ペプチドコンジュゲート組成物およびアルツハイマー病の予防および治療のための方法
本発明は、患者の脳内のAβのアミロイド沈着に関連した疾患、例えばアルツハイマー病の治療のための組成物および方法を提供する。そのような方法は、Aβに対する抗体の形態の有益な免疫応答を誘導しうる、T細胞エピトープを欠く、Aβの免疫原性断片を投与することを含む。もう1つの態様においては、Aβの免疫原性断片は血漿Aβレベルを上昇させうる。該免疫原性断片はAβの直鎖状または多価ペプチドを含む。医薬組成物は、アジュバントと共に投与されうる、担体分子に化学的に連結された免疫原性断片を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミロイド形成性疾患、特にアルツハイマー病の予防および治療のための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は進行的な記憶障害および認知低下により特徴づけられる。その特徴的な病変はアミロイド沈着(老人斑)、神経原線維変化および特定の脳領域におけるニューロン喪失である。アミロイド沈着は40〜43アミノ酸残基のアミロイドベータペプチド(Aβ)から構成され、これはアミロイド前駆体タンパク質(APP)のタンパク質分解産物である。神経原線維変化は高リン酸化タウタンパク質の細胞内線維状凝集物である(Selkoe,Science,275:630−631,1997)。
【0003】
ADの病因は完全には理解されていないが、多因性事象であると予想される。脳組織内のAβの蓄積および凝集は、アミロイドカスケード仮説としても公知のとおり(Golde,Brain Pathol.,15:84−87,1995)、疾患過程において中心的な役割を果たすと考えられている。この仮説によれば、Aβ、特にAβ42は、小さなオリゴマーから、大きな伸長した前線維(profibrile)構造体に至る、種々の形態の凝集物を形成する傾向にある。これらの凝集物は神経毒性であり、該疾患の初期段階における記憶喪失および認知低下に関連したシナプス病態を引き起こす(Kleinら,Neurobiol.Aging,25:569−580,2004)。最近の刊行物は、三重トランスジェニックマウスモデルにおけるAβの減少が細胞内タウ沈着をも妨げることを示唆している(Oddoら,Proc.Neuron,43:321−332,2004)。この知見は、細胞外アミロイド沈着が、ニューロン喪失を引き起こしうる後続の神経原線維のもつれ形成の原因となりうることを示唆している。
【0004】
Aβ抗原でのAPPトランスジェニックマウスの免疫化は脳Aβ沈着を減少させ、疾患の進行を軽減しうる。これはShenkら,Nature,400:173−177,1999により最初に報告され、現在では、種々のトランスジェニック動物モデル、種々の能動ワクチンおよびAβ特異的モノクローナル抗体での受動免疫を含む多数の研究により裏付けられている(Bardら,Nature Med,6:916−919,2000;Janusら,Nature,408:979−982,2000;Morganら,Nature,408:982−985,2000;DeMattosら,Proc.Natl.Acad.Sci.,98:8850−8855,2001;Bacskaiら,J.Neurosci.,22:7873−7878,2002;Wilcockら,J.Neurosci.,23:3745−3751,2003)。これらの動物データに合致して、凝集前(pre−aggregated)Aβ(1−42)免疫原(AN1792,Betabloc)での能動免疫を既に受けていた患者からの死後ヒト脳組織の、3つの公開されている評価は、老人斑の局所的消失を示した(Nicollら,Nature Med.,9:448−452,2003;Ferrerら,Brain Pathol..14:11−20,2004;Masliahら,Neurology,64:129−131,2005)。総合すると、このデータは、Aβ抗原に対する抗体応答を有効に惹起するワクチンが、ADにおいて見出される病的老人斑に対して有効であることを示している。しかし、ワクチンまたは抗体の効力のメカニズムは依然として明らかでない。
【0005】
公共の領域(公有財産)における、免疫療法に基づく最も進んだAD対策は、アジュバントQS−21(商標)(Antigenics,New York,NY)と共に投与される凝集前(pre−aggregated)Aβ(1−42)から構成されるワクチンであるAN1792(Betabloc)を使用する能動免疫第II相ワクチン治験であった。2002年1月に、4名の患者が、髄膜脳炎に合致した症状を示した際に、この研究は打ち切られた(Senior,Lancet Neurol.,1:3,2002)。最終的に、治療された298名中18名の患者が髄膜脳炎の徴候を現した(Orgogozoら,Neurology,61:46−54,2003)。脳炎と抗体価との間に相関性は存在しなかった。この作用の考えられうる原因メカニズムは自己免疫原、特に、Aβ42ペプチドの中央およびカルボキシ末端部分に対するT細胞の活性化であったと報告されている(Monsonegoら,J.Clin.Invest.,112:415−422,2003)。この結論を支持するものとして、脳炎を発症した2名のワクチン被投与者からの脳組織の死後検査は、一方の患者においてはCD4+T細胞の相当な髄膜浸潤を示し(Nicollら,Nature Med..9:448−452,2003)、もう一方の患者においてはCD4+、CD8+、CD3+、CD5+、CD7+T細胞を示した(Ferrerら,Brain Pathol.,14:11−20,2004)。
【0006】
現在の証拠は、受動または能動免疫後の血漿Aβレベルの増加が、後の脳Aβの減少の前兆としての末梢流出(peripheral sink)の開始を反映することを示唆している。末梢流出は、末梢への中枢Aβの正味の流出を引き起こす、脳および血漿Aβ貯蔵の平衡における変化を意味する(例えば、Deaneら,J.Neurosci.,25:11495−11503,2005;DeMattosら,Pro.Natl.Acad.Sci.USA.98:8931−8932,2001を参照されたい)。他の研究は、抗Aβ免疫療法後に観察された血漿Aβのこの増加が中枢Aβの後続の減少の実現に必要であることを示唆している(Cribbsら,7th International Conference on AD/PD,Sorrento,Italy,2005)。したがって、血漿Aβレベルの上昇をもたらす免疫応答を生成しうるいずれかの能動ワクチン免疫原が、アルツハイマー病および脳Aβレベルの上昇により特徴づけられる関連障害の治療に有用であると予想される。
【0007】
驚くべきことに、本出願人は、自己T細胞応答を回避するためにT細胞エピトープを除去する抗原が免疫原性であり血漿Aβレベルを上昇させることを見出した。これは、安全かつ有効なADワクチンを得る可能性を意味する。本出願人は、ADワクチンとして使用するためのそのような抗原および製剤を提供する。
【発明の開示】
【0008】
1つの実施形態において、本発明は、Aβに対する抗体の形態で免疫応答を誘導しうる、T細胞エピトープを欠く、Aβの免疫原性断片を含む医薬組成物を提供する。1つの態様においては、この組成物はAβの直鎖状の8アミノ酸のペプチド(8−mer)を含む。もう1つの態様においては、この組成物は、少なくとも1つのスペーサーが介在する多価直鎖状8−mer、または多価分枝状多抗原ペプチド(MAP)を含む。該医薬組成物はADおよび関連アミロイド疾患用のワクチンとして使用されうる。
【0009】
本発明のもう1つの実施形態においては、該医薬組成物は、血漿Aβレベルを上昇させるAβに対する抗体の形態で免疫応答を誘導しうる、T細胞エピトープを欠く、Aβの免疫原性断片を含むAβ血漿上昇性物質である。該医薬組成物は、AD、および脳Aβレベルの上昇により特徴づけられる関連アミロイド疾患用のワクチンとして使用されうる。
【0010】
本発明の更にもう1つの実施形態においては、該医薬組成物は、コンジュゲートを形成するよう担体分子に連結されており、ここで、該担体は、該Aβ断片に対する抗体を含む免疫応答を惹起するのを補助する。本発明の好ましい実施形態においては、該担体はナイセリア・メニンジティディス(Neisseria meningitides)の外膜タンパク質複合体(OMPS)である。
【0011】
本発明のもう1つの実施形態においては、該医薬組成物は、医薬上許容されるアジュバントと共に投与される。好ましい実施形態においては、該アジュバントはアルミニウムアジュバント(Merckミョウバンアジュバント,MAA)、またはサポニン系アジュバント(ISCOMATRIX(登録商標),CSL Ltd.,Parkville,Australia)である。
【0012】
さらにもう1つの実施形態においては、本発明は、患者の脳内のAβのアミロイド沈着に関連した疾患の予防または治療方法を提供する。そのような疾患には、アルツハイマー病、ダウン症候群、認知障害または他の形態の老人性痴呆が含まれる。該方法は、直鎖状の8アミノ酸のペプチド(8−mer)、少なくとも1つのスペーサーが介在する多価直鎖状ペプチド、および多価分枝状多抗原ペプチド(MAP)よりなる群から選ばれる、T細胞エピトープを欠く、Aβの免疫原性断片を投与することを含む。好ましい実施形態においては、該免疫原性断片は、ポリエチレングリコール(PEG)スペーサーを含有する多価直鎖状ペプチドを含む。より好ましい実施形態においては、該免疫原性断片は、OMPCに対してコンジュゲート化された多価分枝状MAP、Aβ(3−10)/(21−28)コンジュゲート、構築物番号12、図6Aを含む。
【0013】
そのような方法は、Aβに対する抗体の形態の免疫応答を誘導するT細胞エピトープを欠く、Aβの免疫原性断片の有効量を、治療を要する患者に投与することを含む。該抗体応答は血漿Aβレベルを上昇させうる。この実施形態のもう1つの態様においては、投与する免疫原性断片は担体分子に連結されている。この実施形態の更にもう1つの態様においては、該免疫原性断片をアジュバントと共に投与する。
【0014】
定義
「8−mer」なる語は、Aβの断片、天然Aβペプチドの類似体またはペプチド模倣体のに対応する8アミノ酸のペプチドを意味する。1以上の8−merを少なくとも1つのスペーサーと組合せて、多価直鎖状ペプチドを形成させ又は多価分枝状MAPを形成させることが可能である。
【0015】
「Aβ」コンジュゲートなる語は、担体、例えばキーホールリンペットヘモシアニンまたはナイセリア・メニンジティディス(Neisseria meningitidies)の外膜タンパク質複合体(OMPC)に化学的または生物学的に連結された、Aβの8−merまたは免疫原性断片を意味する。
【0016】
「Aβペプチド」なる語は、直鎖状8−mer、少なくとも1つのスペーサーを含有する多価直鎖状ペプチド、および多価分枝状多抗原性ペプチド(MAP)を含む(これらに限定されるものではない)、本明細書に記載のAβペプチドのいずれかを意味する。
【0017】
「エピトープ」なる語は、Bおよび/またはT細胞が応答する抗原上の部位を意味する。B細胞エピトープは、タンパク質の三次フォールディング(三次折り畳み)により配置された不連続的なアミノ酸または連続的なアミノ酸の両方から形成されうる。連続的なアミノ酸から形成されたエピトープは、典型的には、変性溶媒に対する露出に際しても維持されるが、三次フォールディングにより形成されたエピトープは、変性溶媒での処理に際して失われる。T細胞エピトープは、宿主MHC分子と複合体を形成しうるペプチドよりなる。ヒトMHCクラスI分子に対するT細胞エピトープはCD8+T細胞応答の誘導をもたらし、一般には、9〜11アミノ酸残基を含み、一方、ヒトMHCクラスII分子に対するエピトープはCD4+T細胞応答の誘導をもたらし、典型的には、12以上のアミノ酸残基を含む(Bjorkmanら,Nature 329:506−512,1987;Maddenら,Cell 75:693−708;BataliaおよびCollins;Engelhard Annu Rev Immunol.,12:181−207−622.1995;Madden,Annu Rev Immunol.,13:587−622.1995)。T細胞と違い、B細胞は僅か4アミノ酸長のペプチドを認識しうる。T細胞活性化を引き起こすためにT細胞受容体により認識されるのはT細胞エピトープ/MHC複合体である。
【0018】
本明細書中で用いる「Aβの免疫原性断片」または「T細胞応答を欠く、Aβの免疫原性断片」なる語は、Aβに対する抗体の形態の免疫応答を誘導しうるがその応答に自己抗原Aβに対するT細胞応答を含まない8−merまたはAβ断片を意味する。
【0019】
「免疫学的」または「免疫」または「免疫原性」応答なる語は、脊椎動物個体における抗原に対する体液性(抗体媒介性)および/または細胞性(抗原特異的T細胞またはその分泌産物により媒介される)応答を意味する。そのような応答は、免疫原の投与により誘導される能動応答、または抗体の投与により誘導される受動応答でありうる。
【0020】
「多価ペプチド」なる語は、2以上の抗原決定基を有するペプチドを意味する。
【0021】
「医薬組成物」なる語は、哺乳動物個体への投与に適した化学的または生物学的組成物を意味する。本明細書中で用いる場合、それは、アジュバントの存在下または非存在下で投与される本明細書に記載の8−mer、Aβの免疫原性断片およびAβコンジュゲートを含む組成物を意味する。
【0022】
発明の詳細な説明
既に記載されているとおり、前臨床研究は、抗Aβポリクローナル抗体応答をもたらす能動免疫が、アミロイド前駆体タンパク質を過剰発現するトランスジェニックマウスにおいて、ADに関連した病的症状および認知症状に対する有効性をもたらすことを示唆している(Bardら,Nature Med.,6:916−919,2000;Janusら,Nature,408:979−982,2000;Morganら,Nature,408:982−985,2000;DeMattosら,Proe.Natl.Acad.Sci.,98:8850−8855,2001;Bacskaiら,J.Neurosci.,22:7873−7878,2002;Wilcocら,J.Neurosci.,23:3745−3751,2003)。これらの前臨床研究は、能動免疫原としてAβ42の凝集形態を使用した単一の臨床試験により裏付けられている。この研究からの予備的証拠は、病理学的(Nicollら,Nature Med.,9:448−452,2003;Ferrerら,Brain Pathol.,14:11−20,2004;Masliahら,Neurology,64:129−131,2005)および認知的な改善(Gilmanら,Neurology,64(9):1553−1562,2005)が治療後に見られたことを示唆している。これらの治験は励みになるものであり、また、前臨床研究に合致しているが、該治療は安全でないことが判明し、治療患者の約6%に髄膜脳炎が現れた後に打ち切られた(Orgogozoら,Neurology,61:46−54,2003)。したがって、有害な安全性の問題を伴わずに有効な免疫応答をもたらしうる能動免疫法が必要とされている。
【0023】
この予備臨床試験における有害事象の性質の理解が進みつつある。現在、数名の研究者が、死後評価の際のCD4+およびCD8+陽性髄膜浸潤物の存在を報告しており(Nicollら,Nature Med.,9:448−452,2003;Ferrerら,Brain Pathol.,14:11−20,2004)、これは自己ペプチドAβ42に対するT細胞応答を示唆している。しかし、かなりの程度の抗体応答(B細胞媒介性)を維持しつつ自己T細胞応答を回避する必要性を当業者が認識しているものの、この性質を有する物質を得るための手段は公知でない。この難題は、予測のための動物モデル、またはこれらの活性に関する予測のための妥当性を有する他の前臨床アッセイが存在しないことにより、より一層深刻となる。
【0024】
この目的のために、本出願人は、本発明に使用するペプチドを設計するためにTおよびB細胞エピトープの種々の性質を用いた。直鎖状ペプチドのサイズを8アミノ酸に限定し、必要に応じて、いずれかの潜在的なC末端T細胞エピトープアンカー残基を除去することにより、ワクチン構築物を設計した。
【0025】
したがって、本発明の1つの態様は、ADワクチンとして使用するための、免疫原性であるがT細胞エピトープを欠くAβ断片の特定である。本出願前には、Aβペプチドのどのアミノ酸断片が、T細胞エピトープを欠くと同時に免疫原性応答を引き起こすのかが明らかには知られていなかった。この分野における従前の教示は、例えば、8−merが免疫原性応答をもたらすことを予測させるものではなく、また、Aβペプチドの別の領域からの断片の有用性を識別させるものではないと、当業者は理解するであろう。例えば、米国特許第6,808,712号および第6,787,144号を参照されたい。
【0026】
本明細書における本発明のもう1つの態様は、Aβに対する抗体の形態の免疫応答を誘導し血漿Aβレベルを上昇させる、T細胞エピトープを欠く、Aβの免疫原性断片を含むAβ血漿上昇性物質の特定を含む。そのような物質は、ADワクチンとして、および脳Aβレベルの上昇により特徴づけられる関連アミロイド疾患に対して使用されうる。本出願人の発明の前には、Aβのどの免疫原性断片が血漿Aβレベルの上昇をもたらすのかが公知でなく、かつ、予測可能でなかった。いずれの理論にも束縛されるものではないが、本明細書に記載のAβ血漿上昇性物質は、Aβ消失の末梢流出説によれば血漿Aβのレベルの上昇およびそれに続く脳Aβの減少をもたらす、Aβに対する抗体の形態の免疫応答を誘導するよう作用すると考えられている。さらに、個々の8−merまたはAβの免疫原性断片は、血漿Aβレベルを上昇させるよう免疫応答を誘導しうるが、本出願人は、OMPCに対してコンジュゲート化された多価分枝状MAPであるAβ(3−10)/(21−28)(構築物番号12、図6A)が、その構成単量体構築物であるAβ(3−10)(配列番号69)またはAβ(21−28)(配列番号73)の場合と比較して血漿Aβレベルの上昇において特に有効であることを見出した。
【0027】
アミロイド疾患
本発明は、アミロイド沈着の蓄積により特徴づけられる疾患の予防および治療のための組成物および方法を提供する。アミロイド沈着は、不溶性塊へと凝集したペプチドを含む。該ペプチドの性質は疾患によって様々であるが、ほとんどの場合、該凝集物はβプリーツシート構造を有し、コンゴ・レッド(Congo Red)色素で染色される。アミロイド沈着により特徴づけられる疾患には、早発性および遅発性の両方のアルツハイマー病(AD)が含まれる。どちらの疾患においても、アミロイド沈着は、罹患個体の脳内に蓄積する、アミロイドベータ(Aβ)と称されるペプチドを含む。したがって、「アミロイド疾患」なる語は、脳Aβレベルの上昇により特徴づけられる疾患をも意味する。
【0028】
治療用物質
本発明において使用する治療用物質はAβに対する抗体の形態の免疫応答を誘導する。免疫応答の誘導は、Aβに対して反応性の抗体またはT細胞を誘導するために免疫原を投与した場合のように能動的であることが可能であり、あるいはそれ自体が個体内のAβに結合する抗体を投与した場合のように受動的であることが可能である。
【0029】
ADのようなアミロイド疾患の予防または治療において使用する治療用物質には、Aβのペプチド断片が含まれ、これは、天然に存在する形態(すなわち、Aβ39、Aβ40、Aβ42、Aβ42またはAβ43)のいずれかでありうる。これらの配列は当技術分野において公知であり、例えば、Hardyら,TINS 20:155−158,1997を参照されたい。
【0030】
本明細書中で用いる治療用物質は、好ましい実施形態においては、Aβに対する抗体の形態の免疫応答を誘導しうる、T細胞エピトープを欠く免疫原性断片である。Aβの免疫原性断片は8−mer、少なくとも1つのPEGスペーサーを有する多価直鎖状Aβコンジュゲート、または多価分枝状MAP Aβコンジュゲートの形態でありうる。該治療用物質は医薬組成物の形態で投与されうる。もう1つの実施形態においては、該治療用物質は、個体における血漿Aβレベルを上昇させる、Aβに対する抗体の形態の免疫応答を誘導しうるAβ血漿上昇性物質である。そのような物質は、天然に存在するペプチド断片を含むことが可能であり、あるいは1以上の置換、付加または欠失を含むことが可能であり、合成アミノ酸または天然に存在しないアミノ酸を含みうる。断片および構築物は、本明細書中の実施例に記載のアッセイにおいて、予防および治療効力に関してスクリーニングされうる。
