説明

ペルチエベースの凍結融解弁およびその使用方法

冷却された熱的マス106間の熱短絡回路の経路が減少され、または存在せず、弁遷移時間が最小化された、ペルチエヒートポンプを使用した凍結融解弁が提供される。凍結融解弁は、横切って穴あけされた銅のウォータージャケット102またはマニホールドを含む熱交換表面に取り付けられた、ペルチエヒートポンプ101を含む。ペルチエヒートポンプは、冷却された熱的マス106を実質的に一定の低温に維持するように動作させる。抵抗加熱要素108を使用して、加熱された熱的マス107を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2002年12月9日出願の、「ペルチエベースの凍結融解弁およびその使用方法(Peltier Based Freeze−Thaw Valves and Method of Use)」と題する米国仮特許出願第60/431,810号に基づき優先権を主張するものであり、その出願は、参照により本明細書にそのすべてを組み込むものとする。
【0002】
本発明は、一般に、高圧隔離機能を果たすことができる凍結融解弁の技術に関する。
【背景技術】
【0003】
直径が小さいチャネル内で液体の流れを管理することには、チャネルのスケールおよび液体の容積が減少するにつれて、挑戦課題が生じる。1つの重大な制約は、従来の弁構成技術である。流体管理のスケールが、従来の切り替え方法に内在する固有の乏しい押しのけ空間または死空間によって厳しく影響されるとき、ナノリットルの容積中の液体の流れを管理することは、かなりの制限に直面する。液体を凍結し融解することによってそれ自体のオン/オフ弁として働くように、これらナノスケールの毛管およびチャネル内で液体を使用する方法は、当技術分野では知られている。たとえば、米国特許第6,159,744号明細書および第5,795,788号明細書を参照されたい。液体の流れは、管またはチャネルのセグメント内に収容された液体をただ単に凍結または融解させることによって、別のチャネルまたはチャンバへ迂回させることができることが判明している。この流れの切り替え装置は、「凍結融解弁作用装置(freeze−thaw valving)」と呼ばれ、溶剤濡れ経路内に可動部品を必要とせず、最も重要なことは解析システム内に死空間を生ずる一因にならないことである。
【0004】
従来技術の凍結融解弁は、凍結融解セグメントにおいて直接冷却ガス噴流を吸引することによって、凍結融解セグメント内の液体を凍結させる。液体二酸化炭素および液体窒素などの作用物が使用されて凍結融解セグメントの含有物を凍結させる。残念ながら、凍結融解セグメントにおける冷却ガス噴流の吸引によって、隔離するものとして働く霜が蓄積され、それによって冷凍効率が低下して凍結融解セグメント内の温度上昇が許されることがあり得る。凍結融解セグメント内のこの温度上昇の結果、弁が最終的に不首尾に終わることになる。さらに、大量のガスが、これら従来技術の凍結融解弁を動作させるために、必要になる。
【0005】
従来技術の凍結融解弁は、凍結融解セグメントに向けられた冷却ガス噴流を使用するが、ペルチエ原理に基づくヒートポンピングは、凍結融解セグメントの液体含有物の凍結を達成するために熱を取り去るための、実行可能な方法である。通常、ペルチエ段の縦列(cascade)または直列構成が、凍結融解セグメントを急速に凍結するのに要求される温度に到達するために、必要になる。市販されている6段の縦列構成は、ヒートポンプのそれぞれホット面とコールド面の間で130℃の高さの温度差を発生することができる。残念ながら、その縦列構成は、通常、駆動電圧を加えられたとき、十分迅速に応答しない。というのは、温度を変化させるために、縦列構成は、それ自体の熱的マス(thermal mass)に関連する熱を伝達させなければならないからである。さらに、装置の温度に急速なかつ/または膨大な変化が起きるとき、その変化によって引き起こされる熱応力が、装置を劣化させ装置の寿命を縮める一因となる。
【0006】
凍結融解弁の作用のために使用されるペルチエヒートポンプ中の熱応力問題を避けるために、実質的に一定の駆動電流によってヒートポンプを駆動し、それによってホット面とコールド面の間のその結果得られる温度差が、実質的に一定になるモードで、ヒートポンプを動作させることが望ましい。残念ながら、一定ポンピングモードにおけるペルチエヒートポンプの動作は、凍結融解弁の作用でのその使用につながらない。