説明

ペルフルオロ不飽和炭化水素を製造する方法

【課題】 無極性有機溶媒を使用してペルフルオロ不飽和炭化水素を製造する方法を提供する。
【解決手段】 ペルフルオロ不飽和炭化水素(Perfluoroalkadiene)の製造方法が開示される。出発物質としてのジハロペルフルオロ飽和炭化水素は、無極性有機溶媒と、金属粉末及び有機金属化合物に滴加される。反応温度30℃ないし150℃範囲で出発物質であるジハロペルフルオロ飽和炭化水素を徐々に滴下し、反応を誘導する。また、無極性有機溶媒は、ベンゼン、トルエンまたはキシレンなどを使用し、有機金属化合物は、エチルエーテルまたはテトラヒドロフランに1Mないし3Mの濃度で溶解した状態で使われる。金属粉末は、Mg、ZnまたはCdが使われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペルフルオロ不飽和炭化水素(perfluoroalkadiene)の製造方法に関し、より詳細には、低い製造コストで副反応を抑制することができるペルフルオロ不飽和炭化水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペルフルオロ不飽和炭化水素は、塗料用ポリマー、半導体用エッチングガス及びクリーニングガスとして使用可能な化合物であって、炭素−炭素結合の両末端に二重結合を有する。
【0003】
特に、炭素数が4個であるチェーンのうち両末端に二重結合を有するヘキサフルオロブタジエンの場合、多数の従来技術が存在する。
【0004】
第一に、R.N Haszeldineは、CCl2F=CF2とI−Clとを反応させてCCl2F−CClFを製造した後、水銀の存在下で光反応によってCClF2−CClF−CClF−CClF2を生成する。その後、エタノールなどのアルコール成分の存在下に亜鉛で処理し、C46を製造する(非特許文献1)。しかし、上述した方法は、多くの工程数が要求され、水銀を使用するので、環境上の様々な問題点を引き起こす。
【0005】
第二は、W.T.Millerにより提示された方法である。これは、CClF=CF2(CTFE、Chlorotrifluoroethylene)を550℃で自己反応させて、CF2=CF−CClF−CClCF2を製造した後、塩素化または臭素化を通じてCF2X=CFX−CClF−CClCF2(X=Br または I)を製造する。これを亜鉛で処理し、C46を製造する(特許文献1)。しかし、前記方法は、CF2=CF−CClF−CClCF2の収率が低く、副反応による生成物が多いという短所を有する。
【0006】
第三は、G.Bargigiaなどにより提示された方法である。これは、比較的容易にCF2X=CFX−CClF−CClCF2(X=Br または I)を得ることができるが(特許文献2、特許文献3)、高い脱ハロゲン化反応活性度により化合物の操作が危険であり、高価な有機金属化合物を使用するので、製造費用が高いという問題点がある。
【0007】
第四の方法は、特許文献4に開示されている。これは、CF2I−CF2−CF2−CF2Iとペルフルオロ溶媒及び亜鉛粉末の混合溶液を加熱還流した溶液にDMF(dimethylformamide)を添加し、C46を製造する。まず、DMFなどの非プロトン性極性有機溶媒とキシレンまたはトルエンなどの無極性有機溶媒に亜鉛粉末及び活性化剤としてのハロゲン化アルキルを混合する。次に、前記混合溶液にCF2Br−CF2−CF2−CF2Brを添加した後、加熱還流し、C46を製造する。
【0008】
前述のような4つの方法は、共通して極性有機溶媒を使用する。極性有機溶媒を使用する場合、副反応物としてCF2H−CF2−CF=CF2やCF2H−CF2−CF2−CF2Hなどが約10%以上生成され、生成した副反応物は、工程の収率全体に悪影響を及ぼす。また、反応後に残される亜鉛は、極性有機溶媒とのスラッジの状態で流出されるので、処理が困難であり、商用化の工程時、後続工程に入ることが難しくなる。また、使われた極性溶媒の再使用も困難なので、高い費用が支払われるという問題点がある。
【特許文献1】米国特許第2,668,182号
