説明

ベーカリー食品用小麦粉代替物及びベーカリー食品

【課題】ベーカリー食品用小麦粉代替物及びベーカリー食品を提供すること。
【解決手段】膨潤抑制澱粉及び膨潤非抑制澱粉を配合してなるベーカリー食品用小麦粉代替物;原料小麦粉の10〜100%を、上記小麦粉代替物で置換した穀粉を用いて製造された、ベーカリー食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨潤抑制澱粉と膨潤非抑制澱粉を含むことを特徴とするベーカリー食品用小麦粉代替物、及びそれを用いて製造される製パン性、味及び食感が改善されたベーカリー食品に関する。
【背景技術】
【0002】
食物繊維は、食品中の成分のうち、人間の消化酵素で消化されない成分の総称である。食物繊維は、水に溶ける水溶性食物繊維(以下、SDF)と、水に溶けない不溶性食物繊維(以下、IDF)に大別され、それぞれ生体内で異なる生理機能を示す事からSDFとIDFそれぞれの値が食品成分表に記載されるとともに、SDFとIDFの両区分の総和が総食物繊維(以下、TDF)として食品成分表に記載されている。
生理機能の例として、SDFは大腸で発酵を受けやすく、その生産物が有効利用されることが知られている。またIDFを中心とした排泄促進作用が報告されている。更にはTDF摂取量の増加により腸内容物の移動促進作用の結果として刺激緩和などによる大腸ガン発症の抑制作用や大腸憩室の抑制作用などが知られている(五訂食品成分表2001)。このように、食物繊維は多くの効能があるため、五大栄養素に続く、「第六の栄養素」として、大変重要視されている。
【0003】
一方近年、健康志向の高まりに伴い、TDF含量の多い膨潤抑制澱粉製品が各社から上市されている。澱粉の膨潤を抑制する方法としては、澱粉にリン酸架橋を施す方法(特許文献1)、澱粉に湿熱処理を施す方法(非特許文献1)、アミロース含量が多い澱粉素材を選抜する方法等が用いられている。このような方法で得られた澱粉製品は加熱による膨潤が抑制される事によりIDF含量は増加するものの、SDFはほとんど含まれていない。
このような膨潤抑制澱粉をベーカリー食品に利用する技術も提案されている。例えば特許文献1はリン酸架橋澱粉を含む食品、特にベーカリー食品を含む膨化食品を開示している。
【0004】
膨潤抑制澱粉をベーカリー食品の材料として配合しようとする主たる目的は、得られる最終製品の食物繊維含量を高めることである。しかしながら、膨潤抑制澱粉を、ベーカリー食品の材料として多量に配合した場合には、最終製品の食感が粉っぽく、風味が悪いという欠点があった。また製造時に生地がベタつき、生地の粘弾性・伸展性が不足するという問題も生じていた。
例えば特許文献2には、食パン類を製造する際の主原料として、小麦粉55〜90質量部と、その膨潤度が3〜15で且つ溶解度が15質量%以下である架橋澱粉 45〜10質量部とからなる原料粉を用いたことを特徴とする食パン類が開示されている。しかし、澱粉素材としてリン酸架橋澱粉のみを配合したパンを試作した場合、最終製品の食感は粉っぽく風味も悪いという欠点があった。
【0005】
また特許文献3には、湿熱処理澱粉を用いたパン類およびパン粉の製造方法が開示されている。しかしながら、この製造方法では、製パン時に生地がベタつき、かつ粘弾性・伸展性に欠ける問題があり、また最終製品はリン酸架橋澱粉の場合と同様、食感は粉っぽく風味も悪いという欠点があった。
一方、特許文献4には、穀粉と、60質量%以上のレジスタントスターチを含むレジスタントスターチ含有澱粉とを含有することを特徴とする麺類が開示されている。さらに同文献には、レジスタントスターチ含有澱粉として高アミロースコーンスターチ及び/又はその誘導体の湿熱処理澱粉が好ましく用いられる事が示されている。しかしながら、ベーカリー食品に関する記載はない。