というのは、凍結融解弁の作用を適切に使用するために、流体導管の同じ選択されたセグメントを冷凍し融解することがともに可能である必要があるからである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ペルチエデバイスが、一定電圧を加えられ、弁の状態遷移時間(開から閉、または閉から開)が最小にされた、ペルチエヒートポンプによる冷凍を使用した凍結融解弁を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、凍結融解弁は、横切って穴あけされた銅のウォータージャケットまたはマニホールドを含む熱交換表面に取り付けられた、ペルチエスタックを含む。ウォータージャケットは、ペルチエ要素を電気的に駆動する結果生ずるジュール熱を含め、ペルチエスタックを介して送り出された不要な熱を除去する。ウォータージャケットは、通常、放熱器および循環ポンプを含む液体循環熱排出経路の一構成要素である。代替実施形態では、空冷のフィン付ヒートシンクを使用してペルチエスタックから不要な熱を除去する。
【0009】
ペルチエスタックのコールド面上に、冷却された熱的マスが、取り付けられ、冷凍する液体を収容する流体導管の凍結融解セグメントがそれを通って配置されるわずかに介在するギャップを有して、冷却された熱的マスは、加熱された熱的マスに対して配置される。加熱された熱的マスは、抵抗性加熱要素によって加熱され、液体の融点より高い温度に維持される。冷却された熱的マスおよび加熱された熱的マスは、ともに良好な熱伝導性を有した材料から構成される。流体導管は、高熱伝導性を有した可動性の低質量ブロックと緊密に熱接触する。この低質量ブロックは、流体導管を含み、加熱されたマスとの接触と冷却されたマスとの接触の間を交互に移動させることができる。この低質量ブロックが、加熱された熱的マスと接触する位置から、または冷却された熱的マスと接触する位置から移動されたとき、高熱伝導性を有して結合された可動ブロックの比較的に低い熱的マスによって、その可動ブロックの温度が迅速に変化することが可能になる。可動ブロックの位置を転換させることによって温度を迅速に変化させる能力によって、凍結融解弁は、ペルチエスタックに大きい周期的熱応力を課することなく、短い時間の周期内で開または閉が可能になる。
【0010】
代替実施形態では、本発明による凍結融解弁は、囲い内に収容され、その内部は、不完全真空状況下に維持される。空気および関与する水蒸気を排気して、実質的に弁のコールド面上に霜が蓄積されないようにする。高品質の真空をさらに使用して、空気による熱伝導および対流に寄与し得る、弁の加熱された領域と冷却された領域の間の熱伝達のその成分を極めて低減することができる。空気が存在しないことによって、囲いは、この例示的な実施形態の範囲内では、良好な熱伝導性を有した材料から構築することが可能になる。良好な熱伝導性を有した材料から囲いを組み立てることによって、囲いは、ペルチエヒートポンプのホット面を加熱された熱的マスと熱的に連結する熱回路として、使用することが可能になる。この2つの構成要素の連結によって、ペルチエホット面から加熱された熱的マスへの熱伝達が可能になり、加熱された熱的マスを抵抗性加熱要素によって加熱する必要が省かれる。
【0011】
他の例示的実施形態では、凍結融解セグメントを有した流体導管は、ペルチエヒートポンプのコールド面上のチャネル内に保持される。ペルチエヒートポンプは、実質的に一定のコールド面の温度で動作させる。受け台は、凍結融解セグメントとペルチエコールド面の間にいくつかの空洞を有した熱ブリッジを有する。凍結融解弁を「開」にするために、抵抗性加熱要素によって凍結融解セグメントに熱を加える。この加えられた熱は、ヒートポンプによってもたらされる一定の冷却状態と対抗する。熱がもう流体導管に加えられないとき、熱は、熱ブリッジを経由してペルチエコールド面へ伝達されるので、囲繞するチャネル領域の熱的マスが、急速に冷却する。冷却されたチャネル領域は、流体導管の含有物を凍結し、凍結融解弁を「閉」にする。
【0012】
本発明による凍結融解弁は、極圧から他のシステムの構成要素を保護する簡単な遮断弁として使用することができ、あるいはマイクロスケールまたはナノスケールの試料注射器または試料捕捉サブシステムなどの上位サブシステムを作製するように構成することができる。
【0013】
本発明による弁の利点には、実質的に一定の熱ポンピング速度でペルチエヒートポンプを動作させる能力によって、ペルチエデバイスに繰返し周期的熱応力が加えられ、その結果、寿命が短縮されることを避けることが含まれる。さらに、デバイスのホット側の熱的マス、またはコールド側の熱的マスのいずれかへの凍結融解セグメントの転換とともに一定のコールド面の温度を使用することによって、ペルチエヒートポンプの熱的マスに関連する遅い応答時間による影響を避け、弁遷移時間が、最小になることを可能にする。本発明による凍結融解弁は、従来技術にあるような大きな消費的外部冷却源も必要とせず、したがって本発明による凍結融解弁の使用は、より小さな解析装置内で可能になる。さらに、真空の囲い内でデバイスが動作することによって、霜の蓄積およびその結果生ずる凍結融解弁の不首尾が防止される。
