説明

ベーン式ポンプ

【課題】 部品点数の増加および構造の複雑化を招くことなく、組み付けが容易であり、異音の発生が低減されるベーン式ポンプを提供する。
【解決手段】 ベーン41を収容するロータ40のベーン収容溝44は中心軸pに対し傾斜している。そのため、ロータ40の回転にともなってベーン41がポンプ室の流体から回転方向と逆方向の力を受けると、ベーン41はロータ40の壁面45に押し付けられるだけでなく、軸方向へ移動する。これにより、ロータ40が回転している間、ロータ40とともに回転するベーン41はロータ40の壁面45およびポンプ室の軸方向の端部に位置するケーシングに押し付けられる。その結果、ベーン41は、ロータ40が回転している間、ロータ40の軸方向への移動が低減される。したがって、ベーン41の移動にともなうケーシングとの衝突が低減され、打音の発生を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータとともに回転するベーンによりポンプ室の流体を加圧するベーン式ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ケーシングの内部でロータを回転させ、ケーシングとロータとの間に形成されたポンプ室の流体をロータとともに回転するベーンにより加圧するベーン式ポンプが公知である。ベーン式ポンプのロータは、例えば電気モータなどにより回転駆動される。ベーンを収容するベーン収容溝は、ロータの外周壁から径方向内側へ形成されるとともに、ロータの軸方向へ伸びて形成されている。ベーンは、ベーン収容溝の内部を主に径方向へ往復移動する。このようなベーン式ポンプでは、ベーンの円滑な作動を確保するため、ベーンはベーン収容溝に比較して軸方向の長さがわずかに小さく設定されている。一方、ベーンとベーン収容溝との間に全長の差を設けると、ベーンの軸方向の両端部とポンプ室を形成するケーシングとの間にはわずかな隙間が形成される。その結果、ベーン式ポンプの作動時、ベーンはベーン収容溝の内部で軸方向へ移動し、ベーンとケーシングとの打音を招くおそれがある。そこで、特許文献1に開示されているベーン型圧縮機のように、ベーンをケーシングの内周壁に押し付ける構成が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開平6−147156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている発明では、リング状の弾性体をベーンに取り付けている。弾性体は、ベーンを径方向外側へ押し付ける力を有している。これにより、ベーンをケーシングに対応するシリンダボアの内周壁に適度に押し付けている。ベーンを適度に内周壁に押し付けることにより、ベーンは径方向だけでなく軸方向への移動も低減される。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている発明では、ベーンを押し付ける弾性体が必要となる。また、ベーンには、弾性体が係止される部位を設置する必要がある。そのため、部品点数の増大および構造の複雑化を招くとともに、組み付けが煩雑になるという問題がある。
そこで、本発明の目的は、部品点数の増加および構造の複雑化を招くことなく、組み付けが容易であり、打音の発生が低減されるベーン式ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明では、ロータのベーン収容溝は中心軸に対し傾斜している。そのため、ベーン収容溝に収容されるベーンは、ロータの中心軸に対し傾斜してベーン収容溝に収容される。ロータが回転すると、回転により生じる遠心力によってベーンはロータから径方向外側へ突出する。ベーンは、加圧するポンプ室の流体によって回転方向とは反対側へ反力を受ける。すなわち、ベーンは、ロータの回転方向後方へ力を受ける。これにより、ベーンはベーン収容溝を形成するロータの壁面に押し付けられる。ベーンおよびベーン収容溝は中心軸と傾斜している。そのため、ベーンに対しロータの回転方向後方へ加わる力は、ベーン収容溝を形成するロータの壁面に対し垂直な方向と、このロータの壁面に対し平行な方向へ分解される。その結果、ベーンには、ロータの壁面に沿って軸方向へ押し付ける力が加わる。これにより、ロータが回転すると、ポンプ室の流体から受ける力によってベーンは軸方向へ移動し、ポンプ室を形成するケーシングに押し付けられる。すなわち、ロータが回転すると、ベーンは、ベーン収容溝を形成するロータの壁面だけでなく、軸方向においてケーシングに押し付けられる。その結果、ベーンは、他の部材を設置することなく、ロータおよびケーシングに押し付けられ、ベーン収容溝の内部における軸方向への移動が低減される。したがって、打音の発生を低減することができる。また、ベーンは、ロータの回転にともなう反力によって移動が制限される。そのため、ベーンの移動を制限するための別部材を必要としない。したがって、部品点数の増加および構造の複雑化を招くことはない。
