説明

ペイントのクリーニングに使用可能な溶剤組成物

【課題】ペイントクリーニング用溶剤として使用可能な、毒性が低く、ペイントクリーニング用に最も広く使用されている溶剤の一つであるホワイト・スピリッツより不燃性である組成物。
【解決手段】好ましい組成物は農業材料から成り、好ましくは全てが基本的に農業材料から誘導される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶剤に関するものであり、特に、ペイントのクリーニング(掃除、浄化、洗浄)に使用可能な溶剤に関するものである。
本発明でペイントのクリーニングという用語は、例えば下記(1)、(2)のような、完全に古くなったもの(例えば、塗膜剥離の場合)ものではない、部分的に乾燥したペイントまたはワニスを除去する任意の手段を意味する:
(1)床上、壁上等のペイントの汚れや液滴(一般に、布等によってきれいにされる)、
(2)材料(刷毛、ブラシ、ローラ等)上または容器内のペイントまたはワニスの付着(材料または容器を再利用できるようにするために除去することが望まれる)
【背景技術】
【0002】
ペイントのクリーニング用に家庭およびプロに使用されている塩素系溶剤および炭化水素(例えばホワイト・スピリッツ、white-spirit)は、その使用がますます制限されるようになる(例えば、トリクロロエチレンは一般大衆への販売が禁止される)。
【0003】
ペイントのクリーニングに最も広く使われている溶剤はホワイト・スピリッツである。このホワイト・スピリッツの主成分は下記である:
(1)ほぼベンゾール系炭化水素だけに対応する芳香族炭化水素:痕跡量のトルエン、キシレン、エチルベンゼン(従来分類でCMR)、トリメチルベンゼン誘導体、メチルエチルベンゼン誘導体、プロピルベンゼン誘導体等、含有量は1〜20重量%;トルエンには下記のラベルを付ける:F R11 Repr.Cat. 3 R63Xn R48/ 20-65 Xi R38 R67、R63 =妊娠中の胎児に有害である危険性あり;トルエンを5重量%以上含むホワイト・スピリッツはR63であることをラベルに記載する義務がある;
(2)パラフィン系炭化水素(ノルマルおよびイソ):C8〜C12含有量が40〜60重量%;
(3)シクロパラフィン系炭化水素:C9〜C12の含有量は一般に30重量%近くから70重量%程度まで。
【0004】
従来の市販のホワイト・スピリッツの芳香族化合物の含有量は17〜18重量%で、そのベンゼン含有量は0.1重量%を上回らない。これを超えるホワイトスピリッツはCMR(発ガン性/突然変異誘発性/生殖有害性)物質と分類される。従来のホワイト・スピリッツのラベルには一般に下記が記載されている:Xn(有害)−N(環境に有害):R10 R51/53 R65 R66 R67
また、従来のホワイト・スピリッツと同じ用途に使用されるが、芳香族化合物組成物が1重量%を上回らない脱芳香族ホワイト・スピリッツもある。このクリーニング効果は悪い。この場合、ラベルには下記が記載されている:Xn(有害)−R10 R65 R66。
【0005】
ペイント洗浄剤の市場では、上記のホワイト・スピリッツの他に、非常に危険な製品、例えばトルエンやアセトンをベースにした混合物も市販されている。これらのラベルにはXn(有害)およびF(非常可燃性)が記載され、危険の表示とともに、R11 R36/37 R48/20 R63 R66と記載されている。
【0006】
家庭用およびプロ用の両方の分野でペイントのクリーニングに使用されている重質ナフサ、軽質ナフサ、水素処理済みナフサおよびトルエンをベースにした製品は全て、ホワイト・スピリッツと同様に、有害かつ可燃性である。
界面活性剤をベースにした水溶性処方もあるが、溶剤可溶性ペイントのクリーニングの観点からはあまり効果がない。
【0007】
従って、乾燥していないか、部分的に乾燥したペイントまたはワニスをホワイト・スピリッツと同様に効率的に除去でき、ホワイト・スピリッツより揮発性がなく、被浄化物が過度に速く乾燥しないように溶剤の蒸発が制限されるか、遅く、環境および溶剤を取り扱う人に対する害が少ないペイントのクリーニング用溶剤を見い出す、というニーズがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、脂肪酸のエステルと酸素化溶剤とをベースにした新しい組成物に関するものである。
本発明の溶媒組成物は、ペイント材料のクリーニングを従来のペイント洗浄溶剤よりはるかに低いエコ毒性(ecotoxic)で行うことができ、使用者の健康に害を与えずに、未乾燥または一部が乾燥したペイントまたはワニスをホワイト・スピリッツと同程度に効果的に除去することができる。
場合によっては、本発明組成物の全部または一部を農業生産された材料から作ることができ、従って、無害かつ不燃性であればラベルにエコ毒性(ecotoxic)を記載する必要はない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明組成物は下記(1)と(2)とから成る:
(1)10〜90重量部、好ましくは30〜70重量部の少なくとも一種の脂肪酸のエステル、好ましくは脂肪酸のメチルエステル、
(2)90〜10重量部、好ましくは70〜30重量部の、ハンセン溶解パラメータ(極性成分およびH結合)が3〜6(cal/cm31/2である酸素化溶剤(solvant oxygene)の中から選択される少なくとも一種の酸素化合溶剤。
【発明を実施するための形態】
【0010】
酸素化溶剤の中では式:CH3(C=O)CH2C(OH)(CH3)2のジアセトンアルコール(DAA)を挙げることができる。
これは塩基性媒体中でのアセトンの二量体化によって得ることができる。この化合物の物理的特徴を[表1]に記載した。このDAAはXiのラベル表示され、リスクフレーズR36の刺激物である。
【0011】
また、アルキル(メチル、エチル、プロピル、ブチル等)乳酸またはジエチレングリコールモノ(n-ブチル)エーテル等のグリコールエーテルを挙げることもできる。
【0012】
本発明組成物は非(エコ)毒性(non(eco)toxic)で、不燃性で、蒸気圧が低く、従って蒸発速度が遅く、臭気が少なく、ホワイト・スピリッツに匹敵するペイントおよびワニスのクリーニング効率を示すという利点を有する。
さらに、本発明組成物はホワイト・スピリッツよりも蒸発速度が遅いので、環境に対する効果に加えて、過度に急速に乾燥することによって被塗装材料(刷毛、ブラシ、塗布ローラ等)が劣化するのを防止することができる。
【0013】
本発明の溶媒組成物は農業材料をベースにしたものが好ましい。本発明組成物中で用いられる脂肪酸エステルおよび溶剤は農業材料から作るのが好ましい。
【0014】
農業材料の例としては下記が挙げられる:
(1)天然脂肪酸に由来するメチルエステル画分、特に、ヒマ(ricin)に由来する脂肪酸のメチルエステル、例えば、本出願人からエステロール(Esterol)A(登録商標)の名称で市販の製品や、菜種(colza)に由来する脂肪酸から誘導されるメチルエステルにすることができる。エステロール(Esterol)A(登録商標)はC18脂肪酸のメチルエステルおよび誘導体を主とするカットで、弱い脂肪質の臭いのする明るい黄色の液体で、発火点は100℃(密閉るつぼ)以上で、20℃での密度は890kg/m3、20℃での粘度は7〜8cStである。
(2)酸素化溶剤としては下記式のジメチルイソソルビド(DMI, dimethylisosorbit):
【0015】

