説明

ベーカリー食品用被覆剤及びそれを使用したベーカリー食品

【課題】様々な味付けができ、保湿性に優れ、口当たりが良く、なめらかでしなやかなゲル状を呈するベーカリー食品用被覆剤、及び該被覆剤で被覆されたベーカリー食品を提供すること。
【解決手段】寒天、糖類、加工澱粉及び水を含み、ゲル状を呈することを特徴とするベーカリー食品用被覆剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー食品用被覆剤及びそれを使用したベーカリー食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ドーナツ、パン等のベーカリー食品の仕上げとして表面を高濃度の糖水溶液等で被覆する方法が行われている。この方法には、ドーナツ、パン等に光沢を与えて外観上の商品価値を上げる他、味付け、乾燥防止等の効果がある。この方法に使用する素材は「アイシング」と総称され、ドーナツに多用されるグレーズ(グラス)等多くの種類がある。例えば、油脂、平均粒度を50μm〜300μmに粉砕した糖及び平均粒度を50μm未満に微粒化した粉乳を主成分とする上掛け組成物が知られている(特許文献1)。これらはいずれも糖類を主要な原料としているために乾燥すると割れて欠片が生じ易くまた剥離しやすくなり商品価値を著しく損なうため流通には注意が必要であった。
【0003】
油脂組成物で菓子又はパンの表面を被覆する方法も開示されている。例えば、特許文献2には、油脂中にラウリン系油脂を原料とするエステル交換油脂を40質量%以上及びSUS型トリグリセリドを20〜50質量%並びに糖類を含む油脂組成物であって、当該油脂組成物をテンパリング処理することなしに被覆することを特徴とする、菓子又はパンの製造法が開示されている。この油脂組成物は本質的にチョコレートであり、この方法で被覆された製品は、手につきやすく、室温が30℃以上になる夏場では油脂が溶け出し、周囲に付着しやすくなる。逆に冬場では15℃以下になると口どけが悪くなり、本来の風味が出にくくなる。また、チョコレート味が強調されるので、ベーカリー食品本来の味を出しにくい、他の具材との組み合わせによる味のバリエーションを出しにくい等の問題がある。
【0004】
また、特許文献3には、κ−カラギーナン0.4〜1.2質量%及び水溶性固形分を含むことを特徴とするベーカリー食品用上掛け組成物が開示されている。この組成物はゲル化にカルシウムイオンなどのカチオンを必要とする。しかし、完全にゲル化すると剥離しやすくなるので、ゾルの状態を維持し、且つ容易に流れ出さないように粘度調整が必要となる。その結果、ベタツキや流通過程での振動による変形が起こりやすい等の問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−084974
【特許文献2】特開2008−245577
【特許文献3】特開2006−271291
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ベーカリー食品用被覆剤、及びベーカリー食品を提供することである。
さらに詳細には、従来のベーカリー食品用被覆剤の問題点を解決し、様々な味付けができ、保湿性に優れ、口当たりが良く、なめらかでしなやかなゲル状を呈するベーカリー食品用被覆剤、及び該被覆剤で被覆された新規な食感及び形状のベーカリー食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために検討を重ねた結果、寒天、加工澱粉及び糖類を主体とする組成物が、ベーカリー食品、特にパン類及びドーナツ類の被覆剤として適していることを見出した。また、この組成物で被覆したベーカリー食品は冷蔵可能であり、特にドーナツ類は夏場に冷やして食することで清涼感のある新規な食感を有することを見出した。本発明はこのような知見に基いて達成された。すなわち、本発明は以下に示すベーカリー食品用被覆剤、及びベーカリー食品を提供するものである。
1.寒天、糖類、加工澱粉及び水を含み、ゲル状を呈することを特徴とするベーカリー食品用被覆剤。
