説明

ベンズイミダゾロン顔料のナノスケールの粒子を調製するためのプロセス

【課題】ナノスケールのベンズイミダゾロン顔料粒子を調製するためのプロセスを提供する。
【解決手段】ベンズイミダゾロン顔料に対する1つ以上の顔料前駆物質を準備するステップと、顔料前駆物質の1つのベンズイミダゾロン部分と非共有的に会合する立体的に嵩高い安定剤化合物であって、置換ピリジン誘導体、アルキル化ベンズイミダゾロン化合物、芳香族酸のアルキル化誘導体、およびそれらの混合物からなる群から選択される安定剤化合物の溶液または懸濁液を準備するステップと、ベンズイミダゾロン顔料組成物を形成するためのカップリング反応を行い、それによって、粒子の成長および凝集の程度を制限してナノスケールの大きさの顔料粒子を生じさせるために、顔料前駆物質をベンズイミダゾロン顔料内に組み込み、ベンズイミダゾロン顔料の1つ以上の官能性部分を安定剤化合物と非共有的に会合させるステップとを含むプロセスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ナノスケールのベンズイミダゾロン顔料粒子組成物、および製造方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
インクジェットインク用の顔料は、大きな粒径および幅広い粒径分布を有しており、その組合せは、信頼できるインクの噴射に関して問題を引き起こし得る。顔料は、多くの場合、広い分布の凝集体サイズを有するミクロンサイズの結晶の凝集体である。顔料の色特性は、凝集体サイズおよび結晶形態によって幅広く変化し得る。したがって、インクやトナー等に広範に適用し得る理想的な着色剤は、染料と顔料の両方の最も優れた特性、すなわち、1)優れた色特性(大きな色域、輝度、色相、鮮明な色)、2)色彩安定性と耐久性(熱、光、化学薬品、空気に対して安定な着色剤)、3)最小限または皆無の着色剤の移行、4)処理可能な着色剤(マトリックス中への分散および安定化が容易)、および5)安価な材料コストという特性を有するものである。上記の問題を最小限にするより小さいナノスケール顔料粒子に向けた対応がここでは必要である。さらにまた、上記の改良されたナノスケール顔料粒子を着色剤材料として作製して使用するためのプロセスに対する必要性が存続している。現ナノスケール顔料粒子は、塗料、コーティングおよびインクジェット印刷用インクならびにその他の用途、例えば、着色されるプラスチックおよび樹脂、光電子画像形成コンポーネントおよび光学カラーフィルタ、写真コンポーネント、ならびに化粧品等に有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7,160,380号明細書
【特許文献2】国際公開第2006/132443号パンフレット
【特許文献3】米国特許出願公開第2006/0063873号明細書
【特許文献4】国際公開第2006/005536号パンフレット
【特許文献5】米国特許第5,679,138号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2007/0012221号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】K. Balakrishnan et al., “Effect of Side-Chain Substituents on Self-Assembly of Perylene Diimide Molecules: Morphology Control”, J. Am. Chem. Soc., vol. 128, p. 7390-98 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ナノスケールのベンズイミダゾロン顔料粒子を調製するためのプロセスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ベンズイミダゾロン顔料のナノスケールの粒子を調製するためのプロセスであって、ベンズイミダゾロン顔料に対する1つ以上の顔料前駆物質を準備するステップと、前記顔料前駆物質の1つのベンズイミダゾロン部分と非共有的に会合する立体的に嵩高い安定剤化合物であって、置換ピリジン誘導体、アルキル化ベンズイミダゾロン化合物、芳香族酸のアルキル化誘導体、およびそれらの混合物からなる群から選択される立体的に嵩高い安定剤化合物の溶液または懸濁液を準備するステップと、ベンズイミダゾロン顔料組成物を形成するためのカップリング反応を行い、それによって、粒子の成長および凝集の程度を制限してナノスケールの大きさの顔料粒子を生じさせるために、前記顔料前駆物質をベンズイミダゾロン顔料内に組み込み、ベンズイミダゾロン顔料の1つ以上の官能性部分を前記立体的に嵩高い安定剤化合物と非共有的に会合させるステップと、を含むプロセスである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】微細に懸濁したCC1カップリング成分のSTEM画像を示す図である(スケールバーは、2.00ミクロン=2000nmである)。
【図2】顔料前駆物質の連続的添加を含む方法を示す図である。
【図3】Pigment Yellow 151ナノ粒子のSTEM画像を示す図である(スケールバーは、500nmである)。
【図4】顔料前駆物質の同時添加を含む方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
前記プロセスにおいて、ロジン天然産物、長鎖または分枝状炭化水素アルコール、アルコールエトキシレート、アクリル系ポリマ、スチレン系コポリマ、α−オレフィンのコポリマ、ビニルピリジンとビニルイミダゾールとビニルピロリジノンとのコポリマ、ポリエステルコポリマ、ポリアミドコポリマ、およびアセタールとアセテートとのコポリマからなる群から選択される界面活性剤または表面添加剤を添加するステップをさらに含んでもよい。
【0009】
前記プロセスにおいて、ナノスケール顔料粒子が、約150nm未満の透過電子顕微鏡画像形成から導かれる平均粒径を有することが好ましい。
【0010】
前記プロセスにおいて、立体的に嵩高い安定剤化合物の溶液または懸濁液が、水および場合によって1つ以上の有機溶媒を含む媒体中に分散または乳化している立体的に嵩高い安定剤化合物を含むことが好ましい。
【0011】
前記プロセスにおいて、立体的に嵩高い安定剤化合物の溶液または懸濁液が、1つ以上の有機溶媒をさらに含み、1つ以上の有機溶媒が水混和性であることが好ましい。
【0012】
前記プロセスにおいて、カップリング反応が、液体媒体中で行われ、液体媒体中のベンズイミダゾロン顔料に対する1つ以上の有機顔料前駆物質の濃度が1M未満であることが好ましい。
【0013】
前記プロセスにおいて、カップリング反応が、約10℃から約60℃の温度で行われることが好ましい。
【0014】
前記プロセスにおいて、カップリング反応が、約2から約7のpHで行われることが好ましい。
【0015】
前記プロセスにおいて、カップリング反応が、混合しながら、場合によっては粘度調整用の界面活性剤または消泡剤の存在下で行われることが好ましい。
【0016】
前記プロセスにおいて、カップリング反応を行うステップが、カップリング成分の顔料前駆物質を含む溶液を立体的に嵩高い安定剤化合物の溶液、分散液または懸濁液と一緒に混合して第1の媒体を形成するステップと、場合によって、第1の媒体のpHを酸性のpHに調節するステップと、前記顔料前駆物質としてのジアゾニウム塩を含む溶液を第1の媒体に加えるステップと、立体的に嵩高い安定剤化合物の存在下でカップリング成分とジアゾニウム塩成分の間でカップリング反応が起こることを引き起こすかまたは可能にするステップと、を含んでもよい。
【0017】
前記プロセスにおいて、ベンズイミダゾロン顔料が、x個だけのアゾ基を有しており、ジアゾ成分の顔料前駆物質とカップリング成分の顔料前駆物質とが、1:xから約1.25:xのモル比で提供され、xは1から5の整数であることが好ましい。
【0018】
前記プロセスにおいて、第1の媒体が、アルカリ性塩基、酸緩衝剤、および任意の有機溶媒をさらに含むことが好ましい。
【0019】
前記プロセスにおいて、アルカリ性塩基が、カップリング成分の顔料前駆物質に対して約2から約10モル当量過剰のモル量で存在し、酸緩衝剤が、アルカリ性塩基成分に対して等モル量で存在することが好ましい。
【0020】
前記プロセスにおいて、任意の有機溶媒が、第1の媒体の合計の液体体積を基準として0から約50体積%の量で存在することが好ましい。
【0021】
前記プロセスにおいて、立体的に嵩高い安定剤化合物が、生成されるナノスケールの大きさの顔料粒子の最終質量を基準として0.01から約50重量%の量で存在することが好ましい。
【0022】
前記プロセスにおいて、第1の媒体が、カップリング成分の顔料前駆物質を、アルカリ水溶液中に溶解するステップと、立体的に嵩高い安定剤化合物を、同じアルカリ水溶液中、有機溶媒中、または緩衝剤溶液中に溶解または分散させるステップと、立体的に嵩高い安定剤化合物がカップリング成分と一緒になって溶解または分散しない場合は、カップリング成分の顔料前駆物質を有機溶媒と共に含有するアルカリ水溶液または立体的に嵩高い安定剤化合物を含有する緩衝溶液を混合するステップと、を含むことによって形成されてもよい。
【0023】
前記プロセスにおいて、カップリング成分の顔料前駆物質を含む溶液と立体的に嵩高い安定剤化合物の溶液、分散液または懸濁液との混合が、約10℃から約100℃の温度で行われることが好ましい。
【0024】
前記プロセスにおいて、カップリング反応の実施が、(1)カップリング成分の顔料前駆物質を含む溶液、および(2)顔料前駆物質としてのジアゾニウム塩を含む溶液を、立体的に嵩高い安定剤化合物の溶液または懸濁液に加えるステップと、立体的に嵩高い安定剤化合物の存在下でカップリング成分とジアゾニウム塩成分との間でカップリング反応が起こることを引き起こすかまたは可能にするステップとを含んでもよい。
【0025】
前記プロセスにおいて、溶液(1)および(2)が、それぞれ、均一な溶液であり、異なるpHを有することが好ましい。
【0026】
前記プロセスにおいて、溶液(1)および(2)が、立体的に嵩高い安定剤化合物の溶液または懸濁液に同時に加えられることが好ましい。
【0027】
前記プロセスにおいて、溶液(1)が、アルカリ性塩基、酸緩衝剤、および任意の有機溶媒をさらに含むことが好ましい。
【0028】
前記プロセスにおいて、アルカリ性塩基が、カップリング成分の顔料前駆物質に対して約2から約10モル当量過剰のモル量で存在し、酸緩衝剤が、アルカリ性塩基成分に対して等モル量で存在することが好ましい。
【0029】
前記プロセスにおいて、カップリング反応の後、形成され、沈殿したナノスケール顔料粒子がさらなる加熱なしで単離されることが好ましい。
【0030】
本開示の実施形態は、ナノスケールのベンズイミダゾロン顔料粒子組成物およびそのような組成物を製造するための方法を提供する。ナノスケール顔料粒子組成物は、立体的に嵩高い安定剤化合物からの官能基と非共有的に会合している少なくとも1つの官能性部分を有する有機ベンズイミダゾロン顔料を一般に含み、立体的に嵩高い安定剤化合物は、ピリジンカルボン酸誘導体、アルキル化ベンズイミダゾロン化合物、または芳香族酸誘導体を含む。その会合している立体的に嵩高い安定剤の存在が、粒子の成長および凝集を制限してナノスケール粒子を供給する。
【0031】
ベンズイミダゾロン顔料は、ジアゾニウム塩前駆物質(またはジアゾ成分)としての置換芳香族アミンとベンズイミダゾロン官能性部分を含有するカップリング成分とから一般に誘導されたアゾ−ベンズイミダゾロンの種類のものである。アゾ−ベンズイミダゾロン顔料は、主にカップリング成分の化学組成によって黄色から赤そして茶褐色まで変動する色相の色を提供する。
【0032】
アゾ−ベンズイミダゾロン顔料の構造は、共にアゾ官能性部分(N=N)と結合しているジアゾ成分の基GDC、および求核カップリング成分の基GCCを含む式1中の一般構造により表すことができる。ジアゾ基およびカップリング基の一方または両方は、式2に示されているベンズイミダゾロン官能性部分を含むことができ、式中、置換基R、R、およびRは、水素、ハロゲン、アルコキシ基、であるが、6個未満の炭素原子の小さい脂肪族基、10個未満の炭素原子の小さいアレーンまたは複素環式アレーン基、あるいはカルボニル化合物の誘導体、例えばアルデヒド、ケトン、エステル、酸、酸無水物、ウレタン、尿素、チオールエステル、チオエステル、キサンテート、イソシアネート、チオシアネート、またはこれら置換基の任意の組合せ等を含むこともできる。
【0033】
【化1】