特許文献5には、小麦粉を主原料の一つとする菓子類の製造に際し、置換度(DS)0.01〜0.15のヒドロキシプロピル澱粉及び/又はアセチル澱粉と膨潤抑制澱粉とを10:90乃至90:10の比率で混合したもので、小麦粉の10〜80質量%を置き換えて使用し、且つ小麦粉を含めた置換度が0.001〜0.03になるように用いることを特徴とする菓子類の製造法に関する開示がある。しかしながら、ベーカリー食品に関する記載はない。
【0006】
【特許文献1】特表2002−503959号公報
【特許文献2】特許第3723860号
【特許文献3】特開平6−169680号公報
【特許文献4】特開平10−313804号公報
【特許文献5】特許第3488935号
【非特許文献1】澱粉科学 第40巻 第3号 第285〜290ページ(1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ベーカリー食品用小麦粉代替物及びベーカリー食品を提供することである。本発明の他の目的は、膨潤抑制澱粉を用いたベーカリー食品の、2次加工適性及び最終製品における食感及び風味を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は膨潤抑制澱粉を配合したベーカリー食品の製造に際し、膨潤非抑制澱粉を併用することによって解決される。本発明者らは膨潤抑制澱粉を配合したベーカリー食品における前記問題点を解決すべく鋭意検討した結果、膨潤抑制澱粉と膨潤非抑制澱粉を併用して配合することにより、前記問題点が解決されることを見出し、本発明に到達した。
本発明は以下のベーカリー食品用小麦粉代替物及びベーカリー食品を提供するものである。
1.膨潤抑制澱粉及び膨潤非抑制澱粉を配合してなるベーカリー食品用小麦粉代替物。
2.膨潤抑制澱粉の膨潤度が10以下である、上記1に記載のベーカリー食品用小麦粉代替物。
3.膨潤抑制澱粉の膨潤度が5以下である、上記1に記載のベーカリー食品用小麦粉代替物。
4.膨潤抑制澱粉がリン酸架橋澱粉又は湿熱処理澱粉である、上記1〜3のいずれか1項に記載のベーカリー食品用小麦粉代替物。
5.膨潤非抑制澱粉の膨潤度が15以上である、上記1〜4のいずれか1項に記載のベーカリー食品用小麦粉代替物。
6.膨潤非抑制澱粉がヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、酢酸澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、及び酸化澱粉からなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記5に記載のベーカリー食品用小麦粉代替物。
7.膨潤非抑制澱粉がヒドロキシプロピル澱粉及び/又はヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉である、上記5又は6に記載のベーカリー食品用小麦粉代替物。
8.膨潤抑制澱粉と膨潤非抑制澱粉の配合比が10:90〜80:20である、上記1〜7のいずれか1項に記載のベーカリー食品用小麦粉代替物。
9.膨潤抑制澱粉と膨潤非抑制澱粉の配合比が20:80〜50:50である、上記8に記載のベーカリー食品用小麦粉代替物
10.膨潤抑制澱粉と膨潤非抑制澱粉を配合してなるベーカリー食品用小麦粉代替物に、小麦グルテンを配合してなる、上記1〜9のいずれか1項に記載のベーカリー食品用小麦粉代替物。
11.原料小麦粉の10〜100%を、膨潤抑制澱粉及び膨潤非抑制澱粉を配合してなるベーカリー食品用小麦粉代替物で置換した穀粉を用いて製造された、ベーカリー食品。
12.原料小麦粉の20〜70%を、膨潤抑制澱粉及び膨潤非抑制澱粉を配合してなるベーカリー食品用小麦粉代替物で置換した穀粉を用いて製造された、上記11に記載のベーカリー食品。