【特許文献2】米国特許第4,654,448号
【特許文献3】米国特許第5,082,981号
【特許文献4】米国特許出願第2002−193,643号
【非特許文献1】J. Chem. Soc., 4423. 1952
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前述のような問題点を解決するためになされたもので、その目的は、無極性有機溶媒を使用してペルフルオロ不飽和炭化水素を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、ペルフルオロ飽和炭化水素と、無極性有機溶媒、1ないし3M濃度の有機金属化合物溶液及び金属粉末とを反応させて、ペルフルオロ不飽和炭化水素を製造する方法を提供する。
前記反応の時、有機金属化合物は、反応開始剤として使われる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ペルフルオロ不飽和炭化水素は、ジハロペルフルオロ飽和炭化水素を出発物質として、有機金属化合物を無極性有機溶媒に添加し、ペルフルオロ不飽和炭化水素を製造する。本発明に係る製造法によれば、従来、10%以上の副反応を示したが、本発明による場合、副反応は、3%以下に抑えられることが分かる。また、無極性有機溶媒と少量の有機金属化合物を使用するので、Mg、ZnまたはCdなどの金属は、反応完了後、スラッジ形態で排出されないので、金属と無極性有機溶媒との分離が容易である。また、無極性有機溶媒の場合、反応終了後、再使用が可能なので、製造コストを節減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る好ましい実施例を詳細に説明する。
本実施例は、炭素−炭素結合の両末端に2つの二重結合を有するペルフルオロ不飽和炭化水素の製造方法に関し、ペルフルオロ不飽和炭化水素は、下記化学式1による。
【0013】
(化学式1)
CF2=CF−(CF2n-4−CF=CF2(n=4−6)
【0014】
前記化学式1のペルフルオロ不飽和炭化水素を形成するための出発物質は、ジハロペルフルオロ飽和炭化水素(Dihaloperfluorocarbon)である。前記ジハロペルフルオロ飽和炭化水素は、両末端の炭素にハロゲン、すなわち臭素(Br)またはよう素(I)を含有する。前記ジハロペルフルオロ飽和炭化水素は、下記化学式2による。
【0015】
(化学式2)
X−(CF2n−X(X=Br または I, n=4−6)
【0016】
前記ジハロペルフルオロ飽和炭化水素を有機金属化合物(例えば、Grinard試薬)が存在する無極性有機溶媒に導入し、加熱還流して、ペルフルオロ不飽和炭化水素を製造する。
【0017】
具体的には、ジハロペルフルオロ飽和炭化水素の一種であるジブロモペルフルオロアルカンまたはジヨードペルフルオロアルカンをベンゼン、トルエン、キシレンなどの無極性有機溶媒に溶解し、反応開始剤及び金属を添加し、BrFまたはIFを除去して、ペルフルオロ不飽和炭化水素を得る。
【0018】
前記反応開始剤として、エチルエーテルまたはテトラヒドロフランに溶解されたC2H5MgXまたはCH3MgX(X=Br または I)が挙げられ、添加される金属は、Mg、ZnまたはCdなどである。また、反応温度は、30℃ないし150℃の範囲で行われることが好ましい。
【0019】
特に、前記反応開始剤は、工業的に入手が容易な有機金属化合物としてエチルエーテルやテトラヒドロフランに1ないし3Mの濃度で含有されたC2H5MgXまたはCH3MgX(X=Br または I)を前記化学式2に示されたペルフルオロ飽和炭化水素に対して0.0005ないし0.05当量を使用して反応を開始する。
【0020】
前記反応に使われる金属は、Mg、ZnまたはCdなどであり、前記金属は、粉末状態(約200メッシュ)で使用することが高い収率を得るのに効果的である。使用量は、前記ペルフルオロ飽和炭化水素に対して1ないし5当量を使用することが効率及び費用の観点から好ましい。
【0021】