式1
【化2】


式2
【0034】
ジアゾ基GDCは、下に示すDC〜DCの標識を付けた一般的なジアゾ基組成を含むことができる:
【化3】


【化4】


【化5】


【化6】


【化7】


【化8】


および
【化9】


そのアスタリスク(*)は、ジアゾ前駆物質構造におけるアミノ基(−NH)に対する結合の点、および最終の顔料構造におけるアゾ官能性部分(−N=N−)に対する結合の点を示している。R〜Rは、独立して、H;ハロゲン;(CHCH(但し、n=0〜6);OH;アルコキシ基−OR’(但し、R’は、H、(CHCH、またはCを表し、nは、1から約6までの数を表す);COH;COCH;CO(CHCH(但し、n=0〜5);CONH;(CO)R’(但し、R’は、独立して、H、C、(CHCH(但し、n=0〜12)を表すことができ、またはそれらは(CHN(CH(但し、n=1〜6)を表すことができる);OCH;OCHCHOH;NO;SOH;または次の構造の基:
【化10】


【化11】


【化12】


および
【化13】


のいずれかを表している。
DCおよびDCにおいて、R’は、H、CH、(CHCH、またはCを表し、nは1から6までの数を表す。ジアゾ基の前駆物質は、DCの構造におけるような式2のベンズイミダゾロン官能性部分を保有する置換アニリン化合物であり得る。DCおよびDCにおいて、連結基Aは、−(CH−(但し、n=0〜6);アルキレンジオキシ基−[O−(CH−O]−(但し、n=0〜6)、および−[O−CHCHR)]−(但し、n=0〜6そしてR=HまたはCH);−(C=O)−;O、S等の原子;−(CH−(C=O)−(但し、n=1〜6)等のアシル基;−(C=O)−(CH−(C=O)−(但し、n=1〜6)等のジアシル基等を表すことができる。
【0035】
一般的にベンズイミダゾロン官能基(式2)を含有し、一般に5−アミノベンズイミダゾロンのアミドであるのはカップリング成分の基(GCC)である。アゾ−ベンズイミダゾロン顔料を作製するときカップリング成分として使用するアミドの2つの普通の種類は、5−アミノベンズイミダゾロン(CC1として示されている)のアセトアセトアミドおよび5−アミノベンズイミダゾロン(CC2として示されている)の3−ヒドロキシ−2−ナフトアミドである。
【化14】


【化15】


上記の構造において、アスタリスク(*)は、顔料構造中に形成されたアゾ官能性部分(−N=N−)に対する結合の点を示し、R、R10、R11、R12、およびR13は、独立して、H、Br、Cl、I、F、CH、またはOCHである。
【0036】
アゾ−ベンズイミダゾロン顔料の構造は、1つより多い互変異性型をとることができ、式(1)の一般的構造はそのような互変異性構造の両方の型を示すものと理解される。
【0037】
アゾ−ベンズイミダゾロン顔料は、強い分子間水素結合のため、一次元の延長ネットワーク構造を形成することができる。証拠は、そのような顔料のX線回折パターンで見出されており、大きな分子間の間隔取りが、顔料分子のペアが分子間水素結合により強固に会合し、一次元の帯またはリボンの微細構造の組立てを形成していることを示唆している。
【0038】
これらの補強性の分子内または分子間の水素結合の存在は、アゾ−ベンズイミダゾロン顔料の高められた性能特性、例えば、高い熱安定性、高い耐光性、高い色移り耐性および高い耐溶剤性等に対するさらなる証拠を提供する。これらの顔料中のベンズイミダゾロン官能性部分は、分子間水素結合の形成を可能とし、高められた構造安定性を提供する重要な構造要素である。この部分は、一点および二重点の水素結合に容易に参入し、同じ官能性部分または異なる官能性部分を有するもう1つの化合物は、アゾ−ベンズイミダゾロン顔料と、例えば分子間水素結合による等、非共有的に会合することが可能であり得、かかる顔料に対して高い結合親和性を有することができる。顔料粒子の表面張力を低下し、2つ以上の顔料粒子または構造体の間の引力を中和させ、それによって顔料の化学的および物理的構造を安定化する「安定剤」として知られている化合物の群が存在する。これらの化合物は、「顔料に親和性のある」官能性部分を有しており、それらは1つ以上の疎水性基、例えば、アルキル基が構造中で直鎖状、環状または分枝状であることができ、合計で少なくとも6個以上の炭素を有する長いアルキル炭化水素基、またはアルキル−アリール炭化水素基、またはアルキレンオキシ基を有するポリマおよび/またはオリゴマ鎖を保有する。かかる安定剤におけるさらなる疎水性基の存在は、いくつかの機能:(1)目標のビヒクルまたはマトリックス中のよりよい分散性のために顔料を親和性にすること、および(2)顔料粒子を取り巻く立体的に嵩高い層を提供し、それによって、制御されない結晶の凝集と最終的に粒子の成長をもたらす他の顔料粒子または分子の接近を防止または制限することができる。顔料と非共有的に会合する顔料に親和性のある官能性部分、ならびに他の顔料粒子に表面バリヤを提供する1つ以上の立体的に嵩高い炭化水素基の両方を有する化合物は、「立体安定剤(steric stabilizer)」と呼ばれ、通常の顔料および安定化が必要な他の粒子(例えば、塗料中のラテックス粒子、とりわけ堅固なコーティング中の金属酸化物のナノ粒子)の表面特性を改めるさまざまな方法において使用されてきている。
【0039】
そのベンズイミダゾロン顔料/前駆物質は、選択された安定剤化合物と、ベンズイミダゾロン単位または分子ごとに、1つ以上の水素結合を形成することができる。そのベンズイミダゾロン顔料/前駆物質は、選択された安定剤化合物と、ベンズイミダゾロン単位ごとに、1つから4つ以上の水素結合を形成することができる。
【0040】
安定剤は、主にナノスケール顔料粒子を生成するために、顔料合成中の着色剤分子の自己集合を制限し、かつ/または顔料一次粒子の凝集の度合いを制限する機能を有する。安定剤は、その安定剤が顔料の粒径を制御する機能を可能にする十分な立体的な嵩高さを提供する炭化水素部分を有する。その炭化水素部分は、大部分が脂肪族であるが、他の実施形態においては芳香族基を組み込むこともでき、少なくとも6個または少なくとも12個の炭素あるいは少なくとも16個の炭素で、100個を超えない炭素を含む。その炭化水素部分は、直鎖状、環状または分枝状であるかのいずれかであり得、シクロアルキル環または芳香環等の環状部分を含んでいてもよいし、いなくてもよい。その脂肪族の分枝鎖は、各枝に少なくとも2個の炭素または少なくとも6個の炭素を有しており、100個の炭素を超えない長いものである。
【0041】
用語の「立体的に嵩高い(steric bulk)」は、顔料または顔料の前駆物質が非共有的に会合するようになるその大きさとの比較に基づく相対的用語であることが理解される。「立体的に嵩高い」とは、顔料/前駆物質表面と水素結合している安定剤化合物の炭化水素部分が、他の化学物質(例えば、着色剤分子、顔料一次粒子または小さな顔料凝集体)の顔料/前駆物質表面に対する接近または会合を効果的に防止する三次元の空間体積を占めるときの状況を指す。安定剤は、いくつかの安定剤分子が、顔料/顔料前駆物質と非共有的に会合状態になるとき(例えば、水素結合、ファンデルワールス力、芳香族π−π相互作用またはその他)、その安定剤分子が効果的に顔料の一次粒子を遮断するための表面剤として作用し、それによって顔料粒子の成長を制限し、大部分がナノ粒子の顔料を提供するように十分に大きいその炭化水素部分を有さなければならない。
【0042】
適切な安定剤化合物は、両親媒性であり、顔料/顔料前駆物質との水素結合のために利用できるヘテロ原子を有する親水性または極性官能基、ならびに少なくとも6から100個の炭素を有し、大部分が脂肪族(または完全に飽和している)であるがいくらかのエチレン性不飽和基および/またはアリール基を含むことができる無極性または疎水性の立体的に嵩高い基を有する。適切な安定剤化合物の種類としては、以下のものが挙げられる。すなわち、以下のコア化合物:安息香酸、フタル酸または無水フタル酸、イソフタル酸、トリメシン酸、トリメリット酸または無水トリメリット酸、ピリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリンおよびピロールの、モノ−およびジカルボン酸、モノ−およびジエステル、ならびにモノ−および/またはジアミド誘導体を含めた置換されている化合物;モノアルキルのピリジン、ピペラジン、ピペリジン、モルホリン、ピロール、イミダゾール、ベンズイミダゾールおよびベンズイミダゾロン、チアゾール、チアゾリン、およびチアゾロン、ならびにそれらのカチオン塩(アルキル置換基は、長鎖の脂肪族炭化水素または分枝状脂肪族炭化水素、例えば、長分枝の「ゲルベ(Guerbet)型」の炭化水素である);ポリ(ビニルピロリドン)および、ポリ(ビニルピロリドン)のα−オレフィンまたはその他のエチレン性不飽和モノマー化合物とのコポリマ、例えば、ポリ(ビニルピロリドン−graft−1−ヘキサデカン)とポリ(ビニルピロリドン−co−エイコセン)等;ポリ(ビニルイミダゾール)およびポリ(ビニルイミダゾール)のα−オレフィンまたはその他のエチレン性不飽和モノマー化合物とのコポリマ;ポリ(ビニルピリジン)およびポリ(ビニルピリジン)のα−オレフィンまたはスチレン、またはその他のエチレン性不飽和モノマー化合物とのコポリマ;第一級アミドとアミジンを含めた長鎖または分枝状脂肪族第一級アミドとアミジン;長鎖、直鎖状および/または分枝状脂肪族アルデヒドとケトンのセミカルバゾンとヒドラゾン;置換基が、長鎖、直鎖状および/または分枝状脂肪族炭化水素であるモノ置換尿素およびN−アルキル−N−メチル尿素;置換基が、長鎖、直鎖状および/または分枝状脂肪族炭化水素であるモノ置換モノ置換グアニジンおよびグアニジニウム塩類;1つ以上のアルキル置換基が、6個と100個の間の炭素原子を有する長鎖、直鎖状および/または分枝状脂肪族炭化水素である1基および2基置換スクシンイミド、例えば、2−アルキル−および2,3−ジアルキル−スクシンイミド、および1基および2基置換コハク酸類またはそれらのエステル;あるいはそれらの混合物である。
【0043】
そのような好適な安定剤化合物の代表的な例としては、以下の化合物が、限定されないけれども、挙げられる。
【化16】


