説明

ベンゾチエノ[3,2−b]ベンゾチオフェン構造を含む重合体

【課題】合成が容易であり、高い溶解性および製膜性、酸化安定性を有し、有機薄膜トランジスタの活性層用高分子材料として有用な重合体を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有するベンゾチエノ[3,2−b]ベンゾチオフェン構造を含む重合体。


(式中、Arは置換基を有してもよいチオフェン、ビチオフェン、ターチオフェン、クォーターチオフェン、フェニル、ビフェニル、ターフェニル及びクォーターフェニルのいずれかより選択される2価の基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子、薄膜トランジスタ素子、発光素子など種々の有機エレクトロニクス用素材として有用である、ベンゾチエノ[3,2−b] ベンゾチオフェン基を有する重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機半導体材料を利用した有機薄膜トランジスタの研究開発が盛んである。有機半導体材料は、印刷法、スピンコート法等のウェットプロセスによる簡便な方法で容易に薄膜形成が可能であり、従来の無機半導体材料を利用した薄膜トランジスタに比し、製造プロセスの温度を低温化できるという利点がある。これにより、一般に耐熱性の低いプラスチック基板上への形成が可能となり、ディスプレイ等のエレクトロニクスデバイスの軽量化や低コスト化できるとともに、プラスチック基板のフレキシビリティーを活かした用途等、多様な展開が期待できる。
【0003】
これまで、このような有機半導体材料としてペンタセン等のアセン系材料が報告されている(特許文献1参照)。このペンタセンを有機半導体層として利用した有機薄膜トランジスタは、比較的高移動度であることが報告されているが、これらアセン系材料は汎用溶媒に対し極めて溶解性が低い。このため、それを有機薄膜トランジスタにおける有機半導体層として薄膜化するには、真空蒸着工程を経る必要がある。それ故、前述したような塗布法や印刷法などの簡便なプロセスで薄膜を形成するという有機半導体材料への期待に応えるものではない。
【0004】
また高分子系材料において、これまで、主にPPV(poly−p−phenylene−vinylene)などが検討されてきた。この材料は、剛直な主鎖を有するため溶解性に乏しいのが難点であった。このため高分子系材料として、ポリ(3−アルキルチオフェン)(非特許文献1参照)あるいはジアルキルフルオレンとビチオフェンとの共重合体(非特許文献2参照)等が提案されている。これらの高分子有機半導体材料は、アルキル基の導入により、ある程度の溶解性を有するため、真空蒸着工程を経ずに、塗布や印刷で薄膜化が可能である。
【0005】
しかしながら、これらの高分子有機半導体材料は、分子間が整列した状態で高移動度が実現されるため、その薄膜形成に際し、溶媒種、塗工方法等により配列状態が異なるため、これらを変えて薄膜として形成したトランジスタは、トランジスタ特性にバラツキが生じたり、特性の再現性に欠けるという問題点があり、また、剛直な主鎖を有するため溶解性を有するとはいえ、乏しいのが実情であった。
また、ポリ(3−アルキルチオフェン)は、その構造上、高い平面性を有する。それゆえ、比較的低いイオン化ポテンシャルを示すが、一方、空気中で容易に酸化され得るために、デバイス特性の低下を招く可能性がある。
【0006】
ところが、このような構造を有するベンゾチエノ[3,2−b] ベンゾチオフェン又はその誘導体は、分子内に硫黄原子を二個含む縮合多環芳香族であり、その分子構造は完全に平面である。また、同様な縮合多環系芳香族であるペンタセンなどと比べ、イオン化ポテンシャルが高く、酸化に対して安定であることから、有機半導体への応用の可能性が考えられている。
【0007】
例えば、ベンゾチエノ[3,2−b] ベンゾチオフェンの誘導体である下記式(1)で表される2,7―ジフェニルベンゾチエノ[3,2−b] ベンゾチオフェン(特許文献2および非特許文献3参照)は、オクタデシルトリクロロシランで処理した基板上に蒸着することにより、ペンタセンに匹敵する移動度である、約2.0cm/V・s程度を示し、また大気下での長期安定性も有している。また、同様に上記の誘導体である下記式(2)で表される2,7―ジアルキルベンゾチエノ[3,2−b] ベンゾチオフェン(非特許文献4参照)は、液晶性を有し、かつ高い溶解性を有しているため、スピンコート、キャストなどで塗布が可能であり、比較的低温の熱処理により、同じくペンタセンに匹敵する移動度である約2.0cm/V・s程度を示している。
【0008】
【化1】

