説明

ベルト用ゴム組成物及びVリブドベルト

【課題】特に優れた引裂き強度を呈するゴム組成物及びそれを用いてなるVリブドベルトを提供する。
【解決手段】ゴム100質量部に対してカーボンブラックを45〜50質量部、短繊維20〜40質量部、軟化剤又は可塑剤を5〜10質量部混合したことを特徴とするベルト用ゴム組成物及びそれを用いたVリブドベルト1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト用ゴム組成物及びVリブドベルトに係り、詳しくはゴム組成物の硬度を下げることによってゴムの耐引裂性を向上させたゴム組成物及びそれを使用したVリブドベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度な力学的刺激を受けるゴム製品において、その耐力学疲労性の向上が要求されており、例えば自動車用伝動ベルトでは、エンジンの高出力化に伴って細幅化、静粛化及び高寿命化が要求され、これらを実現する為には、伝動ベルトの素材の高性能化及び高寿命化が不可欠である。
【0003】
従来、高性能化が図られたベルトの素材としては、たとえばエチレン性不飽和ニトリル−共役ジエン系共重合体からなる水素化ゴムにメタクリル酸亜鉛及び有機過酸化物を混合して得られた引張り強さが向上したゴム組成物(特許文献1)や、固形ゴム及び末端に水酸基を有する液状ジエン系重合体とアルケニル無水コハク酸とのエステル化物からなり、優れた引張り強さを呈するゴム組成物(特許文献2)などが知られている。
【0004】
【特許文献1】特開平1−311158号公報
【特許文献2】特公平4−55453号公報
【0005】
又、高寿命化が図られたベルトの素材としては、一般的なゴム組成物を有機過酸化物で架橋する際に、イオウ成分を共架橋剤として作用させることにより、屈曲疲労特性や引き裂き強度がある程度向上したゴム組成物が提案されている(特許文献3)。さらに、高寿命化が図られたベルトとしては、ベルトゴム部材にフッ素樹脂の短繊維を添加したものが知られている(特許文献4)。
【0006】
【特許文献3】特許第2637876号公報
【特許文献4】特公平4‐55453号公報
【0007】
しかしながら、前記従来のゴム組成物からなるゴムは、いずれも引張り強さには優れているものの、屈曲疲労性や引裂き強度などの物性は必ずしも満足しうるものではなく、例えば自動車用伝動ベルトなどのエンジンの高出力化などに伴って高度に力学的刺激を受ける製品に用いることが困難であるという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、特に優れた引裂き強度を呈するゴム組成物及びそれを用いてなるVリブドベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ゴム100質量部に対してカーボンブラックを45〜50質量部、短繊維20〜40質量部、軟化剤又は可塑剤を5〜10質量部混合したべルト用ゴム組成物にある。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記ゴム組成物の加硫後の硬度がJISK6301のスプリング式硬さ試験のA形の硬度計で測定したときに、75〜82度である請求項1に記載のベルト用ゴム組成物にある。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記軟化剤又は可塑剤がパラフィニックオイル又はナフテンの少なくとも一つである請求項1又は2に記載のベルト用ゴム組成物にある。
【0012】
請求項4に記載の発明は、引裂力が50〜70N/mmである請求項1から3のいずれかに記載のベルト用ゴム組成物にある。
【0013】
請求項5に記載の発明は、ベルト長さ方向に沿って心線を埋設した接着ゴム層と、ベルト長さ方向に延びる少なくとも2つのリブ部を有する圧縮ゴム層とからなるVリブドベルトにおいて、少なくとも前記圧縮ゴムが請求項1から4のいずれかに記載のゴム組成物からなるVリブドベルトにある。
【0014】
請求項6に記載の発明は、前記心線径が1.0〜1.2mmである請求項5に記載のVリブドベルトにある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、ゴム100質量部に対してカーボンブラックを45〜50質量部、短繊維20〜40質量部、軟化剤又は可塑剤を5〜10質量部混合したベルト用ゴム組成物であることから、ベルト用ゴム組成物の硬度が所定の範囲に入り、摩擦伝動ベルトの場合、ベルトがプーリに追従しやすくなる。