【化17】


【化18】


【化19】


【化20】


【化21】


【化22】


【化23】


【化24】


【化25】

【0044】
一般式5におけるような置換ピリジン誘導体、特に1基置換および2基置換ピリジン誘導体;式6のようなアルキル化ベンズイミダゾロン化合物;式7におけるような安息香酸、ナフトエ酸、フタル酸およびイソフタル酸等の芳香族酸のアルキル化誘導体;またはそれらの混合物を使用することができる。
【化26】


式5
【化27】


式6
【化28】


式7
複数の実施形態において、一般式5のピリジン誘導体は、同じものか異なるものであり得る置換基R〜Rを有する。式5〜7におけるR〜Rについての官能基の適切な例としては、H、アミド基(−NH−(C=O)−R’)および(−(C=O)−NH−R’);アミン基(−NH−R’);尿素基(−NH−(C=O)−NH−R’);カルバメートまたはウレタン基(−NH−(C=O)−O−R’)および(O−(C=O)−NH−R’);エステル基(−(C=O)−O−R’)または(−O−(C=O)−R’);オリゴ−もしくはポリ−[エチレングリコール]等の分枝状もしくは直鎖状アルキレンオキシ鎖;およびアルコキシ基(−OR’)を挙げることができ、但し、さまざまな官能基のすべてにおいて基R’は、アルキル基中にO、S、またはN等のヘテロ原子を含んでいてもよい主に直鎖状もしくは分枝状アルキルまたは脂環式の基である。
【0045】
これらの2基置換ピリジン誘導体は、望ましくは顔料に親和性のある基、例えば、顔料のベンズイミダゾロン官能性部分と水素結合が可能である2,6−ピリジンジカルボキシレートエステルまたはジカルボキサミド部分を有する両親媒性の化合物である。この水素結合は、顔料の分子間水素結合ネットワークを妨げ、それによって粒子の成長および凝集を防止または制限することができる可能性がある。その化合物は、また、立体的バリヤ層を顔料表面に提供する嵩高い脂肪族基も含み、それは、その他の着色剤分子が接近してより大きな結晶を形成することを制限または追い払うのにも役立つ。
【0046】
置換ピリジン誘導体の代表例としては、以下に限定はされないが、表1の次の化合物が挙げられる。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

【0052】
アルキル化ベンズイミダゾロン安定剤化合物は、一般に、構造:
【化29】


を有しており、但し、Xは、連結基を表し、R、R、およびRのそれぞれは、独立して、HまたはR、R、またはRの少なくとも1つがHを表すことを条件として置換もしくは非置換のアルキル基を表す。
【0053】
連結基Xは、立体的に嵩高い基をベンズイミダゾロン部分につなぐ任意の適切な官能基であり得る。適切な連結基の例としては、アミド基(−NH−(C=O)−)および(−(C=O)−NH−)、アミン基(−NH−)、尿素基(−NH−(C=O)−NH−)、カルバメートまたはウレタン基(−NH−(C=O)−O−)および(−O−(C=O)−NH−)、エステル基(−(C=O)−O−)または(−O−(C=O)−)、式:
【化30】


および
【化31】


の基、および式:
【化32】


および
【化33】


の基が挙げられ、但し、上式中のジアゾ部分DCの記号nは、上記の標識1〜7(DC、DC、...DCにおける)を指す。
【0054】
基R、R、および/またはRは、顔料粒子を取り巻く立体的に嵩高い層を提供することができる任意の適切なアルキル基であり得、それによって、抑制されない凝集および粒子の成長を引き起こすその他の顔料粒子または分子の接近を阻止または制限する。適切な立体的に嵩高い基の例としては、前述のさまざまな無極性または疎水性の立体的に嵩高い基が挙げられる。立体的に嵩高いアルキル基の具体例としては、1〜100、または1〜50または6〜30の炭素原子の直鎖状または分枝状アルキル基であり、一般式:
【化34】


【化35】


【化36】


【化37】


および
【化38】


のもののような大きな直鎖状、分枝状および/または環状脂肪族基を含むものが挙げられ、また、式−CO−(CH−CHであり、nが0から30までであるものを含めた1〜50、または1〜40または6〜30の置換直鎖状または分枝状アルキル基等も挙げられる。その他の有用なR基としては、より高い度合いの分枝をしている脂肪族炭化水素、環状炭化水素、ならびに、O、S、N等のヘテロ原子を含むことができるものを挙げることができ、オリゴ−もしくはポリ−[エチレングリコール]等の直鎖状もしくは分枝状アルキレンオキシ鎖を含む。後者は、ベンズイミダゾロン顔料のナノ粒子の合成中にジアゾニウムカップリングを行うための媒体のような水性媒体中での混合を促進することができる嵩高い親水性基である。
基は、また、一般式、
【化39】


において示されるような2つ以上のベンズイミダゾロン基を架橋する2官能性の構造のものであり得、適切な2官能性基のRの例としては、−(CH−;−X−(CHX;−[(XCHCH]X−;−[(C=O)−(CH−(C=O)]−;−X−[(C=O)−(CH−(C=O)]−X−;−X−[(C=O)−X−(CH−X−(C=O)]−X−;−[(C=O)−X−(CH−X−(C=O)]−(但し、Xは、O、S、またはNHとして定義され、整数nは、1〜50である);および大きな分枝状アルキル化官能基、例えば:
【化40】


および
【化41】


(但し、X、XおよびXは、O、S、またはNHのいずれかであると定義され、XおよびXは同じものであってもなくてもよい)も挙げられる。
【0055】
これらのアルキル化ベンズイミダゾロン化合物は、望ましくは両親媒性であり、顔料のベンズイミダゾロン基との水素結合が可能であり、かつ、顔料の分子間水素結合ネットワークを妨げ、それによって顔料の凝集および粒子の成長を阻止することができる可能性があり得る顔料に親和性のある基(ベンズイミダゾロン部分)を有する。その化合物は、また、その他の着色剤分子が接近してより大きい結晶を形成することを制限または追い払うことにも役立つ立体的バリヤ層を顔料表面に提供する嵩高い脂肪族基も含む。
【0056】
アルキル化ベンズイミダゾロン化合物の具体例としては、したがって、以下に限定はされないが、次の表2のものが挙げられる。
【0057】
【表6】

【0058】
【表7】

【0059】
【表8】

【0060】
【表9】

【0061】
表2におけるN−アルキル化5−アミドベンズイミダゾロン化合物(例として、項目1〜5参照)は、既知の化学変換を用いて5−アミノベンズイミダゾロンと適切なアルカン酸塩化物とから調製される。この転換に対する適切な手順は、例えば、ほぼ1:1のモル比で存在する5−アミノベンズイミダゾロンと適切なアルカン酸塩化物との反応を必要とする。アルカン酸塩化物反応物は、商業的供給源から得るか、または対応するアルカンカルボン酸前駆物質から、この前駆物質を、適切な溶媒、例えば無水のテトラヒドロフランまたはジクロロメタン等に溶解した触媒量のN,N−ジメチルホルムアミドの存在下で、塩化オキサリルまたは塩化チオニルのいずれかと反応させることによって調製することができる。その後のアミド形成反応は、無水のTHF中のアルカン酸塩化物の溶液を、0℃の適切な有機溶媒、好ましくは、N−メチルピロリジノン(NMP)等の両性の非プロトン性溶媒中の5−アミノベンズイミダゾロンの撹拌混合物に滴下して加えることによって行われる。その生成物は、抽出後処理および任意の再結晶または沈殿ステップの後、満足できる純度で得られる。
【0062】
表2における項目9〜12のN−アルキル化カルバメートまたはウレタンは、5−ヒドロキシベンズイミダゾロンをアルキルイソシアネートまたはポリイソシアネート、例えばオクタデシルイソシアネート(Sigma−Aldrichから入手)またはC−36二量体炭化水素酸のジイソシアネート誘導体(Henkel Corp.からDDI 1410(商標)として入手)等、と触媒量のジブチルスズジラウレートの存在下で穏やかに加熱する反応によって容易に調製される。
【0063】
表2の項目13〜20のようなベンズイミダゾロン化合物の5位の置換アミノ基またはアンモニウム基の調製も、5−アミノベンズイミダゾロンと、1.0〜3.0モル当量の、例えば、ハロゲンが、F、Cl、Br、Iから選択されるハロゲン化アルキル等の適切なアルキル化試薬;あるいは、例えば、対応する離脱基が、メシレート、トシレートまたはトリフレートアニオンであるアルキルメタンスルホネート(通常アルキルメシレートとして知られる)、またはアルキルパラ−トルエンスルホネート(通常アルキルトシレートとして知られる)、またはアルキルトリフルオロメタンスルホネート(通常アルキルトリフレートとして知られる)等のアルカンスルホネートまたはアレーンスルホネート試薬;あるいは、例えば、置換される離脱基が、アセテート、ホルメート、プロピオネート等であるアルキルアセテート、アルキルホルメート、アルキルプロピオネート等のカルボン酸の適切なアルキルエステルとの間のアルキル置換反応(または、アルキル化反応)による1ステップで生成される。上記の置換反応のための適切な極性の非プロトン性溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタンおよびその他のそのような極性の非プロトン性溶媒が挙げられる。アルキル化反応は、望ましいアルキル化の度合い、アルキル化剤の離脱基、および使用される反応溶媒によって、約0℃から約120℃まで、または、好ましくは約25℃から約100℃まで等の適切な温度で行われるが、その反応温度は、上記の範囲の外であることもできる。置換反応の加速のために場合によっては触媒を使用してもよく、適切な触媒としては、ハロゲン化塩、例えばヨウ化カリウムまたはヨウ化ナトリウム等が挙げられる。
【0064】
安定剤化合物としての芳香族酸誘導体は、概略の構造:
【化42】


