説明

ペプチド凝集体

【課題】集合して凝集体を作る単一の単量体集合ペプチドと比較して、複数の常磁性金属中心部を持つことができ、増加した大きさ、増加した溶解度、およびより高いMR緩和度を示し、分子内のペプチド部分がインビボで酵素分解されて検査を受ける患者から迅速に除去されることが可能である、ペプチド凝集体を提供すること。
【解決手段】2つ以上の集合ペプチドを含むペプチド凝集体であって、該集合ペプチドのうちの少なくとも1つが金属結合部分を含む、ペプチド凝集体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願のデータ)
本願は、2002年8月6日に出願された米国仮出願番号60/401,617に対して優先権を主張する。
【0002】
(技術分野)
本発明は、磁気共鳴画像法に有用な集合ペプチドおよびペプチド凝集体に関する。
【背景技術】
【0003】
(背景)
低量の(例えば、1×10−6M〜1×10−9M)生物学的標的の磁気共鳴(MR)画像法は、使用する画像化剤のシグナル発生能によって制限を受ける。低量の生物学的標的を画像化する一方法には、多数の常磁性部分を含む高分子結合体(例えばデンドリマー、合成ポリマー、タンパク質、および多糖類の結合体)を用いることが含まれる。このような高分子結合体は合成することが困難であり得、そして血漿区域へのみ分散し得、血漿区域では、長い血漿内半減期、長い排泄半減期、および不完全な排泄を示し得る。
【0004】
低量の生物学的標的を画像化する別の方法には、ミセル並びにリポソームを介して多数の常磁性部分と結合させることが含まれる。しかしながらミセル及びリポソームは結合した常磁性部分を自由水から隔離し、診断への利用が制限される。さらに、常磁性部分に結合するのに必要な、ミセル並びにリポソームの物質は一般的な親油性および高い質量比率は、検査を受ける個体に毒性問題を生じ得る。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
(要旨)
本発明は磁気共鳴画像法に有用なペプチド凝集体並びに集合ペプチドを特徴とする。本発明に従うペプチド凝集体には単一の(単量体の)集合ペプチドが含まれる。集合ペプチドは共有結合によって1つ以上の金属結合部分を含むことができる。金属結合部分と結合する集合ペプチドを含むペプチド凝集体は金属ペプチド(メタロペプチド)凝集体と呼ばれることがあり、これはMR造影剤として有用である。金属ペプチド凝集体は複数の常磁性金属中心部を持つことができ、集合して凝集体を作る単一の単量体集合ペプチドと比較して、増加した大きさ、増加した溶解度、およびより高いMR緩和度を示す。また、このような凝集体はペプチドを基礎としており、分子内のペプチド部分がインビボで酵素分解されて検査を受ける患者から迅速に除去されることが可能である。
【0006】
また集合ペプチドは、特定の標的(例えば、ポリペプチド、酵素、受容体、核酸(例えば、DNAまたはRNA)、および組織のような生物学的標的)に対して親和性を示す、1つ以上の標的結合部分と共有結合し得る。標的結合部分と結合した集合ペプチドを含むペプチド凝集体を「標的」ペプチド凝集体と呼ぶ。標的ペプチド凝集体は標的に結合し得、この標的には前もって選択された生物学的標的が含まれる。
【0007】
本発明は、金属結合部分と標的結合部分の一方もしくは両方と共有結合する、あるいは結合しない集合ペプチドを有することが可能なペプチド凝集体を特徴とする。例えば、一部の集合ペプチドは標的結合部分と金属結合部分の両方を含む。別の集合ペプチドは標的結合部分を含む。なお別の集合ペプチドは金属結合部分を有する。典型的には、ここで取り上げるペプチド凝集体は集合ペプチドを含み、少なくともその一部は金属結合部分を有する。さらに、本明細書で取り上げるペプチド凝集体は、典型的には、集合ペプチドを含み、少なくともその一部は標的結合部分を有する。いくつかの実施形態では、ペプチド凝集体は2nmから500nmの流体力学半径を持つ。いくつかの実施形態では、ペプチド凝集体は、標的に対する親和性を持った標的結合部分を含む集合ペプチドを含む。いくつかの実施形態では、ペプチド凝集体は、金属結合部分及び標的に対する親和性を持った標的結合部分を持つ集合ポリペプチドを含む。別の実施形態では、ペプチド凝集体は、正電荷のみを持つ親水性アミノ酸を持ついくつかの集合ペプチドを含み、別の集合ペプチドは負電荷のみを持つ親水性アミノ酸を有する。集合ペプチドは自己集合するペプチドであることができ、例えばそのペプチド同士が結合することのできるペプチドである。本明細書に記載されるペプチド凝集体はいずれも自己集合するペプチドを有することができる。
【0008】
また、ここで取り上げるのは磁気共鳴画像法の手法である。この手法には本発明に従ったペプチド凝集体あるいは集合ペプチドを被験体(例えばヒトのような哺乳動物)に導入して被験体に磁気共鳴画像診断を行うことが含まれる。
上記に加えて、本発明は、以下を提供する:
(項目1)
2つ以上の集合ペプチドを含むペプチド凝集体であって、該集合ペプチドのうちの少なくとも1つが金属結合部分を含む、ペプチド凝集体。
(項目2)
前記凝集体の流体力学半径が2nmから500nmである、項目1に記載の凝集体。
(項目3)
前記集合ペプチドのうちの少なくとも1つが、標的に対する親和性を有する標的結合部分を含む、項目1に記載の凝集体。
(項目4)
前記標的がHSA、フィブリン、コラーゲン、デコリン、およびエラスチンからなる群より選択される、項目3に記載の凝集体。
(項目5)
前記金属結合部分が有機キレート配位子である、項目1に記載の凝集体。
(項目6)
前記有機キレート配位子がDTPA、DOTA、DOTP、DO3A、DOTAGA、およびNOTAからなる群より選択される、項目5に記載の凝集体。
(項目7)
前記2つ以上の集合ペプチドが、独立して、以下:
【化1】


からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、項目1に記載の凝集体。
(項目8)
前記有機キレート配位子が常磁性金属イオンと結合される、項目5に記載の凝集体。
(項目9)
前記常磁性金属イオンがGd(III)である、項目8に記載の凝集体。
(項目10)
前記集合ペプチドが自己集合ペプチドである、項目1に記載の凝集体。
(項目11)
前記配列がC末端で酸性部分によって修飾されている、項目7に記載の凝集体。
(項目12)
前記酸性部分が、直鎖二酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、フタル酸、イソフタル酸、およびテレフタル酸からなる群より選択される、項目11に記載の凝集体。
(項目13)
構造P−(C)n有する集合ペプチドであって、Pは集合ペプチドのアミノ酸配列を表し、Cは有機キレート配位子を表し、nは1から10であり得る、集合ペプチド。
(項目14)
標的結合部分をさらに含む、項目13に記載の集合ペプチド。
(項目15)
標的結合部分を含む、集合ペプチド。
(項目16)
以下:
【化2】


からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む集合ペプチドであって、ここで、該集合ペプチドは、標的結合部分、金属結合部分またはその両方をさらに含む、集合ペプチド。
(項目17)
EP1272L、EP1593L、EP1594L、EP1595、およびEP1596からなる群より選択される、集合ペプチド。
(項目18)
標的をMR画像化する方法であって、以下:
i)ペプチド凝集体を患者に投与する工程であって、該ペプチド凝集体は、常磁性金属イオンと結合した金属結合部分を含む少なくとも1つの集合ペプチドと、該標的に対する親和性を有する標的結合部分を含む少なくとも1つの集合ペプチドとを含む、工程;および
ii)該患者にMR画像法を受けさせる工程、
を包含する、方法。
(項目19)
MR画像化の方法であって、以下:
i)ペプチド凝集体を患者に投与する工程であって、該ペプチド凝集体は常磁性金属イオンと結合した金属結合部分を含む少なくとも1つの集合ペプチドを含む、工程;および
ii)前記患者にMR画像化を受けさせる工程、
を包含する、方法。
(項目20)
標的をMR画像化する方法であって、以下:
i)少なくとも2つの集合ペプチドを患者に投与する工程であって、該少なくとも2つの集合ペプチドは、該患者へ投与された後にペプチド凝集体を作ることが可能であり、該2つの集合ペプチドのうちの少なくとも1つは常磁性金属イオンと結合した金属結合部分を含み、かつ該2つの集合ペプチドのうちの少なくとも1つは該標的に対する親和性を有する標的結合部分を含む、工程;および