【0014】
本発明のこれらおよび他の特徴および利点は、添付の図面とともに行う以下の詳細な説明から明らかになるはずである。添付の図面に、本発明の凍結融解弁を作用させるための方法および装置の例示的実施形態を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1を参照すると、本発明による例示的凍結融解弁が、示されている。この例示的凍結融解弁は、ホット面103およびコールド面104を有したペルチエスタック101によって、冷却される。ペルチエスタック101のホット面103は、熱交換表面102に取り付けられる。熱交換表面102は、横切って穴あけされた銅のウォータージャケットまたはマニホールドから構成される。この熱交換表面102によって、有益なヒートポンピング、およびペルチエスタック101内の電気的駆動要素内のワット損からともに生じる熱を、ペルチエスタック101のホット面103から除去することが可能になる。熱交換表面102内に含まれたウォータージャケットは、通常、小さな放熱器および循環ポンプを有した液体循環経路の一構成要素である。循環経路は、冷却液のポート120でウォータージャケットと接続する。ペルチエスタック101のコールド面104は、冷却された熱的マス106に貼り付けられる。冷却された熱的マス106は、良好な熱伝導性を有した材料から構成される。
【0016】
加熱された熱的マス107が、冷却された熱的マス106とは反対側に配置される。加熱された熱的マス107は、良好な熱伝導性を有した材料から構成され、抵抗性加熱要素108によって加熱される。抵抗性加熱要素108は、加熱された熱的マス107に貼り付けられ、それを、弁として作用する移動相の融点より高い温度に加熱する。加熱された熱的マス107および抵抗性加熱要素108は、例示的実施形態内では、ともに取り付けブロック109を使用して配置され貼り付けられる。取り付けブロック109は、十分な強度および乏しい熱伝導性を有した材料から構成される。2つの熱的マス106および107は、通常、銅など良好な熱伝導性を有した材料から構築される。当業者に知られている他の十分な強度および熱伝導性を有した材料を使用することができる。
【0017】
熱的マス106および107は、互いに反対側に配置され、介在するギャップ110によって隔てられる。介在するギャップ110は、転換ブロック(commutating block)111が、冷却された熱的マス106から加熱された熱的マス107へ、またはその逆に移動することが可能になるのに十分なサイズのものである。転換ブロック111は、高熱伝導性を有した材料から構成され、比較的低い熱的マスを提供する大きさに形作られる。例示的一実施形態では、転換ブロック111は、アルミニウムから作られる。他の低いマスおよび高熱伝導性を有した、材料を使用することができる。転換ブロック111は、その内に流体導管112を収納するチャネル(図示せず)を収容する。この流体導管112は、凍結、または融解のいずれかをされて凍結融解弁を開または閉にするための移動相を収容する。流体導管112は、一貫性のある内部断面を有することができ、または、それは、参照によりその全体が組み込まれるGerhardt他に付与された米国特許第6,557,575号明細書に記載されているように、様々な幾何形状および形状を使用することができる。流体導管112は、可動ブロック111内で緊密に熱的接触してチャネル内に取り付けられる。この緊密な熱的接触は、チャネルと流体導管112の間の小さな機械的クリアランスの寸法、または熱伝導性ポッティング用コンパウンドの使用のいずれでも達成することができる。
【0018】
転換ブロック111は、熱的マス106、107のいずれかと接触する極位置の間を移動する。転換ブロック111の移動は、駆動アーム114によって制御される。駆動アーム114は、低い熱伝導性および質量を有した材料から構成される。駆動アーム114は、ソレノイドアクチュエータ115によって移動させることができ、あるいは空気シリンダ、リニアモータ、または他の当業者に知られているデバイスによっても移動させることができる。ソレノイドアクチュエータ115または他の駆動メカニズムは、通常、上記のデバイスを収容する囲い116から離れて外部に位置する。囲い116は、周囲大気中に存在する湿気が、凍結融解弁の冷却された領域上で凝結し凍結するのを防止する。通常、駆動アーム114は、囲い116内の柔軟な封止可能な開口部117を貫通して、囲まれたアセンブリの外部に位置する、その駆動メカニズムに接続される。
【0019】