【0031】
好ましい実施形態においては、該治療用物質はAβのペプチド断片を含むが、そのような物質は、Aβに対する有意なアミノ酸配列類似性を必ずしも有さないが尚もAβの模倣体として作用し類似した免疫応答を誘導しうるペプチドおよび他の化合物をも含みうる。例えば、βプリーツシートを形成するペプチドおよびタンパク質を、本明細書に記載の本発明に対する適合性に関してスクリーニングすることが可能である。同様に、コンビナトリアル(組合せ)ライブラリーおよび他の化合物を、本発明に対する適合性に関してスクリーニングすることが可能である。
【0032】
そのような特定された治療用物質は、免疫原としてのその使用を促進する担体に化学的または生物学的に連結されうる。そのような担体には、血清アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、免疫グロブリン分子、オボアルブミン、破傷風毒素タンパク質、または他の病原性細菌、例えばジフテリア、大腸菌(E.coli)、コレラもしくはエイチ・ピロリ(H.pylori)に由来するトキソイド、または弱毒化毒素誘導体が含まれる。本発明の好ましい実施形態においては、該担体はナイセリア・メニンジティディス(Neisseria meningitides)の外膜タンパク質複合体(OMPS)である。
【0033】
本発明は、所望によりアジュバントと共に投与される、担体に連結されていてもよい8−merまたはAβの免疫原性断片を含む医薬組成物における、そのような治療用物質の使用をも含む。適当なアジュバントには、アルミニウム塩(ミョウバン)、脂質、例えば3 デ−O−アシル化モノホスホリルリピドA(MPL)、またはサポニン系アジュバントが含まれる。好ましい実施形態においては、該アジュバントはアルミニウムアジュバント(Merckミョウバンアジュバント,MAA)、またはサポニン系アジュバント(ISCOMATRIX(登録商標),CSL Ltd,Parkville,Australia)である。
【0034】
治療計画
ADまたは他のアミロイド疾患の予防または治療処置のための本発明の組成物の有効量は、投与手段、標的部位、患者の生理的状態、他の投薬、および処置が治療用(すなわち、疾患症状の発現後)であるか予防用(すなわち、疾患症状の発現を予防するためのもの)であるかを含む(これらに限定されるものではない)多数の要因に応じて様々なものとなろう。好ましい実施形態においては、患者はヒトであり、治療用物質を注射により投与する。
【0035】
使用する免疫原または治療用物質の量は、アジュバントを同時または連続的に投与するかどうかにも左右され、アジュバントの非存在下では、より高い用量を使用する。
【0036】
投与する免疫原または治療用物質の量は様々となるが、注射当たりペプチド0.5〜50μg(Aβペプチド含量に基づく)の範囲の量がヒトに対する使用に想定される。本明細書に記載のタイプの抗原を含む組成物の製剤化方法は当業者に公知であろう。
【0037】
投与計画は、初回免疫、およびそれに続く、一定の間隔を空けた追加(ブースター)注射よりなるであろう。初回免疫と追加免疫との間の間隔、追加注射間の間隔、および追加免疫の回数は、該ワクチンにより惹起される抗体価および持続時間に左右されるであろう。それは、抗体応答の機能的効力、すなわち、ADの発生を予防するのに必要な抗体価のレベル、あるいはAD患者において発揮される治療効果にも左右されるであろう。典型的な計画は1、2および6ヶ月の時点の初期の一連の注射よりなるであろう。もう1つの計画は1および2ヶ月の時点の初期の注射よりなるであろう。いずれの計画の場合も、抗体価および持続時間に応じて、追加注射を6ヶ月または1年ごとに行うことになろう。投与計画は、患者における免疫応答のモニターにより判断して必要に応じて実施することも可能である。
【0038】
ADワクチンエピトープの特定
免疫原性応答を得るためにはAβペプチドのどの8アミノ酸断片(「8−mer」)で十分なのかを決定するために、本出願人は、天然に存在するAβ配列(配列番号1)に由来する小さな(8アミノ酸)の重複合成ペプチド(図1(配列番号2〜37)に示すとおり)でAβ42の全長を系統的にスキャン(走査)した。Aβ42の全長に及ぶ29個の重複する8アミノ酸ペプチドを、抗原として使用するために合成した(図2A)。可溶性を改善するために、該ペプチドの幾つかを三重リシン(KKK)(配列番号52、53、54、56、59、60、62、64および65)もしくはグルタミン(EEE)(配列番号50、51および61)残基の付加またはポリエチレングリコール(PEG)(配列番号55および63)スペーサーの使用により修飾した。この理由により、残基(11−18)および(13−20)に対応するAβの配列に伸長するペプチドは、複数の形態のものとして製造した。その第1のものは6−アミノヘキサン酸(Aha)スペーサー+N末端における化学的架橋用の官能基を有し、その他のものはAhaおよびC末端における官能基を有する。対照として、より長いペプチドAβ(1−18)を含めた。
【0039】
本明細書に記載の免疫原性断片は、天然に存在する(すなわち、野生型)または合成されたAβ(配列番号1)あるいはその突然変異または変異に由来する8−merペプチド(8アミノ酸残基)でありうる。そのような突然変異または変異は、当業者に公知の合成または組換え手段により得られうる。そのような変異体の一例として、野生型Aβの1位および2位が変異している、Aβ(1−42)に対応するEV基質(EVEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVVIA)(配列番号66)が挙げられる。
【0040】
ワクチン製剤において使用するAβコンジュゲート
ワクチンの製剤化に使用するAβコンジュゲートの選択は8−merの免疫原性に基づくものであった。ヒトAβ配列と同一の配列を有する種における8−merの免疫原性を決定するために、29個のペプチド(図2A)をKLHにコンジュゲート化してAβコンジュゲートを形成させ、モルモットにおいて試験した(図3)。対照免疫原として、Aβ(1−18)−KLH(配列番号37)をこの分析に含めた。
【0041】
モルモットを、実施例3.Bに記載のとおり、ミョウバン+50μgのISCOMATRIX(登録商標)(CSL,Ltd.,Parkville,Australia)中に製剤化されたコンジュゲート化免疫原で免疫化した。非免疫原性Aβ42断片から免疫原性のものを区別するために、モルモットを3週間隔で3回免疫化した。各免疫化の3週間後、血液サンプルを集め、Aβ40ペプチドに対する抗体価に関してELISAにより試験した。これらの力価を、それぞれ第1投与後(PD1)、第2投与後(PD2)および第3投与後(PD3)として図3に示す。
【0042】
最初の注射後(PD1)、いくつかのペプチド領域が、18−mer対照と同様に、明らかな抗体価を惹起した。特に、Aβアミノ酸1−8、2−9、3−10、17−24、21−28および33−40に対応するAβコンジュゲートは全て、1:800を超える力価を示した。二回目の注射後(PD2)、該Aβコンジュゲートのうちの15個が、1:1000を超える抗体価を惹起した。第3投与後(PD3)の分析は更に、Aβの或る領域がその他のものより免疫原性であることを証明した。11個の領域が、1:6000より大きな力価を示した。これらには、Aβアミノ酸1−8、3−10、7−14、11−18、13−20、15−22、19−26、21−28、23−30、27−34および29−36に対応する領域が含まれた。これらの領域のうち、領域1−8、15−22、21−28、23−30および29−36を含む5個は高度に免疫原性(>1:10000)であった。Aβの或る8−アミノ酸領域は高度に免疫原性であり、一方、他の領域(例えば、5−12、25−32、31−38および35−42)は非免疫原性(力価<1:300)であることを、このデータは示唆している。また、該AβコンジュゲートはAβ40ペプチド特異的抗体応答を惹起することが可能であったが、Aβの全ての断片が同等に免疫原性であったわけではないことを、これらの結果は示している。
【0043】
Aβペプチド−KLHコンジュゲートの免疫反応性
Aβペプチド−KLHコンジュゲートでの免疫化の後にモルモットから得た免疫血清がヒトADに関連していることを示すために、Aβ(3−10)−KLH(配列番号40)コンジュゲートで免疫化したモルモットからのポリクローナル血清の免疫原性を評価するための研究を行った。Aβ(3−10)−KLH(配列番号40)コンジュゲートの第2注射の4週間後にモルモットから集めた血清サンプルを免疫組織化学法によりヒトAD脳組織に対する反応性に関して試験した(実施例4)。
【0044】
図4に示すとおり、Aβ(3−10)−KLH(配列番号40)コンジュゲートにより生じた免疫原性応答はヒトAD脳組織に対する抗体応答をもたらした。図4Aはモノクローナル抗Aβ抗体6F3D(Vector Laboratories)の免疫反応性を示す。示されているとおり、この脳は、ヒトADに典型的であると予想される様態の広範なAβ沈着を有する。図4Bは免疫前モルモットからの血清の免疫反応性の欠如を示す。図4Cは、Aβ(3−10)−KLH(配列番号40)コンジュゲートの2回の注射の後のこの同じモルモットからの血清の陽性免疫反応性を示す。総合すると、このデータは、ELISAにより見出された免疫原性が、このAD組織において見出されたヒトAβに対する有意な抗体応答を含むことを示している。これらの結果は、Aβの個々の断片により付与される示差的免疫原性の予想外の知見を証明し拡張して、この応答が治療用途に合致した様態でもたらされることを示している。
【0045】
OMPCコンジュゲートおよび多抗原コンジュゲートの作製
モルモットにおける免疫原性、Aβ42アミノ酸配列内のペプチド断片の相対位置、Aβ断片の溶解度、および担体タンパク質としてのOMPCの使用の実施可能性に基づき、OMPCコンジュゲート化のための幾つかの8−mer(図2B)を選択した。これらのペプチド断片はAβの以下のアミノ酸領域に対応した:1−8、2−9、3−10、7−14、17−24、21−28および33−40。
【0046】
本発明は、例えば図5、6Aおよび6Bに示されているような多価ペプチドコンジュゲートを含む。多価分枝状MAP−OMPCコンジュゲート(図6Aおよび6B)は、リシンに基づく骨格を使用することにより作製し、一方、多価直鎖状8−mer−OMPCコンジュゲート(図5)は、PEGリンカーを使用して調製した。PEGリンカーは、本発明において同様に使用されうる通常のアミノ酸リンカーと比較して、より低い免疫原性およびより大きなペプチド溶解度という利点をもたらす、と当業者は理解するであろう。本発明の好ましい実施形態においては、該免疫原性断片は、OMPCに対してコンジュゲート化された多価MAPである。そのようなコンジュゲート化はペプチド:担体の1:1の比ではない、と当業者により理解されるはずである。むしろ、複数のペプチドが球状に各OMPC分子に結合する。さらに、多価直鎖状構築物およびMAPの使用は溶解度、製剤安定性、免疫原性およびポリクローナル応答の多様性を増大させる、と当業者により理解されるであろう。
【0047】
OMPCコンジュゲートワクチンの免疫原性
Aβペプチド−OMPCコンジュゲートの免疫原性を評価するために、およびこのワクチン構築物に伴うアジュバントの利益を更に評価するために、アカゲザルにおける研究を開始した。アカゲザルを、Merckミョウバンアジュバント(MAA)またはMAAおよびISCOMATRIX(登録商標)(CSL,Ltd.,Parkville,Australia)のいずれかにおいて製剤化されたAβ(1−18)−OMPCコンジュゲート(Aβペプチド含量に基づく用量)でワクチン接種した。血液サンプルを集め、これを使用してAβ40に対する抗体価を決定した。第1投与後(PD1)、ミョウバン中の5μgのワクチンを投与したサルは、検出可能な力価を生成しないが、ミョウバン中の30μgのワクチンを投与したサルは低いAβ40特異的力価を生成することを、この進行中の研究の暫定的分析は示した。ミョウバン+ISCOMATRIX(登録商標)製剤を投与した全てのサルは有意な抗体価を生成した。第2投与後(PD2)、ミョウバンの単体中のAβコンジュゲートの両方の用量は、類似した力価レベルを生成し、一方、ミョウバン+ISCOMATRIX(登録商標)を投与したコホートは、ミョウバン単体のコホートより10倍高い抗体価を生成した。この研究の結果は、Aβ−OMPCコンジュゲートが非ヒト霊長類において免疫原性であることを証明した。該データは更に、そのようなコンジュゲートワクチンの効力が、サポニン系アジュバント、例えばISCOMATRIX(登録商標)により、有意に増強されることを示した。
【0048】
実施例
【実施例1】
【0049】
Aβコンジュゲートの製造
この実施例は、Aβに対する抗体の形態の免疫応答を誘導するためのAβコンジュゲートのために後に使用するAβペプチド断片の製造を記載する。
【0050】
A.Aβ(8−mer)ペプチド(配列番号37〜65;図2A)の製造
マレイミド誘導体化担体タンパク質に対するコンジュゲート化を意図した、カルボキシ末端にシステイン残基を有するペプチドを合成した。コンジュゲート化中の担体タンパク質への立体的接近可能性を最小にするための構造要素として、一次ペプチド配列とカルボキシ末端システインとの間にスペーサーAha(6−アミノヘキサン酸)を組込んだ。また、EEE、KKKまたはPEGにより表される可溶化残基を配列14、15、16、17、18、19、20、23、24、25、26、27、28、29内のC末端に導入した。O−(N−Fmoc−2−アミノエチル)−O’−(2−カルボキシエチル)−ウンデカエチレングリコール[Fmoc−NHCH2CH2O(CH2CH2O)10CH2CH2OCH2CH2CO2H]としてPEG単位を導入した。
【0051】
Rink Amide MBHA樹脂から出発して、製造業者(Applied Biosystems,Foster City,CA)から提供されたFmoc化学法を用いて、自動ペプチド合成装置で固相合成によりAβペプチドを製造した。合体後、樹脂に結合したペプチドを脱保護し、樹脂から切断した(94.5% トリフルオロ酢酸、2.5% 1,2−エタンジチオール、1% トリイソプロピルシランおよび2.5% H2Oの混合物を使用して行った)。2時間の処理の後、該反応物を濾過し、濃縮し、得られた油をエチルエーテルでトリチュレーションした。該固体生成物を濾過し、50% 酢酸/H2Oに溶解させ、凍結乾燥させた。該半純粋生成物の精製を、C−18支持体上で0.1% TFA/H2O/アセトニトリル勾配を用いるRPHPLCにより行った。画分を分析用HPLCにより評価した。純粋な画分(>98%)をプールし、凍結乾燥させた。アミノ酸分析および質量分析により同一性が証明された。
【0052】
B.Aβペプチド−KLHコンジュゲート(配列番号37−65;図2A)の製造
KLHコンジュゲートを製造するために、C末端システインを含有するAβペプチド(8−mer)2mgを1mlの市販のマレイミドコンジュゲート化バッファー(83mM リン酸ナトリウム、0.1M EDTA、0.9M NaCl、0.02% アジ化ナトリウム、pH7.2(Pierce Biotechnology,Rockford,IL)に懸濁させた。市販のマレイミド活性化KLH(Pierce Biotechnology,Rockford,IL)のサンプル2mgを該ペプチドに加え、25℃で4時間反応させた。100,000Da透析管を使用するPBSバッファーに対する徹底的な透析により、該コンジュゲートを未反応ペプチドおよび試薬から分離した。該コンジュゲート内に取り込まれたペプチドの量を、70時間の酸加水分解の後のアミノ酸分析により評価した。ペプチド濃度は0.24〜0.03mg/mlであると決定された。
【0053】
C.ブロモアセチル化Aβペプチド(配列番号67−77;図2B)の合成
Applied Biosystemsモデル430A自動合成装置上でアミノ酸を導入するために二重カップリング法を用いる標準的なt−Boc固相合成により、ブロモアセチル化ペプチドを製造した。p−メチルベンズヒドリルアミン樹脂から出発して、カルボキシ末端アミノ酸t−Boc−Lys(Fmoc)−OHを導入し、ついで該配列内のアミノ酸を導入した。これらの配列の全てにスペーサーとしてAhaを導入し、配列35および37においては、水性可溶化を補助するためにPEG単位を導入した。O−(N−Boc−2−アミノエチル)−O’−(N−ジグリコリル−2−アミノエチル)ヘキサエチレングリコール[Boc−NHCH2CH2O(CH2CH2O)6CH2CH2NHCOCH2OCH2CO2H]としてPEG単位を導入した。該アミノ末端を酢酸のカップリングによりキャップ化した。一次配列の合体後、カルボキシ末端リシンのイプシロンアミノ基上のFmoc保護基をピペリジンでの処理により除去した。ついでNεアミノ基を溶媒としての塩化メチレン中のブロモ酢酸無水物と30分間反応させた。脱保護、および樹脂からの該ペプチドの取り出しを、液体フッ化水素酸および捕捉剤としての10% アニソールでの処理により行った。0.1% TFA/アセトニトリル勾配を用いる逆相C−18シリカカラム上の分取HPLCにより該ペプチドを精製した。分析用HPLCおよび質量分析により該ペプチドの同一性および均一性が証明された。
【0054】
D.ブロモアセチル化二価MAP(構築物番号8、図6A)の合成
ブロモアセチル化分枝状多抗原ペプチド(MAP)の合成は、実施例1.Cに記載されているものと同様である。MBHA樹脂へのカルボキシ末端Fmoc−Lys(ivDde)−OH[ivDde=1,(4,4−ジメチル−2,6−ジオキソ−シクロヘキシリデン)−3−メチル−ブチル]のカップリングの後、ピペリジンを使用してα−アミノFmoc保護基を除去し、t−Boc−Lys(Fmoc)−OHの導入を行いながら合成を継続した。t−Boc基の脱保護の後、該配列を以下のt−Boc保護アミノ酸:Aha、Y、G、S、D、H、R、F、Eで伸長させ、ABI合成装置上で酢酸をカップリングさせることによりアミノ末端をキャップ化した。側鎖リシンFmoc保護基をピペリジンで除去し、リシンのNεアームをABI合成装置上で以下の保護アミノ酸:Aha、H、H、V、E、Y、G、S、Dの導入により伸長させ、酢酸をカップリングすることによりアミノ末端をキャップ化した。ジメチルホルムアミド中の5% ヒドラジンでの5分間の処理によりivDde保護基の除去を行って、カルボキシ末端リシン上に非遮蔽Nεアミノ基を得、これをブロモ酢酸無水物で更に修飾した(実施例1.Cに記載されているとおり)。樹脂からの該ペプチドの切断、その後続の精製および特徴づけは、実施例1.Cに記載されているとおりである。
【0055】
E.ブロモアセチル化MAP(構築物番号11および12、図6A)の合成
MAP構築物番号11および12を、実施例1.Dに記載されているとおりに製造した。
【0056】
F.システイン多価MAP(構築物番号9、図6A)の合成
MBHA樹脂から出発して、以下のt−Boc保護アミノ酸:C、Lys(Fmoc)、Aha、Y、G、S、D、H、R、F、EをABI自動合成装置上で合体させ、ついで酢酸とのカップリングを行った。リシンのNεアミノFmoc保護基を除去し、以下のt−Boc保護アミノ酸:Aha、H、H、V、E、Y、G、S、Dを導入しながら合成を継続し、ついで酢酸とのカップリングを行った。実施例1.Cと同様にして、樹脂に結合したペプチドを単離し、精製し、特徴づけした。(注):実施例1.Cにおける10% アニソールの代わりに、p−クレゾール:p−チオクレゾールの1:1混合物をHF切断中の捕捉剤として使用した。
【0057】
G.システイン二価MAP(構築物番号10、13および14、図6A)の合成
二価MAP(構築物番号10、13および14、図6A)を、実施例6.Fに記載されているとおりに製造した。O−(N−Boc−2−アミノエチル)−O’−(N−ジグリコリル−2−アミノエチル)ヘキサエチレングリコール(t−Boc−NHCH2CH2O(CH2CH2O)6CH2CH2NHCOCH2OCH2CO2H)としてPEG単位を導入した。
【0058】
H.ブロモアセチル化多価MAP(構築物番号16、図6B)の合成