【0009】
しかしながら、前者の誘導体〔上記式(1)で表される2,7―ジフェニルベンゾチエノ[3,2−b] ベンゾチオフェン〕は真空蒸着工程を経る必要があり、簡便なプロセスでの薄膜形成という期待に添えず、また後者の誘導体〔上記式(2)で表される2,7―ジアルキルベンゾチエノ[3,2−b] ベンゾチオフェン〕は液晶温度(液晶相を示す温度)が100℃程度と比較的低く、熱処理することにより、膜構造の変化が生じ得るため、有機半導体デバイス作製におけるプロセス適応性に問題がある。
【0010】
上記の理由から、従来公知の上記した誘導体では、プロセス適応性に問題があるが、このような同様な誘導体であるベンゾチエノ[3,2−b]ベンゾチオフェン骨格を有する高分子材料の中に、溶解性、酸化安定性に優れた物性の構造体の発見に期待されている。しかし、これまでのベンゾチエノ[3,2−b]ベンゾチオフェン骨格を有する誘導体の中に、塗布プロセスに適した十分な分子量の重合体は、依然として本発明者らの知りうる範囲では報告されていない。
【0011】
【特許文献1】特開平5−55568号公報
【特許文献2】WO2006/077888
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.,69(26),4108(1996)
【非特許文献2】Science,290,2123(2000)
【非特許文献3】J.Am.Chem.Soc. 128,12604 (2006)
【非特許文献4】瀧宮和男他、20007年度 第54回応用物理学関係連合講演会、ポスター発表資料 「低分子化合物を用いた溶液プロセス有機FET」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、合成が容易であり、高い溶解性および製膜性、酸化安定性を有し、有機薄膜トランジスタの活性層用高分子材料として有用な重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討した結果、以下の構造を有する重合体により上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下からなる。
(1)請求項1に係る発明は、下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有することを特徴とするベンゾチエノ[3,2−b]ベンゾチオフェン構造を含む重合体である。
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、Arは置換基を有してもよい二価の基であって、該二価の基はチオフェン、ビチオフェン、ターチオフェン、クォーターチオフェン、フェニル、ビフェニル、ターフェニル及びクォーターフェニルのいずれかより選択される基である。)
【0016】
(2)請求項2に係る発明は、請求項1に記載の重合体において、前記Arが置換基を有する場合、その置換基としては、脂肪族または脂環式の炭素数1〜22のアルキル基、ハロゲン、ハロゲンを有する脂肪族または脂環式の炭素数1〜25のアルキル基、炭素数1〜25のアルコキシ基、炭素数1〜25のチオアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、スルホン基およびスルホキシド基から選ばれる基であり、置換基の数は複数個であってもよく、また複数個の置換基は同一でも異なっていてもよい、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、塗工法や印刷法等の簡便なプロセスで薄膜形成が可能な、溶解性、酸化安定性に優れたベンゾチエノ[3,2−b]ベンゾチオフェンと、フェニレンまたはチオフェンの単量体および多量体とからなる重合体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の(π共役)重合体を更に詳細に説明する。
ベンゾチエノ[3,2−b]ベンゾチオフェンは高度に発達したπ共役系と高い平面構造を有しており、既述のように、有機半導体材料として用途が提案されている。具体的には、非特許文献3、4に示されている。しかしながら、溶解性の置換基を有しない場合には、高真空下における条件の製膜が必須である。アルキルなどの溶解性基を付加した誘導体の場合では、溶解性が得られるものの低融点化し、デバイス作製時の熱処理等による膜構造の乱れの発生が懸念される。
そこで、本発明者らは、ベンゾチエノ[3,2−b]ベンゾチオフェンと溶解性基を有するアリーレン、あるいはヘテロアリーレンとを共重合した重合体を得ることに着目し、上記問題を解決した。
【0019】
すなわち、本発明の重合体は、2価のベンゾチエノ[3, 2-b]ベンゾチオフェンに芳香族炭化水素またはチオフェンの2価基(アリーレン基またはヘテロアリーレン基)を有するユニットを繰り返し単位とするπ共役重合体であり、下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有するものである。
【化3】