【0007】
請求項2記載の発明では、ベーンは軸に沿った断面が略平行四辺形である。ベーン収容溝は、ロータの中心軸に対し傾斜している。そのため、ベーン収容溝に収容されるベーンも、ベーン収容溝に対応する断面形状を有する。ベーンの断面を略平行四辺形にすることにより、ベーン収容溝が傾斜しても、ベーンの軸方向両端面はロータの軸方向の両端面と平行になる。したがって、ベーンとケーシングとの接触による摩耗および打音の発生を低減することができる。
【0008】
従来、車両には燃料タンクからの燃料蒸気の漏れを検出するエバポリークチェックシステムが搭載されている。エバポリークチェックシステムでは、燃料タンクを加圧または減圧するためのポンプとして、ベーン式ポンプが適用される。この方式のエバポリークチェックは、通常、エンジンが停止されエンジンが十分に冷えた後に実施される。そのため、ベーン式ポンプの音は車両の外部に漏れやすい。そこで、請求項3記載の発明では、請求項1または2記載のベーン式ポンプを備えている。これにより、ベーン式ポンプから発生する音が低減される。そのため、エンジン停止時におけるエバポリークのチェックの際、車両の外部へ漏れる音を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態によるベーン式ポンプを図2および図3に示す。ベーン式ポンプ10は、流体を加圧して吐出する。ベーン式ポンプ10が加圧する流体としては、例えば空気などの気体や水などの液体を適用することができる。
【0010】
ベーン式ポンプ10は、リング20、プレート31、プレート32、ロータ40およびベーン41を備えている。ベーン式ポンプ10は、プレート31を挟んで設置されているモータ11により駆動される。モータ11には、例えば直流式または交流式の電気モータが適用される。モータ11は、図示しない固定子が収容されているカバー12と、図示しない可動子とともに回転するシャフト13とを有している。
【0011】
リング20は、略円筒形状に形成されており、内周側にロータ40を収容している。リング20の内周壁21は、略円筒面状である。リング20は、軸方向の両端部がプレート31およびプレート32により覆われている。プレート31は、リング20のモータ11側の端部を覆っている。リング20、プレート31およびプレート32は、特許請求の範囲のケーシングを構成している。なお、リング20の内周壁21は、円筒形状の面に限らず、楕円筒形状の面であってもよい。
【0012】
ロータ40は、リング20の内周側に収容されている。これにより、リング20と、プレート31と、プレート32と、ロータ40とから囲まれた空間にポンプ室22が形成される。ロータ40は、リング20の内周壁21と偏心して設置されている。そのため、リング20とロータ40との間に形成されるポンプ室22は、周方向へ容積が変化している。ポンプ室22には、流体入口通路23および流体出口通路24が連通している。流体入口通路23は、プレート31の孔部33を経由してベーン式ポンプ10の外側に連通している。流体出口通路24は、ポンプ室22から径方向外側へ伸びて形成されている。流体出口通路24は、リング20の溝部25とプレート31との間に形成されている。
【0013】
ロータ40は、略円筒状に形成され、中心部に中心孔42を有している。モータ11のシャフト13は、ロータ40の中心孔42に挿入されている。中心孔42は、プレート31側の端部から軸方向の途中まで円形状の断面に形成されている。また、中心孔42は、軸方向の途中からプレート32側の端部まで断面が半円形状に形成されている。これにより、中心孔42は、軸方向の途中に段差43を有している。モータ11のシャフト13は、中心孔42と同様に、カバー12側の端部から軸方向の途中まで断面が円形状に形成され、軸方向の途中からカバー12とは反対側の端部まで断面が半円形状に形成されている。これにより、シャフト13は、軸方向の途中に段差14を有している。
【0014】
中心孔42およびシャフト13は、断面の形状が概ね同一であり、いずれも段差43または段差14を有している。また、シャフト13の外径は、中心孔42の内径よりやや小さい。これにより、中心孔42にシャフト13を挿入すると、ロータ40とシャフト13とは緩く噛み合った状態で嵌合する。これにより、シャフト13が回転すると、ロータ40はシャフト13ともに回転する。なお、中心孔42を例えば円筒状に形成し、シャフト13を中心孔42または中心孔42に設置したボスに圧入する構成としてもよい。