ABI自動合成装置を使用して、Fmoc−Lys(t−Boc)−OHをMBHA樹脂にカップリングさせた。リシンのNεアミノ基上のt−BOC保護基の除去の後、該配列を以下のt−BOC保護アミノ酸:Aha、Y、G、S、D、H、R、F、Eの導入により伸長させ、ついで酢酸のカップリングを行った。リシン上のNα Fmoc保護基をピペリジンでの手動処理により除去した。該配列をFmoc−Lys(t−Boc)−OHおよび以下のt−Boc保護アミノ酸:Aha、H、H、V、E、Y、G、S、Dの導入により(ABI合成装置上で)更に修飾し、ついで酢酸のカップリングを行った。リシンFmoc Nαアミノ保護基を、既に記載されているとおりに除去し、Fmoc−Lys(t−Boc)−OHの導入およびそれに続く以下のt−BOC保護アミノ酸:Aha、K、N、S、G、V、D、E、Aの導入を行いながら合成を継続し、ついで酢酸カップリングを行った。リシン上のNα Fmoc保護基を除去し、Fmoc−Lys(t−Boc)−OHの導入およびそれに続く以下のt−BOC保護アミノ酸:Aha、V、V、G、G、V、M、L、Gの導入を行いながら合成を継続し、ついで酢酸カップリングを行った。リシンのNαFmoc保護基の除去の後、樹脂に結合したペプチドを実施例1.Cの場合と同様にしてブロモ酢酸無水物と反応させた。最終生成物の単離および特徴づけは実施例1.Cの場合と同様であった。
【0059】
I.多価MAP(構築物番号15および17、図6B)の合成
MAP Aβコンジュゲート(構築物番号15および17、図6B)の合成は、実施例1.Fおよび1.Hに記載されているとおりである。
【0060】
J.ブロモアセチル化多価直鎖状ペプチド(構築物番号1、図5)の合成
MBHA樹脂から出発して、実施例6.Aに記載されているとおりにABI自動合成装置上でt−BOC化学法を用いて一次配列を合成した。カップリング試薬としてBOP試薬を使用して、Fmoc−l−アミノ−4,7,10−トリオキサ 13−トリデカンアミンコハク酸[Fmoc−NHCH2CH2CH2O(CH2CH2O)2CH2CH2CH2NHCOCH2CH2CO2H]として介在PEG単位を手動で導入した。Fmoc基の脱保護に、ピペリジンを使用した。アミノ末端のブロモアセチル化は、実施例1.Cに記載されているとおりであった。所望の生成物の単離および特徴づけは実施例1.Cの場合と同様であった。
【0061】
K.多価直鎖状Aβペプチド(構築物番号2、5、6および7、図5)の合成
多価直鎖状Aβペプチド(構築物番号2、5、6および7、図5)の合成は、実施例1.Jに記載されているとおりである。
【実施例2】
【0062】
OMPCへのAβペプチドの化学コンジュゲート化
この実施例は、ナイセリア・メニンジティディス(Neisseria meningitidies)B型の精製外膜タンパク質複合体(OMPC)への、ヒトAβ42に由来するペプチドの化学コンジュゲート化を示す。該カップリングの化学的本質は、ハロアセチル誘導体化ペプチドと該膜複合体のチオール誘導体化タンパク質との反応である。前記のとおりに、二価直鎖状エピトープペプチドの場合にはN末端上にブロモアセチル官能基を有する、あるいは一価直鎖状および分枝状MAP形態の場合にはC末端上に又はリシン残基のイプシロンアミノ基を介して結合したブロモアセチル官能基を有する、アミロイドペプチドを合成した。該BrAc基は、6−アミノヘキサン酸(Aha)からなるスペーサーにより成熟ペプチドから分離されていた。前記配列を参照されたい。代表的なペプチドであるAβ(3−10)に関して、コンジュゲート化を説明する。OMPC含有溶液の全ての操作は、標準的な無菌技術に従う層流環境中で行った。
【0063】
A.OMPCのチオール化
例えばPedvaxHIB(登録商標)および肺炎球菌コンジュゲートワクチンの製造に用いられるFu,米国特許第5,494,808号に記載されているような方法により入手可能な精製無菌OMPCを、試薬N−アセチルホモシステインチオラクトン(NAHT,Aldrich,St.Louis,MO)を使用して、その表面の接近可能なリシン残基の一部においてチオール化した。水中のOMPC(117mg)を289,000×g、4℃で60分間の遠心分離によりペレット化し、上清を捨てた。窒素分散(スパージ)活性化バッファー(0.11M ホウ酸ナトリウム,pH11)を該遠心管に加え、該ペレットをガラス攪拌棒で取り除いた。上清をガラスDounceホモジナイザーに移し、30ストローク(行程)で再懸濁させた。該遠心管を洗浄し、洗液を30ストロークでドゥーンス(dounce)処理した。再懸濁化ペレットおよび洗液を、10mg/mLのOMPC濃度となるよう、清潔な容器内で一緒にした。固体DTTおよびEDTAを窒素分散活性化バッファーに溶解させ、0.106mg DTT/mg OMPCおよび0.57mg EDTA/mg OMPCの比で反応溶液に充填した。穏やかに混合した後、NATHを窒素分散水に溶解させ、0.89mg NAHT/mg OMPCの比で反応に仕込んだ。遮光条件下の窒素フード内で、室温で3時間、反応を進行させた。完了時に、OMPCを前記のとおりにペレット化し、窒素分散コンジュゲート化バッファー(25mM ホウ酸ナトリウム,pH8.5、0.15M NaCl)中、Dounce均一化により6mg/mLで再懸濁させて、ペレットを洗浄した。最終再懸濁のために、OMPCを前記のとおりにペレット化し、窒素分散コンジュゲート化バッファー中、Dounce均一化により10mg/mLで再懸濁させた。アリコートを取り出して、エルマン(Ellman)アッセイによる遊離チオール測定に付し、該バルク生成物を、使用するまで、暗所の氷上で保存した。測定されたチオール含量は0.2〜0.3μmol/mLであった。
【0064】
B.OMPCへのAβペプチドのコンジュゲート化
ペプチドに対する機能性BrAc含量はモル比で1:1であると推定された。十分なペプチドを秤量して全チオールに対して1.6モル過剰のbrAcを得た。各コンジュゲート化において標的化される全OMPCタンパク質は15mgであった。ペプチドを窒素分散コンジュゲート化バッファーに2.6mg/mLで再懸濁させ、チオール化OMPC溶液にゆっくりと加えた。該反応を遮光し、室温で約22時間インキュベートした。残留遊離OMPCチオール基を5倍モル過剰のN−エチルマレイミドで室温で18時間クエンチした。該コンジュゲート化法の全体にわたり、平行して、チオール化OMPCのみの対照を使用した。クエンチが完了したら、コンジュゲートおよび対照を100,000Da分子量のカットオフの透析ユニットに移し、少なくとも5回交換するコンジュゲート化バッファーに対して徹底的に透析した。透析が完了したら、サンプルを15mlのポリプロピレン遠心管に移し、2,280×g、4℃で5分間遠心分離して凝集物を除去した。アリコートを分析用に取り出し、該バルクを4℃で保存した。
【0065】
C.Aβペプチド−OMPCコンジュゲートの分析
ローリー(Lowry)アッセイの変法により全タンパク質を測定し、コンジュゲートおよび対照のサンプルを定量的アミノ酸分析(AAA)により分析した。OMPCに対するペプチドのモル比を、新生ペプチド−OMPC結合の酸加水分解に際して遊離される特有の残基であるS−カルボキシメチルホモシステインの定量から決定した。該ペプチド配列には存在しないためOMPCタンパク質に特有のものである加水分解安定残基から、OMPC比濃度を決定した。SCMHCの1モル当たりにペプチドが1モルだとすると、SCMHC/OMPCの比はペプチド/OMPC含量と等価となった。ペプチド分子量および平均OMPC質量(40,000,000Da)を用いて、この比からペプチドの質量ローディングを計算することが可能であろう。
【0066】
コンジュゲート化の共有結合性を、4〜20% Tris−グリシンゲル(Invitrogen,Carlsbad,CA)を使用するSDS−PAGE分析により定量的に確認した。この場合、クーマシー染色コンジュゲートのバンドにおいて、対照と比較して移動度における上方へのシフトが認められた。
【0067】
すべてのコンジュゲート化BrAcペプチドに関する算出モルローディング比(mol ペプチド/mol OMPC)は以下のとおりであった。
【0068】
【表1】
【実施例3】
【0069】
Aβコンジュゲートの免疫原性
この実施例は、Aβに対する抗体の形態の免疫応答を誘導しうるAβコンジュゲートの製剤化および投与を記載する。
【0070】
A.ワクチンコンジュゲートの製剤化
Aβペプチド−KLHコンジュゲートワクチンをISCOMATRIX(登録商標)(CSL Ltd.,Parkville,Australia)中で製剤化した。すべてのAβペプチド−OMPCコンジュゲートワクチンを、ミョウバン中、第2のアジュバント、例えば、サポニン系アジュバントであるISCOMATRIX(登録商標)(CSL Ltd.,Parkville,Australia)の存在下または非存在下で製剤化した。サンプルの操作の全ては無菌条件下で行った。
【0071】
ミョウバン製剤の場合、コンジュゲートを1倍の食塩水で、定められたペプチド濃度に希釈し、無菌食塩水(150mM 無菌塩化ナトリウム溶液)中で調製された900μg/mL Merckミョウバンに相当する2倍のミョウバン(Merck,Product No.39943)と混合する。したがって、該ワクチン中の目標濃度は450μg/mL Merckミョウバンまたは1倍Merckミョウバンである。動物研究のための目標ペプチド(抗原)濃度は以下のとおりであった:マウスの場合−12.1μg/L(用量0.1mL);サルの場合−10μg/mLまたは60μg/mL(用量0.5mL);およびモルモットの場合−12.5μg/mL(用量0.4mL)。該混合物を室温で2時間インキュベートする。注射用量を得るために、ミョウバン吸収コンジュゲートを1倍のミョウバンで希釈して目標ペプチド濃度にする。第2のアジュバント、すなわち、ISCOMATRIX(登録商標)が必要な場合には、目標濃度は、マウス研究では10μg/mL、サル研究では0、100または200μ/mL、そしてモルモット研究では125μg/mLであった。
【0072】
1.ISCOMATRIX(登録商標)の調製
カセット膜(Slide−A−Lyzer(登録商標)Dialysis Cassett,10K MWCO,Pierce,Rockford,IL)を使用して、ISCOMATRIX(登録商標)を2〜8℃で無菌食塩水溶液中に透析する。透析中に無菌食塩水溶液を2〜3回、交換する。透析の完了後、シリンジフィルター(0.22μM Millex−GVシリンジフィルター,Millipore,Billerica,MA)を使用してISCOMATRIX(登録商標)を濾過滅菌する。無菌の透析されたISCOMATRIX(登録商標)の濃度をRP−HPLCにより測定する。ISCOMATRIX(登録商標)を、使用するまで、無菌条件中、2〜8℃で保存する。
【0073】
2.Aβペプチド−OMPCコンジュゲートおよびMerckミョウバン製剤
Aβペプチド−OMPCコンジュゲートストックを無菌の1×食塩水溶液中に希釈する。ついで、希釈されたADペプチド−OMPCコンジュゲートストックを1×無菌食塩水溶液中の2×Merckミョウバンに加え、回転盤上で室温で1時間混合する。該混合物をベンチ上で室温で15分間静置沈降させ、ついで1500rpmで10分間遠心分離する。上清を穏やかに捨て(ミョウバンに結合したAβペプチド−OMPCコンジュゲートの比率を決定するために上清のUV分析を行う)、ペレットを無菌1×食塩水に再懸濁させる。該混合物を無菌の3mLのチューブガラスバイアル中にアリコート化し、ついで、ISCOMATRIX(登録商標)での最終的な製剤化まで2〜8℃で保存する。
【0074】
3.Aβペプチド−OMPC/ミョウバンおよびISCOMATRIX(登録商標)ワクチンの製剤化
ISCOMATRIX(登録商標)での最終製剤化の前に、結合を確認し粒子安定性をモニターするために、食塩水中のAβペプチド−OMPC/ミョウバンの粒径を静的(static)光散乱により測定する。1×食塩水中の無菌の透析されたISCOMATRIX(登録商標)を、ボルテックスしながら、無菌の150mM NaCl中のAβペプチド−OMPC/ミョウバンに加える。バイアルに栓をし、キャップをし、クリンプして完全に密封する。ワクチンを、注射に使用するまで2〜8℃で保存する。注射前に、各ワクチンを3〜5分間ボルテックスする。
【0075】
B.モルモットにおけるコンジュゲートワクチンの免疫原性
6〜10週齢の雌モルモットをHarlan Inc.,Indianapolis,IAから入手し、制度化された指針に従いMerck research Laboratoriesの動物施設内で飼育した。すべての動物実験はMerck Research Laboratories Institutional Animal Care and Use Committee(IACUC)により承認された。抗原をリン酸緩衝食塩水中で調製し、示されたアジュバント中で製剤化した。
【0076】
図2Aに示すAβペプチド−KLHコンジュゲートで、2匹/群の動物を、40μgのISCOMATRIX(登録商標)の存在下、400μlのコンジュゲートワクチン(ペプチド含量で8μgまたは全コンジュゲートで50μg)で筋肉内に免疫化した。該免疫化は4週間隔で3回行った。血清サンプルを、初回免疫化前(前採血)および各免疫化の3週間後に集め、抗体価の測定まで4℃で保存した。標的抗原としてAβ40を使用するプロトコールに従うELISAにより抗体価を測定した。
【0077】
ELISAに基づく分析は以下のとおりである。96ウェルプレートを50mM 炭酸水素塩バッファー(pH9.6)中の4μg/mlの濃度の50μl/ウェルのAβで4℃で一晩コートした。プレートをリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、0.05% Tween−20含有するPBS中の3% 脱脂乳(乳−PBST)でブロッキングした。試験サンプルをPBST中の4倍系列で希釈した。100μlの希釈サンプルを各ウェルに加え、該プレートを24℃で2時間インキュベートし、ついでPBSTで6回洗浄した。乳−PBST中の1:5000希釈の50μlのHRP−コンジュゲート化二次抗体をウェルごとに加え、該プレートを24℃で1時間インキュベートした。該プレートを3回洗浄し、100mM クエン酸ナトリウム(pH4.5)中の1mg/ml o−フェニレンジアミン二塩酸塩100μlをウェルごとに加えた。24℃で30分間のインキュベーションの後、ウェルごとに100μlの1N H2SO4を加えることにより該反応を停止させ、ELISAプレートリーダーを使用して該プレートを490nmで読み取った。抗体価は、コンジュゲート対照ウェルの平均+2標準偏差を超えるOD490nm値を与える最高希釈度の逆数と定義した。
【0078】
図3に示すこの分析の結果は、第1注射後(PD1)、いくつかのペプチド領域が、18−mer対照と同様に、明らかな抗体価を惹起することを示した。特に、Aβアミノ酸1−8、2−9、3−10、17−24、21−28および33−40に対応するAβペプチド断片は全て、1:800を超える力価を示した。第2注射後(PD2)、該8−merコンジュゲートのうちの15個が、1:1000を超える抗体価を惹起した。第3投与後(PD3)の分析は更に、Aβペプチドの或る領域がその他のものより免疫原性であることを証明した。11個の領域が、1:6000より大きな力価を示した。これらには、Aβアミノ酸1−8、3−10、7−14、11−18、13−20、15−22、19−26、21−28、23−30、27−34および29−36に対応する領域が含まれた。これらの領域のうち、領域1−8、15−22、21−28、23−30および29−36を含む5領域は高度に免疫原性(>1:10000)であった。これらの結果は、8−merコンジュゲートがAβ40特異的抗体応答を惹起しうることを示している。意外にも、かつ、従前の教示に反して、Aβの全ての断片が同等に免疫原性であったわけではなかった。実際、ある8−merは高度に免疫原性であり、一方、Aβの他の領域(例えば、5−12、25−32、31−38および35−42)は非免疫原性(力価<1:300)であることを、これらのデータは示唆している。
【0079】
C.アカゲザルにおけるコンジュゲートワクチンの免疫原性
Aβペプチド−OMPCコンジュゲートならびにミョウバンおよびISCOMATRIX(登録商標)アジュバントが免疫応答を与えるかどうかを判定するために、モルモットで行った研究と比較されうる非ヒト霊長類(すなわち、アカゲザル)における研究を行った。Merck Research LaboratoriesおよびNew Iberia Research Center(The University of Louisiana at Lafayette,New Iberia,LA)の、制度化された動物取扱いプロトコールに従い、アカゲザル(Macaca mulatta)を飼育した。
【0080】
モデル抗原として、図2Bに示す以下の8−mer:Aβ(1−8)(配列番号67)、Aβ(3−10)(配列番号69)、Aβ(7−14)(配列番号70)、Aβ(17−24)(配列番号72)、Aβ(21−28)(配列番号73)およびAβ(33−40)(配列番号74);図5に示す以下の二価直鎖状ペプチド:Aβ(3−10)(7−14)(構築物番号1)、Aβ(3−10)(21−28)(構築物番号2)、Aβ(l−8)(21−28)(構築物番号5);ならびに図6Aに示す以下の多価分枝状MAP:Aβ(3−10)(7−14)(構築物番号8)、Aβ(l−8)(21−28)(構築物番号11)、Aβ(3−10)(21−28)(構築物番号12)を含む、OMPCに対してコンジュゲート化されたAβペプチドを使用した。
【0081】
Merckミョウバンアジュバント(MAA)+100μgのISCOMATRIX(登録商標)中で製剤化されたワクチンのそれぞれの5μgでアカゲザル(N=3)を4週間ごとに免疫化した。血清サンプルを各注射の4週間後に集め、ELISAによりAβ特異的抗体応答に関して測定した。モルモットでの研究からの結果に合致して、すべてのコンジュゲートがサルにおいて免疫原性であることが判明した。Aβ特異的抗体価は1回の注射に後に検出可能であり、後続の注射の後に更に増強された。試験したコンジュゲートに関しては概ね、第2または第3免疫化の後にピーク力価に達し、この場合、幾何平均力価は25,000〜500,000の範囲であった。これらの結果は、本明細書に記載のAβコンジュゲートがAβ特異的抗体応答を惹起しうるという知見を証明している。
【0082】
D.アカゲザルにおけるコンジュゲートワクチンの免疫原性に対するアジュバント効果
Aβペプチド−OMPCコンジュゲートおよびサポニン系アジュバント、例えばISCOMATRIX(登録商標)が免疫応答の改善をもたらしうるかどうかを判定するために、非ヒト霊長類(すなわち、アカゲザル)において追加的な研究を行った。モデル抗原として、OMPCに対してコンジュゲート化されたAβ(1−18)ペプチドを使用した。Merck Research LaboratoriesおよびNew Iberia Research Center(The University of Louisiana at Lafayette,New Iberia,LA)の、制度化された動物取扱いプロトコールに従い、アカゲザル(Macaca mulatta)を飼育した。
【0083】
1群3頭の5群のサルに以下のAβ(1−18)−OMPCコンジュゲートを投与した:(1)ミョウバン中の5μgのコンジュゲート(ペプチド含量に基づく)、(2)ミョウバン+100μgのISCOMATRIX(登録商標)中の5μgのコンジュゲート、(3)ミョウバン+50mgのISCOMATRIX(登録商標)中の5μgのコンジュゲート、(4)ミョウバン中の30μgのコンジュゲート、(2)ミョウバン+100μgのISCOMATRIX(登録商標)中の30μgのコンジュゲート。該免疫化は、第0、8および24週に、ツベルクリンシリンジ(Becton−Dickinson,Franklin Lakes,NJ)を使用して、0.5mlのアリコートでの筋肉内注射により行った。血清サンプルを第0週(前採血)から4週間隔で集め、ELISAによりAβ40に対する抗体価に関して試験した(前実施例に記載されているとおりに行った)。
【0084】
PD1において、ミョウバン中の5μgのコンジュゲートワクチンを投与したサルは、検出可能な力価を生成しないが、ミョウバン中の30μgのコンジュゲートワクチンを投与したサルは低いAβ40特異的力価を生成することを、この進行中の研究の暫定的分析は示した。ミョウバン+ISCOMATRIX(登録商標)製剤を投与した全てのサルは有意な抗体価を生成した。PD2において、ミョウバンの単体中のAβコンジュゲートの両方の用量は、類似した力価レベルを生成し、一方、ミョウバン+ISCOMATRIX(登録商標)を投与したコホートは、ミョウバン単体の条件より10倍高い抗体価を生成した。この研究の結果は、このAβペプチド−OMPCコンジュゲートが非ヒト霊長類において免疫原性であることを証明した。該データは更に、そのようなコンジュゲートワクチンの効力が、サポニン系アジュバント、例えばISCOMATRIX(登録商標)により、有意に増強されることを示している。
