説明

ベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体の新規製造法

【課題】ベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体の短工程で簡便な製造法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)


[式中、R1、R2はそれぞれ独立して水酸基、水素原子又は低級アルコキシ基、或いはR1とR2が結合してメチレンジオキシ基を示し、Xはハロゲン原子を示す。]で表される化合物に、式(2):W−M−OR3 で表される有機金属化合物を反応させ、次いでフェノール性水酸基をベンジルエーテル化した後、有機スズ水素化物または有機シリル水素化物を用いたラジカル閉環反応に付し、ついで酸化剤により芳香族化することを特徴とするベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗腫瘍活性を有し、医薬品として期待されるフェナンスリジニウム誘導体の中間体の新規製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、癌患者に対する化学療法にはアルキル化剤、核酸代謝拮抗剤、抗生物質及び植物アルカロイド等が用いられている。
【0003】
一般式(4)で表されるベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体は抗腫瘍活性化合物の中間体として知られており、7−ベンジルオキシ−8−メトキシベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体より、メチル化、低級アルコールの導入、有機金属化合物との反応を経て、酸化剤を用いた芳香族化反応により得られることが報告されている(特許文献1)。2,3−(メチレンジオキシ)−5−メチル−7−ヒドロキシ−8−メトキシ−ベンゾ[c]フェナンスリジニウムクロリド及びその類縁化合物、それらの製造方法並びに抗腫瘍活性作用については特許文献1に記載されている。
【0004】
【特許文献1】国際公開第98/23614号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の製造法では反応工程が多く煩雑であった。
【0006】
このように抗腫瘍剤として有用なベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体の製造において、短工程で簡便な製造法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は鋭意研究を重ねた結果、ベンゾ[c]フェナンスリジニウム誘導体の中間体の新規な合成ルートを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は
(1)下記一般式(1)
【0009】
【化1】

【0010】
[式中、R1、R2はそれぞれ独立して水酸基、水素原子又は低級アルコキシ基、或いはR1とR2が結合してメチレンジオキシ基を示し、Xはハロゲン原子を示す。]で表される化合物に、下記一般式(2)
【0011】
【化2】

[式中、Mは低級アルキル基、ハロゲン原子及び保護基で保護された水酸基からなる群より選ばれる置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素鎖を示し、R3は保護基を示し、Wは有機金属または無機金属塩を示す。]で表される有機金属化合物を反応させ、下記一般式(3)
【0012】
【化3】

【0013】
[式中、R1、R2、R3、X、Mは上記と同じ意味を示す。]で表される化合物とし、次いでフェノール性水酸基をベンジルエーテル化した後、有機スズ水素化物または有機シリル水素化物を用いたラジカル閉環反応に付し、ついで酸化剤により芳香族化することを特徴とする下記一般式(4)
【0014】
【化4】