囲い116に、荒引き真空との接続を可能にするポンプ用ポート118が、設けられる。荒引き真空を使用することによって、確実に、液相水分が、アセンブリ内のどこにも蓄積せず、確実に、約−25℃より温かい表面も、氷が皆無の状態に留まる。極低温(−30℃〜−80℃)では、氷の蒸気圧は、十分低く、荒引き真空は、氷を昇華させることはない。したがって、アセンブリを解凍するために、アセンブリ内のコールド表面は、一時的に−25℃に等しいまたはそれより高い温度に上昇させることが必要である。これら上昇した温度によって、どんな氷形成も、昇華して消えることが可能になる。
【0020】
代替実施形態では、より高い品質の真空にすることよって、実質的に囲い116内で空気による熱伝導および対流が、なくなる。より高い品質の真空を使用することによって、囲い116内から実質的に空気がなくなる。空気がないことによって、囲い116は、この代替実施形態内では、良好な熱伝導性を有した材料から構築することが可能になる。囲い116を良好な熱伝導性を有した材料から組み立てることによって、ペルチエスタック101のホット面103を加熱された熱的マス107と熱的に連結する熱回路として、囲い116を使用することが可能になる。これら2つの構成要素の連結によって、ペルチエスタックのホット面103から加熱された熱的マス107への熱伝達が可能になり、抵抗性加熱要素108によって加熱された熱的マス107を加熱する必要が、なくなる。この構成では、取り付けブロック109は、熱伝導性材料から構築されるはずである。
【0021】
図2に、凍結融解弁内の冷却用にペルチエヒートポンプを使用した、他の代替実施形態を示す。ペルチエヒートポンプは、この例示的実施形態内では、おおよそ2段から5段を有した重層的縦列アセンブリであり、そのアセンブリの上側段または最も冷たい面だけをこの図に示す。これら多段を使用することによって、ペルチエヒートポンプのコールド面において十分な低温(通常、約−60℃〜約−80℃)を達成することが可能になる。縦列のペルチエデバイスは、熱的に直列に個々の段が配置され、個々の段を横切って発生する温度差が、実質的に加法的になる。この例示的実施形態の複数段は、凍結温度条件および電源特性に応じて、並列または直列に接続することができる。ペルチエスタックは、ホット面201およびコールド面202を有する。コールド面202は、アルミニウムなどの熱伝導性材料から構成される受け構造203を、その上に取り付けられている。適切な熱伝導性を有した、他の当業者に知られている材料を使用することができる。受け構造203は、溶解石英毛管などの流体導管205を受けるチャネル204を含む。ホット面201からの熱の排出は、図1に示すように、液体冷却ループの一部分であるウォータージャケットによって、達成することができる。
【0022】
流体導管205は、受け構造203と緊密に熱的接触する。この緊密な熱的接触は、流体導管205に対してチャネル204を必要な大きさにし、したがって流体導管205を受け構造203と緊密に熱的接触させることによって、達成することができる。あるいは、緊密な熱的接触は、熱伝導性ポッティング用コンパウンドを使用することによって、達成することができる。受け構造203を貫通して通る流体導管205は、凍結融解セグメントを収容する。凍結融解セグメントは、冷凍され、または融解されて弁を開または閉にする流体導管205のその領域である。流体導管205に隣接する受け構造203の外部領域は、ホルムバール被覆ニクロム線などの抵抗性加熱要素をその中に挿入させることを可能にする、凍結融解セグメントの長さを走る複数の溝206を有する。
【0023】
この例示的実施形態の動作では、ペルチエヒートポンプのコールド面202は、解析装置内で使用される移動相の凝固点よりかなり低い、一定温度に維持される。この一定温度でペルチエヒートポンプを動作させることによって、デバイスが循環する、または循環しないことが求められたとき、加熱および冷却を達成するために起こり得る、繰り返し熱応力が避けられる。さらに、一定温度で動作させることによって、弁の応答時間が向上される。というのは、ペルチエヒートポンプの冷却速度が、弁の動作サイクルの性能を制限するか、またはそれに影響するからである。
【0024】
この例示的実施形態では、凍結融解弁を「開」にするために、抵抗性加熱要素によって、凍結融解セグメントのまわりの局限された領域に熱を加える。加えられた熱は、ペルチエヒートポンプによってコールド面202の一定に冷却される状態に対抗し、流体導管205内の移動相が融解されて流動する。加えられた熱によって、受け構造203の中央ウェブを横切って著しい温度差が生ずることになり、したがって受け構造203は、熱フローに利用できる断面を制御するために、中央ウェブ内のいくつかの空洞207によって適合させられる。