ii)該患者にMR画像化を受けさせる、工程、
を包含する、方法。
【0009】
本発明の他の特徴及び利点は以下の詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかとなる。開示する材料、方法、および実施例は、説明のみを目的とするものであり、発明を制限する目的のものではない。熟練した技術者は、本明細書に記載されているものと同様あるいは等しい方法および材料を用いて本発明を実現し得ることを認識する。
【0010】
他に定義しない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野における技術者によって、普通に理解されている意味を持つ。本明細書に記載されている全ての出版刊行物、特許出願書、特許明細並びにその他の参考文献は、その全体が本明細書中に参考として援用される。矛盾する場合、定義を含めた本明細書が支配する。
【0011】
(詳細な説明)
(定義)
一般に使用されている化学的略語で本明細書で明確に定義されていないものは、The American Chemical Society Style Guide第2版(American Chemical Society, Washington,DC,1997年)、「2001 Guidelines for Authors」(J.Org.Chemi.66(1),24A,2001年)、「A Short Guide to Abbreviations and Their Use in Peptide Science」(J.Peptide.Sci.5,465−471,1999年)で見ることができる。
【0012】
「キレート配位子」並びに「キレート部分(chelating moiety)」、「キレート部分(chelate moiety)」という言葉は、DTPA(及びDTPE)あるいはDOTA、DOTAGA、DO3A、NOTA分子を含めた、金属イオンを配位結合することが可能なあらゆる多座配位子、または本明細書の以下で詳しく定義されているような、直接もしくは保護基を除去した後に、金属イオンを配位結合しているかもしくは金属イオンを配位結合し得る、他の適当な多座キレート配位子、あるいは適切な保護基がある、もしくは適切な保護基を持たない試薬であって、造影剤の合成に使用され、実質的には、最終的な金属錯体の金属イオンと配位結合することになる原子の全部を含むもののことを指すように使用され得る。用語「キレート」とは、実在する金属配位子錯体のことを指し、多座配位子は一般的に医学的に有用な金属イオンと配位結合するものであると理解されている。
【0013】
本明細書で使用されている用語「親和性」とはペプチド凝集体が、他の成分よりも高い程度に、生物学的標的等の特定の標的に引き付けられるか、保持されるか、もしくは特定の標的と結合することのできる性質のことをいう。この性質を持つペプチド凝集体は「標的」成分に「標的化」したという。この性質を持たない凝集体は「非特異性」もしくは「標的化されない」という。標的に対する標的分子結合部分の結合親和性は平衡解離定数「Kd」で表される。
【0014】
本出願の目的のため、「DTPA」は、以下の化学式のように、2つの第1級アミンが各々2つのアセチル基と共有結合し、第2級アミンが共有結合したアセチル基を1つ持つ、ジエチレントリアミンから構成される構造を含む化合物を指す:
【0015】
【化3】

【0016】
ここでXは金属陽イオンと配位結合できるヘテロ原子電子供与性基であり望ましくはO−あるいはOH、NH、OPO−、NHRである。あるいは、XはORであり、ここでRはあらゆる脂肪族官能基である。各X基が第3ブチル(tBu)である時、この構造物は「DTPE」(「E」はエステルの意)と表される。
【0017】
本出願の目的のため、「DOTA」は1,4,7,11−テトラアザシクロドデカンから構成される下部構造からなる化合物を指し、以下の化学式のとおり、各アミンは共有結合するアセチル基を1つ持つ。
【0018】
【化4】

【0019】
ここでXは上記で定義されるものである。
【0020】
本出願の目的のため、「NOTA」は1,4,7−トリアザシクロノナンから構成される下部構造からなる化合物を指し、以下の化学式のように各アミンは共有結合したアセチル基を1つ持つ。
【0021】
【化5】

【0022】
ここでXは上記で定義されるものである。
【0023】
本出願の目的のため、「DO3A」は1,4,7,11−テトラアザシクロドデカンから構成される下部構造からなる化合物を指し、以下の化学式のとおり、この4つのアミンのうち3つがそれぞれ共有結合したアセチル基を1つ持ち、残りのアミンは電荷を帯びていない中性の置換基を持つ。
【0024】
【化6】

【0025】
ここでXは上記で定義されるものであり、R1は非電荷の化学物質部分であって望ましくは水素、あらゆる脂肪族官能基、アルキル基、シクロアルキル基、並びにこれらから成る非電荷の誘導体である。望ましいキレートである「HP」−DO3Aでは、R1はCH(CHOH)CHである。
【0026】
本出願の目的のため、「DOTAGA」は1,4,7,11−テトラアザシクロドデカンから構成される下部構造からなる化合物を指し、次のような構造(Gd(III)錯体を示している)を持つ。
【0027】
【化7】

【0028】
上記構造はそれぞれにおいて、エチレン基の炭素原子群を「骨格」炭素と呼ぶことができる。「bbDTPA」という名称は、DTPA分子への化学結合部位を指すために使用することができる(「bb」は「backbone(骨格)」を指す)。本明細書で使用されている記号bb(CO)DTPAは、DTPAのエチレン骨格炭素原子に結合しているC=O部分を意味する。
【0029】
本明細書で使用されている「精製された」は、通常ペプチドに伴って天然に存在する有機分子から分離されたペプチドを指し、化学合成されたペプチドに関しては、化学合成の過程で存在する他のあらゆる有機分子から分離されたペプチドを指す。一般的には、乾燥重量で70%以上(例えば70%あるいは80、90、95、99%)他のあらゆるタンパク質あるいは有機分子から遊離した状態である場合に、そのペプチドは「精製された」とみなされる。
【0030】
本明細書で使われる「ペプチド」は、長さにして約2から約50個のアミノ酸の鎖(例えば長さにして10個から30個のアミノ酸)を指す。
【0031】
本明細書で使用されている「天然」あるいは「天然に存在する」アミノ酸とは20種の最も一般的に存在するアミノ酸の一つを指す。検出目的のための標識(例えば放射性ラベルあるいは光学ラベル、色素)を提供するために加工された天然アミノ酸は天然アミノであるとみなされる。天然アミノ酸は標準的に1文字もしくは3文字の略語で表される。
【0032】
「非天然アミノ酸」あるいは「非天然」は天然アミノ酸のあらゆる誘導体を指し、これにはD体またはβ−、γ−アミノ酸誘導体、その他誘導体が含まれる。ある種のアミノ酸(例えばヒドロキシプロリン)は、特定の生物内もしくは特定のタンパク質内に天然に存在する場合があることを記しておく。
【0033】
本明細書で使われる「緩和度」は、常磁性イオンもしくは造影剤1ミリモル(mM)当たりの、MRIの数量である1/T1もしくは1/T2の増加を指す。ここでT1は、水水素原子、もしくは水以外の分子中にある水素原子を含む、他の画像法あるいはスペクトロスコピック法の原子核の縦緩和あるいはスピン‐格子緩和時間であり、T2は横緩和あるいはスピン‐スピン緩和時間である。緩和度はmM−1−1の単位で表される。
【0034】
「標的結合」あるいは「結合」、「生物学的標的結合」は交換して使用され、本明細書で記載されているペプチド凝集体もしくは集合ペプチドと標的との非共有結合的相互作用を指す。こうした非共有結合的相互作用は互いに独立しており、特に疎水性相互作用もしくは親水性相互作用、双極子相互作用、πスタッキング、水素結合、静電的会合、ルイス酸塩基相互作用であることがありうる。
【0035】