を有しており、ここで、R〜Rの少なくとも1つが、立体的に嵩高い官能基であることを条件として、R〜Rの少なくとも1つは、−COOHまたは−CONHを表し、R〜Rの少なくとも1つは、水素を表す。したがって、例えば、芳香族酸誘導体は、安息香酸誘導体(Rが−COOHであり、R〜Rが水素および少なくとも1つの立体的に嵩高い基を構成する)、ベンズアミド誘導体(Rが−CONHであり、R〜Rが水素および少なくとも1つの立体的に嵩高い基を構成する)、イソフタル酸誘導体(RおよびRが−COOHであり、RがHであり、R〜Rが水素および少なくとも1つの立体的に嵩高い基を構成する)、イソフタルアミド誘導体(RおよびRが−CONHであり、RがHであり、R〜Rが水素および少なくとも1つの立体的に嵩高い基を構成する)、またはフタル酸誘導体(RおよびRが−COOHであり、R〜Rが水素および少なくとも1つの立体的に嵩高い基を構成する)であり得る。これらの芳香族酸誘導体化合物は、望ましくは、例えば、主に水素結合および/または芳香族πスタッキング相互作用により顔料の官能基と非共有的に会合するカルボン酸または第一級アミド部分等の顔料に親和性のある基を有する両親媒性の化合物である。
【0065】
顔料粒子の成長を引き起こす顔料粒子または分子の凝集を阻止または制限する立体的に嵩高い層またはバリヤを提供する立体的に嵩高い基のR〜Rのいずれもが、適切な脂肪族基であり得る。適切な立体的に嵩高い脂肪族基の例としては、さまざまな無極性または疎水性の上記の立体的に嵩高い基のすべてが挙げられる。立体的に嵩高い基の一部である官能性部分の具体例としては、Rが、1〜100、例えば1〜50または6〜30等の炭素原子の直鎖状、分枝状および/または環状のアルキル基を含む置換または非置換のアルキル基である式−COOR、−NHCOR、−OR、および−CONHRのものが挙げられ、式:
【化43】


【化44】


および
【化45】


のものを含む。その他の有用な基としては、より高い度合いの分枝をしている脂肪族炭化水素、環状炭化水素、ならびに、オリゴ−もしくはポリ−[エチレングリコール]等の直鎖状もしくは分枝状アルキレンオキシ鎖等を挙げることができる。
【0066】
芳香族酸誘導体の具体例としては、したがって、以下に限定はされないが、次の表3中のものが挙げられる。
【0067】
【表10】

【0068】
【表11】

【0069】
【表12】

【0070】
【表13】

【0071】
【表14】

【0072】
【表15】

【0073】
【表16】

【0074】
【表17】

【0075】
【表18】

【0076】
【表19】

【0077】
【表20】

【0078】
【表21】

【0079】
【表22】

【0080】
[(ベンゼン)−(C=O)−OR]部分におけるように、立体的に嵩高いエステル基により誘導される安息香酸およびイソフタル酸は、1,3,5−トリカルボニルベンゼントリクロリドを、約0.5〜約3.0当量の適切な立体的に嵩高い脂肪族アルコールと、適切な無水の溶媒、例えば、テトラヒドロフランまたはジクロロメタン中、トリエチルアミンもしくは第三級アルキルアミン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、または2,6−ジメチルピリジン等のヒンダード塩基の存在下で反応させることによって調製される。同様のやり方で、[(ベンゼン)−(C=O)−NHR]部分におけるような類似の置換アミドは、1,3,5−トリカルボニルベンゼントリクロリドの約0.5〜約3.0当量の立体的に嵩高いアルキルアミンとの同じ反応から形成される。水による反応の失活は、未反応の酸塩化物基を対応するカルボン酸基に転化し、一方、濃アンモニア/水酸化アンモニウムによる反応の失活は、ベンズアミド基またはイソフタルアミド基の形成をもたらす。
【0081】
[(ベンゼン)−NH(C=O)−R]部分におけるようなアミノアシル基を有する安息香酸またはイソフタル酸は、3,5−ジアミノ安息香酸メチルエステルおよびジメチル5−アミノイソフタレート等の適切な芳香族アミンと適切な立体的に嵩高い酸塩化物との間の反応を含む同様の手順を用いて調製され、その反応は、無水のテトラヒドロフランまたはジクロロメタン等の溶媒中、トリエチルアミンもしくは第三級アルキルアミン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、または2,6−ジメチルピリジン等のヒンダード塩基の存在下で行われる。3,5−アルコキシ安息香酸誘導体および5−アルコキシイソフタル酸誘導体は、3,5−ジヒドロキシ安息香酸メチルエステルおよびジメチル5−ヒドロキシイソフタレートの適切な立体的に嵩高いアルキル化剤とのアルキル置換(または、アルキル化)反応によって調製される。この反応のための適切な極性溶媒としては、n−ブタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、およびその他のそのような溶媒が挙げられる。アルキル化反応は、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウム等のマイルドな塩基の存在下で、望ましいアルキル化の度合い、アルキル化剤の離脱基、および使用される反応溶媒によって、約0℃から約120℃まで、または、約25℃から約100℃等の温度で行われる。そのアルキル化反応に続いて、そのメチルエステル基は、温かいメタノール中での水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムとの反応によって対応する遊離のカルボン酸基に転化させる。類似のベンズアミドおよびイソフタルアミドは、対応するカルボン酸から、前に記した標準手順を用いてそれらの酸塩化物基に先ず転化し、続いて濃アンモニア/水酸化アンモニウムにより失活させることによってその後、調製される。
【0082】
立体的に嵩高い脂肪族基を含有するフタル酸のエステルおよびアミド誘導体は、市販の無水トリメリット酸の酸塩化物を適切な立体的に嵩高いアルキルアミンまたはアルカノールと、テトラヒドロフランまたはジクロロメタン等の適切な無水の溶媒中、トリエチルアミン等のヒンダード塩基の存在下で反応させることによって調製した。その酸無水物は、その後、メタノール中でNaOHまたはKOHのいずれかにより加水分解することによって得られたフタル酸基に転化した。
【0083】
界面活性剤または表面添加剤は、ロジン天然産物、長鎖または分枝状炭化水素アルコール、アルコールエトキシレート、アクリル系ポリマ、スチレン系コポリマ、α−オレフィンのコポリマ、ビニルピリジンとビニルイミダゾールとビニルピロリジノンとのコポリマ、ポリエステルコポリマ、ポリアミドコポリマ、およびアセタールとアセテートとのコポリマからなる群から選択される。上記の安定剤、およびそれらの組合せは、いずれも、ナノスケール顔料粒子の調製において、0.5重量%から50重量%、または1重量%から25重量%まで変動する量で使用することができる。
【0084】
「ナノスケール」、「ナノスコープ」、または「ナノサイズ」に対してd50によって表される「平均の」顔料粒径は、150nm未満、または1nm〜120nm、または10nm〜100nmである。
【0085】
アゾ−ベンズイミダゾロン顔料のナノ粒子は、一般に1つ以上のプロセスステップで合成される。その顔料ナノ粒子は、合成中の反応媒体中で直接生成されるが、そのような顔料ナノ粒子の意図した用途のための表面の化学的性質を調整するために、任意の合成後の改良が可能である。そのバルクのアゾ−ベンズイミダゾロン顔料は、最初のプロセスにおいてジアゾ化およびカップリング反応を用いることによって合成し、次いで、その顔料の固形分は、第2のプロセスステップを用いて、その粗製のバルク顔料を、良溶媒を用いて分子状に溶解し、続いて非溶剤の制御された添加により顔料の沈殿を引き起こす顔料再沈殿法により、ナノ粒子の形態に変換することができる。また、ジアゾ化およびカップリングプロセスによるアゾ−ベンズイミダゾロン顔料ナノ粒子の直接合成も使用することができ、望ましい。これらのプロセスを、下のスキーム1および2において概略的に示す。
スキーム1:
【化46】


スキーム2:
【化47】

【0086】
上記のスキーム1および2における概略的反応で示されているもののようなアゾ−ベンズイミダゾロン顔料(本明細書では単にベンズイミダゾロン顔料と称する)のナノスケールの粒子を作製する方法は、少なくとも1つ以上の反応を含む直接合成プロセスである。ジアゾ化は、適切に置換されている芳香族アミンまたはアニリン前駆物質が、直接または間接的に、その対応するジアゾニウム塩に転化される重要反応ステップである。その通常の反応手順は、その前駆物質の水溶液を、亜硝酸HNO(亜硝酸ナトリウムの塩酸等の希薄な酸溶液との反応により、現場(in situ)で発生する)等の効果的なジアゾ化剤によるか、または市販されているかまたは濃硫酸中で亜硝酸ナトリウムを混合することによって調製することができるニトロシル硫酸(NSA)を用いて処理することを含む。そのジアゾ化反応は、酸性の水溶液中で、ジアゾニウム塩を熱的に安定に保つために冷たい温度で行われるが、室温で行うこともできる。その反応は、媒体中に溶解しているか、またはその媒体中に固体粒子として微細に懸濁しているジアゾニウム塩の形成をもたらす。
【化48】