【0015】
ロータ40は、外周壁から径方向内側へ伸びて形成されているベーン収容溝44を有している。ベーン収容溝44は、ロータ40のプレート31側の端面とプレート32側の端面とを結んで軸方向へ伸びて形成されている。本実施形態の場合、ベーン収容溝44は、ロータ40の周方向へ等間隔に四つ形成されている。ロータ40のベーン収容溝44には、それぞれベーン41が収容されている。ロータ40とリング20の内周壁21とは偏心している。そのため、ロータ40の回転にともなってロータ40とリング20の内周壁21との間の距離は変化する。ロータ40が回転すると、ベーン41は遠心力により径方向外側へ内周壁21に接するまで突出する。そして、ロータ40とリング20の内周壁21とが小さくなるにしたがって、ベーン41はベーン収容溝44の径方向内側へ押し込まれる。これにより、ベーン41は、ロータ40の回転にともなって径方向外側の端部がリング20の内周壁21と接触ながら回転するとともに、ベーン収容溝44の内部を径方向へ往復移動する。なお、ベーン41およびベーン収容溝44の数は、四つに限らず、一つ以上であれば任意に選択することができる。
【0016】
ベーン収容溝44は、図1に示すようにロータ40の中心軸pに対し傾斜している。本実施形態の場合、ベーン収容溝44は、プレート32側の端部がロータ40の回転方向に対し後方へ傾斜している。これにより、ベーン収容溝44の回転方向の端部を形成するロータ40の壁面45および壁面46は、ロータ40の中心軸pに対し傾斜している。
【0017】
ベーン収容溝44はロータ40の中心軸に対し傾斜している。そのため、ベーン41は、図3および図4に示すように傾斜したベーン収容溝44に収容される。ベーン41は、図4に示すようにロータ40の回転方向の両端に位置する端面411および端面412と、ロータ40の中心軸p方向の両端に位置する端面413および端面414とを有している。端面411および端面412は、ベーン収容溝44を形成するロータ40の壁面45および壁面46と概ね平行になる。また、端面413および端面414は、ロータ40の軸方向の両端面およびプレート31およびプレート32と概ね平行となる。これにより、ベーン41は、径方向の端部から見た側面すなわち中心軸に沿った断面が平行四辺形となる。
【0018】
次に、上記の構成のベーン式ポンプ10の作動について説明する。
モータ11の回転にともなってシャフト13に接続しているロータ40は回転する。ロータ40の回転にともなって、ベーン41はリング20の内周壁21と接触しながらロータ40とともに回転する。ポンプ室22の容積は、流体入口通路23側から流体出口通路24側にかけて回転方向へ縮小している。そのため、ベーン41がロータ40とともに回転することにより、ポンプ室22の流体は流体入口通路23側から流体出口通路24側へかけて加圧されながらポンプ室22を流れる。これにより、流体入口通路23から吸入された流体は、ロータ40とともに回転するベーン41によってポンプ室22の内部で加圧され、流体出口通路24からベーン式ポンプ10の外部へ吐出される。ロータ40の回転により、流体は連続して加圧される。
【0019】
ロータ40の回転によって生じる遠心力により、ベーン41はロータ40のベーン収容溝44から径方向外側へ突出する。ベーン収容溝44から突出したベーン41には、ポンプ室22の流体により回転方向と反対側へ反力を受ける。すなわち、ロータ40が回転することにより、ベーン41は回転方向後方へ押し付けられる。図4に示すように、ベーン41は端面411がロータ40の壁面45と接している。ベーン41はポンプ室22の流体により回転方向後方へ力を受けるので、端面411は壁面45に押し付けられる。このとき、ベーン41は、回転方向と反対側へ押し付け力Fによりロータ40に押し付けられる。押し付け力Fは、中心軸pと垂直にベーン41に加わる。
【0020】
ベーン41がロータ40へ押し付けられることにより、ベーン41を押し付ける力Fはロータ40の壁面45に垂直な分力f1と、ロータ40の壁面45に平行な分力f2とに分解される。これにより、ベーン41には、ロータ40の壁面45と垂直な方向へ分力f1が加わり、ロータ40の壁面45と平行な方向へ分力f2が加わる。そのため、ベーン41は、ロータ40の回転によってロータ40の壁面45に押し付けられるとともに、プレート32側へせり上がる。すなわち、ベーン41は、図4の上方へ移動する。ベーン41は、プレート32と接することにより図4の上方への移動が制限される。これとともに、ロータ40が回転している間、ベーン41はプレート32へ押し付けられる。その結果、ベーン41は、ロータ40が回転している間、プレート32との接触を維持する。