「集合ペプチド」は、非共有結合的に、同じアミノ酸配列を有する、もしくは異なるアミノ酸配列を有する他のペプチドと会合することのできるペプチドを意味する。「ペプチド凝集体」とは2つ以上の集合ペプチドからなる非共有結合的会合体である。「金属ペプチド凝集体」は金属結合部分からなる集合ペプチドを1つ以上含むペプチド凝集体である。「標的ペプチド凝集体」は標的結合部分からなる集合ペプチドを1つ以上含むペプチド凝集体である。「標的金属ペプチド凝集体」は、金属結合部分からなる集合ペプチドを1つ以上含み、且つ標的結合部分からなる集合ペプチドを1つ以上の含むペプチド凝集体である。
【0036】
(集合ペプチド)
本発明は集合ペプチドを有するペプチド凝集体を提供する。集合ペプチドは一般的に長さにして2〜50個のアミノ酸を含む。例えば長さにして8個または9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、25個、30個、35個、40個、45個、50個のアミノ酸である。集合ペプチドは一般的に精製されたペプチドである。集合ペプチドは当分野の技術者が知る多数の方法によって合成して精製することができ、この方法には、例えばWO 01/09188もしくはWO 01/08712で開示されているような固相合成法がある。
【0037】
適切なアミノ酸には天然及び非天然アミノ酸が含まれる。ペプチドの固相合成法において中間体として使用するのに適切な、多様な保護基を持つアミノ酸は一般に販売されている。20種の最も一般的な天然に存在するアミノ酸に加えて、以下の非天然アミノ酸もしくはアミノ酸誘導体を使用することが可能である:β−アラニン(β−Ala)、γ−アミノ酪酸(GABA)、2−アミノ酪酸(2−Abu)、α,β−デヒドロ−2−アミノ酪酸(Δ−Abu)、1−アミノシクロプロパン−1−カルボン酸(ACPC)、アミノイソ酪酸(Aib)、2−アミノチアゾリン−4−カルボン酸、5−アミノ吉草酸(5−Ava)、6−アミノヘキサン酸(6−Ahx)、8−アミノオクタン酸(8−Aoc)、11−アミノウンデカン酸(11−Aun)、12−アミノドデカン酸(12−Ado)、2−安息香酸(2−Abz)、3−安息香酸(3−Abz)、4−安息香酸(4−Abz)、4−アミノ−3−ヒドロキシ−6−メチルペプタン酸(スタチン、Sta)、アミノオキシ酢酸(Aoa)、2−アミノテトラリン−2−カルボン酸(Atc)、4−アミノ−5−シクロヘキシル−3−ヒドロキシペンタン酸(ACHPA)、パラ−アミノフェニルアラニン(4−NH2−Phe)、ビフェニルアラニン(Bip)、パラ−ブロモフェニルアラニン(4−Br−Phe)、オルト−クロロフェニルアラニン(2−Cl−Phe)、メタ−クロロフェニルアラニン(3−Cl−Phe)、パラ−クロロフェニルアラニン(4−Cl−Phe)、メタ−クロロチロシン(3−Cl−Tyr)、パラ−ベンゾイルフェニルアラニン(Bpa)、第3ブチルグリシン(Tle)、シクロヘキシルアラニン(Cha)、シクロヘキシルグリシン(Chg)、2,3−ジアミノプロピオン酸(Dpr)、2,4−ジアミノ酪酸(Dbu)、3,4−ジクロロフェニルアラニン(3,4−Cl2−Phe)、3,4−ジフルロフェニルアラニン(3,4−F2−Phe)、3,5−ジイオドチロシン(3,5−I2−Tyr)、オルト−フルオロフェニルアラニン(2−F−Phe)、メタ−フルオロフェニルアラニン(3−F−Phe)、パラ−フルオロフェニルアラニン(4−F−Phe)、メタ−フルオロチロシン(3−F−Tyr)、ホモセリン(Hse)、ホモフェニルアラニン(Hfe)、ホモチロシン(Htyr)、5−ヒドロキシトリプトファン(5−OH−Tyr)、ヒドロキシプロリン(Hyp)、パラ−イオドフェニルアラニン(4−I−Phe)、3−イオドチロシン(3−I−Tyr)、インドリン−2−カルボン酸(Idc)、イソニペコ酸(Inp)、メタ−メチルチロシン(3−Me−Tyr)、1−ナフチルアラニン(1−Nal)、2−ナフチルアラニン(2−Nal)、パラ−ニトロフェニルアラニン(4−NO2−Phe)、3−ニトロチロシン(3−NO2−Tyr)、ノルロイシン(Nle)、ノルバリン(Nva)、オルニチン(Orn)、オルト−ホスホチロシン(H2PO3−Tyr)、オクタヒドロインドール−2−カルボン酸(Oic)、ペニシルアミン(Pen)、ペンタフルオロフェニルアラニン(F5−Phe)、フェニルグリシン(Phg)、ピペコリン酸(Pip)、プロパルギルグリシン(Pra)、ピログルタミン酸(pGlu)、サルコシン(Sar)、テトラヒドロイソキノリン−3−カルボン酸酸(Tic)、チアゾリジン−4−カルボン酸(チオプロリン、Th)。アミノ酸の立体化学は、必要に応じて名称あるいは「D」、「d」、「L」、「l」という記号でもって略語を前に置くことで表すことができる。またαN−アルキル化アミノ酸を用いることも可能であり、含アミン側鎖を持つアミノ酸(Lys並びにOrn等)を用いることもできる。
【0038】
いくつかの例においては、例えば全体の凝集体の大きさを減らす目的で、集合ペプチドのN末端もしくはC末端を修飾することができる。C末端は、例えば酸性官能基のように負電荷を帯びた部分を含むことができる。酸性官能基の例には、直鎖二酸(例えばHOC(CH)nCOHという構造を持つもの。ここでnは1から8の範囲である。(例:其々マロン酸、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸))、並びにアルパラギン酸、グルタミン酸、及びフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族酸が含まれる。図3を参照する。他の負電荷部分の例には硫酸塩及び硝酸塩、リン酸塩が含まれるがこれらに限定されない。
【0039】
集合ペプチドはペプチド凝集体を作るのに適切な状態のもとで、自然発生的に(例えば架橋剤や共有結合なしで)会合することができる。会合してペプチド凝集体を作る集合ペプチドは同一のアミノ酸配列あるいは異なるアミノ酸配列を持つことができる。集合ペプチドが同一の集合ペプチドと会合してペプチド凝集体を作る場合、このペプチドは「自己集合」ペプチドと呼ばれる。ペプチド凝集体を作るのに適した条件にはpH並びに温度、溶剤(例えば緩衝液)、塩濃度が含まれ、当分野の技術者によって普通に決定されるものである。ペプチドが他のペプチド(同一のアミノ酸配列を持つ場合も、異なるアミノ酸配列を持つ場合もある)と会合してペプチド凝集体を作る力は、当分野の普通の技術者が知る様々な方法によって評価することができ、この方法にはステレオスコピック分析(例えば円偏光二色性分析、NMR、光散乱分析)並びに電気泳動分析(例えば可動性偏移分析)、遠心分離フィルター法(例えば限外濾過)、沈降分析、クロマトグラフィー分析(例えばSEC−LS)が含まれる。
【0040】
いくつかの例において集合ペプチドは、同一の、あるいはある比率以上の長さ(例えばペプチドの長さの70%以上、80%以上、90%以上、95%以上)に渡って同一であって実質的に同一のアミノ酸配列を持つ他の集合ペプチドと会合する。実質的に同一のアミノ酸配列を持つ集合ペプチドとは、60%以上あるいは70%以上、80%以上、90%以上、95%以上他の集合ペプチドと同一であることが可能である。配列同一性の割合は、一列に並ぶペプチドの配列において一致するアミノ酸の数を判定することによって計算することができる。即ち、一列に並ぶ全アミノ酸数を一致するアミノ酸の数で割り、100を掛ける。一致するアミノ酸位置とは同一のアミノ酸が一列に並ぶペプチド配列において同じ位置に存在するその位置のことをいう。
【0041】
配列同一性の割合を決定するには、BLASTP第2.0.14版を含むBLASTZの独立版からBLAST2 Seaquences(B12seq)プログラムを用いて目的とするペプチドの配列を既知配列のペプチドと比較することができる。このBLASTZ独立版は、Fish & Richardsonのウェブサイト(www.fr.com/blast)もしくアメリカ合衆国National Center for Biotechnology Informationのウェブサイト(www.ncbi.nlm.nih.gov)から入手することができる。B12seqプログラムの使用方法を説明する説明書きは、BLASTZに添えられているリードミーファイルで見ることができる。B12seqはBLASTPアルゴリズムを用いて2つのペプチド配列の比較を実行する。2つのペプチド配列を比較するためには、B12seqの選択設定を以下のように行う:比較する最初のペプチド配列を含むファイルへ−iを設定する(例:C:\seq1.txt)。比較する次のペプチド配列を含むファイルへ−jを設定する(例:C:\seq2.txt)。blastpへ−pを設定する。−oを希望するファイル名へ設定する(例:C:\output.txt)。初期設定では他の全ての選択が残されている。以下のコマンドで、2つのペプチド配列の比較を含んだファイルが出力される:C:\B12 seq−ic:\seq1.txt−jc:\seq2.txt−pblastp−oc:\output.txt。次に、分析対象の配列に既知配列との同一部分が少しでも含まれていれば、指定した出力ファイルが同一部分を一列に並んだ配列として表示する。分析対象の配列に既知配列と同一部分が含まれていなければ、指定した出力ファイルは一列に並んだ配列を表示しない。