【化49】

【0087】
第2の溶液または固体懸濁液は、ベンズイミダゾロンカップリング成分(最も普通には、上に示した構造CC1またはCC2)を、一般的には溶解を助けるためのアルカリ性溶液の水性媒体中に溶解または懸濁させることによって調製し、次いでその後、酸および/または塩基により処理して、そのベンズイミダゾロンカップリング成分をジアゾニウム塩溶液との反応に必要な緩衝化した酸性水溶液または緩衝化した微細な懸濁液にする。適切な酸、塩基および緩衝剤としては、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム、酢酸、および酢酸ナトリウムが挙げられる。カップリング剤の溶液または微細な懸濁液は、マイナーな共溶媒として、有機溶媒(例えば、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、メタノール、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等)等のその他の液体を含有することができる。その第2の溶液は、任意の界面活性剤、および前述の立体的に嵩高い安定剤化合物をさらに含有する。この第2の溶液は、ジアゾニウム塩溶液の周囲温度または約10℃から約75℃までのその他の適切な温度での制御された添加を含むカップリング反応である最後の反応ステップを行い、それによって水性スラリ状の懸濁した沈殿物としての顔料固形物を生成するためのより大きな容器に入れる。顔料粒子の品質および特性−例えば、平均の微結晶サイズ、粒子の形および粒子分布等−に影響を及ぼすいくつかの化学的および物理的プロセスパラメータが存在し、これらのプロセスパラメータとしては、反応物としての出発のジアゾ成分およびカップリング成分の相対的化学量論組成、反応物添加の順序と速度、合成において使用される任意の界面活性剤および/または立体安定剤化合物のタイプと相対量(負荷)、液体媒体中の化学種の相対濃度、液体媒体のpH、カップリング反応中の温度、撹拌速度、着色力を増すための加熱等任意の合成後のプロセスステップの能力、そしてまた、最後の粒子の回収および乾燥のための方法も挙げられる。
【0088】
単一のアゾ基を含むアゾ−ベンズイミダゾロン顔料の調製に対しては、出発のジアゾおよびカップリング成分は、ほぼ化学量論的な比(または1:1のモル比)で提供する。カップリング成分は、カップリング媒体中で限定された溶解性を有し得るのに対し、ジアゾ成分は一般に溶解し、カップリング成分のモル数に対して非常に小過剰のジアゾ成分、約0.01から約0.25モル当量まで、または約0.01から約0.10モル当量までの過剰のジアゾ成分を使用することが有利である。ほんのわずかなモル過剰のジアゾ成分を有することによって、不溶性のカップリング成分のすべてが顔料生成物に完全に転化される。その過剰のジアゾ成分は、次に最終生成物を洗浄することによって除去される。過剰の不溶性カップリング成分が使用される場合は、未反応のカップリング成分が最終の製品混合物中に残留し、洗浄によって除去することが困難で、ナノスケール顔料の特性に影響を及ぼす可能性がある。
【0089】
反応条件は、顔料粒子の品質および特性に影響を及ぼし得る。ジアゾ化反応に対して、液体媒体は、ジアゾ成分、すなわちジアゾニウム塩反応物の濃度が、約0.1M〜約1.0M、または約0.2Mから約0.80Mまで、または約0.30Mから約0.60Mまでを超えないように維持しなければならない。望ましくは水溶性で酸混和性試薬、例えば亜硝酸ナトリウムまたはニトロシル硫酸等であるジアゾ化剤の量は、使用されるジアゾ成分のモル量とほぼ化学量論的(または、1:1のモル比)であるべきであるが、非常に小過剰のジアゾ化剤を、ジアゾ成分前駆物質のモル数に対して、約0.005〜約0.20モル当量の過剰なジアゾ化剤の範囲内で使用してもよい。使用することができる酸のタイプとしては、塩酸および硫酸等の適切な鉱酸、ならびに酢酸およびプロピオン酸等の有機酸、またはさまざまな組合せを挙げることができる。着色剤の合成で使用されるジアゾ化反応に対して、その酸反応物は、反応性のニトロシル化種およびその反応において形成される結果としてのジアゾニウム塩を可溶化するための水溶液として供給される。酸反応物の濃度は、ジアゾ前駆物質(限定試薬)のモル数に対して過剰量で使用され、この量は、ジアゾ前駆物質のモル数に対して約1.5から約5.0まで、または約2.0〜約4.0過剰のモル当量の酸の範囲であり得る。
【0090】
ジアゾ化反応は、得られるジアゾニウム塩生成物が熱力学的に安定であることを確保するために低温で行う。そのジアゾ化反応は、約−10℃から約5℃まで、または約−5℃から約3℃まで、または約−1℃から約2℃までの温度で行われる。ニトロシル化剤が、上で開示した合計のジアゾニウム塩濃度を提供するように水溶液中に加えられ、このニトロシル化剤の水溶液がゆっくり加えられる速度は、その反応の規模によって変動し得る。その添加速度は、ジアゾ化反応の過程を通して約−10℃と約5℃の間または約−1℃〜約2℃に内部温度を維持することによって制御する。そのニトロシル化剤の完全な添加に続いて、ジアゾ化反応混合物は、約0.25時間から約2時間、撹拌することができる。
【0091】
スキーム1および2に示されているベンズイミダゾロン顔料の合成は、上で開示した仕様に従って調製したジアゾニウム塩溶液と微細に懸濁した混合物として反応させるカップリング成分(例えばCC1またはCC2)との間の不均一反応を含む。CC1等のカップリング成分は、ジアゾニウム塩とのカップリング反応(スキーム1および2に示されているステップ2)のために必要な弱酸の媒体中に不溶性である。そのカップリング成分は、アルカリ性pHの溶液では溶解できることが見出されるが、これらの条件は、ジアゾニウム塩とのカップリング反応に対しては、後者が、アルカリ性媒体中ではジアゾニウムカチオンの代わりにカップリング剤とは反応しないトランス−(または「アンチ」)ジアゾアセテートイオンを形成し得るために、有利ではない。
【0092】
カップリング反応ステップの不均一性のせいで、ベンズイミダゾロン顔料のそれが合成されている間の粒子の成長を制御することは難題である。微細に懸濁したカップリング成分CC1の走査電子顕微鏡(SEM)および透過電子顕微鏡(TEM)の両方を用いる画像化は、10〜150nmの間の幅および約100から約2000nmまでの範囲の相当に長い粒子の長さを有し、約5:1〜約50:1の大きなアスペクト比(長さ:幅)をもたらすことを明らかにしている。これは、適切なジアゾニウム塩との不均一なカップリング反応によるPigment Yellow 151のようなベンズイミダゾロン顔料のナノ粒子の形成が、2つの完全に溶解する顔料前駆物質の反応よりもより複雑なプロセスであることを示唆している。
【0093】
同様に、開示されている立体的に嵩高い安定剤化合物の多くも、それらは極性の水素結合基および水性媒体中の可溶化に抵抗する長鎖のアルキルも有する両親媒性の構造であるために、カップリング成分および/または顔料の不十分な溶解特性を有する。カップリング反応のステップが成功するためには、ジアゾニウム塩溶液の添加の前に、少なくとも2つの溶解性が乏しいか溶解しない成分−カップリング成分および立体的に嵩高い安定剤−の効果的な濡れおよび混合が起こらなくてはならない。ジアゾニウム塩と反応する前のカップリング成分混合物中で良好な混和性および濡れを有することによって、立体安定剤とカップリング剤との間の水素結合の相互作用の事前の形成が促進され、微細に懸濁されるカップリング成分の粒径および形態に有利に影響を及ぼすことができ、それは形成されて現れるベンズイミダゾロン顔料ナノ粒子の粒径および特性の制御に役立ち得る。
【0094】
実施形態のカップリング成分混合物は、ベンズイミダゾロン顔料を合成するための適切なカップリング成分、立体的に嵩高い安定剤化合物、アルカリ性塩基の成分、少なくとも1つの酸緩衝成分、および任意の有機溶媒を含んでいる。使用されるカップリング成分の量は、前に説明したように、ジアゾ成分と化学量論的(または1:1のモル比)である。しかしながら、カップリング成分は、カップリング媒体中で限定された溶解性を有し得るのに対し、ジアゾ成分は溶解し、カップリング成分のモル数に対して非常に小過剰の約0.01から約0.25モル当量まで、または約0.01から約0.10モル当量までの過剰のジアゾ成分を使用することができる。ほんのわずかなモル過剰を有することによって、不溶性のカップリング成分のすべてが顔料生成物に完全に転化される。アルカリ性塩基の成分は、カップリング成分を水溶液中に溶媒和化し、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム等の無機塩基から、あるいは、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエチルアミノエタノール、Dytekシリーズのアミン、DABCO(1,8−ジアゾビシクロ[2.2.2]オクタン)等を含む第三級アルキルアミン等の有機非求核性塩基から選択される。カップリング成分のモル数に対して、塩基の過剰が、約2.0から約10.0まで、または約3.0から約8.0までのモル当量で変動するアルカリ性塩基の成分の過剰量を使用することができる。酸成分は、塩基成分およびカップリング成分を中和し、緩衝処理した水性媒体中のカップリング成分の微細な再沈殿を引き起こす。普通の無機酸および有機酸、例えば、塩酸または酢酸等を使用することができ、カップリング成分混合物を準備するために使用したアルカリ性塩基の成分の合計量に対して1:1のモル比が使用され、それは、弱酸性の緩衝媒体を提供する。
【0095】
立体安定剤化合物は、固体または液体の形で、あるいは有機溶媒中の溶液としてカップリング混合物中に直接導入することができる。加えられる立体安定剤化合物の量は、その立体安定剤が有機溶媒中に分散、乳化または溶解できる形にされる限りは変化させることができ、ベンズイミダゾロン顔料の最終収量(質量)を基準として、約0.01重量%から約50重量%まで、または約0.5重量%から約25重量%まで、約5重量%から約10重量%までであり得る。適切な有機溶媒を、それがジアゾニウム塩反応物または残留ニトロシル化種と反応しないことを条件として、使用することができ、例としては、脂肪族アルコール、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ジメチルスルホキシド、エチルメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジノン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、アルキレングリコール、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、Dowanol(登録商標)等およびそれらのモノ−またはジ−アルキルエーテル、等が挙げられる。特に適切な溶媒としては、脂肪族アルコール、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールおよびn−ブタノール、ジメチルスルホキシド、およびテトラヒドロフラン、またはそれらの組合せが挙げられる。任意の有機溶媒の量は、カップリング成分混合物の合計液体体積を基準として約0から約50体積%まで、好ましくは約2から約20体積%までの範囲であり得る。
【0096】
立体的に嵩高い安定剤化合物は、ジアゾニウム塩前駆物質を添加する前に、カップリング媒体中に予め分散または乳化することができる。そのカップリング成分混合物は、いくつかの方法で調製することができるが、そのプロセスの一定の態様は基本的に同じである。例えば、カップリング成分は、アルカリ性塩基の水溶液中に先ず溶解することができ、安定剤は、カップリング成分の同じアルカリ性溶液中に直接溶解または分散させることができ、あるいは有機溶媒中、または別の溶液中に溶解または分散させて、それを次にカップリング成分混合物中に移すことができる。安定剤化合物の分散、乳化または可溶化を促進するために、任意の有機溶媒の存在下であっても、加熱または高せん断混合を使用することができる。良好な分散のためには、安定剤を水性カップリング媒体中に、10〜100℃の範囲の温度で組み込むことが有利である。その安定剤は、また、約3から12までの範囲のpHの水性カップリング媒体に導入することができる。立体安定剤を添加するカップリング媒体のpHは、その特定の安定剤の酸または塩基に対する安定性次第であり得、そのpHは、約1から14までの範囲であり得る。その安定剤は、pHが2〜9、または4〜7の間で変化するカップリング混合物に加えることができる。その安定剤は、適切な混合および分散が起こり得る限りは、カップリング混合物に任意の適切な速さで加えることができる。
【0097】
ジアゾニウム塩溶液との効果的なカップリング反応を確保するもの(換言すれば、ベンズイミダゾロン顔料のナノスケールの粒子を提供するもの)としては、1)カップリング成分混合物を調製するための反応物の添加順序、および2)カップリング反応における反応物(すなわち、ジアゾニウム塩、カップリング成分、および立体安定剤)の添加順序が挙げられる。その他のプロセスパラメータ、例えば、撹拌速度、pHおよびカップリング反応ステップ中の温度等が、効果的な顔料のナノ粒子の形成を確かなものにする。
【0098】
反応物の添加の順序は、1)立体安定剤(そのまままたは有機溶媒中のいずれか)をカップリング成分のアルカリ溶液中に直接加え、その後酸成分を加えて緩衝処理した酸性媒体中でカップリング成分の微細な再沈殿を引き起こすか、または2)カップリング成分のアルカリ溶液および立体安定剤(そのまままたは有機溶媒中のいずれか)を、用意した酸成分の水溶液に別々に連続して加え、酸性条件下で立体安定剤化合物を存在させてカップリング成分の微細な再沈殿を引き起こすものであり得る。これらのプロセスにおいては、両方とも、カップリング成分は、非共有的に会合した立体安定剤化合物を含む微粒子懸濁液の状態となっている。
【0099】
最終のカップリング反応に対して、立体安定剤が存在する中でのこれらの主要な反応物の添加の順序および速さは、最終のベンズイミダゾロン顔料粒子の物理的および性能特性に対して影響を有し得る。複数の実施形態において、本明細書では、「連続的添加」(図2における方法A)および「同時添加」(図4における方法B)と称されるベンズイミダゾロン顔料ナノ粒子を形成するための2つの異なる一般的方法が開発された。方法Aは、工業的顔料製造においてより普通に実施されるステップを含み、そこでは、2つの顔料前駆物質(ジアゾおよびカップリング成分)が、最終のカップリング反応を行うために、分散または乳化した立体安定剤化合物を既に含有する最後の反応混合物に時を異にして連続して加えられる。
【0100】
方法Aにおいて、微細に懸濁したカップリング成分とジアゾ成分の間のカップリング反応は、不均一であり、言い換えると、顔料前駆物質の1つ(多くの場合そのカップリング成分)は固相として存在し、一方別の顔料前駆物質(そのジアゾニウム塩)は、完全に溶解性である。立体的に嵩高い安定剤化合物は、ジアゾニウム塩溶液の添加の前に、カップリング混合物中に導入する。その立体安定添加剤の物理的形態は、この不均一カップリング反応の反応動力学における役割を果たすことができるが、立体安定剤のその反応混合物中の水素結合性の界面活性剤としての存在が、顔料ナノ粒子の形成をもたらす。例えば、方法Aに従い、m=11およびn=9である表1の立体安定剤化合物#23を用いるPigment Yellow 151の合成において、形成された粒子は、短くなった棒状の一次粒子で、図3に示されているような凝集体であり、約2から約5までの範囲の長さ:幅のアスペクト比を有することがSEM/STEM画像形成により観察され、動的光散乱により測定すると、約50nmから約200nmまで、より典型的には約75nmから約150nmまでの範囲である平均粒径を有した。