【0016】
請求項2に記載の発明によると、前記ゴム組成物の加硫後の硬度がJISK6301のスプリング式硬さ試験のA形の硬度計で測定したときに、75〜82度である請求項1に記載のベルト用ゴム組成物にあることから、摩擦伝動においてはよりベルトのプーリへの追従性が良くなる。
【0017】
請求項3に記載の発明によると、前記軟化剤又は可塑剤がパラフィニックオイル又はナフテンの少なくとも一つである請求項1又は2に記載のベルト用ゴム組成物であることから、ゴム組成物の耐引裂性がより改善される。
【0018】
請求項4に記載の発明によると、引裂力が50〜70N/mmである請求項1から3のいずれかに記載のベルト用ゴム組成物であることから、Vリブドベルトとして使用した場合に、ベルトが走行中にリブが欠けることがない。
【0019】
請求項5に記載の発明によると、ベルト長さ方向に沿って心線を埋設した接着ゴム層と、ベルト長さ方向に延びる少なくとも2つのリブ部を有する圧縮ゴム層とからなるVリブドベルトにおいて、少なくとも前記圧縮ゴムが請求項1から4のいずれかに記載のゴム組成物からなるVリブドベルトであることから、ベルトが走行時にプーリに追従し易くなると共に、ゴムの耐引裂性が向上し、リブ欠けが発生することがない。
【0020】
請求項6に記載の発明によると、前記心線径が1.0〜1.2mmである請求項5に記載のVリブドベルトであることから、ベルトの張力変動が少なくなり、よりベルトがプーリに追従し易くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は本発明のベルト用ゴム組成物を少なくとも圧縮ゴムに使用するものの一例を示すVリブドベルトの一例であり、本Vリブドベルト1はベルト長手方向に沿ってポリエステル繊維コード、エチレン−2,6−ナフタレート(PEN)を主たる構成単位とするポリエステルフィラメント群を撚り合わせた繊維コード、アラミドコード、又はナイロンコードからなる心線3を埋設した接着ゴム層4、その下側に弾性体層である圧縮部6からなっている。この圧縮部6は、ベルト長手方向に延びる断面略三角形である台形の複数のリブを有している。
【0022】
心線3としては、例えば、ポリエステル繊維コード、エチレン−2,6−ナフタレート(PEN)を主たる構成単位とするポリエステルフィラメント群を撚り合わせた繊維コード、アラミドコード、又はナイロンコードを使用できる。本発明で使用されるエチレン−2,6−ナフタレートは、通常、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を触媒の存在下に適当な条件のもとにエチレングリコールと縮重合させることにより生成される。このとき、エチレン−2,6−ナフタレートの重合完結前に適当な1種又は2種以上の第3成分を添加すれば、共重合体ポリエステルが合成される。
心線径としては、1.0〜1.2mmのものが好適に使用される。心線径が1.0mmより小さくなるとベルト走行時の張力変動が大きく、ベルトがスリップし易くなり、さらにベルト振動も大きくなり、発音し易くなる。一方、心線径が1.2mmより大きくなるとベルト剛性が大きくなり、ベルトがプーリへ追従しにくくなり、リブ欠けの発生が起こり易くなる。
【0023】
本発明のベルト用ゴム組成物に用いられるゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エチレン‐プロピレン‐ジエン共重合体ゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン(ACSM)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)が用いられるが、水素化ニトリルゴムは特に限定されるものではないが水素添加率が80%以上であり、特に耐熱性、耐オゾン性の特性を発揮するためには90%以上が好ましい。
【0024】
本発明のベルト用ゴム組成物中のゴムに混合される充填剤としては、カーボンブラックが用いられる。又、混合される軟化剤又は可塑剤としては、パラフィニックオイル又はナフテンが用いられる。ゴムに混合されるカーボンブラックの量としては、ゴム100質量部に対してカーボンブラックを40〜50質量部混合され、好適にはカーボンブラックが45〜50質量部混合される。充填剤が40質量部より少なくなると、ゴム組成物の強度が低下し、一方50質量部よりも多くなると、ゴム組成物の硬度が高くなりすぎ、Vリブドベルトの圧縮ゴムとして使用した場合にリブ欠けが発生し易くなる。