13.膨潤抑制澱粉及び膨潤非抑制澱粉を配合してなるベーカリー食品用小麦粉代替物が、さらに小麦グルテンを配合したものである、上記11又は12に記載のベーカリー食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、膨潤抑制澱粉と膨潤非抑制澱粉をベーカリー食品の配合に併用することにより、膨潤抑制澱粉を配合したベーカリー食品と比べて製造時の生地のベタつきを軽減し、食感及び風味に優れたベーカリー食品を提供する事が可能となる。
また、膨潤抑制澱粉、特にリン酸架橋澱粉と、膨潤非抑制澱粉、特にヒドロキシプロピル澱粉またはヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉をベーカリー食品の配合に併用することにより、食感風味への相乗的な品質改善効果をもたらすことが可能である。
さらに、ヒドロキシプロピル澱粉及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉はその加工度に応じてSDFを含有しているため、ベーカリー食品の品質向上のみならず、製品中のTDF含量を大きく下げることがない。加えて、膨潤抑制澱粉にはほとんど含まれないSDFの含量を増加させる事にもなり、その生理効果も期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明でいうベーカリー食品は、小麦粉を主原料とし、必要に応じて全粒粉、ライ麦粉、コーンフラワー、そば粉、米粉等の穀粉を含む穀粉原料に、少なくとも水、食塩及び/又は気泡を生じせしめる材料を加え、更にそれぞれの食品を製造する上で必要な副材料を加えてドウもしくはバッターを形成し、これを加熱調理して含水率が約2〜50%とした食品であって、加熱調理前又は加熱調理中にイースト、ベーキングパウダー、全卵、卵白等によって大なり小なり気泡を生じせしめた食品である。
具体的にはオーブンで焼成するプルマン、イギリス食パン、ワンローフ等の食パン類、バゲット、パリジャン等のフランスパン、スイートロール、バンズ、テーブルロール等の各種ロール類の他、アンパン、メロンパン等の菓子パン、クロワッサンや各種デニッシュ、イングリッシュマフィン、ベーグル、ピザ、ナン等や、油で揚げるドーナツ、フリッター、蒸気で加熱される蒸しパン、中華饅頭等が例示される。尚、ここで用いられる副材料は、一般にベーカリー食品の製造に際して用いられている糖類、乳製品、油脂類、乳化剤、香料、香辛料、人工甘味料、着色料、洋酒類、レーズンその他の乾燥果実類、ナッツ類、ココアパウダー等である。また、本発明のベーカリー食品は、近年ベーカリー食品の製造工程の合理化や流通上の理由で利用される冷蔵生地や冷凍生地にも適用できる。さらには上記食品を二次加工して得られる食品、例えばパン粉やラスクといった食品も本発明のベーカリー食品に含まれる。本発明で特に推奨されるベーカリー食品としては、食パン類が挙げられる。
【0011】
本発明でいう小麦粉代替物とは、ベーカリー食品において一般的に知られている配合に基づいて、主原料となる原料小麦粉と置換されて用いられるものである。配合における小麦粉は強力粉、中力粉、薄力粉、又はこれらの組合せのいずれでもよい。また全粒粉ブレッドやライ麦ブレッド、米粉パンなど、小麦粉を主体とするベーカリー食品より派生した配合の場合に対しても、本発明の小麦粉代替物を適用できる。
【0012】
本発明でいう膨潤抑制澱粉は、澱粉を加熱糊化した際に澱粉粒子の膨潤が抑制されるように何らかの方法で加工した澱粉であって、その膨潤度が好ましくは10以下、さらに好ましくは膨潤度5以下であるものである。膨潤度が10を越えると、澱粉中のIDF含量が低下するという傾向がある。
膨潤抑制澱粉の原料素材は特に限定されない。例えば、小麦、タピオカ、ハイアミロースコーン、馬鈴薯、コーン、サゴ、豆、ワキシーコーンなどより選ばれ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
膨潤抑制澱粉を製造する具体的な加工法としては、架橋、湿熱処理、老化などが挙げられる。また、これらの加工澱粉をさらにα化、酸化、酵素処理、乳化剤処理及びこれらの組合せにより加工して用いても良い。膨潤抑制澱粉として好ましいのはリン酸架橋澱粉である。