【0015】
[式中、Bnはベンジル基を示し、R1、R2、R3、Mは上記と同じ意味を示す。]で表されるベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体の製造法、
【0016】
(2)一般式(1)においてR1とR2が結合してメチレンジオキシ基、一般式(2)においてWが無機金属塩、Mが炭素数1〜5の直鎖脂肪族炭化水素鎖である上記(1)記載のベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体の製造法、
に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、抗腫瘍剤の中間体として有用な6位置換ベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体の製造工程数を短縮し、効率的な製造を可能とした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、上記一般式(1)で表される化合物に、上記一般式(2)で表される有機金属化合物を反応させ、上記一般式(3)で表される化合物とし、次いでフェノール性水酸基をベンジルエーテル化した後、有機スズ水素化物または有機シリル水素化物を用いたラジカル閉環反応に付し、更に酸化剤により芳香族化することを特徴とする上記一般式(4)で表されるベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体の製造法である。
【0019】
本発明において、低級アルコキシ基としては炭素数1〜5のアルコキシ基が挙げられ、具体的には例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペントキシ基等が挙げられ、好ましくはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基である。
【0020】
一般式(1)で表される化合物としては、具体的には例えば、以下のような化合物が挙げられる。
【0021】
3−ブロモ−6−メトキシ−2−(ナフト[2,3−d][1,3]ジオキソ−5−イルイミノメチル)−フェノール
3−ブロモ−6−メトキシ−2−(ナフタレン−1−イルイミノメチル)−フェノール
3−ブロモ−2−[(6,7−ジメトキシナフタレン−1−イルイミノ)メチル]−6−メトキシフェノール
【0022】
本発明において、低級アルキル基としては炭素数1〜5のアルキル基が挙げられ、具体的には例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基等が挙げられ、好ましくはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基である。
【0023】
本発明において、ハロゲン原子とはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、臭素原子、ヨウ素原子が好ましい。
【0024】
また、本発明において、保護基R3としては一般的に水酸基の保護に用いられる基であれば特に限定されないが、例えば、メトキシメチル基、ベンジルオキシメチル基、テトラヒドロフリル基、t−ブチル基、p−メトキシベンジル基、トリフェニルメチル基などの置換メチル基、t−ブチルジメチルシリル基、トリメチルシリル基などのトリアルキルシリル基、アセチル基、クロロアセチル基、ベンゾイル基、イソブチリル基等のアシル基などが挙げられ、t−ブチルジメチルシリル基が好ましい。
【0025】
本発明のMにおける低級アルキル基、ハロゲン原子及び保護基で保護された水酸基からなる群より選ばれる置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素鎖としては、具体的には例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、2−ヒドロキシエチル基、2−メトキシエチル基、2−アセトキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、アリル基、2−ブテニル基、3−メチル−2−ブテニル基、メトキシカルボニルメチル基、イソプロポキシカルボニルメチル基、カルバモイルメチル基などが挙げられる。特に、メチル基、エチル基、n−プロピル基、2−ヒドロキシエチル基が好ましい。
【0026】
本発明のWの有機金属とはアルキルスズなどが挙げられる。また、無機金属塩としてはリチウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、銅とハロゲンとの塩などが挙げられ、マグネシウム塩が好ましい。一般式(2)で表される有機金属化合物としては、有機リチウム化合物、有機マグネシウム化合物、有機亜鉛化合物、有機銅化合物が挙げられ、有機マグネシウム化合物が好ましい。
【0027】
一般式(2)で表される化合物としては、具体的には例えば、以下のような化合物が挙げられる。
【0028】
3−(t−ブチルジメチルシロキシ)プロピルマグネシウムブロミド
3−(t−ブチルジメチルシロキシ)−2−メチルプロピルマグネシウムブロミド
4−(t−ブチルジメチルシロキシ)ブチルマグネシウムクロリド
【0029】
一般式(1)で示される化合物は、例えば、以下のように合成することができる。
【0030】
下記一般式(5)
【0031】
【化5】