【0020】
上記一般式(I)中、Arは置換基を有してもよい二価の基であって、チオフェン、ビチオフェン、ターチオフェン、クォーターチオフェン、フェニル、ビフェニル、ターフェニル及びクォーターフェニルのいずれかより選択される基(2価のπ電子共役基)であり、置換基を有する場合、置換基の数は複数個であってもよく、また複数個の置換基は同一でも異なっていてもよい。また、置換基としては、脂肪族または脂環式の炭素数1〜22のアルキル基、ハロゲン、ハロゲンを有する脂肪族または脂環式の炭素数1〜25のアルキル基、炭素数1〜25のアルコキシ基、炭素数1〜25のチオアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、スルホン基およびスルホキシド基から選ばれる基が挙げられる。
【0021】
本発明の新規なπ共役重合体は、アルキル基に代表される溶解性基を有する分子を導入して一般的な(汎用の)有機溶媒に対する溶解性を確保しつつ、結晶性/液晶性/配向性といった規則的な集合状態を有する有機膜をより有利に形成することができる。このような規則性の高い状態で、アモルファス状態よりも高い移動度が期待できる。
【0022】
一般式(I)で示される本発明のπ共役重合体の製造方法としては、Suzukiカップリング反応(Suzuki coupling reaction)により重合する方法、Stilleカップリング反応( coupling reaction)により重合する方法、Ni(0)錯体:ニッケルゼロ価錯体(以下、「Ni(0)」または「ニッケル(0)」と記載することがある。)により重合するYamamotoカップリング法(Yamamoto coupling reaction)などの方法、FeCl等の酸化剤により重合する方法、又は電気化学的に酸化重合する方法など、公知の方法を挙げることができる。これらのうち、Suzukiカップリング反応により重合する方法、Stilleカップリング反応により重合する方法、ニッケルゼロ価錯体により重合する方法が、簡便で構造制御がしやすいので好ましい。
【0023】
Suzukiカップリング反応を用いた重合方法について合成する例を以下に挙げる。
下記一般式(II)で表されるベンゾチエノ[3, 2-b]ベンゾチオフェン誘導体(ハロゲン化ベンゾチエノ[3, 2-b]ベンゾチオフェン誘導体)と、下記一般式(III)で表されるボロン酸誘導体とを塩基とパラジウム触媒の存在下で、反応させることにより前記一般式(I)で表される本発明のπ共役重合体が製造される。
【0024】
【化4】

