説明

ペリクル収容容器

【課題】容器本体に固定された状態のペリクルを蓋体で被覆して異物付着を防止しつつ、輸送中にも固定状態を確実に維持でき、且つ蓋体を開いて開封したとき、固定状態を簡単に解除してペリクルの取り出しができるペリクル収容容器を提供する。
【解決手段】ペリクル16を載置した容器本体12と、ペリクル16を被覆する蓋体14とから構成され、容器本体12には、ペリクル16のペリクルフレーム16aの凹部26に、先端部16aが挿入されて回動可能のピン28と、ピン28を着脱可能に装着するピン装着部32とを備えたペリクル固定部18を複数個設置し、各ペリクル固定部18のピン装着部32に装着し、先端部16aをペリクルフレーム16aの凹部26に挿入したピン28を所定角度回動して、ピン28の先端部28aを凹部26から抜け出なくするように、ピン28を保持する保持手段としての突起部30と切欠部32aとを具備することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス、プリント基板或いは液晶ディバイスディスプレイ等の製造に使用される、ペリクル膜がペリクルフレームに貼着されたペリクルを収容するペリクル収容容器に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIや超LSI等の半導体製造或は液晶ディスプレイ等の製造において、半導体ウエハー或いは液晶用原板に光を照射してパターンを作製するリソグラフィーの作業が行われる。この際に、フォトマスク或いはレチクルにゴミが付着していると、このゴミが光を吸収したり光を曲げてしまうために、転写したパターンが変形したり、エッジががさついたものとなる他、下地が黒く汚れたりする等の現象が発生することがある。かかる作業は通常クリーンルームで行われているが、それでもフォトマスクを常に清浄に保つことが難しいため、透明なペリクル膜がペリクルフレームに貼着されたペリクルが使用されている。このペリクルをフォトマスク上に載置して露光を行うことにより、異物はフォトマスクの表面には直接付着せず、ペリクル膜上に付着するため、リソグラフィーの際に、焦点をフォトマスクのパターン上に合わせておけば、ペリクル膜上の異物は転写に無関係となる。
【0003】
かかるペリクルは、それ自体に異物が付着すると、フォトマスクへの異物付着にも繋がるため、高い清浄性が求められる。このため、その保管や輸送の際には、ペリクル収容容器が用いられる。かかるペリクル収容容器或いはペリクルの収容方法として、例えば下記特許文献1、2、3に記載されているものがある。具体的には、特許文献1に、硬質樹脂製の容器本体の内底部にペリクル枠の他側面を密接載置するようになっていて、容器本体の内底部に、内底部上に載置されたペリクル枠を周囲から保持する複数の支持体を点在して立設し、さらに、容器本体上を硬質樹脂製の蓋体で開閉自在に覆い、この蓋体は、閉蓋時に内底部上に載置されたペリクル枠の前記一側面に当接する当接部をその内面に有するペリクル用容器が記載されている。
【0004】
特許文献2に、枠体と、該枠体の上縁面に接着されたペリクル膜と、該枠体の下縁面に塗着した粘着材と、該粘着材を保護するために枠体の下面に粘着された保護フィルムからなる大型ペリクルをトレイと蓋とよりなるケースに収納する方法に於いて、前記大型ペリクルの保護フィルムの外周縁の一部或は全部を外側に突出させて押え代を形成し、かつ該押え代を粘着テープを介して該トレイに固定して大型ペリクルをケース内に収納することが記載されている。
【0005】
特許文献3に、ペリクルを載置する容器本体と、ペリクルを被覆すると共に容器本体と互いに周縁部で嵌合係止する蓋体と、前記容器本体に接合されている金属部品と、ペリクルフレームの互いに平行な一組の辺のそれぞれの外側面に少なくとも1つ設けられた合計3つ以上の穴にそれぞれ挿入される同数のフレーム保持ピンと、前記フレーム保持ピンを位置決めする位置決め部品と、からなるペリクル収納容器において、前記位置決め部品は前記金属部品に機械的に固定されているペリクル収納容器が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実公平6−45965号公報
【特許文献2】特開2004−361647号公報
【特許文献3】特許第4391435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されたペリクル用容器は、射出成型で形成でき、部品点数が少ないという利点があり、半導体用ペリクルの収納用として使用できる。しかし、このペリクル用容器は、蓋体及び容器本体のどちらも高精度で成形されている必要があるため、辺長が500mmを超えるような液晶用ペリクルの収納用としては使用されない。このような大型の容器を真空成型では精度良く形成できないことに加え、容器自体の剛性確保が難しい。