【0101】
方法Bは、予め分散または乳化した立体安定剤化合物を含有する最終反応混合物中に同時に添加される主要な顔料前駆物質としてのジアゾ成分(酸性)およびカップリング成分(アルカリ性である)の両方の均一な溶液の添加を含む。
【0102】
方法Bの利点は、カップリング媒体中の大量の緩衝溶液を必要とすることなく、2つの顔料前駆物質の均一な溶液が、より制御できる希薄条件下で混合されることであるが、カップリング反応の速度が2つの成分の混合の速度より速いことが条件である。その顔料生成物は、反応媒体中で沈殿するナノ粒子として形成される。その顔料ナノ粒子は、真空濾過もしくは交差流濾過(crossflow filtration)または遠心分離等の標準的な操作によって回収することができ、凍結乾燥等の非加熱方法によって乾燥する。図3は、表3の立体安定剤化合物#31の存在下で同時添加方法(B)によって合成したPigment Yellow 151ナノ粒子のSEM画像であり、それは、約2から約5までの範囲の長さ:幅のアスペクト比、および動的光散乱により測定して、約75nmから約150nmまでの範囲の平均粒径を有する短くなった小板ナノ粒子(platelet nanoparticles)および凝集体を明らかにしている。
【0103】
反応物流の添加の速度は、カップリング反応ステップを通して一定に保たれ、反応の規模、良好な反応を確保する内部温度、pHおよび低粘度を調整する能力に応じて、約1.0mL/分から約5mL/分までの範囲であり得る。
【0104】
カップリング反応混合物の内部温度は、ベンズイミダゾロン顔料ナノ粒子の水性スラリを生成させるためには、約10℃から約60℃まで、または約15℃から約30℃の範囲であり得る。30℃より高い内部温度は、最終顔料の粒径が望ましくないように増加する原因となり得る。化学反応を加熱する利点として、速い反応時間およびベンズイミダゾロン顔料の色の発現のような最終生成物の成長が挙げられるものの、加熱は、望ましくない粒子の凝集および結晶粒粗大化(coarsening)を促進することが知られている。pHは、約2〜約7、または約3.5〜約6.5の範囲に維持することができる。pHがこの範囲の外である場合、副反応が起こって、除去することが困難であり、最終生成物の特性を変化させる可能性のある望ましくない副生成物の形成がもたらされ得る。
【0105】
反応を速めるために、内部温度を高めることに代わるものは、撹拌速度を高めることである。顔料が形成される際、その混合物はかなり増粘し、十分な混合を達成するためには強力な機械的撹拌を必要とする。スラリの粘度を非常に少量の界面活性剤、例えば、数滴の2−エチルヘキサノールを加えることによって低下させることが可能であり得、それはまた、特により大きな規模のこの反応において有益な脱泡効果を提供することもできる。粘度および発泡を制御するための界面活性剤の利点と組み合わされた反応混合物を激しく撹拌している間に出されるせん断力は、また、顔料ナノ粒子の粒度および粒度分布を低下させる相乗的な利点も提供することができる。
【0106】
方法AおよびBは、両方とも、適切な立体的に嵩高い安定剤化合物および任意の共溶媒の使用と組み合わせて、粒径および粒度分布の制御を可能とし、そして望ましい顔料ナノ粒子を形成するさまざまな有利なプロセス上の特性を提供する。立体的に嵩高い安定剤および任意の共溶媒がない状態では、方法A(連続的添加)も方法B(同時添加)もナノ粒子が優勢のベンズイミダゾロン顔料は生成せず、その代わり、平均粒度(動的光散乱によって測定されるZ平均)でサブミクロンサイズの約150nmから1000nm前後のマイクロスケールの粒径まで変動する広い分布の細長い棒状の顔料粒子および凝集体を生成する。
【0107】
顔料ナノ粒子のスラリは、これ以上処理も加工もせず、代わりに真空濾過または遠心分離法によって直ちに分離する。色発現を助けるために濃酢酸中で製品を煮沸することを必要とした既知のプロセスに反して、立体的に嵩高い安定剤化合物が使用される場合はそのような後からの処理は必要ない。その顔料固形分は、顔料の粒子表面としっかりと会合または結合していない過剰な塩または添加剤を除去するために、脱イオン水で存分に洗浄することができる。その顔料固形分は、熱によるバルク乾燥の間の一次ナノ粒子の融合を防ぐために、高真空下の凍結乾燥によるか、または約25〜50℃の温度での真空オーブン乾燥によって乾燥させる。得られる顔料は、TEM(透過電子顕微鏡)によって画像化すると、約50nmから約150nmまで、または約75nm〜約125nmの長さを有する棒状のナノ粒子を示す主にナノスケールの一次粒子およびゆるく塊になった高品質のナノスケールの粒子凝集体からなる。これらの粒子を、n−ブタノール中のコロイド分散体として、動的光散乱技術によって、平均粒径、Z平均またはd50について測定したとき、その値は、約80nmから約200nmまで、大部分は約100nmから約150nmまでの範囲であった。ここで、平均粒径d50またはZ平均は、液体分散の中でブラウン運動により回転して形を変えている非球形顔料粒子の流体力学半径を、動いている粒子から散乱される入射光線の強度を測定することによって測定する光学技術の動的光散乱によって測定されることを述べておかなければならない。
【0108】
上記の方法を用いるナノスケールのベンズイミダゾロン顔料粒子の形状は、棒状であるが、小板(platelet)、針状、角柱状、実質的な球状等、いくつかのその他の形態の1つ以上であることができ、ナノスケール顔料粒子のアスペクト比は、1:1から約10:1まで、または1:1と5:1の範囲であり得る。
【0109】
より小さい粒径を有するPigment Yellow 151およびPigment Red 175等のベンズイミダゾロン顔料の顔料粒子を、立体的に嵩高い安定剤を使用しない界面活性剤単独の使用(例えば、ロジンタイプの表面剤のみを使用)により、採用される濃度およびプロセス条件によっては、上記の方法によって同様に調製することもできようが、その顔料生成物は、ナノスケールの粒子を主に示すことはなく、またその粒子は均一な形態を示さないであろう。立体的に嵩高い安定剤化合物を使用しない場合、上記の方法は、平均粒子直径が150nmから1000nmを超え、約5:1を超える大きな(長さ:幅の)アスペクト比を有する幅広い分布の細長い棒状の粒子の凝集体を一般に生成する。そのような粒子は、コーティング応用のためのマトリックス中に湿潤および/または分散させるのがどちらも非常に困難であり、一般に不十分な色特性を与える。適切な立体的に嵩高い安定剤化合物の、場合によって少量のロジンタイプの界面活性剤またはアルコールエトキシレート等の適切な界面活性剤と組み合わせた使用は、前述の合成方法を用いることにより、ナノスケールの寸法、より狭い粒径分布、および約5:1未満の低いアスペクト比を有する最小の顔料粒子を提供するであろう。
【0110】
有利な点としては、ベンズイミダゾロン顔料の粒径および意図した最終用途適用のための組成を調製する能力が挙げられ、その用途は、相変化、ゲルベースおよび放射線硬化性のインク、固形および無極性液体インク、溶剤系インクと水性インクおよびインク分散体を含めたトナーおよびインクならびにコーティング等である。圧電式インクジェット印刷における最終用途の適用に対して、ナノスケール粒子は、信頼できるインクジェット印刷を確保し、顔料粒子の凝集によって引き起こされる噴射の妨害を防ぐために有利である。ナノスケール顔料粒子は、印刷された画像の高められた色特性を提供するためにも有利である。
【0111】
形成されたナノスケール顔料粒子組成物は、さまざまなインク組成物中、例えば、通常のペン、マーカ等で使用されるインクを含めた液状(水性または非水性)インクビヒクル中等、液体インクジェットインク組成物、固形または相変化インク組成物等における着色剤として使用することができる。例えば、その有色のナノ粒子は、約60℃〜約130℃の融解温度を有する固形および相変化インク、溶剤系液体インクまたはUV硬化性等の放射線硬化性液体インク、および水性インクさえも含めたさまざまなインクビヒクル中に配合することができる。
【0112】
そのナノスケールのベンズイミダゾロン顔料粒子組成物は、その組成物に特定の色を提供することが求められるさまざまなその他の用途で使用することができる。例えば、組成物は、塗料、樹脂、レンズ、光学カラーフィルタ、印刷インク等のための着色剤として使用することができる。組成物はトナー組成物用に使用することができる。そのトナー粒子は、キャリヤ粒子と順次混合して現像剤組成物を形成することができる。そのトナーおよび現像剤組成物は、さまざまな電子写真印刷システムにおいて使用することができる。
【0113】
ベンズイミダゾロン顔料のナノスケール粒子組成物は、光または電子導電性材料およびデバイスを利用するさまざまなその他の用途で使用することができる。有機光導電性材料は、光受容体層デバイスにおける画像形成部材として使用される。かかるデバイスは、フィルム形成性ポリマバインダ中に分散された有機顔料および染料を含み、溶媒コーティング技術によって一般に加工することができる電荷発生層を一般に含む。多くの場合、これらの顔料、特に有機顔料の結晶形は、光で誘起される電荷発生に対して強い影響力を有する。
【0114】
ベンズイミダゾロン顔料のナノスケール粒子組成物は、(染料で感光性にする)太陽電池における有機光導電性材料として使用することができよう。ナノ顔料は、光を受けると電子正孔対を発生する光受容層として機能する層中に単独でまたは他の材料との組合せで組み込むことができる。これらの用途に対して顔料は染料の代わりに使用することができ、その場合、ナノスケールの粒子径を有する顔料は、光導電層内のより容易な処理可能性および分散のおかげで好ましい。その上、そのようなナノスケールの材料は、粒径がナノスケールの寸法であるときは、場合によっては、表示サイズを調節できる光学および電子特性を有する。
【0115】
ベンズイミダゾロンナノ粒子のその他の応用としては、生物学的/化学的検出のためのセンサにおけるそれらの使用が挙げられる。有機ナノ粒子は、大きさを調節できる光学的および電子的特性を有することが実証されている。ベンズイミダゾロンナノ粒子の薄膜は、ナノ粒子の光学的および/または電子的特性における変化に基づく変換スキームを用いる単純で有用なセンサプラットフォームとして役立つことができる。例えば、ベンズイミダゾロン顔料は高度に着色されている。そのナノ粒子の色特性は、揮発性の有機化合物等の一定の化学検体の存在によって影響され得る。同様に、ベンズイミダゾロン分子の水素結合基も、補足的な水素結合基を有するナノスケールの生物学的存在に対する分子認識が可能な部位を提供することができる。ナノ粒子とナノスケールの生物学的存在、例えば、DNA、RNA、タンパク質、酵素等との間の結合事象は、UV−Vis、FT−IR、ラマン、および/または蛍光分光法等の光学分光技術を用いて検出することができる。
【実施例】
【0116】
(比較例1)
<ドイツ国特許DE3140141の方法を用いるPigment Yellow 151の合成>
2.0g(14.5mmol)のアントラニル酸、35mLの脱イオン水、および8.5mLの5Mの塩酸を、温度計を備えた丸底フラスコ中で磁気撹拌により混合した。その透明な溶液を0℃より下まで冷却し、その後6mLの脱イオン水に溶解したNaNO(1.058g、15.33mmol)の溶液を、その反応混合物に内温を0℃より下に維持する速さでゆっくり加えた。その冷たいジアゾニウム塩溶液をさらに1時間維持した後、以下のカップリング剤混合物と反応させた。5−アセトアセチルアミノ−2−ベンズイミダゾロン(3.473g、14.9mmol、TCI Americaから入手)を、1.715gのNaOHの10mLの脱イオン水中の溶液に最初に溶解して淡黄色の溶液を生じさせた。別の500mLの樹脂反応槽(resin kettle)に、脱イオン水(195mL)、氷酢酸(6mL)、およびNaOH(2.29g)の順序で加え、その混合物を撹拌して溶解させた。そのカップリング剤のアルカリ性溶液を、次に、勢いのある機械撹拌下で樹脂反応槽中の緩衝溶液に滴下しながら移し、それにより沈殿したカップリング剤の微細な白色懸濁液を形成した。
【0117】
この白色の懸濁液に、冷たいジアゾニウム塩溶液を、室温および勢いのある機械撹拌下でゆっくり加え、それにより黄色のスラリを形成させた。室温で数時間撹拌した後、その黄色の固体を0.8ミクロンの細孔の大きさのVersapor(登録商標)フィルタ膜(Pall Corp.から入手)を用いる真空濾過によって集め、脱イオン水により濾液が6.0のpHを有するまで洗浄した。その黄色のウェットケーキを脱イオン水中に再スラリ化し、48時間凍結乾燥し、4.60g(83%の収率)の明るい黄色粉末を提供した。その顔料のTEM顕微鏡は、100〜400nmの範囲の平均粒子直径(長さ)を有する細長い棒を示した。
【0118】
(比較例2)
<Pigment Yellow 151の合成(非イオン性表面剤の存在下)>
250mLの丸底フラスコに、アントラニル酸(3.0g、Sigma−Aldrich、Milwaukee、WIから入手できる)、脱イオン水(40mL)および5MのHCl水溶液(10mL)を加える。その混合物を室温ですべての固体が溶解するまで撹拌し、次いで0℃に冷却する。亜硝酸(1.6g)の溶液を脱イオン水(5mL)に溶解し、次に、アントラニル酸の溶液に、0〜5℃の混合物内の内部温度範囲を維持する速さで滴下して加える。ジアゾ化が完了したら、その溶液をさらに0.5時間撹拌する。カップリング成分のための2番目の混合物を、250mLの容器に脱イオン水(40mL)および水酸化ナトリウム(2.8g)を加え、撹拌して溶解させ、次にこの溶液に勢いよく撹拌しながら5−(アセトアセトアミド)−2−ベンズイミダゾロン(5.25g、TCI America、Portland、ORから入手できる)を加え、続いてその後、非特異性表面剤としての2−エチルヘキサノール(4mL、Sigma−Aldrich、Milwaukee、WIから入手できる)を加えることにより調製する。氷酢酸(7.5mL)、5MのNaOH溶液(15mL)および脱イオン水(80mL)を含有する別の溶液を、次に、カップリング成分のアルカリ溶液中に、勢いよく撹拌しながら滴下して加えると、その後そのカップリング成分は粒子の白色懸濁液として沈殿し、その混合物は弱酸性となる。冷たいジアゾ化した混合物を、勢いよく撹拌しながらカップリング成分の懸濁液中に滴下してゆっくり加え、顔料固形物の暗黄色のスラリを生成させ、それを室温でさらに2時間撹拌すると、その時間の後は、その顔料は明るい黄色である。その顔料固形分を真空濾過によって集め、3容積の脱イオン水(それぞれ200mL)により、次にメタノール(50mL)ですすぎ、最終のすすぎは脱イオン水(50mL)を用い、最後に凍結乾燥させる。顔料の鮮やかな黄色の顆粒が得られ、TEM画像は、約100nmから約250nmまでの範囲の粒子直径を有する小さめの棒の形をした粒子の凝集体を示す。
【0119】
(実施例1)
<表1中の立体安定剤#20の合成>
【化50】