【0025】
又、ゴムに混合される軟化剤又は可塑剤の量としては、ゴム100質量部に対して軟化剤又は可塑剤が5〜10質量部混合されることが好ましい。軟化剤又は可塑剤が5質量部よりも少なくなるとゴム組成物の硬度が高くなりすぎ、Vリブドベルトの圧縮ゴムとして使用した場合にリブ欠けが発生し易くなる。一方、10質量部を越えるとゴム組成物の硬度が低くなりすぎ、Vリブドベルトの圧縮ゴムとして使用した場合にプーリとの間で粘着摩耗が発生し易くなる。
【0026】
又、ゴムに混合される短繊維は、綿、ポリエステル、ポリアミド、アラミド等の繊維からなる長さが1〜10mm程度の通常よく用いられる短繊維を用いることができる。混合される短繊維の量としては、ゴム100質量部に対して短繊維20〜40質量部混合されることが好ましい。
【0027】
上記混合して得られたベルト用ゴム組成物を120°C〜130°Cの加硫温度にて 分間加硫して厚み2mmのシートを作製し、JISK6301のスプリング式硬さ試験のA形の硬度計で測定したときに、硬度が75〜82度となることが好ましい。硬度が75度を下回ると、Vリブドベルトの圧縮ゴムとして使用した場合にプーリとの間で粘着摩耗が発生し易くなり、一方硬度が82度を越えるとこのゴム組成物Vリブドベルトの圧縮ゴムとして使用した場合にリブ欠けが発生し易くなる。
【0028】
又、本発明のベルト用ゴム組成物の引裂力が50N/mm〜70N/mmとなることが好ましい。前記ベルト用ゴム組成物の引裂力が50N/mmより小さくなるとVリブドベルトの圧縮ゴムとして使用した場合にリブ欠けが発生し易くなる。一方、前記ベルト用ゴム組成物の引裂力が70N/mmより大きくなるとVリブドベルトの圧縮ゴムとして使用した場合に、早期に圧縮ゴムにクラックが発生し易くなる。
【0029】
又本発明のVリブドベルトの接着ゴム層4には、水素化ニトリルゴム、クロロプレンゴム、天然ゴム、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン(ACSM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エチレン−α−オレフィンエラストマー(EPDM)が使用され、水素化ニトリルゴムは水素添加率が80%以上であり、耐熱性及び耐オゾン性の特性を発揮するために、好ましくは90%以上が良い。水素添加率80%未満の水素化ニトリルゴムは、耐熱性及び耐オゾン性は極度に低下する。耐油性及び耐寒性を考慮すると、結合アクリロニトリル量は20〜45%の範囲が好ましい。中でも、耐油性と耐寒性を有するエチレン−α−オレフィンエラストマーが好ましい。
【0030】
次に、本発明のVリブドベルトの製造方法を説明する。製造方法としては限定されるものではないが例えば以下のような方法がある。
【0031】
まず、円筒状の成形ドラムの周面に伸張部を構成する部材と接着層を構成する接着ゴムシートとを巻き付けた後、この上にコードからなる心線を螺旋状にスピニングし、更に圧縮部(動力伝動部)を構成する圧縮ゴムシートを順次巻き付けて未加硫スリーブを形成した後、加硫して加硫スリーブを得る。次に、加硫スリーブを駆動ロールと従動ロールに掛架され所定の張力下で走行させ、更に回転させた研削ホイールを走行中の該加硫スリーブに当接するように移動してスリーブの圧縮部表面に3〜100個の複数の溝状部を一度に研磨して摩擦伝動面を形成する。このようにして得られたスリーブを駆動ロールと従動ロールから取り外し、該スリーブを他の駆動ロールと従動ロールに掛架して走行させ、カッターによって所定の幅に切断して個々のVリブドベルトに仕上げる。
【実施例】
【0032】
次に表1に示す配合でゴムを混練りして厚さ2.0mmのゴムシートを作成し、120°Cの加硫温度で15分間加硫を行い、JISK6301のスプリング式硬さ試験のA形の硬度計で硬度と、JISK6301の方法で引裂き試験を行った。その結果を表2に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
つぎに、本発明のVリブドベルトを製造した。本実施例で製造したVリブドベルトでは、ポリエステル繊維のロープからなる直径1.1mmの心線を接着層内に埋設し、その上側に伸張部としてゴム付綿帆布を2プライ積層し、他方接着層の下側に設けた圧縮部に3個のリブをベルト長手方向に配したものである。
【0036】