【実施例4】
【0085】
モルモットポリクローナル血清の免疫反応性
8−merKLHコンジュゲートでの免疫化の後で前記(実施例3.B)モルモットから産生された免疫血清がヒトADに関連していることを判定するために、Aβ(3−10)−KLH免疫原で免疫化されたモルモットからのポリクローナル血清の免疫反応性を評価するための研究を行った。この構築物の第2注射の4週間後、以下の方法に従い代表的なモルモットから血液を集めた。
【0086】
ヒトAD脳切片(BioChain Institute,Inc.,Hayward,CA)上でポリクローナル血清の反応性を評価した。ヒト脳切片は、60℃で30分間のインキュベーションおよびそれに続く室温で2回の5分間のキシレン洗浄により調製した。ついで切片を100% EtOHに2回(それぞれ5分間)浸漬し、ついでddH2Oに5分間浸漬した。切片を99% ギ酸に3分間浸漬し、ついでddH2O中で手短に洗浄し、リン酸緩衝溶液(PBS)に5分間浸漬した。ついで切片をペルオキシダーゼブロッカーと共に10分間インキュベートし、ついでPBSで5分間洗浄した。10% ヤギ血清に対する10分間の曝露およびそれに続くPBSでの5分間の洗浄により、切片をブロッキングした。ついで切片を希釈モルモット血清と共に4℃で一晩または室温で1時間インキュベートした。5分間のPBSでの洗浄の後、切片を希釈ビオチン化ヤギ抗モルモットIgGまたはビオチン化ウマ抗マウス抗体(5ml PBS中の1滴)と共に10分間インキュベートした。切片をPBS中で5分間洗浄し、ついでABC溶液(Vectorstain ABCキット;Vector Laboratories,Inc.)と共に30分間インキュベートした。切片をPBSで5分間洗浄した。ついで切片をDAD(DakoCytomation)で5分間染色し、ddH2Oで洗浄した。ついで切片をヘマトキシリンで30秒間対比染色し、段階的なEtOHおよびキシレン(70% EtOHで5分間、80% EtOHで5分間、100% EtOHで5分間およびキシレンで5分間)で脱水させた。ついで切片をカバーガラスで覆い、光学顕微鏡検査により評価した。
【0087】
Aβ(3−10)−KLHコンジュゲートにより生じた免疫原性応答はヒトAD脳組織に対する抗体応答をもたらした。図4に示すとおり、このヒト脳切片は、ヒトADに予想されるものに典型的な様態の広範なAβ沈着を有する。免疫前モルモット血清は、この組織に曝露された場合の免疫反応性の欠如を示しているが、Aβ(3−10)=−KLH構築物の2回の注射の後、この同じモルモットからの血清の陽性免疫反応性が認められる。これらのデータは、ELISAにより見出された及び図3に示された免疫原性が、このAD組織において見出されたヒトAβに対する有意な抗体応答を含むことを示している。したがって、これらの結果は、いくつかのAβ断片による示差的免疫原性の予想外の知見を拡張して、この応答が治療用途に合致した様態でもたらされることを示している。
【実施例5】
【0088】
T細胞エピトープを欠く免疫原性断片の特定
本発明において使用する、T細胞エピトープを欠く免疫原性断片を特定するために、特定の抗原に対するT細胞応答を評価するための方法として以下の酵素結合イムノスポット(ELISpot)アッセイを用いることが可能である。T細胞エピトープを有する免疫原断片は、白い膜の表面上の濃いスポットの存在により特定される。各スポットは、抗原(すなわち、免疫原性断片)に応答してインターフェロンガンマ(IFN−γ)を分泌しているT細胞の存在を示す。このアッセイはワクチンおよび免疫学の分野の当業者に良く知られており、例えば、Larssonら,AIDS 3:767−777,1999、およびMwauら,AIDS Research and Human Retroviruses 18:611−618,2002を参照されたい。最近の総説はA.E.Kalyuzhny,Methods Mol Biol.302:15−31,2005に見出されうる。
【0089】
ペプチドAβ1−40(American Peptide Co.,Sunnyvale,CA)(アミノ酸配列DAEFRHDSGYEVHHQKLVEFAEDVG SNKGAIIGLMVGGVV)(配列番号78)およびAβ1−20(Synpep,Dublin,CA)(アミノ酸配列DAEFRHDSG YEVHHQKLVFF)(配列番号79)に対する応答のためにアカゲザル(New Iberia Research Center,The University of Louisiana at Lafayette,New Iberia,LA)の末梢血単球(PBMC)を使用した。
【0090】
精製されたモノクローナルマウス抗サルIFN−γ(クローンMD−I,Cat No.CT 525,U−CyTech biosciences,Utrecht,The Netherlands)を、1% ペニシリンおよび硫酸ストレプトマイシン(GIBCO(登録商標)Penicillin−Streptomycin,Cat.No.15140−122,Invitrogen.Carlsbad,CA)を含有するリン酸緩衝食塩水(PBS)中で希釈し、ついで96ウェル HTS IP無菌プレート(Cat.No.MSIPS4W10,Millipore,Billerica,MA)に加え、4℃で12時間以上インキュベートした。プレートを洗浄し、R10[RPMI培地1640(GIBCO(登録商標)Cat.No.11875−093)、10% ウシ胎児血清(HyClone SH30070.03,Logan,UT)、0.1% 50mM 2−メルカプトエタノール(GIBCO(登録商標)Cat.No.21985−023)、1% 1M HEPESバッファー(GIBCO(登録商標)15630−080)、1% 200mM L−グルタミン(GIBCO(登録商標)Cat.No.25030−081)、1% 100mM MEMピルビン酸ナトリウム溶液(GIBCO(登録商標)Cat.No.11360−070)、1% ペニシリン−ストレプトマイシン溶液(GIBCO(登録商標)Cat.No.15140−122)]を加えた後、37℃で少なくとも2時間のインキュベーションを行った。PBMCを遠心分離し、R10に再懸濁させた。PBMCをZ2 Coulterカウンター(Beckman Coulter,Fullerton,CA)で計数した。吸引されたプレートの各ウェルに0.4μgのAβ 1−40、Aβ 1−20、PHA(フィトヘマグルチニン,Cat No.L−8902,Sigma,St.Louis,MO,陽性対照)または希釈DMSO(Sigma,陰性対照)を加え、ついで400000個のPBMCを各ウェルに加えた。プレートを湿潤CO2インキュベーター中、37℃で24時間インキュベートした。プレートを、5% FBSおよび0.005% Tweenを含有するPBS中で洗浄した。ビオチン結合抗サルIFNγポリクローナル抗体(U−CyTech biosciences,Utrecht,The Netherlands)を同じ培地中で希釈し、各プレートに加えた。ついでプレートを4℃で18〜24時間インキュベートした。ストレプトアビジン−AP(Cat.No.l3043E,BD PharMingen,Franklin Lakes,NJ)を同じ培地中で希釈し、洗浄されたプレートに加えた。プレートを室温で暗所にて2時間インキュベートした。濾過1−Step NBT/BCIP基質(Filtered 1−Step NBT/BCIP Substrate)(Pierce,Rockford,IL,Cat.No.34042)を加え、さらに、室温で暗所にて10分間のインキュベーションを行った。洗浄後、プレートを乾燥させ、ついでCCDカメラでイメージングし、各ウェル内のスポットをコンピューターにより自動的に計数した。
【0091】
陽性結果と判定されるためには、百万個のPBMC当たりのスポット形成細胞(SFC/106 PBMC)が55を超えていなければならず、陰性対照の4倍を超えていなければならず、これらの基準のいずれかが満たされていない場合には陰性結果と判定される、と本出願人は定めている。OMPCに対してコンジュゲート化されたAβ(3−10)/(21−28)(構築物番号12、図6A)を含むMAP構築物、またはOMPCに対してコンジュゲート化されたAβ(3−10)(配列番号69)およびAβ(21−28)(配列番号73)の2つの単量体構築物の両方で、アカゲザルにワクチン接種した。該ワクチン接種計画の実施中、1ヵ月間隔で3〜4ヶ月間、各アカゲザルをアッセイした。Aβ 1−40またはAβ 1−20に対するこれまでに記録された最高シグナルは僅か18 SFC/106 PBMCであり、55 SFC/106 PBMCの基準より有意に低い。したがって、すべては陰性評価となった。このことは、該ワクチンがT細胞応答を惹起せず、したがってT細胞エピトープを含まなかったという有力な証拠となる。
【実施例6】
【0092】
血漿Aβの上昇
5μgのMAP Aβ(3−10)/(21−28)コンジュゲート(構築物番号12、図6A)、またはその単量体成分コンジュゲートAβ(3−10)(配列番号69)およびAβ(21−28)(配列番号73)(担体としてのOMPCに連結されMAA+100μg ISCOMATRIX(登録商標)中で製剤化されたもの)で、アカゲザル非ヒト霊長類(N=3)を免疫化した。該サル霊長類に4週間ごとにワクチン接種を行い、各注射の4週間後に血液を集め分析した。抗Aβ40力価および全Aβ1−40レベルを測定した。
【0093】
6E10/G210 ELISAを用いて、これらの免疫化動物において血漿Aβ1−40レベルを測定した。このアッセイは、N末端捕捉抗体6E10(Aβ1−8)(Signet Laboratories,Dedham,MA)、およびアルカリホスファターゼに結合したC末端Aβ40 neo−エピトープ抗体(G210)(The Genetics Company,Inc.,Zurich,Switzerland)を含むサンドイッチELISAを用いて、Aβ1−40を測定する。抗体6E10を5μg/mlの濃度でプレート上にコートした。希釈血漿サンプル(1:3)を50μl/ウェルで三重に使用した。6E10免疫喪失アカゲザル血漿マトリックス(immuno−depleted rhesus plasma matrix)中、Aβ1−40標準を400pMから3pMまで調製した。このアッセイは約5〜20のシグナル対ノイズ比を有する。CDP−starアルカリホスファターゼ基質をApplied Biosystems,Foster City,CAから入手した。予め製剤化されたブロッキングバッファーであるSuperBlock(登録商標)をPierce Biotechnology,Rockford,IL(Cat#37515)から入手した。三重の実施から得た、個々のサンプルからの計数を、該標準に対する3次スプラインフィットを用いて実際のアナライト濃度に変換した。プレート間のシグナルのばらつきを評価するために、QCサンプルを使用した。
【0094】
図8Aに示すとおり、これらの分析の結果は、MAP Aβ(3−10)/(21−28)構築物(構築物番号12、図6A)で免疫化した後のPD3での血漿Aβ40における3倍を超える増加を示した。血漿Aβ40におけるこの増加は、単量体Aβコンジュゲート/OMPCワクチン構築物で免疫化された動物においては観察されなかった。特に、Aβ(3−10)(配列番号69)またはAβ(21−28)(配列番号73)のいずれかを使用した免疫化は、この測定において、応答の欠如、または明らかに低い応答を示した。図8Bに示すとおり、これらの相違が力価レベルに無関係であったことは注目に値するものであった。
【0095】
総合すると、これらのデータは、いくつかの構築物が、血漿Aβレベルを上昇させるそれらの能力に関して、他の免疫原性構築物と比較した場合の利点を有することを示している。免疫原性断片のこの選択性(すなわち、血漿Aβレベルを上昇させうること)は本発明の前には示されておらず、先行技術から予測できなかった、と当業者は理解するであろう。したがって、免疫化後に血漿Aβを上昇させる、T細胞エピトープを欠く免疫原(8−merまたはMAP)の特定は、ワクチン構築物において使用する8−merまたはMAPを選択するための方法を提供するものである。本発明の結果として、当業者は該ワクチン構築物を定量的(すなわち、免疫原性)および定性的(すなわち、ポリクローナル抗体応答の性質−血漿Aβレベルを上昇させる能力)の両方で特徴づけることが今や可能となった。さらに、本発明は8アミノ酸Aβ断片に限定されるものではなく、Aβに対して反応性である宿主生物におけるポリクローナル抗体応答を誘導しうる任意の抗原を含む、と当業者に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】図1は、Aβのエピトープを特定するために直鎖状ペプチドの走査(scan)を行うために選択した、Aβ(1−42)(配列番号(SEQ ID NO:)1)から誘導された8アミノ酸の合成ペプチド(8−mer)(配列番号2〜36)を示す。
【図2A】図2は、KLH(図2A)およびOMPC(図2B)に対するコンジュゲート化のために選択した8−merを示す。
【図2B】図2は、KLH(図2A)およびOMPC(図2B)に対するコンジュゲート化のために選択した8−merを示す。
【図3】図3は、第1(PD1)、第2(PD2)および第3(PD3)の投与後の、図2に記載の選択したAβコンジュゲートの免疫原性を示す。
【図4A】図4は、ヒトAD脳組織上の、Aβ(3−10)−KLHコンジュゲート(配列番号40)で予め免疫されたモルモットから抽出した血清の交差反応性を示す。図4Aは、抗Aβモノクローナル抗体6F3D(これはAβのアミノ酸8−17を認識する)の免疫反応性を示す。染色パターンはこのヒト脳における広範なアミロイド病変を示している。
【図4B】図4は、ヒトAD脳組織上の、Aβ(3−10)−KLHコンジュゲート(配列番号40)で予め免疫されたモルモットから抽出した血清の交差反応性を示す。図4Bは、免疫前の該免疫モルモットの免疫前血清に対する、この同じ脳の免疫反応性の欠如を示す。
【図4C】図4は、ヒトAD脳組織上の、Aβ(3−10)−KLHコンジュゲート(配列番号40)で予め免疫されたモルモットから抽出した血清の交差反応性を示す。図4Cは、免疫後の免疫モルモットの血清の免疫反応性を示す。
【図5】図5は、モルモットでの研究(実施例3)における別々の8−merの免疫原性に基づいて選択した、代表的な多価直鎖状8−merペプチドを示す。これらのコンジュゲートは、記載されているとおりに合成し、OMPCにコンジュゲート化した(実施例1.Jおよび1.K)。
【図6A】図6は、モルモットでの研究(実施例3)における別々の8−merの免疫原性に基づいて選択した、代表的な多価分枝状MAPコンジュゲートを示す。図6Aは代表的な2価MAPを示し、図6Bは代表的なブロモアセチル−システインMAPを示す。これらのコンジュゲートは、記載されているとおりに合成し、OMPCにコンジュゲート化した(実施例2)。
【図6B】図6は、モルモットでの研究(実施例3)における別々の8−merの免疫原性に基づいて選択した、代表的な多価分枝状MAPコンジュゲートを示す。図6Aは代表的な2価MAPを示し、図6Bは代表的なブロモアセチル−システインMAPを示す。これらのコンジュゲートは、記載されているとおりに合成し、OMPCにコンジュゲート化した(実施例2)。
【図7】図7は、アジュバントとしてのMerckミョウバンのみ又はMerckミョウバン+IMX(ISCOMATRIX(登録商標),CSL,Ltd.,Parkville,Australia)と共に製剤化されたOMPCに対してコンジュゲート化されたAβ(1−18)ペプチドの第1(PD1)または第2(PD2)の注射の後の、アカゲザルから集めた血清の抗Aβ40力価を示す。
【図8A】図8はAβコンジュゲートの投与の後の血漿Aβレベルの増加を示す。図8Aは、OMPCに対してコンジュゲート化されたAβ(3−10)/(21−28)(構築物番号12、図6A)を含むMAP構築物の投与の後の、単量体構築物Aβ(3−10)(配列番号69)およびAβ(21−28)(配列番号73)(□,構築物番号12、図6A;●,Aβ(3−10)(配列番号69)、▲,Aβ(21−28)(配列番号73)と比較した場合の、3倍を超える上昇を示す。
【図8B】図8はAβコンジュゲートの投与の後の血漿Aβレベルの増加を示す。図8Bは、血漿Aβレベルが力価レベルに無関係であることを示している(□,構築物番号12、図6A;●,Aβ(3−10)(配列番号69)、▲,Aβ(21−28)(配列番号73))。
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミロイド形成性疾患、特にアルツハイマー病の予防および治療のための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は進行的な記憶障害および認知低下により特徴づけられる。その特徴的な病変はアミロイド沈着(老人斑)、神経原線維変化および特定の脳領域におけるニューロン喪失である。アミロイド沈着は40〜43アミノ酸残基のアミロイドベータペプチド(Aβ)から構成され、これはアミロイド前駆体タンパク質(APP)のタンパク質分解産物である。神経原線維変化は高リン酸化タウタンパク質の細胞内線維状凝集物である(Selkoe,Science,275:630−631,1997)。
【0003】
ADの病因は完全には理解されていないが、多因性事象であると予想される。脳組織内のAβの蓄積および凝集は、アミロイドカスケード仮説としても公知のとおり(Golde,Brain Pathol.,15:84−87,1995)、疾患過程において中心的な役割を果たすと考えられている。この仮説によれば、Aβ、特にAβ42は、小さなオリゴマーから、大きな伸長した前線維(profibrile)構造体に至る、種々の形態の凝集物を形成する傾向にある。これらの凝集物は神経毒性であり、該疾患の初期段階における記憶喪失および認知低下に関連したシナプス病態を引き起こす(Kleinら,Neurobiol.Aging,25:569−580,2004)。最近の刊行物は、三重トランスジェニックマウスモデルにおけるAβの減少が細胞内タウ沈着をも妨げることを示唆している(Oddoら,Proc.Neuron,43:321−332,2004)。この知見は、細胞外アミロイド沈着が、ニューロン喪失を引き起こしうる後続の神経原線維のもつれ形成の原因となりうることを示唆している。
【0004】
Aβ抗原でのAPPトランスジェニックマウスの免疫化は脳Aβ沈着を減少させ、疾患の進行を軽減しうる。これはShenkら,Nature,400:173−177,1999により最初に報告され、現在では、種々のトランスジェニック動物モデル、種々の能動ワクチンおよびAβ特異的モノクローナル抗体での受動免疫を含む多数の研究により裏付けられている(Bardら,Nature Med,6:916−919,2000;Janusら,Nature,408:979−982,2000;Morganら,Nature,408:982−985,2000;DeMattosら,Proc.Natl.Acad.Sci.,98:8850−8855,2001;Bacskaiら,J.Neurosci.,22:7873−7878,2002;Wilcockら,J.Neurosci.,23:3745−3751,2003)。これらの動物データに合致して、凝集前(pre−aggregated)Aβ(1−42)免疫原(AN1792,Betabloc)での能動免疫を既に受けていた患者からの死後ヒト脳組織の、3つの公開されている評価は、老人斑の局所的消失を示した(Nicollら,Nature Med.,9:448−452,2003;Ferrerら,Brain Pathol..14:11−20,2004;Masliahら,Neurology,64:129−131,2005)。総合すると、このデータは、Aβ抗原に対する抗体応答を有効に惹起するワクチンが、ADにおいて見出される病的老人斑に対して有効であることを示している。しかし、ワクチンまたは抗体の効力のメカニズムは依然として明らかでない。
【0005】