膨潤抑制澱粉の例として、ノベロース240(ナショナルスターチ社:ハイアミロース澱粉)、ノベロース260(ナショナルスターチ社:ハイアミロース澱粉)、FiberSym70(MGPI社:リン酸架橋澱粉)、FiberSym80ST(MGPI社:リン酸架橋澱粉)、ロードスター(日本食品化工:湿熱処理澱粉)を挙げることができる。
【0013】
本発明でいう膨潤非抑制澱粉とは未加工澱粉もしくは加工された澱粉であって膨潤度が好ましくは15を越えるものである。
膨潤非抑制澱粉の原料素材は特に限定されない。例えば、小麦、タピオカ、ハイアミロースコーン、馬鈴薯、コーン、サゴ、豆、ワキシーコーン、米、糯米などより選ばれ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
膨潤非抑制澱粉として好ましいのはヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉であり、その他エステル化、膨潤を抑制しない軽度のリン酸架橋、エーテル架橋、エステル架橋、α化、酸化、酵素処理、乳化剤処理、又はこれらの組合せよりなる処理を施した澱粉が含まれる。
【0014】
なお、膨潤度は以下の方法によって測定する。
<膨潤度>
乾燥物換算で試料1.0gを純水100mlに分散し、90℃、30分間加熱後30℃に冷却する。次いで、この糊化液を遠心分離(3000rpm、10分間)してゲル層と上澄層に分け、ゲル層の質量を測定して、これをAとする。次に質量測定したゲル層を乾固(105℃、恒量)して質量を測定してこれをBとし、A/Bで膨潤度を表す。
【0015】
また、食物繊維含量(SDF、IDF、TDF)は以下の方法によって測定する。
<SDF、IDFの測定>
総食物繊維、即ちTDFの含量を測定する公定法(AOAC2001.03)を一部改変し、SDF及びIDFを測定した。具体的には以下のとおりである。
1つのサンプルにつき、タンパク質測定用と灰分測定用の2つのビーカーを用意する。500mLのトールビーカー中で、澱粉試料(1g)をpH6.0の0.08Mリン酸緩衝液50mLに分散させ、熱安定性α−アミラーゼ(ターマミル120L、NovoNordisk社)100μLを加える。ビーカーをアルミ箔で覆い、沸騰水浴中に入れ、5分毎に攪拌しながら30分間放置する。室温まで冷却した後、0.275M NaOH水溶液でpH7.5±0.1に調整し、プロテアーゼ(P−5380、シグマ社)100μLを加える。60℃の水浴中で振とうしながら30分間反応させる。室温まで冷却し、0.325M HCl水溶液でpH4.3±0.3に調整し、アミログルコシダーゼ(A−9913、シグマ社)100μLを加え、60℃の水浴中で振とうしながら30分間反応させる。セライト(1.1g)を敷き詰めたガラスろ過器(ロート型、11G2)で吸引しながらろ過する。残留物を含むろ過器は105℃で一晩乾燥させ、放冷後、質量を測定する。
【0016】
ろ過器の一方は、セライトと残留物をかき取り、ケルダール法にて窒素含量を測定し、タンパク質を定量する。他方は、ろ過器ごと525℃で5時間灰化させ、灰分含量を測定する。空試験として試料を含まずに同様の操作を行う。残留物を乾燥させた残渣に空試験の結果を加味した上でタンパク質及び灰分を除いた質量が不溶性食物繊維即ちIDFとして表現される。ろ過液はエバポレーターにかけ濃縮し、濃縮物を50mLの蒸留水で洗い取り、内部標準物質として100mg相当のグリセリン水溶液を加え、脱塩用イオン交換樹脂で脱塩し、濃縮して10mLに定容する。メンブランフィルター(0.20μm)でろ過したものをHPLCにかけ、クロマトグラムを得る。HPLC条件は次のとおりである。
HPLC条件
カラム: TSK−GEL G2500PWXL(7.8x 300mm)を2本連結したカラム(東ソー株式会社)
移動相: 純水(0.5ml/min)
検出: 屈折率