【0016】
これは例えば糖(ソルビトール)を接触脱水して得られるイソソルビドをメチル化して得られる。これは主として医薬および化粧品の分野で使用されている。その物理的特徴は[表1]に示してある。
【0017】
本発明では、ひまし油(huile de ricin)に由来する脂肪酸メチルエステルとジメチルイソソルビドとをベースにした組成物が特に好ましい。
これら2つの成分はVOC(揮発性有機化合物)に対する下記定義:「20℃で10Pa以上の蒸気圧を有するか、特定使用条件下での揮発度を有する、メタンを除く全ての有機化合物」を与える1999年3月11日のl999/13/EC規則によるVOCではない。
【0018】
ホワイト・スピリッツの粘度に近ずけるために組成物は酸素化溶剤を主とする好ましく、少なくとも70重量部以上のDAAおよび/またはDMIと30重量部以下の脂肪酸エステルとから成るものが好ましい。
【0019】
本発明組成物の粘度は脂肪酸エステルの脂肪鎖の長さにも依存する。例えば、コプラに由来するメチルエステル(C12ラウリレートを主にしたもの)はエステロール(Esterol)A(登録商標)タイプのC18メチルエステルより低い粘度を有する。本発明組成物でより短い脂肪鎖を用いることで、最終組成物の粘度をさげることができる。
【0020】
本発明組成物は界面活性剤、好ましくは非イオン系界面活性剤を含むことができる。農業材料に由来するもの、例えば脂肪酸エステル、特に糖をベースにした親水性頭部と植物材料由来の脂肪鎖から成る疎水性部分とを有するサッカロースの脂肪酸エステルをベースにするのが有利である。
本発明組成物はさらに、非常に高湿度状態用仕様の添加剤として一般に使用されているジメチルスルホキシド(DMSO)またはヘキシレングリコールのような相溶化剤を含むことができる。
【0021】
【表1】