【0008】
このため、容器の取扱い時や搬送時に容器の変形が惹起され、容器とペリクルフレームとの擦れが生じて発塵し、品質の低下を招き易いからである。かかる辺長が500mmを越えるような大型のペリクルの収納容器としては、特許文献2に記載されているように、マスク粘着層を保護するライナーの一部を外側に突出させ、粘着テープにより容器本体に固定すること、或いは特許文献3に記載されているように、ペリクルフレーム外側面に設けた凹部にピンを挿入して容器本体に固定することにより、ペリクルを容器本体に確実に固定できる方法が提案されている。
【0009】
しかしながら、特許文献2のように、ペリクルの保護フィルムの外周縁の一部或は全部を外側に突出させた押え代を粘着テープで容器本体に貼付固定する場合、その作業は人手で行わざるを得ず、清浄な状態でトレイ上に固定するのが難しい。更に、粘着テープを剥がして取り出す際に、人手がペリクルフレーム付近に接近して異物付着の懸念がある。
【0010】
一方、特許文献3のように、ペリクルフレーム外側面の穴にピンを挿脱してペリクルを容器本体に着脱する場合、ペリクルの脱着の際に、さほど人手がペリクルに接近せず、異物付着が少ない。
【0011】
しかし、ペリクルを収納したペリクル収納容器を輸送する際には、ペリクルフレーム外側面の穴に挿入したピンの挿入位置を維持し続ける必要がある。このようにピンの挿入位置を維持するには、ピンを更に他のネジ等の締結手段で固定する固定手段、或いはピンを若干テーパー状に形成して嵌め合わせ、その摩擦力で固定する固定手段が考えられる。しかし、ネジ等の締結手段でピンを固定する場合は、ピンを固定する点では確実であるが、発塵の恐れがある。また、ピンを若干テーパー状に形成して摩擦力で固定する場合は、摩擦力を適切な大きさに調節することが難しく、信頼性に欠けるところがある。
【0012】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、容器本体の所定位置に固定された状態のペリクルを蓋体で被覆して異物付着を防止しつつ、輸送中にも前記固定状態を確実に維持でき、且つ蓋体を開いて開封したとき、前記固定状態を簡単に解除してペリクルの取り出しができるペリクル収容容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載されたペリクル収容容器は、ペリクル膜がペリクルフレームに貼着されたペリクルが載置される容器本体と、前記ペリクルを被覆するように前記容器本体の周縁部で嵌め合い係止される蓋体とから構成されるペリクル収容容器であって、前記容器本体には、載置された前記ペリクルフレームの外側面に形成された凹部に、先端部が挿入された状態で回動可能のピンと、前記ピンを前記凹部から抜き出し可能に装着するピン装着部とを備えたペリクル固定部が複数個設置され、前記ペリクル固定部の各々に、前記ピン装着部に装着されて前記先端部が前記ペリクルフレームの凹部に挿入された前記ピンを所定角度回動し、前記ピンの先端部が前記凹部から抜け出なくするように、前記ピンを保持する保持手段が設けられていることを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載されたペリクル収容容器は、請求項1に記載されたものであって、前記保持手段が、前記ピンに形成されている突起部と、前記ピン装着部に形成され、前記ピンが所定角度回動して前記突起部と係止する切欠部とから構成されることを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載されたペリクル収容容器は、請求項2に記載されたものであって、前記容器本体に載置された前記ペリクルを被覆する前記蓋体の内壁面が、前記ピンの回動を防止するように、前記ピンに形成された前記突起部の一部に当接していることを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載されたペリクル収容容器は、請求項2又は請求項3に記載されたものであって、前記ピンが30〜180度回動したとき、前記ピンの突起部と前記ピン装着部の切欠部とが係止されることを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載されたペリクル収容容器は、請求項1〜4のいずれか一項に記載されたものであって、前記ピンの先端部に、前記ペリクルフレームとの当接の緩衝部材としての弾性体が設けられていることを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載されたペリクル収容容器は、請求項1〜5のいずれか一項に記載されたものであって、前記ピンの後端面に、前記ピンの回動用の工具が挿入される工具用凹部が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るペリクル収容容器は、簡便な構造でありながらペリクルを容器本体に固定したピンを確実に保持することができ、輸送中にピンが脱落等してペリクルの固定が外れることがなく、且つ収容したペリクルに破損や異物付着のおそれのない信頼性の高いものである。