内部標準物質のグリセリン及び食物繊維画分(3糖類以上)のピーク面積より質量を求めたものが水溶性食物繊維、即ちSDFとして表現される。TDFは、SDF及びIDFの合計で求められる。
【0017】
本発明で用いられる膨潤抑制澱粉と膨潤非抑制澱粉の質量比率は、好ましくは10:90〜80:20、さらに好ましくは20:80〜50:50であり、これが小麦粉代替物として使用される。10:90〜80:20の範囲を外れると、膨潤抑制澱粉と膨潤非抑制澱粉を併用する効果が小さくなる傾向がある。
本発明で特に推奨される澱粉の組合せは、膨潤抑制澱粉としてリン酸架橋澱粉を用い、膨潤非抑制澱粉としてヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉を用いる組合せである。この組合せの場合、相乗効果により、優れた食感と風味を持つベーカリー食品を得ることができる。
【0018】
本発明で用いられる小麦粉代替物は、ベーカリー食品に使用される小麦粉の、好ましくは10〜100%、より好ましくは20〜70%を置換して用いられる。また、製品の種類によっては置換量に応じてグルテンを適宜添加しても良い。
一般にベーカリー食品には、食塩、イースト、イーストフード、砂糖、油脂類、卵、脱脂粉乳等の基本的な材料として使用されるものの他に、種々の目的で種々の材料が用いられている。例えば、全乳、濃縮乳、チーズ等の乳製品、ブドウ糖、ソルビット、水あめ、蜂蜜、異性化糖、オリゴ糖類、還元澱粉分解物、マルトデキストリン等の糖類やデキストリン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、グルテン、大豆蛋白、卵黄、卵白等の蛋白質、ジュランガム、カラギーナン、アルギン酸ソーダ、コーンスターチ等の多糖類、プロテアーゼ、アミラーゼ等の酵素剤、レーズン等の乾燥果実の他、洋酒類、香辛料、人工甘味料、着色料、着香料、野菜類、果物類、ナッツ類、ココアパウダー、保存料等が挙げられ、本発明においてもこれらを必要に応じ適宜用いることができる。
【0019】
ベーカリー食品の製造法は各種有り、製品の種類も多種多様であるが、本発明のベーカリー食品も基本的には従来の製造工程、製造条件により製造できる。すなわち、従来の方法において、原料小麦粉の所定量、好ましくは10〜100質量%を本発明の小麦粉代替物で置換することにより本発明の目的が達せられる。その際本発明の小麦粉代替物は保水性が小麦粉より高く、好ましい状態の生地を調製するには、加水量を従来より約2〜25%多くすることが好ましい。一般的に加水量を多くすると生地の成型性が悪くなり、作業性の低下を引き起こすが、本発明ではかかる支障は何ら見られず、好ましいことに生地の歩留りの向上に繋がるのである。
【0020】
実施例
以下に参考例、実施例を挙げ、更に詳しく本発明を説明する。但し、部とあるは質量部を示す。
参考例1
水140部に硫酸ソーダ10部、小麦澱粉100部を加えたスラリーを用意し、これに撹拌下3%苛性ソーダ水溶液を加えてpH11.1〜11.5に維持しながら、トリメタリン酸ソーダ7部を加え、45℃で17時間反応させた後、硫酸で中和し、水洗、脱水、乾燥して膨潤抑制澱粉No.1(架橋澱粉)を得た。
また、水の量を130部とし、小麦澱粉の代りにハイアミロースコーン澱粉を用い、他は同様に反応して膨潤抑制澱粉No.2(架橋澱粉)を得た。
さらに、ハイアミロースコーン澱粉に120℃60分のオートクレーブ処理を施し、膨潤抑制澱粉No.3(湿熱処理澱粉)を得た。
一方、市販のコーン由来リン酸架橋澱粉、及びタピオカ由来リン酸架橋澱粉をα化処理したものをそれぞれ膨潤抑制澱粉No.4及び5とした。
また市販のノベロース260(ナショナルスターチ社)を、膨潤抑制澱粉No.6とした。
これらの膨潤抑制澱粉の膨潤度及び食物繊維含量(SDF、IDF)を測定した。結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