2.加工澱粉が、漂白澱粉、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、リン酸架橋澱粉、及びそれらの2種以上の組み合わせからなる群から選択される、上記1記載のベーカリー食品用被覆剤。
3.ベーカリー食品がパン類又は菓子類である、上記1又は2に記載のベーカリー食品用被覆剤。
4.上記1〜3のいずれか1項記載のベーカリー食品用被覆剤で被覆されたベーカリー食品。
5.パン類又は菓子類である、上記4記載のベーカリー食品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の被覆剤は、様々な味付けができ、保湿性が高く、口当たりが良く、なめらかでしなやかなゲル状を呈する。本発明の被覆剤は、ベーカリー食品に様々の新規な食感を容易に付与することができるので、季節感のある新規なベーカリー食品を提供することが可能となる。本発明の被覆剤で被覆されたパン類、菓子類などのベーカリー食品は経時的劣化が少ない。本発明の被覆剤は、粘性変化や老化に対して安定であり、耐レトルト性、耐冷蔵性及び耐冷凍性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において「被覆剤」とは、焼成後のパン類やフライ後のドーナツ類等のベーカリー食品の表面を被覆して、保湿性を保持しつつ様々の食感を付与するための被覆剤(上掛け剤又はコーティング剤ともいう)を意味する。
【0010】
本発明において「加工澱粉」とは、澱粉を物理的、化学的又は酵素的に処理した澱粉を意味する。本発明に使用する加工澱粉は、被覆剤を食品の表面に被覆する際の適温範囲を広くして作業性を高め、食品からの被覆剤の剥離又は流出(液ダレ)を防止し、被覆表面の艶感、しっとり感等の清涼感、及び冷蔵冷凍耐性を付与する効果を有し、しかも食品本来の食感を損なわないものが好ましい。本発明に使用される加工澱粉の好ましい具体例としては、漂白澱粉、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、リン酸架橋澱粉、及びそれらの2種以上の組み合わせを例示することが出来る。
【0011】
漂白澱粉は、澱粉のアルカリ性けん濁液に次亜塩素酸ナトリウムを加えて漂白した澱粉であり、平成20年10月1日付けの厚生労働省令第151号及び告示第485号に規定する酸化澱粉に該当しない加工澱粉である。本発明では、市販の漂白澱粉も使用することができる。
アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉における置換度(未置換架橋澱粉中の水酸基の全モル数に対する置換架橋澱粉中の置換された水酸基の全モル数の比)は、好ましくは0.01〜0.2である。置換度が0.01未満では、被覆後の被覆剤の白濁、艶の低下、離水等が起こり、安定性が低下する傾向がある。置換度が0.2を超えると糊感が出て口当たりが悪くなる傾向がある。
【0012】
また、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉及びリン酸架橋澱粉における架橋は、被覆剤の粘性及び透明性を安定化させ、被覆剤としての耐レトルト性、耐冷凍性及び耐冷蔵性を向上させる。架橋度は、平成20年10月1日付けの厚生労働省令第151号及び告示第485号においてリン含量又はアジピン酸含量で規定されている。この内、本発明で使用する架橋澱粉のリン含量及びアジピン酸含量は、それぞれ0.04%(ただし、馬鈴薯澱粉由来のリン含量は0.12%)以下であることが好ましい。0.04%(ただし、馬鈴薯澱粉由来のリン含量は0.12%)を超えると粘度低下が起こる傾向がある。置換及び架橋を含む場合は、さらに被覆剤の粘性及び老化に対する安定性が向上する。
【0013】
これらの加工澱粉の製造に使用する原料澱粉としては、小麦澱粉、トウモロコシ澱粉、モチ種トウモロコシ澱粉(ワキシーコーンスターチ)、馬鈴薯澱粉、モチ種馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、米澱粉、もち米澱粉、さつまいも澱粉、さご澱粉、くず澱粉等が挙げられるが、被覆剤の透明性を高めようとする場合は、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉又はワキシーコーンスターチが好ましい。