【0021】
第1実施形態では、ベーン41を収容するロータ40のベーン収容溝44は中心軸pに対し傾斜している。そのため、ロータ40の回転にともなってベーン41がポンプ室22の流体から回転方向と逆方向の力を受けると、ベーン41はロータ40に押し付けられるだけでなく、プレート32側へ移動する。これにより、ロータ40が回転している間、ロータ40とともに回転するベーン41はロータ40およびプレート32に押し付けられる。その結果、ベーン41は、ロータ40が回転している間、ロータ40の軸方向への移動が低減される。したがって、ベーン41とプレート31またはプレート32との衝突が低減され、打音の発生を低減することができる。
【0022】
また、ベーン41は中心軸pに対し傾斜するロータ40のベーン収容溝44に設置することにより、軸方向への移動が低減される。そのため、ベーン41の移動を防止するために、別部材や弾性体を設置する必要がない。したがって、部品点数の増大および構造の複雑化を招くことなく、打音の発生を防止することができる。
【0023】
さらに、ベーン41は傾斜するベーン収容溝44の形状に対応して平行四辺形に形成されている。そのため、ベーン41の軸方向の両端の端面413および端面414とプレート31またはプレート32とは平行になる。したがって、ベーン41とプレート31またはプレート32との接触によるベーン41、プレート31またはプレート32の摩耗を低減することができる。
【0024】
(ベーン式ポンプを適用したエバポリークチェックシステム)
次に、第1実施形態によるベーン式ポンプ10を適用したエバポリークチェックシステム(以下、単に「チェックシステム」という。)100について、図5に基づいて説明する。
チェックシステム100は、検査モジュール110、燃料タンク120、キャニスタ130、吸気装置600およびECU700から構成されている。検査モジュール110は、ベーン式ポンプ10、モータ11、切換弁300および圧力センサ400を備えている。切換弁300とキャニスタ130とは、キャニスタ通路140により接続している。大気通路150は、検査モジュール110とは反対側の端部が開放端152として大気に開放されている。キャニスタ通路140と大気通路150とは接続通路160により接続している。接続通路160とベーン式ポンプ10の流体入口通路23とはポンプ通路162により接続している。ベーン式ポンプ10の流体出口通路24と大気通路150とは排出通路163により接続している。ポンプ通路162からは圧力導入通路164が分岐し、圧力導入通路164はポンプ通路162とセンサ室170とを接続している。センサ室170には、圧力センサ400が設置されている。これにより、センサ室170は、圧力導入通路164およびポンプ通路162と概ね同一の圧力となる。
【0025】
キャニスタ通路140からはオリフィス通路510が分岐している。オリフィス通路510は、キャニスタ通路140とポンプ通路162とを接続している。オリフィス通路510にはオリフィス520が設置されている。オリフィス520は、燃料タンク120からの燃料蒸気を含む空気漏れが許容される開口の大きさに対応している。ベーン式ポンプ10の流体入口通路23にはチェックバルブ220が設置されている。チェックバルブ220は、ベーン式ポンプ10が駆動されると開弁する。
【0026】
切換弁300は、弁本体310および駆動部330を有している。駆動部330は弁本体310を駆動する。駆動部330は、コイル332を有しており、コイル332はECU700に接続している。ECU700は、コイル332への通電を断続する。コイル332に通電されていないとき、接続通路160とポンプ通路162との間は遮断されるとともに、キャニスタ通路140と大気通路150とは接続通路160を経由して連通する。一方、コイル332に通電されているとき、キャニスタ通路140とポンプ通路162は連通し、キャニスタ通路140と大気通路150との間は遮断される。なお、オリフィス通路510とポンプ通路162とはコイル332への通電または非通電に関わらず常に連通している。
【0027】
キャニスタ130は例えば活性炭などの吸着剤131を有している。キャニスタ130は、検査モジュール110と燃料タンク120との間に設置され、燃料タンク120で発生した燃料蒸気を吸着する。キャニスタ130は、キャニスタ通路140により検査モジュール110と接続し、タンク通路132により燃料タンク120に接続している。また、キャニスタ130には、吸気装置600の吸気管610へ連通するパージ通路133が接続している。燃料タンク120で発生した燃料蒸気は、タンク通路132を通過すると吸着剤131に吸着される。キャニスタ130と吸気装置600の吸気管610とを接続するパージ通路133には、パージバルブ134が設置されている。パージバルブ134は、ECU700からの指令によりパージ通路133を開閉する。