[式中、R1、R2は上記と同じ意味を示す。]で表されるナフチルアミン誘導体と、下記一般式(6)
【0032】
【化6】

[式中、Xは上記と同じ意味を示す。]で表されるベンズアルデヒド誘導体とを、トルエンまたはベンゼン中で80〜110℃に1時間〜3時間加熱し、ナフチルアミン誘導体のアミノ基とベンズアルデヒド誘導体のアルデヒド基の縮合により副生する水を、トルエンまたはベンゼンとの共沸により系外に除き濃縮する。必要に応じて濃縮残留物に、新たにトルエンまたはベンゼンを加えて加熱し濃縮するという操作を2〜4回繰り返し、脱水縮合生成物(シッフ塩基)である一般式(1)で表される化合物をほぼ定量的に得る。
【0033】
次いで、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される有機金属化合物との反応について説明する。
【0034】
一般式(1)で表される化合物を非プロトン性溶媒、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒に溶解又は懸濁せしめ、一般式(2)で表される有機金属化合物を1〜10当量、好ましくは3〜8 当量加え、−78〜50℃、好ましくは0〜30℃にて5分から24時間、好ましくは10分〜12時間撹拌する。
【0035】
一般式(3)で表される化合物としては、具体的には例えば、以下のような化合物が挙げられる。
【0036】
3−ブロモ−2−[4−(t−ブチルジメチルシラニルオキシ)−1−(ナフト[2,3−d][1,3]ジオキソ−5−イルアミノ)−ブチル]−6−メトキシフェノール
3−ブロモ−2−[4−(t−ブチルジメチルシラニルオキシ)−1−(ナフタレン−1−イルイミノメチル)−ブチル]−6−メトキシフェノール
3−ブロモ−2−[4−(t−ブチルジメチルシラニルオキシ)−1−(6,7−ジメトキシナフタレン−1−イルイミノ)−ブチル]−6−メトキシフェノール
【0037】
一般式(3)で表される化合物のフェノール性水酸基へのベンジル基の導入は、有機溶媒、例えばジメチルホルムアミド(以下DMFという。)中、炭酸カリウムなどの塩基存在下、ベンジルブロマイド、ベンジルクロライドなどのハロゲン化ベンジルと0℃〜50℃にて、好ましくは0〜30℃にて反応させることにより行う。
【0038】
次いで、有機スズ水素化物または有機シリル水素化物を用いたラジカル閉環反応は、有機溶媒、例えば、ベンゼン、トルエン、またはキシレン中において行えばよい。有機スズ水素化物としては、例えば、トリ(C1〜C10)炭化水素スズ水素化物、好ましくはトリ(C1〜C6)炭化水素スズ水素化物、具体的には例えば、トリフェニルスズヒドリド、トリ(n−ブチル)スズヒドリド、トリエチルスズヒドリド、トリメチルスズヒドリド、又はジ(C1〜C6)炭化水素スズ水素化物、具体的には例えば、ジフェニルスズヒドリド、ジ(n−ブチル)スズヒドリドが挙げられる。有機シリル水素化物としては、例えば、炭化水素(C1〜C10)炭化水素シリル水素化合物、好ましくは炭化水素(C1〜C3)シリル水素化物、具体的には例えば、トリス(トリメチルシリル)シラン、トリエチルシリルヒドリド、またはジ炭化水素(C1〜C3)シリル水素化物、具体的には例えば、ジフェニルシリルヒドリドが挙げられる。
【0039】
有機スズ水素化物または有機シリル水素化物の中でもトリス(トリメチルシリル)シランが好ましい。トリス(トリメチルシリル)シランを使用するラジカル閉環反応について更に説明すると、一般式(3)で示される化合物のベンジルエーテル化体と、1当量〜6当量、好ましくは1.5当量〜3当量のトリス(トリメチルシリル)シランとを、有機溶媒、好ましくは(C6〜C10)炭化水素系溶媒、例えば、トルエン、キシレンまたはベンゼンに溶解し、好ましくはラジカル開始剤、例えば、2,2’−アゾビス(2−イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4’−ジメチルバレロニトリル)または過酸化ベンゾイルを加え、60〜150℃、好ましくは80〜150℃で2分〜4時間、好ましくは5分〜2時間加熱する。
【0040】
上記閉環体は単離してもよいが、好ましくは単離することなく、反応混合液を酸化剤により芳香族化を行うことにより一般式(5)で表される化合物が得られる。芳香族化は0〜150℃、好ましくは10〜100℃で、1〜180分、好ましくは5〜150分間反応させればよい。
【0041】
この際の酸化剤としては、特に限定されないが、例えば、二酸化マンガン、四酢酸鉛、酢酸水銀またはジクロロジシアノベンゾキノン(DDQ)が挙げられ、活性二酸化マンガンが好ましい。
【0042】
必要に応じて通常の有機合成反応で用いられる単離、精製法により反応物から一般式(4)で表される化合物は得られる。
【0043】
一般式(4)で表される化合物としては、具体的には例えば、以下のような化合物が挙げられる。
【0044】
7−ベンジルオキシ−6−[3−(t−ブチルジメチルシラニルオキシ)プロピル]−8−メトキシ−2,3−メチレンジオキシ−ベンゾ[C]フェナンスリジン
7−ベンジルオキシ−6−[3−(t−ブチルジメチルシラニルオキシ)プロピル]−8−メトキシ−ベンゾ[C]フェナンスリジン
7−ベンジルオキシ−6−[3−(t−ブチルジメチルシラニルオキシ)プロピル]−2,3,8−トリメトキシ−ベンゾ[C]フェナンスリジン
【0045】
一般式(4)で示される化合物は特許文献1に記載の方法を準用し、下記に示す方法で抗腫瘍活性を有する一般式(8)の化合物に導くことができる。
【化7】