また、蓋体を開いて容器本体に載置されているペリクルを取り出す際には、ピンを所定角度回動してピン装着部から取り外すだけでペリクルを容器本体から取り出すことができる。このように極めて簡便な操作でペリクル収容容器からペリクルの取出しが可能となり、取り出し作業に伴うペリクルへの異物付着のおそれも少ない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るペリクル収容容器の一例を示す正面図である。
【図2】図1に示すペリクル収容容器10の蓋体14を取り外した状態の正面図である。
【図3】図1に示すペリクル収容容器10のX−X面での横断面図である。
【図4】図3に示すペリクル収容容器10のペリクル固定部18を含む部分の拡大部分断面図である。
【図5】図4に示すピン28の斜視図である。
【図6】図4に示すピン28をピン装着部32に装着する様子を説明する斜視図である。
【図7】ピン装着部に装着したピンを装着孔の摩擦力を利用して保持する比較例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0022】
本発明に係るペリクル収容容器の一例を図1に示す。図1に示すペリクル収容容器10は、長方形状の容器本体12と蓋体14とから成る。かかる蓋体14を取り外した状態を図2に示す。容器本体12の中央部に載置されたペリクル16は、容器本体12の長辺に沿って形成された平坦面20,20に、ペリクル16の各角部近傍に配置された4個のペリクル固定部18によって固定されている。
【0023】
このペリクル16は、長方形状のアルミニウム等の金属製のペリクルフレーム16aに透明なフッ素樹脂等のペリクル膜16bが貼着されているものである。ペリクル16及びペリクル固定部18が載置されている容器本体12は、図1のX−X面での横断面図である図3に示すように、容器本体12の底部にリブ12a,12aを形成して補強されている。かかる容器本体12と蓋体14とは、ABSやアクリル等の合成樹脂シートを真空成型したものが用いられる。真空成型方法は、金型に加熱した樹脂シートを被せ、真空引きするだけで大型容器も容易に成形が可能であるからである。これに対して、一箇所又は数箇所のゲートから金型内に樹脂を高速注入する射出成形方法では、樹脂の流れる距離が長すぎるため、大型容器の製造が困難となる傾向にある。
【0024】
かかる容器本体12には、図4に示すようにライナー22とマスク粘着層24とを介してペリクル16が載置されており、ペリクル16は4個のペリクル固定部18(図3)によって所定位置に固定されている。このペリクル16は、図3に示すように、蓋体14で被覆されてペリクリル収容容器10内に収容されている。容器本体12と蓋体14とは、その周縁部で嵌め合って係止されている。また、ペリクル固定部18は、図4に示すように、容器本体12の所定位置に載置されたペリクルフレーム16aの側面に開口された凹部26に先端部28aが挿入された状態で回動可能のピン28と、ピン28を凹部26から抜き出し可能に装着するピン装着部32とを具備する。かかるピン28は、図5に示すように、先端部28a,中間部28b、後端部28cとから形成され、中間部28bと後端部28cとの間に、ピン28の保持手段を構成する突起部30が形成されている。突起部30は、先端部が先細状の傾斜面に形成されている。ピン28の後端部28cは、ピン28に回動等を施す操作部であって、先端部28a及び中間部28bよりも太く形成されている。この後端部28cの端面には、ピン28の回動用の工具が挿入される工具用凹部36が形成されている。
【0025】
図5に示すピン28の工具用凹部36は、六角レンチの先端部を挿入できるように六角形に形成されている。更に、ピン28の中間部28bは、先端部28aよりも太く形成されており、ピン28の先端部28aと中間部28bとの境界に段差28eが形成されている。この段差28eが、ペリクルフレーム16aの側面と当接する。かかる段差28eとペリクルフレーム16aの側面と当接を緩和する緩衝部材として、段差28eにリング状の弾性体34が装着されている。弾性体34としては、ニトリルゴム、エチレンプロプレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等のゴムを利用できる。