【0028】
圧力センサ400は、センサ室170の圧力を検出し、ECU700に圧力に応じた信号を出力する。ECU700は、図示しないCPU、ROMおよびRAMなどを有するマイクロコンピュータから構成される。ECU700には、圧力センサ400をはじめとして種々のセンサから出力された信号が入力される。ECU700は、これら入力された種々の信号からROMに記録されている所定の制御プログラムにしたがって各部を制御する。
【0029】
エンジンの運転中およびエンジンの運転の停止後の所定期間は、コイル332に通電されず、キャニスタ通路140と大気通路150とは接続通路160を介して連通している。したがって、燃料タンク120で発生した燃料蒸気を含む空気は、キャニスタ130を通過することにより燃料蒸気が除去された後、大気通路150の開放端152から大気へ放出される。このとき、チェックバルブ220は閉弁しており、燃料タンク120で発生した燃料蒸気を含む空気はベーン式ポンプ10へ流入しない。
【0030】
車両に搭載されたエンジンの運転が停止されてから所定の期間が経過すると、燃料タンク120からの燃料蒸気を含む空気漏れの検査が開始される。検査では、車両が駐車されている高度による誤差を補正するため、大気圧の検出が行われる。大気圧の検出は、センサ室170に設置されている圧力センサ400によって実施される。コイル332に通電していないとき、オリフィス通路510を経由して大気通路150とポンプ通路162とは連通している。そのため、圧力導入通路164を経由してポンプ通路162と連通しているセンサ室170の圧力は大気圧と概ね同一である。したがって、大気圧はセンサ室170の圧力センサ400によって検出される。
【0031】
大気圧の検出が完了すると、検出された圧力から車両が駐車されている場所の高度を算定する。ECU700は、算定された高度に基づいて、各種のパラメータを補正する。これらが完了すると、ECU700は切換弁300のコイル332へ通電する。コイル332へ通電すると、切換弁300は図5の右方へ移動する。これにより、切換弁300は、大気通路150とキャニスタ通路140との間を遮断するとともに、キャニスタ通路140とポンプ通路162とを連通する。そのため、ポンプ通路162に接続しているセンサ室170はキャニスタ130を経由して燃料タンク120と連通する。燃料タンク120の内部で燃料蒸気が発生している場合、燃料タンク120の内部の圧力は車両の周囲すなわち大気圧と比較して高くなっている。
【0032】
燃料タンク120における燃料蒸気の発生にともなう圧力上昇が検出されると、ECU700は切換弁300のコイル332への通電を停止する。コイル332への通電が停止されると、ポンプ通路162はオリフィス通路520を経由してキャニスタ通路140および大気通路150と連通する。また、キャニスタ通路140と大気通路150とは接続通路160を経由して連通する。
【0033】
ここで、モータ11に通電すると、ベーン式ポンプ10が駆動され、ポンプ通路162は減圧される。そのため、チェックバルブ220は開弁し、大気通路150から流入した空気は、オリフィス通路510を経由してポンプ通路162へ流入する。ポンプ通路162へ流入する空気の流れはオリフィス通路510のオリフィス520によって絞られるため、ポンプ通路162の圧力は低下する。ポンプ通路162の圧力は、オリフィス50の開口面積に対応する所定の圧力まで低下した後、一定となる。このとき、検出されたポンプ通路162の圧力は基準圧力として記録される。基準圧力の検出が完了すると、モータ11への通電は停止される。
【0034】
基準圧力が検出されると、再び切換弁300のコイル332に通電される。これにより、大気通路150とキャニスタ通路140との間は遮断されるとともに、キャニスタ通路140とポンプ通路162とは連通する。そのため、燃料タンク120はポンプ通路162と連通し、ポンプ通路162の圧力は燃料タンク120と同一になる。そして、モータ11に通電すると、ベーン式ポンプ10が作動し、チェックバルブ220は開弁する。ベーン式ポンプ10の作動により、燃料タンク120の内部は減圧される。このとき、ポンプ通路162は燃料タンク120に連通している。そのため、ポンプ通路162に連通するセンサ室170の圧力センサ400が検出する圧力は燃料タンク120の内部の圧力とほぼ同一である。
【0035】