前記無極性有機溶媒として使われたベンゼン、トルエン、キシレンなどは、無極性有機溶媒の例示に過ぎず、無極性有機溶媒ならいずれのものでも適用可能であることは当業者にとって自明である。また、無極性有機溶媒は、前記化学式2のジハロペルフルオロ飽和炭化水素に対して2ないし20倍の重量で投入されることが好ましい。
【0022】
また、反応が行われる反応器は、不活性ガスによって置換され、水分が存在しない無水状態を維持しなければならない。また、反応は、攪拌器やポンプを用いて攪拌することによって、反応収率を向上させることができる。
【0023】
反応が終了した後、反応物の全量に対するフィルタリングを通じて金属を除去する。また、一般的な蒸留過程を通じて溶媒を再使用することができる。前記フィルタリングは、迅速な処理のために、加圧によるフィルタリングが使われることが好ましい。
【0024】
上述した反応温度は、30℃ないし150℃の範囲で行われることが好ましいが、一層好ましくは、反応効率を極大化し、副反応の生成を最大限抑制するために、60℃ないし120℃の範囲で行うこともできる。
【0025】
製造例1を示す。
−40℃以下に冷却されたトラップが連結された還流冷却器と、圧力平衡滴下器及び350rpm以上で攪拌が可能な機械的攪拌器(mechanical stirrer)を中心部に装着された2L容量の4口フラスコに窒素雰囲気下で1Lのトルエン、1.5当量のMg粉末及び1Mの濃度のC2H5MgBr 50mlを加える。次に、前記4口フラスコを350rpmで回転し、4口フラスコ内の混合液を加熱還流させる。次に、約3時間にわたって400gの原料物質CF2Br−CF2−CF2−CF2Brを加える。発生されるガスを−40℃以下の冷却トラップに捕集する。
【0026】
前記原料物質の投入完了後、約1時間後にトラップに捕集された178gを回収し、液体をガスクロマトグラフィで分析した結果、CF2=CF−CF=CF2(ペルフルオロブタジエン) 96%、CF2H−CF2−CF=CF22.2%、CF2H−CF2−CF2−CF2H1.2%及びペルフルオロシクロブテン 1.0%の組成を示した。
【0027】
製造例2を示す。
前記製造例1の反応器に窒素雰囲気の下に1Lのトルエン、1.5当量のZn粉末及び1Mの濃度のC2H5MgBr溶液 50mlを加える。次に、機械的攪拌器を350rpmで回転し、前記混合溶液を攪拌しつつ加熱還流する。また、原料物質CF2Br−CF2−CF2−CF2Brを約3時間にわたって滴加する。滴加完了後、約1時間後に−40℃以下の冷却トラップを用いて155gを回収し、回収した液体をガスクロマトグラフィで分析した結果、CF2=CF−CF=CF2(ペルフルオロブタジエン) 94.5%、CF2H−CF2−CF=CF23.3%、CF2H−CF2−CF2−CF2H1.2%及びペルフルオロシクロブテン 1.0%の組成を示した。
【0028】
製造例3を示す。
前記製造例1の反応器に1Lのトルエン、1.5当量のZn粉末及び1Mの濃度のCH3MgBr溶液 50mlを加える。350rpmで機械的攪拌器(mechanical stirrer)を用いて攪拌しつつ反応器を加熱還流する。続いて、原料物質CF2Br−CF2−CF2−CF2Br400gを約3時間にわたって滴加する。滴加完了後、−40℃以下の冷却トラップを用いて163gを回収し、回収した液体をガスクロマトグラフィで分析した結果、CF2=CF−CF=CF2(ペルフルオロブタジエン) 97.3%、CF2H−CF2−CF=CF21.5%、CF2H−CF2−CF2−CF2H0.8%及びペルフルオロシクロブテン 0.4%の組成を示した。
【0029】
製造例4を示す。
前記製造例1の反応器に1Lのキシレン、1.5当量のCd粉末及び1Mの濃度のCH3MgBr溶液 50mlを加える。次に、機械的攪拌器を350rpmで回転させ、混合液を攪拌する。また、反応温度である30℃ないし150℃で加熱還流しつつ、約3時間にわたって原料物質 CF2Br−CF2−CF2−CF2Br400g を滴加する。滴加完了1時間後、−40℃以下の冷却トラップを用いて158gを回収し、回収した液体をガスクロマトグラフィで分析した結果、CF2=CF−CF=CF2(ペルフルオロブタジエン) 95.7%、CF2H−CF2−CF=CF22.6%、CF2H−CF2−CF2−CF2H1.2%及びペルフルオロシクロブテン 0.5%の組成を示した。