【0046】
一般式(4)で示される化合物の保護基R3の脱保護はそれぞれの保護基にあった方法でなされるが、例えば、トリアルキルシリル系保護基の場合は、テトラヒドロフラン、アセトニトリルなどの溶媒中、フッ化テトラブチルアンモニウム、フッ化カリウムまたはフッ化セシウムなどのフッ化物塩を加えて、0〜80℃、好ましくは0〜室温にて行われる。
【0047】
一般式(7)で示される化合物を有機溶媒中トリエチルアミン等の塩基存在下、塩化メタンスルホニル、塩化p−トルエンスルホニル等の酸塩化物またはトリフルオロ酢酸などの酸無水物と氷冷下〜室温にて反応させた後、室温〜110℃にて処理することにより環化を行う。
【0048】
その後、生成物を単離精製することなしに濃塩酸などの酸性下、室温から100℃にて処理することにより脱ベンジル化を行う。
【0049】
次いで、脱保護して得られる化合物を溶媒に溶解し、これに酸、例えば、塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等を加え酸処理をする。酸の量は化合物1モルに対し約1〜3モルである。
【0050】
以上の方法により一般式(8)で示される化合物が得られる。
【0051】
一般式(4)で示される化合物の従来の製造法を以下に述べる。
【0052】
【化8】

