説明

ペリクル用粘着剤

【課題】 ペリクルにおける異物検査に際して 粘着剤内や粘着剤表面で反射、屈折しながら迷光となって誤検出を起こすことのない粘着剤を選定する。
【解決手段】 少なくともペリクル膜と、前記ペリクル膜が一方の端面に貼り付けられ、他方の端面にペリクルをガラス基盤に貼り付けるための粘着剤を介して離型シート(セパレータ)が設けられたペリクルフレームとから構成されるペリクルにおける粘着剤において、前記粘着剤の全光線透過率が70%以下であることを特徴とする。
前記粘着剤が黒色であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス、プリント基板、液晶ディスプレイ等を製造する際のリソグラフィ用マスクのゴミ除けとして使用されるリソグラフィー用ペリクルの製造方法に関し、特には、ペリクルフレームの粘着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
LSI、超LSIなどの半導体製造或いは液晶ディスプレイ等の製造においては、半導体ウェハー或いは液晶用原板に光を照射してパターンを作製するが、この時に用いるフォトマスク或いはレチクル(以下、単にフォトマスクと記述する)にゴミが付着していると、エッジががさついたものとなるほか、下地が黒く汚れたりするなど、寸法、品質、外観などが損なわれるという問題があった。
このため、これらの作業は通常クリーンルームで行われているが、それでもフォトマスクを常に清浄に保つことが難しい。そこで、フォトマスク表面にゴミ除けとしてペリクルを貼り付けした後に露光を行っている。この場合、異物はフォトマスクの表面には直接付着せず、ペリクル上に付着するため、リソグラフィー時に焦点をフォトマスクのパターン上に合わせておけば、ペリクル上の異物は転写に無関係となる。
【0003】
一般に、ペリクルは、光を良く透過させるニトロセルロース、酢酸セルロース或いはフッ素樹脂などからなる透明なペリクル膜をアルミニウム、ステンレススチール鋼、ポリエチレンなどからなるペリクルフレームの上端面にペリクル膜の良溶媒を塗布した後、風乾して接着する(特許文献1参照)か、アクリル樹脂やエポキシ樹脂などの接着剤で接着する(特許文献2、特許文献3参照)。さらに、ペリクルフレームの下端にはフォトマスクに接着するためのポリブテン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂等からなる粘着剤、及び粘着剤の保護を目的とした離型シート(セパレータ)から構成される。
【0004】
ペリクルを使用する際には、離型シートは剥がされ、ペリクルの粘着剤をフォトマスクに圧力をかけて押し当てることで貼り付けが行われる。光を照射してパターンを作製する作業は、ペリクルが下になる向きで行われ、長い場合には数年という長期間にわたって使用される。
【0005】
ところで、ペリクルをフォトマスクに貼り付けた後、ペリクルとフォトマスクの異物検査を行うが、ペリクルをフォトマスクに貼り付ける粘着剤が透明である場合、異物検査機が、特にペリクルフレームの近傍において、異物の誤検出をしてしまうことがある。即ち、異物検査用の光源から照射された光が粘着剤内や粘着剤表面で反射、屈折しながら迷光となって検出器へ入射するため、その入射光を異物によるものと誤認識し、結果として異物が存在するとの誤検出を行ってしまう。
すると、実際にはペリクルにもフォトマスクにも異物が存在しないにも関わらず、検査機によって異物が存在すると判断されてしまうことにより不合格品と判定されてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58−219023号公報号公報
【特許文献2】米国特許第4861402号明細書
【特許文献3】特公昭63−27707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みて、ペリクルにおける異物検査に際して 粘着剤内や粘着剤表面で反射、屈折しながら迷光となって誤検出を起こすことのない粘着剤を選定することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のペリクル用粘着剤は、少なくともペリクル膜と、前記ペリクル膜が一方の端面に貼り付けられ、他方の端面にペリクルをガラス基盤に貼り付けるための粘着剤を介して離型シート(セパレータ)が設けられたペリクルフレームとから構成されるペリクルにおける粘着剤において、前記粘着剤の全光線透過率が70%以下であることを特徴とする。