【0030】
製造例5を示す。
前記製造例1の反応器に1Lのベンゼン、1.5当量のZn粉末及び1M濃度のC2H5MgBr溶液 100mlを加える。次に、機械的攪拌器を350rpmで回転し、混合液を攪拌及び加熱還流し、約3時間にわたって原料物質CF2Br−CF2−CF2−CF2Br400gを滴加する。滴加完了1時間後、−40℃以下の冷却トラップを用いて160gを回収し、回収した液体をガスクロマトグラフィで分析した結果、CF2=CF−CF=CF2(ペルフルオロブタジエン)93.2%、CF2H−CF2−CF=CF23.4%、CF2H−CF2−CF2−CF2H2.0%及びペルフルオロシクロブテン 1.4%の組成を示した。
【0031】
上述した製造例によれば、極性有機溶媒の代わりに、無極性有機溶媒を使用して所望のペルフルオロ不飽和炭化水素を製造することができる。また、反応に使われた金属と無極性有機溶媒との分離が容易であり、簡単な操作で無極性有機溶媒を再使用することができる。
【0032】
以上において説明した本発明は、本発明が属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で、様々な置換、変形及び変更が可能であるので、上述した実施例及び添付された図面に限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1のジハロペルフルオロ飽和炭化水素を、無極性有機溶媒と、1ないし3M濃度の有機金属化合物溶液及び金属粉末を反応させて、下記化学式2のペルフルオロ不飽和炭化水素を製造する方法。
(化学式1)
X−(CF2n−X(X=Br または I, n=4−6)
(化学式2)
CF2=CF−(CF2n-4CF=CF2(n=4−6)
【請求項2】
前記有機金属化合物溶液は、エチルエーテルまたはテトラヒドロフランを溶媒とし、反応開始剤であるC2H5MgXまたはCH3MgX(X=BrまたはI)からなり、前記C2H5MgXまたはCH3MgX(X=BrまたはI)は、前記化学式1のジハロペルフルオロ飽和炭化水素に対して0.0005ないし0.05当量であることを特徴とする請求項1に記載のペルフルオロ不飽和炭化水素を製造する方法。
【請求項3】
前記無極性有機溶媒は、トルエン、キシレンまたはベンゼンであることを特徴とする請求項1に記載のペルフルオロ不飽和炭化水素を製造する方法。
【請求項4】
前記金属粉末は、Mg、Zn及びCdよりなる群から選択される少なくともいずれか1つであることを特徴とする請求項1に記載のペルフルオロ不飽和炭化水素を製造する方法。
【請求項5】
前記反応は、反応器に前記無極性有機溶媒と、前記金属粉末及び前記有機金属化合物溶液を投入し、攪拌及び加熱還流する段階と、
前記反応器に前記化学式1のジハロペルフルオロ飽和炭化水素を滴加する段階と、
前記滴加完了後、冷却トラップを通じて反応生成物を回収する段階と、を含むことを特徴とする請求項1に記載のペルフルオロ不飽和炭化水素を製造する方法。
【請求項6】
前記化学式1のジハロペルフルオロ飽和炭化水素の滴加は、反応温度30℃ないし150℃範囲で行うことを特徴とする請求項5に記載のペルフルオロ不飽和炭化水素を製造する方法。

【公開番号】特開2008−266279(P2008−266279A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−136178(P2007−136178)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【出願人】(505139779)蔚山化學株式会社 (7)
【氏名又は名称原語表記】Ulsan Chemical Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】290 Maeam−dong, Nam−ku, Ulsan, Republic of Korea
【Fターム(参考)】