【0053】
一般式(6)で示されるベンズアルデヒド誘導体の水酸基をベンジル基で保護した後、一般式(5)で表されるナフチルアミン誘導体と前述のように縮合し、一般式(10)で表される化合物とする。次に、水素化ホウ素シアノナトリウム、またはジメチルアミノホウ素により部分還元する。次いで、有機溶媒中でトリブチルスズ水素化物を用いてラジカル閉環反応に付し、さらに、酸化剤による芳香族化により一般式(12)で表される化合物を得る。
【0054】
一般式(12)で表される化合物をp−トルエンスルホン酸メチル、2−ニトロベンゼンスルホン酸メチル、トリフルオロメタンスルホン酸メチル等のメチル化剤によりメチル化し、次いで、塩基存在下、エタノールなどの低級アルコール(L−OH)と混合することにより一般式(13)で示される化合物を得る。
【0055】
一般式(13)で示される化合物は非プロトン性溶媒の存在下、一般式(2)で示される有機マグネシウム化合物等の有機金属化合物と反応させ、得られた化合物を再度酸化剤による酸化的芳香族化反応に付し、最終的に一般式(4)で示される化合物を得る。
【0056】
一方、本発明の製造法は、上記従来の製造法中の部分還元工程とメチル化の工程が省かれている。本発明の製造法は、これら2工程の短縮化を実現し、反応性・収率に損なうことなく極めて簡便に一般式(4)で表されるベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体を得ることができ、該ベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体は特許文献1に記載の方法を用いて、抗腫瘍活性を有するベンゾ[c]フェナンスリジニウム誘導体に導くことができる。
【実施例】
【0057】
以下に本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0058】
実施例1
3−ブロモ−6−メトキシ−2−(ナフト[2,3−d][1,3]ジオキソ−5−イルイミノメチル)−フェノールの合成
1−ナフチルアミン(1.67g、8.92mmol)と2−ヒドロキシ−3−メトキシ−6−ブロモベンズアルデヒド(2.06g、8.92mmol)をトルエン(40mL)に溶解し、110℃に3時間加熱後、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮した。残留物にトルエン10mL新たに加えて同様に減圧濃縮する。結晶をろ別、乾燥して目的化合物をオレンジ色粉末として得た(2.58g、72%)。
【0059】
H−NMR(200mHz、C)ppm:
9.02(s,1H)、7.68(s,1H)、7.31(d,J=8.1Hz,1H)、7.16(s,1H)、7.02(dd,J=8.1,7.4Hz,1H)、6.92(s,1H)、6.86(d,J=8.5Hz,1H)、6.69(dd,J=7.4,1.1Hz,1H)、6.30(d,J=8.6Hz,1H)、5.20(s,2H)、3.37(s,3H)
【0060】
実施例2
3−ブロモ−2−[4−(t−ブチルジメチルシラニルオキシ)−1−(ナフト[2,3−d][1,3]ジオキソ−5−イルアミノ)−ブチル]−6−メトキシフェノールの合成
実施例1で得られた3−ブロモ−6−メトキシ−2−(ナフト[2,3−d][1,3]ジオキソ−5−イルイミノメチル)−フェノール(10.2g、25.5mmol)をテトラヒドロフラン(THF:88mL)に懸濁し、3−(t−ブチルジメチルシロキシ)プロピルマグネシウムブロミド(186mmol相当)を1時間かけて滴下した。室温にて、一晩撹拌後、10%塩化アンモニウム水溶液に反応液を加え、酢酸エチルにて抽出した。有機層から減圧下溶媒を留去し、残渣をヘキサンで洗浄することにより目的物をオレンジ色粉末として得た(11.3g、77%)。
【0061】
H−NMR(200mHz、CDCl)ppm:
7.31(s,1H)、7.15(d,J=8.5Hz,1H)、7.13(d,J=7.0Hz,1H)、7.07(s,1H)、7.07(dd,J=9.5,8.9Hz,1H)、6.68(d,J=7.2,1H)、6.59(d,J=8.7Hz,1H)、6.03(dd,J=2.4,1.1Hz,2H)、5.10(br t,1H)、3.78(s,3H)、3.69(t,2H)、1.4〜2.3(m,4H)、0.88(s,9H)、0.04(s,6H)
FAB−MS(positive mode)m/z:573,575[M]
【0062】
実施例3
[1−(ベンジルオキシ−6−ブロモ−3−メトキシフェニル)−4−(t−ブチルジメチルシラニルオキシ)ブチル]−ナフト[2,3−d][1,3]ジオキソ−5−イルアミンの合成
実施例2で得られた3−ブロモ−2−[4−(t−ブチルジメチルシラニルオキシ)−1−(ナフト[2,3−d][1,3]ジオキソ−5−イルアミノ)−ブチル]−6−メトキシフェノール(0.39g、0.69mmol)をDMF(5mL)に溶かし、炭酸カリウム(0.10g、0.76mmol)を加え、次いでベンジルブロマイド(0.12g、0.76mmol)を加え、室温で一晩撹拌した。反応終了後、水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラム(ヘキサン:酢酸エチル=5:1〜1:1にて溶出)に通し、主要画分を集めて減圧下濃縮し、目的化合物をオレンジ色オイルとして得た(0.44g、97%)。
【0063】
H−NMR(200mHz、CDCl)ppm:
7.43(br s,6H)、6.98〜7.31(m,3H)、6.75(brs,1H)、6.70(br d,J=8.7Hz,1H)、6.56(br d,J=7.0Hz,1H)、5.99(dd,J=3.3,1.2Hz,2H)、5.04(br s,2H)、3.79(br s,3H)、3.62(t,3H)、1.4〜1.9(m,5H)、0.86(s,9H)、0.01(s,6H)
FAB−MS(positive mode)m/z:663,665[M]
【0064】
実施例4
7−ベンジルオキシ−6−[3−(t−ブチルジメチルシラニルオキシ)プロピル]−8−メトキシ−2,3−(メチレンジオキシ)ベンゾ[c]フェナンスリジンの合成
実施例3で得られた[1−(ベンジルオキシ−6−ブロモ−3−メトキシフェニル)−4−(t−ブチルジメチルシラニルオキシ)ブチル]−ナフト[2,3−d][1,3]ジオキソ−5−イルアミン(0.19g、0.28mmol)をトルエン5mLに溶解し110℃に加熱した。この溶液にトリス(トリメチルシリル)シラン(0.14g、0.57mmol)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(0.93g、0.48mmol)を加える。2時間後、反応液を100度まで冷却し、活性二酸化マンガン400mgを加えて2.5時間撹拌した。マンガンをろ別して減圧濃縮後、残留物を酢酸エチル300mL、炭酸水素ナトリウム水溶液300mLを加えて分液ロートに移し、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水後、ろ過、濃縮する。残渣をシリカゲルカラム(ヘキサン:酢酸エチル=5:1〜1:1にて溶出)に通し、目的画分を集めて減圧下濃縮し、目的化合物の粗生成物黄土色固体として得た(16mg)。
【0065】
HPLCデータ
カラム:Xterra RP18(5μm)4.6mm(I.D)x150mm(L)
温度:40℃
Eluent:ポンプA:0.1%NEt水溶液
ポンプB:アセトニトリル
Bconc:0min→20min 75%→95%
UV=270nm
retention time:10.2min
【0066】
H−NMR(200mHz、CDCl)ppm:
8.78(br s,1H)、8.45(d,J=9.3Hz,1H)、8.32(d,J=9.1Hz,1H)、7.78(d,J=9.0Hz,1H)、7.60〜7.62(m,3H)、7.35〜7.47(m,3H)、7.22(s,1H)、6.12(s,2H)、5.20(s,2H)、4.05(s,3H)、3.63〜3.75(m,4H)、2.18〜2.32(m,2H)、0.77(s,9H)、0.02(s,6H)
FAB−MS(positive mode)m/z:582[M+H]
【0067】
実施例1〜4より明らかなように、上記従来の製造法中の部分還元工程とメチル化の工程が省かれた本発明の製造法により、反応性・収率共に損なうことなく極めて簡便に一般式(4)で表されるベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体を得ることができる。該ベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体は特許文献1に記載の方法を用いて、抗腫瘍活性を有するベンゾ[c]フェナンスリジニウム誘導体に導くことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