【0042】
一列に並んだ配列が表示されれば、長さは既知配列のペプチドのアミノ酸群と一致して一列に表示された、分析対象のペプチド配列の連続するアミノ酸を数えることで決定され、この配列は一致する所から始まり他の一致する所で終わる。一致する所とは分析対象の配列と既知配列の両方に同一のアミノ酸が存在する全ての部位である。ギャップはアミノ酸ではないため分析対象の配列に存在するギャップは加えない。同様に分析対象配列のアミノ酸を数えるものであって既知配列のアミノ酸を数え入れるものではないため、既知配列に存在するギャップも加えない。ある長さに渡る一致率は、その長さ部分で一致する部位を数え上げることで決定され、その値を長さで割り、次にその結果得られた値に100を掛ける。
【0043】
集合ペプチドは会合して二次構造または三次構造、あるいはその両方を有するペプチド凝集体を作ることができる。例えば、ペプチド凝集体はβシート構造あるいはαヘリックス構造等の構造を呈することができる。βシート構造は平行βシートあるいは逆平行βシートであることができる。αヘリックスは、全てのヘリックスが相互方向に、例えば4ヘリックスバンドルのように、束状に会合することができる。二次あるいは三次構造、もしくはその両方を分析する方法は、当分野の普通の技術者によって知られており、その方法にはCDスペクトル法及びNMRスペクトル法が含まれる。
【0044】
いくつかの例では集合ペプチドは両親媒性となることができ、疎水性及び親水性アミノ酸から構成される交互重合体であることができる。ここで親水性残基は電荷対あるいは水素結合もしくはその両方において相補的になるように設計される。当該ペプチドは自発的に集合して、交互に疎水性・親水性面を有する逆平行βシート構造を有するペプチド凝集体を作ることができる。当該ペプチドでは、非極性のアミノ酸(例えばアラニン並びにバリン、ロイシン、イソロイシン、フェニールアラニン、トリプトファン、グリシン)の側鎖は一般に、疎水性面を向き、極性アミノ酸(例えばアルギニン、リジン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン)の側鎖は親水性面を向く。いくつかの例では、極性アミノ酸の側鎖は親水性面に沿って周期的に相補的イオン結合対あるいは相補的水素結合対を作ることができる。
【0045】
本発明のいくつかの例では、ペプチド凝集体は三次元構造変換あるいは二次元構造変換もしくはその両方を受けることができる。例えばpH、溶媒、温度のうちの一つまたは複数の変化に伴ってβシートからαヘリックスへ変換される。当該変換は凝集あるいは被験体からの除去もしくはその両方に影響を与えることができる。例えばある条件下では、βシートストランド構造凝集体をαヘリックスあるいはランダムコイル単量体に変換することが可能であり、これは被験体から素早く排出することができる構造である。
【0046】
いくつかの例では、会合してペプチド凝集体を作ることができない初期条件に集合ペプチドを置く。例えば、低pHあるいは高pH、あるいは変性剤もしくは乳化剤、溶剤、界面活性剤(例えば尿素、グアニジン塩酸、SDS)存在下、あるいは低濃度のペプチドを用いるという初期条件がある。後に条件を変えて集合ペプチドを凝集させてペプチド凝集体を作るようにすることができる。例えば、集合ペプチドが会合できない初期条件下で集合ペプチドを被験体に投与することができる。しかし、投与後集合ペプチドは会合して凝集体を作ることができる。これは例えば集合ペプチドが被験体の血流に入ることで、例えばペプチド濃度、pH、溶媒等が変化するためである。集合ペプチドが会合して凝集体を作るのを妨げる条件で、別の可能性のあるものには、集合ペプチドが含まれる組成に界面活性剤あるいは洗浄剤を使用すること、並びに油剤をベースにした組成等低親水性組成を用いること、投与前に集合ペプチドを確保しておくためにミセルを使用すること、投与の直前に集合ペプチドを稀釈して凍結乾燥すること、が含まれる。
【0047】
別例では標的に対する親和性を持った標的結合部分から成る集合ペプチドを、会合できない初期条件下で被験体に投与することができる。例えば、集合ペプチドを低濃度にした、あるいは変性剤を高濃度にした条件である。しかし、被験体に投与されると、集合ペプチドは標的に結合することができ、生体内で会合することができる。これは例えば生体内では局所的に標的の濃度が高いためであり、あるいは変性剤の濃度が、注入されて被験体の血液量と混合されたことによって減少しためである。
【0048】
逆平行βシート構造を有するペプチド凝集体を作ることのできる自己集合ペプチドの一例は、以下のアミノ酸配列を持つ:
【0049】
【化8】

【0050】
さらに、βシート構造を有するペプチド凝集体を作ることのできる集合ペプチドを挙げる:
【0051】
【化9】

【0052】
別の集合ペプチドは1つ以上のαヘリックスを含む構造を有するペプチド凝集体を作ることができる。1つ以上のαヘリックスを含む構造の例には4ヘリックスバンドルがある。4ヘリックスバンドルペプチド凝集体は、2つのペプチド鎖あるいは4つのペプチド鎖から作ることができる。1つ以上のαヘリックスを含む構造を有するペプチド凝集体を作ることのできる集合ペプチドもしくは自己集合ペプチドの例には以下のものが含まれる:
【0053】
【化10】

【0054】
会合して、例えば4ヘリックスバンドルのようなヘリックスを有する構造を作ることのできる集合ペプチドによって、ペプチド凝集体の大きさを正確に調整することができる。一実施例では4つの集合ペプチドが会合してできた4ヘリックスバンドルは、4つの金属結合部分(例えば1つの集合ペプチドにつき一つ)と1つ以上の標的結合部分を持つことができる。βシート並びにヘリックス、ヘリックスバンドルを作ることができる集合ペプチドについての詳細は、例えば、Pro.Natl.Acad.Sci.USA 92:6349−6353(1995)並びにProtein Science 12:92−102(2003)で見ることができる。
【0055】
(金属結合部分)
集合ペプチドは金属結合部分あるいは金属結合基を有することができ、これは直接ペプチドに共有結合するか、もしくはリンカー(L)を介して共有結合する。金属結合部分は集合ペプチドのC末端、N末端、アミノ酸側鎖の内の一つあるいは複数に(随意でリンカーLを介して、)共有結合することができる。金属結合部分は、原子番号21〜29、42、44、57〜83の常磁性金属イオン等の金属と結合する。望ましい常磁性金属イオンは、Gd(III)並びにFe(III)、Mn(II及びIII)、Cr(II)、Cu(II)、Dy(III)、Tb(III及びIV)、Ho(III)、Er(III)、Pr(III)、Eu(II及びIII)から成るグループから選択される。Gd(III)は特に有用である。本明細書で使われている「Gd」は金属ガドリニウムのイオン形態を意味する意図があり、当該イオン形態はGD(III)、GD3+、gado等と書くことができるが、当方が考えるイオン形態に違いはないことを記しておく。常磁性金属イオンと結合した金属結合部分を持つ集合ペプチドを含むペプチド凝集体は、有用なMR造影剤となることができる(図1参照)。
【0056】
別の金属結合部分は放射性核種(例えばMn−51あるいはFe−52、Cu−60、Ga−68、As−72、Tc−94m、In−110、Y−90、Tc−99m、In−111、Sc−47、Ga−67、Cr−51、Sn−177m、Cu−67、Tm−167、Ru−97、Re−188、Lu−177、Au199、Pb−203、Ce−141)と結合することができる。放射性核種と結合した金属結合部分を持つ集合ペプチドを持つペプチド凝集体は、病理診断あるいは治療、もしくはその両方の目的に有用な物となりうる。
【0057】