ND:検出されず
【0022】
参考例2
水130部に硫酸ソーダ20部、馬鈴薯澱粉100部を加えたスラリーを用意し、これに攪拌下3%苛性ソーダ水溶液30部、オキシ塩化リン0.1部を加え、40℃で1時間反応させた。得られた試料にプロピレンオキサイド10部を加え、40℃で20時間反応させた後、塩酸で中和し、水洗、脱水、乾燥して膨潤非抑制澱粉No.1(ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉)を得た。
膨潤非抑制澱粉No.1の膨潤度は33.0、SDF含量は51.7%であり、IDFは検出されなかった。
【0023】
参考例3
参考例2において、馬鈴薯澱粉の代りにタピオカ澱粉を用い、他は同様に反応して膨潤非抑制澱粉No.2(ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉)を得た。
膨潤非抑制澱粉No.2の膨潤度は24.9、SDF含量は40.3%であり、IDF含量は1.02%であった。
【0024】
実施例1
表2に示す製パン配合を用いて表3の製造条件によって山形食パンを試作した。小麦粉代替物は表4に示す割合で調製した。
評価は7名のパネラーにより、ミキシング適性、成型時生地状態、製品外観・内相、製品風味、製品のなめらか感、製品のソフト感・口溶け感の各項目について、10段階評価(1:望ましくない〜10:最も望ましい)を行った。製品の官能面に関する評価(製品風味、製品のなめらか感、製品のソフト感・口溶け感)は製品を試作した翌日に行った。
製パン試験の結果を表4に示す。対照区と比較していずれの評価項目も向上した。また表2に示す製パン配合と得られた山形食パンの質量より、本実施例で得られた山形食パンに含まれる小麦代替物量は100gあたり約11gと算出された。したがって小麦粉代替物のTDF含有率が50%を越えれば山形食パン100gあたり5g以上のTDFを含むこととなる。食生活における成人の食物繊維摂取推奨量は1日20〜25gとされていることから、この含有量は十分に添加効果を見込める量である。
【0025】
【表2】