公共の領域(公有財産)における、免疫療法に基づく最も進んだAD対策は、アジュバントQS−21(商標)(Antigenics,New York,NY)と共に投与される凝集前(pre−aggregated)Aβ(1−42)から構成されるワクチンであるAN1792(Betabloc)を使用する能動免疫第II相ワクチン治験であった。2002年1月に、4名の患者が、髄膜脳炎に合致した症状を示した際に、この研究は打ち切られた(Senior,Lancet Neurol.,1:3,2002)。最終的に、治療された298名中18名の患者が髄膜脳炎の徴候を現した(Orgogozoら,Neurology,61:46−54,2003)。脳炎と抗体価との間に相関性は存在しなかった。この作用の考えられうる原因メカニズムは自己免疫原、特に、Aβ42ペプチドの中央およびカルボキシ末端部分に対するT細胞の活性化であったと報告されている(Monsonegoら,J.Clin.Invest.,112:415−422,2003)。この結論を支持するものとして、脳炎を発症した2名のワクチン被投与者からの脳組織の死後検査は、一方の患者においてはCD4+T細胞の相当な髄膜浸潤を示し(Nicollら,Nature Med..9:448−452,2003)、もう一方の患者においてはCD4+、CD8+、CD3+、CD5+、CD7+T細胞を示した(Ferrerら,Brain Pathol.,14:11−20,2004)。
【0006】
現在の証拠は、受動または能動免疫後の血漿Aβレベルの増加が、後の脳Aβの減少の前兆としての末梢流出(peripheral sink)の開始を反映することを示唆している。末梢流出は、末梢への中枢Aβの正味の流出を引き起こす、脳および血漿Aβ貯蔵の平衡における変化を意味する(例えば、Deaneら,J.Neurosci.,25:11495−11503,2005;DeMattosら,Pro.Natl.Acad.Sci.USA.98:8931−8932,2001を参照されたい)。他の研究は、抗Aβ免疫療法後に観察された血漿Aβのこの増加が中枢Aβの後続の減少の実現に必要であることを示唆している(Cribbsら,7th International Conference on AD/PD,Sorrento,Italy,2005)。したがって、血漿Aβレベルの上昇をもたらす免疫応答を生成しうるいずれかの能動ワクチン免疫原が、アルツハイマー病および脳Aβレベルの上昇により特徴づけられる関連障害の治療に有用であると予想される。
【0007】
驚くべきことに、本出願人は、自己T細胞応答を回避するためにT細胞エピトープを除去する抗原が免疫原性であり血漿Aβレベルを上昇させることを見出した。これは、安全かつ有効なADワクチンを得る可能性を意味する。本出願人は、ADワクチンとして使用するためのそのような抗原および製剤を提供する。
【発明の開示】
【0008】
1つの実施形態において、本発明は、Aβに対する抗体の形態で免疫応答を誘導しうる、T細胞エピトープを欠く、Aβの免疫原性断片を含む医薬組成物を提供する。1つの態様においては、この組成物はAβの直鎖状の8アミノ酸のペプチド(8−mer)を含む。もう1つの態様においては、この組成物は、少なくとも1つのスペーサーが介在する多価直鎖状8−mer、または多価分枝状多抗原ペプチド(MAP)を含む。該医薬組成物はADおよび関連アミロイド疾患用のワクチンとして使用されうる。
【0009】
本発明のもう1つの実施形態においては、該医薬組成物は、血漿Aβレベルを上昇させるAβに対する抗体の形態で免疫応答を誘導しうる、T細胞エピトープを欠く、Aβの免疫原性断片を含むAβ血漿上昇性物質である。該医薬組成物は、AD、および脳Aβレベルの上昇により特徴づけられる関連アミロイド疾患用のワクチンとして使用されうる。
【0010】
本発明の更にもう1つの実施形態においては、該医薬組成物は、コンジュゲートを形成するよう担体分子に連結されており、ここで、該担体は、該Aβ断片に対する抗体を含む免疫応答を惹起するのを補助する。本発明の好ましい実施形態においては、該担体はナイセリア・メニンジティディス(Neisseria meningitides)の外膜タンパク質複合体(OMPS)である。
【0011】
本発明のもう1つの実施形態においては、該医薬組成物は、医薬上許容されるアジュバントと共に投与される。好ましい実施形態においては、該アジュバントはアルミニウムアジュバント(Merckミョウバンアジュバント,MAA)、またはサポニン系アジュバント(ISCOMATRIX(登録商標),CSL Ltd.,Parkville,Australia)である。
【0012】
さらにもう1つの実施形態においては、本発明は、患者の脳内のAβのアミロイド沈着に関連した疾患の予防または治療方法を提供する。そのような疾患には、アルツハイマー病、ダウン症候群、認知障害または他の形態の老人性痴呆が含まれる。該方法は、直鎖状の8アミノ酸のペプチド(8−mer)、少なくとも1つのスペーサーが介在する多価直鎖状ペプチド、および多価分枝状多抗原ペプチド(MAP)よりなる群から選ばれる、T細胞エピトープを欠く、Aβの免疫原性断片を投与することを含む。好ましい実施形態においては、該免疫原性断片は、ポリエチレングリコール(PEG)スペーサーを含有する多価直鎖状ペプチドを含む。より好ましい実施形態においては、該免疫原性断片は、OMPCに対してコンジュゲート化された多価分枝状MAP、Aβ(3−10)/(21−28)コンジュゲート、構築物番号12、図6Aを含む。
【0013】
そのような方法は、Aβに対する抗体の形態の免疫応答を誘導するT細胞エピトープを欠く、Aβの免疫原性断片の有効量を、治療を要する患者に投与することを含む。該抗体応答は血漿Aβレベルを上昇させうる。この実施形態のもう1つの態様においては、投与する免疫原性断片は担体分子に連結されている。この実施形態の更にもう1つの態様においては、該免疫原性断片をアジュバントと共に投与する。
【0014】
定義
「8−mer」なる語は、Aβの断片、天然Aβペプチドの類似体またはペプチド模倣体のに対応する8アミノ酸のペプチドを意味する。1以上の8−merを少なくとも1つのスペーサーと組合せて、多価直鎖状ペプチドを形成させ又は多価分枝状MAPを形成させることが可能である。
【0015】
「Aβ」コンジュゲートなる語は、担体、例えばキーホールリンペットヘモシアニンまたはナイセリア・メニンジティディス(Neisseria meningitidies)の外膜タンパク質複合体(OMPC)に化学的または生物学的に連結された、Aβの8−merまたは免疫原性断片を意味する。
【0016】
「Aβペプチド」なる語は、直鎖状8−mer、少なくとも1つのスペーサーを含有する多価直鎖状ペプチド、および多価分枝状多抗原性ペプチド(MAP)を含む(これらに限定されるものではない)、本明細書に記載のAβペプチドのいずれかを意味する。
【0017】
「エピトープ」なる語は、Bおよび/またはT細胞が応答する抗原上の部位を意味する。B細胞エピトープは、タンパク質の三次フォールディング(三次折り畳み)により配置された不連続的なアミノ酸または連続的なアミノ酸の両方から形成されうる。連続的なアミノ酸から形成されたエピトープは、典型的には、変性溶媒に対する露出に際しても維持されるが、三次フォールディングにより形成されたエピトープは、変性溶媒での処理に際して失われる。T細胞エピトープは、宿主MHC分子と複合体を形成しうるペプチドよりなる。ヒトMHCクラスI分子に対するT細胞エピトープはCD8+T細胞応答の誘導をもたらし、一般には、9〜11アミノ酸残基を含み、一方、ヒトMHCクラスII分子に対するエピトープはCD4+T細胞応答の誘導をもたらし、典型的には、12以上のアミノ酸残基を含む(Bjorkmanら,Nature 329:506−512,1987;Maddenら,Cell 75:693−708;BataliaおよびCollins;Engelhard Annu Rev Immunol.,12:181−207−622.1995;Madden,Annu Rev Immunol.,13:587−622.1995)。T細胞と違い、B細胞は僅か4アミノ酸長のペプチドを認識しうる。T細胞活性化を引き起こすためにT細胞受容体により認識されるのはT細胞エピトープ/MHC複合体である。
【0018】
本明細書中で用いる「Aβの免疫原性断片」または「T細胞応答を欠く、Aβの免疫原性断片」なる語は、Aβに対する抗体の形態の免疫応答を誘導しうるがその応答に自己抗原Aβに対するT細胞応答を含まない8−merまたはAβ断片を意味する。
【0019】
「免疫学的」または「免疫」または「免疫原性」応答なる語は、脊椎動物個体における抗原に対する体液性(抗体媒介性)および/または細胞性(抗原特異的T細胞またはその分泌産物により媒介される)応答を意味する。そのような応答は、免疫原の投与により誘導される能動応答、または抗体の投与により誘導される受動応答でありうる。
【0020】
「多価ペプチド」なる語は、2以上の抗原決定基を有するペプチドを意味する。
【0021】
「医薬組成物」なる語は、哺乳動物個体への投与に適した化学的または生物学的組成物を意味する。本明細書中で用いる場合、それは、アジュバントの存在下または非存在下で投与される本明細書に記載の8−mer、Aβの免疫原性断片およびAβコンジュゲートを含む組成物を意味する。
【0022】
発明の詳細な説明
既に記載されているとおり、前臨床研究は、抗Aβポリクローナル抗体応答をもたらす能動免疫が、アミロイド前駆体タンパク質を過剰発現するトランスジェニックマウスにおいて、ADに関連した病的症状および認知症状に対する有効性をもたらすことを示唆している(Bardら,Nature Med.,6:916−919,2000;Janusら,Nature,408:979−982,2000;Morganら,Nature,408:982−985,2000;DeMattosら,Proe.Natl.Acad.Sci.,98:8850−8855,2001;Bacskaiら,J.Neurosci.,22:7873−7878,2002;Wilcocら,J.Neurosci.,23:3745−3751,2003)。これらの前臨床研究は、能動免疫原としてAβ42の凝集形態を使用した単一の臨床試験により裏付けられている。この研究からの予備的証拠は、病理学的(Nicollら,Nature Med.,9:448−452,2003;Ferrerら,Brain Pathol.,14:11−20,2004;Masliahら,Neurology,64:129−131,2005)および認知的な改善(Gilmanら,Neurology,64(9):1553−1562,2005)が治療後に見られたことを示唆している。これらの治験は励みになるものであり、また、前臨床研究に合致しているが、該治療は安全でないことが判明し、治療患者の約6%に髄膜脳炎が現れた後に打ち切られた(Orgogozoら,Neurology,61:46−54,2003)。したがって、有害な安全性の問題を伴わずに有効な免疫応答をもたらしうる能動免疫法が必要とされている。
【0023】
この予備臨床試験における有害事象の性質の理解が進みつつある。現在、数名の研究者が、死後評価の際のCD4+およびCD8+陽性髄膜浸潤物の存在を報告しており(Nicollら,Nature Med.,9:448−452,2003;Ferrerら,Brain Pathol.,14:11−20,2004)、これは自己ペプチドAβ42に対するT細胞応答を示唆している。しかし、かなりの程度の抗体応答(B細胞媒介性)を維持しつつ自己T細胞応答を回避する必要性を当業者が認識しているものの、この性質を有する物質を得るための手段は公知でない。この難題は、予測のための動物モデル、またはこれらの活性に関する予測のための妥当性を有する他の前臨床アッセイが存在しないことにより、より一層深刻となる。
【0024】
この目的のために、本出願人は、本発明に使用するペプチドを設計するためにTおよびB細胞エピトープの種々の性質を用いた。直鎖状ペプチドのサイズを8アミノ酸に限定し、必要に応じて、いずれかの潜在的なC末端T細胞エピトープアンカー残基を除去することにより、ワクチン構築物を設計した。
【0025】
したがって、本発明の1つの態様は、ADワクチンとして使用するための、免疫原性であるがT細胞エピトープを欠くAβ断片の特定である。本出願前には、Aβペプチドのどのアミノ酸断片が、T細胞エピトープを欠くと同時に免疫原性応答を引き起こすのかが明らかには知られていなかった。この分野における従前の教示は、例えば、8−merが免疫原性応答をもたらすことを予測させるものではなく、また、Aβペプチドの別の領域からの断片の有用性を識別させるものではないと、当業者は理解するであろう。例えば、米国特許第6,808,712号および第6,787,144号を参照されたい。
【0026】
本明細書における本発明のもう1つの態様は、Aβに対する抗体の形態の免疫応答を誘導し血漿Aβレベルを上昇させる、T細胞エピトープを欠く、Aβの免疫原性断片を含むAβ血漿上昇性物質の特定を含む。そのような物質は、ADワクチンとして、および脳Aβレベルの上昇により特徴づけられる関連アミロイド疾患に対して使用されうる。本出願人の発明の前には、Aβのどの免疫原性断片が血漿Aβレベルの上昇をもたらすのかが公知でなく、かつ、予測可能でなかった。いずれの理論にも束縛されるものではないが、本明細書に記載のAβ血漿上昇性物質は、Aβ消失の末梢流出説によれば血漿Aβのレベルの上昇およびそれに続く脳Aβの減少をもたらす、Aβに対する抗体の形態の免疫応答を誘導するよう作用すると考えられている。さらに、個々の8−merまたはAβの免疫原性断片は、血漿Aβレベルを上昇させるよう免疫応答を誘導しうるが、本出願人は、OMPCに対してコンジュゲート化された多価分枝状MAPであるAβ(3−10)/(21−28)(構築物番号12、図6A)が、その構成単量体構築物であるAβ(3−10)(配列番号69)またはAβ(21−28)(配列番号73)の場合と比較して血漿Aβレベルの上昇において特に有効であることを見出した。
【0027】
アミロイド疾患
本発明は、アミロイド沈着の蓄積により特徴づけられる疾患の予防および治療のための組成物および方法を提供する。アミロイド沈着は、不溶性塊へと凝集したペプチドを含む。該ペプチドの性質は疾患によって様々であるが、ほとんどの場合、該凝集物はβプリーツシート構造を有し、コンゴ・レッド(Congo Red)色素で染色される。アミロイド沈着により特徴づけられる疾患には、早発性および遅発性の両方のアルツハイマー病(AD)が含まれる。どちらの疾患においても、アミロイド沈着は、罹患個体の脳内に蓄積する、アミロイドベータ(Aβ)と称されるペプチドを含む。したがって、「アミロイド疾患」なる語は、脳Aβレベルの上昇により特徴づけられる疾患をも意味する。
【0028】
治療用物質
本発明において使用する治療用物質はAβに対する抗体の形態の免疫応答を誘導する。免疫応答の誘導は、Aβに対して反応性の抗体またはT細胞を誘導するために免疫原を投与した場合のように能動的であることが可能であり、あるいはそれ自体が個体内のAβに結合する抗体を投与した場合のように受動的であることが可能である。
【0029】
ADのようなアミロイド疾患の予防または治療において使用する治療用物質には、Aβのペプチド断片が含まれ、これは、天然に存在する形態(すなわち、Aβ39、Aβ40、Aβ42、Aβ42またはAβ43)のいずれかでありうる。これらの配列は当技術分野において公知であり、例えば、Hardyら,TINS 20:155−158,1997を参照されたい。
【0030】
本明細書中で用いる治療用物質は、好ましい実施形態においては、Aβに対する抗体の形態の免疫応答を誘導しうる、T細胞エピトープを欠く免疫原性断片である。Aβの免疫原性断片は8−mer、少なくとも1つのPEGスペーサーを有する多価直鎖状Aβコンジュゲート、または多価分枝状MAP Aβコンジュゲートの形態でありうる。該治療用物質は医薬組成物の形態で投与されうる。もう1つの実施形態においては、該治療用物質は、個体における血漿Aβレベルを上昇させる、Aβに対する抗体の形態の免疫応答を誘導しうるAβ血漿上昇性物質である。そのような物質は、天然に存在するペプチド断片を含むことが可能であり、あるいは1以上の置換、付加または欠失を含むことが可能であり、合成アミノ酸または天然に存在しないアミノ酸を含みうる。断片および構築物は、本明細書中の実施例に記載のアッセイにおいて、予防および治療効力に関してスクリーニングされうる。
【0031】
好ましい実施形態においては、該治療用物質はAβのペプチド断片を含むが、そのような物質は、Aβに対する有意なアミノ酸配列類似性を必ずしも有さないが尚もAβの模倣体として作用し類似した免疫応答を誘導しうるペプチドおよび他の化合物をも含みうる。例えば、βプリーツシートを形成するペプチドおよびタンパク質を、本明細書に記載の本発明に対する適合性に関してスクリーニングすることが可能である。同様に、コンビナトリアル(組合せ)ライブラリーおよび他の化合物を、本発明に対する適合性に関してスクリーニングすることが可能である。
【0032】
そのような特定された治療用物質は、免疫原としてのその使用を促進する担体に化学的または生物学的に連結されうる。そのような担体には、血清アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、免疫グロブリン分子、オボアルブミン、破傷風毒素タンパク質、または他の病原性細菌、例えばジフテリア、大腸菌(E.coli)、コレラもしくはエイチ・ピロリ(H.pylori)に由来するトキソイド、または弱毒化毒素誘導体が含まれる。本発明の好ましい実施形態においては、該担体はナイセリア・メニンジティディス(Neisseria meningitides)の外膜タンパク質複合体(OMPS)である。
【0033】
本発明は、所望によりアジュバントと共に投与される、担体に連結されていてもよい8−merまたはAβの免疫原性断片を含む医薬組成物における、そのような治療用物質の使用をも含む。適当なアジュバントには、アルミニウム塩(ミョウバン)、脂質、例えば3 デ−O−アシル化モノホスホリルリピドA(MPL)、またはサポニン系アジュバントが含まれる。好ましい実施形態においては、該アジュバントはアルミニウムアジュバント(Merckミョウバンアジュバント,MAA)、またはサポニン系アジュバント(ISCOMATRIX(登録商標),CSL Ltd,Parkville,Australia)である。
【0034】
治療計画
ADまたは他のアミロイド疾患の予防または治療処置のための本発明の組成物の有効量は、投与手段、標的部位、患者の生理的状態、他の投薬、および処置が治療用(すなわち、疾患症状の発現後)であるか予防用(すなわち、疾患症状の発現を予防するためのもの)であるかを含む(これらに限定されるものではない)多数の要因に応じて様々なものとなろう。好ましい実施形態においては、患者はヒトであり、治療用物質を注射により投与する。
【0035】
使用する免疫原または治療用物質の量は、アジュバントを同時または連続的に投与するかどうかにも左右され、アジュバントの非存在下では、より高い用量を使用する。
【0036】
投与する免疫原または治療用物質の量は様々となるが、注射当たりペプチド0.5〜50μg(Aβペプチド含量に基づく)の範囲の量がヒトに対する使用に想定される。本明細書に記載のタイプの抗原を含む組成物の製剤化方法は当業者に公知であろう。
【0037】
投与計画は、初回免疫、およびそれに続く、一定の間隔を空けた追加(ブースター)注射よりなるであろう。初回免疫と追加免疫との間の間隔、追加注射間の間隔、および追加免疫の回数は、該ワクチンにより惹起される抗体価および持続時間に左右されるであろう。それは、抗体応答の機能的効力、すなわち、ADの発生を予防するのに必要な抗体価のレベル、あるいはAD患者において発揮される治療効果にも左右されるであろう。典型的な計画は1、2および6ヶ月の時点の初期の一連の注射よりなるであろう。もう1つの計画は1および2ヶ月の時点の初期の注射よりなるであろう。いずれの計画の場合も、抗体価および持続時間に応じて、追加注射を6ヶ月または1年ごとに行うことになろう。投与計画は、患者における免疫応答のモニターにより判断して必要に応じて実施することも可能である。
【0038】
ADワクチンエピトープの特定