【0026】
かかるピン28が装着自在に装着されるピン装着部32は、図4に示すように、容器本体12の平坦面20にネジ等の締結手段(図示せず)で取り付けられるものである。かかるピン装着部32は、図6(a)に示すように、四面体であって、ピン28に形成された突起部30及び後端部28cが挿入されるU字溝32aの一端が四面体の一面側に開口されている。このU字溝32aの他端は、四面体の中央部近傍に形成された四角形状の切欠部32bの内壁面の一面側に開口されている。かかる切欠部32bは、突起部30と保持手段を構成し、ピン28の中間部28bと後端部28cとの間に形成された突起部30が回動可能に挿入される。更に、切欠部32bの内壁面であって、U字溝32aの他端が開口された一面側に対応する他面側には、ピン28の先端部28a及び中間部28bの一部が挿通される孔32cが開口されている。
【0027】
かかるピン装着部32には、図6(a)に示すように、段差28eに弾性体34を挿入したピン28を装着する。ピン28は、ピン装着部32の孔32cにピン28の先端部28a及び中間部28bを挿入しつつ、ピン28の突起部30をU字溝32aから切欠部32bに挿入すると共に、後端部28cをU字溝32aに挿入する。ピン装着部32にピン28を装着したとき、図6(b)に示すように、ピン28の先端部28aと中間部28bの一部がピン装着部32から突出する。かかる図6(b)に示す状態のピン28は、ピン装着部32のU字溝32a及び切欠部32bから引き抜くことができる。このため、ピン28を図6(b)に示す矢印の方向にピン28を回動する。かかるピン28の回動によって、突起部30も回動し、図6(c)に示すように、突起部30と切欠部32bの内壁面とが係止される。かかる突起部30と切欠部32bとの係止によって、ピン28はピン装着部32に保持されて引き抜くことができなくなる。
【0028】
一方、図6(c)に示す突起部30と切欠部32bとの係止を解除する際には、ピン28を図6(b)に示す矢印と反対方向に回動することによって、図6(b)に示すように、突起部30と切欠部32bの内壁面との係止を解除でき、ピン28はピン装着部32から簡単に抜き出すことができる。かかる突起部30と切欠部32bとの係止又はその解除のためのピン28の回動角は、操作性や係止の確実性の観点等から30〜180度、特に45〜90度の範囲とすることが好ましい。このピン28の回動は、ピン28の後端部28cの端面に形成した工具用凹部36に六角レンチの先端部を挿入して行うことが好ましい。
【0029】
図6(c)に示すように、ピン28が保持されたピン装着部32を、容器本体12に載置されるペリクル16を固定するペリクル固定部18として容器本体12の長辺に沿って形成された平坦面20の所定箇所に取り付ける。この際に、ペリクル固定部18は、そのピン28の先端部28aが、図4に示すように、ペリクルフレーム16aの凹部26に挿入される位置とする。かかる取り付けは、ネジ等の締結手段で行う。この締結手段としては、ピン装着部32中に金属のインサート部品などでメスネジ部を設け、容器本体12の外側からボルト固定することが、ペリクル収容容器10内に、ネジ等の部品が露出することがなく、クリーン度維持の点から好適である。更に、ボルト固定は、樹脂ワッシャ等を介して固定するのが好ましく、特に、ピン装着部32を容器本体12に固定した後、更に樹脂部品同士の接線部を有機溶剤などで溶解して接着することが発塵防止の点から好ましい。
【0030】
ところで、ペリクル固定部18が、図6(c)に示すように、突起部30と切欠部32bとが係止している状態でも、輸送中の振動等によってピン28が回動して突起部30と切欠部32bとの係止が解除されるおそれがある。かかるピン28の回動は、図4に示すように、蓋体14の内壁面が、切欠部32bと係止している突起部30の一部に当接するようにペリクル16を被覆することによって防止できる。この場合でも、蓋体14を取り外すことによって、切欠部32bと突起部30との係止を解除できるようにピン28を回動できる。
【0031】
図1〜図6に示すピン28は、樹脂を射出成型、トランスファー成型等で一体成型で製作できる。材質としては、エポキシ樹脂、ABS樹脂(アクリルニトリルブタジエンスチレン樹脂)、PPS樹脂(ポリフェニレンスルファイド樹脂)、PE樹脂(ポリエチレン樹脂)、PEEK樹脂(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)等を用いることができ、必要に応じてガラス繊維などのフィラーなどを混入して強度を向上させることも好ましい。かかるピン28を装着するピン装着部32は、樹脂を射出成型、トランスファー成型等で一体成型で製作できる。材質としては、エポキシ樹脂、ABS樹脂(アクリルニトリルブタジエンスチレン樹脂)、PPS樹脂(ポリフェニレンスルファイド樹脂)、PE樹脂(ポリエチレン樹脂)、PEEK樹脂(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)等を用いることができる。