ベーン式ポンプ10の作動の継続によって、センサ室170すなわち燃料タンク120の内部の圧力が先に検出した基準圧力よりも低下した場合、燃料タンク120からの燃料蒸気を含む空気の漏れは許容以下と判断される。すなわち、燃料タンク120の内部の圧力が基準圧力よりも低下する場合、燃料タンク120の外部から内部へ空気の侵入がないか、または侵入する空気がオリフィス520の流量以下である。そのため、燃料タンク120の気密は十分に確保されていると判断される。
【0036】
一方、燃料タンク120の内部の圧力が基準圧力まで低下しない場合、燃料タンク120からの燃料蒸気を含む空気漏れは許容を超過していると判断される。すなわち、燃料タンク120の内部の圧力が基準圧力まで低下しない場合、燃料タンク120の内部の減圧にともなって燃料タンク120には外部から空気が侵入していると考えられる。そのため、燃料タンク120の気密は十分に確保されていないと判断される。
【0037】
燃料蒸気を含む空気漏れの検査が完了すると、モータ11および切換弁300への通電は停止される。ECU700は、ポンプ通路162の圧力が大気圧に回復したことを検出した後、圧力センサ400の作動を停止させ、チェック工程を終了する。
上述のように、チェックシステム100はエンジンの停止から所定の期間を経過した後に作動する。そのため、ベーン式ポンプ10の作動にともなう音は車両の外部へ漏れやすい。そこで、チェックシステム100に第1実施形態のベーン式ポンプ10を適用することにより、ベーン式ポンプ10から発生する音が低減される。したがって、チェックシステム100によるチェック工程の実施時に、車両の外部へ漏れる作動音および音を低減することができる。
【0038】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態によるベーン式ポンプを図6に示す。なお、第1実施形態と実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
図6に示す第2実施形態では、ロータ40のベーン収容溝44の傾斜が第1実施形態と異なる。第2実施形態では、ロータ40のベーン収容溝44はプレート31側が回転方向後方へ傾斜している。そのため、ロータ40の回転にともなってベーン41に回転方向後方へ押し付ける力が加わると、その分力によりベーン41はプレート31側へ移動する。その結果、ロータ40が回転している間、ベーン41はロータ40およびプレート31に押し付けられる。したがって、ベーン41とプレート31またはプレート32との衝突が低減され、打音の発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1実施形態によるベーン式ポンプのロータを示す概略斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態によるベーン式ポンプを示す断面図である。
【図3】図2の矢印III方向から見た矢視図である。
【図4】本発明の第1実施形態によるベーン式ポンプのロータおよびベーンを示す模式図であって、ロータおよびベーンに加わる力を説明する図である。
【図5】本発明の第1実施形態によるベーン式ポンプを適用したチェックシステムを示す模式図である。
【図6】本発明の第2実施形態によるベーン式ポンプのロータおよびベーンを示す模式図である。
【符号の説明】
【0040】
10 ベーン式ポンプ、20 リング(ケーシング)、21 内周壁、22 ポンプ室、31、32 プレート(ケーシング)、40 ロータ、41 ベーン、44 ベーン収容溝、100 チェックシステム(エバポリークチェックシステム)、120 燃料タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の内周壁を有するケーシングと、
前記ケーシングの内部で回転可能であり、前記ケーシングとの間に周方向へ容積の変化するポンプ室を形成するロータと、
前記ロータの外周側に設置され、前記ロータとともに回転することにより前記内周壁と摺動し、前記ポンプ室の流体を加圧するベーンとを備え、
前記ロータは前記ベーンを径方向および軸方向へ往復移動可能に収容するベーン収容溝を有し、前記ベーン収容溝は前記ロータの中心軸に対して傾斜していることを特徴とするベーン式ポンプ。
【請求項2】
前記ベーンは、中心軸に沿った断面が略平行四辺形状であることを特徴とする請求項1記載のベーン式ポンプ。
【請求項3】
請求項1または2記載のベーン式ポンプを備え、
燃料タンクからの気体の漏れを検出することを特徴とするエバポリークチェックシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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