一般的に金属結合部分は有機キレート配位子である。本明細書の実例では、集合ペプチドは一般化学式P−(C)nを有する。ここでPは集合ペプチド配列を指し、Cは有機キレート配位子を指す。また、nは1から10までの値となりうる。典型的な有機キレート配位子にはDOTA並びにDOTP、DO3A、DOTAGA、NOTA、DTPAが含まれる。キレート配位子が金属イオンと錯体を形成した場合、これは金属キレートを呼ぶことができる。MRIには、ガリドニウムジエチレントリアミンペンタアセテート(DTPA・Gd)並びにガリドニウムテトラアミン1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−N,N’,N’’,N’’’−テトラアセテート(DOTA・Gd)、ガリドニウム−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7−トリアセテート(DO3A・Gd)、bb(CO)DTPA・Gdが特に有用である。ある実施例では、DOTAGAが望ましい場合もある。
【0058】
Cは常磁性金属イオンと錯体を作ることができ、この常磁性金属イオンにはGd(III)並びにFe(III)、Mn(II)、Mn(III)、Cr(III)、Cu(II)、Dy(III)、Ho(III)、Er(III)、Pr(III)、Eu(II)、Eu(III)、Tb(III)、Tb(IV)、Tm(III)、Yb(III)が含まれる。Cに関する詳細及びこれをペプチドに組み込む合成方法論に関する詳細は、WO 01/09188及びWO 01/08712、WO 03/011115でみることができる。
【0059】
(標的結合部分と標的)
また集合ペプチドは直接あるいいはリンカーを介して共有結合する標的結合部分を含むことができる。例えばC末端もしくはN末端、あらゆるペプチド内アミノ酸の側鎖へ結合する。例えば、標的結合部分は自己集合ペプチドのC末端、N末端、アミノ酸側鎖(例えば親水性側鎖)のうちの一つあるいは複数に共有結合することができる(図2)。標的結合部分と結合した集合ペプチドを含むペプチド凝集体は、特定の標的(例えばポリペプチド並びに酵素並びに受容体、及びcDNA、ゲノムDNA、mRNAを含むあらゆる形態のDNA及びRNA等の核酸)並びに組織に対する親和性を呈することができる。このように、標的結合部分と結合した集合ペプチドを含むペプチド凝集体は、標的化されて特定の生物学的標的と結合することができる。ペプチド凝集体は種々の標的に対する親和性を持つ、あるいは標的の種々の標的の構成部分に対する親和性を持つ標的部分と結合した集合ペプチドを含むことができる。
【0060】
本発明に従うペプチド凝集体は、金属結合部分と標的結合部分の一方あるいは両方と共有結合する、あるいは両方とも結合しない集合ペプチドを含むことができる。例えば、ある集合ペプチドは金属結合部分と標的結合部分の両方に結合することができる。また二者択一的にある集合ペプチドは標的結合部分にのみ結合することができる、あるいは金属結合部分にのみ結合することができる。図2を参照する。
【0061】
標的結合部分はあらゆるタイプの化合物であることができ、これには低分子有機物並びにペプチドが含まれる。ペプチド及び低分子有機物は、標的への結合に関して、当分野でよく知られる方法によって選択分離することができる。この方法には平衡透析法並びにアフィニティークロマトグラフィー、その標的に結合することがわかっているプローブによる阻害・置換が含まれる。有用な標的結合部分の例はWO 96/23526及びWO 01/09188、WO 03/011115において開示されている。以下にある例8は、あるペプチ凝集体をHASに対して標的化させるためにフェニルウンデカン部分を使用する例を示している。
【0062】
ペプチ凝集体にとっての標的はあらゆる身体構成部分あるいは細胞、器官、もしくはこれらの組織あるいは成分に存在することが考えられる。病理診断並びに治療に関係する標的が好まれ、例えば疾患の状態に伴った標的が望まれる。特に好まれる標的は体液に関係する標的であり、特に血液並びに血漿、リンパ液、中枢神経系の液に関係する標的である。別の好まれる標的は高濃度で存在するか、特定の配位子に対する結合部位を数多く持つタンパク質及び受容体である。当該標的タンパク質の中には酵素及び糖タンパク質が含まれる。
【0063】
ヒト血清アルブミン(HSA)並びにフィブリン、コラーゲンは特に有用な標的である。血管血液プール造影法では、血清アルブミンが好まれる標的である。HSAは血清中に高濃度で存在し(約0.6μM)、様々な分子と適度な親和力でもって結合するため、HSAは好まれる血漿タンパク質である。HSAは特に心臓血管造影法に好まれる標的である。WO 96/23526を参照する。
【0064】
フィブリンは全ての血栓に存在し、通常の血栓溶解反応を妨げずに標的となることができるため、フィブリンは血栓の造影に好まれる標的である。フィブリン結合ペプチドを含む標的結合部分に関する詳細は、PCT特許出願WO 01/09188及びWO 03/011115を参照する。
【0065】
別の標的には、α酸糖タンパク質並びにフィブリノーゲン、コラーゲン、血小板GPIIb/IIIa受容体、走化性ペプチド受容体、ソマトスタチン受容体、血管作用性小腸ペプチド(VIP)受容体、ボンベシン・ガストリン放出ペプチド受容体、インテグリン受容体、デコリン、エラスチン、LOX−1、TLR(−2及び−4)、CD36、SRAI/II、ヒアルロン酸、LTB4、PAF、MCP−1、MAC−1、MMPs、CCR−1、CCR−3、LFA−1、カテプシン、COX−1、COX−2、TNFが含まれるがこれらに限定されない。
【0066】
(リンカー)
いくつかの例では、集合ペプチドはリンカー(L)を介して標的結合部分あるいは金属結合部分と結合する。例えばLには、直鎖ペプチドあるいは分枝ペプチド、環状ペプチドが含まれる可能性がある。一例では、Lにはグリシン残基あるいは直鎖ジペプチドG−G(グリシン‐グリシン)が含まれる可能性がある。いくつかの例では、Lはアミド部分としてペプチドのN末端あるいはC末端、もしくはN末端及びC末端の両方をキャップすることができる。別の典型的なキャップ部分には、スルホンアミド並びに尿素、チオ尿素、カルバメートが含まれる。またLは、直鎖または分枝または環状のアルカンあるいはアルケン、アルキン、もしくはホスホジエステル部分を含むことができる。Lは一つ以上の官能基で置換される場合もあり、この官能基にはケトン、エステル、アミド、エーテル、炭酸エステル、スルホンアミド、カルバメート基が含まれる。また考えられる具体的なLには、NH−−CO−NH並びに−CO−(CH)n−NH但しn=1〜10、dpr、dab、−NH−Ph−、−NH−(CH)n−但しn=1〜10、−CO−NH−、−(CH)n−NH−但しn=1〜10、−CO−(CH)n−NH但しn=1〜10、−CS−NH−が含まれる。
【0067】
前記にないLsの例及びこれらをペプチドに取り込むための方法論は、WO 01/09188及びWO 01/08712、WO 03/011115で言及されている。
【0068】
(金属結合部分あるいは標的結合部分を含む集合ペプチドの合成)
金属結合部分を含む集合ペプチドの合成は、以下の方法で実施することができる。最初に集合ペプチドはC末端リンカーを用いて、もしくは用いることなく合成することができ、一般的には固相ペプチド合成法を用いる。C末端リンカーは都合よく固相合成用樹脂によって誘導され、固相合成の間にN末端リンカーにペプチドを繋げることができる。一般的には次に、金属キレート配位子部分と標的結合部分の一方あるいは両方がペプチドに繋がる。金属キレート配位子を提供し、次いで錯体金属イオンによってできた金属キレートを提供するために保護基を除去することができる。本発明の放射性核種化合物は、一般に販売されている放射性核種(例えば、Nycomed Amersham Bostonカタログ番号RX−290195の99mTcあるいはNEN Life Science Productsカタログ番号NEZ304の111In、NEN Life Science Productsカタログ番号NEZ142の153Gd)を使用して、水溶性溶媒中で一般的にはpH4〜6で1時間反応させることで、配位子から調製することができる。
【0069】
(ペプチド凝集体の特性)