[式中、R1、R2はそれぞれ独立して水酸基、水素原子又は低級アルコキシ基、或いはR1とR2が結合してメチレンジオキシ基を示し、Xはハロゲン原子を示す。]で表される化合物に、下記一般式(2)
【化2】

[式中、Mは低級アルキル基、ハロゲン原子及び保護基で保護された水酸基からなる群より選ばれる置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素鎖を示し、R3は保護基を示し、Wは有機金属または無機金属塩を示す。]で表される有機金属化合物を反応させ、下記一般式(3)
【化3】

[式中、R1、R2、R3、X,Mは上記と同じ意味を示す。]で表される化合物とし、次いでフェノール性水酸基をベンジルエーテル化した後、有機スズ水素化物または有機シリル水素化物を用いたラジカル閉環反応に付し、ついで酸化剤により芳香族化することを特徴とする下記一般式(4)
【化4】

[式中、Bnはベンジル基を示し、R1、R2、R3、Mは上記と同じ意味を示す。]で表されるベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体の製造法。
【請求項2】
一般式(1)においてR1とR2が結合してメチレンジオキシ基、一般式(2)においてWが無機金属塩、Mが炭素数1〜5の直鎖脂肪族炭化水素鎖である請求項1記載のベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体の製造法。

【公開番号】特開2006−143626(P2006−143626A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−333776(P2004−333776)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】