加工澱粉の使用量は、被覆剤全体に対して好ましくは0.2〜5.0質量%、さらに好ましくは0.3〜3.0質量%である。0.2質量%未満では液ダレ防止、離水防止、乾燥防止という点で好ましくないことがあり、また、5.0質量%を超えると粘性が強くなり、表面が不均一になる傾向がある。
【0014】
本発明に使用する糖類は、甘味料としての機能に加え、ベーカリー食品の水分を保持するために機能する水溶性糖質であり、蔗糖、乳糖、果糖、オリゴ糖、転化糖、ぶどう糖、粉糖、麦芽糖、糖アルコール類、デキストリン、水飴等を例示することができる。また、果実粉末、果汁粉末、餡、ジャム類、甘露系ナッツ(クリ等)、甘納豆、果実等の副成分を本発明の被覆剤に含有させる場合、それらに含まれる水溶性固形分は、本発明に使用する糖類の一部として用いられる。これらの糖類は、単独又は組み合わせて使用することができる。これらの糖類は、被覆剤中の糖度(水溶性固形分)が好ましくは40〜70、さらに好ましくは52〜65となるように配合する。糖度が40未満では、生地に水分が移行し易く、食味を低下させる傾向がある。また、70を超えると、生地の水分が減少し易く食品全体が乾燥し易い傾向がある。この明細書において「糖度」とは、水溶性固形分濃度を意味し、20℃においてブリックス計により測定される値を意味する。
【0015】
本発明に使用する寒天としては、市販のものが使用でき、粉末寒天として市販されているものも使用できる。寒天の使用量は、被覆剤が加熱時に溶解して被覆が容易であり、冷却時にしなやかなゲル状になる限りにおいて特に限定されないが、食感及び被覆安定性を考慮すると、被覆剤全体に対し好ましくは0.2〜2.0質量%である。
【0016】
本発明におけるベーカリー食品とは、ケーキドーナツ、イーストドーナツ、シュードーナツ、カリントウ、揚げせんべいなどの揚げ菓子、クッキー、ケーキ、スコーン、マフィン、バウムクーヘン、クラッカー、シューなどの焼き菓子、食パン、バターロール、デニッシュ、クロワッサンなどのパン類が挙げられる。
この他、菓子類としては、まんじゅう、カステラ、どら焼き、今川焼き、たい焼き、きんつば、ワッフル、栗まんじゅう、月餅、ボーロ、八つ橋、スポンジケーキ、ロールケーキ、蒸しケーキ、エンゼルケーキ、パウンドケーキ、フルーツケーキ、マドレーヌ、シュークリーム、エクレア、ミルフィユ、アップルパイ、タルト、蒸しパン、プレッツェル、ウエハース、スナック菓子、ピザパイ、クレープ、スフレー、ベニェなどが挙げられ、パン類としては、コッペパン、フルーツブレッド、コーンブレッド、ハンバーガーバンズ、ロールパン、菓子パン、スイートドウ、ベーグル、クロワッサン、デニッシュペーストリー、ナンなどが挙げられる。
【0017】
本発明の被覆剤は、寒天、糖類及び加工澱粉を主成分とし、必要に応じてそれ以外の副成分を含有することができる。副成分としては、カカオマス、ココアケーキ、ココアパウダー等のカカオ原料、若しくは全脂粉乳、脱脂粉乳、生クリーム粉末、チーズ粉末、ヨーグルト粉末等の乳製品粉末又は果実粉末、果汁粉末、コーヒー粉末、紅茶粉末、緑茶粉末、カレー粉、調味材等の各種粉末、餡、ジャム類、甘露系ナッツ(クリ等)、甘納豆、果実、香料等が例示できる。
また、本発明の被覆剤に使用する寒天は、他のゲル化剤、例えばカラギーナン、ペクチン、ゼラチンと併用することもできる。
【0018】
本発明のベーカリー食品用被覆剤は、寒天、加工澱粉、糖類及び必要に応じて副成分を、同時又は別々に、水に加熱溶解又はそのまま混合して製造することができる。例えば、以下の方法で製造することができる。
1.粉末寒天に水を加えて、例えば、85〜100℃で加熱溶解する。
2.糖類を加えて溶解する。
3.水溶きした加工澱粉を加えて仕上がり糖度になるまで加熱する。
4.必要に応じて追加副成分を加えて混合する。
5.50℃以上100℃未満に保持しつつ被覆剤としてそのまま使用する。
【0019】
得られた被覆剤をそのまま冷蔵又は冷凍保存するか、あるいは、パウチ袋に充填してレトルト殺菌し、常温又は低温保存し、使用時に再加熱して被覆剤として使用することもできる。
