とともにあらさが大きくなり、紙製品に地合品質を低下させる悪影響を及ぼすことが明らかになった。
【0020】
これに対して、当初から送りマーク領域が発生しなかった本考案にかかる装置によるロール研削部位は、表面あらさの変化もなく、紙製品は終始地合品質が安定していた。
【0021】
なお、この実施例におけるベルト研削は、ヤンキードライヤロールを室温および蒸気を注入、ドライヤ表面を運転時と同様の約130 ℃に保持した状態で実施したものである。その結果はいずれの温度条件でも、研削による送りマークの発生はなく、生産した紙製品は終始地合品質の安定したものであった。
【0022】
実施例3 実施例1と同様のベルト研磨機を用いて、直径:3000mm、面長:3200mmの家庭用薄葉紙製造用ヤンキードライヤロール表面にプラズマ溶射被覆されたNi−Cr系合金溶射皮膜を研削した。この例では、ベルト破断による消費は皆無であった。
【0023】
【考案の効果】
以上説明したように本考案によれば、研削動作中に研削用ベルトが、ロール (ホイール) の軸方向に横ずれ (蛇行) することがなくなる。その結果、研削能劣化の低減、被研削、研磨面に生じる送りマークと呼ばれる研削状況の異なった条痕状領域の発生防止、さらには、平滑性などの研削面品質あるいは円筒度などの形状精度の向上が達成できる。
【提出日】平成9年10月24日

【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 被研磨ロールに面して平行に配設されるタッチホイールと、このタッチホイールから離間して平行に配設されるベルト駆動用駆動ホイールとを設け、これらのホイールの間にエンドレスなロール研削用ベルトを掛け渡し、このベルトの研削面を被研磨ロールの周面に押し当てて研磨するようにしたベルト式ロール研磨機において、前記研削用ベルトがロール軸方向に位置ずれするのを防止するためのセンターリング用アライメントホイールを1個以上、前記タッチホイールと駆動ホイールとの間のベルト移送経路上に配設したことを特徴とするベルト式研磨装置。
【請求項2】 上記アライメントホイールは、円錐台形のテーパーロールを用いることを特徴とする請求項1に記載のロール研磨装置。
【請求項3】 上記アライメントホイールは、これを2個一対で用いるときには互いに逆テーパとなるように配設したことを特徴とする請求項1または2に記載のベルト式ロール研磨装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【登録番号】第3046519号
【登録日】平成9年(1997)12月17日
【発行日】平成10年(1998)3月10日
【考案の名称】ベルト式ロール研磨装置
【国際特許分類】
【評価書の請求】未請求
【出願番号】実願平9−6067
【出願日】平成9年(1997)7月11日
【出願人】(000109875)トーカロ株式会社 (127)