説明

ペットフード

【課題】パルプ等の食物繊維を含有しつつも、嗜好性の高いペットフードを提供すること。
【解決手段】このペットフードは食物繊維を含む繊維源を含有し、ペットフード中に0.5質量%以上2.2%以下のリグニンを含有する。食物繊維はペットフード中に10質量%以上20質量%以下含有することが好ましい。また、繊維源は5質量%以上25質量%以下のリグニンを含有することが好ましい。このペットフードは好ましくは猫用に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペットフードに関する。詳しくは、猫等の愛玩動物の嗜好性を向上させるペットフードに関する。
【背景技術】
【0002】
愛玩動物のなかでも、猫やウサギ等には毛繕いという習性があり、自己の体毛を大量に経口摂取している。この体毛は毛玉となって体内に蓄積し、排泄等の障害を引き起こすことが知られている。
【0003】
この障害を改善するため、例えば特許文献1には、ペットフードに繊維源材料となる食物繊維を別途含有させることで、排泄物とともに体毛の排泄を促進させるとともに、毛玉の形成も抑制できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−169289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ペットフード中の食物繊維の補充のためには、セルロース等を主体とするパルプからなる繊維源材料が用いられるため、体毛の排泄促進に効果がある量をペットフードに添加すると嗜好性が劣り、食べる量が減ってしまうという問題があった。すなわち、特許文献1のペットフードでは体毛の排泄促進のために繊維源材料を添加した結果、嗜好性を犠牲にしており、この点につき更なる改善が必要であった。
【0006】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであり、繊維源材料を添加しても食べる量が低下することがない、嗜好性に優れたペットフードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、精製前のパルプ等、植物繊維が本来有しているリグニンをペットフードに含有させることで、ペットフードとしての嗜好性が向上することを見出し本発明を完成するに至った。具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0008】
(1) 食物繊維を含有するペットフードであって、前記ペットフード中に0.5質量%以上2.2質量%以下のリグニンを含有することを特徴とするペットフード。
【0009】
(2) 前記食物繊維を、前記ペットフード中に10質量%以上20質量%以下含有する(1)記載のペットフード。
【0010】
(3) 猫用ペットフードである(1)又は(2)記載のペットフード。
【0011】
(4) リグニンを5質量%以上25質量%以下含有するペットフード用繊維源材料。
【0012】
(5) (4)記載のペットフード用繊維源材料を5質量%以上10質量%以下含有させるペットフードの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、繊維源材料を添加しても食べる量が低下することがない、嗜好性に優れたペットフードを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】リグニン測定法であるバンソエスト法のフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0016】
<ペットフードの基本配合>
本発明において、ペットフードとは、愛玩動物に提供される飼料を言う。愛玩動物は、人間に飼育され、人間と生活を共にする動物を言い、種類は特に限定されない。本実施形態では、ペットフードは、猫用として説明する。ペットフードは、猫の年齢や性質に合わせた所望の栄養成分を含有する飼料である。
【0017】
本実施形態におけるペットフードは、例えば、水分率10質量%以下の乾燥した粒状の固形物であり、いわゆるドライタイプである。
【0018】