パウチ袋に充填した本発明のベーカリー食品用被覆剤は、加熱してそのまま使用することが出来るので毎回調製する必要が無い。
また、寒天、加工澱粉及び糖類の粉末混合物を基本被覆剤として用意し、使用時に必要に応じ副成分と混合溶解して被覆剤とすることもできる。
【0020】
このようにして調製された被覆剤は、好ましくは50℃以上100℃未満、通常60℃前後に保温した状態でベーカリー食品の被覆に使用する。
被覆の厚さは被覆温度を調節することにより調節することが可能である。50℃未満の温度では粘度が上昇し作業性が悪くなる。被覆する方法としては、例えばグレーザーを用いて被覆剤を流し掛けしたり、浸漬機を用いて浸漬したり、容器に被覆剤を入れベーカリー食品を浸したり、あるいはハケ等を用いて塗布したりすることができる。被覆はベーカリー食品表面の一部分でも全体でもよい。
【0021】
本発明の被覆剤を前記のようにベーカリー食品の表面に被覆した後、冷却又は自然に放置すると、温度低下とともに被覆剤がゲル化し、表面に艶があり、シットリ感、みずみずしさに優れた清涼感のある被覆となり、しかも被覆は安定であり、食品からの剥離や流出がない。さらに、被覆剤からの離水がないので、ベタツキ感がなく、取り扱いが容易であるという利点を有する。
本発明の被覆剤で被覆されたベーカリー食品は、冷蔵、冷凍保存が可能であり、自然解凍により冷凍前の品質を再現できる。
【実施例】
【0022】
以下本発明を実施例により具体的に説明する。
実施例1 ベーカリー食品用基本被覆剤の調製
ワキシーコーンスターチ由来のヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉(置換度:0.14、リン含量:0.004%、松谷化学工業株式会社製)1.5g、粉末寒天(伊那寒天株式会社製ZR)1.0g及び水60gを混合し、約95℃で加熱溶解した。
次いでグラニュー糖65g及び低甘味還元水飴(松谷化学)50gを加えて溶解し、仕上がり糖度60になるまで加熱して被覆剤を得た。この被覆剤は、50℃未満に戻すと、流動性のゾルが凝結してゼリー状に固化したゲル状を呈した。これを室温に戻した後、使用するまで冷蔵庫(5℃)に保存した。
【0023】
比較例1
実施例1において加工澱粉(ワキシーコーンスターチ由来のヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉)の代わりに同量の馬鈴薯澱粉を使用した他は同様にして、被覆剤を得た。
比較例2
実施例1において、寒天を使用しなかった他は同様の操作を行ったが、ゲルが形成されず、得られた生成物は被覆剤として使用することはできなかった。
比較例3
実施例1において、寒天の代わりにκ−カラギーナンを使用した他は同様の操作を行ったが、得られた生成物はゾルの状態を保持しており、本発明のゲル状の被覆剤は得られなかった。
実施例2 水羊羹タイプのベーカリー食品用被覆剤の調製
粉末寒天6gを水350gにけん濁して約95℃で加熱溶解した。次いでグラニュー糖360g、小豆さらし生餡220g及び低甘味還元水飴70gを順次投入して溶解させた。さらに水溶きしたタピオカ由来のヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉(置換度:0.078、リン含量:0.005%、松谷化学工業株式会社製)6g及び食塩0.3gを加え、仕上がり糖度62になるまで加熱して被覆剤を得た。この被覆剤は、50℃未満に戻すと、流動性のゾルが凝結してゼリー状に固化したゲル状を呈した。これを室温に戻した後、使用するまで冷蔵庫(5℃)に保存した。
【0024】
実施例3 抹茶水羊羹タイプのベーカリー食品用被覆剤の調製
粉末寒天8gを水350gにけん濁して約95℃で加熱溶解した。次いでグラニュー糖250g及び白並餡400gを順次投入して溶解させた。さらに水溶きしたタピオカ由来のヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉(置換度:0.066、リン含量:0.005%、松谷化学工業株式会社製)8gを加え、仕上がり糖度64になるまで加熱した。荒熱を取った後に、水50gにけん濁した抹茶25gを混合して被覆剤を得た。この被覆剤は、50℃未満に戻すと、流動性のゾルが凝結してゼリー状に固化したゲル状を呈した。これを室温に戻した後、使用するまで冷蔵庫(5℃)に保存した。