100mLの丸底フラスコに、1.02g(6.09mmol)のピリジン−2,6−ジカルボン酸(Sigma−Aldrich、Milwaukee、WIから入手できる)を加え、それを20mLの無水のTHF中に室温の不活性雰囲気下で撹拌することにより懸濁させる。2.2mL(0.0252mol)の塩化オキサリルを次に滴下してゆっくり加え、その後、3滴のN,N−ジメチルホルムアミドを加える。10分後、その固体は完全に溶解し、室温での撹拌をさらに1時間継続する。溶媒を次に回転蒸発によって除去し、真空中で乾燥させる。
【0120】
250mLの丸底フラスコに4.10g(0.0115mol)の9−(3−アミノプロピルオキシ)−オクタデカン(Air Products Ltd.の1事業部のTomah3 productsから入手)を加え、不活性雰囲気のガス(NまたはAr)によりパージした。40mLの無水のTHFを次に加え、その溶液を0℃まで冷却する。20mLの無水のTHF中の2,6−ピリジンジカルボン酸ジクロリド(ステップA)の冷却した溶液を、次に、そのアミンを含有する溶液に滴下してゆっくり加える。2.5mL(0.0179mol)のトリエチルアミンを加え、その反応物をゆっくりと室温まで温める。12時間の撹拌後、10mLの脱イオン水および40mLの酢酸エチルを加える。底部の水層を分離し、有機層を2つの20mlのアリコートの水により洗浄する。溶媒を次に回転蒸発により除去し、生成物を真空中で乾燥して、表1の立体安定剤生成物#20を粘稠な琥珀油として生じさせた(4.85g、95%)。
【0121】
(実施例2)
<表1の立体安定剤#23(m=7、n=9)の合成>
【化51】


100mLの丸底フラスコに、1.04g(0.00623mol)のピリジン−2,6−ジカルボン酸(Sigma−Aldrich、Milwaukee、WIから入手できる)を加え、それを20mLの無水のTHF中に室温の不活性雰囲気下で撹拌することにより懸濁させた。2.2mL(0.0252mol)の塩化オキサリルを次に滴下してゆっくり加え、その後、4滴のN,N−ジメチルホルムアミドを加える。15分後、その固体は完全に溶解し、室温での撹拌をさらに1時間継続する。溶媒を次に回転蒸発によって除去し、真空中で乾燥させる。
【0122】
100mLの丸底フラスコ中で、2,6−ピリジンジカルボン酸ジクロリド(ステップA由来)を不活性雰囲気中で5mLの乾燥THF中に撹拌して溶解する。無水のTHF中の2−オクチルドデカノール(Sasol America、TXからISOFOL20として入手)の2.49M溶液の6mLを、次にその酸塩化物溶液に加え、その後、その反応物を加熱して1.5時間還流させる。その反応物を室温まで冷却し、少量の水を加えて未反応の酸塩化物を失活させる。過剰の溶媒を回転蒸留によって除去し、表1の立体安定剤生成物#23(m=7、n=9)を粘稠な黄色油として生じさせる(4.54g、100%)。
【0123】
(実施例3)
<表3の立体安定剤#8および#31の合成>
【化52】