【0025】
熱が、もう流体導管205に加えられないとき、囲繞するチャネル領域の熱的マスが、急速に冷却する。というのは、熱は、中央ウェブを経由して、ペルチエヒートポンプのコールド面202と熱的に接触する受け構造203のベースに、流れるからである。受け構造203の熱的マスは、凍結融解弁の動作速度を高く保つように十分小さい。中央ウェブを経由する熱抵抗は、十分に低くしてチャネル領域の急速な冷却を実現することが必要であるが、中央ウェブを経由する熱抵抗が、受け構造203の抵抗性加熱によって、大きな熱負荷をペルチエヒートポンプ上に課すことを許すべきでない。
【0026】
図3Aおよび3Bを参照すると、流体導管305の含有物を融解する代替の手法が示されている。この例示的実施形態では、抵抗加熱ワイヤ306が、流体導管305のまわりに巻き付けられる。抵抗加熱ワイヤ306は、少なくとも1回流体導管305のまわりに巻き付けられる。あるいは、抵抗加熱ワイヤ306の機能は、流体導管305上に付着された、または接着された電気的に加熱可能な抵抗膜によって果たされる。次に、巻き付けられた流体導管305は、受け構造303内に緊密に熱的に接触して配置される。この緊密な熱的接触は、受け構造303内の精密なチャネル307のメカニズムによって、または熱伝導性ポッティング用コンパウンドを使用して、チャネル307内の巻き付けられた流体導管305をポッティングすることによって達成することができる。受け構造303は、ペルチエポンプ309のコールド面308上にある。本発明の範囲内では、ペルチエポンプ309は、複数段(図示せず)あることができると企図される。
【0027】
この例示的実施形態では、凍結融解弁を「開」にするために、抵抗加熱ワイヤ306に電流を流すことによって、熱を流体導管305に加える。加えられた熱は、ペルチエヒートポンプ309によるコールド面308の一定の冷却状態に対抗し、流体導管305内の移動相が融解されて流動する。加えられた熱によって、受け構造303の中央ウェブを横切って著しい温度差が生ずることになり、したがって受け構造303は、熱フローに利用できる断面を制御するために、中央ウェブ内のいくつかの空洞310によって適合させられる。
【0028】
熱が、もう流体導管305に加えられないとき、囲繞するチャネル領域の熱的マスが、急速に冷却する。というのは、熱は、中央ウェブを経由して、ペルチエヒートポンプ309のコールド面308と熱的に接触する受け構造303のベースに、流れるからである。受け構造303のチャネル307領域の熱的マスは、凍結融解弁の動作速度を高く保つように小さい。中央ウェブを経由する熱抵抗は、十分に低くしてチャネル領域の急速な冷却を実現することが必要であるが、抵抗加熱ワイヤ306によって、大きな熱負荷をペルチエヒートポンプ309上に課すことを許すべきでない。
【0029】
本発明によるペルチエベースの凍結融解弁は、様々な異なるマイクロスケールまたはナノスケールのデバイス中に組み込み、どんなそのようなデバイスの移動相の弁作用でも達成することができる。特に、ペルチエベースの凍結融解弁は、マイクロスケールの流体試料捕捉サブシステムで有益である。
【0030】
図4を参照すると、ケーソン(caisson)ベースのLC析出システムとともに使用するための試料捕捉サブシステムが示されている。ケーソンベースのLC析出システムは、参照によりその全体が組み込まれる、Dourdevilleに付与された米国特許第6,610,201号明細書の主題である。ペルチエベースの凍結融解弁は、比較的低い圧力で捕捉用コラムへの試料の導入を可能にし、それに続く、溶離するための高圧に晒されることから試料注射器および捕捉ポンプを隔離しながら、極めて高圧でその試料を溶離させることを可能にする。
【0031】
試料捕捉サブシステムは、流体的にケーソンポンプ409と解析用コラム412の間に接続される。試料捕捉サブシステムは、第1のサブ領域401および第2のサブ領域402内に複数の凍結融解弁を有する。第1のサブ領域401は、第1の凍結融解弁403および第2の凍結融解弁404からなる第1の凍結融解弁の対を収容する。第2のサブ領域402は、第3の凍結融解弁405および第4の凍結融解弁406からなる第2の凍結融解弁の対を収容する。各サブ領域401、402内の弁の対は、実質的に同時に凍結および融解されるように制御される。2つのサブ領域401、402は、独立に動作することができる。サブ領域401、402内の凍結融解弁は、独立したペルチエ縦列を使用することができ、または単一のコールド表面からの冷却を共用することができる。捕捉コラム407が、第1のサブ領域401および第2のサブ領域402の間にある。捕捉コラム407は、その内容物が、試料の沈殿または他の望ましくない影響を引き起こす可能性がある凍結を受けないように、2つのサブ領域401、402のコールド表面から離れて配置される。