ここで圧縮部を表1に示すゴム組成物から調製し、バンバリーミキサーで混練後、カレンダーロールで圧延したものを用いた。圧縮部には短繊維が含まれ、ベルト幅方向に配向している。接着層は表1に示すゴム組成物から短繊維を除去したゴム配合で調製したゴム組成物である。
【0037】
ベルトの製造方法は公知の方法であり、まずフラットな円筒モールドに2プライのゴム付綿帆布を巻いた後、接着層を構成する接着ゴムシートを巻き付けて心線をスピニングする。そして圧縮ゴム層を構成する圧縮ゴムシートを配置した後、該圧縮ゴムシートの上に加硫用ジャケットを挿入する。次いで、成形モールドを加硫缶内に入れ、図2に示す圧力で40分間150°Cにて加硫した後、筒状の加硫スリーブをモールドから取り出し、該スリーブの圧縮ゴム層をグラインダーによってリブに成形し、成形体から個々のベルトに切断する工程からなっている。
【0038】
このようにして得られたVリブドベルトの硬度を図3に示すように、リブ底中央にJISK6301のスプリング式硬さ試験のA型の硬度計を5kgfの荷重にて押し付け、ベルトの圧縮ゴムの硬度を測定した。その結果を表3に示す。
【0039】
そして、このベルトの耐熱屈曲性試験を行った。その結果を表3に示す。耐熱屈曲性試験の評価に用いた走行試験機は、駆動プーリ(直径60mm)、アイドラープーリ(直径89mm)、従動プーリ(直径121mm)、及びテンショナープーリ(直径70mm)とを順に配置して構成したものである。そして、試験機の各プーリにVリブドベルト1を掛架し、雰囲気温度を110°C、駆動プーリの回転数1,500rpm、ベルト張力1,500N/リブの試験条件で走行させ、リブ欠け迄の時間を測定した。その結果を表3に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
表3の結果から、実施例に比較してカーボンブラックが多く、パラフィンオイルが少ない比較例2及び3は、リブ欠け迄の時間がかなり短くなった。又、カーボンブラックの量がわずかに多くパラフィンオイルが少ない比較例1は、リブ欠け迄の時間が実施例よりも50時間程短くなった。さらに、カーボンブラックが多く、パラフィンオイルの量も多い比較例4も実施例よりもリブ欠け迄の時間が50時間程短くなった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、Vベルト、Vリブドベルト等のプーリと接するゴムの伝達力向上及びゴムの引裂力向上に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係るVリブドベルトの断面斜視図である。
【図2】本発明に係るVリブドベルトの加硫条件を示したグラフである。
【図3】本発明に係るVリブドベルトの硬度測定方法を示した概略図である。
【図4】走行試験のレイアウトを示す概念図である。
【符号の説明】
【0044】
1 Vリブドベルト
2 伸張部
3 心線
4 接着層
5 カバー帆布
6 圧縮部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム100質量部に対してカーボンブラックを45〜50質量部、短繊維20〜40質量部、軟化剤又は可塑剤を5〜10質量部混合したことを特徴とするベルト用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム組成物の加硫後の硬度がJISK6301のスプリング式硬さ試験のA形の光度計で測定したときに、75〜82度である請求項1に記載のベルト用ゴム組成物。
【請求項3】
前記軟化剤又は可塑剤がパラフィニックオイル又はナフテンの少なくとも一つである請求項1又は2に記載のベルト用ゴム組成物。
【請求項4】
引裂力が50〜70N/mmである請求項1から3のいずれかに記載のベルト用ゴム組成物。
【請求項5】
ベルト長さ方向に沿って心線を埋設した接着ゴム層と、ベルト長さ方向に延びる少なくとも2つのリブ部を有する圧縮ゴム層とからなるVリブドベルトにおいて、少なくとも前記圧縮ゴムが請求項1から4のいずれかに記載のゴム組成物からなるVリブドベルト。
【請求項6】
前記心線径が1.0〜1.2mmである請求項5に記載のVリブドベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−153027(P2006−153027A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−320086(P2004−320086)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】