【0025】
(上記式(II)中、Xは塩素原子、臭素原子あるいはヨウ素原子を表す。)
Y−Ar−Y (III)
(上記式(III)中、Arは置換基を有していてもよいアリーレン基またはヘテロアリーレン基を表し、Yはボロン酸またはそのエステルを表す。)
【0026】
Suzukiカップリング反応を用いた重合方法において、一般式(II)で表されるハロゲン化ベンゾチエノ[3, 2-b]ベンゾチオフェン誘導体におけるハロゲン原子としては、反応性の点からヨウ素あるいは臭素が好ましい。
【0027】
一般式(III)で表されるボロン酸誘導体としては、アリールボロン酸、あるいは熱的に安定で、空気中で容易に扱えるビス(ピナコラト)ジボロンを用いハロゲン化誘導体から合成されるボロン酸エステルを用いてもよい。
【0028】
パラジウム触媒としてはPd(PPh、PdCl(PPh、Pd(OAc)、およびPdClなど種々の触媒をもちいることができるが、最も汎用的にはPd(PPhが用いられる。
【0029】
Suzukiカップリング反応には塩基が必ず必要であるが、NaCO、NaHCOなどの比較的弱い塩基が良好な結果を与える。立体障害等の影響を受ける場合には、Ba(OH)やKPO、NaOHなどの強塩基が有効である。その他、苛性カリ、金属アルコシド等、例えばカリウムt−ブトキシド、ナトリウムt−ブトキシド、リチウムt−ブトキシド、カリウム2−メチル−2−ブトキシド、ナトリウム2−メチル−2−ブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、カリウムメトキシドなどももちいることができる。トリエチルアミン等の有機塩基も用いることができる。
【0030】
反応溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、2−メトキシエタノール、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル等のアルコールおよびエーテル系、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル系の他、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等をあげることができる。
【0031】
またスティレカップリング(Stille coupling reactoin)を用いた重合方法についても例を挙げる。この方法では、前記した一般式(II)で表されるハロゲン化ベンゾチエノ[3, 2-b]ベンゾチオフェン誘導体と、下記一般式(IV)で表される有機スズ誘導体とをパラジウム触媒の存在下で反応させることにより、前記した一般式(I)で表されるπ共役重合体が製造される。パラジウム触媒としては、Suzukiカップリング反応で説明したのと同じ触媒が用いられる。
Z−Ar−Z (IV)
(式中Arは、前記式(III)のArと同じ意味であり、Zは有機スズ官能基を表す。)
前記一般式(IV)で表される有機スズ誘導体としては、SnMe基やSnBu基などのアルキルスズ基を有する誘導体を用いることができる。
【0032】
また、Ni(O)錯体により重合するYamamotoカップリング法において、一般式(IV)で表される有機スズ誘導体としては、SnMe3基やSnBu3基などのアルキルスズ基を有する誘導体を用いることができる。このYamamoto反応などの0価ニッケル錯体を用いる場合では、重合に関与する置換基として好ましい置換基は、ハロゲン原子、アルキルスルホネート基、アリールスルホネート基又はアリールアルキルスルホネート基が挙げられる。
【0033】
Yamamoto反応において用いられるゼロ価のニッケル錯体としては、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)、(エチレン)ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(0)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケルなどが例示され、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)が好ましい。
【0034】
上記それぞれのカップリング反応による重合反応の反応温度は、用いるモノマーの反応性、また、反応溶媒により適宜設定されるが、溶媒の沸点以下に抑えることが好ましい。
【0035】
上記それぞれのカップリング反応による重合反応における反応時間は、用いるモノマーの反応性、または、望まれる重合体の分子量などにおいて適宜設定することができ、2〜72時間が好適であり、さらには、5〜48時間がより好ましい。
【0036】
また、上記したそれぞれのカップリング反応による重合操作において、分子量を調節するために分子量調節剤または、末端修飾基として重合体の末端を封止するための封止剤を反応途中または反応後に添加することも可能であり、反応開始時に添加しておくことも可能である。従って、本発明におけるπ共役重合体の末端には停止剤に基づく置換基が結合していてもよい。
【0037】
本発明のπ共役重合体の好ましい分子量はポリスチレン換算数平均分子量で、1000
〜1000000 であり、より好ましくは5000 〜500000であり、特に好ましくは10000〜100000である。分子量が小さすぎる(1000未満の)場合には、クラックの発生等の成膜性が悪化し、実用性に乏しくなる。また分子量が(1000000よりも)大きい場合には、一般の有機溶媒への溶解性が悪くなり、溶液の粘度が高くなって塗工が困難になり、実用上問題になる。
【0038】
以上のようにして得られたπ共役重合体は、重合に使用した触媒、未反応モノマー、末端停止剤、又、重合時に副生するアンモニウム塩等の不純物を除去して使用される。これらの精製は再沈澱法、カラムクロマト法、吸着法、抽出法(ソックスレー抽出法を含む)、限外濾過法、透析法、触媒を除くためのスカベンジャーの使用等をはじめとする従来公知の方法を使用できる。
【0039】
上記した製造方法により得られる本発明のπ共役重合体を薄膜とするには、スピンコート法、キャスト法、ディップ法、インクジェット法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法等の公知の成膜方法を用いることができる。これにより、クラックのない、強度、靭性、耐久性等に優れた良好な薄膜を作製することが可能であり、光電変換素子、薄膜トランジスタ素子、発光素子など種々の機能素子用材料として好適に用いることができる。
【0040】
このようにして得られる一般式(I)で表されるπ共役重合体の具体例を以下に示す。
前記一般式(I)中の、Arが置換または無置換のアリーレンあるいはヘテロアリーレンを表す場合、Arとしては、以下のものを挙げることができる。
【0041】
ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、ターフェニル、クォーターフェニル、ピレン、フルオレン、9,9−ジメチルフルオレン、アズレン、アントラセン、トリフェニレン、クリセン、9−ベンジリデンフルオレン、5H−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン、[2,2]−パラシクロファン、トリフェニルアミン、チオフェン、ビチオフェン、ターチオフェン、クォーターチオフェン、チエノチオフェン、ベンゾチオフェン、ジチエニルベンゼン、(フラン、ベンゾフラン、カルバゾール)、ベンゾジチアゾール等の2価基が挙げられ、これらは置換もしくは無置換のアルキル基、アルコキシ基、チオアルコキシ基、ハロゲン基を置換基として有していてもよい。
置換もしくは無置換のアルキル基としては、炭素数が1〜25の直鎖、分岐又は環状のアルキル基であり、これらのアルキル基は更にハロゲン原子(たとえばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子)、シアノ基、フェニル基又は直鎖乃至分岐のアルキル基で置換されたフェニル基を含有してもよい。
【0042】
具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、s−ブチル基、n−ブチル基、i−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデカン基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、3,7−ジメチルオクチル基、2−エチルヘキシル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロオクチル基、トリフルオロドデシル基、トリフルオロオクタデシル基、2−シアノエチル基、ベンジル基、4−クロロベンジル基、4−メチルベンジル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
また、置換もしくは無置換のアルコキシ基またはチオアルコキシ基である場合は、上記アルキル基の結合位に酸素原子あるいは硫黄原子を挿入してアルコキシ基あるいはチオアルコキシ基としたものが具体例として挙げられる。
【0043】
本発明のπ共役重合体は、アルキル基やアルコキシ基、アルキルチオ基の存在により、溶媒への溶解性が向上する。これによって特に溶解性を向上させることができ、光電変換素子、薄膜トランジスタ素子、発光素子などの製造の際に、湿式成膜過程の製造許容範囲が大きくなる。例えば塗工溶媒の選択肢の拡大、溶液調製時の温度範囲の拡大、溶媒の乾燥時の温度及び圧力範囲の拡大となり、これらプロセッシビリティーの高さにより高純度で均一性の高い高品質な薄膜が得られる。
また本発明のπ共役重合体は、縮合多環構造を有するベンゾチエノ[3, 2-b]ベンゾチオフェン基を含むことで、イオン化ポテンシャルが比較的高くなり、酸化に対しても比較的安定性を有するようになるので電子デバイス、光学−電子デバイス特性として安定なデバイス物性を期待することができる。
【0044】
本発明のπ共役重合体の一般式(I)のより具体的な構造例を以下に示す。
【0045】
【化5】