【0025】
実施例4 イチゴ味のベーカリー食品用被覆剤の調製
水150gと粉末寒天6gを混合し、約95℃で加熱溶解した。次いでグラニュー糖150g及び低甘味還元水飴100gを投入して溶解させた。さらに、水溶きしたワキシーコーンスターチ由来のヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉(置換度:0.078、リン含量:0.005%、松谷化学工業株式会社製)12gを投入して約95℃で加熱溶解した。最後にイチゴジャム(糖度55)100gを加えて攪拌し、仕上がり糖度57になるまで加熱して被覆剤を得た。この被覆剤は、50℃未満に戻すと、流動性のゾルが凝結してゼリー状に固化したゲル状を呈した。これを室温に戻した後、使用するまで冷蔵庫(5℃)に保存した。
【0026】
実施例5 マンゴー味のベーカリー食品用被覆剤の調製
水70gと粉末寒天4gを混合し、約95℃で加熱溶解した。次いでグラニュー糖100g、低甘味還元水飴100g、クエン酸ナトリウム2gを投入して溶解させた。さらに、水溶きしたタピオカ澱粉由来のアセチル化リン酸架橋澱粉(置換度:0.042、リン含量:0.007%、松谷化学工業株式会社製)5gを投入して加熱溶解し、最後にマンゴーピューレ100gを加えて攪拌し、仕上がり糖度53になるまで加熱して被覆剤を得た。この被覆剤は、50℃未満に戻すと、流動性のゾルが凝結してゼリー状に固化したゲル状を呈した。これを室温に戻した後、使用するまで冷蔵庫(5℃)に保存した。
【0027】
実施例6 焼き芋味のベーカリー食品用被覆剤の調製
水150gと粉末寒天7gを混合し、約95℃で加熱溶解した。次いでグラニュー糖200g及び低甘味還元水飴80gを投入して溶解させた。さらに、水溶きした糯米澱粉由来のリン酸架橋澱粉(リン含量:0.023%、松谷化学工業株式会社製)15gを投入して加熱溶解し、最後に裏ごし焼き芋250gを加えて攪拌し、仕上がり糖度52になるまで加熱して被覆剤を得た。この被覆剤は、50℃未満に戻すと、流動性のゾルが凝結してゼリー状に固化したゲル状を呈した。これを室温に戻した後、使用するまで冷蔵庫(5℃)に保存した。
【0028】
実施例7 カスタードクリーム味のベーカリー食品用被覆剤の調製
牛乳65g、卵黄10g及び低甘味デキストリン(松谷化学工業株式会社製)25gを混合した。これに上白糖50g、粉末寒天3g及びコーンスターチ由来のヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉(置換度:0.098、リン含量:0.008%、松谷化学工業株式会社製)3gを投入し、約50℃で加熱溶解した。さらに、T.K.ホモミキサーで5000rpm、5分間攪拌した後、沸騰水浴中で加熱攪拌し、仕上がり糖度59に調整して被覆剤とした。この被覆剤は、50℃未満に戻すと、流動性のゾルが凝結してゼリー状に固化したゲル状を呈した。これを室温に戻した後、使用するまで冷蔵庫(5℃)に保存した。
【0029】
実施例8 水羊羹タイプのベーカリー食品用被覆剤に使用するミックス粉の調製
乾燥小豆さらし粉100g、低甘味還元粉飴(松谷化学工業株式会社製)、タピオカ澱粉由来のヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉6g及び粉末寒天5gを均一に混合して水羊羹タイプのベーカリー食品用被覆剤に使用するミックス粉を調製した。
このミックス粉100gに対し、グラニュー糖400g及び水500gを加え混合し、約95℃で加熱溶解し、さらに沸騰するまで加熱した後、約60℃まで冷却して被覆剤として使用した。
【0030】
実施例9 被覆剤で被覆したドーナツの調製及びその評価
表1に示す処方の原料をパン用ミキサーで低速1分間、中高速1分間混捏して均一な生地とした。この生地を1cm厚に伸ばし、リング型の抜き型で1個45gに抜き、型抜きした生地を180℃の油中に投入し、片面1分づつ、計2分間揚げてケーキドーナツを調製した。
【0031】
【表1】