【実施例】
【0022】
実施例1
室温で下記を混合した:
(1)C18脂肪酸メチルエステル誘導体(エステロール(Esterol)A、登録商標) 30重量部、
(2)ジアセトンアルコール 70重量部
この組成物をペイントおよびワニスの剥離性能を多くの基材でテストした。その結果、多くの基材のクリーニング特性、特に、グリセロール、アルキド塗料のクリーニング特性に優れており、ホワイト・スピリッツより大きな粘度を有することが確認された。
本発明組成物はホワイト・スピリッツのより蒸発速度が低い。
【0023】
実施例2
室温で下記を混合した:
(1)C18脂肪酸メチルエステル誘導体 30重量部、
(2)ジメチル・イソソルビド 70重量部
この組成物は農業材料のみに由来するという利点に加えて、実施例1の組成物よりも優れた効果を有するということを確認した。
【0024】
本発明の新規処方の有効性を評価するための定量的塗布テスト方法を開発した。
予め秤量済みのタイル片上にブラシを用いてペイント(アルキド塗料、penture glycerophthalique)またはワニス(ポリウレタン樹脂ベース)を薄い層状に塗布する。塗膜を開放空気中で乾燥する(ペイントの場合は30分間、ワニスの場合は20分間)。この乾燥時間経過後、タイル片を20mlの被テスト組成物を入れたビーカー中に漬ける。室温で3分間撹拌(1000回転/分)後、タイル片をビーカーから取り出し、非塗布部を拭き取る。次いで、タイル片を開放空気中で乾燥し、除去されたペイントまたはワニスのし重量百分比を求める。
結果(除去されたペイントまたはワニスの百分比の価値)を[表2]に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
このテスト結果から、本発明組成物は非脱芳香族(non desarmatitise)ホワイト・スピリッツより剥離性能は劣ることは分かるが、エステロール(Esterol)A、登録商標)をベースにした組成物は(ホワイト・スピリッツ、DAAおよびDMIとは対照的に)実質的に蒸発しないということ、従って、ペイントの被清掃帯域上に常に薄い層になって残るので、実際に剥離した百分比は[表2]の値より大きくなるということを意味する、ということを忘れてはならない。
菜種油のメチルエステルの結果は、エステロール(Esterol)A、登録商標)単独またはDAAとの混合物の場合より悪い。
【0027】
テストした各種組成物の蒸発速度と粘度も評価した。蒸発速度は容器内の混合物の重量の時間変化を観測して測定した。初期の蒸発速度はエステロール(Esterol)A、登録商標)/DAA組成物もホワイト・スピリッツもほぼ同じである(約0.025グラム/時)が、メチルエステル(エステロール(Esterol)A、登録商標)またはRME)は蒸発時間が長く、残るので、塗装道具が乾燥するのを防ぐことができる(ホワイト・スピリッツに対する効果)。農業材料から誘導された溶剤のエステロール(Esterol)A、登録商標)/DMIをベースにした組成物は蒸気圧が非常に低く、蒸発が極めて遅くなる。それが求められている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10〜90重量部、好ましくは30〜70重量部の少なくとも一種の脂肪酸メチルエステルと、90〜10重量部、好ましくは70〜30重量部のジアセトンアルコールおよび/またはジメチルイソソルビドから選択される少なくとも一種の酸素化溶剤とから成る組成物。
【請求項2】
天然脂肪酸から誘導されるメチルエステル、好ましくはヒマ(ricin)および/または(colza)から誘導される脂肪酸から誘導されるメチルエステルのカットである少なくとも一種の脂肪酸エステルを含む請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
基本的、好ましくは全部が農業生産材料から成る請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
ジアセトンアルコールおよび/またはジメチルイソソルビドが少なくとも70重量部で、脂肪酸エステルが30重量部以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物のペイントクリーニング用溶剤としての使用。

【公表番号】特表2010−506024(P2010−506024A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531884(P2009−531884)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【国際出願番号】PCT/FR2007/052110
【国際公開番号】WO2008/043954
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】