【0032】
第1のサブ領域401が、凍結されて、その結果第1の弁403および第2の弁404が閉になり、第2のサブ領域402が、融解されて、その結果第3の弁405および第4の弁406が開になったとき、捕捉コラム407は、試料注射器413および排出経路415と流体的に連通する状態になる。この状況下で、注入された試料は、捕捉ポンプ414の液体搬送によって、捕捉コラム407に送出することができる。捕捉流による搬送は、試料容積が、捕捉コラム407中に十分に搬送されるまで、およびすべての必要な追加の瀑流、または試料洗浄が完了するまで、維持される。
【0033】
別の状態では、第2のサブ領域402が、凍結されて、その結果第3の弁405および第4の弁406が閉になり、第1のサブ領域401が、融解されて、その結果第1の弁403および第2の弁404が開になる。この状態では、試料注射器413、捕捉ポンプ414および排出経路415は、クロマトグラフィ溶離経路から隔離される。この隔離を実施すると、試料注射器413および捕捉ポンプ414の耐圧能力よりかなり高い圧力において、ケーソンポンプ409によって、捕捉コラム407から、およびそれに続く解析用コラム412からの試料の溶離を引き起こすことが可能になる。凍結融解弁の作用がもたらす圧力分離によって、解析用クロマトグラフィ圧力に晒される構成要素の数が制限されるので、著しく全体システム設計が簡単になる。さらに、その圧力分離は、押しのけ容積を押しのけることをせず、または追加の封止用材料を濡れ経路中に導入することなしに、得られる。
【0034】
本発明の例示的な凍結融解弁について、高性能液体クロマトグラフィ(HPLC)、毛管液体クロマトグラフィ(capillary LC)および毛管電気泳動法(CE)中で使用されるような解析システム中におけるその使用に関して説明してきたが、本明細書で述べた基本構造と同じ構造を有した凍結融解弁を、凍結融解弁が有利になるはずのどのような構成内で使用することも、本発明の範囲内にある。
【0035】
本発明の例示的な凍結融解弁について、マイクロ流体試料捕捉サブシステム中におけるその使用に関して説明してきたが、本明細書で述べた基本構造と同じ構造を有した凍結融解弁を、捕捉せずに直接試料を解析システム中に注入するのに適した構成内で使用することは、本発明の範囲内にある。同様に、凍結融解弁の作用の使用が有利になるはずの、どんなマイクロスケール、ナノスケールまたはメソスケールの装置内で、本発明による凍結融解弁を使用することができるはずであることを理解すべきである。
【0036】
本発明の凍結融解弁について、コールド面上にある、またはコールド面に転換された単一の凍結融解セグメントを有したものとして説明してきたが、複数の凍結融解セグメントを、ペルチエヒートポンプの単一コールド面内でグループ分けすることができることを理解すべきである。同様に、凍結融解セグメントの融解も、複数のグループで達成することができる。
【0037】
本発明の凍結融解弁の例示的な実施形態について、凍結融解セグメントをホット面またはコールド面のいずれかに転換させるものとして述べてきたが、凍結融解セグメントは、ホット面およびコールド面をその位置に転換させて静止していることができることをさらに理解すべきである。
【0038】
他の様々な変更、省略および追加が、本発明の形および細部において、本発明の精神および範囲から逸脱せずに、本発明に実施することができる。したがって、上記の記述は、限定するものとしてではなく、単に様々な実施形態の例示として解釈すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明による、ペルチエヒートポンプによって冷却される転換する凍結融解弁の概略図である。
【図2】本発明による、一定の冷却温度で動作させ、抵抗加熱によって融解されるペルチエベースの凍結融解弁の図である。
【図3A】本発明による、代替の融解する方法を有したペルチエベースの凍結融解弁の図である。
【図3B】本発明による、代替の融解する方法を有したペルチエベースの凍結融解弁の図である。
【図4】本発明による、冷却するためのペルチエヒートポンプを使用したマイクロ流体試料捕捉サブシステムの概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍結融解弁を作用させる方法であって、
加熱された熱的マスおよび冷却された熱的マスを設けるステップと、
凍結融解セグメントの含有物を融解する前記加熱された熱的マスと前記凍結融解セグメントの含有物を凍結する前記冷却された熱的マスとの間で、熱伝導性ハウジング内に収容された前記凍結融解セグメントを転換させるステップとを含む方法。