【0026】
【表3】











【0027】
【表4】

【0028】
実施例2
小麦粉代替物は表5に示す割合で調製し、他は実施例1と同様に製パン試験を実施した。製パン試験の結果を表5に示す。対照区と比較して、明らかな製パン性及び製品品質の向上が見られた。また比較区と比べても評価の合計が上回っていることから、膨潤抑制澱粉と膨潤非抑制澱粉の併用による相乗効果も確認された。また、小麦粉代替物No.4と対照区に関して試作3日後、及び5日後における製品の官能面に関する評価(製品風味、製品のなめらか感、製品のソフト感・口溶け感)を行った。この結果を表6に示す。対照区と比較して、経日的な製品品質低下の程度が小さかった。
【0029】
【表5】

【0030】
【表6】

【0031】
実施例3
小麦粉代替物は表7に示す割合で調製し、他は実施例1と同様に製パン試験を実施した。表7において、膨潤非抑制澱粉はタピオカ由来のヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉を用いた。製パン試験の結果を表7に示す。
【0032】
【表7】

【0033】
実施例4
小麦粉代替物は表8に示す割合で調製し、他は実施例1と同様に製パン試験を実施した。製パン試験の結果を表8に示す。膨潤非抑制澱粉の加工の種類に関わらず、製パン性及び製品品質の向上が見られた。また、アセチル化リン酸架橋澱粉についても膨潤抑制澱粉との併用による、相乗的な製品品質改善効果が認められた。











【0034】
【表8】

【0035】
実施例5
配合を表9及び表10にしたがって調整し、他は実施例1と同様に製パン試験を実施した。製パン試験の結果を表10に示す。
【0036】
【表9】





【0037】
【表10】

【0038】
実施例6
表11に示す中華まん生地配合を用いて、一般的な製造条件に従ってあんまんを試作した。評価は実施例1に準じて行った。結果を表12に示す。対照区と比較して、製造時の生地の取り扱いやすさ、製品のなめらか感、口溶け感とも高い評価を得た。
【0039】
【表11】

※1:奥野製薬工業株式会社製 トップベーキングパウダーDX
※2:日清フーズ株式会社製 スーパーカメリヤドライイースト



【0040】
【表12】

【0041】
実施例7
膨潤抑制澱粉No.2と膨潤非抑制澱粉No.1を1:1で混和した小麦粉代替物を用意した。対照区として膨潤抑制澱粉No.2を用意した。バンズ、クロワッサン、ケーキドーナツの各製品について、一般的な配合工程を用いて、用意した小麦粉代替物を原料小麦粉30%と置換して試作を行った。この結果、いずれの製品においても、製品のなめらか感や口溶け感において、良好な製品を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨潤抑制澱粉及び膨潤非抑制澱粉を配合してなるベーカリー食品用小麦粉代替物。
【請求項2】
膨潤抑制澱粉の膨潤度が10以下である、請求項1に記載のベーカリー食品用小麦粉代替物。
【請求項3】
膨潤抑制澱粉の膨潤度が5以下である、請求項1に記載のベーカリー食品用小麦粉代替物。
【請求項4】
膨潤抑制澱粉がリン酸架橋澱粉又は湿熱処理澱粉である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のベーカリー食品用小麦粉代替物。
【請求項5】
膨潤非抑制澱粉の膨潤度が15以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のベーカリー食品用小麦粉代替物。
【請求項6】
膨潤非抑制澱粉がヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、酢酸澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、及び酸化澱粉からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項5に記載のベーカリー食品用小麦粉代替物。
【請求項7】
膨潤非抑制澱粉がヒドロキシプロピル澱粉及び/又はヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉である、請求項5又は6に記載のベーカリー食品用小麦粉代替物。
【請求項8】
膨潤抑制澱粉と膨潤非抑制澱粉の配合比が10:90〜80:20である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のベーカリー食品用小麦粉代替物。
【請求項9】
膨潤抑制澱粉と膨潤非抑制澱粉の配合比が20:80〜50:50である、請求項8に記載のベーカリー食品用小麦粉代替物
【請求項10】
膨潤抑制澱粉と膨潤非抑制澱粉を配合してなるベーカリー食品用小麦粉代替物に、小麦グルテンを配合してなる、請求項1〜9のいずれか1項に記載のベーカリー食品用小麦粉代替物。
【請求項11】
原料小麦粉の10〜100%を、膨潤抑制澱粉及び膨潤非抑制澱粉を配合してなるベーカリー食品用小麦粉代替物で置換した穀粉を用いて製造された、ベーカリー食品。
【請求項12】
原料小麦粉の20〜70%を、膨潤抑制澱粉及び膨潤非抑制澱粉を配合してなるベーカリー食品用小麦粉代替物で置換した穀粉を用いて製造された、請求項11に記載のベーカリー食品。
【請求項13】
膨潤抑制澱粉及び膨潤非抑制澱粉を配合してなるベーカリー食品用小麦粉代替物が、さらに小麦グルテンを配合したものである、請求項11又は12に記載のベーカリー食品。