本発明のペプチド凝集体はコラーゲンあるいはHSA、フィブリン等の標的に結合することができる。例えば、ペプチド凝集体の10%以上(例えば30%あるいは40%、50%、70%、80%、90%、92%、94%、96%以上)を、生理学的に適切な濃度で目的とする標的に結合させることができる。標的に結合する程度は、例えば限外濾過、平衡透析、アフィニティークロマトグラフィー等の様々な平衡結合法、もしくは競合結合阻害法、プローブ化合物の置換によって評価することができる。
【0070】
MR造影剤として使用される金属結合部分を含むペプチド凝集体は、標的と結合する(例えばHSAへの結合あるいはコラーゲン、フィブリンへの結合)結果、高い緩和度を呈することができ、これによって解像度を改善することができる。結合による緩和度の増加は、一般的に1.5倍以上(例えば2倍以上、あるいは3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍の緩和度の増加)である。7〜8倍あるいは9〜10倍、あるいは10倍以上緩和度を増加させる標的凝集体は、特に有用である。一般的に緩和度はNMRスペクトルメータを使用して測定する。20MHz 37℃における特に有用な緩和度は1常磁性金属イオン当たり5mM−1−1以上(例えば1常磁性金属イオン当たり、8mM−1−1以上あるいは10、15、20、25、30、35、40、60mM−1−1以上)である。20MHz 37℃において20mM−1−1を超える緩和度を持つ凝集体あるいは35mM−1−1を超える緩和度を持つ凝集体は特に有用である。
【0071】
(造影剤としてペプチド凝集体を使用する)
金属結合部分を持つ集合ペプチドを含むペプチド凝集体はMRI造影剤として使用することができ、一般的には従来のMRI造影剤と同じ方法で使用することができる。一般的には、造影剤を患者(例えばヒト等の哺乳動物)に投与して患者のMRI画像を得る。一般には、医療技術者は目的とする標的を含んだ部分の画像を得ることとなる。例えば造影剤の標的がコラーゲンであれば、医療技術者は心臓の画像を得ることができる。医療技術者は造影剤の投与前あるいは投与中、投与後に、一度に一つ以上の画像を得ることができる。
【0072】
ある種のMR技術及びパルスシーケンスが本発明の方法において望まれる。例えば、MR画像は静止状態のMR画像であることができる。望ましいパルスシーケンスの例には、心臓同期セカンドスピンエコー(TE/TR=15/1RR)シーケンス並びにT1強調スポイルトエコーグラジエントシーケンス(心臓同期、flip/TE/TR=30°/2/8)、IR前処理グラジエントエコーシーケンス、IR前処理ナビゲータシーケンスが含まれる。
【0073】
いくつかの例では、バックグラウンドあるいは血流の磁気共鳴シグナルと、造影剤と結合している標的の磁気共鳴シグナとのコントラスト比を優先的に増加する、コントラスト増強イメージングシーケンスが用いられる。こうした技術には、高速スピンエコーシーケンス等血管を黒く映すようにするブラックブラッド血管造影シーケンス並びに血流スポイルトグラジエントエコーシーケンス、血液の流入を補正するボリューム外補正法が含まれるが、これらに限定されない。こうした方法にはまた、標的とバックグラウンドとなる組織とのコントラストを増強する飽和回復調整シーケンスあるいは反転回復調製シーケンス等、コントラスト増強済み標的と血液及び組織とのT1の差異によってコントラストの差異を大きくする血流インデペデント法が含まれる。またT2技術のための前処理法も有用であることがわかっている。最後に、磁化移動法の前処理もまた本発明の造影剤を用いたコントラストを改善する。
【0074】
コントラスト増強画像及び非コントラスト画像の収集もしくは比較、あるいはその両方から成る、あるいは一つ以上の造影剤を追加して使用することから成る、あるいはその両方を含む方法を用いることができる。例えば、2001年2月7日に出願されたアメリカ合衆国特許出願番号No.09/778,585、表題「MAGNETIC RESONANCE ANGIOGRAPHY DATA」及び2002年7月30日に出願されたアメリカ合衆国特許出願番号No.10/209,416、表題「SYSTEMS AND METHODS FOR TREATED MAGNETIC RESONANCE
IMAGING OF THE VASCULAR SYSTEM」に記載されている方法を用いることができる。
【0075】
(製薬組成)
造影剤並びにペプチド凝集体、集合ペプチドは、通常の手順に従って製薬組成として調剤することができる。本明細書で使用される本発明の製薬組成には、造影剤あるいはペプチド凝集体、集合ペプチドの、薬学的基準を満たす誘導体を含めることができる。「薬学的基準を満たす」とは、許容できない重篤な副作用無しに、その薬剤を哺乳動物へ投与できることを意味する。「薬学的基準を満たす誘導体」とは、本発明の造影剤あるいは凝集体あるいはペプチドの、あらゆる塩、エステル、エステル塩、その他誘導体を意味し、受容者に投与すると本発明の造影剤あるいは凝集体、ペプチド、もしくはこれらの活性代謝産物あるいはその残余物を提供することができる(直接あるいは間接的に)。別の誘導体は、哺乳動物に投与すると生物学的利用能を増加させる(例えば経口投与された化合物がより容易に血液中に吸収させることによって)、あるいは親化合物が生物学的区域(例えば脳あるいはリンパ系)へ運搬されるのを促進して、親化合物と比べて化合物への暴露を増加させるものである。本発明の薬学的基準を満たす造影剤あるいは凝集体あるいはペプチドの塩には、薬学的基準を満たす当分野において知られている無機並びに有機酸及び塩から誘導された対イオンが含まれる。
【0076】
本発明の製薬組成はあらゆる経路で投与することができ、この経路には経口及び非経口投与の両方が含まれる。非経口投与には皮下投与並びに静脈内投与、動脈内投与、組織内投与、腔内投与が含まれるが、これらに限定されない。静脈内へ投与した場合、製薬組成はボーラスあるいは異なる時間での2回以上の投与、定量注入もしくは非線形フロー注入として投与することができる。このように、本発明の製薬組成はあらゆる投与経路のために処方することができる。
【0077】
一般的には静脈内投与のための製薬組成は、滅菌等張水性緩衝液の溶液である。また必要であれば、この組成に可溶化剤並びに安定剤、注射する部位の痛みを軽減するためにリドカイン等の局部麻酔薬を加えることができる。一般的に処方成分は、例えばキットになっている等、個別に調達されるか、もしくは、例えば凍結乾燥粉末あるいは乾燥濃縮物として、単位服用量の形で混合されて調達される。製薬組成はアンプルあるいは小袋等の密封された容器内に、活性単位としてこの活性薬剤の量を表示して保存することができる。製薬組成が輸液で投与される場合、滅菌済み製薬等級の「注入用水」あるいは生理食塩水、その他の適当な静脈内投与用液体を含む輸液ボトルを用いて投薬することができる。製薬組成が注射によって投与されるものの場合、投与前に内容物を混合することができるよう、注射用滅菌水あるいは生理食塩水のアンプルが提供される場合もある。
【0078】
本発明の造影剤は、望ましくは注入可能な組成の形で患者に投与される。この造影剤を投与する方法は、望ましくは非経口投与であり、これは静脈内投与、動脈内投与、髄膜内投与、組織内投与、腔内投与を意味する。本発明の製薬組成は、他の診断薬剤あるいは治療薬剤と同様の方法でヒトを含めた哺乳動物に投与することができる。投与する用量及び投与の方法は年齢並びに体重、性別、患者の状態、遺伝要因を含めた様々な要因によって異なり、最終的には、本明細書に記載されているように画像診断に先立って行う様々な投与量の実験測定の後に、医療担当者によって決定されるものである。一般には、診断に必要な感度もしくは治療効果のために必要な用量は、およそ0.001から50,000μg/kgの範囲となり、望ましくは0.01から25.0μg/kg(受容者体重)の間となる。最適の投与量を経験に基づき決定することができる。
【0079】
本発明は以下の実施例において詳細が記載されるが、これは本明細書の請求事項に記載される発明の範囲を制限しない。
【実施例】
【0080】
(実施例1 EP1272Lの合成)
本実施例では、共有結合した金属結合部分を持つ、一自己集合ペプチドの合成を明らかにする。AEAEAKAKAEAEAKAK(配列番号1)という配列を持つ自己集合ペプチドを、金属結合部分をこのペプチドのN末端に加えるよう、グリシンリンカーを介して化学的に修飾した。図3のEP1272Lを参照する。EP1272LはEPIXより提供されたbbDTPAを用いてSynPepが調製した。この化合物は標準法を用いて固相担体上で合成された。HPLC純度90%。MSデータ(M+H)/1=2092、(M+2H)/2=1046.5、(M+3H)/3=698。