【請求項2】
前記加熱された熱的マスが、抵抗加熱によって加熱される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記冷却された熱的マスが、ペルチエヒートポンプのコールド面によって冷却される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ペルチエヒートポンプが、一定温度で動作して熱応力を避ける請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記加熱された熱的マスが、ペルチエヒートポンプのホット面と前記加熱された熱的マスの間で熱回路を形成することによって、加熱される請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記熱伝導性ハウジングが、駆動アームによって、加熱された熱的マスまたは冷却された熱的マスへ転換される請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記加熱された熱的マスおよび前記冷却された熱的マスが、囲い内に収容される請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記囲いが、気密であり、囲い内部が、不完全真空状況下に維持される請求項7に記載の方法。
【請求項9】
凍結融解弁を作用させる装置であって、
加熱された熱的マスと、
冷却された熱的マスと、
凍結融解セグメントを収容する空洞を有した熱伝導性ハウジングとを含む装置。
【請求項10】
前記熱伝導性ハウジングを前記熱的マスへ転換させる手段をさらに含む請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記加熱された熱的マスが、抵抗加熱によって加熱される請求項9に記載の装置。
【請求項12】
前記加熱された熱的マスが、ペルチエヒートポンプのホット面によって加熱される請求項9に記載の装置。
【請求項13】
前記冷却された熱的マスが、ペルチエヒートポンプのコールド面によって冷却される請求項9に記載の装置。
【請求項14】
前記熱的マスおよび前記熱的ハウジングが収容される、囲いをさらに含む請求項9に記載の装置。
【請求項15】
前記囲いが、気密である請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記囲いの内部容積が、真空下に維持される請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記加熱された熱的マスおよび前記冷却された熱的マスが、熱的中央ウェブによって結合される請求項9に記載の装置。
【請求項18】
前記加熱された熱的マスが、抵抗性ワイヤであり、
前記抵抗性ワイヤが、前記冷却された熱的マスの冷却熱勾配と対抗する請求項9に記載の装置。
【請求項19】
解析装置内で凍結融解弁の作用を使用する方法であって、
多数の凍結融解弁を有した第1のサブ領域を設けるステップと、
多数の凍結融解弁を有した第2のサブ領域を設けるステップと、
解析用構成内に第1のサブ領域および第2のサブ領域を配置するステップとを含み、
前記構成が、前記サブ領域内の前記凍結融解弁の開または閉によって、試料を解析装置の構成要素に誘導することを可能にする方法。
【請求項20】
前記解析装置が、マイクロ流体試料捕捉装置である請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記凍結融解弁が、ペルチエヒートポンプによって冷却される請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記凍結融解弁が、極低温作用物によって冷却される請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記解析装置が、ケーソンベースの析出システムである請求項19に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2006−509209(P2006−509209A)
【公表日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−558602(P2004−558602)
【出願日】平成15年12月9日(2003.12.9)
【国際出願番号】PCT/US2003/039071
【国際公開番号】WO2004/053370
【国際公開日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(504187179)ウオーターズ・インベストメンツ・リミテツド (4)
【Fターム(参考)】