【0032】
図1〜図6に示すペリクル収容容器10によれば、ペリクル固定部18を構成するピン装着部32に装着したピン28の先端部28aを、容器本体12に載置したペリクルフレーム16aの凹部26に挿入した後、ピン28を回動することによって、ペリクル16を容器本体12に確実に保持できる。更に、ピン装着部32と係止しているピン28の突起部30の一部は、容器本体12に被着した蓋体14の内壁面に当接しているため、輸送中の振動等によってピン28が回動することを防止でき、輸送中にピン28が脱落等してペリクル16の固定が外れることを確実に防止できる。かかるペリクル収容容器10は、収容したペリクル16に破損や異物付着のおそれのない信頼性の高いものである。また、蓋体14を開いて容器本体12に載置されているペリクル16を取り出す際には、ピン28を所定角度回動してピン装着部32から抜き出すだけでペリクル16を容器本体12から取り出すことができる。このため、ペリクル収容容器10は、そのペリクル16の取出し作業も簡単である。
【0033】
図1〜図6に示すペリクル収容容器10では、ペリクル16を、容器本体12の長辺に沿って形成された平坦面20,20に、ペリクル16の各角部近傍に配置された4個のペリクル固定部18によって固定しているが、4個以上のペリクル固定部18を設けてもよい。また、ペリクル固定部18の配設は、容器本体12の短辺に沿って配設してもよく、長辺及び短辺の各辺に沿って配設してもよい。
【実施例1】
【0034】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
帯電防止ABS樹脂製のシート材を用い、真空成型法により図1及び図2に示す形状の容器本体12及び蓋体14を製作した。容器本体12と蓋体14とは、その周縁部で嵌め合って係止されて、図1に示すペリクル収容容器10を形成する。このペリクル収容容器10の大きさは、外形890×690mm、高さ70mmである。成形に使用したシート材は、蓋体14用としては透明の3mmのものであり、容器本体12用としては黒色の5mmのものである。
【0036】
更に、射出成型によって、ABS樹脂を用いて図6に示すピン装着部32と、PPS樹脂を用いて図5に示すピン28を製作した。ピン28は、先端部28a,中間部28b、後端部28cとから形成され、中間部28bと後端部28cとの間に、ピン28の保持手段を構成する突起部30が形成されている。突起部30は、先端部が先細状の傾斜面に形成されている。ピン28の後端部28cは、ピン28に回動等を施す操作部であり、先端部28a及び中間部28bよりも太く形成されている。この後端部28cの端面には、ピン28の回動用の六角レンチの先端部が挿入される工具用凹部36が形成されている。かかるピン28において、中間部28bは先端部28aよりも太く形成されており、ピン28の先端部28aと中間部28bとの境界に段差28eが形成されている。
【0037】
また、ピン装着部32は、四面体であって、ピン28の突起部30及び後端部28cが挿入されるU字溝32aの一端が四面体の一面側に開口されている。このU字溝32aの他端は、四面体の中央部近傍に形成された四角形状の切欠部32bの内壁面の一面側に開口されている。かかる切欠部32bは、ピン28の突起部30と保持手段を構成し、ピン28の中間部28bと後端部28cとの間に形成された突起部30が回動可能に挿入される。更に、切欠部32bの内壁面であって、U字溝32aの他端が開口された一面側に対応する他面側には、ピン28の先端部28a及び中間部28bが挿通される孔32cが開口されている。かかるピン装着部32の下面側には、横銅製のインサートナット(図示せず)を4箇所設けた。
【0038】