【0046】
(ここで、Iは1〜4の整数を表し、Rは水素、脂肪族または脂環式の炭素数1〜22のアルキル、ハロゲン、ハロゲンを有する脂肪族または脂環式の炭素数1〜25のアルキル、炭素数1〜25のアルコキシ、炭素数1〜25のチオアルコキシ、ニトロ、シアノ、スルホンおよびスルホキシドから選ばれる基を示す。Rが複数個ある場合は同一であっても、互いに独立して異なっていてもよい。)
さらに詳細な本発明のπ共役重合体の例を示す。
【0047】
【化6】

【実施例】
【0048】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これら実施例によって制限されるものではない。
【0049】
製造例1:
[モノマーの合成]
(ジハロゲン体の合成)
本発明の共役重合体を製造する際に用いられるジハロゲン体は、Zh.Org.Khim.,16,2,383(1980)およびJ.Am.Chem.Soc.128,12604(2006)を参考にして下記のスキーム1で行い、モノマー7のジハロゲン体を得た。
【0050】
【化7】

【0051】
上記スキーム1中のモノマー(ジハロゲン化合物:ここではヨー化物)7の分析結果を以下に示す。
H NMR (400 MHz, CDCl3,TMS, δ):7.62 (d, 2H, J=8 Hz), 7.75 (dd, 2H, J1=8Hz J2=4 Hz), 8.26 (d, 2H, J=4 Hz)
質量分析:MS m/z = 492 (M+)
元素分析値:C, 34.40; H, 1.19 (実測値) C, 34.17; H, 1.23(計算値)
融点300 ℃以上
上記したNMR、元素分析、質量分析、融点の値から推測される構造は、ジハロゲン体7と一致する結果が得られた(なおNMRシフト値について、J.Am.Chem.Soc. , 128,12604(2006)に同化合物に関する記載があり、我々が合成したものと相違があった。)。
【0052】
(ジボロン体の合成)
共役重合体に用いられるジボロン体(例えば以下の11、15に示す)は、下記のスキーム2および3に従い合成した。
【0053】
【化8】