まず、ペットフードに用いられる原材料と配分について説明する。原材料は本発明の特徴である繊維源材料を除き、従来公知の配合とすることができ特に限定されないが、その一例を挙げれば、穀類が30〜50質量%と、肉類・魚介類が20〜40質量%と、繊維源材料が5〜10質量%と、動物性油脂が1〜15質量%と、豆類・野菜類が1〜10質量%と、ミネラル類・ビタミン類が0.1〜1質量%と、着色料・アミノ酸類が0.01質量%〜4質量%と、10質量%以下の適量の水分とが含まれる。
【0019】
本発明において、食物繊維とは、ペットフードに含有されるペクチン、リグニン、セルロース等、全ての食物繊維を併せたものを言い、繊維源材料由来の食物繊維、及び、穀類や豆類・野菜類等ペットフードのその他の原材料由来の食物繊維の両方が含まれる。一例を示すと、繊維源材料を除いた場合の食物繊維量は5%から10%未満であり、これは主に、原料中の穀類のトウモロコシや小麦及び豆類等に由来するものである。これにパルプ等の繊維源材料を上記範囲の量を加え、食物繊維量を好ましくは10質量%以上20質量%以下とする。なお、ペットフード中の食物繊維の全量は、酵素−重量法(プロスキー変法)により測定できる。
【0020】
ペットフードは、上記の配分の食物繊維を含有することにより、猫等が飲み込んだ毛によって形成される毛玉の消化管内での移動を促し、毛玉の排泄を促進する。食物繊維の含有量が10質量%未満であると、上記排泄促進効果が充分ではなく、一方、20質量%を越えると、上記排泄促進効果が、食物繊維の含有量の増加に伴って向上することはなく、また栄養源となる他の原材料の比率が相対的に低下してしまうため好ましくない。
【0021】
<繊維源材料>
【0022】
本発明において、繊維源材料とは、不溶性食物繊維を90%以上配合してなるペットフードの原材料である繊維を意味する。
【0023】
上記繊維源材料は、特に、5質量%以上25質量%以下の配分でリグニンを含有することが好ましく、10質量%以上18質量%以下の配分で、リグニンを含有することが更に好ましい。従来よりペットフードに多く用いられている精製済みの繊維源材料には、通常、5質量%程度未満のリグニンしか含有されていない。このため、理由は不明であるが嗜好性に劣る結果となっている。
【0024】
一方、本発明のペットフードにおいては、5質量%以上25質量%以下のリグニンを含有する繊維源材料を用いている。このように繊維源材料中のリグニンの含有量を適度に高めることにより、上記排泄促進効果を更に促進させ、かつ、嗜好性をも向上させている点が本発明の特徴である。繊維源材料中のリグニンの配分が5質量%未満であると、猫等のペットフードに対する嗜好性の向上の効果が現れないので、好ましくなく、25質量%を越えると、上記排泄促進効果及び嗜好性を向上させる効果がリグニンの含有量の増加に伴って向上することはなくなるため好ましくない。
【0025】
リグニン含有量の測定方法としては、図1のフローに示すようなProc.Nutr.Soc.,32,123(1973)に記載されているVan Soest法(バンソエスト法)の他、J。Sci.Food Agric.,20,331(1969)に記載されているSouthgateh法(サウスゲート法)、堆肥等有機物分析法II−3−(8)等が用いられる。
【0026】
上記の繊維源材料は木材繊維を原材料とするいわゆるパルプの製造工程において、精製工程中におけるリグニン除去の程度を調整することによって得ることができる。すなわちパルプの原料となる木材は、セルロース、ヘミセルロース、リグニンを主成分として、脂肪酸類、樹脂酸類や各種の無機物を含有している。通常、それらの木材繊維を食物繊維として利用する場合、リグニン等を除去するための化学的物理的な精製を行い、セルロースとヘミセルロースを主に含有する食物繊維とするのが一般的である。しかし、本発明の繊維源材料の製造においては、上記木材の幹の樹皮を取り除き、そのまま或いはチップ化したものを、リグニン除去処理を行わずに、或いはその除去処理の程度を調整することにより、機械的、半化学的、或いは化学的な公知の処理方法でパルプを製造できる。これらは最終的に粉砕し粉末化してもよい。
【0027】
本発明においては、上記のペットフードの総量に対するリグニンの含有量については、0.5質量%以上2.2質量%以下の配合となるように、上記繊維源材料の配合量を調整すればよい。具体的には、例えば繊維源材料を5〜10質量%配合することで、リグニン含有量を0.5質量%以上2.2質量%以下とできる。ペットフードの総量に対するリグニンの含有量が上記範囲にあるときは、猫等のペットフードに対する嗜好性が十分に向上する。0.5質量%未満であると、猫等のペットフードに対する嗜好性を向上させる効果が十分に現れないため好ましくなく、また、ペットフードの総量に対するリグニンの含有量が2.2質量%を越えた場合も、嗜好性を向上させる効果は十分に現れないため好ましくない。なお、嗜好性が向上する理由は明らかではないが、リグニンによる雑味のマスキング効果や、風味の増強効果が推定される。