次いで、図6(a)に示すように、ピン28をピン装着部32に挿入し、図6(b)に示すように、ピン28の突起部30をピン装着部32の切欠部32bに挿入した。更に、ピン28の後端部28cを右方向に45度回動し、図6(c)に示すように、突起部30と切欠部32bの内壁面とが係止される。この際に、突起部30の傾斜面が水平となるようにした。更に、ピン装着部32から突出している先端部28aと中間部28bとの境界の段差28eに、厚さ0.5mmのフッ素ゴム製のリング状弾性体34を取り付けてペリクル固定部18を形成した。かかるペリクル固定部18を容器本体12の平坦面20の所定箇所に載置し、図4に示すようにピン28の先端部28aがペリクルフレーム16aの凹部26に挿入される位置に取り付けた。この取り付けは、容器本体12の外側からステンレス製六角穴付きボルト(図示せず)を用いて行った。その際に、POM製の樹脂プレート(厚さ1.5mm)を挟み込み、シール性を高めるようにした。このようにして形成したペリクル収容容器10をClass10のクリーンルームに搬入し、界面活性剤と純水で良く洗浄した後、完全に乾燥させた。尚、ピン28の突起部30は、図6(c)に示すように、ピン28を回動して突起部30と切欠部32bの内壁面とを係止したとき、水平となった傾斜面は、蓋体14を容器本体12に被着した際に、蓋体14の内壁面に接触するようにした。
【0039】
このクリーンルーム内において、ペリクル収容容器10とは別に、外寸797mm×474mm、内寸789mm×456mm、高さ5.9mmのペリクル16を製作した。このペリクル16には、アルミ合金製のペリクルフレーム16a(厚さ4.8mm)、マスク粘着剤及びペリクル膜接着剤としてシリコーン粘着剤、ペリクル膜16bとして厚さ3μmのフッ素樹脂を用いた。また、ペリクルフレーム16aの各長辺には、710mmの間隔で直径2.5mm×深さ1.8mmの凹部26を2個所、各短辺にはハンドリングのため幅1.5mm、深さ2.3mmの溝(図示せず)を設けた。このペリクル16を暗室内での集光ランプによる異物検査のうえ、ペリクル収容容器10に収納した。この際に、容器本体12に設けたペリクル固定部18のピン28の先端部をペリクルフレーム16aの凹部26挿入した後、図6(c)に示すように、ピン28を回動してペリクル16を容器本体12に固定し、蓋体14を被着した。更に、蓋体14と容器本体12との周縁部を幅35mmのPVC製粘着テープ(図示せず)で貼り付け固定してから、ウレタン製クリップ(図示せず)を各長辺に2箇所ずつ取り付けた。そして、最後に、内部を清浄にクリーニングした帯電防止PE製袋にて2重に梱包し、内部にクッション材を配した強化ダンボール製梱包箱(図示ぜず)に収納した。
【0040】
このようにペリクル収容容器10を梱包した強化ダンボール製梱包箱を、群馬から福岡まで(群馬県⇔東京はトラック、東京⇔福岡間は航空機)を往復させる輸送テストを行った。輸送後のペリクル収容容器10をクリーンルームに搬入し、内部の確認を行った。ピン28はピン装着部32に確実に保持され、その先端部28aもペリクルフレーム16aの凹部26に挿入されたままで、ペリクル16は確実に容器本体12に固定されていた。そのままの状態で、集光ランプを照射して容器本体12上の発塵状況を確認したが、ペリクル固定部18付近及び容器本体10上に異物の発生は見られなかった。更に、ピン28の工具用凹部36に六角レンチを挿入し、ピン28を回動して突起部30と切欠部32bとの係止を解除した。次いで、ペリクル16を容器本体12から取り出して暗室内に搬送し、集光ランプによりペリクル16の表面に付着した異物の検査を行った。その結果、ペリクル16に異物の付着は全く見られず、極めて清浄な状態が維持されていた。
【0041】
(比較例1)
図7に示すペリクル固定部100を製作した。図7に示すペリクル固定部100を構成するピン102は、PPS樹脂製の円柱状部材によって形成されており、先端部102a、中間部102b及び後端部102cから成る。太さは、先端部102a<中間部102b<後端部102cの順序であり、先端部102aと中間部102bとの境界に段差が形成されており、フッ素ゴム製のリング状の弾性体106が装着されている。かかるピン102には、図5に示すピン28に形成されていた突起部30は形成されていない。このピン102が装着されるピン装着部104は、ABS樹脂を用いて射出成型によって形成した。ピン装着部104は、ピン28の先端部102a及び中間部102bの一部が通過可能であって、中間部102bの残部及び後端部102cが挿入される貫通孔108が形成されている。かかるピン装着部104には、図6(a)に示すピン装着部32のように、U字溝32a及び切欠部32bは形成されていない。このため、ピン装着部104では、貫通孔108に挿入したピン102が、その外壁面と貫通孔108の内壁面との摩擦力でピン28が固定されるように、貫通孔108の内径がピン102の挿入方向に次第に小径に形成されている。このように図7に示すペリクル固定部100は、ピン装着部104の貫通孔108に、摩擦力でピン102が固定される。
【0042】
図7に示すペリクル固定部100を実施例1と同様にして容器本体12に取り付けた。次いで、容器本体12に載置したペリクル16のペリクルフレーム16aの凹部26に、ペリクル固定部100を構成するピン102の先端部102aを挿入し、ペリクル16を容器本体12に固定した。更に、容器本体12に蓋体14を被着してペリクル16を収容したペリクル収容容器10を形成した。その後、実施例1と同様にして、ペリクル収容容器10を梱包し輸送試験を行った。