【化53】


コンデンサを備えた50mLの丸底フラスコに、562mg(1.28mmol)の1,3,5−ベンゼントリカルボニルトリクロリド(Sigma−Aldrich、Milwaukee、WIから入手できる)、および631mg(2.58mmol)の2−オクチルドデカノール(Sasol America、TXからISOFOL20として入手できる)を加える。次に不活性雰囲気下で2mLのTHFを撹拌しながら加えて透明な溶液を生じさせる。その反応物を加熱して40分間還流させ、次いで室温まで冷却し、溶媒を次に回転蒸発によって除去する。得られた粗製の白色固体を、ヘキサン中0〜100%酢酸エチルの勾配により溶離するシリカゲルクロマトグラフィにより精製する。精製後、600mgの立体安定剤化合物#8をワックス様固体として単離し(58%)、158mgの副生成物としての立体安定剤化合物#31も粘稠な油状物の形で同様に単離する(19%)。
【0124】
(実施例4)
<Pigment Yellow 151ナノ粒子の合成(立体安定剤としてステアリン酸アミドを含む)>
250mLの丸底フラスコに、アントラニル酸(3.0g、Sigma−Aldrich、Milwaukee、WIから入手できる)、脱イオン水(40mL)および5MのHCl水溶液(10mL)を加える。その混合物を室温ですべての固体が溶解するまで撹拌し、次いで0℃に冷却する。亜硝酸ナトリウム(1.6g)の溶液を脱イオン水(5mL)に溶解し、次に、アントラニル酸の溶液に、0〜5℃の混合物内の内部温度範囲を維持する速さで滴下して加える。ジアゾ化が完了したら、その溶液をさらに0.5時間撹拌する。カップリング成分のための2番目の溶液を、250mLの容器に脱イオン水(30mL)および水酸化ナトリウム(2.8g)を加え、撹拌して溶解させ、次にこの溶液に勢いよく撹拌しながら5−(アセトアセトアミド)−2−ベンズイミダゾロン(5.25g、TCI America、Portland、ORから入手できる)を加えることにより調製する。テトラヒドロフラン(20mL)に溶解したステアリン酸アミド(1.6g、Sigma−Aldrich、Milwaukee、WIから入手できる)の温かい溶液をその混合物に加える。氷酢酸(7.5mL)、5MのNaOH溶液(15mL)および脱イオン水(80mL)を含有する別の溶液を、次に、カップリング成分のアルカリ溶液中に、勢いよく撹拌しながら滴下して加えると、その後そのカップリング成分は白色粒子の懸濁液として沈殿し、弱酸性となる。冷たいジアゾ化した混合物を、勢いよく撹拌しながらカップリング成分の懸濁液中に滴下してゆっくり加え、顔料固形物の暗黄色のスラリを生成させ、それを室温でさらに2時間撹拌すると、その時間の後は、その顔料は明るい黄色である。その顔料固形分を小さい細孔の大きさ(800nm以下)を有する膜織物を通す真空濾過によって集め、3容積の脱イオン水(それぞれ200mL)により、次にメタノール(50mL)ですすぎ、最終のすすぎは脱イオン水(50mL)を用い、最後に凍結乾燥させる。顔料の鮮やかな黄色の顆粒が得られ、TEM画像は、約40nmから約150nmまでの範囲の粒子直径で大部分の粒子が約100nm未満の長い直径を有している、低いアスペクト比を有する小さい棒の形をした粒子の凝集体を示す。
【0125】
(実施例5)
<立体安定剤の存在する方法A(連続的添加)によるPigment Yellow 151ナノ粒子の合成>
0.72gのアントラニル酸(5.25mmol)、10mLの脱イオン水、および2.6mLの5Mの塩酸を、温度計を備えた3口丸底フラスコ中で混合する。得られた透明な溶液を0℃に冷却した後、1mLの氷で冷やした5.9MのNaNO水溶液(5.93mmol)を、内温を0℃より下に維持する速度で加える。その溶液を少なくとも30分間0℃で撹拌した後、次の方法で用意したカップリング成分の水性酸性懸濁液に室温で滴下して加える。
【0126】
0.21g(0.25mmol)の実施例1の立体安定剤化合物(理論顔料収量の10重量%)を、1.21g(5.19mmol)の5−アセトアセチルアミノ−ベンズイミダゾロン(TCI Americaから入手)、7.2mLの5Mの水酸化ナトリウム水溶液、および76mLの水と共に急速な機械撹拌により乳化する。その後、2.2mLの濃氷酢酸をその混合物に加える。
【0127】
一晩の撹拌に続いて、その黄色の顔料固形分は、Supor0.8μmフィルタ膜織物(PALL Corp.から入手)を通す真空濾過によって集める。その顔料のウェットケーキを脱イオン水中に2回再スラリ化し、真空濾過により単離した後、凍結乾燥して明るい黄色の粉末(2.0g)を提供する。その試料の電子顕微鏡分析(SEM/STEM)は、大部分が一次ナノ粒子の短い小板と、いくらかのナノスケールの幅を有する棒様の粒子も示した。その試料のコロイド溶液(n−BuOH、0.01mg/mL)の動的光散乱(DLS)分析は、101nmの平均流体力学直径(d50)を示した(PDI=0.235)。
【0128】
(実施例6)
<立体安定剤の存在する方法A(連続的添加)によるPigment Yellow 151ナノ粒子の合成>
アントラニル酸(1.8g、13mmol)、脱イオン水(30mL)、および5Mの塩酸(6.5mL)を、温度計を備えた3つ口の丸底フラスコに入れて混合する。その透明な溶液を0℃より下まで冷却した後、冷たい5.7MのNaNO水溶液(2.5mL、15.7mmol)を、内温を0℃より下に維持するような速度で加える。得られた冷たいジアゾ溶液は、次の方法で用意されるカップリング成分の水性酸性懸濁液に室温で滴下して加える。
【0129】
溶融した実施例2に記載の立体安定剤(0.5g、0.686mmol)を、5−アセトアセチルアミノ−ベンズイミダゾロン(3.05g、13mmol、TCI Americaから入手)、5Mの水酸化ナトリウム水溶液(18mL)、および脱イオン水(200mL)と共に勢いのある機械撹拌下で乳化する。その後、5.5mLの濃氷酢酸をそのエマルジョン混合物に加える。
【0130】
一晩の撹拌に続いて、その黄色の顔料固形分は、Supor0.45μmフィルタ膜織物(PALL Corp.から入手)を通す真空濾過によって集める。その顔料のウェットケーキを脱イオン水中で2回再スラリ化し、真空濾過により単離した後、凍結乾燥して明るい黄色の粉末(4.80g)を提供する。その試料の電子顕微鏡分析(SEM/STEM)は、少しの棒様のナノ粒子の凝集体に加えて大部分が一次ナノ粒子の短い小板であることを示した。その試料のコロイド溶液(n−BuOH、0.01mg/mL)の動的光散乱(DLS)分析は、143nmの平均流体力学直径(d50)を示した(PDI=0.186)。
【0131】
(実施例7)
<立体安定剤の存在する方法B(同時添加)によるPigment Yellow 151ナノ粒子の合成>
アントラニル酸(0.72g,5.25mmol)、脱イオン水(10mL)、および5Mの塩酸(2.6mL)を、温度計を備えた3つ口の丸底フラスコ中で混合する。その得られた透明な溶液を0℃より下まで冷却した後、冷たい5.8MのNaNO水溶液(1mL、5.76mmol)を、内温を0℃より下に維持するような速度で加える。このジアゾ溶液を0℃より下で30分間撹拌させる。
【0132】
カップリング成分混合物は、次のやり方で別々に用意した:5−アセトアセチルアミノ−ベンズイミダゾロン(1.21g、5.19mmol、TCI Americaから入手)を、5Mの水酸化ナトリウム水溶液(3mL)および脱イオン水(10mL)中に勢いのある機械撹拌下で溶解する。実施例3に記載の立体安定剤化合物(0.18g、0.234mmol)を温かいイソプロパノール(3mL)中に溶解し、5MのNaOH(4.2mL)および脱イオン水(66mL)に勢いのある機械撹拌下で加えて良好な分散液を生じさせる。2.2mLの濃氷酢酸を次に加え、その分散液を室温まで冷却する。別々のジアゾニウム塩溶液およびカップラ溶液を、上記の立体安定剤を含有する酸性の分散液に、ゆっくりと同じ添加速度で同時に加える。
【0133】
一晩の撹拌に続いて、その黄色の顔料固形分は、Supor0.8μmフィルタ膜織物(PALL Corp.から入手)を通す真空濾過によって集める。その顔料のウェットケーキを脱イオン水により2回再スラリ化し、真空濾過により単離した後、凍結乾燥して明るい緑黄色の粉末(1.72g)を得る。その試料の電子顕微鏡分析(SEM/STEM)は、大部分が短い小板および棒様のナノ粒子であることを示した。その試料のコロイド溶液(n−BuOH、0.01mg/mL)の動的光散乱(DLS)分析は、128nmの平均流体力学直径(d50)を示した(PDI=0.179)。
【0134】
(実施例8)
<立体安定剤の存在する方法B(同時添加)によるPigment Yellow 151ナノ粒子の合成>
アントラニル酸(1.79g,13.1mmol)、脱イオン水(33mL)、および5Mの塩酸(7mL)を、温度計を備えた3つ口の丸底フラスコ中で混合する。その透明な溶液を0℃より下まで冷却した後、冷たい2.9MのNaNO水溶液(5mL、14.3mmol)を、内温を0℃より下に維持するような速度で加える。この溶液を0℃より下で30分間撹拌させる。
【0135】
カップリング成分混合物は、次の方法で用意した:5−アセトアセチルアミノ−ベンズイミダゾロン(3.05g、13.1mmol、TCI Americaから入手)を、8mLの5Mの水酸化ナトリウム水溶液および26mLの脱イオン水中に、急速な機械撹拌により溶解する。溶融したオクタデカンアミド(0.246g、0.738mmol、Sigma−Aldrich、Milwaukee、WIから入手され、85重量%の純度)を、150mLの沸騰脱イオン水中に勢いのある撹拌下で乳化する。酢酸ナトリウム(4.51g)を加え、その混合物を室温まで冷却してコロイド状の溶液を生じさせる。別々のジアゾニウム塩溶液およびカップリング成分を、次に、立体安定剤(オクタデカンアミド)のコロイド状の混合物中に、ゆっくりと同じ添加速度で同時に加える。
【0136】
一晩の撹拌に続いて、その顔料固形分は、Supor0.8μmフィルタ膜織物(PALL Corp.から入手)を通す真空濾過によって集める。その顔料のウェットケーキを脱イオン水中に2回再スラリ化し、次いで、真空濾過により単離した後、凍結乾燥して明るい緑黄色の粉末(3.59g)を得る。その試料の電子顕微鏡分析(SEM/STEM)は、大部分が棒様のナノ粒子であることを示した。その試料のコロイド溶液(n−BuOH、0.01mg/mL)の動的光散乱(DLS)分析は、170nmの平均流体力学直径(d50)を示した(PDI=0.206)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンズイミダゾロン顔料のナノスケールの粒子を調製するためのプロセスであって、
ベンズイミダゾロン顔料に対する1つ以上の顔料前駆物質を準備するステップと、
前記顔料前駆物質の1つのベンズイミダゾロン部分と非共有的に会合する立体的に嵩高い安定剤化合物であって、置換ピリジン誘導体、アルキル化ベンズイミダゾロン化合物、芳香族酸のアルキル化誘導体、およびそれらの混合物からなる群から選択される立体的に嵩高い安定剤化合物の溶液または懸濁液を準備するステップと、
ベンズイミダゾロン顔料組成物を形成するためのカップリング反応を行い、それによって、粒子の成長および凝集の程度を制限してナノスケールの大きさの顔料粒子を生じさせるために、前記顔料前駆物質をベンズイミダゾロン顔料内に組み込み、ベンズイミダゾロン顔料の1つ以上の官能性部分を前記立体的に嵩高い安定剤化合物と非共有的に会合させるステップと、
を含むことを特徴とするプロセス。

【図2】
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【図4】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−26600(P2011−26600A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166640(P2010−166640)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【出願人】(595006223)ナショナル リサーチ カウンシル オブ カナダ (25)
【Fターム(参考)】