【0028】
なお、本発明においては、ペットフードの総量に対するリグニンの含有量が1質量%以上2.2質量%以下となっていればよい。すなわち、上記の繊維源材料を用いること以外に、リグニンを嗜好性向上剤、嗜好性改善剤として別添加することも、もちろん本発明の範囲内である。
【0029】
<ペットフード>
上記配合のペットフードは従来公知の方法で、製造される。例えば、上記の原材料のうち動物性油脂を除いたものが、攪拌機で混合され、混合された原材料は、エクストルーダ(加圧押出造粒機)で加熱及び加圧されながら押し出されて、切断され、粒状に成型される。成型された粒は、ドライヤーにて乾燥される。乾燥された粒は冷却され、その後、粒の表面に噴霧や塗布により動物性油脂がコーティングされる。例えば、牛脂、鶏脂等である油脂の付着量は、ペットフードの総量に対し、1〜15質量%の範囲である。
【0030】
なお、ペットフードの形状や大きは特に限定されないが、一例を挙げれば0.1g〜0.4g程度の粒状物とすることが好ましい。
【0031】
以上本発明のペットフードの一実施例として、ペットフードがドライフードである場合について説明したが、食物繊維、或いはリグニンを上記の配分で含むペットフードであれば、例えば、上記実施例より水分の多いウエットフードであっても本発明の範囲内である。
【0032】
また、本発明のペットフードに含有される繊維源材料を、低カロリーであることを必須要件とする肥満対策のダイエットフードや、その他のカロリーコントロールフードに用いることにより、それらのペットフードの嗜好性を改良することができる。それらのペットフードについても本発明の範囲内である。
【0033】
また、本発明のペットフードに含有される繊維源材料を、猫用だけでなく、犬用のペットフードに用いることにより、犬用のペットフードの嗜好性を改良することができる。これらの発明についても本発明の範囲内である。
【実施例】
【0034】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はそれにより限定されない。
【0035】
<実施例1>
表1の配合表の通りの配合比率からなるペットフードを、上記において説明した方法により、混合、加熱及び加圧、成型、乾燥、冷却、コーティングを行い、1個あたり0.1g〜0.4g程度の粒状物として製造した。ここで、繊維源材料として、リグニンを12.5質量%含有する繊維源材料を用いた(Van Soest法(バンソエスト法)(図1参照)により測定)。
【0036】
【表1】

【0037】
実施例のペットフードについて、上記バンソエスト法により、ペットフードの総量に対するリグニンの含有量を分析した結果、リグニンの含有量は1.6質量%であった。
【0038】
実施例のペットフードについて、酵素−重量法(プロスキー変法)により、ペットフードの総量に対する食物繊維の含有量を分析した結果、食物繊維の含有量は13.2質量%であった。
【0039】
<実施例2>
繊維源材料の量を調整して、上記バンソエスト法で測定した場合のペットフードの総量に対するリグニンの含有量が0.5質量%となるようにしたこと以外は、実施例1と同じ材料、配合比率、製造方法によって製造した。
【0040】
<比較例1>
リグニンの含有量が上記バンソエスト法の定量限界である0.2%未満である繊維源材料を用いたこと以外は、実施例1と同じく、表1の配合表の通りの配合比率からなるペットフードを上記において説明した方法によって製造した。
【0041】
比較例のペットフードについて、上記バンソエスト法により、ペットフードの総量に対するリグニンの含有量を分析した結果、リグニンの含有量は0.3質量%であった。尚、ペットフード中のリグニンの含有量については上記の繊維源材料以外の材料に由来するものも含まれる。
【0042】
比較例1のペットフードについて、酵素−重量法(プロスキー変法)により、ペットフードの総量に対する食物繊維の含有量を分析した結果、食物繊維の含有量は13.4質量%であった。
【0043】