【0043】
輸送後のペリクル収容容器10をクリーンルームに搬入し、内部の確認を行った。すると、ペリクル16は容器本体12上に留まっていたが、4箇所のペリクル固定部100のうち、1箇所でピン102がピン装着部104から抜け掛かっているのが確認された。また、その先端部104aもペリクルフレーム16aの凹部26から抜けており、先端部104aがペリクルフレーム16aの外面に擦れて直径数十μmの異物が数十個付着していた。また、そのままの状態で、集光ランプを照射して容器本体12上の発塵状況を確認したところ、抜けかかっていたペリクル固定部100と対向するペリクル固定部100の周辺でも異物の付着が見られた。更に、ピン102について、ニトリル製グローブをした手でピン装着部104より注意深く引き抜き、ペリクル16を暗室内に搬送して集光ランプにより表面に付着した異物の検査を行った。その結果、ペリクル膜16b上に直径10〜20μm程度の異物が12個付着していた。また、それらのうち約半数はペリクル固定部100の周辺に分布していた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係るペリクル収容容器は、半導体装置用のペリクルの収容容器として用いることができ、半導体装置用のペリクルよりも大型の液晶用のペリクルの収容容器として用いることができる。
【符号の説明】
【0045】
10はペリクル収容容器、12は容器本体、12aはリブ、14は蓋体、16はペリクル、16aはペリクルフレーム、16bはペリクル膜、18,100はペリクル固定部、20は平坦面、22はライナー、24はマスク粘着層、26は凹部、28,102はピン、28a,102aは先端部、28b、102bは中間部、28c、102cは後端部、28eは段差、30は突起部、32,104はピン装着部、32aはU字溝、32bは切欠部、32cは孔、34,106は弾性体、36は工具用凹部、108は貫通孔である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペリクル膜がペリクルフレームに貼着されたペリクルが載置される容器本体と、前記ペリクルを被覆するように前記容器本体の周縁部で嵌め合い係止される蓋体とから構成されるペリクル収容容器であって、
前記容器本体には、載置された前記ペリクルフレームの外側面に形成された凹部に、先端部が挿入された状態で回動可能のピンと、前記ピンを前記凹部から抜き出し可能に装着するピン装着部とを備えたペリクル固定部が複数個設置され、
前記ペリクル固定部の各々に、前記ピン装着部に装着されて前記先端部が前記ペリクルフレームの凹部に挿入された前記ピンを所定角度回動し、前記ピンの先端部が前記凹部から抜け出なくするように、前記ピンを保持する保持手段が設けられていることを特徴とするペリクル収容容器。
【請求項2】
前記保持手段が、前記ピンに形成されている突起部と、前記ピン装着部に形成され、前記ピンが所定角度回動して前記突起部と係止する切欠部とから構成されることを特徴とする請求項1に記載のペリクル収容容器。
【請求項3】
前記容器本体に載置された前記ペリクルを被覆する前記蓋体の内壁面が、前記ピンの回動を防止するように、前記ピンに形成された前記突起部の一部に当接していることを特徴とする請求項2に記載のペリクル収容容器。
【請求項4】
前記ピンが30〜180度回動したとき、前記ピンの突起部と前記ピン装着部の切欠部とが係止されることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のペリクル収容容器。
【請求項5】
前記ピンの先端部に、前記ペリクルフレームとの当接の緩衝部材としての弾性体が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のペリクル収容容器。
【請求項6】
前記ピンの後端面に、前記ピンの回動用の工具が挿入される工具用凹部が形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のペリクル収容容器。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−97046(P2013−97046A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237389(P2011−237389)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】