免疫原性応答を得るためにはAβペプチドのどの8アミノ酸断片(「8−mer」)で十分なのかを決定するために、本出願人は、天然に存在するAβ配列(配列番号1)に由来する小さな(8アミノ酸)の重複合成ペプチド(図1(配列番号2〜37)に示すとおり)でAβ42の全長を系統的にスキャン(走査)した。Aβ42の全長に及ぶ29個の重複する8アミノ酸ペプチドを、抗原として使用するために合成した(図2A)。可溶性を改善するために、該ペプチドの幾つかを三重リシン(KKK)(配列番号52、53、54、56、59、60、62、64および65)もしくはグルタミン(EEE)(配列番号50、51および61)残基の付加またはポリエチレングリコール(PEG)(配列番号55および63)スペーサーの使用により修飾した。この理由により、残基(11−18)および(13−20)に対応するAβの配列に伸長するペプチドは、複数の形態のものとして製造した。その第1のものは6−アミノヘキサン酸(Aha)スペーサー+N末端における化学的架橋用の官能基を有し、その他のものはAhaおよびC末端における官能基を有する。対照として、より長いペプチドAβ(1−18)を含めた。
【0039】
本明細書に記載の免疫原性断片は、天然に存在する(すなわち、野生型)または合成されたAβ(配列番号1)あるいはその突然変異または変異に由来する8−merペプチド(8アミノ酸残基)でありうる。そのような突然変異または変異は、当業者に公知の合成または組換え手段により得られうる。そのような変異体の一例として、野生型Aβの1位および2位が変異している、Aβ(1−42)に対応するEV基質(EVEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVVIA)(配列番号66)が挙げられる。
【0040】
ワクチン製剤において使用するAβコンジュゲート
ワクチンの製剤化に使用するAβコンジュゲートの選択は8−merの免疫原性に基づくものであった。ヒトAβ配列と同一の配列を有する種における8−merの免疫原性を決定するために、29個のペプチド(図2A)をKLHにコンジュゲート化してAβコンジュゲートを形成させ、モルモットにおいて試験した(図3)。対照免疫原として、Aβ(1−18)−KLH(配列番号37)をこの分析に含めた。
【0041】
モルモットを、実施例3.Bに記載のとおり、ミョウバン+50μgのISCOMATRIX(登録商標)(CSL,Ltd.,Parkville,Australia)中に製剤化されたコンジュゲート化免疫原で免疫化した。非免疫原性Aβ42断片から免疫原性のものを区別するために、モルモットを3週間隔で3回免疫化した。各免疫化の3週間後、血液サンプルを集め、Aβ40ペプチドに対する抗体価に関してELISAにより試験した。これらの力価を、それぞれ第1投与後(PD1)、第2投与後(PD2)および第3投与後(PD3)として図3に示す。
【0042】
最初の注射後(PD1)、いくつかのペプチド領域が、18−mer対照と同様に、明らかな抗体価を惹起した。特に、Aβアミノ酸1−8、2−9、3−10、17−24、21−28および33−40に対応するAβコンジュゲートは全て、1:800を超える力価を示した。二回目の注射後(PD2)、該Aβコンジュゲートのうちの15個が、1:1000を超える抗体価を惹起した。第3投与後(PD3)の分析は更に、Aβの或る領域がその他のものより免疫原性であることを証明した。11個の領域が、1:6000より大きな力価を示した。これらには、Aβアミノ酸1−8、3−10、7−14、11−18、13−20、15−22、19−26、21−28、23−30、27−34および29−36に対応する領域が含まれた。これらの領域のうち、領域1−8、15−22、21−28、23−30および29−36を含む5個は高度に免疫原性(>1:10000)であった。Aβの或る8−アミノ酸領域は高度に免疫原性であり、一方、他の領域(例えば、5−12、25−32、31−38および35−42)は非免疫原性(力価<1:300)であることを、このデータは示唆している。また、該AβコンジュゲートはAβ40ペプチド特異的抗体応答を惹起することが可能であったが、Aβの全ての断片が同等に免疫原性であったわけではないことを、これらの結果は示している。
【0043】
Aβペプチド−KLHコンジュゲートの免疫反応性
Aβペプチド−KLHコンジュゲートでの免疫化の後にモルモットから得た免疫血清がヒトADに関連していることを示すために、Aβ(3−10)−KLH(配列番号40)コンジュゲートで免疫化したモルモットからのポリクローナル血清の免疫原性を評価するための研究を行った。Aβ(3−10)−KLH(配列番号40)コンジュゲートの第2注射の4週間後にモルモットから集めた血清サンプルを免疫組織化学法によりヒトAD脳組織に対する反応性に関して試験した(実施例4)。
【0044】
図4に示すとおり、Aβ(3−10)−KLH(配列番号40)コンジュゲートにより生じた免疫原性応答はヒトAD脳組織に対する抗体応答をもたらした。図4Aはモノクローナル抗Aβ抗体6F3D(Vector Laboratories)の免疫反応性を示す。示されているとおり、この脳は、ヒトADに典型的であると予想される様態の広範なAβ沈着を有する。図4Bは免疫前モルモットからの血清の免疫反応性の欠如を示す。図4Cは、Aβ(3−10)−KLH(配列番号40)コンジュゲートの2回の注射の後のこの同じモルモットからの血清の陽性免疫反応性を示す。総合すると、このデータは、ELISAにより見出された免疫原性が、このAD組織において見出されたヒトAβに対する有意な抗体応答を含むことを示している。これらの結果は、Aβの個々の断片により付与される示差的免疫原性の予想外の知見を証明し拡張して、この応答が治療用途に合致した様態でもたらされることを示している。
【0045】
OMPCコンジュゲートおよび多抗原コンジュゲートの作製
モルモットにおける免疫原性、Aβ42アミノ酸配列内のペプチド断片の相対位置、Aβ断片の溶解度、および担体タンパク質としてのOMPCの使用の実施可能性に基づき、OMPCコンジュゲート化のための幾つかの8−mer(図2B)を選択した。これらのペプチド断片はAβの以下のアミノ酸領域に対応した:1−8、2−9、3−10、7−14、17−24、21−28および33−40。
【0046】
本発明は、例えば図5、6Aおよび6Bに示されているような多価ペプチドコンジュゲートを含む。多価分枝状MAP−OMPCコンジュゲート(図6Aおよび6B)は、リシンに基づく骨格を使用することにより作製し、一方、多価直鎖状8−mer−OMPCコンジュゲート(図5)は、PEGリンカーを使用して調製した。PEGリンカーは、本発明において同様に使用されうる通常のアミノ酸リンカーと比較して、より低い免疫原性およびより大きなペプチド溶解度という利点をもたらす、と当業者は理解するであろう。本発明の好ましい実施形態においては、該免疫原性断片は、OMPCに対してコンジュゲート化された多価MAPである。そのようなコンジュゲート化はペプチド:担体の1:1の比ではない、と当業者により理解されるはずである。むしろ、複数のペプチドが球状に各OMPC分子に結合する。さらに、多価直鎖状構築物およびMAPの使用は溶解度、製剤安定性、免疫原性およびポリクローナル応答の多様性を増大させる、と当業者により理解されるであろう。
【0047】
OMPCコンジュゲートワクチンの免疫原性
Aβペプチド−OMPCコンジュゲートの免疫原性を評価するために、およびこのワクチン構築物に伴うアジュバントの利益を更に評価するために、アカゲザルにおける研究を開始した。アカゲザルを、Merckミョウバンアジュバント(MAA)またはMAAおよびISCOMATRIX(登録商標)(CSL,Ltd.,Parkville,Australia)のいずれかにおいて製剤化されたAβ(1−18)−OMPCコンジュゲート(Aβペプチド含量に基づく用量)でワクチン接種した。血液サンプルを集め、これを使用してAβ40に対する抗体価を決定した。第1投与後(PD1)、ミョウバン中の5μgのワクチンを投与したサルは、検出可能な力価を生成しないが、ミョウバン中の30μgのワクチンを投与したサルは低いAβ40特異的力価を生成することを、この進行中の研究の暫定的分析は示した。ミョウバン+ISCOMATRIX(登録商標)製剤を投与した全てのサルは有意な抗体価を生成した。第2投与後(PD2)、ミョウバンの単体中のAβコンジュゲートの両方の用量は、類似した力価レベルを生成し、一方、ミョウバン+ISCOMATRIX(登録商標)を投与したコホートは、ミョウバン単体のコホートより10倍高い抗体価を生成した。この研究の結果は、Aβ−OMPCコンジュゲートが非ヒト霊長類において免疫原性であることを証明した。該データは更に、そのようなコンジュゲートワクチンの効力が、サポニン系アジュバント、例えばISCOMATRIX(登録商標)により、有意に増強されることを示した。
【0048】
実施例
【実施例1】
【0049】
Aβコンジュゲートの製造
この実施例は、Aβに対する抗体の形態の免疫応答を誘導するためのAβコンジュゲートのために後に使用するAβペプチド断片の製造を記載する。
【0050】
A.Aβ(8−mer)ペプチド(配列番号37〜65;図2A)の製造
マレイミド誘導体化担体タンパク質に対するコンジュゲート化を意図した、カルボキシ末端にシステイン残基を有するペプチドを合成した。コンジュゲート化中の担体タンパク質への立体的接近可能性を最小にするための構造要素として、一次ペプチド配列とカルボキシ末端システインとの間にスペーサーAha(6−アミノヘキサン酸)を組込んだ。また、EEE、KKKまたはPEGにより表される可溶化残基を配列14、15、16、17、18、19、20、23、24、25、26、27、28、29内のC末端に導入した。O−(N−Fmoc−2−アミノエチル)−O’−(2−カルボキシエチル)−ウンデカエチレングリコール[Fmoc−NHCH2CH2O(CH2CH2O)10CH2CH2OCH2CH2CO2H]としてPEG単位を導入した。
【0051】
Rink Amide MBHA樹脂から出発して、製造業者(Applied Biosystems,Foster City,CA)から提供されたFmoc化学法を用いて、自動ペプチド合成装置で固相合成によりAβペプチドを製造した。合体後、樹脂に結合したペプチドを脱保護し、樹脂から切断した(94.5% トリフルオロ酢酸、2.5% 1,2−エタンジチオール、1% トリイソプロピルシランおよび2.5% H2Oの混合物を使用して行った)。2時間の処理の後、該反応物を濾過し、濃縮し、得られた油をエチルエーテルでトリチュレーションした。該固体生成物を濾過し、50% 酢酸/H2Oに溶解させ、凍結乾燥させた。該半純粋生成物の精製を、C−18支持体上で0.1% TFA/H2O/アセトニトリル勾配を用いるRPHPLCにより行った。画分を分析用HPLCにより評価した。純粋な画分(>98%)をプールし、凍結乾燥させた。アミノ酸分析および質量分析により同一性が証明された。
【0052】
B.Aβペプチド−KLHコンジュゲート(配列番号37−65;図2A)の製造
KLHコンジュゲートを製造するために、C末端システインを含有するAβペプチド(8−mer)2mgを1mlの市販のマレイミドコンジュゲート化バッファー(83mM リン酸ナトリウム、0.1M EDTA、0.9M NaCl、0.02% アジ化ナトリウム、pH7.2(Pierce Biotechnology,Rockford,IL)に懸濁させた。市販のマレイミド活性化KLH(Pierce Biotechnology,Rockford,IL)のサンプル2mgを該ペプチドに加え、25℃で4時間反応させた。100,000Da透析管を使用するPBSバッファーに対する徹底的な透析により、該コンジュゲートを未反応ペプチドおよび試薬から分離した。該コンジュゲート内に取り込まれたペプチドの量を、70時間の酸加水分解の後のアミノ酸分析により評価した。ペプチド濃度は0.24〜0.03mg/mlであると決定された。
【0053】
C.ブロモアセチル化Aβペプチド(配列番号67−77;図2B)の合成
Applied Biosystemsモデル430A自動合成装置上でアミノ酸を導入するために二重カップリング法を用いる標準的なt−Boc固相合成により、ブロモアセチル化ペプチドを製造した。p−メチルベンズヒドリルアミン樹脂から出発して、カルボキシ末端アミノ酸t−Boc−Lys(Fmoc)−OHを導入し、ついで該配列内のアミノ酸を導入した。これらの配列の全てにスペーサーとしてAhaを導入し、配列35および37においては、水性可溶化を補助するためにPEG単位を導入した。O−(N−Boc−2−アミノエチル)−O’−(N−ジグリコリル−2−アミノエチル)ヘキサエチレングリコール[Boc−NHCH2CH2O(CH2CH2O)6CH2CH2NHCOCH2OCH2CO2H]としてPEG単位を導入した。該アミノ末端を酢酸のカップリングによりキャップ化した。一次配列の合体後、カルボキシ末端リシンのイプシロンアミノ基上のFmoc保護基をピペリジンでの処理により除去した。ついでNεアミノ基を溶媒としての塩化メチレン中のブロモ酢酸無水物と30分間反応させた。脱保護、および樹脂からの該ペプチドの取り出しを、液体フッ化水素酸および捕捉剤としての10% アニソールでの処理により行った。0.1% TFA/アセトニトリル勾配を用いる逆相C−18シリカカラム上の分取HPLCにより該ペプチドを精製した。分析用HPLCおよび質量分析により該ペプチドの同一性および均一性が証明された。
【0054】
D.ブロモアセチル化二価MAP(構築物番号8、図6A)の合成
ブロモアセチル化分枝状多抗原ペプチド(MAP)の合成は、実施例1.Cに記載されているものと同様である。MBHA樹脂へのカルボキシ末端Fmoc−Lys(ivDde)−OH[ivDde=1,(4,4−ジメチル−2,6−ジオキソ−シクロヘキシリデン)−3−メチル−ブチル]のカップリングの後、ピペリジンを使用してα−アミノFmoc保護基を除去し、t−Boc−Lys(Fmoc)−OHの導入を行いながら合成を継続した。t−Boc基の脱保護の後、該配列を以下のt−Boc保護アミノ酸:Aha、Y、G、S、D、H、R、F、Eで伸長させ、ABI合成装置上で酢酸をカップリングさせることによりアミノ末端をキャップ化した。側鎖リシンFmoc保護基をピペリジンで除去し、リシンのNεアームをABI合成装置上で以下の保護アミノ酸:Aha、H、H、V、E、Y、G、S、Dの導入により伸長させ、酢酸をカップリングすることによりアミノ末端をキャップ化した。ジメチルホルムアミド中の5% ヒドラジンでの5分間の処理によりivDde保護基の除去を行って、カルボキシ末端リシン上に非遮蔽Nεアミノ基を得、これをブロモ酢酸無水物で更に修飾した(実施例1.Cに記載されているとおり)。樹脂からの該ペプチドの切断、その後続の精製および特徴づけは、実施例1.Cに記載されているとおりである。
【0055】
E.ブロモアセチル化MAP(構築物番号11および12、図6A)の合成
MAP構築物番号11および12を、実施例1.Dに記載されているとおりに製造した。
【0056】
F.システイン多価MAP(構築物番号9、図6A)の合成
MBHA樹脂から出発して、以下のt−Boc保護アミノ酸:C、Lys(Fmoc)、Aha、Y、G、S、D、H、R、F、EをABI自動合成装置上で合体させ、ついで酢酸とのカップリングを行った。リシンのNεアミノFmoc保護基を除去し、以下のt−Boc保護アミノ酸:Aha、H、H、V、E、Y、G、S、Dを導入しながら合成を継続し、ついで酢酸とのカップリングを行った。実施例1.Cと同様にして、樹脂に結合したペプチドを単離し、精製し、特徴づけした。(注):実施例1.Cにおける10% アニソールの代わりに、p−クレゾール:p−チオクレゾールの1:1混合物をHF切断中の捕捉剤として使用した。
【0057】
G.システイン二価MAP(構築物番号10、13および14、図6A)の合成
二価MAP(構築物番号10、13および14、図6A)を、実施例6.Fに記載されているとおりに製造した。O−(N−Boc−2−アミノエチル)−O’−(N−ジグリコリル−2−アミノエチル)ヘキサエチレングリコール(t−Boc−NHCH2CH2O(CH2CH2O)6CH2CH2NHCOCH2OCH2CO2H)としてPEG単位を導入した。
【0058】
H.ブロモアセチル化多価MAP(構築物番号16、図6B)の合成
ABI自動合成装置を使用して、Fmoc−Lys(t−Boc)−OHをMBHA樹脂にカップリングさせた。リシンのNεアミノ基上のt−BOC保護基の除去の後、該配列を以下のt−BOC保護アミノ酸:Aha、Y、G、S、D、H、R、F、Eの導入により伸長させ、ついで酢酸のカップリングを行った。リシン上のNα Fmoc保護基をピペリジンでの手動処理により除去した。該配列をFmoc−Lys(t−Boc)−OHおよび以下のt−Boc保護アミノ酸:Aha、H、H、V、E、Y、G、S、Dの導入により(ABI合成装置上で)更に修飾し、ついで酢酸のカップリングを行った。リシンFmoc Nαアミノ保護基を、既に記載されているとおりに除去し、Fmoc−Lys(t−Boc)−OHの導入およびそれに続く以下のt−BOC保護アミノ酸:Aha、K、N、S、G、V、D、E、Aの導入を行いながら合成を継続し、ついで酢酸カップリングを行った。リシン上のNα Fmoc保護基を除去し、Fmoc−Lys(t−Boc)−OHの導入およびそれに続く以下のt−BOC保護アミノ酸:Aha、V、V、G、G、V、M、L、Gの導入を行いながら合成を継続し、ついで酢酸カップリングを行った。リシンのNαFmoc保護基の除去の後、樹脂に結合したペプチドを実施例1.Cの場合と同様にしてブロモ酢酸無水物と反応させた。最終生成物の単離および特徴づけは実施例1.Cの場合と同様であった。
【0059】
I.多価MAP(構築物番号15および17、図6B)の合成
MAP Aβコンジュゲート(構築物番号15および17、図6B)の合成は、実施例1.Fおよび1.Hに記載されているとおりである。
【0060】
J.ブロモアセチル化多価直鎖状ペプチド(構築物番号1、図5)の合成
MBHA樹脂から出発して、実施例6.Aに記載されているとおりにABI自動合成装置上でt−BOC化学法を用いて一次配列を合成した。カップリング試薬としてBOP試薬を使用して、Fmoc−l−アミノ−4,7,10−トリオキサ 13−トリデカンアミンコハク酸[Fmoc−NHCH2CH2CH2O(CH2CH2O)2CH2CH2CH2NHCOCH2CH2CO2H]として介在PEG単位を手動で導入した。Fmoc基の脱保護に、ピペリジンを使用した。アミノ末端のブロモアセチル化は、実施例1.Cに記載されているとおりであった。所望の生成物の単離および特徴づけは実施例1.Cの場合と同様であった。
【0061】
K.多価直鎖状Aβペプチド(構築物番号2、5、6および7、図5)の合成
多価直鎖状Aβペプチド(構築物番号2、5、6および7、図5)の合成は、実施例1.Jに記載されているとおりである。
【実施例2】
【0062】
OMPCへのAβペプチドの化学コンジュゲート化
この実施例は、ナイセリア・メニンジティディス(Neisseria meningitidies)B型の精製外膜タンパク質複合体(OMPC)への、ヒトAβ42に由来するペプチドの化学コンジュゲート化を示す。該カップリングの化学的本質は、ハロアセチル誘導体化ペプチドと該膜複合体のチオール誘導体化タンパク質との反応である。前記のとおりに、二価直鎖状エピトープペプチドの場合にはN末端上にブロモアセチル官能基を有する、あるいは一価直鎖状および分枝状MAP形態の場合にはC末端上に又はリシン残基のイプシロンアミノ基を介して結合したブロモアセチル官能基を有する、アミロイドペプチドを合成した。該BrAc基は、6−アミノヘキサン酸(Aha)からなるスペーサーにより成熟ペプチドから分離されていた。前記配列を参照されたい。代表的なペプチドであるAβ(3−10)に関して、コンジュゲート化を説明する。OMPC含有溶液の全ての操作は、標準的な無菌技術に従う層流環境中で行った。
【0063】
A.OMPCのチオール化
例えばPedvaxHIB(登録商標)および肺炎球菌コンジュゲートワクチンの製造に用いられるFu,米国特許第5,494,808号に記載されているような方法により入手可能な精製無菌OMPCを、試薬N−アセチルホモシステインチオラクトン(NAHT,Aldrich,St.Louis,MO)を使用して、その表面の接近可能なリシン残基の一部においてチオール化した。水中のOMPC(117mg)を289,000×g、4℃で60分間の遠心分離によりペレット化し、上清を捨てた。窒素分散(スパージ)活性化バッファー(0.11M ホウ酸ナトリウム,pH11)を該遠心管に加え、該ペレットをガラス攪拌棒で取り除いた。上清をガラスDounceホモジナイザーに移し、30ストローク(行程)で再懸濁させた。該遠心管を洗浄し、洗液を30ストロークでドゥーンス(dounce)処理した。再懸濁化ペレットおよび洗液を、10mg/mLのOMPC濃度となるよう、清潔な容器内で一緒にした。固体DTTおよびEDTAを窒素分散活性化バッファーに溶解させ、0.106mg DTT/mg OMPCおよび0.57mg EDTA/mg OMPCの比で反応溶液に充填した。穏やかに混合した後、NATHを窒素分散水に溶解させ、0.89mg NAHT/mg OMPCの比で反応に仕込んだ。遮光条件下の窒素フード内で、室温で3時間、反応を進行させた。完了時に、OMPCを前記のとおりにペレット化し、窒素分散コンジュゲート化バッファー(25mM ホウ酸ナトリウム,pH8.5、0.15M NaCl)中、Dounce均一化により6mg/mLで再懸濁させて、ペレットを洗浄した。最終再懸濁のために、OMPCを前記のとおりにペレット化し、窒素分散コンジュゲート化バッファー中、Dounce均一化により10mg/mLで再懸濁させた。アリコートを取り出して、エルマン(Ellman)アッセイによる遊離チオール測定に付し、該バルク生成物を、使用するまで、暗所の氷上で保存した。測定されたチオール含量は0.2〜0.3μmol/mLであった。