<比較例2>
繊維源材料の量を調整して、上記バンソエスト法で測定した場合のペットフードの総量に対するリグニンの含有量が3質量%となるようにしたこと以外は、実施例1と同じ材料、配合比率、製造方法によって製造した。
【0044】
<毛玉排泄効果測定試験>
実施例1、比較例1により以下の条件で毛玉排出効果測定試験を行った。試験は、1歳以上の成猫をペットとして飼っている一般モニターの中で、特に毛玉を嘔吐する猫を抽出し、実施例1については40匹、比較例1については41匹の猫に対して、4週間にわたって行った。4週間の調査中は、基本的に毎日、本テスト品(実施例、比較例)と水以外のフードは与えないように配慮し、給餌量は各個体にあった量で飼い主の調整に基づき与えた。そして、2週間後、3週間後、4週間後に、毛玉の排泄効果を測定した。なお、実施例の試験と比較例の試験の固体(猫)は、同一固体ではないため、それぞれのテスト品が影響しあうことはない。
【0045】
結果を表2に示す。表2に示す通り、リグニンを多く含む本発明の繊維源材料を含有する実施例1の方が、リグニンの含有量が定量限界の0.2%未満である繊維源材料を含有する比較例1より、優位な結果であった。
【0046】
【表2】

【0047】
<嗜好性測定試験1>
実施例1、比較例1により以下の条件で嗜好性測定試験を行った。比較例のペットフードを通常より使用している1歳以上の51匹の成猫に対し、比較例1のペットフードを前半5日間給与し、実施例を後半5日間で給与する方法で、猫の食べ具合を観察して、それぞれの観察結果を10日後に比較して食べ具合(嗜好性)を5段階評価(従来品の方が非常に良い、従来品の方が良い、かわらない、本発明品の方が良い、本発明品の方が非常に良い)した。また、前半、後半評価に偏りが出ないように、調査数の半分(26匹)は本発明品を前半に給与して、後半に従来品を給与する様に指定した。また、給餌量は各個体にあった量で飼い主の調整に基づき与えられた。最終の嗜好性のスコアとして、それぞれ(非常に良い)+(良い)+(かわらない÷2)の人数を調査数(51)で割り、スコア化した。
【0048】
<嗜好性測定試験2>
実施例2、比較例1、及び比較例2により以下の条件で嗜好性測定試験を行った。実施例2と比較例1のペットフード各70gをそれぞれ別の容器に入れて、2歳から14歳の健康な成猫20頭に対して同時に給与し、二点比較法を用いてそれぞれのペットフードの摂取量を比較した。試験は1日1回、2日間に渡って行った。ペットフードの容器の置き位置については、1日目と2日目で置き位置を左右に入れ替えて試験を行った。2日間の観察結果に基づき、実施例2のペットフードの比較例1に対する相対的な嗜好性を嗜好性測定試験1と同様の計算式によりスコア化した。また、比較例2のペットフードについても、同様の試験方法により嗜好性をスコア化した。
【0049】
嗜好性測定試験1及び2の結果を表3に示す。リグニンの含有量が上記バンソエスト法の定量限界である0.2%未満である繊維源材料を用いた比較例1に対して、実施例1と実施例2では、有意な嗜好性の向上が見られるが、比較例2では、嗜好性の向上は認められなかった。
【0050】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
食物繊維を含有するペットフードであって、前記ペットフード中に0.5質量%以上2.2質量%以下のリグニンを含有することを特徴とするペットフード。
【請求項2】
前記食物繊維を、前記ペットフード中に10質量%以上20質量%以下含有する請求項1記載のペットフード。
【請求項3】
猫用ペットフードである請求項1又は2に記載のペットフード。
【請求項4】
リグニンを5質量%以上25質量%以下含有するペットフード用繊維源材料。
【請求項5】
請求項4記載のペットフード用繊維源材料を5質量%以上10質量%以下含有させるペットフードの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−70724(P2012−70724A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52442(P2011−52442)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000115108)ユニ・チャーム株式会社 (1,219)
【Fターム(参考)】