【0081】
(実施例2 EP1272LのGd(III)錯体)
本実施例では、EP1272LのGd(III)錯体形成を明らかにする。EP1272L(0.0842g)を2mlの水に懸濁した。これに160μlの1N NaOHを加え、溶液のpHを7.5にした。水を加えて5mlとし、全ての固形物が溶解するまで溶液を静かに撹拌した。遊離ガドリニウムに対する指示薬としてキシレノールオレンジを使用して滴定し、錯体形成能を持つ化合物をモニターした。滴定後、241mMGdCl貯蔵液86.4μlを撹拌しながら溶液に加え、次に1N NaOHを60μl加えた。0.02μm anaporeメンブラン(Vecta−Spin)を用いて遠心分離し、低質量の不純物を溶液から取り除いた。次に20mlの水に再び懸濁し、5μm(Durapore、低タンパク質結合性)シリンジフィルターフリットを用いて濾過した。0.5mMを超える濃度でEP1272Lは非流動性の粘性ゲルとなった。
【0082】
(実施例3 EP1593Lの合成)
本実施例では、共有結合した金属結合部分と酸性官能基とを持つ、一自己集合ペプチドの合成を明らかにする(図3)。EP1593LはEPIXより提供されたbbDTPAを用いてSynPepが調製した。この化合物は標準法を用いて固相担体上で合成された。HPLC純度85%。MSデータ(M+2H)/2=1075.9、(M+3H)/3=717.5。
【0083】
(実施例4 EP1593LのGd(III)錯体)
本実施例では、EP1593LのGd(III)錯体形成を明らかにする。EP1593L(0.0336g)を4mlの水に懸濁した。これに45μlの1N NaOHを加え、溶液のpHを中性にした。この溶液を5μm(Durapore、低タンパク質結合性)シリンジフィルターフリットを用いて濾過した。この溶液2mlに207μlのGdCl溶液(19.3mM 貯蔵液)を加えた。この溶液を静かに撹拌し、指示薬としてキシレノールオレンジを使用して過剰なガドリニウムをモニターした。次に一定分割量のEP1593Lを加え、遊離ガドリニウムが残らなくなるまでモニターした。1N NaOHを用いてこの溶液を再び中性にした。
【0084】
(実施例5 EP1594Lの合成)
本実施例では、共有結合した金属結合部分と酸性官能基とを持つ、一自己集合ペプチドの合成を明らかにする。EP1594L(図3)はEPIXより提供されたbbDTPAを用いてSynPepが調製した。この化合物は標準法を用いて固相担体上で合成された。HPLC純度85%。MSデータ(M+H)/1=2266.9、(M+2H)/2=1133.1、(M+3H)/3=756.1。
【0085】
(実施例6 EP1594LのGd(III)錯体)
本実施例では、EP1594LのGd(III)錯体形成を明らかにする。EP1594L(0.0332g)を3mlの水に懸濁した。これに45μlの1N NaOHを加え、溶液のpHを中性にした。この溶液を5μm(Durapore、低タンパク質結合性)シリンジフィルターフリットを用いて濾過した。この溶液1.5mlに186μlのGdCl溶液(19.3mM 貯蔵液)を加えた。この溶液を静かに撹拌し、指示薬としてキシレノールオレンジを使用して過剰なガドリニウムをモニターした。一定分割量のGdCl貯蔵液を加え、遊離ガドリニウムイオンを観察した。次にEP1594L貯蔵液を加えて過剰なガドリニウムを除去した。1N NaOHを用いてこの溶液を再び中性にした。
【0086】
(実施例7 EP1595の合成)
本実施例では、標的結合部分を持つ一自己集合ペプチドの合成を明らかにする。EP1595(図7)は一般に販売されているビオチンを用いてSynPepが調製した。この化合物は標準法を用いて固相担体上で合成された。HPLC純度91.4%。MSデータ(M+H)/1=2013、(M+2H)/2=1006.9、(M+3H)/3=671.5、(M+4H)/4=503.95。
【0087】
(実施例8 EP1596の合成)
本実施例では、標的結合部分を持つ一自己集合ペプチドの合成を明らかにする。EP1596(図7)は一般に販売されているフェニルウンデカン酸を用いてSynPepが調製した。この化合物は標準法を用いて固相担体上で合成された。HPLC純度98.8%。MSデータ(M+H)/1=1917、(M+2H)/2=959.3、(M+3H)/3=639.9。EP1595はヒト血清アルブミン(HSA)を標的とするために使用することができる。
【0088】
(実施例9 標的化金属ペプチド凝集体)
実施例1〜8に記載したように、AEAEAKAKAEAEAKAK(配列番号1)という配列を持つ自己集合ペプチドを化学的に修飾し、グリシンリンカーを介して金属結合部分(有機キレート配位子)をこのペプチドのN末端へ繋げた。図3EP1272Lを参照する。また、同じ金属結合部分をN末端に持ち、さらにそのペプチドのC末端に酸性基を持つ修飾自己集合ペプチドを作った(図3のEP1593L及びEP1594Lを参照する)。ペプチド単独物(例えば金属結合部分に結合していないペプチド)は、肉眼で見える膜を作る傾向があった。修飾ペプチド(EP1272L及びEP1593L、EP1594L)は凝集体を作る傾向があり、肉眼で見える膜を作らなかった。
【0089】
EP1272Lペプチド凝集体をいくつかの方法で立証した。一つは、EP1272L(FW=2,243Da)の溶液を濃縮し、公称分子量限界(NMWL)が300,000Daのフィルター装置で遠心分離して精製した。高分子凝集体の構造のため、EP1272Lはフィルター装置によって保持された。二つ目は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中でEP1272Lの緩和度を測定した。緩和度は0.47Tで25mM−1−1、1.5Tで21mM−1−1であった。この緩和度はEP1272単量体の分子量から期待される値よりも有意に大きく(図4を参照する)、このことから単量体が自己集合して高分子量凝集体となっていることが示唆される。三つ目に、EP1272LのSEC−LSカラムリテンション・光散乱測定は、4x10から13x10の質量分布を有する大分子種と一致し、流体力学半径は155nmから210nmの範囲であった。このSEC−LS測定は、EP1272Lが約2,000から6,000個の単量体から構成される凝集体を形成していることを示唆している(図5)。
【0090】
EP1272L凝集体を円偏光二色性(CD)スペクトルで分析した。50μMのEP1272L溶液をCD分析したところ、βシート構造の存在が示された(図6)。これは、AEAEAKAKAEAEAKAKペプチド単独に関する先の報告と一致し、逆平衡βシートを形成しているとのことである。
【0091】
2種の、標的結合部分から成る自己集合ペプチドを作製した(図7)。C末端ビオチン化標的結合部分を持つEP1595とC末端芳香族標的結合部分(フェニルウンデカン)を持つEP1596である。EP1272Lとビオチン化されているEP1595とを組み合わせてストレプトアビジンビーズに対して親和性を持った凝集体を作った。EP1272L凝集体単独、及びフェニルウンデカンペプチドEP1596と組み合わせたEP1272Lでは、ストレプトアビジンビーズに対する親和性が明らかに低かった(図8)。これらの結果から、作製した凝集体が標的化できる性質を有してしることが示された。
【0092】
(実施例10 緩和度の測定)
緩和度の測定はPBS中で行った。EP1272L(Gd(III)錯体)を約0.6mlのPBSを入れた試験管に連続的に加える緩和度滴定を実施した。EP1272を加えるごとに試料を手で撹拌して十分に混合し、T1測定に先立ち37±2℃で10分間平衡を保つような温度にした。縦緩和(T1)時間は反転回復パルスシーケンスを用い、強度のデータを指数減衰と対応させて測定した。20MHzにおける測定は、Bruker Minispec PC 120/125/Vts核磁気共鳴プロセスアナライザーを使用して行った。温度はHaake D8−GH対流槽で制御し、37±2℃とした。64.5MHzにおける測定は1.5Tに調整したVarian XL300を使用し、64.5MHzに同調させた広域可変温度プローブを用いて行った。0.5T及び1.5TにおけるEP1272の緩和度は其々24.9mM−1−1及び21.0mM−1−1であった。0.5TにおけるEP1593の緩和度を同じ方法で測定し、19.9mM−−1であった。0.5TにおけるEP1594の緩和度を同じ方法で測定し、22.0mM−1−1であった。