【0064】
B.OMPCへのAβペプチドのコンジュゲート化
ペプチドに対する機能性BrAc含量はモル比で1:1であると推定された。十分なペプチドを秤量して全チオールに対して1.6モル過剰のbrAcを得た。各コンジュゲート化において標的化される全OMPCタンパク質は15mgであった。ペプチドを窒素分散コンジュゲート化バッファーに2.6mg/mLで再懸濁させ、チオール化OMPC溶液にゆっくりと加えた。該反応を遮光し、室温で約22時間インキュベートした。残留遊離OMPCチオール基を5倍モル過剰のN−エチルマレイミドで室温で18時間クエンチした。該コンジュゲート化法の全体にわたり、平行して、チオール化OMPCのみの対照を使用した。クエンチが完了したら、コンジュゲートおよび対照を100,000Da分子量のカットオフの透析ユニットに移し、少なくとも5回交換するコンジュゲート化バッファーに対して徹底的に透析した。透析が完了したら、サンプルを15mlのポリプロピレン遠心管に移し、2,280×g、4℃で5分間遠心分離して凝集物を除去した。アリコートを分析用に取り出し、該バルクを4℃で保存した。
【0065】
C.Aβペプチド−OMPCコンジュゲートの分析
ローリー(Lowry)アッセイの変法により全タンパク質を測定し、コンジュゲートおよび対照のサンプルを定量的アミノ酸分析(AAA)により分析した。OMPCに対するペプチドのモル比を、新生ペプチド−OMPC結合の酸加水分解に際して遊離される特有の残基であるS−カルボキシメチルホモシステインの定量から決定した。該ペプチド配列には存在しないためOMPCタンパク質に特有のものである加水分解安定残基から、OMPC比濃度を決定した。SCMHCの1モル当たりにペプチドが1モルだとすると、SCMHC/OMPCの比はペプチド/OMPC含量と等価となった。ペプチド分子量および平均OMPC質量(40,000,000Da)を用いて、この比からペプチドの質量ローディングを計算することが可能であろう。
【0066】
コンジュゲート化の共有結合性を、4〜20% Tris−グリシンゲル(Invitrogen,Carlsbad,CA)を使用するSDS−PAGE分析により定量的に確認した。この場合、クーマシー染色コンジュゲートのバンドにおいて、対照と比較して移動度における上方へのシフトが認められた。
【0067】
すべてのコンジュゲート化BrAcペプチドに関する算出モルローディング比(mol ペプチド/mol OMPC)は以下のとおりであった。
【0068】
【表1】
【実施例3】
【0069】
Aβコンジュゲートの免疫原性
この実施例は、Aβに対する抗体の形態の免疫応答を誘導しうるAβコンジュゲートの製剤化および投与を記載する。
【0070】
A.ワクチンコンジュゲートの製剤化
Aβペプチド−KLHコンジュゲートワクチンをISCOMATRIX(登録商標)(CSL Ltd.,Parkville,Australia)中で製剤化した。すべてのAβペプチド−OMPCコンジュゲートワクチンを、ミョウバン中、第2のアジュバント、例えば、サポニン系アジュバントであるISCOMATRIX(登録商標)(CSL Ltd.,Parkville,Australia)の存在下または非存在下で製剤化した。サンプルの操作の全ては無菌条件下で行った。
【0071】
ミョウバン製剤の場合、コンジュゲートを1倍の食塩水で、定められたペプチド濃度に希釈し、無菌食塩水(150mM 無菌塩化ナトリウム溶液)中で調製された900μg/mL Merckミョウバンに相当する2倍のミョウバン(Merck,Product No.39943)と混合する。したがって、該ワクチン中の目標濃度は450μg/mL Merckミョウバンまたは1倍Merckミョウバンである。動物研究のための目標ペプチド(抗原)濃度は以下のとおりであった:マウスの場合−12.1μg/L(用量0.1mL);サルの場合−10μg/mLまたは60μg/mL(用量0.5mL);およびモルモットの場合−12.5μg/mL(用量0.4mL)。該混合物を室温で2時間インキュベートする。注射用量を得るために、ミョウバン吸収コンジュゲートを1倍のミョウバンで希釈して目標ペプチド濃度にする。第2のアジュバント、すなわち、ISCOMATRIX(登録商標)が必要な場合には、目標濃度は、マウス研究では10μg/mL、サル研究では0、100または200μ/mL、そしてモルモット研究では125μg/mLであった。
【0072】
1.ISCOMATRIX(登録商標)の調製
カセット膜(Slide−A−Lyzer(登録商標)Dialysis Cassett,10K MWCO,Pierce,Rockford,IL)を使用して、ISCOMATRIX(登録商標)を2〜8℃で無菌食塩水溶液中に透析する。透析中に無菌食塩水溶液を2〜3回、交換する。透析の完了後、シリンジフィルター(0.22μM Millex−GVシリンジフィルター,Millipore,Billerica,MA)を使用してISCOMATRIX(登録商標)を濾過滅菌する。無菌の透析されたISCOMATRIX(登録商標)の濃度をRP−HPLCにより測定する。ISCOMATRIX(登録商標)を、使用するまで、無菌条件中、2〜8℃で保存する。
【0073】
2.Aβペプチド−OMPCコンジュゲートおよびMerckミョウバン製剤
Aβペプチド−OMPCコンジュゲートストックを無菌の1×食塩水溶液中に希釈する。ついで、希釈されたADペプチド−OMPCコンジュゲートストックを1×無菌食塩水溶液中の2×Merckミョウバンに加え、回転盤上で室温で1時間混合する。該混合物をベンチ上で室温で15分間静置沈降させ、ついで1500rpmで10分間遠心分離する。上清を穏やかに捨て(ミョウバンに結合したAβペプチド−OMPCコンジュゲートの比率を決定するために上清のUV分析を行う)、ペレットを無菌1×食塩水に再懸濁させる。該混合物を無菌の3mLのチューブガラスバイアル中にアリコート化し、ついで、ISCOMATRIX(登録商標)での最終的な製剤化まで2〜8℃で保存する。
【0074】
3.Aβペプチド−OMPC/ミョウバンおよびISCOMATRIX(登録商標)ワクチンの製剤化
ISCOMATRIX(登録商標)での最終製剤化の前に、結合を確認し粒子安定性をモニターするために、食塩水中のAβペプチド−OMPC/ミョウバンの粒径を静的(static)光散乱により測定する。1×食塩水中の無菌の透析されたISCOMATRIX(登録商標)を、ボルテックスしながら、無菌の150mM NaCl中のAβペプチド−OMPC/ミョウバンに加える。バイアルに栓をし、キャップをし、クリンプして完全に密封する。ワクチンを、注射に使用するまで2〜8℃で保存する。注射前に、各ワクチンを3〜5分間ボルテックスする。
【0075】
B.モルモットにおけるコンジュゲートワクチンの免疫原性
6〜10週齢の雌モルモットをHarlan Inc.,Indianapolis,IAから入手し、制度化された指針に従いMerck research Laboratoriesの動物施設内で飼育した。すべての動物実験はMerck Research Laboratories Institutional Animal Care and Use Committee(IACUC)により承認された。抗原をリン酸緩衝食塩水中で調製し、示されたアジュバント中で製剤化した。
【0076】
図2Aに示すAβペプチド−KLHコンジュゲートで、2匹/群の動物を、40μgのISCOMATRIX(登録商標)の存在下、400μlのコンジュゲートワクチン(ペプチド含量で8μgまたは全コンジュゲートで50μg)で筋肉内に免疫化した。該免疫化は4週間隔で3回行った。血清サンプルを、初回免疫化前(前採血)および各免疫化の3週間後に集め、抗体価の測定まで4℃で保存した。標的抗原としてAβ40を使用するプロトコールに従うELISAにより抗体価を測定した。
【0077】
ELISAに基づく分析は以下のとおりである。96ウェルプレートを50mM 炭酸水素塩バッファー(pH9.6)中の4μg/mlの濃度の50μl/ウェルのAβで4℃で一晩コートした。プレートをリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、0.05% Tween−20含有するPBS中の3% 脱脂乳(乳−PBST)でブロッキングした。試験サンプルをPBST中の4倍系列で希釈した。100μlの希釈サンプルを各ウェルに加え、該プレートを24℃で2時間インキュベートし、ついでPBSTで6回洗浄した。乳−PBST中の1:5000希釈の50μlのHRP−コンジュゲート化二次抗体をウェルごとに加え、該プレートを24℃で1時間インキュベートした。該プレートを3回洗浄し、100mM クエン酸ナトリウム(pH4.5)中の1mg/ml o−フェニレンジアミン二塩酸塩100μlをウェルごとに加えた。24℃で30分間のインキュベーションの後、ウェルごとに100μlの1N H2SO4を加えることにより該反応を停止させ、ELISAプレートリーダーを使用して該プレートを490nmで読み取った。抗体価は、コンジュゲート対照ウェルの平均+2標準偏差を超えるOD490nm値を与える最高希釈度の逆数と定義した。
【0078】
図3に示すこの分析の結果は、第1注射後(PD1)、いくつかのペプチド領域が、18−mer対照と同様に、明らかな抗体価を惹起することを示した。特に、Aβアミノ酸1−8、2−9、3−10、17−24、21−28および33−40に対応するAβペプチド断片は全て、1:800を超える力価を示した。第2注射後(PD2)、該8−merコンジュゲートのうちの15個が、1:1000を超える抗体価を惹起した。第3投与後(PD3)の分析は更に、Aβペプチドの或る領域がその他のものより免疫原性であることを証明した。11個の領域が、1:6000より大きな力価を示した。これらには、Aβアミノ酸1−8、3−10、7−14、11−18、13−20、15−22、19−26、21−28、23−30、27−34および29−36に対応する領域が含まれた。これらの領域のうち、領域1−8、15−22、21−28、23−30および29−36を含む5領域は高度に免疫原性(>1:10000)であった。これらの結果は、8−merコンジュゲートがAβ40特異的抗体応答を惹起しうることを示している。意外にも、かつ、従前の教示に反して、Aβの全ての断片が同等に免疫原性であったわけではなかった。実際、ある8−merは高度に免疫原性であり、一方、Aβの他の領域(例えば、5−12、25−32、31−38および35−42)は非免疫原性(力価<1:300)であることを、これらのデータは示唆している。
【0079】
C.アカゲザルにおけるコンジュゲートワクチンの免疫原性
Aβペプチド−OMPCコンジュゲートならびにミョウバンおよびISCOMATRIX(登録商標)アジュバントが免疫応答を与えるかどうかを判定するために、モルモットで行った研究と比較されうる非ヒト霊長類(すなわち、アカゲザル)における研究を行った。Merck Research LaboratoriesおよびNew Iberia Research Center(The University of Louisiana at Lafayette,New Iberia,LA)の、制度化された動物取扱いプロトコールに従い、アカゲザル(Macaca mulatta)を飼育した。
【0080】
モデル抗原として、図2Bに示す以下の8−mer:Aβ(1−8)(配列番号67)、Aβ(3−10)(配列番号69)、Aβ(7−14)(配列番号70)、Aβ(17−24)(配列番号72)、Aβ(21−28)(配列番号73)およびAβ(33−40)(配列番号74);図5に示す以下の二価直鎖状ペプチド:Aβ(3−10)(7−14)(構築物番号1)、Aβ(3−10)(21−28)(構築物番号2)、Aβ(l−8)(21−28)(構築物番号5);ならびに図6Aに示す以下の多価分枝状MAP:Aβ(3−10)(7−14)(構築物番号8)、Aβ(l−8)(21−28)(構築物番号11)、Aβ(3−10)(21−28)(構築物番号12)を含む、OMPCに対してコンジュゲート化されたAβペプチドを使用した。
【0081】
Merckミョウバンアジュバント(MAA)+100μgのISCOMATRIX(登録商標)中で製剤化されたワクチンのそれぞれの5μgでアカゲザル(N=3)を4週間ごとに免疫化した。血清サンプルを各注射の4週間後に集め、ELISAによりAβ特異的抗体応答に関して測定した。モルモットでの研究からの結果に合致して、すべてのコンジュゲートがサルにおいて免疫原性であることが判明した。Aβ特異的抗体価は1回の注射に後に検出可能であり、後続の注射の後に更に増強された。試験したコンジュゲートに関しては概ね、第2または第3免疫化の後にピーク力価に達し、この場合、幾何平均力価は25,000〜500,000の範囲であった。これらの結果は、本明細書に記載のAβコンジュゲートがAβ特異的抗体応答を惹起しうるという知見を証明している。
【0082】
D.アカゲザルにおけるコンジュゲートワクチンの免疫原性に対するアジュバント効果
Aβペプチド−OMPCコンジュゲートおよびサポニン系アジュバント、例えばISCOMATRIX(登録商標)が免疫応答の改善をもたらしうるかどうかを判定するために、非ヒト霊長類(すなわち、アカゲザル)において追加的な研究を行った。モデル抗原として、OMPCに対してコンジュゲート化されたAβ(1−18)ペプチドを使用した。Merck Research LaboratoriesおよびNew Iberia Research Center(The University of Louisiana at Lafayette,New Iberia,LA)の、制度化された動物取扱いプロトコールに従い、アカゲザル(Macaca mulatta)を飼育した。
【0083】
1群3頭の5群のサルに以下のAβ(1−18)−OMPCコンジュゲートを投与した:(1)ミョウバン中の5μgのコンジュゲート(ペプチド含量に基づく)、(2)ミョウバン+100μgのISCOMATRIX(登録商標)中の5μgのコンジュゲート、(3)ミョウバン+50mgのISCOMATRIX(登録商標)中の5μgのコンジュゲート、(4)ミョウバン中の30μgのコンジュゲート、(2)ミョウバン+100μgのISCOMATRIX(登録商標)中の30μgのコンジュゲート。該免疫化は、第0、8および24週に、ツベルクリンシリンジ(Becton−Dickinson,Franklin Lakes,NJ)を使用して、0.5mlのアリコートでの筋肉内注射により行った。血清サンプルを第0週(前採血)から4週間隔で集め、ELISAによりAβ40に対する抗体価に関して試験した(前実施例に記載されているとおりに行った)。
【0084】
PD1において、ミョウバン中の5μgのコンジュゲートワクチンを投与したサルは、検出可能な力価を生成しないが、ミョウバン中の30μgのコンジュゲートワクチンを投与したサルは低いAβ40特異的力価を生成することを、この進行中の研究の暫定的分析は示した。ミョウバン+ISCOMATRIX(登録商標)製剤を投与した全てのサルは有意な抗体価を生成した。PD2において、ミョウバンの単体中のAβコンジュゲートの両方の用量は、類似した力価レベルを生成し、一方、ミョウバン+ISCOMATRIX(登録商標)を投与したコホートは、ミョウバン単体の条件より10倍高い抗体価を生成した。この研究の結果は、このAβペプチド−OMPCコンジュゲートが非ヒト霊長類において免疫原性であることを証明した。該データは更に、そのようなコンジュゲートワクチンの効力が、サポニン系アジュバント、例えばISCOMATRIX(登録商標)により、有意に増強されることを示している。
【実施例4】
【0085】
モルモットポリクローナル血清の免疫反応性
8−merKLHコンジュゲートでの免疫化の後で前記(実施例3.B)モルモットから産生された免疫血清がヒトADに関連していることを判定するために、Aβ(3−10)−KLH免疫原で免疫化されたモルモットからのポリクローナル血清の免疫反応性を評価するための研究を行った。この構築物の第2注射の4週間後、以下の方法に従い代表的なモルモットから血液を集めた。
【0086】
ヒトAD脳切片(BioChain Institute,Inc.,Hayward,CA)上でポリクローナル血清の反応性を評価した。ヒト脳切片は、60℃で30分間のインキュベーションおよびそれに続く室温で2回の5分間のキシレン洗浄により調製した。ついで切片を100% EtOHに2回(それぞれ5分間)浸漬し、ついでddH2Oに5分間浸漬した。切片を99% ギ酸に3分間浸漬し、ついでddH2O中で手短に洗浄し、リン酸緩衝溶液(PBS)に5分間浸漬した。ついで切片をペルオキシダーゼブロッカーと共に10分間インキュベートし、ついでPBSで5分間洗浄した。10% ヤギ血清に対する10分間の曝露およびそれに続くPBSでの5分間の洗浄により、切片をブロッキングした。ついで切片を希釈モルモット血清と共に4℃で一晩または室温で1時間インキュベートした。5分間のPBSでの洗浄の後、切片を希釈ビオチン化ヤギ抗モルモットIgGまたはビオチン化ウマ抗マウス抗体(5ml PBS中の1滴)と共に10分間インキュベートした。切片をPBS中で5分間洗浄し、ついでABC溶液(Vectorstain ABCキット;Vector Laboratories,Inc.)と共に30分間インキュベートした。切片をPBSで5分間洗浄した。ついで切片をDAD(DakoCytomation)で5分間染色し、ddH2Oで洗浄した。ついで切片をヘマトキシリンで30秒間対比染色し、段階的なEtOHおよびキシレン(70% EtOHで5分間、80% EtOHで5分間、100% EtOHで5分間およびキシレンで5分間)で脱水させた。ついで切片をカバーガラスで覆い、光学顕微鏡検査により評価した。
【0087】
Aβ(3−10)−KLHコンジュゲートにより生じた免疫原性応答はヒトAD脳組織に対する抗体応答をもたらした。図4に示すとおり、このヒト脳切片は、ヒトADに予想されるものに典型的な様態の広範なAβ沈着を有する。免疫前モルモット血清は、この組織に曝露された場合の免疫反応性の欠如を示しているが、Aβ(3−10)=−KLH構築物の2回の注射の後、この同じモルモットからの血清の陽性免疫反応性が認められる。これらのデータは、ELISAにより見出された及び図3に示された免疫原性が、このAD組織において見出されたヒトAβに対する有意な抗体応答を含むことを示している。したがって、これらの結果は、いくつかのAβ断片による示差的免疫原性の予想外の知見を拡張して、この応答が治療用途に合致した様態でもたらされることを示している。
【実施例5】
【0088】
T細胞エピトープを欠く免疫原性断片の特定
本発明において使用する、T細胞エピトープを欠く免疫原性断片を特定するために、特定の抗原に対するT細胞応答を評価するための方法として以下の酵素結合イムノスポット(ELISpot)アッセイを用いることが可能である。T細胞エピトープを有する免疫原断片は、白い膜の表面上の濃いスポットの存在により特定される。各スポットは、抗原(すなわち、免疫原性断片)に応答してインターフェロンガンマ(IFN−γ)を分泌しているT細胞の存在を示す。このアッセイはワクチンおよび免疫学の分野の当業者に良く知られており、例えば、Larssonら,AIDS 3:767−777,1999、およびMwauら,AIDS Research and Human Retroviruses 18:611−618,2002を参照されたい。最近の総説はA.E.Kalyuzhny,Methods Mol Biol.302:15−31,2005に見出されうる。
【0089】