【0054】
上記スキーム2で得られたジボロン体11の分析結果を以下に示す。
H NMR (400 MHz, CDCl3,TMS, δ):7.47 (s, 2H), 3.75(s, 8H), 2.78(t, 4H, J=8 Hz), 1.23-1.30(m, 36H),1.56(quint, 4H, J=8 Hz), 1.03 (s, 12H), 0.88(t, 6H,J=8 Hz)
融点:89.5-90.0 ℃
【0055】
【化9】

【0056】
上記スキーム3で得られたジボロン体15の分析結果を以下に示す。
H NMR (400 MHz, CDCl3, TMS, δ):7.08 (s, 2H), 3.93(t, 4H, J=8 Hz), 1.75 (quint, 4H, J=8 Hz), 1.55-1.45(m, 4H), 1.36-1.26 (m,56H), 0.88 (t, 6H, J=8 Hz)
融点: 92.7〜94.5 ℃
【0057】
〔実施例1〕
共役重合体の合成
重合は、Macromolecules(2000),33,5347−5352の記載を参考にして行った。以下の2種類のモノマー成分を用い重合を行った。
【0058】
【化10】

【0059】
水冷式冷却管とガス導入管を備えた4つ口フラスコ内に前記一般式(V)で示される2,7−ジヨードベンゾチエノ[3,2−b]ベンゾチオフェン350mg(0.714 mmol)と前記一般式(VI)で示されるジボロン酸エステル 456 mg(0.714 mmol)と(以上モノマー成分)、水酸化ナトリウム114 mg(2.86 mmol)、ジメチルアセトアミド20.4 mL、トルエン3 mL、水2.3mLを取り、容器内をアルゴンガスで置換した後、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム 24.8 mg(0.021mmol)を加え、メカニカルスターラーで攪拌しながら26時間、120℃で保持した。さらに、フェニルボロン酸 32.9mg(0.27 mmol)を加え3時間加熱し、その後ブロモベンゼン56.6mg (0.36 mmol)を加え3時間120℃に加熱したのち、室温まで放冷した。得られた混合物をMeOH/HO(4/1)500mLに注ぎ、沈殿物を濾取し、MeOH/HO、MeOHで洗浄した。さらに、沈殿をTHF溶液に溶解し、MeOH 900 mLから再沈殿させて回収し、続いてアセトン600mLから再沈殿し、再びクロロホルム50 mLに溶解させ、洗浄液の伝導度がイオン交換水と同等になるまで水洗を繰り返した。最後に重合体のクロロホルム溶液 50 mLをMeOH700 mLから再沈殿し、得られた重合体を濾取し、減圧下加熱乾燥し、下記式(VII)に表される淡黄色の重合体(収量240 mg, 収率50.0%) を得た。
【0060】
【化11】

【0061】
上記淡黄色の重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算分子量は以下のとおりであった。
数平均分子量8774、重量平均分子量19335
得られた重合体は、クロロホルム、クロロベンゼン、トルエン、キシレン、THF(テトラヒドロフラン)等に良好な溶解性を示す一方、メタノール、アセトン、DMF等には不溶であった。
また融点は228℃であった(顕微鏡とホットステージを備えた融点測定機を用いた目視による測定およびDSCによる測定)。
この重合体を、NaCl板上にクロロホルム溶液からキャストして得られた重合体(キャスティング)の赤外吸収スペクトルを図1に示す。
またこの重合体のクロロホルム溶液からスピンコートにより製膜し、Ar雰囲気下、80℃で30分間乾燥を行ったポリマー膜のSEM像を図2に示す(倍率10000倍)。
【0062】
〔実施例1で作成した重合体の成膜化〕
実施例1で合成した式(VII)で示される重合体を、クロロホルム、トルエン、キシレン、THFに1wt%の濃度で溶解させ、フィルターに通し、溶液を調製した。
それぞれの溶液からスピンコートないしキャスト法により、ITO基板およびシリコン基板上にポリマー膜を成膜した。いずれの溶液を用いても、平滑な連続膜が得られた。
また、これらの膜を用いて、サイクリックボルタンメトリー(北斗電工社製)およびAC−2(理研計器社製)によって求められたイオン化ポテンシャルは5.9eVであった。
【0063】
〔実施例2〕
共役重合体の合成
【0064】
【化12】