【0032】
このようにして調製したケーキドーナツを実施例1〜7、比較例1で調製した被覆剤で被覆した。すなわち、冷蔵保存した被覆剤を電子レンジで加熱溶解して約60℃に保持し、ケーキドーナツの片面を浸した後、室温に30分間放置して、13gの被覆剤で被覆されたケーキドーナツを得た。
これらについて、10人のパネラーによる5点評価で外観及び食感の官能評価を行った。官能評価項目及び基準は表2のとおりとした。
【0033】
【表2】

【0034】
得られた結果(平均値)を表3に示す。総合評価は外観と食感の評価値の平均値である。
【0035】
【表3】

【0036】
この結果から、本発明の被覆剤で被覆した食品は、外観及び食感において高い評価が得られることがわかる。
【0037】
実施例10 被覆剤で被覆したバターロールの調製とその評価
表4の処方で、バター以外の原料をパン用ミキサーで、低速2分間、中速5分間混捏した。バターを加えてさらに低速1分間、中速5分間、高速1分間混捏し、均一な生地とし、これを90分間発酵させ、50gに分割した。ベンチタイム25分間の後、成型し、さらにホイロ時間50分をとった後、200℃で10分間焼成してバターロールを得た。
【0038】
【表4】

【0039】
このようにして調製したバターロールを実施例9と同様にして9gの被覆剤で被覆して官能評価を行った。その結果、表5に示すように実施例9と同様の結果が得られた。
【0040】
【表5】

【0041】
実施例11 被覆剤で被覆したスポンジケーキの調製とその評価
表6の処方により、オールインミックス法に従って、スポンジケーキ(330g)を調製した。
【0042】
【表6】

【0043】
このようにして調製したスポンジケーキを実施例9と同様にして66gの被覆剤で被覆して官能評価を行った。その結果、表7に示すように実施例9と同様の結果が得られた。
【0044】
【表7】

【0045】
実施例12 漂白澱粉を含む水羊羹タイプベーカリー食品用被覆剤の調製及び評価
粉末寒天7gを水350gにけん濁して約95℃で加熱溶解した。次いでグラニュー糖360g、小豆潰し粒生餡230g及び低甘味還元水飴80gを順次投入して溶解させた。さらに水溶きしたタピオカ由来の漂白澱粉(松谷化学)6g及び食塩0.3gを加え、仕上がり糖度63になるまで約95℃で加熱した。この被覆剤は、50℃未満に戻すと、流動性のゾルが凝結してゼリー状に固化したゲル状を呈した。これを冷蔵(5℃)した後、再加熱して被覆剤として使用した。実施例9と同様に、この被覆剤で被覆したケーキドーナツは、保湿性があり、離水がなく、ソフトでなめらかな食感であった。
【0046】
実施例13 被覆剤の保存安定性試験
実施例1で調製した被覆剤を冷蔵保存、冷凍保存又はレトルト加熱保存した後、実施例9の方法でケーキドーナツに被覆し、実施例9の評価方法で外観及び食感を評価した。冷蔵保存及び冷凍保存では、それぞれ密封容器中、冷蔵庫(約5℃)及び冷凍庫(約−18℃)に3日間保存した後、電子レンジで再加熱した。この工程をそれぞれ5回繰り返した後、評価に供した。また、実施例1で調製した被覆剤を密封容器中、120℃、10分のレトルト加熱を行い、室温で2週間保存した後、評価に供した。その結果を表8に示す。
【0047】
【表8】

【0048】
表8の結果から、本発明の被覆剤は冷蔵保存、冷凍保存又はレトルト加熱保存によってもその被覆剤としての特性を保持しており、耐冷蔵性、耐冷凍性、及び耐レトルト性があることが分かる。
【0049】
実施例14 被覆剤で被覆したケーキドーナツの保存安定性試験
実施例9の方法に従って、実施例1で調製した被覆剤で被覆したドーナツを調製し、室温、冷蔵庫、又は冷凍庫にそれぞれ3日間保存した後、室温にもどして実施例9の方法に従って、外観及び食感を評価した。その結果を表9に示す。
【0050】
【表9】

【0051】
表9の結果から、本発明の被覆剤で被覆したケーキドーナツは、冷蔵保存又は冷凍保存してもその食品としての特性を保持しており、耐冷蔵性及び耐冷凍性があることが分かる。なお、被覆剤で被覆していないケーキドーナツは、いずれの保存においても水分が減少し、しっとり感が低下し、口当たりが悪くなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
寒天、糖類、加工澱粉及び水を含み、ゲル状を呈することを特徴とするベーカリー食品用被覆剤。
【請求項2】
加工澱粉が、漂白澱粉、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、リン酸架橋澱粉、及びそれらの2種以上の組み合わせからなる群から選択される、請求項1記載のベーカリー食品用被覆剤。
【請求項3】
ベーカリー食品がパン類又は菓子類である、請求項1又は2に記載のベーカリー食品用被覆剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載のベーカリー食品用被覆剤で被覆されたベーカリー食品。
【請求項5】
パン類又は菓子類である、請求項4記載のベーカリー食品。

【公開番号】特開2010−178668(P2010−178668A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24730(P2009−24730)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(000188227)松谷化学工業株式会社 (102)
【Fターム(参考)】