ペプチドAβ1−40(American Peptide Co.,Sunnyvale,CA)(アミノ酸配列DAEFRHDSGYEVHHQKLVEFAEDVG SNKGAIIGLMVGGVV)(配列番号78)およびAβ1−20(Synpep,Dublin,CA)(アミノ酸配列DAEFRHDSG YEVHHQKLVFF)(配列番号79)に対する応答のためにアカゲザル(New Iberia Research Center,The University of Louisiana at Lafayette,New Iberia,LA)の末梢血単球(PBMC)を使用した。
【0090】
精製されたモノクローナルマウス抗サルIFN−γ(クローンMD−I,Cat No.CT 525,U−CyTech biosciences,Utrecht,The Netherlands)を、1% ペニシリンおよび硫酸ストレプトマイシン(GIBCO(登録商標)Penicillin−Streptomycin,Cat.No.15140−122,Invitrogen.Carlsbad,CA)を含有するリン酸緩衝食塩水(PBS)中で希釈し、ついで96ウェル HTS IP無菌プレート(Cat.No.MSIPS4W10,Millipore,Billerica,MA)に加え、4℃で12時間以上インキュベートした。プレートを洗浄し、R10[RPMI培地1640(GIBCO(登録商標)Cat.No.11875−093)、10% ウシ胎児血清(HyClone SH30070.03,Logan,UT)、0.1% 50mM 2−メルカプトエタノール(GIBCO(登録商標)Cat.No.21985−023)、1% 1M HEPESバッファー(GIBCO(登録商標)15630−080)、1% 200mM L−グルタミン(GIBCO(登録商標)Cat.No.25030−081)、1% 100mM MEMピルビン酸ナトリウム溶液(GIBCO(登録商標)Cat.No.11360−070)、1% ペニシリン−ストレプトマイシン溶液(GIBCO(登録商標)Cat.No.15140−122)]を加えた後、37℃で少なくとも2時間のインキュベーションを行った。PBMCを遠心分離し、R10に再懸濁させた。PBMCをZ2 Coulterカウンター(Beckman Coulter,Fullerton,CA)で計数した。吸引されたプレートの各ウェルに0.4μgのAβ 1−40、Aβ 1−20、PHA(フィトヘマグルチニン,Cat No.L−8902,Sigma,St.Louis,MO,陽性対照)または希釈DMSO(Sigma,陰性対照)を加え、ついで400000個のPBMCを各ウェルに加えた。プレートを湿潤CO2インキュベーター中、37℃で24時間インキュベートした。プレートを、5% FBSおよび0.005% Tweenを含有するPBS中で洗浄した。ビオチン結合抗サルIFNγポリクローナル抗体(U−CyTech biosciences,Utrecht,The Netherlands)を同じ培地中で希釈し、各プレートに加えた。ついでプレートを4℃で18〜24時間インキュベートした。ストレプトアビジン−AP(Cat.No.l3043E,BD PharMingen,Franklin Lakes,NJ)を同じ培地中で希釈し、洗浄されたプレートに加えた。プレートを室温で暗所にて2時間インキュベートした。濾過1−Step NBT/BCIP基質(Filtered 1−Step NBT/BCIP Substrate)(Pierce,Rockford,IL,Cat.No.34042)を加え、さらに、室温で暗所にて10分間のインキュベーションを行った。洗浄後、プレートを乾燥させ、ついでCCDカメラでイメージングし、各ウェル内のスポットをコンピューターにより自動的に計数した。
【0091】
陽性結果と判定されるためには、百万個のPBMC当たりのスポット形成細胞(SFC/106 PBMC)が55を超えていなければならず、陰性対照の4倍を超えていなければならず、これらの基準のいずれかが満たされていない場合には陰性結果と判定される、と本出願人は定めている。OMPCに対してコンジュゲート化されたAβ(3−10)/(21−28)(構築物番号12、図6A)を含むMAP構築物、またはOMPCに対してコンジュゲート化されたAβ(3−10)(配列番号69)およびAβ(21−28)(配列番号73)の2つの単量体構築物の両方で、アカゲザルにワクチン接種した。該ワクチン接種計画の実施中、1ヵ月間隔で3〜4ヶ月間、各アカゲザルをアッセイした。Aβ 1−40またはAβ 1−20に対するこれまでに記録された最高シグナルは僅か18 SFC/106 PBMCであり、55 SFC/106 PBMCの基準より有意に低い。したがって、すべては陰性評価となった。このことは、該ワクチンがT細胞応答を惹起せず、したがってT細胞エピトープを含まなかったという有力な証拠となる。
【実施例6】
【0092】
血漿Aβの上昇
5μgのMAP Aβ(3−10)/(21−28)コンジュゲート(構築物番号12、図6A)、またはその単量体成分コンジュゲートAβ(3−10)(配列番号69)およびAβ(21−28)(配列番号73)(担体としてのOMPCに連結されMAA+100μg ISCOMATRIX(登録商標)中で製剤化されたもの)で、アカゲザル非ヒト霊長類(N=3)を免疫化した。該サル霊長類に4週間ごとにワクチン接種を行い、各注射の4週間後に血液を集め分析した。抗Aβ40力価および全Aβ1−40レベルを測定した。
【0093】
6E10/G210 ELISAを用いて、これらの免疫化動物において血漿Aβ1−40レベルを測定した。このアッセイは、N末端捕捉抗体6E10(Aβ1−8)(Signet Laboratories,Dedham,MA)、およびアルカリホスファターゼに結合したC末端Aβ40 neo−エピトープ抗体(G210)(The Genetics Company,Inc.,Zurich,Switzerland)を含むサンドイッチELISAを用いて、Aβ1−40を測定する。抗体6E10を5μg/mlの濃度でプレート上にコートした。希釈血漿サンプル(1:3)を50μl/ウェルで三重に使用した。6E10免疫喪失アカゲザル血漿マトリックス(immuno−depleted rhesus plasma matrix)中、Aβ1−40標準を400pMから3pMまで調製した。このアッセイは約5〜20のシグナル対ノイズ比を有する。CDP−starアルカリホスファターゼ基質をApplied Biosystems,Foster City,CAから入手した。予め製剤化されたブロッキングバッファーであるSuperBlock(登録商標)をPierce Biotechnology,Rockford,IL(Cat#37515)から入手した。三重の実施から得た、個々のサンプルからの計数を、該標準に対する3次スプラインフィットを用いて実際のアナライト濃度に変換した。プレート間のシグナルのばらつきを評価するために、QCサンプルを使用した。
【0094】
図8Aに示すとおり、これらの分析の結果は、MAP Aβ(3−10)/(21−28)構築物(構築物番号12、図6A)で免疫化した後のPD3での血漿Aβ40における3倍を超える増加を示した。血漿Aβ40におけるこの増加は、単量体Aβコンジュゲート/OMPCワクチン構築物で免疫化された動物においては観察されなかった。特に、Aβ(3−10)(配列番号69)またはAβ(21−28)(配列番号73)のいずれかを使用した免疫化は、この測定において、応答の欠如、または明らかに低い応答を示した。図8Bに示すとおり、これらの相違が力価レベルに無関係であったことは注目に値するものであった。
【0095】
総合すると、これらのデータは、いくつかの構築物が、血漿Aβレベルを上昇させるそれらの能力に関して、他の免疫原性構築物と比較した場合の利点を有することを示している。免疫原性断片のこの選択性(すなわち、血漿Aβレベルを上昇させうること)は本発明の前には示されておらず、先行技術から予測できなかった、と当業者は理解するであろう。したがって、免疫化後に血漿Aβを上昇させる、T細胞エピトープを欠く免疫原(8−merまたはMAP)の特定は、ワクチン構築物において使用する8−merまたはMAPを選択するための方法を提供するものである。本発明の結果として、当業者は該ワクチン構築物を定量的(すなわち、免疫原性)および定性的(すなわち、ポリクローナル抗体応答の性質−血漿Aβレベルを上昇させる能力)の両方で特徴づけることが今や可能となった。さらに、本発明は8アミノ酸Aβ断片に限定されるものではなく、Aβに対して反応性である宿主生物におけるポリクローナル抗体応答を誘導しうる任意の抗原を含む、と当業者に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】図1は、Aβのエピトープを特定するために直鎖状ペプチドの走査(scan)を行うために選択した、Aβ(1−42)(配列番号(SEQ ID NO:)1)から誘導された8アミノ酸の合成ペプチド(8−mer)(配列番号2〜36)を示す。
【図2A】図2は、KLH(図2A)およびOMPC(図2B)に対するコンジュゲート化のために選択した8−merを示す。
【図2B】図2は、KLH(図2A)およびOMPC(図2B)に対するコンジュゲート化のために選択した8−merを示す。
【図3】図3は、第1(PD1)、第2(PD2)および第3(PD3)の投与後の、図2に記載の選択したAβコンジュゲートの免疫原性を示す。
【図4A】図4は、ヒトAD脳組織上の、Aβ(3−10)−KLHコンジュゲート(配列番号40)で予め免疫されたモルモットから抽出した血清の交差反応性を示す。図4Aは、抗Aβモノクローナル抗体6F3D(これはAβのアミノ酸8−17を認識する)の免疫反応性を示す。染色パターンはこのヒト脳における広範なアミロイド病変を示している。
【図4B】図4は、ヒトAD脳組織上の、Aβ(3−10)−KLHコンジュゲート(配列番号40)で予め免疫されたモルモットから抽出した血清の交差反応性を示す。図4Bは、免疫前の該免疫モルモットの免疫前血清に対する、この同じ脳の免疫反応性の欠如を示す。
【図4C】図4は、ヒトAD脳組織上の、Aβ(3−10)−KLHコンジュゲート(配列番号40)で予め免疫されたモルモットから抽出した血清の交差反応性を示す。図4Cは、免疫後の免疫モルモットの血清の免疫反応性を示す。
【図5】図5は、モルモットでの研究(実施例3)における別々の8−merの免疫原性に基づいて選択した、代表的な多価直鎖状8−merペプチドを示す。これらのコンジュゲートは、記載されているとおりに合成し、OMPCにコンジュゲート化した(実施例1.Jおよび1.K)。
【図6A】図6は、モルモットでの研究(実施例3)における別々の8−merの免疫原性に基づいて選択した、代表的な多価分枝状MAPコンジュゲートを示す。図6Aは代表的な2価MAPを示し、図6Bは代表的なブロモアセチル−システインMAPを示す。これらのコンジュゲートは、記載されているとおりに合成し、OMPCにコンジュゲート化した(実施例2)。
【図6B】図6は、モルモットでの研究(実施例3)における別々の8−merの免疫原性に基づいて選択した、代表的な多価分枝状MAPコンジュゲートを示す。図6Aは代表的な2価MAPを示し、図6Bは代表的なブロモアセチル−システインMAPを示す。これらのコンジュゲートは、記載されているとおりに合成し、OMPCにコンジュゲート化した(実施例2)。
【図7】図7は、アジュバントとしてのMerckミョウバンのみ又はMerckミョウバン+IMX(ISCOMATRIX(登録商標),CSL,Ltd.,Parkville,Australia)と共に製剤化されたOMPCに対してコンジュゲート化されたAβ(1−18)ペプチドの第1(PD1)または第2(PD2)の注射の後の、アカゲザルから集めた血清の抗Aβ40力価を示す。
【図8A】図8はAβコンジュゲートの投与の後の血漿Aβレベルの増加を示す。図8Aは、OMPCに対してコンジュゲート化されたAβ(3−10)/(21−28)(構築物番号12、図6A)を含むMAP構築物の投与の後の、単量体構築物Aβ(3−10)(配列番号69)およびAβ(21−28)(配列番号73)(□,構築物番号12、図6A;●,Aβ(3−10)(配列番号69)、▲,Aβ(21−28)(配列番号73)と比較した場合の、3倍を超える上昇を示す。
【図8B】図8はAβコンジュゲートの投与の後の血漿Aβレベルの増加を示す。図8Bは、血漿Aβレベルが力価レベルに無関係であることを示している(□,構築物番号12、図6A;●,Aβ(3−10)(配列番号69)、▲,Aβ(21−28)(配列番号73))。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Aβの免疫原性断片を含む医薬組成物であり、該Aβ断片に対する抗体の形態の免疫応答を誘導しうる、T細胞エピトープを欠く、医薬組成物。
【請求項2】
血漿Aβレベルを上昇させうる、請求項1記載の免疫原性断片。
【請求項3】
該免疫原性断片が、Aβの直鎖状8アミノ酸ペプチド(8−mer)、少なくとも1つのスペーサーが介在している多価直鎖状ペプチド、および多価分枝状多抗原ペプチド(MAP)よりなる群から選ばれる、請求項2の組成物。
【請求項4】
コンジュゲートを形成するよう組成物に連結された担体分子を更に含み、担体が、Aβ断片に対する抗体を含む免疫応答を促進する、請求項3記載の医薬組成物。
【請求項5】
担体分子が、血清アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン、免疫グロブリン分子およびナイセリア・メニンジティディス(Neisseria meningitidies)外膜タンパク質複合体(OMPC)よりなる群から選ばれる、請求項4記載の医薬組成物。
【請求項6】
担体分子がOMPCである、請求項5記載の医薬組成物。
【請求項7】
医薬上許容されるアジュバントを更に含む、請求項4記載の医薬組成物。
【請求項8】
医薬上許容されるアジュバントが、水酸化アルミニウム、およびサポニン系アジュバントよりなる群から選ばれる、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項9】
医薬上許容されるアジュバントが、サポニン系アジュバントである、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項10】
患者の脳内のAβのアミロイド沈着に関連した疾患の予防または治療方法であり、Aβ断片に対する抗体の形態の免疫応答を誘導しうる、T細胞エピトープを欠く、Aβの免疫原性断片の有効量を投与することを含む、方法。
【請求項11】
免疫原性断片が血漿Aβレベルを上昇させうる、請求項10の方法。
【請求項12】
免疫原性断片が、Aβの直鎖状8アミノ酸ペプチド(8−mer)、少なくとも1つのスペーサーが介在している多価直鎖状ペプチド、および多価分枝状多抗原ペプチド(MAP)よりなる群から選ばれる、請求項11の方法。
【請求項13】
免疫原性断片が、コンジュゲートを形成するよう担体分子に連結されており、該担体が、Aβ断片に対する抗体を含む免疫応答を促進する、請求項12の方法。
【請求項14】
該担体分子が、血清アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン、免疫グロブリン分子およびナイセリア・メニンジティディス(Neisseria meningitidies)外膜タンパク質複合体(OMPC)よりなる群から選ばれる、請求項13の方法。
【請求項15】
担体分子がOMPCである、請求項14の方法。
【請求項16】
コンジュゲートを、医薬上許容されるアジュバントと共に投与する、請求項13の方法。
【請求項17】
医薬上許容されるアジュバントが、水酸化アルミニウム、およびサポニン系アジュバントよりなる群から選ばれる、請求項14の方法。
【請求項18】
医薬上許容されるアジュバントが、サポニン系アジュバントである、請求項179の方法。
【請求項1】
Aβの免疫原性断片を含む医薬組成物であり、該Aβ断片に対する抗体の形態の免疫応答を誘導しうる、T細胞エピトープを欠く、医薬組成物。
【請求項2】
血漿Aβレベルを上昇させうる、請求項1記載の免疫原性断片。
【請求項3】
該免疫原性断片が、Aβの直鎖状8アミノ酸ペプチド(8−mer)、少なくとも1つのスペーサーが介在している多価直鎖状ペプチド、および多価分枝状多抗原ペプチド(MAP)よりなる群から選ばれる、請求項2の組成物。
【請求項4】
コンジュゲートを形成するよう組成物に連結された担体分子を更に含み、担体が、Aβ断片に対する抗体を含む免疫応答を促進する、請求項3記載の医薬組成物。
【請求項5】
担体分子が、血清アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン、免疫グロブリン分子およびナイセリア・メニンジティディス(Neisseria meningitidies)外膜タンパク質複合体(OMPC)よりなる群から選ばれる、請求項4記載の医薬組成物。
【請求項6】
担体分子がOMPCである、請求項5記載の医薬組成物。
【請求項7】
医薬上許容されるアジュバントを更に含む、請求項4記載の医薬組成物。
【請求項8】
医薬上許容されるアジュバントが、水酸化アルミニウム、およびサポニン系アジュバントよりなる群から選ばれる、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項9】
医薬上許容されるアジュバントが、サポニン系アジュバントである、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項10】
患者の脳内のAβのアミロイド沈着に関連した疾患の予防または治療方法であり、Aβ断片に対する抗体の形態の免疫応答を誘導しうる、T細胞エピトープを欠く、Aβの免疫原性断片の有効量を投与することを含む、方法。
【請求項11】
免疫原性断片が血漿Aβレベルを上昇させうる、請求項10の方法。
【請求項12】
免疫原性断片が、Aβの直鎖状8アミノ酸ペプチド(8−mer)、少なくとも1つのスペーサーが介在している多価直鎖状ペプチド、および多価分枝状多抗原ペプチド(MAP)よりなる群から選ばれる、請求項11の方法。
【請求項13】
免疫原性断片が、コンジュゲートを形成するよう担体分子に連結されており、該担体が、Aβ断片に対する抗体を含む免疫応答を促進する、請求項12の方法。
【請求項14】
該担体分子が、血清アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン、免疫グロブリン分子およびナイセリア・メニンジティディス(Neisseria meningitidies)外膜タンパク質複合体(OMPC)よりなる群から選ばれる、請求項13の方法。
【請求項15】
担体分子がOMPCである、請求項14の方法。
【請求項16】
コンジュゲートを、医薬上許容されるアジュバントと共に投与する、請求項13の方法。
【請求項17】
医薬上許容されるアジュバントが、水酸化アルミニウム、およびサポニン系アジュバントよりなる群から選ばれる、請求項14の方法。
【請求項18】
医薬上許容されるアジュバントが、サポニン系アジュバントである、請求項179の方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【公表番号】特表2008−540417(P2008−540417A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−510087(P2008−510087)
【出願日】平成18年5月1日(2006.5.1)
【国際出願番号】PCT/US2006/016481
【国際公開番号】WO2006/121656
【国際公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(390023526)メルク エンド カムパニー インコーポレーテッド (924)
【氏名又は名称原語表記】MERCK & COMPANY INCOPORATED
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月1日(2006.5.1)
【国際出願番号】PCT/US2006/016481
【国際公開番号】WO2006/121656
【国際公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(390023526)メルク エンド カムパニー インコーポレーテッド (924)
【氏名又は名称原語表記】MERCK & COMPANY INCOPORATED
【Fターム(参考)】
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