【0065】
実施例1におけるモノマー成分のうちジボロン酸エステルを式(VI)から上記式(VIII)にした以外は同様に重合を行い、下記式(IX)に示す褐色の重合体(収量364 mg, 収率53.8%)を得た。
【0066】
【化13】

【0067】
上記褐色の重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算分子量は以下のとおりであった。
数平均分子量5537、重量平均分子量7949
得られた重合体は、クロロホルム、クロロベンゼン、トルエン、キシレン、THF(テトラヒドロフラン)等に良好な溶解性を示す一方、メタノール、アセトン、DMF等には不溶であった。
また融点は309℃であった(顕微鏡とホットステージを備えた融点測定機を用いた目視による測定およびDSCによる測定)。
この重合体を、NaCl板上にクロロベンゼン溶液からキャストして得られた重合体(キャスティング)の赤外吸収スペクトルを図3に示す。
【0068】
〔実施例2で作成した重合体の成膜化〕
実施例2で合成した式(IX)で示される重合体を、クロロホルム、トルエン、キシレン、THFに1wt%の濃度で溶解させ、フィルターに通し、溶液を調製した。
それぞれの溶液からスピンコートないしキャスト法により、ITO基板およびシリコン基板上にポリマー膜を成膜した。いずれの溶液を用いても、平滑な連続膜が得られた。
また、これらの膜を用いて、サイクリックボルタンメトリー(北斗電工社製)およびAC−2(理研計器社製)によって求められたイオン化ポテンシャルは5.6eVであった。
【0069】
〔比較例1〕
比較例1として、実施例1の重合体をポリ−3−ヘキシルチオフェンに変えた以外は実施例1と同様にして、成膜化を行い、イオン化ポテンシャルの測定を行った。
クロロホルムには1wt%の濃度で溶解したが、その他の溶媒については最大でも0.5wt%程度の溶解度であった。また、溶液によっては、急激な結晶化が起こり、連続膜が得られないものがあった。
この重合体のイオン化ポテンシャルは、4.9eVであった。
【0070】
〔比較例2〕
実施例1の重合体を、2,7―ジフェニルベンゾチエノ[3,2−b]ベンゾチオフェンにした以外は同様にして、成膜およびイオン化ポテンシャルの測定を行った。
クロロホルムにわずかに溶解するものの、その他の溶媒には全く溶解しなかった。
この上記材料のイオン化ポテンシャルは、5.4eVであった。
以上の結果を、表1に示した。
【0071】
【表1】

【0072】
以上の結果から、本発明の重合体は、汎用溶媒への高い溶解性および溶媒に影響されない製膜性を有し、また高い酸化安定性を有していることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のπ共役重合体は、各種溶剤に溶解可能であるためプロセスアビリティーに優れており、このような重合体を用いて半導体などの電子デバイス、EL発光素子などの光学−電子デバイスに応用できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】実施例1の重合体のIRスペクトルである。縦軸は吸光度(%T:%−Transmittance)であり、横軸は波数(cm−1)を表す。
【図2】80℃で乾燥を行った実施例1の重合体膜のSEM像(scanning electron microscopy)である(倍率10000倍)。
【図3】実施例2の重合体のIRスペクトルである。縦軸は吸光度(%T:%−Transmittance)であり、横軸は波数(cm−1)を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有することを特徴とするベンゾチエノ[3,2−b]ベンゾチオフェン構造を含む重合体。
【化1】

(式中、Arは置換基を有してもよい二価の基であって、該二価の基はチオフェン、ビチオフェン、ターチオフェン、クォーターチオフェン、フェニル、ビフェニル、ターフェニル及びクォーターフェニルのいずれかより選択される基である。)
【請求項2】
前記一般式(I)においてArが置換基を有する場合、その置換基としては、脂肪族または脂環式の炭素数1〜22のアルキル基、ハロゲン、ハロゲンを有する脂肪族または脂環式の炭素数1〜25のアルキル基、炭素数1〜25のアルコキシ基、炭素数1〜25のチオアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、スルホン基およびスルホキシド基から選ばれる基であり、置換基の数は複数個であってもよく、また複数個の置換基は同一でも異なっていてもよいことを特徴とする請求項1に記載の重合体。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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