【0093】
(実施例11 粒度分布の測定)
いくつかの凝集体の粒度分布をHPLCサイズ排除クロマトグラフィー及びレーザー光分散(SEC−LS)によって測定した。数回の操作において、EP1272Lはゲルろ濾過HPLCでシングルピークを示した。平均分子量は4x10から13x10Daの範囲であり、カラムから溶出されるEP1272の濃度によって異なる。凝集体の流体力学半径の平均値は155nmから210nmの範囲であり、これもカラムから溶出されるEP1272の濃度によって異なる。
【0094】
(実施例12 EP1272LのCDスペクトル)
Alliamce Protein LabsがJasco J−715分光偏光計を使用して紫外線円偏光二色性分析を実施した。50μMと5μMのEP1272LのUV
CD分析は、区別のつかないものであった。スペクトルの特徴としては負のピークが216nmにあり、正のピークが196nmにあった。こうした特徴はβシート構造に典型的なものである。
【0095】
(実施例13 EP1272Lのアビジン標的化凝集体形成)
EP1272L凝集体にビオチン化ペプチド(例えば標的結合部分を有する集合ペプチド(EP1595))を取り込むことで、EP1272Lをアビジンに対し標的化した。70μMの1.54nM EP1272L貯蔵液に様々な量のEP1595を加えた。次に1N HClを加えてpHを1.5に下げ、ペプチドの混合を誘導した。この溶液に1N NaOHを加えて中性化し、水を加えて全量を500μlとした。ビオチン化ペプチドを20%(EP1595対EP1595が5対1)有する凝集体、ビオチン化ペプチドを4%(25対1)有する凝集体、ビオチン化ペプチドを0.5%(200対1)有する凝集体を作製した。
【0096】
(実施例14 EP1596添加EP1272L形成)
フェニルウンデカン化ペプチドEP1596を10:1の割合で有するEP1272L凝集体を上記の方法で作製した。
【0097】
(実施例15 アビジン親和性分析)
3種のEP1595/EP1272組成物及び1種のEP1596/EP1272組成物及びEP1272組成物の、ストレプトアビジン磁性ビーズに対する親和性を分析した。各試料は、この分析においてビオチン化ペプチドとストレプトアビジン結合部位とが一定の割合を維持するように稀釈した。ビオチンを含まない溶液を0.5%EP1595を含むものとして扱った。数回洗浄した後、磁性ビーズを酸の中で分離した。捕捉率をガドリニウムICPで定量した。図8を参照する。
【0098】
(他の実施形態)
本発明は本発明の詳細な説明と共に記述されたが、先の記述は説明を目的としたものであって本発明の範囲を制限するものではない。発明の範囲は付属する請求事項における請求の範囲によって限定され、また他の種類並びに利点、変法は以下の請求の範囲に収まる。このことは理解されるべきことである。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】図1は金属ペプチド凝集体の概略である。
【図2】図2は標的金属ペプチド凝集体の概略である。
【図3】図3は、金属結合部分を含む自己集合ペプチドの3つの構造を説明する。
【図4】図4は本発明のペプチド凝集体に関して、緩和度対分子量の関係を示す。
【図5】図5は本発明のペプチド凝集体のSEC−LS測定を示す。
【図6】図6は本発明のペプチド凝集体のCDスペクトルである。
【図7】図7は、標的結合部分を含む自己集合ペプチドの2つの構造を説明する。
【図8】図8は、ストレプトアビジン塗布ビーズによる、本発明の種々のペプチド凝集体の捕捉率を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上の集合ペプチドを含むペプチド凝集体であって、該集合ペプチドのうちの少なくとも1つが金属結合部分を含む、ペプチド凝集体。
【請求項2】
前記凝集体の流体力学半径が2nmから500nmである、請求項1に記載の凝集体。
【請求項3】
前記集合ペプチドのうちの少なくとも1つが、標的に対する親和性を有する標的結合部分を含む、請求項1に記載の凝集体。
【請求項4】
前記標的がHSA、フィブリン、コラーゲン、デコリン、およびエラスチンからなる群より選択される、請求項3に記載の凝集体。
【請求項5】
前記金属結合部分が有機キレート配位子である、請求項1に記載の凝集体。
【請求項6】
前記有機キレート配位子がDTPA、DOTA、DOTP、DO3A、DOTAGA、およびNOTAからなる群より選択される、請求項5に記載の凝集体。
【請求項7】
前記2つ以上の集合ペプチドが、独立して、以下:
【化1】


からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の凝集体。
【請求項8】
前記有機キレート配位子が常磁性金属イオンと結合される、請求項5に記載の凝集体。
【請求項9】
前記常磁性金属イオンがGd(III)である、請求項8に記載の凝集体。
【請求項10】
前記集合ペプチドが自己集合ペプチドである、請求項1に記載の凝集体。
【請求項11】
前記配列がC末端で酸性部分によって修飾されている、請求項7に記載の凝集体。
【請求項12】
前記酸性部分が、直鎖二酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、フタル酸、イソフタル酸、およびテレフタル酸からなる群より選択される、請求項11に記載の凝集体。
【請求項13】
構造P−(C)n有する集合ペプチドであって、Pは集合ペプチドのアミノ酸配列を表し、Cは有機キレート配位子を表し、nは1から10であり得る、集合ペプチド。
【請求項14】
標的結合部分をさらに含む、請求項13に記載の集合ペプチド。
【請求項15】
標的結合部分を含む、集合ペプチド。
【請求項16】
以下:
【化2】


からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む集合ペプチドであって、ここで、該集合ペプチドは、標的結合部分、金属結合部分またはその両方をさらに含む、集合ペプチド。
【請求項17】
EP1272L、EP1593L、EP1594L、EP1595、およびEP1596からなる群より選択される、集合ペプチド。
【請求項18】
標的をMR画像化する方法であって、以下:
i)ペプチド凝集体を患者に投与する工程であって、該ペプチド凝集体は、常磁性金属イオンと結合した金属結合部分を含む少なくとも1つの集合ペプチドと、該標的に対する親和性を有する標的結合部分を含む少なくとも1つの集合ペプチドとを含む、工程;および
ii)該患者にMR画像法を受けさせる工程、
を包含する、方法。
【請求項19】
MR画像化の方法であって、以下:
i)ペプチド凝集体を患者に投与する工程であって、該ペプチド凝集体は常磁性金属イオンと結合した金属結合部分を含む少なくとも1つの集合ペプチドを含む、工程;および
ii)前記患者にMR画像化を受けさせる工程、
を包含する、方法。
【請求項20】
標的をMR画像化する方法であって、以下:
i)少なくとも2つの集合ペプチドを患者に投与する工程であって、該少なくとも2つの集合ペプチドは、該患者へ投与された後にペプチド凝集体を作ることが可能であり、該2つの集合ペプチドのうちの少なくとも1つは常磁性金属イオンと結合した金属結合部分を含み、かつ該2つの集合ペプチドのうちの少なくとも1つは該標的に対する親和性を有する標的結合部分を含む、工程;および
ii)該患者にMR画像化を受けさせる、工程、
を包含する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−8954(P2007−8954A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−210376(P2006−210376)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【分割の表示】特願2004−526054(P2004−526054)の分割
【原出願日】平成15年8月6日(2003.8.6)
【出願人】(505047005)エピックス ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】