前記粘着剤が黒色であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ペリクルをフォトマスクに貼り付けるための粘着剤の全光線透過率が70%以下とすることによって、特にペリクルフレーム近傍において、フォトマスク検査時に異物検査用の光が粘着剤内で反射、屈折し迷光となって異物検出器へ入射することがなくなるため、異物の誤検出を抑えることができるので歩留りの低下を防止することができる。また前記粘着剤を黒色とすることによって粘着剤表面での異物検査用の光の反射を抑えることができるので、より歩留りの低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一例のペリクルの一実施の形態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1は、本発明のペリクルの一実施の形態を示す縦断面図である。
本発明のペリクル10では、ペリクル10を貼り付ける基板(フォトマスク又はそのガラス基盤部分)の形状に対応した通常四角枠状(長方形枠状又は正方形枠状)のペリクルフレーム12の上端面にペリクル膜11が張設され、ペリクルフレーム12の下端面にはペリクルを基板に貼り付けるための粘着剤13が形成されている。更に、粘着剤13の下端面には、粘着剤13を保護するための離型シート(セパレータ)14が剥離可能に貼り付けられている。
【0012】
ここで、ペリクル膜の材質には特に制限はなく、光をよく透過させるニトロセルロース、酢酸セルロース、或いはフッ素樹脂等の公知のものを使用することができる。
ペリクルフレームの材質に特に制限はなく、アルミニウム、ステンレススチール等の金属、ポリエチレンなどの合成樹脂等の公知のものを使用することができる。
本発明において、粘着剤は、ペリクルフレームの下端面に所定の幅(通常、ペリクルフレームのフレーム幅と同じ又はそれ以下)で設けられ、ペリクルフレームの下端面の全周に亘ってペリクルフレームを基板に貼り付けることができるように、形成されている。
【0013】
前記粘着剤としては公知のものを使用することができ、ポリブテン系粘着剤、ポリ酢酸ビニル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、アクリル系粘着剤等を用いることができる。
粘着剤は、その全光線透過率が70%以下であることが好ましい。全光線透過率の数値は、ヘーズメーターHGM−2(スガ試験機株式会社製:商品名)にて粘着剤を測定した値である。全光線透過率が70%よりも大きいと異物検査機から照射された光が粘着剤の内部で反射、屈折しながら迷光となり、検出器へ入射し、異物が存在すると誤検出することがある。更には粘着剤は粘着剤表面からの反射光を抑えるため、黒色であることがより好ましい。
【0014】
粘着剤の全光線透過率を70%以下にするためには、公知の充填剤、例えば、ヒュームドシリカ、結晶性シリカ、沈降性シリカ、中空フィラー、二酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、層状マイカ、珪藻土、ガラス繊維等を配合することにより、行うことができる。また、黒色化する方法についてはカーボンや酸化鉄など黒色の顔料、染料を添加することで行うことができる。上記充填剤や黒色化剤は粘着剤の特性を低下させない範囲で添加する。
【0015】
ペリクルフレームへの粘着剤の塗布は、必要により粘着剤を溶媒で希釈して、ペリクルフレームの下端面に塗布し、加熱乾燥し、硬化させることにより形成する。この場合、粘着剤の塗布方法としては、刷毛塗り、スプレー、自動ディスペンサ等による方法が挙げられる。
離型シート(セパレータ)は、ペリクルを基板に貼り付けるまで粘着剤を保護するためのものであり、ペリクルの使用時には取り除かれる。そのため、離型シート(セパレータ)は、粘着剤をペリクルの使用時まで保護することが必要な場合に、適宜設けられる。製品ペリクルでは、一般に、離型シート(セパレータ)を貼り付けたもので流通する。
離型シート(セパレータ)の材質にも特に制限はなく、公知のものを使用することができ、また、離型シート(セパレータ)は公知の方法で粘着剤に貼り付ければよい。
【実施例】
【0016】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
[実施例1]
はじめに、外寸782×474mm、内寸768×456mm、高さ5.0mmであり、上端面及び下端面の各々の外内両辺縁部がR加工され、これら両端面側の各々の平坦面が、幅4.0mm、コーナー部の内寸R2.0mm、外寸R6.0mmである長方形のアルミニウム合金製ペリクルフレームを機械加工により製作し、表面に黒色アルマイト処理を施した。
【0017】
このペリクルフレームをクリーンルームに搬入し、中性洗剤と純水により、十分に洗浄・乾燥させた。
全光線透過率が70%以下である粘着剤としては、シリコーン粘着剤X−40−3122(信越化学工業株式会社製、製品名)100質量部にヒュームドシリカMusil−120A(信越化学工業株式会社製、製品名)5質量部を添加、混合して調製した。そして調製した粘着剤をペリクルフレームの下端面に塗布した。
【0018】
その後、粘着剤が流動しなくなるまで風乾させた後、更に高周波誘導加熱装置(図示せず)によりペリクルフレームを130℃まで加熱し、粘着剤を硬化させた。
また、前記ペリクルフレーム上端面には、シリコーン粘着剤KR−3700(信越化学工業株式会社製、製品名)を介して、ペリクル膜を貼り付け、カッターにて外側の不要膜を切除しペリクルを完成させた。
【0019】
[実施例2]
粘着剤としてシリコーン粘着剤X−40−3122(信越化学工業株式会社製、製品名)100質量部に黒色カーボンペーストLIMSカラー02(信越化学工業株式会社製、製品名)0.3質量部を添加、混合して調製したほかは、実施例1と同様にして、ペリクルを作製した。
【0020】
[実施例3]
粘着剤としてシリコーン粘着剤X−40−3122(信越化学工業株式会社製、製品名)100質量部に黒色酸化鉄ペーストK−COLOR−FE035(信越化学工業株式会社製、製品名)3質量部を添加、混合して調製したほかは、実施例1と同様にして、ペリクルを作製した。
【0021】
[実施例4]
粘着剤としてアクリル粘着剤SK−1425(綜研化学株式会社製、製品名)100質量部に黒色カーボンペーストLIMSカラー02(信越化学工業株式会社製、製品名)0.3質量部を添加、混合して調製したほかは、実施例1と同様にして、ペリクルを作製した。
【0022】
[比較例1]
粘着剤としてシリコーン粘着剤X−40−3122(信越化学工業株式会社製、製品名)をそのまま使用したほかは、実施例1と同様にして、ペリクルを作製した。
実施例1〜4及び比較例1の評価結果を表1に示す。
【0023】
[外観]
前記実施例1〜4及び比較例1で調整した粘着剤の外観色を目視にて確認した。
[全光線透過率]
前記実施例1〜4及び比較例1で調製した粘着剤を硬化させ、50×50×2mmのシート状に成形し、ヘーズメーターHGM−2(スガ試験機株式会社製、製品名)により全光線透過率を測定した。
[異物検査]
前記実施例1〜4及び比較例1で作製したペリクルのペリクル膜上の異物を観察した。異物の誤検出があるか、異物検査用の光源の照射角度を変えて観察した。
【0024】
【表1】

【0025】
表1の結果から、本発明の粘着剤を使用することによって、異物の誤検出がなくなり、歩留りの低下を防止することができることが確認できた。
【符号の説明】
【0026】
10:ペリクル
11:ペリクル膜
12:ペリクルフレーム
13:粘着剤
14:離型シート(セパレータ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともペリクル膜と、前記ペリクル膜が一方の端面に貼り付けられた、他方の端面にペリクルをガラス基盤に貼り付けるための粘着剤を介して離型シート(セパレータ)が設けられたペリクルフレームとから構成されるペリクルにおける粘着剤において、前記粘着剤の全光線透過率が70%以下であることを特徴とするペリクル用粘着剤。
【請求項2】
前記粘着剤が黒色である請求項1に記載のペリクル用粘着剤。

【図1】
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【公開番号】特開2011−253176(P2011−253176A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86527(P2011−86527)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】